(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6944112
(24)【登録日】2021年9月14日
(45)【発行日】2021年10月6日
(54)【発明の名称】フィラメント、構造体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 64/118 20170101AFI20210927BHJP
B33Y 70/00 20200101ALI20210927BHJP
B33Y 80/00 20150101ALI20210927BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20210927BHJP
【FI】
B29C64/118
B33Y70/00
B33Y80/00
B33Y10/00
【請求項の数】8
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2017-215512(P2017-215512)
(22)【出願日】2017年11月8日
(65)【公開番号】特開2019-84769(P2019-84769A)
(43)【公開日】2019年6月6日
【審査請求日】2020年8月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000104674
【氏名又は名称】キョーラク株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【弁理士】
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】湯浅 亮平
(72)【発明者】
【氏名】埜村 卓志
【審査官】
▲高▼橋 理絵
(56)【参考文献】
【文献】
特開平01−272822(JP,A)
【文献】
国際公開第2017/078987(WO,A1)
【文献】
特開2016−193601(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2016/0012935(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 64/118
B33Y 70/00
B33Y 80/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
線状の芯材と、前記芯材を被覆する被覆層を備える、フィラメントであって、
前記芯材は、全体が形状記憶材料で形成され、
前記被覆層は、前記芯材とは異なる材料で形成され、
前記フィラメントは、直径が0.5〜3mmである、フィラメント。
【請求項2】
請求項1に記載のフィラメントであって、
前記芯材の材料が形状記憶ポリマーであり、
前記被覆層の材料が熱可塑性樹脂である、フィラメント。
【請求項3】
被着体と、前記被着体の形状を変化させるための賦形パターンを備える、構造体であって、
前記賦形パターンは、フィラメントによって形成され、
前記フィラメントは、線状の芯材と、前記芯材を被覆する被覆層を備え、
前記芯材は、形状記憶材料で形成され、
前記被覆層は、前記芯材とは異なる材料で形成され、
前記フィラメントの被覆層が前記被着体に溶着されている、構造体。
【請求項4】
請求項3に記載の構造体であって、
前記被覆層の材料は、前記芯材の材料よりも前記被着体に溶着されやすい材料である、構造体。
【請求項5】
請求項3又は請求項4に記載の構造体であって、
前記被着体の表面の材料のSP値をSPbase、前記被覆層の材料のSP値をSPcover、前記芯材の材料のSP値をSPcoreとし、
ΔSPcoverとΔSPcoreを式(1)〜(2)で定義すると、式(3)の関係が成り立つ、構造体。
ΔSPcover=|SPcover−SPbase| (1)
ΔSPcore=|SPcore−SPbase| (2)
ΔSPcover<ΔSPcore (3)
【請求項6】
請求項5に記載の構造体であって、
式(4)の関係が成り立つ、構造体。
ΔSPcover≦1.3 (4)
【請求項7】
熱溶融方式の3Dプリンタを用いた構造体の製造方法であって、
被着体の形状を変化させるための賦形パターンを形成する賦形パターン形成工程を備え、
前記賦形パターン形成工程では、被覆層が芯材を被覆するように前記被覆層及び前記芯材をヘッドから溶融押し出しし、前記被覆層を前記被着体に溶着させることによって前記賦形パターンを形成し、
前記芯材は、形状記憶ポリマーで形成され、
前記被覆層は、前記芯材とは異なる熱可塑性樹脂で形成される、方法。
【請求項8】
請求項7に記載の方法であって、
前記賦形パターン形成工程では、請求項2に記載のフィラメントを前記ヘッドに挿入し、前記被覆層が前記芯材を被覆した状態で前記フィラメントを前記ヘッドから溶融押し出しする、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィラメント、構造体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、使用温度付近にガラス転移温度を設定したウレタンエラストマーを用いた形状記憶成形体が開示されている。形状記憶成形体の例として、ギブス等が挙げられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平5−320366号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、ウレタンエラストマー自体をギブスの材料として用いているので、他の材料を用いることができない。
