(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の好適な実施形態について図面を用いて詳細に説明する。なお、以下に説明する実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではない。また、以下で説明される構成の全てが本発明の必須構成要件であるとは限らない。
【0012】
1. 電子顕微鏡
まず、本実施形態に係る電子顕微鏡について図面を参照しながら説明する。
図1は、本実施形態に係る電子顕微鏡100の構成を示す図である。
【0013】
電子顕微鏡100は、電子銃10と、加速電圧電源20と、光学系30と、検出器40と、増幅器42と、AD変換器44と、アライメント電源50と、集束レンズ電源52と、対物レンズ電源54と、走査信号発生回路56と、制御装置60(制御部の一例)と、を含む。
【0014】
電子銃10は、電子線を放出する。電子銃10は、熱電子銃である。熱電子銃は、熱電子放出を利用した電子銃である。電子銃10は、陰極12と、ウェーネルト電極14と、陽極16と、バイアス抵抗18と、を含む。
【0015】
陰極12は、例えば、タングステンからなるフィラメントである。なお、陰極12は、ホウ化ランタン(LaB
6)の単結晶からなるフィラメントであってもよい。ウェーネルト電極14は、陰極12と陽極16との間に配置されている。ウェーネルト電極14は、陰極12に対してマイナスのバイアス電圧が与えられており、放出電子の量を制御するために用いられる。陽極16は、例えば、接地電位であり、試料Sへの電子線の加速エネルギーは陰極12と陽極16との電位差で決定される。陽極16は、例えば、接地電位である。陰極12、ウェーネルト電極14、および陽極16によるレンズ作用によって、クロスオーバーが形成される。
【0016】
バイアス抵抗18は、自己バイアス電圧を発生させるための抵抗器である。バイアス抵抗18は、陰極12とウェーネルト電極14との間に配置されている。バイアス抵抗18の抵抗値は固定されている。電子銃10は、固定バイアス抵抗18によるセルフバイアス方式の熱電子銃である。
【0017】
電子銃10では、陰極12を加熱することによって熱電子を放出させる。放出された電子は、陰極12と陽極16との間に印加された加速電圧によって加速される。エミッション電流は、ウェーネルト電極14に印加されたバイアス電圧によって制御される。エミッション電流は、電子銃10から放出される電子電流である。陰極12、ウェーネルト電極14、および陽極16によるレンズ作用によって、クロスオーバーが形成される。
【0018】
ここで、電子銃10では、エミッション電流がバイアス抵抗18に流れることでバイアス抵抗18で発生する電圧を、バイアス電圧として利用する。これにより、エミッション電流が制限される。バイアス電圧はエミッション電流に比例する。このように、電子銃10は、バイアス電圧がエミッション電流に依存するセルフバイアス方式の熱電子銃である。
【0019】
バイアス電圧、すなわち自己バイアス電圧は、全エミッション電流がバイアス抵抗18を流れるときに生じる電圧降下分の電圧が、陰極12とウェーネルト電極14との間に印加されることになり、一種のフィードバック作用を発生させる。そのため、エミッション電流を変動させる因子が発生しても、自己バイアス電圧の作用により、エミッション電流の変動は低減される。したがって、電子銃10では、エミッション電流を安定化できる。
【0020】
加速電圧電源20は、電子を加速させるための加速電圧を供給する。加速電圧は、陰極12と陽極16との間に印加される電圧である。加速電圧電源20は、ロードカレント値を計測するための電流計22を有している。ロードカレント値は、加速電圧電源20を流れる電流であり、エミッション電流と、加速電圧を発生させるために加速電圧電源20内部を流れる電流と、を加算したものである。
【0021】
光学系30は、第1アライメントコイル32aと、第2アライメントコイル32bと、集束レンズ34と、対物絞り35と、対物レンズ36と、偏向コイル38と、を含む。
【0022】
第1アライメントコイル32aおよび第2アライメントコイル32bは、電子銃10から放出された電子線を偏向させる。第1アライメントコイル32aおよび第2アライメントコイル32bは、例えば、GUNアライメントに用いられる。GUNアライメントとは、電子銃10から放出された電子線を集束レンズ34の光軸に一致するように電子線を偏向させる軸合わせをいう。
