特許第6944580号(P6944580)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6944580
(24)【登録日】2021年9月14日
(45)【発行日】2021年10月6日
(54)【発明の名称】異常診断システム
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/30 20060101AFI20210927BHJP
   E02F 9/26 20060101ALI20210927BHJP
【FI】
   G01N33/30
   E02F9/26 Z
【請求項の数】3
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2020-181435(P2020-181435)
(22)【出願日】2020年10月29日
(62)【分割の表示】特願2019-532354(P2019-532354)の分割
【原出願日】2017年11月8日
(65)【公開番号】特開2021-39109(P2021-39109A)
(43)【公開日】2021年3月11日
【審査請求日】2020年10月29日
(31)【優先権主張番号】特願2017-147210(P2017-147210)
(32)【優先日】2017年7月28日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005522
【氏名又は名称】日立建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001829
【氏名又は名称】特許業務法人開知国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高見 弘樹
(72)【発明者】
【氏名】倉迫 彬
(72)【発明者】
【氏名】小倉 興太郎
(72)【発明者】
【氏名】秋田 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】小野瀬 宏
(72)【発明者】
【氏名】濱町 好也
【審査官】 西浦 昌哉
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−113819(JP,A)
【文献】 特開2001−236115(JP,A)
【文献】 特開2016−118956(JP,A)
【文献】 米国特許第7222051(US,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/00−33/46
E02F 9/00−9/18
E02F 9/24−9/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
機械のオイルに基づく不具合の原因を特定する原因特定部と、
前記原因特定部によって不具合を解消するための対応マニュアルを送信する送信部と、
前記原因特定部によってオイル採取が必要な不具合であると特定された場合、端末に問診事項を送信する問診事項送信部と、
前記問診事項に対する前記端末からの回答を受信する情報受信部と、
前記回答に基づいて不具合の原因を特定できない場合、オイルの採取を伴うオイル分析を促す通知をするオイル分析勧告部とを備えることを特徴とする異常診断システム。
【請求項2】
前記送信部は給排気系、エンジン回転摺動部の摩耗、吸排気系の異常、または全般に関するマニュアルのうち、少なくともひとつを送信することを特徴とする請求項1記載の異常診断システム。
【請求項3】
前記問診事項送信部はさらに、複数の問診事項の中から、前記端末からの回答に応じて一つの問診事項を順次送信することを特徴とする請求項1記載の異常診断システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はオイルセンサにより検出したオイルのオイル性状に基づきオイルの異常を診断する異常診断システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年は、油圧ショベル、ダンプトラック、ホイールローダ、フォークリフト、クレーンなどを含む作業機械に設けられたオイルセンサのセンサ値の情報に基づいて異常診断を作業機械に適用する試みがなされている。
【0003】
例えば、特許文献1では、作業機械の稼働に利用されているオイルについてのオイル性状を検出するオイルセンサから入力された複数のセンサ情報と、当該複数のセンサ情報ごとに定められた判定値とが記憶された記憶装置と、当該複数のセンサ情報と当該複数のセンサ情報に係る判定値に基づいて、オイルの異常度合いの程度を判別する第1処理と、第1処理で判別されたオイルの異常度合いの程度に基づいて、オイル採取を伴うオイル分析を行う必要性の有無を判別する第2処理と、当該第2処理で前記オイル採取を伴うオイル分析が必要であると判別された場合にその旨を他の端末に出力する第3処理とを実行する演算処理装置とを備える作業機械のオイル性状の診断システムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016−113819号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1には、オイルセンサから得られたセンサ情報を所定の式(評価式)を介して評価値(ΔYj(t))に変換し、当該評価値を判定値に基づいて複数のランクに分類し、その「評価値のランク」に基づいてオイルの異常原因を特定する方法が開示されている。
【0006】
しかし、この評価値のランクに基づく異常原因のオイル分析会社による特定には精度の観点から改善の余地があり、精度確保の観点からはオイル分析との併用が好ましいものであった。異常発覚時のサービス担当者による補修、整備の対応は異常の原因に応じて行われるため、サービス担当者による作業機械へのメンテナンス対応はオイル分析による原因特定後となり、オイルの異常度合を判別する第1処理の段階では速やかにメンテナンス対応を実施することができなかった。
【0007】
本発明の目的は、オイル分析を実施することなくオイルの異常を引き起こしている原因を特定可能な異常診断システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願は上記課題を解決する手段を複数含んでいるが、その一例を挙げるならば、機械のオイルに基づく不具合の原因を特定する原因特定部と、前記原因特定部によって不具合を解消するための対応マニュアルを送信する送信部と、前記原因特定部によってオイル採取が必要な不具合であると特定された場合、端末に問診事項を送信する問診事項送信部と、前記問診事項に対する前記端末からの回答を受信する情報受信部と、前記回答に基づいて不具合の原因を特定できない場合、オイルの採取を伴うオイル分析を促す通知をするオイル分析勧告部とを備える異常診断システムとした。
【発明の効果】
【0009】
