特許第6943664号(P6943664)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6943664防曇塗料組成物及び防曇塗膜ならびに防曇物品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6943664
(24)【登録日】2021年9月13日
(45)【発行日】2021年10月6日
(54)【発明の名称】防曇塗料組成物及び防曇塗膜ならびに防曇物品
(51)【国際特許分類】
   C09D 1/00 20060101AFI20210927BHJP
   C09D 5/00 20060101ALI20210927BHJP
   C09D 7/63 20180101ALI20210927BHJP
   C09D 7/20 20180101ALI20210927BHJP
   C09K 3/18 20060101ALI20210927BHJP
【FI】
   C09D1/00
   C09D5/00 Z
   C09D7/63
   C09D7/20
   C09K3/18
【請求項の数】5
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2017-140437(P2017-140437)
(22)【出願日】2017年7月20日
(65)【公開番号】特開2019-19253(P2019-19253A)
(43)【公開日】2019年2月7日
【審査請求日】2020年4月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000135265
【氏名又は名称】株式会社ネオス
(74)【代理人】
【識別番号】110000165
【氏名又は名称】グローバル・アイピー東京特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】皆川 優
【審査官】 桜田 政美
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−065951(JP,A)
【文献】 特開2001−190471(JP,A)
【文献】 特開平11−100234(JP,A)
【文献】 特開2003−013038(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00
C09D 5/00
C09D 7/63
C09D 7/20
C09K 3/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸性長尺状コロイダルシリカとpH調整用長尺状コロイダルシリカとを含有するコロイダルシリカ混合物と、界面活性剤とを含み、pHが8.0〜9.7である、防曇塗料組成物。
【請求項2】
該酸性長尺状コロイダルシリカと該pH調整用長尺状コロイダルシリカとの固形分重量比が、1:4〜5:1である、請求項1に記載の防曇塗料組成物。
【請求項3】
さらに有機溶剤を含む、請求項1または2に記載の防曇塗料組成物。
【請求項4】
請求項1に記載の防曇塗料組成物から形成されてなる、防曇塗膜。
【請求項5】
基材と、請求項に記載の防曇塗膜とを含む、防曇物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防曇塗料組成物及びこれを用いて作成した防曇塗膜ならびに防曇物品に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の前照灯などの照明装置は、光源と光源の前方に配置されたガラスやプラスチックなどで形成された透明部材とから主に構成されている。そして光源が発する光が透明部材を介して照明装置の外部および周辺部に照射される。このような照明装置では、透明部材の内側(光源側)に曇りが発生することがあり、照射光の強度が低下して安全性の問題を生じることがある。また曇りの生じた透明部材を介して照射された光は光量が少なく、美観の点でも問題となりうる。
【0003】
特許文献1には、共重合体(A)と多官能性ブロックイソシアネート化合物(B)と界面活性剤(C)とからなる防曇剤組成物が開示されている。特許文献1の防曇剤組成物は、従来からよく知られた防曇の仕組みを利用したものであり、防曇剤組成物を適用した防曇塗膜中に存在する界面活性剤(C)が、基材上の防曇塗膜に付着した水の表面張力を低下させ、瞬時に平滑な水膜を形成して、光の乱反射を防ぐことにより曇りを防止するというものである。一方特許文献2には、水性媒体とネックレス状コロイダルシリカとシラン誘導体と界面活性剤とを含む防曇剤が開示されている。特許文献2では、水性媒体中に分散させたときのpHが8〜11(すなわちアルカリ性)のネックレス状コロイダルシリカを使用している。特許文献2の防曇剤は、塗膜を形成した基材の表面をコロイダルシリカが被覆することで防曇効果を発揮するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016−169287号公報
