特許第6945002号(P6945002)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6945002ナノナノフィブリルセルロースを含むヒドロゲル中の細胞を凍結乾燥するための方法、およびナノフィブリルセルロースを含むエアロゲル中の凍結乾燥細胞
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6945002
(24)【登録日】2021年9月15日
(45)【発行日】2021年10月6日
(54)【発明の名称】ナノナノフィブリルセルロースを含むヒドロゲル中の細胞を凍結乾燥するための方法、およびナノフィブリルセルロースを含むエアロゲル中の凍結乾燥細胞
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/04 20060101AFI20210927BHJP
   C12N 11/04 20060101ALI20210927BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20210927BHJP
【FI】
   C12N1/04
   C12N11/04
   C12Q1/02
【請求項の数】44
【全頁数】42
(21)【出願番号】特願2019-532077(P2019-532077)
(86)(22)【出願日】2017年8月25日
(65)【公表番号】特表2020-501566(P2020-501566A)
(43)【公表日】2020年1月23日
(86)【国際出願番号】EP2017071441
(87)【国際公開番号】WO2018108341
(87)【国際公開日】20180621
【審査請求日】2020年5月7日
(31)【優先権主張番号】16397537.8
(32)【優先日】2016年12月15日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】314013187
【氏名又は名称】ウーペーエム−キュンメネ コーポレイション
【氏名又は名称原語表記】UPM−Kymmene Corporation
(74)【代理人】
【識別番号】100075557
【弁理士】
【氏名又は名称】西教 圭一郎
(72)【発明者】
【氏名】パウッコネン,ヘリ
(72)【発明者】
【氏名】アウヴィネン,ヴィリ−ヴェリ
(72)【発明者】
【氏名】ユリペルッツラ,マルヨ
(72)【発明者】
【氏名】ラウレン,パトリック
(72)【発明者】
【氏名】ウルッティ,アルト
(72)【発明者】
【氏名】ラークソネン,ティモ
(72)【発明者】
【氏名】メリヴァーラ,アルト
(72)【発明者】
【氏名】ハッカライネン,ティーナ
(72)【発明者】
【氏名】モンニ,オウティ
(72)【発明者】
【氏名】マケラ,アンネ
(72)【発明者】
【氏名】ソメルサロ,ペッテル
(72)【発明者】
【氏名】カルヘモ,ピーア−リーッタ
(72)【発明者】
【氏名】ヨエンスウ,ヘイッキ
(72)【発明者】
【氏名】コイブニエミ,ライリ
(72)【発明者】
【氏名】ルウッコ,カリ
(72)【発明者】
【氏名】ヌオッポネン,マルクス
【審査官】 福澤 洋光
(56)【参考文献】
【文献】 特表2016−524900(JP,A)
【文献】 特表2012−529479(JP,A)
【文献】 特開2013−253137(JP,A)
【文献】 特開2015−105453(JP,A)
【文献】 特表2014−533296(JP,A)
【文献】 European Journal of Pharmaceutical Sciences,2013年,Vol.50, No.1,pp.69-77
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00−15/90
C12Q 1/00− 3/00
C12M 1/00− 3/00
CA/MEDLINE/BIOSIS/WPIDS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナノフィブリルセルロースを含むヒドロゲル中の細胞を凍結乾燥する方法であって、
ナノフィブリルセルロースを含むヒドロゲルを提供することと、
細胞を提供することと、
細胞と、ナノフィブリルセルロースを含むヒドロゲルとを組み合わせて細胞系を形成することと、
細胞系を凍結乾燥させて、ナノフィブリルセルロースを含むエアロゲル中に乾燥細胞を得ることとを含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
1種以上の凍害防止剤を提供することと、1種以上の凍害防止剤を細胞系に添加することとを含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
1種以上の凍結乾燥保護剤を提供することと、1種以上の凍結乾燥保護剤を細胞系に添加することとを特徴とする請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
細胞系中で細胞を培養することを含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
細胞は、真核細胞、たとえば哺乳類細胞であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
細胞は、癌細胞であることを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項7】
1種以上の、凍害防止剤および/または凍結乾燥保護剤は、トレハロース、グリセロール、およびポリエチレングリコールから選択されることを特徴とする請求項2〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
1種以上の、凍害防止剤および/または凍結乾燥保護剤が、トレハロースおよびグリセローを含むことを特徴とする請求項2〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
ナノフィブリルセルロースは、水中に分散したとき、0.8%(w/w)の濃度および10rpmで測定されて、少なくとも2000mPa・s、たとえば少なくとも3000mPa・s、たとえば少なくとも10000mPa・sのブルックフィールド粘度をもたらすことを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
凍結乾燥前のヒドロゲル中のナノフィブリルセルロースの濃度は、0.1〜10%、たとえば、0.1〜5%(w/w)、0.1〜2%(w/w)、または0.1〜1.0%(w/w)の範囲内にあることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
ナノフィブリルセルロースは、アニオン変性ナノフィブリルセルロース、カチオン変性ナノフィブリルセルロース、カチオン非変性ナノフィブリルセルロース、およびTEMPO酸化ナノフィブリルセルロースから選択されることを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
凍結乾燥は、乾燥ヒドロゲルが、10%以下、好ましくは1〜10%(w/w)、たとえば2〜8%(w/w)の範囲内にある水分含有量を有するまで継続されることを特徴とする請求項1〜11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
凍結乾燥は、最初に、細胞系の温度を少なくとも−20℃まで、たとえば少なくとも−30℃まで、たとえば少なくとも−40℃まで低下させることと、その後、低圧を加えて細胞系から水を取り除くこととを含むことを特徴とする請求項1〜12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
凍結乾燥エアロゲルの水分含有量は、10%以下、好ましくは1〜10%(w/w)、たとえば2〜8%(w/w)の範囲内にあることを特徴とする、ナノフィブリルセルロースおよび細胞を含む凍結乾燥エアロゲル。
【請求項15】
1種以上の凍害防止剤を含むことを特徴とする請求項14に記載の凍結乾燥エアロゲル。
【請求項16】
1種以上の凍結乾燥保護剤を含むことを特徴とする請求項14または15に記載の凍結乾燥エアロゲル。
【請求項17】
細胞は、真核細胞、たとえば哺乳類細胞であることを特徴とする請求項14〜16のいずれか1項に記載の凍結乾燥エアロゲル。
【請求項18】
細胞は、癌細胞であることを特徴とする請求項17に記載の凍結乾燥エアロゲル。
【請求項19】
1種以上の、凍害防止剤および/または凍結乾燥保護剤は、トレハロース、グリセロール、およびポリエチレングリコールから選択されることを特徴とする請求項15〜18のいずれか1項に記載の凍結乾燥エアロゲル。
【請求項20】
1種以上の、凍害防止剤および/または凍結乾燥保護剤は、トレハロースおよびグリセロールを含むことを特徴とする請求項15〜18のいずれか1項に記載の凍結乾燥エアロゲル。
【請求項21】
凍結乾燥エアロゲル中の細胞含有量は、0.1〜65%(w/w)の範囲内、たとえば、0.1〜50%(w/w)の範囲内、たとえば1〜25%(w/w)の範囲内にあることを特徴とする請求項14〜20のいずれか1項に記載の凍結乾燥エアロゲル。
【請求項22】
凍結乾燥エアロゲル中の、1種以上の、凍害防止剤および/または凍結乾燥保護剤の含有量は、1〜10%(w/w)の範囲内にあり、および/またはトレハロースの含有量は、0.5〜50%(w/w)の範囲内にあることを特徴とする請求項15〜21のいずれか1項に記載のエアロゲル。
【請求項23】
ナノフィブリルセルロースは、水に分散したとき、0.8%(w/w)の濃度および10rpmで測定されて、少なくとも2000mPa・s、たとえば少なくとも3000mPa・s、たとえば少なくとも10000mPa・sのブルックフィールド粘度をもたらすことを特徴とする請求項14〜22のいずれか1項に記載の凍結乾燥エアロゲル。
【請求項24】
ナノフィブリルセルロースは、アニオン変性ナノフィブリルセルロース、カチオン変性ナノフィブリルセルロース、カチオン非変性ナノフィブリルセルロース、およびTEMPO酸化ナノフィブリルセルロースから選択されること特徴とする請求項14〜23のいずれか1項に記載の凍結乾燥エアロゲル。
【請求項25】
ナノフィブリルセルロースを含むヒドロゲル中の細胞外小胞を凍結乾燥するための方法であって、
ナノフィブリルセルロースを含むヒドロゲルを提供することと、
細胞外小胞を提供することと、
小胞と、ナノフィブリルセルロースを含むヒドロゲルとを組み合わせて、小胞系を形成することと、
小胞系を凍結乾燥させ、ナノフィブリルセルロースを含むエアロゲル中に乾燥した細胞外小胞を得ることとを含むことを特徴とする方法。
【請求項26】
1種以上の凍害防止剤を提供することと、1種以上の凍結乾燥保護剤を小胞系に添加することとを含むことを特徴とする請求項25に記載の方法。
【請求項27】
1種以上の凍結乾燥保護剤を提供することと、1種以上の凍結乾燥保護剤を小胞系に添加することとを含むことを特徴とする請求項25または26に記載の方法。
【請求項28】
細胞外小胞は、微小胞を含むことを特徴とする請求項2527のいずれか1項に記載の方法。
【請求項29】
1種以上の、凍害防止剤および/または凍結乾燥保護剤は、トレハロース、グリセロール、およびポリエチレングリコールから選択されることを特徴とする請求項2628のいずれか1項に記載の方法。
【請求項30】
1種以上の、凍害防止剤および/または凍結乾燥保護剤は、トレハロースおよびグリセローを含むことを特徴とする請求項2629のいずれか1項に記載の方法。
【請求項31】
ナノフィブリルセルロースは、水中に分散されたとき、0.8%(w/w)の濃度および10rpmで測定されて、少なくとも2000mPa・s、たとえば少なくとも3000mPa・s、たとえば少なくとも10000mPa・sのブルックフィールド粘度をもたらすことを特徴とする請求項2530のいずれか1項に記載の方法。
【請求項32】
凍結乾燥前のヒドロゲル中のナノフィブリルセルロースの濃度は、0.1〜10%、たとえば0.1〜5%(w/w)、0.1〜2%(w/w)、または0.1〜1.0%(w/w)の範囲内にあることを特徴とする請求項2531のいずれか1項に記載の方法。
【請求項33】
ナノフィブリルセルロースは、アニオン変性ナノフィブリルセルロース、カチオン変性ナノフィブリルセルロース、カチオン非変性ナノフィブリルセルロース、およびTEMPO酸化ナノフィブリルセルロースから選択されることを特徴とする請求項2532のいずれか1項に記載の方法。
【請求項34】
凍結乾燥は、乾燥ヒドロゲルが、10%以下、好ましくは1〜10%(w/w)、たとえば2〜8%(w/w)の範囲内にある水分含有量を有するまで継続されることを特徴とする請求項2533のいずれか1項に記載の方法。
【請求項35】
ナノフィブリルセルロースおよび細胞外小胞を含む凍結乾燥エアロゲルであって、ヒドロゲルの水分含有量が、10%以下、好ましくは1〜10%(w/w)、たとえば2〜8%(w/w)の範囲内にあることを特徴とする凍結乾燥エアロゲル。
【請求項36】
細胞外小胞は、微小胞を含むことを特徴とする請求項35に記載の凍結乾燥エアロゲル。
【請求項37】
1種以上の凍害防止剤を含むことを特徴とする請求項35または36に記載の凍結乾燥エアロゲル。
【請求項38】
1種以上の凍結乾燥保護剤を含むことを特徴とする請求項3537のいずれか1項に記載の凍結乾燥エアロゲル。
【請求項39】
1種以上の、凍害防止剤および/または凍結乾燥保護剤が、トレハロース、グリセロール、およびポリエチレングリコールから選択されることを特徴とする請求項35または36に記載の凍結乾燥エアロゲル。
【請求項40】
1種以上の、凍害防止剤および/または凍結乾燥保護剤が、トレハロースおよびグリセロールを含むことを特徴とする請求項3739のいずれか1項に記載の凍結乾燥エアロゲル。
【請求項41】
凍結乾燥エアロゲル中の細胞外小胞の含有量は、0.1〜65%(w/w)の範囲内、たとえば0.1〜50%(w/w)、たとえば1〜25%(w/w)の範囲内にあることを特徴とする請求項3540のいずれか1項に記載の凍結乾燥エアロゲル。
【請求項42】
凍結乾燥エアロゲル中における、1種以上の、凍害防止剤および/もしくは凍結乾燥保護剤の含有量は、1〜10%(w/w)の範囲内にあり、ならびに/またはトレハロースの含有量は、0.5〜50%(w/w)の範囲内にあることを特徴とする請求項3741のいずれか1項に記載の凍結乾燥エアロゲル。
【請求項43】
ナノフィブリルセルロースは、水に分散したときに、0.8%(w/w)の濃度および10rpmにおいて測定されて、少なくとも2000mPa・s、たとえば少なくとも3000mPa・s、たとえば少なくとも10000mPa・sのブルックフィールド粘度をもたらすことを特徴とする請求項3542のいずれか1項に記載の凍結乾燥エアロゲル。
【請求項44】
ナノフィブリルセルロースは、アニオン変性ナノフィブリルセルロース、カチオン変性ナノフィブリルセルロース、カチオン非変性ナノフィブリルセルロース、およびTEMPO酸化ナノフィブリルセルロースから選択されることを特徴とする請求項3543のいずれか1項に記載の凍結乾燥エアロゲル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、細胞を凍結乾燥する方法、および該方法で得られた凍結乾燥細胞に関する。より具体的には、本開示は、ナノフィブリルセルロースを含むヒドロゲル中の細胞を凍結乾燥する方法、およびナノフィブリルセルロースを含むエアロゲル中の凍結乾燥細胞に関する。
【背景技術】
【0002】
現在の知識では、複雑なまたは大型の哺乳類細胞の凍結乾燥は、細胞に不可逆的な損傷を与え、凍結乾燥細胞は、乾燥するとそれらの三次元形状を失う傾向がある。したがって、そのような細胞を凍結乾燥するために使用することができ、凍結中に細胞を保護することができる方法を見出す必要がある。
【0003】
得られた乾燥生成物は、乾燥しており、活性であり、貯蔵安定性であり、清潔かつ無菌であり、倫理的に許容され、医薬的に洗練されており、容易に溶解し、再構成するのが容易であるべきであり、その処理は、経済的に実行可能であるべきである。
【発明の概要】
【0004】
ナノフィブリルセルロースは、単離されたセルロース小繊維、またはセルロース原料に由来する小繊維束を表す。ナノフィブリルセルロースは、自然界に豊富に存在する天然ポリマーに基づく。ナノフィブリルセルロースは、水中で粘性のヒドロゲルを形成する性質を有する。
