【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成27年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、次世代治療・診断実現のための創薬基盤技術開発事業「国際基準に適合した次世代抗体医薬等の製造技術のうち高生産宿主構築の効率化基盤技術の開発に係るもの」委託研究開発、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【文献】
"hypothetical protein PP7435_Chr1-0001 [Komagataella phaffii CBS7435]", [27-FEB-2015], Retrieved from GenBank, [online], Accession no.CCA36173.1, [Retrieved on 7 Jun 2017], URL:https://www.ncbi.nlm.nih.gov/protein/328349773?sat=2&sat key=42733357
【文献】
"hypothetical protein PP7435_Chr1-1585 [Komagataella phaffii CBS7435]", [27-FEB-2015], Retrieved from GenBank, [online], Accession no.CCA37695.1, [Retrieved on 7 Jun 2017], URL:https://www.ncbi.nlm.nih.gov/protein/328351295?sat=2&sat key=42733357
【文献】
"putative secreted protein [Komagataella phaffii CBS 7435]",[27-FEB-2015], Retrieved from GenBank, [online], Accession no.CCA41161.1, [Retrieved on 7 Jun 2017], URL:https://www.ncbi.nlm.nih.gov/protein/328354764?sat=2&sat key=42733360
【文献】
"hypothetical protein PP7435_Chr4-1018 [Komagataella phaffii CBS7435]", [27-FEB-2015], Retrieved from GenBank, [online], Accession no.CCA41167.1, [Retrieved on 7 Jun 2017], URL:https://www.ncbi.nlm.nih.gov/protein/328354770?sat=2&sat key=42733360
【文献】
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【文献】
"putative secreted protein [Komagataella phaffii CBS 7435]",[27-FEB-2015], Retrieved from GenBank, [online], Accession no.CCA40175.1, [Retrieved on 7 Jun 2017], URL:https://www.ncbi.nlm.nih.gov/protein/328353777?sat=2&sat key=42733359
【文献】
"hypothetical protein PP7435_Chr1-1393 [Komagataella phaffii CBS7435]", [27-FEB-2015], Retrieved from GenBank, [online], Accession no.37509.1, [Retrieved on 7 Jun 2017], URL:https://www.ncbi.nlm.nih.gov/protein/328351109?sat=2&sat key=42733357
【文献】
"hypothetical protein PP7435_Chr2-1294 [Komagataella phaffii CBS7435]", [27-FEB-2015], Retrieved from GenBank, [online], Accession no.38967.1, [Retrieved on 7 Jun 2017], URL:https://www.ncbi.nlm.nih.gov/protein/328352568?sat=2&sat key=42733358
【文献】
"hypothetical protein PP7435_Chr1-1388 [Komagataella phaffii CBS7435]", [27-FEB-2015], Retrieved from GenBank, [online], Accession no.CCA37504.1, [Retrieved on 7 Jun 2017], URL:https://www.ncbi.nlm.nih.gov/protein/328351104?sat=2&sat key=42733357
【文献】
"hypothetical protein PAS_c159_0001 [Komagataella pastoris]",[08-JUL-2009], Retrieved from GenBank, [online], Accession no.CAY67126.1, [Retrieved on 7 Jun 2017], URL:https://www.ncbi.nlm.nih.gov/protein/CAY67126
【文献】
"hypothetical protein PAS_chr1-4_0691 [Komagataella phaffii GS115]",[27-FEB-2015], Retrieved from GenBank, [online], Accession no.CAY68445.1, [Retrieved on 7 Jun 2017], URL:https://www.ncbi.nlm.nih.gov/protein/CAY68445
【文献】
"Hypothetical protein PAS_chr2-1_0009 [Komagataella phaffii GS115]",[27-FEB-2015], Retrieved from GenBank, [online], Accession no.CAY68608.1, [Retrieved on 7 Jun 2017], URL:https://www.ncbi.nlm.nih.gov/protein/CAY68608
【文献】
"Hypothetical protein PAS_chr4_0003 [Komagataella phaffii GS115]",[27-FEB-2015], Retrieved from GenBank, [online], Accession no.CAY71233.1, [Retrieved on 7 Jun 2017], URL:https://www.ncbi.nlm.nih.gov/protein/CAY71233
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を、好ましい実施形態を用いて詳細に説明する。
1.用語の定義
本発明において、2つの核酸がストリンジェントな条件下でハイブリダイズするとは、例えば以下の意味である。例えば、核酸Xを固定化したフィルターを用いて、0.7〜1.0MのNaCl存在下、65℃で核酸Yとハイブリダイゼーションを行った後、2倍濃度のSSC溶液(1倍濃度のSSC溶液の組成は、150mM塩化ナトリウム、15mMクエン酸ナトリウムよりなる)を用い、65℃の条件下でフィルターを洗浄することにより、核酸Yがフィルター上に結合した核酸として取得できる場合に、核酸Yを「核酸Xとストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸」と言うことができる。或いは核酸Xと核酸Yとが「ストリンジェントな条件下で相互にハイブリダイズする」ということができる。核酸Yは好ましくは65℃で0.5倍濃度のSSC溶液で洗浄、より好ましくは65℃で0.2倍濃度のSSC溶液で洗浄、更に好ましくは65℃で0.1倍濃度のSSC溶液で前記フィルターを洗浄することによりフィルター上に結合した核酸として取得できる核酸である。基準となる核酸Xは、コロニー又はプラーク由来の核酸Xであってよい。
【0014】
本発明において塩基配列やアミノ酸配列の配列同一性は、当業者に周知の方法、配列解析ソフトウェア等を使用して求めることができる。例えば、BLASTアルゴリズムのblastnプログラムやblastpプログラム、FASTAアルゴリズムのfastaプログラムが挙げられる。本発明において、ある評価対象塩基配列の、塩基配列Xとの「配列同一性」とは、塩基配列Xと評価対象塩基配列とを整列(アラインメント)させ、必要に応じてギャップを導入して、両者の塩基一致度が最も高くなるようにしたときの、ギャップ部分も含んだ塩基配列において同一部位に同一の塩基が出現する頻度を%で表示した値である。なお、DNAの塩基配列とRNAの塩基配列とを比較するとき、TとUとは同一の塩基とみなす。本発明において、ある評価対象アミノ酸配列の、アミノ酸配列Xとの「配列同一性」とは、アミノ酸配列Xと評価対象アミノ酸配列とを整列(アラインメント)させ、必要に応じてギャップを導入して、両者のアミノ酸一致度が最も高くなるようにしたときの、ギャップ部分も含んだアミノ酸配列において同一部位に同一のアミノ酸が出現する頻度を%で表示した値である。
【0015】
本発明において「核酸」とは、「ポリヌクレオチド」と呼ぶこともでき、DNA又はRNAを指し、典型的にはDNAを指す。本発明において「ポリヌクレオチド」は、その相補鎖と二本鎖化された形態で存在していてもよい。特に「ポリヌクレオチド」がDNAである場合、所定の塩基配列を含むDNAが、その相補塩基配列を含むDNAと二本鎖化された形態で存在することが好ましい。
【0016】
本発明において、「ポリペプチド」とは、2個以上のアミノ酸がペプチド結合したものを指し、タンパク質の他、ペプチドやオリゴペプチドと呼ばれる鎖長の短いものが含まれる。
【0017】
本発明において「ポリペプチドをコードする塩基配列」とは、転写及び翻訳によってポリペプチドの生成をもたらすポリヌクレオチドの塩基配列を指し、例えば、アミノ酸配列からなるポリペプチドに対してコドン表に基づいて設計された塩基配列を指す。
【0018】
