(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6944511
(24)【登録日】2021年9月14日
(45)【発行日】2021年10月6日
(54)【発明の名称】セラミックガーネット系イオン導電材料
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0562 20100101AFI20210927BHJP
H01M 4/525 20100101ALI20210927BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20210927BHJP
H01M 4/58 20100101ALI20210927BHJP
H01M 4/485 20100101ALI20210927BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20210927BHJP
H01M 4/38 20060101ALI20210927BHJP
H01M 12/08 20060101ALI20210927BHJP
H01M 12/06 20060101ALI20210927BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20210927BHJP
H01B 1/06 20060101ALI20210927BHJP
H01B 1/08 20060101ALI20210927BHJP
H01G 11/56 20130101ALI20210927BHJP
H01G 11/50 20130101ALI20210927BHJP
H01G 11/08 20130101ALI20210927BHJP
C01G 25/00 20060101ALI20210927BHJP
【FI】
H01M10/0562
H01M4/525
H01M4/505
H01M4/58
H01M4/485
H01M4/36 E
H01M4/38 Z
H01M12/08 K
H01M12/06 F
H01M10/052
H01B1/06 A
H01B1/08
H01G11/56
H01G11/50
H01G11/08
C01G25/00
【請求項の数】26
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2019-500886(P2019-500886)
(86)(22)【出願日】2017年7月11日
(65)【公表番号】特表2019-523527(P2019-523527A)
(43)【公表日】2019年8月22日
(86)【国際出願番号】US2017041456
(87)【国際公開番号】WO2018013517
(87)【国際公開日】20180118
【審査請求日】2019年3月19日
(31)【優先権主張番号】62/360,770
(32)【優先日】2016年7月11日
(33)【優先権主張国】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】507238218
【氏名又は名称】ザ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ ミシガン
(74)【代理人】
【識別番号】100134832
【弁理士】
【氏名又は名称】瀧野 文雄
(74)【代理人】
【識別番号】100165308
【弁理士】
【氏名又は名称】津田 俊明
(74)【代理人】
【識別番号】100115048
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 康弘
(72)【発明者】
【氏名】サカモト ジェフリー
(72)【発明者】
【氏名】トンプソン トラヴィス
【審査官】
川口 陽己
(56)【参考文献】
【文献】
特表2014−529327(JP,A)
【文献】
特開2013−032259(JP,A)
【文献】
特表2016−517146(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2014/0170465(US,A1)
【文献】
特開2015−130481(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2013/0026409(US,A1)
【文献】
Amores M. et al.,Fast microwave-assisted synthesis of Li-stuffed garnets and insights into Li diffusion from muon spin spectroscopy,Journal of Materials Chemistry A,2015年12月17日,Vol.4,pp.1729-1736
【文献】
