特許第6945227号(P6945227)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6945227
(24)【登録日】2021年9月16日
(45)【発行日】2021年10月6日
(54)【発明の名称】ガス調理器具
(51)【国際特許分類】
   F23N 5/26 20060101AFI20210927BHJP
   F24C 3/12 20060101ALI20210927BHJP
【FI】
   F23N5/26 T
   F24C3/12 U
【請求項の数】3
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2017-164607(P2017-164607)
(22)【出願日】2017年8月29日
(65)【公開番号】特開2019-44985(P2019-44985A)
(43)【公開日】2019年3月22日
【審査請求日】2020年7月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000112015
【氏名又は名称】株式会社パロマ
(74)【代理人】
【識別番号】100078721
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 喜樹
(74)【代理人】
【識別番号】100121142
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 恭一
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 匠
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 浩之
【審査官】 岩▲崎▼ 則昌
(56)【参考文献】
【文献】 特開2017−003164(JP,A)
【文献】 特開2015−114088(JP,A)
【文献】 特開2006−090598(JP,A)
【文献】 特開平08−082418(JP,A)
【文献】 特開平07−324748(JP,A)
【文献】 特開平03−230020(JP,A)
【文献】 特開昭60−121376(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F23N 5/26
F24C 3/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バーナを備えた器体内に、
前側の操作部材と、
前記バーナへのガス流路を開閉する弁軸を備えた後側の流路開閉部と、
前記操作部材と前記流路開閉部との間で前後移動可能で、カム溝を備えたカムと、前記カム溝に挿入されて前記カムの前後移動に応じて前記カム溝に沿って相対移動する案内部材と、を含み、前記操作部材の押し込み操作の繰り返しにより、前記カムの前後位置を、消火位置と、その後方の点火押切位置と、その前方の燃焼位置と、その後方の消火押切位置との順番にそれぞれ変更させるカム機構部と、
が設けられたガス調理器具であって、
前記カム溝には、前記カムが前記燃焼位置から前記消火押切位置まで後退する際に、前記案内部材が相対移動する消火押し込み経路が形成されて、前記消火押し込み経路の少なくとも始端を含む底面には、下流側へ行くに従って徐々に深くなる下り勾配が付与されていることを特徴とするガス調理器具。
【請求項2】
前記カム溝は、前記消火押し込み経路の始端からその中間部位に至る直線状の直線部と、前記中間部位から、前記消火押切位置、前記消火位置、前記点火押切位置を経て前記中間部位に戻る平面視ハート形状の循環部とを有して、前記カムが前記点火押切位置から前記燃焼位置まで前進する際に、前記案内部材が相対移動する点火戻り経路が形成されて、前記消火押し込み経路における前記直線部と前記循環部とに跨がる屈曲部分の角度は、前記点火戻り経路における前記直線部と前記循環部とに跨がる屈曲部分の角度よりも大きいことを特徴とする請求項1に記載のガス調理器具。
【請求項3】
前記消火押し込み経路の底面は、前記中間部位が最深部となり、そこから終端へ行くに従って徐々に浅くなる上り勾配が付与されて、前記最深部で前記点火戻り経路と合流していることを特徴とする請求項に記載のガス調理器具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンロ等のガス調理器具に関する。
【背景技術】
【0002】
コンロ等のガス調理器具においては、ガスバーナを被調理物の加熱手段として備えると共に、器体の前面に設けた点消火ボタン(操作部材)の押し操作によってガスバーナの点消火動作が可能となるプッシュスイッチ機構を設けたものが知られている。このプッシュスイッチ機構は、例えば特許文献1に開示されるように、点消火ボタンの押し操作の繰り返しにより、ガス流路を開閉する弁体を備えた弁軸を、ハートカム機構を介して軸方向に進退運動させるもので、ここではハートカム機構として、係止ピンが係止するカム溝を備えた前後2つのカム(スライダ及び中継スライダ)をケース内に収容してコイルバネでそれぞれ前側へ付勢して、点消火ボタンを消火位置から点火押切位置まで押し操作すると、前側のカムを介して後側のカムが基板スイッチ等のスイッチをON動作させて弁軸を開弁位置に押し込み、ここから点消火ボタンから手を離すと、前後のカムが係止ピンによってそれぞれ適正な燃焼位置に保持される。また、燃焼位置から点消火ボタンを消火押切位置まで押し操作すると、前側のカムが後側のカムを押し込んで係止ピンによる保持を解除させ、前後のカムが消火位置に復帰するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2017−3164号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ガス調理器具のプッシュスイッチ機構は、安全性を考慮して、なるべく軽い操作感で操作部材を燃焼位置から消火位置まで押し込み操作ができるのが望ましい。