【0005】
ナノフィブリルセルロース製造方法は、パルプ繊維の水性分散液の粉砕に基づく。分散液中のナノフィブリルセルロースの濃度は、典型的には非常に低く、通常約0.3〜5%である。粉砕または均質化処理後、得られたナノフィブリルセルロース材料は、希釈された粘弾性ヒドロゲルである。
【0006】
ナノフィブリルセルロースは、そのナノスケール構造が原因で、従来のセルロースでは提供することができない機能を有効にすることができる独特の特性を有する。細胞、特に真核細胞は、三次元培養中においてナノフィブリルセルロースマトリックス中で増殖することができ、細胞はスフェロイドとして増殖することができることが見出された。そのような細胞培養は、効率的である。なぜなら、三次元培養において細胞が互いに容易に連絡し、組織様コロニーを形成することができるからである。これは、従来の二次元培養を使用することによっては不可能である。
【0007】
しかしながら、ナノスケールの構造が原因で、ナノフィブリルセルロースは、取扱いが難しい材料でもある。たとえば、ナノフィブリルセルロースの、脱水または取扱いは、困難であろう。さらに、脱水後、脱水または乾燥前の元のナノフィブリルセルロースと等しい特性を有する材料を得るために、乾燥材料を再水和または再ゲル化することは一般的に困難である。特に困難な脱水処理は、凍結乾燥である。
【0008】
本願では、凍結乾燥細胞、たとえば哺乳類細胞のための凍結乾燥保護マトリックスとしてナノフィブリルセルロースヒドロゲルをどのように使用するかが開示されている。ナノフィブリルセルロース(NFC)ヒドロゲルそれ自体を凍結乾燥し、次いでレオロジー特性または拡散特性を損なうことなく再水和するにはどうすればよいかが課題であった。たとえば、NFCの乾燥は、角化として知られる、隣接するNFCナノファイバー間の不可逆的な水素結合を促進する。しかしながら、細胞をナノフィブリルセルロースヒドロゲル中で凍結乾燥すると、ヒドロゲル自体が凍結乾燥保護特性をもたらすことが見出された。二次元培養物を凍結乾燥した場合、トレハロースを含む場合でも、細胞は生存しなかった。凍結および凍結乾燥の間にヒドロゲルおよび細胞をさらに保護するために特定の補助試薬を使用することができることも見出された。
【0009】
一実施形態は、ナノフィブリルセルロースを含むヒドロゲル中で細胞を凍結乾燥するための方法であって、
− ナノフィブリルセルロースを含むヒドロゲルを提供することと、
− 細胞を提供することと、
− 細胞と、ナノフィブリルセルロースを含むヒドロゲルとを組み合わせて細胞系を形成することと、
− 細胞系を凍結乾燥して、ナノフィブリルセルロースを含むエアロゲル中で乾燥細胞を得ることとを含む方法を提供する。
【0010】
一実施形態は、ナノフィブリルセルロースを含むヒドロゲル中で細胞外小胞を凍結乾燥する方法であって、
− ナノフィブリルセルロースを含むヒドロゲルを提供することと、
− 細胞外小胞を提供することと、
− 前記小胞と、ナノフィブリルセルロースを含むヒドロゲルとを組み合わせて小胞系を形成することと、
− 小胞系を凍結乾燥して、ナノフィブリルセルロースを含むエアロゲル中で乾燥細胞外小胞を得ることとを含む方法を提供する。
【0011】
本方法は、1種以上の、凍害防止剤および/または凍結乾燥保護剤を提供することと、1種以上の、凍害防止剤および/または凍結乾燥保護剤を細胞系または小胞系に添加することとを含んでもよい。
【0012】
一実施形態は、ナノフィブリルセルロース、細胞、ならびに任意に1種以上の、凍害防止剤および/または凍結乾燥保護剤を含む凍結乾燥エアロゲルであって、凍結乾燥エアロゲルの水分含有量が10%以下、好ましくは1〜10%(w/w)、たとえば2〜8%(w/w)の範囲内にある凍結乾燥エアロゲルを提供する。
【0013】
一実施形態は、ナノフィブリルセルロースおよび細胞外小胞を含む凍結乾燥エアロゲルを提供し、凍結乾燥エアロゲルの水分含有量は10%以下、好ましくは1〜10%(w/w)、たとえば2〜5%(w/w)の範囲内にある。
【0014】
主な実施形態は、独立請求項に特徴付けられている。様々な実施形態は、従属請求項に開示されている。特許請求の範囲および実施形態に記載された実施形態は、特に明記しない限り互いに自由に組み合わせることができる。
【0015】
驚くべきことに、ナノフィブリルセルロースヒドロゲルは、凍結乾燥処理において凍結乾燥保護マトリックスとして作用し得ることが見出された。この処理において、ある成分がヒドロゲルに含まれてもよい。前記成分は、細胞、たとえば、真核細胞または原核細胞、特に哺乳類細胞を含んでもよく、他の薬剤、たとえば、凍害防止剤および/または凍結乾燥保護剤、医薬品もしくは治療薬、栄養素、他の化学薬剤、活性薬剤、または他の大分子もしくは小分子を含んでもよい。しかしながら、ナノフィブリルセルロースヒドロゲルそれ自体が、細胞に対して有効な凍結乾燥保護特性をもたらしたことが特に見出された。このことは、有利である。なぜなら、特に真核細胞、さらに具体的には哺乳類細胞は、凍結乾燥するのが困難であるからである。この原因の1つは、細胞内に存在するミトコンドリアまたは小胞であると考えられる。これらは処理中に容易に損傷を受ける。
【0016】
ナノフィブリルセルロースを含むヒドロゲルの元の特性を回復する形態に再水和または再分散することができる乾燥生成物を得ることができる。すなわち、乾燥生成物を再ゲル化することができる。そのような特性には、たとえば、細胞特性、ゲル特性、および活性化合物または医薬成分の制御放出が含まれる。
【0017】
ナノフィブリルセルロースは、機械的に破裂することなく、凍結および乾燥に耐えることができる凍結乾燥保護マトリックスとして作用することが見出された。ナノフィブリルセルロースは、凍害防止マトリックスとしても作用し得る。それは、不活性であり、汚染物質を除去し、高い多孔度を達成するために十分な液体を保持し、明確な幾何学的単位として成形することができる。さらに、ナノフィブリルセルロースは、再水和液に浸されたとき、吸収された活性生成物を放出することができる。細胞を放出するためには、通常、ゲルを分解するために酵素添加も必要である。
【0018】
細胞は元の形態を保持することが見出され、破裂または崩壊は検出されなかった。さらに、再水和細胞は、培養フラスコの表面に付着し、これは細胞の生存を示す。ナノフィブリルセルロースヒドロゲルの凍結乾燥保護効果は、試験で実証された。
【0019】
さらに、細胞外小胞、たとえば微小胞は、本明細書に記載の方法を使用した場合に細胞の凍結乾燥に耐えることができることが見出された。微小胞は細胞間情報伝達において役割を担っているので、凍結乾燥中の微小胞の保存は、細胞培養物が再水和直後に三次元コロニーとして効率的に増殖し始める能力を高める。本方法によって分離した微小胞を凍結乾燥することも可能である。
【0020】
ナノフィブリルセルロースヒドロゲルは、非毒性であり、生体適合性であり、生分解性でもある親水性マトリックスを提供する。たとえば、マトリックスは、たとえば、セルラーゼを添加することによって酵素的に分解することができる。一方、ヒドロゲルは、生理学的条件において安定である。細胞、特に取扱いが困難な真核細胞、たとえば哺乳類細胞は、三次元培養中においてナノフィブリルセルロースヒドロゲル中で培養し、凍結乾燥し、三次元培養を回復するために再水和することができる。
【0021】
ヒドロゲルを酵素的に消化することができるという特徴は、細胞の場合に特に有利である。細胞系が乾燥すると、その生物時計は停止する。冷凍時も同様である。したがって、輸送後に支持性乾燥NFCマトリックスを除去することができる、全く新しい世代の「水を加えるだけの」細胞製品を提供することができる。これは見返りに細胞の研究を加速するであろう。なぜなら、研究には通常、現在替えのきかない多くの手作業を必要とするからである。また、直ちに使用可能な乾燥細胞系を輸送および保管することは、より手頃な価格になるであろう。なぜなら、複雑な冷却システムが必要とされないからである。たとえば、三次元培養細胞スフェロイド製品は、最初にそれらを播種して増殖させる必要なしに研究者が直接利用することができるようになる。三次元スフェロイドは、特に、たとえば低酸素症が考慮される場合、実際の腫瘍をよりよく模倣するので、近い将来にそれらの使用が増加する可能性がある。以後、凍結乾燥細胞製品の臨床応用が、さらに厳密な方法で検討される可能性がある。
【0022】
さらに、選択されたクリオプロテクタント(cryoprotectant)および/またはリオプロテクタント(lyoprotectant)の存在は、ゲルからの薬剤の放出特性に影響を及ぼさなかった。ヒドロゲルを乾燥させることによって、医薬品または科学製品のための非常に長い貯蔵寿命を得ることができる。特に、湿潤条件において不安定な、細胞、または活性剤、たとえば、タンパク質、DNA/RNA、および加水分解に感受性の他の薬剤を含むゲルは、水分をほとんど含まないか、または実質的に含まないので、長期の安定性および貯蔵寿命を有する形態にうまく凍結乾燥することができる。このような凍結乾燥製品は、室温でさえも保存することができ、液体、たとえば、水、希釈生理食塩水または希釈細胞培養培地を添加することによって、使用前に再ゲル化することができる。
【0023】
ナノフィブリルセルロースを含むヒドロゲルの有利な特性は、柔軟性、弾力性および再成形性を含む。ヒドロゲルは大量の水を含むので、良好な透過性を示し得る。また、実施形態のヒドロゲルは、高い保水容量および分子拡散特性速度をもたらす。
【0024】
本明細書に記載のヒドロゲルは、ナノフィブリルセルロースを含む材料が生体組織に接触している、医療用途および科学用途に有用である。本明細書に記載のナノフィブリルセルロースを含む製品は、生体物質との生体適合性が高く、いくつかの有利な効果をもたらす。いかなる特定の理論にも縛られないが、非常に高い比表面積を有し、したがって高い保水能力を有する非常に親水性の高いナノフィブリルセルロースは、細胞または組織に対して適用した場合、細胞または組織とナノフィブリルセルロースを含むヒドロゲルとの間に好ましい湿潤環境を提供すると考えられる。ナノフィブリルセルロース中の大量の遊離ヒドロキシル基は、ナノフィブリルセルロースと水分子との間に水素結合を形成し、ナノフィブリルセルロースのゲル形成、および高い保水能力をもたらす。ナノフィブリルセルロースヒドロゲル中の大量の水が原因で、水のみが細胞または組織に接触していると考えられ、流体および/または薬剤の移動も可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0025】
本実施形態は、添付図面を参照して以下に説明される。
図1】凍結段階前、24時間のトレハロースインキュベーション後に画像化した、0.8%GrowDex(登録商標)ヒドロゲル中で培養した5日目のHep G2細胞スフェロイドを示す。画像(A)、(B)および(C)は、100〜120μmの直径を有する典型的なスフェロイドを示す。(D)は、160μmを超える直径を有するより大きなスフェロイドを示す。
図2】液体窒素の滅菌を示す。(A)汚染された液体窒素は、清潔な容器に注がれる。(B)70%エタノールを用いて系全体に噴霧し、ラミナ中でUV−C光で滅菌する。(C)ラミナの内側に、15mlチューブをキャップなしでラックに取り付ける。(D)チューブを滅菌液体窒素に浸したまま、チューブに約5mlの滅菌液体窒素を充填する。
図3】細胞ヒドロゲルの凍結および凍結乾燥の開始を示す。(A)細胞−ヒドロゲル混合物の小滴を、ピペットを用いて直接液体窒素に入れることによる急速凍結。(B)液体窒素中の試料の凍結乾燥器への移動。チューブは、真空に引いても依然として液体窒素を含んでいる。
図4】(A)急速凍結後の凍結状態のガラス化した200μlの細胞試料を示す。(B)乾燥状態にある凍結乾燥後の試料。
図5】CHRIST社のEPSILON 1-6Dについて、96ウェル(1ウェルあたり200μl)のGrowDex(登録商標)のHep G2スフェロイド細胞系の最適化された凍結乾燥サイクルを示す。
図6】(A)細胞試料を含む96ウェルプレートを含む細胞フラスコを示す。(B)滅菌Corning(登録商標)通気性シーリングテープで密封された15mlチューブ。
図7】560nmでの励起、および590nmでの発光を伴う、HepG2細胞に対するalamarBlue(登録商標)の最適化結果から引いた基準線を示す。
図8】凍結乾燥後の再形成された細胞ヒドロゲル系を示す。(A)特大細胞スフェロイドは、細胞を脱離することなく凍結乾燥に耐えた。(B)再水和後の様々なサイズの細胞スフェロイド。(C)再水和後の小さいスフェロイド。(D)再水和後、形態に変化がない細胞スフェロイド。
図9】三次元細胞スフェロイドが、再水和後および再播種後4時間で細胞培養フラスコの二次元表面上にそれ自体で付着し始めた様子を示す。
図10】生細胞(A)および死細胞(B)の両方を含む、再水和および二重染色後の生/死染色細胞スフェロイドの重ね合わせ画像(C)を示す。生細胞は緑色で示され、死細胞は赤色で示される。
図11】凍結乾燥および再水和後の二次元および三次元細胞試料の二重染色細胞を示す。(A)GrowDex(登録商標)の保護作用を持たない全ての細胞は死滅した。(B)GrowDex(登録商標)を含む試料において15〜35%の生存率が推定された。
図12】再水和後の細胞スフェロイドを示す。二重染色は、酵素活性および膜の完全性が失われた細胞を明らかにするが、いくつかの細胞は両方とも有している。つまり、膜の完全性を部分的に失い、酵素活性を残している。
図13】GrowDex(登録商標)エアロゲルに封入された凍結乾燥Hep G2細胞および細胞スフェロイドを示す。(A)、(B)、(C)および(D)典型的なサイズと形状のスフェロイド。(E)小さな細胞スフェロイド。(F)単一のHep G2細胞。
【発明を実施するための形態】
【0026】
真空凍結乾燥(lyophilization)としても知られている凍結乾燥(freeze-drying)は、水が凍結物質から昇華によって制御可能に除去される物理的処理である。凍結乾燥は、他の乾燥法、たとえば、オーブン乾燥および噴霧乾燥と比較して、高感度な乾燥方法であるので、タンパク質および他の生物学的化合物の乾燥に特に適している。
【0027】
凍結乾燥は、多段階操作であり、各工程の成功は結果にとって重要である。凍結乾燥では、活性物質が乾燥され、その主要な特性、たとえばタンパク質の場合では正しい三次元構造が維持される必要がある。この処理は、添加された増量剤、たとえば、凍害防止剤および凍結乾燥保護剤、安定剤、乳化剤および酸化防止剤を表す周囲の「培地」を含む。この処理は一般に7つの段階を含み、その最初の段階では物質は必要な増量剤を添加することによって調製される。次に、第2段階において、物質は、各混合物に固有のTg’点(より低い転移温度)近くで凍結される。次に、第3段階において、物質は、真空中で長時間乾燥され、凍結した水は、昇華によって除去される。この段階は、一次乾燥段階、または昇華段階として知られている。通常の条件下では、乾燥は、液相から気相への相転移として起こるであろう。しかしながら、凍結乾燥では、物質が凍結するまで温度を下げ、次に昇華工程で圧力を下げる。水の三重点の周りの固相を通してシフティングの過程が起こる。
【0028】
次に、凍結乾燥の第4段階では、圧力を下げながら温度を上げることによって、凍結していない結合水が排出される。この工程は、二次乾燥または脱着段階として知られている。物質が乾くと、5番目の工程、つまり調整および保存において凍結乾燥機から物質を取り除かなければならない。この段階では、物質は、水、光、酸素および汚染物質によって容易に損傷を受ける。凍結乾燥の6番目の工程では、試料は、最終保管場所に置かれる。必要な保存パラメータは、各物質に対して個別に最適化する必要がある。最後に、第7番目、再構成段階において、試料は、使用のために元の系を再形成するために再水和される。開発された凍結乾燥サイクルが成功した場合、再水和物質は、元の物質と同じか、またはほぼ同じ特性を保持する。
【0029】
本願は、凍結乾燥処理における凍結乾燥保護マトリックスとしての、ナノフィブリルヒドロゲルの使用を開示する。ナノフィブリルセルロースマトリックスは、細胞、特に真核細胞、たとえば哺乳類細胞を凍結乾燥すると、有利であることが見出された。当然、全ての種類の細胞、たとえば、原核細胞、ならびに細胞外小胞、たとえば微小胞は、本明細書に開示された方法を用いて凍結乾燥することができる。クリオプロテクタントおよび/またはリオプロテクタントを、処理において使用してもよい。