Dhivya L. et al.,Effect of Simultaneous Substitution of Y and Ta on the Stabilization of Cubic Phase, Microstructure, and Li+ Conductivity of Li7La3Zr2O12 Lithium Garnet,ACS APPLIED MATERIALS & INTERFACES,2014年,Vol.6,pp.17606-17615
【文献】
Ohta S. et al.,Co-sinterable lithium garnet-type oxide electrolyte with cathode for all-solid-state lithium ion battery,Journal of Power Sources,2014年,Vol.265,pp.40-44
【文献】
Adam Ramzy and Venkataraman Thangadurai,Tailor-Made Development of Fast Li IonConducting Garnet-Like Solid Electrolytes,ACS Applied Materials & Interfaces,2010年01月27日,PP.385-390
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/05−10/0587
H01G 11/00−11/86
C01G 25/00−47/00
H01B 1/00−1/24
H01M 4/00−4/62
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式LiwAxM2Re3−yOz
(式中、wが5〜7.5であり、
AがB、Al、Ga、In、Zn、Cd、Y、Sc、Mg、Ca、Sr、Ba、およびそれらの任意の組み合わせから選択され、
xが0〜2であり、
MがZr、Hf、Nb、Ta、Mo、W、Sn、Ge、Si、Sb、Se、Te、およびそれらの任意の組み合わせから選択され、
Reがランタニド元素、アクチニド元素、およびそれらの任意の組み合わせから選択され、
yが0.01〜0.75であり、
zが10.875〜13.125である)を有し、
ガーネット型またはガーネット様結晶構造を有し、
電荷中性であり、
LLZO(Li7La3Zr2O12)参照組成と比較してReサイトが欠損しており、
40℃未満の温度で0.2eV未満のリチウムイオン導電の活性化エネルギーを有し、
前記活性化エネルギーがLN(σT)[LN(S−K/m)]対1000/T[1/K]のアレニウスプロットから測定される、セラミック材料。
【請求項2】
空間群Ia3d(no.230)を有する、請求項1に記載のセラミック材料。
【請求項3】
空間群I41/acd(no.142)を有する、請求項1に記載のセラミック材料。
【請求項4】
空間群Ia3d(no.230)を有し、空間群I41/acd(no.142)を有する、請求項1に記載のセラミック材料。
【請求項5】
少なくとも部分的に正方晶系結晶構造を有する、請求項1に記載のセラミック材料。
【請求項6】
10−5S/cmを超える室温総イオン導電率を有する、請求項1に記載のセラミック材料。
【請求項7】
10−5S/cmを超える室温総リチウムイオン導電率を有する、請求項1に記載のセラミック材料。
【請求項8】
40℃未満の温度で0.1eV未満のリチウムイオン導電の活性化エネルギーを有し、
前記活性化エネルギーがLN(σT)[LN(S−K/m)]対1000/T[1/K]のアレニウスプロットから測定される、請求項1に記載のセラミック材料。
【請求項9】
AがAlであり、
xがゼロより大きく、
MがZrであり、
Reがランタンである、
請求項1に記載のセラミック材料。
【請求項10】
wが6〜7であり、
xが0.2〜0.3であり、
yが0.01〜0.5であり、
zが11.5〜12.5である、
請求項9に記載のセラミック材料。
【請求項11】
式Li6.58Al0.25Zr2La2.7O11.715を有する、請求項1に記載のセラミック材料。
【請求項12】
カソードと、
アノードと、
請求項1に記載のセラミック材料を含む固体電解質と
を備える、電気化学デバイス。
【請求項13】
前記カソードが、金属がアルミニウム、コバルト、鉄、マンガン、ニッケルおよびバナジウムのうちの1種または複数であるリチウム金属酸化物からなる群から選択されるリチウムホスト材料と、一般式LiMPO4(式中、Mがコバルト、鉄、マンガン、およびニッケルのうちの1種または複数である)を有するリチウム含有リン酸塩とを含む、請求項12に記載の電気化学デバイス。
【請求項14】
前記アノードが、グラファイト、リチウムチタン酸化物、ハードカーボン、スズ/コバルト合金、およびシリコン/カーボンからなる群から選択されるリチウムホスト材料を含む、請求項12に記載の電気化学デバイス。
