【文献】
Bull. Soc. Sea Water Sci., Jpn., 2012, Vol.66, pp.314-318
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
(a)リン酸を含有する発酵培地で、微生物を用いてO−ホスホホモセリン(O-phosphohomoserine、OPHS)を生産する段階(OPHS発酵段階);
(b)O−ホスホホモセリン依存性メチオニン合成酵素(O-phosphohomoserine dependent methionine synthase)またはこれを発現する微生物の存在下で、前記(a)段階で生産されたO−ホスホホモセリンを硫化物と反応させてメチオニンまたはその誘導体の発酵液を製造する段階(転換段階);
(c)前記発酵液;または前記発酵液からメチオニンまたはその誘導体を除去した発酵廃液を濃縮する段階(濃縮段階);
(d)前記濃縮された濃縮液のpHを8〜11に調整する段階(pH調整段階);
(e)前記pHが調整された濃縮液からリン酸塩を結晶化して親液と分離する段階(結晶化段階);及び
(f)前記結晶化されたリン酸塩を発酵培地でリン酸供給源として用いる段階(再使用段階)
を含み、
前記リン酸塩が、リン酸水素二ナトリウム又はその水和物である、
リン酸を発酵液または発酵廃液から回収及び再使用する方法。
前記発酵液が、(i)O−ホスホセリン(O-phosphoserine、OPS)発酵液、(ii)O−ホスホホモセリン(O-phosphohomoserine、OPHS)発酵液、または(iii)前記発酵液をベースに、転換酵素またはそれを発現する微生物;及び硫化物を添加して製造したアミノ酸またはその誘導体を含む発酵液であり、
前記発酵廃液は発酵液からアミノ酸またはその誘導体が除去された廃液である、請求項1に記載の方法。
前記2次結晶化段階が、(i)親液を濃縮する段階(再濃縮段階)、(ii)前記親液のpHを8〜11に調整する段階(pH再調整段階)、及び(iii)前記pHが調整された親液からリン酸塩を結晶化して分離する段階(再結晶化段階)を含む、請求項13に記載の方法。
【発明を実施するための形態】
【0012】
前記目的を達成するための本願の一つの様態は、(a)リン酸を含有する発酵液または発酵廃液を濃縮する段階(濃縮段階);
(b)前記濃縮された濃縮液のpHを8〜11に調整する段階(pH調整段階);
(c)前記pHが調整された濃縮液からリン酸塩を結晶化して親液と分離する段階(結晶化段階);及び
(d)前記結晶化されたリン酸塩を発酵培地でリン酸供給源として用いる段階(再使用段階)を含む、リン酸を発酵液または発酵廃液から回収及び再使用する方法を提供する。
【0013】
本願で前記(a)段階(濃縮段階)の発酵液は、リン酸を含有している培地で発酵生成物を生産する微生物を培養して収得した培地、前記培地と一緒に培養した微生物を含む培養物、またはこれらの酵素転換液を意味してもよい。
【0014】
前記「発酵生成物」の種類は、前記発酵液がリン酸を含有している限り制限されないが、具体的には、発酵で生産される目的物質、その誘導体または前駆体であってもよい。また、前記目的物質はアミノ酸であってもよく、例えば、システインまたはメチオニンであってもよいが、これに制限されない。また、前記目的物質の誘導体はアミノ酸の誘導体であってもよく、具体的には、システインの誘導体またはメチオニンの誘導体であってもよい。より具体的には、前記システインの誘導体は、N−アセチルシステイン、シスチン、金属システイン複合体(例えば、亜鉛システイン複合体、マンガンシステイン複合体、鉄システイン複合体、銅システイン複合体、マグネシウムシステイン複合体など)及びシステイン塩(例えば、システイン塩酸塩など)などの中から選択される1つ以上であってもよいが、これに制限されない。前記メチオニンの誘導体は、N−アセチルメチオニン、金属メチオニン複合体(例えば、亜鉛メチオニン複合体、マンガンメチオニン複合体、鉄メチオニン複合体、銅メチオニン複合体、マグネシウムメチオニン複合体など)、メチオニン塩などの中から選択される1つ以上であってもよいが、これに限定されない。また、前記目的物質の前駆体は、アミノ酸の前駆体であってもよく、具体的には、システインの前駆体またはメチオニンの前駆体であってもよい。より具体的には、O−ホスホセリン(O-phosphoserine、OPS)またはO−ホスホホモセリン(O-phosphohomoserine、OPHS)であってもよいが、これに制限されない。
【0015】