【0030】
ナノフィブリルセルロースがリオプロテクタントとして作用するマトリックスとして使用され、この効果は、本明細書に開示されたように、他の凍害防止剤または凍結乾燥保護剤を用いることによって向上することができることが見出された。したがって、向上した凍害防止および凍結乾燥保護の相乗効果が得られた。
【0031】
本開示は、ナノフィブリルセルロースヒドロゲルとも称される、ナノフィブリルセルロースを含むヒドロゲルを提供する。ヒドロゲルは、他の物質または他の要素、たとえば、補強材料、被覆材料、活性剤、塩などをも含み得る製品として提供されてもよい。また、ヒドロゲルは、医療用ヒドロゲルまたは医療用製品として提供されてもよく、または称されてもよい。
【0032】
本願は、ナノフィブリルセルロースを含むヒドロゲル中で細胞を凍結乾燥するための方法であって、
− ナノフィブリルセルロースを含むヒドロゲルを提供することと、
− 細胞を提供することと、
− 細胞とナノフィブリルセルロースを含むヒドロゲルとを組み合わせて細胞系を形成することとを含む方法を提供する。細胞は、水性培地、たとえば細胞培養培地中に提供されてもよい。水性媒体は、細胞系に添加することもできる。細胞外小胞が関係する場合、形成された系は、小胞系または細胞外小胞系と称されてもよい。小胞を用いた手順は、その他の点では細胞を用いた手順と同様であり、細胞の代わりに小胞を用いるのみで同様の生成物が得られる。方法および得られた生成物は、細胞および小胞の両方を含んでもよい。
【0033】
一実施形態では、本方法は、細胞系内で細胞を培養することを含む。そのような場合、細胞培養物が形成される。多くの場合、細胞系は、細胞培養とも称される。
【0034】
最初に、細胞を別の培養物中で前培養し、続いて回収し、培養培地と同様、または異なる新しい培地に移してもよい。細胞懸濁液が得られる。この細胞懸濁液、または別の細胞懸濁液を、ナノフィブリルセルロース、たとえばナノフィブリルセルロースを含むヒドロゲルと組み合わせ、および/または混合し、細胞系を得るか、または形成することができる。細胞が細胞系で培養される場合、細胞培養物が形成される。細胞培養は、二次元培養または三次元培養であってもよい。一実施形態では、細胞培養物は、三次元細胞培養物である。細胞は、一定期間、培養またはインキュベートすることができる。一実施形態では、本方法は、1種以上の、凍害防止剤および/または凍結乾燥保護剤を、たとえば、培養培地中に提供することと、1種以上の、凍害防止剤および/または凍結乾燥保護剤を、細胞系または細胞培養物に添加することとを含む。たとえば、細胞培養培地は、1種以上の、凍害防止剤および/または凍結乾燥保護剤を含む培地に変更されてもよい。これに代えて、または追加して、1種以上の、凍害防止剤および/または凍結乾燥保護剤を細胞培養物中の細胞培養培地に添加してもよい。一実施例では、トレハロースが最初に培地に含まれ、細胞は、任意の他の凍害防止剤および/または凍結乾燥保護剤が添加される前に、一定期間、たとえば約12〜24時間にわたって、たとえば20〜100mMのトレハロース培地と共にインキュベートされる。最後に、本方法は、細胞培養物を凍結乾燥し、ナノフィブリルセルロースを含むヒドロゲル中に乾燥細胞を得ることを含む。
【0035】
一実施形態は、ナノフィブリルセルロースと、1種以上の、凍害防止剤および/または凍結乾燥保護剤とを含むヒドロゲルを提供する。そのようなヒドロゲルは、上述されたように細胞と組み合わせるために提供されてもよい。
【0036】
細胞は、原核細胞、たとえば細菌細胞であってもよく、または真核細胞であってもよい。真核細胞は、植物細胞、酵母細胞、または動物細胞であってもよい。真核細胞の例は、移植可能細胞、たとえば幹細胞、たとえば、全能性細胞、多能性細胞、多分化能細胞、オリゴ能性細胞、または単能性細胞が含まれる。ヒト胚性幹細胞の場合、ヒト胚を破壊しないように、細胞は寄託された細胞株に由来してもよく、未受精卵、すなわち「単為生殖」卵もしくは単為生殖的に活性化された卵子に由来してもよい。細胞は、ヒドロゲル中で培養されてもよく、それらはその中で凍結乾燥されてもよい。細胞は、動物もしくはヒトに基づく化学物質が細胞の外側から生じることなく、ヒドロゲル上またはヒドロゲル内で維持および増殖することができる。細胞は、ヒドロゲル上またはヒドロゲル内に均一に分散してもよい。
【0037】
細胞の例は、幹細胞、未分化細胞、プレカーサ細胞、および完全分化細胞、ならびにそれらの組み合わせを含む。いくつかの実施例において、細胞は、ケラトサイト、ケラチノサイト、線維芽細胞、上皮細胞、およびそれらの組み合わせからなる群から選択された細胞型を含む。いくつかの実施例では、細胞は、幹細胞、プロジェニタ細胞、プレカーサ細胞、結合組織細胞、上皮細胞、筋細胞、神経細胞、内皮細胞、線維芽細胞、ケラチノサイト、平滑筋細胞、間質細胞、間葉系細胞、免疫系細胞、造血細胞、樹状細胞、毛包細胞、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される。細胞は、腫瘍細胞または癌細胞、遺伝子改変細胞、たとえば、トランスジェニック細胞、シスジェニック細胞もしくはノックアウト細胞、または病原性細胞であってもよい。そのような細胞は、たとえば薬物研究に使用することができる。
【0038】
一実施形態において、細胞は、真核細胞、たとえば哺乳類細胞である。哺乳類細胞の例は、ヒト細胞、マウス細胞、ラット細胞、ウサギ細胞、サル細胞、ブタ細胞、ウシ細胞、ニワトリ細胞などを含む。本方法の利点は、凍結乾燥した哺乳類細胞について最もよく実証されているが、本方法は、凍結乾燥した他の細胞、たとえば、非哺乳類真核細胞、酵母細胞、または原核細胞にも使用されてもよいことに留意されたい。
【0039】
細胞をナノフィブリルセルロースヒドロゲル中において三次元培養で増殖させると、細胞はスフェロイドとして増殖し、互いに連絡してもよい。そのような細胞コロニーは、組織と見なしてもよい。ある定義によれば、組織は、一緒に特定の機能を実行する同じ起源からの類似細胞の集団である。したがって、本方法は、凍結乾燥組織にも適用することができる。所望の細胞型を含む凍結乾燥製品を提供することが可能であり、当該凍結乾燥製品は、科学的研究、たとえば薬物試験のために実際の組織の代わりに使用することができる。本明細書に開示された方法で得られた、凍結乾燥三次元細胞培養物または組織培養物は、再水和後直ちに増殖を続けることができる。
【0040】
凍結乾燥ヒドロゲルは、エアロゲル、より具体的には凍結乾燥エアロゲルと称されてもよい。ある定義によれば、エアロゲルは、ゲルの液体成分が気体で置き換えられているゲルに由来する多孔質の超軽量材料である。それらの名称にもかかわらず、エアロゲルは、それらの物理的特性においてゲルに似ていない、硬く乾燥した固体材料である。それらの名称は、それらがゲルから作られているという事実から来ている。
【0041】
凍結乾燥法は、細胞外小胞、たとえば、エキソソームまたは微小胞を保存することが見出されたので、ナノフィブリルセルロースを含むヒドロゲル中で乾燥した細胞外小胞を得るための方法を用いて細胞外小胞を凍結乾燥することが可能である。そのような細胞外小胞、特に微小胞は、治療剤を標的細胞に標的化するための方法において使用されてもよい。
【0042】
エキソソームは、血液、尿、細胞培養物の培養培地など、大部分の真核生物の液体に存在する細胞由来の小胞である。エキソソームの直径は、30〜100nmの範囲内にあってもよい。多小胞体が、原形質膜と融合するとき、または原形質膜から直接放出されるとき、エキソソームは細胞から放出されてもよい。エキソソームは、タンパク質、RNA、脂質および代謝産物などの、それらの起源の細胞の様々な分子構成要素を含む。エキソソームタンパク質組成は、起源の細胞および組織によって異なるが、大部分のエキソソームは、進化的に保存された共通のタンパク質分子のセットを含む。単一のエキソソームのタンパク質含有量は、タンパク質のサイズおよび立体配置、ならびにパッキングパラメーターの具体的な想定を考慮すると、約20000分子であってもよい。エキソソームは、膜小胞輸送を介して、細胞間で分子を移動させることができ、それによって、免疫系、たとえば、樹状細胞およびB細胞に影響を及ぼし、病原体および腫瘍に対する適応免疫応答の媒介において機能的役割を果たすことができる。
【0043】
エキソソームは、非常に効果的な薬物担体として使用することができる。その表面に多数の接着タンパク質を有する細胞膜からなるエキソソームは、細胞間コミュニケーションを専門とし、標的細胞、たとえば抗癌剤を標的とするために、様々な治療薬の送達のための独占的アプローチを提供することが知られている。
【0044】
微小胞は、細胞外小胞の一種である。それらは、100〜1000nmの範囲内にある直径を有する原形質膜の円形フラグメントである。微小胞は、細胞間連絡に役割を担い、mRNA、miRNA、およびタンパク質を細胞間で輸送することができる。微小胞は、組織再生において主要な役割を担っていると共に、癌における顕著な抗腫瘍逆転効果、腫瘍免疫抑制、転移、腫瘍間質相互作用および血管形成の過程において作用する。微小胞は、それらが由来する細胞の抗原含有量を反映する。様々な細胞は、原形質膜、たとえば、巨核球、血小板、単球、好中球、腫瘍細胞および胎盤から微小胞を放出することができる。
【0045】
本方法では、ナノフィブリルセルロース、細胞、ならびに任意に1種以上の、凍害防止剤および/または凍結乾燥保護剤を含む乾燥ヒドロゲルが形成される。本方法において使用または形成されるヒドロゲルは医療用ヒドロゲルであってもよい。
【0046】
用語「医療用」は、製品、すなわち実施形態のヒドロゲルを含む製品が使用されるか、または医療目的、もしくは科学目的、たとえば研究に適している、製品または使用を表す。医療用製品は、滅菌されてもよく、またはたとえば、温度、圧力、湿気、化学物質、放射線もしくはそれらの組み合わせを用いることによって滅菌可能である。製品、好ましくは細胞を含まないヒドロゲルは、たとえば、オートクレーブ処理することができ、または高温を用いる他の方法を使用することができ、その場合、製品は、100℃を超える高温、たとえば、少なくとも121℃または134℃に耐えるべきである。一実施例では、製品は、121℃で15分間オートクレーブされる。また、医療用製品は、発熱物質を含まず、望ましくないタンパク質残基などを含まないことが望ましい。医療用製品は、好ましくは標的に対して毒性を示さない。紫外線殺菌も使用することができる。
【0047】
実施形態のナノフィブリルセルロース(NFC)ヒドロゲル、たとえばアニオン性NFCヒドロゲルは、特に温度およびpHが一定の場合に、時間の関数として活性剤、たとえば細胞によって分泌される薬剤、もしくは治療薬、たとえば薬剤成分を制御可能に放出することができる。NFCヒドロゲルは、特定の賦形剤と共に凍結乾燥されても、依然として再ゲル化することができることが見出された。アニオン性ヒドロゲルは、多くの用途について好ましい。たとえば、アニオン変性ナノフィブリルセルロースは、他のグレードとは異なり、容易に沈殿しない。また、アニオン性グレードは、ある種の活性剤を放出するために特に適している。
【0048】
試験では、GrowDex(登録商標)と称されるUPM-Kymmene社によって製造された市販の製品を使用した。GrowDex(登録商標)は、カバノキパルプから製造された無菌のナノフィブリル化セルロースヒドロゲル製品である。天然GrowDex(登録商標)ヒドロゲルは、非常に粘性であるが、その粘度は、水性液体、たとえば細胞培地と完全に混合することによって必要な条件に調整することができる。繊維濃度が1.6%未満に調整される場合、ヒドロゲルは、ピペッティングによって分配することができるが、比較的高い保水性を維持している。ヒドロゲルは、塩、温度およびpHの変化を許容し、少なくとも6〜8のpH範囲でその特性を保持する。しかしながら、マグネシウムおよびカルシウムは、NFC繊維を架橋することができるので、細胞培地および他の添加剤中では望ましくない架橋のために避けるべきである。NFCヒドロゲルの超微細構造は、細胞外マトリックス(ECM)に似ている。GrowDex(登録商標)ヒドロゲルは、非自己蛍光性であるので、細胞の染色および画像化に対応している。NFC繊維に付着する染色の場合、GrowDex(登録商標)ヒドロゲル構造は、画像化前にセルラーゼ酵素を添加することによって酵素的に分解することができる。
【0049】
本明細書において、パーセンテージ値は、他に具体的に示されない限り、重量(w/w)に基づいている。数値範囲が提供されている場合、その範囲は、上限値および下限値も含まれる。
【0050】
ナノフィブリルセルロース
ナノフィブリルセルロースは一般的に、植物起源のセルロース原材料から作製される。原材料は、セルロースを含む任意の植物材料に基づいてもよい。原材料は、特定の細菌発酵処理に由来してもよい。ナノフィブリルセルロースは、好ましくは植物材料から作製される。一実施例において、小繊維は、非実質植物材料から得られる。そのような場合、小繊維は、二次細胞壁から得られてもよい。そのようなセルロース小繊維のある豊富な供給源は、木質繊維である。ナノフィブリルセルロースは、木材由来の繊維原料を均質化することによって作製される。繊維原料は、化学パルプであってもよい。セルロース繊維は、数ナノメートルしかない直径を有する小繊維を製造するために分解されてもよく、直径は、最大で50nm、たとえば、1〜50μmの範囲内にあり、小繊維の分散水溶液をもたらす。小繊維は、大部分の小繊維の直径がわずか2〜20nmの範囲内にあるサイズに縮小することができる。二次細胞壁に由来する小繊維は、本質的に、少なくとも55%の結晶度を有する結晶である。そのような小繊維は、一次細胞壁に由来する小繊維とは異なる特性を有する場合がある。たとえば、二次細胞壁に由来する小繊維の脱水は、さらに困難である場合がある。一般的に、一次細胞壁からのセルロース供給源、たとえば、てん菜、じゃがいもおよびバナナ花軸において、微小繊維は、木材に由来する小繊維よりも容易に繊維マトリックスから遊離され、分解は、より少ないエネルギーを必要とする。しかしながら、これらの材料は、依然としていくらか不均一であり、大きな小繊維束からなる。
【0051】
一実施形態において、植物材料は、木材である。木材は、トウヒ、マツ、モミ、カラマツ、ダグラスファー、もしくはツガなどの針葉樹、またはカバノキ、アスペン、ポプラ、ハンノキ、ユーカリノキ、オーク、ブナ、もしくはアカシアなどの広葉樹、または針葉樹および広葉樹の混合物から形成されてもよい。一実施形態において、ナノフィブリルセルロースは、木材パルプから得られる。一実施形態において、ナノフィブリルセルロースは、広葉樹パルプから得られる。一例において、広葉樹は、カバノキである。一実施形態において、ナノフィブリルセルロースは、広葉樹パルプから得られる。一実施形態において、木材パルプは、化学パルプである。
【0052】
本明細書において使用されるように、「ナノフィブリルセルロース」との用語は、セルロース小繊維、またはセルロース系繊維原料から分離された小繊維束を表す。これらの小繊維は、高いアスペクト比(長さ/直径)によって特徴付けられ、それらの長さは1μmを超えてもよいが、直径は通常200nmよりも小さい。最も小さい小繊維は、いわゆる基本小繊維の寸法であり、直径は、典型的には2〜12nmの範囲内にある。小繊維の寸法およびサイズ分布は、叩解方法および生成効率に依存する。ナノフィブリルセルロースは、セルロース系材料として特徴付けられてもよい。粒子(小繊維または小繊維束)の中央長さは、50μm以下であり、たとえば、1〜50μmの範囲内にある。粒径は、1μmよりも小さく、好ましくは2〜500nmの範囲内にある。天然のナノフィブリルセルロースの場合、一実施形態において、小繊維の平均径は、5〜100nmの範囲内、たとえば10〜50nmの範囲内にある。ナノフィブリルセルロースは、大きな比表面積と、水素結合を形成するための強い能力とによって特徴付けられる。水分散液中において、ナノフィブリルセルロースは、典型的には、透明な、または濁ったゲル様材料に見える。繊維原料によれば、ナノフィブリルセルロースは、他の少量の木質成分、たとえばヘミセルロースまたはリグニンを含んでもよい。その量は、植物供給源に依存する。ナノフィブリルセルロースについて多くの場合に使用される類似名称は、ナノフィブリル化セルロース(NFC)、およびナノセルロースを含む。
【0053】
