(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。各図面を通じて同一もしくは同等の部位や構成要素には、同一もしくは同等の符号を付している。
【0012】
以下に示す実施形態は、この発明の技術的思想を具体化するための装置等を例示するものであって、この発明の技術的思想は、各構成部品の材質、形状、構造、配置等を下記のものに特定するものでない。この発明の技術的思想は、特許請求の範囲において、種々の変更を加えることができる。
【0013】
図1は本発明の一実施形態に係る印刷装置の概略構成を示す説明図である。なお、以下の説明において、
図1の紙面に直交する方向を前後方向とし、紙面表方向を前方とする。また、
図1における紙面の上下左右を上下左右方向とする。
【0014】
図1に示すように、本実施形態の印刷装置1は、巻出部2と、搬送部3と、印刷部4A,4Bと、巻取部5と、制御部6とを備える。なお、搬送部3と制御部6とが搬送装置を構成する。
【0015】
巻出部2は、搬送部3へ巻き出されるウェブWを保持する。ウェブWは、フィルム、紙等からなる長尺状の印刷媒体である。巻出部2は、ウェブロール支持軸11を備える。
【0016】
ウェブロール支持軸11は、ウェブロール12を回転可能に支持する。ウェブロール12は、ウェブWがロール状に巻かれたものである。ウェブロール支持軸11は、前後方向に延びる長尺状に形成されている。
【0017】
搬送部3は、巻出部2から巻き出されたウェブWを搬送する。搬送部3は、ガイドローラ21〜29と、20本のヘッド下支持部材30と、搬送ユニット31と、ブレーキユニット50とを備える。
【0018】
ガイドローラ21〜29は、搬送部3において搬送されるウェブWをガイドする。ガイドローラ21〜29は、搬送されるウェブWに従動回転する。ガイドローラ21〜29は、前後方向に延びる長尺状に形成されている。
【0019】
ガイドローラ21は、巻出部2から繰り出されたウェブWをブレーキユニット50にガイドする。ガイドローラ21は、巻出部2の近傍に配置されている。
【0020】
ガイドローラ22〜28は、ブレーキユニット50と搬送ユニット31との間でウェブWをガイドする。このうち、ガイドローラ22〜24は、ブレーキユニット50を通過したウェブWを印刷部4Aにガイドする。ガイドローラ25,26は、印刷部4Aを通過したウェブWを印刷部4Bにガイドする。ガイドローラ27,28は、印刷部4Bを通過したウェブWを搬送ユニット31にガイドする。ガイドローラ29は、搬送ユニット31を通過したウェブWを巻取部5にガイドする。
【0021】
ヘッド下支持部材30は、ガイドローラ24,25間及びガイドローラ26,27間において、印刷部4A,4Bの後述する5つずつのヘッドユニット61の下でウェブWを支持する。ヘッド下支持部材30は、前後方向に延びる長尺状に形成されている。ガイドローラ24,25間及びガイドローラ26,27間に、それぞれ10本ずつのヘッド下支持部材30が配置されている。そして、ヘッド下支持部材30は、各ヘッドユニット61の直下に2本ずつ配置されている。ガイドローラ24,25間及びガイドローラ26,27間において、それぞれ10本のヘッド下支持部材30は、ウェブWが上に凸のアーチを描くように配置されている。
【0022】
搬送ユニット31は、制御部6が決定した搬送速度でウェブWを巻取部5側に送り出すもので、搬送モータ33により回転駆動される搬送ローラ32と、従動ローラ34と、エンコーダ35,36と、ニップ圧調整機構37(
図2参照)とを有している。
【0023】
図2の斜視図に示すように、搬送ローラ32の回転軸32aと搬送モータ33の出力軸33aとには、それぞれプーリ32b,33bが取り付けられている。これらのプーリ32b,33b間には、ベルト38が架け渡されている。搬送ローラ32は、これらのベルト38及びプーリ32b,33bを介して搬送モータ33から伝達される回転力により回転する。
【0024】