本発明によればオイル分析を実施することなくオイルの異常を引き起こしている原因を速やかに特定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施の形態に係るオイル診断システムの概略構成図。
図2】油圧ショベル501の全体構成図。
図3】油圧ショベル501におけるエンジン701のオイル系統の構成図。
図4】作業機械用コントローラ110とメーカ用コンピュータ104の概略構成図。
図5】センサ101Aにより検出される各センサ情報(粘度、密度、誘電率)の時間変化を示す図。
図6】粘度(センサ101Aで検出されるオイル性状の一例)と温度の相関関係を示す図。
図7】代表的なエンジンオイルの異常原因と各オイル性状の変化の相関関係をまとめた図。
図8】オイルに水分が混入した際の誘電率の時間変化の一例を示す図。
図9】変化量指標値の一例の説明図。
図10】メーカ用コンピュータ104が実行する処理のフローチャートの一例。
図11】S806でスス混入の可能性ありと判定された場合にS815で行われる処理の一例の説明図。
図12図11の4つの問診事項への回答内容に応じてメーカ用コンピュータ104で実行される処理がS818で選択される場合のフローチャートの一例。
【発明を実施するための形態】
【0011】
油圧ショベルをはじめとする作業機械等の機械に搭載されるエンジンや、油圧ポンプ及び油圧シリンダなどの油圧機器では、例えば掘削などの高負荷の動作の繰り返しなどによって、部品の潤滑や動力伝達媒体として用いられているオイル(エンジンオイルや作動油)の性状そのものが劣化してくる。また、これらのオイルの潤滑性能の劣化に伴い、高負荷を受けている部品の接触部に摩耗などの不具合が生じるようになる。エンジンや油圧機器系の部品の耐久性を高めるためには、オイルの潤滑性能を適正に保つように定期的にオイルを交換することが必要となる。また、高負荷の動作によって生じた部品内部の接触面に生じた微細な摩耗粉などについては、オイルの戻り回路中に設けたフィルタで回収することでオイルの清浄度を保つようにされている。しかし、オイル性状の劣化に伴いフィルタ自体にも損耗が蓄積されてくるため、オイルと同じくフィルタも定期的な交換が必要となる。また、部品の摩耗などの損傷が大きくなると部品そのものを交換することが必要となる。
【0012】
本実施の形態に係るオイル診断システムは、作業機械等の機械のエンジン系、油圧機器系の基幹部品の潤滑や動力伝達媒体として用いられているオイルの性状の状態をセンサで検出し、そのセンサ情報(オイルの物理化学的な状態を示す数値)に基づいてオイルの異常度合いの程度をリアルタイムに判別し、その判別結果に応じた機械が故障に至る前の適切なタイミングでの補修・整備のための対応マニュアルを提示し、必要に応じて詳細なオイル分析のためのオイル採取を促すものである。これにより、適正なオイル交換やフィルタ交換あるいは部品の交換などを行うことで故障を未然に防止することができ、また修理等の対応処理を迅速に行うことで機械を効率的に管理できる。また、故障前に部品の再生化の処理を施すことができるので、機械の休止時間及び修理費用を最小化することが可能となる。
【0013】
以下では、油圧ショベルを利用した実施の形態を例に挙げて説明するが、本発明は、潤滑剤や動力伝達媒体としてオイルを利用している機械であれば、油圧ショベルに限らず、ダンプトラック、ホイールローダ、ブルドーザ、フォークリフト、クレーンなどのその他の作業機械の他、エンジンを利用する車両や産業機械等の機械にも適用することができる。また、以下ではエンジンオイルの性状を検出するシステムを例に挙げて説明するが、本発明は、エンジンオイルに限らず、油圧アクチュエータを駆動する作動油やミッションオイル等のオイルも対象となり得る。
【0014】
図1は本発明の実施の形態に係るオイル診断システムの概略構成図である。この図に示す診断システムは、ユーザに利用される油圧ショベル501(図2参照)に搭載されたコントローラ(作業機械用コントローラ)110と、油圧ショベル501を製造したメーカの管理下にありコントローラ(制御装置)104a及び記憶装置(データベース(記憶部))104bを有するメーカ用コンピュータ(サーバ)104と、油圧ショベル501の管理者(ユーザ)が使用するコンピュータ(管理者用コンピュータ)112と、作業機械メーカ又はその営業所若しくは代理店等に所属し油圧ショベル501の故障修理・メンテナンスを行うサービス担当者(サービスマン)が使用するコンピュータ(サービス用コンピュータ)111と、油圧ショベル501から採取されたオイルを分析するオイル分析会社の管理下にある分析会社用コンピュータ113とを備えている。
【0015】
なお、図示して説明しないが、コントローラ110及びコンピュータ104,112,111,113は、各種プログラムを実行するための演算手段としての演算処理装置(例えば、CPU)と、当該プログラムをはじめ各種データを記憶するための記憶手段としての記憶装置(例えば、ROM、RAMおよびフラッシュメモリ等の半導体メモリや、ハードディスクドライブ等の磁気記憶装置(記憶部))と、演算処理装置及び記憶装置等へのデータ及び指示等の入出力制御を行うための入出力演算処理装置を備えている。また、コントローラ110及びコンピュータ104,112,111,113は、無線または有線でネットワーク(例えば、LAN、WAN、インターネット)に接続されており、相互にデータの送受信が可能に構成されている。さらに、コントローラ110及びコンピュータ104,112,111,113の操作者をはじめとする人への情報提供が必要な場合には演算処理装置の処理結果等を表示するための表示装置(例えば、液晶モニタ等)を備えても良いし、人からの情報入力が必要な場合には入力装置(例えば、テンキー、キーボード、タッチパネル等)を備えても良い。また、本診断システムを構成するコンピュータ104,112,111,113としては、据え置き型の端末だけでなく、携帯用の端末(ノートブックパソコン、携帯電話、スマートフォン、タブレット端末など)も利用可能である。
【0016】
図2は油圧ショベル501の全体構成図を示すものである。油圧ショベル501は、オイル性状センサ101A(図3に示す)と、作業機械用コントローラ110と、バケット521、アーム522及びブーム523を駆動するための油圧シリンダ511、512、513と、油圧シリンダ511、512、513をはじめとする油圧ショベル内の各油圧アクチュエータに作動油を供給するための油圧ポンプ702(図3参照)と、油圧ポンプ702を駆動するエンジン701(図3参照)と、走行油圧モータ(図示せず)により駆動される履帯(無限軌道)を有する下部走行体533と、下部走行体533の上部に旋回機構532を介して旋回可能に取り付けられ、旋回油圧モータ(図示せず)により旋回駆動される上部旋回体531とを備えている。
【0017】
油圧ショベル501の動作について説明する。油圧ショベル501が掘削などの動作を行う場合には、油圧シリンダ511、512、513の伸縮動作によってバケット521、アーム522、ブーム523が駆動される。ブーム523の基部は上部旋回体531に取り付けられている。