一般的に、セルロースナノ材料は、セルロースナノ材料について標準用語を提供するTAPPIW13021に従ってカテゴリに分けることができる。2つの主なカテゴリは、「ナノ物質」および「ナノ構造体」である。ナノ構造体は、10〜12μmの幅を有し、L/D<2である「セルロース微結晶」(CMCと称されることもある)と、10〜100nmの幅および0.5〜50μmの長さを有する「セルロースマイクロフィブリル」とを含む。ナノ物質は、「セルロースナノファイバー」を含み、3〜10nmの幅を有し、L/D>5である「セルロースナノ結晶」(CNC)と、5〜30nmの幅を有し、L/D>50である「セルロースナノフィブリル」(CNFまたはNFC)に分けることができる。
【0054】
ナノフィブリルセルロースの様々なグレードは、3つの主な特性(i)サイズ分布、長さ、および直径、(ii)化学的組成、および(iii)レオロジー特性に基づいて分類されてもよい。グレードを十分に記載するために、特性は、同時に使用されてもよい。様々なグレードの例は、天然(または非修飾)NFC、酸化NFC(高粘度)、酸化NFC(低粘度)、カルボキシメチル化NFC、およびカチオン化NFCを含む。これらの主要グレードのうちにサブグレードも存在する。たとえば、非常に高度のフィブリル化に対して穏やかなフィブリル化、高い置換度に対して低い置換度、低粘度に対して高粘度など。フィブリル化技術と、化学的な前修飾とは、小繊維の寸法分布に影響を受ける。典型的には、非イオン性グレードは、広範な小繊維径を有し(たとえば、10〜100nm、または10〜50nmの範囲内にある)、化学的に変性されたグレードは、非常に薄い(たとえば、2〜20nmの範囲内にある)。また、分布は、変性されたグレードについて狭い。特定の変性、特にTEMPO酸化は、より短い小繊維をもたらす。
【0055】
原料供給源に依存して、たとえば、広葉樹(HW)パルプに対する針葉樹(SW)パルプなど、異なる多糖組成物が、最終的なナノフィブリルセルロース製品に存在する。一般的に、非イオン性グレードは、漂白されたカバノキパルプから作製され、高いキセノン含有量(25重量%)をもたらす。変性されたグレードは、HWパルプまたはSWパルプから作製される。それらの変性されたグレードにおいて、ヘミセルロースは、セルロースドメインと共に変性される。おそらく、変性は、均一ではない。すなわち、いくらかの部分は、他よりもさらに変性される。したがって、詳細な化学的分析は不可能であり、変性された生成物は必ず、異なる多糖類構造の複雑な混合物である。
【0056】
水性環境において、セルロースナノファイバーの分散液は、粘弾性ヒドロゲル網状体を形成する。ゲルは、分散し、水和した絡まった小繊維によって、たとえば0.05〜0.2%(w/w)の比較的低濃度で形成される。NFCヒドロゲルの粘弾性は、たとえば、動的振動レオロジー測定を用いて特徴付けられてもよい。
【0057】
ナノフィブリルセルロースヒドロゲルは、特徴的なレオロジー特性を示す。たとえば、ナノフィブリルセルロースヒドロゲルは、せん断減粘性、または擬塑性材料であり、このことは、それらの粘度が、材料が変形することによる、速度(または力)に依存することを意味する。回転式レオメータにおいて粘度を測定するとき、せん断減粘挙動は、せん断速度の増加とともに粘度の減少として観察される。ヒドロゲルは、可塑的挙動を示し、このことは、材料が容易に流れ始める前に特定のせん断応力(力)が、必要であることを意味する。この臨界的なせん断応力は、多くの場合、降伏応力と称される。降伏応力は、応力制御レオメータを用いて測定された定常流動曲線から測定可能である。粘度が、加えられたせん断応力の関数としてプロットされるとき、粘度の顕著な減少が、臨界せん断応力を超えた後に観察される。ゼロせん断粘度と、降伏応力とは、材料の懸濁力を記載するために最も重要なレオロジーパラメータである。これらの2つのパラメータは、異なるグレードを非常に明確に分けるので、グレードの分類を可能にする。
【0058】
小繊維、または小繊維束の寸法は、原材料と分解方法とに依存する。セルロース原材料の機械的分解は、リファイナ、粉砕機、分散機、ホモジナイザ、コロイダ、摩擦粉砕器、ピンミル、ロータ−ロータディスパゲータ、超音波処理器、マイクロフルイダイザ、マクロフルイダイザ、または流動化ホモジナイザなどのフルイダイザによって実施されてもよい。分解処理は、繊維間における結合の形成を妨げるために水が十分に存在する条件で実施される。
【0059】
一実施例において、分解は、少なくとも2つのロータを有するロータ−ロータ分散機などの、少なくとも1つのロータ、ブレード、または同様の可動式機械部材を有する分散機を用いることによって実施される。分散機において、分散液中の繊維材料は、ブレードが、回転速度で、および半径(回転軸までの距離)によって決定される周辺速度とで回転するとき、反対方向から繊維材料を打ちつけるロータのブレードまたはリブによって繰り返し衝撃を受ける。繊維材料は、半径方向の外側に移動するので、反対方向から速い周辺速度で次々に到来するブレード、すなわちリブの広い表面に衝突する。言い換えれば、繊維材料は、反対方向から複数回の連続的な衝撃を受ける。また、ブレード、すなわちリブの広い表面の端部であって、その端部が次のロータブレードの反対端部とともに、繊維の分解と小繊維の脱離とに寄与するせん断応力が生じるブレード間隙を形成する。衝撃頻度は、ロータの回転速度、ロータの数、各ロータにおけるブレードの数、および装置を通る分散液の流速によって決定される。
【0060】
ロータ−ロータ分散機において、繊維材料は、異なる逆回転ロータの効果によってせん断力および衝撃力に繰り返しさらされ、それによって繊維材料が同時にフィブリル化されるように、逆回転ロータを通って、ロータの回転軸に関して半径方向外側に向かって導入される。ロータ−ロータ分散機の一例は、Atrex装置である。
【0061】
分解に適した装置の別の例は、ピンミル、たとえばマルチペリフェラルピンミルである。US620946B1に記載されたようなそのような装置の一例は、ハウジングと、その内に衝突表面を備えた第1ロータ、第1ロータと同心で、衝突表面を備え第1ロータと反対方向に回転するように配設された第2ロータ、または第1ロータと同心で衝突表面を備えるステータとを含む。装置は、ハウジング中に供給オリフィスと、ロータ、またはロータおよびステータの中央への開口部と、ハウジング壁の排出口と、最も外側のロータまたはステータの周囲への開口部とを備える。
【0062】
一実施形態において、分解は、ホモジナイザを用いて実施される。ホモジナイザにおいて、繊維材料は、圧力の効果によって均質化にさらされる。ナノフィブリルセルロースへの繊維材料分散液の均質化は、繊維材料を小繊維に分解する分散液の強制貫流によってもたらされる。繊維材料分散液は、所定の圧力で狭い貫流間隙を通って所定の圧力で通過し、分散液の線形速度の増加は、せん断力と衝撃力とを分散液にもたらし、繊維材料から小繊維の除去をもたらす。繊維断片は、フィブリル化工程において小繊維に分解される。
【0063】
本明細書において使用される「フィブリル化」との用語は、一般的に粒子に加えられる仕事によって繊維材料を機械的に分解することを表し、セルロース小繊維は、繊維、または繊維断片から分離されることを表す。仕事は、様々な効果、たとえば、粉砕、破砕、もしくはせん断、もしくはこれらの組み合わせ、または粒径を減少させる別の同様の働きに基づいてもよい。叩解する仕事によって得られたエネルギーは通常、たとえば、kWh/kg、MWh/ton、またはこれらに比例する単位で、処理された原材料の量あたりのエネルギーを単位として表わされる。表現「分解」、または「分解処理」との表現は、「フィブリル化」の代わりに使用されてもよい。
【0064】
フィブリル化にさらされる繊維材料分散液は、繊維材料および水の混合物であり、本明細書において「パルプ」と称される。繊維材料分散液は、一般的に、水と混合された、全繊維、それらから分離された部分(断片)、小繊維束、または小繊維を表してもよく、典型的には水性繊維材料分散液は、そのような構成要素の混合物であり、成分の間の比率は、処理の程度、または処理の段階、たとえば、実行数、または繊維材料の同じバッチの処理を「通過」する数に依存する。
【0065】
ナノフィブリルセルロースを特徴付けるための1つの方法は、前記ナノフィブリルセルロースを含む水溶液の粘度を使用することである。粘度は、たとえば、ブルックフィールド粘度、またはゼロせん断粘度であってもよい。比粘度は、本明細書に記載されたように、ナノフィブリルセルロースを非ナノフィブリルセルロースから区別する。
【0066】
一実施例において、ナノフィブリルセルロースの見掛粘度は、ブルックフィールド粘度計(ブルックフィールド粘度)、または別の対応する装置を用いて測定される。好ましくはベーンスピンドル(73番)が使用される。見掛粘度を測定するために利用可能ないくつかの市販のブルックフィールド粘度計が存在し、全て同じ原理に基づく。好ましくは、装置において、RVDVスプリング(ブルックフィールドRVDV−III)が使用される。ナノフィブリルセルロースの試料は、0.8重量%の濃度まで水に希釈され、10分間混合される。希釈された試料は、250mlビーカに添加され、温度は、20℃±1℃に調整され、必要に応じて加熱され、混合される。低い回転速度10rpmが使用される。
【0067】
本方法において出発材料として提供されるナノフィブリルセルロースは、当該ナノフィブリルセルロースが水溶液にもたらす粘度によって特徴付けられてもよい。粘度は、たとえば、ナノフィブリルセルロースのフィブリル化の程度を表す。一実施形態では、ナノフィブリルセルロースは、水に分散したとき、0.8%(w/w)および10rpmの濃度で測定されて、少なくとも2000mPa・s、たとえば少なくとも3000mPa・sのブルックフィールド粘度をもたらす。一実施形態では、ナノフィブリルセルロースは、水中に分散したときに、0.8%(w/w)の濃度および10rpmで測定されて、少なくとも10000mPa・sのブルックフィールド粘度をもたらす。一実施形態において、ナノフィブリルセルロースは、水中に分散したとき、0.8%(w/w)および10rpmの濃度において測定されて、少なくとも15000mPa・sのブルックフィールド粘度をもたらす。水に分散したとき、前記ナノフィブリルセルロースのブルックフィールド粘度範囲の例は、0.8%(w/w)および10rpmにおいて測定されて、2000〜20000mPa・s、3000〜20000mPa・s、10000〜20000mPa・s、15000〜20000mPa・s、2000〜25000mPa・s、3000〜25000mPa・s、10000〜25000mPa・s、15000〜25000mPa・s、2000〜30000mPa・s、3000〜30000mPa・s、10000〜30000mPa・s、および15000〜30000mPa・sを含む。
【0068】
一実施形態において、ナノフィブリルセルロースは、非変性ナノフィブリルセルロースを含む。一実施形態において、ナノフィブリルセルロースは、非変性ナノフィブリルセルロースである。非変性ナノフィブリルセルロースのドレナージは、たとえばアニオン性グレードよりも顕著に速いことが見出された。非変性ナノフィブリルセルロースは一般的に、0.8%(w/w)および10rpmの濃度で測定されて、2000〜10000mPa・sの範囲内のブルックフィールド粘度を有する。
【0069】
分解された繊維性セルロース原料は、変性された繊維性原料であってもよい。変性された繊維性原料は、セルロースナノフィブリルが繊維から容易に分離可能であるように、繊維が処理によって影響を受けた原料を意味する。変性は通常、懸濁液として存在する繊維性セルロース原料、つまりパルプに実施される。
【0070】
繊維に対する変性処理は、化学的、または物理的であってもよい。化学的変性において、セルロース分子の化学構造は、好ましくは、セルロース分子の長さは影響を受けないが、ポリマーのβ−D−グルコピラノースユニットに官能基が付加されるように、化学反応によって変化する(セルロースの「誘導体化」)。セルロースの化学的変性は、反応物、および反応条件の程度に応じて、特定の変換度で実施され、一般的に、セルロースが小繊維として固体形状で留まり、水に溶解しないので完了しない。物理的変性において、アニオン性物質、カチオン性物質、もしくは非イオン性物質、またはこれらの任意の組み合わせが、セルロース表面に物理的に吸着される。変性処理は、酵素的であってもよい。
【0071】
繊維中のセルロースは、特に、変性後にイオン性に荷電されてもよい。なぜなら、セルロースのイオン性荷電は、繊維の内部結合を弱め、その後のナノフィブリルセルロースへの分解を促進するからである。イオン性荷電は、セルロースの、化学的変性または物理的変性によって達成されてもよい。繊維は、出発原料と比べて、変性後、より高いアニオン荷電、またはカチオン荷電を有してもよい。アニオン性荷電を作製するための、最も一般的に使用される化学的変性方法は、ヒドロキシル基がアルデヒド基およびカルボキシル基に酸化される酸化、スルホン化、およびカルボキシメチル化である。同様に、カチオン性荷電は、カチオン性基、たとえば4級アンモニウム基をセルロースに付加することによるカチオン化によって化学的に生じてもよい。
【0072】
一実施形態において、ナノフィブリルセルロースは、アニオン変性ナノフィブリルセルロース、またはカチオン変性ナノフィブリルセルロースなどの化学変性ナノフィブリルセルロースを含む。一実施形態において、ナノフィブリルセルロースは、アニオン変性ナノフィブリルセルロースである。一実施形態において、ナノフィブリルセルロースは、カチオン変性ナノフィブリルセルロースである。一実施形態において、アニオン変性ナノフィブリルセルロースは、酸化ナノフィブリルセルロースである。一実施形態において、アニオン変性ナノフィブリルセルロースは、硫酸化ナノフィブリルセルロースである。一実施形態において、アニオン変性ナノフィブリルセルロースは、カルボキシメチル化ナノフィブリルセルロースである。化学変性ナノフィブリルセルロースは、特定の活性剤の放出特性に影響を与えるために使用されてもよい。たとえば、アニオン性グレードは、延長された放出速度(a prolonged release rate)を得るために、カチオン性荷電分子を放出するために使用されてもよく、またはその反対であってもよい。
【0073】
セルロースは、酸化されてもよい。セルロースの酸化において、セルロースの第一級ヒドロキシル基は、たとえば、2,2,6,6−テトラメチルピペリジニル−1−オキシ遊離ラジカル、一般的に「TEMPO」と称される複素環ニトロキシル化合物によって触媒的に酸化されてもよい。セルロースのβ−D−グルコピラノースユニットの第一級ヒドロキシル基(C6−ヒドロキシル基)は、カルボキシル基に選択的に酸化される。また、いくつかのアルデヒド基は、第一級ヒドロキシル基から形成される。酸化の程度が低ければ十分に効果的にフィブリル化されず、酸化の程度が高ければ機械的な破壊処理後にセルロースの分解をもたらすという知見について、セルロースは、電気伝導度滴定によって測定されて、0.6〜1.4mmol COOH/g パルプ、または0.8〜1.2mmol COOH/g パルプ、好ましくは1.0〜1.2mmol/g パルプの範囲内で酸化セルロースにおけるカルボン酸含有量を有するレベルまで酸化されてもよい。そのように得られた酸化セルロースの繊維が水に分解されたとき、繊維は、たとえば、3〜5nmの幅の個々のセルロース小繊維の安定な透明分散液をもたらす。出発培地として酸化パルプを用いて、0.8%(w/w)の濃度で測定されて、ブルックフィールド粘度が、少なくとも10000mPa・s、たとえば10000〜30000mPa・sの範囲内にあるナノフィブリルセルロースを得ることができる。
【0074】
触媒「TEMPO」が本開示において言及されるときは、「TEMPO」が、セルロース中のC6炭素のヒドロキシル基の選択的な酸化を触媒することを可能にする、TEMPOの任意の誘導体、または任意の複素環ニトロキシルラジカルに、等しく、同様に適用することに関する、全ての測定および操作を示すことが明らかである。
【0075】
