(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記空隙のX方向長さ(LX1)は、前記雄型係合部のX方向長さ(LX2)の35%以上70%未満になっており、前記空隙のY方向長さ(LY1)は、前記雄型係合部のY方向長さ(LY2)の35%以上70%未満になっており、前記空隙のZ方向長さ(LZ1)は、前記雄型係合部のZ方向長さ(LZ2)の30%以上50%未満になっている、請求項1に記載されたスライドドアストッパ。
前記雄型係合部および前記雌型係合部の合成樹脂は、ナイロン、ポリアセタール、およびポリエーテルイミドからなる群から選択された1種以上からなる、請求項1または請求項2に記載されたスライドドアストッパ。
前記雄型係合部および前記雌型係合部の合成樹脂が、黒鉛、二硫化モリブデン、二硫化タングステン、窒化硼素、およびポリテトラフルオロエチレンからなる群から選択された1種以上の固体潤滑剤をさらに含む、請求項1から3までのいずれか一項に記載のスライドドアストッパ。
【背景技術】
【0002】
従来、ミニバンやワンボックスカーの後部ドアを中心に、多くの車種でスライドドアが採用されている。スライドドアは、通常のドアに比べ大きく開き、さらに、ボディに平行に開くため、ドアを開けてもスペースをとらないという利点を備えている。
【0003】
特許文献1に開示されているように、スライドドアには、車両走行中の車両内外方向へのスライドドアの振れを防止するために、ドア閉鎖端にダウンストッパが設けられている。ダウンストッパによりスライドドアの内外方向への移動が規制されて振れ止めがなされる。
【0004】
しかし、スライドドアは、全閉状態の車両走行時の加減速による振動等により、振れてしまうことがあり、このようなスライドドアの振れを規制する目的で、スライドドアストッパが設けられている。このスライドドアストッパは、雄部材と雌部材からなる。雄部材が、車両のボディまたはスライドドアのうちのいずれか一方に取り付けられ、雌部材が、車両のボディまたはスライドドアうちのもう一方に取り付けられる。雄部材は、金属台座にインサート成形された合成樹脂の突起部を有し、雌部材は、金属台座にインサート成形された合成樹脂の開口部(雄部材の突起部が挿入される空間)を有している。
【0005】
スライドドア全閉時は、雄部材の合成樹脂突起部が、雌部材の合成樹脂開口部に挿入されることによって、車両に対するスライドドアの振れを規制し、スライドドアを位置決めする機能を有するが、ドア開閉時の雄部材の雌部材への挿入をスムーズなものとするため、雄部材が雌部材に挿入された際に両者の間に隙間が形成されるようになっている。この隙間により、車両走行時の加減速や振動からスライドドアが振れる際に、雄部材の合成樹脂突起部の側面と、雌部材の合成樹脂開口部の側面とが接触して負荷が加わることにより摩耗が発生し、両者の間の隙間が増加し、結果として、スライドドアストッパの雄部材の合成樹脂突起部にワレが発生するという損傷の問題があった。
【0006】
加えて、スライドドアの開閉によって、また、開閉時の力加減によって、雄部材の合成樹脂突起部の側面と雌部材の合成樹脂開口部の側面との間で局部的な強いアタリが発生することで、雄部材の合成樹脂突起部の側面と、雌部材の合成樹脂開口部の側面の摩耗が促進され、雄部材と雌部材との間の隙間がさらに増加し、スライドドアストッパの雄部材の合成樹脂突起部にワレがさらに発生しやすくなる損傷の問題があった。
【0007】
そこで、特許文献1は、雌部材の開口部をゴム弾性体で形成することによって、全閉時のスライドドアの振れを防止する効果を得たが、ゴム弾性体で成形されているため、スライドドア開閉時の摺動による摩擦力が高くなるので耐摩耗性に対して問題があるために、スライドドアストッパの雄部材の合成樹脂突起部にワレがさらに発生しやすくなる損傷の問題があった。
【0008】
特許文献2は、雌部材の合成樹脂開口部の側面に複数の凹溝(リブ)を形成して、スライドドア開閉時の雄部材の突起部と雌部材の開口部との間の局部的な強いアタリの箇所の摩擦抵抗を低減させ、摩耗対策としたが、ドア開閉時にリブが局部的に接触することで応力集中が生じやすくなり、耐摩耗性が低下する問題があるために、スライドドアストッパの雄部材の合成樹脂突起部にワレがさらに発生しやすくなる損傷の問題があった。
