(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記(メタ)アクリルモノマー(X)の含有量が、前記(メタ)アクリルモノマー成分の合計含有量1000質量部に対し、300質量部以上である請求項1〜請求項7のいずれか1項に記載の光硬化性組成物。
前記光重合開始剤が、アルキルフェノン系化合物及びアシルフォスフィンオキサイド系化合物から選ばれる少なくとも1種である請求項1〜請求項8のいずれか1項に記載の光硬化性組成物。
前記光重合開始剤の含有量が、前記(メタ)アクリルモノマー成分の合計含有量1000質量部に対し、1質量部〜50質量部である請求項1〜請求項9のいずれか1項に記載の光硬化性組成物。
E型粘度計を用いて測定された、25℃、50rpmにおける粘度が、20mPa・s〜3000mPa・sである請求項1〜請求項10のいずれか1項に記載の光硬化性組成物。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
3Dプリンタを用い、光造形物、好ましくは、歯科補綴物、口腔内で使用される医療器具、又は歯顎モデル(以下、これらを総称し「歯科補綴物等」ともいう)を製造する方法の一つとして、光硬化性組成物を歯科補綴物等の形状に造形し、得られた造形物を光硬化させることによって歯科補綴物等を製造する、「光造形」と呼ばれる方法が挙げられる。
光造形によって光造形物、好ましくは、歯科補綴物等(特に義歯床)を作製する場合、実用性を考慮すると、光硬化後の光硬化性組成物に対し、優れた曲げ強度(曲げ強さ)及び曲げ弾性率が求められる。更に、この場合において、光硬化後の光硬化性組成物に対し、優れた破壊靱性が求められる場合がある。
【0004】
即ち、本発明の一実施形態の目的は、光造形に用いられ、光硬化後において、曲げ強度及び曲げ弾性率に優れ、更には破壊靱性にも優れる光硬化性組成物を提供することである。
また、本発明の一実施形態の目的は、上記光硬化性組成物の硬化物であって、曲げ強度及び曲げ弾性率に優れ、更には破壊靱性にも優れる義歯床、並びに、上記義歯床を備える有床義歯を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者等は、鋭意検討した結果、特定のモノマー種の組み合わせを含有し、特定の官能基価(a)が特定の範囲内である光硬化性組成物が、光硬化後において、曲げ強度及び曲げ弾性率に優れ、更には破壊靱性にも優れることを見出し、さらに、光造形による歯科補綴物等(即ち、歯科補綴物、口腔内で使用される医療器具、又は歯顎モデル)の作製に特に好適であることを見出し、本発明を完成させた。
即ち、前記課題を解決するための具体的手段は以下のとおりである。
【0006】
<1> 光造形に用いられる光硬化性組成物であって、1分子中に2個の芳香環と2個の(メタ)アクリロイルオキシ基とを有するジ(メタ)アクリルモノマーから選ばれる少なくとも1種であり重量平均分子量が400以上580以下である(メタ)アクリルモノマー(X)と、1分子中に少なくとも1個の芳香環、及び1個の(メタ)アクリロイルオキシ基とを有する(メタ)アクリルモノマーから選ばれる少なくとも1種であり重量平均分子量が140以上350以下である(メタ)アクリルモノマー(D)、並びに、光重合開始剤を含有する光硬化性組成物。
<2> 前記(メタ)アクリルモノマー(X)を構成するジ(メタ)アクリルモノマーのうちの少なくとも1種が、1分子中にエーテル結合を有する<1>に記載の光硬化性組成物。
<4> 前記(メタ)アクリルモノマー(X)を構成するジ(メタ)アクリルモノマーのうちの少なくとも1種が、1分子中に1個以上4個以下のエーテル結合を有する<1>又は<2>に記載の光硬化性組成物。
【0007】
前記(メタ)アクリルモノマー(X)を構成するジ(メタ)アクリルモノマーのうちの少なくとも1種が、下記一般式(x−1)で表される化合物である<1>〜<3>のいずれか1つに記載の光硬化性組成物。
【化1】
〔一般式(x−1)中、R
1x、R
2x、R
11x、及びR
12xは、それぞれ独立に、水素原子又はメチル基を表す。R
3x及びR
4xは、それぞれ独立に、直鎖又は分岐鎖の炭素原子数2〜4のアルキレン基を表す。mx及びnxは、それぞれ独立に、0〜4を表す。但し、1≦(mx+nx)≦4を満たす。〕
【0008】
<5> 前記アクリルモノマー(X)を構成するジ(メタ)アクリルモノマーのうちの少なくとも1種が、下記一般式(x−2)で表される化合物である<1>〜<4>のいずれか1つに記載の光硬化性組成物。
【化2】
〔一般式(x−2)中、R
5x、R
6x、R
7x、R
8x、R
11x、及びR
12xは、それぞれ独立に、水素原子又はメチル基を表す。mx及びnxは、それぞれ独立に、0〜4を表す。但し、1≦(mx+nx)≦4を満たす。〕
【0009】
<6> 前記(メタ)アクリルモノマー(D)を構成する(メタ)アクリルモノマーのうちの少なくとも1種が、下記の一般式(d−1)で表される化合物である<1>〜<5>のいずれか1つに記載の光硬化性組成物。
【化3】
〔一般式(d−1)中、R
1dは水素原子又はメチル基を表す。R
2dは、単結合、直鎖又は分岐鎖の炭素原子数1〜5のアルキレン基を表す。R
3dは単結合、エーテル結合(−O−)、エステル結合(−O−(C=O)−)、又は−C
6H
4−O−を表す。A
1dは置換基を有していてもよい少なくとも1個の芳香環を表す。ndは、1〜2を表す。〕
【0010】
<7> 前記(メタ)アクリルモノマー(D)を構成する(メタ)アクリルモノマーのうちの少なくとも1種が、下記一般式(d−2)で表される化合物である<6>に記載の光硬化性組成物。
【化4】
〔一般式(d−2)中、R
1d、R
4d及びR
5dは、それぞれ独立に、水素原子又はメチル基を表す。A
2dは置換基を有していてもよい少なくとも1個の芳香環を表す。ndは、1〜2を表す。〕
【0011】
<8> 前記アクリルモノマー(X)の含有量が、前記(メタ)アクリルモノマー成分の合計含有量1000質量部に対し、300質量部以上である<1>〜<7>のいずれか1つに記載の光硬化性組成物。
