特許第6944586号(P6944586)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6944586稼働コスト評価方法および稼働コスト評価プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6944586
(24)【登録日】2021年9月14日
(45)【発行日】2021年10月6日
(54)【発明の名称】稼働コスト評価方法および稼働コスト評価プログラム
(51)【国際特許分類】
   G06Q 10/00 20120101AFI20210927BHJP
【FI】
   G06Q10/00 300
【請求項の数】10
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2020-504429(P2020-504429)
(86)(22)【出願日】2019年7月2日
(86)【国際出願番号】JP2019026270
(87)【国際公開番号】WO2020066197
(87)【国際公開日】20200402
【審査請求日】2020年2月6日
(31)【優先権主張番号】特願2018-182451(P2018-182451)
(32)【優先日】2018年9月27日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000133733
【氏名又は名称】株式会社テイエルブイ
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】特許業務法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】藤原 良康
(72)【発明者】
【氏名】小田 和則
【審査官】 田上 隆一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−109070(JP,A)
【文献】 特開2007−226415(JP,A)
【文献】 特開2013−025323(JP,A)
【文献】 特開2002−149868(JP,A)
【文献】 特開2003−303243(JP,A)
【文献】 特開2016−217485(JP,A)
【文献】 特表2015−532397(JP,A)
【文献】 国際公開第2016/056292(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q 10/00−99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
蒸気トラップの機種ごとの稼働コストを評価する稼働コスト評価方法であって、
評価対象機種の複数の蒸気トラップであってプラントにおいて稼働しているものの検査を行い、当該検査の結果に基づいて、前記複数の蒸気トラップのそれぞれについて、当該蒸気トラップの稼働状態が、蒸気漏れおよび詰まりが生じていない状態である正常状態であるか、蒸気漏れおよび詰まりの少なくとも一つが生じている状態である異常状態であるかの診断を行う診断工程と、
前記複数の蒸気トラップのそれぞれについて、当該蒸気トラップが前記プラントにおいて稼働を開始した時である稼動始期に関する稼働始期情報、前記診断工程において当該蒸気トラップに対して前記検査が行われた時である検査時期に関する検査時期情報、および、前記診断工程において診断された前記稼働状態に関する稼働状態情報、を記憶装置に蓄積する蓄積工程と、
前記蓄積工程において蓄積された前記稼働始期情報、前記検査時期情報、および、前記稼働状態情報に基づいて、前記評価対象機種の装置寿命を演算する装置寿命演算工程と、
前記装置寿命に基づいて、あらかじめ設定された稼働期間の間に発生する前記評価対象機種の蒸気トラップの、設置、修理および交換、ならびに、検査および診断、の回数についての予測であるイベント予測を実行するイベント予測工程と、
前記イベント予測の結果に基づいて、前記稼働期間にわたって前記評価対象機種の蒸気トラップを稼働するために生じる通算の稼働コストである通算稼働コストを演算するコスト演算工程と、を有し、
前記検査は、複数の前記蒸気トラップのそれぞれについて、振動および温度の少なくとも一つを検出することを含み、
前記装置寿命演算工程において、前記評価対象機種の生存率曲線が演算され、
前記生存率曲線の横軸は、前記稼動始期からの経過時間であり、
前記生存率曲線の縦軸は、前記経過時間が経過した後に前記正常状態で稼働する前記評価対象機種の蒸気トラップの割合を表す生存率であり、
前記評価対象機種の装置寿命は、前記生存率曲線において、前記生存率があらかじめ定められた閾値になる前記経過時間である稼働コスト評価方法。
【請求項2】
前記イベント予測工程は、前記装置寿命および前記生存率曲線に基づいて前記イベント予測を実行する請求項に記載の稼働コスト評価方法。
【請求項3】
前記イベント予測工程は、
前記装置寿命および前記生存率曲線に基づいて、前記蒸気トラップの交換回数を予測する交換予測ステップと、
前記評価対象機種に係る修理の統計情報および前記プラントに係る修理の統計情報の少なくとも一つに基づいて前記蒸気トラップの修理回数を予測する修理予測ステップと、を含む請求項に記載の稼働コスト評価方法。
