特許第6943916号(P6943916)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6943916
(24)【登録日】2021年9月13日
(45)【発行日】2021年10月6日
(54)【発明の名称】ハウジング
(51)【国際特許分類】
   H01R 13/42 20060101AFI20210927BHJP
【FI】
   H01R13/42 B
【請求項の数】3
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2019-63332(P2019-63332)
(22)【出願日】2019年3月28日
(65)【公開番号】特開2020-166933(P2020-166933A)
(43)【公開日】2020年10月8日
【審査請求日】2020年8月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006895
【氏名又は名称】矢崎総業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮川 知之
(72)【発明者】
【氏名】田中 真輝
【審査官】 内田 勝久
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−190337(JP,A)
【文献】 特開2012−084404(JP,A)
【文献】 特開2016−004606(JP,A)
【文献】 特開2018−186021(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01R 13/40 − 13/533
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
後端側に当接部を有する端子が挿し込まれて収容される端子収容室と、
前記端子収容室へ挿し込まれる前記端子によって前記端子収容室から押し出されて一方向へ回動し、前記端子の前記当接部が越えることで他方向へ回動して前記端子の前記当接部を係止するランスと、
を備え、
前記ランスは、
前記一方向への回動方向側の係止部と、
前記他方向への回動方向側の逃げ部と、
前記係止部と前記逃げ部との間の境界部と、
を有し、
前記境界部は、前記端子収容室に挿し込まれた前記端子の前記当接部よりも前記他方向への回動方向側に配置され、
前記係止部及び前記逃げ部における前記境界部と反対側のそれぞれの縁部は、前記境界部よりも前記端子収容室への前記端子の挿入方向の後方側に配置され
前記端子収容室は、
底壁部と、
前記底壁部の両側部に形成された側壁部と、
少なくとも一方の前記側壁部に形成されて前記底壁部と対向する端子押えと、
を有し、
前記端子押えは、前記ランスに連結され、
前記端子押えが形成された前記側壁部は、前記端子押えに沿って形成されたスリットを有する
ことを特徴とするハウジング。
【請求項2】
前記係止部は、前記境界部と前記縁部とにわたって形成された傾斜面である
ことを特徴とする請求項1に記載のハウジング。
【請求項3】
前記逃げ部は、前記境界部と前記縁部とにわたって形成された傾斜面であり、
前記ランスは、前記逃げ部が前記端子収容室に挿し込まれた前記端子の前記当接部に干渉することなく前記他方向へ回動される
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のハウジング。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハウジングに関する。
【背景技術】
【0002】
端子を収容する端子収容室を備えたコネクタ用のハウジングは、端子収容室に挿入された端子の後端を係止して端子を抜け止めするランスを備えている(例えば、特許文献1,2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012−84404号公報
【特許文献2】特開2000−294340号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、端子に接続されている電線が引っ張られると、端子を係止しているランスが変形して端子の係止力が低下するおそれがある。この場合、ランスの剛性を高めればよいが、端子の挿入に高い挿入力が必要となり、端子の組付け作業が困難となる。このため、端子を確実に係止することができ、しかも、端子を容易に組付けることが可能なハウジングが要求されている。
