【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 発行所名:公益社団法人計測自動制御学会、刊行物名:第19回計測自動制御学会システムインテグレーション部門講演会(SI2018)予稿集、発行日:2018年12月13日 集会名:第19回計測自動制御学会システムインテグレーション部門講演会(SI2018)、開催日(発表日):2018年12月14日 集会名:平成31年電気学会全国大会、開催日(発表日):2019年3月12日〜14日
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記架線点検装置は、前記架線走行機構に支持され、前記架線走行機構と前記カメラとに通信可能に接続され、前記架線走行機構と前記カメラとの動作を制御するコントローラをさらに備える、
請求項1から6のいずれか1項に記載の架線点検装置。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係る架線走行機構、自走式架線点検装置及び架線点検システムの実施の形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。各図面においては、同一又は同等の部分に同一の符号を付す。以下、鉄塔に架設された単導体送電線が点検対象である場合を例に説明する。
【0016】
図1は、実施の形態に係る架線点検システムの全体的な構成を示す図である。架線点検システム1は、自走式架線点検装置(点検装置)100と、遠隔操作装置200と、を備える。点検装置100と遠隔操作装置200とは、通信ネットワークを介して相互に通信可能に接続されている。
【0017】
点検装置100は、送電線上に設置された状態で送電線上を走行しながら送電線を撮影する装置である。点検装置100は、作業員によって鉄塔の上部まで持ち上げられ、送電線上に設置される。
【0018】
遠隔操作装置200は、例えば、タブレット端末である。遠隔操作装置200は、点検対象の送電線付近にいる作業員によって操作され、点検装置100の動作に関する指示を提供すると共に、点検装置100から送電線の画像データを取得する。
【0019】
図2(a)は、実施の形態に係る点検装置100の構成を示す側面図であり、
図2(b)は、実施の形態に係る点検装置100の構成を示す正面図である。
図2(b)は、点検装置100が、ダンパが取り付けられた送電線に設置されている様子を図示している。
【0020】
点検装置100は、送電線に設置された状態で送電線上を走行する架線走行機構110と、架線走行機構110に支持される筐体120と、筐体120に支持され、送電線を撮影する撮影部130と、架線走行機構110及び撮影部130の動作を制御するコントローラ140と、架線走行機構110、撮影部130及びコントローラ140に電力を供給するバッテリ150と、を備える。
【0021】
筐体120は、架線走行機構110に固定され、撮影部130及びコントローラ140を所定の位置で支持する。筐体120は、カバー121と、吊り下げ部122と、支持板123と、収容部124と、を備える。
【0022】
カバー121は、点検装置100が送電線に設置された場合に、送電線を上方から覆って送電線の周りを取り囲むような形状で形成されている。カバー121は、例えば、進行方向に垂直な断面が八角形となるように形成されている。カバー121には、下方から送電線を通すことが可能な進行方向に延びるスリットが形成されている。
【0023】
吊り下げ部122は、それぞれカバー121の前端部と後端部とに固定されている。吊り下げ部122は、その基端部がカバー121の下部から下方に延び、その先端部が基端部に対して垂直な方向に延びるL字状に形成された一対のアームを備える。
【0024】
支持板123は、その両端部が一対のアームの先端部に固定され、その下面部において収容部124を吊り下げるように支持する。
【0025】
収容部124は、コントローラ140及びバッテリ150を内部に収容する開閉可能な箱状の部材である。収容部124は、支持板123の下面部に固定され、コントローラ140及びバッテリ150を保護する。
【0026】