【0009】
特許文献3は、雄部材の係止突部と雌部材の係止筒部が硬質樹脂で作製され、雄部材の係止突部と雌部材の係止筒部の少なくとも一方が、筒状支持部材に内挿されており、かつ、筒状支持部材に対して弾性体で弾性連結されている。スライドドアが振れる際には、弾性体が変形することで接触部での負荷を緩和することができる。ドア開閉時の摺動に関しても、係止突部と係止筒部の当接部が硬質樹脂のため、当接部の強度面においても有効な構成となる。しかし、雌部材の例で言えば、硬質樹脂製の係止筒部と金属製の筒状支持部材とを弾性体で弾性連結した構成であり、各材料の接合境界部の弾性率が異なるため、それらの接合境界部においてせん断が起こりやすくなり、結果として、接合境界部の耐久性に問題があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
そこで、本発明は、車両のスライドドアの開閉時において、スライドドアストッパの雄部材と雌部材が接触する際に、雄部材の側面に局所的な負荷が加わる場合でも、雄部材の合成樹脂突起部にワレの損傷が起き難い、スライドドアストッパを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため、本発明は、雄部材と雌部材からなるスライドドアストッパであって、
前記雄部材が、車両のボディまたはスライドドアのうちのいずれか一方に取り付けられ、前記雌部材が、前記車両の前記ボディまたは前記スライドドアうちのもう一方に取り付けられるようになっており、
前記雄部材は、雄部材用金属台座にインサート成形された合成樹脂製の突起部の形態の雄型係合部を含み、
前記雌部材は、雌部材用金属台座にインサート成形された合成樹脂製の雌型係合部を含み、
前記雌型係合部は、前記雄型係合部を受け入れるための係合開口部を有しており、
前記雄型係合部は、その表面には開口しない空隙を内部に有しており、前記空隙は、雄型係合部中央点を含む位置に存在しており、
前記雄型係合部が前記雄部材用金属台座から突出する方向をZ方向としたときに、前記雄型係合部の中の前記雄部材用金属台座の最もZ方向遠位側の遠位端部と前記雄型係合部の先端部との間のZ方向中央点を通り、前記Z方向に対して垂直方向のZ方向中央断面内に、前記雄型係合部中央点は位置しており、
前記Z方向中央点断面において、前記雄型係合部の断面形状の長さが最小となる方向をY方向とし、前記Y方向と直交する方向をX方向としたときに、前記雄型係合部中央点は、前記雄型係合部の断面形状の長さのX方向中央かつY方向中央の点に位置しており、
前記Z方向中央点断面において、前記空隙のX方向長さ(LX1)は、前記雄型係合部のX方向長さ(LX2)の20%以上70%未満になっており、前記空隙のY方向長さ(LY1)は、前記雄型係合部のY方向長さ(LY2)の20%以上70%未満になっており、
前記空隙のZ方向長さ(LZ1)は、前記雄部材用金属台座の前記遠位端部と前記雄型係合部の前記先端部との間の前記雄型係合部のZ方向長さ(LZ2)の15%以上50%未満になっている。
【0013】
本発明のスライドドアストッパでは、車両のスライドドアの全閉時の振動、および開閉時の局部的な強いアタリによる衝撃により負荷が加わる状況において、雄部材の合成樹脂の雄型係合部に存在する空隙によって、以下の理由によりワレの損傷の進行が防がれる。
【0014】
雄部材と雌部材が接触して負荷が加わると、雄型係合部に存在する空隙が弾性変形する。そのため、本発明のスライドドアストッパでは、車両のスライドドアの全閉時および開閉時の振動および衝撃による負荷が加わる場合に、雄型係合部に存在する空隙が弾性変形を起こすことにより、スライドドアストッパに加わる振動および衝撃による負荷が緩和される。つまり、雄部材の内部の空隙が弾性変形することで、雄部材と雌部材の接触部での合成樹脂の弾性変形量が少なくなり、ワレの発生が抑制される。
【0015】
雄型係合部に空隙を有していない従来のスライドドアストッパでは、雄部材と雌部材が接触して負荷が加わると、雄部材の合成樹脂突起部のワレの損傷が発生しやすくなる。