搬送ローラ32及び従動ローラ34は、ウェブWをニップし、搬送モータ33の回転力により、搬送されるウェブWの搬送速度を決められた速度に調整する。搬送ローラ32及び従動ローラ34は、前後方向に細長い円柱形状に形成されており、同じ半径を有している。なお、搬送されるウェブWには、巻取部5の後述する巻取軸66を回転させる巻取モータ67(
図4参照)によって、巻出部2への巻き戻し方向の張力T1が付与される。
【0025】
エンコーダ35は搬送ローラ32に接続され、エンコーダ36は従動ローラ34に接続されている。各エンコーダ35,36は、対応する搬送ローラ32及び従動ローラ34の所定の回転角度ごとにパルス信号をそれぞれ出力する。
【0026】
ニップ圧調整機構37は、従動ローラ34の搬送ローラ32に対する接触圧を調整するもので、加圧バネ39,40と、加圧アーム41,42と、調整部43とを備える。
【0027】
加圧バネ39,40は、支軸44aを中心に揺動する加圧アーム41,42の揺動端をそれぞれ引っ張ることで、従動ローラ34を搬送ローラ32に圧接させる。
【0028】
加圧バネ39は、一端が後側の加圧アーム41の揺動端に掛けられ、他端が支軸47aを中心に揺動する調整アーム45の揺動端に掛けられている。これにより、加圧バネ40は、支軸44aを中心にした調整アーム45の揺動に応じてバネ力が変化する。
【0029】
加圧バネ40は、一端が前側の加圧アーム42の揺動端に掛けられ、他端が支軸47aを中心に揺動する調整アーム46の一端部に掛けられている。これにより、加圧バネ40は、調整アーム46の揺動に応じてバネ力が変化する。
【0030】
調整アーム45,46の揺動端は、リンクバー47bによって連結されている。このため、調整アーム45,46は連動して一体に揺動する。これにより、加圧ばね39,40は、連動して揺動する調整アーム45,46により同じバネ力に設定される。
【0031】
加圧アーム41,42の揺動端は、リンクバー44bによって連結されている。このため、加圧アーム41,42は連動して一体に揺動する。
【0032】
加圧アーム41は、従動ローラ34の後方において回転軸34aを軸受けする軸受部材(図示せず)を押圧することで、従動ローラ34の後端部を搬送ローラ32側に押圧する。
【0033】
加圧アーム42は、従動ローラ34の前方において回転軸34aを軸受けする軸受部材34bを押圧することで、従動ローラ34の前端部を搬送ローラ32側に押圧する。
【0034】
加圧アーム41,42は、それぞれの揺動端に掛けられた加圧バネ39,40のバネ力により、従動ローラ34を搬送ローラ32側に押圧する。
【0035】
そして、調整アーム45,46の揺動により加圧バネ39,40のバネ力を変化させることで、従動ローラ34の搬送ローラ32に対する接触圧が変化する。これにより、搬送ローラ32及び従動ローラ34によるウェブWのニップ圧が可変になっている。
【0036】
調整部43は、前側の調整アーム46を揺動させて、搬送ローラ32及び従動ローラ34によるウェブWのニップ圧を調整する。
【0037】
調整部43は、
図3の拡大斜視図に示すように、調整モータ48と、ウォームギア49(ウォーム49a及びウォームホイール49b)とを備える。
【0038】
調整モータ48は、支軸47aを介して調整アーム45,46を揺動させるための駆動力を発生する。調整モータ48には、例えばステッピングモータやDCモータ等を用いることができる。
【0039】
ウォームギア49は、調整モータ48の出力軸に取り付けられたウォーム49aがこれと噛合したウォームホイール49bを介して支軸47aを回転させることで、調整アーム45,46を一体に揺動させる。
【0040】
したがって、調整部43は、調整モータ48により調整アーム45,46を一体に揺動させて加圧バネ39,40のバネ力を変化させ、搬送ローラ32及び従動ローラ34によるウェブWのニップ圧を調整する。
【0041】
図1に示すブレーキユニット50は、巻出部2から印刷部4Aに送り出されるウェブWに制動力、即ち、巻取部5への送り出し方向の張力T2を付与する。ブレーキユニット50は、ブレーキローラ51と、加圧ローラ52と、ブレーキ53とを備える。
