【実施例】
【0035】
次に実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。
【0036】
実施例1(6HD5の製造)
SDラットに抗DNPIgE(B53:Balb/cマウス由来)をFCAとともに免疫した後、ハイブリドーマの手法によりRat抗mouseIgEのモノクローナル抗IgE抗体をクローニングにて作成したものが6HD5である(Materials and Methods;Int. Arch Allergy Immunol 85:47−54(1988))。
【0037】
実施例2(Fabフラグメントの製造)
ラットIgG抗マウスIgE抗体をパパイン処理して分子量約5万のFabフラグメントを作成した(marerials and Methods;Int.Arch Allergy Immunol 128:24−32(2002)。得られた抗IgE抗体のFabフラグメントをFab−6HD5と称する。
【0038】
実施例3(PCA反応)
Fab−6HD5のin vivo受身アナフィラキシー反応(PCA)を検討した。すなわち、雌性SDラットを使用した。各群2匹の剃毛した皮膚の数ヶ所に抗DNPIgE(SPE−7)又は抗TNPIgE(142a)を100ng/0.1mLを皮内投与した。24時間後に、Fab−6HD5、6HD5、Fab−HMK−12、HMK−12、ラットIgG及び抗κ抗体を同じ部位に注射した。第2回注射の2時間後に、0.5%エバンスブルー色素生理食塩液1mL、及びDNP−BSA又はTNP−BSA 1mg/mLを静脈内投与した。30分後に青色部の直径を測定した。
その結果、表1に示したとおり、Fab−6HD5は最も低濃度の1.25μg/mLの濃度でPCA反応を抑制し、他の抗体群6HD5は2.5μg/mL、Fab−HMK−12と、HMK−12は10μg/mLの濃度でPCA反応を抑制した。コントロールであるRat IgGはPCA反応を抑制しなかった。この結果により、分子量4万のFab−6HD5が2価の分子量18万の6HD5より抑制力が強いこと、他の抗IgE抗体であるHMK−12より抑制力が強いことが示された。このことは6HD5とHMK−12のIgE分子に対する結合部位が異なることが起因している可能性ある。
他の特異性を持つIgEでも同様のPCAの阻止が得られるかを目的として、allotype及び抗原特異性の異なるAnti−TNP IgE(100ng,141a)を用いた実験を行った。同様にFab−6HD5が強くPCA反応を抑制したが、陽性コントロールであるFab−anti−κとRat IgGはPCA反応を阻止しなかった。Fab−anti−κがPCA反応を阻止しない事実は、この抑制はlight chainが関与してないことを示している。
【0039】
【表1】
【0040】
実施例4(PCA反応に対するFab−6HD5の持続効果)
このFab−6HD5のPCA抑制効果がどのくらい持続するかをtime course studyで検討した。
Day 0にanti−DNP IgEを皮膚感作した後、Day 1 にFab−6HD5を濃度依存的にIgEを感作した部位に皮内投与する。同日の2時間後に抗原+エヴァンスブルーで惹起(challenge)した群(day 1 group:Day 1)とDay 10に惹起した群(day 10 group:Day 10)について検討した。
その結果、表2に示すように、Day 1群では、Fab−6HD5の0.63μg/mLの濃度でPCA反応を抑制し、Day 10群0.32μg/mLの濃度でPCA反応を抑制した。この結果はFab−6HD5が少なくとも10日間持続的に、PCA反応において、I型アレルギー反応の阻止を持続出来ることを示している。Day 10群の結果は、前もってFab−6HD5を投与しておくと、I型アレルギー反応を予防出来ることを示している。即ち、花粉症など既知のアレルゲンに暴露される前にFab−6HD5を投与しておくとアレルギー反応を回避出来るという予防治療が期待出来る。またDay 1群では抗体投与2時間後にPCA反応を抑制していることにより、急性のI型アレルギー疾患であるアナフィラキシーショックに対しても有効性が期待出来る。
【0041】
【表2】
【0042】
実施例5(β−ヘキソサミニダーゼ放出に対する作用)
Fab−6HD5によるRBL−2H3細胞からのβ−ヘキソサミニダーゼ放出の抑制をみた。
RBL−2H3細胞を1晩で培養した後IgE(SPE−7)濃度1μg/mL16時間培養し細胞に固着させる。その後、インヒビターとしてFab−6HD5を濃度依存性(0,1.25、2.5、5.0、10μg/mL)加え、抗原(DNP−BSA)添加後にβ−ヘキソサミニダーゼの放出の抑制を測定した。