【0023】
集束レンズ34は、電子線を集束する。集束レンズ34は、プローブ電流とプローブ径を制御するために用いられる。例えば、集束レンズ34の励磁を強くすると、対物絞り35を通過する電子の量が少なくなり、集束レンズ34の励磁を弱くすると対物絞り35を通過する電子の量が多くなる。また、集束レンズ34の励磁を強くすると、焦点距離が短くなり、電子プローブの縮小率が大きくなる。これらの機能を利用して、プローブ電流の制御およびプローブ径の制御を行うことができる。プローブ電流は、試料に照射される電子プローブを流れる電流である。
【0024】
対物レンズ36は、電子プローブを試料表面に集束させるためのレンズである。集束レンズ34および対物レンズ36によって、電子線が集束されて電子プローブが形成される。
【0025】
偏向コイル38は、電子プローブの走査を行うためのコイルである。偏向コイル38に走査信号を供給することによって、電子プローブの走査が行われる。
【0026】
検出器40は、試料Sに電子線が照射させることによって発生した電子を検出する。検出器40によって検出された信号は、増幅器42で増幅された後、AD変換器44によってデジタル信号に変換され、制御装置60に送られる。
【0027】
アライメント電源50は、第1アライメントコイル32aおよび第2アライメントコイル32bにアライメント電流を供給する。集束レンズ電源52は、集束レンズ34に励磁電流を供給する。対物レンズ電源54は、対物レンズ36に励磁電流を供給する。走査信号発生回路56は、走査信号を発生させ、当該走査信号を偏向コイル38に供給する。
【0028】
制御装置60は、電子顕微鏡100を構成する各部を制御する。制御装置60は、例えば、CPU(Central Processing Unit)および記憶装置(RAM(Random Access Memory)およびROM(Read Only Memory)など)を含む。制御装置60では、CPUで記憶装置に記憶されたプログラムを実行することにより、各種計算処理、各種制御処理を行う。
【0029】
2. 電子顕微鏡の動作
2.1. 制御装置の処理
次に、電子顕微鏡100の動作について説明する。まず、電子顕微鏡100で、走査電子顕微鏡像(SEM像)を取得する場合について説明する。
【0030】
電子顕微鏡100において、SEM像を取得する場合、制御装置60は、試料Sの所望の領域が電子プローブで走査されるように、走査信号発生回路56を制御する。これにより、走査信号発生回路56から走査信号が偏向コイル38に供給され、試料Sの所望の領域が電子プローブで走査される。試料Sへの電子線の照射によって発生した電子は、検出器40によって検出され、検出信号は増幅器42によって増幅された後、制御装置60に送られる。制御装置60は、検出信号に基づいて、SEM像を生成する。
【0031】
次に、電子銃10のフィラメントを交換した後の電子顕微鏡100の立ち上げ時の動作について説明する。電子顕微鏡100では、電子銃10のフィラメントを交換することによって生じるプローブ電流の変化が小さくなるように、制御装置60が集束レンズ電源52を制御する。
【0032】
図2は、電子銃10のフィラメントを交換した後の、制御装置60の処理の一例を示すフローチャートである。
【0033】
フィラメント交換後は、電子顕微鏡100の鏡筒および試料室は大気圧である。そのため、真空ポンプを動作させ、鏡筒および試料室の排気を開始する(S100)。制御装置60は、鏡筒および試料室に配置された真空ゲージで計測された真空度をモニターし、所定の真空度に達した場合(S102のYes)、ユーザーに観察可能であることを通知する(S104)。ユーザーへの通知は、例えば、液晶ディスプレイなどの表示部に観察可能であることを通知する画像を表示することによって行われる。
【0034】
制御装置60は、ユーザーからの観察開始指示の入力を受け付けると(S106のYes)、加速電圧電源20、アライメント電源50、集束レンズ電源52、対物レンズ電源54、および走査信号発生回路56に対して、それぞれSEM像の観察条件を設定する(S116)。SEM像の観察条件は、あらかじめ設定されたSEM像観察の初期条件であってもよいし、ユーザーによって入力されたSEM像の観察条件であってもよい。
【0035】
制御装置60は、あらかじめ設定された所定時間待機する(S110)。これにより、電子顕微鏡100を構成する各部を安定させることができる。前記所定時間は、例えば、10秒以上60秒以下である。