【0042】
ブレーキローラ51と加圧ローラ52とは、ウェブWをニップし、ブレーキ53のブレーキ力により、搬送されるウェブWに張力を付与するための一対のローラを構成する。ブレーキローラ51及び加圧ローラ52は、前後方向に細長い円柱形状に形成されている。
【0043】
ブレーキ53は、ウェブWに張力を付与するためのブレーキ力を発生する。ブレーキ53は、不図示のブレーキベルトを介してブレーキローラ51に接続されている。ブレーキ53は、例えば、磁性鉄粉を利用した電磁クラッチにより制動力を発生するパウダブレーキを用いることができる。
【0044】
印刷部4A,4Bは、それぞれウェブWのおもて面、うら面に画像を印刷する。印刷部4Aは、ガイドローラ24,25間のウェブWの上方近傍に配置されている。印刷部4Bは、ガイドローラ26,27間のウェブWの上方近傍に配置されている。印刷部4A,4Bは、それぞれ5つのヘッドユニット61を備える。
【0045】
ヘッドユニット61は、インクジェットヘッド(図示せず)を有し、インクジェットヘッドのノズルからウェブWにインクを吐出して画像を印刷する。印刷部4A,4Bのそれぞれにおいて、5つのヘッドユニット61は、各々異なる色のインクを吐出する。
【0046】
巻取部5は、印刷部4A,4Bにより印刷されたウェブWを巻き取る。巻取部5は、巻取軸66と、巻取モータ67(
図4参照)とを備える。
【0047】
巻取軸66は、ウェブWを巻き取って保持する。巻取軸66は、前後方向に延びる長尺状に形成されている。
【0048】
巻取モータ67は、巻取軸66を回転させる。巻取軸66の回転により、ウェブWが巻取軸66に巻き取られ、巻き取られるウェブWに巻出部2への巻き戻し方向の張力T1が付与される。
【0049】
制御部6は、印刷装置1全体の動作を制御する。制御部6は、CPU、RAM、ROM、ハードディスク等を備えて構成される。制御部6には、
図4のブロック図に示すように、搬送部3の搬送モータ33、搬送ローラ32及び従動ローラ34の各エンコーダ35,36、ブレーキユニット50のブレーキ53、印刷部4A,4Bの各ヘッドユニット61、並びに、巻取部5の巻取モータ67が接続されている。
【0050】
制御部6は、印刷動作を行う際、搬送モータ33及び巻取モータ67を駆動させてウェブWを搬送させつつ印刷部4A,4Bのヘッドユニット61を駆動させてウェブWに画像を印刷させる。
【0051】
また、制御部6は、ニップ圧調整条件が成立する度に、搬送ユニット31の搬送ローラ32及び従動ローラ34によるウェブWのニップ圧をニップ圧調整機構37により調整する。
【0052】
なお、本実施形態では、例えば、巻出部2のウェブロール支持軸11にセットするウェブロール12を交換した際に、ニップ圧調整条件が成立するものとする。また、本実施形態では、巻出部2のウェブロール支持軸11にウェブロール12をセットした後、ウェブWを用いる印刷ジョブが制御部6に入力される毎に、ニップ圧調整条件が成立するものとする。
【0053】
そこで、制御部6のCPUが、ROMに格納されたプログラムにしたがってウェブロール12の交換時に行う、ニップ圧調整処理の手順を、
図5のフローチャートを参照して説明する。
【0054】
まず、制御部6のCPUは、ウェブロール支持軸11のウェブロール12が交換されたことをトリガとして、ニップ圧調整処理を開始する。
【0055】
そして、制御部6のCPUは、ニップ圧調整機構37の調整モータ48により加圧バネ39,40のバネ力を変化させる。これにより、制御部6のCPUは、搬送ローラ32及び従動ローラ34によるウェブWのニップ圧を、調整開始時のニップ圧に設定する(ステップS1)。
【0056】
ここで、搬送ローラ32及び従動ローラ34によりウェブWを適正な圧力でニップするには、ニップ圧Nを、ウェブWの摩擦係数μ、ウェブWにかかる巻出部2への巻き戻し方向の張力T1、巻取部5への送り出し方向の張力T2の各パラメータとの間で、μN≧T1−T2の関係が成立する値とする必要がある。
【0057】