【請求項15】
前記アノードがリチウム金属を含む、請求項12に記載の電気化学デバイス。
【請求項16】
リチウム金属アノードと硫黄を含むカソードとを含む、請求項12に記載の電気化学デバイス。
【請求項17】
リチウム金属アノードと空気極を含むカソードとを含む、請求項12に記載の電気化学デバイス。
【請求項18】
前記固体電解質が請求項1に記載の前記セラミック材料と、ガーネット型またはガーネット様結晶構造を有する追加材料との固溶体を含む、請求項12に記載の電気化学デバイス。
【請求項19】
前記追加材料がLi5La3Ta2O12(LLTO)および/またはLi5La3Nb2O12(LLNO)を含む、請求項18に記載の電気化学デバイス。
【請求項20】
(a)酸化リチウムまたはリチウム塩を含む第1の固体と、酸化ランタンまたはランタン塩を含む第2の固体と、酸化ジルコニウムまたはジルコニウム塩を含む第3の固体とを混合して混合物を形成するステップと、
(b)前記混合物をか焼して前記セラミック材料を形成するステップと
を含む方法であって、
前記セラミック材料のランタンサイトが式Li7La3Zr2O12(LLZO)を有する参照材料と比較して欠損するように前記第1の固体の前記第2の固体に対する重量比が選択される、請求項1に記載のセラミック材料を形成する方法。
【請求項21】
ステップ(a)が前記第1の固体と、前記第2の固体と、前記第3の固体と、酸化アルミニウムまたはアルミニウム塩を含む第4の固体とを混合して前記混合物を形成することを含む、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記リチウム塩が炭酸リチウム、硝酸リチウムおよび水酸化リチウムから選択され、
前記ランタン塩が炭酸ランタン、硝酸ランタンおよび水酸化ランタンから選択され、
前記ジルコニウム塩が炭酸ジルコニウム、硝酸ジルコニウムおよび水酸化ジルコニウムから選択され、
前記アルミニウム塩が炭酸アルミニウム、硝酸アルミニウムおよび水酸化アルミニウムから選択される、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記第1の固体が炭酸リチウムを含み、
前記第2の固体が水酸化ランタンを含み、
前記第3の固体が酸化ジルコニウムを含み、
前記第4の固体が酸化アルミニウムを含む、
請求項21に記載の方法。
【請求項24】
ステップ(b)が400℃〜1200℃の温度で前記混合物をか焼することを含む、請求項20に記載の方法。
【請求項25】
前記第1の固体がリチウムイオンを供給し、
前記第2の固体がランタンイオンを供給し、
前記リチウムイオンの前記ランタンイオンに対するモル比が2.5未満になるように前記第1の固体の前記第2の固体に対する重量比が選択される、請求項20に記載の方法。
【請求項26】
前記第1の固体がリチウムイオンを供給し、
前記第2の固体がランタンイオンを供給し、
前記リチウムイオンの前記ランタンイオンに対するモル比が2.2〜2.5の範囲にあるように前記第1の固体の前記第2の固体に対する重量比が選択される、請求項20に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本出願は、2016年7月11日に出願された米国特許出願第62/360,770号に対する優先権を主張する。
【0002】
[連邦政府による資金提供を受けた研究開発の記載]
該当しない。
【0003】
本発明は、リチウムイオン導電性固体電解質、固体リチウムイオン電池、および固体リチウム金属電池などの電気化学デバイスに関する。一実施形態では、リチウムイオン導電性固体電解質は、セラミックガーネット系イオン導電材料を含む。
【背景技術】
【0004】
リチウムイオン(Li−イオン)電池技術は飛躍的に進歩しており、2019年までに105億ドルの市場規模が予測されている。現在の最先端リチウムイオン電池は、2つの電極(アノードおよびカソード)、両極が接触しないようにするがLi
+イオンを通過させるセパレータ材料、および電解質(リチウム塩を含む有機液体)を含んでいる。充電および放電中に、Li
+イオンが両極間で交換される。
【0005】
最先端(SOA)Li−イオン技術は、現在、少量生産のプラグインハイブリッドおよび特定分野の高性能自動車で使用されているが、電動パワートレインが広範に採用されるには、25%の低コスト化、4倍の高性能化、および出火の可能性のない、より安全なバッテリーを必要とする。1つのアプローチは、固体電池技術を開発することである。固体電池は、20%のパックコスト削減で、SOAリチウムイオン電池と比較して3〜4倍のエネルギー密度が見込まれる。
【0006】