<9> 前記アクリルモノマー(D)の含有量が、前記(メタ)アクリルモノマー成分の合計含有量1000質量部に対し、30質量部〜700質量部である<1>〜<8>のいずれか1つに記載の光硬化性組成物。
【0012】
<10> 前記光重合開始剤が、アルキルフェノン系化合物及びアシルフォスフィンオキサイド系化合物から選ばれる少なくとも1種である<1>〜<9>のいずれか1つに記載の光硬化性組成物。
<11> 前記光重合開始剤の含有量が、前記(メタ)アクリルモノマー成分の合計含有量1000質量部に対し、1質量部〜50質量部である<1>〜<10>のいずれか1つに記載の光硬化性組成物。
<12> E型粘度計を用いて測定された、25℃、50rpmにおける粘度が、20mPa・s〜3000mPa・sである<1>〜<11>のいずれか1つに記載の光硬化性組成物。
【0013】
<13> 光造形による、歯科補綴物、口腔内で使用される医療器具、又は歯顎モデルの作製に用いられる<1>〜<12>のいずれか1つに記載の光硬化性組成物。
<14> 光造形による、義歯床又はマウスピースの作製に用いられる<1>〜<12>のいずれか1項に記載の光硬化性組成物。
<15> 光造形による義歯床の作製に用いられる<1>〜<12>のいずれか1つに記載の光硬化性組成物。
【0014】
<16> <15>に記載の光硬化性組成物の硬化物である義歯床。
<17> <16>に記載の義歯床と、前記義歯床に固定された人工歯と、を備える有床義歯。
【発明の効果】
【0015】
本発明の一実施形態によれば、光造形に用いられ、光硬化後において、曲げ強度及び曲げ弾性率に優れ、更には破壊靱性にも優れる光硬化性組成物が提供される。
また、本発明の一実施形態によれば、上記光硬化性組成物の硬化物であって、曲げ強度及び曲げ弾性率に優れ、更には破壊靱性にも優れる義歯床、並びに、上記義歯床を備える有床義歯が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本明細書において、「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
また、本明細書において「エーテル結合」とは、通常定義されるとおり、2つの炭化水素基間を酸素原子によって結ぶ結合(−O−で表される結合)を示す。従って、エステル結合(−C(=O)−O−)中の「−O−」は、「エーテル結合」には該当しない。
また、本明細書において、「(メタ)アクリルモノマー」は、アクリルモノマー及びメタクリルモノマーの両方を包含する概念である。
また、本明細書において、「(メタ)アクリレート」は、アクリレート及びメタクリレートの両方を包含する概念である。
また、本明細書において、「(メタ)アクリロイルオキシ基」は、アクリロイルオキシ基及びメタクリロイルオキシ基の両方を包含する概念である。
【0017】
[光硬化性組成物]
本発明の一実施形態に係る光硬化性組成物は、光造形に用いられる光硬化性組成物であって、
1分子中に2個の芳香環と2個の(メタ)アクリロイルオキシ基とを有するジ(メタ)アクリルモノマーから選ばれる少なくとも1種であり重量平均分子量が400以上580以下である(メタ)アクリルモノマー(X)と、1分子中に少なくとも1個の芳香環及び1個の(メタ)アクリロイルオキシ基とを有する(メタ)アクリルモノマーから選ばれる少なくとも1種であり重量平均分子量が140以上350以下である(メタ)アクリルモノマー(D)と、を含む(メタ)アクリルモノマー成分、並びに、光重合開始剤を含有する。
【0018】
本実施形態の光硬化性組成物は、上記アクリルモノマー(X)と上記(メタ)アクリルモノマー(D)との組み合わせを含むことにより、光硬化後において、曲げ強度及び曲げ弾性率に優れ、更には破壊靱性にも優れる。
従って、本実施形態の光硬化性組成物を用い、光造形によって作製された光造形物、好ましくは、歯科補綴物等(即ち、歯科補綴物、口腔内で使用される医療器具、又は歯顎モデル。以下同じ。特に義歯床)も、曲げ強度及び曲げ弾性率に優れ、更には破壊靱性にも優れる。
更に、本実施形態の光硬化性組成物は、光造形による歯科補綴物等(光造形物の好ましい形態の例、以下同じ。)の作製に適した粘度を有する。
【0019】
本明細書中において、「(メタ)アクリルモノマー成分」とは、光硬化性組成物に含まれる(メタ)アクリルモノマー全体を指す。
「(メタ)アクリルモノマー成分」には、少なくとも(メタ)アクリルモノマー(X)及び(メタ)アクリルモノマー(D)が含まれる。
「(メタ)アクリルモノマー成分」には、(メタ)アクリルモノマー(X)又は(メタ)アクリルモノマー(D)以外の他の(メタ)アクリルモノマーが含まれていてもよい。
【0020】
本実施形態の光硬化性組成物では、(メタ)アクリルモノマー(X)を含むことにより、(メタ)アクリルモノマー(X)に代えて、1分子中に1個の芳香環と1個の(メタ)アクリロイルオキシ基とを有する(メタ)アクリルモノマーを含む場合と比較して、光硬化後の曲げ強度及び曲げ弾性率が向上する。
【0021】
本実施形態の光硬化性組成物では、(メタ)アクリルモノマー(X)を含むことにより、(メタ)アクリルモノマー(X)に代えて、1分子中に1個の芳香環と2個の(メタ)アクリロイルオキシ基とを有するジ(メタ)アクリルモノマーを含む場合と比較して、モノマーの結晶性が高くなりすぎる現象が抑制され、光硬化性組成物の粘度が低減される。
【0022】
本実施形態の光硬化性組成物では、(メタ)アクリルモノマー(X)を含むことにより、(メタ)アクリルモノマー(X)に代えて、1分子中に3個以上の芳香環を有する(メタ)アクリルモノマーを用いた場合と比較して、光硬化性組成物の粘度が低減される。
【0023】
本実施形態の光硬化性組成物では、(メタ)アクリルモノマー(X)を含むことにより、(メタ)アクリルモノマー(X)に代えて、1分子中に3個以上の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する(メタ)アクリルモノマーを用いた場合と比較して、光硬化後の破壊靱性が向上する。
【0024】
また、(メタ)アクリルモノマー(X)の重量平均分子量の上限である580は、光硬化後の、曲げ強度及び曲げ弾性率の観点から設けられた上限である。