【0016】
本発明の一具体例によれば、前記空隙のX方向長さ(LX1)は、前記雄型係合部のX方向長さ(LX2)の35%以上70%未満になっており、前記空隙のY方向長さ(LY1)は、前記雄型係合部のY方向長さ(LY2)の35%以上70%未満になっており、前記空隙のZ方向長さ(LZ1)は、前記雄型係合部のZ方向長さ(LZ2)の30%以上50%未満になっていることが、さらに好ましい。空隙の体積の下限値の増加により、上記の空隙の作用効果がさらに高まるからである。
【0017】
本発明の一具体例によれば、前記雄型係合部および前記雌型係合部の合成樹脂は、ナイロン、ポリアセタール、およびポリエーテルイミドからなる群から選択された1種以上からなることが好ましい。
【0018】
本発明の一具体例によれば、前記雄型係合部および前記雌型係合部の合成樹脂が、黒鉛、二硫化モリブデン、二硫化タングステン、窒化硼素、およびポリテトラフルオロエチレンからなる群から選択された1種以上の固体潤滑剤をさらに含むことが好ましい。
【0019】
本発明の一具体例によれば、前記雄型係合部および前記雌型係合部の合成樹脂が、CaF
2、CaCo
3、タルク、マイカ、ムライト、酸化鉄、リン酸カルシウム、チタン酸カリウム、およびMo
2C(モリブデンカーバイト)からなる群から選択された1種以上の充填材を1〜10体積%でさらに含むことが好ましい。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1は、スライドドア12がボディ11に対して開閉移動する自動車10を模式的に示す概略側面図である。このスライドドア12は、自動車10の外枠を形成するボディ11に対して、案内レール13に沿ってスライド可能に設置されている。このスライドドア12は、後方(B方向)にスライドさせると自動車10の乗降口が開いた状態となり、前方(F方向)にスライドさせると自動車10の乗降口が閉じた状態となる。
【0022】
図1では、スライドドア12が、全閉状態で示されている。例えば、
図1に示す位置に、スライドドアストッパ14が設けられており、スライドドア12が全閉状態のときに、スライドドア12のボディ11に対する振れを規制するようになっている。
【0023】
スライドドアストッパ14は、雄部材20と雌部材30からなる。雄部材20が、車両のボディ11またはスライドドア12のうちのいずれか一方に取り付けられ、雌部材30が、車両のボディ11またはスライドドア12うちのもう一方に取り付けられるようになっている。
【0024】
図2は、雄部材20を示す上面図である。
図3は、
図2のA−A断面を示している。
図4は、
図2のB−B断面を示している。
図5は、雌部材30を示す斜視図である。
図6は、
図5のC−C断面を示している。
図7および
図8は、雄部材20と雌部材30とが嵌合した状態を示す断面図である。
【0025】
図2〜
図4を参照すれば、雄部材20は、雄部材用金属台座21にインサート成形された合成樹脂製の雄型係合部22を含む。雄型係合部22は、雄部材用金属台座21から突出する突起部を形成している。雄部材用金属台座21には、接合孔23が設けられており、雄部材用金属台座21が、接合孔23を通して、ねじ等の締結部材によって、車両のボディ11またはスライドドア12に固定されるようになっている。
【0026】
図5および
図6を参照すれば、雌部材30は、雌部材用金属台座31にインサート成形された合成樹脂製の雌型係合部32を含む。雌型係合部32は、雌部材用金属台座31から突出する形状となっている。雌型係合部32は、雄型係合部22を受け入れるための係合開口部33を有しており、係合開口部33の周囲には、周縁部34が形成されている。雌部材用金属台座31には、接合孔35が設けられており、雌部材用金属台座31は、接合孔35を通して、ねじ等の締結部材によって、車両のボディ11またはスライドドア12に固定されるようになっている。
【0027】