【0018】
図3は油圧ショベル501のエンジン701で利用されるエンジンオイルのシステム構成図である。エンジンオイルは、エンジン701の内部の潤滑およびエンジン701の冷却のために用いられる。図3において、オイルポンプ702は、エンジン701の回転に合わせて駆動される。オイルポンプ702は、オイルパン703からエンジンオイルを吸引し、オイルクーラ704に送る。オイルクーラ704でウォータジャケット705内の冷却水との熱交換によって冷却されたエンジンオイルはオイルフィルタ706で異物を除去された後にオイルパン703に戻される。
【0019】
また、ウォータポンプ707もエンジン701の回転によって駆動され、ウォータジャケット705内の冷却水を吸引してラジエータ708に供給する。ラジエータで冷却された冷却水はウォータジャケット705に戻される。ラジエータ708は、エンジン701の回転部に取り付けられた冷却ファン709が取り込む空気によって冷却(空冷)される。
【0020】
オイル性状センサ(オイルセンサとも称する)101Aは、オイルクーラ704とオイルフィルタ706を接続し、エンジンオイルがオイルパン703に戻る際に通過する油路(戻り回路)に設けられており、この油路を通過するエンジンオイルの性状(具体的には、温度、粘度、密度及び誘電率を含む)を検出(測定)している。本実施形態では、エンジンオイルの温度、粘度、密度及び誘電率を1つのオイル性状センサ101Aで検出する場合について説明するが、これら4つの性状を複数のオイル性状センサで適宜分担して検出するようにシステムを構成しても良いし、同じ性状を異なる場所で検出するようにシステムを構成しても良い。前者の場合、各オイル性状センサは1以上のオイル性状を検出することとなる。
【0021】
オイル性状センサ101Aのセンサ信号は適宜処理されてオイル性状の物理量を示す情報(オイル性状情報又はセンサ情報と称する)として作業機械用コントローラ110とメーカ用コンピュータ104に入力・記憶される。本実施形態では、オイル性状センサ101Aが取得したセンサ情報は作業機械用コントローラ110の記憶装置103に一旦記憶され、その後所定の周期でメーカ用コンピュータ104に出力されメーカ用コンピュータ104が利用可能な記憶装置(データベース(DB))104bに記憶される。センサ情報は記憶装置104bだけでなく、メーカ用コンピュータ104内の記憶装置(例えば、ハードディスクドライブまたはフラッシュメモリ)をはじめとしたメーカ用コンピュータ104が利用可能な他の記憶装置に記憶しても良い。記憶装置104bは、コンピュータ104が接続可能なクラウド型データベースでも良い。
【0022】
なお、ここでは説明を簡略化するためにオイル性状センサ101Aだけの設置箇所を説明したが、油圧ショベル501にはオイル性状センサ101Aの他にもオイル性状センサを備えても良く、その個数に特に限定は無い。
【0023】
オイル性状センサ101Aで測定するオイル性状としては、オイルの温度、粘度、密度、誘電率などがある。また必要に応じてこれらにオイルの色情報やコンタミ等級などのオイル性状を測定対象として追加し、必要な場合にはオイル性状センサを追加設置しても良い。オイル性状センサで測定可能なオイル性状はセンサの仕様により異なるため(1つだけでなく2つ以上のオイル性状を測定できるセンサも存在する)、実際に油圧ショベル501に搭載されるオイル性状センサの組み合わせは、測定したいオイル性状と各センサの仕様に応じて異なってくる。
【0024】
図4は作業機械用コントローラ110とメーカ用コンピュータ104の概略構成図である。
【0025】
作業機械用コントローラ110は、油圧ショベル501に搭載されたオイル性状センサ101Aのセンサ値に基づくセンサ情報(第1レベルのセンサ情報)102を記憶するための記憶装置103を備えている。本実施の形態に係るオイル性状センサ101Aは、温度、粘度、密度および誘電率の4つのオイル性状の測定が可能である。図4に示すように、例えば、或る時刻におけるセンサ101Aによる粘度のセンサ情報は、作業機械用コントローラ110で適宜処理され、センサ情報A1として作業機械用コントローラ110の記憶装置103に測定時刻と関連づけて記憶される。図4中のセンサ情報A1,A2,A3,A4…は、センサ101Aが異なる時刻に測定した粘度のセンサ情報を示しており、時間経過とともに末尾の数字が増加するようになっている。これによりセンサ101Aによる粘度のセンサ情報Aの時系列データが作業機械用コントローラ110に記憶される。同様に図中のセンサ情報Bはセンサ101Aによる密度のセンサ情報を示す。説明は省略するが、センサ101Aで検出される他の性状の誘電率及び温度についても同様にセンサ情報C,Dとして記憶装置103に記憶されている。
【0026】
メーカ用コンピュータ(サーバ)104のコントローラ(制御装置)104aは、オイル性状センサ101Aによるエンジンオイルの粘度、密度及び誘電率の検出データであるセンサ情報A,B,Cの時間変化がオイルの異常の原因を特定するうえで有意な変化か否かを判定するための判定値(閾値)である変化量判定値であって、センサ情報A,B,Cの時間変化の傾向を示す変化量指標値(後述)ごとに定められた変化量判定値を記憶した記憶装置(RAM)210と、センサ情報A,B,C並びにこの3つのオイル性状(センサ情報A,B,C)ごとに規定された異常判定値(後述)に基づいてエンジンオイルの異常の有無を判定する処理を実行する異常判定部211と、異常判定部211でオイルの異常が判定されたとき、異常と判定されたオイル性状の種類、センサ情報A,B,Cの時間変化の傾向を示す変化量指標値及び記憶装置210に記憶された変化量判定値に基づいてオイルの異常の原因を特定する処理を実行する原因特定部212と、原因特定部202で特定された原因に応じた補修・整備の対応マニュアルを他の端末(例えば、作業機械用コントローラ110、管理者用コンピュータ112及びサービス用コンピュータ111の少なくとも1つ)に送信する処理を実行するマニュアル送信部213とを備えている。
【0027】
さらに、メーカ用コンピュータ104は、異常と判定されたオイル性状の種類、センサ情報A,B,Cの変化量指標値及び変化量判定値ではオイルの異常の原因を原因特定部202が特定できないとき他の端末(例えば、作業機械用コントローラ110、管理者用コンピュータ112及びサービス用コンピュータ111の少なくとも1つ)に油圧ショベル501に現れる異常の有無に関する問診事項を送信する処理を実行する問診事項送信部214と、当該問診事項を受信した当該他の端末の利用者による問診事項への回答であって、当該他の端末から送信される問診事項への回答を受信する情報受信部215と、異常と判定されたオイル性状の種類及びセンサ情報A,B,Cの変化量指標値及び変化量判定値及び問診事項への回答では異常判定部211で判定したオイルの異常の原因を原因特定部212が特定できないとき他の端末(例えば、作業機械用コントローラ110、管理者用コンピュータ112、サービス用コンピュータ111及び分析会社用コンピュータ113の少なくとも1つ)にオイル採取を伴うオイル分析が必要である旨を送信する処理を実行するオイル分析勧告部216を備えている。
