特許第6944698号(P6944698)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6944698
(24)【登録日】2021年9月15日
(45)【発行日】2021年10月6日
(54)【発明の名称】I型アレルギー疾患治療薬
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/395 20060101AFI20210927BHJP
   A61P 37/08 20060101ALI20210927BHJP
   C07K 16/00 20060101ALN20210927BHJP
【FI】
   A61K39/395 N
   A61K39/395 U
   A61P37/08
   !C07K16/00
【請求項の数】3
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-109784(P2017-109784)
(22)【出願日】2017年6月2日
(65)【公開番号】特開2018-203656(P2018-203656A)
(43)【公開日】2018年12月27日
【審査請求日】2020年1月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】502285457
【氏名又は名称】学校法人順天堂
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】特許業務法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】平野 隆雄
【審査官】 横田 倫子
(56)【参考文献】
【文献】 Int. Arch Allergy Immunol., 2002, Vol.128, p.24-32
【文献】 Int. Arch Allergy Immunol., 1988, Vol.85, p.47-54
【文献】 Eur J Immunol., 1991, Vol.21, p.1543-1548
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 39/00
A61P 37/08
C07K 16/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
IgEのFcε2を認識して当該部位に結合するモノクローナル抗IgE抗体のFabフラグメントを有効成分とするI型アレルギー疾患治療薬。
【請求項2】
前記Fabフラグメントが、マスト細胞上のIgEのFcε2を認識して直接結合する請求項1記載のI型アレルギー疾患治療薬。
【請求項3】
前記抗IgE抗体が、ハイブリドーマ 6HD5が産生するモノクローナル抗IgE抗体である請求項1又は2記載のI型アレルギー疾患治療薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、I型アレルギー疾患の特異的治療薬に関する。
【背景技術】
【0002】
I型アレルギー疾患においては、IgEがマスト細胞や好塩基球上の高親和性IgE受容体(FcεR1)に結合し、アレルゲンがそのIgEに結合・架橋形成を起こすことにより、これらの細胞からヒスタミン、セロトニン等の化学伝達物質を放出する。これらの化学伝達物質により血管拡張や血管透過性亢進などが起こり、種々のアレルギー症状が生じる。代表的な疾患として、じんましん、食物アレルギー、花粉症、アレルギー性鼻炎、気管支喘息、アトピー性皮膚炎、アナフィラキシーショック等が知られている。
【0003】
I型アレルギー疾患である難治性喘息の治療薬として抗IgE抗体であるオマリズマブが市販されている。オマリズマブは、ヒト化抗IgEモノクローナル抗体であり、血中のフリーのIgEを除去することによりマスト細胞等の表面にある高親和性受容体(FcεR1)とIgE量を減少させることによりマスト細胞の活性化を抑制するとされている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】ゾレア(登録商標)添付文書
【非特許文献2】Int. Arch Allergy Immunol 85:47-54(1988)
【非特許文献3】Int. Arch Allergy Immunol 128: 24-32 (2002)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