撮影部130は、架線走行機構110が送電線を走行している最中に送電線の全周を撮影する。撮影部130は、複数のカメラ131と、各カメラ131に対応付けられた複数のミラー132と、を備える。撮影部130は、例えば、4つのカメラ131と、4つのミラー132と、を備える。
【0027】
カメラ131は、ミラー132で反射された送電線の像を撮影する。カメラ131は、例えば、CCD(Charge Coupled Device)を備える。ミラー132は、カメラ131よりも進行方向側に配置され、送電線からの像を反射させてカメラ131に向けて入射させる。
【0028】
カメラ131及びミラー132は、それぞれカバー121の内面部に支持され、カバー121により覆われている。カバー121の内部は、下部に設けられたスリットから入射する間接光により、いくらか明るく照らされている。このため、カメラ131には、周囲の風景が映り込んだり、太陽光が直接射し込んだりすることがなく、送電線の鮮明な画像を安定的に取得できる。
【0029】
なお、カバー121には、採光のために窓(例えば、スリット等)を設けることが好ましい。採光用の窓は、例えば、上下左右の4側面に設けることができる。また、窓には、例えば、直射日光による画像の白抜けを避けるために、半透明の板状部材、例えば、和紙風アクリル板を設けてもよい。
【0030】
ミラー132は、ミラー132から反射される送電線の像にカメラ131の焦点を合わせることができるように、カバー121に対して位置や角度を調整可能に支持されている。また、カメラ131及びミラー132の各ペアは、送電線を周方向に4分割した領域をそれぞれ撮影するように配置されている。このため、カメラ131及びミラー132の各ペアは、それぞれ送電線の割り当てられた部分に焦点を合わせて撮影でき、結果として送電線の全周画像を確実に取得することができる。
【0031】
コントローラ140は、架線走行機構110及び撮影部130と有線又は無線の通信回路を介して通信可能に接続され、架線走行機構110及び撮影部130の動作を制御する。コントローラ140は、例えば、小型の汎用コンピュータ(例えば、シングルボードコンピュータ)である。
【0032】
バッテリ150は、架線走行機構110及び撮影部130にケーブル等を介して電気的に接続され、架線走行機構110及び撮影部130に電力を供給する。バッテリ150は、点検装置100の重心を下げるために、筐体120の下面部に固定されることが好ましい。
【0033】
図3は、実施の形態に係る架線走行機構110の構成を示す正面図である。架線走行機構110は、一対の天秤型走行車輪体110a、110bと、一対の天秤型走行車輪体110a、110bを回転可能に支持する車輪体支持フレーム110cと、を備える。
【0034】
天秤型走行車輪体110a、110bは、進行方向に並べて配置され、同一の送電線上を走行するように構成されている。天秤型走行車輪体110a、110bは、進行方向に並べて配置された状態で、進行方向に対して垂直な方向に延びる回転軸110d、110eの周りに回転可能に支持されている。
【0035】
回転軸110d、110eの回転軸は、天秤型走行車輪体110a、110bの本体に固定され、天秤型走行車輪体110a、110bに含まれる車輪111、112の回転軸よりも上方になるように設けられている。このため、天秤型走行車輪体110a、110bは、その上端部で車輪体支持フレーム110cに吊り下げられるように回転可能に支持されている。
【0036】
天秤型走行車輪体110a、110bは、その一部が車輪体支持フレーム110cに当接することで、回転軸110d、110e周りの回転角度が制限されている。回転軸110d、110e周りの回転角度は、送電線のダンパ等による段差を考慮して、最大60mm程度の段差を乗り越えることができるように設定することが好ましい。回転軸110d、110e周りの回転角度は、天秤型走行車輪体110a、110bの長さや天秤型走行車輪体110a、110bに対する回転軸110d、110eの位置等を考慮して、例えば、水平面に対して±16°程度に設定することが好ましい。
【0037】
図4は、実施の形態に係る天秤型走行車輪体110aの構成を示す図である。天秤型走行車輪体110a、110bは、同一の構成を備えるため、以下、天秤型走行車輪体110aの構成を中心に説明する。
【0038】
