【文献】
JOURNAL OF BONE AND MINERAL RESEARCH,2003年,VOL.18, NO.6,P.994-1004
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
エクトヌクレオチドピロホスファターゼ/ホスホジエステラーゼ-1(ENPP1)およびIgGポリペプチドのFcドメインを含む可溶性融合ポリペプチドを含む組成物であって、該組成物が、必要とする対象において病的石灰化の進行を減少させ、または予防するのに用いるために95%を超える純度を有し、かつ、該可溶性融合ポリペプチドが4〜20の連続したアスパラギン酸残基を欠如する、組成物。
前記可溶性融合ポリペプチドが、ヒトENPP1(NCBIアクセッションNP_006199、SEQ ID NO: 1)の残基96〜925を含む、請求項1記載の組成物。
【発明を実施するための形態】
【0023】
発明の詳細な説明
本発明は、NPP1ポリペプチド、その断片、誘導体、変異体、または変異体断片、および変異NPP4ポリペプチドまたはその断片が、病的な石灰化および/または骨化を伴う疾患および障害の治療に有用であるという発見に関する。
【0024】
したがって、ある特定の態様において、本発明は、NPP1ポリペプチド、その断片、誘導体、変異体、または変異体断片のレベルまたは活性を増加させるための組成物および方法に関し、一方で他の態様において、本発明は、変異NPP4ポリペプチド、その断片、または誘導体のレベルまたは活性を増加させるための組成物および方法に関する。さらに他の態様において、本発明は、NPP1ポリペプチド、その断片、誘導体、変異体、または変異体断片のレベルまたは活性、および変異NPP4ポリペプチドまたはその断片のレベルまたは活性を増加させるための組成物および方法に関する。
【0025】
ある特定の態様において、本発明は、少なくとも1種の作用物質が、エクトヌクレオチドピロホスフ
ァターゼ/ホスホジエステラーゼ-1(NPP1)ポリペプチド、およびその断片、誘導体、変異体、または変異体断片からなる群より選択される、該少なくとも1種の作用物質の血栓形成促進活性を排除しかつ/または低下させ、一方でATP加水分解活性を保持する方法に関する。他の態様において、本発明は、少なくとも1種の作用物質が、エクトヌクレオチドピロホスフ
ァターゼ/ホスホジエステラーゼ-1(NPP4)ポリペプチド、およびその断片、誘導体、変異体、または変異体断片からなる群より選択される、該少なくとも1種の作用物質の血栓形成促進活性を排除しかつ/または低下させ、一方でまたATP加水分解活性を増加させる方法に関する。さらに他の態様において、本発明の方法は、血栓形成促進状態と関連した意図せぬリスクを誘導することなく、異所性ミネラル化を安全に治療することを可能にする。
【0026】
様々な態様において、本発明の方法内で有用な変異NPP1ポリペプチド、その断片、または誘導体は、対応する野生型NPP1ポリペプチド、その断片、または誘導体と比較してより低いAp3A加水分解活性を有する。様々な態様において、本発明の方法内で有用な変異NPP1ポリペプチド、その断片、または誘導体は、対応する野生型NPP1ポリペプチド、その断片、または誘導体と比較して実質的に同じATP加水分解活性を有する。様々な態様において、本発明の方法内で有用な変異NPP1ポリペプチド、その断片、または誘導体は、対応する野生型NPP1ポリペプチド、その断片、または誘導体と比較してより低いAp3A加水分解活性および実質的に同じATP加水分解活性を有する。
【0027】
様々な態様において、本発明は、NPP1ポリペプチド、その断片、誘導体、変異体、または変異体断片のレベルまたは活性を増加させるための組成物および方法に関する。本発明の組成物および方法には、NPP1ポリペプチド、その断片、誘導体、変異体、または変異体断片の活性またはレベルの増加が望ましい、障害および疾患を治療または予防するための組成物および方法が含まれる。様々な態様において、障害および疾患には、病的石灰化および/または病的骨化を伴う疾患および障害が含まれる。本発明の組成物および方法によって治療可能な、病的石灰化および/または病的骨化を伴う疾患および障害には、特発性乳児動脈石灰化(IIAC)、後縦靱帯骨化症(OPLL)、低リン酸血症性くる病、変形性関節症、および、アテローム性動脈硬化プラークの石灰化が含まれるが、それらに限定されるわけではない。
【0028】
他の態様において、本発明は、変異NPP4ポリペプチドまたはその断片のレベルまたは活性を増加させるための組成物および方法に関する。本発明の組成物および方法には、変異NPP4ポリペプチドまたはその断片の活性またはレベルの増加が望ましい、障害および疾患を治療または予防するための組成物および方法が含まれる。様々な態様において、障害および疾患には、病的石灰化および/または病的骨化を伴う疾患および障害が含まれる。本発明の組成物および方法によって治療可能な、病的石灰化および/または病的骨化を伴う疾患および障害には、特発性乳児動脈石灰化(IIAC)、後縦靱帯骨化症(OPLL)、低リン酸血症性くる病、変形性関節症、および、アテローム性動脈硬化プラークの石灰化が含まれるが、それらに限定されるわけではない。
【0029】
止血および骨発達の両方とも、プリン作動性シグナルの細胞外代謝によって調節される、精密にバランスのとれた必須の生理的過程である。本明細書において記載されるように、NPP1およびNPP4によるプリン作動性シグナル代謝についての役割および原子的詳細をよりよく理解するために、NPP4対NPP1を構造的および酵素的に特徴決定する手段として、解決される対象となる最初のヒトNPPであるNPP4の高分解能構造を決定した。NPP1は、低いnM濃度でAp3Aを加水分解することが示され、かつ低いnM濃度でのNPP1またはNPP4のいずれかは、ヒトPRPにおける不可逆的血小板凝集をインビトロで促進した。
【0030】
加えて、生理的レベルのAp3Aの存在下における血小板凝集に対するNPP1の効果を直接測定した。ヌクレオチド含有基質のほぼ同様のセットの標的化を可能にする、高度の配列同一性および相同性、ならびに共有される構造特質にもかかわらず、これら2種の酵素は、それらの生物学的機能の中心となる個別の基質特異性を説明する重要な構造差も保有する。NPP1は、ヒト血中で報告される生理的濃度では血小板凝集を誘導し得ないことが見出されたが、血管内皮上に低いnM濃度で局在する場合、血小板凝集を刺激し得た。本研究は、NPP4およびNPP1による基質判別の分子基盤を記載し、骨ミネラル化および血小板凝集を支配するそれらの生理的役割についての洞察を提供し、かつ脳卒中保護と関連したNPP1多型が作用し得る明らかなメカニズムを提供する。
【0031】
いかなる理論によっても限定されることを望むことなく、本研究は、先行技術において提案されたメカニズムと比較して、NPP1における多型が血栓性脳卒中に対して保護的である代替的メカニズムを示唆する。本明細書において記載されるデータは、先行技術において提案される機能獲得型変異ではなく、Ap3A加水分解が血栓微小環境において減少する機能喪失型変異が、これらの多型が脳卒中保護を与えるメカニズムに寄与するという考えを支持する。この差異は、治療された個体において血栓形成促進状態の意図せぬ副作用を誘導することなく、異所性骨ミネラル化に対する治療剤として有用であるNPP1およびNPP4タンパク質の変更を設計する際に重要な役割を果たす。ある特定の態様において、脳毛細血管におけるNPP1活性の減少は、大脳毛細血管床におけるADP濃度の減少をもたらし、血小板凝集および血栓形成を減少させる。
【0032】
さらに、血栓形成促進酵素としてのNPP1の認識により、NPP1またはNPP4を用いた組換え酵素補充療法(enzyme replacement therapy)は、組換えNPP1および/またはNPP4酵素で治療された患者に重大な血栓症リスクを与えることが示唆される。血栓形成促進状態にある患者は、冠状動脈および/または肺動脈の血栓症による、ならびに大脳動脈血栓症が原因の脳卒中による突然死のリスクがある。本明細書において実証されるように、本発明者らは、組換え非改変NPP1酵素で治療された患者は、これらの意図せぬ影響のリスクが増加しているという考えを支持する生化学的および生理学的な論拠を確立した。血栓症におけるNPP1の役割についての本発明者らの認識により、該酵素の血栓形成促進活性を排除しかつ/または改善する、NPP1および/またはNPP4における特異的点変異を誘導し、一方で該酵素がPPiを生成し得る能力を保持することに関する論拠が確立される。ある特定の態様において、本明細書において提案される、NPP1およびNPP4における特異的改変により、組換えNPP4およびNPP1酵素の使用による、GACI、および異所性ミネラル化の他の疾患の治療のための安全な治療法を確立するという目標が達成される。
【0033】
定義
別様に定義されていない限り、本明細書において用いられるすべての技術的および科学的な用語は、本発明が属する技術分野における当業者によって一般に理解されるものと同じ意味を有する。本明細書において記載されるものと同様のまたは同等の任意の方法および材料を、本発明の実践または試験において用いることができるが、好ましい方法および材料が記載される。
【0034】
本明細書において使用する場合、以下の用語のそれぞれは、本章におけるそれと関連した意味を有する。
【0035】
「1つ(a)」および「1つ(an)」という冠詞は、冠詞の文法上の目的語の1つまたは2つ以上(すなわち、少なくとも1つ)のを指すために本明細書において用いられる。例として、「要素(an element)」は、1つの要素または2つ以上の要素を意味する。
【0036】
量、時間的継続期間などの測定可能な値を指す場合に本明細書において用いられる「約」は、指定された値から±20%または±10%、より好ましくは±5%、さらにより好ましくは±1%、さらに一層より好ましくは±0.1%の変動を包含することを意図され、というのはそのような変動は、開示される方法を実施するのに適切であるからである。
【0037】
本明細書において使用する場合、「Ap3P」という用語は、アデノシン-(5')-トリホスホ-(5')-アデノシンまたはその塩を指す。
【0038】
本明細書において使用する場合、「NPP」という用語は、エクトヌクレオチドピロホスファターゼ/ホスホジエステラーゼを指す。
【0039】
「疾患」とは、動物が恒常性を維持できず、かつ疾患が改善されない場合には動物の健康が悪化し続ける、動物の健康の状態である。
【0040】
動物における「障害」とは、動物は恒常性を維持し得るが、動物の健康の状態は、該障害の非存在下にそれがあるよりも好ましくない、健康の状態である。治療されずに放置されると、障害は、動物の健康の状態のさらなる減少を必ずしも引き起こすわけではない。
【0041】
疾患もしくは障害の症状の重症度、そのような症状が患者によって経験される頻度、またはその両方が低下した場合、疾患または障害は「軽減」される。
【0042】
生物、組織、細胞、またはそれらの構成要素の文脈において用いられる場合、「異常な」という用語は、少なくとも1つの観察可能なまたは検出可能な特徴(例えば、年齢、処理、日時など)の点で、「正常な」(予想される)それぞれの特徴を呈示するそうした生物、組織、細胞、またはそれらの構成要素とは異なるそうした生物、組織、細胞、またはそれらの構成要素を指す。1種の細胞または組織のタイプについて正常であるかまたは予想される特徴は、異なる細胞または組織のタイプに対して異常であり得る。
【0043】
「単離された」とは、天然状態から変更されたかまたは取り出されたことを意味する。例えば、生きた動物に天然に存在している核酸またはポリペプチドは「単離されて」いないが、その天然状態の共存している材料から部分的にまたは完全に分離された同じ核酸またはポリペプチドは「単離されて」いる。単離された核酸もしくはタンパク質は、実質的に精製された形態で存在し得る、または例えば宿主細胞などの非天然環境に存在し得る。
【0044】
本明細書において使用する場合、「実質的に精製された」とは、他の構成要素を本質的に含んでいないことを指す。例えば、実質的に精製されたポリペプチドとは、それがその天然に存在する状態において通常関連している他の構成要素から分離されているポリペプチドである。
【0045】
本明細書において用いられる「試料」または「生物学的試料」とは、対象から単離された生物学的材料を意味する。生物学的試料は、対象における生理的または病的な過程のmRNA、ポリペプチド、または他のマーカーを検出するのに適した任意の生物学的材料を含有し得、かつ、個体から得られた体液、組織、細胞性および/または非細胞性材料を含み得る。
【0046】
本明細書において使用する場合、「野生型」という用語は、天然に存在する供給源から単離された遺伝子または遺伝子産物を指す。野生型遺伝子とは、集団において最も高頻度に観察されるものであり、したがって該遺伝子の「正常な」または「野生型」形態と任意に意図される。対照的に、「改変された」または「変異体」という用語は、野生型の遺伝子または遺伝子産物と比較した場合に、配列および/または機能特性(すなわち、変更された特徴)の改変を呈示する遺伝子または遺伝子産物を指す。天然に存在する変異体は単離することができ、これらは、野生型の遺伝子または遺伝子産物と比較した場合に、それらが変更された特徴(変更された核酸配列を含む)を有するという事実によって同定されることが留意される。
【0047】
本明細書において使用する場合、「ポリペプチド」という用語は、アミノ酸残基、関連した天然に存在する構造変種、およびペプチド結合により連結されたそれらの天然に存在しない合成類似体から構成されるポリマーを指す。合成ポリペプチドは、例えば自動ポリペプチド合成機を用いて合成され得る。本明細書において使用する場合、「タンパク質」という用語は、典型的に、大きなポリペプチドを指す。本明細書において使用する場合、「ペプチド」という用語は、典型的に、短いポリペプチドを指す。ポリペプチド配列を表すために従来的表記法が本明細書において用いられ、ポリペプチド配列の左側端はアミノ末端であり、かつポリペプチド配列の右手端はカルボキシル末端である。
【0048】
本明細書において使用する場合、アミノ酸は、下記に表示されるように、それらの正式名称によって、それらに対応する3文字コードによって、またはそれらに対応する1文字コードによって表される。
【0049】
「アミノ酸配列変種」という用語は、天然型配列ポリペプチドとある程度異なるアミノ酸配列を有するポリペプチドを指す。普通、アミノ酸配列変種は、天然型ポリペプチドに対して少なくとも約70%の相同性、少なくとも約80%の相同性、少なくとも約90%の相同性、または少なくとも約95%の相同性を保有する。アミノ酸配列変種は、天然型アミノ酸配列のアミノ酸配列内のある特定の位置に置換、欠失、および/または挿入を保有する。
【0050】
本明細書において使用する場合、本明細書において用いられる「保存的変動」または「保存的置換」という用語は、別の生物学的に類似した残基によるアミノ酸残基の置き換えを指す。保存的な変動または置換は、ペプチド鎖の形状を変化させる可能性が低い。保存的な変動または置換の例には、別のものに対するイソロイシン、バリン、ロイシン、もしくはメチオニンなどの1個の疎水性残基の置き換え、またはリジンに対するアルギニン、アスパラギン酸に対するグルタミン酸、もしくはアスパラギンに対するグルタミンなど、別のものに対する1個の極性残基の置換が含まれる。
【0051】
本明細書において使用する場合、「ドメイン」という用語は、疎水性、極性、球状、およびらせん状のドメインまたは特性など、しかしながらそれらに限定されない共通の物理化学的特質を共有する分子または構造の一部を指す。結合ドメインの具体的な例には、DNA結合ドメインおよびATP結合ドメインが含まれるが、それらに限定されるわけではない。
【0052】
「核酸」はポリヌクレオチドを指し、ポリリボヌクレオチドおよびポリデオキシリボヌクレオチドを含む。本発明に従った核酸は、ピリミジンおよびプリン塩基、それぞれ好ましくはシトシン、チミン、およびウラシル、ならびにアデニンおよびグアニンの任意のポリマーまたはオリゴマーを含み得る。(すべての目的のためにその全体として本明細書に組み入れられる、Albert L. Lehninger, Principles of Biochemistry, 793-800(Worth Pub. 1982)を参照されたい)。実際に、本発明は、これらの塩基のメチル化、ヒドロキシメチル化、またはグルコシル化形態など、任意のデオキシリボヌクレオチド、リボヌクレオチド、またはペプチド核酸構成要素、およびそれらの任意の化学的変種を企図する。ポリマーまたはオリゴマーは、組成において不均一もしくは均一であり得、かつ天然に存在する供給源から単離され得、または人工的にもしくは合成的に産生され得る。加えて、核酸は、DNAもしくはRNA、またはそれらの混合物であり得、かつホモ二重鎖、ヘテロ二重鎖、および混成状態を含めた、一本鎖または二本鎖の形態で恒久的にまたは過渡的に存在し得る。
【0053】
「オリゴヌクレオチド」または「ポリヌクレオチド」は、長さが少なくとも2個、好ましくは少なくとも8、15、もしくは25個のヌクレオチドに及ぶ核酸であるが、最高50、100、1000、もしくは5000個のヌクレオチド長であり得、またはポリヌクレオチドに特異的にハイブリダイズする化合物であり得る。ポリヌクレオチドには、天然供給源から単離され得る、組換えにより産生され得る、または人工的に合成され得る、デオキシリボ核酸(DNA)もしくはリボ核酸(RNA)、またはそれらの模倣体の配列が含まれる。本発明のポリヌクレオチドのさらなる例は、ペプチド核酸(PNA)であり得る。(参照によりその全体として本明細書によって組み入れられる、米国特許第6,156,501号を参照されたい)。本発明は、ある特定のtRNA分子において同定されかつ三重らせんの状態で存在すると仮定されているフーグスティーン塩基対などの非伝統的塩基対がある状況も包含する。「ポリヌクレオチド」および「オリゴヌクレオチド」は、本明細書において代替可能に用いられる。ヌクレオチド配列がDNA配列(例えば、A、T、G、およびC)によって本明細書において表される場合、これは、「U」が「T」を置き換える、対応するRNA配列(例えば、A、U、G、C)も含むと理解される。
【0054】