【0036】
制御装置60は、所定時間経過した後(S110のYes)、加速電圧電源20の電流計22からロードカレント値I
L0を取得する(S112)。
【0037】
制御装置60は、取得したロードカレント値I
L0に基づいて、集束レンズ34の条件を設定する(S114)。具体的には、制御装置60は、取得したロードカレント値I
L0に基づいて、フィラメントの高さを求め、求めたフィラメントの高さに基づいて、集束レンズ34の条件を求める。制御装置60は、求めた集束レンズ34の条件となるように集束レンズ電源52を制御する。これにより、集束レンズ34が求めた条件となる。集束レンズ34の条件の設定方法の詳細については後述する。
【0038】
次に、制御装置60は、GUNアライメントの調整を行う(S118)。例えば、制御装置60は、電子銃10から放出された電子線が集束レンズ34の光軸に一致するように、第1アライメントコイル32aおよび第2アライメントコイル32bを動作させる。第1アライメントコイル32aおよび第2アライメントコイル32bの動作は、アライメント電源50を制御することによって制御できる。アライメント調整は、例えば、制御装置60が、公知のオートGUNアライメントを実行することによって行われる。
【0039】
ここで、GUNアライメントの調整は、2つのアライメントコイル(第1アライメントコイル32aおよび第2アライメントコイル32b)に供給される励磁電流を制御することによって、電子線を平面内の2方向に動かして、最適な条件を探索することで行われる。また、GUNアライメントの調整を行うためには、検出器40で検出する信号量の適正化が必要である。例えば、公知の自動コントラスト・ブライトネス調整によるゲイン調整によって信号量を適正化できる。このように、GUNアライメントの調整には時間がかかるが、本処理では集束レンズ34を安定化させるための時間で行われるため、効率がよく、フィラメント交換後、観察を開始できるまでの時間を短縮できる。
【0040】
次に、制御装置60は、フォーカスの調整を行う(S120)。制御装置60は、最適なフォーカスとなるように、対物レンズ36を動作させる。対物レンズ36の動作は、対物レンズ電源54を制御することによって制御できる。フォーカスの調整は、例えば、制御装置60が、公知のオートフォーカスを実行することによって行われる。なお、フォーカスの調整する際にも、上述したゲイン調整を行ってもよい。
【0041】
次に、制御装置60は、加速電圧電源20の電流計22からロードカレント値I
L1を取得する(S122)。
【0042】
制御装置60は、ロードカレント値I
L1とロードカレント値I
L0の差を求め、差があらかじめ設定された基準値ΔI
Lよりも小さいか否かを判定する(S124)。すなわち、|I
L1−I
L0|<ΔI
Lを満たすか否かを判定する。これにより、ロードカレント値が安定したか否かを判定できる。
【0043】
|I
L1−I
L0|<ΔI
Lを満たさないと判定した場合(S124のNo)、制御装置60は、取得したロードカレント値I
L1に基づいて、集束レンズ34の条件を設定する(S126)。具体的には、制御装置60は、取得したロードカレント値I
L1に基づいて、フィラメントの高さを求め、求めたフィラメントの高さに基づいて、集束レンズ34の条件を求める。制御装置60は、求めた集束レンズ34の条件となるように集束レン
ズ電源52を制御する。これにより、集束レンズ34が求めた条件となる。集束レンズ34の条件の設定方法の詳細については後述する。
【0044】
制御装置60は、取得したロードカレント値I
L1に基づいて、集束レンズ34の条件を設定した後、ロードカレント値I
L1をロードカレント値I
LOとして(S128)、ステップS118に戻る。そして、ステップS118、ステップS120、ステップS122、ステップS124、ステップS126、ステップS128の処理を、|I
L1−I
L0|<ΔI
Lを満たすまで繰り返す。
【0045】
制御装置60は、|I
L1−I
L0|<ΔI
Lを満たすと判定した場合(S124のYes)、処理を終了する。
【0046】
2.2. 条件設定
次に、集束レンズ34の条件を設定する処理について説明する。集束レンズ34の条件を設定する処理S116,S126は、取得したロードカレント値I