この関係式における、張力T1,T2の差分(T1−T2)は、巻取部5の巻取モータ67及びブレーキユニット50のブレーキ53が発生するトルクを制御部6のCPUが一定に制御するので、常に一定の値となる。よって、搬送ローラ32及び従動ローラ34によるウェブWのニップ圧Nは、ウェブWの摩擦係数μに応じて調整する必要がある。
【0058】
なお、ウェブWの摩擦係数μは、坪量の大きい厚手のウェブWの方が、坪量の小さい薄手のウェブWよりも大きくなる。このため、ウェブWを適正な圧力でニップすることができるニップ圧Nは、ウェブWの摩擦係数μに代えてウェブWの坪量を用いて定義することもできる。
【0059】
そこで、制御部6のCPUは、搬送ローラ32及び従動ローラ34によるウェブWの調整開始時のニップ圧を、上記の関係が成立する適正ニップ圧Ntに近い(適正ニップ圧Ntよりも若干低めの)ニップ圧に決定する。
【0060】
このとき、制御部6のCPUは、調整開始時のニップ圧を、複数のニップ圧の候補(ニップ圧N1,N2,N3,…)の中から選択する。そして、どの候補を調整開始時のニップ圧とするかは、ウェブWの摩擦係数μ又は摩擦係数μに対応する坪量に基づいて決定する。
【0061】
そこで、制御部6のCPUは、ウェブWの摩擦係数μ又は摩擦係数μに対応する坪量を特定できるような、ウェブロール12の交換時に、交換されたウェブロール12のウェブWの種類等の情報を取得する。そして、取得した情報に基づいて、調整開始時のニップ圧を複数のニップ圧の候補(ニップ圧N1,N2,N3,…)の中から選択し、ステップS1において、調整開始時のニップ圧を選択したニップ圧に設定する。
【0062】
次に、制御部6のCPUは、搬送モータ32及び巻取モータ67を制御して、ウェブWの搬送を開始させる(ステップS3)。搬送開始後、ウェブWの搬送速度は所定速度まで加速されていく。
【0063】
ここで、ウェブWをニップした搬送ローラ32及び従動ローラ34のうちどちらか片方のローラがウェブWに対して滑って空転すると、搬送ローラ32及び従動ローラ34によるウェブWのニップが不完全となる。
【0064】
そして、搬送ローラ32及び従動ローラ34によるウェブWのニップが不完全となると、ウェブWのニップ圧が、ウェブWの摩擦係数μに応じた適切なニップ圧よりも不足する。
【0065】
そこで、制御部6のCPUは、搬送ローラ32及び従動ローラ34のどちらか片方がウェブWに対して滑って空転しているかどうかを検出する。この空転は、搬送ローラ32の回転量と従動ローラ34の回転量との差が所定範囲内に収まっているか否かによって判断することができる。つまり、回転量差が所定範囲内であれば空転がなく、所定範囲を超えていれば空転があると判断することができる。
【0066】
このため、制御部6のCPUは、搬送ローラ32及び従動ローラ34の各エンコーダ35,36の出力(ENC1,ENC2)を取得し、両出力ENC1,ENC2のパルス数がほぼ等しい(ENC1≒ENC2)か否かを確認する(ステップS5)。
【0067】
搬送ローラ32の回転量と従動ローラ34の回転量との差が所定範囲内に収まっていれば、各エンコーダ35,36の出力(ENC1,ENC2)のパルス数はほぼ又は完全に等しくなる。一方、搬送ローラ32の回転量と従動ローラ34の回転量との差が所定範囲内に収まっていなければ、両出力ENC1,ENC2のパルス数はほぼ等しい状態にはならない。
【0068】
なお、両出力ENC1,ENC2のパルス数がほぼ等しいか否かを確認する際に、制御部6のCPUは、本実施形態では、各エンコーダ35,36の1秒間の出力ENC1,ENC2を3回取得する。各エンコーダ35,36の1秒間の出力ENC1,ENC2とは、本実施形態の搬送ローラ32及び従動ローラ34が約3.7周する間の各エンコーダ35,36の出力に相当する。
【0069】
なお、上述した数値は、搬送ローラ32及び従動ローラ34のローラ径が共に60mmであり、両ローラ32,34によりウェブWを1秒間に700mm搬送することから割り出したものである。
【0070】