【0005】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、良好な組付け性を確保しつつ端子を確実に係止することが可能なハウジングを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前述した目的を達成するために、本発明に係るハウジングは、下記(1)〜()を特徴としている。
(1) 後端側に当接部を有する端子が挿し込まれて収容される端子収容室と、
前記端子収容室へ挿し込まれる前記端子によって前記端子収容室から押し出されて一方向へ回動し、前記端子の前記当接部が越えることで他方向へ回動して前記端子の前記当接部を係止するランスと、
を備え、
前記ランスは、
前記一方向への回動方向側の係止部と、
前記他方向への回動方向側の逃げ部と、
前記係止部と前記逃げ部との間の境界部と、
を有し、
前記境界部は、前記端子収容室に挿し込まれた前記端子の前記当接部よりも前記他方向への回動方向側に配置され、
前記係止部及び前記逃げ部における前記境界部と反対側のそれぞれの縁部は、前記境界部よりも前記端子収容室への前記端子の挿入方向の後方側に配置され
前記端子収容室は、
底壁部と、
前記底壁部の両側部に形成された側壁部と、
少なくとも一方の前記側壁部に形成されて前記底壁部と対向する端子押えと、
を有し、
前記端子押えは、前記ランスに連結され、
前記端子押えが形成された前記側壁部は、前記端子押えに沿って形成されたスリットを有する
ことを特徴とするハウジング。
【0007】
(2) 前記係止部は、前記境界部と前記縁部とにわたって形成された傾斜面である
ことを特徴とする上記(1)に記載のハウジング。
【0008】
(3) 前記逃げ部は、前記境界部と前記縁部とにわたって形成された傾斜面であり、
前記ランスは、前記逃げ部が前記端子収容室に挿し込まれた前記端子の前記当接部に干渉することなく前記他方向へ回動される
ことを特徴とする上記(1)または(2)に記載のハウジング。
【0011】
上記(1)の構成のハウジングによれば、ランスが、一方向への回動方向側の係止部と、他方向への回動方向側の逃げ部と、係止部と逃げ部との間の境界部とを有している。そして、境界部が端子収容室に挿し込まれた端子の当接部よりも他方向への回動方向側に配置され、係止部及び逃げ部における境界部と反対側のそれぞれの縁部が、境界部よりも端子収容室への端子の挿入方向の後方側に配置されている。
これにより、端子の当接部が境界部よりも端子の挿入方向の後方側の係止部に当接する。したがって、端子から引抜力が作用されると、ランスは、係止力が弱まる一方向へ回動することなく、係止力が強まる他方向へ引き寄せられる。これにより、ランスの剛性を高めることによる組付け作業性の低下を招くことなく、端子の係止力を高めることができる。
また、ランスは、境界部と反対側の縁部が境界部よりも挿入方向の後方側に配置された逃げ部を有するので、ランスの回動軌跡の半径を小さくすることができ、一方向へ回動したランスが復元して他方向へ回動する際の端子の当接部との干渉を抑制できる。
しかも、ランスの先端に逃げ部を有することで、復元して他方向へ回動する際の回動軌跡の半径が小さくなる。したがって、ランスが復元するために必要となる端子の当接部との余裕代を極力小さくすることができる。これにより、例えば、自動車等に車載したとしても、振動による端子収容室内での端子の変動を極力抑えることができ、相手側の端子との良好な接続信頼性を維持させることができる。
更に、上記(1)の構成のハウジングによれば、端子から受ける引抜力によってランスに他方向へ向かう力が付与されると、ランスに連結された端子押えが端子収容室側へ変位される。これにより、端子収容室に収容された端子を端子押えによって押し下げて底壁部に押し付け、端子収容室にがたつきなく保持させることができる。
更に、上記(1)の構成のハウジングによれば、端子押えが形成された側壁部に、端子押えに沿ってスリットが形成されている。したがって、端子押えの変位を円滑に行わせて端子の押え機能を円滑に発揮させることができる。