本明細書において使用する場合、「ポリヌクレオチド」は、センス鎖およびアンチセンス鎖の両方の、cDNA、RNA、DNA/RNA混成物、アンチセンスRNA、リボザイム、ゲノムDNA、合成形態、および混合ポリマーを含み、かつ非天然のもしくは誘導体化された、合成の、または半合成のヌクレオチド塩基を含有するように化学的にまたは生化学的に改変され得る。また、1個もしくは複数個のヌクレオチドの欠失、挿入、置換、または他のポリヌクレオチド配列への融合を含むがそれらに限定されない、野生型または合成の遺伝子の変更が企図される。
【0055】
「単離された核酸」とは、天然に存在する状態でそれに隣接する配列から分離されている核酸セグメントまたは断片、例えば、断片に通常近接している配列、例えばそれが天然に存在するゲノムにおいて断片に近接した配列から引き離されているDNA断片を指す。該用語は、天然には核酸に付随している他の構成要素、例えば天然には細胞内でそれに付随しているRNAまたはDNAまたはタンパク質から、実質的に精製されている核酸にも適用される。したがって、該用語は、例えば、ベクター中に、自己複製型プラスミド中もしくはウイルス中に、または原核生物もしくは真核生物のゲノムDNA内に組み入れられている、あるいは他の配列から独立して別個の分子として(例えば、PCRまたは制限酵素消化によって産生されたcDNA、またはゲノム断片もしくはcDNA断片として)存在する組換えDNAを含む。それは、さらなるポリペプチド配列をコードする混成遺伝子の一部である組換えDNAも含む。
【0056】
「対立遺伝子」とは、細胞内、個体内、または集団内の遺伝子配列(遺伝子など)の1つの特異的形態を指し、該特異的形態は、遺伝子の配列内の少なくとも1つ、高頻度には2つ以上の変種部位の配列において、同じ遺伝子の他の形態とは異なる。異なる対立遺伝子間で異なるこれらの変種部位における配列は、「変種」、「多型」、または「変異」と称される。
【0057】
本明細書において使用する場合、「変更」、「欠損」、「変動」、または「変異」という用語は、細胞内の遺伝子における、それがコードするポリペプチドの機能、活性、発現(転写または翻訳)、または立体構造に影響を及ぼす変異を指す。本発明によって包含される変異は、コードされたタンパク質の発現の完全な欠如を含めた、コードされたポリペプチドの機能、活性、発現、または立体構造の増強または妨害をもたらす、細胞内の遺伝子の任意の変異であり得、かつ例えばミスセンスおよびナンセンス変異、挿入、欠失、フレームシフト、ならびに未成熟終結を含み得る。そのように限定されることなく、本発明によって包含される変異は、mRNAのスプライシングを変更し得(スプライシング部位変異)、またはリーディングフレームのシフトを引き起こし得る(フレームシフト)。
【0058】
本明細書において用いられる「抗体」という用語は、抗原上の特異的エピトープに特異的に結合し得る免疫グロブリン分子を指す。抗体は、天然供給源または組換え供給源に由来する無傷免疫グロブリンであり得、かつ無傷免疫グロブリンの免疫反応性部分であり得る。本明細書における抗体は、例えばポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、細胞内抗体(「イントラボディ」)、Fv、Fab、およびF(ab)2、ならびに一本鎖抗体(scFv)、ラクダ抗体などの重鎖抗体、合成抗体、キメラ抗体、およびヒト化抗体を含めた多様な形態で存在し得る(Harlow et al., 1999, Using Antibodies: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press, NY;Harlow et al., 1989, Antibodies: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor, New York;Houston et al., 1988, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85:5879-5883;Bird et al., 1988, Science 242:423-426)。
【0059】
本明細書において使用する場合、「免疫アッセイ法」とは、標的分子を検出および定量化するための、標的分子に特異的に結合し得る抗体を用いる任意の結合アッセイ法を指す。
【0060】
本明細書において用いられる「免疫グロブリン」または「Ig」という用語は、抗体として機能する、タンパク質のクラスとして定義される。B細胞によって発現される抗体は、BCR(B細胞受容体)または抗原受容体と称されることもある。このクラスのタンパク質に含まれる5つのメンバーは、IgA、IgG、IgM、IgD、およびIgEである。IgAは、唾液、涙液、母乳、消化管分泌物、ならびに気道および尿生殖路の粘液分泌物など、身体分泌物中に存在している主要な抗体である。IgGは最もよく見られる循環抗体である。IgMは、ほとんどの対象における主要な免疫応答において産生される主たる免疫グロブリンである。それは、凝集(agglutination)、補体結合(complement fixation)、および他の抗体応答において最も効率的な免疫グロブリンであり、かつ細菌およびウイルスに対する防御において重要である。IgDは、公知の抗体機能を有しないが、抗原受容体として働き得る免疫グロブリンである。IgEは、アレルゲンに曝露されると、肥満細胞および好塩基球から仲介因子の放出を引き起こすことによって即時の過感受性を仲介する免疫グロブリンである。
【0061】
「コードする」とは、ヌクレオチドの規定配列(すなわち、rRNA、tRNA、およびmRNA)またはアミノ酸の規定配列のいずれか、およびそれからもたらされる生物学的特性を有する生物学的過程において、他のポリマーおよび高分子の合成のための鋳型として働く、遺伝子、cDNA、またはmRNAなどのポリヌクレオチドにおけるヌクレオチドの特異的配列の固有の特性を指す。したがって、遺伝子は、その遺伝子に対応するmRNAの転写および翻訳により、細胞または他の生物学的システムにおいてタンパク質が産生される場合、タンパク質をコードする。mRNA配列と同一でありかつ配列表において通常提供されるヌクレオチド配列であるコード鎖、および遺伝子またはcDNAの転写のための鋳型として用いられる非コード鎖の両方は、その遺伝子またはcDNAのタンパク質または他の産物をコードすると称され得る。
【0062】
本明細書において用いられる「コード配列」という用語は、転写されかつ/または翻訳されて、mRNAおよび/もしくはポリペプチド、またはそれらの断片を産生し得る、核酸もしくはその相補体、またはそれらの一部の配列を意味する。コード配列は、ゲノムDNAまたは未成熟一次RNA転写物におけるエクソンを含み、それは細胞の生化学的機構によって一つに接続されて、成熟mRNAを提供する。アンチセンス鎖はそのような核酸の相補体であり、コード配列はそこから推定され得る。対照的に、本明細書において用いられる「非コード配列」という用語は、インビボでアミノ酸に翻訳されない、またはtRNAがアミノ酸を置くように相互作用しないもしくは置こうと試みない、核酸もしくはその相補体、またはそれらの一部の配列を意味する。非コード配列は、ゲノムDNAまたは未成熟一次RNA転写物におけるイントロン配列、およびプロモーター、エンハンサー、サイレンサーなどの遺伝子関連配列の両方を含む。
【0063】
抗体に関して本明細書において用いられる「特異的に結合する」という用語は、試料における、特異的抗原を認識するが、他の分子を実質的に認識しないまたは結合しない抗体を意味する。例えば、1つの種由来の抗原に特異的に結合する抗体は、1つまたは複数の種由来のその抗原にも結合し得る。しかし、そのような種間反応性それ自体は、特異的であるものとしての抗体の分類を変更しない。別の例において、抗原に特異的に結合する抗体は、該抗原の異なる対立遺伝子形態にも結合し得る。しかしながら、そのような交差反応性それ自体は、特異的であるものとしての抗体の分類を変更しない。ある場合には、「特異的結合」または「特異的に結合」という用語を、抗体、タンパク質、またはペプチドと第2の化学種との相互作用に関連して用いて、該相互作用が、該化学種上にある特定の構造(例えば、抗原決定基またはエピトープ)の存在に依存することを意味し得、例えば抗体は、全般的にタンパク質というよりもむしろ特異的なタンパク質構造を認識しかつ結合する。抗体がエピトープ「A」に特異的である場合、標識された「A」および該抗体を含有する反応において、エピトープA(または遊離した標識されていないA)を含有する分子の存在は、該抗体に結合している標識されたAの量を低下させると考えられる。
【0064】
本明細書において使用する場合、「相補的」または「相補性」という用語は、塩基対合則によって関連付けされたポリヌクレオチド(すなわち、ヌクレオチドの配列)に関連して用いられる。例えば、「A-G-T」という配列は「T-C-A」という配列に相補的である。相補性は、核酸の塩基の一部のみが塩基対合則に従って合致している「部分的」であり得る。または、核酸間で「完全な」または「全くの」相補性があり得る。核酸鎖間の相補性の程度は、核酸鎖間のハイブリダイゼーションの効率および強度に対して重大な影響を有する。これは、増幅反応において、ならびに核酸間の結合に依存する検出法において特に重要である。
【0065】
本明細書において使用する場合、核酸に適用される「断片」という用語は、より大きな核酸の部分配列を指す。核酸の「断片」は、長さが少なくとも約15個のヌクレオチド、例えば少なくとも約50個のヌクレオチド〜約100個のヌクレオチド、少なくとも約100個〜約500個のヌクレオチド、少なくとも約500個〜約1000個のヌクレオチド、少なくとも約1000個のヌクレオチド〜約1500個のヌクレオチド、約1500個のヌクレオチド〜約2500個のヌクレオチド、または約2500個のヌクレオチド(およびその間にある任意の整数値)であり得る。本明細書において使用する場合、タンパク質またはペプチドに適用される「断片」という用語は、より大きなタンパク質またはペプチドの部分配列を指す。タンパク質またはペプチドの「断片」は、長さが少なくとも約20個のアミノ酸、例えば長さが少なくとも約50個のアミノ酸、長さが少なくとも約100個のアミノ酸、長さが少なくとも約200個のアミノ酸、長さが少なくとも約300個のアミノ酸、または長さが少なくとも約400個のアミノ酸(およびその間にある任意の整数値)であり得る。
【0066】
「相同な」とは、2種のポリペプチド間または2種の核酸分子間の配列類似性または配列同一性を指す。2種の比較された配列の両方における位置が、同じ塩基またはアミノ酸モノマーサブユニットによって占有される場合、例えば2種のDNA分子のそれぞれにおける位置がアデニンによって占有される場合には、該分子はその位置において相同である。2種の配列間の相同性のパーセントは、比較された位置の数で割った、該2種の配列によって共有される合致している位置または相同な位置の数×100の関数である。例えば、2種の配列における10個の位置のうちの6個が合致しているかまたは相同である場合には、該2種の配列は60%相同である。例として、ATTGCCおよびTATGGCというDNA配列は、50%の相同性を共有する。一般的に、最大の相同性を与えるように2種の配列を整列させた場合に比較がなされる。
【0067】
「教材」には、その用語が本明細書において用いられる場合、本明細書において挙げられる様々な疾患または障害を同定または軽減または治療するための、キットにおける本発明の核酸、ペプチド、および/または化合物の有用性を伝えるために用いられ得る刊行物、記録、図表、または他の任意の表現媒体が含まれる。任意でまたは代替的に、教材は、対象の細胞または組織における疾患または障害を同定または軽減する1つまたは複数の方法を記載し得る。キットの教材は、例えば、本発明の核酸、ポリペプチド、および/もしくは化合物を含有する容器に貼付され得、または核酸、ポリペプチド、および/もしくは化合物を含有する容器とともに出荷され得る。代替的に、受容者が教材および化合物を協調的に用いることを意図して、教材は容器とは別個に出荷され得る。
【0068】
本明細書において用いられる「モジュレートする」という用語は、治療もしくは化合物の非存在下での対象におけるmRNA、ポリペプチド、もしくは応答の活性および/もしくはレベルと比較した、ならびに/または他の点では同一であるが治療されていない対象におけるmRNA、ポリペプチド、もしくは応答の活性および/もしくはレベルと比較した、対象におけるmRNA、ポリペプチド、もしくは応答の活性および/もしくはレベルの検出可能な増加または減少を仲介することを意味する。該用語は、天然のシグナルまたは応答を活性化し、阻害し、かつ/または別様に影響を及ぼし、それによって、対象、好ましくはヒトにおける有益な治療応答が仲介されることを包含する。
【0069】
本明細書において使用する場合、「治療」または「治療する」という用語は、疾患もしくは障害、疾患もしくは障害の症状、または疾患もしくは障害を発症する可能性を治癒する、癒す、軽減する、緩和する、変更する、是正する、改善する、向上させる、または影響を及ぼすことを目的とした、患者への治療剤、すなわち本発明内で有用な化合物の(単独での、または別の薬学的作用物質と組み合わせての)適用または投与、あるいは(例えば、診断またはエクスビボ適用のための、)疾患もしくは障害、疾患もしくは障害の症状、または疾患もしくは障害を発症する可能性を有する患者由来の単離された組織または細胞株への治療剤の適用もしくは投与として定義される。そのような治療を、ゲノム薬理学の分野から得られた知識に基づいて特別に調整し得るかまたは改変し得る。
【0070】
本明細書において使用する場合、「予防する」または「予防」という用語は、何も生じていない場合には障害もしくは疾患の発症がないこと、または障害もしくは疾患の発症がすでにある場合にはさらなる障害もしくは疾患の発症がないことを意味する。障害または疾患と関連した症状の一部またはすべてを予防するものの能力も考慮される。
【0071】
本明細書において使用する場合、「患者」、「個体」、または「対象」という用語は、ヒトまたは非ヒト哺乳類を指す。非ヒト哺乳類には、例えばヒツジ、ウシ、ブタ、イヌ、ネコ、およびネズミ哺乳類などの家畜およびペットが含まれる。好ましくは、患者、個体、または対象はヒトである。
【0072】
本明細書において使用する場合、「有効量」、「薬学的有効量」、および「治療的有効量」という用語は、所望の生物学的結果を提供する、作用物質の非毒性であるが十分な量を指す。その結果とは、疾患の兆候、症状、もしくは原因の低下および/もしくは軽減、または生物学的システムの他の任意の所望の変更であり得る。任意の個々の症例における適切な治療量は、ルーチン的実験を用いて当業者によって決定され得る。
【0073】
本明細書において使用する場合、「薬学的に許容される」という用語は、化合物の生物学的活性または特性を無効にせずかつ比較的非毒性である、担体または希釈剤などの材料を指し、すなわち該材料は、望ましくない生物学的効果を引き起こすことなく、またはそれを含有する組成物の構成要素のいずれとも有害な様式で相互作用することなく、個体に投与され得る。
【0074】
本明細書において使用する場合、「薬学的に許容される塩」という言葉は、無機酸、無機塩基、有機酸、無機塩基、それらの溶媒和物、水和物、および包接化合物を含めた、薬学的に許容される非毒性の酸および塩基から調製された、投与される化合物の塩を指す。適切な薬学的に許容される酸付加塩は、無機酸または有機酸から調製され得る。無機酸の例には、サルフェート、ハイドロゲンサルフェート、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硝酸、炭酸、硫酸、およびリン酸(ハイドロゲンホスフェートおよびジハイドロゲンホスフェートを含む)が含まれる。適切な有機酸は、脂肪酸、シクロ脂肪酸(cycloaliphatic)、芳香族酸、アラリファティック(araliphatic)酸、複素環酸、カルボン酸、およびスルホン酸類の有機酸より選択され得、その例には、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、コハク酸、グリコール酸、グルコン酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、アスコルビン酸、グルクロン酸、マレイン酸、フマル酸、ピルビン酸、アスパラギン酸、グルタミン酸、安息香酸、アントラニル酸、4-ヒドロキシ安息香酸、フェニル酢酸、マンデル酸、エンボン酸(パモ酸)、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、パントテン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、2-ヒドロキシエタンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、スルファニル酸、シクロヘキシルアミノスルホン酸、ステアリン酸、アルギン酸、β-ヒドロキシ酪酸、サリチル酸、ガラクタル酸、およびガラクツロン酸が含まれる。本発明の化合物の適切な薬学的に許容される塩基付加塩には、例えばカルシウム塩、マグネシウム塩、カリウム塩、ナトリウム塩、および亜鉛塩など、例えばアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、および遷移金属塩を含めた金属塩が含まれる。薬学的に許容される塩基付加塩には、例えばN,N'-ジベンジルエチレン-ジアミン、クロロプロカイン、コリン、ジエタノールアミン、エチレンジアミン、メグルミン(N-メチルグルカミン)、およびプロカインなどの塩基性アミンから作られた有機塩も含まれる。これらの塩のすべては、例えば適切な酸または塩基と化合物とを反応させることによって、対応する化合物から調製され得る。
【0075】
本明細書において使用する場合、「組成物」または「薬学的組成物」という用語は、本発明内で有用な少なくとも1種の化合物と薬学的に許容される担体との混合物を指す。薬学的組成物は、患者への化合物の投与を容易にする。静脈内投与、経口投与、エアロゾル投与、吸入投与、直腸投与、膣内投与、経皮投与、鼻腔内投与、口腔投与、舌下投与、非経口投与、髄腔内投与、胃内投与、眼内(ophthalmic)投与、肺内投与、および局部投与を含むがそれらに限定されない、化合物を投与する多数の技術が当技術分野において存在する。