本明細書において、「宿主細胞」とは、ベクターが導入され形質転換される細胞をいい、「宿主」又は「形質転換体」と呼ばれる。本明細書では形質転換前及び後の宿主細胞を単に「細胞」と呼ぶ場合がある。宿主として用いる細胞はベクターを導入することの出来る細胞であれば特に限定されない。
【0019】
宿主細胞の生物種は特に限定されないが、酵母、細菌、真菌、昆虫細胞、動物細胞、及び植物細胞等が挙げられ、酵母が好ましく、メタノール資化性酵母がより好ましい。一般に、メタノール資化性酵母は、唯一の炭素源としてメタノールを利用して培養可能な酵母と定義されるが、本来メタノール資化性酵母であったが、人為的な改変あるいは変異によりメタノール資化性能を喪失した酵母も、本発明におけるメタノール資化性酵母に包含される。
【0020】
メタノール資化性酵母としては、ピキア(Pichia)属、オガタエア(Ogataea)属、キャンディダ(Candida)属、トルロプシス(Torulopsis)属、コマガタエラ(Komagataella)属等に属する酵母が挙げられる。ピキア(Pichia)属ではピキア・メタノリカ(Pichia methanolica)、オガタエア(Ogataea)属ではオガタエア・アングスタ(Ogataea angusta)、オガタエア・ポリモルファ(Ogataea polymorpha)、オガタエア・パラポリモルファ(Ogataea parapolymorpha)、オガタエア・ミヌータ(Ogataea minuta)、キャンディダ(Candida)属ではキャンディダ・ボイディニ(Candida boidinii)、コマガタエラ(Komagataella)属ではコマガタエラ・パストリス(Komagataella pastoris)、コマガタエラ・ファフィ(Komagataella phaffii)等が好ましい例として挙げられる。
【0021】
上記のメタノール資化性酵母のなかでも、コマガタエラ属酵母又はオガタエア属酵母が特に好ましい。
【0022】
コマガタエラ(Komagataella)属酵母としては、コマガタエラ・パストリス(Komagataella pastoris)、コマガタエラ・ファフィ(Komagataella phaffii)が好ましい。コマガタエラ・パストリス及びコマガタエラ・ファフィはどちらもピキア・パストリス(Pichia pastoris)の別名を有する。
【0023】
具体的に宿主として使用できる菌株として、コマガタエラ・パストリスATCC76273(Y-11430、CBS7435)、コマガタエラ・パストリスX-33等の株が挙げられる。これらの菌株は、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクションやサーモフィッシャーサイエンティフィック社等から入手することができる。
【0024】
オガタエア(Ogataea)属酵母としては、オガタエア・アングスタ(Ogataea angusta)、オガタエア・ポリモルファ(Ogataea polymorpha)、オガタエア・パラポリモルファ(Ogataea parapolymorpha)が好ましい。これら3つは近縁種であり、いずれも、別名ハンゼヌラ・ポリモルファ(Hansenula polymorpha)、又は別名ピキア・アングスタ(Pichia angusta)でも表される。
【0025】
具体的に使用できる菌株として、オガタエア・アングスタNCYC495(ATCC14754)、オガタエア・ポリモルファ8V(ATCC34438)、オガタエア・パラポリモルファDL-1(ATCC26012)等の菌株が挙げられる。これらの菌株は、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション等から入手することができる。
【0026】
また、本発明においては、これらコマガタエラ属酵母やオガタエア属酵母の菌株からの誘導株も使用でき、例えばヒスチジン要求性であればコマガタエラ・パストリスGS115株(サーモフィッシャーサイエンティフィック社より入手可能)、ロイシン要求性株であれば、NCYC495由来のBY4329、8V由来のBY5242、DL-1由来のBY5243(これらはNational BioResource Projectから分譲可能)等が挙げられる。本発明においては、これらの菌株からの誘導株等も使用できる。
【0027】
本発明において、「発現」とは、ポリペプチドの生成をもたらす塩基配列の転写及び翻訳を指す。また、その発現は外部刺激や生育条件等に依存せずにほぼ一定の状態でもよいし、依存してもよい。発現を駆動するプロモーターは、ポリペプチドをコードする塩基配列の発現を駆動するプロモーターであれば特に限定されない。
【0028】
本発明において、「高発現」とは、宿主細胞内のポリペプチドの量、もしくは、宿主細胞内のmRNAの量が、通常の量に比較して増加していることを意味し、例えば、ポリペプチドを認識する抗体を利用して測定し、あるいは、例えば、RT-PCR法やノーザンハイブリダイゼーション、DNAアレイを使用するハイブリダイゼーション等によって測定し、親細胞又は野生型株のような非改変株と比較することによって確認することができる。
【0029】
2.新規ポリペプチドをコードする塩基配列を含むベクター
一態様において、本発明は、(a)配列番号113、108〜112、及び114〜120、好ましくは配列番号113、108〜112、117、及び120のいずれかに示すアミノ酸配列をコードする塩基配列、(b)前記(a)に示すアミノ酸配列において、1もしくは複数個のアミノ酸が置換、欠失、及び/又は付加したアミノ酸配列をコードする塩基配列、(c)前記(a)に示すアミノ酸配列と85%以上、例えば90%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、又は99%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列をコードする塩基配列、又は(d)前記(a)に示すアミノ酸配列をコードする塩基配列に対して相補的な配列からなる核酸にストリンジェントな条件でハイブリダイズする核酸の塩基配列を含むベクターに関する。
【0030】
本発明においてアミノ酸の置換、欠失、挿入及び/又は付加に関する「1もしくは複数個」とは、例えば、(b)に記載のアミノ酸配列では、配列番号113、108〜112、及び114〜120のいずれかに示すアミノ酸配列において、1〜280個、1〜250個、1〜200個、1〜190個、1〜160個、1〜130個、1〜100個、1〜75個、1〜50個、1〜25個、1〜20個、1〜15個、1〜10個、1〜7個、1〜5個、1〜4個、1〜3個、又は1もしくは2個をいう。(b)に記載のアミノ酸配列の例として、配列番号113、108〜112、及び114〜120のいずれかに示すアミノ酸配列の連続する、1〜5、1〜10、1〜25、1〜50、1〜75、1〜100、1〜125、1〜150、1〜175、1〜200、1〜225、1〜250、1〜275、又は1〜300アミノ酸からなる部分アミノ酸配列が挙げられる。
【0031】
一実施形態において、(a)〜(d)に記載の塩基配列は、それぞれ、(a')配列番号75、65、67、69、71、73、77、79、81、83、85、87、及び89、好ましくは配列番号75、65、67、69、71、73、83、及び89のいずれかに示す塩基配列、(b')前記(a')に示す塩基配列において、1もしくは複数個の塩基が置換、欠失、及び/又は付加した塩基配列、(c')前記(a')に示す塩基配列と85%以上、例えば90%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、又は99%以上の配列同一性を有する塩基配列、又は(d')前記(a')に示す塩基配列に対して相補的な配列からなる核酸にストリンジェントな条件でハイブリダイズする核酸の塩基配列であってよい。
【0032】
本発明において塩基の置換、欠失、挿入及び/又は付加に関する「1もしくは複数個」とは、例えば、(b')の塩基配列では、配列番号75、65、67、69、71、73、77、79、81、83、85、87、及び89のいずれかに示す塩基配列において、1〜800個、1〜700個、1〜600個、1〜500個、1〜400個、1〜300個、1〜200個、1〜190個、1〜160個、1〜130個、1〜100個、1〜75個、1〜50個、1〜25個、1〜20個、1〜15個、1〜10個、1〜7個、1〜5個、1〜4個、1〜3個、又は1もしくは2個をいう。(b')の塩基配列の例として、配列番号75、65、67、69、71、73、77、79、81、83、85、87、及び89のいずれかに示す塩基配列の連続する、1〜5、1〜10、1〜25、1〜50、1〜75、1〜100、1〜125、1〜150、1〜175、1〜200、1〜225、1〜250、1〜275、1〜300、1〜350、1〜400、1〜450、1〜500、1〜600、1〜700、又は1〜800塩基からなる部分塩基配列が挙げられる。
【0033】
一態様において、本発明は、(e)配列番号100、95〜99、及び101〜107のいずれかに示すアミノ酸配列をコードする塩基配列、(f)前記(e)に示すアミノ酸配列において、1もしくは複数個のアミノ酸が置換、欠失、及び/又は付加したアミノ酸配列をコードする塩基配列、(g)前記(e)に示すアミノ酸配列と85%以上、例えば90%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、又は99%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列をコードする塩基配列、又は(h)前記(e)に示すアミノ酸配列をコードする塩基配列に対して相補的な配列からなる核酸にストリンジェントな条件でハイブリダイズする核酸の塩基配列を含む、ベクターに関する。
【0034】
本発明においてアミノ酸の置換、欠失、挿入及び/又は付加に関する「1もしくは複数個」とは、例えば、(f)に記載のアミノ酸配列では、配列番号100、95〜99、及び101〜107のいずれかに示すアミノ酸配列において、1〜400個、1〜300個、1〜200個、1〜190個、1〜160個、1〜130個、1〜100個、1〜75個、1〜50個、1〜25個、1〜20個、1〜15個、1〜10個、1〜7個、1〜5個、1〜4個、1〜3個、又は1もしくは2個をいう。(f)に記載のアミノ酸配列の例として、配列番号100、95〜99、及び101〜107のいずれかに示すアミノ酸配列の連続する、1〜5、1〜10、1〜25、1〜50、1〜75、1〜100、1〜125、1〜150、1〜175、1〜200、1〜225、1〜250、1〜275、1〜300、1〜325、1〜350、1〜375、又は1〜400アミノ酸からなる部分アミノ酸配列が挙げられる。