【0012】
上記(2)の構成のハウジングによれば、係止部は、境界部と縁部とにわたって形成された傾斜面である。したがって、傾斜面からなる係止部に端子の当接部から引抜力が作用すると、ランスには、引抜力の分力が他方向へ回動させる力として作用する。したがって、端子の当接部へのランスの掛かり代を大きくしてランスによる端子の係止力を円滑に高めることができる。
【0013】
上記(3)の構成のハウジングによれば、逃げ部は、境界部と縁部とにわたって形成された傾斜面であり、ランスが端子収容室に挿し込まれた端子の当接部に干渉することなく他方向へ回動される。したがって、一方向へ回動したランスが復元して他方向へ回動する際に、端子の当接部にランスの逃げ部が引っ掛かることを抑制でき、ランスを円滑に回動させて端子を確実に係止させることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、良好な組付け性を確保しつつ端子を確実に係止することが可能なハウジングを提供できる。
【0017】
以上、本発明について簡潔に説明した。更に、以下に説明される発明を実施するための形態(以下、「実施形態」という。)を添付の図面を参照して通読することにより、本発明の詳細は更に明確化されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、本実施形態に係るハウジングの正面図である。
図2図2は、図1におけるA−A断面図である。
図3図3は、端子挿入前の図1におけるA−A断面図である。
図4図4は、インナーハウジングの端子収容室を示す斜視図である。
図5図5は、端子収容室の正面図である。
図6図6は、端子挿入前の端子収容室の正面図である。
図7図7は、図3におけるB部拡大図である。
図8図8は、ランスによるメス端子の係止箇所を示す図であって、図8(a)及び図8(b)は、それぞれ図2におけるC部拡大図である。
図9図9は、参考例1に係るランスを備えたハウジングの図2におけるC部と同等の位置における拡大図である。
図10図10は、参考例2に係るランスによるメス端子の係止箇所を示す図であって、図10(a)及び図10(b)は、それぞれ図2におけるC部と同等の位置における拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明に関する具体的な実施形態について、各図を参照しながら以下に説明する。
【0020】
図1は、本実施形態に係るハウジング10の正面図である。図2は、図1におけるA−A断面図である。図1及び図2に示すように、本実施形態に係るハウジング10は、二つのメス端子(端子)41を収容するメスハウジングである。ハウジング10は、合成樹脂により形成されており、筒状のインナーハウジング21と、インナーハウジング21の外周面と間隔をあけて包囲する筒状のアウターハウジング23とが連ねて形成されている。インナーハウジング21には、根元における外周面にシール部材24が装着されている。インナーハウジング21の外周面とアウターハウジング23の内周面との隙間には、オスハウジング(図示略)のフード部が挿入され、シール部材24に密着することでシールされる。
【0021】
ハウジング10には、弾性変形可能な片持ち梁状のロックアーム31が形成されている。ロックアーム31は、先端部に係止部33を有し、後端部を支点として係止部33が揺動可能となっている。ロックアーム31は、ハウジング10が相手側のオスハウジング(図示略)に嵌合された際に、係止部33がオスハウジングに形成された係止突起(図示略)を係止する。これにより、ハウジング10がオスハウジングに嵌合した状態にロックされる。
【0022】
インナーハウジング21には、後方からメス端子41が挿入される二つの端子収容室25が形成されている。各端子収容室25は、インナーハウジング21の先端部が外部に開放され、オスハウジングに設けられたタブ状のオス端子(図示略)が先端側から挿入される。
【0023】
端子収容室25に挿入されて収容されるメス端子41は、電線43の端部に接続されている。メス端子41は、オス端子が挿入されることでオス端子と電気的に接続される電気接続部45と、電線43の端部に圧着されて電線43の導体と電気的に接続される電線接続部47とを有している。メス端子41が接続された電線43には、メス端子41との接続端に、ゴム栓49が装着されている。ゴム栓49は、端子収容室25に嵌め込まれることで、端子収容室25をシールする。