一実施形態では、そのような化学変性されたナノフィブリルセルロースは、水中に分散したとき、0.8%(w/w)の濃度および10rpmで測定されて、少なくとも10000mPa・sのブルックフィールド粘度をもたらす。一実施形態では、そのような化学変性されたナノフィブリルセルロースは、水中に分散したとき、0.8%(w/w)の濃度および10rpmで測定されて、少なくとも15000mPa・sのブルックフィールド粘度をもたらす。一実施形態では、そのような化学変性ナノフィブリルセルロースは、水中に分散したときに、0.8%(w/w)の濃度および10rpmで測定されて、少なくとも18000mPa・sのブルックフィールド粘度をもたらす。使用されたアニオン性ナノフィブリルセルロースの例は、フィブリル化の程度に応じて、13000〜15000mPa・s、または18000〜20000mPa・s、さらには25000mPa・sまでの範囲内のブルックフィールド粘度を有する。
【0076】
一実施形態では、ナノフィブリルセルロースは、TEMPO酸化ナノフィブリルセルロースである。TEMPO酸化ナノフィブリルセルロースは、低濃度で高い粘度、たとえば、0.8%(w/w)の濃度および10rpmで測定されて、少なくとも20000mPa・s、さらには少なくとも25000mPa・sのブルックフィールド粘度をもたらす。一実施例では、TEMPO酸化ナノフィブリルセルロースのブルックフィールド粘度は、0.8%(w/w)の濃度および10rpmで測定されて、20000〜30000mPa・s、たとえば25000〜30000mPa・sの範囲内である。
【0077】
一実施形態では、ナノフィブリルセルロースは、化学的に変性されていないナノフィブリルセルロースを含む。一実施形態において、そのような化学的に変性されていないナノフィブリルセルロースは、水中に分散したとき、0.8%(w/w)の濃度および10rpmで測定されて、少なくとも2000mPa・s、または少なくとも3000mPa・sのブルックフィールド粘度をもたらす。
【0078】
ナノフィブリルセルロースは、平均径(もしくは幅)によって、または粘度および平均径、たとえばブルックフィールド粘度もしくはゼロせん断粘度によって特徴付けられてもよい。一実施形態において、前記ナノフィブリルセルロースは、1〜100nmの範囲内にある小繊維の数平均径を有する。一実施形態において、前記ナノフィブリルセルロースは、1〜50nm、たとえば5〜30nmの範囲内にある小繊維の数平均径を有する。一実施形態において、前記ナノフィブリルセルロースは、TEMPO酸化ナノフィブリルセルロースなどの、2〜15nmの範囲内にある小繊維の数平均径を有する。
【0079】
小繊維の直径は、顕微鏡などの様々な技術を用いて測定されてもよい。小繊維の厚さおよび幅の分布は、電界放出型走査型電子顕微鏡(FE−SEM)、透過型電子顕微鏡(TEM)、たとえば低温透過型電子顕微鏡(cryo−TEM)、または原子間力顕微鏡(AFM)からの画像の画像分析によって測定されてもよい。一般的に、AFMおよびTEMは、狭い小繊維径分布を有するナノフィブリルセルロースグレードに最も適している。
【0080】
一実施例において、ナノフィブリルセルロース分散液のレオメータ粘度は、狭ギャップベーン形状(直径28mm、長さ42mm)を直径30mmの円筒形サンプルカップ内に備えた応力制御回転レオメータ(AR−G2、TA Instruments社、英国)を用いて22℃で測定される。試料をレオメータに装填した後、測定を開始する前に試料を5分間放置する。定常状態の粘度は、徐々に増加するせん断応力(印加トルクに比例する)で測定され、せん断速度(角速度に比例する)が測定される。特定のせん断応力における報告された粘度(=せん断応力/せん断速度)は、一定のせん断速度に達した後、または最大2分後に記録される。1000sのせん断速度を超えると、測定は停止される。この方法は、ゼロせん断粘度を決定するために使用されてもよい。
【0081】
一実施例では、ナノフィブリルセルロースは、水中に分散されると、水性媒体中で0.5重量%(w/w)の濃度において回転式レオメータによって測定されて、1000〜100000Pa・sの範囲内、たとえば5000〜50000Pa・sの範囲内のゼロせん断粘度(「小さなせん断応力における一定粘度の「プラトー」」)と、1〜50Paの範囲内、たとえば3〜15Paの範囲内の降伏応力とをもたらす。
【0082】
濁度は、一般的には裸眼で見ることができない個々の粒子(全て懸濁または溶解した固体)によって生じる、流体の、不透明度または曇りである。濁度を測定するためのいくつかの実際的な方法があり、最も直接的な方法は、光が水の試料カラムを通るときの光の減衰(つまり、強度の減少)の測定である。代替的に使用されるジャクソンキャンドル法(単位:ジャクソン濁度ユニット、またはJTU)は、本質的に、水のカラムを通して見えるロウソクの炎を完全に見えなくするために必要な水のカラムの長さの反転測定である。
【0083】
濁度は、光学濁度測定機器を用いて定量的に測定されてもよい。濁度を定量的に測定するために利用可能な市販の濁度計がいくつか存在する。本件においては、比濁法に基づく方法が使用される。目盛付き比濁計に由来する濁度の単位は、ネフェロメ濁度単位(NTU)と称される。測定装置(比濁粘度計)は、標準調整試料で調整され、制御され、続いて希釈されたNFC試料の濁度が測定された。
【0084】
ある濁度測定法では、ナノフィブリルセルロース試料は、前記ナノフィブリルセルロースのゲル化点以下の濃度まで水中に希釈され、希釈された試料の濁度が測定される。ナノフィブリルセルロース試料の濁度が測定される前記濃度は、0.1%である。50mlの測定容器を備えたHACH P2100濁度計は、濁度測定に使用される。ナノフィブリルセルロース試料の乾燥物質が測定され、乾燥物質として計算された0.5gの試料が、測定容器内に入れられ、500gまで水道水で満たされ、約30秒間にわたって振とうすることによって強く混合された。遅滞なく、水性混合物は、5つの測定容器に分けられ、濁度計に入れられた。各容器について3回の測定が実施された。平均値および標準偏差は、得られた結果から計算され、最終結果は、NTU単位として与えられる。
【0085】
ナノフィブリルセルロースを特徴付けるための1つの方法は、粘度および濁度の両方を規定することである。低い濁度は、小さな直径などの小繊維の小さな寸法を表す。なぜなら、小さな小繊維は、光を十分に散乱させないからである。一般的には、フィブリル化の程度が増加すれば、粘度が上昇し、同時に濁度が減少する。これは、しかしながら、特定の時点までしか生じない。フィブリル化がさらに継続すると、小繊維は、最終的に壊れ始め、その後には強固な網状体を形成することができない。したがって、この時点の後、濁度と粘度とは低下し始める。
【0086】
一実施例において、アニオン性ナノフィブリルセルロースの濁度は、水性媒体中において0.1%(w/w)の濃度で測定されて、そして比濁法によって測定されて、90NTU未満、たとえば、5〜60NTU、たとえば8〜40NTUのような3〜90NTUである。一実施例において、天然ナノフィブリルの濁度は、水性媒体中において0.1%(w/w)の濃度で測定されて、比濁法によって測定されて、200NTUを超えてもよく、たとえば10〜220NTU、たとえば20〜200NTU、たとえば50〜200NTUであってもよい。ナノフィブリルセルロースを特徴付けるために、これらの範囲は、水中に分散したとき、0.8%(w/w)の濃度および10rpmにおいて測定されて、たとえば、少なくとも2000mPa・s、少なくとも3000mPa・s、少なくとも5000mPa・s、たとえば10000mPa・s、たとえば15000mPa・sのブルックフィールド粘度をもたらすナノフィブリルセルロースなどのナノフィブリルセルロースの粘度範囲と組み合わされてもよい。
【0087】
調製方法のための出発材料は通常、上記の繊維状原料のいくつかの崩壊から直接得られ、崩壊条件のために水中に均一に分布した比較的低い濃度で存在するナノフィブリルセルロースである。出発材料は、0.2〜10%の濃度の水性ゲルであってもよい。
【0088】
一実施形態では、凍結乾燥前のヒドロゲル中のナノフィブリルセルロースの濃度は、10%(w/w)以下、または10%(w/w)未満、たとえば、0.1〜10%(w/w)、0.1〜5%(w/w)、0.1〜2%(w/w)、または0.1〜1.0%(w/w)の範囲内にある。細胞培養用途に有用な好ましい範囲は、0.1〜2%(w/w)、0.1〜1%(w/w)または0.5〜1%(w/w)である。0.5%(w/w)未満の濃度では、多くの細胞は、三次元培養においてスフェロイドとして増殖しない。一方、1.0%(w/w)以上の濃度は、多くの細胞にとって高過ぎる。凍結乾燥ゲルから凍結乾燥後に同じ濃度のヒドロゲルを回復することができる。より具体的には、乾燥ゲルは水中に再分散可能であり、水中に再分散させると、たとえば、0.1〜10%(w/w)の範囲内、たとえば、上記に開示された範囲内の分散濃度、それが元々同じ分散濃度で有していた粘度特性と等しいか、または実質的に等しい粘度特性がもたらされる。
【0089】
クリオプロテクタントおよびリオプロテクタント
クリオプロテクタント(賦形剤または凍害防止剤とも称される)は、一般に凍結中の、タンパク質、リポソーム二重層および他の物質の構造の保存に寄与する。リオプロテクタントは、乾燥中、特に凍結乾燥中にこれらの物質を安定化させる。凍結乾燥において、リオプロテクタントはクリオプロテクタントと見なすこともできるので、本明細書で使用するとき、「クリオプロテクタント」との用語はリオプロテクタントも含んでもよい。保護添加剤は、一般的に2つのタイプ、すなわち(i)非晶質ガラス形成、および(ii)共晶結晶化塩を有すると考えることができる。リオプロテクタントの例は、天然のリオプロテクタントとして、ポリヒドロキシ化合物、たとえば糖類(単糖類、二糖類、および多糖類)、トレハロースおよびスクロース、ならびにポリアルコール、たとえばグリセロール、ならびにそれらの誘導体が含まれる。これらのグループは、いずれもタイプ(i)に属する。しかしながら、全てのクリオプロテクタントが、リオプロテクタントとして適切な化合物であるとは限らない。たとえば、細胞の凍結保存において、DMSOは5%(v/v)までのクリオプロテクタントとして一般的に使用されている。しかしながら、DMSOは有機溶媒であるので、凍結乾燥におけるその使用は、蒸発が原因で制限される。なぜなら、溶液中におけるその凝固点が比較的高いからである。したがって、クリオプロテクタントとしてのDMSOの使用は、本方法においては望ましくない。
【0090】
一実施形態では、本方法は、1種以上の、凍害防止剤および/または凍結乾燥保護剤を提供することを含む。一実施形態では、本方法は、好ましくはナノフィブリルセルロースヒドロゲルに加えて、少なくとも1つの凍結乾燥保護剤を提供することを含む。一実施形態では、本方法は、少なくとも1つの、凍害防止剤および凍結乾燥保護剤を提供することを含み、これらは、同じ薬剤であってもよく、たとえばトレハロースもしくはPEG、または異なる薬剤であってもよい。凍害防止剤の1つの基は、少なくとも2つのヒドロキシル基、たとえばグリコール、たとえば、エチレングリコール、プロピレングリコールおよびグリセロールを含むアルコールを含む。細胞に有用な凍害防止剤は、トレハロース、グリセロールおよびポリエチレングリコール(PEG)を含むことが見出された。一実施形態では、1種以上の、凍害防止剤および/または凍結乾燥保護剤は、トレハロース、グリセロール、およびポリエチレングリコールから選択される。一実施形態では、凍害防止剤および/または凍結乾燥保護剤は、トレハロースを含む。一実施形態では、凍害防止剤および/または凍結乾燥保護剤は、トレハロースおよびグリセロールを含む。この組み合わせは、NFCヒドロゲルマトリックス中の細胞に対して特に良好な、凍害防止および凍結乾燥保護を提供することが見出された。一実施形態では、凍害防止剤および/または凍結乾燥保護剤は、トレハロースおよびポリエチレングリコールを含む。一実施形態では、凍害防止剤および/または凍結乾燥保護剤は、グリセロールおよびポリエチレングリコールを含む。一実施形態では、凍害防止剤および/または凍結乾燥保護剤は、トレハロース、グリセロールおよびポリエチレングリコールを含む。
【0091】
トレハロースは、α,α−トレハロースとしても知られ、α−D−グルコピラノシル−(1→1)−α−D−グルコピラノシド、マイコースまたはトレマロースは、2つのα−グルコースユニット間のα,α−1,1−グルコシド結合によって形成された天然のα結合二糖である。トレハロースは、栄養的にはグルコースと同等である。なぜなら、酵素トレハラーゼによって急速にグルコースに分解されるからである。トレハロースは、無水物または二水和物として存在してもよい。一実施形態では、トレハロースは、D(+)−トレハロース二水和物であり、ナノフィブリルセルロースと互換性がある。一実施例では、トレハロースは、D−(+)−トレハロース二水和物である。トレハロースは、固体として提供されてもよく、または水性媒体、たとえば水に溶解して提供されてもよい。トレハロースは、ナノフィブリルセルロースヒドロゲル中の細胞に対する、凍害防止剤および凍結乾燥保護剤の両方として作用することが見出された。
【0092】
グリセロールは、単純なポリオール化合物である。グリセロールは、無色、無臭、粘性のある液体で、甘味があり、無毒である。グリセロール骨格は、トリグリセリドとして知られる全ての脂質に含まれている。グリセロールは、水への溶解度および吸湿性に関与する3つの水酸基を有する。グリセロールは、主にナノフィブリルセルロースヒドロゲル中の細胞のための凍害防止剤として作用することが見出された。
【0093】
ポリエチレングリコール(PEG)は、その分子量に応じて、ポリエチレンオキシド(PEO)またはポリオキシエチレン(POE)としても知られるポリエーテル化合物である。PEGの構造は一般に、H−(O−CH−CH−OHとして表される。一般にポリエチレングリコールは、エチレンオキシドの重合によって作製され、300g/mol〜10000000g/molの広い範囲の分子量にわたって市販されている。ポリエチレングリコールは、水溶性であり、低い毒性を有する。ポリエチレングリコールは、ナノフィブリルセルロースヒドロゲル中の細胞に対して凍害防止剤および凍結乾燥保護剤の両方として作用することが見出された。
【0094】
一実施形態では、ポリエチレングリコールは、100〜10000kDa、たとえば1000〜10000kDaの範囲内の分子量を有する。一実施形態では、ポリエチレングリコールは、3000〜8000kDa、たとえば5000〜7000kDaの範囲内、たとえば約6000kDaの分子量を有する。本開示で使用される「分子量」は、数平均モル質量を表してもよい。一般に、重合体の数平均分子量は、たとえば、ゲル浸透クロマトグラフィー、(Mark-Houwinkの式)による粘度測定、蒸気圧浸透圧法のような併合法、末端基定量法、またはプロトンNMRによって測定することができる。
【0095】
凍結乾燥品の調製
本方法は、成分ナノフィブリルセルロースを、一般に水性懸濁液またはヒドロゲルとして、細胞、および所望のクリオプロテクタントおよび/またはリオプロテクタントを提供することを含む。一実施形態では、ナノフィブリルセルロースは、水性懸濁液中、またはヒドロゲル中の唯一のセルロース系材料である。一実施形態では、ナノフィブリルセルロースは、水性懸濁液中またはヒドロゲル中の唯一の高分子ゲル形成材料である。一実施例では、水性懸濁液またはヒドロゲルは、ある量の別の繊維材料、たとえば非ナノフィブリルセルロースを、たとえば繊維材料の乾燥重量の乾燥ヒドロゲル(w/w)の量を含む。
【0096】
本方法は、ナノフィブリルセルロースを含むヒドロゲルを提供することを含む。ヒドロゲル中のナノフィブリルセルロースの濃度は、0.1〜10%(w/w)、0.1〜10%(w/w)、0.1〜5%(w/w)、0.1〜2%(w/w)、または0.1〜1.0%(w/w)の範囲内にあってもよい。細胞培養用途に有用な好ましい範囲は、0.1〜2%(w/w)、0.1〜1%(w/w)または0.5〜1%(w/w)である。
【0097】
細胞は、ナノフィブリルセルロースを含むヒドロゲルと組み合わされて細胞系を形成する。細胞は、細胞系で培養されてもよい。一実施例では、細胞は、ナノフィブリルセルロースを含むヒドロゲルと組み合わされて細胞培養物を形成する。適切な細胞培養培地が提供される。
【0098】
細胞と共に使用するために本明細書で使用される、「細胞培養培地」、「培養培地」、「培地」は、細胞と適合するように調製された任意の適切な培地を表す。そのような培地は通常、水性液体であり、補助剤、たとえば、栄要素、塩、ビタミン、および/または他の物質、たとえば、ホルモン、成長因子などを含む。血清または合成血清が含まれてもよい。培地は、細胞を培養するため、細胞を懸濁するため、および/または乾燥ゲル/細胞を再水和するために使用することができる。好ましくは、培地は、カルシウムまたはマグネシウムを含まない。