【0035】
一実施形態において、(e)〜(h)に記載の塩基配列は、それぞれ、(e')配列番号39、24、27、30、33、36、42、45、48、51、54、57、及び60のいずれかに示す塩基配列、(f')前記(e')に示す塩基配列において、1もしくは複数個の塩基が置換、欠失、及び/又は付加した塩基配列、(g')前記(e')に示す塩基配列と85%以上、例えば90%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、又は99%以上の配列同一性を有する塩基配列、又は(h')前記(e')に示す塩基配列に対して相補的な配列からなる核酸にストリンジェントな条件でハイブリダイズする核酸の塩基配列であってよい。
【0036】
本発明において塩基の置換、欠失、挿入及び/又は付加に関する「1もしくは複数個」とは、例えば(f')の塩基配列では、配列番号39、24、27、30、33、36、42、45、48、51、54、57、及び60のいずれかに示す塩基配列において、1〜1200個、1〜1000個、1〜500個、1〜400個、1〜300個、1〜200個、1〜190個、1〜160個、1〜130個、1〜100個、1〜75個、1〜50個、1〜25個、1〜20個、1〜15個、1〜10個、1〜7個、1〜5個、1〜4個、1〜3個、又は1もしくは2個をいう。(f')の塩基配列の例として、39、24、27、30、33、36、42、45、48、51、54、57、及び60のいずれかに示す塩基配列の連続する、1〜5、1〜10、1〜25、1〜50、1〜75、1〜100、1〜125、1〜150、1〜175、1〜200、1〜225、1〜250、1〜275、1〜300、1〜350、1〜400、1〜450、1〜500、1〜600、1〜700、1〜800、1〜900、1〜1000、1〜1100、又は1〜1200塩基からなる部分塩基配列が挙げられる。
【0037】
本発明のベクターは上記の(a)〜(h)に示す塩基配列を2以上組み合わせて含んでいてもよい。組み合わせの数の例として、例えば3以上、4以上、5以上、6以上、7以上、8以上、9以上、又は10以上が挙げられる。例えば、本発明のベクターは、上記(a)の配列、すなわち配列番号113、108〜112、及び114〜120のいずれかに示すアミノ酸配列をコードする塩基配列、又はこれらのいずれかと等価な配列を2以上組み合わせて含んでよい。本明細書において、上記(a)に記載の配列と「等価な配列」とは上記(a)に記載のそれぞれの配列に対する上記(b)〜(d)に記載の配列を意味する。したがって、本発明のベクターは、例えば上記(a)に示す配列の2以上の組み合わせ、上記(b)に示す配列の2以上の組み合わせ、上記(c)に示す配列の2以上の組み合わせ、又は上記(d)に示す配列の2以上の組み合わせを含み得る。同様に、本発明のベクターは、上記(e)の配列、すなわち配列番号100、95〜99、及び101〜107のいずれかに示すアミノ酸配列をコードする塩基配列、又はこれらのいずれかと等価な配列を2以上組み合わせて含んでもよい。本明細書において、上記(e)に記載の配列と「等価な配列」とは上記(e)に記載のそれぞれの配列に対する上記(f)〜(h)に記載の配列を意味する。したがって、本発明のベクターは、例えば上記(e)に示す配列の2以上の組み合わせ、上記(f)に示す配列の2以上の組み合わせ、上記(g)に示す配列の2以上の組み合わせ、又は上記(h)に示す配列の2以上の組み合わせを含み得る。本発明のベクターは、例えば配列番号113、108、及び109のいずれかに示すアミノ酸配列をコードする塩基配列、又はこれらのいずれかと等価な配列を2以上組み合わせて含み得る。本発明のベクターは、好ましくは、配列番号100、95、96のいずれかに示すアミノ酸配列をコードする塩基配列、又はこれらのいずれかと等価な配列を2以上組み合わせて含む。
【0038】
また、本発明のベクターは、上記の(a')〜(h')に示す塩基配列を2以上組み合わせて含んでいてもよい。組み合わせの数の例として、例えば3以上、4以上、5以上、6以上、7以上、8以上、9以上、又は10以上が挙げられる。例えば、本発明のベクターは、上記(a')の配列、すなわち配列番号75、65、67、69、71、73、77、79、81、83、85、87、及び89のいずれかに示す塩基配列、又はこれらのいずれかと等価な配列を2以上組み合わせて含んでよい。本明細書において、上記(a')に記載の配列と「等価な配列」とは上記(a')に記載のそれぞれの配列に対する上記(b')〜(d')に記載の配列を意味する。したがって、本発明のベクターは、上記(a')に示す配列の2以上の組み合わせ、上記(b')に示す配列の2以上の組み合わせ、上記(c')に示す配列の2以上の組み合わせ、又は上記(d')に示す配列の2以上の組み合わせを含み得る。同様に、本発明のベクターは、上記(e')の配列、すなわち配列番号39、24、27、30、33、36、42、45、48、51、54、57、及び60のいずれかに示す塩基配列、又はこれらのいずれかと等価な配列を2以上組み合わせて含んでよい。本明細書において、上記(e')に記載の配列と「等価な配列」とは上記(e')に記載のそれぞれの配列に対する上記(f')〜(h')に記載の配列を意味する。したがって、本発明のベクターは、上記(e')に示す配列の2以上の組み合わせ、上記(f')に示す配列の2以上の組み合わせ、上記(g')に示す配列の2以上の組み合わせ、又は上記(h')に示す配列の2以上の組み合わせを含み得る。本発明のベクターは、例えば配列番号75、65、及び67のいずれかに示す塩基配列、又はこれらのいずれかと等価な配列を2以上組み合わせて含み得る。本発明のベクターは、好ましくは、配列番号39、24、27のいずれかに示す塩基配列、又はこれらのいずれかと等価な配列を2以上組み合わせて含む。
【0039】
また、本発明は、上記(a)〜(h)及び(a')〜(h')のいずれかに示す塩基配列を含むベクターの2以上の組み合わせにも関する。ベクターの組み合わせの数及び例については、ベクターに含まれ得る上記塩基配列の組合せと同様であるから、記載を省略する。
【0040】
本発明のベクターに含まれ得る上記の塩基配列は、コマガタエラ・パストリスの4本の染色体DNAの塩基配列(CBS7435株:ACCESSION No. FR839628〜FR839631(J. Biotechnol. 154 (4), 312-320 (2011)、及びGS115株:ACCESSION No. FN392319〜FN392322(Nat. Biotechnol. 27 (6), 561-566 (2009)))の網羅的解析により見出された。具体的には、本発明者は、配列番号93又は94に示すアミノ酸配列を含むポリペプチド、及びそのアミノ酸配列をコードする配列番号91又は92に示す塩基配列を含むポリヌクレオチドを探索した。その結果、CBS7435株についてCCAで始まるACCESSIO No.を有する9つの以下の新規ポリペプチド、GS115株についてCAYで始まるACCESSIO No.を有する4つの以下の新規ポリペプチド、及びこれらの新規ポリペプチドをコードする以下のポリヌクレオチドを見出した:
配列番号95で示されるアミノ酸配列を含むACCESSION No. CCA36173で示されるポリペプチド、及び該ポリペプチドをコードする配列番号24で示される塩基配列を含むポリヌクレオチド;
配列番号96で示されるアミノ酸配列を含むACCESSION No. CCA37695で示されるポリペプチド、及び該ポリペプチドをコードする配列番号27で示される塩基配列を含むポリヌクレオチド;
配列番号97で示されるアミノ酸配列を含むACCESSION No. CCA41161で示されるポリペプチド、及び該ポリペプチドをコードする配列番号30で示される塩基配列を含むポリヌクレオチド;
配列番号98で示されるアミノ酸配列を含むACCESSION No. CCA41167で示されるポリペプチド、及び該ポリペプチドをコードする配列番号33で示される塩基配列を含むポリヌクレオチド;
配列番号99で示されるアミノ酸配列を含むACCESSION No. CCA37701で示されるポリペプチド、及び該ポリペプチドをコードする配列番号36で示される塩基配列を含むポリヌクレオチド;
配列番号100で示されるアミノ酸配列を含むACCESSION No. CCA40175で示されるポリペプチド、及び該ポリペプチドをコードする配列番号39で示される塩基配列を含むポリヌクレオチド;、
配列番号101で示されるアミノ酸配列を含むACCESSION No. CCA37509で示されるポリペプチド、及び該ポリペプチドをコードする配列番号42で示される塩基配列を含むポリヌクレオチド;、
配列番号102で示されるアミノ酸配列を含むACCESSION No. CCA38967で示されるポリペプチド、及び該ポリペプチドをコードする配列番号45で示される塩基配列を含むポリヌクレオチド;、
配列番号103で示されるアミノ酸配列を含むACCESSION No. CCA37504で示されるポリペプチド、及び該ポリペプチドをコードする配列番号48で示される塩基配列を含むポリヌクレオチド;、
配列番号104で示されるアミノ酸配列を含むACCESSION No. CAY67126で示されるポリペプチド、及び該ポリペプチドをコードする配列番号51で示される塩基配列を含むポリヌクレオチド;
配列番号105で示されるアミノ酸配列を含むACCESSION No. CAY68445で示されるポリペプチド、及び該ポリペプチドをコードする配列番号54で示される塩基配列を含むポリヌクレオチド;
配列番号106で示されるアミノ酸配列を含むACCESSION No. CAY68608で示されるポリペプチド、及び該ポリペプチドをコードする配列番号57で示される塩基配列を含むポリヌクレオチド;並びに
配列番号107で示されるアミノ酸配列を含むACCESSION No. CAY71233で示されるポリペプチド、及び該ポリペプチドをコードする配列番号60で示される塩基配列を含むポリヌクレオチド。
【0041】
後述する実施例において、本発明者らは上記のいずれかの塩基配列を含むベクターを宿主に導入し、上記ポリペプチドを高発現させることによりタンパク質の分泌量が向上することを確認している。
【0042】
また、これらの新規ポリペプチドのアミノ酸配列を
図1に示す通りアライメントし、比較的高い相同性が認められたC末端領域を欠失させた以下の変異体を作製した:
配列番号95〜107のいずれかに示すアミノ酸配列のC末端領域の約120〜約200をそれぞれ欠失させた、配列番号108〜120のいずれかに示すアミノ酸配列を含むポリペプチド;