オマリズマブは、マスト細胞表面のIgE受容体(FcεR1)の結合部位とされるIgE分子のFcε3を認識する抗IgE抗体である。従ってオマリズマブは、IgEのFcεR1の結合部位を認識するため、マスト細胞上に既に固着しているIgEには結合出来ない。それ故、血液中のフリーのIgEを除去することにより、マスト細胞に結合するIgE量を減少させ、マスト細胞の活性化を抑制することによって、間接的にI型アレルギー反応を減弱させるということがその作用機序である。また、オマリズマブはIgGで分子量約15万の2分子(ダイマー)であるため、マスト細胞上のIgE分子と結合し、架橋形成によりアナフィラキシーショックを誘導する可能性があることが指摘されている。既に文献ではアナフィラキシーショックの副作用が報告されている。
【0006】
従って、従来の抗IgE抗体(オマリズマブ)とは異なる作用機序による新たなI型アレルギー疾患治療薬の開発が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで本発明者は、種々の抗IgE抗体を作製し、その作用を検討してきたところ、ハイブリドーマが産生するモノクローナル抗IgE抗体(HMK−12)が、前記オマリズマブ同様にマスト細胞上のIgE受容体(FcεR1)の結合部位とされるIgE分子のFcε3を認識する抗IgE抗体であることを見出し、先に報告した(非特許文献2、3)。そしてさらに検討を続けたところ、これと異なる別のモノクローナル抗IgE抗体は、IgE認識部位がIgEのFcεRIが結合する部位IgE−Fcε3(オマリズマブやHMK−12の認識部位)と全く異なるIgE−Fcε2である抗IgE抗体のFabフラグメントの作製に成功した。この新たな抗IgE抗体のFabフラグメントを用いれば、マスト細胞に結合しているIgEに直接結合して、アレルゲンによる架橋形成を介したI型アレルギー反応を直接阻害するため、強力にアレルギー症状を抑制する。またFabフラグメントであるため、これ自体が架橋形成することがなく、分子量も約5万と小さく安全性も良好であることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は、次の〔1〕〜〔12〕を提供するものである。
【0009】
〔1〕IgEのFcε2を認識して当該部位に結合するモノクローナル抗IgE抗体のFabフラグメントを有効成分とするI型アレルギー疾患治療薬。
〔2〕前記Fabフラグメントが、マスト細胞上のIgEのFcε2を認識してマスト細胞上のIgEのFcε2と直接結合する〔1〕記載のI型アレルギー疾患治療薬。
〔3〕前記抗IgE抗体が、ハイブリドーマ 6HD5が産生するモノクローナル抗IgE抗体である〔1〕又は〔2〕記載のI型アレルギー疾患治療薬。
〔4〕I型アレルギー疾患治療薬製造のための、IgEのFcε2を認識して当該部位に結合するモノクローナル抗IgE抗体のFabフラグメントの使用。
〔5〕前記Fabフラグメントが、マスト細胞上のIgEのFcε2を認識してマスト細胞上のIgEのFcε2と直接結合する〔4〕記載の使用。
〔6〕前記抗IgE抗体が、ハイブリドーマ 6HD5が産生するモノクローナル抗IgE抗体である〔4〕又は〔5〕記載の使用。
〔7〕I型アレルギー疾患を治療するための、IgEのFcε2を認識して当該部位に結合するモノクローナル抗IgE抗体のFabフラグメント。
〔8〕前記Fabフラグメントが、マスト細胞上のIgEのFcε2を認識してマスト細胞上のIgEのFcε2と直接結合する〔7〕記載のFabフラグメント。
〔9〕前記抗IgE抗体が、ハイブリドーマ 6HD5が産生するモノクローナル抗IgE抗体である〔7〕又は〔8〕記載のFabフラグメント。
〔10〕IgEのFcε2を認識して当該部位に結合するモノクローナル抗IgE抗体のFabフラグメントの有効量を投与することを特徴とするI型アレルギー疾患の治療方法。
〔11〕前記Fabフラグメントが、マスト細胞上のIgEのFcε2を認識してマスト細胞上のIgEのFcε2と直接結合する〔10〕記載の方法。
〔12〕前記抗IgE抗体が、ハイブリドーマ 6HD5が産生するモノクローナル抗IgE抗体である〔10〕又は〔11〕記載の方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の抗IgE抗体のFabフラグメント(Fab−6HD5)は、IgEのFcε2を認識し、マスト細胞に結合しているIgEのFcε2に直接結合して、アレルゲンによる架橋形成を介したI型アレルギー反応を直接阻害するため、従来の血中フリーのIgEを除去することによる治療薬(オマリズマブ)に比べて極めて強力かつ持続的にI型アレルギー症状を阻害し、I型アレルギー疾患治療薬として有用である。また、本発明はFabフラグメントであるので分子量が小さく、副作用の危険性も少ない。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】β−ヘキソサミニダーゼ放出に対する作用を示す。
図2】フローサイトメトリー結果を示す。