【0099】
本方法は、1種以上の凍害防止剤、たとえば、1種以上の、凍害防止剤および/または凍結乾燥保護剤を、たとえば培地中に提供することと、1種以上の凍害防止剤を、細胞系に、または細胞培養に添加することとを含む。たとえば、細胞培養培地は、1種以上の、凍害防止剤および/または凍結乾燥保護剤を含む培地に変更されてもよい。ナノフィブリルセルロースを含むヒドロゲルは、1種以上の、凍害防止剤および/または凍結乾燥保護剤、たとえば少なくともトレハロースを含むものとして提供されてもよい。一実施例では、凍害防止剤および/または凍結乾燥保護剤は、トレハロースおよびグリセロールを含み、培養培地中のトレハロースの濃度は0.2〜0.5%(w/w)の範囲内にあってもよく、培養培地中のグリセロールの濃度は0.5〜1.5%(w/w)の範囲内にあってもよく、たとえば0.3%(w/w)のトレハロース、および1%(w/w)のグリセロールを含んでもよい。ゲル濃度は、0.3〜1.0%(w/w)、たとえば0.3〜0.5%(w/w)の範囲内にあってもよい。
【0100】
凍害防止剤および/または凍結乾燥保護剤としてのグリセロールおよびトレハロースの場合、ゲル中の乾燥ナノフィブリルセルロースとクリオプロテクタントとの比(重量で、NFC:グリセロール:トレハロース)は、たとえば、約9.5:3:1〜20:3:1であってもよい。いくつかの実施例では、ゲル中の乾燥ナノフィブリルセルロースとクリオプロテクタントとの比(NFC:グリセロ:トレハロース)は、重量で5〜40:2〜6:1、重量で9〜22:2〜6:1、または重量で9.5〜20:2〜5:1、または重量で9〜22:2〜4:1、または重量で9.5〜20:2〜4:1の範囲内にあり、たとえば、重量で約10:5:1、重量で約10:5:1、重量で約15:5:1、重量で約10:3:1、重量で約15:3:1、または重量で約20:3:1である。
【0101】
これに代えて、または加えて、1種以上の、凍害防止剤および/または凍結乾燥保護剤を細胞培養物中の細胞培養培地に添加することができる。上記で説明された濃度は、培地において得られてもよい。一実施例では、トレハロースが最初に培養培地に含まれ、他のクリオプロテクタントが添加される前に、細胞がある期間、たとえば約12〜24時間にわたって、たとえば20〜100mMのトレハロース培地でインキュベートされる。
【0102】
得られた、混合物、ゲル、細胞系、細胞外小胞系または細胞培養物は凍結乾燥可能であり、すなわち、凍結乾燥処理は、乾燥ナノフィブリルゲル、小胞または細胞の物理的性質に顕著な影響を及ぼさない。混合物は、凍結乾燥性ヒドロゲルと称されてもよい。ヒドロゲルのそのような物理的特性の一例は、ヒドロゲルからの薬剤、たとえば、小分子または大分子、たとえば治療薬の放出特性である。比較的小さな有機分子ならびにより大きなタンパク質を含む、様々な分子量を有する様々な分子が、同様の放出特性を有する制御された方法でヒドロゲルから放出され得ることが見出された。有用な分子量範囲は非常に広く、たとえば試験においては約170〜70000g/mol(ダルトン)の範囲内にある分子量を有する分子を制御可能に放出することができた。しかしながら、高分子量を有する分子は、低分子量を有する分子よりもゆっくりと放出された。細胞のそのような物理的特性の一例は、細胞の完全性、たとえば、細胞膜、細胞オルガネラ、微小胞、および/または細胞の他の部分の保存である。細胞の物理的性質の他の例は、細胞コロニーの三次元形態である。
【0103】
一実施形態では、本方法は、1種以上の、治療薬または他の活性剤を提供することと、薬剤をヒドロゲル、任意に凍害防止剤および/または凍結乾燥保護剤および/または細胞と混合することと、たとえば薬剤を培地に添加することとを含む。薬剤を1種以上のクリオプロテクタントと同時に添加してもよく、または薬剤を前後に添加してもよい。同様に、他の任意の添加剤、たとえば、化学物質、栄養素、細胞培養剤などを提供してヒドロゲルまたは培地と混合してもよい。
【0104】
細胞系または小胞系が得られた後、凍結乾燥して、ナノフィブリルセルロースを含む乾燥ヒドロゲル、またはより具体的にはエアロゲルを得る。任意の適切な凍結乾燥法を使用することができる。真空凍結乾燥(lyophilisation)とも称される凍結乾燥(Freeze drying)は、急速冷却を用いて系内で熱力学的不安定性を生じさせ、相分離を引き起こす方法である。続いて、溶媒を真空下で昇華させることによって除去し、以前に占めていた領域に空隙を残す。昇華とは、中間液相を通過せずに固体から気相に直接物質が転移することを表す。昇華は、その相図における物質の三重点よりも低い温度および圧力で起こる吸熱相転移である。
【0105】
一実施形態では、凍結乾燥は、たとえば、液体窒素を用いたとき、および細胞系から水を除去するために、低圧を加えた後、最初に、混合物の温度を、少なくとも−30℃まで、たとえば少なくとも−40℃まで、たとえば−30〜−100℃の範囲内まで、または−40〜−100℃の範囲内まで、または約−200℃以下まで低下させることを含む。一般的に、細胞系は、低圧を加える前に凍結されるべきである。一実施形態では、より低い圧力を加える間および最も低い圧力を加えた後に温度を上昇させ、たとえば、温度を約−20℃またはさらに約10℃まで上昇させる。温度は、低圧が加えられる前に高められてもよく、または低圧を加えている間に高められてもよい。
【0106】
一実施例では、凍結乾燥は、細胞系を液体窒素で凍結することによって行われる。たとえば、細胞系を含むバイアルを細胞系が凍結するまで液体窒素に浸す。試験においてより良好なガラス化が得られた別の実施例において、細胞は、ピペットで直接液体窒素に入れられる。この後、細胞系から水を除去するために細胞系に低圧が加えられる。低圧は、水の昇華を得るために必要とされる真空を表してもよい。水の昇華は、三重点の下で起こるので、必要とされる真空圧力は使用される温度に依存する。小胞系は、同じ手順を用いて凍結乾燥することができる。
【0107】
本明細書で使用される「乾燥」は、一般的に脱水を表し、これらの用語は互換的に使用されてもよく、水はヒドロゲルから除去され、乾燥または脱水ヒドロゲルが得られる。一実施形態では、凍結乾燥は、ヒドロゲルが所望の水分含有量を有するまで継続されるか、または凍結乾燥が最小水分含有量、好ましくは20%未満、またはより好ましくは10%未満、またはさらには5%未満、たとえば、1〜20%、2〜20%、または2〜10%(w/w)の範囲内にある水分含有量まで継続される。一実施形態では、凍結乾燥は、ヒドロゲルが、1〜8%、2〜8%、2〜6%、2〜5%、または1〜5%(w/w)の範囲内にある水分含有量を有するまで継続される。一般的に、2%未満の水分含有量を得ることは困難である。低い水分含有量が得られた後、乾燥製品は、真空中または保護ガス中で梱包されてもよい。これは、乾燥ヒドロゲルが周囲の水分を吸収し、水分含有量が、たとえば、4〜8%、または5〜7%(w/w)の範囲内になるのを防ぐ。水分含有量は、含水量と称されてもよい。得られた乾燥ヒドロゲルは、水性液体、たとえば培養培地を添加し、乾燥生成物を懸濁することによって再ゲル化することができる。再ゲル化または再懸濁されたヒドロゲルが得られ、当該ヒドロゲルは、乾燥前と同じ濃度および含水量を有してもよい。このヒドロゲルは、乾燥前の元のヒドロゲルと実質的に等しい特徴をもたらす。
【0108】
ナノフィブリルセルロースを含む最終乾燥ヒドロゲル、より具体的には凍結乾燥エアロゲルは、本明細書に開示された実施形態の凍結乾燥法によって得られる。凍結乾燥エアロゲルは、密封されたパッケージまたは容器内に保存することができる。不活性ガス、たとえばアルゴンが提供されてもよい。凍結乾燥製品は、低温、たとえば冷蔵庫において、たとえば0〜10℃、たとえば約+4℃または室温で保存されてもよい。
【0109】
一実施形態は、ナノフィブリルセルロース、細胞、ならびに1種以上の、凍害防止剤および/または凍結乾燥保護剤を含む凍結乾燥エアロゲルを提供し、ヒドロゲルの水分含有量は、10%以下(w/w)、好ましくは、上述のように、2〜10%(w/w)、たとえば2〜8%(w/w)であってもよい。凍結乾燥エアロゲルは、本明細書に記載されたように、1種以上の、治療薬もしくは他の活性薬剤、または他の薬剤をさらに含んでもよい。実際には、そのような生成物は、もはやゲルの形態ではなく、ナノフィブリルセルロースの場合、一般的に80%(w/w)を超える、または90%(w/w)を超える、さらに95%を超える水分含有量を有する。凍結乾燥(ナノフィブリルセルロース)エアロゲルは、したがって、凍結乾燥ナノフィブリルセルロースと称されてもよい。
【0110】
一実施形態は、ナノフィブリルセルロースを含む凍結乾燥エアロゲルを提供し、凍結乾燥エアロゲル中の細胞の含有量は、0.1〜65%(w/w)の範囲内、たとえば0.1〜50%(w/w)の範囲内、たとえば、1〜25%(w/w)、もしくは1〜20%(w/w)、1〜10%(w/w)、1〜5%(w/w)または20〜65%(w/w)、10〜65%(w/w)、5〜65%(w/w)、10〜50%(w/w)、5〜50%(w/w)、5〜25%(w/w)、5〜20%(w/w)、もしくは5〜15%(w/w)の範囲内にあってもよい。
【0111】
一実施形態は、ナノフィブリルセルロースを含む凍結乾燥エアロゲルを提供し、凍結乾燥エアロゲル中の細胞外小胞の含有量は、0.1〜65%(w/w)の範囲内、たとえば0.1〜50%の範囲内、たとえば、1〜25%(w/w)、もしくは1〜20%(w/w)、1〜10%(w/w)、1〜5%(w/w)、または20〜65%(w/w)、10〜65%(w/w)、5〜65%(w/w)、10〜50%(w/w)、5〜50%(w/w)、5〜25%(w/w)、5〜20%(w/w)、もしくは5〜15%(w/w)の範囲内にある。
【0112】
一実施形態は、凍結乾燥エアロゲルを提供し、凍結乾燥ヒドロゲル中の、1種以上の、治療薬または他の活性剤または他の化学物質の含有量は、0.1〜65%(w/w)の範囲内、または0.1〜50%(w/w)の範囲内、たとえば、1〜25%(w/w)、もしくは1〜20%(w/w)、1〜10%(w/w)、1〜5%(w/w)、または20〜65%(w/w)、10〜65%(w/w)、5〜65%(w/w)、10〜50%(w/w)、5〜50%(w/w)、5〜25%(w/w)、5〜20%(w/w)、もしくは5〜15%(w/w)の範囲内にある。
【0113】
一実施形態では、グリセロールの含有量は、乾燥ヒドロゲル中に1〜10%(w/w)の範囲内、たとえば5〜10%(w/w)の範囲内にある。一実施形態では、トレハロースの含有量は、乾燥ヒドロゲル中において0.5〜8%(w/w)の範囲内、たとえば3〜4%(w/w)の範囲内にある。一実施形態では、ポリエチレングリコールの含有量は、乾燥ヒドロゲル中において1〜10%(w/w)の範囲内、たとえば5〜10%(w/w)の範囲内にある。また、これらのクリオプロテクタントおよび範囲の組み合わせが使用されてもよい。
【0114】
一実施形態では、乾燥ヒドロゲル中において、グリセロールの含有量は1〜10%(w/w)の範囲内にあり、および/またはトレハロースの含有量は0.5〜8%(w/w)の範囲内にある。一実施形態では、乾燥ヒドロゲル中において、グリセロールの含有量は5〜10%(w/w)の範囲内にあり、および/またはトレハロースの含有量は3〜4%(w/w)の範囲内にある。
【0115】
一実施形態では、乾燥ヒドロゲル中において、ポリエチレングリコールの含有量は1〜10%(w/w)の範囲内にあり、および/またはトレハロースの含有量は0.5〜8%(w/w)の範囲内にある。一実施形態では、乾燥ヒドロゲル中において、ポリエチレングリコールの含有量は5〜10%(w/w)の範囲内にあり、および/またはトレハロースの含有量は3〜4%(w/w)の範囲内にある。
【0116】
乾燥ヒドロゲルは、一般的に所望の目的に適した、シート、ブロック、または他の形状もしくは形態として提供することができ、続いて再湿潤するか、またはそれ以前に再水和することができる。乾燥ヒドロゲルは、粉末としてまたは他の粉砕形態で提供することもできる。そのような場合、生成物を作製する方法は、たとえば、凍結乾燥生成物を、粉砕または粉砕することによって粉末を形成する工程を含んでもよい。
【0117】
得られたヒドロゲルは、乾燥前もしくは乾燥後、またはより具体的には再ゲル化後に、様々な用途、たとえば本明細書に記載された用途、たとえば、細胞を提供、保存および/または培養する方法に使用することができる。ヒドロゲルは、たとえば、医療製品または科学製品として提供することができる。
【0118】
再水和または再ゲル化は、水性再水和液を提供することによって実施されてもよく、さらなる薬剤、好ましくは滅菌された液体を含んでもよい。一実施例では、再水和液は、細胞培養培地を含むか、または細胞培地である。再水和液は、温めて提供することができ、たとえば、30〜40℃の範囲内にある温度、たとえば約37℃に温めて提供することができる。細胞を含有する乾燥ヒドロゲルを液体と接触させ、さらなる操作の前に、一定期間、たとえば10〜60分間にわたってインキュベートすることができる。
【0119】
実験部
細胞生存アッセイ
in vivoの凍結後の細胞機能を予測できる簡単なin vitro試験は存在しない。細胞生存アッセイは、特に、特定の状況下において損傷を受ける各系の構成要素に向けられなければならない。表1は、細胞生存の追跡の主な構成要素を示す。これらの構成要素から、本明細書の実験部には6つの要素が選ばれた。
【表1】
【0120】
細胞の全体的な外観は、典型的には実験の各段階で光学顕微鏡ユニットを用いて観察される。CryoEMは、湿った細胞培養の画像化にも使用することができるが、SEMイメージングと同様に、試料は処理中に失われる。
【0121】
細胞の代謝活性は、AlamarBlue(登録商標)細胞生存アッセイ(Cell Viability Assay)を用いて定量することができ、AlamarBlue(登録商標)は、毒性のない安定した水溶性の色素である。AlamarBlue(登録商標)試薬の有効成分は、青色で、ほとんど蛍光を発しないレサズリンである。レスザリンは細胞透過性化合物であり、細胞内で、色が赤く高度に蛍光性である化合物であるレゾルフィンに還元される。この還元は、細胞周囲の培地の全体的な赤色および蛍光を増加させる。したがって、細胞を連続的にモニターし、そして蛍光の増加を時間の関数として測定することができる。これによって、AlamarBlue(登録商標)アッセイは、細胞の死滅を必要とする細胞生存に関する他のいくつかのアッセイ、たとえば、細胞酸化還元酵素の活性を測定するMTTアッセイ(3−(4,5−ジ−メチルチアゾール−2−イル)−2,5−ジフェニルテトラゾリウムブロミド、黄色テトラゾール)よりも優れていると考えられる。
【0122】
alamarBlue(登録商標)の活性化合物はレザズリンであり、色はインディゴブルーであり、細胞培養試料に添加されると積極的な摂取によって細胞のサイトゾルに入る。ミトコンドリア酵素活性は、図8に視覚化されるように、NADH(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドの還元型)から電子を受け取ることによってそれをレゾルフィンに変換する。NADHに加えて、レゾルフィンは、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADPH)、フラビンアデニンジヌクレオチド(FADH)のヒドロキノン形態、フラビンモノヌクレオチド(FMNH)の還元形およびシトクロムからの電子を受け取ることによっても変換される。酸化還元反応は培地の色を蛍光ピンク色に変化させ、この変化は視覚的に観察することができるが、さらに重要なことには、蛍光測定の読み取りによって正確に測定される。
【0123】
alamarBlue(登録商標)アッセイは、GrowDex(登録商標)において直接に三次元細胞スフェロイド培養の生存率を測定するためにも実行することができる。それらの実験では、Corning社製の超低接着性96ウェルプレートを使用してヒドロゲル−細胞系を培養し、次にInvitrogen社のalamarBlue(登録商標)細胞生存試薬(Cell Viability Reagent)を培地およびヒドロゲルの共容量の1/10として使用した。コントロール試料として、細胞を含まないヒドロゲル系を使用した。
【0124】