【0028】
メーカ用コンピュータ104の記憶装置210には、異常判定部211が各オイル性状に基づいてオイルの異常の有無を判定する際に利用される異常判定値(閾値)が記憶されている。異常判定値はオイル性状ごとに規定されている。すなわち、粘度、密度及び誘電率のそれぞれに異常判定値が定められている。各オイル性状の異常判定値は1つのみに限られず、1つのオイル性状につき2つの異常判定値が規定されていることもある。各異常判定値は、油圧ショベル501及びこれと同機種の油圧ショベルで取得された過去のセンサ情報(オイル性状情報)とオイルの異常度合いの程度の相関関係の実績に基づいて定められている。
【0029】
本実施形態では異常判定値として、粘度に、正常な初期値より大きい上方異常判定値SAhと、当該初期値より小さい下方異常判定値SAlの2つを規定している。また、密度及び誘電率には初期値より大きい上方の異常判定値SBh,SChのみを規定している。したがって、異常判定部211は、粘度については、センサ情報Aが上方異常判定値SAhを上回ったときと下方異常判定値SAlを下回ったときに異常と判定する。また、密度と誘電率については、センサ情報B,Cがそれぞれ異常判定値SBh,SChを上回ったときに異常と判定する。
【0030】
なお、各異常判定値に所定の割合を乗じた値を設定し、センサ情報がその値を上回った又は下回ったとき、近い将来異常の発生が予測されるので要注意である旨報知するようにシステムを構成しても良い。
【0031】
図5はセンサ101Aにより計測された粘度(センサ情報A)、密度(センサ情報B)、誘電率(センサ情報C)の時間変化を示す図である。図中には、粘度(センサ情報A)、密度(センサ情報B)、誘電率(センサ情報C)の異常判定値SAh,SAl,SBh,SChが表記されている。
【0032】
異常判定部211は、センサ101Aによって取得された各センサ情報A,B,C(オイル性状情報)と異常判定値SAh,SAl,SBh,SChの大小関係を比較して、対応するオイルの性状が「正常」及び「異常」のうちいずれであるかを判定している。
【0033】
図6はオイル性状の1つである粘度と温度の相関関係を示す図である。この図から粘度は温度とともに変化する温度に依存した特性値であることが分かる。センサ101Aで検出される他のオイル性状(密度、誘電率)も、図6の粘度と同様に、温度に依存する。そこで本実施の形態における異常判定部211は、各オイル性状に係るセンサ情報A,B,Cと異常判定値SAh,SAl,SBh,SChの比較を行う前に、任意の温度tにおけるセンサ101Aによる各オイル性状の測定値Xi(t)を、次の3次多項式(式1)の形式で変換している。これによりセンサ101Aの測定値を実用上有意な精度で所定の温度域における値に変換することができ、例えば異常判定値が想定している温度域における値に変換できる。異常判定部211は、(式1)による変換後の値Xi(t)と異常判定値とを比較することでオイルの異常の有無を判定する。また、後述する原因特定部212についても、(式1)による変換後の値Xi(t)に基づいてオイルの異常の原因を判定する。なお、(式1)における添字のiは1以上の整数でありオイル性状の種類を示す。例えば、粘度はX、密度はX、誘電率はXと規定する。また、次式におけるb0i,b1i,b2i,b3iは係数である。
【0034】
i(t)=b0i+b1i・t+b2i・t+b3i・t …(式1)
また、比較的温度に依存しないオイル性状(例えば、色情報やコンタミ等級など)のセンサ情報については、上記(式1)の第2項以下の係数を調整することで温度に依存するものと同様に(式1)の形態で表現できる。
【0035】
次に原因特定部212について説明する。本実施形態の原因特定部212は、図7に示したような異常原因とオイル性状変化の相関関係を利用して異常原因を特定している。図7は実験や実績データ等に基づいて代表的なエンジンオイルの異常原因と各オイル性状の変化の相関関係を示すマップである。この図において、矢印の方向はオイル性状(センサ情報)の変化方向を示す。すなわち、上向きの矢印はオイル性状センサ101Aによるセンサ情報の数値の上昇を示し、下向きの矢印は当該センサ情報の数値の低下を示す。また、矢印の数は所定時間における当該センサ情報の数値の変化の大きさを示す。また、図中の「−」の記号は該当するオイル性状が正常の範囲にあることを示す。したがって、図7では、オイルの劣化が進むと密度の値が上昇し、オイルに水分が混入すると誘電率の値が急上昇し、オイルにススが混入すると粘度と誘電率の値が上昇し、燃料が混入すると粘度の値が低下し、オイルに金属粉が混入すると粘度と密度の値が上昇することを示している。
【0036】
図8にオイルに水分が混入した際の誘電率の時間変化の一例を示す。機器に影響を与える程度の量の水分が混入する場合は、パッキンの破損による突発的な場合がほとんどであり、そのような場合には図8のように誘電率が短期間で急上昇する。したがって、例えば、誘電率の時間微分値の急増や、異なる時刻の誘電率の差分値の急増が認められた場合には、水分の混入が原因であると特定出来る。
【0037】
このような事実に基づき、本願発明者らは、オイル性状センサによるオイル性状のセンサ情報A,B,Cの時間変化(上昇・低下)とその組合せに着目することで原因の特定可能な異常が存在することを知見した。そこで、メーカ用コンピュータ104における原因特定部212にて、オイル性状のセンサ情報A,B,Cの時間変化の傾向を変化量指標値という指標値で把握することとし、さらに、その変化量指標値が示すセンサ情報A,B,Cの時間変化がオイルの異常の原因を特定するうえで有意な変化か否か(すなわち図7に矢印で示した変化に該当するか否か)を判定するための判定値(本稿では変化量判定値と称する)を各変化量指標値に設定した。そして、オイル性状のセンサ情報の変化量指標値とそれに対応する変化量判定値から図7に示したオイル性状の変化(上昇・低下)の有無を判定し、その判定したオイル性状の変化の組合せを図7と付き合わせることで異常原因を特定することした。
【0038】