雌部材30の係合開口部33は、深さ方向に次第に断面積が減少するように、テーパーを付してもよい。この構成により、スライドドア12とボディ11との間の組み付け性が変動し、雌部材30の係合開口部33と雄型係合部22との位置関係がずれたとしても、スムーズな挿入が可能となる。また、係合開口部33の内面にリブがあっても良い。また、係合開口部33の形状に対応するように、雄型係合部22は、雄型係合部先端に向かう方向に次第に断面積が減少するように、テーパーを付してもよい。また、嵌合するときの抵抗を減らすために、雄型係合部側面にエア抜き溝を設けてもよい。また、打音防止のために、雄部材用金属台座21の上に緩衝材を設けてもよい。また、雄型係合部の先端の頂面と側面との間の角部に湾曲形状を付してもよい。
【0028】
図7および
図8に本発明によるスライドドアストッパの断面を概略的に示す。スライドドアの全閉時には、雄部材20と雌部材30が嵌合された状態となる。
【0029】
図9は、開閉試験における、雄型係合部の側面と雌部材の係合開口部の内側面38との間で局所的な強い負荷が加わる直前の状態を示している。雄型係合部の局所アタリ部も示している。
【0030】
図10は、
図3に相当する雄部材20の断面と、D−D断面とを示している。雄型係合部は、その表面には開口しない空隙24を内部に有している。空隙24は、雄型係合部中央点25を含む位置に存在している。雄型係合部が雄部材用金属台座から突出する方向をZ方向としたときに、雄型係合部の中の雄部材用金属台座の最もZ方向遠位側の遠位端部26と雄型係合部の先端部27との間のZ方向中央点を通り、Z方向に対して垂直方向のZ方向中央断面D−D内に、雄型係合部中央点は位置している。また、Z方向中央点断面において、雄型係合部の断面形状の長さが最小となる方向をY方向とし、Y方向と直交する方向をX方向としたときに、雄型係合部中央点は、雄型係合部の断面形状の長さのX方向中央かつY方向中央の点に位置している。
【0031】
Z方向中央点断面D−Dにおいて、空隙のX方向長さLX1は、雄型係合部のX方向長さLX2の20%以上70%未満になっており、空隙のY方向長さLY1は、雄型係合部のY方向長さLY2の20%以上70%未満になっている。また、空隙のZ方向長さLZ1は、雄部材用金属台座の遠位端部と雄型係合部の先端部との間の雄型係合部のZ方向長さLZ2の15%以上50%未満になっている。
【0032】
雄部材20の雄型係合部22の寸法の一例としては、Z方向中央点断面D−Dにおいて、雄型係合部22のX方向長さLX2が15〜25mmであり、Y方向長さLY2が5〜15mmであり、Z方向長さLZ2が15〜20mmである。また、雌部材30の係合開口部33は、前記雄部材20の雄型係合部22に対応する寸法を有する。ただし、本発明のスライドドアストッパ14は、これらの寸法に限定されない。
【0033】
このように、雄型係合部の中に空隙を有することにより、雄部材と雌部材が接触して負荷が加わると、雄型係合部内の空隙が弾性変形する。そのため、本発明のスライドドアストッパでは、車両のスライドドアの全閉時および開閉時の振動および衝撃によって負荷が加わる場合に、雄型係合部に存在する空隙が弾性変形を起こすことにより、スライドドアストッパに加わる振動および衝撃による負荷が緩和される。
【0034】
なお、空隙のX方向長さLX1が雄型係合部のX方向長さLX2の20%未満であったり、または、空隙のY方向長さLY1が雄型係合部のY方向長さLY2の20%未満であったり、または、空隙のZ方向長さLZ1が雄型係合部のZ方向長さLZ2の15%未満であると、負荷が加わった場合に弾性変形が不十分となり、ワレが発生しやすくなる場合がある。
【0035】
また、空隙のX方向長さLX1が雄型係合部のX方向長さLX2の70%以上であったり、または、空隙のY方向長さLY1が雄型係合部のY方向長さLY2の70%以上であったり、または、空隙のZ方向長さLZ1が雄型係合部のZ方向長さLZ2の50%以上であると、雄型係合部の強度が低くなる虞がある。
【0036】
以上の機構により、本発明のスライドドアストッパは、車両のスライドドアの全閉時および開閉時の振動および衝撃による負荷が加わっても、スライドドアストッパの雄部材と雌部材の摩耗の進行が防がれ、両者の間の隙間の増加が防がれる。
【0037】