【0005】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、任意の材料の被着体に形状記憶特性を発揮させることを可能にするフィラメントを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、線状の芯材と、前記芯材を被覆する被覆層を備える、フィラメントであって、前記芯材は、形状記憶材料で形成され、前記被覆層は、前記芯材とは異なる材料で形成される、フィラメントが提供される。
【0007】
本発明者は、被着体の形状を変化させるための賦形パターンを、形状記憶材料で形成されたフィラメントを用いて形成することによって、任意の材料の被着体に形状記憶特性を発揮させることができることに気づいた。一方、形状記憶材料と被着体の溶着性が良好でない場合には、フィラメントを被着体に溶着させることが容易ではないという課題に気づいた。そして、形状記憶材料で形成された芯材が被覆層で被覆された構成のフィラメントを用いれば、被着体との溶着性に優れた材料を被覆層の材料として選択することによって、任意の材料の被着体とフィラメントの溶着性を良好にすることができることに気づき、本発明の完成に到った。本発明のフィラメントを用いて、被着体の形状を変化させるための賦形パターンを被着体に形成することによって、任意の被着体に形状記憶特性を発揮させることが可能になる。
【0008】
以下、本発明の種々の実施形態を例示する。以下に示す実施形態は互いに組み合わせ可能である。
【0009】
好ましくは、前記記載のフィラメントであって、前記芯材の材料が形状記憶ポリマーであり、前記被覆層の材料が熱可塑性樹脂である、フィラメントである。
【0010】
好ましくは、被着体と、前記被着体の形状を変化させるための賦形パターンを備える、構造体であって、前記賦形パターンは、前記記載のフィラメントによって形成され、前記フィラメントの被覆層が前記被着体に溶着されている、構造体である。
好ましくは、前記記載の構造体であって、前記被覆層の材料は、前記芯材の材料よりも前記被着体に溶着されやすい材料である、構造体である。
好ましくは、前記記載の構造体であって、前記被着体の表面の材料のSP値をSPbase、前記被覆層の材料のSP値をSPcover、前記芯材の材料のSP値をSPcoreとし、ΔSPcoverとΔSPcoreを式(1)〜(2)で定義すると、式(3)の関係が成り立つ、構造体である。
ΔSPcover=|SPcover−SPbase| (1)
ΔSPcore=|SPcore−SPbase| (2)
ΔSPcover<ΔSPcore (3)
好ましくは、前記記載の構造体であって、式(4)の関係が成り立つ、構造体である。
ΔSPcover≦1.3 (4)
【0011】
好ましくは、熱溶融方式の3Dプリンタを用いた構造体の製造方法であって、被着体の形状を変化させるための賦形パターンを形成する賦形パターン形成工程を備え、前記賦形パターン形成工程では、被覆層が芯材を被覆するように前記被覆層及び前記芯材をヘッドから溶融押し出しし、前記被覆層を前記被着体に溶着させることによって前記賦形パターンを形成し、前記芯材は、形状記憶ポリマーで形成され、前記被覆層は、前記芯材とは異なる熱可塑性樹脂で形成される、方法である。
好ましくは、前記記載の方法であって、前記賦形パターン形成工程では、前記記載のフィラメントを前記ヘッドに挿入し、前記被覆層が前記芯材を被覆した状態で前記フィラメントを前記ヘッドから溶融押し出しする、方法である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施形態のフィラメント1を示す斜視図である。
【
図2】本発明の一実施形態の構造体5の製造工程を示す斜視図である。
【
図3】本発明の一実施形態の構造体5を示し、賦形パターン6が原形状である状態を示す斜視図である。
【
図4】
図3の構造体5の賦形パターン6の端面近傍の拡大図である。
【
図6】本発明の一実施形態の構造体5を示し、賦形パターン6が二次形状である状態を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について説明する。以下に示す実施形態中で示した各種特徴事項は、互いに組み合わせ可能である。また、各特徴について独立して発明が成立する。
【0014】
1.フィラメント1の構成及び製造方法
図1に示すように、本発明の一実施形態のフィラメント1は、線状の芯材2と、芯材2を被覆する被覆層3を備える。芯材2が線状であるために、フィラメント1も線状になっている。
【0015】
芯材2は、形状記憶材料で形成される。形状記憶材料は、形状記憶特性を有する材料であり、合金、ポリマーなどで構成される。形状記憶特性とは、所定の回復温度以上に加熱することによって弾性によって原形状に復帰する特性を有する。回復温度は、材料ごとに定まる温度であり、例えば0〜100℃であり、好ましくは、25〜80℃であり、具体的には例えば、0、5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、100℃であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0016】
形状記憶材料が形状記憶合金である場合、回復温度は、変態点である。形状記憶合金は、変態点未満の温度で原形状から二次形状に変化させると、変態点未満では二次形状が維持され、形状記憶合金を変態点以上に加熱すると弾性によって原形状に復帰する。原形状は、例えば、形状記憶合金を所望の形状に固定した状態で熱処理(例:400〜500℃での熱処理)を行うことによって設定することができる。形状記憶合金としては、NiTi合金が例示される。
【0017】