原因特定部212は、記憶装置104bに記憶されたセンサ情報A,B,Cの時系列に基づいてセンサ情報A,B,Cの変化量指標値を算出する。図9は本実施形態で利用されるセンサ情報の変化量指標値の一例の説明図である。本実施形態で利用可能な変化量指標値としては、(1)所定数のセンサ情報の時系列の平均値を連続的に求めることで得られる「移動平均」と、(2)単位時間あたりのセンサ情報の変化量(センサ情報の時間微分値)から得られる「単位時間あたりの変化量」と、(3)検出時刻の異なる2つのセンサ情報の差分から得られる「変化量の差分」がある。例えば、「移動平均」を利用すると、センサ情報のバラツキが低減するので、時間経過に伴うセンサ情報の動向を容易に把握できる。また「変化量の差分」を利用すれば、短時間での急激なセンサ情報の変化を容易に把握できる。図9では上段に(1)移動平均を、中段に(2)単位時間あたりの変化量を、下段に(3)変化量の差分を示している。なお、実際のオイルの異常原因の特定に利用される変化量指標値は異常原因ごとに異ならせることが可能である。センサ情報A,B,Cの時間変化の傾向を把握可能な指標値であれば、図9に示した3つの指標値以外のもの(例えば、単位時間あたりの変化量の時間微分値など)も利用可能である。
【0039】
異常原因を特定するにあたって、どの変化量指標値を利用するか、また、どのような変化量判定値を利用するかは、各異常原因に関連するオイル性状のセンサ情報の時系列の実績値や実験データから設定することが可能である。例えば、変化量指標値の選定に関して説明すると、図7のススが混入した場合の誘電率の単位時間あたりの増加量は略一定であり、図8のように水分が混入した場合よりも増加が緩やかであることが判明しているので、変化量指標値として「単位時間あたりの変化量」を利用することが好ましい。また、水分が混入した場合には誘電率の急激な増加を把握するために変化量指標値として「変化量の差分」を利用することが好ましい。なお、誘電率のみでは水分混入とスス混入を明確に区別することが難しい場合があるので、変化量閾値として粘度の単位時間あたりの変化量を追加し、粘度の単位時間あたりの増加が認められた場合には原因をスス混入とし、そうでない場合には水分混入とすることができる。
【0040】
また、センサ情報に含まれる外れ値の影響を低減する観点から、オイルの異常原因を特定する場合には、事前に各オイル性状のセンサ情報の移動平均をとってから、単位時間あたりの変化量や変化量の差分を算出するようにしても良い。さらに、変化量指標値の利用は原因特定部212に限らず、例えば、異常判定部211で各オイル性状に異常が有るか否かを判定する際に各オイル性状の移動平均を利用し、それらと各異常判定値を比較することで異常を判定しても良い。
【0041】
送信部213は、原因特定部202で特定された異常原因を他の端末(例えば、コントローラ110及びコンピュータ111,112の少なくとも1つ)に送信する。その際に、異常原因に応じた補修・整備の対応マニュアルを併せて他の端末に送信する。対応マニュアルは異常原因ごとに予め定めされており、センサ情報等と同様にメーカ用コンピュータ104の記憶装置210に記憶されている。対応マニュアルに基づくメンテナンスとしては、オイル交換、オイルフィルタ交換、部品の点検・交換などが含まれる。通常はサービス担当者が対象の作業機械が稼働している現場に出向いて対応マニュアルに記載の事項を実施することが想定されるのでサービス用コンピュータ111に対応マニュアルを送信することが好ましい。ただし、対象の作業機械のユーザ(管理者)でも実施容易な対応であれば作業機械のダウンタイムを最小化できるので、マニュアルの内容に依っては管理者用コンピュータ112や作業機械用コントローラ110に送信することが好ましい場合もある。
【0042】
次に上記のように構成される診断システムが実行する一連の処理の一例について図10を用いて説明する。図10は本実施形態におけるメーカ用コンピュータ104が実行する処理のフローチャートの一例である。
【0043】
メーカ用コンピュータ104は図10のフローチャートの処理を所定の時間間隔(呼び出しサイクル)で呼び出す。例えば、エンジン始動時に呼び出し、その後エンジン停止時まで所定の時間間隔(例えば1時間間隔)で呼び出す。
【0044】
S801では、異常判定部211はセンサ情報A,B,Cを取得し、S802では、粘度のセンサ情報Aと異常判定値SAh,SAlに基づいて粘度に異常が無いか否かを判定する。具体的には、粘度のセンサ情報Aが上方異常判定値SAhを上回った又は下方異常判定値SAlを下回ったと判定された場合にはS803に進み、そうで無い場合は粘度が正常であると判定してS808に進む。
【0045】
S803では、原因特定部212は、センサ情報Aが下方異常判定値SAlを下回ったか否かを判定する。ここでセンサ情報Aが下方異常判定値SAlを下回っていると判定された場合にはS804に進み、原因特定部212はオイルの異常(粘度の低下)は「燃料の混入」が原因であると判定してS813に進む。一方、センサ情報Aが上方異常判定値SAhを上回っていると判定された場合にはS805に進む。
【0046】
S805では、原因特定部212は、誘電率(センサ情報C)の変化量指標値が第1変化量判定値を越えたか否かを判定することで、誘電率(センサ情報C)の時間変化量が増加しているか否かを判定する。ここでは誘電率の変化量指標値として「単位時間あたりの変化量」を利用する。第1変化量判定値は、誘電率(センサ情報C)の単位時間あたりの変化量が「図7の増加」を示すか否かを判定するための判定値である。すなわち、原因特定部212は、単位時間あたりの変化量が第1変化量判定値を越えたか否かを判定する。誘電率の単位時間あたりの変化量が第1変化量判定値を越えたことが確認でき誘電率の時間変化量の増加が認められたらS806に進み、原因特定部212はオイルの異常(粘度の増加と誘電率の増加)は「ススの混入」が原因であると判定してS813に進む。一方、誘電率の単位時間あたりの変化量が第1変化量判定値を越えない場合にはS807に進み、原因特定部212はオイルの異常(粘度の増加)は「金属粉の混入」が原因であると判定してS813に進む。
【0047】
S813では、原因特定部212は、S804,806,807,809で一旦判定した異常原因を実際の異常原因と特定するに際して、油圧ショベル501の関係者への問診やオイル分析が不要か否かを判定する。本実施形態では当該判定に際して、S804,806,807,809の判定に至る際に参照したオイル性状の時間変化量に着目し、そのオイル性状の単位時間あたりの変化量(変化量指標値)が通常の異常時の値よりも大きい値か否かを確認し、変化量指標値が通常の異常時の値よりも大きい場合にはS804,806,807,809で判定した異常原因を問診やオイル分析を実施しなくても実際の異常原因とみなし得ると判定して(すなわち、問診やオイル分析は「不要」と判定し、S804,806,807,809の異常原因を実際の異常原因として)S814に進む。例えば、S804で燃料混入と判定された場合には粘度の単位時間あたりの低減量を算出し、その値が通常の燃料混入時の値(すなわち、この値が変化量判定値となる)よりも大きい場合には燃料混入が原因であると特定してS814に進む。また、S806でスス混入と判定された場合には誘電率の単位時間あたりの増加量を算出し、その値が通常のスス混入時の値(変化量判定値)よりも大きい場合にはスス混入が原因であると特定してS814に進む。また、S807で金属粉混入と判定された場合には粘度の単位時間あたりの増加量を算出し、その値が通常の金属粉混入時の値(変化量判定値)よりも大きい場合には金属粉混入が原因であると特定してS814に進む。また、S809でオイル劣化と判定された場合には密度の単位時間あたりの増加量を算出し、その値が通常のオイル劣化時の値(変化量判定値)よりも大きい場合にはオイル劣化が原因であると特定してS814に進む。