また、前記「発酵液」には、(a)リン酸を含む目的物質、その前駆体またはそれらの誘導体発酵液、(b)目的物質の前駆体生産菌株、基質及び転換酵素によって生産された目的物質またはその誘導体;及びリン酸を含む発酵液、または(c)目的物質の前駆体発酵液に転換酵素または転換酵素を発現する微生物;及び基質を添加して生産された目的物質またはその誘導体;及びリン酸を含む発酵液も含まれてもよいが、これに制限されない。
【0016】
より具体的には、前記発酵液は、(i)リン酸を含有しているO−ホスホセリン発酵液、(ii)リン酸を含有しているO−ホスホホモセリン発酵液、または(iii)前記発酵液をベースに、転換酵素またはそれを発現する微生物;及び硫化物を添加して製造したアミノ酸またはその誘導体;及びリン酸を含む発酵液であってもよい。また、前記(iii)発酵液は、具体的には、O−ホスホセリン発酵液にO−ホスホセリンスルフヒドリラーゼ(O-phosphoserine sulfhydrylase、OPSS)またはそれを発現する微生物;及び硫化物を添加して製造したシステインまたはその誘導体;及びリン酸を含有する発酵液であってもよい。また、前記(iii)発酵液は、O−ホスホホモセリン発酵液にOPHS依存性メチオニン合成酵素(O-phospho-homoserine dependent methionine synthase)またはそれを発現する微生物;及び硫化物を添加して製造したメチオニンまたはその誘導体;及びリン酸を含有する発酵液を含んでもよい。
【0017】
本願で「発酵廃液」は、前記発酵液から発酵生成物の一部または全部が分離除去された液であってもよいが、これに制限されない。具体的には、前記発酵廃液は、アミノ酸、その誘導体または前駆体、及びリン酸を含有する発酵液からアミノ酸、その誘導体または前駆体の一部または全部が分離されて除去された液であってもよいが、これに制限されない。例えば、アミノ酸、その誘導体、及びリン酸を含む発酵液からアミノ酸またはその誘導体の一部または全部が分離されて除去された液であってもよく、アミノ酸前駆体の発酵液に基質及び転換酵素またはそれを生産する微生物によって生産されたアミノ酸、その誘導体、及びリン酸を含む発酵液からアミノ酸またはその誘導体の一部または全部が分離されて除去された液であってもよい。より具体的な例では、O−ホスホセリン発酵液にO−ホスホセリンスルフヒドリラーゼ(O-phosphoserine sulfhydrylase、OPSS)またはそれを発現する微生物;及び硫化物を添加して製造したシステインまたはその誘導体;及びリン酸を含有する発酵液からシステインまたはその誘導体の一部または全部が分離除去された液であってもよく、O−ホスホホモセリン発酵液にOPHS依存性メチオニン合成酵素(O-phospho-homoserine dependent methionine synthase)またはそれを発現する微生物;及び硫化物を添加して製造したメチオニンまたはその誘導体;及びリン酸を含有する発酵液からメチオニンまたはその誘導体の一部または全部が分離除去された液であってもよいが、これに制限されない。
【0018】
本願において、前記濃縮段階の「濃縮」は、前記発酵液または発酵廃液に含まれるリン酸イオンの濃度を高める限り、方法に制限されず、当業界に公知された方法により行われてもよい。具体的には、蒸発、加熱、減圧、通風、冷凍方法などにより行われてもよいが、これに制限されない。
【0019】
本願において、濃縮はリン酸回収率を高めるために実施するものであり、濃縮段階は、pHが調整された濃縮液のリン酸イオン濃度が具体的には、60g/L以上または70g/L以上、さらに具体的には、60g/L〜300g/Lまたは70g/L〜250g/Lになるように発酵液または発酵廃液を濃縮してもよいが、これに制限されない。
【0020】
また、本願において、前記濃縮段階の前に発酵液または発酵廃液のpHを調整してもよい。具体的には、前記発酵液または発酵廃液のpHを7以上、7.5以上、8以上、8.5以上または9以上、より具体的には、8〜11に調整してもよい。濃縮の前にpHを調整すると回収されたリン酸塩のアンモニウムイオン不純物の含量を減少させることができる。
【0021】
本願において、前記(b)段階(pH調整段階)は、リン酸塩の結晶化前の濃縮液のpHを調整する段階である。前記濃縮段階で得られた濃縮液のpHはリン酸塩が結晶化されうる限り制限されないが、濃縮液のpHは中性から塩基性に調整してもよく、具体的には、7以上、7.5以上、8以上、8.5以上または9以上 、より具体的には、8〜11に調整してもよい。
【0022】