【請求項4】
前記コスト演算工程は、さらに、前記通算稼働コストを前記稼働期間で除して、前記評価対象機種の蒸気トラップを稼働するために生じる1年あたりの稼働コストである単年稼働コストを演算する請求項1からのいずれか1項に記載の稼働コスト評価方法。
【請求項5】
前記生存率曲線は、カプランマイヤー法により演算される請求項1からのいずれか1項に記載の稼働コスト評価方法。
【請求項6】
前記診断工程は複数回実行され、複数回実行される前記診断工程どうしの間隔は、あらかじめ定められた診断周期以内である請求項1からのいずれか1項に記載の稼働コスト評価方法。
【請求項7】
前記診断周期は1年以下である請求項に記載の稼働コスト評価方法。
【請求項8】
前記蒸気トラップが使用される使用条件ごとに前記稼働コストを演算可能に構成されている請求項1からのいずれか1項に記載の稼働コスト評価方法。
【請求項9】
前記使用条件は、前記プラントにおいて前記蒸気トラップが使用される部位、および、前記蒸気トラップを流通する流体に係る物理量である流体物理量、の少なくとも1つを含む請求項に記載の稼働コスト評価方法。
【請求項10】
蒸気トラップの機種ごとの稼働コストを評価する稼働コスト評価プログラムであって、
評価対象機種の複数の蒸気トラップであってプラントにおいて稼働しているものに対して行われる検査の結果、および、当該検査の結果に基づいてなされた、前記複数の蒸気トラップのそれぞれについての、当該蒸気トラップの稼働状態が、蒸気漏れおよび詰まりが生じていない状態である正常状態であるか、蒸気漏れおよび詰まりの少なくとも一つが生じている状態である異常状態であるかの診断の結果、の入力を受け付ける入力機能と、
前記複数の蒸気トラップのそれぞれについて、当該蒸気トラップが前記プラントにおいて稼働を開始した時である稼動始期に関する稼働始期情報、当該蒸気トラップに対して前記検査が行われた時である検査時期に関する検査時期情報、および、前記診断において診断された前記稼働状態に関する稼働状態情報、を記憶装置に蓄積する蓄積機能と、
前記蓄積機能において蓄積された前記稼働始期情報、前記検査時期情報、および、前記稼働状態情報に基づいて、前記評価対象機種の装置寿命を演算する装置寿命演算機能と、
前記装置寿命に基づいて、あらかじめ設定された稼働期間の間に発生する前記評価対象機種の蒸気トラップの、設置、交換、点検、および修理の回数についての予測であるイベント予測を実行するイベント予測機能と、
前記イベント予測の結果に基づいて、前記稼働期間にわたって前記評価対象機種の蒸気トラップを稼働するために生じる通算の稼働コストである通算稼働コストを演算するコスト演算機能と、をコンピュータに実行させ、
前記検査の結果は、複数の前記蒸気トラップのそれぞれについての、振動および温度の少なくとも一つの測定値を含み、
前記装置寿命演算機能によって、前記評価対象機種の生存率曲線が演算され、
前記生存率曲線の横軸は、前記稼動始期からの経過時間であり、
前記生存率曲線の縦軸は、前記経過時間が経過した後に前記正常状態で稼働する前記評価対象機種の蒸気トラップの割合を表す生存率であり、
前記評価対象機種の装置寿命は、前記生存率曲線において、前記生存率があらかじめ定められた閾値になる前記経過時間である稼働コスト評価プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラント機器の機種ごとの稼働コストを評価するための稼働コスト評価方法および稼働コスト評価プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
プラントにおいて稼働するプラント機器について、その稼働に要する稼働コストを評価することは、当該プラントの中長期の保守計画や工程改善計画を立案する際に必要であり、プラントの安定的な運転や生産性の改善に資するものである。特に、プラント機器に故障などの不具合が生じると、突発的に多大なコストが発生する場合があるので、そのようなコストの発生を予測することができればプラント管理上有用である。
【0003】
そのような稼働コストの予測は、一般的にプラント機器の製品寿命の予測に基づいて行われるため、稼働コストの予測の精度は製品寿命の予測の精度に左右される。このような稼働コストの予測の基礎とする製品寿命の予測を行うための技術として、たとえば日本国特開2008−234572号公報(特許文献1)や日本国特開2009−266029号公報(特許文献2)のような技術が公知である。これらの技術では、市場に流出し実際に使用されている製品の故障に関する情報を収集し、当該情報に基づいてその製品の寿命を予測する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】日本国特開2008−234572号公報
【特許文献2】日本国特開2009−266029号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1および特許文献2のいずれの技術においても、機器が異常状態に陥ったときに初めて情報が収集される。そのため、装置寿命を評価するために収集される情報の質および量が不十分な場合があった。そのため、装置寿命の予測精度が不十分となり、信頼性の高い稼働コスト評価を行えない場合があった。