本発明では、前記空隙のX方向長さLX1は、前記雄型係合部のX方向長さLX2の35%以上70%未満になっており、前記空隙のY方向長さLY1は、前記雄型係合部のY方向長さLY2の35%以上70%未満になっており、前記空隙のZ方向長さLZ1は、前記雄型係合部のZ方向長さLZ2の30%以上50%未満になっていることがさらに好ましい。空隙の体積の下限値の増加により、上記の空隙の作用効果がさらに高まるからである。
【0038】
雄型係合部22および雌型係合部32の合成樹脂は、ナイロン、ポリアセタール、およびポリエーテルイミドからなる群から選択された1種以上からなることが好ましい。
【0039】
雄型および雌型係合部の合成樹脂が、黒鉛、二硫化モリブデン、二硫化タングステン、窒化硼素、およびポリテトラフルオロエチレンからなる群から選択された1種以上の固体潤滑剤をさらに含んでもよい。この固体潤滑剤を含有することにより、両者の摺動特性が高まり、接触した際の負荷を軽減する事ができる。固体潤滑剤の含有量は、10体積%とすることが好ましい。
【0040】
また、雄型係合部および雌型係合部の合成樹脂は、CaF
2、CaCo
3、タルク、マイカ、ムライト、酸化鉄、リン酸カルシウム、チタン酸カリウムおよびMo
2C(モリブデンカーバイト)からなる群から選択された1種以上の充填材を1〜10体積%でさらに含んでもよい。この充填材を含有することにより、両者の耐摩耗性を高めることができる。
【0041】
本発明で使用する金属台座の材料は、例えば、Fe合金、Al合金、Cu合金等を用いることができるが、それらに限定されない。
【0042】
以上の本発明の構成とは異なり、従来のスライドドアストッパは、雄型係合部に空隙を有していないために、車両のスライドドアの全閉時および開閉時の振動および衝撃による負荷が、雄部材と雌部材の接触時に直接加わりやすく、ワレが発生して損傷しやすくなる。
また、雌部材の雌型係合部に空隙を有する場合、車両のスライドドアの全閉時および開閉時の振動および衝撃による、特に強いアタリの負荷が加わった場合、雌部材の強度が不足して(特に、周縁部34において)ワレが発生して損傷しやすくなる。
【0043】
上記に説明したスライドドアストッパについて、製造工程に沿って以下に詳細に説明する。
(1)予め、所定形状に加工した金属台座を準備する。金属台座は、Fe合金、Al合金、Cu合金等を用いることができるが、それらに限定されない。
【0044】
(2)合成樹脂原材料の準備
合成樹脂の原材料としては、ナイロン、ポリアセタール、ポリエーテルイミドのうちから選ばれる1種以上からなるものを用いることができる。
【0045】
(3)雄部材の雄型係合部および雌部材の雌型係合部の製造
雄型および雌型係合部の合成樹脂の製造は、上記原材料等から、射出成形機を用いて、「型締め」、「射出」、「冷却」の工程を経て製造する。
【0046】
「型締め」
シリンダーのホッパーから合成樹脂粒、およびその他の任意材料(固体潤滑剤、充填材等)の原材料を投入し、シリンダー内を180℃から270℃の温度で加熱しながら、シリンダー内でスクリューが回転して、これらの合成樹脂等の材料を溶融混練する。この際、シリンダー内のスクリュー内部に所定量(製品に必要な量)の樹脂が溜められる。
【0047】
「供給(射出および保圧)」
シリンダー内のスクリューから押し出された一定量の合成樹脂を、予めセットした雄部材用金属台座から突出する突起部、および雌部材用金属台座から突出する係合開口部を覆うように金型に供給(射出)する。この際、雄型係合部においては、100〜120MPaの射出圧力で供給(射出)を行い、金型に所定量の樹脂を充填した後は、110〜140MPaと供給(射出)圧力より高めの保圧制御を行い、保圧時間は3〜5秒と短く設定する。また、雌型係合部においては、100〜120MPaの射出圧力で供給(射出)を行い、金型に所定量の樹脂を充填した後は、70〜100MPaと、供給(射出)圧力より低めの保圧制御を行い、保圧時間は15〜20秒に設定する。なお、溶融樹脂はスプルー、ランナー、ゲートを経て金型に供給されるが、ゲートの方式はフィルムゲート、3点ゲート等、特に限定されない。
