特許第6944152号(P6944152)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6944152
(24)【登録日】2021年9月14日
(45)【発行日】2021年10月6日
(54)【発明の名称】除菌水生成装置及び水回り機器
(51)【国際特許分類】
   C25B 1/30 20060101AFI20210927BHJP
   C02F 1/48 20060101ALI20210927BHJP
   C25B 15/02 20210101ALI20210927BHJP
   C25B 11/04 20210101ALI20210927BHJP
   C25B 9/00 20210101ALI20210927BHJP
   E03D 9/02 20060101ALN20210927BHJP
【FI】
   C25B1/30
   C02F1/48 B
   C25B15/02
   C25B11/04
   C25B9/00 A
   !E03D9/02
【請求項の数】7
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-192121(P2017-192121)
(22)【出願日】2017年9月29日
(65)【公開番号】特開2019-65350(P2019-65350A)
(43)【公開日】2019年4月25日
【審査請求日】2020年9月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】510182881
【氏名又は名称】株式会社融合技術開発センター
(73)【特許権者】
【識別番号】596009788
【氏名又は名称】株式会社末松電子製作所
(73)【特許権者】
【識別番号】504163612
【氏名又は名称】株式会社LIXIL
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【弁理士】
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100126000
【弁理士】
【氏名又は名称】岩池 満
(74)【代理人】
【識別番号】100160794
【弁理士】
【氏名又は名称】星野 寛明
(72)【発明者】
【氏名】秋山 秀典
(72)【発明者】
【氏名】末松 謙一
(72)【発明者】
【氏名】甲田 忠
(72)【発明者】
【氏名】石川 隆久
(72)【発明者】
【氏名】山本 剛之
(72)【発明者】
【氏名】中島 泰仁
【審査官】 岡田 隆介
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−233599(JP,A)
【文献】 特開2013−138648(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B 1/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水が介在する一対の電極を備えた除菌水生成装置であって、
前記一対の電極は、少なくとも一方が陽極酸化皮膜で被覆された金属平板であり、
前記陽極酸化皮膜は、アルマイト皮膜であり、
前記一対の電極間に水中放電プラズマを生じさせることで除菌水を生成する除菌水生成装置。
【請求項2】
前記一対の電極間に高電圧パルスを印加し、水中放電プラズマを生じさせる高電圧パルス印加手段を更に備える請求項に記載の除菌水生成装置。
【請求項3】
前記高電圧パルス印加手段は、パルス電界が1〜20kV/cmとなるように前記一対の電極間に高電圧パルスを印加する請求項に記載の除菌水生成装置。
【請求項4】
前記高電圧パルス印加手段は、パルス幅が20n秒以上となるように前記一対の電極間に高電圧パルスを印加する請求項又はに記載の除菌水生成装置。
【請求項5】
前記高電圧パルス印加手段は、電流密度が0.1〜10A/cmとなるように前記一対の電極間に高電圧パルスを印加する請求項のいずれかに記載の除菌水生成装置。
【請求項6】
前記水の温度を維持する保温手段を更に備える請求項1〜のいずれかに記載の除菌水生成装置。
【請求項7】
請求項1〜のいずれかに記載の除菌水生成装置が組み込まれた水回り機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、除菌水を生成する除菌水生成装置及び除菌水生成装置が組み込まれた水回り機器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、トイレ、浴室、キッチン、洗面台、洗濯機などの水回り機器に、除菌水を供給するためのさまざまな除菌水生成装置が提案されている。
