【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成30年1月16日、ウェブサイト www.penta−ocean.co.jp/news/2018/180116.htmlにおける公表 、平成30年1月16日、五洋建設株式会社での記者会見における公表
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】一実施形態に係る方法が備える工程の流れを示した図。
【
図2】一実施形態に係る方法において作成される桟橋のモデルのイメージを示した図。
【
図3】一実施形態に係る方法において用いられる判定基準を例示した図。
【
図4】一実施形態に係る方法において用いられる各梁の劣化度を例示した図。
【
図5】一実施形態に係る方法において用いられる梁の劣化度に応じた荷重と変位の関係を例示したグラフ。
【
図6】一実施形態に係る方法において算出される桟橋の上部工の残存耐力を示す画像。
【
図7】一変形例に係る方法が備える工程の流れを示した図。
【0016】
[実施形態]
以下に、一実施形態に係る桟橋の残存耐力算出方法(以下、「方法A」という)を説明する。方法Aは、桟橋が地震や船舶の接岸等に伴い所定の外力(一時的に加えられる荷重)を受けた後に、桟橋の上部工のいずれの領域がどの程度の残存耐力を有しているかを算出する方法である。方法Aは、例えばオペレータにより入力されたデータを用いたコンピュータによる演算により実行される。
【0017】
図1は方法Aが備える工程の流れを示した図である。まず、オペレータは対象の桟橋(以下、「桟橋P」という)の設計図等を参照し、既知の構造解析ソフトを実行するコンピュータにデータを入力して、桟橋Pを仮想的に表すモデル(以下、「モデルM」という)を作成する(ステップS101)。
【0018】
方法Aにおいて利用可能な既知の構造解析ソフトとしては、例えば「Engineer's Studio」(株式会社フォーラムエイト)があるが、これに限られない。
図2は、ステップS101において作成されるモデルMのイメージを示した図である。モデルMは、桟橋Pを構成する複数の部材の各々の形状、位置、連結関係、強度等を示すデータの集まりである。
【0019】
また、オペレータは桟橋P(実物)の上部工を構成する複数の梁の各々の劣化度を所定の判定基準に従い外観に基づき判定した結果を示す劣化度データを取得する(ステップS201)。以下、ステップS201において取得される劣化度データが示す劣化度の判定が行われた時点を時点t1とする。
【0020】
図3は、ステップS201において取得される劣化度データが示す劣化度の判定に用いられる判定基準(以下、「判定基準C」という)を例示した図である。判定基準Cは劣化度a〜劣化度d(劣化度aが最も劣化の程度が高く、劣化度dが最も劣化の程度が低い)の各々に応じた判定基準で構成される。
【0021】
図4は、ステップS201において取得された各梁の劣化度を例示した図である。
【0022】
また、オペレータは桟橋Pの上部工を構成する梁の劣化度に応じた荷重と変位の関係を示す関係データを準備する(ステップS202)。
【0023】
図5は、ステップS202において準備される関係データが表す荷重と変位の関係を例示したグラフである。
図5(a)は劣化度aに応じた荷重と変位の関係を、
図5(b)は劣化度bに応じた荷重と変位の関係を、
図5(c)は劣化度cに応じた荷重と変位の関係を、
図5(d)は劣化度dに応じた荷重と変位の関係を、各々示している。
【0024】
各劣化度に応じた荷重と変位の関係は、
図5のグラフにおいて実線で示される弾性範囲と、破線で示される塑性範囲に区分される。弾性範囲と塑性範囲の境界点は降伏点と呼ばれる。
【0025】
弾性範囲では、荷重を受けて梁に生じた変位は、荷重の解放に伴い解消する。すなわち、弾性範囲内の外力を受けた場合、梁は変形した後、元の形状に戻る。この場合、梁は外力を受けた後も外力を受ける前の耐力を維持する。一方、塑性範囲では、外力を受けて梁に生じた変位は、その後も残る。すなわち、弾性範囲外の荷重を一時的に受けた場合、梁は変形した後、元の形状に戻らず、荷重を受けた後の耐力は荷重を受ける前の耐力より低い値となる。
【0026】
図5に示すように、梁の劣化度が高い程、降伏点が下がる。すなわち、梁の劣化度が高い程、弱い荷重を受けただけで弾性範囲を超えてしまい、荷重から解放された後の耐力(残存耐力)が低下する。
【0027】
オペレータは、桟橋Pの複数の梁の各々に関し、ステップS202において準備した関係データのうち、ステップS201において取得した劣化度データが示す劣化度に応じた関係データを、モデルMにパラメータとして入力する(ステップS203)。
【0028】
また、オペレータは桟橋Pに対し加えられる外力の方向、強さ、継続時間を示す外力データを、モデルMにパラメータとして入力する(ステップS301)。外力データが示す外力は、例えば将来発生が想定される地震や既に発生した地震に伴い桟橋Pに対し加えられる外力、桟橋Pに接岸する船舶から桟橋Pが受ける外力等が挙げられる。
【0029】
オペレータがモデルMに関係データ、外力データを入力した後、所定の操作を行うと、コンピュータはモデルMにおいて、複数の梁の各々に応じた関係データが示す荷重と変位の関係を用いて、外力データが示す外力が桟橋Pに加えられた後の上部工の残存耐力を領域毎に算出し(ステップS401)、算出した結果を表す数値、画像等をディスプレイに出力する(ステップS402)。
【0030】
図6はステップS402においてコンピュータから出力され、ディスプレイに表示される画像を例示した図である。
図6において、領域Xは外力を受けた際、塑性変形が生じて残存耐力が低下している領域である。オペレータは、
図6に示される画像を見て、桟橋Pの上部工の補修を要する領域を知ることができる。
【0031】
[変形例]
上述の実施形態は様々に変形され得る。以下に、それらの変形の例を示す。なお、以下に示す2以上の変形例が適宜組み合わされてもよい。
【0032】
(1)方法Aが、
図1に示される工程に加えて、ステップS401において算出した桟橋Pの上部工の領域毎の残存耐力に基づき、所定種別の桟橋Pの利用(荷役作業、船舶の係留、資機材の仮置き等)の可否を判定する工程を備えてもよい。例えば、桟橋Pに地震等による所定の外力が加えられた後、桟橋Pの残存耐力の分布が
図6に示される状態である場合、領域X以外のどの領域においても所定種別の桟橋Pの利用が可能であるとは限らない。
【0033】
以下、所定の外力を受けた後の桟橋Pを利用して荷役作業を行いたい場合を例に説明する。オペレータは、桟橋Pの上部工の上の特定の領域において荷役作業が行われた場合に桟橋Pに加えられる外力を示す外力データをコンピュータに入力する。コンピュータは、モデルMにおいて、既に残存耐力が低下している桟橋Pに対し、新たに入力された外力データが示す外力が加えられた場合の残存耐力を特定する。コンピュータにより特定された残存耐力を示す画像はディスプレイに表示される。
【0034】
荷役作業に伴う外力が加えられた後の残存耐力を示す画像が、荷役作業に伴う外力が加えられる前の残存耐力を示す画像から変化していなければ、オペレータが指定した領域において荷役作業が行われても桟橋Pの梁に新たな塑性変形は生じず、荷役作業の継続が可能であると分かる。一方、それらの画像が変化していれば、荷役作業に伴い桟橋Pの梁に新たな塑性変形が生じるため、荷役作業を継続して行うことはできないことが分かる。
【0035】
(2)
図1のステップS101において、桟橋Pに加え、桟橋Pに積載荷重を与える物を対象物として含むようにモデルMが作成されてもよい。桟橋Pに積載荷重を与える物の例としては、上部工の上に配置されるクレーン等の重機、上部工の上に仮置きされる資機材、上部工の上に設置される建屋等が挙げられる。この場合、地震等の外力が加えられた後の桟橋Pの残存耐力の算出において、桟橋Pに与えられる積載荷重が考慮される。
【0036】
(3)方法Aが、経年劣化を考慮した将来の時点における桟橋Pに対し外力が加えられた後の残存耐力の特定に適用されてもよい。
【0037】
図7はこの変形例に係る方法Aが備える工程の流れを示した図である。この変形例においては、時点t1において判定された各梁の劣化度を示す劣化度データの取得に加え、時点t1より過去の時点t0において判定された各梁の劣化度を示す劣化度データの取得が行われる(ステップS501)。
【0038】
なお、時点t0は例えば桟橋Pの建設時点としてもよい。時点t0を桟橋Pの建設時点とする場合、時点t0における梁の劣化度は全てdであることが自明のため、仮に時点t1より過去に梁の目視点検等が1度も行われていなくても、本変形例は実施可能である。
【0039】
続いて、オペレータによって、取得された時点t0及び時点t1の各々に関する劣化度データと、時点t0から時点t1までの時間及び時点t1から時点t2までの時間を示すデータが、コンピュータ内に予め準備された確率モデルに入力される(ステップS502)。
【0040】
なお、ステップS502において用いられる確率モデルは、過去の状態推移に基づく確率により将来の状態推移を推定するモデルであれば、いずれのモデルであってもよい。そのようなモデルの一例として、マルコフ連鎖モデルが挙げられる。
【0041】
コンピュータは、ステップS502において入力されたデータを用いて、確率モデルにより各梁の時点t2における劣化度を推定する(ステップS503)。
【0042】
コンピュータは、上記のように推定した時点t2における劣化度を用いて、
図1のステップS203〜S402の処理を行う。その結果、将来の時点t2において地震等の外力が桟橋Pに加えられた後の桟橋Pの残存耐力を示す画像がディスプレイに表示される。
【0043】
(4)方法Aが備える工程の順序は、
図1に例示したものに限られない。例えば、ステップS101におけるモデルの作成が、ステップS201における梁の劣化度の取得や、ステップS202における荷重と変位の関係の準備より後に行われてもよい。
【0044】
(5)方法Aの工程のうち、上述した実施形態においてはオペレータが行うものとした工程の少なくとも一部を、装置が行ってもよい。例えば、ステップS201における梁の劣化度の取得が、ドローンやボート等に搭載されたカメラによって撮影された画像を認識する装置によって行われてもよい。
【0045】
(6)梁の劣化度の判定に用いられる判定基準は
図3に示した判定基準Cに限られず、他の様々な判定基準が採用され得る。また、劣化度の区分数は4つに限られず、例えば5以上の区分で劣化度が判定されてもよい。