また、本願において、前記pH調整段階は、濃縮液に塩基性物質を添加して行われてもよく、具体的には、水酸化物を添加して行われてもよい。具体的には、前記の水酸化物は、水酸化ナトリウムまたは水酸化ナトリウム水溶液であってもよいが、これに制限されない。
【0023】
本願において、前記(c)段階(結晶化段階)は、pH調整段階で得られたpHが調整された濃縮液からリン酸塩を回収する段階である。本願でリン酸塩の回収は、有機溶媒を使用せずに、pHが調整された濃縮液からリン酸塩の結晶を生成させ、生成された結晶を親液と分離して行われる。
【0024】
リン酸塩の結晶化のために温度を調整して/したり結晶核を添加してもよいが、これに制限されない。具体的には、リン酸塩の結晶化のためにpH調整段階と結晶化段階の間;または結晶化段階に前記pHが調整された濃縮液を冷却させる段階をさらに含んでもよい。より具体的には、pHが調整された濃縮液を常温に放置したり、pHが調整された濃縮液を結晶化段階前に冷却したり、または結晶化段階でpHが調整された濃縮液を冷却してもよいが、これに制限されない。一方、リン酸回収率は、冷却温度によって影響を受けることがあるが、リン酸塩の結晶が生成されうる限り、冷却温度は制限されない。具体的には、前記冷却温度は、50℃以下、具体的には、0〜30℃、より具体的には、10〜20℃であってもよいが、これに制限されない。
【0025】
また、具体的には、リン酸塩の結晶化のために前記pH調整段階と結晶化段階の間、または結晶化段階の中に、リン酸塩結晶を結晶核として添加する段階をさらに含んでもよいが、これに制限されない。
【0026】
本願において、前記「リン酸塩」は、リン酸の塩またはその水和物を意味し、結晶化を介してリン酸を回収できる限り、塩の種類は制限されない。具体的には、前記リン酸塩は、リン酸三ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム及びこれらの水和物から選択される1つ以上であってもよく、より具体的には、リン酸水素二ナトリウムまたはその水和物であってもよいが、これに制限されない。前記水和物に結合されている水分子の数は、リン酸塩水和物が結晶化されうる限り制限されないが、具体的には、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12または13以上であってもよい。また、前記水和物は、具体的には、リン酸水素二ナトリウム7水和物またはリン酸水素二ナトリウム12水和物であってもよいが、これに制限されない。
【0027】
本願でリン酸とリン酸塩は、混用して用いられてもよい。
【0028】
本願で生成されたリン酸塩結晶を分離するために用いられる方法は、固液分離できる方法であれば制限されず、具体的には、遠心分離機、フィルタープレス、圧着フィルター、回転式真空フィルター、または膜分離機などを用いてもよいが、これに制限されない。
【0029】
本願において、前記親液は、生成されたリン酸塩結晶をpHが調整された濃縮液から分離除去して収得した液を意味するもので、結晶化されてないリン酸イオンを含んでもよいが、これに制限されない。
【0030】
リン酸回収率を高めるために、前記親液からリン酸塩を再結晶化する2次結晶化段階を本願の方法の一様態にさらに含んでもよい。本願は、先に説明した結晶化段階で収得したリン酸塩結晶(1次回収リン酸塩)と2次結晶化段階で収得したリン酸塩結晶(2次回収リン酸塩)を加えて、高いリン酸回収率を得ることができる。具体的には、前記2次結晶化段階は、(i)親液を濃縮する段階(再濃縮段階)、(ii)前記親液のpHを調整する段階(pH再調整段階)、及び(iii)前記pHが調整された親液からリン酸塩を結晶化して分離する段階(再結晶化段階)を含んでもよい。前記(i)〜(iii)段階は、前述した濃縮段階、pH調整段階及び結晶化段階と同様の方法で行われてもよい。具体的には、前記親液のpHは7以上、7.5以上、8以上、8.5以上または9以上、より具体的には、8〜11で調整してもよい。
【0031】
また、具体的には、前記2次結晶化段階は、親液にリン酸塩結晶を結晶核として添加する段階をさらに含んでもよく、例えば、前記pH再調整段階と再結晶化段階の間、または再結晶化段階の中で、親液にリン酸塩結晶を結晶核として添加する段階をさらに含んでもよいが、これに制限されない。
【0032】
また、本願は、リン酸回収率を高めるために、結晶化段階を2回以上行ってもよい。
【0033】