【0048】
一方、S813でS804,806,807,809の判定に至る際に参照したオイル性状の単位時間あたりの変化量(変化量指標値)が通常の異常時の値以下の場合には、油圧ショベル501の関係者への問診やオイル分析が必要と判断してS815に進む。
【0049】
S808では、異常判定部211は密度のセンサ情報Bと異常判定値SBhに基づいて密度に異常が無いか否かを判定する。具体的には、密度のセンサ情報Bが異常判定値SBhを上回ったと判定された場合にはS809に進み、そうでない場合は密度が正常であると判定してS810に進む。
【0050】
S809では、原因特定部212は、オイルの異常(密度の増加)は「オイルの劣化」が原因であると判定してS813に進む。
【0051】
S810では、異常判定部211は誘電率のセンサ情報Cと異常判定値SChに基づいて誘電率に異常が無いか否かを判定する。具体的には、誘電率のセンサ情報Cが異常判定値SChを上回ったと判定された場合にはS811に進み、そうでない場合は粘度、密度及び誘電率の3つのオイル性状はすべて正常であると判定する(S819)。その後、最初に戻り、次の呼び出しサイクルまで待機する。
【0052】
S811では、原因特定部212は、誘電率(センサ情報C)の変化量指標値が第2変化量判定値を越えたか否かを判定することで、誘電率(センサ情報C)の時間変化量が急増しているか否かを判定する。ここでは誘電率の変化量指標値として「変化量の差分」を利用する。第2変化量判定値は、誘電率(センサ情報C)の変化量の差分が「図7の急増」を示すか否かを判定するための判定値である。すなわち、原因特定部212は、検出時刻の異なる2つのセンサ情報の差分が第2変化量判定値を越えたか否かを判定する。誘電率の変化量の差分が第2変化量判定値を越えたことが確認でき誘電率の時間変化量の急増が認められたらS812に進み、原因特定部212はオイルの異常(誘電率の急増)は「水分の混入」が原因であると特定してS814に進む。一方、誘電率の変化量の差分が第2変化量判定値を越えない場合には、原因特定部212はオイルの異常(誘電率の増加)の原因は「センサ情報だけでは特定できない」と判定してS815に進む。
【0053】
S814では、マニュアル送信部213が、これまでの処理(S804,806,807,809)で特定された異常原因に紐付けられている対応マニュアルを記憶装置210の中から選択し、選択したマニュアルを他の端末(例えば、コントローラ110及びコンピュータ111,112の少なくとも1つ)に送信する。これによりオイルの異常発覚後に速やかにユーザ又はサービス担当者により当該対応マニュアルに沿った補修・整備対応を実施できるので、従来のようなオイル分析に基づく原因特定を待たずして迅速なメンテナンス対応を実現することができる。
【0054】
S815では、問診事項送信部214がサービス用コンピュータ111に予め用意された問診事項を送信する。送信される問診事項は、油圧ショベル501に現れる異常の有無に関するものであり、S815に到達するまでに異常有りと判定されたオイル性状の種類と、S815に到達するまでに算出された変化量指標値と、当該変化量指標値とその変化量閾値の比較結果と、S804,806,807,809で判定された異常原因等に基づいて決定される。
【0055】
図11は、S806でスス混入の可能性ありと判定された場合にS815で行われる処理の一例の説明図であり、この例では機器の異常に起因する現象かどうかについての問診が行われている。まず、S815でメーカ用コンピュータ104(問診事項送信部214)が問診事項を送信すると、図11の上段に示すようにサービス用コンピュータ111(タブレット端末)に対して現在のセンサ情報A,B,Cから判断し得る異常の報告と油圧ショベル501の管理者やユーザに対する問診をサービス担当者に依頼するメッセージが表示される。サービス担当者が当該メッセージを確認すると、管理者やユーザへの問診内容がサービス用コンピュータ111の表示画面に順番に表示される。図11の例では4つの質問が用意されている。具体的には、質問1は「マフラから白煙(青白い煙を含む)又は黒煙が出ていますか?」、質問2は「エンジンから普段と異なる異常な音・異常振動を感じますか?」、質問3は「エンジンの力が弱く感じますか?」、質問4は「その他に何か異常に感じることはありますか?」である。問診への回答はYES/NOの選択形式になっており、管理者やユーザの回答に基づいてサービス担当者から回答内容が入力される都度、その回答内容はサービス用コンピュータ111から送信され、メーカ用コンピュータ104は送信された回答内容を情報受信部215を介して受信する(S816)。
【0056】
S817では、原因特定部212は、S815に到達するまでに取得した情報とS816で受信した回答内容に基づいて異常原因が特定できるか否かを判定する。図11の例では、4つの質問のいずれか1つにYESと回答した場合には異常原因が特定できたと判定してS818に進み、全てにNOと回答した場合には異常原因が特定できなかったと判定してS819に進む。
【0057】
S818では、原因特定部212はS815に到達するまでに取得した情報とS816で受信した回答内容(問診結果)に基づいて異常原因を特定し、マニュアル送信部213は当該特定された異常原因に応じた対応マニュアルを記憶装置210から選択し、サービス用コンピュータ111に送信する。なお、この場合、対応マニュアルの送信とともにオイル採取の勧告を他のコントローラ110及びコンピュータ111,112,113に出力しても良い。
【0058】
図12は、S818において、図11の4つの問診事項への回答内容に応じてメーカ用コンピュータ104で実行される処理が選択される場合のフローチャートの一例である。なお、ここではマニュアルの出力先は全てサービス用コンピュータ111であるものとする。
【0059】
図12のフローチャートにおいて、原因特定部212は、まずS901で質問1の回答がYESか否かを判定する。質問1の回答がYESの場合には、マニュアル送信部213は給排気系およびエンジン回転摺動部の摩耗に対応するマニュアルを出力し(S902)、当該マニュアルに基づいた対応がサービス担当者によって実施される。一方、質問1の回答がNOの場合にはS903に進む。
【0060】
S903では、原因特定部212は質問2の回答がYESか否かを判定する。質問2の回答がYESの場合には、マニュアル送信部213はエンジン回転摺動部の磨耗に対応するマニュアルを出力し(S904)、当該マニュアルに基づいた対応がサービス担当者によって実施される。一方、質問2の回答がNOの場合にはS905に進む。