形状記憶材料が形状記憶ポリマーである場合、回復温度は、ガラス転移温度(Tg)である。形状記憶ポリマーは、Tg以上の温度で外力を加えて二次形状に賦形し、外力を維持したままTg未満の温度に冷却すると、二次形状が固定される。Tg未満の温度では、外力を取り除いても原形状に復帰しない。一方、二次形状が付された形状記憶ポリマーをTg以上の温度に加熱し、外力を加えない状態にすると、弾性によって原形状に復帰する。原形状は、例えば形状記憶ポリマーを溶融させて所望の形状に成形することによって設定することができる。形状記憶ポリマーとしては、ゴム弾性を有するポリマーが挙げられ、例えば、ポリノルボルネン、トランスポリイソプレン、スチレン−ブタジエン共重合体、ポリウレタンなどが挙げられる。
【0018】
被覆層3は、芯材2とは異なる材料で形成される。被覆層3の材料は、特に限定されないが、ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィン、PETなどのポリエステル、ポリウレタンなどが挙げられる。
【0019】
被覆層3の材料として、フィラメント1を溶着させる被着体4(
図2を参照)との親和性が高い材料が好ましい。この場合、芯材2の材料に関わらず、フィラメント1を被着体4に溶着させることができる。例えば、被着体4がPETで形成され、芯材2がポリウレタンである場合、被覆層3の材料として、PETを選択する。この場合、被着体4と被覆層3の溶着性が極めて良好になる。
【0020】
フィラメント1の直径は、例えば0.5〜3mmであり、好ましくは、1.75〜3mmであり、具体的には例えば、0.5、1、1.5、1.75、2、2.5、3mmであり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。フィラメント1の半径をRfilとし、芯材2の半径をRcoreとすると、Rcore/Rfilは、0.6〜0.99が好ましく、0.8〜0.95がさらに好ましく、具体的には例えば、0.6、0.65、0.7、0.75、0.8、0.85、0.9、0.92、0.95、0.99であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0021】
フィラメント1は、芯材2の材料と被覆層3の材料を多層押出することによって形成することができる。
【0022】
2.構造体5の構成及び製造方法
図2〜
図6に示すように、本発明の一実施形態の構造体5は、被着体4と、被着体4の形状を変化させるための賦形パターン6を備える。賦形パターン6は、上記のフィラメント1によって形成されており、フィラメント1の被覆層3が被着体4に溶着されている。
【0023】
被覆層3の材料は、芯材2の材料よりも被着体4に溶着されやすい材料である。このような材料で芯材2を被覆することによって被着体4へのフィラメント1の溶着性が向上する。
【0024】
また、ハンセン溶解度パラメータ(以下、SP値)で表現すれば、被着体4の表面の材料のSP値をSPbase、被覆層3の材料のSP値をSPcover、芯材2の材料のSP値をSPcoreとし、ΔSPcoverとΔSPcoreを式(1)〜(2)で定義すると、式(3)の関係が成り立つことが好ましい。つまり、被着体4と被覆層3のSP値の差の絶対値が、被着体4と芯材2のSP値の差の絶対値よりも小さいことが好ましい。
【0025】
このような材料で芯材2を被覆することによって被着体4へのフィラメント1の溶着性が向上する。ΔSPcore−ΔSPcoverの値は、0.1以上が好ましく、例えば0.1〜10であり、具体的には例えば、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10であり、ここで例示した数値の何れか1つの値以上、又は2つの間の範囲内であってもよい。
【0026】
ΔSPcover=|SPcover−SPbase| (1)
ΔSPcore=|SPcore−SPbase| (2)
ΔSPcover<ΔSPcore (3)
【0027】
さらに、式(4)の関係が成り立つことが好ましい。つまり、被着体4と被覆層3のSP値の差の絶対値が1.3以下であることが好ましい。この場合、被覆層3が被着体4に強固に溶着される。ΔSPcoverは、1.0以下が好ましく、0.5以下がさらに好ましく、具体的には例えば、0、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1、1.1、1.2、1.3であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。被着体4の表面と被覆層3は、同じ材料で形成されることが好ましい。
ΔSPcover≦1.3 (4)
【0028】
賦形パターン6の形成方法は、特に限定されず、形状記憶材料の種類に応じて適切な方法が適宜選択される。例えば、芯材2の材料が形状記憶ポリマーであり、被覆層3の材料が熱可塑性樹脂である場合には、賦形パターン6は、熱溶融方式の3Dプリンタを用いて形成することができる。一例では、
図2に示すように、フィラメント1をヘッド7に挿入し、フィラメント1を被覆層3が芯材2を被覆した状態でヘッド7から溶融押し出しし、被覆層3を被着体4に溶着させることによって賦形パターン6を形成することができる。この方法によれば、賦形パターン6を容易に形成することが可能である。ヘッド7に挿入するフィラメント1の半径をRbefore、ヘッド7から押し出されたフィラメント1の半径をRafterとすると、Rafter/Rbeforeは、0.1〜1が好ましく、具体的には例えば、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。賦形パターン6の精度を高めるには、Rafterを小さくすることが好ましいが、Rafterを小さくすると、その分だけ被覆層3が薄くなって被着体4への溶着性が悪化する。Rafterは、例えば0.1〜0.5mmであり、具体的には例えば、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5mmであり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0029】