天秤型走行車輪体110aは、進行方向に並べて配置され、同一の直線上を転動するように回転する一対の車輪111、112と、一対の車輪111、112を回転可能に支持する車輪支持フレーム113と、一対の車輪111、112を回転させるモータ114と、モータ114の回転を車輪111、112に伝達する回転伝達手段115と、を備える。一対の車輪111、112には、それぞれ車輪111、112の本体と同軸であって、進行方向に対して垂直な方向に延びる回転軸111a、112aが設けられている。回転軸111a、112aは、前記天秤型走行車輪体110aを支持する回転軸110d、110eと同一の方向に延びている。
【0039】
図5(a)は、実施の形態に係る車輪111が送電線を走行している様子を示し、
図5(b)は、実施の形態に係る車輪111が送電線に設置されたダンパを乗り越えている様子を示す図である。車輪111、112は、同一の構成を備えるため、以下、車輪111の構成を説明する。
【0040】
車輪111の外周面には、V字状の溝111bが形成されている。車輪111には、V字状の溝111bに形成されているため、車輪111を交換せずとも様々な径の送電線を挟み込むことができる。車輪の溝111bには、V字状の形状に合わせてゴムやエラストマー等からなる滑り止めが施されていてもよい。
【0041】
車輪111の外周面には、外側に向かって径方向に延びる複数の突起111cが設けられている。複数の突起111cは、溝111bの両側において周方向に並べて配置されている。突起111cは、車輪111がダンパ等の段差に乗り上げた場合に、ダンパ等の上で車輪111が滑ることを防止する。車輪111に突起111cを設けるかどうかは、積雪の有無、送電線に設置されたダンパの種類や材質、車輪の材質等に応じて適宜選択すればよい。
【0042】
図4に戻り、車輪支持フレーム113は、上面部113aと、上面部の両端から下方に延びる一対の側面部113bと、を備える。車輪支持フレーム113は、進行方向に垂直な方向に切断した断面がコの字型又は∩字型となるように形成されている。側面部113bの上端部には、それぞれ進行方向の中間部に、上方に向かって延びる回転軸支持部113cが設けられている。回転軸支持部113cには、回転軸110d、110eが回転可能に支持されている。
【0043】
車輪支持フレーム113の側面部113bは、それぞれ車輪111、112の回転軸111a、112a、後述するモータ114の回転軸114aを回転可能に支持する。回転軸111a、112a、114aは、いずれも後述するプーリー115a、115b、115c、115dを取り付け可能とするために、側面部113bの内側から外側に向けて延びている。
【0044】
モータ114は、例えば、DC(Direct Current)モータである。モータ114は、車輪支持フレーム113に固定されたモータ本体と、モータ本体から延び、モータ本体に対して回転可能な回転軸114aを備える。天秤型走行車輪体110a、110bに設けられた各モータ114は、コントローラ140からの制御信号に基づいて、それぞれ同一の回転速度で回転するように構成されている。
【0045】
回転伝達手段115は、車輪111、112の回転軸111a、112aの先端側に固定されたプーリー115a、115b(第1のプーリー)と、モータ114の回転軸114aの先端側に固定されたプーリー115c、115d(第2のプーリー)と、プーリー115c、115dの回転をプーリー115a、115bにそれぞれ伝達するゴムベルト115e、115fと、を備える。
【0046】
プーリー115a、115b、115c、115dは、いずれも側面部113bの外側に配置されている。また、プーリー115c、115dは、プーリー115a、115bの間に設けられ、回転軸114aの軸方向に並べて配置されている。ゴムベルト115e、115fは、プーリー115aとプーリー115cとの間、プーリー115bとプーリー115cとの間に掛けられている。このため、モータ114の回転軸114aが回転すると、プーリー115c、115dが回転し、その回転がゴムベルト115e、115fを介してプーリー115a、115bに伝達される。このため、モータ114が駆動されると、車輪111、112が同一の回転方向で、かつ同一の速度で回転する。以上が、架線走行機構110の構成である。
【0047】
次に、架線走行機構110の動作を説明する。以下、架線走行機構110が送電線上に設置され、送電線上を走行している場合を説明する。