【0024】
メス端子41の電気接続部45は、角筒状の箱部51を備えている。箱部51は、タブの挿入側と反対側の後端側が電線接続部47に連設されている。
【0025】
箱部51は、底板部53と、側板部54と、上板部56,57とを備えている。上板部56,57は、それぞれの側板部54を折り曲げることで形成されており、箱部51の上部を塞ぐように互いに重ね合わされている。箱部51の内部における上方には、バネ接点58が設けられている。バネ接点58は、箱部51の内側の上板部56における先端部に連設されて後端側へ折り返されている。
【0026】
この電気接続部45には、箱部51に前方側からオス端子のタブが挿し込まれる。すると、タブが底板部53とバネ接点58との間に入り込み、バネ接点58の弾性力によってタブの外面に接触する。これにより、メス端子41とオス端子とが電気的に接続される。
【0027】
また、このメス端子41は、箱部51の後端における上部が、電線接続部47よりも上方へ張り出している。この上方へ張り出した箱部51の後端には、当接部59が設けられている。当接部59は、上板部57の縁部であり、メス端子41の後端側へ僅かに突出されている。
【0028】
図3は、端子挿入前の図1におけるA−A断面図である。図4は、インナーハウジング21の端子収容室25を示す斜視図である。図5は、端子収容室25の正面図である。図6は、端子挿入前の端子収容室25の正面図である。
【0029】
図3図6に示すように、インナーハウジング21の端子収容室25は、底壁部61と、一対の側壁部63とで区画された溝状に形成されている。端子収容室25の前端には、前壁部65が形成されており、この前壁部65には、オス端子が挿入される挿通口66が形成されている。また、一方の側壁部63の上縁には、端子押え67が張り出している。この端子押え67は、メス端子41の挿入方向Sに沿って延在している。そして、この端子収容室25は、底壁部61、側壁部63及び端子押え67で囲われた空間部分が収容空間となっており、この収容空間に、メス端子41の電気接続部45を構成する箱部51が収容される。
【0030】
この端子収容室25には、後端側に、ランス71が設けられている。ランス71は、後端側がインナーハウジング21に一体に形成されており、先端側が端子収容室25内へ向かって延在されている。このランス71は、メス端子41の挿入方向Sの前方へ向けられた先端部が、端子収容室25の後端における上方位置に配置されている。
【0031】
このランス71は、端子収容室25を形成する端子押え67と一体に形成されている。また、端子押え67が形成された一方の側壁部63には、スリット69が形成されている。このスリット69は、メス端子41の挿入方向Sに沿って端子押え67の近傍位置に端子押え67と平行に形成されている。
【0032】
図7は、図3におけるB部拡大図である。図8(a)及び図8(b)は、それぞれ図2におけるC部拡大図である。
図7及び図8(a)に示すように、ランス71は、その先端部に、係止部81と、逃げ部83と、係止部81と逃げ部83との間の境界部85とを有している。このランス71は、端子収容室25へ挿し込まれるメス端子41の箱部51によって端子収容室25から押し出されて一方向αへ回動し、メス端子41の当接部59が越えることで他方向βへ回動してメス端子41の当接部59を係止する。
【0033】
係止部81は、端子収容室25の内側から外側へ向かって、メス端子41の挿入方向Sの後方へ傾斜する傾斜面となっている。これにより、係止部81は、ランス71の上面に対して90°よりも大きい角度θ1に形成されている。また、逃げ部83は、端子収容室25の内側から外側へ向かって、メス端子41の挿入方向Sの前方へ傾斜する傾斜面となっている。これにより、逃げ部83は、ランス71の下面に対して90°よりも大きい角度θ2に形成されている。そして、ランス71は、係止部81と逃げ部83との境界部85が、挿入方向Sの前方側に突出され、ランス71の係止部81側の上縁部71a及び逃げ部83側の下縁部71bが、境界部85よりも挿入方向Sの後方側に配置されている。