現在、SOAリチウムイオン電池で使用される液体電解質は、リチウム金属アノードまたは高電圧カソードの使用などの先進的な電池コンセプトとは適合しない。さらに、SOAリチウムイオン電池で使用される液体は可燃性であり、熱暴走時に燃焼しやすい。SOAで使用される液体から、固体の電解質の使用に置き換えることで、電池の化学反応向上が可能となり、同時に燃焼の危険性排除も可能となる。Li
2PO
2N(LiPON)または硫化物系ガラスを含むいくつかの固体電解質が確認されており、これらのタイプの技術を商品化するために複数の会社が設立されている。これらのタイプの電池の運用に向けた進展がなされているが、LiPONは蒸着されなければならず、硫化物ガラスは周囲空気に曝されると有毒なH
2Sを発生するため、大規模製造は実施されていない。上述のように、これらのシステムには特別な製造技術が要求される。
【0007】
超導電酸化物(SCO)もまた、固体電解質での使用が提案されている。いくつかの酸化物電解質が文献で報告されているが、複数の基準が同時に満たされなければならないため、特定材料の選択は自明ではない。SOAリチウムイオン電池技術ベースラインの組み合わせについて、以下の基準、(1)導電率>0.2mS/cmであり、SOAリチウムイオン電池技術と同等であること、(2)無視できる程度の電子導電率、(3)高電圧カソードおよびリチウム金属アノードに対する電気化学的安定性、(4)高温安定性、(5)周囲空気および湿気の中での妥当な安定性、(6)厚さ<50ミクロンで製造可能であること、が認定された。最近まで、上記の基準を同時に満たすSCOはなかった。
【0008】
2007年に、ガーネット族の超導電性酸化物で高いLi−イオン導電性が確認され[Thangaduraiら、Adv.Funct.Mater.2005,15,107、およびThangaduraiら、Ionics,2006,12,81参照]、Li
7La
3Zr
2O
12(LLZO)をベースにしたSCOガーネットで最大化された[Muruganら、Angew.Chem.Inter.Ed.2007,46,7778参照]。それ以来、LLZOは上記の固体電解質に必要な基準の全てを満たし得ることが示されてきた。
【0009】
ガーネット族材料のいくつかの組成物は、一般式Li
3+aM
2Re
3O
12(式中、a=0〜3、M=+4価、+5価、または+6価の金属、Re=+3価の希土類元素)でLi−イオン導電性を示すことが知られている。[Xuら、Phys.Rev.B 2012,85,052301参照]。T.Thompson、A.Sharafi、M.D.Johannes、A.Huq、J.L.Allen、J.Wolfenstine、J.Sakamotoによる、Advanced Energy Materials誌 2015年第11巻記事番号1500096では、Li含有量に基づいて、最大のLi−イオン導電性を示す組成が特定された。LLZOは特に有望なガーネット族組成物である。(1)Al、Fe、Y、Ga、Ba、Caなどの元素をドープすること、(2)LLTO(Li
5La
3Ta
2O
12)およびLLNO(Li
5La
3Nb
2O
12)などの他のガーネット族と固溶体を形成することを含む、LLZOの導電性を高めるいくつかの戦略が特定されている[Thompsonら、Advanced Energy Materials 2015,11,1500096参照]。上述のメカニズム(ドーピングおよび固溶体)はいずれも、Liサイトおよび/またはMサイト(LLZOの場合にはZr)の置換に依存する。Reサイトの置換(LLZOの場合はLa)も試みられているが[E.Rangasamy,J.Wolfenstine,J.L.Allen,J.Sakamoto、Journal of Power Sources 2013,230,261参照]、実験による、またはコンピュータによるこれまでの報告のいずれも、Reサイトが特に安定しており、成功が限定的であったことを示唆している[S.Mukhopadhyay,T.Thompson,J.Sakamoto,A.Huq,J.Wolfenstine,J.L.Allen,N.Bernstein,D.A.Stewart、M.D.Johannes、Chemistry of Materials 2015,27,3658参照]。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
したがって、固体電解質が従来の固体電解質と比較して、より高いイオン導電性を提供することができるように、固体電解質製造のための改良された材料が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前述の必要性は、本発明によるセラミック材料によって満たされる。セラミック材料は、式Li
wA
xM
2Re
3−yO