及び該ポリペプチドをそれぞれコードする、配列番号65、67、69、71、73、75、77、79、81、83、85、87、及び89のいずれかに示す塩基配列を含むポリヌクレオチド。
【0043】
後述する実施例において、本発明者らは上記のいずれかの塩基配列を含むベクターの幾つかを宿主に導入し、C末端領域が欠失した上記ポリペプチドを発現させることによりタンパク質の分泌量が向上するものの、分泌量の向上の程度は、C末端領域を含むポリペプチドを発現させた場合に比べて劣る傾向があることを確認している。したがって、配列番号95〜107のいずれかに示すアミノ酸配列のうち、N末端側の配列がタンパク質の分泌量を向上させ、C末端側の配列がN末端側の配列の機能を高める役割を果たしていると考えられる。
【0044】
一実施形態において、上記の本発明のベクターは、例えば宿主細胞に形質転換等により導入した際に、宿主細胞からのタンパク質の分泌量を増加させ得る。
【0045】
本発明において「ベクター」とは人為的に構築された核酸分子であって、上記の所定の塩基配列(上記(a)〜(h)又は(a')〜(h')のいずれかの塩基配列を説明するために「所定の塩基配列」と称する)に加えて、1つ以上の制限酵素認識部位を含むクローニングサイト、Clontech社のIn-FusionクローニングシステムやNew England Biolabs社のGibson Assembly システム等を利用するためのオーバーラップ領域、外来遺伝子又は内在性遺伝子の塩基配列、選択マーカー遺伝子(栄養要求性相補遺伝子、薬剤耐性遺伝子等)の塩基配列等を含むことができる。本発明のベクターは更に、宿主に応じて、自律複製配列(Autonomous replication sequence)(ARS)、セントロメアDNA配列、テロメアDNA配列を含むこともできる。
【0046】
上記の所定の塩基配列は発現カセットに挿入された形態でベクター中に含めることができる。「発現カセット」とは、上記の所定の塩基配列を含み、それをポリペプチドとして発現可能な状態にすることのできる発現システムをいう。「発現可能な状態」とは、当該発現カセットに含まれる上記の所定の塩基配列が、形質転換体内で発現可能なように、遺伝子発現に必要なエレメントの制御下に配置されている状態をいう。遺伝子発現に必要なエレメントには、プロモーター、ターミネーター等が挙げられる。本発明のベクターは環状ベクター、直鎖状ベクター、人工染色体等であることができる。
【0047】
ここで、「プロモーター」とは、上記の所定の塩基配列の上流に位置する塩基配列領域をいい、RNAポリメラーゼのほか、転写の促進や抑制に関わる様々な転写調節因子が該領域に結合又は作用することによって鋳型である上記の所定の塩基配列を読み取って相補的なRNAを合成(転写)する。
【0048】
ポリペプチドを発現させるプロモーターは、選択した炭素源にて発現が起こりうるプロモーターを適切に使用すればよく、特に限定されない。
【0049】
炭素源がメタノールの場合、ポリペプチドを発現させるプロモーターは、AOX1プロモーター、AOX2プロモーター、CATプロモーター、DHASプロモーター、FDHプロモーター、FMDプロモーター、GAPプロモーター、MOXプロモーター等が挙げられるが、特にこれらに限定されない。
【0050】
炭素源がグルコースやグリセロールの場合、ポリペプチドを発現させるプロモーターは、GAPプロモーター、TEFプロモーター、LEU2プロモーター、URA3プロモーター、ADEプロモーター、ADH1プロモーター、PGK1プロモーター等が挙げられるが、特にこれらに限定されない。
【0051】
本発明のベクターは、通常は、上記の所定の塩基配列を含む核酸断片、或いは上記の所定の塩基配列からなる核酸断片が、その両端又は一端に、例えば制限酵素認識部位を介して、1又は複数の、上記で挙げたような他の機能的核酸断片と連結されて構成される。
【0052】
本発明のベクターの範囲には、上記のクローニングサイト、オーバーラップ領域、外来遺伝子又は内在性遺伝子の塩基配列、選択マーカー遺伝子の塩基配列、ARS、セントロメアDNA配列等が既に付加されている形態だけでなく、これらの配列を付加可能な形態(例えば、これらの配列を付加可能な1つ以上の制限酵素認識部位を含むクローニングサイトを含む形態)の核酸分子も包含される。
【0053】
本発明のベクターの作製方法は特に限定されないが、例えば全合成法、PCR法、Clontech社のIn-FusionクローニングシステムやNew England Biolabs社のGibson Assembly システム等を使用することができる。
【0054】
ベクターを宿主細胞へ導入する方法、すなわち形質転換法は公知の方法を適宜用いることができ、例えば宿主として酵母細胞を用いる場合、エレクトロポレーション法、酢酸リチウム法、スフェロプラスト法等が挙げられるが特にこれらに限定されるものではない。例えば、コマガタエラ・パストリスの形質転換法としては、High efficiency transformation by electroporation of Pichia pastoris pretreated with lithiumacetate and dithiothreitol(Biotechniques. 2004 Jan;36(1):152-4.)に記載されているエレクトロポレーション法が一般的である。
【0055】
本明細書において、宿主細胞からのタンパク質の分泌量の増加は、親細胞又は野生型株におけるタンパク質の分泌量に対して、例えば1.01倍、1.02倍、1.03倍、1.04倍、1.05倍、1.1倍、1.2倍、1.3倍、1.4倍、1.5倍、1.6倍、1.7倍、1.8倍、1.9倍、2倍、2.5倍、3倍、3.5倍、4倍、4.5倍、又は5倍以上、また100倍、90倍、80倍、70倍、60倍、50倍、40倍、30倍、20倍、10倍、9倍、8倍、7倍、6倍、又は5倍以下であってよい。細胞からの全タンパク質の分泌量は、細胞の培養上清等を用いて、当業者に公知の方法、例えばBladford法、Lowry法、及びBCA法等により容易に決定することができる。細胞からの特定のタンパク質の分泌量は、細胞の培養上清等を用いて、ELISA法等により容易に決定することができる。
【0056】
本明細書において、「親細胞」、「野生型株」、又は「導入前の宿主細胞」とは、上記(a)〜(h)及び(a')〜(h')のいずれかに示す塩基配列を含む遺伝子の発現を変化させるような処理を施していない宿主細胞又は株を意味する。したがって、本明細書に記載の「親細胞」、「野生型株」、又は「導入前の宿主細胞」には、上記(a)〜(h)及び(a')〜(h')のいずれかに示す塩基配列を含む遺伝子以外の遺伝子を改変した宿主細胞又は株も含まれる。
【0057】
本明細書において、分泌量を増加させる「目的タンパク質」は、宿主の内在性タンパク質であってもよいし、異種タンパク質又は外来タンパク質であってもよい。本明細書において、「内在性タンパク質」とは、遺伝子改変を行っていない宿主細胞が培養の間に産生するタンパク質をいう。これに対し、本明細書において「異種タンパク質」又は「外来タンパク質」とは、遺伝子改変を行っていない宿主細胞が通常発現しないか、あるいは発現してもその発現量又は分泌量が十分でないタンパク質をいう。
【0058】
一態様において、本発明は、上記のベクターからなるタンパク質分泌増強剤に関する。本明細書において、タンパク質分泌増強剤とは、宿主細胞に導入した際に、宿主細胞からのタンパク質の分泌量を増加させる物質を意味する。
【0059】
一実施形態において、本発明は上記ベクター又はタンパク質分泌増強剤を含む、宿主細胞のタンパク質分泌量を増加させるための組成物に関する。本発明の組成物は、上記ベクター又はタンパク質分泌増強剤に加えて、当業者に公知の賦形剤、担体、結合剤、崩壊剤、緩衝剤、及び溶媒等を含んでもよい。
【0060】
一態様において、本発明は、上記ベクターの、タンパク質分泌増強における使用に関する。
【0061】
本発明のポリペプチドを発現するためのベクターは、産業利用目的での宿主改良等の各種用途に有用である。
【0062】
3.変異株細胞及びベクターを含む細胞
一態様において、本発明は、上記(a)〜(h)及び(a')〜(h')のいずれかに示す塩基配列を含む遺伝子の発現が増加し、タンパク質の分泌量が増加している、変異株細胞に関する。本発明の変異株細胞は上記の(a)〜(h)に示す塩基配列を含む遺伝子の発現が、2以上組み合わせて増加していてもよい。組み合わせの数の例として、例えば3以上、4以上、5以上、6以上、7以上、8以上、9以上、又は10以上が挙げられる。例えば、本発明の変異株細胞は、上記(a)の配列、すなわち配列番号113、108〜112、及び114〜120のいずれかに示すアミノ酸配列をコードする塩基配列、又はこれらのいずれかと等価な配列を含む遺伝子の発現が、2以上組み合わせて増加していてもよい。したがって、本発明の変異株細胞は、上記(a)に示す配列を含む遺伝子の2以上の組み合わせ、上記(b)に示す配列を含む遺伝子の2以上の組み合わせ、上記(c)に示す配列を含む遺伝子の2以上の組み合わせ、又は上記(d)に示す配列を含む遺伝子の2以上の組み合わせの発現が増加したものであってよい。同様に、本発明の変異株細胞は、上記(e)の配列、すなわち配列番号100、95〜99、及び101〜107のいずれかに示すアミノ酸配列をコードする塩基配列、又はこれらのいずれかと等価な配列を含む遺伝子の発現が2以上組み合わせて増加していてもよい。したがって、本発明の変異株細胞は、上記(e)に示す配列を含む遺伝子の2以上の組み合わせ、上記(f)に示す配列を含む遺伝子の2以上の組み合わせ、上記(g)に示す配列を含む遺伝子の2以上の組み合わせ、又は上記(h)に示す配列を含む遺伝子の2以上の組み合わせの発現が増加したものであってよい。本発明の変異株細胞は、例えば配列番号113、108、及び109のいずれかに示すアミノ酸配列をコードする塩基配列、又はこれらのいずれかと等価な配列を含む遺伝子の発現が2以上組み合わせて増加していてよい。本発明の変異株細胞は、好ましくは、配列番号100、95、96のいずれかに示すアミノ酸配列をコードする塩基配列、又はこれらのいずれかと等価な配列を含む遺伝子の発現が2以上組み合わせて増加している。
【0063】