そして、制御部6のCPUは、取得した3回の出力ENC1,ENC2の合計パルス数をそれぞれカウントし、その差が基準値以内である場合に、両出力ENC1,ENC2のパルス数がほぼ等しい(ENC1≒ENC2)ものと判定する。
【0071】
なお、上述した基準値は、例えば、ウェブWに300dpi(dot per inch)の解像度で画像が印刷される所定速度で搬送ローラ32及び従動ローラ34がウェブWを搬送している場合に、搬送ローラ32及び従動ローラ34の周回距離の差が0.1mm以内となるパルス数差(例えば、1パルス差以内)とすることができる。この数値も、上述した搬送ローラ32及び従動ローラ34のローラ径(60mm)及びウェブWの搬送速度(700mm/sec)から割り出したものである。
【0072】
両出力ENC1,ENC2のパルス数がほぼ等しい(ENC1≒ENC2)と判定されなかった場合は(ステップS5でNO)、制御部6のCPUは、搬送ローラ32及び従動ローラ34によるウェブWのニップ圧Nを段階的(N2→N3→…→Nn→…)に上げた後(ステップS7)、ステップS5にリターンする。
【0073】
一方、両出力ENC1,ENC2のパルス数がほぼ等しい(ENC1≒ENC2)と判定された場合は(ステップS5でYES)、制御部6のCPUは、搬送ローラ32及び従動ローラ34によるウェブWのニップ圧Nを、現在のニップ圧Nsに調整圧αを加えた適正ニップ圧Ntに設定して(ステップS9)、ウェブWの搬送を継続する。
【0074】
ここで、調整圧αは、搬送ローラ32及び従動ローラ34によるウェブWのニップ圧Nを、例えば、搬送ローラ32及び従動ローラ34の各エンコーダ35,36の出力ENC1,ENC2がほぼ一致するニップ圧Nsに保った状態で、1本分のウェブロール12のウェブWを所定速度で搬送したときの、搬送ローラ32及び従動ローラ34の各エンコーダ35,36の出力ENC1,ENC2の差がばらつく程度(ばらつき幅)を目安にして決定することができる。
【0075】
具体的には、搬送ローラ32及び従動ローラ34によるウェブWのニップ圧Nを、制御部6のCPUによる制御上でニップ圧Nsに保った状態で、1本分のウェブロール12のウェブWを所定速度で搬送する。そして、ウェブWの搬送中に取得した各エンコーダ35,36の出力ENC1,ENC2の差が最大値となったときのウェブWのニップ圧Nと、ニップ圧調整処理開始時のウェブWのニップ圧Nsとの差分を、ニップ圧Nsに加える調整圧αの値とする。
【0076】
この調整圧αは、1本分のウェブロール12のウェブWを搬送する間に搬送ローラ32及び従動ローラ34の各エンコーダ35,36の出力ENC1,ENC2の差がばらつく程度(ばらつき幅)を制御部6のCPUが特定する度に、新しい値に更新してもよい。
【0077】
また、制御部6のCPUが、搬送ローラ32及び従動ローラ34の各エンコーダ35,36の出力ENC1,ENC2の差がばらつく程度(ばらつき幅)から調整圧αの値を決定した回数が、一定回数に達した後は、各エンコーダ35,36の出力ENC1,ENC2の差がばらつく程度(ばらつき幅)を実測せず、過去に制御部6のCPUが決定した調整圧αの値に基づいて、以後に使用する調整圧αの固定値を制御部6のCPUが決定するようにしてもよい。
【0078】
具体的には、例えば、制御部6のCPUが直近の過去に決定した調整圧αを、以後に使用する調整圧αの固定値としてもよく、過去に決定した調整圧αの最大値を、以後に使用する調整圧αの固定値としてもよい。
【0079】
また、制御部6のCPUが過去に決定した調整圧αの変動傾向から、今回適用する調整圧αを制御部6のCPUが推定により決定してもよい。
【0080】
その場合、制御部6のCPUは、例えば、現在から遡って一定期間中に制御部6のCPUが決定した調整圧αや、制御部6のCPUが決定した直近から一定回数分の調整圧αから、調整圧αの変動傾向(例えば、微妙な線形増加等)を解析する。そして、その解析結果(又は解析結果と最新の過去に決定した調整値αと)に基づいて、制御部6のCPUは、今回適用する調整圧αを推定により決定することができる。
【0081】