【0061】
S905では、原因特定部212は質問3の回答がYESか否かを判定する。質問3の回答がYESの場合には、マニュアル送信部213は吸排気系の異常に関するマニュアルを出力し(S906)、当該マニュアルに基づいた対応がサービス担当者によって実施される。一方、質問3の回答がNOの場合にはS907に進む。
【0062】
S907では、原因特定部212は質問4の回答がYESか否かを判定する(ただし、これまでの説明で質問4の回答がNOの場合(すなわち全ての質問に対する回答がNOの場合)はS817からS819に進む。質問4の回答がYESの場合には、マニュアル送信部213はオイルへのスス混入に関連する機器の不具合すべてに対応する方法が記載されたマニュアルを出力されるとともに(S908)、S819と同様にオイル分析の実施勧告がサービス用コンピュータ111に出力される。これにより当該マニュアルに基づいた対応がサービス担当者によって実施されるとともにオイル分析のためのオイル採取が実施される。
【0063】
なお、図11の例では或る質問に対して一旦YESと回答した場合、後続の質問はサービス用コンピュータ111に表示されない仕組みになっているが、予め用意した全ての質問に回答させてからS818でどのような処理内容(例えば対応マニュアルの選択)を実施するか決定しても良い。
【0064】
また、上記のS815やS818では、問診事項や対応マニュアルをサービス用コンピュータ111に送信したが、油圧ショベル501のユーザの端末(すなわち、管理者用コンピュータ112や作業機械用コントローラ110)に問診事項や対応マニュアルを直接送信しても良い。この場合、サービス担当者の介在がなくなるため、保守サービスに関わる効率化とスピードアップを図ることができる。
【0065】
S819では、オイル分析勧告部216は、できるだけ速やかにオイル採取して詳細なオイル分析をオイル分析会社で実施するように、オイル分析を勧告する旨を、作業機械用コントローラ110、管理者用コンピュータ112およびサービス用コンピュータ111のうち少なくとも1つにオイル分析要求301として出力して油圧ショベル501の関係者に報知する。なお、オイル分析会社用コンピュータ113にもオイル分析要求301を送信しても良い。
【0066】
オイル分析要求301の具体例としては電子メールがある。当該電子メールには、オイル分析に伴うオイル採取の実施を促す旨のメッセージ(例えば、「至急オイル採取して点検をお願いします」というメッセージ)が記載されている。さらに、このメッセージに加えて、オイル採取の対象となる油圧ショベルの識別情報(例えば、モデル名、シリアル番号)、その油圧ショベルの稼働時間(アワーメータ)、「異常判定」が出力された時刻(判定時刻)などを含めても良い。電子メールの記載内容は管理者用コンピュータ112とサービス用コンピュータ111で共通である必要は無く、送信先の立場/役割に応じて異ならせても良い。また、電子メールに代えて、専用のアプリケーションを自動的に起動し、そのアプリケーション上に同様の内容を表示しても良いし、例えば油圧ショベル501のキャブ内にオイル分析を促す警告灯を点灯させる等して専用の報知システムを稼働させても良い。
【0067】
オイル分析会社は採取されたオイルに基づいて詳細なオイル分析を実施し、その分析結果303(図1参照)を分析会社用コンピュータ113からメーカ用コンピュータ104(作業機械メーカ)に送信する。分析結果303には、センサ101Aで取得した各オイル性状について採取したオイルを詳細に分析して得た情報(オイル分析情報(「第2レベルのセンサ情報」とも称する))が含まれており、当該オイル分析情報はメーカ用コンピュータ104の記憶装置210に逐次蓄積される。なお、オイル分析会社は、分析結果303とともに当該分析結果に基づく診断結果304をメーカ用コンピュータ104に送信しても良い。
【0068】
分析結果303を受信した作業機械メーカは、当該分析結果に基づいて適宜診断を行っても良い。その場合、サービス用コンピュータ111に対して分析診断結果304及びこれに対応するためのマニュアル(対応マニュアル)を送信するとともに、管理者用コンピュータ112に対して当該分析診断結果304を送信する。当該対応マニュアルを受信したサービス担当者は、油圧ショベル501の所在地に出向き当該対応マニュアルに基づいて油圧ショベル501のメンテナンスを行う。当該メンテナンスとしては、オイル交換、オイルフィルタ交換、部品の点検・交換などが含まれる。なお、ユーザ側で対応可能なメンテナンスであれば、サービス担当者がメンテナンスに出向く代わりに、対応方法を電子メール302(図1参照)等で送付してユーザに任せても良い。なお、ここでは、各者間の連絡を電子メールで行う場合について説明したが、FAX、電話、ビデオ通話など、即時性に優れたコミュニケーション手段であれば代替可能である。本実施形態に含まれるコントローラとコンピュータ間、コンピュータ間で行われる他の連絡についても同様である。また、ここでは、オイル採取をユーザ又はサービス担当者が行うことを前提として説明したが、オイル分析会社が行っても良い。
【0069】
<効果>
(1)上記の実施形態では、メーカ用コンピュータ104のコントローラ104aに、油圧ショベル501で利用されているオイルの複数のオイル性状(粘度、密度及び誘電率)のセンサ情報A,B,Cの時間変化がオイルの異常の原因を特定するうえで有意な変化か否かを判定するための判定値であり、センサ情報A,B,Cの時間変化の傾向を示す変化量指標値ごとに定められた変化量判定値を記憶した記憶装置210と、複数のオイル性状のセンサ情報A,B,C、及び複数のオイル性状のセンサ情報A,B,Cごとに規定された異常判定値SAh,SAl,SBh,SChに基づいてオイルの異常を判定する異常判定部211と、異常判定部211でオイルが異常と判定されたとき、その異常と判定されたオイル性状の種類、複数のオイル性状のセンサ情報A,B,Cの変化量指標値、及び記憶装置210に記憶された変化量判定値に基づいてオイルの異常の原因を特定する原因特定部212と、原因特定部212で特定された原因に応じた対応マニュアルを他の端末(例えば、コントローラ110及びコンピュータ111,112の少なくとも1つ)に送信するマニュアル送信部213とを備えた。
【0070】