【0006】
一方、プラントにおいて用いられるプラント機器(たとえば、蒸気プラントにおいて用いられる蒸気トラップ)については、専門性を有する管理者や供給者などにより定期的に検査が行われることが一般的である。すなわちプラント機器は、故障が生じているか否かに関わらず検査が行われるため、異常状態の機器のみならず正常状態の機器に関する情報も入手することができるという特徴がある。
【0007】
そこで、プラント機器について行われる検査を活用した精度の高い装置寿命の評価を行い、これに基づいて当該プラント機器の稼働コストを信頼性高く評価する方法の実現が求められる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る稼働コスト評価方法は、蒸気トラップの機種ごとの稼働コストを評価する稼働コスト評価方法であって、評価対象機種の複数の蒸気トラップであってプラントにおいて稼働しているものの検査を行い、当該検査の結果に基づいて、前記複数の蒸気トラップのそれぞれについて、当該蒸気トラップの稼働状態が、蒸気漏れおよび詰まりが生じていない状態である正常状態であるか、蒸気漏れおよび詰まりの少なくとも一つが生じている状態である異常状態であるかの診断を行う診断工程と、前記複数の蒸気トラップのそれぞれについて、当該蒸気トラップが前記プラントにおいて稼働を開始した時である稼動始期に関する稼働始期情報、前記診断工程において当該蒸気トラップに対して前記検査が行われた時である検査時期に関する検査時期情報、および、前記診断工程において診断された前記稼働状態に関する稼働状態情報、を記憶装置に蓄積する蓄積工程と、前記蓄積工程において蓄積された前記稼働始期情報、前記検査時期情報、および、前記稼働状態情報に基づいて、前記評価対象機種の装置寿命を演算する装置寿命演算工程と、前記装置寿命に基づいて、あらかじめ設定された稼働期間の間に発生する前記評価対象機種の蒸気トラップの、設置、修理および交換、ならびに、検査および診断、の回数についての予測であるイベント予測を実行するイベント予測工程と、前記イベント予測の結果に基づいて、前記稼働期間にわたって前記評価対象機種の蒸気トラップを稼働するために生じる通算の稼働コストである通算稼働コストを演算するコスト演算工程と、を有し、前記検査は、複数の前記蒸気トラップのそれぞれについて、振動および温度の少なくとも一つを検出することを含み、前記装置寿命演算工程において、前記評価対象機種の生存率曲線が演算され、前記生存率曲線の横軸は、前記稼動始期からの経過時間であり、前記生存率曲線の縦軸は、前記経過時間が経過した後に前記正常状態で稼働する前記評価対象機種の蒸気トラップの割合を表す生存率であり、前記評価対象機種の装置寿命は、前記生存率曲線において、前記生存率があらかじめ定められた閾値になる前記経過時間であることを特徴とする。
【0009】
また、本発明に係る稼働コスト評価プログラムは、蒸気トラップの機種ごとの稼働コストを評価する稼働コスト評価プログラムであって、評価対象機種の複数の蒸気トラップであってプラントにおいて稼働しているものに対して行われる検査の結果、および、当該検査の結果に基づいてなされた、前記複数の蒸気トラップのそれぞれについての、当該蒸気トラップの稼働状態が、蒸気漏れおよび詰まりが生じていない状態である正常状態であるか、蒸気漏れおよび詰まりの少なくとも一つが生じている状態である異常状態であるかの診断の結果、の入力を受け付ける入力機能と、前記複数の蒸気トラップのそれぞれについて、当該蒸気トラップが前記プラントにおいて稼働を開始した時である稼動始期に関する稼働始期情報、当該蒸気トラップに対して前記検査が行われた時である検査時期に関する検査時期情報、および、前記診断において診断された前記稼働状態に関する稼働状態情報、を記憶装置に蓄積する蓄積機能と、前記蓄積機能において蓄積された前記稼働始期情報、前記検査時期情報、および、前記稼働状態情報に基づいて、前記評価対象機種の装置寿命を演算する装置寿命演算機能と、前記装置寿命に基づいて、あらかじめ設定された稼働期間の間に発生する前記評価対象機種の蒸気トラップの、設置、交換、点検、および修理の回数についての予測であるイベント予測を実行するイベント予測機能と、前記イベント予測の結果に基づいて、前記稼働期間にわたって前記評価対象機種の蒸気トラップを稼働するために生じる通算の稼働コストである通算稼働コストを演算するコスト演算機能と、をコンピュータに実行させ、前記検査の結果は、複数の前記蒸気トラップのそれぞれについての、振動および温度の少なくとも一つの測定値を含み、前記装置寿命演算機能によって、前記評価対象機種の生存率曲線が演算され、前記生存率曲線の横軸は、前記稼動始期からの経過時間であり、前記生存率曲線の縦軸は、前記経過時間が経過した後に前記正常状態で稼働する前記評価対象機種の蒸気トラップの割合を表す生存率であり、前記評価対象機種の装置寿命は、前記生存率曲線において、前記生存率があらかじめ定められた閾値になる前記経過時間であることを特徴とする。
【0010】