【0048】
送電線には所定の位置にダンパや難着雪リング等が設置されているため、送電線を走行し続けるにはダンパや難着雪リング等を乗り越える必要がある。単純に周方向に溝が形成された車輪(従来の車輪)が送電線上を転動した場合、ダンパ類を乗り越える際に、車輪の溝が送電線から外れて車輪の舵取りが狂ってしまい、車輪の進行方向が送電線から外れることがある。
【0049】
他方、架線走行機構110では、天秤型走行車輪体110a、110bが車輪体支持フレーム110cに対して回転可能に支持され、天秤型走行車輪体110a、110bの一対の車輪111、112が進行方向に並べて配置されている。このため、例えば、一方の車輪112がダンパや難着雪リング等に乗り上げたとしても、他方の車輪111が溝111bにおいて送電線を確実に挟み込むことができ、天秤型走行車輪体110a、110bの進行方向が送電線から外れることがない。したがって、架線走行機構110では、ダンパや難着雪リング等を乗り越える場合であっても、送電線から脱輪することを防止できる。
【0050】
また、従来の車輪及びクローラでは、ダンパや難着雪リング等に乗り上げた場合に、ダンパや難着雪リング等による段差の高さと段差乗り越え時に車輪が上昇する高さとが同一であるため、カメラの視野が送電線から外れやすくなっている。
【0051】
他方、架線走行機構110では、天秤型走行車輪体110a、110bの回転軸110d、110eが一対の車輪111、112の回転軸111a、112aよりも上方に配置され、天秤型走行車輪体110a、110bが回転軸110d、110e周りに回転することができる。このため、ダンパや難着雪リング等による段差を乗り越える際の架線走行機構110の高さ方向の変位量を、段差の高さよりも抑制することができる。したがって、ミラー132の視野が送電線から外れる可能性を大幅に低減することができる。
【0052】
次に、点検装置100のコントローラ140のハードウェア構成を説明する。
図6は、実施の形態に係るコントローラ140のハードウェア構成を示すブロック図である。コントローラ140は、通信部141と、記憶部142と、制御部143と、を備える。コントローラ140の各部は、内部バス等で相互に接続されている。
【0053】
通信部141は、インターネット等の通信ネットワークに接続することが可能なインターフェースである。通信部141は、カメラ131により取得された画像データを遠隔操作装置200に向けて送信する。
【0054】
記憶部142は、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、フラッシュメモリ等を備える。記憶部142は、制御部143に実行されるプログラム等を記憶する。また、記憶部142は、制御部143が処理を実行するためのワークメモリとして機能する。さらに、記憶部142は、カメラ131により取得された画像データを、撮影日時、GPS(Global Positioning System)による点検装置100の位置情報に対応付けて記憶する。
【0055】
制御部143は、CPU(Central Processing Unit)等を備え、コントローラ140の各部の制御を行う。制御部143は、記憶部142に記憶されているプログラムを実行することにより、カメラ131やモータ114の動作を制御する各種の処理を実行する。
【0056】
制御部143は、機能的には、モータ114の動作を制御するモータ制御部143aと、カメラ131の動作を制御するカメラ制御部143bと、を備える。
【0057】
モータ制御部143aは、遠隔操作装置200からの操作信号に基づいて、点検装置100が所定の速度で送電線上を走行するように、モータ114を制御する。
【0058】
カメラ制御部143bは、遠隔操作装置200からの操作信号に基づいて、カメラ131の動作を制御する。例えば、カメラ制御部143bは、遠隔操作装置200からの操作信号に基づいて、設定されたフレームレート等の条件で送電線をカメラ131に撮影させる。また、カメラ制御部143bは、カメラ131により取得された画像データを通信部141にて遠隔操作装置200に送信させる共に、撮影日時、GPSによる点検装置100の位置情報に対応付けて記憶部142に記憶させる。
【0059】