L0に基づいてフィラメントの高さを求める処理と、求めたフィラメントの高さに基づいて集束レンズ34の条件を設定する処理と、を含む。フィラメントの高さとは、フィラメントの先端とウェーネルト電極14の先端との間の距離である(
図5に示すフィラメントの高さH、参照)。
【0047】
図3は、ロードカレント値I
Lとフィラメントの高さ(Filament height)Hの関係を示すグラフである。
図3では、加速電圧ごとに、ロードカレント値I
Lとフィラメントの高さHの関係を示している。具体的には、加速電圧5kVの場合のロードカレント値I
Lとフィラメントの高さHの関係、加速電圧10kVの場合のロードカレント値I
Lとフィラメントの高さHの関係、加速電圧15kVの場合のロードカレント値I
Lとフィラメントの高さHの関係を示している。
【0048】
図3に示すグラフを用いて、加速電圧およびロードカレント値I
Lからフィラメントの高さHを求めることができる。
【0049】
図4は、フィラメントの高さHと集束レンズ34の条件の関係を示すテーブル2である。
図4に示すテーブル2では、フィラメントの高さHと、所望するプローブ電流と、によって、集束レンズ34の条件(励磁電流)が決まる。
図4に示す例では、プローブ電流は、Biggest、Large、Middle、Standard、Smallの5段階に設定可能である。例えばBiggestの場合、プローブ電流が10nA程度であり、Largeの場合、プローブ電流が2nA程度であり、Middleの場合、プローブ電流が400pA程度であり、Standardの場合、プローブ電流が80pA程度であり、Smallの場合、プローブ電流が16pA程度である。
【0050】
プローブ電流は、ユーザーが任意に選択可能である。例えば、EDS分析など大きなプローブ電流が必要な場合には、BiggestやLargeが選択され、通常のSEM観察では、MiddleやStandardが選択される。また、電子線に弱い試料を観察する場合などには、Smallが選択される。プローブ電流の選択は、例えば、ユーザーが、所望するプローブ電流を、観察を開始する指示とともに入力してもよい。なお、プローブ電流は、あらかじめ設定されていてもよい。
【0051】
図4に示すテーブル2では、フィラメントの高さが0.4mmであって、所望のプローブ電流がBiggestの場合、集束レンズ34の励磁電流は、a1[A]である。また例えば、フィラメントの高さが0.6mmであって、所望のプローブ電流がLargeの場合、集束レンズ34の励磁電流は、b3[A]である。
【0052】
このようにテーブル2を用いることによって、フィラメントの高さHから、所望のプローブ電流を得るための集束レンズ34の条件を設定できる。なお、ここでは、集束レンズ34の条件として励磁電流を挙げたが、集束レンズ34の条件はこれに限定されず、集束レンズ34を制御するための制御値であればよい。このような制御値としては、DAC値などが挙げられる。
【0053】
例えば、フィラメントを交換した際に、フィラメントの製造工程における位置ずれや、フィラメントの取付け誤差などによって電子銃10の輝度が変化しても、テーブル2を用いて集束レンズ34の条件を設定することで、試料に照射されるプローブ電流の変化を小さくできる。
【0054】
2.3. フィラメントの高さと電子銃の輝度との関係
図5および
図6は、電界シミュレーションによるクロスオーバーの高さHの評価結果を示す図である。
図5および
図6ともに、加速電圧15kVで、フィラメントの高さHを変えて計測した。ただし、バイアス電界は、
図3に示すロードカレント値I
Lの結果に基づき修正している。
【0055】
図5は、フィラメントの高さHが0.4mm付近の場合であり、ロードカレント値が約100μAである。
図6は、フィラメントの高さHが0.6mm付近の場合であり、ロードカレント値が約60μAである。バイアス抵抗を4MΩとした場合、バイアス電圧は
図5の場合、4M[Ω]×100μ[A]=400[V]であり、
図6の場合、4M[Ω]×60μ[A]=240[V]となる。この条件で、電子がフィラメント付近から約0.1eVの初期エネルギーで射出されるとき、電位勾配によって電子はそれぞれ異なる軌道をとる。具体的には、
図5ではクロスオーバーがウェーネルト電極の外側で集束し、
図6ではウェーネルト電極の内側で集束している。なお、
図5および
図6では、クロスオーバーの位置を円で囲んでいる。このことは、フィラメント高さHの変化がエミッション電流とバイアス電圧の変化と連動してクロスオーバーの位置を変化させることを示しており、フィラメント高さHの変化が電子銃の輝度も変化させていることがわかる。