これらの構成によれば、プラント機器について行われる検査を活用し、信頼性の高い稼働コストの評価方法を実現することができる。加えて、これらの構成によれば、プラント機器に対する検査および診断の結果に基づいて精度の高い生存率曲線を演算することができる。また、評価目的に適した閾値を設定することで、目的に応じた装置寿命を演算することができ、ひいては目的に応じた稼働コストを演算することができる。
【0011】
以下、本発明の好適な態様について説明する。ただし、以下に記載する好適な態様例によって、本発明の範囲が限定されるわけではない。
【0012】
本発明に係る稼働コスト評価方法は、一態様として、前記プラント機器は、蒸気トラップであることが好ましい。
【0014】
本発明に係る稼働コスト評価方法は、一態様として、前記イベント予測工程は、前記装置寿命および前記生存率曲線に基づいて前記イベント予測を実行することが好ましい。
【0015】
この構成によれば、生存率曲線の形状、すなわち経年による故障率の変化などを加味してイベント予測を実行できるため、装置寿命が満了する途中に発生するイベントを高い精度で予測しやすい
【0016】
本発明に係る稼働コスト評価方法は、一態様として、前記イベント予測工程は、前記装置寿命および前記生存率曲線に基づいて、前記蒸気トラップの交換回数を予測する交換予測ステップと、前記評価対象機種に係る修理の統計情報および前記プラントに係る修理の統計情報の少なくとも一つに基づいて前記蒸気トラップの修理回数を予測する修理予測ステップと、を含むことが好ましい。
【0017】
この構成によれば、プラント機器の交換回数および修理回数を予測できる
【0018】
本発明に係る稼働コスト評価方法は、一態様として、前記コスト演算工程は、さらに、前記通算稼働コストを前記稼働期間で除して、前記評価対象機種の蒸気トラップを稼働するために生じる1年あたりの稼働コストである単年稼働コストを演算することが好ましい。
【0019】
この構成によれば、数年に1回の頻度で生じる異常状態に起因して生じる突発的なコストの影響を、稼働期間の全期間にわたって平準化することができるため、プラントの安定的な維持管理を行うことができる
【0020】
本発明に係る稼働コスト評価方法は、一態様として、前記生存率曲線は、カプランマイヤー法により演算されることが好ましい。
この構成によれば、生存時間解析手法の分野における適用実績が豊富なカプランマイヤー法により、高精度の稼働コストを演算することができる。
本発明に係る稼働コスト評価方法は、一態様として、前記診断工程は複数回実行され、複数回実行される前記診断工程どうしの間隔は、あらかじめ定められた診断周期以内であることが好ましい。
【0021】
この構成によれば、定期的に検査および診断が行われるため、収集される情報の質および量が向上し、より精度の高い稼働コストを演算しやすい。
【0022】
本発明に係る稼働コスト評価方法は、一態様として、前記診断周期は1年以下であることが好ましい。
【0023】
この構成によれば、1年以下の単位で装置寿命を演算することができ、稼働コストの演算に用いるのに適した精度の装置寿命を演算することができる。
【0024】
本発明に係る稼働コスト評価方法は、一態様として、前記蒸気トラップが使用される使用条件ごとに前記稼働コストを演算可能に構成されていることが好ましい。
【0025】
この構成によれば、使用条件が稼働コストに与える影響を客観的に評価しやすい。
【0026】
本発明に係る稼働コスト評価方法は、一態様として、前記使用条件は、前記プラントにおいて前記蒸気トラップが使用される部位、および、前記蒸気トラップを流通する流体に係る物理量である流体物理量、の少なくとも1つを含むことが好ましい。
【0027】
この構成によれば、プラント機器が使用される部位、ならびに、プラント機器を流通する流体の温度、圧力、および流量、などが稼働コストに与える影響を客観的に評価しやすい。
【0028】
本発明のさらなる特徴と利点は、図面を参照して記述する以下の例示的かつ非限定的な実施形態の説明によってより明確になるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】本発明の構成例を表す概略図
図2】本発明の構成例を表すブロック図
図3】本発明に係る生存率曲線の例
図4】本発明に係る生存率曲線の他例
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明に係る稼働コスト評価方法および稼働コスト評価プログラムの実施形態について、図面を参照して説明する。以下では、石油化学プラントや火力発電プラントなどの、蒸気(流体の一例)を利用する蒸気プラントP(プラントの一例)において稼働している蒸気トラップ1(プラント機器の一例)について、本実施形態に係る稼働コスト評価方法により、蒸気トラップ1の機種ごとの装置寿命を評価した例について説明する。
【0031】
なお、蒸気プラントPのような蒸気システム全体を重要なアセットの1つとして捉えると、本実施形態に係る稼働コスト評価方法および稼働コスト評価プログラムは、アセットマネジメント手法の1つとして適用可能である。
【0032】
〔装置構成およびシステム構成〕