z(式中、wは5〜7.5であり、AはB、Al、Ga、In、Zn、Cd、Y、Sc、Mg、Ca、Sr、Ba、およびそれらの任意の組み合わせから選択され、xは0〜2であり、MはZr、Hf、Nb、Ta、Mo、W、Sn、Ge、Si、Sb、Se、Te、およびそれらの任意の組み合わせから選択され、Reはランタニド元素、アクチニド元素、およびそれらの任意の組み合わせから選択され、yは0.01〜0.75であり、zは10.875〜13.125である)を有し、ガーネット型またはガーネット様結晶構造を有する。
【0012】
本発明のセラミック材料を含む固体電解質は、小型無人軍用地上ロボット、外科用電動ハンドツール、ウェアラブル製品、家庭用電化製品、自動車の始動、および電気自動車などの用途のリチウムイオン電池に組み込むことができる。
【0013】
本発明の1つの利点は、希土類含有量を減少させた材料を固体電解質の製造用材料として提供することであり、それにより地政学的リスクを低下させ、材料コストを削減する。
【0014】
本発明の別の利点は、低温導電性が改良された材料を固体電解質の製造用材料として提供することである。
【0015】
本発明のこれらの、および他の特徴、態様、および利点は、以下の詳細な説明、図面、および添付の特許請求の範囲を考慮することにより、よりよく理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図3】本開示の新規のガーネット相の全プロファイルフィッティングを示すレポートである。新しい相の実験パターンは、既知のガーネット相および不純物のデータベースエントリを用いてフィッティングした。R/E残余比4.9によって明らかなように、参照相は新規相を完全に説明していないことが分かる。正しい構造モデルが適用されると、この値は1に収束する。新規のガーネット相は、データベースの参照相と同じ空間群を有するが、原子サイトの占有率が実質的に異なることが予想される。
【
図4】本開示の新規のガーネットセラミック材料で作られたホットプレスディスクについて、室温でのインピーダンスデータのナイキストプロットを示すグラフである。高周波部分は、高速のイオン導電性が達成され、総インピーダンスの粒界部分が〜12%であることを示す。挿入図は低周波部分を示しており、ブロッキング挙動が維持され、試料が電解質のように挙動していることを示す。
【
図5】
図3に示す試料について、総導電率のアレニウスプロットを示すグラフである。40℃と50℃との間で生じている転移とともに2つの領域を観察することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、電池またはスーパーキャパシタなどの電気化学デバイス用の固体電解質として使用することができるセラミックガーネット系イオン導電材料を提供する。
【0018】
非限定的な一例示的用途では、本発明の材料を含む固体電解質は、
図1に示されるようにリチウムイオン電池に使用される。
図1のリチウムイオン電池10は、カソード14と接触する集電体12(例えば、アルミニウム)を含む。本発明の材料を含む固体電解質16は、カソード14とアノード18との間に配置され、アノード18は集電体22(例えばアルミニウム)と接触する。リチウムイオン電池10の集電体12および22は、電気部品24と電気的に連通していてもよい。電気部品24は、リチウムイオン電池10を、電池を放電させる電気負荷または電池を充電する充電器と電気的に連通するように配置することができる。
【0019】
リチウムイオン電池10のカソード14に適した活物質は、リチウムイオンを貯蔵し、その後放出することができるリチウムホスト材料である。例示的なカソード活物質は、金属がアルミニウム、コバルト、鉄、マンガン、ニッケルおよびバナジウムのうちの1種または複数であるリチウム金属酸化物である。非限定的な例示的リチウム金属酸化物は、LiCoO
2(LCO)、LiFeO
2、LiMnO
2(LMO)、LiMn
2O
4、LiNiO
2(LNO)、LiNi
xCo
yO
2、LiMn
xCo
yO
2、LiMn
xNi
yO
2、LiMn
xNi
yO
4、LiNi
xCo
yAl
zO
2、LiNi
1/3Mn
1/3Co
1/3O
2などである。別の例示的なカソード活物質は、リン酸鉄リチウム(LFP)およびフルオロリン酸鉄リチウムなどの一般式LiMPO
4(式中、Mはコバルト、鉄、マンガン、およびニッケルのうちの1種または複数である)を有するリチウム含有リン酸塩である。さまざまな元素、例えば、Co、Mn、Ni、Cr、Al、またはLiを、電子導電性、層の秩序化、脱リチウム化に対する安定性、およびカソード材料のサイクル性能に影響を与えるために、構造に置換または追加してもよい。カソード活物質は、これらのカソード活物質の任意の数の混合物であってもよい。
【0020】
リチウムイオン電池10のアノード18に適した活物質は、リチウムイオンを組み込み、その後放出することができるリチウムホスト材料であり、例えばグラファイト、リチウムチタン酸化物、ハードカーボン、スズ/コバルト合金、またはシリコン/カーボンなどである。アノード活物質は、これらのアノード活物質の任意の数の混合物であってもよい。