なお、(メタ)アクリルモノマー(X)の重量平均分子量の下限である400は、モノマーの製造容易性又は入手容易性の観点から設けられた下限である。
【0025】
更に、本実施形態の光硬化性組成物では、(メタ)アクリルモノマー(D)を含むことにより、光硬化後の破壊靱性が向上する。
(メタ)アクリルモノマー(D)の重量平均分子量の上限である350は、光硬化後の、曲げ強度及び曲げ弾性率の観点から設けられた上限である。
(メタ)アクリルモノマー(D)の重量平均分子量の下限である140は、モノマーの製造容易性又は入手容易性の観点から設けられた下限である。
【0026】
本実施形態の光硬化性組成物は、得られる歯科補綴物等(特に義歯床)の実用性の観点から、光硬化後において、以下の曲げ強度(即ち、曲げ強さ)及び以下の曲げ弾性率を満たすことが好ましい。
即ち、本実施形態の光硬化性組成物は、64mm×10mm×厚さ3.3mmの大きさに造形して造形物とし、得られた造形物に対し10J/cm
2の条件で紫外線照射して光硬化させて光造形物(即ち、硬化物。以下同じ。)とし、得られた光造形物を37±1℃の恒温水槽にて50±2時間保管し、保管後にISO20795−1:2008(又は、JIS T 6501:2012)に準拠して曲げ強度(曲げ強さ)を測定したときに、この曲げ強度(曲げ強さ)が、60MPa以上を満たすことが好ましく、65MPa以上を満たすことがより好ましい。
また、本実施形態の光硬化性組成物は、64mm×10mm×厚さ3.3mmの大きさに造形して造形物とし、得られた造形物に対し10J/cm
2の条件で紫外線照射して光硬化させて光造形物とし、得られた光造形物を37±1℃の恒温水槽にて50±2時間保管し、保管後にISO20795−1:2008(又は、JIS T 6501:2012)に準拠して曲げ弾性率を測定したときに、この曲げ弾性率が、1500MPa以上を満たすことが好ましく、2000MPa以上を満たすことがより好ましい。
【0027】
また、本明細書において、「破壊靱性」とは、曲げ試験による破壊靱性試験を行って求められた全破壊仕事(単位の例:J/cm
2)を意味する。
本実施形態の光硬化性組成物は、39mm×8mm×厚さ4mmの大きさに造形して造形物とし、得られた造形物に対し10J/cm
2の条件で紫外線照射して光硬化させて光造形物とし、ISO20795−1:2008に準拠し、得られた光造形物にノッチ加工を施した上で37±1℃の恒温水槽にて7日間±2時間保管し、保管後に、押込み速度1.0±0.2mm/分の条件で曲げ試験による破壊靱性試験を行って全破壊仕事(J/m
2)を測定したときに、この全破壊仕事(J/m
2)が、65J/m
2以上を満たすことが好ましく、70J/m
2以上を満たすことがより好ましく、75J/m
2以上を満たすことが更に好ましい。
【0028】
本実施形態の光硬化性組成物は、歯科補綴物等(即ち、歯科補綴物、口腔内で使用される医療器具、又は歯顎モデル)の光造形による作製に用いられる。
本実施形態において、歯科補綴物としては、義歯床、義歯、インレー、クラウン、ブリッジ、テンポラリークラウン、テンポラリーブリッジ等が挙げられる。中でも、義歯床が好ましい。
また、本実施形態において、口腔内で使用される医療器具としては、歯科矯正器具(例えば、マウスピース、歯列矯正器具)、咬合用スプリント、印象採得用トレイ、手術用ガイド等が挙げられる。中でも、歯科矯正器具が好ましく、マウスピースがより好ましい。
歯科補綴物等(即ち、歯科補綴物、口腔内で使用される医療器具、又は歯顎モデル)としては、歯科補綴物又は歯科矯正器具が好ましく、義歯床又はマウスピースがより好ましく、義歯床が特に好ましい。
【0029】
本実施形態において、「光造形」は、3Dプリンタを用いた三次元造形方法のうちの1種である。
光造形の方式としては、SLA(Stereo Lithography Apparatus)方式、DLP(Digital Light Processing)方式、インクジェット方式などが挙げられる。
本実施形態の光硬化性組成物は、SLA方式又はDLP方式の光造形に特に好適である。
【0030】
SLA方式としては、スポット状の紫外線レーザー光を光硬化性組成物に照射することにより立体造形物を得る方式が挙げられる。
SLA方式によって歯科補綴物等を作製する場合、例えば、本実施形態の光硬化性組成物を容器に貯留し、光硬化性組成物の液面に所望のパターンが得られるようにスポット状の紫外線レーザー光を選択的に照射して光硬化性組成物を硬化させ、所望の厚みの硬化層を造形テーブル上に形成し、次いで、造形テーブルを降下させ、硬化層の上に1層分の液状光硬化性組成物を供給し、同様に硬化させ、連続した硬化層を得る積層操作を繰り返せばよい。これにより、歯科補綴物等を作製することができる。
【0031】
DLP方式としては、面状の光を光硬化性組成物に照射することにより立体造形物を得る方式が挙げられる。
DLP方式によって立体造形物を得る方法については、例えば、特許第5111880号公報及び特許第5235056号公報の記載を適宜参照することができる。
DLP方式によって歯科補綴物等を作製する場合、例えば、光源として高圧水銀ランプ、超高圧水銀ランプ、低圧水銀ランプなどのレーザー光以外の光を発射するランプ、LEDなどを用い、光源と光硬化性組成物の造形面との間に、複数のデジタルマイクロミラーシャッターを面状に配置した面状描画マスクを配置し、前記面状描画マスクを介して光硬化性組成物の造形面に光を照射して所定の形状パターンを有する硬化層を順次積層させればよい。これにより、歯科補綴物等を作製することができる。
【0032】
インクジェット方式としては、インクジェットノズルから光硬化性組成物の液滴を基材に連続的に吐出し、基材に付着した液滴に光を照射することにより立体造形物を得る方式が挙げられる。
インクジェット方式によって歯科補綴物等を作製する場合、例えば、インクジェットノズル及び光源を備えるヘッドを平面内で走査させつつ、インクジェットノズルから光硬化性組成物を基材に吐出し、かつ吐出された光硬化性組成物に光を照射して硬化層を形成し、これらの操作を繰り返して、硬化層を順次積層させればよい。これにより、歯科補綴物等を作製することができる。