そして、ウェブロール支持軸11のウェブロール12の交換時に行う搬送量のウェブWの搬送が終了したら(ステップS11)、制御部6のCPUは、一連のニップ圧調整処理を終了する。
【0082】
次に、制御部6のCPUが、ROMに格納されたプログラムにしたがって印刷ジョブの入力時に、印刷ジョブの実行前の準備処理として行うニップ圧調整処理の手順を、
図6のフローチャートを参照して説明する。
【0083】
まず、制御部6のCPUは、印刷ジョブの入力をトリガとして、ニップ圧調整処理を開始する。
【0084】
そして、制御部6のCPUは、ニップ圧調整機構37の調整モータ48により加圧バネ39,40のバネ力を変化させる。これにより、制御部6のCPUは、搬送ローラ32及び従動ローラ34によるウェブWのニップ圧を、現在のニップ圧Naに設定する(ステップS21)。
【0085】
なお、現在のニップ圧Naとは、制御部6のCPUが過去に決定した最新の適正ニップ圧Ntの値である。
【0086】
次に、制御部6のCPUは、搬送モータ33及び巻取モータ67を制御して、ウェブWの搬送を開始させる(ステップS23)。搬送開始後、ウェブWの搬送速度は所定速度まで加速されていく。
【0087】
そして、制御部6のCPUは、搬送ローラ32及び従動ローラ34の各エンコーダ35,36の出力(ENC1,ENC2)を取得し、ウェブロール12の交換時に行うニップ圧調整処理の時(
図5のステップS5)と同じように、両出力ENC1,ENC2のパルス数がほぼ等しい(ENC1≒ENC2)か否かを確認する(ステップS25)。
【0088】
両出力ENC1,ENC2のパルス数がほぼ等しい(ENC1≒ENC2)と判定されなかった場合は(ステップS25でNO)、制御部6のCPUは、搬送ローラ32及び従動ローラ34によるウェブWのニップ圧Nを段階的(Na+β→Na+2β→…→Na+nβ)に上げた後(ステップS27)、ステップS25にリターンする。
【0089】
一方、両出力ENC1,ENC2のパルス数がほぼ等しい(ENC1≒ENC2)と判定された場合は(ステップS25でYES)、制御部6のCPUは、現在のニップ圧Na+sβを適正ニップ圧Ntとして設定して(ステップS28)、ウェブWの搬送を継続する。
【0090】
そして、制御部6のCPUは、印刷ジョブの開始準備のためのウェブWの搬送が終了するまで(ステップS29でNO)、搬送ローラ32及び従動ローラ34の各エンコーダ35,36の出力ENC1,ENC2の比較に基づいた、搬送ローラ32及び従動ローラ34によるウェブWのニップ圧Nの調整を繰り返す(ステップS25、ステップS27、ステップS28)。
【0091】
さらに、印刷ジョブの開始準備のためのウェブWの搬送の停止指示が発生したら(ステップS29でYES)、制御部6のCPUは、ウェブWの搬送を終了した後(ステップS31)、一連のニップ圧調整処理を終了する。
【0092】
なお、印刷ジョブの入力時に行うニップ圧調整処理において、ウェブWのニップ圧Nを、段階的(Na+β→Na+2β→…→Na+nβ→…)に上げながら適正ニップ圧Na+sβに調整することを考慮し、ニップ圧Nの調整がし易いように、現在のニップ圧Naよりもオフセット量γだけ低いニップ圧Na−γから、ウェブWのニップ圧Nの調整処理を開始するようにしてもよい。
【0093】
その場合、搬送ローラ32及び従動ローラ34の各エンコーダ35,36の出力ENC1,ENC2がほぼ等しくなる(ENC1≒ENC2)までの間に段階的に増やしたニップ圧Nの量(sβ)が、上述したオフセット量γを上回るようになってもよい。
【0094】
このように、印刷ジョブの入力に伴い印刷ジョブの実行前の準備処理として行うニップ圧調整処理では、ウェブWの搬送中に、搬送ローラ32及び従動ローラ34によるウェブWのニップ圧Nの調整を繰り返す。したがって、搬送ローラ32及び従動ローラ34の各エンコーダ35,36の出力ENC1,ENC2のパルス数がほぼ等しい(ENC1≒ENC2)と判定したときに適正ニップ圧Ntとして決定する現在のニップ圧Na+sβには、ウェブロール12の交換時に行うニップ圧調整処理の時のような調整圧αを加えなくてもよい。