本願の方法は、前記pH調整段階;またはpH調整段階と結晶化段階の間に、アルコールを添加する段階をさらに含んでもよい。アルコールは、リン酸塩に対する溶解度が低いため、リン酸塩溶液と混合される時には、その溶液のリン酸塩溶解度を減少させてリン酸の回収率を増加させる役割をする。前記アルコールは、リン酸回収率を高める限り制限されないが、具体的には、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールまたはそれらの組み合わせであってもよい。
【0034】
本願において、前記(d)段階(再使用段階)は、結晶化の段階で回収したリン酸塩結晶をリン酸及び/またはリン供給源を必要とする様々な発酵培地にリン酸及び/またはリン供給源として用いる段階である。本願の発酵培地は、本願の目的上、リン酸及び/またはリン供給源を必要とする発酵に用いられる培地である限り制限されないが、具体的には、O−ホスホセリンまたはO−ホスホホモセリンの生産に用いられる発酵培地であってもよい。
【0035】
本願の他の一つの様態は、
(a)リン酸を含有する発酵培地で微生物を用いてO−ホスホセリン(O-phosphoserine、OPS)を生産する段階(OPS発酵段階);
(b)O−ホスホセリンスルフヒドリラーゼ(O-phosphoserine sulfhydrylase、OPSS)またはこれを発現する微生物の存在下で、前記(a)段階で生産されたO−ホスホセリンを硫化物と反応させてシステインまたはその誘導体の発酵液を製造する段階(転換段階);
(c)前記発酵液;または前記発酵液からシステインまたはその誘導体を除去した発酵廃液を濃縮する段階(濃縮段階);
(d)前記濃縮された濃縮液のpHを8〜11に調整する段階(pH調整段階);
(e)前記pHが調整された濃縮液からリン酸塩を結晶化して親液と分離する段階(結晶化段階);及び
(f)前記結晶化されたリン酸塩を発酵培地でリン酸供給源として用いる段階(再使用段階)を含む、リン酸を発酵液または発酵廃液から回収及び再使用する方法を提供する。
【0036】
本願において、前記(a)段階(OPS発酵段階)は、リン酸を含有した発酵培地及び微生物を用いてO−ホスホセリンを生産する段階である。O−ホスホセリンはセリン及びリン酸のエステルであって、O−ホスホセリンの生産にはリン酸が必要である。また、前記微生物は、O−ホスホセリンを生産しうる公知の微生物を用いてもよく、非限定的な例として、O−ホスホセリン排出活性が強化された微生物(特許文献1、9)を用いてもよい。また、高いO−ホスホセリン生産能を有する微生物の例として、内在的なホスホセリンホスファターゼ(phosphoserine phosphatase、SerB)を弱化させたり/させて、ホスホグリセリン酸デヒドロゲナーゼ(phosphoglycerate dehydrogenase、SerA)及び/またはホスホセリンアミノトランスフェラーゼ(phosphoserine aminotransferase、SerC)の活性が強化された微生物(特許文献10)を用いてもよいが、これに制限されない。
【0037】
本願において、前記(b)段階(転換段階)は、O−ホスホセリンスルフヒドリラーゼ酵素の触媒作用下でOPS発酵段階で収得したO−ホスホセリンを硫化物と反応させてシステインまたはその誘導体に転換する段階である。
【0038】
また、本願でO−ホスホセリンスルフヒドリラーゼ酵素だけでなく、前記酵素を発現する微生物を用いて転換反応を行ってもよい。前記酵素及び酵素を発現する微生物は、当業者に公知された手段及び方法を介して得てもよい。具体的には、前記O−ホスホセリンスルフヒドリラーゼ酵素は、特許文献10〜12などに記載された酵素を用いてもよいが、これに制限されない。
【0039】
また、本願において、前記硫化物は、O−ホスホセリンスルフヒドリラーゼ酵素の触媒作用下でO−ホスホセリンと反応する限り制限されないが、CH
3SH、Na
2S、NaSH、(NH
4)
2S、H
2S及びNa
2S
2O
3からなる群から選択される1つ以上であってもよい。
【0040】
本願で前記(c)〜(e)段階は、前述した濃縮段階、pH調整段階、結晶化段階と同じである。
【0041】
本願では、前記(f)段階(再使用段階)は、結晶化の段階で回収したリン酸塩結晶をリン酸及び/またはある供給源を必要とする発酵培地にリン酸及び/またはリン供給源として用いる段階である。具体的には、前記発酵培地は、O−ホスホセリンの生産に使用される発酵培地であってもよいが、これに制限されない。
【0042】
本願の他の一つの様態は、
(a)リン酸を含有する発酵培地で微生物を用いてO−ホスホホモセリン(O-phosphohomoserine、OPHS)を生産する段階(OPHS発酵段階);