【0076】
本明細書において使用する場合、「薬学的に許容される担体」という用語は、本発明内で有用な化合物を、それがその意図される機能を果たし得るように、患者内にまたは患者に運ぶまたは輸送する際に伴う、液体もしくは固体の充填剤、安定剤、分散剤、懸濁化剤、希釈剤、賦形剤、増粘剤、溶媒、または封入材料など、薬学的に許容される材料、組成物、または担体を意味する。典型的に、そのような構築物は、一方の臓器または身体の部分から、別の臓器または身体の部分に運ばれるかまたは輸送される。各担体は、本発明内で有用な化合物を含めた、製剤の他の成分と適合性であり、かつ患者に有害でないという意味で「許容され」なければならない。薬学的に許容される担体として働き得る材料のいくつかの例には、ラクトース、グルコース、およびスクロースなどの糖類;トウモロコシデンプンおよびジャガイモデンプンなどのデンプン;セルロース、ならびにカルボキシメチルセルロースナトリウム、エチルセルロース、およびセルロースアセテートなどのその誘導体;粉状トラガカント;麦芽;ゼラチン;タルク;ココアバターおよび坐剤ワックスなどの賦形剤;ピーナッツ油、綿実油、サフラワー油、ゴマ油、オリーブ油、トウモロコシ油、および大豆油などの油;プロピレングリコールなどのグリコール;グリセリン、ソルビトール、マンニトール、およびポリエチレングリコールなどのポリオール;オレイン酸エチルおよびラウリン酸エチルなどのエステル;寒天;水酸化マグネシウムおよび水酸化アルミニウムなどの緩衝剤;界面活性剤;アルギン酸;発熱物質不含水;等張生理食塩水;リンゲル液;エチルアルコール;リン酸緩衝液;ならびに薬学的製剤において採用される他の非毒性の適合性物質が含まれる。本明細書において使用する場合、「薬学的に許容される担体」には、本発明内で有用な化合物の活性と適合性でありかつ患者にとって生理学的に許容される、任意のおよびすべてのコーティング剤、抗菌剤および抗真菌剤、ならびに吸収遅延剤なども含まれる。補助的活性化合物も組成物内に組み込まれ得る。「薬学的に許容される担体」には、本発明内で有用な化合物の薬学的に許容される塩がさらに含まれ得る。本発明の実践において用いられる薬学的組成物内に含まれ得る他のさらなる成分は、当技術分野において公知であり、かつ例えば参照により本明細書に組み入れられるRemington's Pharmaceutical Sciences(Genaro, Ed., Mack Publishing Co., 1985, Easton, PA)に記載されている。
【0077】
値域:本開示を通して、本発明の様々な局面は値域形式で提示され得る。値域形式での記載は、単に利便性および簡潔性のためのものであり、本発明の範囲に対する確固たる限定として見なされるべきではないことが理解されるべきである。したがって、値域の記載は、すべての考え得る部分値域、ならびにその値域内の個々の数値を具体的に開示していると見なされるべきである。例えば、1〜6などの値域の記載は、1〜3、1〜4、1〜5、2〜4、2〜6、3〜6などの部分値域、ならびにその値域内の個々の数字、例えば1、2、2.7、3、4、5、5.3、および6を具体的に開示していると見なされるべきである。このことは、値域の幅にかかわらず適用される。
【0078】
説明
ヒトNPP4についての現在の高分解能構造決定により、NPP1との詳細な構造−機能比較研究が可能となった。これらの膜結合型細胞表面酵素は、細胞外プリン作動性シグナルの代謝ならびにヌクレオチド再取り込みに関与している。両方の外酵素は、ヌクレオチド含有基質の標的化を説明する、2個の結合した亜鉛イオンに近接した疎水性の狭い溝を保有し、そこでは、ヌクレオチド塩基が溝内で結合しかつ加水分解によりヌクレオチドモノホスフェートが産物の1つとして産出される。アデニンは両酵素にとって最も好ましい塩基タイプであり、かつ結合しているAMP分子産物とそれぞれとの共結晶構造により、結合部位のその領域におけるそれらの機能的類似性が強調される。両酵素は、Ap3Aを加水分解し得るが、ATPに対して驚くほど異なる応答を呈することが見出された。
【0079】
NPP4およびNPP1は、ATPに対するそれらの応答において大きく異なる。NPP1はATPをAMPおよびPPiにすぐに加水分解し、その後者は骨外性ミネラル化の強力な阻害物質であり、かつNPP1の変異体は、前に概説されている、骨または軟組織の石灰化を伴う疾患に関与し得る。観察された産物を産出するために、ATPは、NPP1-AMP共結晶構造において見られる同じ配向でNPP1に結合するはずである。全く対照的に、NPP4は、たとえそれがNPP1と非常に類似した様式でAMPに結合するとしても、ごくゆっくりとしかATPを切断しない。これらの2種の酵素の重ね合わせにより、AMPのように結合している場合の、ATPの末端ホスフェートのエリアにおける重要な構造差が明らかとなっている。ATP複合体のエネルギー最小化シミュレーションにより、NPP1は、誘導性適合による電荷安定化を提供する3分割されたリジン立爪の存在により、ATPのγ-ホスフェートに好ましい環境を提供することが明らかとなっている。基質の非存在下において、結合ポケットの上部隆起を裏打ちする2個のリジン(Lys260およびLys510、マウスによる番号付け)は、それらが不規則であるNPP1-AMP産物複合体(4GTW)において、またはそれらが高いB因子を呈しかつ溶媒中に伸びているNPP1-バナデート複合体(4B56)において実証されているように可動性である。ATP基質結合があると、高度に負のγ-ホスフェートは、これらのリジンを静電的に引き付けるはずであり、それは、結合ポケットの床面にある固定Lys237とともに、末端ホスフェートを正電荷で効果的に包み込む働きをするはずである。PPiはさらにより負に帯電しているため、これは、産物安定化により加水分解も促進し得る。これらのリジン残基が、ATPのNPP1加水分解において果たす役割はこれまで解されておらず、NPP4との詳細な構造比較の中で明るみに出た。
【0080】
NPP4の対応する領域の重ね合わせにより、それは、同様に結合しているATPにとって著しく好都合さが低いことが示されており、より開き、より少ない正帯電残基を含有し、かつATPのγ-ホスフェートに極めて接近した活性部位に突き出るAsp335などの負帯電残基を取り入れる局所構造様式を有する。NPP4がγ-ホスフェートの領域において好ましくない環境を提供するという観察と一致して、切断不能なATP類似体との共結晶化の試みにより、認識可能な結合がないことが明らかとなった。同様に、ATPまたは切断可能なATP類似体との共結晶化の試みにより、結晶が増大するのにかかる数日にわたってAMP複合体が産出され、ATP結合は弱いものの、それは時折、加水分解されるのに極めて十分に接近するようになることが示されている。AMP産物分子は同一の条件下で結合し得、よい強い親和性を反映している。Zn1の隣のホスフェート基は、定義により、ホスホジエステルから、より多くの負電荷を持つ末端ホスフェートに変換されるため、産物阻害はNPP反応の固有の特質である可能性がある。本データは、NPP4がATPをインビボで効果的に加水分解する可能性は低いことを示しており、NPP1が、骨再形成および細胞外石灰化を調節するプリン作動性シグナルを代謝する主要な細胞外酵素であるという見解を支持する。
【0081】
対照的に、NPP4およびNPP1は両方とも、Ap3AをAMPおよびADPに加水分解し、NPP4のものよりおよそ30倍緊密な、Ap3Aに対するNPP1のミカエリス定数を有する。このより高い親和性は、同一濃度のAp3Aにおいて、血小板凝集を誘発するのに要されるより低い濃度のNPP1に反映されている(
図10)。血小板活性化があると、循環血小板の高密度顆粒内に貯蔵された高濃度のAp3Aが放出される。いかなる理論によっても限定されることを望むことなく、生理的濃度のAp3Aの加水分解を介して血小板凝集を誘導し得る、脳血管内皮上のNPP4を同定することによって、血管結合型NPPは大脳血小板凝集に寄与し得る。Ap3Aは、ADPよりも全血中で有意により長い寿命を有し、かつADPの「化学的にマスクされた」供給源として働くことによって、安定な血栓形成を支援すると長く仮説を立てられてきた。
【0082】
Ap3AをADPにすぐに加水分解し得るNPP1の能力は、NPP1が止血において役割を果たし得るかどうかという疑問を起こさせる。本研究において、NPP1は、低いnM濃度でAp3A加水分解が可能であることが示されており、かつ低いnM濃度でのNPP1またはNPP4のいずれかは、ヒトPRPにおける不可逆的血小板凝集をインビトロで促進する。本作業は、いずれかの酵素が、血栓形成促進環境において低いnM濃度で存在している場合、インビボでの血小板凝集に重大に寄与し得ることを暗示している。
【0083】
最近、NPP1における多型は、鎌状赤血球貧血を有する小児患者において脳卒中保護を与えることが同定された。本結果は、脳卒中に対して保護的な、NPP1における多型が、血栓微小環境においてAp3A加水分解を減少させる機能喪失型変異に相当することを示唆している。脳毛細血管におけるNPP1活性の減少は、大脳毛細血管床におけるADP濃度の減少をもたらすと考えられ、したがって血小板凝集および血栓形成の減少を説明する直接的メカニズムを提供する。
【0084】
ヒトNPP1におけるK173Q変異は触媒ドメインにはないが、膜を貫通する領域付近のソマトメジンB-2ドメインにおいてむしろ見出される(
図2B)。NPP1触媒ドメイン内の機能喪失型変異は、新生児期を越えてのヒト生存に適合性ではなく、脳卒中保護についてスクリーニングされた集団におけるそれらの非存在と一致している。いかなる理論によっても限定されることを望むことなく、NPP1 K173Q変異は、IDDM-2において観察されたK121Q変異と同様のNPP1血清濃度を増加させ得るが、とりわけ速度論的および凝集能測定のデータに照らして考えた場合、NPP1の機能獲得という仮説は、これらの血清中増加によって支持されない。K121Q多型におけるNPP1血清濃度(28pM)は、インビトロにおけるNPP1誘導性血小板凝集の活性化に要されるものをはるかに下回り、かつATPおよびAp3Aの両方に対するNPP1のミカエリス定数は、K121Q多型によって誘導される4pM増加よりもほぼ10
6高く、該増加がPPiまたはADP全身濃度のいずれかに影響を与える可能性は低いことが示唆される。いかなる特定の理論によっても束縛されることを望むことなく、NPP1 K173Q多型に起因する変化に対して考え得るメカニズムは、血管内皮由来のNPP1のエクトドメインシェディング(ectodomain shedding)を増加させ得、それが、このタンパク質の血清レベル、およびこの時点で露出された血管内皮上でのNPP1活性の喪失の両方の増加を説明すると考えられる。加えて、K173Q変異がNPP1触媒活性を損なう手段は依然として不明瞭なままであるが、本知見は、脳卒中に対して保護的なNPP1多型は、PPi濃度を増加させる機能獲得型変異よりも、大脳毛細血管床の内皮表面でのAp3A加水分解を減少させる機能喪失型変異に相当する可能性がより高いという考えを支持する。
【0085】
いくつかの態様において、本発明は、NPP1ポリペプチド、その断片、誘導体、変異体、または変異体断片のATP加水分解レベルまたは活性を増加させるための組成物および方法に関する。他の態様において、本発明は、変異NPP4ポリペプチドまたはその断片のATP加水分解レベルまたは活性を誘導しかつ増加させる組成物および方法に関する。
【0086】
いくつかの態様において、本発明は、NPP1ポリペプチド、その断片、誘導体、変異体、または変異体断片のAp3A加水分解レベルまたは活性を減少させるための組成物および方法に関する。他の態様において、本発明は、変異NPP4ポリペプチドまたはその断片のAp3A加水分解レベルまたは活性を減少させるための組成物および方法に関する。
【0087】
本発明の方法には、NPP1ポリペプチド、その断片、誘導体、変異体、または変異体断片の活性またはレベルの増加が望ましい、障害および疾患を治療または予防する方法が含まれる。したがって、いくつかの態様において、本発明の組成物は、NPP1ポリペプチド、その断片、誘導体、変異体、または変異体断片の活性化因子に関する。様々な態様において、障害および疾患には、IIAC、OPLL、低リン酸血症性くる病、変形性関節症、および、アテローム性動脈硬化プラークの石灰化が含まれるが、それらに限定されるわけではない。
【0088】
様々な態様において、本発明の方法内で有用な変異NPP1ポリペプチドまたはその断片は、対応する野生型NPP1ポリペプチドまたはその断片と比較してより低いAp3A加水分解活性を有する。様々な態様において、本発明の方法内で有用な変異NPP1ポリペプチドまたはその断片は、対応する野生型NPP1ポリペプチドまたはその断片と比較して実質的に同じATP加水分解活性を有する。様々な態様において、本発明の方法内で有用な変異NPP1ポリペプチドまたはその断片は、対応する野生型NPP1ポリペプチドまたはその断片と比較してより低いAp3A加水分解活性および実質的に同じATP加水分解活性を有する。
【0089】
他の態様において、本発明の方法には、変異NPP4ポリペプチドまたはその断片の活性またはレベルの増加が望ましい障害および疾患を治療または予防する方法が含まれる。したがって、いくつかの態様において、本発明の組成物は、変異NPP4ポリペプチドまたはその断片の活性化因子に関する。様々な態様において、障害および疾患には、IIAC、OPLL、低リン酸血症性くる病、変形性関節症、および、アテローム性動脈硬化プラークの石灰化が含まれるが、それらに限定されるわけではない。いくつかの態様において、本発明は、変異NPP4ポリペプチドまたはその断片の酵素活性をヒドロラーゼに、つまりNPP1ポリペプチド、その断片、誘導体、変異体、または変異体断片の同じ酵素活性を有する酵素に変更するための組成物および方法に関する。
【0090】
様々な態様において、本発明の方法内で有用な変異NPP4ポリペプチドまたはその断片は、対応する野生型NPP4ポリペプチドまたはその断片と比較してより低いAp3A加水分解活性を有する。他の態様において、本発明の方法内で有用な変異NPP4ポリペプチドまたはその断片は、対応する野生型NPP4ポリペプチドまたはその断片と比較して実質的に増加したATP加水分解活性を有する。さらに他の態様において、本発明の方法内で有用な変異NPP4ポリペプチドまたはその断片は、対応する野生型NPP4ポリペプチドまたはその断片と比較してより低いAp3A加水分解活性および実質的に増加したATP加水分解活性を有する。
【0091】
さらなる態様において、本発明は、NPP1ポリペプチド、その断片、誘導体、変異体、または変異体断片、および変異NPP4ポリペプチドまたはその断片のレベルまたは活性を増加させるための組成物および方法に関する。
【0092】
NPP1治療的活性化因子組成物および方法
本発明は、NPP1またはその変異体のレベルまたは活性を増加させるNPP1活性化因子組成物および方法を含む。様々な態様において、本発明のNPP1活性化因子組成物および治療の方法は、NPP1ポリペプチド、NPP1 mRNA、NPP1酵素活性、NPP1基質結合活性、その変異体、またはそれらの組み合わせの量を増加させる。様々な態様において、病的な石灰化または骨化の減少が治療成果を向上させ得る疾患および障害には、IIAC、OPLL、低リン酸血症性くる病、変形性関節症、および、アテローム性動脈硬化プラークの石灰化が含まれるが、それらに限定されるわけではない。
【0093】
様々な態様において、本発明の方法内で有用な変異NPP1は、対応する野生型NPP1と比較してより低いAp3A加水分解活性を有する。様々な態様において、本発明の方法内で有用な変異NPP1は、対応する野生型NPP1と比較して実質的に同じATP加水分解活性を有する。様々な態様において、本発明の方法内で有用な変異NPP1は、対応する野生型NPP1と比較してより低いAp3A加水分解活性および実質的に同じATP加水分解活性を有する。様々な態様において、変異NPP1は、Ser 532、Tyr 529、Tyr 451、Ile 450、Ser 381、Tyr 382、Ser 377、Phe 346、Gly 531、Ser 289、Ser 287、Ala 454、Gly 452、Gln 519、Glu 526、Lys 448、Glu 508、Arg 456、Asp 276、Tyr 434、Gln 519、Ser 525、Gly 342、Ser 343、およびGly 536からなる群より選択される少なくとも1つの位置に変異を有する。いかなる理論によっても限定されることを望むことなく、本発明内で企図される変異は、本発明者らによるNPP4についての高分解能構造決定によって、およびNPP1によるATP加水分解を容易にする、NPP1におけるリジン立爪についての正しい解釈によって情報を与えられている(
図6〜9)。
【0094】
本明細書において提供される開示に基づき、NPP1またはその変異体のレベルの増加には、NPP1またはその変異体の転写、翻訳、またはその両方を含めた、発現の増加が包含されることは当業者によって理解されるであろう。当業者であれば、本発明の教示を一度備えると、NPP1またはその変異体のレベルの増加には、NPP1またはその変異体の活性(例えば、酵素活性、基質結合活性など)の増加が含まれることも解するであろう。したがって、NPP1またはその変異体のレベルまたは活性を増加させることには、NPP1ポリペプチドまたはその変異体の量を増加させること、およびNPP1またはその変異体をコードする核酸の転写、翻訳、またはその両方を増加させることが含まれるが、それらに限定されるわけではなく;かつそれには、NPP1ポリペプチドまたはその変異体の任意の活性を増加させることも同様に含まれる。本発明の組成物および方法は、NPP1もしくはその変異体を選択的に活性化し得、またはNPP1もしくはその変異体、および非限定的な例として変異NPP4などの別の分子の両方を活性化し得る。
【0095】
本明細書において報告される3次元構造を含めた、本明細書において提供される開示に基づき、NPP1活性またはその変異体のレベルの増加には、ATPに対するこの酵素の親和性(K
m)を増加させるかまたはNPP1によるATPのPP
iへの代謝回転率(k