図3】フローサイトメトリー結果を示す。
図4】ウェスタンブロットの結果を示す。
図5】ウェスタンブロットの結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のI型アレルギー疾患治療薬の有効成分は、IgEのFcε2を認識して当該部位に結合するモノクローナル抗IgE抗体のFabフラグメントである。
従来、I型アレルギー疾患治療薬として用いられている抗IgE抗体であるオマリズマブはIgE分子のFcε3(IgEのマスト細胞表面上のIgE受容体(FcεR1)への結合部位)を認識する抗体である。血液中のフリーのIgEを除去することにより、マスト細胞に結合するIgE量を減らして間接的にI型アレルギー反応を阻害するものであり、直接マスト細胞上に結合したIgEに作用するものではない。これに対し、本発明で用いるモノクローナル抗IgE抗体のFabフラグメントは、Fcε3でなくFcε2を認識することから、マスト細胞に結合しているIgEに直接結合して、アレルゲンによる架橋形成を介したI型アレルギー反応を直接阻害するため、強力かつ持続的にI型アレルギー症状を抑制できる。
【0013】
このようなモノクローナル抗IgE抗体としては、ハイブリドーマ 6HD5が産生するモノクローナル抗IgE抗体が挙げられる(非特許文献2、3)。
【0014】
ハイブリドーマ 6HD5は、非ヒト動物(SDラット)に抗ジニトロフェノール(DNP)IgEモノクローナル抗体(B53:BALB/cマウス由来)のIgEを免疫してハイブリドーマ 6HD5を作成する。例えば、マウス由来モノクローナル抗DNPIgE(B53)のIgEをラット免疫して得られた抗体産生細胞とミエローマ細胞(P3U1)とを細胞融合させて得られたハイブリドーマである。
【0015】
感作抗原としては、抗DNPIgE(B53)を用いる。感作抗原で免疫される非ヒト動物としては、例えばラットが用いられる。
【0016】
感作抗原を動物に免疫するには、公知の方法に従って行われる。例えば、一般的方法として、感作抗原を哺乳動物の腹腔内または皮下に注射することにより行われる。具体的には、感作抗原をPBS(Phosphate−Buffered Saline)や生理食塩水等で適当量に希釈、懸濁したものに所望により通常のアジュバント、例えばフロイント完全アジュバントを適量混合し、乳化後、哺乳動物に4〜21日毎に数回投与する。また、感作抗原免疫時に適当な担体を使用することもできる。
【0017】
このように哺乳動物を免疫し、血清中に所望の抗体レベルが上昇するのを確認した後に、哺乳動物から免疫細胞を採取し、細胞融合に付す。好ましい免疫細胞としては、特に脾細胞が挙げられる。
【0018】
前記免疫細胞と融合すべき親細胞として、哺乳動物のミエローマ細胞を用いる。このミエローマ細胞は、公知の種々の細胞株、例えば、P3(P3x63Ag8.653)(Kearney et al.,J Immnol 1979;123:1548−1550)、NS−1(Kohler.G.and Milstein,C Eur J Immunol 1976;6:511−519)、SP2/0(Shulman,M.et al.,Nature 1978;276:269−270)等が好適に使用される。
【0019】
前記免疫細胞とミエローマ細胞との細胞融合は、基本的には公知の方法、たとえば、ケーラーとミルステインらの方法(Kohler.G.and Milstein,C.,Methods Enzymol 1981;73:3−46)等に準じて行うことができる。
【0020】
より具体的には、前記細胞融合は、例えば細胞融合促進剤の存在下に通常の培養液中で実施される。融合促進剤としては、例えばポリエチレングリコール(PEG)、センダイウイルス(HVJ)等が使用され、更に所望により融合効率を高めるためにジメチルスルホキシド等の補助剤を使用することもできる。
【0021】
免疫細胞とミエローマ細胞との使用割合は任意に設定することができる。例えば、ミエローマ細胞に対して免疫細胞を1〜10倍とするのが好ましい。前記細胞融合に用いる培養液としては、例えば、前記ミエローマ細胞株の増殖に好適なRPMI1640培養液、MEM培養液、その他、この種の細胞培養に用いられる通常の培養液が使用可能であり、さらに、牛胎児血清(FBS)等の血清補液を併用することもできる。
【0022】
細胞融合は、前記免疫細胞とミエローマ細胞との所定量を前記培養液中でよく混合し、予め37℃程度に加温したポリエチレングリコール溶液(例えば平均分子量1000〜6000程度)を通常30〜60%(w/v)の濃度で添加し、混合することによって目的とする融合細胞(ハイブリドーマ)を形成する。続いて、適当な培養液を逐次添加し、遠心して上清を除去する操作を繰り返すことによりハイブリドーマの生育に好ましくない細胞融合剤等を除去する。