【0033】
本実施形態の光硬化性組成物は、光造形による歯科補綴物等の作製に対する適性の観点から、E型粘度計を用いて測定された、25℃、50rpmにおける粘度が、20mPa・s〜3000mPa・sであることが好ましい。前記粘度の下限は、50mPa・sであることがより好ましい。前記粘度の上限は、2000mPa・sであることがより好ましく、1500mPa・sであることがさらに好ましく、1200mPa・sであることが特に好ましい。
【0034】
また、光造形の方式に応じて、本実施形態の光硬化性組成物の、25℃、50rpmにおける粘度を調整してもよい。
例えば、SLA方式により歯科補綴物等を作製する場合、前記粘度は、50mPa・s〜3000mPa・sであることが好ましく、50mPa・s〜2000mPa・sであることがより好ましく、50mPa・s〜1500mPa・sであることがさらに好ましく、50mPa・s〜1200mPa・sであることが特に好ましい。
例えば、DLP方式により歯科補綴物等を作製する場合、前記粘度は、50mPa・s〜500mPa・sであることが好ましく、50mPa・s〜250mPa・sであることがより好ましい。
例えば、インクジェット方式により歯科補綴物等を作製する場合、前記粘度は、20mPa・s〜500mPa・sであることが好ましく、20mPa・s〜100mPa・sであることが好ましい。
【0035】
次に、本実施形態の光硬化性組成物の成分について説明する。
【0036】
<(メタ)アクリルモノマー(X)>
本実施形態の光硬化性組成物における(メタ)アクリルモノマー成分は、(メタ)アクリルモノマー(X)を含む。
(メタ)アクリルモノマー(X)は、1分子中に2個の芳香環と2個の(メタ)アクリロイルオキシ基とを有するジ(メタ)アクリルモノマーから選ばれる少なくとも1種であり、重量平均分子量が400以上580以下である。
本実施形態の光硬化性組成物において、(メタ)アクリルモノマー(X)は、主として、光硬化後の曲げ強度及び曲げ弾性率向上に寄与する。
【0037】
上記(メタ)アクリルモノマー(X)は、1分子中に2個の芳香環と2個の(メタ)アクリロイルオキシ基とを有するジ(メタ)アクリルモノマーの1種のみからなるものであってもよいし、このジ(メタ)アクリルモノマーの2種以上からなる混合物であってもよい。
【0038】
(メタ)アクリルモノマー(X)を構成するジ(メタ)アクリルモノマーのうちの少なくとも1種は、光硬化後の破壊靱性をより向上させる観点から、1分子中にエーテル結合を有することが好ましい。
詳細には、(メタ)アクリルモノマー(X)を構成するジ(メタ)アクリルモノマーのうちの少なくとも1種が1分子中にエーテル結合を有することにより、分子運動の自由度が増し、光硬化後の硬化物に柔軟性が付与されることで靱性が向上し、その結果、上記硬化物の破壊靱性(即ち、光硬化性組成物の光硬化後の破壊靱性)が向上する。
【0039】
上記ジ(メタ)アクリルモノマーのうちの少なくとも1種は、1分子中に1個以上4個以下のエーテル結合を有することがより好ましい。
上記ジ(メタ)アクリルモノマーのうちの少なくとも1種において、1分子中のエーテル結合の数が4個以下であると、光硬化後の曲げ強度及び曲げ弾性率がより向上する。
1分子中のエーテル結合の数は、光硬化後の曲げ強度及び曲げ弾性率をより向上させる観点から、2個以上4個以下であることが更に好ましく、2個以上3個以下であることが特に好ましい。
【0040】
上記ジ(メタ)アクリルモノマーのうちの少なくとも1種は、光硬化性組成物の粘度を低減させ、光硬化後の、破壊靱性、曲げ強度、及び曲げ弾性率をより向上させる観点から、下記一般式(x−1)で表される化合物であることが更に好ましい。
【0042】
一般式(x−1)中、R
1x、R
2x、R
11x、及びR
12xは、それぞれ独立に、水素原子又はメチル基を表す。R
3x及びR
4xは、それぞれ独立に、直鎖又は分岐鎖の炭素原子数2〜4のアルキレン基を表す。mx及びnxは、それぞれ独立に、0〜4を表す。但し、1≦(mx+nx)≦4を満たす。
【0043】
一般式(x−1)中にR
3xが複数存在する場合、複数のR
3xは同一であっても異なっていてもよい。R
4xについても同様である。
【0044】
前記一般式(x−1)では、R
1x及びR
2xは、メチル基であることが好ましい。
また、R
3x及びR
4xは、それぞれ独立に、エチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、1−メチルエチレン基、1−エチルエチレン基又は2−メチルトリメチレン基であることが好ましく、エチレン基又は1−メチルエチレン基であることがより好ましい。
さらに、R
3x及びR
4xは、共にエチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、1−メチルエチレン基又は2−メチルトリメチレン基であることが好ましく、共にエチレン基又は1−メチルエチレン基であることがより好ましい。
また、mx+nxは1〜4であるが、光硬化後の曲げ強度及び曲げ弾性率をより向上させる観点から、2〜3であることが特に好ましい。
【0045】
(メタ)アクリルモノマー(X)を構成するジ(メタ)アクリルモノマーのうちの少なくとも1種は、光硬化性組成物の粘度を低減させ、光硬化後の、破壊靱性、曲げ強度、及び曲げ弾性率をより向上させる観点から、下記一般式(x−2)で表される化合物であることが更に好ましい。
【0047】
一般式(x−2)中、R
5x、R
6x、R
7x、R
8x、R
11x、及びR
12xは、それぞれ独立に、水素原子又はメチル基を表す。mx及びnxは、それぞれ独立に、0〜4を表す。但し、1≦(mx+nx)≦4を満たす。
【0048】
一般式(x−2)中にR
5xが複数存在する場合、複数のR
5xは、同一であっても異なっていてもよい。R
6x、R
7x、及びR
8xの各々についても同様である。
【0049】
一般式(x−2)において、R
5x及びR
6xのうちの一方がメチル基であって他方が水素原子であり、かつ、R
7x及びR