cat)を増加させる、ミカエリス−メンテン定数の変更をもたらすための、NPP1における特異的残基の操作が包含されることは当業者によって理解されるであろう。当業者であれば、本発明の教示および本明細書において報告される3次元構造を一度備えると、本明細書において含有されかつ記載される開示、知見、および知識によって可能となる、NPP1の活性部位内の残基の置換によって、これが達成され得ることも解するであろう。したがって、この効果の変異は、本出願による技術の方法として主張される。
【0096】
当業者であれば、本発明の教示および本明細書において報告される3次元構造を一度備えると、NPP1またはその変異体の血栓形成促進活性を減少させることには、Ap3Aに対するNPP1の親和性(K
m)を減少させるか、またはNPP1によるAp3AのADPへの代謝回転率(k
cat)を減少させる、この酵素のミカエリス−メンテン定数の変更をもたらすための、NPP1における特異的残基の操作が包含されることも解するであろう。したがって、この効果を達成する変異は、本出願による技術の方法として主張される。当業者であれば、本発明の教示、ならびに
図9および11において詳述されるNPP1内にドッキングされたAp3Aの分子を含めた、本明細書において報告される3次元構造を一度備えると、本明細書において含有されかつ記載される開示、知見、NPP1の分子構造、ならびに
図6〜7、9、および11において図示される、Ap3Aに結合しているNPP1のモデルの分子構造の使用、ならびに他の知識によって可能となる、Ap3Aのアデニン結合ポケットを低下させるかまたは排除するアミノ酸の占有空間を増加させるアミノ酸への、NPP4のアデニン結合ポケットを裏打ちするアミノ酸の置換または変更によって、これが達成され得ることも解するであろう。したがって、この効果への変異は、本出願による技術の方法として主張される。
【0097】
したがって、本発明は、NPP1ポリペプチド、組換えNPP1ポリペプチド、変異NPP1ポリペプチド、活性NPP1ポリペプチド断片、またはNPP1の発現もしくは活性の活性化因子の投与による、疾患または障害の予防および治療に関する。一態様において、NPP1ポリペプチドまたはその変異体は可溶性である。別の態様において、NPP1ポリペプチドまたはその変異体は組換えNPP1ポリペプチドである。一態様において、NPP1ポリペプチドまたはその変異体には、NPP1膜貫通ドメインを欠如しているNPP1ポリペプチドが含まれる。別の態様において、NPP1ポリペプチドまたはその変異体には、NPP1膜貫通ドメインが除去され、かつ非限定的な例としてNPP2などの別のポリペプチドの膜貫通ドメインで置き換えられているNPP1ポリペプチドが含まれる。
【0098】
いくつかの態様において、NPP1ポリペプチドまたはその変異体は、IgG Fcドメインを含む。他の態様において、NPP1ポリペプチドまたはその変異体は、NPP1ポリペプチドに骨を標的にさせるための、約2個〜約20個またはそれ以上の連続したアスパラギン酸残基を含むポリアスパラギン酸ドメインを含む。いくつかの態様において、NPP1ポリペプチドまたはその変異体は、IgG Fcドメインと、約2個〜約20個またはそれ以上の連続したアスパラギン酸残基を含むポリアスパラギン酸ドメインとを含む。他の態様において、NPP1タンパク質またはその変異体は、ヌクレアーゼドメインを除去するようにトランケートされている。特定の態様において、NPP1タンパク質またはその変異体は、SEQ ID NO: 1に対する残基約524〜残基約885のヌクレアーゼドメインを除去するようにトランケートされ、SEQ ID NO: 1に対する残基約186〜残基約586の触媒ドメインのみが残され、これが、該タンパク質の触媒活性を失わないようにすることに役立つ。
【0099】
NPP1またはその変異体のレベルの増加には、NPP1またはその変異体の量の増加(例えば、NPP1、その断片、またはその変異体の投与による、NPP1タンパク質発現を増加させることによるなど)が包含されることは当業者によって理解されるであろう。加えて、当業者であれば、NPP1またはその変異体のレベルの増加には、NPP1活性の増加が含まれることを解するであろう。したがって、NPP1またはその変異体のレベルまたは活性を増加させることには、NPP1、その断片、またはその変異体の投与、ならびにNPP1またはその変異体をコードする核酸の転写、翻訳、またはその両方を増加させることが含まれるが、それらに限定されるわけではなく;かつそれには、NPP1またはその変異体の任意の活性を増加させることも同様に含まれる。
【0100】
NPP1またはその変異体のレベルまたは活性の増加は、本明細書において開示されるもの、ならびに当技術分野において周知の方法または将来開発されることになる方法を含めた、多種多様な方法を用いて査定され得る。つまり、ルーチン的に仕事をする人であれば、本明細書において提供される開示に基づき、NPP1またはその変異体のレベルまたは活性を増加させることは、本明細書において記載される基質および産物の代謝回転に対するミカエリス・メンテン反応速度論を変更する、NPP1もしくはその変異体をコードする核酸(例えば、mRNA)のレベル、NPP1ポリペプチドもしくはその変異体のレベル、ならびに/または対象から得られた生物学的試料における活性のレベルを査定する方法を用いて容易に査定され得ることを解するであろう。
【0101】
当業者であれば、本明細書において提供される開示に基づき、本発明が、病的な石灰化または骨化に対して、全体的に(例えば、全身的に)または部分的に(例えば、局所的に、組織、臓器)治療されているかまたは治療され得る対象において有用であることを理解するであろう。一態様において、本発明は、病的な石灰化または骨化を治療または予防することにおいて有用である。当業者であれば、本明細書において提供される教示に基づき、本明細書において記載される組成物および方法によって治療可能な疾患および障害には、石灰化または骨化の減少がプラスの治療成果を促進すると考えられる任意の疾患または障害が包含されることを解するであろう。
【0102】
当業者であれば、NPP1またはその変異体を直接活性化することに加えて、それ自体がNPP1またはその変異体の量または活性を低くさせる分子の量または活性を低くさせることは、NPP1またはその変異体の量または活性を増加させる働きをし得ることに気づくであろう。したがって、活性化因子には、化学的化合物、タンパク質、ペプチド模倣体、抗体、リボザイム、およびアンチセンス核酸分子が含まれ得るが、それらに限定されると見なされるべきではない。当業者であれば、本明細書において提供される開示に基づき、活性化因子には、NPP1またはその変異体のレベル、酵素活性、または基質結合活性を増加させる化学的化合物が包含されることを容易に解するであろう。加えて、化学の技術分野における当業者に周知であるように、活性化因子には、化学的に改変された化合物および誘導体が包含される。
【0103】
本明細書において提供される開示に基づき、NPP1またはその変異体のレベルの増加には、NPP1またはその変異体の転写、翻訳、またはその両方を含めた、発現の増加が包含されることは当業者によって理解されるであろう。当業者であれば、本発明の教示を一度備えると、NPP1またはその変異体のレベルの増加には、NPP1またはその変異体の活性(例えば、酵素活性、基質結合活性など)の増加が含まれることも解するであろう。したがって、NPP1またはその変異体のレベルまたは活性を増加させることには、NPP1ポリペプチドまたはその変異体の量を増加させること、NPP1またはその変異体をコードする核酸の転写、翻訳、またはその両方を増加させることが含まれるが、それらに限定されるわけではなく;かつそれには、NPP1ポリペプチドまたはその変異体の任意の活性を増加させることも同様に含まれる。本発明の活性化因子組成物および方法は、NPP1もしくはその変異体を選択的に活性化し得、またはNPP1もしくはその変異体、および非限定的な例としてNPP4などの別の分子の両方を活性化し得る。
【0104】
したがって、本発明は、NPP1ポリペプチド、組換えNPP1ポリペプチド、変異NPP1ポリペプチド、活性NPP1ポリペプチド断片、またはNPP1の発現もしくは活性の活性化因子の投与に関する。一態様において、NPP1ポリペプチドまたはその変異体は可溶性である。別の態様において、NPP1ポリペプチドまたはその変異体は組換えポリペプチドである。一態様において、NPP1ポリペプチドまたはその変異体には、NPP1膜貫通ドメインを欠如しているNPP1ポリペプチドまたはその変異体が含まれる。別の態様において、NPP1ポリペプチドまたはその変異体には、NPP1膜貫通ドメインまたはその変異体が除去され、かつ非限定的な例としてNPP2などの別のポリペプチドの膜貫通ドメインで置き換えられているNPP1ポリペプチドまたはその変異体が含まれる。
【0105】
さらに、当業者であれば、本開示および本明細書において例示される方法を授かった場合、NPP1活性化因子には、本明細書において詳細に記載されるかつ/または当技術分野において公知であるNPP1の活性化についての生理学的結果など、薬理学の技術分野における周知の基準によって同定され得る、将来発見されるような活性化因子が含まれることを解するであろう。したがって、本発明は、本明細書において例示または開示される任意の特定のNPP1活性化因子または変異NPP1活性化因子に限定されるわけでは決してなく、むしろ本発明は、当技術分野において公知であるようなおよび将来発見されるような、ルーチン的に仕事をする人によって有用であると理解されるそうした活性化因子を包含する。
【0106】
天然に存在する供給源(例えば、ストレプトマイセス(Streptomyces)属、シュードモナス(Pseudomonas)属、スチロテラ・オウランティウム(Stylotella aurantium)など)から活性化因子を獲得することを含むがそれに限定されない、NPP1活性化因子を同定および産生するさらなる方法が当業者に周知である。代替的に、NPP1活性化因子は化学的に合成され得る。さらに、ルーチン的に仕事をする人であれば、本明細書において提供される教示に基づき、NPP1活性化因子は、哺乳類タンパク質発現系、昆虫細胞タンパク質発現系、および酵母タンパク質発現系を含むがそれらに限定されない、組換えタンパク質発現系から獲得され得ることを解するであろう。NPP1活性化因子または変異NPP1活性化因子を化学的に合成するための、およびそれらを天然供給源から獲得するための組成物および方法は、当技術分野において周知でありかつ当技術分野において記載されている。
【0107】
当業者であれば、活性化因子は、小分子化学物質、タンパク質、タンパク質をコードする核酸構築物、またはそれらの組み合わせとして投与され得ることを解するであろう。細胞または組織にタンパク質またはタンパク質をコードする核酸構築物を投与するための、多くのベクターならびに他の組成物および方法が周知である。したがって、本発明は、NPP1またはその変異体の活性化因子であるタンパク質またはタンパク質をコードする核酸を投与する方法を含む(Sambrook et al., 2012, Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory, New York;Ausubel et al., 1997, Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, New York)。
【0108】
当業者であれば、それ自体がNPP1またはその変異体の量または活性を減らす分子の量または活性を減らすことは、NPP1またはその変異体の量または活性を増加させる働きをし得ることに気づくであろう。アンチセンスオリゴヌクレオチドとは、mRNA分子のある部分に相補的であるDNAまたはRNA分子である。細胞内に存在している場合、アンチセンスオリゴヌクレオチドは、既存のmRNA分子にハイブリダイズしかつ遺伝子産物への翻訳を阻害する。細胞内でアンチセンスオリゴヌクレオチドを発現させる方法がそうであるように(Inoue、米国特許第5,190,931号)、アンチセンスオリゴヌクレオチドを用いて遺伝子の発現を阻害することは、当技術分野において周知である(Marcus-Sekura, 1988, Anal. Biochem. 172:289)。本発明の方法は、NPP1またはその変異体の量または活性の減少を引き起こす分子の量を減らすためのアンチセンスオリゴヌクレオチドの使用を含み、それによって、NPP1またはその変異体の量または活性は増加する。当業者に周知の方法によって合成されかつ細胞に提供されるアンチセンスオリゴヌクレオチドが、本発明において企図される。一例として、アンチセンスオリゴヌクレオチドは、約10個〜約100個、より好ましくは約15個〜約50個のヌクレオチド長であるように合成され得る。非改変アンチセンスオリゴヌクレオチドと比較して生物学的活性を向上させる改変アンチセンスオリゴヌクレオチドの合成がそうであるように、核酸分子の合成は当技術分野において周知である(米国特許第5,023,243号)。
【0109】
同様に、遺伝子の発現は、遺伝子のプロモーターまたは他の調節エレメントへのアンチセンス分子のハイブリダイゼーションによって阻害され得、それによって該遺伝子の転写は影響を受ける。関心対象の遺伝子と相互作用するプロモーターまたは他の調節エレメントの同定のための方法は、当術分野において周知であり、酵母ツーハイブリッドシステムなどの方法を含む(Bartel and Fields, eds., The Yeast Two Hybrid System, Oxford University Press, Cary, N.C.)。
【0110】
代替的に、NPP1またはその変異体のレベルまたは活性を減らすタンパク質を発現する遺伝子の阻害は、リボザイムの使用によって達成され得る。遺伝子発現を阻害するためにリボザイムを用いることは、当業者に周知である(例えば、Cech et al., 1992, J. Biol. Chem. 267:17479;Hampel et al., 1989, Biochemistry 28:4929;Altmanら、米国特許第5,168,053号を参照されたい)。リボザイムとは、他の一本鎖RNA分子を切断し得る能力を有する触媒RNA分子である。リボザイムは配列特異的であることが知られており、したがって特異的ヌクレオチド配列を認識するように改変され得(Cech, 1988, J. Amer. Med. Assn. 260:3030)、特異的mRNA分子の選択的切断が可能となる。本開示および本明細書に組み入れられる参照文献を提供されれば、分子のヌクレオチド配列を考慮して、当業者であれば、過度な実験なしで、アンチセンスオリゴヌクレオチドまたはリボザイムを合成し得るであろう。
【0111】
当業者であれば、NPP1活性化因子、NPP1ポリペプチド、組換えNPP1ポリペプチド、変異NPP1ポリペプチド、または活性NPP1ポリペプチド断片は、単独でまたはそれらの任意の組み合わせで投与され得ることを解するであろう。当業者であれば、適切な投与は、急性的(例えば、1日、1週間、または1ヶ月などの短い期間にわたる)または慢性的(例えば、数週間、数ヶ月、もしくは1年、またはそれ以上の長い期間にわたる)であり得ることも解するであろう。さらに、NPP1ポリペプチド、組換えNPP1ポリペプチド、変異NPP1ポリペプチド、または活性NPP1ポリペプチド断片は、それらが同時に、互いの前および/または後に投与され得るという点において時間的な意味で、単独でまたはそれらの任意の組み合わせで投与され得る。当業者であれば、本明細書において提供される開示に基づき、NPP1ポリペプチド、組換えNPP1ポリペプチド、変異NPP1ポリペプチド、または活性NPP1ポリペプチド断片を用いて、病的な石灰化または骨化を治療し得るかまたは予防し得ること、および活性化因子を、単独で、または別のNPP1ポリペプチド、組換えNPP1ポリペプチド、活性NPP1ポリペプチド断片、もしくはNPP1活性化因子との任意の組み合わせで用いて、治療結果をもたらし得ることを解するであろう。
【0112】
本明細書において詳述される方法を含めた本開示を備えた場合、本発明は、一度確立された疾患または障害の治療に限定されるわけではないことが当業者によって解されるであろう。特に、疾患または障害の症状は、対象にとって損害となる時点まで現れている必要はなく、実際に、疾患または障害は、治療が施される前に対象において検出される必要はない。つまり、本発明が有益性を提供し得る前に、疾患または障害からの重大な病状が生じる必要はない。したがって、本明細書においてより十分に記載されるように、本発明は、本明細書における他の箇所で論じられるNPP1ポリペプチド、その断片、誘導体、もしくは変異体、またはNPP1活性化因子もしくは変異NPP1活性化因子を、疾患または障害の発生前に対象に投与して、それによって疾患または障害が発症するのを予防することができるという点において、対象において疾患および障害を予防するための方法を含む。
【0113】
当業者であれば、本明細書における開示を備えた場合、対象における疾患または障害の予防には、疾患または障害に対する予防対策として、NPP1ポリペプチド、組換えNPP1ポリペプチド、変異NPP1ポリペプチド、活性NPP1ポリペプチド断片、またはNPP1活性化因子を対象に投与することが包含されることを解するであろう。一態様において、NPP1ポリペプチドは可溶性である。別の態様において、NPP1ポリペプチドは組換えNPP1ポリペプチドである。一態様において、NPP1ポリペプチドには、NPP1膜貫通ドメインを欠如しているNPP1ポリペプチドが含まれる。別の態様において、NPP1ポリペプチドには、NPP1膜貫通ドメインが除去され、かつ非限定的な例としてNPP2などの別のポリペプチドの膜貫通ドメインで置き換えられているNPP1ポリペプチドが含まれる。
【0114】
いくつかの態様において、NPP1ポリペプチドはIgG Fcドメインを含む。他の態様において、NPP1ポリペプチドは、NPP1ポリペプチドに骨を標的にさせるための、約2個〜約20個またはそれ以上の連続したアスパラギン酸残基を含むポリアスパラギン酸ドメインを含む。いくつかの態様において、NPP1ポリペプチドは、IgG Fcドメインと、約2個〜約20個またはそれ以上の連続したアスパラギン酸残基を含むポリアスパラギン酸ドメインとを含む。他の態様において、NPP1タンパク質は、ヌクレアーゼドメインを除去するようにトランケートされている。特定の態様において、NPP1タンパク質は、SEQ ID NO: 1に対する残基約524〜残基約885のヌクレアーゼドメインを除去するようにトランケートされ、SEQ ID NO: 1に対する残基約186〜残基約586の触媒ドメインのみが残され、これが、該タンパク質の触媒活性を失わないようにすることに役立つ。