【0034】
端子収容室25に挿入されたメス端子41は、電気接続部45の箱部51の当接部59がランス71の前方に配置される。また、当接部59は、境界部85に対して係止部81側に配置される。
【0035】
次に、端子収容室25へメス端子41を収容させる場合について説明する。
ハウジング10の端子収容室25に電線43が接続されたメス端子41を後方から挿入する。すると、ランス71は、端子収容室25に挿入されるメス端子41の電気接続部45の箱部51が当接することで、端子収容室25から離間する上方へ押し出されて弾性変形する。具体的には、ランス71は、インナーハウジング21に一体に形成された根元を支点として一方向αへ回動するように弾性変形する。
【0036】
メス端子41の電気接続部45が端子収容室25の奥まで挿入されて箱部51の当接部59がランス71を越えると、ランス71の押し上げが解除される。すると、弾性変形していたランス71が復元する。具体的には、ランス71は、復元することで根元を支点として他方向βへ回動する。ここで、ランス71の先端部は、端子収容室25の内側から外側へ向かって、メス端子41の挿入方向Sの前方へ傾斜する傾斜面である逃げ部83を有している。したがって、復元して他方向βへ回動するランス71は、その下縁部71bの回動軌跡KA(図8(a),(b)中二点鎖線で示す)の半径が小さくされ、メス端子41の当接部59への引っ掛かりが抑えられる。
【0037】
そして、ランス71が復元すると、ランス71の先端部がメス端子41の箱部51における当接部59の後方に入り込み、当接部59が境界部85よりも係止部81側に配置される。これにより、メス端子41がランス71によって係止される。
【0038】
このランス71による係止状態では、メス端子41は、箱部51の当接部59がランス71の係止部81に当接することで端子収容室25から抜け止めされる。
【0039】
このランス71による係止状態において、電線43が引っ張られてメス端子41に対して端子収容室25からの引抜方向へ引張力が付与されると、ランス71の傾斜面である係止部81における当接部59の当接箇所には、垂直方向に引抜力Fが作用する。すると、ランス71には、引抜力Fの分力からなる、メス端子41の引抜方向に沿う押圧力Fpと、引抜方向に対して端子収容室25の内側へ向かって直交する押下力Fdとが作用する。これにより、ランス71は、押下力Fdによって端子収容室25の内側である他方向βへ向かって押し下げられ、メス端子41の箱部51をより係止する方向へ変位し、メス端子41の当接部59との掛かり代が大きくなって係止力が高められる。
【0040】
また、ランス71は、先端に逃げ部83を有することで、復元して他方向βへ回動する際の回動軌跡KAの半径が小さくされている。したがって、図8(b)に示すように、ランス71が復元するために必要となるメス端子41の当接部59との余裕代GAが極力小さくなる。
【0041】
また、ランス71に押下力Fdが作用することで、このランス71と一体に設けられた端子押え67が端子収容室25へ向かって押し下げられる。これにより、端子収容室25に収容されたメス端子41の電気接続部45の箱部51が、端子押え67によって押し下げられて底壁部61に押し付けられる。したがって、メス端子41が端子収容室25にがたつきなく保持されることとなる。
【0042】
ここで、形状の異なる参考例1,2に係るランスについて説明する。
図9は、参考例1に係るランス71Aである。このランス71Aは、先端部の全体が、端子収容室25の内側から外側へ向かって、メス端子41の挿入方向Sの前方へ傾斜する傾斜面である係止部81Aとなっている。
【0043】
このランス71Aでは、電線43が引っ張られて係止部81Aにおける当接部59の当接箇所に引抜力Fが作用すると、ランス71Aには、引抜力Fの分力からなる、メス端子41の引抜方向に沿う押圧力Fpと、引抜方向に対して端子収容室25の外側へ向かって直交する押上力Fuとが作用する。このため、ランス71Aは、押上力Fuによって端子収容室25の外側である一方向αへ向かって押し上げられ、メス端子41の箱部51から外れる方向へ変位し、メス端子41の当接部59との掛かり代が小さくなって係止力が低下するおそれがある。
【0044】