また、制御部143が遠隔操作装置200からの点検装置100の停止の指示を受け付けると、モータ制御部143aは、モータ114の駆動を停止させ、カメラ制御部143bは、カメラ131による送電線の撮影を中止させる。以上が、点検装置100のコントローラ140のハードウェア構成である。
【0060】
次に、遠隔操作装置200のハードウェア構成を説明する。
図7は、実施の形態に係る遠隔操作装置200のハードウェア構成を示すブロック図である。遠隔操作装置200は、操作部210と、表示部220と、通信部230と、記憶部240と、制御部250と、を備える。遠隔操作装置200の各部は、内部バス等で相互に接続されている。
【0061】
操作部210は、ユーザの指示を受け付け、受け付けた操作に対応する操作信号を制御部250に供給する。操作部210は、点検装置100の走行開始や停止等に関する指示、例えば、カメラ131のプレビュー画像の確認、フレームレート、シャッター速度、取得画像の品質、点検装置100の前進、後退、停止、速度(例えば、9段階の速度を選択可能)に関する指示を受け付ける。操作部210は、カメラ131毎のシャッター速度を独立して設定してもよい。
【0062】
表示部220は、制御部250から供給される画像データに基づいて、ユーザに向けて各種の画像を表示する。表示部220は、例えば、液晶パネル等を備える。表示部220は、例えば、カメラ131で撮影された画像を並べて表示すると共に、点検装置100の動作状態(例えば、走行速度等)も表示する。
【0063】
操作部210及び表示部220は、例えば、タッチパネルによって実現されてもよい。タッチパネルは、ユーザによる所定の操作を受け付ける操作画面を表示すると共に、操作画面においてユーザが接触操作を行った位置に対応する操作信号を制御部250に供給する。
【0064】
通信部230は、インターネット等の通信ネットワークに接続することが可能なインターフェースである。通信部230は、コントローラ140の通信部141を含む外部の端末、サーバ、メモリ等と通信ネットワークを介して通信する。
【0065】
記憶部240は、RAM、ROM、フラッシュメモリ、ハードディスクドライブ等を備える。記憶部240は、制御部250に実行されるプログラムや各種のデータを記憶する。また、記憶部240は、制御部250が処理を実行するためのワークメモリとして機能する。さらに、記憶部240は、カメラ131で取得された画像データを、カメラ131毎の識別情報と画像データの取得日時に関する情報とに対応付けて記憶する。
【0066】
制御部250は、CPU等を備え、遠隔操作装置200の各部の制御を行う。制御部250は、記憶部240に記憶されているプログラムを実行することにより、各種の処理を実行する。以上が、遠隔操作装置200のハードウェア構成である。
【0067】
次に、点検装置100を用いた送電線の点検作業の流れを説明する。
【0068】
まず、作業者は、点検装置100を鉄塔の上部まで持ち上げ、点検装置100の一対の天秤型走行車輪体110a、110bを送電線上に乗せることで、送電線上に点検装置100を設置する。
【0069】
次に、作業者は、遠隔操作装置200を操作して、点検装置100に対して送電線の走行と送電線の撮影の開始を指示する。すると、点検装置100は、送電線を走行と送電線の撮影を開始する。点検装置100は、送電線を走行しながら、送電線の全周画像を取得し、取得された送電線の全周画像を遠隔操作装置200に送信する。
【0070】
点検装置100が送電線を走行していると、その途中でダンパや難着雪リング等を乗り越える必要がある。ダンパや難着雪リング等を乗り越える際に、点検装置100の天秤型走行車輪体110a、110bは、いずれも車輪111、112のどちらかがV字状の溝111bで送電線を挟み込むように構成されている。このため、ダンパや難着雪リングを乗り越える際に、点検装置100が送電線から脱輪することがない。
【0071】
また、ダンパや難着雪リングを乗り越える際に、点検装置100の天秤型走行車輪体110a、110bは、車輪体支持フレーム110cに対して回転軸110d、110eの周りに回転することで、ダンパや難着雪リング等を乗り越える際に発生する上下方向の動きを吸収することができる。このため、点検装置100に設けられたカメラ131の視野が送電線から外れる可能性を低減できる。
【0072】