(b)O−ホスホホモセリン依存性メチオニン合成酵素(O-phosphohomoserine dependent methionine synthase)またはそれを発現する微生物の存在下で、前記(a)段階で生産されたO−ホスホホモセリンを硫化物と反応させてメチオニンまたはその誘導体の発酵液を製造する段階(転換段階);
(c)前記発酵液;または前記発酵液からメチオニンまたはその誘導体を除去した発酵廃液を濃縮する段階(濃縮段階);
(d)前記濃縮された濃縮液のpHを8〜11に調整する段階(pH調整段階);
(e)前記pHが調整された濃縮液からリン酸塩を結晶化して親液と分離する段階(結晶化段階);及び
(f)前記結晶化されたリン酸塩を発酵培地でリン酸供給源として用いる段階(再使用段階)を含む、リン酸を発酵液または発酵廃液から回収及び再使用する方法を提供する。
【0043】
本願において、前記(a)段階(OPHS発酵段階)は、リン酸を含有した発酵培地及び微生物を用いてO−ホスホホモセリンを生産する段階である。O−ホスホホモセリンは、トレオニン及びリン酸のエステルであって、O−ホスホホモセリンの生産にはリン酸が必要である。また、前記微生物は、O−ホスホホモセリンを生産しうる公知の微生物を用いてもよい。
【0044】
本願において、前記(b)段階(転換段階)は、OPHS依存性メチオニン合成酵素の触媒作用下で、OPHS発酵段階で収得したO−ホスホホモセリンを硫化物と反応させてメチオニンまたはその誘導体に転換する段階である。
【0045】
また、本願でOPHS依存性メチオニン合成酵素だけでなく、前記酵素を発現する微生物を用いて転換反応を行ってもよい。具体的には、前記酵素及び酵素を発現する微生物は、当業者に公知された手段及び方法を介して得てもよく、例えば、特許文献2に開示されている方法を介して得てもよいが、これに制限されない。
【0046】
また、本願において、前記硫化物は、OPHS依存性メチオニン合成酵素の触媒作用下でO−ホスホホモセリンと反応できる限り制限されないが、CH
3SH、Na
2S、NaSH、(NH
4)
2S、H
2S及びNa
2S
2O
3からなる群から選択される1つ以上であってもよい。
【0047】
本願で前記(c)〜(e)段階は、前述した濃縮段階、pH調整段階、結晶化段階と同じである。
【0048】
本願において、前記(f)段階(再使用段階)は、結晶化段階で回収したリン酸塩結晶をリン酸及び/またはリン供給源を必要とする発酵培地にリン酸及び/またはリン供給源として用いる段階である。具体的には、前記発酵培地は、O−ホスホホモセリンの生産に用いられる発酵培地であってもよいが、これに制限されない。
【0049】
本願の他の一つの様態は、リン酸を発酵廃液から回収する方法を提供する。
【0050】
具体的には、本願の方法は、(a)リン酸を含有する発酵廃液を濃縮する段階(濃縮段階);
(b)前記濃縮された濃縮液をpH 8〜11に調整する段階(pH調整段階);
(c)前記pHが調整された濃縮液からリン酸塩を結晶化する段階(結晶化段階);及び
(d)前記結晶化されたリン酸塩を親液から分離する段階(分離段階)を含む、リン酸を回収する方法であってもよい。
【0051】
本願において、前記発酵廃液は、前述した通りであり、酵素転換廃液を含む意味であってもよい。
【0052】
本願で前記(a)〜(c)段階は、前述した濃縮段階、pH調整段階と結晶化段階と同じである。
【0053】
本願で前記(d)段階(分離段階)のリン酸結晶を親液から分離する方法は、前述した結晶化段階で説明した通りである。
【実施例】
【0054】
以下、本願を下記実施例により詳細に説明する。しかし、下記実施例は、本願を例示するためのものであり、下記実施例により本願の範囲が制限されるものではない。
【0055】
実施例1.O−ホスホセリン発酵廃液の濃度に応じたリン酸の回収
実施例1−1.O−ホスホセリン発酵廃液を用いたリン酸の回収
リン酸を含む発酵培地でO−ホスホセリン(O-phosphoserine、OPS)を生産できる微生物を培養してO−ホスホセリン発酵液を収得した後、前記発酵液をO−ホスホセリンスルフヒドリラーゼ(O-phosphoserine sulfhydrylase、OPSS)を用いて硫化物と反応させ、システインまたはシスチンを含む発酵液を収得した(特許文献10)。前記発酵液からシステインまたはシスチンを結晶化し、固液分離して発酵廃液を収得した。
【0056】