しかし、上記特許文献1のようなプッシュスイッチ機構においては、係止ピンがカムのカム溝の底面を摺動するため、操作感が重くなりやすい。特に、消火操作の初期段階では、静止状態から2つのカムを押し込むことになるため、最も大きな押し込み力が必要となって操作感が悪くなってしまう。
【0005】
そこで、本発明は、操作部材の消火操作の際の操作感を軽くして使い勝手が良好となるガス調理器具を提供することを目的としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、バーナを備えた器体内に、
前側の操作部材と、
バーナへのガス流路を開閉する弁軸を備えた後側の流路開閉部と、
操作部材と流路開閉部との間で前後移動可能で、カム溝を備えたカムと、カム溝に挿入されてカムの前後移動に応じてカム溝に沿って相対移動する案内部材と、を含み、操作部材の押し込み操作の繰り返しにより、カムの前後位置を、消火位置と、その後方の点火押切位置と、その前方の燃焼位置と、その後方の消火押切位置との順番にそれぞれ変更させるカム機構部と、が設けられたガス調理器具であって、
カム溝には、カムが燃焼位置から消火押切位置まで後退する際に、案内部材が相対移動する消火押し込み経路が形成されて、消火押し込み経路の少なくとも始端を含む底面には、下流側へ行くに従って徐々に深くなる下り勾配が付与されていることを特徴とする。
請求項2に記載の発明は、請求項1の構成において、カム溝は、消火押し込み経路の始端からその中間部位に至る直線状の直線部と、中間部位から、消火押切位置、消火位置、点火押切位置を経て中間部位に戻る平面視ハート形状の循環部とを有して、カムが点火押切位置から燃焼位置まで前進する際に、案内部材が相対移動する点火戻り経路が形成されて、消火押し込み経路における直線部と循環部とに跨がる屈曲部分の角度は、点火戻り経路における直線部と循環部とに跨がる屈曲部分の角度よりも大きいことを特徴とする。
請求項3に記載の発明は、請求項の構成において、消火押し込み経路の底面は、中間部位が最深部となり、そこから終端へ行くに従って徐々に浅くなる上り勾配が付与されて、最深部で点火戻り経路と合流していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
請求項1に記載の発明によれば、カム溝において、少なくとも消火押し込み経路の始端を含む上流側の底面に、下流側へ行くに従って徐々に深くなる下り勾配を付与したことで、操作部材の消火操作時に案内部材が消火押し込み経路を相対移動する際の摺動抵抗が低減される。よって、消火操作の際の操作感が軽くなって使い勝手が良好となる。
請求項2に記載の発明によれば、請求項1の効果に加えて、消火押し込み経路における直線部と循環部とに跨がる屈曲部分の角度を、点火戻り経路における直線部と循環部とに跨がる屈曲部分の角度よりも大きくしているので、案内部材が直線的に相対移動でき、消火操作時の操作感を一層軽くすることができる。
請求項3に記載の発明によれば、請求項の効果に加えて、消火押し込み経路の底面を、中間部位が最深部となり、そこから終端へ行くに従って徐々に浅くなる上り勾配を付与したものとして、中間部位で点火戻り経路と合流させているので、中間部位との間に段部を確実に形成でき、点火戻り経路の傾斜を浅くすることができる。よって、点火戻り経路内での案内部材の突っかかりを好適に防止可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】ビルトインコンロの斜視図である。
図2】プッシュスイッチ機構の側面図である。
図3】カム機構部の分解斜視図である。
図4】前カムの説明図で、(A)は背面、(B)(C)はそれぞれ斜視を示す。
図5】後カムの説明図で、(A)は背面、(B)(C)はそれぞれ斜視を示す。
図6】(A)は前カム溝での前レバーピンの移動軌跡及び前消火押し込み経路の底面の説明図、(B)は後カム溝での後レバーピンの移動軌跡及び後点火押し込み経路の底面の説明図である。
図7】消火位置のプッシュスイッチ機構の説明図で、(A)が側面、(B)が底面をそれぞれ示す。
図8】点火押切位置のプッシュスイッチ機構の説明図で、(A)が側面、(B)が底面をそれぞれ示す。
図9】燃焼位置のプッシュスイッチ機構の説明図で、(A)が側面、(B)が底面をそれぞれ示す。
図10】消火押切位置のプッシュスイッチ機構の説明図で、(A)が側面、(B)が底面をそれぞれ示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、ガス調理器具の一例であるビルトインコンロの斜視図である。このビルトインコンロ1は、平面視が横長矩形状の器体2内に、前側(図1の左下側)で左右に2つ、その間で後側に1つの3つのコンロ部3,3・・と、前側の2つのコンロ部3,3の間に位置するグリル部4とを備えてなる。
器体2は、前面及び上面を開口した本体5と、本体5の前面に取り付けられる前枠6と、前枠6の下側に取り付けられるフロントパネル7と、本体5の上面の開口に取り付けられる天板8とからなる。器体2の上面の開口には、天板8の下方でキッチンのキャビネットに係止するフランジ9が周設されている。各コンロ部3は、天板8から上方に露出して上面にバーナヘッド11を載置したコンロバーナ10と、その周囲に位置する五徳12とを備えている。13は、グリル部4の排気キャップである。