また、本発明の変異株細胞は、上記の(a')〜(h')に示す塩基配列含む遺伝子の発現が2以上組み合わせて増加していてもよい。組み合わせの数の例として、例えば3以上、4以上、5以上、6以上、7以上、8以上、9以上、又は10以上が挙げられる。例えば、本発明の変異株細胞は、上記(a')の配列、すなわち配列番号75、65、67、69、71、73、77、79、81、83、85、87、及び89のいずれかに示す塩基配列、又はこれらのいずれかと等価な配列を含む遺伝子の発現が、2以上組み合わせて増加していてもよい。したがって、本発明の変異株細胞は、上記(a')に示す配列を含む遺伝子の2以上の組み合わせ、上記(b')に示す配列を含む遺伝子の2以上の組み合わせ、上記(c')に示す配列を含む遺伝子の2以上の組み合わせ、又は上記(d')に示す配列を含む遺伝子の2以上の組み合わせの発現が増加したものであってよい。同様に、本発明の変異株細胞は、上記(e')の配列、すなわち配列番号39、24、27、30、33、36、42、45、48、51、54、57、及び60のいずれかに示す塩基配列、又はこれらのいずれかと等価な配列を含む遺伝子の発現が2以上組み合わせて増加していてもよい。したがって、本発明の変異株細胞は、上記(e')に示す配列を含む遺伝子の2以上の組み合わせ、上記(f')に示す配列を含む遺伝子の2以上の組み合わせ、上記(g')に示す配列を含む遺伝子の2以上の組み合わせ、又は上記(h')に示す配列を含む遺伝子の2以上の組み合わせの発現が増加したものであってよい。本発明の変異株細胞は、例えば配列番号75、65、及び67のいずれかに示す塩基配列、又はこれらのいずれかと等価な配列を含む遺伝子の発現が2以上組み合わせて増加していてよい。本発明の変異株細胞は、好ましくは、配列番号39、24、27のいずれかに示す塩基配列、又はこれらのいずれかと等価な配列を含む遺伝子の発現が2以上組み合わせて増加している。
【0064】
本発明の変異株細胞は、親細胞又は野生型株に対して、上記遺伝子の発現が増加し、かつタンパク質の分泌量が増加している。
【0065】
遺伝子の発現量の増加は、親細胞又は野生型株における遺伝子の発現量に対して、例えば1.01倍、1.02倍、1.03倍、1.04倍、1.05倍、1.1倍、1.2倍、1.3倍、1.4倍、1.5倍、1.6倍、1.7倍、1.8倍、1.9倍、2倍、2.5倍、3倍、3.5倍、4倍、4.5倍、又は5倍以上、また100倍、90倍、80倍、70倍、60倍、50倍、40倍、30倍、20倍、10倍、9倍、8倍、7倍、6倍、又は5倍以下であってよい。遺伝子の発現量は、当業者に公知の方法、例えばRT-PCR法及びReal-time PCR法等により容易に決定することができる。
【0066】
本発明の変異株細胞は、当業者に公知の方法、例えば紫外線照射又はN-メチル-N'-ニトロソグアニジン等の化学変異剤による処理を行なった後、上記(a)〜(h)及び(a')〜(h')のいずれかに示す塩基配列を含む遺伝子の発現量が増加した細胞をスクリーニングすることにより得ることができる。また、本発明の変異株細胞は、宿主細胞に対して上記のベクターを形質転換することにより得ることもできる。また、本発明の変異株細胞は、上記(a)〜(h)及び(a')〜(h')のいずれかに示す塩基配列を含む遺伝子以外の遺伝子を破壊又は高発現することによって上記(a)〜(h)及び(a')〜(h')のいずれかに示す塩基配列を含む遺伝子の発現量が増加した細胞をスクリーニングすることにより得ることができる。
【0067】
一実施形態において、本発明は、上記2に記載の本発明のベクターを含む細胞に関する。本発明の細胞は、例えば宿主細胞に対して上記のベクターを形質転換することにより得られる形質転換体であってよい。形質転換の方法は上記2において記載した通りである。
【0068】
形質転換を行った後、形質転換体を選択するための選択マーカーは特に限定されない。例えば宿主細胞として酵母を用いる場合は、選択マーカー遺伝子としてURA3遺伝子、LEU2遺伝子、ADE1遺伝子、HIS4遺伝子、ARG4遺伝子等の栄養要求性相補遺伝子を含むベクターを用い、それぞれウラシル、ロイシン、アデニン、ヒスチジン、アルギニンの栄養要求性株を宿主として形質転換を行い、原栄養株表現型の回復により形質転換体を選択することができる。また、選択マーカー遺伝子としてG418耐性遺伝子、Zeocin(商標)耐性遺伝子、ハイグロマイシン耐性遺伝子等の薬剤耐性遺伝子を含むベクターを用いる場合、それぞれG418、Zeocin(商標)、ハイグロマイシンを含む培地上における耐性により形質転換体を選択することができる。なお、酵母宿主を作製するときに用いる栄養要求性選択マーカーは、宿主において該選択マーカーが破壊されていない場合は、用いることができない。この場合、宿主において該選択マーカーを破壊すればよく、方法は当業者には公知の方法を用いることができる。
【0069】
本発明の細胞は、ベクターを形質転換した形質転換体であってもよいし、該形質転換体の後代細胞であってもよい。形質転換体の1細胞に導入されるベクターのコピー数は特に限定されない。1細胞あたり1コピーでも良いし、2コピー以上の多コピー体として存在していてもよい。1コピー体は環状ベクター、直鎖状ベクター、人工染色体として存在する状態でもよいし、宿主由来の染色体に組み込まれた状態でもよい。2コピー以上の多コピー体は、全て環状ベクター、直鎖状ベクター、人工染色体として存在する状態でもよいし、全て宿主由来の染色体に組み込まれた状態でもよいし、両方の状態が同時に起こっていてもよい。2コピー以上の多コピー体とは、同一のベクターを2コピー以上保有する多コピー体であっても、異なるベクターを1コピー以上保有する多コピー体であってもよい。例えば、本発明の細胞は、上記(a)〜(h)及び(a')〜(h')のいずれかに示す塩基配列を含む異なる2以上のベクターを組み合わせて保有し、それによって上記(a)〜(h)及び(a')〜(h')のいずれかに示す塩基配列を含む遺伝子の発現が、上記の通り組み合わせて増加しているものであってよい。
【0070】
一態様において、本発明は、宿主細胞に上記2に記載の本発明のベクター又はタンパク質分泌増強剤を細胞に導入する工程を含む、タンパク質の分泌量が導入前の宿主細胞に比べて増加している変異株を作製する方法に関する。
【0071】
4.目的タンパク質の製造方法
一態様において、本発明は、上記3に記載の細胞を培養する工程、培養液から目的タンパク質を回収する工程を含む、目的タンパク質の生産方法に関する。
【0072】
ここで、「培養液」とは、培養上清のほか、培養細胞、培養菌体、又は細胞もしくは菌体の破砕物を意味する。よって、本発明の形質転換酵母を用いて目的タンパク質を生産する方法としては、上記3に記載の細胞を培養し、その菌体中又は培養上清中、好ましくは培養上清中に蓄積させる方法が挙げられる。
【0073】
細胞の培養条件は特に限定されず、細胞に応じて適宜選択すればよい。該培養においては、細胞が資化しうる栄養源を含む培地であれば何でも使用できる。該栄養源としては、グルコース、シュークロース、マルトース等の糖類、乳酸、酢酸、クエン酸、プロピオン酸等の有機酸類、メタノール、エタノール、グリセロール等のアルコール類、パラフィン等の炭化水素類、大豆油、菜種油等の油類、又はこれらの混合物等の炭素源、硫酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、尿素、酵母エキス、肉エキス、ペプトン、コーンスチープリカー等の窒素源、更に、その他の無機塩、ビタミン類等の栄養源を適宜混合・配合した通常の培地を用いることができる。また、培養はバッチ培養や連続培養のいずれでも可能である。
【0074】
本発明の好ましい態様として、酵母にコマガタエラ属酵母又はオガタエア属酵母を用いた場合、上記炭素源は、グルコース、グリセロール、メタノールの1種でもよく、又は2種以上であってもよい。また、これらの炭素源は培養初期から存在していてもよいし、培養途中に添加してもよい。
【0075】
「目的タンパク質」とは、本発明のベクターが導入された細胞が生産するタンパク質であって、宿主の内在性タンパク質であってもよいし、異種タンパク質であってもよい。目的タンパク質の例として、微生物由来の酵素類、多細胞生物である動物や植物が産生するタンパク質等が挙げられる。例えば、フィターゼ、プロテインA、プロテインG、プロテインL、アミラーゼ、グルコシダーゼ、セルラーゼ、リパーゼ、プロテアーゼ、グルタミナーゼ、ペプチダーゼ、ヌクレアーゼ、オキシダーゼ、ラクターゼ、キシラナーゼ、トリプシン、ペクチナーゼ、イソメラーゼ、及び蛍光タンパク質等が挙げられるが、これらに限定はされない。特に、ヒト及び/又は動物治療用タンパク質が好ましい。
【0076】
ヒト及び/又は動物治療用タンパク質として、具体的には、B型肝炎ウイルス表面抗原、ヒルジン、抗体、ヒト抗体、部分抗体、ヒト部分抗体、血清アルブミン、ヒト血清アルブミン、上皮成長因子、ヒト上皮成長因子、インシュリン、成長ホルモン、エリスロポエチン、インターフェロン、血液凝固第VIII因子、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)、トロンボポエチン、IL-1、IL-6、組織プラスミノーゲン活性化因子(TPA)、ウロキナーゼ、レプチン、及び幹細胞成長因子(SCF)等が挙げられる。
【0077】
ここで「抗体」とは、L鎖とH鎖の各2本のポリペプチド鎖がジスルフィド結合して構成されるヘテロテトラマータンパク質のことを指し、特定の抗原に結合する能力を有していれば、特に限定されない。
【0078】
ここで「部分抗体」とは、Fab型抗体、(Fab)2型抗体、scFv型抗体、diabody型抗体や、これらの誘導体等のことを指し、特定の抗原に結合する能力を有していれば、特に限定されない。Fab型抗体とは、抗体のL鎖とFd鎖がS-S結合で結合したヘテロマータンパク質、又は抗体のL鎖とFd鎖がS-S結合を含まず会合したヘテロマータンパク質のことを指し、特定の抗原に結合する能力を有していれば、特に限定されない。
【0079】
上記目的タンパク質を構成するアミノ酸は天然のものでもよいし、非天然のものでもよいし、修飾を受けていてもよい。また、タンパク質のアミノ酸配列は、人為的な改変が施されていてもよいし、de-novoで設計されたものでもよい。
【0080】
本発明のベクターを細胞に導入することによって得られた形質転換体を培養することで宿主中又は培養液中に目的タンパク質を蓄積させ、回収することができる。目的タンパク質の回収方法については、公知の精製法を適当に組み合わせて用いることができる。例えば、まず、当該形質転換酵母を適当な培地で培養し、培養液の遠心分離、あるいは、濾過処理により培養上清から菌体を除く。得られた培養上清を、塩析(硫酸アンモニウム沈殿、リン酸ナトリウム沈殿等)、溶媒沈殿(アセトン又はエタノール等による蛋白質分画沈殿法)、透析、ゲル濾過クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、疎水クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー、限外濾過等の手法を単独で、又は組み合わせて用いることにより、該培養上清から目的タンパク質を回収する。