図1に示すように、Fab−6HD5が濃度依存性にβ−ヘキソサミニダーゼの放出を抑制しているいることが示された。Baniyashらは種々のpepsin処理のFab’ fragment anti−IgEがIgEのRBL/2H3細胞上FcεR1の結合部位を認識している抗体であり、この抗体とIgE共存下で細胞からのセロトニン放出を抑制することを報告している(Eur.J.Immunol 1984 14:799−807)。しかし、RBL/2H3細胞にIgEを固着した後に、化学伝達物質の放出を抑制した報告は初めてであり、これはFab−6HD5がIgE−FcεR1の競合阻害でないことを示している。
【0043】
実施例6(フローサイトメトリー)
Fab−6HD5のIgEに対する結合部位を調べるために、フローサイトメトリーを用い次の実験を行った。
RBL/2H3をFITC−SPE−7(anti−DNP IgE
b:IgE.λ、κ)及びFITC−142a(anti−TNP IgE
a:IgE,κ)と種々の抗体群(anti−λ、anti−κ、Fab−6HD5、Fab−HMK−12、Rat IgG)+PE−rabbit IgG anti−rat IgG(二次抗体)との組み合わせにて2重染色を行い、RBL/2H3上のIgE分子に対して抗体群が結合の程度を共発現により観察した。
図2及び3に示すように、陽性コントロールであるSPE−7
+、λ
+細胞は84.67%陽性であったSPE−7
+、Fab−6HD5
+細胞は91.1%陽性であった。それに反して、SPE−7
+、Fab−HMK−12
+は64.7%であった。陰性コントロールであるSPE−7
+rat IgG
+は3.95%であった。また、142a(anti−TNP IgE
a(IgE,κ)を用いた実験においても同様の結果を得た。即ち、陽性コントロールである142a
+、κ
+陽性細胞は93.4%、142a+、Fab−6DH5+細胞は82.2%であったが、142a
+、Fab−HMK−12
+細胞は43.0%であった。陰性コントロールである142a+、Rat IgG+は0.64%であった。
またFITC−IgE(SPE−7,141a)と各種抗体群(anti−λ、anti−κ、Fab−6HD5,Fab−HMK−12,Rat IgG)をあらかじめ1時間incubationした後、RBL/2H3と培養してIgEと各種抗体との競合阻害をみた。As shown Fig 1bに示すように、陽性コントロールであるSPE−7+、λ+細胞は92.3%陽性であった(1)。SPE−7+、Fab−6HD5+細胞は90.2%陽性であった。それに反して、SPE−7+、Fab−HMK−12+は強力に阻害し4.05%であった。陰性コントロールであるSPE−7
+rat IgG
+は3.95%であった。
142a(anti−TNP IgEa(IgE,κ)を用いた実験においても同様の結果を得た。即ち、陽性コントロールである142a+、κ+陽性細胞は88.8%、142a+、Fab−6DH5+細胞は97.7%であったが、142a+、Fab−HMK−12+細胞は強く阻害し1.09%であった。陰性コントロールである142a+、Rat IgG+は0.58%であった。
上記の結果は、Fab−6HD5がマスト細胞上に固着しているIgEと結合していることを示し、一方、Fab−HMK−12はマスト細胞上のFcεR1とIgEの結合部位近傍を認識しているため
図2ではIgE+、Fab−HMK−12+は64.7%、43.0%でdimに染色され、
図3ではHMK−12がIgEのFcεRIへの結合を阻害するためにIgE+HMK−12+細胞が殆ど検出できないことが判明した。FITC−IgEのマスト細胞への結合がFab−HMK−12によって阻止され、HMK−12+IgE+細胞が検出されなかったと考えられる。
【0044】
実施例7(ウェスタンブロット)
Fab−6HD5のIgEにたいする結合部位をさらに詳細に検索するためにIgE産生ハイブリドーマをクローニングし、IgEのFc部分の断片IgE(CH1−4)を作製した。Fab−6HD5を用いて、ウェスタン・ブロットを行うと6HD5はCH1、CH3、CH4には反応せず、CH2とのみ強く反応した(
図4及び
図5)。この結果、Fab−6HD5はIgECε2に結合し、オマリズマブの認識部位であるIgEのFcεR1への結合部位(IgEε3)とは異なることが判明した。
【0045】
モノマーである分子量約5万の(Fab−6HD5)は、マスト細胞上のIgE(FcεRI−Bund IgE)のIgECε2に直接結合することにより、I型アレルギー反応をIn vivo、in vitroにも強く抑制することが判明した。今まで、抗IgE抗体のアレルギー抑制機序としてはすべてIgEとFcRIの結合阻害によるものである。
本発明のFab−6HD5は、全く新しい機序、即ちマスト細胞上のIgECε2に直接結合することににより強力にI型アレルギー反応を阻止する抗体である。