【0095】
以上に説明した本実施形態の印刷装置1によれば、搬送ユニット31の搬送モータ33により回転駆動される搬送ローラ32とこれに圧接されて従動回転する従動ローラ34との回転量を、それぞれに接続したエンコーダ35,36の出力ENC1,ENC2から比較するようにした。
【0096】
そして、各エンコーダ35,36の出力ENC1,ENC2のパルス数がほぼ等しい(ENC1≒ENC2)と判定された場合に、搬送ローラ32と従動ローラ34とが同じ回転量であるものとして、その時のニップ圧Ns,Na+sβを基準に、搬送ローラ32及び従動ローラ34によるウェブWの適正ニップ圧Ntを決定するようにした。
【0097】
このため、坪量が大きく摩擦係数μが高いウェブWであっても、坪量が小さく摩擦係数μが低いウェブWであっても、それぞれの摩擦係数μに応じた適正ニップ圧Ntに、搬送ローラ32及び従動ローラ34によるウェブWのニップ圧を調整することができる。
【0098】
また、本実施形態の印刷装置1によれば、巻出部2のウェブロール支持軸11にセットするウェブロール12を交換した際に、搬送ローラ32及び従動ローラ34の各エンコーダ35,36の出力ENC1,ENC2のパルス数がほぼ等しい(ENC1≒ENC2)ときのニップ圧Nsに、調整圧αをさらに加えた値を、適正ニップ圧Ntとするようにした。
【0099】
このため、交換したウェブロール12のウェブWを搬送ローラ32及び従動ローラ34により例えばニップ圧Nsでニップし1ロール分搬送する間に、搬送ローラ32及び従動ローラ34の各エンコーダ35,36の出力ENC1,ENC2が実際にはばらついて等しくなくなる状態が発生しても、ウェブWが摩擦係数μに応じた適正なニップ圧でニップされる状態を維持し、搬送ユニット31による搬送中のウェブWに適切な張力を付与することができる。
【0100】
なお、上述した実施形態では、印刷装置1が巻出部2及び巻取部5を備える構成として説明したが、印刷装置に対して外部装置として巻取装置及び巻出装置が接続された構成でもよい。
【0101】
また、上述した実施形態では、巻取部5の巻取モータ67がウェブWに、巻出部2への巻き戻し方向の張力T1を付与するものとしたが、ブレーキユニット50がウェブWに巻き戻し方向の張力T1を付与する構成の印刷装置1にも、本発明は適用可能である。
【0102】
さらに、上述した実施形態では、巻出部2から巻取部5に搬送されるウェブWに対する搬送ローラ32及び従動ローラ34のニップ圧を調整する場合について説明したが、本発明は、例えば、A4サイズやB5サイズ等にカットされたカット紙を搬送する際のローラによるニップ圧を調整するものとしても実施することができる。
【0103】
その場合、上述した実施形態において、ウェブロール12の交換時に行う
図5のフローチャートのニップ圧調整処理は、例えば、用紙トレーにカット紙を補充した際に行うことができる。
【0104】
また、現在のニップ圧Naに加える調整圧αは、例えば、搬送ローラ32及び従動ローラ34の各エンコーダ35,36の出力ENC1,ENC2がほぼ一致するニップ圧Nsに保った状態で、用紙トレーの最大容量分のカット紙を所定速度で搬送したときの、搬送ローラ32及び従動ローラ34の各エンコーダ35,36の出力ENC1,ENC2の差がばらつく程度(ばらつき幅)を目安にして決定することができる。
【0105】
その場合、調整圧αは、用紙トレーの最大容量分のカット紙を搬送する間に搬送ローラ32及び従動ローラ34の各エンコーダ35,36の出力ENC1,ENC2の差がばらつく程度(ばらつき幅)を制御部6のCPUが特定する度に、新しい値に更新してもよい。
【0106】
また、本発明は上記の実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記の実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合せにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。
【0107】