【0023】
このようにして得られたハイブリドーマは、通常の選択培養液、例えばHAT培養液(ヒポキサンチン、アミノプテリンおよびチミジンを含む培養液)で培養することにより選択される。上記HAT培養液での培養は、目的とするハイブリドーマ以外の細胞(非融合細胞)が死滅するのに十分な時間(通常、数日〜数週間)継続する。次いで、通常の限界希釈法を実施し、目的とする抗体を産生するハイブリドーマのスクリーニングおよび単一クローニングを行う。
【0024】
ハイブリドーマのスクリーニングは、例えば感作抗原として用いたIgEを用いたELISAによって、モノクローナル抗IgE抗体を選抜することができる。
【0025】
このようにして作製されるモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマは、通常の培養液中で継代培養することが可能であり、また、液体窒素中で長期保存することが可能である。
【0026】
当該ハイブリドーマからモノクローナル抗体を取得するには、当該ハイブリドーマを通常の方法に従って培養し、その培養上清として得る方法、あるいはハイブリドーマをこれと適合性がある哺乳動物に投与して増殖させ、その腹水として得る方法などが採用される。前者の方法は、高純度の抗体を得るのに適しており、一方、後者の方法は、抗体の大量生産に適している。
【0027】
また、本発明の抗IgE抗体は、ラット抗マウスIgEの実験系であるが、キメラ化又はヒト化したものとすることもできる。また抗IgE抗体としてはIgGが好ましい。
【0028】
本発明の抗IgE抗体を産生するハイブリドーマ 6HD5は、例えば非特許文献2及び3の記載に従って製造することができる。
【0029】
抗IgE抗体のFabフラグメントは、例えば非特許文献3の記載に準じて抗IgE抗体をプロテアーゼ処理した後、プロテインAカラムを用いてFcフラグメントを除去することにより得ることができる。プロテアーゼとしては、パパインを用いることができる。
【0030】
本発明の抗IgE抗体のFabフラグメントは、後記実施例に示すように、Fcε3ではなく、Fcε2を認識し、マスト細胞に結合しているIgEに直接結合して、アレルゲンによる架橋形成を介したI型アレルギー反応を直接阻害する。また、本発明の抗IgE抗体のFabフラグメントの抗アレルギー作用は、強力かつ持続的である。さらに、Fabフラグメントであることから、分子量が小さく、副作用の危険性も少ない。従って、本発明の抗IgE抗体のFabフラグメントは、種々のI型アレルギー疾患治療薬として有用である。
【0031】
本発明のI型アレルギー疾患治療薬の対象となるI型アレルギー疾患としては、じんましん、食物アレルギー、花粉症、アレルギー性鼻炎、気管支喘息、アトピー性皮膚炎、アナフィラキシーショック等が挙げられる。
【0032】
本発明のI型アレルギー疾患治療薬の投与形態としては、点眼剤、注射剤、経口剤(錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤)、軟膏剤、クリーム剤等が挙げられる。このうち、注射剤が特に好ましい。これらの医薬組成物の形態とするには、薬学的に許容される担体とともに製剤化することができる。そのような担体としては、例えば、乳糖、ブドウ糖、D−マンニトール、澱粉、結晶セルロース、炭酸カルシウム、カオリン、デンプン、ゼラチン、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、エタノール、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム塩、ステアリン酸マグネシウム、タルク、アセチルセルロース、白糖、酸化チタン、安息香酸、パラオキシ安息香酸エステル、デヒドロ酢酸ナトリウム、アラビアゴム、トラガント、メチルセルロース、卵黄、界面活性剤、白糖、単シロップ、クエン酸、蒸留水、エタノール、グリセリン、プロピレングリコール、マクロゴール、リン酸−水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸ナトリウム、ブドウ糖、塩化ナトリウム、フェノール、チメロサール、パラオキシ安息香酸エステル、亜硫酸水素ナトリウム等があり、製剤の形に応じて、本発明化合物(1)と混合して使用される。
【0033】
さらに、本発明の医薬組成物中における本発明の有効成分の含有量は、製剤の形によって大きく変動し、特に限定されるものではないが、通常は、組成物全量に対して0.01〜20質量%、好ましくは0.1〜10質量%である。
【0034】
本発明のI型アレルギー疾患治療薬の投与量は、投与する患者の症状、年齢、投与方法によって異なるが、0.01〜100mg/kg/週〜3週であるのが好ましい。
【実施例】