この構成では、メーカ用コンピュータ104の原因特定部212が、異常が検出されたオイル性状の種類、複数のオイル性状のセンサ情報A,B,Cの時間変化の傾向を示す変化量指標値、及び当該変化量指標値ごとに定められた変化量判定値に基づいてオイルの異常の原因を特定している。そのため、従来からオイルの異常の原因を特定するために行われてきたオイル採取及びオイル分析を実施することなく、サービス用コンピュータ111をはじめとする他の端末に対応マニュアルを送信することができるようになった。これにより、例えば、オイルに対する金属粉の混入が異常の原因であると特定された場合には、その対応策が記載された対応マニュアルが速やかに他の端末に送信され、当該他の端末の利用者(例えばサービス担当者)が当該対応マニュアルに沿って対応策(例えば部品の交換)を実施できる。したがって、本実施形態によれば、保守サービスに関わる効率化とスピードアップを図ることができる。また、場合によっては(例えば、ユーザでも充分対応可能な簡単な部品交換が必要な場合)、サービス担当者が油圧ショベル501まで出向く代わりにサービス用コンピュータ111またはメーカ用コンピュータ104から対応マニュアルを管理者用コンピュータ112に送信し、部品交換をユーザ自身が行うことでサービス担当者の到着を待たずに異常を解消することもできる。このように本実施の形態によれば、トータルのライフサイクルコストとしてのサービス費用と部品交換コストの低減化が図れると共に、作業機械のダウンタイムを短縮化でき稼働率を向上させることも可能となる。
【0071】
(2)また、上記実施形態では、メーカ用コンピュータ104のコントローラ104aに、異常と判定されたオイル性状の種類及び変化量指標値及び変化量判定値に基づいて原因特定部212がオイルの異常の原因を特定できないとき、油圧ショベル501に現れる異常の有無に関する問診事項を他の端末(例えば、コントローラ110及びコンピュータ111,112の少なくとも1つ)に送信する問診事項送信部214と、当該他の端末から送信される問診事項への回答を受信する情報受信部215をさらに備えた。そして、メーカ用コンピュータ104の原因特定部212にて、問診事項への回答、異常と判定されたオイル性状の種類、変化量指標値及び変化量判定値に基づいて、オイルの異常の原因を特定するように構成した。
【0072】
この構成では、上記(1)の場合に考慮した事項に問診事項の回答結果を加えたものに基づいてオイルの異常原因を特定することとした。このように構成すると、上記(1)の場合よりも異常が特定できる機会を増やすことができる。そして、この構成では、問診事項の送付、回答及び受信に時間を要するものの、オイル採取及びオイル分析の実施を経る従来の手順よりは早期に対応マニュアルを他の端末に送信できるので、サービス費用と部品交換コストの低減と作業機械のダウンタイムの短縮が依然として可能となる。
【0073】
(3)また、上記実施形態では、上記(2)の場合でも異常の原因が特定できないときのために、メーカ用コンピュータ104のコントローラ104aに、原因特定部212が問診事項への回答、変化量指標値及び変化量判定値に基づいてオイルの異常の原因が特定できないとき、他の端末にオイル採取を伴うオイル分析が必要である旨を送信するオイル分析勧告部216を備えた。
【0074】
このように本実施形態では、上記(1)と(2)の方法でも異常原因が特定できないとき、そこで初めてオイル採取を勧告し、オイル分析に基づく詳細な原因分析を行うこととした。これにより上記(1)と(2)の方法で異常原因が特定できないときにもオイル採取とオイル分析により異常原因を特定できる。
【0075】
(4)また、上記の実施形態では、機械(油圧ショベル)501に搭載されたオイルセンサ101Aを介して取得され、オイルの粘度、密度及び誘電率を含む複数のオイル性状のセンサ情報A,B,Cに基づいて機械501を診断するメーカ用コンピュータ104を備えるオイル診断システムにおいて、メーカ用コンピュータ104は、複数のオイル性状のセンサ情報A,B,Cの時間変化の傾向を示す変化量指標ごとに定められた変化量判定値を記憶した記憶部(記憶装置)210と、複数のオイル性状のセンサ情報A,B,C、及び複数のオイル性状のセンサ情報A,B,Cごとに規定された異常判定値SAh,SAl,SBh,SChに基づいてオイルの異常を判定する異常判定部211と、異常判定部211でオイルが異常と判定されたとき、その異常と判定されたオイル性状の種類、及び変化量判定値に基づいて、オイルの異常原因を特定する原因特定部212と、原因特定部212で特定された異常原因を他の端末に送信する送信部213とを備えることとした。
【0076】
この構成によれば、メーカ用コンピュータ104の原因特定部212が、異常が検出されたオイル性状の種類、複数のオイル性状のセンサ情報A,B,Cの時間変化の傾向を示す変化量指標、及び当該変化量指標ごとに定められた変化量判定値に基づいてオイルの異常の原因を特定できる。
【0077】
なお、上記では、リアルタイムの異常監視を実現するために、作業機械用コントローラ110とメーカ用コンピュータ104が常時データ通信可能な接続形態を例に挙げて説明したが、作業機械用コントローラ110に蓄積されたセンサ情報を外部メモリ(例えば、USBフラッシュメモリ)に定期的に出力し、その外部メモリのデータをメーカ用コンピュータ104に出力するような運用を行っても良い。
【0078】
また、本発明は、上記の各実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内の様々な変形例が含まれる。例えば、本発明は、上記の実施の形態で説明した全ての構成を備えるものに限定されず、その構成の一部を削除したものも含まれる。また、ある実施の形態に係る構成の一部を、他の実施の形態に係る構成に追加又は置換することが可能である。
【0079】
また、上記のコントローラ及びコンピュータに係る各構成や当該各構成の機能及び実行処理等は、それらの一部又は全部をハードウェア(例えば各機能を実行するロジックを集積回路で設計する等)で実現しても良い。また、上記のコントローラ及びコンピュータに係る構成は、演算処理装置(例えばCPU)によって読み出し・実行されることで当該コントローラ及びコンピュータの構成に係る各機能が実現されるプログラム(ソフトウェア)としてもよい。当該プログラムに係る情報は、例えば、半導体メモリ(フラッシュメモリ、SSD等)、磁気記憶装置(ハードディスクドライブ等)及び記録媒体(磁気ディスク、光ディスク等)等に記憶することができる。
【0080】
また、上記の実施の形態の説明では、制御線や情報線は説明に必要であると解されるものを示したが、必ずしも製品に係る全ての制御線や情報線を示しているとは限らない。実際には殆ど全ての構成が相互に接続されていると考えて良い。
【符号の説明】
【0081】
101A…センサ、102…センサ情報、104…メーカ用コンピュータ(サーバ)、104b…記憶装置(データベース)、110…作業機械用コントローラ、111…サービス用コンピュータ、112…管理者用コンピュータ、113…分析会社用コンピュータ、210…記憶装置(RAM)、211…異常判定部、212…原因特定部、213…マニュアル送信部、214…問診事項送信部、215…情報受信部、216…オイル分析勧告部、301…オイル分析要求、303…分析結果、304…分析診断結果、501…油圧ショベル
図1
図2
図3
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図6
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図10
図11
図12