前記O−ホスホセリン発酵廃液のイオン組成(g/L)は、24.4ナトリウムイオン、6.4アンモニウムイオン、14.8塩素イオン、3.4硫酸イオン、34.3リン酸イオンであった。2000mlの初期廃液から1665mlの水を蒸発させ、50%(w/w)水酸化ナトリウム水溶液(38.0ml)を、pHが9.00に達するまで添加した。本溶液のリン酸イオンの濃度は185.4g/Lであった。冷却は15℃まで行い、リン酸水素二ナトリウム7水和物が得られた。スラリーは、遠心バスケットフィルターでろ過され、純水で洗浄を行った。
【0057】
最終的な生産物の重量は159.5gであった。最終的な生産品のイオン組成(g/kg)は、124.6ナトリウムイオン、5.3アンモニウムイオン、5.4塩素イオン、4.2硫酸イオン、388.5リン酸イオンであった。最終的な生産品の水分含量は45.7wt%であった。総リン酸回収率は79.2wt%であった。
【0058】
実施例1−2.O−ホスホセリン発酵廃液を用いたリン酸の回収
本実施例のO−ホスホセリン発酵ベースの工程廃液のイオン組成(g/L)は、24.7ナトリウムイオン、6.3アンモニウムイオン、16.4塩素イオン、3.9硫酸イオン、35.8リン酸イオンであった。1945mlの初期廃液から1555mlの水を蒸発させ、50%水酸化ナトリウム水溶液(46.5ml)を、pHが9.00に達するまで添加した。本溶液のリン酸イオンの濃度は159.7g/Lであった。冷却は15℃まで行い、リン酸水素二ナトリウム7水和物が得られた。スラリーは、遠心バスケットフィルターでろ過され、純水で洗浄を行った。
【0059】
最終的な生産物の重量は132.3gであった。最終的な生産品のイオン組成(g/kg)は、127.4ナトリウムイオン、10.9アンモニウムイオン、5.2塩素イオン、3.1硫酸イオン、358.6リン酸イオンであった。最終的な生産品の水分含量は49.6wt%であった。総リン酸回収率は68.0wt%であった。
【0060】
実施例1−3.O−ホスホセリン発酵廃液を用いたリン酸の回収
本実施例のO−ホスホセリン発酵ベースの工程廃液イオン組成(g/L)は、24.6ナトリウムイオン、6.2アンモニウムイオン、16.3塩素イオン、3.5硫酸イオン、35.6リン酸イオンであった。1975mlの初期廃液から1315mlの水を蒸発させ、50%水酸化ナトリウム水溶液(43.0ml)を、pHが9.01に達するまで添加した。本溶液のリン酸イオン濃度は99.9g/Lであった。冷却は15℃まで行い、リン酸水素二ナトリウム12水和物が得られた。スラリーは、遠心バスケットフィルターでろ過され、純水で洗浄を行った。
【0061】
最終的な生産物の重量は186.0gであった。最終的な生産品のイオン組成(g/kg)は、110.7ナトリウムイオン、13.5アンモニウムイオン、2.4塩素イオン、2.8硫酸イオン、264.7リン酸イオンであった。最終的な生産品の水分含量は60.8wt%であった。総リン酸回収率は70.1wt%であった。
【0062】
実施例1−4.O−ホスホセリン発酵廃液を用いたリン酸の回収
本実施例のO−ホスホセリン発酵ベースの工程廃液イオン組成(g/L)は、24.5ナトリウムイオン、6.2アンモニウムイオン、16.3塩素イオン、3.7硫酸イオン、35.6リン酸イオンであった。1955mlの初期廃液から980mlの水を蒸発させ、50%水酸化ナトリウム水溶液(42.0ml)をpHが9.04に達するまで添加した。本溶液のリン酸イオンの濃度は68.4g/Lであった。冷却は15℃まで行い、リン酸水素二ナトリウム12水和物が得られた。スラリーは、遠心バスケットフィルターでろ過され、純水で洗浄を行った。
【0063】
最終的な生産物の重量は172.9gであった。最終的な生産品のイオン組成(g/kg)は、112.8ナトリウムイオン、20.2アンモニウムイオン、1.2塩素イオン、2.6硫酸イオン、255.9リン酸イオンであった。最終的な生産品の水分含量は61.9wt%であった。総リン酸回収率は63.6wt%であった。
【0064】
これにより、pHが調整された濃縮液のリン酸イオンの濃度が低ければ低いほど、リン酸回収率が低くなることが分かった。
【0065】
実施例2.冷却温度によるリン酸の回収
本実施例のO−ホスホセリン発酵ベースの工程廃液イオン組成(g/L)は、23.8ナトリウムイオン、6.5アンモニウムイオン、15.1塩素イオン、3.4硫酸イオン、35.0リン酸イオンであった。2000mlの初期廃液から1600mlの水を蒸発させ(温度範囲50℃以上)、50%水酸化ナトリウム水溶液(39.5ml)をpHが9.00に達するまで添加した。本溶液のリン酸イオンの濃度は159.4g/Lであった。これは、実施例1−2と同様の実験条件であった。冷却は25℃まで進行しており、リン酸水素二ナトリウム7水和物が得られた。スラリーは、遠心バスケットフィルターでろ過され、純水で洗浄を行った。
