(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記層構造における前記繊維強化樹脂層の強化繊維は、カーボン繊維、アラミド繊維、ポリエチレン繊維、ザイロン繊維、ボロン繊維およびガラス繊維よりなる群から選択された少なくとも1つである、
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の靴構造体。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、剛性の確保および軽量化の両立を図るために靴構造体のアッパー部に繊維強化樹脂製(FRP:Fiber Reinforced Plastic)を採用した場合、皮革のようなしなやかさを実現することは困難である。例えば、FRPの母材として熱硬化性樹脂を用いた場合、固すぎて足へのフィッティングが困難となる。また、FRPの母材として熱可塑性樹脂を用いた場合、十分な強度を確保しにくい。
【0006】
本発明の目的は、繊維強化樹脂を用いて剛性および軽量化を図りつつ、皮革のようなしなやかさを実現することができる靴構造体およびスケート靴を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様の靴構造体は、アッパー部と、アッパー部の底側に設けられアッパー部と一体に成形されたソール部とを備える。アッパー部は、繊維強化樹脂層とゴム層とを含んだ層構造である第1層構造を持つ。第1層構造は、繊維強化樹脂層である第1繊維強化樹脂層と、繊維強化樹脂層である第2繊維強化樹脂層と、第1繊維強化樹脂層と第2繊維強化樹脂層との間に配置されたゴム層である第1ゴム層とを含む。
【0008】
このような構成によれば、アッパー部が層構造(第1層構造)となっており、第1層構造として、第1繊維強化樹脂層と第2繊維強化樹脂層との間に第1ゴム層を配置していることから、第1繊維強化樹脂層および第2繊維強化樹脂層によって剛性および軽量化を図り、第1ゴム層によって弾性を高めることができる。
【0009】
上記靴構造体において、第1繊維強化樹脂層および第2繊維強化樹脂層のそれぞれの母材樹脂は熱硬化性樹脂であることが好ましい。また、第1繊維強化樹脂層および第2繊維強化樹脂層のそれぞれの強化繊維は、カーボン繊維、アラミド繊維、ポリエチレン繊維、ザイロン繊維、ボロン繊維およびガラス繊維よりなる群から選択された少なくとも1つであることが好ましい。また、第1ゴム層は、ニトリルゴムであることが好ましい。
【0010】
上記靴構造体において、第1繊維強化樹脂層および第2繊維強化樹脂層の少なくともいずれかは、複数の強化繊維の層を有していてもよい。これにより、第1繊維強化樹脂層および第2繊維強化樹脂層の強化繊維の層の数によって剛性および厚さを調整することができる。
【0011】
上記靴構造体において、ソール部は、つま先部分と、かかと部分と、土踏まず部分とを有し、つま先部分およびかかと部分は、層構造である第2層構造を持ち、第2層構造は、アッパー部側に設けられた繊維強化樹脂層である第3繊維強化樹脂層と、第3繊維強化樹脂層のアッパー部とは反対側に設けられたゴム層である第2ゴム層とを含むことが好ましい。このようなつま先部分およびかかと部分の第2層構造によれば、第3繊維強化樹脂層によって剛性の確保を図り、最も外側(底側)の第2ゴム層によってクッション性および吸音性を高めることができる。
【0012】
上記靴構造体において、第3繊維強化樹脂層の母材樹脂は熱硬化性樹脂であることが好ましい。また、第3繊維強化樹脂層の強化繊維は、カーボン繊維、アラミド繊維、ポリエチレン繊維、ザイロン繊維、ボロン繊維およびガラス繊維よりなる群から選択された少なくとも1つであることが好ましい。また、第2ゴム層は、ニトリルゴムであることが好ましい。
【0013】
上記靴構造体において、第3繊維強化樹脂層は、複数の強化繊維の層を有していてもよい。これにより、第3繊維強化樹脂層の強化繊維の層の数によって剛性および厚さを調整することができる。
【0014】