【0115】
本明細書における他の箇所でより十分に論じられるように、NPP1のレベルまたは活性を増加させる方法には、NPP1活性を増加させるだけでなく、NPP1をコードする核酸の発現を増加させるための広く多量な技術が包含される。加えて、本明細書における他の箇所で開示されるように、当業者であれば、本明細書において提供される教示を一度備えると、本発明は、NPP1の発現および/または活性の増加により疾患または障害が調整、治療、または予防される、多種多様な疾患または障害を予防する方法を包含することを理解するであろう。さらに、本発明は、将来発見されるそのような疾患または障害の治療または予防を包含する。
【0116】
本発明は、本発明の方法を実践するための、NPP1ポリペプチド、組換えNPP1ポリペプチド、変異NPP1ポリペプチド、活性NPP1ポリペプチド断片、NPP1活性化因子、またはNPP1様ATPヒドロラーゼ活性を呈するように改変された変異NPP4ポリペプチドの投与を包含し、当業者であれば、本明細書において提供される開示に基づき、適切なNPP1ポリペプチド、組換えNPP1ポリペプチド、活性NPP1ポリペプチド断片、またはNPP1活性化因子を製剤化する方法および対象に投与する方法を理解するであろう。しかしながら、本発明は、任意の特定の投与の方法または治療レジメンに限定されるわけではない。このことは、NPP1ポリペプチド、組換えNPP1ポリペプチド、変異NPP1ポリペプチド、活性NPP1ポリペプチド断片、またはNPP1活性化因子を投与する方法は、薬理学の技術分野における当業者によって決定され得ることが、病的な石灰化または骨化についての当技術分野において認識されているモデルを用いた実践化を含めた、本明細書において提供される開示を授かった当業者によって解されるであろう場合にとりわけあてはまる。
【0117】
NPP4治療的活性化因子組成物および方法
様々な態様において、本発明は、NPP4のレベルまたは活性を増加させるNPP4活性化因子組成物および方法を含む。様々な態様において、本発明のNPP4活性化因子組成物および治療の方法は、NPP4ポリペプチドの量、NPP4 mRNAの量、NPP4酵素活性の量、NPP4基質結合活性の量、またはそれらの組み合わせを増加させる。様々な態様において、病的な石灰化または骨化の減少が治療成果を向上させ得る疾患および障害には、IIAC、OPLL、低リン酸血症性くる病、変形性関節症、および、アテローム性動脈硬化プラークの石灰化が含まれるが、それらに限定されるわけではない。
【0118】
本明細書において報告される3次元構造を含めた、本明細書において提供される開示に基づき、NPP4またはその変異体のATP加水分解活性の増加には、ATPに対するこの酵素の親和性を増加させる(K
mを増加させる)、またはNPP4によるATPのPP
iへの代謝回転率を増加させる(k
catを増加させる)、ミカエリス−メンテン定数の変更に影響を及ぼすための、NPP4における特異的アミノ酸の操作が包含されることは当業者によって理解されるであろう。当業者であれば、本明細書において報告される3次元構造を含めた、本発明の教示を一度備えると、
図9において図示される2種の酵素の活性部位についての詳細な解析、およびNPP1におけるリジン立爪のNPP4内での再現を含むがそれらに限定されない、本明細書において含有されかつ記載される開示、知見、および知識によって可能となる、NPP4の活性部位へのNPP1の活性部位内の残基の置換によって、これが達成され得ることも解するであろう。したがって、この効果の変異は、本出願による技術の方法として主張される。
【0119】
当業者であれば、本発明の教示および本明細書において報告される3次元構造を一度備えると、NPP4またはその変異体の血栓形成促進活性を減少させることには、Ap3Aに対するNPP4の親和性を減少させる(K
mを減少させる)、またはNPP1によるAp3AのADPへの代謝回転率を減少させる(k
catを減少させる)、この酵素のミカエリス−メンテン定数の変更が包含されることも解するであろう。当業者であれば、本発明の教示、ならびにNPP4内にドッキングされたAp3Aの分子を含めた、本明細書において報告される3次元構造を一度備えると、本明細書において含有されかつ記載される開示、知見、NPP4の分子構造、ならびに
図6〜7、9、および11において詳述される、Ap3Aに結合しているNPP4のモデルの分子構造、ならびに他の知識によって可能となる、NPP4内のAp3Aのアデニン結合ポケットを低下させるかまたは排除するアミノ酸の占有空間を増加させるアミノ酸への、NPP4のアデニン結合ポケットを裏打ちするアミノ酸の置換または変更によって、これが達成され得ることも解するであろう。したがって、この効果の変異は、本出願による技術の方法として主張される。
【0120】
本明細書において提供される開示に基づき、NPP4のレベルの増加には、転写、翻訳、またはその両方を含めた、NPP4発現の増加が包含されることは当業者によって理解されるであろう。当業者であれば、本発明の教示を一度備えると、NPP4のレベルの増加には、NPP4活性(例えば、酵素活性、基質結合活性など)の増加が含まれることも解するであろう。したがって、NPP4のレベルまたは活性を増加させることには、NPP4ポリペプチドの量を増加させること、およびNPP4をコードする核酸の転写、翻訳、またはその両方を増加させることが含まれるが、それらに限定されるわけではなく;かつそれには、NPP4ポリペプチドの任意の活性を増加させることも同様に含まれる。本発明のNPP4活性化因子組成物および方法は、NPP4を選択的に活性化し得、またはNPP4、および非限定的な例としてNPP1などの別の分子の両方を活性化し得る。
【0121】
したがって、本発明は、NPP4ポリペプチド、組換えNPP4ポリペプチド、変異NPP4ポリペプチド、活性NPP4ポリペプチド断片、またはNPP4の発現もしくは活性の活性化因子を含めたNPP4の投与による、疾患または障害の予防および治療に関する。一態様において、NPP4は可溶性である。別の態様において、NPP4は組換えNPP4ポリペプチドである。一態様において、NPP4には、NPP4膜貫通ドメインを欠如しているNPP4ポリペプチドが含まれる。別の態様において、NPP4には、NPP4膜貫通ドメインが除去され、かつ別のポリペプチドの膜貫通ドメインで置き換えられているNPP4ポリペプチドが含まれる。一態様において、NPP4には、NPP4細胞質ドメインを欠如しているNPP4ポリペプチドが含まれる。別の態様において、NPP4には、NPP4細胞質ドメインが除去され、かつ別のポリペプチドの細胞質ドメインで置き換えられているNPP4ポリペプチドが含まれる。さらに別の態様において、NPP4は、NPP1様ATP加水分解活性を呈するように改変されている。一態様において、本明細書における他の箇所で記載されるように変異NPP4ポリペプチドは、NPP1様ATP加水分解活性を呈するように改変され、IgG Fcおよび/またはポリアスパラギン酸ドメインに融合している。一態様において、変異NPP4ポリペプチドは、NPP4ポリペプチドの基質選択性をAp3AからATPに変化させる少なくとも1つの変異を含む。様々な態様において、変異NPP4ポリペプチドは、非限定的な例として、SEQ NO ID: 3に対するD335、S92、D264、L265、S330、Q331、K332、またはT323などの、NPP4ポリペプチドの基質選択性をAp3AからATPに変化させる少なくとも1つの変異を含む。
【0122】
NPP4のレベルの増加には、NPP4の量の増加(例えば、NPP4またはその変異体もしくは断片の投与による、NPP4タンパク質発現を増加させることによるなど)が包含されることは当業者によって理解されるであろう。加えて、当業者であれば、NPP4のレベルの増加には、NPP4活性の増加が含まれることを解するであろう。したがって、NPP4のレベルまたは活性を増加させることには、NPP4またはその変異体もしくは断片の投与、ならびに、NPP4をコードする核酸の転写、翻訳、またはその両方を増加させることが含まれるが、それらに限定されるわけではなく、かつそれには、NPP4の任意の活性を増加させることも同様に含まれる。
【0123】
NPP4のレベルまたは活性の増加は、本明細書において開示されるものならびに当技術分野において周知の方法または将来開発されることになる方法を含めた、多種多様な方法を用いて査定され得る。つまり、ルーチン的に仕事をする人であれば、本明細書において提供される開示に基づき、NPP4のレベルまたは活性を増加させることは、NPP4をコードする核酸(例えば、mRNA)のレベル、NPP4ポリペプチドのレベル、および/または対象から得られた生物学的試料におけるNPP4活性のレベルを査定する方法を用いて容易に査定され得ることを解するであろう。
【0124】
当業者であれば、本明細書において提供される開示に基づき、本発明が、病的な石灰化または骨化に対して、全体的に(例えば、全身的に)または部分的に(例えば、局所的に、組織、臓器)治療されている対象または治療され得る対象において有用であることを理解するであろう。一態様において、本発明は、病的な石灰化または骨化を治療または予防することにおいて有用である。当業者であれば、本明細書において提供される教示に基づき、本明細書において記載される組成物および方法によって治療可能な疾患および障害には、石灰化または骨化の減少がプラスの治療成果を促進すると考えられる任意の疾患または障害が包含されることを解するであろう。
【0125】
当業者であれば、NPP4を直接活性化することに加えて、それ自体がNPP4の量または活性を減らす分子の量または活性を減らすことは、NPP4の量または活性を増加させる働きをし得ることに気づくであろう。したがって、NPP4活性化因子には、化学的化合物、タンパク質、ペプチド模倣体、抗体、リボザイム、およびアンチセンス核酸分子が含まれ得るが、それらに限定されると見なされるべきではない。当業者であれば、本明細書において提供される開示に基づき、NPP4活性化因子には、NPP4のレベル、酵素活性、または基質結合活性を増加させる化学的化合物が包含されることを容易に解するであろう。加えて、化学の技術分野における当業者に周知であるように、NPP4活性化因子には、化学的に改変された化合物および誘導体が包含される。
【0126】
本明細書において提供される開示に基づき、NPP4のレベルの増加には、転写、翻訳、またはその両方を含めた、NPP4発現の増加が包含されることは当業者によって理解されるであろう。当業者であれば、本発明の教示を一度備えると、NPP4のレベルの増加には、NPP4活性(例えば、酵素活性、基質結合活性など)の増加が含まれることも解するであろう。したがって、NPP4のレベルまたは活性を増加させることには、NPP4ポリペプチドの量を増加させること、NPP4をコードする核酸の転写、翻訳、またはその両方を増加させることが含まれるが、それらに限定されるわけではなく;かつそれには、NPP4ポリペプチドの任意の活性を増加させることも同様に含まれる。本発明のNPP4活性化因子組成物および方法は、NPP4を選択的に活性化し得、またはNPP4、および非限定的な例としてNPP1などの別の分子の両方を活性化し得る。したがって、本発明は、NPP4ポリペプチド、組換えNPP4ポリペプチド、変異NPP4ポリペプチド、活性NPP4ポリペプチド断片、またはNPP4の発現もしくは活性の活性化因子の投与に関する。一態様において、NPP4は可溶性である。別の態様において、NPP4は組換えNPP4ポリペプチドである。一態様において、NPP4には、NPP4膜貫通ドメインを欠如しているNPP4ポリペプチドが含まれる。別の態様において、NPP4には、NPP4膜貫通ドメインが除去され、かつ別のポリペプチドの膜貫通ドメインで置き換えられているNPP4ポリペプチドが含まれる。一態様において、NPP4には、NPP4細胞質ドメインを欠如しているNPP4ポリペプチドが含まれる。別の態様において、NPP4には、NPP4細胞質ドメインが除去され、かつ別のポリペプチドの細胞質ドメインで置き換えられているNPP4ポリペプチドが含まれる。さらに別の態様において、NPP4は、NPP1様ATP加水分解活性を呈するように改変されている。一態様において、本明細書における他の箇所で記載されるように、NPP1様ATP加水分解活性を呈するように改変されたNPP4は、IgG Fcおよび/またはポリアスパラギン酸ドメインに融合している。一態様において、変異NPP4ポリペプチドは、NPP4ポリペプチドの基質選択性をAp3AからATPに変化させる少なくとも1つの変異を含む。様々な態様において、NPP4ポリペプチドは、非限定的な例として、SEQ ID NO: 3に対するD335、S92、D264、L265、S330、Q331、K332、またはT323などの、NPP4ポリペプチドの基質選択性をAp3AからATPに変化させる少なくとも1つの変異を含む。
【0127】
さらに、当業者であれば、本開示および本明細書において例示される方法を授かった場合、NPP4活性化因子には、本明細書において詳細に記載されるかつ/または当技術分野において公知であるNPP4の活性化についての生理学的結果など、薬理学の技術分野における周知の基準によって同定され得る、将来発見されるような活性化因子が含まれることを解するであろう。したがって、本発明は、本明細書において例示または開示される任意の特定のNPP4活性化因子に限定されるわけでは決してなく、むしろ本発明は、当技術分野において公知であるようなおよび将来発見されるような、ルーチン的に仕事をする人によって有用であると理解されるそうした活性化因子を包含する。
【0128】
天然に存在する供給源(例えば、ストレプトマイセス属、シュードモナス属、スチロテラ・オウランティウムなど)から活性化因子を獲得することを含むがそれに限定されない、NPP4活性化因子を同定および産生するさらなる方法が当業者に周知である。代替的に、NPP4活性化因子は化学的に合成され得る。さらに、ルーチン的に仕事をする人であれば、本明細書において提供される教示に基づき、NPP4活性化因子は、組換え生物から獲得され得ることを解するであろう。NPP4活性化因子を化学的に合成するための、およびそれらを天然供給源から獲得するための組成物および方法は、当技術分野において周知でありかつ当技術分野において記載されている。
【0129】
当業者であれば、活性化因子は、小分子化学物質、タンパク質、タンパク質をコードする核酸構築物、またはそれらの組み合わせとして投与され得ることを解するであろう。細胞または組織にタンパク質またはタンパク質をコードする核酸構築物を投与するための、多くのベクターならびに他の組成物および方法が周知である。したがって、本発明は、NPP4の活性化因子であるタンパク質またはタンパク質をコードする核酸を投与する方法を含む(Sambrook et al., 2012, Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory, New York;Ausubel et al., 1997, Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, New York)。
【0130】
当業者であれば、それ自体がNPP4の量または活性を減らす分子の量または活性を減らすことは、NPP4の量または活性を増加させる働きをし得ることに気づくであろう。アンチセンスオリゴヌクレオチドとは、mRNA分子のある部分に相補的であるDNAまたはRNA分子である。細胞内に存在している場合、アンチセンスオリゴヌクレオチドは、既存のmRNA分子にハイブリダイズしかつ遺伝子産物への翻訳を阻害する。細胞内でアンチセンスオリゴヌクレオチドを発現させる方法がそうであるように(Inoue、米国特許第5,190,931号)、アンチセンスオリゴヌクレオチドを用いて遺伝子の発現を阻害することは、当技術分野において周知である(Marcus-Sekura, 1988, Anal. Biochem. 172:289)。本発明の方法は、NPP4の量または活性の減少を引き起こす分子の量を減らすためのアンチセンスオリゴヌクレオチドの使用を含み、それによってNPP4の量または活性は増加する。当業者に周知の方法によって合成されかつ細胞に提供されるアンチセンスオリゴヌクレオチドが、本発明において企図される。一例として、アンチセンスオリゴヌクレオチドは、約10個〜約100個、より好ましくは約15個〜約50個のヌクレオチド長であるように合成され得る。非改変アンチセンスオリゴヌクレオチドと比較して生物学的活性を向上させる改変アンチセンスオリゴヌクレオチドの合成がそうであるように、核酸分子の合成は当技術分野において周知である(Tullis、1991、米国特許第5,023,243号)。
【0131】
同様に、遺伝子の発現は、遺伝子のプロモーターまたは他の調節エレメントへのアンチセンス分子のハイブリダイゼーションによって阻害され得、それによって該遺伝子の転写は影響を受ける。関心対象の遺伝子と相互作用するプロモーターまたは他の調節エレメントの同定のための方法は、当術分野において周知であり、酵母ツーハイブリッドシステムなどの方法を含む(Bartel and Fields, eds., The Yeast Two Hybrid System, Oxford University Press, Cary, N.C.)。
【0132】
代替的に、NPP4のレベルまたは活性を減らすタンパク質を発現する遺伝子の阻害は、リボザイムの使用によって達成され得る。遺伝子発現を阻害するためにリボザイムを用いることは、当業者に周知である(例えば、Cech et al., 1992, J. Biol. Chem. 267:17479;Hampel et al., 1989, Biochemistry 28:4929;Altmanら、米国特許第5,168,053号を参照されたい)。リボザイムとは、他の一本鎖RNA分子を切断し得る能力を有する触媒RNA分子である。リボザイムは配列特異的であることが知られており、したがって特異的ヌクレオチド配列を認識するように改変され得(Cech, 1988, J. Amer. Med. Assn. 260:3030)、特異的mRNA分子の選択的切断が可能となる。本開示および本明細書に組み入れられる参照文献を提供されれば、分子のヌクレオチド配列を考慮して、当業者であれば、過度な実験なしでアンチセンスオリゴヌクレオチドまたはリボザイムを合成し得るであろう。