【特許文献2】特開2005−126647号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示されている界面活性剤を主成分として含む防曇剤組成物による防曇塗膜上に水膜が形成されると、その界面活性剤が水に溶け出して、局所的に界面活性剤と水とが一緒に流れてしまうことがあった。この様な箇所が乾燥すると、防曇物品上に水垂れ跡が残ることがあった。また、特許文献2のように、水性媒体中で強アルカリ性を呈するコロイダルシリカを防曇剤として使用すると、理由は定かではないが、基材を被覆していたコロイダルシリカが水と共に流れてしまい、防曇物品上に水垂れ跡が残ることがあった。
そこで本発明は、水垂れ跡などの外観変化を引き起こすことなく、長期にわたり防曇効果を発揮する防曇塗料組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の実施形態における防曇塗料組成物は、酸性長尺状コロイダルシリカとpH調整用長尺状コロイダルシリカとを含有するコロイダルシリカ混合物を含むことを特徴とする。
本発明の他の実施形態は、長尺状コロイダルシリカ混合物を含む防曇塗膜である。
本発明のさらに他の実施形態は、基材と、防曇塗膜とを含む、防曇物品である。
【発明の効果】
【0007】
本発明の防曇塗料組成物を用いて形成した防曇塗膜は、瞬時に平滑な水膜を形成して光の乱反射を防ぎ防曇性能に優れる。本発明の防曇塗膜は、乾燥後の水垂れ跡などの外観変化を生じにくい。本発明の防曇塗料組成物を利用した防曇物品(たとえば照明装置)は、外観変化を生じにくく、安定した光量を長期にわたり維持することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の実施形態を以下に説明する。本発明の一の実施形態は、酸性長尺状コロイダルシリカとpH調整用長尺状コロイダルシリカとを含有するコロイダルシリカ混合物を含む防曇塗料組成物である。
【0009】
本実施形態において、防曇塗料組成物とは、ガラスやプラスチックなどの基材上に塗膜を形成して、水蒸気が原因の水滴による曇りを発生しにくくすることができる組成物のことである。基材で隔てられた両空間に温度差がある場合、高温側の湿気が基材表面上に結露して、水滴を形成する。この水滴が光の乱反射を起こして曇りが発生する。基材上における水滴の形成を防止する仕組みとして、基材表面に付着した水分を瞬時に水膜にするメカニズムと、基材表面に付着した水分を瞬時に吸収するメカニズムがあることが知られている。本実施形態の防曇塗料組成物は、基材表面に付着した水分を瞬時に水膜にして、水滴の形成を防止することにより基材の曇りを防ぐ防曇塗膜を形成する。
【0010】
本実施形態の防曇塗料組成物は、酸性長尺状コロイダルシリカを含む。コロイダルシリカとは、二酸化ケイ素(シリカ、SiO)またはその水和物のコロイド溶液である。分散媒の性質により水系のコロイダルシリカと、有機溶媒系のオルガノシリカゾルとがあるが、実施形態で特に好適に用いられるシリカはコロイダルシリカである。コロイダルシリカを形成する球状のシリカの一次粒子径は通常10〜300nm程度であり、これが凝集等してさらに大きな二次粒子を形成している場合がある。本実施形態で好適に用いられるコロイダルシリカは、長尺状コロイダルシリカである。長尺状コロイダルシリカとは、シリカの一次粒子同士が共有結合して、長い紐状を形成した長尺状シリカのコロイド溶液のことである。このような長尺状コロイダルシリカとして鎖状コロイダルシリカやパールネックレス状コロイダルシリカが知られている。長尺状コロイダルシリカは、基材の表面上に広がって吸着し、被膜を形成することができるため、防曇塗膜組成物の成分として好ましく使用することができる。なお、水を分散媒としたコロイダルシリカには、酸性、中性、アルカリ性のものが存在する。本実施形態の一成分として好適に用いられるコロイダルシリカは、水に分散してpH1〜3の強酸性を示す酸性長尺状コロイダルシリカである。
【0011】