上記靴構造体において、第2層構造は、第3繊維強化樹脂層と、第2ゴム層との間に設けられた熱可塑性樹脂層をさらに含んでいてもよい。これにより、熱可塑性樹脂層によって第2層構造の適度な補強と衝撃吸収性を高めることができる。
【0015】
上記靴構造体において、土踏まず部分は、層構造である第3層構造を持ち、第3層構造は、アッパー部側に設けられた繊維強化樹脂層である第4繊維強化樹脂層と、第4繊維強化樹脂層のアッパー部とは反対側に設けられた繊維強化樹脂層である第5繊維強化樹脂層と、第4繊維強化樹脂層と第5繊維強化樹脂層との間に設けられたゴム層である第3ゴム層とを含むことが好ましい。このような土踏まず部分の第3層構造によれば、第4繊維強化樹脂層および第5繊維強化樹脂層によって剛性および軽量化を図り、第3ゴム層によって弾性を高めることができる。
【0016】
上記靴構造体において、第4繊維強化樹脂層および第5繊維強化樹脂層のそれぞれの母材樹脂は熱硬化性樹脂であることが好ましい。また、第4繊維強化樹脂層および第5繊維強化樹脂層のそれぞれの強化繊維は、カーボン繊維、アラミド繊維、ポリエチレン繊維、ザイロン繊維、ボロン繊維およびガラス繊維よりなる群から選択された少なくとも1つであることが好ましい。また、第3ゴム層は、ニトリルゴムであることが好ましい。
【0017】
上記靴構造体において、第4繊維強化樹脂層および第5繊維強化樹脂層の少なくともいずれかは、複数の強化繊維の層を有していてもよい。これにより、第4繊維強化樹脂層および第5繊維強化樹脂層の強化繊維の層の数によって剛性および厚さを調整することができる。
【0018】
上記靴構造体において、アッパー部に取り付けられるシュータン部をさらに備え、シュータン部は、層構造である第4層構造を持ち、第4層構造は、アッパー部側に設けられた繊維強化樹脂層である第6繊維強化樹脂層と、第6繊維強化樹脂層のアッパー部とは反対側に設けられたゴム層である第4ゴム層と、を備えていることが好ましい。このようなシュータン部の第4層構造によれば、第6維強化樹脂層によって剛性および軽量化を図り、第4ゴム層によって弾性を高めることができる。
【0019】
上記靴構造体において、アッパー部には、靴紐を掛けるフックが直接締結されるとよい。また、アッパー部には、靴紐を通す孔が設けられていることが好ましい。これにより、アッパー部に対して強固にフックを固定でき、靴紐を掛けるフックの外れや、靴紐を通す孔の変形、破損を防止することができる。
【0020】
本発明の一態様は、上記靴構造体と、この靴構造体のソール部に固定されたブレードと、を備えることを特徴とするスケート靴である。このような構成によれば、靴構造体が繊維強化樹脂層とゴム層との層構造になっていることで、繊維強化樹脂層による剛性および軽量化に加え、ゴム層による弾性を層構造に与えることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、繊維強化樹脂を用いて剛性および軽量化を図りつつ、皮革のようなしなやかさを実現することができる靴構造体およびスケート靴を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、以下の説明では、同一の部材には同一の符号を付し、一度説明した部材については適宜その説明を省略する。また、説明の便宜上、本実施形態では靴の左右における左足側を例として説明するが、右足側であっても同様である。
【0024】
(アッパー部)
図1(a)および(b)は、本実施形態に係る靴構造体1のアッパー部10の構成を例示する模式図である。
図1(a)にはアッパー部10の斜視図が示され、
図1(b)にはアッパー部10の第1層構造ST1の断面図が示される。
図1(a)に示すように、本実施形態に係る靴構造体1は、アッパー部10とソール部20とを備える。アッパー部10は足の形に対応して成形されており、足の周りを囲むような形状になっている。すなわち、アッパー部10は、つま先に対応した先端部分101、足の外側に対応した外側部分102、足の内側に対応した内側部分103、かかとに対応した後端部分104およびくるぶしから足首に対応した上方延出部分105を有し、これらが一体に成形されている。アッパー部10には足を入れる上部開口10h1が設けられ、上部開口10h1の前方から先端部分101にかけて中央開口10h2が設けられる。上部開口10h1および中央開口10h2は、足を入れる際にはアッパー部10を拡げやすく、また足を入れた状態ではアッパー部10を締めやすくするために設けられる。