【0048】
「冷却」
金型温度は、シリンダー内の温度よりも約150℃〜230℃低く(35℃〜40℃)設定し、雌型係合部における冷却時間は15〜20秒と設定し、雄型係合部における冷却時間は3〜5秒と短く設定し、冷却を行う。金型の金型壁内部には、合成樹脂の冷却のために冷却流体通路が形成されている。スクリューから金型に供給(射出)された溶融状態の合成樹脂は、冷却により、次第に粘度が高くなって固化が始まり、金属台座が覆われた形状で、雄部材および雌部材が取り出される。
【0049】
(4)組み付け構造
合成樹脂を被覆した雄部材および雌部材を、各金属台座に設けられた接合孔に、ねじ等の締結部材を通して、車両のボディまたはスライドドアに固定して組み付ける。
【0050】
(5)組織制御
(空隙の制御)
次に、雄型係合部の合成樹脂の空隙の制御方法について説明する。空隙の制御は、上記のスライドドアストッパの雄型係合部の製造工程において、供給(射出)後の保圧の圧力を従来より高くし、かつ保圧および冷却時間を従来より短くすることにより行う。具体的には、保圧圧力は、供給(射出)圧力よりも約10MPa〜20MPa高く(110MPa〜140MPa)設定し、かつ保圧時間および冷却時間を3秒〜5秒と短く設定する。これに対して、従来の保圧の圧力は、(雌型係合部と同様に)供給(射出)圧力よりも約20MPa〜30MPa低く(70MPa〜100MPa)し、かつ従来の保圧および冷却時間を15〜20秒と設定していた。
【0051】
金型へ溶融樹脂が供給されると、保圧により樹脂が金型にさらに押し込まれた後、冷却により固化が開始するが、従来の保圧圧力に対して、本発明では保圧圧力が高いために、金型内の樹脂量が多く、より供給金型の壁面に合成樹脂が接触しやすい。また、保圧時間および冷却時間が従来の設定時間に対して、本発明では短いために、供給金型の壁面に接触する雄型係合部の表面付近の合成樹脂は、温度が高い状態から急冷が行われて急速に固化し始める。他方、中央部の合成樹脂は、表面付近に対して徐冷となり、ゆっくりと固化するが、先に固化し始めた表面付近の合成樹脂に引っ張られて内部の樹脂が収縮しながら固化されるために、雄型係合部の中央付近に空隙が形成されることとなる。(従来の製造方法よりも、本発明の製造方法は樹脂量が多く緻密なために、空隙が、本明細書で規定された適度なサイズとなる。)
【0052】
従来技術では、保圧圧力は、供給(射出)圧力よりも約20MPa〜30MPa低く(70MPa〜100MPa)設定するために、本発明に対して金型壁面に接触する樹脂量が少なく、かつ保圧および冷却時間を15〜20秒と長く設定するために、表面付近と中央部の冷却速度の差が小さいために空隙は形成されない。
【0053】
(6)空隙の測定方法
雄型係合部の空隙は、スライドドアストッパの雄部材の断面(
図10参照)を光学顕微鏡用いて倍率2.5倍で撮影して行う。具体的には、得られた撮影画像から一般的な画像解析手法(例えば、解析ソフト:Image−Pro Plus(Version4.5):(株)プラネトロン製)を用いて、空隙のX方向長さLX1、Y方向長さLY1、およびZ方向長さLZ1を求める。また前記と同様の手法によって、雄型係合部のX方向長さLX2、Y方向長さLY2、およびZ方向長さLZ2を求めたあと、雄型係合部のX方向長さLX2に対する雄型係合部のX方向長さLX2の比率割合、雄型係合部のY方向長さLY2に対する雄型係合部のY方向長さLY2の比率割合、および、雄型係合部のZ方向長さLZ2に対する雄型係合部のZ方向長さLZ2の比率割合を算出した。異なる断面での測定を行うために、雄部材を複数個作製し、所望の断面で切断した。
【実施例】
【0054】
実施例1〜10および比較例11〜13の雄型係合部の原材料である合成樹脂(POMポリアセタール、PA11ナイロン11、PEIポリエーテルイミド)粒子は、平均粒径が10μmであるものを用いた。実施例7〜9の原材料として用いた繊維状粒子(ガラス繊維)は粒子の平均粒径が、原材料である合成樹脂の平均粒径に対して80%のものを用い、実施例8および9の原材料として用いた固体潤滑剤(Gr)の粒子は、粒子の平均粒径が合成樹脂の平均粒子に対して25%のものを用いた。また実施例9の原材料として用いた充填材(CaF