【0021】
別の非限定的な例示的用途では、本発明の材料を含む固体電解質は、
図2に示すようにリチウム金属電池に使用される。
図2のリチウム金属電池110は、カソード114と接触する集電体112を含む。本発明の材料を含む固体電解質116は、カソード114とアノード118との間に配置され、アノード118は集電体122と接触する。リチウム金属電池110の集電体112および122は、電気部品124と電気的に連通していてもよい。電気部品124は、リチウム金属電池110を、電池を放電させる電気負荷または電池を充電する充電器と電気的に連通するように配置することができる。リチウム金属電池110のカソード114に適した活物質は、上記リチウムホスト材料のうちの1種または複数、または多孔質炭素(リチウム空気電池用)、または硫黄含有材料(リチウム硫黄電池用)である。リチウム金属電池110のアノード118に適した活物質はリチウム金属である。
【0022】
特定のガーネット系材料は、固体電解質を形成するために有用である。一般式Li
3+aM
2Re
3O
12(式中、a=0〜3、M=+4価、+5価、または+6価の金属、Re=+3価の希土類元素)でリチウムイオン導電性を示すガーネット族の材料については、ほとんどの研究論文が、組成を決定するために他のサイトが変更された場合の比較の根拠となる「基準」としてReサイトを使用する。本発明は、LLZO(Li
7La
3Zr
2O
12)参照組成と比較してReサイトが高度に欠損した新規のガーネットセラミック材料である。Reサイト(LLZOの場合はLa)が通常は最も安定していると考えられるため、これは自明ではない。当業者にとって一般的な知見は、そのサイトの化学量論を変えないことであろう。しかし、我々の研究では、La欠損を有するセラミック材料の合成が依然として高純度のガーネット相をもたらすことが認められた。さらに、高導電性立方晶相を安定化するために、LiサイトにAlをドープする同じスキームが可能である。さらに、試料の一部が濃縮されて正方晶に変換されるように、Li含有量を調整することができる(
図3参照)。それぞれの相対的割合を調整することができ、濃縮された正方晶部分は、その後の高温処理中にリチウム損失を相殺するためのリチウム貯蔵源として働く。
【0023】
本発明のセラミック材料は、新規の相と考えられ、新規のドープ変種とは見なされない。例えば、ドーピングが行われると(すなわち、Li
+1にAl
+3)、電荷中性を維持するために結晶内の別のものが変化する必要があり、典型的にはLiが電荷を均衡させる。これらの材料では、電荷も均衡していなければならない。Liが電荷均衡化している場合、試料中のLi含有量は増加する必要があり、正方晶相が生じるはずである。しかし、La欠損の均衡化に十分なLiは存在せず、立方晶相は依然として支配的である。したがって、理論に縛られる意図はないが、Liの電荷均衡化はそのメカニズムではあり得ない。
【0024】
本発明の材料の新規のガーネット相は、ドープされたLLZO相と同様の高速のイオン導電性を示す(
図4参照)。
図3に示す試料の室温総Li−イオン導電率は、0.37mS/cmである。これは、報告されている従来のAlドープ値(0.3〜0.4mS/cm)に近く、固溶体について報告されている最高値(1mS/cm)よりも低い。
図3に示す試料はAlドープされており、導電率をさらに高めるための固溶体の形成も、このガーネットセラミック材料で可能であるはずである。比較のために、最先端Li−イオン電池で使用される液体の電解質に浸漬されたセパレータの導電率は、0.1〜0.3mS/cmである。
【0025】
同じ試料の活性化エネルギーを
図5に示す。線形挙動は活性化されたLi導電過程を示唆し、勾配は活性化エネルギーである。活性化エネルギーが低いほど、Li−イオンは導電しやすい。これは低温で特に重要である。活性化エネルギーが高すぎると、導電率が低温で許容できないほど低いレベルまで低下することを意味する。自動車でのコールドクランキングを含む多くの用途が低温性能を必要とする。
図5では、40℃と50℃との間(〜3.1 1000/K)の転移とともに2つの領域を見ることができる。高温領域は、0.34eVの活性化エネルギーを示し、類似する従来のAlドープガーネット組成物と一致する。低温領域は、他のガーネット組成物では観察されない、0.09eVの異常に低い活性化エネルギーを示す。
【0026】
一実施形態では、本発明のセラミック材料は、式Li
wA
xM
2Re
3−yO