【0003】
例えば、一対の電極間に電圧を印加して、水を電気分解し、殺菌力のある次亜塩素酸(HClO)を生成する除菌水生成装置が提案されている(例えば特許文献1参照)。しかし、特許文献1に記載された技術では、次亜塩素酸の生成量が水に含まれる塩素の量に依存することになるので、水の成分に依らずに除菌水を供給することが難しい。
【0004】
水の成分に依らずに除菌水を供給するために、水に食塩水などの電解質を添加した溶液を電気分解し、殺菌力のある次亜塩素酸を生成する除菌水生成装置が提案されている(例えば特許文献2参照)。また、殺菌性金属である電極を用いて水を電気分解し、殺菌性イオンを水に溶出させる除菌水生成装置が提案されている(例えば特許文献3参照)。しかし、特許文献2に記載された技術では電解質を、特許文献3に記載された技術では殺菌性金属を、それぞれ定期的に供給しなければならない。
【0005】
そこで、水中で放電を行うことで過酸化水素を生成し、過酸化水素によって水を除菌する技術が提案されている。例えば、汚染水を処理するための装置として、放電部間に高電圧パルスを印加して水を処理する水処理装置が提案されている(例えば特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−220193号公報
【特許文献2】特開2001−29306号公報
【特許文献3】特開2007−14853号公報
【特許文献4】特開2004−143519号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献4に記載された技術では放電電極が針状であり、放電時間の経過にともなって電極が浸食劣化して放電プラズマが生成しなくなるため、除菌水中の過酸化水素濃度を、除菌に十分な濃度まで高めることが困難であった。
【0008】
本発明は、長時間の放電プラズマの生成を可能にして除菌水中の過酸化水素濃度を高濃度にできる除菌水生成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、水が介在する一対の電極を備えた除菌水生成装置であって、前記一対の電極は、少なくとも一方が陽極酸化皮膜で被覆された金属平板であり、前記一対の電極間に水中放電プラズマを生じさせることで除菌水を生成する除菌水生成装置に関する。
【0010】
また、前記陽極酸化皮膜は、アルマイト皮膜である請求項1に記載の除菌水生成装置が好ましい。
【0011】
また、前記一対の電極間に高電圧パルスを印加し、水中放電プラズマを生じさせる高電圧パルス印加手段を更に備えることが好ましい。
【0012】
また、前記高電圧パルス印加手段は、パルス電界が1〜20kV/cmとなるように前記一対の電極間に高電圧パルスを印加することが好ましい。
【0013】
また、前記高電圧パルス印加手段は、パルス幅が20n秒以上となるように前記一対の電極間に高電圧パルスを印加することが好ましい。
【0014】
また、前記高電圧パルス印加手段は、電流密度が0.1〜10A/cmとなるように前記一対の電極間に高電圧パルスを印加することが好ましい。
【0015】
また、前記水の温度を維持する保温手段を更に備えることが好ましい。
【0016】
また、上記除菌水生成装置が組み込まれた水回り機器に関する。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、長時間の水中放電プラズマの生成を可能にし、除菌水中の過酸化水素濃度を高濃度にできる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の一実施形態に係る除菌水生成装置の模式図である。
図2】実施例1〜7及び比較例1〜5に係る除菌水生成装置の模式図である。
図3】比較例6、7に係る除菌水生成装置の模式図である。
図4】本発明のパルス幅に関する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されない。
【0020】
図1は、本発明の一実施形態に係る除菌水生成装置の模式図である。図1に示すように、本実施形態に係る除菌水生成装置1は、高電圧パルス印加手段としての高電圧パルス印加装置2と、処理槽13と、を備える。
【0021】
除菌水生成装置1は、単独の装置として使用されてもよいが、本実施形態においては、コンパクトさが要求される水回り機器(不図示)に組み込まれる装置として使用される。水回り機器としては、特に限定されないが、トイレ、浴室、キッチン、洗面台、洗濯機やこれに付属する水栓金具等を挙げることができる。