【0133】
当業者であれば、NPP4活性化因子、NPP4ポリペプチド、組換えNPP4ポリペプチド、変異NPP4ポリペプチド、または活性NPP4ポリペプチド断片は、単独でまたはそれらの任意の組み合わせで投与され得ることを解するであろう。当業者であれば、適切な投与は、急性的(例えば、1日、1週間、または1ヶ月などの短い期間にわたる)または慢性的(例えば、数週間、数ヶ月、もしくは1年、またはそれ以上の長い期間にわたる)であり得ることも解するであろう。さらに、NPP4ポリペプチド、組換えNPP4ポリペプチド、変異NPP4ポリペプチド、または活性NPP4ポリペプチド断片は、それらが同時に、互いの前および/または後に投与され得るという点において時間的な意味で、単独でまたはそれらの任意の組み合わせで投与され得る。当業者であれば、本明細書において提供される開示に基づき、NPP4ポリペプチド、組換えNPP4ポリペプチド、変異NPP4ポリペプチド、または活性NPP4ポリペプチド断片を用いて、病的な石灰化または骨化を治療し得るかまたは予防し得ること、および活性化因子を、単独で、または別のNPP4ポリペプチド、組換えNPP4ポリペプチド、活性NPP4ポリペプチド断片、もしくはNPP4活性化因子との任意の組み合わせで用いて、治療結果をもたらし得ることを解するであろう。
【0134】
本明細書において詳述される方法を含めた本開示を備えた場合、本発明は、一度確立された疾患または障害の治療に限定されるわけではないことが当業者によって解されるであろう。特に、疾患または障害の症状は、対象にとって損害となる時点まで現れている必要はなく、実際に、疾患または障害は、治療が施される前に対象において検出される必要はない。つまり、本発明が有益性を提供し得る前に、疾患または障害からの重大な病状が生じる必要はない。したがって、本明細書においてより十分に記載されるように、本発明は、本明細書における他の箇所で論じられるNPP4ポリペプチド、またはその断片、誘導体、もしくは変異体、あるいはNPP4活性化因子を、疾患または障害の発生前に対象に投与して、それによって疾患または障害が発症するのを予防することができるという点において、対象において疾患および障害を予防するための方法を含む。
【0135】
当業者であれば、本明細書における開示を備えた場合、対象における疾患または障害の予防には、疾患または障害に対する予防対策として、NPP4ポリペプチド、組換えNPP4ポリペプチド、変異NPP4ポリペプチド、活性NPP4ポリペプチド断片、またはNPP4活性化因子を含めたNPP4を対象に投与することが包含されることを解するであろう。一態様において、NPP4は可溶性である。別の態様において、NPP4は組換えNPP4ポリペプチドである。一態様において、NPP4には、NPP4膜貫通ドメインを欠如しているNPP4ポリペプチドが含まれる。別の態様において、NPP4には、NPP4膜貫通ドメインが除去され、かつ別のポリペプチドの膜貫通ドメインで置き換えられているNPP4ポリペプチドが含まれる。一態様において、NPP4には、NPP4細胞質ドメインを欠如しているNPP4ポリペプチドが含まれる。別の態様において、NPP4には、NPP4細胞質ドメインが除去され、かつ別のポリペプチドの細胞質ドメインで置き換えられているNPP4ポリペプチドが含まれる。さらに別の態様において、NPP4は、NPP1様ATP加水分解活性を呈するように改変されている。一態様において、本明細書における他の箇所で記載されるように、NPP1様ATP加水分解活性を呈するように改変されたNPP4は、IgG Fcおよび/またはポリアスパラギン酸ドメインに融合している。一態様において、変異NPP4ポリペプチドは、NPP4ポリペプチドの基質選択性をAp3AからATPに変化させる少なくとも1つの変異を含む。様々な態様において、変異NPP4ポリペプチドは、非限定的な例として、SEQ ID NO: 3に対するD335、S92、D264、L265、S330、Q331、K332、またはT323などの、NPP4ポリペプチドの基質選択性をAp3AからATPに変化させる少なくとも1つの変異を含む。
【0136】
本明細書における他の箇所でより十分に論じられるように、NPP4のレベルまたは活性を増加させる方法には、NPP4活性を増加させるだけでなく、NPP4をコードする核酸の発現を増加させるための広く多量な技術が包含される。加えて、本明細書における他の箇所で開示されるように、当業者であれば、本明細書において提供される教示を一度備えると、本発明は、NPP4の発現および/または活性の増加により疾患または障害が調整、治療、または予防される、多種多様な疾患または障害を予防する方法を包含することを理解するであろう。さらに、本発明は、将来発見されるそのような疾患または障害の治療または予防を包含する。
【0137】
本発明は、本発明の方法を実践するための、NPP4ポリペプチド、組換えNPP4ポリペプチド、変異NPP4ポリペプチド、活性NPP4ポリペプチド断片、またはNPP4活性化因子を含めたNPP4の投与を包含し、当業者であれば、本明細書において提供される開示に基づき、適切なNPP4ポリペプチド、組換えNPP4ポリペプチド、活性NPP4ポリペプチド断片、またはNPP4活性化因子を製剤化する方法および対象に投与する方法を理解するであろう。しかしながら、本発明は、任意の特定の投与の方法または治療レジメンに限定されるわけではない。このことは、NPP4ポリペプチド、組換えNPP4ポリペプチド、変異NPP4ポリペプチド、活性NPP4ポリペプチド断片、またはNPP4活性化因子を投与する方法は、薬理学の技術分野における当業者によって決定され得ることが、病的な石灰化または骨化についての当技術分野において認識されているモデルを用いた実践化を含めた、本明細書において提供される開示を授かった当業者によって解されるであろう場合にとりわけあてはまる。
【0138】
当業者であれば、せいぜいルーチン実験、本明細書において記載される具体的な手順、態様、特許請求の範囲、および実施例の多くの同等物を用いることを認識するであろうまたは究明し得るであろう。そのような同等物は、本発明の範囲内にありかつそれに付随する特許請求の範囲によって網羅されると見なされた。例えば、当技術分野において認識されている代替物による、およびせいぜいルーチン実験を用いた、反応時間、反応サイズ/容量、および溶媒、触媒などの実験試薬、圧力、大気条件、例えば窒素大気、および還元剤/酸化剤を含むがそれらに限定されない反応条件の改変は、本出願の範囲内にあると理解されるべきである。
【0139】
値および値域が本明細書において提供される場合にはいつでも、これらの値および値域によって包含されるすべての値および値域は、本発明の範囲内に包含されることを意味することが理解されなければならない。さらに、これらの値域内に入るすべての値、ならびに値の値域の上限または下限も、本出願によって企図される。
【0140】
以下の実施例は、本発明の局面をさらに例証する。しかしながら、それらは、本明細書において明示される本発明の教示または開示の限定では決してない。
【実施例】
【0141】
ここで本発明は、以下の実施例を参照して記載される。これらの実施例は、例証のみの目的のために提供されるものであり、本発明は、これらの実施例に限定されるわけではなく、むしろ本明細書において提供される教示の結果として明白であるすべての変動を包含する。
【0142】
クローニングおよび発現
NPP1およびNPP4は、個別の膜内ドメインを有して細胞表面に局在する膜貫通型タンパク質である。例えば、NPP1はII型配向にあり、一方でNPP4はI型配向にある。対照的に、NPP2は、プレプロタンパク質として合成され、タンパク質分解プロセシングの後、フーリンによる細胞外ドメインの切断後に可溶性タンパク質として分泌される(Jansen et al., 2005, J. Cell Sci. 118:3081-3089)。バキュロウイルス内で可溶性組換えタンパク質としてNPP4を発現させるために、該タンパク質構築物から細胞質ドメインおよび膜貫通ドメインを除いた。対照的に、可溶性細胞外タンパク質としてNPP1を発現させるために、NPP1の膜貫通ドメインをNPP2の膜貫通ドメインと交換し、それにより、バキュロウイルス培養物の細胞外液中に可溶性組換えNPP1の蓄積がもたらされた。
【0143】
膜貫通ドメインを除くことによって、NPP1を可溶性にし得る。ヒトNPP1(NCBIアクセッションNP_006199)を、その膜貫通領域(例えば、残基77〜98)を対応するヒトNPP2のサブドメイン(NCBIアクセッションNP_001124335、例えば、残基12〜30)で置き換えることによって、可溶性組換えタンパク質を発現するように改変した。改変したNPP1配列を、TEVプロテアーゼ切断部位、それに続くC末9-HISタグを保有する改変型pFastbac HTベクター中にクローン化し、および昆虫細胞内でクローン化しかつ発現させ、ならびに以前に記載されているように両タンパク質をバキュロウイル系で発現させ(Albright et al., 2012, Blood 120:4432-4440;Saunders et al., 2011, J. Biol. Chem. 18:994-1004;Saunders et al., 2008, Mol. Cancer Ther. 7:3352-3362)、細胞外液中に可溶性組換えタンパク質の蓄積をもたらした(
図2〜3)。
【0144】
配列
NPP1アミノ酸配列(NCBIアクセッションNP_006199)(SEQ ID NO: 1)
NPP2アミノ酸配列(NCBIアクセッションNP_001124335)(SEQ ID NO: 2)
NPP4アミノ酸配列(NCBIアクセッションAAH18054.1)(SEQ ID NO: 3)
【0145】
精製
タンパク質をニッケルアフィニティーカラムによって精製し、かつイミダゾールを用いた溶出後に、C末ヒスチジンタグを、タバコエッチ病ウイルス(TEV)プロテアーゼを用いて該タンパク質から切り除いた。ヒスチジンタグの切断後に、ニッケルカラムでの第2ラウンドの精製を実施して、C末ヒスチジンタグ、および第1ラウンドの精製中にニッケルカラムと非特異的に結び付いた夾雑タンパク質を除去した。可溶性NPP1は素通り中に溶出し、かつ回収され、かつスピン濃縮によって濃縮される。精製全体により、1Lの細胞培養物あたりおよそ2mgの純タンパク質がもたらされる(
図3〜4)。同様の一般的精製スキームが、NPPファミリーのいくつかのメンバーについての生化学的、生物物理学的、および生理学的研究のために記載されている(Albright et al., 2012, Blood 120:4432-4440;Saunders et al., 2011, J. Biol. Chem. 18:994-1004;Saunders et al., 2008, Mol. Cancer Ther. 7:3352-3362)。当技術分野およびタンパク質精製の科学において経験のある者に公知であるように、IgGのFcドメインを含有するタンパク質の精製も、プロテインAまたはプロテインGカラムへの結合によって達成され得る。
【0146】
NPP1のための哺乳類発現系
NPP1はグリコシル化タンパク質であり、昆虫細胞の糖類部分は、哺乳類宿主からの強い免疫原性反応を誘導すると予想される。動物を組換えNPP1で処理することによって免疫反応を誘導する可能性を低下させるために、哺乳類発現系を用いて、昆虫細胞グリコシル化パターンを哺乳類グリコシル化パターンで置き換えた。同一のNPP1構築物を哺乳類発現ベクター中にクローン化し、その後にHEK293細胞への安定なトランスフェクションが続くことによって、HEK293哺乳類腎臓細胞株内でタンパク質を発現させた。His抗体に対する免疫ブロットによって、安定なクローンを同定した。強く発現するクローンを拡張し、本明細書における他の箇所で記載されるバキュロウイルス精製スキームにおいて記載されるように、培養培地を回収しかつ処理した。タンパク質の全収率は、培養培地1Lあたりおよそ1.5mgであり、かつ試料の純度は95%超であった(
図4)。
【0147】
NPP1およびNPP4のATP加水分解活性
NPP1の細胞外可溶性ドメインが酵素的に活性のあることを証明するために、NPP1についての定常状態のミカエリス−メンテン酵素定数を、ATPを基質として用いて決定した。加えて、NPPファミリーメンバー間の基質特異性を例証するために、NPP1のATP加水分解を、NPP1と38%の配列同一性を有するタンパク質であるNPP4と直接比較した。NPP1がATPを切断したことを証明するために、酵素反応についてのHPLC解析を用い、かつ該反応の基質および産物の素性を、ATP、AMP、およびADP標準物質を用いることによって確認した(
図5)。ATP基質はNPP1の存在下で経時的に分解し、酵素産物AMPの蓄積を有する(
図5)。種々の濃度のATP基質を用いて、NPP1に関する初速度をATPの存在下で導き出し、かつデータを曲線に適合させて、酵素速度定数を導き出した(
図5C)。NPP4とNPP1との間の相当な配列同一性にもかかわらず、NPP4はATP加水分解活性を有さず、一方でNPP1はATPをAMPおよびPPiにすぐに加水分解した(
図5C)。生理的pHにおいて、NPP1の反応速度定数は、Km=144μMおよびk
cat=7.8s
-1である。
【0148】
HPLCプロトコール
NPP1およびNPP4によるATP切断を測定するために、および産物同定のために用いられたHPLCプロトコールを、文献から改変した(Stocchi et al., 1985, Anal. Biochem. 146:118-124)。50mM Tris pH8.0、140mM NaCl、5mM KCl、1mM MgCl
2、および1mM CaCl
2緩衝液中に種々の濃度のATPを含有する反応を、0.2〜1μM NPP1の添加によって開始させ、かつ等量の3Mギ酸または0.5N KOHによって種々の時点で抑え、かつ氷酢酸によってpH6に再酸性化した。抑えられた反応液を体系的に希釈し、HPLCシステム(Waters, Milford MA)にロードし、かつ基質および産物を254または259nmにおけるUV吸光度によってモニターした。基質および産物を、0%〜10%(または20%)のメタノール勾配を有する15mM酢酸アンモニウムpH6.0溶液を用いて、5μm 250×4.6mm HPLCカラムのC18(Higgins Analytical, Mountain View, CA)で分離した。産物および基質を、それらの対応するピークの統合および式に従って定量化した。
式中、[基質]
0は、初回基質濃度である。式で用いられるAMP、ADP、およびATPの吸光係数は、15.4mM
-1cm
-1であった。254nmでモニターした場合、反応と同じ日に流した基質および産物の標準物質を用いて、統合された産物/基質ピーク面積を濃度に変換した。
【0149】
マウスモデル
TTWマウスは、Institute of Cancer Research系統マウス(ICR, Japan)の同胞交配の中で発見され、多発性進行性異常石灰化を発症しかつ最終的に重度の奇形および関節強直で死亡する。これらのマウスは、特異的な脊柱および関節の異常により、OPLLおよび変形性関節症の両方についての確立された動物モデルとして働く。異所性組織ミネラル化表現型を説明する遺伝子欠損は、NPP1をおよそ350個のアミノ酸トランケートする、NPP1における位置568での未成熟終止コドン(グリシンから終止へ)にあることが突き止められている。C57BL/6J-Enpp1
asj/Grsr、つまりNPP1
asjマウスであるTTWマウスの変種は、バリンのアラニンへの点変異をもたらす、エクソン7、位置737におけるNPP1タンパク質コード領域に点変異を有し、かつ12週目に脊柱の関節炎、および7ヶ月齢までにこわばってかつ曲げることができなくなる多くの関節の変形性関節症を呈する。これらのマウスモデルは、変形性関節症を含めた異所性石灰化のヒト疾患を模倣する貴重な試薬であり、かつ本研究の仮説を検証するための適切な動物モデルである。
【0150】
その両方がつま先歩き(ttw)マウスの変種である、異所性石灰化の2種のマウスモデルにおける組換えNPP1の治療有効性を調べる。第1のモデルは、日本人研究者によって記載されたオリジナルのttwマウスモデルであり、日本の実験動物中央研究所(Central Institute for Experimental Animals)を通じて入手可能である。該マウスは、手および足の小さな遠位関節において3週齢目に開始する中軸骨格および付属肢骨格の全身性関節強直を動物に生じやすくする、自然発生の劣性変異を有する。関節円板および椎間板の軟骨の他に、ttwマウスは、血管および結合組織の石灰化も示す。遺伝子マッピングの後、表現型に関与する変異は、NPP1の位置568におけるトランケーションと同定された。Jackson Laboratoriesから直接入手可能な第2のマウスモデルは、C57BL/6J-Enpp1
asj/GrsrJマウスと名付けられている。これらのマウスは、バリンのアラニンへの点変異をもたらす、エクソン7、位置737におけるNPP1タンパク質コード領域に点変異を有し、かつ12週目に脊柱の関節炎、および7ヶ月齢までにこわばってかつ曲げることができなくなる多くの関節の変形性関節症を呈する。
【0151】
NPP1投与レベルの確立
ttwマウスにおける血清PPi濃度を正常化するNPP1腹腔内(IP)投与レベルを確立する。初回薬物動態実験を実施して、インビボでPPiレベルに影響を及ぼすのに必要なNPP1の適切な経路および濃度を確立する。野生型(C57bl/6)動物に、0.03mg/kgで始まる濃度で、単回用量のNPP1を投与する(例えば、i.p.、i.v.など)。ヒト血清中の生理的NPP1濃度はかなり低いため(100〜300ρM)、この初回濃度が選出される。水性緩衝液中2.15mg/mlという哺乳類NPP1の濃度は、生理的条件に極めて近い(50mM Tris pH8.0、150mM NaCl、0.8mM ZnCl
2、0.4mM CaCl
2、0.4mM MgCl