【0056】
なお、フィラメントから放出される電子は熱電子であるため、実際には、初期エネルギーは0.1eVよりも広いエネルギー分布を持つ。したがって、実際の電子銃の動作がこの
図5および
図6に示す例と完全に一致するとはいえない。しかしながら、多少の初期エネルギーの増減ではクロスオーバーの位置は大きく変わらず、初期エネルギーの増減よりもフィラメントの高さHの変化の方が、クロスオーバーの位置が大きく変化する。そこで、実際に同一フィラメントでフィラメントの高さを変えて、電子銃の輝度の変化を調べた。
【0057】
図7は、フィラメントの高さHとプローブ電流Ipの関係を示すグラフである。
図7に示すグラフは、同一のフィラメントとウェーネルト電極の組み合わせで、フィラメントの高さHを変えた時に、集束レンズの条件を一定とし、かつ、GUNアライメントを最適な条件として、プローブ電流Ipの変化を計測した結果である。
【0058】
図7に示すプローブ電流Ipの変化は、集束レンズの条件を一定として得られたものである。したがって、プローブ電流Ipの変化は、電子銃の輝度の変化に対応する。輝度は、電子銃の明るさを示す量であり、明るさを単位立体角あたりの電流密度で表したものである。
【0059】
なお、プローブ電流Ipの変化には、上述したクロスオーバーの位置の変化も含まれるが、クロスオーバーの位置の変化は、クロスオーバーの位置から集束レンズまでの距離に対して小さい。例えば、クロスオーバーの位置から集束レンズまでの距離が数cmである
のに対して、クロスオーバーの位置の変化は数mm以下である。そのため、クロスオーバーの位置の変化によるプローブ電流Ipの変化(すなわち輝度の変化)は、極めて小さい(例えば10%以下)と考えられる。
【0060】
したがって、
図7に示すグラフにおいて、プローブ電流Ipの変化は、電子銃の輝度の変化に対応するといえる。
【0061】
図7では、ウェーネルト電極に近い領域A、輝度が低下した領域B、最適な高い輝度が得られる領域C、輝度が低下した領域D、に分けられる。領域Aおよび領域Bは、バイアス効果が弱い条件であり、領域Dはバイアス効果が強すぎるため輝度が低下している。バイアス効果とは、バイアス電圧がエミッション電流を制限する度合いをいい、バイアス効果が強いほどエミッション電流が制限されることを意味する。セルフバイアス方式の電子銃では、暗電流を含むロードカレント値でバイアス電圧が決定され、フィラメントの高さHでバイアス効果が変化する。
【0062】
ここで、熱電子銃では、一般的に、カットオフ電圧の手前に最大輝度条件があり、最大輝度条件の手前のバイアス効果が弱まる条件では輝度が低下する。領域B、領域C、および領域Dは、この関係にある。また、領域Aはバイアス効果が弱いためにプローブ電流が増加し、見かけの輝度が高まっているように思われるが、クロスオーバーが複数の輝点に分裂する不具合があるため、最適なバイアス条件とはいえない。これらのことから、フィラメントの高さHが領域Cのときに、バイアス効果が最適となり、高い輝度が得られる。
【0063】
図7に示すグラフは、集束レンズの条件を固定してフィラメントの高さHを変えたときのプローブ電流の変化を表しているが、集束レンズの条件を設定するために利用するのは、プローブ電流が一定となる集束レンズの条件となる。これは、
図7に示すグラフと類似するカーブを持ち、3次以上の曲線で近似できる。フィラメントの高さを変えたときに、プローブ電流が一定となる集束レンズの条件をまとめたものが
図4に示すテーブル2である。例えば、プローブ電流Ipは、次式のような関係式で表される。
【0064】
Ip(AccV,Cl,H)≒
−A(AccV,Cl)・H
3+B(AccV,Cl)・H
2
−C(AccV,Cl)・H+D(AccV,Cl)
ただし、Ipはプローブ電流であり、AccVは加速電圧であり、Clは集束レンズの条件である。また、A、B、C、Dは、フィラメントの高さHに応じて個別に変化する係数である。
【0065】
上述したテーブル2は、上記式から作成することができる。
【0066】
3. 効果
本実施形態に係る電子顕微鏡の制御方法は、固定バイアス抵抗18によるセルフバイアス方式の熱電子銃10、熱電子銃10に加速電圧を供給する加速電圧電源20、および試料に電子線を照射するための集束レンズ34を備えた電子顕微鏡の制御方法であって、加速電圧電源20を流れる電流であるロードカレント値を取得する工程と、ロードカレント値に基づいて熱電子銃10のフィラメントの高さHを求める工程と、フィラメントの高さHに基づいて集束レンズ34の条件を設定する工程と、を含む。そのため、フィラメントを交換することによって生じるプローブ電流の変化を小さくできる。