8xのうちの一方がメチル基であって他方が水素原子であることが好ましい。
一般式(x−2)において、特に好ましくは、R
5x及びR
8xが共にメチル基であって、R
6x及びR
7xが共に水素原子であることである。
【0050】
また、mx+nxは1〜4であるが、光硬化後の曲げ強度及び曲げ弾性率をより向上させる観点から、2〜3であることが特に好ましい。
【0051】
(メタ)アクリルモノマー(X)の具体例としては、エトキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート(EO=2mol、2.2mol、2.6mol、3mol、又は4mol)、プロポキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート(PO=2mol、3mol、又は4mol)、エトキシ化ビスフェノールFジ(メタ)アクリレート(EO=2mol、2.2mol、2.3mol、2.6mol、3mol、又は4mol)、等が挙げられる。
【0052】
本実施形態の光硬化性組成物において、(メタ)アクリルモノマー(X)の含有量は、(メタ)アクリルモノマー成分の合計含有量1000質量部に対し、組成物の粘度低減、並びに、光硬化後の曲げ強度及び曲げ弾性率向上の観点から、100質量部以上であることが好ましく、300質量部以上であることがより好ましく、400質量部以上であることが更に好ましく、500質量部以上であることが更に好ましく、550質量部以上であることが更に好ましい。
また、(メタ)アクリルモノマー(X)の含有量は、(メタ)アクリルモノマー成分の合計含有量1000質量部に対し、1000質量部未満であれば特に制限はないが、光硬化後の破壊靱性の観点から、950質量部以下であることが好ましく、900質量部以下であることがより好ましく、800質量部以下であることが更に好ましい。
【0053】
<(メタ)アクリルモノマー(D)>
本実施形態の光硬化性組成物は、(メタ)アクリルモノマー(D)を含む。
(メタ)アクリルモノマー(D)は、1分子中に少なくとも1個の芳香環、及び1個の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する(メタ)アクリルモノマーから選ばれる少なくとも1種であり、重量平均分子量が140以上350以下である。(メタ)アクリルモノマー(D)1分子中に含まれる芳香環の数は1個以上であれば特に限定はされないが、1個〜3個含まれることが好ましく、1個又は2個含まれることがさらに好ましい。1分子中に複数の芳香環が含まれる場合、芳香環の種類は同じでもよいし、互いに異なっていてもよい。
(メタ)アクリルモノマー成分が(メタ)アクリルモノマー(D)を含む場合には、光硬化後の破壊靱性が顕著に向上する。
(メタ)アクリルモノマー(D)は、1分子中に少なくとも1個の芳香環、及び1個の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する(メタ)アクリルモノマーの1種のみからなるものであってもよいし、2種以上の1分子中に少なくとも1個の芳香環、及び1個の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する(メタ)アクリルモノマーからなる混合物であってもよい。
また、(メタ)アクリルモノマー(D)において、芳香環はアルキル基、アリール基、アルキルアリール基又はアリールオキシ基等の置換基を有していてもよい。また、(メタ)アクリルモノマー(D)は、エーテル結合又はエステル結合(アクリロイルオキシ基に含まれるものを除く)を1個又は2個有することが好ましい。
【0054】
(メタ)アクリルモノマー(D)としては、例えば、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、3−フェノキシベンジル(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコール(メタ)アクリル酸安息香酸エステル、2−(o−フェニルフェノキシ)エチル(メタ)アクリレート、2−(1−ナフトキシ)エチル(メタ)アクリレート、p−クミルフェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ノニルフェノールEO変性(メタ)アクリレート(EO=1mol)、等が挙げられる。
【0055】
(メタ)アクリルモノマー(D)を構成する(メタ)アクリルモノマーのうちの少なくとも1種は、光硬化後の破壊靱性をより向上させる観点から、下記一般式(d−1)で表される化合物であることが好ましい。
【0057】
一般式(d−1)中、R
1dは水素原子又はメチル基を表す。R
2dは単結合、又は直鎖もしくは分岐鎖の炭素原子数1〜5のアルキレン基を表す。R
3dは単結合、エーテル結合(即ち、−O−)、エステル結合(即ち、−O−(C=O)−)、又は−C
6H
4−O−を表す。A
1dは置換基を有していてもよい芳香環を表す。ndは、1〜2を表す。また、A
1dの芳香環の置換基としてはアルキル基(メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等)、アリール基、アルキルアリール基、アリールオキシ基等が挙げられる。
A
1dにおける置換基を有していてもよい芳香環としては、例えば、フェニル基、フェニルエーテル基、ビフェニル基、テルペニル基、ベンズヒドリル基、ジフェニルアミノ基、ベンゾフェノン基、ナフチル基、アントラセニル基又はフェナンスレニル基、トリル基、キシリル基、メシチル基、クミル基、スチリル基又はノニルフェニル基があげられる。
A
1dにおける芳香環としては、フェニル基、フェニルエーテル基、ビフェニル基、ナフチル基、クミル基又はノニルフェニル基が好ましい。
【0058】
また、一般式(d−1)中、エーテル結合又はエステル結合(但し、アクリロイルオキシ基に含まれるものを除く)が1個又は2個含まれることが好ましい。
R
2dで表される直鎖又もしくは分岐鎖の炭素原子数1〜5のアルキレン基としては、例えば、メチレン基、エチレン基、n−プロピレン基、イソプロピレン基、n−ブチレン基、イソブチレン基、sec−ブチレン基、tert−ブチレン基、n−ペンチレン基、イソペンチレン基、ネオペンチレン基、sec−ペンチレン基、tert−ペンチレン基又は3−ペンチレン基があげられる。中でも、R