【0025】
ソール部20は、アッパー部10の底側に設けられる。ソール部20は、つま先部分21、かかと部分22および土踏まず部分23を有する。靴構造体1において、ソール部20は、アッパー部10と一体に成形される。これにより、靴構造体1としてアッパー部10からソール部20にかけてシェル型のワンピース構造となる。ソール部20の詳細については後述する。
【0026】
本実施形態に係る靴構造体1において、アッパー部10は第1層構造ST1を有する。
図1(b)には、
図1(a)のA部の断面が示される。第1層構造ST1は、第1繊維強化樹脂層111と、第2繊維強化樹脂層112と、第1繊維強化樹脂層111と第2繊維強化樹脂層112との間に配置される第1ゴム層113と、を備える。すなわち、アッパー部10は、第1繊維強化樹脂層111と第2繊維強化樹脂層112との間に第1ゴム層113が挟み込まれた層構造となっている。アッパー部10の全体が第1層構造ST1によって成形されている。
【0027】
第1繊維強化樹脂層111および第2繊維強化樹脂層112のそれぞれの母材Mの樹脂は熱硬化性樹脂である。熱硬化性樹脂としては、例えばエポキシ樹脂が用いられる。第1繊維強化樹脂層111および第2繊維強化樹脂層112のそれぞれの強化繊維Fは、カーボン繊維、アラミド繊維、ポリエチレン繊維、ザイロン繊維、ボロン繊維およびガラス繊維よりなる群から選択された少なくとも1つである。また、第1ゴム層113には、ニトリルゴムが用いられる。
【0028】
第1層構造ST1の代表的な例としては、第1繊維強化樹脂層111および第2繊維強化樹脂層112は、エポキシ樹脂(母材M)をアラミド繊維(強化繊維F)で強化したFRP(Fiber Reinforced Plastic)であり、第1ゴム層113は、ニトリルゴムである。これにより、2層のFRPの間にニトリルゴムを挟んだ層構造が構成される。
【0029】
第1繊維強化樹脂層111および第2繊維強化樹脂層112の厚さは、0.1ミリメートル(mm)以上3mm以下程度であり、第1ゴム層113の厚さは、0.5mm以上5mm以下程度である。これらの厚さは、アッパー部10の固さや耐久性によって適宜選択される。
【0030】
このように、第1層構造ST1として、第1繊維強化樹脂層111と第2繊維強化樹脂層112との間に第1ゴム層113を配置した層構造を適用することで、第1繊維強化樹脂層111および第2繊維強化樹脂層112によってアッパー部10の剛性を高めることができるとともに軽量化を図ることができる。また、第1繊維強化樹脂層111と第2繊維強化樹脂層112との間に第1ゴム層113を挟む層構造によって、FRPだけでは得られない弾性(柔軟性)を得ることができる。つまり、第1繊維強化樹脂層111と第2繊維強化樹脂層112とが第1ゴム層113で結合されることから、第1層構造ST1に曲げ応力が加わった際に第1繊維強化樹脂層111と第2繊維強化樹脂層112との間の層方向のずれを第1ゴム層113の層方向の伸び縮みで吸収することができる。その結果、第1層構造ST1は、第1ゴム層113が無い構造体に比べて曲がりやすくなる(弾性を高められる)。
【0031】
アッパー部10がこのような第1層構造ST1を有することで、第1繊維強化樹脂層111および第2繊維強化樹脂層112による剛性および軽量化と、第1ゴム層113による弾性を得ることができ、軽く強靱でありながら皮革のようなしなやかさにより足へのフィッティング性を高めることができる。
【0032】
図2(a)および(b)は、第1層構造ST1の他の例を示す模式断面図である。
図2(a)および(b)に示す第1層構造ST1の他の例では、第1繊維強化樹脂層111および第2繊維強化樹脂層112の少なくともいずれかが、複数の強化繊維Fの層を有している。