図10は、参考例2に係るランス71Bである。このランス71Bは、先端部の全体が、端子収容室25の内側から外側へ向かって、メス端子41の挿入方向Sの後方へ傾斜する傾斜面である係止部81Bとなっている。
【0045】
このランス71Bでは、電線43が引っ張られて係止部81Bにおける当接部59の当接箇所に引抜力Fが作用すると、ランス71Aには、引抜力Fの分力からなる、メス端子41の引抜方向に沿う押圧力Fpと、引抜方向に対して端子収容室25の内側へ向かって直交する押下力Fdとが作用する。したがって、ランス71Bでは、本実施形態に係るハウジング10のランス71と同様に、押下力Fdによって端子収容室25の内側である他方向βへ向かって押し下げられ、メス端子41の箱部51をより係止する方向へ変位し、係止力が高められる。
【0046】
しかし、この参考例2に係るランス71Bでは、係止部81Bの全体を、端子収容室25の内側から外側へ向かって、メス端子41の挿入方向Sの後方へ傾斜する傾斜面としている。すると、ランス71Bは、その下縁部71bの回動軌跡KB(図10(a),(b)中二点鎖線で示す)の半径が大きくなり、端子収容室25へ挿し込んだメス端子41の箱部51に引っ掛かり、メス端子41の係止が円滑に行われなくなる。また、箱部51へのランス71Bの下縁部71bの引っ掛かりを抑えるためには、ランス71Bを後方へ配置させなければならず、この場合、端子収容室25に収容させたメス端子41の箱部51とランス71Bの係止部81Bとの隙間が大きくなり、メス端子41の挿入方向Sに沿うがたつきが大きくなってしまう。
【0047】
つまり、ランス71Bでは、先端に逃げ部83がないことから、復元して他方向βへ回動する際の回動軌跡KBの半径が大きくなる。このため、図10(b)に示すように、ランス71Bが復元するために必要となるメス端子41の当接部59との余裕代GBを大きく確保しなければならない。この余裕代GBが大ききと、例えば、自動車等に車載した際に、振動によって端子収容室25内でメス端子41が前後へ大きく変動してしまい、オス端子との接続信頼性の低下が懸念される。
【0048】
以上、説明したように、本実施形態に係るハウジング10によれば、境界部85と上縁部71aとにわたって形成された傾斜面である係止部81にメス端子41の当接部59から引抜力Fが作用すると、ランス71には、引抜力Fの分力からなる押下力Fdが他方向βへ回動させる力として作用する。したがって、ランス71は、係止力が弱まる一方向αへ回動することなく、係止力が強まる他方向βへ引き寄せられる。これにより、ランス71の剛性を高めることによる組付け作業性の低下を招くことなく、メス端子41の当接部59へのランス71の掛かり代を大きくしてランス71によるメス端子41の係止力を高めることができる。
【0049】
また、ランス71は、境界部85と反対側の下縁部71bが境界部85よりも挿入方向Aの後方側に配置された逃げ部83を有するので、ランス71の回動軌跡の半径を小さくすることができる。この逃げ部83は、境界部85と下縁部71bとにわたって形成された傾斜面であり、ランス71が端子収容室25に挿し込まれたメス端子41の当接部59に干渉することなく他方向βへ回動される。したがって、一方向αへ回動したランス71が復元して他方向βへ回動する際に、メス端子41の当接部59にランス71の逃げ部83が引っ掛かることを抑制でき、ランス71を円滑に回動させてメス端子41を確実に係止させることができる。
【0050】
しかも、ランス71の先端に逃げ部83を有することで、復元して他方向βへ回動する際の回動軌跡KAの半径が小さくなる。したがって、ランス71が復元するために必要となるメス端子41の当接部59との余裕代GAを極力小さくすることができる。これにより、例えば、自動車等に車載したとしても、振動による端子収容室25内でのメス端子41の前後への変動を極力抑えることができ、オス端子との良好な接続信頼性を維持させることができる。
【0051】
なお、引抜力Fを受けた際にランス71に作用する分力からなる押下力Fdは、ランス71の上面に対する係止部81の傾斜角度θ1を変更することで、容易に調整することができる。また、逃げ部83における回動軌跡の半径は、ランス71の下面に対する逃げ部83の傾斜角度θ2を変更することで、容易に調整することができる。