【0081】
細胞の培養は通常一般の条件により行なうことができ、例えば、酵母の場合、pH2.5〜10.0、温度範囲10℃〜48℃の範囲で、好気的に10時間〜10日間培養することにより行うことができる。
【0082】
回収された目的タンパク質は、そのまま使用することもできるが、その後PEG化等の薬理学的な変化をもたらす修飾、酵素やアイソトープ等の機能を付加する修飾を加えて使用することもできる。また、各種の製剤化処理を使用してもよい。
【0083】
分泌性でない目的タンパク質を菌体外に分泌させる場合には、該目的タンパク質遺伝子の5'末端にシグナル配列をコードする塩基配列を導入すればよい。シグナル配列をコードする塩基配列は、酵母が分泌発現できるシグナル配列をコードする塩基配列であれば特に限定されないが、サッカロマイセス・セレビシエのMating Factor α(MFα)やオガタエア・アングスタの酸性ホスファターゼ(PHO1)、コマガタエラ・パストリスの酸性ホスファターゼ(PHO1)、サッカロマイセス・セレビシエのインベルターゼ(SUC2)、サッカロマイセス・セレビシエのPLB1、牛血清アルブミン(BSA)、ヒト血清アルブミン(HSA)、及び免疫グロブリンのシグナル配列をコードする塩基配列等が挙げられる。
【0084】
本発明における目的タンパク質のプロモーターは、形質転換体内において目的タンパク質を発現、好ましくは高発現させるプロモーターであれば特に限定されない。好ましくはメタノール誘導性プロモーターである。メタノール誘導性プロモーターは、炭素源がメタノールの際に転写活性を有するプロモーターであれば特に制限されないが、好ましくはAOX1プロモーター、AOX2プロモーター、CATプロモーター、DHASプロモーター、FDHプロモーター、FMDプロモーター、GAPプロモーター、及びMOXプロモーター等が挙げられる。
【0085】
ポリペプチドの高発現は、染色体上及び/又はベクター上のポリペプチドをコードする塩基配列の発現誘導の他、染色体上及び/又はベクター上のポリペプチドをコードする塩基配列の改変(コピー数の増加やプロモーターの挿入、コドン改変等)、ポリペプチドをコードする塩基配列の宿主細胞への導入、宿主細胞への変異導入によるポリペプチド高発現株の取得等、公知の手法により達成し得る。
【0086】
染色体上のポリペプチドをコードする塩基配列の改変は、宿主染色体について相同組換えを利用した遺伝子の挿入や部位特異的変異導入の手法を使用して実施することができる。例えば、コピー数増加のためポリペプチドをコードする塩基配列の染色体への導入や、プロモーターのより強力なプロモーターへの置換、ポリペプチドをコードする塩基配列の宿主細胞に適したコドンへの改変等によって実施できる。
【0087】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらにより限定されるものではない。
【実施例】
【0088】
<実施例1:ベクターの調製に用いた各種遺伝子の調製>
以下の実施例において用いた組換えDNA技術に関する詳細な操作方法等は、次の成書に記載されている:Molecular Cloning 2nd Edition(Cold Spring Harbor Laboratory Press,1989)、Current Protocols in Molecular Biology(Greene Publishing Associates and Wiley-Interscience)。
【0089】
また、以下の実施例において、酵母の形質転換に用いるプラスミドは、構築したベクターを大腸菌E.coli DH5αコンピテントセル(タカラバイオ社製)に導入し、得られた形質転換体を培養して増幅することによって調製した。プラスミド保持株からのプラスミドの調製は、QIAprep spin miniprep kit(QIAGEN社製)を用いて行った。
【0090】
ベクターの構築において利用したAOX1プロモーター(配列番号2)、AOX1ターミネーター(配列番号5)、HIS4配列(配列番号8)、GAPプロモーター(配列番号15)、ACCESSION No. CCA36173で示されるポリペプチドをコードする塩基配列(配列番号24)、ACCESSION No. CCA37695で示されるポリペプチドをコードする塩基配列(配列番号27)、ACCESSION No. CCA41161で示されるポリペプチドをコードする塩基配列(配列番号30)、ACCESSION No. CCA41167で示されるポリペプチドをコードする塩基配列(配列番号33)、ACCESSION No. CCA37701で示されるポリペプチドをコードする塩基配列(配列番号36)、ACCESSION No. CCA40175で示されるポリペプチドをコードする塩基配列(配列番号39)、ACCESSION No. CCA37509で示されるポリペプチドをコードする塩基配列(配列番号42)、ACCESSION No. CCA38967で示されるポリペプチドをコードする塩基配列(配列番号45)、ACCESSION No. CCA37504で示されるポリペプチドをコードする塩基配列(配列番号48)、CCA38473ターミネーター(配列番号21)はコマガタエラ・パストリスATCC76273株の染色体DNA(塩基配列はEMBL (The European Molecular Biology Laboratory) ACCESSION No. FR839628〜FR839631に記載)混合物をテンプレートにしてPCRで調製した。AOX1プロモーターはプライマー1(配列番号3)及びプライマー2(配列番号4)、AOX1ターミネーターはプライマー3(配列番号6)及びプライマー4(配列番号7)、HIS4配列はプライマー5(配列番号9)及びプライマー6(配列番号10)、GAPプロモーターはプライマー9(配列番号16)及びプライマー10(配列番号17)、CCA38473ターミネーターはプライマー13(配列番号22)及びプライマー14(配列番号23)、を用いてPCRで調製した。
【0091】
ベクターの構築において利用した、プロモーターで制御されたZeocin(商標)耐性遺伝子(配列番号18)は合成DNAをテンプレートにしてPCRで調製した。ベクターの構築において利用した、Mating Factorαプレプロシグナル配列が付与された抗βガラクトシダーゼ一本鎖抗体遺伝子(配列番号11)は公開配列情報(J Mol Biol. 1998 Jul 3;280(1):117-27.)に基づいて合成DNAをテンプレートにしてPCRで調製した。ベクターの構築において利用した、ACCESSION No. CAY67126で示されるポリペプチドをコードする塩基配列(配列番号51)、ACCESSION No. CAY68445で示されるポリペプチドをコードする塩基配列(配列番号54)、ACCESSION No. CAY68608で示されるポリペプチドをコードする塩基配列(配列番号57)、ACCESSION No. CAY71233で示されるポリペプチドをコードする塩基配列(配列番号60)は合成DNAをテンプレートにしてPCRで調製した。
【0092】
PCRにはPrime STAR HS DNA Polymerase(タカラバイオ社製)等を用い、反応条件は添付のマニュアルに記載の方法で行った。染色体DNAの調製は、コマガタエラ・パストリスATCC76273株からGenとるくん(商標)(タカラバイオ社製)等を用いて、これに記載の条件で実施した。
【0093】
<実施例2:抗βガラクトシダーゼ一本鎖抗体発現ベクターの構築>
HindIII-BamHI-BglII-XbaI-EcoRIのマルチクローニングサイトをもつ遺伝子断片(配列番号1)を全合成し、これをpUC19(タカラバイオ社製、Code No. 3219)のHindIII-EcoRIサイト間に挿入して、pUC-1を構築した。
【0094】
また、AOX1プロモーター(配列番号2)の両側にBamHI認識配列を付加した核酸断片を、プライマー1(配列番号3)及び2(配列番号4)を用いたPCRにより調製し、BamHI処理後にpUC-1のBamHIサイトに挿入して、pUC-Paoxを構築した。
【0095】
次に、AOX1ターミネーター(配列番号5)の両側にXbaI認識配列を付加した核酸断片を、プライマー3(配列番号6)及び4(配列番号7)を用いたPCRにより調製し、XbaI処理後にpUC-PaoxのXbaIサイトに挿入して、pUC-PaoxTaoxを構築した。
【0096】
次に、HIS4配列(配列番号8)の両側にEcoRI認識配列を付加した核酸断片を、プライマー5(配列番号9)及び6(配列番号10)を用いたPCRにより調製し、EcoRI処理後にpUC-PaoxTaoxのEcoRIサイトに挿入して、pUC-PaoxTaoxHIS4を構築した。
【0097】
次に、Mating Factorαプレプロシグナル配列が付与された抗βガラクトシダーゼ一本鎖抗体遺伝子(配列番号11)の両側にBglII認識配列を付加した核酸断片を、プライマー7(配列番号12)及び8(配列番号13)を用いたPCRにより調製し、BglII処理後にpUC-PaoxTaoxHIS4のBglIIサイトに挿入して、pUC-PaoxscFvTaoxHIS4を構築した。このpUC-PaoxscFvTaoxHIS4は、抗βガラクトシダーゼ一本鎖抗体がAOX1プロモーター制御下で発現するように設計されている。
【0098】
<実施例3:ポリペプチド発現ベクターの構築>
HindIII-BamHI-SpeI-XbaI-EcoRIのマルチクローニングサイトをもつ遺伝子断片(配列番号14)を全合成し、これをpUC19(タカラバイオ社製、Code No.3219)のHindIII-EcoRIサイト間に挿入して、pUC-2を構築した。
【0099】
また、GAPプロモーター(配列番号15)の両側にBamHI認識配列を付加した核酸断片を、プライマー9(配列番号16)及び10(配列番号17)を用いたPCRにより調製し、BamHI処理後にpUC-2のBamHIサイトに挿入して、pUC-Pgapを構築した。
【0100】
次に、プロモーターで制御されたZeocin(商標)耐性遺伝子(配列番号18)の両側にEcoRI認識配列を付加した核酸断片を、プライマー11(配列番号19)及び12(配列番号20)を用いたPCRにより調製し、EcoRI処理後にpUC-PgapのEcoRIサイトに挿入して、pUC-PgapZeoを構築した。
【0101】
次に、CCA38473ターミネーター(配列番号21)の両側にXbaI認識配列を付加した核酸断片を、プライマー13(配列番号22)及び14(配列番号23)を用いたPCRにより調製し、XbaI処理後にpUC-PgapZeoのXbaIサイトに挿入して、pUC-PgapT38473Zeoを構築した。