2)の粒子は、粒子の平均粒子が合成樹脂粒子の平均粒径に対して25%のものを用いた。また、各実施例および比較例について、開閉試験用および空隙測定用として、複数個の検体を用意した。
【0055】
上記の原材料を表1に示す組成比率で秤量し、この組成物を予めペレット化した。このペレットをホッパーに投入し、順に型締め、射出、冷却工程を通して、雄部材用金属台座に合成樹脂製の雄型係合部をインサート成形して、雄部材を作製した。なお、実施例1、4、および7〜10では、射出圧力を120MPa、保圧を140MPaで5秒、金型温度40℃で冷却時間を3秒とした。実施例2および5では、射出圧力を110MPa、保圧を130MPaで3秒、金型温度35℃で冷却時間を5秒とした。実施例3および6では、射出圧力を100MPa、保圧を140MPaで5秒、金型温度40℃で冷却時間を5秒とした。比較例11では、射出圧力を120MPa、保圧を80MPaで15秒、金型温度40℃で冷却時間を20秒とした。比較例12では、射出圧力を120MPa、保圧を130MPaで3秒、金型温度40℃で冷却時間を20秒とした。比較例13では、射出圧力を120MPa、保圧を160MPaで5秒、金型温度35℃で冷却時間を3秒とした。
【0056】
また、実施例1〜10および比較例11〜13の雌型係合部の原材料である合成樹脂(POMポリアセタール)粒子は、平均粒径が10μmであるものを用いて、射出圧力を120MPa、保圧を80MPaで15秒、金型温度40℃で冷却時間を20秒にて、従来の方法で雌部材を作製した。なお、上記方法で作製した雌部材の雌型係合部には空隙は確認されなかった。
【0057】
【表1】
【0058】
作製した実施例および比較例のスライドドアストッパの雄部材を、上記に説明した測定方法により空隙の有無を確認し、その結果を表1の「空隙の有無」欄に示し、また空隙が有る場合の空隙の長さの比率を算出し、その結果を表1の「空隙の各長さ比率」欄に示した。
【0059】
なお、作製した雄部材の雄型係合部のX方向長さは20mmであり、Y方向長さは10mmであり、Z方向長さは10mmであった。また、雌部材の雌型係合部の開口部は前記雄部材の雄型係合部を受け入れ得る長さ(X方向28mm×Y方向12mm×Z方向15mm)であった。
【0060】
さらに、各実施例および各比較例のスライドドアストッパの雄部材と雌部材を用いて、表2に示す条件で(局所負荷が加わるように雌部材を10℃傾斜させる)開閉試験(
図9参照)を行った。表1の「ワレの発生有無」欄に、雄部材の雄型係合部側面を拡大鏡で観察して、雄部材の側面にワレが確認された場合には「有」、確認されなかった場合は「無」と示した。
【0061】
【表2】
【0062】
表1に示す結果から分かるとおり、実施例1〜10は、比較例11〜13に対して、開閉試験後の雄部材の雄型係合部側面にワレは見られなかった。さらに、実施例4〜9は、雄係合部に存在する空隙のX方向長さLX1が、雄型係合部のX方向長さLX2の20%以上70%未満であり、かつZ方向長さLZ1が、雄型係合部のZ方向長さLZ2の15%以上50%未満であり、かつY方向長さLY1が、雄型係合部のY方向長さLY2の35%以上70%未満であるために、ワレが全く見られなかった。この理由は、上記で説明したように、負荷が加わる場合、雄型係合部に存在する空隙が弾性変形することで、雄部材と雌部材の接触部での負荷が緩和されるからである。
【0063】
これに対し、比較例11は、従来の設定条件にて製造したために、雄部材の雄型係合部に空隙が確認されなかった。そのため、開閉時の負荷によりワレが発生しやすくなったと考えられる。
【0064】
比較例12は、保圧を射出圧力より高めに設定したが、冷却時間を40秒と設定したことで徐冷となり、空隙のサイズが本発明に満たないためにワレが発生したと考えられる。
【0065】
比較例13は、保圧が高すぎた為に、金型内の樹脂が過充填となり、かつ冷却時間が3秒と設定したことで急冷となり、空隙のサイズが本発明よりも大きくなったために係合部の強度が低下したことにより、ワレが発生しやすくなったと考えられる。