2)。例えば、40gのマウスに、約0.5μlの濃縮ストックを注射する。血清PPi濃度に直接影響を及ぼす投与レベルに到達するように、必要に応じてNPP1投与量を調整する。
【0152】
1つの実験群あたり約3匹の動物に投与する。動物に約0、0.5mg/kg、2mg/kg、および8.0mg/kg濃度で投与して始める。処理の約1、4、および8時間後に動物を屠殺し、かつ終末麻酔後に心穿刺によって血液を回収する。血清を単離し、かつピロホスフェートの濃度に比例的に依存してその蛍光強度を有する市販の蛍光発生ピロホスフェートセンサーを用いて、PPiの血清濃度を直接測定する(Abcam製品番号ab112155を参照されたい)。マウスにおいて血清PPi値を生理的に変更する、NPP1の初回投与レベルを決定するために、投与動物および未投与動物の血清ピロホスフェート濃度が比較される。
【0153】
野生型マウスにおいてNPP1投与レベルが一度確立されたら、ttwマウスを用いた薬物動態実験に着手する。開始するために、野生型マウスにおいてPPiレベルをモジュレートするNPP1濃度を用いる。1つの実験群あたり約3匹の動物を用い、かつ動物に約0、1×、および10×のレベルで投与し、×は、野生型(c57bl/6)マウスにおいて血清PPiレベルをモジュレートすることが観察された最小NPP1濃度である。本明細書における他の箇所で記載されるように、処理の約1、4、および8時間後に動物を屠殺し、血液を回収し、かつPPi濃度を解析する。有効性実験において用いられる対象となるNPP1の最終的な開始濃度を確立するために、処理動物および未処理動物の血清PPiレベルが、本明細書における他の箇所で記載される実験における野生型動物のものと比較される。
【0154】
異所性石灰化のマウスモデルにおける組換えNPP1の有効性
本明細書における他の箇所で記載されるように、TTWおよびC57BL/6J-Enpp1
asj/GrsrJマウスを用いて、異所性石灰化のマウスモデルに対する組換えNPP1の効果を判定する。4組の繁殖ペアを確立して、それぞれの遺伝的コロニーを作り上げる。進行性の身体的障害の発生により、ホモ接合型雌は一腹の仔を維持し得る能力が損なわれるため、ヘテロ接合型雌をホモ接合型雄と繁殖させる。動物を3週齢目にイェール動物資源センター(Yale Animal Resource Center)によって遺伝子型決定し、かつ一度離乳させたら、動物をそれらの遺伝子型および年齢に従ってケージに分離する。厳密な記録管理を維持して、動物が実験前に正しく同定されることを確保する。6週齢目に、マウスを約6匹のマウスのコホートに分離し、かつ本明細書における他の箇所で記載されるように、血清PPi濃度を正常化することが観察された最低濃度で始まる、増加する濃度のNPP1で処理する。
【0155】
以下の表現型に注目して、症状の発症を処理動物と未処理動物との間で比較する。
【0156】
歩行:C57BL/6J-Enpp1
asj/GrsrJマウスにおけるゆっくりとした足を引きずる歩行は、2ヶ月齢頃に生じる。TTWマウスも、約2ヶ月齢目に、異常歩行、脊柱の硬直、および肢関節のこわばりを発症する。
【0157】
異常な休息姿勢:C57BL/6J-Enpp1
asj/GrsrJマウスは、約2ヶ月齢までに、身体に向かった状態で留まった前肢を有する、こわばった姿勢を発症する。TTWマウスも、約2ヶ月目に肢関節のこわばりを発症する。
【0158】
骨格表現型:C57BL/6J-Enpp1
asj/GrsrJマウスは、約11週目に膝および肘における過形成性関節腔、約12週目に脊柱の関節炎、および約12週目に多くの関節における変形性関節症を発症する。約7ヶ月までに、C57BL/6J-Enpp1
asj/GrsrJマウスの関節は、こわばってかつ曲げることができなくなる。TTWマウスは、脊柱の硬直、ならびに約3週齢目に開始する中軸骨格および付属肢骨格の全身性関節強直を発症する。
【0159】
変形性関節症:変形性関節症は、およそ12週齢目にttwおよびC57BL/6J-Enpp1
asj/GrsrJマウスの両方において見出される。
【0160】
難聴:聴性脳幹反応は、約3ヶ月齢までに、C57BL/6J-Enpp1
asj/GrsrJマウスにおける重度の難聴を示す。
【0161】
イメージング調査:マウスおよび人間における活発なミネラル化の部位を、Tc99m-ピロホスフェートを含むがそれに限定されない、様々な作用物質を用いた放射性ヌクレオチドスキャンで観察し得る。Tc99m-ピロホスフェートの増加は、ミネラル化の増加を有する動物において見られ得る。放射標識トレーサーの鎖骨下注射による処理の0、7、および14日目に、動物に対して放射性核種イメージングスキャンを実施する。PPi堆積の増加は、NPP1投与レベルと相関する。ある特定の態様において、放射性ヌクレオチドスキャンにおいて観察されるように、NPP1変異体動物において、組換えNPP1またはNPP4酵素の最低濃度レベルで、PPi堆積は増加するが、治療レベルの組換えNPP1またはNPP4により、PPi堆積は低下するかまたは排除される。
【0162】
歩行および姿勢を追跡するトレッドミル上での動物の歩行を記録すること、実験の経過中のインビボ骨格変化を追跡するイメージング調査、難聴を立証するマウスの聴覚査定、ならびに異所性石灰化および骨格異常を立証する実験の最後におけるマウスの骨格および軟組織の組織学的検査によって、上記表現型のうちの少なくとも1つを、処理動物および未処理動物においてモニターしかつ/または定量化する。MRIイメージングを用いて、実験の経過中の動物における軟組織ミネラル化および骨格異常の程度を追跡する。イメージング前に、マウスを麻酔チャンバー内でイソフルラン(isofluorane)で麻酔し、次いでイメージング過程の間にIVIS撮像装置ボックスに移す。イメージング過程の間、MRI撮像装置ボックス内に存在しているノーズコーンを介して、マウスを麻酔下に維持する。手順後に、麻酔の反転後の疼痛および苦痛の兆候について動物を約30分間観察する。マウスは、麻酔から回復するのに1〜2分間要し、しかもマウスは、健康の後遺症(sequella)なく最高1ヶ月の間、1週間あたり2〜3回安全に撮像され得る。マウスを機械化トレッドミル上で周期的に記録して、それらの歩行および姿勢変化の存在を観察しかつ解析する。聴性脳反応およびリック抑制(lick suppression)テストを用いて、動物における難聴をモニターし、かつ組織および骨の組織学を用いて、軟組織石灰化および骨異常の存在を立証する。
【0163】
本明細書における他の箇所で記載されるように、免疫応答性ttwマウスにおいて組換えヒトNPP1に対する免疫反応を最小限に抑えるように工程を選ぶ。タンパク質の免疫介在性破壊を示唆するNPP1半減期の低下と一致している、血清PPi濃度の予想外の減少が観察される事象では、代替的タンパク質アイソフォームに特異的なモノクローナル抗体を生成するためにマウスにおいて用いられているものなど、免疫寛容化の標準的手法が用いられ得る(Matthew et al., 2987, J. Immuno. Methods 100:73-82;Salata et al., 1992, Anal. Biochem. 207:142-149)。これらの手順は、動物をヒトアイソフォームに対して寛容化させ得る、初回用量のNPP1タンパク質と同時にシクロホスファミドで動物を免疫する工程を伴う。寛容化が失敗した場合、ヒトに関して記載されるものと同一の様式でNPP1のマウスアイソフォームをクローン化しかつ発現させ、および該タンパク質のマウスアイソフォームを用いて、記載される実験を行う。これらの代替的手順のいずれかにより、免疫応答を誘導しない様式でマウスをNPP1で処理する方法が提供され、それによって、それらの遺伝性疾患を特徴決定する異所性ミネラル化を遅延または反転させるのに十分な、安定した有効なNPP1濃度が達成される。
【0164】
結晶化、データの収集および処理、構造決定
NPP4を50mM Tris pH8.0、150mM NaCl、0.8mM ZnCl
2、0.4mM CaCl
2、0.4mM MgCl
2中に交換し、かつA
280を用いてタンパク質濃度を算出した。6mg/ml(0.14mM)のNPP4とウェル溶液(200mMクエン酸二アンモニウム、17.5%〜19.5%(w/v)PEG 3350)とを1:1比で混合し、かつ600μlを上回るウェル溶液に2μlの液滴を密封チャンバー内で懸濁することによる懸滴(hanging drop)法によって最良の回折結晶を得た。タンパク質結晶は、典型的に4〜6日間以内に出現し、翌週の間ゆっくりと増大し続け、最高500um×150um×50umの最終寸法に達した。結晶を、上記ウェル溶液と、0.6mM ZnCl
2、5mMリガンド(存在している場合)、および最高20%〜25%までの最終濃度のグリセロールの5%(v/v)増分とからなる一連の混合物中を迅速に通過させ、次いで直ちに液体窒素中で瞬間冷凍することによって、低温保護を達成した。NPP4のアポ結晶は得るのが難しく、浸漬によるリガンドとのNPP4の構造を得る努力を阻んだ。ATPまたは切断可能なATP類似体(Sigma M7510)との共結晶化は、AMP産物複合体をもたらし、結晶化の間のゆっくりとした加水分解を反映した。切断不能なATP類似体(Sigma M6517)との共結晶化の試みは、認識可能な結合がないことを示した。
【0165】
本明細書において報告されるシンクロトロン回折データは、APS(アルゴンヌ国立研究所(Argonne National Laboratory)、先端放射光施設(Advanced Photon Source)、NE-CATビームラインID-24-CおよびID-24-E)およびCHESS(コーネル高エネルギーシンクロトロン施設(Cornell High Energy Synchrotron Source)、ビームラインA1)で収集された。NPP4-AMP回折データの指数付けおよび整理(reduction)のためにHKL2000を用いた。ザントモナス・アクソノポディス(Xanthomonas axonopodis)NPP(2GSU)のタンパク質のみの部分からなるサーチモデルによる、PHENIX AutoMRおよびAutoBuildを用いた分子置換によって初期位相を得た(Zalatan et al., 2006, Biochem. 45:9788-9803)。モデル構築および高品質の初期電子密度マップにCOOTを採用し、もともとは問題のあるまたは順序どおりでない構造のエリアについての明確な訂正が可能となった。反復ラウンドの最尤改良にPHENIXを用い、その間にリガンド、水、およびいくつかのグリコシル化が組み込まれた。上記のように、しかしながら出発点としてNPP4-AMP複合体のタンパク質のみの部分を用いて、アポNPP4およびすべての後続の構造を解明した。局所原子がマップ算出から除外される不偏電子密度マップ(オミットマップ)を用いて、各構造全体を体系的にチェックした。すべての残基24〜402に関する原子配置を決定した。末端における隣接残基は、依然として不規則なままであった。最終的な構造の回折データについての統計値が、表1に例証されている。1.54Å分解能におけるヒトNPP4-AMPの構造(4LQY)および1.50オングストローム分解能におけるアポNPP4の構造(4LR2)は、蛋白質構造データバンク(Protein Data Bank)に寄託されている。
【0166】
NPP1:ATP複合体の分子モデリング
マウスNPP1(rcsbコード4B56)をMOE(Molecular Operating Environment, Chemical Computing Group Inc., Montreal, Canada)にロードし、およびA鎖を欠失させ、かつB鎖には残基K169〜E905を保持させた。アスパラギン結合型グリコシル化部位を切り抜き、かつメチル基でキャッピングした。水を欠失させ、および原子タイプを固定しかつProtonate 3Dでプロトン付加した。亜鉛イオンを、それらのリガンドの距離および形状に関して動かないようにした。金属電荷を+1でモデル化した。このタンパク質をよりよいものにする大きなチャネルに沿った拡張立体構造におけるホスフェート部分とともに、フェニルアラニン239およびチロシン322から形成された裂け目の間にアデニン核を置くことによって、ATPを手作業で位置付けした。該タンパク質をリガンドから4.5Åの距離に拘束し、かつリガンドの拡張Huckel処理とともにAMBER12(AMBER12:EHT)を用いて、システム全体に対して最小化を実施した。
【0167】
NPP4:ATP複合体の分子モデリング
グリコシル剥離およびキャッピング、ならびにATPの配置を含めて、NPP1と同様の様式でNPP4をモデル化した。アデニンの配置に関して、NPP4における対応する残基は、フェニルアラニン71およびチロシン154である。タンパク質のプロトン付加、拘束、および最小化を類似の形式で実施し、AMBER12:EHT力場処理を用いた。
【0168】
酵素学
ヒトNPP1およびNPP4についての定常状態の酵素活性を、吸光度(Ap3A基質)またはHPLC(ATP基質)のいずれかによって判定した。NPP4に対するヌクレオチドモノホスフェート(NMP)の親和性を、405nmにおける吸光度変化によってモニターされる、定常状態のpNP-TMP(p-ニトロフェニル5'チミジンモノホスフェート)切断速度の[NMP]依存度から概算した(Saunders et al., 2008, Mol. Cancer Ther. 7:3352-3362)。[NPP4]は5nMであり、かつ[pNP-TMP]は20mMであった。直角双曲線に対する、ヌクレオチド濃度依存的NPP4切断活性の最良適合から、IC
50値(すなわち、最大活性の半分を呈するヌクレオチド濃度)を決定した。IC
50は、混合した阻害に対する加重平均親和性を反映する(Saunders et al., 2008, Mol. Cancer Ther. 7:3352-3362)。
【0169】
ヒト血小板の調製および血小板凝集能測定
Albright et al., 2012, Blood 120:4432-4440に記載されているように、血小板の調製および血小板凝集能測定を実施した。
【0170】
実施例1:特発性乳児動脈石灰化(IIAC)および後縦靱帯骨化症(OPLL)に対する酵素補充療法
本明細書において記載されるように、病的な石灰化および/または骨化を伴う疾患および障害に対する有用な治療法であり得る、可溶性形態のヌクレオチドピロホスファターゼ/ホスホジエステラーゼ-1(NPP-1)および変異NPP-4を開発した。NPP1機能不全の疾患状態におけるこの酵素の生理的活性についての直接実証も本明細書において記載され、それによって、異所性石灰化の障害を選択することにおけるNPP1酵素補充療法の実用性が確立される。
【0171】
可溶性形態のNPP1を開発するために、NPP2の配列とNPP1の配列とを組み合わせて、可溶性の分泌されるNPP1タンパク質を得た。可溶性で活性がある組換えNPP1は、NPP2の膜を貫通するドメインをNPP1の相同領域に交換することによって産生され得ることが発見された。そのような構築物を用いて、OPLLおよびIIACにおいて生じているNPP1のいくつかの変種形態をクローン化しかつ発現させた。いくつかの態様において、該タンパク質の膜貫通ドメイン全体を除去することによって、NPP1を可溶性にし得る。
【0172】
可溶性で十分に活性がある形態のNPP1、およびNPP4の特異性をAp3AからATPに変化させるように操作された変異NPP4は、不適切なPPiバランスにより生じるOPLL、IIAC、および他の疾患における有用なタンパク質治療法である。具体的には、このタンパク質構築物は、NPP1の可溶性ドメイン、ヒトIgG Fcドメインの定常領域(Fc)、および該タンパク質に骨を標的にさせるように設計された、約10個またはそれ以上の連続したアスパラギン酸残基から構成される。
【0173】
これらの構築物は、可溶性形態のNPP1および変異NPP4を高収率で産出し、ATPをAMPおよびPPiに加水分解し得る、大量の可溶性で、高純度の、組換えの、酵素的に活性なNPP1および変異NPP4をもたらす。これらの構築物は、NPP1におけるSNPとも関連している、不適切なPPiバランスを有するヒト疾患および障害を治療することにおいて有用であり得る。
【0174】
NPP1の構造は、以前に決定されたNPP4の高分解能構造を用いてモデル化され、本明細書における他の箇所で記載される疾患と関連したSNPの多くは、NPP1の活性部位に位置することが発見された。
【0175】
いかなる特定の理論によっても束縛されることを望むことないが、本明細書において記載されるデータは、NPP1活性の低下が、本明細書における他の箇所で記載される障害の多くにおけるPPi/Pi恒常性の妨害に関与しているという説明、ならびに可溶性組換えNPP1タンパク質の使用によりPPiバランスを回復させることによって、これらの疾患において見られる骨格と関節の異常、および異所性組織ミネラル化が改善されるという説明と一致している。
【0176】
いわゆる「つま先歩き」(ttw)マウスによるヒト疾患の標準的動物モデルを用いて、OPLLを調べる。これらのマウスは、ヒトにおけるOPLL疾患との目立った相似性を持つ、脊柱および関節の進行性の異常な石灰化を発症し、最後には重度の脊柱奇形および関節強直で死亡する。この自然発生的に生じる変異の遺伝子欠損により、位置568においてNPP1のコード領域内にミスセンス変異が導入され、このタンパク質は未成熟にトランケートされる。これらのマウスは、OPLLに対する受け入れられている動物モデルである。
【0177】
これらのマウスにおける、それらの血清PPi濃度を正常化する、組換えNPP1の投与経路および濃度を確立し、かつこれらの用量が、これらの動物によって経験される重度の表現型の兆候および/または症状を遅らせ得る、改善し得る、または反転させ得るかどうかを試験する。NPP1を、OPLLおよび変形性関節症を含めた異所性組織ミネラル化の動物モデルに対するタンパク質治療法として調べる。異所性組織石灰化の疾患における組換えNPP1の有効性を、組換えNPP1タンパク質で処理されたつま先歩き(ttw)マウスにおける関節および脊柱の石灰化の速度を測定することによって確立する。
【0178】