【0066】
最終的な生産物の重量は110.6gであった。最終的な生産品のイオン組成(g/kg)は、126.8ナトリウムイオン、13.8アンモニウムイオン、2.7塩素イオン、2.2硫酸イオン、393.9リン酸イオンであった。最終的な生産品の水分含量は43.9wt%であった。総リン酸回収率は62.2wt%であった。これらの結果は、高いリン酸回収率のためには低い温度が好ましいことを意味する。
【0067】
実施例3.濃縮前pHの追加調整に伴うリン酸の回収
本実施例のO−ホスホセリン発酵ベースの工程廃液イオン組成(g/L)は、23.4ナトリウムイオン、6.4アンモニウムイオン、14.9塩素イオン、3.5硫酸イオン、34.7リン酸イオンであった。蒸発工程の前に、50%水酸化ナトリウム水溶液(39.5ml)をpHが9.02に達するまで添加した。その後、2000mlの初期廃液から1600mlの水を蒸発させた。アンモニアの蒸発により蒸発後のその工程液のpHは7.06であった。従って、50%水酸化ナトリウム水溶液(16.0ml)をpHが9.00に達するまで再添加した。本溶液のリン酸イオンの濃度は152.4g/Lであった。本濃度条件は実施例1−2と同様であった。冷却は15℃まで行い、リン酸水素二ナトリウム7水和物が得られた。スラリーは、遠心バスケットフィルターでろ過され、純水で洗浄を行った。
【0068】
最終的な生産物の重量は141.6gであった。最終的な生産品のイオン組成(g/kg)は、156.8ナトリウムイオン、0.6アンモニウムイオン、1.1塩素イオン、3.2硫酸イオン、338.8リン酸イオンであった。最終的な生産品の水分含量は51.2wt%であった。総リン酸回収率は69.1wt%であった。この方法は、他の工程よりも回収されたリン酸水素二ナトリウムのアンモニウムイオン不純物の含量を大幅に減少させた。
【0069】
実施例4.メタノール添加によるリン酸の回収
実施例4−1.100mlメタノール添加によるリン酸の回収
本実施例のO−ホスホセリン発酵ベースの工程廃液イオン組成(g/L)は、23.8ナトリウムイオン、6.4アンモニウムイオン、15.3塩素イオン、6.4硫酸イオン、37.1リン酸イオンであった。2000mlの初期廃液から1600mlの水を蒸発させた。以後、50%水酸化ナトリウム水溶液(48.0ml)をpHが9.07に達するまで添加し、100mlのメタノールを添加した。本溶液のリン酸イオンの濃度は135.2g/Lであった。冷却は15℃まで行い、リン酸水素二ナトリウム7水和物が得られた。スラリーは、遠心バスケットフィルターでろ過され、純水で洗浄を行った。
【0070】
最終的な生産物の重量は182.7gであった。最終的な生産品のイオン組成(g/kg)は、135.5ナトリウムイオン、24.9アンモニウムイオン、13.1塩素イオン、2.2硫酸イオン、328.5リン酸イオンであった。最終的な生産品の水分含量は49.6wt%であった。総リン酸回収率は81.0wt%であった。
【0071】
実施例4−2.200mlメタノール添加によるリン酸の回収
本実施例のO−ホスホセリン発酵ベースの工程廃液イオン組成(g/L)は、23.9ナトリウムイオン、6.4アンモニウムイオン、15.3塩素イオン、3.9硫酸イオン、37.3リン酸イオンであった。2000mlの初期廃液から1600mlの水を蒸発させた。以後、50%水酸化ナトリウム水溶液(47.0ml)をpHが9.04に達するまで添加し、200mlのメタノールを添加した。本溶液のリン酸イオン濃度は115.2g/Lであった。冷却は15℃まで行い、リン酸水素二ナトリウム7水和物が得られた。スラリーは、遠心バスケットフィルターでろ過され、純水で洗浄を行った。
【0072】
最終的な生産物の重量は182.0gであった。最終的な生産品のイオン組成(g/kg)は、122.9ナトリウムイオン、38.9アンモニウムイオン、15.9塩素イオン、2.4硫酸イオン、328.2リン酸イオンであった。最終的な生産品の水分含量は46.6wt%であった。総リン酸回収率は80.2wt%であった。
【0073】
これにより、pH調整段階、またはpH調整後にメタノールを添加すると、リン酸回収率が増加することが分かった。
【0074】
実施例5.2段階結晶化によるリン酸の回収