まず、稼働コストを評価する対象とする蒸気トラップ1について説明する。図1に示すように、本実施形態においては、複数の蒸気プラントPが存在し、各蒸気プラントPにおいて複数の蒸気トラップ1が稼働している。
【0033】
本実施形態に係る蒸気プラントPは、タービン、コンプレッサ、熱交換器など、すなわち、蒸気から取り出した運動エネルギーにより駆動する機器、蒸気が有する熱エネルギーを消費して対象物を加熱する機器などの、蒸気が有するエネルギーを消費して稼働する蒸気利用機器、蒸気利用機器に蒸気を輸送する輸送管、蒸気利用機器から生じたドレンを排出するドレン管などの配管系、および、配管系に設けられる蒸気トラップ1、制御バルブ、ポンプ、フィルタ、セパレータなどのプロセス機器、給水タンク、脱気器、ボイラなどの蒸気供給機器、などの構成要素を有する。
【0034】
これらの構成要素のそれぞれには蒸気が流通し、その蒸気の温度、圧力、流通量などの諸条件は多岐にわたる。したがって、蒸気トラップ1の使用条件は、蒸気プラントPにおいて当該蒸気トラップ1が使用される部位、当該蒸気トラップ1が使用される目的、ならびに、蒸気プラントを流通する蒸気の温度、圧力、および流通量、などにより、蒸気トラップ1ごとに特定される。ここで、蒸気トラップ1は市場に流通する複数の機種から、使用条件に適合した機種が選択され設置される。
【0035】
本実施形態に係る稼働コスト評価方法は、可搬型検出器2と演算装置3とを用いて実行される(図2)。可搬型検出器2は、検査員が持ち運び可能に構成されており、蒸気トラップ1に関連する物理量であるトラップ物理量(機器物理量の一例)を検出可能な検出部2aと、検査員が各種の情報を入力可能な入力部2bと、検査員が検査を行う際に必要な情報を表示可能な表示部2cとを含む。
【0036】
演算装置3は、可搬型検出器2とネットワーク4を通じて通信可能に構成されており、可搬型検出器2から送信される各種の情報を受信する。演算装置3は、これらの情報を蓄積可能な記憶部3a(記憶装置の一例)と、当該情報に基づいて各種演算を行うことができる演算部3bとを含む。
【0037】
〔稼働コスト評価方法〕
次に、本実施形態に係る稼働コスト評価方法の具体的な手順について説明する。本実施形態に係る稼働コスト評価方法は、診断工程、蓄積工程、装置寿命演算工程、イベント予測工程、およびコスト演算工程から構成される。
【0038】
(1)診断工程
診断工程は、検査員による蒸気トラップ1の検査と、当該検査員による当該蒸気トラップ1の稼働状態の診断と、を含む。具体的には、検査員は、蒸気プラントPにおいて稼働する複数の蒸気トラップ1のそれぞれについて、可搬型検出器2の検出部2aを用いたトラップ物理量の検出を行う。検出されたトラップ物理量は表示部2cに表示され、検査員は検査作業中に逐次これを確認することができる。
【0039】
ここで検出されるトラップ物理量としては、振動および温度が挙げられる。検出された振動があらかじめ定められた閾値を超えている場合は、当該蒸気トラップ1において蒸気漏れが生じていることが疑われる。また、検出された温度があらかじめ定められた閾値を下回っている場合は、当該蒸気トラップ1において詰まりが生じていることが疑われる。
検査員は、これらのトラップ物理量の検出に加えて目視による検査も行う。
【0040】
以上の検査におけるトラップ物理量の検出結果および目視検査の結果を総合して、検査員は、それぞれの蒸気トラップ1の稼働状態が正常状態であるか異常状態であるかの診断を行う。
【0041】
このような一連の診断工程は、あらかじめ定められた診断周期ごとに、定期的に実行される。本実施形態では診断周期を1年とし、前回の診断工程の実行から1年を超えない期間以内に次の診断工程が実行される。
【0042】
(2)蓄積工程
蓄積工程では、装置寿命を評価するために必要な情報の蓄積を行う。検査員は、まず、蒸気プラントPにおいて稼働する複数の蒸気トラップ1のそれぞれについて、当該蒸気トラップ1の基本情報として、当該蒸気トラップ1を特定する識別情報(ID)、当該蒸気トラップ1の機種名、当該蒸気トラップが稼働を開始した時である稼動始期、蒸気プラントPにおいて当該蒸気トラップ1が使用される部位、当該蒸気トラップ1が使用される目的、および、蒸気プラントを流通する蒸気に係る物理量である蒸気物理量(流体物理量の一例)を含む情報を入力部2bに入力する。なお、蒸気物理量とは、たとえば温度、圧力、および流通量などである。ここで、これらの基本情報の入力は、当該蒸気トラップ1についての2回目以降の蓄積工程であって前回の蓄積工程から基本情報に変更がない場合は、省略される。入力部2bに入力された基本情報は、ネットワーク4を介して演算装置3に送信され、記憶部3aに蓄積される。
【0043】
検査員は、次に、診断工程において診断した当該蒸気トラップ1の稼働状態に関する稼働状態情報、すなわち当該蒸気トラップ1の稼働状態が正常状態であるか異常状態であるかを入力部2bに入力する。入力部2bに入力された稼働状態情報は、当該稼働状態情報の根拠となった検査が行われた時である検査時期に関する検査時期情報とともに、ネットワーク4を介して演算装置3に送信され、記憶部3aに蓄積される。
【0044】