【0102】
次に、表1に記載の新規ポリペプチドをコードする塩基配列をコマガタエラ・パストリスATCC76273株の染色体DNA(塩基配列はEMBL (The European Molecular Biology Laboratory) ACCESSION No. FR839628〜FR839631に記載)混合物又は合成DNAをテンプレートにしてPCRで調製した。新規ポリペプチドのACCESSION No.、新規ポリペプチドのアミノ酸配列、新規ポリペプチドをコードする塩基配列、核酸断片の増幅に用いたプライマー(Fw及びRev)の番号及び配列、テンプレートを以下の表1に示す。
【0103】
【表1】
【0104】
これらの各核酸断片は新規ポリペプチドをコードする塩基配列の上流にオーバーラップ領域としてGAPプロモーター配列、下流にオーバーラップ領域としてCCA38473ターミネーター配列が付加されている。
【0105】
pUC-PgapT38473ZeoをSpeI処理後にGAPプロモーターのReプライマー(プライマー41(配列番号63))及びCCA38473ターミネーターのFwプライマー(プライマー42(配列番号64))を用いたPCRにより核酸断片を調製し、上記PCRにより調製された新規ポリペプチドをコードする塩基配列の核酸断片と混合し、New England Biolabs社のGibson Assembly システムを用いて繋ぎ合わせて、pUC-PgapCCA36173T38473Zeo、pUC-PgapCCA37695T38473Zeo、pUC-PgapCCA41161T38473Zeo、pUC-PgapCCA41167T38473Zeo、pUC-PgapCCA37701T38473Zeo、pUC-PgapCCA40175T38473Zeo、pUC-PgapCCA37509T38473Zeo、pUC-PgapCCA38967T38473Zeo、pUC-PgapCCA37504T38473Zeo、pUC-PgapCAY67126T38473Zeo、pUC-PgapCAY68445T38473Zeo、pUC-PgapCAY68608T38473Zeo、pUC-PgapCAY71233T38473Zeoを構築した。これらのベクターは、各ポリペプチドがGAPプロモーター制御下で発現するように設計されている。
【0106】
<実施例4: 形質転換酵母の取得>
実施例2で構築した抗βガラクトシダーゼ一本鎖抗体発現ベクターpUC-PaoxscFvTaoxHIS4及び実施例3で構築したポリペプチド発現ベクターを用いて、以下のようにコマガタエラ・パストリスを形質転換した。
【0107】
コマガタエラ・パストリスATCC76273株由来ヒスチジン要求性株を3mlのYPD培地(1% yeast extract bacto(Becton Dickinson社製)、2% polypeptone(日本製薬社製)、2% glucose)に接種し、30℃で一晩振盪培養して、前培養液を得た。得られた前培養液500μlを50mlのYPD培地に接種し、OD600が1〜1.5になるまで振盪培養後、集菌(3000×g、10分、20℃)し、250μlの1M DTT(終濃度25mM)を含む10mlの50mMリン酸カリウムバッファー, pH7.5に再懸濁した。
【0108】
この懸濁液を30℃で15分インキュベート後、集菌(3000×g、10分、20℃)し、予め氷冷した50mlのSTMバッファー(270mMスクロース、10mM Tris-HCl、1mM塩化マグネシウム、pH7.5)で洗浄した。洗浄液を集菌(3000×g、10分、4℃)し、25 mlのSTMバッファーで再度洗浄したのち、集菌(3000×g、10分、4℃)した。最終的に、250μlの氷冷STMバッファーに懸濁し、これをコンピテントセル溶液とした。
【0109】
実施例2で構築した抗βガラクトシダーゼ一本鎖抗体発現ベクターpUC-PaoxscFvTaoxHIS4を用いて大腸菌を形質転換し、得られた形質転換体を5mlのアンピシリン含有2YT培地(1.6% tryptone bacto(Becton Dickinson社製)、1% yeast extract bacto(Becton Dickinson社製)、0.5% 塩化ナトリウム、0.01%アンピシリンナトリウム(和光純薬工業社製))で培養し、得られた菌体からQIAprep spin miniprep kit(QIAGEN社製)を用いて、pUC-PaoxscFvTaoxHIS4を取得した。本プラスミドをAOX1プロモーター内のSacI認識配列を利用して、SacI処理により直鎖状にした。
【0110】
このコンピテントセル溶液60μlと直鎖状のpUC-PaoxscFvTaoxHIS4溶液1μlを混合し、エレクトロポレーション用キュベット(ディスポキュベット電極、電極間隔2mm(ビーエム機器社製))に移し入れ、7.5kV/cm、25μF、200Ωに供した後、菌体を1mlのYPD培地で懸濁し、30℃で1時間静置した。1時間静置後、集菌(3000×g、5分、20℃)し、1mlのYNB培地(0.67% yeast nitrogen base Without Amino Acid(Becton Dickinson社製))に懸濁後、再度集菌(3000×g、5分、20℃)した。菌体を適当量のYNB培地で再懸濁後、YNB選択寒天プレート(0.67% yeast nitrogen base Without Amino Acid(Becton Dickinson社製)、1.5%アガロース、2% glucose)に塗布し、30℃、3日間の静置培養で生育する株を選択し、抗βガラクトシダーゼ一本鎖抗体発現酵母を取得した。
【0111】
続いて、コマガタエラ・パストリスATCC76273株及び、抗βガラクトシダーゼ一本鎖抗体発現酵母を3mlのYPD培地(1% yeast extract bacto(Becton Dickinson社製)、2% polypeptone(日本製薬社製)、2% glucose)に接種し、30℃で一晩振盪培養して、前培養液を得た。得られた前培養液500μlを50mlのYPD培地に接種し、OD600が1〜1.5になるまで振盪培養後、集菌(3000×g、10分、20℃)し、250μlの1M DTT(終濃度25mM)を含む10mlの50mMリン酸カリウムバッファー, pH7.5に再懸濁した。
【0112】
この懸濁液を30℃で15分インキュベート後、集菌(3000×g、10分、20℃)し、予め氷冷した50mlのSTMバッファー(270mMスクロース、10mM Tris-HCl、1mM塩化マグネシウム、pH7.5)で洗浄した。洗浄液を集菌(3000×g、10分、4℃)し、25 mlのSTMバッファーで再度洗浄したのち、集菌(3000×g、10分、4℃)した。最終的に、250μlの氷冷STMバッファーに懸濁し、これをコンピテントセル溶液とした。
【0113】
実施例3で構築したポリペプチド発現ベクターを用いて大腸菌を形質転換し、得られた形質転換体を5mlのアンピシリン含有2YT培地(1.6% tryptone bacto(Becton Dickinson社製)、1% yeast extract bacto(Becton Dickinson社製)、0.5% 塩化ナトリウム、0.01%アンピシリンナトリウム(和光純薬工業社製))で培養し、得られた菌体からQIAprep spin miniprep kit(QIAGEN社製)を用いて、各ポリペプチド発現ベクターを取得した。本プラスミドをCCA38473ターミネーター内のNruI認識配列を利用して、NruI処理により直鎖状にした。
【0114】
このコンピテントセル溶液60μlと直鎖状のポリペプチド発現ベクター溶液1μlを混合し、エレクトロポレーション用キュベット(ディスポキュベット電極、電極間隔2mm(ビーエム機器社製))に移し入れ、7.5kV/cm、25μF、200Ωに供した後、菌体を1mlのYPD培地で懸濁し、30℃で1時間静置した。1時間静置後、集菌(3000×g、5分、20℃)し、上清961μlを廃棄した。残った溶液100μlで再懸濁し、YPDZeocin(商標)選択寒天プレート(1% yeast extract bacto(Becton Dickinson社製)、2% polypeptone(日本製薬社製)、2% glucose、1.5%アガロース、0.01%Zeocin(商標)(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製))に100μl塗布し、30℃、3日間の静置培養で生育する株を選択し、ポリペプチドを発現する酵母、及び抗βガラクトシダーゼ一本鎖抗体とポリペプチドの両方を発現する酵母を取得した。
【0115】
<実施例5: C末端欠損ポリペプチド発現ベクターの構築>
C末端が欠損したポリペプチドをコードする塩基配列を、実施例3で構築したポリペプチド発現ベクターをテンプレートにしてPCRで調製した。
図1に、新規ポリペプチドのアミノ酸配列のアライメント、及び欠損させた比較的相同性の高いC末端領域を示す。C末端欠損ポリペプチドの名称、ポリペプチドのアミノ酸配列、ポリペプチドをコードする塩基配列、核酸断片の増幅に用いたプライマーの配列、テンプレートを以下の表2に示す。
【0116】
【表2】
【0117】
これらの各核酸断片はポリペプチドをコードする塩基配列の上流にオーバーラップ領域としてGAPプロモーター配列、下流にオーバーラップ領域としてCCA38473ターミネーター配列が付加されている。
【0118】
実施例3で構築したpUC-PgapT38473ZeoをSpeI処理後にGAPプロモーターのReプライマー(プライマー41(配列番号63))及びCCA38473ターミネーターのFwプライマー(プライマー42(配列番号64))を用いたPCRにより核酸断片を調製し、上記PCRにより調製されたC末端欠損ポリペプチドをコードする塩基配列の核酸断片と混合し、New England Biolabs社のGibson Assembly システムを用いて繋ぎ合わせて、pUC-PgapCCA36173CterdelT38473Zeo、pUC-PgapCCA37695CterdelT38473Zeo、pUC-PgapCCA41161CterdelT38473Zeo、pUC-PgapCCA41167CterdelT38473Zeo、pUC-PgapCCA37701CterdelT38473Zeo、pUC-PgapCCA40175CterdelT38473Zeo、pUC-PgapCCA37509CterdelT38473Zeo、pUC-PgapCCA38967CterdelT38473Zeo、pUC-PgapCCA37504CterdelT38473Zeo、pUC-PgapCAY67126CterdelT38473Zeo、pUC-PgapCAY68445CterdelT38473Zeo、pUC-PgapCAY68608CterdelT38473Zeo、pUC-PgapCAY71233CterdelT38473Zeoを構築した。これらのベクターは、各C末端欠損ポリペプチドがGAPプロモーター制御下で発現するように設計されている。