細胞生存を評価するための別の、さらに簡単な方法は細胞接着である。正しい条件が適用される場合、多くの細胞株は、in vitroでの適切な表面、たとえばポリプロピレンまたはガラスにそれら自身を付着させる。細胞は、粗い表面に付着することができるECMタンパク質、たとえば、フィブロネクチン、コラーゲンおよびラミニンを排出することによってこれを達成する。明らかに、死んだ細胞は、これらのタンパク質を排出せず、したがってこれらの表面に細胞を積極的に付着させない。単一細胞は、典型的にはそれら自身を付着させる代わりにアポトーシスを起こすが、癌細胞株の場合には、この機能は無効にされている。したがって、細胞接着が適合性表面上の癌細胞株に対する生存アッセイとして使用することができることを導くことができる。
【0125】
細胞膜の完全性を評価するためのある方法は、核染色と組み合わせた酵素活性アッセイである。カルセインAM(アセトキシメチル)エステルおよびヨウ化プロピジウムは、様々な微生物の生存評価に適している。カルセインAMは、それ自体は非蛍光性で細胞膜透過性の分子であるが、正しい酵素が利用できる場合にはサイトゾル中でエステラーゼ反応を起こし、蛍光分子であるカルセインに変わる。このようにして、蛍光細胞は、蛍光顕微鏡またはプレートリーダを用いて視覚的に観察することができる。
【0126】
二重染色の別の態様は、ヨウ化プロピジウム(PI)であり、細胞膜透過性ではないので、細胞膜が損傷している場合にのみサイトゾルに入る化合物である。したがって、壊死細胞のみが影響を受けるが、アポトーシス細胞および健康な細胞は影響を受けない。サイトゾルに入ると、PIは、核内のDNAを含むあらゆる利用可能なDNAおよびRNAに結合する。535nmの光で励起すると、死細胞の領域で617nmの発光を観察することができる。
【0127】
NFC−細胞ヒドロゲル系のための凍結方法として急速冷却が選択された。NFC細胞ヒドロゲルが液体窒素と直接接触している工程では、20μlの液滴サイズを選択した。凍結乾燥保護のために、トレハロースおよびグリセロールを使用した。
【0128】
希釈媒体を再水和液として選択した。細胞生存の決定のために4つの要因が選択された。細胞接着は、それが提供する生存に関する全体像のために選択されるが、細胞形態は、光学顕微鏡法を用いて各段階で調べられる。レゾルフィン酸化は、NFC中のスフェロイドのミトコンドリア活性、酵素活性および細胞膜の完全性によって細胞の生存を決定するための蛍光二重セルステインを評価するための方法として選択された。Hep G2細胞をGrowDex(登録商標)中で培養した。
【0129】
GrowDex(登録商標)ヒドロゲルは、細胞の周囲に支持マトリックスを形成し、調節可能な圧力と三次元細胞系の成長を誘導する支持とを提供する。GrowDex(登録商標)は、様々な細胞種の要件を満たすようにいくつかの方法で調整することができ、現在まで、GrowDex(登録商標)は、6種類の細胞用、HepaRG、ARPE-19、MUG-Mel2およびHep G2細胞株、ならびにWA07およびiPS(IMR90)-4幹細胞株の三次元細胞培養マトリックスとして良好に最適化されている。
【0130】
材料
1.5%(ロット11792)のNFCヒドロゲル(GrowDex(登録商標))は、フィンランドのUPM-Kymmene社から入手した。大部分の小繊維の直径は、4〜10nmの範囲内にあり、長さは500〜10000nmの範囲内にあった。使用した他の全ての化合物は分析用グレードであり、実施前に紫外線または濾過によって滅菌した。D−(+)−トレハロース無水物、低接着性96ウェルイナートグレードBRAND plates(登録商標)、セルステイン二重染色キット(Cellstain double staining kit)、ウシ胎児血清およびグリセロール(99%)は、米国のSigma-Aldrich社から購入した。ポリエチレングリコール(Mn 6000)は、スイスのFluka社から購入した。ペニシリン−ストレプトマイシン溶液(PenStrep、10000U/ml)、マグネシウムおよびカルシウムを含まないダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、ならびにマグネシウムおよびカルシウムを含まないダルベッコリン酸緩衝生理食塩水(DPBS)10倍濃縮物は、英国のGibco社から購入した。ガラス化に使用される液体窒素および保存に使用されるアルゴンガスは、フィンランドのAGA Industrial Gases社から購入した。MycoAlert(商標)マイコプラズマ検出キットは、スイスのLonza社から購入した。共焦点画像化用のPS SensoPlate(商標)96ウェルガラス底プレートは、オーストリアのGreiner Bio-one社から購入した。Sterile Corning(登録商標)通気性シーリングテープは、米国のCorning社から購入した。ヒト肝細胞癌Hep G2細胞(継代数100、ATCC HB-8065)は、米国のATCC(登録商標)社から購入した。Invitrogen社によるTrypLE ExpressおよびalamarBlue(登録商標)細胞生存試薬は、Thermo Fisher Scientific社から購入した。使用したすべての溶液は、二重蒸留超純水で作られた。
【0131】
カバノキから得られたパルプは、GrowDex(登録商標)ヒドロゲルを製造する際の材料として使用される。最初に、パルプを精製し、漂白する。次に、セルロース繊維を二重蒸留超純水中に分散させ、均質なヒドロゲルを形成するために単離する。最後に、得られたヒドロゲルを121℃で20分間オートクレーブ滅菌する。
【0132】
方法
Hep G2癌性肝細胞株からの三次元細胞スフェロイドの培養
Hep G2癌性細胞株は、十分に特徴付けられた強い細胞株であるので実験のために選択され、NFCヒドロゲル中での培養に関する以前の研究において再現可能で信頼できる結果を提供した。試験期間中、生存におけるNFCの効果を識別するためのコントロール試料を得るために、前記細胞株をGrowDex(登録商標)の有無で培養した。0.8%(w/w)のGrowDex(登録商業)で増殖した三次元細胞スフェロイドを図1に示した。画像(A)、(B)および(C)は、100〜120μmの直径を有する典型的なスフェロイドを示す。しかしながら、画像(D)は、160μmを超える直径を有するより大きなスフェロイドを示す。通常、スフェロイドは、5日間でこの大きなサイズに成長せず、これは播種段階で細胞凝集体が存在したことを意味する。成長が5日間に制限されたのは、大きすぎるスフェロイドを避けるためである。なぜなら、スフェロイドが十分な大きさになると、栄養素および酸素はスフェロイドの中心部まで拡散することができないからである。
【0133】
二次元および三次元培養の上に、それぞれの新しい二次元および三次元播種のための新鮮な細胞の供給源として、細胞培養フラスコ中で維持株を培養した。維持瓶は、継代数100から152まで一週間に2回に分けられた。HepG2細胞の性質は、高い継代数で不変であることがATCCによって調べられている。維持用ボトルを継代のために分割したとき、細胞を最初に1×DPBSで2回洗浄し、4mlのトリプルで剥がし、11〜14mlの新鮮培地を用いて75cmフラスコに播種した。培地は、成長因子についてはカルシウムおよびマグネシウムを含まない90%(v/v)のDMEM、および10%(v/v)のFBSを含んでいた。三次元播種段階において、細胞を遠心分離機で200RCF(相対遠心力)で6分間回転させ、形成された上清を除去した。新鮮な培地を添加し、細胞をGrowDex(登録商標)と混合して、0.8%(w/w)のNFCを含む三次元細胞系を作製した。等量の新鮮な培地を、栄養および水分を与えるために別の層として加えた。続いて、細胞プレートをインキュベータ内で+37℃、5%COで4日間保存した。
【0134】
細胞培地(DMEM)は、培地を赤色にするフェノールレッドを含む。図1の試料(B)および(C)は、培地層なしで(培地なしでガラス化されているので)画像化され、より黄色の背景をもたらした。
【0135】
リオプロテクタントの最適化
GrowDex(登録商標)による試験には、3種類のリオプロテクタントを選択した。最初に、細胞を0.8%(w/w)のGrowDex(登録商標)を用いて、二次元または三次元のいずれかで4日間、定期的に培養した後、培地を交換した。いくつかの試料については、培地は、50mMのトレハロース二水和物と、可能なグリセロールまたはPEG6000とを含む培地と交換したが、他のものは通常の培地のみを与えられた。5日目に、0.4%(w/w)のヒドロゲルを形成するために、培地層をヒドロゲル層と共にピペッティングすることによって混合した。二次元細胞の場合、細胞は、凍結する前に3回剥離された。全ての系は、混合物を20μlの液滴として液体窒素に注入することによって、急速に凍結された。続いて、系を凍結乾燥し、再水和し、セルステイン二重染色および蛍光顕微鏡を用いて生存率について評価した。表2は、全ての最適化の組み合わせとそれらの評価された生存率とを示している。
【表2】
【0136】
セルステインを用いて、2つの組み合わせから素晴らしい結果が得られた。第1の混合物は、0.4%(w/w)のGrowDex(登録商標)、1%(w/w)のグリセロール、0.3%(w/w)のトレハロースを含んでおり、50mMのトレハロース培地に24時間にわたって曝された。次の混合物は同じ物質を含んでいたが、さらにPEG 6000(0.7%(w/w))を含んでいた。したがって、PEG 6000は、混合物の凍結乾燥保護において、ほとんどまたは全く役割を担っていないと結論付けられた。これ以降の全ての実験は、第1の混合物(0.4%(w/w)のGrowDex(登録商標)、1%(w/w)のグリセロール、0.3%(w/w)のトレハロース、および24時間のトレハロースインキュベーション)を用いて行われた。
【0137】
リオプロテクタントの添加およびトレハロースインキュベーション
細胞を0.8%(w/w)GrowDex(登録商標)中で4日間培養した後、培地の上層を交換した。最初に、細胞系を96ウェル培養プレート中で6分間、200RCFで遠心分離した。次に、上清を各ウェルから吸引した。続いて、50mMのトレハロース二水和物、2%(w/w)のグリセロールおよび1%(v/v)のPenStrep抗生物質混合物を含む新しい培地混合物を添加した。グリセロールの量は、2倍であった。なぜなら、ウェルの半分にすぎない中間層に合わされたからである。次に、細胞を+37℃および5%COで24時間インキュベートした。インキュベーション中、細胞はトレハロースの一部を取り入れたが、グリセロールは細胞外空間に残った。インキュベーション後、成長したスフェロイドの直径を、10に示すようにLeica AF光学顕微鏡を用いて測定した。最後に、各試料ウェルを前後にピペッティングすることによって培地層をヒドロゲル層と機械的に混合した。これによって、NFC含有量が0.8%から約0.4%に徹底的に下げられた。これは、凍結乾燥保護マトリックス効果に最も適したNFC量として以前に最適化された(低濃度の繊維は、試料の全体の多孔度を減少させる)。
【0138】
示差走査熱量測定
凝固点(FP)およびガラス転移点(Tg)は、示差走査熱量測定(DSC)を用いてヒドロゲル−細胞混合物から測定した。図5の凍結乾燥サイクルは、1℃/分の冷却速度および1℃/10分の加熱速度でDSCを用いてシミュレートされた。さらに、5℃/分の冷却速度を用いてTg温度をより明確に示した。クリオプロテクタントを含む細胞−ヒドロゲルは、細胞なしで−24.75℃および−23.75℃のFPをもたらした(コントロール)。クリオプロテクタントを含まない系では、細胞ありでは−22.77℃、細胞なしでは−22.35℃であった。トレハロースのTg’は、0.2mWの精度でさえも検出することができなかったが、これは試料中のトレハロースの総量が少ないためである可能性が最も高い。
【0139】
液体窒素の滅菌
フィンランドのAGA社によって提供される液体窒素は、凍結状態の汚染物質を含み、ガラス化工程において最大凍結速度のために細胞試料が液体窒素に直接ピペットで移されるので、液体窒素は使用前に滅菌されなければならなかった。最初に、液体窒素を図2(A)のように、清潔な容器に注ぎ入れ、ESCOラミナ(DDTC/AU 550305054)の中に入れた。ここで、(B)20,000μW/cmの線量のUV−C放射線を用いて18分間にわたって紫外線(UV)光によって滅菌した。次に、特注の金属製ラックを無菌窒素に浸し、次いで15mlの無菌開放チューブ(C)を無菌的にラックに取り付け、その後無菌液体窒素に浸した。次に、金属製スプーン(D)を用いて約5mlの滅菌液体窒素をチューブに充填した。液体窒素を含むチューブが容器の窒素に浸されたので、作業および輸送の全工程で蒸発は目立たず、同じくセルラミナ内で行われるガラス化工程の理想的な作業環境となった。チューブ周囲の過剰量の液体窒素も、細胞チューブの温度を良好に維持するので、凍結乾燥機への細胞チューブの移動を容易にした。
【0140】
ガラス化
次の工程において、細胞プレートをラミナの内側に入れた。三次元細胞スフェロイドヒドロゲルを含む各96ウェルを、低接着性ピペットチップを用いてピペッティングすることによって適切に混合した。各ウェル内の培地層をヒドロゲル層と混合することによって、0.4%(w/w)の繊維含有量を有する新しいヒドロゲル混合物が形成された。次に、図3(A)のように、新しいヒドロゲルを小さな液滴として注意深くピペットで15mlチューブ内の液体窒素に直接移した。これによって、液滴は、直径約2〜5mlの小さな球として凍結した。使用された培地にはフェノールレッド、すなわち、液体の水が存在しなくなると直ちにピンク色から黄色に色が変わる化合物が含まれているので、凍結速度はある程度視覚的に観察することができる。観察されたピンク色から黄色への色の変化は瞬時であり、急速な凍結を示した。最後に、過剰な熱エネルギから試料を保護するために、細胞チューブを有するラックを、いくらかの液体窒素を含んでいる間に、凍結乾燥チャンバ(B)の中に置いた。
【0141】
凍結乾燥
ガラス化後、直ちに凍結乾燥処理を実施した。 Labogene社によって製造されたScanVacCoolSafeを用いて、ヘルシンキのバイオセンター2で実施した。このモデルには、試料用の独立した冷却システムとプログラム可能なメインユニットとがないので、時間あたりの温度を追跡することができなかった。しかしながら、細胞培地中のフェノールレッドによって、図4(A)の黄色サンプルの場合のように、凍結乾燥サイクルの開始時に試料中の遊離水の存在を排除することができた。全処理中、凝縮器を−106℃に保った。
【0142】
図3(B)に示すように、15mlのチューブが依然として2〜3mlの液体窒素を含むように、ガラス化後に試料を移して凍結乾燥機内に入れた。凍結乾燥サイクルは、まだ形成中の窒素ガスが真空ポンプによって集められるように直ちに初期化された。これによって試料の最低開始温度が保証された。なぜなら、試料は通常、真空初期化段階中に温まるからである。真空チャンバは、約15分で0.001mbarの真空レベルに達した。凍結乾燥サイクルは72時間続けられ、その間、試料は未知の速度で温められた。なぜなら、機器は、温度センサを備えていないからである。チャンバガラスを通してサーモグラフィーカメラを使用したが、試料の代わりにチャンバの表面温度のみを測定した。それにも関わらず、フェノールレッドの観察された黄色の色相は、図4(B)に示されるように最後に試料の乾燥を確実にした。5分間、室内の空気で真空をゆっくり解除した。
【0143】
保管および再形成
乾燥試料を、Parafilm(登録商標)で固定された密閉プラスチックチューブに保存し、乾燥シリカボールを備えたデシケータ内に配置し、アルゴンガスを充填し、+4℃で保存した。1日間の保管後、乾燥NFC系の再湿潤用に特別に設計された設計再水和液を用いて試料を無菌的に再構成した。高い濃度差からの衝撃を避けるために、新しい再水和液は、超純水に加えて追加の培地を含むように設計されたので、過剰に添加された場合には系の本来の浸透圧が達成される。新規再形成液は、1%(v/v)のPenstrep混合物、79%(v/v)のオートクレーブ処理された超純水、および20%(v/v)の培地を含んでいた。試料の乾燥体積に対応するように2.5%(v/v)減少したことを除いて、乾燥体積に125%(v/v)の乾燥試料の元の湿潤体積が対応するように、再水和液を乾燥試料に加えた。したがって、122.5%(v/v)の再形成液を添加することによって、20%(v/v)の新鮮な追加の培地を添加しながら元の浸透圧を達成した。再水和液を添加する前に、細胞と確実に穏やかに接触させるために+37℃に温めた。装着された1000μlの低接着性チップを15mlチューブの内側に挿入することによって、液体を試料に添加し、ピペッティングによって迅速に混合した。続いて、細胞を直ちに他の処理の前に15分間にわたって+37℃および5%COのインキュベータに入れた。