図2(a)に示す例では、第1繊維強化樹脂層111および第2繊維強化樹脂層112のそれぞれに、強化繊維Fが2層設けられている。母材Mの樹脂(例えば、エポキシ樹脂)に複数の強化繊維Fの層を設けるには、1層の強化繊維Fを有する所定の厚さの母材Mを複数重ねて成形すればよい。なお、成形過程の加熱において母材間は一体化されるが、説明の便宜上、
図2では母材間を二点鎖線で示している。
【0033】
図2(b)に示す例では、第1繊維強化樹脂層111および第2繊維強化樹脂層112のそれぞれに、強化繊維Fが3層設けられる。また、第1ゴム層113は2層設けられている。第1繊維強化樹脂層111および第2繊維強化樹脂層112の強化繊維Fの層が増えるほど剛性が高くなり、厚さが増す。第1ゴム層113の層が増えるほど厚さが増加し、クッション性が高くなる。このように、第1繊維強化樹脂層111および第2繊維強化樹脂層112の強化繊維Fの層の数や、第1ゴム層113の層の数によって、アッパー部10の剛性、厚さおよびクッション性を調整することができる。なお、第1ゴム層113の厚さは、層の数を調整してもよいし、1層の厚さを調整するようにしてもよい。
【0034】
(ソール部:つま先部分およびかかと部分)
図3(a)および(b)は、本実施形態に係る靴構造体1のソール部20の構成を例示する模式図である。
図3(a)にはソール部20のつま先部分21およびかかと部分22の斜視図が示され、
図3(b)にはソール部20のつま先部分21およびかかと部分22の第2層構造ST2の断面図が示される。
図3(a)に示すように、本実施形態に係る靴構造体1のソール部20は、つま先部分21、かかと部分22および土踏まず部分23を有する。ソール部20はアッパー部10の底側に設けられ、アッパー部10と一体に成形される。
【0035】
本実施形態に係る靴構造体1では、ソール部20のつま先部分21およびかかと部分22が、第1層構造ST1とは異なる層構造の第2層構造ST2を有する。
図2(b)には、
図2(a)のB部の断面が示される。第2層構造ST2は、アッパー部10側に設けられる第3繊維強化樹脂層211と、第3繊維強化樹脂層211のアッパー部10とは反対側に設けられる第2ゴム層213と、を備える。すなわち、つま先部分21およびかかと部分22は、アッパー部10側にFRPである第3繊維強化樹脂層211が設けられ、外側に第2ゴム層213が設けられる層構造となっている。
【0036】
第3繊維強化樹脂層211の母材Mの樹脂は熱硬化性樹脂である。熱硬化性樹脂としては、例えばエポキシ樹脂が用いられる。第3繊維強化樹脂層211の強化繊維Fは、カーボン繊維、アラミド繊維、ポリエチレン繊維、ザイロン繊維、ボロン繊維およびガラス繊維よりなる群から選択された少なくとも1つである。また、第2ゴム層213には、ニトリルゴムが用いられる。
【0037】
第2層構造ST2の代表的な例としては、第3繊維強化樹脂層211は、エポキシ樹脂(母材M)をカーボン繊維(強化繊維F)で強化したFRPであり、第2ゴム層213は、ニトリルゴムである。
【0038】
第3繊維強化樹脂層211の厚さは、0.1mm以上10mm以下程度であり、第2ゴム層213の厚さは、0.5mm以上10mm以下程度である。これらの厚さは、つま先部分21およびかかと部分22のそれぞれの固さや厚さ、耐久性によって適宜選択される。つま先部分21とかかと部分22とで第3繊維強化樹脂層211および第2ゴム層213の厚さを変えてもよいし、同じにしてもよい。
【0039】
このようなつま先部分21およびかかと部分22の第2層構造ST2によれば、第3繊維強化樹脂層211によって剛性の確保を図り、最も外側(底側)の第2ゴム層213によってクッション性および吸音性を高めることができる。
【0040】
図4(a)および(b)は、第2層構造ST2の他の例を示す模式断面図である。
図4(a)および(b)に示す第2層構造ST2の他の例では、第3繊維強化樹脂層211が複数の強化繊維Fの層を有している。