遠隔操作装置200は、点検装置100から送信された画像データを受信して記憶部240に記憶させると共に、送電線の画面を表示部220に表示させる。表示部220は、送電線を周方向に4分割した領域をそれぞれ撮影した4つの画像を表示する。作業者は、表示部220に表示された送電線の全周画像を確認することで、目視で送電線を点検する。
【0073】
点検装置100が径間にわたって送電線の走行を続け、他方の鉄塔の近傍に到着すると、作業者は、遠隔操作装置200を操作して、点検装置100を停止させるための操作信号を送信させる。点検装置100は、操作信号を受信すると、モータ114の駆動やカメラ131による撮影を停止させる。次に、作業者は、他方の鉄塔の上部に登り、送電線から点検装置100を取り外して地上に降ろす。以上が、点検作業の一連の流れである。
【0074】
実施の形態に係る架線走行機構110は、ダンパや難着雪リング等による段差を乗り越える場合であっても、一対の天秤型走行車輪体110a、110bが回転軸110d、110eの周りに回転し、一対の天秤型走行車輪体110a、110bの車輪111、112のいずれかが、架線に設置された状態を維持することができる。したがって、ダンパや難着雪リング等による段差を乗り越える場合であっても、送電線からの脱輪を確実に防止できる。
【0075】
実施の形態に係る架線走行機構110は、ダンパや難着雪リング等による段差を乗り越える場合であっても、一対の天秤型走行車輪体110a、110bが回転軸110d、110eの周りに回転することで、段差乗り越え時の上下方向の変位を段差の高さ以下に抑えることができる。したがって、架線走行機構110を点検装置100に適用した場合、カメラ131の視野から送電線が外れる可能性を低減することができ、径間にわたって送電線の全周画像を確実に取得できる。
【0076】
実施の形態に係る架線走行機構110は、天秤型走行車輪体110a、110bは、車輪111、112の車輪の半径よりも大きな段差を乗り越えることができる。このため、車輪の径を大きくして段差の乗り越え性能を向上させた架線走行機構と比較して、重量の増加を抑制することができる。したがって、架線走行機構110を点検装置100に適用した場合、点検装置100の重量を人手により鉄塔の上部まで持ち上げることが可能な程度の重量に抑制することができる。
【0077】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0078】
(実施例)
図8は、点検装置100の実機が実験室内に架設された送電線を走行している様子を示す図である。
図8に示す点検装置100の実機を用いて、点検装置100が送電線に設置されたダンパを乗り越え可能かどうかを検証した。
【0079】
具体的には、電線サイズ240mm
2用SF型ダンパを乗り越える場合、電線サイズ240mm
2用バイブレスダンパを乗り越える場合、電線サイズ160mm
2用ダブルトーショナルダンパを乗り越える場合の段差乗り越えストロークを測定した。なお、段差乗り越えストロークは、送電線に設置された状態からダンパ類の頂部に乗り上げた状態に移動する際の高さ変化を示す。
【0080】
段差乗り越えストロークは、それぞれ順に、約49mm、約35mm、約38mmであった。点検装置100の上下可能範囲が約60mm以内であるため、点検装置100は、送電線に設置されたダンパを乗り越え可能であることが確認できた。
【0081】
なお、架線走行機構110を点検装置100に適用した場合、点検装置100の実機の重量は約17kgであった。このため、点検装置100の重量は、人手により鉄塔の上部まで持ち上げることができる程度であることを確認できた。
【0082】
次に、天秤型走行車輪体110a、110bの回転軸110d、110eの高さ方向の変動量に関する数値計算を実施した。縦列車輪の車軸間距離を210mm、車軸に対する回転軸高さを136mmとし、最大60mmまでの段差乗り上げに対する天秤型走行車輪体の回転軸110d、110eの高さ方向の変動量の数値計算を実施した。
【0083】
図9は、天秤型走行車輪体110a、110bの回転軸110d、110eの高さ方向の変動量の数値計算結果を示すグラフである。縦軸は、回転軸110d、110eの高さ方向の変動量(mm)であり、横軸は、段差乗り上げた高さ(mm)である。従来の単純な車輪では、段差乗り上げ高さと車輪の高さ方向の変動量とはほぼ一致するのに対して、天秤型走行車輪体110a、110bでは、