【0067】
例えば、従来、フィラメントを交換した後に、熱電子銃の輝度が低く所望のプローブ電流が得られなかった場合、当該フィラメントを不良として破棄していた。これに対して、本実施形態では、熱電子銃10の輝度が低くても集束レンズ34の作用によって所望のプ
ローブ電流が得られるため、当該フィラメントを使用できる。
【0068】
例えば、
図7に示す例では、フィラメントの高さが0.45mm程度の領域Bに位置するフィラメントは、十分なプローブ電流が得られないとして、破棄されていた。これに対して、本実施形態では、領域Bに位置するフィラメントであっても、集束レンズ34の作用によって、領域Cと同等のプローブ電流が得られるため、当該フィラメントを利用できる。
【0069】
また、本実施形態では、ロードカレント値に基づいてフィラメントの高さHを求め、フィラメントの高さHに基づいて集束レンズ34の条件を設定するため、容易に、集束レンズ34の条件を設定できる。例えば、プローブ電流に基づいて集束レンズ34の条件を設定する場合、ファラデーカップなどを用いてプローブ電流を測定しなければならない。本実施形態では、取得が容易なロードカレント値を取得すればよいため、容易に、集束レンズ34の条件を設定できる。
【0070】
また、本実施形態では、固定バイアス抵抗18によるセルフバイアス方式の熱電子銃10であるため、バイアス抵抗を可変にできる方式と比べて、小型、かつ、簡易な構成とすることができる。
【0071】
4. 変形例
なお、本発明は上述した実施形態に限定されず、本発明の要旨の範囲内で種々の変形実施が可能である。
【0072】
4.1. 第1変形例
例えば、上述した実施形態では、電子銃10の陰極12として用いられるフィラメントとして、タングステンからなるフィラメント、および、ホウ化ランタン(LaB
6)の単結晶からなるフィラメントを挙げたが、フィラメントの材質はこれに限定されない。陰極12に用いられるフィラメントの材質としては、例えば、Ta、Nb、Mo、Ru、Rh、V、Ti、Niなどが挙げられる。また、陰極12として、Th、Y
2O
3、ThO
2、Ba、CeO
2、Os、Irが塗布された金属ワイヤー、またはこれらの金属を含有する金属ワイヤーフィラメントを用いてもよい。これにより、金属表面の仕事関数を低下できるため、加熱温度を下げることができ、長寿命の電子源を実現できる。
【0073】
また、陰極12として、LaB
6の単結晶からなるフィラメントの他にも、CeB
6、CaB
6、BaB
6、ZrC、SiC、TaC、TiC、NbCなどの単結晶からなるフィラメントを用いてもよい。また、焼結体の多孔質のタングステンに、BaO、CaO、Al
2O
3からなる電子放射物質を含む含浸型カソードを、先端の電子放出面を丸く加工したチップにして金属ワイヤーの先端に取り付けて電子銃10の陰極12としてもよい。
【0074】
4.2. 第2変形例
図8および
図9は、電子顕微鏡100の電子銃10の一部を模式的に示す図である。なお、
図9では、電子銃10の一部を構成する部材ごとに、分解して図示している。
【0075】
電子銃10では、
図8および
図9に示すように、フィラメントユニット102を交換することによって、フィラメントを交換できる。フィラメントユニット102とウェーネルト電極14との間には、スペーサー104を配置できる。フィラメントユニット102とウェーネルト電極14との間に配置するスペーサー104の数によって、フィラメントの高さを調整可能である。
【0076】
なお、上述した実施形態及び変形例は一例であって、これらに限定されるわけではない
。例えば各実施形態及び各変形例は、適宜組み合わせることが可能である。
【0077】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、さらに種々の変形が可能である。例えば、本発明は、実施形態で説明した構成と実質的に同一の構成を含む。実質的に同一の構成とは、例えば、機能、方法、及び結果が同一の構成、あるいは目的及び効果が同一の構成である。また、本発明は、実施形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。