z(式中、wは5〜7.5であり、AはB、Al、Ga、In、Zn、Cd、Y、Sc、Mg、Ca、Sr、Ba、およびそれらの任意の組み合わせから選択され、xは0〜2であり、MはZr、Hf、Nb、Ta、Mo、W、Sn、Ge、Si、Sb、Se、Te、およびそれらの任意の組み合わせから選択され、Reはランタニド元素、アクチニド元素、およびそれらの任意の組み合わせから選択され、yは0.01〜0.75であり、zは10.875〜13.125である)を有し、ガーネット型またはガーネット様結晶構造を有する。一実施形態では、AはAlであり、xはゼロより大きく、MはZrであり、Reはランタンである。一実施形態では、wは6〜7であり、xは0.2〜0.3であり、yは0.01〜0.5であり、zは11.5〜12.5である。非限定的な一例示的実施形態では、材料は式Li
6.58Al
0.25Zr
2La
2.7O
11.715を有する。
【0027】
一形態では、セラミック材料は空間群Ia3d(英文明細書では3の上にバー有り。以下同じ。)(no.230)を有する。一形態では、セラミック材料は空間群I4
1/acd(no.142)を有する。一形態では、セラミック材料は空間群Ia3d(no.230)を有し、材料は空間群I4
1/acd(no.142)を有する。一形態では、セラミック材料は少なくとも部分的に正方晶系結晶構造を有する。
【0028】
セラミック材料は、10
−5S/cmを超える総イオン導電率を有することができる。セラミック材料は、10
−5S/cmを超える総リチウムイオン導電率を有することができる。セラミック材料は、0.5eV未満のイオン導電の活性化エネルギーを有することができる。セラミック材料は、40℃未満の温度で0.2eV未満のリチウムイオン導電の活性化エネルギーを有することができる。セラミック材料は、40℃未満の温度で0.1eV未満のリチウムイオン導電の活性化エネルギーを有することができる。
【0029】
本発明はまた、カソードと、アノードと、本発明のセラミック材料の実施形態のいずれかを含む固体電解質とを含む電気化学デバイスを提供する。固体電解質は、本発明のセラミック材料と、Li
5La
3Ta
2O
12(LLTO)および/またはLi
5La
3Nb
2O
12(LLNO)などのガーネット型またはガーネット様結晶構造を有する追加材料との固溶体を含んでいてもよい。一例示的実施形態では、カソードは、金属がアルミニウム、コバルト、鉄、マンガン、ニッケルおよびバナジウムのうちの1種または複数であるリチウム金属酸化物からなる群から選択されるリチウムホスト材料と、一般式LiMPO
4(式中、Mはコバルト、鉄、マンガン、およびニッケルのうちの1種または複数である)を有するリチウム含有リン酸塩とを含む。一例示的実施形態では、アノードは、グラファイト、リチウムチタン酸化物、ハードカーボン、スズ/コバルト合金、およびシリコン/カーボンからなる群から選択されるリチウムホスト材料を含む。一例示的実施形態では、アノードはリチウム金属を含む。一例示的実施形態では、電気化学デバイスは、リチウム金属アノードと硫黄を含むカソードとを含む。一例示的実施形態では、電気化学デバイスはリチウム金属アノードと空気極を含むカソードとを含む。
【0030】
本発明はまた、セラミック材料を形成する方法を提供する。この方法は(a)酸化リチウムまたはリチウム塩を含む第1の固体と、酸化ランタンまたはランタン塩を含む第2の固体と、酸化ジルコニウムまたはジルコニウム塩を含む第3の固体とを混合して混合物を形成するステップ、および(b)混合物をか焼してセラミック材料を形成するステップを含み、第1の固体の第2の固体に対する重量比は、セラミック材料のランタンサイトが、式Li
7La
3Zr
2O
12(LLZO)を有する参照材料と比較して欠損するように選択される。セラミック材料は電荷中性であってもよい。
【0031】
方法のステップ(a)は、第1の固体、第2の固体、第3の固体および酸化アルミニウムまたはアルミニウム塩を含む第4の固体を混合して混合物を形成することを含んでもよい。リチウム塩は、炭酸リチウム、硝酸リチウムおよび水酸化リチウムから選択することができ、ランタン塩は、炭酸ランタン、硝酸ランタンおよび水酸化ランタンから選択することができ、ジルコニウム塩は、炭酸ジルコニウム、硝酸ジルコニウムおよび水酸化ジルコニウムから選択することができ、アルミニウム塩は、炭酸アルミニウム、硝酸アルミニウムおよび水酸化アルミニウムから選択することができる。一実施形態では、第1の固体は炭酸リチウムを含み、第2の固体は水酸化ランタンを含み、第3の固体は酸化ジルコニウムを含み、第4の固体は酸化アルミニウムを含む。方法のステップ(b)は、混合物を400℃〜1200℃、または600℃〜1200℃、または800℃〜1200℃、または900℃〜1100℃の温度で、1〜20時間、または2〜10時間、または2〜6時間か焼することを含むことができる。
【0032】
この方法では、第1の固体はリチウムイオンを供給することができ、第2の固体はランタンイオンを供給することができ、第1の固体の第2の固体に対する重量比は、リチウムイオンのランタンイオンに対するモル比が2.5未満であるように選択することができる。第1の固体の第2の固体に対する重量比は、リチウムイオンのランタンイオンに対するモル比が2.2〜2.5の範囲にあるように選択することもできる。