図4(a)に示す例では、第3繊維強化樹脂層211に強化繊維Fが多数層設けられている。母材Mの樹脂(例えば、エポキシ樹脂)に多数の強化繊維Fの層を設けるには、1層の強化繊維Fを有する所定の厚さの母材Mを複数重ねて成形すればよい。なお、成形過程の加熱において母材間は一体化されるが、説明の便宜上、
図4では母材間を二点鎖線で示している。
【0041】
第3繊維強化樹脂層211の強化繊維Fの層が増えるほど剛性が高くなり、厚さが増す。特に、ソール部20のつま先部分21やかかと部分22では、着地(着氷、着雪などを含む)の際に強い力がかかるため、アッパー部10に比べて剛性を高め、厚さを厚くしておく必要がある。第3繊維強化樹脂層211の強化繊維Fの層の数によってつま先部分21およびかかと部分22の剛性および厚さを調整することができる。
【0042】
なお、第2層構造ST2において、第2ゴム層213の層の数を調整してもよい。第2ゴム層213の層が増えるほど厚さが増加し、クッション性が高くなる。なお、第2ゴム層213の厚さは、層の数を調整してもよいし、1層の厚さを調整するようにしてもよい。
【0043】
図4(b)に示す例では、第2層構造ST2として、第3繊維強化樹脂層211と、第2ゴム層213との間に熱可塑性樹脂層215がさらに設けられている。
図4(b)に示す例のように、第3繊維強化樹脂層211の厚さ方向の途中に熱可塑性樹脂層215が設けられていてもよい。熱可塑性樹脂層215が第3繊維強化樹脂層211と、第2ゴム層213との間に設けられることで、第2層構造ST2の適度な補強と衝撃吸収性を高めることができる。
【0044】
(ソール部:土踏まず部分)
図5(a)および(b)は、本実施形態に係る靴構造体1のソール部20の構成を例示する模式図である。
図5(a)にはソール部20の土踏まず部分23の斜視図が示され、
図5(b)にはソール部20の土踏まず部分23の第3層構造ST3の断面図が示される。
図5(a)に示すように、土踏まず部分23は、ソール部20の一部であって、つま先部分21とかかと部分22との間に設けられる。土踏まず部分23はつま先部分21およびかかと部分22と一体に成形される。
【0045】
本実施形態に係る靴構造体1では、ソール部20の土踏まず部分23が、第1層構造ST1および第2層構造ST2とは異なる層構造の第3層構造ST3を有する。
図5(b)には、
図5(a)のC部の断面が示される。第3層構造ST3は、アッパー部10側に設けられる第4繊維強化樹脂層231と、第4繊維強化樹脂層231のアッパー部10とは反対側に設けられる第5繊維強化樹脂層232と、第4繊維強化樹脂層231と、第5繊維強化樹脂層232との間に設けられる第3ゴム層233と、を備える。すなわち、土踏まず部分23は、第4繊維強化樹脂層231と第5繊維強化樹脂層232との間に第3ゴム層233が挟み込まれた層構造となっている。
【0046】
第4繊維強化樹脂層231および第5繊維強化樹脂層232のそれぞれの母材Mの樹脂は熱硬化性樹脂である。熱硬化性樹脂としては、例えばエポキシ樹脂が用いられる。第4繊維強化樹脂層231および第5繊維強化樹脂層232のそれぞれの強化繊維Fは、カーボン繊維、アラミド繊維、ポリエチレン繊維、ザイロン繊維、ボロン繊維およびガラス繊維よりなる群から選択された少なくとも1つである。また、第3ゴム層233には、ニトリルゴムが用いられる。
【0047】
第3層構造ST3の代表的な例としては、第4繊維強化樹脂層231および第5繊維強化樹脂層232は、エポキシ樹脂(母材M)をカーボン繊維(強化繊維F)で強化したFRPであり、第3ゴム層233は、ニトリルゴムである。これにより、2層のFRPの間にニトリルゴムを挟んだ層構造が構成される。
【0048】
第4繊維強化樹脂層231および第5繊維強化樹脂層232の厚さは、0.1ミリメートル(mm)以上10mm以下程度であり、第3ゴム層233の厚さは、0.5mm以上10mm以下程度である。これらの厚さは、土踏まず部分23の固さや耐久性によって適宜選択される。
【0049】
このような土踏まず部分23の第3層構造ST3によれば、第4繊維強化樹脂層231および第5繊維強化樹脂層232によって剛性および軽量化を図り、第3ゴム層233によって弾性を高めることができる。