2dは、単結合、メチレン基またはエチレン基であることが好ましい。
R
3dは、エーテル結合又はエステル結合であることが好ましい。
【0059】
(メタ)アクリルモノマー(D)を構成する(メタ)アクリルモノマーのうちの少なくとも1種は、光硬化後の破壊靱性をより向上させる観点から、下記一般式(d−2)で表される化合物であることがより好ましい。
【0061】
一般式(d−2)中、R
1d、R
4d及びR
5dは、それぞれ独立に、水素原子又はメチル基を表す。A
2dは置換基を有していてもよい芳香環を表す。ndは、1〜2を表す。
A
2dの置換基を有していてもよい芳香環の範囲及び好ましい範囲はA
1dと同様である。
【0062】
一般式(d−2)中にR
4dが複数存在する場合、複数のR
4dは、同一であっても異なっていてもよい。R
5dについても同様である。
(メタ)アクリルモノマー(D)の重量平均分子量は140以上350以下であるが、160以上300以下であることが好ましく、160以上270以下であることがより好ましい。
【0063】
(メタ)アクリルモノマー(D)の具体例としては、エトキシ化o−フェニルフェノール(メタ)アクリレート、エトキシ化o−フェニルフェノールEO変性(メタ)アクリレート、エトキシ化p−クミルフェノール(メタ)アクリレート、エトキシ化p−ノニルフェノール(メタ)アクリレート、エトキシ化p−メチルフェノール(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコール−アクリル酸−安息香酸エステル、ベンジル(メタ)アクリレート、m−フェノキシベンジル(メタ)アクリレート、2−(1−ナフトキシ)エチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。ここで、「EO変性」とはエチレンオキシドユニット(即ち、−CH
2−CH
2−O−)の構造を有することを意味する。
【0064】
本実施形態の光硬化性組成物において、(メタ)アクリルモノマー(D)の含有量は、(メタ)アクリルモノマー成分の合計含有量1000質量部に対し、光硬化後の曲げ強度、曲げ弾性率及び破壊靭性向上の観点から、10質量部〜800質量部であることが好ましく、30質量〜700質量部であることがより好ましく、100質量部〜600質量部であることが更に好ましく、150質量部〜550質量部であることが更に好ましく、200質量部〜500質量部であることが特に好ましい。
特に、本実施形態の光硬化性組成物に色材を添加する場合は、(メタ)アクリルモノマー(D)の含有量は、(メタ)アクリルモノマー成分の合計含有量1000質量部に対し、100〜300質量部であることが好ましい。本実施形態の光硬化性組成物に色材を添加しない場合は、(メタ)アクリルモノマー(D)の含有量は、(メタ)アクリルモノマー成分の合計含有量1000質量部に対し、400〜600質量部であることが好ましい。
【0065】
また、(メタ)アクリルモノマー成分中における、(メタ)アクリルモノマー(X)及び(メタ)アクリルモノマー(D)の合計含有量は、(メタ)アクリルモノマー成分の全量に対し、50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、80質量%以上であることが更に好ましく、90質量%以上であることが更に好ましい。また、この合計含有量は、(メタ)アクリルモノマー成分の全量に対し、100質量%であってもよい。
【0066】
本実施形態の光硬化性組成物における(メタ)アクリルモノマー成分は、発明の効果を奏する範囲で、前述した、(メタ)アクリルモノマー(X)及び(メタ)アクリルモノマー(D)以外のその他の(メタ)アクリルモノマーを少なくとも1種含んでいてもよい。
【0067】
<光重合開始剤>
本実施形態の光硬化性組成物は、光重合開始剤を含有する。
光重合開始剤は、光を照射することでラジカルを発生するものであれば特に限定されないが、光造形の際に用いる光の波長でラジカルを発生するものであることが好ましい。
光造形の際に用いる光の波長としては、一般的には365nm〜500nmが挙げられるが、実用上好ましくは365nm〜430nmであり、より好ましくは365nm〜420nmである。
【0068】
光造形の際に用いる光の波長でラジカルを発生する光重合開始剤としては、例えば、アルキルフェノン系化合物、アシルフォスフィンオキサイド系化合物、チタノセン系化合物、オキシムエステル系化合物、ベンゾイン系化合物、アセトフェノン系化合物、ベンゾフェノン系化合物、チオキサントン系化合物、α−アシロキシムエステル系化合物、フェニルグリオキシレート系化合物、ベンジル系化合物、アゾ系化合物、ジフェニルスルフィド系化合物、有機色素系化合物、鉄−フタロシアニン系化合物、ベンゾインエーテル系化合物、アントラキノン系化合物等が挙げられる。
これらのうち、反応性等の観点から、アルキルフェノン系化合物、アシルフォスフィンオキサイド系化合物が好ましい。
【0069】
アルキルフェノン系化合物としては、例えば、1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン(Irgacure184:BASF社製)が挙げられる。
アシルフォスフィンオキサイド系化合物としては、例えば、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイド(Irgacure819:BASF社製)、2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニル−フォスフィンオキサイド(IrgacureTPO:BASF社製)などが挙げられる。
【0070】
本実施形態の光硬化性組成物は、光重合開始剤を1種のみ含有していてもよいし、2種以上含有していてもよい。