特許文献1に基づいて、O−ホスホセリン発酵及びL−システイン酵素転換反応を行った。この工程の後、工程廃液のイオン組成(g/L)は、21.7ナトリウムイオン、4.4アンモニウムイオン、16.0塩素イオン、30.1硫酸イオン、30.3リン酸イオンであった。20Lの初期廃液から16.7Lの水を蒸発させ、50%水酸化ナトリウム水溶液(0.4L)をpHが9.00に達するまで添加した。本溶液のリン酸イオンの濃度は162.1g/Lであった。冷却は15℃まで行い、リン酸水素二ナトリウム7水和物が得られた。リン酸水素二ナトリウム7水和物のスラリーは、遠心バスケットフィルターでろ過され、純水で洗浄を行った。回収されたリン酸水素二ナトリウム7水和物の重量は1339.0gであった。当該物質のイオン組成(g/kg)は、133.5ナトリウムイオン、18.7アンモニウムイオン、5.3塩素イオン、1.3硫酸イオン、323.4リン酸イオンであった。最終的な生産品の水分含量は48.2wt%であった。
【0075】
スラリーろ過後、ろ過液のイオン組成(g/L)は、13.3ナトリウムイオン、6.8アンモニウムイオン、98.9塩素イオン、16.8硫酸イオン、40.2リン酸イオンであった。残ったろ過液3.2Lにリン酸水素二ナトリウム12水和物(実施例1−3で製造された試料)1.1gを添加して、15℃で4時間撹拌した。リン酸水素二ナトリウム12水和物のスラリーは、遠心バスケットフィルターでろ過され、純水で洗浄を行った。
【0076】
回収されたリン酸水素二ナトリウム12水和物の重量は299.0gであった。当該物質のイオン組成(g/kg)は、128.2ナトリウムイオン、6.1塩素イオン、3.8硫酸イオン、239.5リン酸イオンであった。水分含量は61.3wt%であった。前記2段階工程の最終的なリン酸回収率は83.2wt%であった。回収されたリン酸水素二ナトリウム7水和物と12水和物を混合した後、O−ホスホセリン発酵の前駆体として再使用したとき、何の問題もなく、発酵工程が行われた。
【0077】
実施例6.回収したリン酸水素二ナトリウムを用いたO−ホスホセリンの製造
特許文献10のKCCM 11103P菌株を用いて50μg/mlのスペクチノマイシンを含有するMMYE寒天培地プレート(2g/Lのグルコース、2mMの硫酸マグネシウム、0.1mMの塩化カルシウム、6g/Lのピロリン酸ナトリウム、0.5g/Lの塩化ナトリウムと本願で回収したリン酸水素二ナトリウム3g/L、10g/Lの酵母エキス、18g/Lの寒天)上で33℃、24時間培養し、プレート上の1/10の細胞を1つのプレートから掻き出しバッフル(baffle)フラスコ中に50μg/mlのスペクチノマイシンを含有した50mlのフラスコシード培地(10g/Lのクルコース、0.5g/Lの硫酸マグネシウム、3g/Lのリン酸二水素カリウム、10g/Lの酵母エキス、0.5g/Lの塩化ナトリウム、1.5g/Lの塩化アンモニウム、12.8g/Lのピロリン酸ナトリウム、1g/Lのグリシン)に接種させ、30℃で200rpmで6時間シード培養した。
【0078】
シード培養が完了した後、本培養培地容積の16%に相応する容積のシード培養培地を300mlの本培養培地で満たされた1Lの小型発酵槽に接種し、培養を33℃、pH7.0で行った。培養物を培養の間にアンモニア水を添加してpH7.0に調整した。培地中のグルコースが枯渇した後、520g/Lのグルコース水溶液及び前記本願で回収したリン酸水素二ナトリウム300g/Lを添加して、流加培養を行った。80時間の培養後、HPLCで確認した結果、29.3g/LのO−ホスホセリンが測定された。
【0079】
比較例.純粋なリン酸を用いたO−ホスホセリンの製造
KCCM11103P菌株を、前記実施例6と同様の方法でシード培地と本培地で培養して、グルコースが枯渇した後、520g/Lのグルコース水溶液及び純粋なリン酸200g/Lを添加して、流加培養を行った。80時間の培養後、HPLCで確認した結果、29. 5g/LのO−ホスホセリンが測定された。
【0080】
これにより、本願のリン酸を発酵培地から回収及び再使用する方法は、発酵液または発酵廃液からリン酸塩を結晶化して回収することができ、回収されたリン酸塩を発酵に再使用する場合、純粋なリン酸を用いた場合と同様の量の発酵生成物を得ることができることを確認したところ、本願の方法は発酵工程に非常に有用に利用することができる。
【0081】
以上の説明から、本願が属する技術分野の当業者は、本願がその技術的思想や必須の特徴を変更せず、他の具体的な形態で実施されうることを理解できるだろう。これに関連し、以上で記述した実施例はすべての面で例示的なものであり、限定的なものではないものと理解しなければならない。本願の範囲は、前記詳細な説明より、後述する特許請求の範囲の意味及び範囲、そしてその等価概念から導き出されるすべての変更または変形された形態が本願の範囲に含まれるものと解釈されるべきである。