【0144】
無菌性を維持する新規凍結乾燥サイクル
研究中に、2つの新しい滅菌凍結乾燥法が生み出された。最初の凍結乾燥サイクルは、トゥルク応用科学大学で200μlの細胞ヒドロゲル系の凍結乾燥量に最適化された。機器は、トゥルクのKupittaaにあるプログラム可能なオペレーティングシステムを備えた多用途乾燥機であった。操作したモデルは、EPSILON 1-6Dで、CHRIST社によって製造された。機器は、自動化されプログラム可能な油性冷却棚および制御された真空ポンプを有していた。したがって、96ウェルの三次元細胞ヒドロゲル試料用に独自の凍結乾燥サイクルを設計することができた。最終的な最適化サイクルは、図5に示される。
【0145】
しかしながら、研究は、後にヘルシンキのヴィッキの2番目の凍結乾燥機に移された。このモデルは、Labogene社によるScanVacCoolSafeであった。このモデルには独立した冷却システムとプログラム可能なメインユニットとがないので、サイクルを最適化することができなかった。しかしながら、このモデルは、本研究の全ての結果をもたらすために使用された。試料を液体窒素でガラス化し、0.001mbarの圧力で72時間乾燥させた。
【0146】
使用された機器は、両方とも汚染された室内の空気中にあるので、本研究では2つの新しい滅菌乾燥方法が開発された。図6(A)における第1の系は、235cm細胞培養フラスコ(Corning(登録商標)社製)を2片に切断したものを示し、このフラスコは、矢印で示されている96ウェルプレートの挿入後に滅菌され、後に滅菌セルラミナ内で再接続された。ボトルのキャップは、ラミナの内側にある、新しい滅菌包装されたキャップと交換されている。次に、再接続されたボトル片の間の接合部を、70%エタノールで拭いたParafilm(登録商標)を用いて気密にし、ラミナから取り出した後、通常の空調用テープを用いた。次に、フラスコ全体を注意深く凍結乾燥チャンバ内に置き、制御された方法で1℃/分で凍結し、凍結乾燥した。96ウェルプレートは、細胞ヒドロゲル系を含み、キャップの広域フィルタを通してのみ気体分子を交換することができた。その後、乾燥した試料を、MycoAlert(商標)マイコプラズマ検出キットを用いて、汚染およびマイコプラズマについて試験した。汚染またはマイコプラズマは、検出されなかった。
【0147】
図6(B)において、ポリプロピレンチューブがSterile Corning(登録商標)通気性シーリングテープでしっかりと閉じられていることが示されている。凍結乾燥防止シーリングテープは市場に出回っていなかったので、このテープの製造業者(Corning社、米国)に連絡し、無料サンプルを受け取った。試験結果は、液体窒素がテープの接着特性に影響を及ぼさず、その後、汚染物質もマイコプラズマも検出されなかったので空気を濾過したことを明らかにした。
【0148】
マイコプラズマおよび無菌試験
ガラス化、凍結乾燥、保管および再形成の後、試料をマイコプラズマについて試験した。再形成された細胞ヒドロゲル系を集め、5mlの培地を入れた25cmの培養フラスコに播種し、続いて8日間培養した。この間、細胞ボトルは、培地色の変化、香り、および顕微鏡的活動の出現について毎日観察された。微生物活性、または培地中のpHもしくは香りの変化は、見出されなかった。次に、MycoAlert(商標)マイコプラズマ検出キットを用いて、培地試料のマイコプラズマを試験した。その試験も否定的な結果をもたらし、したがってCorning(登録商標)通気性シーリングテープおよびセルフラスココルクフィルタの両方が凍結乾燥の間に試料の無菌性を維持したと結論付けられた。
【0149】
細胞生存率のための生/死二重染色
再形成された細胞系を、哺乳類細胞用の生/死二重染色キットを用いて生存率について試験した。カルセインAMおよびヨウ化プロピジウムの量は、健康なHep G2細胞の三次元培養および70%エタノール殺菌細胞コントロール試料を用いて最初に最適化された。次に、凍結乾燥し、再形成された試料を、最終NFC濃度が0.1%になるようにDPBS(カルシウムおよびマグネシウムなし)緩衝液で希釈した。最適化の間に、このNFC濃度またはそれ以下の濃度が色素による妨害を最も少なくすることが観察されたが、画像化のために細胞を安定させるためには、いくらかのNFCの存在が必要であった。スフェロイドを、カルセイン−AM 1:500(セルステイン二重染色キット;Sigma Aldrich社)および50μg/ml DAPI(Invitrogen社、カールスバッド、カリフォルニア)を含む染色溶液に37℃で15分間懸濁し、Greiner Sensoplate(商標)ガラス底96ウェルプレート(Sigma Aldrich社)に移した。蛍光画像は、HCPLAPO10x/0.4(空気)およびHC PL APO20x/0.7 CS(空気)対物レンズを用いてLeica SP5 II HCA顕微鏡で撮影した。画像の取得には、Imaris 8.4.1ソフトウェアを使用した。自家蛍光の可能性は、死滅したコントロール試料によって排除された。最初に、凍結乾燥して再形成されたコントロール系を30分間のインキュベーションで70%エタノールを用いて死滅させた後、試料と同じ色素で染色した。コントロール試料には緑色蛍光は観察されなかった。
【0150】
AlamarBlue(登録商標)細胞生存アッセイ
Hep G2細胞スフェロイドのミトコンドリア代謝活性は、酸化還元指示薬、レサズリン(Invitrogen社製、alamarBlue(登録商標)細胞生存試薬)を用いて凍結乾燥の前後に測定した。最初に、alamarBlue(登録商標)を培地およびヒドロゲルの混合物の1/10の共体積(co-volume)で適用した。次に、細胞を5%CO中において37℃で4時間にわたってレサズリンに曝した。次に、培養プレートを200rcfで7分間遠心分離し、50mlの形成された上清(培地)を各培養ウェルから黒色の96ウェルプレートに移した。最後に、レサズリンの代謝産物(蛍光レゾルフィン)を、560nmでの励起および590nmでの発光を用いてプレートリーダ(Varioskan Flash、Thermo Fisher社)を用いて記録した。
【0151】
次に、測定された吸光度を用いて、測定値を既知の細胞量を有する類似のサンプルと比較することによって生存細胞の数を決定した。図7に示すように、このデータから直線標準線を引いた(y=0.004x+32.364、R=0.98211)。
【0152】
結果
細胞の形態は凍結乾燥中も変化しない
再形成された細胞系を、5倍対物レンズ(図8A)、10倍対物レンズ(B)および20倍対物レンズ(CおよびD)を用いてLeica AF光学顕微鏡で撮像した。また、細胞フラスコに再播種された再水和系を同じ顕微鏡で撮像した。再形成された系は、破裂したスフェロイドが観察されず、元の細胞培養に著しく類似していた。さらに、細胞の形態は、Hep G2細胞の三次元培養物に対して正常であるように見えた。図8(A)では、直径約300μmの超大型細胞スフェロイドを観察することができ、(B)では、典型的なサイズおよび形状のスフェロイドを観察することができ、(C)では赤い形状のスフェロイドを観察することができる。全ての様々なサイズのスフェロイドは、目立った破裂も崩壊もなしに生き残った。(D)では、個々の細胞の形態を観察することができる。また、HepG2細胞の凍結乾燥三次元細胞スフェロイドにおいて微小胞が検出された。
【0153】
エアロゲルのSEM画像
凍結乾燥後、乾燥した試料をSEM(走査型電子顕微鏡)モデルFEI Quanta 250電界放出銃走査で撮像した(図13A〜F)。GrowDex(登録商標)のエアロゲル構造は、典型的な高多孔質セルロースエアロゲルに似ていた。エアロゲル中にカプセル化された様々なサイズの細胞スフェロイドを観察することができた(図13(A)、(C)および(E)において矢印で印を付けた)。
【0154】
細胞の付着
再水和の後、いくつかの三次元細胞スフェロイドを新鮮培地を用いて75cmの細胞培養フラスコに播種した。4時間後、図9に示されるように、フラスコのポリプロピレン表面への細胞スフェロイドの付着が観察された。付着は、4時間の時点における培地の変化に耐えるようにスフェロイドを固定するために十分に強く、古い培地を吸引し、新しい培地をフラスコにピペットで移した。NFC繊維ネットワークからの支持的なECM模倣圧力がなくなったので、二次元様構造へ戻る形態学的変化が観察された。しかしながら、大部分のスフェロイドは、4時間のインキュベーションの間に表面に付着せず、これは細胞生存能の喪失を示唆している。
【0155】
細胞生存のためのセルステイン二重染色キット
Sigma-Aldrich社によるセルステイン二重染色キット(生/死二重染色としても知られている)を細胞生存率の決定に使用した。必要とされる活性化合物、カルセインAMおよびヨウ化プロピジウムの量は、実際の測定の前に試験セットで最初に最適化された。1×DPBSで希釈した、0.2%(v/v)の提供されたカルセインAM溶質および0.1%(v/v)のヨウ化プロピジウム溶質は、37℃および5%のCOでの15分間のインキュベーションを用いて、1ウェルあたり50000細胞の鮮明な画像をもたらすことが明らかにされた。
【0156】
再水和および二重染色細胞試料を、以下の設定で、共焦点顕微鏡Leica SP5 II HCAで画像化した:ピンホール420μm、ゲイン480およびアルゴンレーザ25%。使用したレーザは、HeNe 633nm/12mWおよびDPSS 561nm/20mWであり、使用した物体は、HC PL APO10x/0.4(空気)およびHCPL APO20x/0.7CS(空気)であった。図10は、再水和の1時間後の細胞スフェロイドを示し、(A)は、PDSS561レーザからのチャネルを示し、(B)HeNe633レーザからのチャネルを示す。図10(C)は、これらの2つのチャネルをより高いキャプチャ解像度で重ね合わせたものを示す。
【0157】
自家蛍光は、染色され同時に撮像された死滅したコントロール試料によって排除され、同一設定で緑色蛍光は示されなかった。死滅したコントロール試料を同じ再水和細胞バッチから取得したが、染色および画像化の前に70%エタノールで30分間処理した。スタック画像を共焦点顕微鏡でキャプチャし、生存した細胞スフェロイドから生存能を分析するために三次元モデルを作成した。これらのモデルに基づいて、結果として25%(±10)の細胞生存の割合が導き出された。
【0158】
GrowDex(登録商標)の凍結乾燥保護効果を異ならせるために、別の種類のコントロール試料を作製した。それを含まない試料は、24時間のトレハロースインキュベーション、同量のリオプロテクタントおよび液体窒素での凍結を含む他は同じ方法で処理した。これらのコントロール試料を主要な試料と同時に凍結乾燥してバッチ間の差を除外した。結果を図11に示す。ここで、(A)における全てのコントロール試料は死滅しているが、(B)における主要試料中に生細胞が観察された。
【0159】
最大の細胞スフェロイドは、いくつかの場合において中空であるように見えた。これは、スフェロイドを染色するための染色が15分間しか与えられておらず、染色が外側の細胞層を通って中心部に向かって拡散する必要があるという事実が原因であろう。このことは、中空スフェロイドの錯覚を生じさせる可能性があり、実際には染色インキュベーション時間を長くするか、またはスフェロイドを染色前に半分に切断する。中空に見えるスフェロイドの中央部分を図12に示す。
【0160】
生/死画像では、生死の正確な分類は困難である。いくつかの個々の細胞は、それらの細胞膜における穴を意味するが、細胞内の酵素活性を意味する両方の染色を有した。それにも関わらず、実験は、GrowDex(登録商標)の凍結乾燥保護効果を明確に証明している。
【0161】
AlamarBlue(登録商標)アッセイ
凍結乾燥後、Hep G2細胞の生存率をalamarBlue(登録商標)アッセイで測定すると、3.7%(±0.03)の生存率となり、これはかなり低い。しかし、この生存率は、いくつかの測定セットで検出された。また、alamarBlue(登録商標)キットは、1ウェルあたり50個の生存細胞を検出するために十分な感度を持っている。これは、セルステイン二重染色の結果に対して依然として議論の余地がある。ある仮説は、凍結乾燥がGrowDex(登録商標)の特性を変え、それをレサズリンに粘着させるということあった。しかしながら、この仮説は、コントロール試料セットによって排除された。コントロール試料セットでは、GrowDex(登録商標)が最初に培地およびリオプロテクタントを用いて細胞なしで凍結乾燥され、健康な細胞が再水和後に播種された。それにも関わらず、これらの細胞は、正常な生存能を示した。
【0162】
alamarBlue(登録商標)の活性測定における生存能の欠損は、凍結乾燥中に細胞のミトコンドリアに何かが起こっていることを証明している。しかし、セルステイン二重染色のいくつかの反復測定セットによって証明されるように、細胞膜は無傷のままであり、細胞酵素タンパク質は活性のままである。解決の難しい議論の間、我々はその細胞をシュレディンガー細胞と呼んだ。両方のアッセイは常に同様の結果で何度も実施され、他の全てのシナリオは包括的なコントロール測定によって除外されたので、我々は、緑色の色素が漏れないので細胞膜は適切に無傷のままであるが、細胞内のミトコンドリアはいくらか損傷を受けているという結論に至った。NFCが緑色の染色が漏れるのを防ぐとの主張ができるかもしれないが、そうではない。なぜなら、そもそも緑色の染色は、NFCから細胞へと拡散するからである。このalamarBlue(登録商標)のジレンマについては、次のセクションで詳しく説明する。
【0163】
ナノフィブリルセルロースヒドロゲルは、機械的破裂なしに、凍結および乾燥に耐えることができ、不活性であり、汚染物質を含まず、高い多孔度を達成するために十分な液体を保持し、明確な幾何学単位として成形することができる凍結乾燥保護マトリックスとして有用である。試験によれば、UPM-Kymmene社よって製造されたナノフィブリルセルロースは、これらの要求の全てを満たす。NFCマトリックスは、再水和液であふれたときに吸収された活性生成物を放出した。正しい量のセルラーゼ酵素混合物(GrowDase(商標))を添加すると、ナノフィブリルセルロース繊維構造は小さな糖に消化される。しかしながら、凍結乾燥三次元細胞スフェロイドヒドロゲル系の場合、培養は、ヒドロゲル環境で継続される可能性が最も高いので、通常、最初にヒドロゲルを消化する必要はない。
【0164】
乾燥製品が、乾燥、活性、貯蔵安定性、清潔かつ無菌、倫理的に許容され、薬理的に洗練されており、容易に溶解し、再構成するのが簡単であり、処理が経済的に実行可能であるべきであるという凍結乾燥製品の要件について、これらの要件は、満たされた。これらの知見に基づいて、乾燥したGrowDex(登録商標)Hep G2系には遊離水が残っておらず、再構成後にもその活性を維持しており、無菌で、洗練されており、容易に溶解する。GrowDex(登録商標)および他の全ての成分は完全に動物性がないので、使用された細胞に倫理的な問題がない限り、この処理は倫理的に許容することができると見なされるべきである。必要な機械が利用可能であれば、処理において使用される全ての材料(糖、セルロース、グリセロール)はかなり安価であるが、それでも最終製品には高い価値がある。処理が工場の設定でさらに最適化されている場合は、経済的に実行可能であると見なすことができる。製品の貯蔵安定性は、厳しいスケジュールが原因で数日を超えては研究されなかった。また、凍結乾燥した試料は、車のトランクに入れて高速道路で、西フィンランドからヘルシンキまでNFCでカプセル化した乾燥状態で移送したが、それでも試料は依然として生存能を示した。中空細胞が崩壊することを防ぐNFC繊維の堅い乾燥構造が原因であろう。
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5
図6A
図6B
図7
図8
図9
図10A
図10B
図10C
図11A
図11B
図12
図13A
図13B
図13C
図13D
図13E
図13F