実施形態の防曇塗料組成物は、さらにpH調整用長尺状コロイダルシリカを含む。pH調整用のコロイダルシリカは、先に説明した酸性長尺状コロイダルシリカのpHを高めて弱酸性〜弱アルカリ性に調整するために用いられる。先に説明したとおり、酸性長尺状コロイダルシリカは、分散媒が蒸発して形成した後に塗膜を形成して効果的に水膜を形成し防曇効果を発揮することができるので好ましく用いられる。しかし酸性が強すぎると、防曇塗料組成物の性状が安定せずハンドリングが困難になりうる。また強酸性の防曇塗料組成物は塗布する基材(たとえば金属基材や所定のプラスチック基材等)を痛める可能性があり、適用する基材によっては使用できない場合もある。そこでpH調整剤を混合してコロイダルシリカ全体のpHを適切に調整する。pH調整剤としては、無機塩基や有機塩基などの種々のアルカリ性化合物を使用することができるが、pHの調整が簡便なpH調整用コロイダルシリカを使用することが好ましい。なおpH調整剤としてpH調整用コロイダルシリカを用いる場合は、pH調整用コロイダルシリカも長尺状シリカのコロイド溶液であることがより好ましい。
【0012】
酸性長尺状コロイダルシリカとpH調整用長尺状コロイダルシリカは、コロイダルシリカ混合物のpHが中性〜弱アルカリ性(pH7〜10程度)となるように混合する。コロイダルシリカ混合物のpHを弱アルカリ性にするためには、酸性長尺状コロイダルシリカとpH調整用長尺状コロイダルシリカとの固形分重量比が、1:4〜5:1となるように混合するとよい。固形分重量比とは、各コロイダルシリカに実質的に占める固形分の重量の割合である。
【0013】
実施形態の防曇塗料組成物は、さらに界面活性剤を含んでいてよい。実施形態の防曇塗料組成物において、界面活性剤は基材表面上へのコロイダルシリカの広がりを補助し、塗工作業を容易にするために用いられる。界面活性剤として、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、両性界面活性剤のいずれも使用することができ、これらのうちの1種または2種以上を用いることができる。アニオン性界面活性剤として、たとえば、オレイン酸ナトリウム、オレイン酸カリウム等の脂肪酸塩、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸アンモニウム等の高級アルコール硫酸エステル類、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルキルナフタレンスルホン酸ナトリウム等のアルキルベンゼンスルホン酸塩及びアルキルナフタレンスルホン酸塩、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物、ジアルキルスルホコハク酸塩、ジアルキルホスフェート塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸ナトリウム等のポリオキシエチレンサルフェート塩、パーフルオロアルキル基を含有するスルホン酸塩型、パーフルオロアルキル基を含有するカルボン酸塩型、パーフルオロアルケニル基を含有するスルホン酸塩型、パーフルオロアルケニル基を含有するカルボン酸塩型等のアニオン性フッ素系界面活性剤類が挙げられる。カチオン性界面活性剤として、たとえば、エタノールアミン類、ラウリルアミンアセテート、トリエタノールアミンモノ蟻酸塩、ステアラミドエチルジエチルアミン酢酸塩等のアミン塩、ラウリルトリメチルアンモニウムクロライド、ステアリルトリメチルアンモニウムクロライド、ジラウリルジメチルアンモニウムクロライド、ジステアリルジメチルアンモニウムクロライド、ラウリルジメチルベンジルアンモニウムクロライド、ステアリルジメチルベンジルアンモニウムクロライド等の第4級アンモニウム塩、パーフルオロアルキル基またはパーフルオロアルケニル基を含有する4級アンモニウム塩型等のカチオン性フッ素系界面活性剤類が挙げられる。
【0014】
ノニオン性界面活性剤として、たとえば、ポリオキシエチレンラウリルアルコール、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル等のポリオキシエチレン高級アルコールエーテル類、ポリオキシエチレンオクチルフェノール、ポリオキシエチレンノニルフェノール等のポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル類、ポリオキシエチレングリコールモノステアレート等のポリオキシエチレンアシルエステル類、ポリプロピレングリコールエチレンオキサイド付加物、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート等のポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類、アルキルリン酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステル等のリン酸エステル類、シュガーエステル類、セルロースエーテル、ポリエーテル変性シリコーンオイル等のシリコーン類、パーフルオロアルキル基を含有するエチレンオキシド付加物型、パーフルオロアルキル基を含有するアミンオキサイド型、パーフルオロアルキル基を含有するオリゴマー型、パーフルオロアルケニル基を含有するエチレンオキシド付加物型、パーフルオロアルケニル基を含有するアミンオキサイド型、パーフルオロアルケニル基を含有するオリゴマー型等のノニオン性フッ素系界面活性剤類が挙げられる。両性界面活性剤として、ウリルトリメチルアンモニウムクロライド、ジラウリルジメチルアンモニウムクロライド、ジステアリルジメチルアンモニウムクロライド、ラウリルジメチルベンジルアンモニウムクロライドなどの第4級アンモニウム塩、ジメチルアルキルラウリルベタイン、ジメチルアルキルステアリルベタイン等の脂肪酸型両性界面活性剤、ジメチルアルキルスルホベタインのようなスルホン酸型両性界面活性剤、アルキルグリシン、パーフルオロアルキル基またはパーフルオロアルケニル基を含有するベタイン型の両性フッ素系界面活性剤類等を挙げることができる。本実施形態の界面活性剤として、上記のいずれの界面活性剤も好ましく用いることができる。界面活性剤は、防曇塗料組成物100重量部に対して0.01〜0.10重量部程度含まれていることが好ましい。
【0015】
さらに実施形態の防曇塗料組成物は、有機溶剤を含有していてよい。実施形態の防曇塗料組成物の主成分である、水を分散媒としたコロイダルシリカ混合物単独でも基材表面上に塗布して防曇塗膜を形成することができる。しかし、これにさらに有機溶剤が含まれていれば、塗膜形成時の水の乾燥が促進されるため、より早く防曇塗膜を形成することが可能となる。実施形態で用いることができる有機溶剤は、水と相溶性を有するか、水と所定の範囲で混和する有機溶剤である。このような有機溶剤としてたとえば、アルコール類(メタノール、エタノール、プロパノール、エチレングリコール等)、エーテル類(ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、プロピレングリコールモノメチルエーテル等)、ケトン類(アセトン、エチルメチルケトン等)、アミド類(ジメチルホルムアミド等)や、ジメチルスルホキシド(DMSO)、アセトニトリル、ニトロメタン、トリエチルアミンを挙げることができる。有機溶剤は、防曇塗料組成物100重量部に対して10〜20重量部程度含まれていることが好ましい。
【0016】
本実施形態の好適な防曇塗料組成物は、まず酸性長尺状コロイダルシリカと、pH調整用長尺状コロイダルシリカとを用意し、次いで必要に応じて界面活性剤および有機溶剤と混合して製造することができる。酸性長尺状コロイダルシリカとpH調整用長尺状コロイダルシリカは、分散媒である水に特定の固形分割合で分散しているため、これらの固形分重量比が1:4〜5:1となるように計算して混合することができる。実施形態の防曇塗料組成物は、これらの成分のほか、塗料組成物に通常含まれている添加剤(たとえば染料、顔料、可塑剤、分散剤、防腐剤、つや消し剤、帯電防止剤、難燃剤)を適宜配合することができる。
【0017】
酸性長尺状コロイダルシリカ、pH調整用長尺状コロイダルシリカ、および場合により界面活性剤、有機溶剤を適切に配合した実施形態の防曇塗料組成物は、基材表面に塗布することができる。基材として、ガラス、プラスチック、金属などを挙げることができるが、実施形態の防曇塗料組成物は、特に透明プラスチック上に好適に塗布することができる。防曇塗料組成物の基材表面への塗布は、ドクターブレード法、バーコート法、ディッピング法、エアスプレー法、ローラーブラシ法、ローラーコーター法等の従来のコーティング方法により適宜行うことができる。塗布した防曇塗料組成物を加熱して、防曇塗膜を形成することができる。防曇塗料組成物の加熱は、水および含まれている場合は有機溶剤が蒸発するのに充分な温度まで加熱すればよい。使用する有機溶剤の種類にもよるが、通常は80〜150℃、好ましくは100〜150℃程度に加熱することで水及び有機溶剤を蒸発させることができる。防曇塗料組成物塗布物の加熱は、バーナーやオーブンなどの加熱装置による加熱のほか、ドライヤーなどの温風による加熱方法により行うことができる。
【0018】