【0022】
高電圧パルス印加装置2は、処理槽13内の一対の電極3間に高電圧パルスを印加し、高電圧パルス放電を生じさせることで、水中放電プラズマを生じさせる装置である。高電圧パルス印加装置2としては、特に限定されないが、株式会社末松電子製作所製のMPC3010S−50SPなどの市販品を挙げることができる。高電圧パルス印加装置2は、一対の電極3間に高電圧パルスを印加し、水中放電プラズマを生じさせる
【0023】
処理槽13は、除菌水を生成する槽である。処理槽13は、一対の電極3と、水8と、封止部材9と、保温手段としての保温材11と、を収容する。
【0024】
一対の電極3は、高電圧パルス印加装置2と電気的に接続される。高電圧パルス印加装置2を作動させると、一対の電極3間に水中放電プラズマが生じる。
【0025】
一対の電極3は、陽極3aと陰極3bとからなる。陽極3aと、陰極3bとは、何れも平板状の金属材料(以下、金属平板ともいう)からなる。陽極3aと、陰極3bとは、水8を介在して互いに対向して配置される。本実施形態においては、一対の電極3はアルミニウムからなり、陽極3a、陰極3bの少なくとも一方が陽極酸化膜からなるアルマイト皮膜で被覆される。
【0026】
なお、本明細書において、金属平板は、別工程の処理により、陽極酸化皮膜で予め被覆される。その後、一対の電極3の陽極3a、陰極3bの少なくとも一方に陽極酸化皮膜で被覆された金属平板が使用される。
【0027】
一対の電極3をアルマイト皮膜で被覆する処理する方法としては、特に限定されず、従来公知の方法を用いることができる。例えば、アルミニウムを陽極にして電解処理することによってアルマイト皮膜を得ることができる。
【0028】
なお、必ずしも陽極3a、陰極3bの両方が陽極酸化皮膜で被覆されていなくてもよい。陽極3a又は陰極3bの少なくともどちらかが陽極酸化皮膜で被覆されていれば、一対の電極3間に大電流は流れず、陽極酸化皮膜を施した電極表面で無数の水中放電プラズマが生じ、過酸化水素が生成される。なお、陽極3a、陰極3bの両方を陽極酸化皮膜で被覆した場合には、一定時間ごとに電極の陰陽を入れ替える極性変換が可能となり、電極表面への析出物の蓄積を抑制できる。
【0029】
後述するように、陽極酸化皮膜は絶縁層として機能し、破壊電圧と耐摩耗性を向上させて、高寿命化するため、厚みが10nm以上であるアルマイト皮膜とすることが好ましい。一方で、陽極酸化皮膜へ高電界を印加して水中放電プラズマ生成を容易にするため、厚みが100μm以下であることが好ましい。
なお、陽極酸化皮膜の種類としては、JIS H8603に規定された硬質陽極酸化被膜が耐久性に優れており、好ましい。
【0030】
水8は一対の電極3間に介在する。水8は、例えば水回り機器から供給され、水中放電プラズマによって過酸化水素が生成し、除菌水となって水回り機器に戻される。このようにして水回り機器の水は除菌される。水8は、水道法に規定された水質基準に適合した水が好適であるが、水道法に規定された水質基準に適合した水に限定されず、例えば、水回り機器に由来する成分(具体的には、洗剤、芳香剤、汚れ等の有機物又は無機物)を含む水や各種陽イオン、陰イオンを含む水でもよい。
【0031】
封止部材9は、一対の電極3の側面及び底面に配置される。本実施形態においては、封止部材9は樹脂によって構成される。封止部材9は、水8を一対の電極3間に封止する。封止部材9は複数の部品で構成され、封止部材9同士の間又は封止部材9と陽極3a及び陰極3bとの間に、図示していないパッキンや接着剤を介在させてもよい。
【0032】
保温材11は、水8の温度を保持する。本実施形態においては、保温材11は断熱材である。保温材11は、一対の電極3及び封止部材9の外部に配置される。一対の電極3間に水中放電プラズマが生じると、水8の温度が上昇する。保温材11は、水8の温度が低下しにくいように水8を断熱する。
【0033】
続いて、水中放電プラズマについて説明する。
本実施形態に係る高電圧パルス印加装置2を作動させると、一対の電極3間で、パルス電界が生じる。陽極3aと、陰極3bは、少なくとも一方が陽極酸化皮膜(例えばアルマイト皮膜)で被覆されているため、陽極酸化皮膜が絶縁層となり、一対の電極3間の通電が抑制されると共に、陽極酸化皮膜で被覆した電極にパルス高電界が印加され、陽極酸化皮膜の表面で水8が電離されて発光し、無数の水中放電プラズマが生成される。この水中放電プラズマによって、ヒドロキシルラジカルが生成され、過酸化水素が発生する。