本実施形態の光硬化性組成物中における光重合開始剤の含有量(但し、2種以上である場合には総含有量)は、(メタ)アクリルモノマー成分の合計含有量1000質量部に対し、1質量部〜50質量部であることが好ましく、2質量部〜30質量部であることがより好ましく、3質量部〜25質量部であることが更に好ましく、5質量部〜25質量部であることが特に好ましい。
【0071】
<その他の成分>
本実施形態の光硬化性組成物は、必要に応じ、(メタ)アクリルモノマー成分及び光重合開始剤以外のその他の成分を少なくとも1種含んでいてもよい。
但し、(メタ)アクリルモノマー成分及び光重合開始剤の総含有量は、光硬化性組成物の全量に対し、60質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることが更に好ましい。
【0072】
その他の成分としては、色材が挙げられる。
例えば、本実施形態の光硬化性組成物を義歯床の作製に用いる場合、審美性の観点から、光硬化性組成物に色材を含有させることにより、歯肉に近い色調に着色してもよい。
色材としては特に限定されず、顔料、染料、色素等が挙げられる。より具体的には、色材として、合成タール色素、合成タール色素のアルミニウムレーキ、無機顔料、天然色素などが挙げられる。
【0073】
また、その他の成分としては、上記(メタ)アクリルモノマー成分以外のその他の硬化性樹脂(例えば、上記(メタ)アクリルモノマー成分以外のその他の硬化性モノマー等)も挙げられる。
【0074】
また、その他の成分としては、熱重合開始剤も挙げられる。
本実施形態の光硬化性組成物が熱重合開始剤を含有する場合には、光硬化と熱硬化との併用が可能となる。熱重合開始剤としては、例えば、熱ラジカル発生剤、アミン化合物などが挙げられる。
【0075】
また、その他の成分としては、シランカップリング剤(例えば3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン)等のカップリング剤、ゴム剤、イオントラップ剤、イオン交換剤、レベリング剤、可塑剤、消泡剤等の添加剤が挙げられる。
【0076】
本実施形態の光硬化性組成物の調製方法は特に制限されず、アクリルモノマー(X)、(メタ)アクリルモノマー(D)、及び光重合開始剤(及び必要に応じその他の成分)を混合する方法が挙げられる。
各成分を混合する手段は特に限定されず、例えば、超音波による溶解、双腕式攪拌機、ロール混練機、2軸押出機、ボールミル混練機、及び遊星式撹拌機等の手段が含まれる。
本実施形態の光硬化性組成物は、各成分を混合した後、フィルタでろ過して不純物を取り除き、さらに真空脱泡処理を施すことによって調製してもよい。
【0077】
[光硬化物]
本実施形態の光硬化性組成物を用いて光硬化を行うに当たっては、特に制限されず、公知の方法及び装置のいずれも使用できる。例えば、本実施形態の光硬化性組成物からなる薄膜を形成する工程と、該薄膜に対して光を照射し硬化層を得る工程とを複数回繰り返すことにより、硬化層を複数積層させ、所望の形状の光硬化物を製造する方法が挙げられる。なお、得られる光硬化物はそのまま用いてもよいし、更に光照射、加熱等によるポストキュアなどを行って、その力学的特性、形状安定性などを向上させた後に用いてもよい。
【0078】
また、本実施形態の光硬化性組成物の光硬化後のガラス転移温度(即ち、Tg)は特に制限はないが、曲げ強度及び曲げ弾性率の観点から、光硬化後のガラス転移温度(Tg)は、70℃以上であることが好ましく、80℃以上であることがより好ましい。
また、破壊靱性の観点から、光硬化後のガラス転移温度(Tg)は、140℃以下であることが好ましい。
【0079】
[義歯床、有床義歯]
本実施形態の光硬化性組成物の硬化物(即ち、光造形物)である歯科補綴物等としては、義歯床が特に好ましい。本実施形態の光硬化性組成物の硬化物である義歯床は、曲げ強度、曲げ弾性率及び破壊靱性に優れる。
本実施形態の義歯床は、全部床義歯(いわゆる総入れ歯)用の義歯床であってもよいし、局部床義歯(いわゆる部分入れ歯)用の義歯床であってもよい。
また、本実施形態の義歯床は、上顎用義歯の義歯床(以下、「上顎用義歯床」ともいう)であってもよいし、下顎用義歯の義歯床(以下、「下顎用義歯床」ともいう)であってもよいし、上顎用義歯床と下顎用義歯床とのセットであってもよい。
【0080】
また、本実施形態の義歯床は、一部分のみが本実施形態の光硬化性組成物を用いて作製されていてもよく、全体が本実施形態の光硬化性組成物を用いて作製されていてもよい。
一部分のみが本実施形態の光硬化性組成物を用いて作製されている義歯床の例としては、金属部分と樹脂部分とを含む義歯床(いわゆる金属床)のうちの樹脂部分の少なくとも一部が本実施形態の光硬化性組成物を用いて作製されている義歯床;樹脂部分のみからなる義歯床(いわゆるレジン床)のうちの一部分のみが本実施形態の光硬化性組成物を用いて作製されている義歯床;等が挙げられる。
全体が本実施形態の光硬化性組成物を用いて作製されている義歯床の例としては、樹脂部分のみからなる義歯床(いわゆるレジン床)が挙げられる。
【0081】
本実施形態の有床義歯は、上記本実施形態の義歯床と、前記義歯床に固定された人工歯と、を備える。
従って本実施形態の有床義歯の有床義歯は、義歯床の曲げ強度、曲げ弾性率及び破壊靱性に優れる。
本実施形態の有床義歯は、局部床義歯であってもよいし、全部床義歯であってもよい。即ち、本実施形態の有床義歯は、人工歯を少なくとも1本備えていればよい。
また、本実施形態の有床義歯は、上顎用義歯であってもよいし、下顎用義歯であってもよいし、上顎用義歯と下顎用義歯とのセットであってもよい。
【0082】
人工歯の材質としては、アクリル系樹脂が挙げられる。
また、人工歯は、アクリル系樹脂に加え、フィラー等を含有していてもよい。
【実施例】
【0083】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0084】
〔実施例1〜18、比較例1〜8〕
<光硬化性組成物の調製>
下記表1〜3に示す各成分を混合し、光硬化性組成物を得た。
【0085】
<測定及び評価>
得られた光硬化性組成物を用い、以下の測定及び評価を行った。結果を表1〜3に示す。
【0086】
(光硬化性組成物の粘度)