【0052】
また、本実施形態に係るハウジング10では、メス端子41から受ける引抜力Fによってランス71に他方向βへ向かう力が付与されると、ランス71に連結された端子押え67が端子収容室25側へ変位される。これにより、端子収容室25に収容されたメス端子41を端子押え67によって押し下げて底壁部61に押し付け、端子収容室25にがたつきなく保持させることができる。
【0053】
しかも、端子押え67が形成された側壁部63に、端子押え67に沿ってスリット69が形成されている。したがって、端子押え67の変位を円滑に行わせてメス端子41の押え機能を円滑に発揮させることができる。
【0054】
尚、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。その他、上述した実施形態における各構成要素の材質、形状、寸法、数、配置箇所、等は本発明を達成できるものであれば任意であり、限定されない。
【0055】
例えば、上記実施形態では、係止部81及び逃げ部83を傾斜面としたが、これらの係止部81及び逃げ部83は、必ずしも傾斜面でなくてもよい。特に、逃げ部83は、ランス71の復元時にメス端子41の当接部59に干渉しない形状であれば、窪みや切欠きであってもよい。
【0056】
ここで、上述した本発明の実施形態に係るハウジングの特徴をそれぞれ以下[1]〜[5]に簡潔に纏めて列記する。
[1] 後端側に当接部(59)を有する端子(メス端子41)が挿し込まれて収容される端子収容室(25)と、
前記端子収容室(25)へ挿し込まれる前記端子(メス端子41)によって前記端子収容室(25)から押し出されて一方向(α)へ回動し、前記端子(メス端子41)の前記当接部(59)が越えることで他方向(β)へ回動して前記端子(メス端子41)の前記当接部(59)を係止するランス(71)と、
を備え、
前記ランス(71)は、
前記一方向(α)への回動方向側の係止部(81)と、
前記他方向(β)への回動方向側の逃げ部(83)と、
前記係止部(81)と前記逃げ部(83)との間の境界部(85)と、
を有し、
前記境界部(85)は、前記端子収容室(25)に挿し込まれた前記端子(メス端子41)の前記当接部(59)よりも前記他方向(β)への回動方向側に配置され、
前記係止部(81)及び前記逃げ部(83)における前記境界部(85)と反対側のそれぞれの縁部(上縁部71a,下縁部71b)は、前記境界部(85)よりも前記端子収容室(25)への前記端子(メス端子41)の挿入方向(A)の後方側に配置されている
ことを特徴とするハウジング。
【0057】
[2] 前記係止部(81)は、前記境界部(85)と前記縁部(上縁部71a)とにわたって形成された傾斜面である
ことを特徴とする上記[1]に記載のハウジング。
【0058】
[3] 前記逃げ部(83)は、前記境界部(85)と前記縁部(下縁部71b)とにわたって形成された傾斜面であり、
前記ランス(71)は、前記逃げ部(83)が前記端子収容室(25)に挿し込まれた前記端子(メス端子41)の前記当接部(59)に干渉することなく前記他方向(β)へ回動される
ことを特徴とする上記[1]または[2]に記載のハウジング。
【0059】
[4] 前記端子収容室(25)は、
底壁部(61)と、
前記底壁部(61)の両側部に形成された側壁部(63)と、
少なくとも一方の前記側壁部(63)に形成されて前記底壁部(61)と対向する端子押え(67)と、
を有し、
前記端子押え(67)は、前記ランス(71)に連結されている
ことを特徴とする上記[1]から[3]のいずれか一つに記載のハウジング。
【0060】
[5] 前記端子押え(67)が形成された前記側壁部(63)は、前記端子押え(67)に沿って形成されたスリット(69)を有する
ことを特徴とする上記[4]に記載のハウジング。
【符号の説明】
【0061】
10 ハウジング
25 端子収容室
41 メス端子(端子)
59 当接部
61 底壁部
63 側壁部
67 端子押え
69 スリット
71 ランス
71a 上縁部(縁部)
71b 下縁部(縁部)
81 係止部
83 逃げ部
85 境界部
A 挿入方向
α 一方向
β 他方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10