【0050】
また、第3層構造ST3において、第4繊維強化樹脂層231および第5繊維強化樹脂層232の少なくともいずれかは、複数の強化繊維Fの層を有していてもよい。第4繊維強化樹脂層231および第5繊維強化樹脂層232の強化繊維Fの層が増えるほど剛性が高くなり、厚さが増す。
【0051】
また、第3ゴム層233の層の数を調整してもよい。第3ゴム層233の層が増えるほど厚さが増加し、クッション性が高くなる。なお、第3ゴム層233の厚さは、層の数を調整してもよいし、1層の厚さを調整するようにしてもよい。
【0052】
このように、第4繊維強化樹脂層231および第5繊維強化樹脂層232の強化繊維Fの層の数や、第3ゴム層233の層の数によって、土踏まず部分23の剛性、厚さおよびクッション性を調整することができる。
【0053】
特に、ソール部20の土踏まず部分23では、つま先部分21とかかと部分22との間で地面(氷面、雪面などを含む)から浮いた状態になっており、着地(着氷、着雪などを含む)から蹴り出しにかけて十分な反発力を生み出すことが要求される。また、土踏まず部分23には大きな撓み力が何度も与えられるため、十分な耐久性も必要である。第4繊維強化樹脂層231および第5繊維強化樹脂層232の強化繊維Fの層の数や、第3ゴム層233の厚さによって、土踏まず部分23に要求される剛性や反発力、耐久性を調整することができる。
【0054】
(シュータン部)
図6は、本実施形態に係る靴構造体1のシュータン部30の構成を例示する模式図である。
図7は、シュータン部30の層構造を例示する模式図である。
図7(a)にはシュータン部30の芯材301の斜視図が示され、
図7(b)及び(c)にはシュータン部30の第4層構造ST4の断面図が示される。
図6に示すように、本実施形態に係る靴構造体1のシュータン部30は、芯材301と、芯材301を覆う表皮部302とを有する。表皮部302にはクッション材(ウレタンフォームなど)を革のシートで包んだものが用いられる。
【0055】
芯材301は、足の甲の上に配置される第1部分31と、第1部分31よりも上部に設けられ足首の前方に当たる第2部分32とを有する。シュータン部30は足の甲および足首の前方を押さえる役目を果たす。シュータン部30は
図1に示すアッパー部10の中央開口10h2を塞ぐようにアッパー部10の内側に配置される。
【0056】
本実施形態に係る靴構造体1において、芯材301の第1部分31は、少なくとも一部において第4層構造ST4を有する。
図7(b)には
図6のD部の断面の一例が示される。第4層構造ST4は、例えば第1部分31における第2部分32寄りに設けられる。
図7(b)に示す第4層構造ST4は、アッパー部10側に設けられる第6繊維強化樹脂層311と、第6繊維強化樹脂層311のアッパー部10とは反対側に設けられる第4ゴム層313と、を備える。すなわち、芯材301の第4層構造ST4では、足の側に第4ゴム層313が設けられ、足とは反対側のアッパー部10側に第6繊維強化樹脂層311が設けられる。
【0057】
シュータン部30においては、芯材301の第1部分31の幅が、第2部分32の幅よりも狭くなっており、中央に配置される。これにより、第1部分31の両脇は表皮部302だけとなって剛性が低くなり、靴紐を締めた際にシュータン部30の第1部分31を足の甲にフィットさせやすくなる。一方、芯材301の第2部分32の幅は、表皮部302の幅とほぼ等しくなっている。これにより、第2部分32については全体の剛性が高まり、靴紐を締めた際に芯材301の第2部分32で足首の前方の全体をしっかり押さえることができる。
【0058】
第6繊維強化樹脂層311の母材Mの樹脂は熱硬化性樹脂である。熱硬化性樹脂としては、例えばエポキシ樹脂が用いられる。第6繊維強化樹脂層311の強化繊維Fは、カーボン繊維、アラミド繊維、ポリエチレン繊維、ザイロン繊維、ボロン繊維およびガラス繊維よりなる群から選択された少なくとも1つである。また、第4ゴム層313には、ニトリルゴムが用いられる。
【0059】