以上の蓄積工程において記憶部3aに蓄積された情報の一部について、表1に例示した。表1に示すように、蒸気トラップA〜Hは機種aであり、蒸気トラップI〜Lは機種bであることが記憶部3aに蓄積されている。また、全ての蒸気トラップについて、稼動始期(年)と、2011年から2017年にわたって1年ごとに実施された診断工程における稼働状態情報とが、記憶部3aに蓄積されている。なお、稼働状態情報の欄においてハイフン(−)で示されている箇所は、当該蒸気トラップが存在しなかった、当該蒸気トラップの診断工程が行われなかった、などの理由により、当該蒸気トラップについてその年の情報が蓄積されていないことを意味する。また、表1のうち、IDがDの箇所に係る記載は、蒸気トラップD1について2015年の診断工程において異常が発見されたため、その後同機種(機種a)の蒸気トラップD2に交換されたことを示す。
【0045】
表1:蓄積工程において蓄積された情報の例
【表1】
【0046】
(3)装置寿命演算工程
装置寿命演算工程において演算部3bは、評価対象機種の生存率曲線を演算し、当該生存率曲線に基づいて当該評価対象機種の装置寿命を決定する。本実施形態では、カプランマイヤー法により生存率曲線が演算される。以下にその具体的な方法を説明する。なお、以降の説明では、表1の「機種a」を評価対象機種として説明する。
【0047】
まず、表2のように、表1に示した情報を、稼動始期からの経過年数ごとに整理する。
ここで、機種aを評価対象機種とするため、機種bに関する情報は演算対象から除外されている。
【0048】
たとえば蒸気トラップAは、稼動始期である2010年から1年後の2011年に正常状態であったことが確認されているので、経過年数「1年」の欄に「正常」であった旨が記憶されている。また、2011年が稼働始期である蒸気トラップCは、2012年(稼動始期から1年後)から2016年(稼働始期から5年後)まで正常状態であり、2017年(稼働始期から6年後)に異常状態であったことが確認されているので、経過年数「1年」から「5年」の欄に「正常」であった旨と、経過年数「6年」の欄に「異常」であった旨とが記憶されている。
【0049】
一方、蒸気トラップAについて2012年以降の情報が蓄積されていないため、蒸気トラップAについての経過年数2年以降の情報は不明である。また、蒸気トラップD2は稼動始期である2015年から2年しか経過していないため、経過年数3年以降の情報は不明である。これらの例のように稼働状態が不明である場合は演算対象から除外され、表2ではハイフン(−)で示している。また、稼動始期が不明であるトラップGおよびHは、経過年数を特定できないため、演算対象から除外されている。
【0050】
表2:稼動始期からの経過年数ごとに整理された情報の例
【表2】
【0051】
次に、表3のように、表2に整理した情報に基づいて、1年ごとの経過年数区間ごとに稼働している蒸気トラップの数量(稼働数)と稼働している蒸気トラップのうち正常状態にあるものの数量(正常数)とを集計し、正常状態にあるものの割合(正常率)を算出する。たとえば、表2において経過年数「2年」の欄には、6台の蒸気トラップについて「正常」であった旨が記憶されているので、設置後年数「1〜2年」について、稼働数は「6」であり、正常数は「6」であり、正常率は「100%」である。同様に、設置年数「4〜5年」について、稼働数は「4」であり、正常数は「3」であり、正常率は「75%」である。
【0052】
表3:設置後年数ごとの稼働数、正常数、および正常率を集計した例
【表3】
【0053】
さらに、表3に示したような設置後年数ごとの正常率を積算して、経過年数ごとの生存率を算出する。たとえば、経過年数3年の時点における生存率は、100%(0〜1年の正常率)×100%(1〜2年の正常率)×80%(2〜3年の正常率)=80%と算出される。同様の算出を各経過年数について行い、横軸を経過年数(稼動始期からの経過時間の一例)とし、縦軸を各経過年数における生存率としてプロットすることで、生存率曲線が得られる(図3)。
【0054】
最後に、生存率曲線において、生存率があらかじめ定められた閾値になる経過年数を、評価対象機種である機種aの装置寿命と決定する。たとえば閾値を70%とすると、図3において、経過年数4年時点で生存率80%、経過年数5年時点で生存率60%であるので、経過年数4.5年超の時に生存率が70%になると推定される。したがって、機種aの装置寿命は4.5年と決定される。
【0055】
なお上記では、説明を簡単にするため7点の情報に基づく集計例を示したが、集計対象とする蒸気トラップの数量は限定されない。実際の実施形態においては、統計学的に有意な統計結果を得るべく、十分に多い数量の蒸気トラップについて集計することが好ましいことは、当業者が当然に理解することであろう。
【0056】
なお、蓄積工程で記憶部3aに蓄積され、装置寿命演算工程で演算対象とされる情報は、特定の蒸気プラントPにおいて稼働する蒸気トラップ1に係る情報だけではなく、複数の蒸気プラントPにおいて稼働する蒸気トラップ1に係る情報を含む。これは、本実施形態に係る稼働コスト評価方法においては、特定の蒸気プラントPにおける蒸気トラップ1の寿命を評価することだけではなく、製造元から市場に流出する蒸気トラップ1の製品としての一般的な寿命を評価することをも目的とするためである。なお、統計学的に有意なサンプル数量を得やすくする目的からも、複数の蒸気プラントPにおいて稼働する蒸気トラップ1を対象とすることは有利である。