【0034】
ここで、水8の温度に依らず水中放電プラズマは生じるが、本実施形態においては、保温材11が水8の温度を保持することにより、水中放電プラズマによって生成した除菌水から、過酸化水素は蒸発させずに水分が蒸発し、更に過酸化水素濃度を高くできる。これは、水分の沸点が100℃であるのに対し、過酸化水素の沸点が100℃以上であることを利用したものである。
【0035】
本実施形態においては、高電圧パルス放電におけるパルス電界が1〜20kV/cmとなり、パルス幅が20n秒以上となるように、又は電流密度が0.1〜10A/cmとなるように、高電圧パルス印加装置2は一対の電極3間に高電圧パルスを印加する。パルス電界が1kV/cm未満の場合、パルス幅が20n秒未満の場合、又は電流密度が0.1A/cm未満の場合には、水中放電プラズマが生じにくい。パルス電界が20kV/cmを超える場合、又は電流密度が10A/cmを超える場合には、アーク放電が生じやすい。
【0036】
なお、アーク放電が生じても、アーク放電に転移する前に陽極酸化皮膜表面で無数の水中放電プラズマが発光し、過酸化水素も生成するが、一対の電極3の摩耗が激しくなり長時間の水中放電プラズマの生成は不可能であり、水8中の過酸化水素濃度は十分に高くならない。更に電気ノイズが生じ周囲の電気機器を誤作動させたりするため、十分な対策を施さないと大変危険である。
【0037】
本実施形態によれば、以下のような効果が奏される。
除菌水生成装置1は、水8が介在する一対の電極3を備えた除菌水生成装置1であって、一対の電極3は、少なくとも一方が陽極酸化皮膜で被覆された金属平板であり、一対の電極3間に水中放電プラズマを生じさせることで除菌水を生成する。これにより、除菌水中の過酸化水素濃度を高濃度にできる。
【0038】
また、陽極酸化皮膜はアルマイト皮膜が好ましい。つまり、一対の電極3は、少なくとも一方がアルマイト皮膜で被覆される。アルマイト皮膜では、皮膜1cmあたり数百億の微細孔が生成し、この微細孔が水中放電プラズマの生成に有効に作用する。
なお、水中放電プラズマは陽極酸化皮膜を施した電極に生じるため、陽極3a、陰極3bの少なくとも一方が陽極酸化皮膜で被覆されていれば、水中放電プラズマが生じ、過酸化水素が生成する。
【0039】
また、除菌水生成装置1は、一対の電極3間に高電圧パルスを印加し、水中放電プラズマを生じさせる高電圧パルス印加装置2を更に備える。高電圧パルス印加装置2は、パルス電界が1〜20kV/cmとなるように一対の電極3間に高電圧パルスを印加する。または、高電圧パルス印加装置2は、パルス幅が20n秒以上となるように一対の電極3間に高電圧パルスを印加する。または、高電圧パルス印加装置2は、電流密度が、0.1〜10A/cmとなるように一対の電極3間に高電圧パルスを印加する。そのため、高電圧パルス印加装置2を作動させると、処理槽13内に水中放電プラズマが生じる。これにより、除菌水中の過酸化水素濃度を高濃度にできる。
【0040】
また、除菌水生成装置1は、水の温度を維持する保温手段を有する。水の温度を維持することにより、生成した除菌水からの水成分が蒸発し、過酸化水素濃度をより高めることができる。
【0041】
また、除菌水生成装置1は、水回り機器に組み込まれる。これにより水回り機器を流通する水の過酸化水素濃度を高濃度にできる。
【0042】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれる。
【0043】
例えば、一対の電極3はアルミニウムからなり、アルマイト皮膜で被覆される例に説明したが、一対の電極3はアルミニウム以外の材料で構成されてもよく、アルマイト皮膜以外の酸化物で被覆されてもよい。
【実施例】
【0044】
次に、本発明の実施例について図面を参照しながら説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0045】
図2は、実施例1〜7及び比較例1〜5に係る除菌水生成装置1の模式図である。図3は比較例6、7に係る除菌水生成装置1の模式図である。図2、3に示した除菌水生成装置1の各構成は以下の表に記載した通りである。
【0046】
【表1】
【0047】
各実施例、比較例における電極の材質、形状は、以下の表2の通りである。
【0048】
【表2】
【0049】
図2、3に示されていない実験機器は以下の表3の通りである。
【0050】
【表3】
【0051】
<評価試験>
[実施例1〜7及び比較例1〜5]