光硬化性組成物の粘度を、E型粘度計により、25℃、50rpmの条件で測定した。
【0087】
(光造形物の曲げ強度及び曲げ弾性率)
得られた光硬化性組成物を、3Dプリンタ(Carima社MasterPlusS2011)を用い、64mm×10mm×厚さ3.3mmの大きさに造形し、造形物を得た。得られた造形物に対し、波長365nmの紫外線を10J/cm
2の条件で照射して本硬化させることにより、光造形物を得た。
得られた光造形物(以下「試験片」という)を、37±1℃の恒温水槽にて50±2時間保管した。
その後、試験片を恒温水槽から取り出し、取り出した試験片の曲げ強度及び曲げ弾性率を、それぞれ、ISO20795−1:2008に準拠して測定した。これらの測定は、引張り試験装置((株)インテスコ製)を用い、引張り速度5±1mm/分の条件で行った。
【0088】
上記光硬化性組成物を歯科補綴物等(特に義歯床)の作製に用いる場合、上記曲げ強度は、好ましくは60MPa以上であり、より好ましくは65MPa以上である。
また、この場合、上記曲げ弾性率は、好ましくは1500MPa以上であり、より好ましくは2000MPa以上である。
【0089】
(曲げ試験による破壊靱性試験での全破壊仕事)
得られた光硬化性組成物を、3Dプリンタ(Carima社MasterPlusS2011)を用い、39mm×8mm×厚さ4mmの大きさに造形し、造形物を得た。得られた造形物に対し、波長365nmの紫外線を10J/cm
2の条件で照射して造形物を本硬化させることにより、光造形物を得た。
得られた光造形物(以下「試験片」という)を、ISO20795−1:2008に準拠して、ノッチ加工を施し、37±1℃の恒温水槽にて7日間±2時間保管した。
その後、試験片を恒温水槽から取り出し、取り出した試験片について、ISO20795−1:2008に準拠して、曲げ試験による破壊靱性試験を行い、全破壊仕事(J/m
2)を測定した。曲げ試験による破壊靱性試験(即ち、全破壊仕事の測定)は、引張り試験装置((株)インテスコ製)を用い、押込み速度1.0±0.2mm/分の条件で行った。
【0090】
上記測定において、全破壊仕事の数値が大きいほど、破壊靱性に優れている。
上記光硬化性組成物を歯科補綴物等(特に義歯床)の作製に用いる場合、上記全破壊仕事は、好ましくは65J/m
2以上、より好ましくは70J/m
2以上、特に好ましくは75J/m
2以上である。
【0091】
【表1】
【0092】
【表2】
【0093】
【表3】
【0094】
表1〜3中、各実施例及び各比較例における「光硬化性組成物の組成」欄の数字は、質量部で示されている。
【0095】
表1〜3中、(メタ)アクリルモノマー(X)の各々の構造は以下のとおりである。
ここで、ABE−300、A−BPE−4、A−BPP−3は、新中村化学工業(株)製のアクリルモノマーであり、BP−4PAは、共栄社化学(株)製のアクリルモノマーであり、BP−2EMは、共栄社化学(株)製のメタクリルモノマーであり、BPF2.3は、第一工業製薬(株)製のアクリルモノマーである。
【0096】
【化9】
【0097】
表1〜3中、(メタ)アクリルモノマー(D)であるBZAは、大阪有機化学工業(株)製のアクリルモノマーであり、PO−A、POB−A、BZは、共栄社化学(株)製のアクリルモノマーであり、POは共栄社化学(株)製のメタクリルモノマーであり、A−LEN−10は、新中村化学工業(株)製のアクリルモノマーであり、その構造は以下のとおりである。
上記の(メタ)アクリルモノマー(D)の構造は以下のとおりである。
【0098】
【化10】
【0099】
比較例5〜比較例8に用いられた(メタ)アクリルモノマーであるAIB及びLAは、大阪有機化学工業(株)製のアクリルモノマーであり、構造は以下の通りである。
【0100】
【化11】
【0101】
表1〜3中、光重合開始剤の各々の構造は以下のとおりである。
ここで、Irg819は、BASF社製の「Irgacure819」(アシルフォスフィンオキサイド系化合物)であり、Irg184は、BASF社製の「Irgacure184」(アルキルフェノン系化合物)であり、TPOは、BASF社製の「IrgacureTPO」(アシルフォスフィンオキサイド系化合物)である。
【0102】
【化12】
【0103】
表1〜3に示すように、(メタ)アクリルモノマー(X)と(メタ)アクリルモノマー(D)とを含有する光硬化性組成物を用いた実施例1〜16では、優れた曲げ強度(詳しくは65MPa以上)、優れた曲げ弾性率(詳しくは2000MPa以上)、及び優れた破壊靱性(詳しくは全破壊仕事75J/m
2以上)を有する光造形物を得ることができた。また、実施例1〜16の光硬化性組成物の粘度は、光造形に適した粘度であった。
以上により、実施例1〜18の光硬化性組成物は、歯科補綴物等(特に義歯床)の光造形による作製に特に適していることが確認された。
実施例1〜18に対し、(メタ)アクリルモノマー(X)以外の(メタ)アクリルモノマーを含まない光硬化性組成物を用いた、比較例1〜4では、破壊靱性が低下した。
また、(メタ)アクリルモノマー(D)に代えて(メタ)アクリルモノマー(D)以外の(メタ)アクリルモノマーを用いた比較例5〜8では、破壊靱性が低下した。
【0104】
日本国特許出願2017−066065の開示はその全体が参照により本明細書に取り込まれる。本明細書に記載された全ての文献、特許出願、および技術規格は、個々の文献、特許出願、および技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書中に参照により取り込まれる。本発明の例示的実施形態についての以上の記載は例示および説明の目的でされたものであり、網羅的であることあるいは発明を開示されている形態そのものに限定することを意図するものではない。明らかなことではあるが、多くの改変あるいは変更が当業者には自明である。上記実施形態は発明の原理及び実用的応用を最もうまく説明し、想定される特定の用途に適するような種々の実施形態や種々の改変と共に他の当業者が発明を理解できるようにするために選択され、記載された。本発明の範囲の範囲は以下の請求項およびその均等物によって規定されることが意図されている。