第4層構造ST4の代表的な例としては、第6繊維強化樹脂層311は、エポキシ樹脂(母材M)をアラミド繊維(強化繊維F)で強化したFRPであり、第4ゴム層313は、ニトリルゴムである。
【0060】
第6繊維強化樹脂層311の厚さは、0.1mm以上5mm以下程度であり、第4ゴム層313の厚さは、0.5mm以上5mm以下程度である。これらの厚さは、シュータン部30の固さや厚さ、耐久性によって適宜選択される。
【0061】
このようなシュータン部30の第4層構造ST4によれば、第6繊維強化樹脂層311によって剛性および軽量化を図り、第4ゴム層313によって弾性を高めることができる。
【0062】
また、第4層構造ST4において、第6繊維強化樹脂層311は、複数の強化繊維Fの層を有していてもよい。第6繊維強化樹脂層311の強化繊維Fの層が増えるほど剛性が高くなり、厚さが増す。
【0063】
また、第4ゴム層313の層の数を調整してもよい。第4ゴム層313の層が増えるほど厚さが増加し、クッション性が高くなる。なお、第4ゴム層313の厚さは、層の数を調整してもよいし、1層の厚さを調整するようにしてもよい。
【0064】
このように、第6繊維強化樹脂層311の強化繊維Fの層の数や、第4ゴム層313の層の数によって、シュータン部30の剛性、厚さおよびクッション性を調整することができる。
【0065】
また、
図7(c)には
図6のD部の断面の他の一例が示される。
図7(b)に示す第4層構造ST4は、第6繊維強化樹脂層311と、第7繊維強化樹脂層312と、第4ゴム層313とを備える。第4ゴム層313は、第6繊維強化樹脂層311と第7繊維強化樹脂層312との間に配置される。第7繊維強化樹脂層312の母材Mや強化繊維F、厚さは第6繊維強化樹脂層311と同様である。このように、第6繊維強化樹脂層311と第7繊維強化樹脂層312との間にゴム層313を挟んだ第4構造ST4を用いることで、さらに剛性を高めることができる。
【0066】
なお、上記のシュータン部30では、芯材301の第1部分31の少なくとも一部に第4層構造ST4を有する例を示したが、第1部分31の全体に第4層構造ST4を有していてもよいし、第2部分32に第4層構造ST4を有していてもよい。また、芯材301の全体に第4層構造ST4を有していてもよい。
【0067】
(フック)
図8は、本実施形態に係る靴構造体1のフック40の構成を例示する斜視図である。
フック40は靴紐を掛ける金具であり、アッパー部10の上方延出部分105における中央開口10h2寄りに取り付けられる。本実施形態では、フック40はアッパー部10に直接締結されている。例えば、アッパー部10の第1層構造ST1を貫通するようにカシメ41によってフック40がアッパー部10に直接固定される。
【0068】
アッパー部10の第1層構造ST1には剛性の高い第1繊維強化樹脂層111や第2繊維強化樹脂層112が含まれており、これらの層を貫通するようにカシメ41によって取り付けられることで、フック40をアッパー部10に対して強固に固定できる。フック40には靴紐を締めることで強い力が加わるが、アッパー部10にフック40が直接締結されていることでフック40の外れが抑制され、耐久性を高めることができる。これにより、靴紐を強くフック40に掛けて、足首回りをしっかり締めて固定することが可能となる。
【0069】
(靴紐を通す孔)
図9は、本実施形態に係る靴構造体1の靴紐を通す孔50を例示する斜視図である。
靴紐を通す孔50は、アッパー部10の外側部分102および内側部分103における中央開口10h2寄りに、中央開口10h2の縁に沿って複数個設けられている。アッパー部10の第1層構造ST1には剛性の高い第1繊維強化樹脂層111や第2繊維強化樹脂層112が含まれており、これらの層を貫通するように孔50が設けられることで、孔50に靴紐を通して締めた際に孔50に負担がかかっても、孔50の変形や破損を防止することができる。これにより、靴紐を孔50に通してしっかり締めて固定することが可能となる。
【0070】
(靴構造体の製造方法)