【0119】
<実施例6: 形質転換酵母の取得>
実施例4で取得した抗βガラクトシダーゼ一本鎖抗体発現酵母を3mlのYPD培地(1% yeast extract bacto(Becton Dickinson社製)、2% polypeptone(日本製薬社製)、2% glucose)に接種し、30℃で一晩振盪培養して、前培養液を得た。得られた前培養液500μlを50mlのYPD培地に接種し、OD600が1〜1.5になるまで振盪培養後、集菌(3000×g、10分、20℃)し、250μlの1M DTT(終濃度25mM)を含む10mlの50mMリン酸カリウムバッファー, pH7.5に再懸濁した。
【0120】
この懸濁液を30℃で15分インキュベート後、集菌(3000×g、10分、20℃)し、予め氷冷した50mlのSTMバッファー(270mMスクロース、10mM Tris-HCl、1mM塩化マグネシウム、pH7.5)で洗浄した。洗浄液を集菌(3000×g、10分、4℃)し、25 mlのSTMバッファーで再度洗浄したのち、集菌(3000×g、10分、4℃)した。最終的に、250μlの氷冷STMバッファーに懸濁し、これをコンピテントセル溶液とした。
【0121】
実施例5で構築したC末端欠損ポリペプチド発現ベクターの幾つかを任意に選択して大腸菌を形質転換し、得られた形質転換体を5mlのアンピシリン含有2YT培地(1.6% tryptone bacto(Becton Dickinson社製)、1% yeast extract bacto(Becton Dickinson社製)、0.5% 塩化ナトリウム、0.01%アンピシリンナトリウム(和光純薬工業社製))で培養し、得られた菌体からQIAprep spin miniprep kit(QIAGEN社製)を用いて、各C末端欠損ポリペプチド発現ベクターを取得した。本プラスミドをCCA38473ターミネーター内のNruI認識配列を利用してNruI処理により直鎖状にした。
【0122】
このコンピテントセル溶液60μlと直鎖状のC末端欠損ポリペプチド発現ベクター溶液1μlを混合し、エレクトロポレーション用キュベット(ディスポキュベット電極、電極間隔2mm(ビーエム機器社製))に移し入れ、7.5kV/cm、25μF、200Ωに供した後、菌体を1mlのYPD培地で懸濁し、30℃で1時間静置した。1時間静置後、集菌(3000×g、5分、20℃)し、上清961μlを廃棄した。残った溶液100μlで再懸濁し、YPDZeocin(商標)選択寒天プレート(1% yeast extract bacto(Becton Dickinson社製)、2% polypeptone(日本製薬社製)、2% glucose、1.5%アガロース、0.01%Zeocin(商標)(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製))に100μl塗布し、30℃、3日間の静置培養で生育する株を選択し、抗βガラクトシダーゼ一本鎖抗体とC末端欠損ポリペプチドの両方を発現する酵母を取得した。
【0123】
<実施例7:形質転換酵母の培養>
コマガタエラ・パストリスATCC76273株、実施例4及び実施例6で得られた抗βガラクトシダーゼ一本鎖抗体発現酵母、ポリペプチド発現酵母、抗βガラクトシダーゼ一本鎖抗体及びポリペプチド発現酵母、抗βガラクトシダーゼ一本鎖抗体及びC末端欠損ポリペプチド発現酵母を2mlのBMMY培地(1% yeast extract bacto(Becton Dickinson社製)、2% polypeptone(日本製薬社製)、0.34% yeast nitrogen base Without Amino Acid and Ammonium Sulfate(Becton Dickinson社製)、1% Ammonium Sulfate、0.4mg/l Biotin、100mM リン酸カリウム(pH6.0)、2% Methanol)に接種し、これを30℃、170rpm、72時間振盪培養後、遠心分離(12000rpm、5分、4℃)により培養上清を回収した。菌体濃度はOD600にて測定した。
【0124】
<実施例8:Bradford法による培養上清分泌タンパク質量の測定>
実施例7の培養上清への分泌タンパク質発現量は、Bradford法により以下に示す方法で行った。
【0125】
コマガタエラ・パストリスATCC76273株培養上清300μlとポリペプチド発現酵母培養上清300μlを遠心式フィルター(アミコンウルトラ(Amicon Ultra)-0.5、PLGC ウルトラセル(Ultracel)-10メンブレン、10 kDa(メルクミリポア社製))に添加し、遠心(14000×g、20分、4℃)した。通過画分を廃棄し、PBSバッファー(8g/L 塩化ナトリウム、0.2g/L 塩化カリウム、1.15g/L リン酸一水素ナトリウム(無水)、0.2g/L リン酸二水素カリウム(無水))300μlを遠心式フィルターに添加し、フィルターを洗浄後遠心(14000×g、20分、4℃)した。通過画分を廃棄し、PBSバッファー300μlを遠心式フィルターに添加し、フィルターを洗浄後遠心(14000×g、20分、4℃)した。フィルターを反転させ新しいチューブにセットし、遠心(1000×g、2分、4℃)して残った分泌タンパク質溶液を回収した。この分泌タンパク質溶液にPBSバッファーを添加して300μlとした。
【0126】
系列希釈した標準牛血清アルブミンと、希釈した分泌タンパク質溶液をマイクロプレート(細胞培養プレート、TPP社製)の各ウェルに150μlずつ添加した。150μlの1x dye reagent(Quick Startプロテインアッセイ、バイオラッド社製)を添加し、室温で5分反応させた後、マイクロプレートリーダー(Spectra Max Paradigm;モレキュラーデバイス社製)で595nmの吸光度を測定した。分泌タンパク質の定量は、標準牛血清アルブミンの検量線を用いて行った。この方法により得られた分泌タンパク質発現量と各々の菌体濃度(OD600)を表3に示した。
【0127】
表3中、1の対照はコマガタエラ・パストリスATCC76273株の培養上清を、2〜14は、それぞれのポリペプチドに関する発現ベクターを形質転換したコマガタエラ・パストリスATCC76273株の培養上清を用いた際の結果を示す。
【0128】
【表3】
【0129】
その結果、ポリペプチド発現酵母(2〜14)は、明らかに、コマガタエラ・パストリスATCC76273株(1)より高い分泌発現量を示した。これは、配列番号95〜107のいずれかに示すアミノ酸配列を含むポリペプチドの発現により内在性タンパク質の分泌生産性が向上することを示している。
【0130】
<実施例9:ELISA法による抗βガラクトシダーゼ一本鎖抗体の分泌量の測定>
実施例7で得られた培養上清への抗βガラクトシダーゼ一本鎖抗体分泌発現量は、サンドイッチELISA(Enzyme-Linked Immunosorbent Assay)法により以下に示す方法で行った。
【0131】
ELISA用プレート(Nuncイムノプレートマキシソープ(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製))に固定化バッファー(8g/L 塩化ナトリウム、0.2g/L 塩化カリウム、1.15g/L リン酸一水素ナトリウム(無水)、0.2g/L リン酸二水素カリウム(無水)、1mM 塩化マグネシウム)にて2500倍希釈したβガラクトシダーゼ(5mg/mL ロシュ社製)を各ウェル50μlずつ添加し、終夜4℃でインキュベートした。インキュベート後、ウェル中の溶液を除去し、イムノブロック(大日本住友製薬社製)200μlでブロッキングし、室温で1時間静置した。PBSTバッファー(8g/L 塩化ナトリウム、0.2g/L 塩化カリウム、1.15g/L リン酸一水素ナトリウム(無水)、0.2g/L リン酸二水素カリウム(無水)、0.1% Tween20)で3回洗浄後、系列希釈した標準抗βガラクトシダーゼ一本鎖抗体と希釈した培養上清を各ウェル50μlずつ添加し、室温で1時間反応した。PBSTバッファーで3回洗浄後、PBSTバッファーにて8000倍希釈した二次抗体溶液(二次抗体:Anti-His-tag mAb-HRP-DirecT(MBL社製))を各ウェル50μlずつ添加し、室温で1時間反応させた。PBSTバッファーで3回洗浄後、50μlのTMB-1 Component Microwell Peroxidase Substrate SureBlue(KPL社製)を添加し、室温で20分静置した。50μlのTMB Stop Solution(KPL社製)を添加して反応を停止させた後、マイクロプレートリーダー(Spectra Max Paradigm;モレキュラーデバイス社製)で450nmの吸光度を測定した。培養上清中の抗βガラクトシダーゼ一本鎖抗体の定量は、標準抗βガラクトシダーゼ一本鎖抗体の検量線を用いて行った。この方法により得られた抗βガラクトシダーゼ一本鎖抗体分泌発現量と各々の菌体濃度(OD600)を表4に示した。
【0132】
表4中、1の対照は抗βガラクトシダーゼ一本鎖抗体発現酵母の培養上清を、2〜22は抗βガラクトシダーゼ一本鎖抗体及びそれぞれのポリペプチドを発現する酵母の培養上清を用いた際の結果を示す。
【0133】
その結果、抗βガラクトシダーゼ一本鎖抗体及びポリペプチド発現酵母(2〜14)は、明らかに、抗βガラクトシダーゼ一本鎖抗体発現酵母(1)より高い分泌発現量を示した。これは、配列番号95〜107に示すアミノ酸配列を含むポリペプチドの発現により、異種タンパク質の分泌発現が向上することを示している。
【0134】
抗βガラクトシダーゼ一本鎖抗体及びC末端欠損ポリペプチド発現酵母(15〜22)もまた、抗βガラクトシダーゼ一本鎖抗体発現酵母(1)より高い分泌発現量を示したが、その分泌発現量は、抗βガラクトシダーゼ一本鎖抗体及びポリペプチド発現酵母(2〜14)よりも低い傾向があった。これは、ポリペプチドのN末端側の配列である配列番号108〜113、117及び120にタンパク質の分泌発現を向上させる効果があり、C末端側の配列がこの効果をさらに高めることを示唆している。
【0135】
【表4】
【0136】
本明細書で引用した全ての刊行物、特許及び特許出願はそのまま引用により本明細書に組み入れられるものとする。