そして、以上に説明した実施形態によって、以下に示す各態様の発明が開示される。
【0108】
まず、第1の態様による発明として、
印刷用紙(例えば、
図1のウェブW)をニップし搬送する一対のローラ(例えば、
図1の搬送ローラ32及び従動ローラ34)と、
前記一対のローラの軸間距離(例えば、
図2の搬送ローラ32の回転軸32aと従動ローラ34の回転軸34aとの距離)を調整する軸間距離調整部(例えば、
図2のニップ圧調整機構37)と、
前記軸間距離調整部による前記軸間距離の調整により前記一対のローラによる前記印刷用紙のニップ圧を制御するコントローラ(例えば、
図1の制御部6)と、
を備える搬送装置(例えば、
図1の搬送部3と制御部6)が開示される。
【0109】
そして、第1の態様による発明の搬送装置によれば、一定の張力を持たせた印刷用紙を一対のローラにより搬送する際に、一方のローラが印刷用紙に対して空転し、他方のローラよりも少ない回転量で回転することがないようにして、一対のローラにより搬送中の印刷用紙を適切なニップ圧でニップして、搬送中の印刷用紙に適切な張力を付与することができる。
【0110】
次に、第2の態様による発明として、
前記印刷用紙は、巻出部(例えば、
図1の巻出部2)から繰り出されて巻取部(例えば、
図1の巻取部5)に巻き取られるロール紙(例えば、
図1のウェブW)である搬送装置が開示される。
【0111】
そして、第2の態様による発明の搬送装置によれば、巻出部から巻取部に搬送されるロール紙に対して、ロール紙をニップし搬送する一対のローラにより、適切な張力を付与することができる。
【0112】
続いて、第3の態様による発明として、
前記コントローラは、前記印刷用紙のニップ圧を、前記一対のローラのローラ別の回転量(例えば、
図1のエンコーダ35,36の出力ENC1,ENC2のパルス数)に基づいて決定したニップ圧(例えば、
図5のニップ圧Ns、
図6のニップ圧Na+sβ)に制御する搬送装置が開示される。
【0113】
そして、第3の態様による発明の搬送装置によれば、搬送中の印刷用紙をニップする一対のローラの回転量から各ローラの滑りによる空転の有無を判定し、ローラの空転がなく搬送中の印刷用紙を完全にニップするニップ圧に、一対のローラのニップ圧を制御することができる。
【0114】
次に、第4の態様による発明として、
前記コントローラは、前記印刷用紙のニップ圧を、前記ローラ別の回転量の差が所定範囲内となるニップ圧(例えば、
図1のエンコーダ35,36の出力ENC1,ENC2のパルス数がほぼ等しいときの、
図6のニップ圧Na−(β−n))に制御する搬送装置が開示される。
【0115】
そして、第4の態様による発明の搬送装置によれば、搬送中の印刷用紙をニップする一対のローラが共に空転せず搬送中の印刷用紙を完全にニップするニップ圧に、一対のローラのニップ圧を制御することができる。
【0116】
続いて、第5の態様による発明として、
前記コントローラは、前記印刷用紙の種類の変更時(例えば、
図1のウェブロール支持軸11のウェブロール12が交換されたとき)に、前記印刷用紙のニップ圧を、前記ローラ別の回転量の差が所定範囲内となるニップ圧(例えば、
図1のエンコーダ35,36の出力ENC1,ENC2のパルス数がほぼ等しいときの、
図5のニップ圧Nm)に、前記印刷用紙を基準量搬送する間(例えば、
図1のエンコーダ35,36の出力ENC1,ENC2がほぼ一致するニップ圧Nmに保った状態で、1本分のウェブロール12のウェブWを所定速度で搬送したとき)に生じる前記ローラ別の回転量の差のばらつきに応じた所定の調整圧(例えば、
図5の調整圧α)を加えたニップ圧(例えば、
図5の適正ニップ圧Nt)に制御する搬送装置が開示される。
【0117】
そして、第5の態様による発明の搬送装置によれば、印刷用紙の種類が変更されて、一対のローラが搬送中の印刷用紙を完全にニップするニップ圧が、印刷用紙の搬送中に変動する可能性がある場合でも、搬送中の印刷用紙に対して一対のローラが空転せず適切な張力を付与するニップ圧に、一対のローラのニップ圧を制御することができる。