実施例1〜7及び比較例1〜5では、図2に示したパルス電源装置2の電圧(kV)、パルス幅(n秒)を、高電圧プローブ5、カレントモニター6及びオシロスコープ7によって、パルス電源装置2をONにした時に1回のみ放電する単パルス放電にて測定し、パルス印加条件が表4に記載された条件になるように調整した。
【0052】
なお、パルス電界(kV/cm)とは、1対の電極間に印加して得られた電圧波形について、最大電圧Vmax(kV)を、電極間距離で割って得られる値である。また、電流密度(A/cm)は、パルス印加時に1対の電極間に、1回のパルス印加で流れた最大電流を電極面積で割って得られる値である。また、図4に示したように、本発明のパルス幅とは、得られた電圧波形について、最大電圧をVmaxとした場合の、昇圧時の1/2Vmaxから降圧時の1/2Vmaxに至るまでの時間を指す。
【0053】
その後、パルス電源装置2の放電設定を、ONにした時に継続的にパルス放電する設定に切り替え、電源をONにし、パルス放電を開始した。その後、パルス電源装置2に設置されたパルス数累積カウンターによって累積パルス数をカウントし、表4に示した累積パルス数になったところでパルス電源装置2の電源をOFFにした。
【0054】
[比較例6、7]
比較例6、7では、図3に示した除菌水生成装置1’を使用した。除菌水生成装置1’の構成は、処理槽13を構成する電極の形状が実施例1〜7、比較例1〜5と異なるが、パルス電源装置2や高電圧プローブ5、カレントモニター6及びオシロスコープ7は同じものを使用し、パルス印加条件の調整方法も、実施例1〜7及び比較例1〜5と同じである。
【0055】
「1秒間に何パルス印加するか」を表すパルス間隔は、パルス電源装置2に内蔵された、図示していないパルス間隔設定装置によって、1パルス/秒から、1000パルス/秒まで変化させた。パルス間隔は、累積パルス数と過酸化水素濃度の関係には大きく変化を与えず、水の温度上昇に関係した。すなわち、パルス頻度を大きくすると水の温度上昇が早く、小さくすると水の放熱とバランスする温度で一定となった。
【0056】
パルス電源装置2をOFFにした後、パルス電源装置2をONにして水中放電プラズマの生成を継続していた間に生成した過酸化水素濃度を、硫酸チタン法により定量した。
硫酸チタン法とは、過酸化水素と硫酸チタン(IV)を混合すると、混合液が過酸化水素濃度に応じた濃さで発色することを利用したものである。事前に標準過酸化水素試薬を使用して、吸光度−過酸化水素濃度の検量線を作成した。なお、吸光度計測における測定波長は410nmとした。
【0057】
除菌水を生成後、その一部を抜き出して適宜希釈し、硫酸チタン(IV)溶液と混合した。混合後、混合液の吸光度を吸光光度計で測定し、作製した検量線を利用して過酸化水素濃度を算出した。結果を表4に示した。
【0058】
【表4】
【0059】
<考察>
実施例1〜7においては、電極の損耗は認められず放電プラズマの生成を維持できており、放電を継続してパルス数をさらに追加することで、過酸化水素濃度を更に高められると考えられた。
【0060】
比較例1においては、水中放電プラズマは生成されず、放電状態がアーク放電となったことから、放電を継続しなかった。これは電圧が20kV/cmを超えたことによるものと考えられた。
比較例2〜5においては、水中放電プラズマは生成されず、過酸化水素の生成が認められなかった。これは、電流密度が0.1未満であったこと(比較例2)、パルス幅が20n秒未満となったこと(比較例3)、一対の電極3のいずれもが陽極酸化皮膜で被覆されなかったこと(比較例4、5)によるものと考えられた。
比較例6、7においては、過酸化水素の生成は認められたものの、過酸化水素の生成量が少なかった。これは、陽極4aが針状の電極であったために放電によって電極が浸食劣化し、次第にパルス放電しなくなったことによるものと考えられた。
【0061】
以上から、一対の電極3の陽極3a、陰極3bの少なくともいずれかが陽極酸化皮膜で被覆された金属平板を備えた除菌水生成装置1において、一対の電極3間にパルス高電圧を印加すると、陽極酸化皮膜表面に無数の水中放電プラズマが継続的に生じることによって、除菌水中の過酸化水素濃度を高濃度にできることが確認された。また、水中放電プラズマは、パルス電界が1〜20kV/cmとなる場合や、パルス幅が20n秒以上となる場合や、電流密度が0.1〜10A/cmとなる場合に生じることが確認された。
【符号の説明】
【0062】
1 除菌水生成装置
2 高電圧パルス印加装置(高電圧パルス印加手段)
3 一対の電極
8 水
図1
図2
図3
図4