【0035】
次に実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。
【0036】
実施例1(6HD5の製造)
SDラットに抗DNPIgE(B53:Balb/cマウス由来)をFCAとともに免疫した後、ハイブリドーマの手法によりRat抗mouseIgEのモノクローナル抗IgE抗体をクローニングにて作成したものが6HD5である(Materials and Methods;Int. Arch Allergy Immunol 85:47−54(1988))。
【0037】
実施例2(Fabフラグメントの製造)
ラットIgG抗マウスIgE抗体をパパイン処理して分子量約5万のFabフラグメントを作成した(marerials and Methods;Int.Arch Allergy Immunol 128:24−32(2002)。得られた抗IgE抗体のFabフラグメントをFab−6HD5と称する。
【0038】
実施例3(PCA反応)
Fab−6HD5のin vivo受身アナフィラキシー反応(PCA)を検討した。すなわち、雌性SDラットを使用した。各群2匹の剃毛した皮膚の数ヶ所に抗DNPIgE(SPE−7)又は抗TNPIgE(142a)を100ng/0.1mLを皮内投与した。24時間後に、Fab−6HD5、6HD5、Fab−HMK−12、HMK−12、ラットIgG及び抗κ抗体を同じ部位に注射した。第2回注射の2時間後に、0.5%エバンスブルー色素生理食塩液1mL、及びDNP−BSA又はTNP−BSA 1mg/mLを静脈内投与した。30分後に青色部の直径を測定した。
その結果、表1に示したとおり、Fab−6HD5は最も低濃度の1.25μg/mLの濃度でPCA反応を抑制し、他の抗体群6HD5は2.5μg/mL、Fab−HMK−12と、HMK−12は10μg/mLの濃度でPCA反応を抑制した。コントロールであるRat IgGはPCA反応を抑制しなかった。この結果により、分子量4万のFab−6HD5が2価の分子量18万の6HD5より抑制力が強いこと、他の抗IgE抗体であるHMK−12より抑制力が強いことが示された。このことは6HD5とHMK−12のIgE分子に対する結合部位が異なることが起因している可能性ある。
他の特異性を持つIgEでも同様のPCAの阻止が得られるかを目的として、allotype及び抗原特異性の異なるAnti−TNP IgE(100ng,141a)を用いた実験を行った。同様にFab−6HD5が強くPCA反応を抑制したが、陽性コントロールであるFab−anti−κとRat IgGはPCA反応を阻止しなかった。Fab−anti−κがPCA反応を阻止しない事実は、この抑制はlight chainが関与してないことを示している。
【0039】
【表1】
【0040】
実施例4(PCA反応に対するFab−6HD5の持続効果)
このFab−6HD5のPCA抑制効果がどのくらい持続するかをtime course studyで検討した。
Day 0にanti−DNP IgEを皮膚感作した後、Day 1 にFab−6HD5を濃度依存的にIgEを感作した部位に皮内投与する。同日の2時間後に抗原+エヴァンスブルーで惹起(challenge)した群(day 1 group:Day 1)とDay 10に惹起した群(day 10 group:Day 10)について検討した。
その結果、表2に示すように、Day 1群では、Fab−6HD5の0.63μg/mLの濃度でPCA反応を抑制し、Day 10群0.32μg/mLの濃度でPCA反応を抑制した。この結果はFab−6HD5が少なくとも10日間持続的に、PCA反応において、I型アレルギー反応の阻止を持続出来ることを示している。Day 10群の結果は、前もってFab−6HD5を投与しておくと、I型アレルギー反応を予防出来ることを示している。即ち、花粉症など既知のアレルゲンに暴露される前にFab−6HD5を投与しておくとアレルギー反応を回避出来るという予防治療が期待出来る。またDay 1群では抗体投与2時間後にPCA反応を抑制していることにより、急性のI型アレルギー疾患であるアナフィラキシーショックに対しても有効性が期待出来る。
【0041】
【表2】
【0042】
実施例5(β−ヘキソサミニダーゼ放出に対する作用)
Fab−6HD5によるRBL−2H3細胞からのβ−ヘキソサミニダーゼ放出の抑制をみた。
RBL−2H3細胞を1晩で培養した後IgE(SPE−7)濃度1μg/mL16時間培養し細胞に固着させる。その後、インヒビターとしてFab−6HD5を濃度依存性(0,1.25、2.5、5.0、10μg/mL)加え、抗原(DNP−BSA)添加後にβ−ヘキソサミニダーゼの放出の抑制を測定した。