【0033】
本発明のセラミック材料は、リチウムイオン導電性固体電解質を形成する方法で使用することができる。非限定的な一例示的方法は、(a)スラリーを表面上にキャストして層を形成するステップと、(b)層を焼結して固体電解質を形成するステップとを含み、スラリーは本発明のセラミック材料を含む。この方法では、層を600℃〜1100℃の範囲の温度で焼結することができ、層は10〜100ミクロンの範囲の厚さを有することができる。
【0034】
この方法では、スラリーはリチウムイオン供給源を提供する分散剤を含んでもよい。分散剤は、リチウムおよび脂肪酸の塩、例えばラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキジン酸、およびベヘン酸からなる群から選択することができる。分散剤はステアリン酸リチウムであってもよい。
【0035】
この方法では、スラリーは結合剤を含んでもよい。結合剤は、非フッ素化ポリマー材料からなる群から選択することができる。
【0036】
この方法では、スラリーは植物油からなる群から選択される可塑剤を含んでもよい。植物油は、ヤシ油、ヒマシ油、大豆油、パーム核油、アーモンド油、コーン油、キャノーラ油、菜種油、およびそれらの混合物からなる群から選択することができる。
【0037】
この方法では、スラリーは、アルカノール、ニトリル、アルキルカーボネート、アルキレンカーボネート、アルキルアセテート、スルホキシド、グリコールエーテル、エーテル、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、テトラヒドロフラン、およびそれらの混合物からなる群から選択される溶媒を含んでもよい。
【0038】
この方法では、スラリーは焼結助剤を含んでもよい。焼結助剤は、ホウ酸イオン、ケイ酸イオン、リン酸イオン、またはアルミン酸イオンの供給源を提供する。焼結助剤は、ホウ酸、ホウ酸塩、ホウ酸エステル、ホウ素アルコキシド、リン酸、リン酸塩、リン酸エステル、ケイ酸、ケイ酸塩、シラノール、シリコンアルコキシド、アルミニウムアルコキシド、およびそれらの混合物からなる群から選択することができる。
【0039】
方法の非限定的な一例では、スラリーは、本発明のセラミック材料35〜65重量%、結合剤1〜5重量%、分散剤0.1〜5重量%、可塑剤1〜30重量%、焼結助剤0〜5重量%、溶媒10〜55重量%を含み、全ての重量パーセントはスラリー全体の重量による百分率である。
【実施例】
【0040】
以下の実施例は、本発明をさらに説明するために示されたものであり、本発明を限定することをいかなる意味でも意図しない。
【0041】
[合成]
固相反応(SSR)を用いて本発明の新規の相を合成した。炭酸リチウム(14.2726グラム)、水酸化ランタン(32.6099グラム)、酸化アルミニウム(0.7878グラム)、および酸化ジルコニウム(15.2330グラム)に250mLのシクロヘキサンを添加し、遊星ミル(PM100、Retsch社製)で、100個の粉砕ボール(直径10mmのメノウ、Across International社製)とともに500mLサイズのボールミル用ジャー(メノウ、Retsch社製)内で混ぜ合わせて、20時間粉砕した(400RPM、1分間の回転後に1分間休止し、休止後に回転方向が逆転する動作周期)。混合された前駆体を蒸発皿に注ぎ入れ、乾燥させた。乾燥粉末を集め、炉中でか焼(1000℃、4時間)して相を形成させた。か焼した粉末を集め、ホットプレスのための調製として乳鉢と乳棒(メノウ、Across International社製)で粉砕した。粉末を直径1/2インチのダイに入れ、ホットプレス(温度1100℃、荷重8000N、1時間)してビレットを作製した。密度は質量および幾何学的体積を測定することによって決定した。ダイヤモンドソー(Buehler社製 IsoMet 1000)を使用してビレットからディスクを切り出し、リチウム導電率および活性化エネルギー測定のために研磨した。
図3、
図4および
図5は、この実施例で作製された試料の特性評価の結果を示す。この実施例の合成は、本発明の新規の相のセラミック材料を合成するために適した方法を限定するものではない。
【0042】
上述のように、本発明は、電池またはスーパーキャパシタなどの電気化学デバイス用の固体電解質として使用することができるセラミックガーネット系イオン導電材料を提供する。
【0043】
本発明を特定の実施形態を参照してかなり詳細に説明したが、当業者には説明した実施形態以外によって本発明を実施し得ることは明らかであり、それらは説明の目的で示されるものであって、限定するものではない。したがって、添付の特許請求の範囲は、本明細書に含まれる実施形態の説明に限定されない。