実施形態の防曇塗料組成物を基材に塗布し、加熱することにより乾燥し防曇塗膜を形成して、防曇物品を得ることができる。本実施形態の防曇塗料組成物を利用した防曇物品として、たとえば、照明装置、前照灯、窓、レンズ、レンズカバー、モニター、モニターカバー等が挙げられる。実施形態の防曇物品は、優れた防曇性能を有し、水垂れ跡の形成などの外観変化を引き起こさない。
【実施例】
【0019】
(1)防曇塗料組成物の作製
酸性長尺状コロイダルシリカ(ST−OUP[固形分15%]、日産化学工業(株))、pH調整用長尺状コロイダルシリカ(ST−UP[固形分20%]、日産化学工業(株))、界面活性剤(フタージェント100、フッ素系のアニオン系界面活性剤、(株)ネオス)、および有機溶剤プロピレングリコールモノメチルエーテル[以下PGM]、日本乳化剤(株))を混合して、防曇塗料組成物を作製した。各防曇塗料組成物の成分構成は、表1に示した。
【0020】
【表1】
【0021】
なお、表中の略号の意味は、以下の通りである:
ST−OUP:日産化学工業(株)商品名、コロイダルシリカ
ST−UP:日産化学工業(株)商品名、コロイダルシリカ
IPA−ST−UP:日産化学工業(株)商品名、分散媒としてイソプロピルアルコールを用いた鎖状オルガノシリカゾル(固形分15%)
PGM:プロピレングリコールモノメチルエーテル
【0022】
(2)防曇塗料組成物のpH測定
(株)堀場製作所製pHメーター:D−53を用い、各防曇塗料組成物のpHを測定した。
【0023】
(3)防曇塗膜の作製
ポリカーボネート樹脂板基材上に、各防曇塗料組成物を塗布した。塗布は、バーコート法で行い、防曇塗料組成物が形成した後の防曇塗膜の厚さが1μmとなるように調整した。防曇塗料組成物が塗布された基材を100℃のオーブンに入れ5分間水と有機溶剤とを蒸発させ、防曇塗膜を形成した。こうして各防曇塗膜試験片を得た。
【0024】
(4)防曇塗料組成物の安定性評価
各防曇塗料組成物をガラス製のサンプル瓶に入れ、室温に30日間放置し、防曇塗料組成物の状態を目視により観察した。ゲル、凝集体、沈殿物等が観察されなかったものを「良好」、ゲル、凝集体、沈殿物等が観察されたものを「不良」と記載した。
【0025】
(5)防曇塗膜組成物の塗工性評価
防曇塗膜試験片の表面を目視で観察した。均質な塗膜が得られものについて「良好」、塗膜の表面にハジキ等が見られるものについて「不良」と記載した。
【0026】
(6)塗膜の防曇性評価
40℃の温水浴の水面から高さ1cmの位置に防曇塗膜試験片を塗膜が下向きになるように配置して、塗膜に温水浴からの蒸気をあてた。2分間経過後に塗膜上に曇りが形成されているかを目視により観察した。塗膜の表面に曇りが生じていないものについて「曇りなし」、塗膜の表面に曇りが生じているものについて「曇りあり」と記載した。
【0027】
(7)塗膜の外観変化の評価
上記の塗膜の防曇性評価を行った後、防曇塗膜試験片を垂直に立てかけた状態で30分間維持して乾燥させた。その後防曇塗膜試験片上に水垂れ跡が形成されているか、目視により観察した。防曇塗膜試験片に温水浴からの蒸気をあて、さらに垂直に立てかけた状態で30分間維持して乾燥することを5回繰り返し、試験ごとに水垂れ跡の形成を目視により観察した。5回の試験後も水垂れ跡が見られないものについて「タレなし」、2回目から5回目の試験の後に水垂れ跡が見られたものについて「2回目以降タレあり」、1回目の試験の後に水垂れ跡が見られたものについて「1回目タレあり」と記載した。
【0028】
酸性長尺状コロイダルシリカとpH調整用長尺状コロイダルシリカの配合の割合を変えた本発明の実施例にかかる防曇塗料組成物は、いずれも優れた防曇性を有する塗膜を形成した。これらのうち、酸性長尺状コロイダルシリカの配合割合の小さい実施例3および4の防曇塗料組成物による塗膜については、それぞれ4回目、2回目の外観変化試験で水垂れ跡が観察されたが、酸性長尺状コロイダルシリカの配合割合を増やした実施例1および2の防曇塗料組成物による塗膜は、5回の試験後においても防曇性を発揮した。
【0029】
これに対しpH調整用長尺状コロイダルシリカのみを配合した比較例1の防曇塗料組成物による塗膜は、防曇性評価試験および塗膜の外観変化試験の直後に水垂れ跡が観察された。そして酸性長尺状コロイダルシリカのみを配合した比較例2の防曇塗料組成物は水垂れ跡を形成しない優れた塗膜を形成できたが、塗液の安定性が低く、保存安定性に難があった。界面活性剤を含有しない比較例3にかかる防曇塗料組成物は塗工性が悪く、塗膜を形成することができなかった。イソプロパノールに分散させたオルガノシリカゾルを用いた比較例4にかかる防曇塗料組成物は、防曇性が低い塗膜を形成した。