ヘッド7の先端と被着体4の間の距離は、例えば0.1〜1mmであり、具体的には例えば、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1mmであり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0030】
賦形パターン6は、1本のフィラメント1で構成してもよいが、
図3〜
図4に示すように、複数(ここでは5本)のフィラメント1を幅方向に溶着して構成してもよい。複数のフィラメント1は、被覆層3で互いに溶着されるので、溶着強度が高い。賦形パターン6を構成するフィラメント1の幅方向の本数は、例えば、1〜30本であり、具体的には例えば、1、5、10、15、20、25、30本であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0031】
また、
図3〜
図4では、1層のフィラメント1で賦形パターン6を構成しているが、
図5に示すように、複数層のフィラメント1で賦形パターン6を構成してもよい。複数層のフィラメント1は、
図5Aに示すように、下層の2本の芯材2の間に、その上の層の芯材2が配置されるように構成してもよく、
図5Bに示すように、下層の芯材2の上に、その上の層の芯材2が配置されるように構成してもよい。賦形パターン6を構成するフィラメント1の層数数は、例えば、1〜30層であり、具体的には例えば、1、3、5、10、15、20、25、30層であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0032】
本実施形態では、被着体4は、織布、不織布、フィルムなどのシート状である。被着体4の材料は、特に限定されないが、ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィン、PETなどのポリエステル、ポリウレタン、フッ素樹脂などが挙げられる。被着体4は、綿、麻、絹、羊毛などの天然繊維で形成されていてもよい。
【0033】
賦形パターン6は、被着体4の片面にのみ設けてもよく、両面に設けてもよい。被着体4の表面積全体に対する、賦形パターン6が溶着されている領域の面積の割合は、1〜80%が好ましく、10〜50%が好ましく、具体的には例えば、1、5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80%であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0034】
3.構造体5の使用方法
ここで、芯材2の材料が形状記憶ポリマー(Tg:55℃)である場合を例に挙げて、構造体5の使用方法について説明する。
【0035】
図2〜
図3に示すように、被着体4を平坦にした状態で直線状の賦形パターン6を形成すると、
図3の状態で原形状となる。賦形パターン6がTg未満の温度である状態では、形状記憶ポリマーの弾性率が大きい(変形しにくい)ので、賦形パターン6が容易には変形せず、被着体4の形状が平坦のまま維持される。
【0036】
次に、賦形パターン6を加熱してTg以上の温度にすると、形状記憶ポリマーの弾性率が大幅に低減されて賦形パターン6を自由に変形させて二次形状にすることができるようになる。例えば、
図6に示すように、賦形パターン6を波板状に変形させ、その形状を維持したまま賦形パターン6をTg未満の温度にまで冷却すると、その形状が維持される。賦形パターン6は被着体4に溶着されているので、被着体4の形状も波板状になる。
【0037】
次に、賦形パターン6を加熱してTg以上の温度にして、外力を加えないでいると、賦形パターン6が弾性によって原形状(直線形状)に復帰して、
図3の状態になり、被着体4も平坦な状態に復帰する。
【0038】
このように、構造体5では、形状記憶特性を有する賦形パターン6が被着体4に溶着されているので、被着体4にも形状記憶特性を発揮させることができる。
【0039】
本実施形態では、被着体4を平坦にする状態が賦形パターン6の原形状になっているが、被着体4を筒状や折れ曲がり形状などの立体形状にする状態を賦形パターン6の原形状にしてもよい。また、本実施形態では、賦形パターン6は、直線状であるが、曲線状、ジグザグ形状、格子形状などの任意の形状にすることができる。
【0040】
構造体5の具体例としては、例えば、衣服、テント、ヨットの帆、シートの座面、シューズなどの物品が挙げられる。ユーザーが既製品の形状に満足できない場合には、これらの物品を自分の好みに合わせて変形させることができる。そして、自分好みの形状が不要になったときには、これらの物品を回復温度以上の温度に加熱するだけで、元の形状に戻すことができる。
【0041】
4.その他実施形態
・上記実施形態では、フィラメント1をヘッド7に挿入して、賦形パターン形成を行ったが、フィラメント1を用いずに、芯材2の材料と、被覆層3の材料を別々に溶融してヘッド7内で合流させ、被覆層3が芯材2を被覆するように被覆層3及び芯材2をヘッド7から溶融押し出ししてフィラメント1と同様の多層構造を形成するようにしてもよい。この場合、芯材2の材料と被覆層3の材料は、それぞれ、線状であってもよく、ペレット状などの別の形態であってもよい。
・芯材2には、セルロースナノファイバーなどのフィラーを配合してもよい。
【符号の説明】
【0042】
1 :フィラメント
2 :芯材
3 :被覆層
4 :被着体
5 :構造体
6 :賦形パターン
7 :ヘッド