ttwおよび野生型(c57bl/6、遺伝的背景)マウスに増加するNPP1濃度を投与し、かつPPi判定についての確立された方法を用いて、処理動物および未処理動物における血清PPi濃度を測定することによって、PPiレベルを正常化するのに必要な適切なNPP1投与量を確立する。ttwマウスを組換えNPP1で処理し、かつ処理動物と未処理動物との間で異所性組織石灰化と関連した症状の発症を比較することによって、異所性石灰化の疾患における組換えNPP1の有効性を判定する。
【0179】
実施例2:NPP4対NPP1の基質判別
高度に相同なNPPファミリーメンバーによって呈される基質判別の程度を判定するために、ヒトNPP4およびNPP1の、それらの推定上インビボ基質であるAp3AおよびATPに対する、定常状態の酵素速度をそれぞれ測定した(
図5)。ヒトNPP4は、触媒ドメインにわたってNPP1と40%の配列同一性を共有し、かつマウスNPP1の構造は決定されており(Jansen et al., 2012, Structure 20:1948-1959)、原子レベルでの基質判別の構造的起源を同定する機会が提供されている。ヒトおよびマウスのNPP1は79%同一であり、マウスNPP1構造上へのヒト配列の配列マッピングにより、すべての配列差は、基質結合部位および活性部位の外側にあることが示されている。NPP1のミカエリス定数はNPP4のものよりも>30倍緊密であるものの、NPP4およびNPP1は、同等の最大代謝回転数(k
cat約7〜8s
-1)でAp3Aを加水分解する。対照的に、NPP4がATPをAMPおよびPPiに加水分解する速度は、NPP1による加水分解と比べて無視できるほどである。
【0180】
実施例3:構造概観
NPP4基質特異性の分子基盤を理解し、かつNPP1に対するその類似性および相違に関する詳細な洞察を得るために、X線結晶学を用いて、アポ形態およびAMP結合形態の両方のヒトNPP4の高分解能3次元構造を、それぞれ1.50Åおよび1.54Å分解能において決定した(表1および
図6A)。次いで、これらを、2.70Å分解能におけるmNPP1-AMPを含めた、最近決定されたマウスNPP1複合体の構造と比較して、それぞれについての観察された基質特異性に関与する構造特質を規定した。NPP4およびNPP1の二金属性(bimetallo)触媒ドメインは、2個の結合した亜鉛イオンを含有し、かつ同様の全体的折り畳みを共有し、かつ保存された触媒メカニズムを採用して、基質上の同じ位置で加水分解し、ヌクレオチドモノホスフェート産物をもたらす。これらの酵素のいずれかによるAp3AまたはATPの加水分解により、AMP産物分子が産出される。したがって、hNPP4-AMPおよびmNPP1-AMP構造は、産物複合体である。NPP4の触媒ドメイン全体と、NPP1、NPP2、および細菌NPPのものとの重ね合わせにより、それぞれ1.54Å、1.43Å、および1.43Åというrmsd値がもたらされる。ヌクレオチド結合を好む、NPP4において観察される構造特質は、細菌酵素において大部分が保存されている。
【0181】
NPP4は、結合した産物の存在または非存在下で本質的に変化しないままである結合ポケットを有するモノマー酵素である。ジスルフィド結合により残基254〜287および394〜401が連結し、かつ3つのN結合型グリコシル化がアスパラギン残基155、166、および386で観察される。位置により、これらのグリコシル化が酵素活性に重大に影響を与える可能性は低い。これは、決定される対象となる最初のヒトNPP構造であり、他のすべての構造決定されたNPPの触媒ドメインと全体的に共通の折り畳みを共有する(
図6B)。
【0182】
実施例4:基質認識および活性部位形状
NPP4は、末端に5'-ヌクレオチド基を有するホスホジエステル基質を標的とし、アデニン環に対して最大の選好性を呈示する。ヌクレオチド含有基質に対するこの特異性は、一方の側におけるTyr154の環面および他方におけるPhe71の先端からなる、およそ6.8Å幅の、タンパク質表面上にあるあらかじめ形成された疎水性の溝の結果である(
図7A〜7B)。その中で結合しているヌクレオチド塩基は、それぞれから約3.4Åにある、チロシン環との好ましいπ-πスタッキング相互作用、およびフェニルアラニンとのファンデルワールス(VDW)相互作用を経験する。溝の後壁は、ヌクレオチド塩基のちょうど手の届かないところにあり、該タンパク質とのいかなる直接的な水素結合相互作用も不可能となっており、数個の水介在性水素結合のみが、AMP環の縁部とNPP4との間に観察される。
【0183】
そのような溝は、ピリミジンよりもプリンをそれらのより大きなサイズが理由で好むと予想されるが、このパターンは厳格に保たれるわけではない。TMP-pNP基質阻害によって判定される、NPP4に対するヌクレオチドモノホスフェートの相対的親和性は、AMP>CMP>UMP>GMPである(
図5E)。同様のヌクレオチド溝を有する別のファミリーメンバーであるNPP1に関して報告された対応する測定結果は、AMP>CMP>GMP>UMPを明らかにしている(Kato et al., 2012, Proc. Natl. Acad. Sci. U S A 109:16876-16881)。本モデル構築により、同様に結合しているGMPのグアニン環N2原子は、ヌクレオチド溝にわずかに突出している残基104および105において、NPP4とのいくらかの立体衝突を経験することが明らかとなっている。NPP1-GMP共結晶構造を点検すると、グアニン環がわずかに回転するように強いる同様の立体衝突が発見された。
【0184】
これ以降Zn1およびZn2と称される2個の結合した亜鉛イオンが、疎水性の溝にごく近接しており、すべてのNPPおよびアルカリホスファターゼ(AP)において見出される6個の不変残基との相互作用により、約4.5Å離れて保たれている。両亜鉛イオンは、4面体配位形状を呈示する。Zn1は、Asp189、His193、およびHis336によってライゲートされ、NPP4-AMP複合体中のホスフェート基酸素原子によってもたらされる4配位を有する。代替的に、空のポケットでは、この配位は水分子によって提供され得る。Zn2は、Asp34、Asp237、およびHis238によって保たれ、NPP4の「触媒残基」であるThr70のOγ原子に対して4配位を有する。APに関して記載されるように、この密接な関連は、おそらくそのpKaを無秩序にすることによって、基質分子に対する求核攻撃のためにThr70を活性化する働きをする。Thr70は、半分曝露したZn1付近のホスフェート結合部位に直接向いているα-ヘリックスのN末端に位置し、それにより、負に帯電したホスホジエステル基を活性部位内に静電的に引き入れる際に、ヘリックス−双極子力は、正に帯電した亜鉛イオンを補完する。溝と亜鉛イオンとの間の狭いヌクレオチド溝および短い間隔は、主に基質選択に関与しており、末端の5'-ヌクレオチドモノホスフェート基を立体的に好む。
【0185】
比較すると、NPP4結合ポケットの他方の末端は、比較的特質がなくかつ大幅により多く溶媒に曝露されるように見え、NPP4が、種々の長さおよび化学的特徴の基質を加水分解し得る能力と一致している。結合した無傷基質とのいずれのNPPの結晶構造も現在までに報告されていないが、本発明者らの基質ドッキングシミュレーションにより、NPP4結合ポケットが、このタンパク質表面の浅い溝に沿って走行していることが示されている。
【0186】
実施例5:NPP4-AMP対アポNPP4
NPP4のアポ構造は、AMP結合型構造と本質的に同一である(
図7C)。空の疎水性の溝内にまたは触媒残基において変化は観察されないため、結合部位はあらかじめ形成されており、かつ基質結合があっても誘導性適合調整を受けないと考えられる。アポ構造は、キレート様相互作用でZn1において結合している、結晶化条件由来のクエン酸陰イオンを有する。Asn91は、著しく動く唯一の活性部位残基であり、クエン酸分子のための余地を与えるように旋回する。NPP4-AMP複合体において、Asn91は、Zn1付近で結合しているホスフェート基に水素結合を付与する。Asn91の旋回能により、反応の触媒中間体を介したホスフェート酸素との水素結合相互作用を維持することが可能となり得、またはリガンドの侵入もしくは退出を容易にする柔軟性が与えられ得る。
【0187】
実施例6:NPP4-AMP対NPP1-AMP
NPP4およびNPP1の溝領域内でどのようにAMPが結合しているかについての全体的類似性が
図7Dに図解されている。NPP1は、NPP4のTyr154およびPhe71に対応する保存された残基を含有し、したがってまた5'-ヌクレオチド末端を有する基質を標的とする。AMPのホスフェート基は、両酵素においてZn1付近で結合する。AMP位置において観察される小さな相違は、実在しているのかどうか、またはNPP1-AMP構造についての大幅により低い分解能(NPP4-AMPに関する1.54Åに対して、2.70A)を単に反映しているのかどうかは未知である。
【0188】
実施例7:触媒メカニズム
NPPはAPスーパーファミリーのメンバーであり、触媒が生じる活性部位の中心における重要な構造特質、残基、および構造様式の多くを共有する。
図8は、NPPに関する一般的反応メカニズムを図示しており、というのはそれが、対応する結晶構造または各工程に対する結合シミュレーションモデルとともに、Ap3AのNPP4加水分解に適用されるからである。
【0189】
NPP4において、あらかじめ形成された疎水性の溝と2個の結合した亜鉛イオンとの間の相対的間隔は、Zn1およびThr70に近接して位置しているのが、基質のα-ホスフェート基であることを決定付けており、そのOγ原子は、Zn2にそれが極めて接近することによって、求核攻撃のために絶えず活性化されている。Ap3Aが結合すると、α-ホスフェートはThr70によって攻撃され、反対側にあるエステル結合の破壊が引き起こされ、ADPが放出される。水分子は、Zn1の隣の空いた空間に直ちに入り、活性化されるようになり、かつ反対方向からα-ホスフェートを攻撃し、一時的な共有結合性NPP4-AMP結合の破壊が引き起こされ、AMPが放出され、かつNPP4がその元の状態に回復する。2つの産物分子の放出は連続的であり、ヌクレオチドモノホスフェートが最後に残される。そのようなものとして、NPP4-AMPおよびNPP1-AMPは産物複合体である。
【0190】
実施例8:NPP4およびNPP1の基質特異性の分子決定基
NPP1はATPをAMPおよびPPiにすぐに切断し、一方でNPP4は、ごくゆっくりとそうするのみである。両酵素とも、アデニン環に対する選好性を有してヌクレオチド含有基質を標的とし、かつ同様の形式でAMPに結合するため(
図7D)、このずれの手掛かりは結合ポケット内の他の場所にあるはずである。NPP1はATPをAMPおよびPPiに効率的に加水分解するため、ATPは、AMPに関して観察されるのと同じ配向でNPP1に結合する可能性が高い。したがって、2個のホスフェート基をNPP1-AMP共結晶配位に付加することによって、ATPをNPP1活性部位内にモデル化し(4B56)(
図9A、9C、9E)、次いで、記載されるように複合体をエネルギー最小化に供した。NPP1の結合部位とNPP4との重ね合わせにより、このATP基質の4.5Å内のほとんどの側鎖間の良好な重なりが明らかとなっているが、著しい相違が末端γ-ホスフェート付近で生じている。NPP1において、タンパク質コアへのPhe516(マウスによる番号付け)の付与により、ATPのγ-ホスフェートに対してより多くの空間が創出され、それは、リジン立爪と称される3個のリジン残基(Lys237、Lys260、およびLys510)によって電荷安定化していると考えられる。これらのリジンのうちの2個(Lys260およびLys510)は、結合ポケットの上縁を裏打ちし、かつNPP1-AMP構造において観察されるように、γ-ホスフェートの非存在下で不規則なままである。それらのシミュレーションにより、新たな基質がNPP1結合部に入るとき、これらのリジンはγ-ホスフェートに静電的に引き入れられかつこの過程で規則正しくなることが図解されている。結合したATPのγ-ホスフェートは、Tyr433、Lys260、およびLys510から構成される誘導性適合蓋の下にあるように見え、そこでそれは3個のリジンによって電荷安定化されているはずである(
図9A)。PPi産物が放出されると、Lys260およびLys510は、新たな基質がこの部位に引き入れられるまで再び不規則になるはずである。
【0191】
同様の様式で、2個のホスフェートをNPP4-AMP構造上に付加することによって、ATPをNPP4活性部位内にモデル化し、その後に複合体をエネルギー最小化した。NPP1とは対照的に、γ-ホスフェート付近のNPP4の領域は、はるかにより開きかつ溶媒に曝露されており、負に帯電したさらなる残基および正に帯電したより少ない残基を含有し、かつリジン立爪または蓋を形成し得る能力を有しない(
図9B、9D、および9F)。この配向で結合したATPのγ-ホスフェートは、NPP1のPhe516に対応する、負に帯電したAsp335の隣にあると考えられるが、この時点では結合ポケット内に直接向いている。Asp264(マウスNPP1、Val432に対応する)も近隣にある。まとめると、NPP4結合ポケットのこの領域の局所的静電環境は、NPP1におけるものよりも大幅に好都合さが低い。
【0192】
この位置における電荷安定化し得る能力は、Ap3Aなどの他の基質とよりもATPとでより顕著であり得、というのは末端ホスフェート基(ホスホモノエステル)は、非末端ホスフェート基(ホスホジエステル)よりも多くの負電荷を本質的に持つからである。そのようなものとして、ATPの末端γ-ホスフェートは、Ap3Aの対応する一列に並んだγ-ホスフェートよりも多くの負電荷を持つ。この位置におけるNPP1の高度に有効な電荷安定化は、ATPをすぐに加水分解し得るその能力の手掛かりである可能性があり、一方でNPP4におけるこの同じ位置で見出されるあまり好都合ではない局所的環境は有害であり、かつ加水分解はごくゆっくりとのみ生じる。
【0193】
実施例9:NPP1および血小板凝集
NPP1によるAp3Aの加水分解は、NPP1が生理的条件下で血小板凝集において役割を果たし得るかどうかという疑問を起こさせる。この酵素はAp3A基質に対して活性があることを考慮すると、血管腔内のNPP1の相対的存在量が、凝血におけるNPP1の役割を決定し得る。NPP1は、脳毛細血管内皮上に存在しているが、他の場所の毛細血管上にはないことが報告されている。加えて、NPP1は、形質細胞、骨芽細胞、軟骨細胞、ならびに骨芽細胞および軟骨細胞から排出される基質小胞(MV)の膜表面に存在している。NPP1は、10〜30ng/mL(つまり100〜300pM)という非常に低い濃度で血管系内に可溶性タンパク質としても存在している。
【0194】
血小板凝集を誘導し得るNPP1の濃度を決定するために、増加する濃度のNPP1を、生理的レベルのAp3Aを有する多血小板血漿(PRP)中で滴定した。NPP1の濃度が1nMに達するまで、80uM Ap3AへのNPP1の添加は血小板凝集をもたらさない(
図10)。この濃度は、NPP1についての報告された最高血漿濃度よりおよそ3倍高いものの、この濃度は、血小板凝集を誘発する、NPP4に対して要求される閾値を下回り(
図10)、かつ膜結合型内皮タンパク質の十分に濃度値域内にある。したがって、NPP1の血漿濃度が、インビボにおける血小板介在性の一次止血を誘導する可能性は低いが、局所濃度が1nMを超える解剖学的位置におけるその内皮結合型NPP1は、重大な血小板凝集および血栓形成を誘導する可能性がある。
【0195】
実施例10:NPP4に結合しているAp3A
ヒトNPP4(rcsbコード4LR2)をMOE(Molecular Operating Environment, Chemical Computing Group Inc., Montreal, Canada)にロードし、およびアスパラギン結合型グリコシル化部位を切り抜きかつメチル基でキャッピングした。水を欠失させ、および原子タイプを固定しかつProtonate 3Dでプロトン付加した。亜鉛イオンを、それらのリガンドの距離および形状に関して動かないようにした。金属電荷を+1でモデル化した。このタンパク質をよりよいものにする大きなチャネルに沿った拡張立体構造におけるホスフェート部分とともに、フェニルアラニン239およびチロシン322から形成された裂け目の間にアデニン核を置くことによって、Ap3Aを手作業で位置付けした。Ap3A分子の残りは、溶液中に遊離させたままにした。該タンパク質をリガンドから4.5Åの距離に拘束し、かつリガンドの拡張Huckel処理とともにAMBER12(AMBER12:EHT)を用いて、システム全体に対して最小化を実施した。ドッキングされたAp3A分子(
図11)は、第2のアデニン結合部位の位置を明らかにした。この結合部位は、該タンパク質表面における狭い溝によって形成され、それは、ある特定の態様において、ポケットの表面を裏打ちする残基の変更によって排除され得る。
【0196】
実施例11:NPP4に結合しているAp3Aの結晶
NPP4タンパク質におけるAp3Aの位置を直接決定するために、NPP4の不活性変異体をAp3Aとともに結晶化した(
図12)。この構造を用いて、これらの酵素の血栓形成促進効果を低下させるように設計されたNPP4およびNPP1の変異を精密化し得る。
【0197】
(表1)データ収集および精密化統計値
a 最高分解能ビンに対する値が丸括弧内に示されている。
b R
sym=Σ
hklΣ
i|I
i(hkl)−<I(hkl)>|/Σ
hklΣ
iI
i(hkl)
c I/σIは、同じ群の反射についての平均標準偏差(シグマ)で割った、この分解能ビン内の反射の平均強度である。
d AMPは、5'-アデノシンモノホスフェートである。FLCは、結晶化条件由来のクエン酸陰イオンである。
e R
work=Σ||F
(obs)|−|F
(calc)||/Σ|F
(obs)|
f R
free=Rworkに対するものとしてであるが、無作為に選出されかつ精密化から除かれる、全反射の5.0%に対して算出される。
【0198】
本明細書において引用されるありとあらゆる特許、特許出願、および刊行物の開示は、参照により本明細書においてそれらの全体として本明細書によって組み入れられる。本発明は具体的な態様を参照して開示されているが、本発明の真の精神および範囲から逸脱することなく、本発明の他の態様および変形が他の当業者によって考案され得ることは明らかである。添付の特許請求の範囲は、すべてのそのような態様および同等の変形を含むと見なされることを意図される。