【0057】
(4)イベント予測工程
イベント予測工程において演算部3bは、装置寿命演算工程で演算された装置寿命および生存率曲線に基づいて、あらかじめ定められた稼働期間の間に発生するイベントについての予測を行う。ここでイベントとは、蒸気トラップ1の設置、蒸気トラップ1の故障に伴う修理および交換、ならびに、蒸気トラップ1の検査および診断(すなわち診断工程)、を含む。また、かかるイベントについての予測は、各イベントが発生することが予測される時期についての予測を含む。
【0058】
ここで、稼働期間を20年として、機種aについてのイベント予測工程の例を説明する。まず、対象箇所に機種aの蒸気トラップ1を設置する際に、「設置」のイベントが1回発生する。設置された機種aの蒸気トラップ1の装置寿命は4.5年であるので、装置寿命ごとに機種aの蒸気トラップ1の新品に交換する場合、20年の稼働期間の間に「交換」のイベントが4回発生することが予測される。また、修理により故障が解消する場合があるため、「修理」のイベントの発生も予測される。「修理」のイベントの発生回数は、機種aに係る修理の統計情報、蒸気プラントPに係る修理の統計情報、診断工程において検出した物理量など、適宜の情報に基づいて予測される。この例では、20年の稼働期間の間に「修理」のイベントが5回発生することが予測されたとする。さらに、20年間の稼働期間中、1年に1回の診断工程を実行するので「検査」および「診断」のイベントが各20回発生する。
【0059】
すなわちこの例では、20年の稼働期間の間に、「設置」のイベントが1回、「交換」のイベントが4回、「修理」のイベントが5回、「検査」および「診断」のイベントが各20回、それぞれ発生することが予測される。
【0060】
(5)コスト演算工程
コスト演算工程において演算部3bは、イベント予測工程において予測された各イベントの発生によって生じるコストを積算することで、評価対象機種のプラント機器を稼働するために生じる通算の稼働コストである通算稼働コストを演算する。ここでは、コストを費用の形式で演算した例について説明する。
【0061】
たとえば「設置」および「交換」のイベントにおいては、機種aの蒸気トラップ1の機器購入費用およびこれを設置する工事費用が発生する。前述の通り「設置」のイベントが1回、「交換」のイベントが4回、それぞれ発生することが予測されるので、5回分の機器購入費用および工事費用を通算稼働コストとして計上する。
【0062】
その他のイベントの発生により生じる費用についても、同様に計上される。すなわち、「修理」のイベントにおいては、修理部品の部品購入費用および工事費用が発生するので、「修理」のイベントの発生予測回数に対応する5回分の部品購入費用および工事費用を通算稼働コストとして計上する。さらに、「検査」および「診断」のイベントにおいては、検査員の派遣費用が発生するので、これらのイベントの発生回数に対応する20回分の派遣費用を通算稼働コストとして計上する。
【0063】
また、上記のように演算された通算稼働コストを、稼働期間(20年)で除することで、1年あたりの稼働コストである単年稼働コストを演算する。
【0064】
以上の各工程により評価対象機種の稼働コストを演算することで、蒸気トラップ1に対して行われる検査の結果に基づいた、信頼性の高い稼働コスト評価が実現される。また、数年に1回の頻度で生じる異常状態に起因して生じる突発的なコストの影響を、稼働期間の全期間にわたって平準化して評価することができるため、異常状態からの復帰に要する費用の調達を複数年にわたって計画的に行うことができる、導入する蒸気トラップの機種を選定する際にライフサイクル全体でのコストを考慮した選定を行うことができる、などの利点がある。そして、これらの利点により、プラントの安定的な維持管理を行うことができる。
【0065】
〔上記の実施形態の変形例〕
上記の実施形態では、それぞれの蒸気トラップ1が使用される使用条件の違いを加味せず、一様に集計対象とした例について説明した。この実施形態は、主として蒸気トラップ1の製品設計や製品供給体制に起因する、いわば製品自体の性能としての装置寿命に基づいて、蒸気トラップ1の稼働コストを演算するものである。一方、同様の評価手法において、蒸気トラップ1が使用される条件の違いを加味すると、より精度の高い稼働コストの演算が可能になる。
【0066】
図4は、特定の評価対象機種の蒸気トラップを、流通する蒸気の圧力(以下、使用圧力という。)がそれぞれ、0.5MPa以下のもの、0.5〜1.0MPa以下のもの、および、1.0〜1.5MPa以下のもの、に分類し、それぞれの分類ごとに生存率曲線を演算した例である。図3の生存率曲線に基づいて使用圧力ごとの装置寿命を算出すると、使用圧力が0.5MPaのとき9.0年、使用圧力が0.5〜1.0MPaのとき7.3年、使用圧力が1.0〜1.5MPaのとき4.8年となる。
【0067】