本実施形態に係る靴構造体1の製造方法としては、FRPの各種の製造方法が適用可能であり、特にオートクレーブ製法が適している。オートクレーブ製法によって靴構造体1を製造するには、先ず、使用者の足に合わせた型を用意する。次に、強化繊維F(例えば、アラミド繊維)に母材Mの樹脂(例えば、エポキシ樹脂)を含浸させた半硬化のシート(プリプレグシート)を型に貼り付け、必要に応じて複数枚積層していく。ゴム層は、加硫前のゴム材料シート(例えば、ニトリルゴムシート)をプリプレグシートの上に貼り付けていく。ゴム層を2つのFRPで挟む場合には、ゴム材料シートの上にさらにプリプレグシートを貼り付け、必要に応じて複数枚積層する。
【0071】
次に、型にプリプレグシートおよびゴム材料シートを貼り付けた状態で全体を耐熱フィルムで覆い、気密シールを行う。その後、耐熱フィルム内を減圧脱気し、この状態でオートクレーブ(加熱加圧成形釜)によって加熱および加圧を行う。この加熱・加圧によってプリプレグシートの母材Mが硬化するとともに、ゴム材料シートの加硫が行われゴムとしての弾力が発生する。加熱・加圧後、離型することでアッパー部10およびソール部20が一体となったワンピース構造の靴構造体1が完成する。
【0072】
(スケート靴)
図10は、本実施形態に係るスケート靴100の構成を例示する斜視図である。
本実施形態に係るスケート靴100は、上記説明した本実施形態に係る靴構造体1のソール部20にスケートのブレード2が固定されたものである。ブレード2はソール部20にスクリュー(図示せず)によって固定される。このため、ソール部20はスクリューの長さ以上の厚さとなっている。
【0073】
シュータン部30はアッパー部10の中央開口10h2の内側に配置される。靴紐3を孔50に通し、上部開口10h1からアッパー部10に足を挿入した状態で靴紐3を締めていく。フック40に靴紐3を掛けて結ぶことで足先から足首までしっかりフィッティングされる。
【0074】
スケート靴100として本実施形態に係る靴構造体1を用いることで、靴構造体1が繊維強化樹脂層とゴム層との層構造になっているため、繊維強化樹脂層による剛性および軽量化に加え、ゴム層による弾性を層構造に与えることができる。したがって、繊維強化樹脂層によって剛性および軽量化を図りつつ、皮革のようなしなやかさを与えることができ、足へのフィッティング性を高めることができる。
【0075】
以上説明したように、本実施形態によれば、繊維強化樹脂を用いて剛性および軽量化を図りつつ、皮革のようなしなやかさを実現することができる靴構造体1およびスケート靴100を提供することが可能となる。
【0076】
なお、上記に本実施形態およびその適用例を説明したが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。例えば、本実施形態では靴構造体1をスケート靴100に適用する例を示したが、スキー靴、スノーボードブーツ、自転車用シューズ、ランニング用シューズなど、他の靴にも適用可能である。また、靴構造体1に適用した層構造(第1層構造ST1、第2層構造ST2、第3層構造ST3および第4層構造ST4)は、靴構造体1以外であっても適用可能である。例えば、自転車のサドル、各種競技用のガード類(ニーパッド、エルボーパッド、チェストパッド、ショルダーパッドなど)、ヘルメット、機能回復用のサポーターや補助器具といった、剛性と柔軟性とを両立させたい部材に適用可能である。
【0077】
また、前述の各実施形態またはその適用例に対して、当業者が適宜、構成要素の追加、削除、設計変更を行ったものや、各実施形態の特徴を適宜組み合わせたものも、本発明の要旨を備えている限り、本発明の範囲に包含される。
【解決手段】本発明の一態様は、アッパー部10と、アッパー部10の底側に設けられアッパー部10と一体に成形されたソール部20と、を備えた靴構造体1であって、アッパー部10は第1層構造ST1を有する。第1層構造ST1は、第1繊維強化樹脂層111と、第2繊維強化樹脂層112と、第1繊維強化樹脂層111と第2繊維強化樹脂層112との間に配置される第1ゴム層113と、を備えたことを特徴とする。