図9に示すように、段差乗り上げ高さに対して天秤型走行車輪体110a、110bの高さ方向の変動量が半分以下に抑えられていることが確認できた。
【0084】
本発明は上記の実施形態に限られず、以下に述べる変形も可能である。
【0085】
(変形例)
上記実施の形態では、点検装置100を送電線に適用する場合を例に説明したが、本発明はこれに限られない。例えば、点検装置100を架空地線、配電線等の電線、水道管、ガス管、送油管等の配管、ロープウェイの索条、エレベータのワイヤロープ等に適用してもよい。
【0086】
上記実施の形態では、カバー121の形状が八角形の筒状体であったが、本発明はこれに限られない。カバー121の形状についても、カメラ131及びミラー132を固定することできれば、いかなる形状であってもよく、例えば、直方体、紡錘形等の形状に形成してもよい。
【0087】
上記実施の形態では、筐体120は、カメラ131及びミラー132を覆うカバー121を備えていたが、本発明はこれに限られない。カメラ131及びミラー132を支持することができれば、カバー121に限られず、例えば、単純なフレーム等であってもよい。
【0088】
上記実施の形態では、撮影部130は、カメラ131とミラー132とから構成されていたが、本発明はこれに限られない。例えば、カバー121に送電線を照らすためにLED(Light Emitting Diode)等の照明器具が固定されてもよい。また、撮影部130をカメラ131のみから構成してもよい。
【0089】
上記実施の形態では、送電線の点検のためにカメラ131を用いていたが、本発明はこれに限られない。例えば、点検装置100に送電線の腐食状態、表面粗さ等を検出するセンサ等を設けてもよい。
【0090】
上記実施の形態では、モータ114により車輪111、112を駆動していたが、本発明はこれに限られない。例えば、点検装置100の一部にロープを接続し、鉄塔等に設置されたウィンチ等により当該ロープを巻き上げることで、送電線上に設置された点検装置100を走行させてもよい。
【0091】
上記実施の形態では、プーリーとベルトとから構成された回転伝達手段115を用いてモータ114の回転を車輪111、112に伝達していたが、本発明はこれに限られない。例えば、ギア、ローラチェーン及びスプロケット等を用いてモータ114の回転を車輪111、112に伝達してもよい。
【0092】
上記実施の形態では、点検装置100のカメラ131で取得された画像データを遠隔操作装置200に送信していたが、本発明はこれに限られない。例えば、点検装置100のカメラ131で取得された画像データを記憶部142に記憶しておき、点検装置100を送電線から回収した後に、記憶部142から外部のコンピュータに読み出してもよい。また、点検装置100のカメラ131で取得された画像データを遠隔地にある外部のコンピュータやサーバ等に送信してもよい。
【0093】
上記実施の形態では、作業者が遠隔操作装置200を操作して、点検装置100の走行や撮影の開始を指示していたが、本発明はこれに限られない。例えば、点検装置100にスタートボタンを設けておき、点検装置100を送電線に設置した作業者がスタートボタンを押下することで、点検装置100の走行や撮影を開始させてもよい。また、遠隔地のオペレータが外部のコンピュータ等を操作して、通信回線を介して操作信号を供給することで、点検装置100の動作を制御してもよい。
【0094】
上記実施の形態では、点検装置100の走行の開始や中止を遠隔操作装置200からの操作信号に基づいて判断していたが、本発明はこれに限られない。例えば、点検装置100の筐体120に送電線に設けられた碍子等との接触を検知する接触センサを設けておき、接触センサから碍子等に接触したことを通知された場合に、点検装置100の走行を中止するように構成してもよい。
【0095】
上記実施の形態は例示であり、本発明はこれらに限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した発明の趣旨を逸脱しない範囲でさまざまな実施の形態が可能である。各実施の形態や変形例で記載した構成要素は自由に組み合わせることが可能である。また、特許請求の範囲に記載した発明と均等な発明も本発明に含まれる。