このように、使用圧力ごとの生存率曲線および装置寿命を演算し、これを適用して稼働コストを演算することで、蒸気トラップ1の全数について一律の装置寿命を適用して稼働コストを演算する場合に比べて、演算される稼働コストの精度が高くなる。
【0068】
なお、圧力のほか、流通する蒸気の温度や流量などによって、すなわち任意の蒸気物理量によって、蒸気トラップを分類してもよい。また、このような使用条件ごとの集計は、上記に例示した蒸気物理量ごとの集計のほかに、たとえば、蒸気プラントPにおいて蒸気トラップ1が使用される部位(トラップの用途)ごとに行ってもよい。たとえば、蒸気トラップが主管に設置されている場合、鉄製のトレースに設置されている場合、銅製のトレースに設置されている場合、などのそれぞれについて生存率曲線および装置寿命を演算すれば、蒸気トラップ1が設置される部位によって装置寿命が異なることを客観的に評価できる。また、本発明に係る稼働コスト評価方法において、可搬型検出器2の検出部2aを用いたトラップ物理量の検出に替えて、あらかじめ蒸気トラップ1に設けられた常設検出器を用いてトラップ物理量を検出するように構成してもよい。
【0069】
〔その他の実施形態〕
最後に、本発明に係る稼働コスト評価方法のその他の実施形態について説明する。なお、以下のそれぞれの実施形態で開示される構成は、矛盾が生じない限り、他の実施形態で開示される構成と組み合わせて適用することも可能である。また、以下のそれぞれの実施形態は、本発明に係る稼働コスト評価方法のその他の実施形態として説明するが、同様の実施形態を本発明に係る稼働コスト評価プログラムにも実装しうる。
【0070】
上記の実施形態では、評価対象とするプラント機器が蒸気トラップ1である構成を例として説明した。しかし、そのような構成に限定されることなく、評価対象とするプラント機器は、タービン、コンプレッサ、発電機、熱交換器、輸送管、ドレン管、制御バルブ、ポンプ、フィルタ、セパレータ、給水タンク、脱気器、ボイラ、リボイラなどであってもよい。
【0071】
上記の実施形態では、生存率曲線がカプランマイヤー法により演算される例について説明した。しかし、そのような構成に限定されることなく、生存率曲線は、ワイブル分布、指数分布、対数正規分布、ガンマ分布や対数ロジスティック分布などの公知の分布を仮定した、生存時間解析手法によって演算されてもよい。
【0072】
上記の実施形態では、稼働コストを費用の形式で演算した構成を例として説明した。しかし、そのような構成に限定されることなく、稼働コストは、プラント機器が異常状態に陥ることにより発生する流体の損失量やプラントの生産品の生産量の減少量などの形式で演算されてもよいし、プラント機器の稼働に要するエネルギー消費量や蒸気使用量などの形式で演算されてもよい。
【0073】
上記の実施形態では、診断周期が1年である例について説明した。しかし、診断周期は任意の期間でよい。診断周期が短い場合は演算される装置寿命および稼働コストの精度が向上する傾向にあり、診断周期が長い場合は検査および診断に要する工数および費用を低減できる傾向にある。したがって、診断周期は、要求される装置寿命および稼働コストの精度と費やすことのできる工数および費用とに鑑みて適宜決定されるべきである。ここで、診断周期が1年以内であれば、多くのプラント機器に対して十分高い精度の装置寿命および稼働コストを演算できるため、好ましい。
【0074】
上記の実施形態では、生存率が70%になる経過年数の最小値を、評価対象機種の装置寿命とする構成を例として説明した。しかし、そのような構成に限定されることなく、装置寿命を決定するためにあらかじめ定められた閾値は、評価対象とするプラント機器の構造、材料、および使用条件、ならびに当該プラント機器の使用者または供給者が要求する条件、などに応じて任意の値を用いることができる。
【0075】
上記の実施形態では、蒸気トラップ1の稼働期間を20年とする構成を例として説明した。しかし、そのような構成に限定されることなく、稼働コストを演算するためにあらかじめ定められた稼働期間は、評価対象とするプラント機器の構造、材料、および使用条件、ならびに当該プラント機器の使用者または供給者が要求する条件、などに応じて任意の値を用いることができる。
【0076】
その他の構成に関しても、本明細書において開示された実施形態は全ての点で例示であって、本発明の範囲はそれらによって限定されることはないと理解されるべきである。当業者であれば、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜改変が可能であることを容易に理解できるであろう。したがって、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で改変された別の実施形態も、当然、本発明の範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明は、たとえば蒸気プラントにおいて稼働する蒸気トラップの装置寿命の評価に利用することができる。
【符号の説明】
【0078】
P :蒸気プラント
1 :蒸気トラップ
2 :可搬型検出器
2a :検出部
2b :入力部
2c :表示部
3 :演算装置
3a :記憶部
3b :演算部
4 :ネットワーク
図1
図2
図3
図4