図1に示すように、Fab−6HD5が濃度依存性にβ−ヘキソサミニダーゼの放出を抑制しているいることが示された。Baniyashらは種々のpepsin処理のFab’ fragment anti−IgEがIgEのRBL/2H3細胞上FcεR1の結合部位を認識している抗体であり、この抗体とIgE共存下で細胞からのセロトニン放出を抑制することを報告している(Eur.J.Immunol 1984 14:799−807)。しかし、RBL/2H3細胞にIgEを固着した後に、化学伝達物質の放出を抑制した報告は初めてであり、これはFab−6HD5がIgE−FcεR1の競合阻害でないことを示している。
【0043】
実施例6(フローサイトメトリー)
Fab−6HD5のIgEに対する結合部位を調べるために、フローサイトメトリーを用い次の実験を行った。
RBL/2H3をFITC−SPE−7(anti−DNP IgE:IgE.λ、κ)及びFITC−142a(anti−TNP IgE:IgE,κ)と種々の抗体群(anti−λ、anti−κ、Fab−6HD5、Fab−HMK−12、Rat IgG)+PE−rabbit IgG anti−rat IgG(二次抗体)との組み合わせにて2重染色を行い、RBL/2H3上のIgE分子に対して抗体群が結合の程度を共発現により観察した。
図2及び3に示すように、陽性コントロールであるSPE−7、λ細胞は84.67%陽性であったSPE−7、Fab−6HD5細胞は91.1%陽性であった。それに反して、SPE−7、Fab−HMK−12は64.7%であった。陰性コントロールであるSPE−7rat IgGは3.95%であった。また、142a(anti−TNP IgE(IgE,κ)を用いた実験においても同様の結果を得た。即ち、陽性コントロールである142a、κ陽性細胞は93.4%、142a+、Fab−6DH5+細胞は82.2%であったが、142a、Fab−HMK−12細胞は43.0%であった。陰性コントロールである142a+、Rat IgG+は0.64%であった。
またFITC−IgE(SPE−7,141a)と各種抗体群(anti−λ、anti−κ、Fab−6HD5,Fab−HMK−12,Rat IgG)をあらかじめ1時間incubationした後、RBL/2H3と培養してIgEと各種抗体との競合阻害をみた。As shown Fig 1bに示すように、陽性コントロールであるSPE−7+、λ+細胞は92.3%陽性であった(1)。SPE−7+、Fab−6HD5+細胞は90.2%陽性であった。それに反して、SPE−7+、Fab−HMK−12+は強力に阻害し4.05%であった。陰性コントロールであるSPE−7rat IgGは3.95%であった。
142a(anti−TNP IgEa(IgE,κ)を用いた実験においても同様の結果を得た。即ち、陽性コントロールである142a+、κ+陽性細胞は88.8%、142a+、Fab−6DH5+細胞は97.7%であったが、142a+、Fab−HMK−12+細胞は強く阻害し1.09%であった。陰性コントロールである142a+、Rat IgG+は0.58%であった。
上記の結果は、Fab−6HD5がマスト細胞上に固着しているIgEと結合していることを示し、一方、Fab−HMK−12はマスト細胞上のFcεR1とIgEの結合部位近傍を認識しているため図2ではIgE+、Fab−HMK−12+は64.7%、43.0%でdimに染色され、図3ではHMK−12がIgEのFcεRIへの結合を阻害するためにIgE+HMK−12+細胞が殆ど検出できないことが判明した。FITC−IgEのマスト細胞への結合がFab−HMK−12によって阻止され、HMK−12+IgE+細胞が検出されなかったと考えられる。
【0044】
実施例7(ウェスタンブロット)
Fab−6HD5のIgEにたいする結合部位をさらに詳細に検索するためにIgE産生ハイブリドーマをクローニングし、IgEのFc部分の断片IgE(CH1−4)を作製した。Fab−6HD5を用いて、ウェスタン・ブロットを行うと6HD5はCH1、CH3、CH4には反応せず、CH2とのみ強く反応した(図4及び図5)。この結果、Fab−6HD5はIgECε2に結合し、オマリズマブの認識部位であるIgEのFcεR1への結合部位(IgEε3)とは異なることが判明した。
【0045】
モノマーである分子量約5万の(Fab−6HD5)は、マスト細胞上のIgE(FcεRI−Bund IgE)のIgECε2に直接結合することにより、I型アレルギー反応をIn vivo、in vitroにも強く抑制することが判明した。今まで、抗IgE抗体のアレルギー抑制機序としてはすべてIgEとFcRIの結合阻害によるものである。
本発明のFab−6HD5は、全く新しい機序、即ちマスト細胞上のIgECε2に直接結合することににより強力にI型アレルギー反応を阻止する抗体である。
図1
図2
図3
図4
図5