【0010】
フロントパネル7の中央には、グリル扉14が設けられ、その左右には、コンロバーナ10やグリルバーナを点消火操作するための操作部材としての点消火ボタン15,15・・と、タイマー調理等の設定を行うための開閉式の操作パネル16とが設けられている。点消火ボタン15は、器体2内に収容したプッシュスイッチ機構の前端に備えられて、点消火ボタン15の押し込み操作の繰り返しにより、各バーナの点消火動作が可能となっている。
以下、コンロ部3のプッシュスイッチ機構について詳述する。
【0011】
[プッシュスイッチ機構]
図2は、プッシュスイッチ機構20の側面図、図3はカム機構部21の分解斜視図である。このプッシュスイッチ機構20は、カム機構部21と、カム機構部21の後方に取り付けられる流路開閉部22と、流路開閉部22の上部に固定される火力調整部23とを備えてなる。流路開閉部22の上流側には、器体2内の図示しないガスパイプが接続され、火力調整部23の下流側には、コンロバーナ10に至る図示しないガスパイプが接続される。点消火ボタン15は、カム機構部21の前端に設けられている。なお、このプッシュスイッチ機構20は、器体2内では図2のように火力調整部23が上となる姿勢で前後方向に設置されるが、図3では、カム機構部21の説明の便宜上、上下を逆にして示している。
【0012】
まず、カム機構部21は、メカボックス24と、メカボックス24内に収容された前カム25及び後カム26とを備える。メカボックス24は、横断面がU字状で下面及び前面を開口させたボックス本体27と、ボックス本体27の下面を閉塞するカバー28とからなり、ボックス本体27の左右の側面には、基板スイッチ29とイグナイタスイッチ30とが、レバー29a,30aをそれぞれ下側且つ後向きとした姿勢でネジ止めされている。ボックス本体27の前後方向中央には、透孔32を有する仕切板31が形成され、その後側の左右には、一対の切欠窓33,33が形成されて、左右の側面下部には、複数の係止突起34,34・・が前後方向へ所定間隔をおいて突設されている。ボックス本体27の後端は、左右に張り出す閉塞板35で閉塞されて、閉塞板35の中央部位には、透孔36が形成され、その周囲にリング状突起37が形成されている。閉塞板35の下部後側には、後ピン受け部38が突設されて、後ピン受け部38には、後案内部材としての倒コ字状の後レバーピン39の後端が、抑えバネ40により保持されている。よって、後レバーピン39は、後端を中心に左右へ揺動可能となる。ボックス本体27の前端内側には、左右にストッパ41,41が設けられ、前端の円弧状の上面には、同じ円弧状の突条42,42が前後に所定間隔をおいて設けられている。
【0013】
カバー28は、ボックス本体27の下面から左右の側面下部に掛けて覆う横断面倒コ字状で、左右の折り返し部には、係止突起34,34・・が係止する角孔43,43・・が形成されて、前端中央には、前ピン受け部44が突設されている。この前ピン受け部44には、前案内部材としての倒コ字状の前レバーピン45の前端が、抑えバネ46により保持されている。よって、前レバーピン45は、前端を中心に左右へ揺動可能となる。また、カバー28の下面には、後レバーピン39の前端が挿入し、後端を中心とした円弧状の後長孔47と、前レバーピン45の後端が挿入し、前端を中心とした円弧状の前長孔48とが左右方向に形成されている。
【0014】
前カム25は、上部外形がボックス本体27に嵌合する横断面U字状のブロック体で、図4にも示すように、前面には、点消火ボタン15が連結される連結ロッド50が前向きに連結され、後面には、後カム26を押圧する前側ロッド51が後向きに突設されている。前カム25の前側の左右両側面は二面幅に形成されて、その後部左右には、ボックス本体27のストッパ41,41に後方から係止する係止面52,52が形成されている。
また、前カム25の下部には、前カム溝54を形成した板状のカム板部53が後向きに形成されて、カム板部53の前側には、下面及び前面が開放する凹部55が形成されている。この前カム溝54は、尖端を後側に向けて左側が右側よりも前方へ長くなる平面視ハート形状の前循環部56と、前循環部56の尖端から後方へ延びる前直線部57とからなる有底溝となっている。この前カム溝54に、前長孔48を貫通した前レバーピン45の後端が挿入して、後述するように前カム25の進退動に伴い前カム溝54内を相対移動するようになっている。
さらに、前カム25の外周面には、U字状の上面と、カム板部53に沿った左右の側面と下面とに、複数のガイド突起58,58・・が前後方向に突設されている。
【0015】
ここで、前カム溝54は、図6(A)にも示すように、前循環部56の前側中央を始端として斜め前方に延び、前循環部56の左側前端を終端とする前点火押し込み経路60と、前点火押し込み経路60の終端を始端として前循環部56の左側を直線状に後退した後、中央側へ屈曲し、前循環部56の後端を経て前直線部57に入り、その後端を終端とする前点火戻り経路61と、前点火戻り経路61の終端を始端として前方に延び、前直線部57の前端を経て右側へ屈曲した後、前循環部56の右側を直線状に前進し、前循環部56の右側前端を終端とする前消火押し込み経路62と、前消火押し込み経路62の終端を始端として斜め後方に延び、前循環部56の前側中央(前点火押し込み経路60の始端)を終端とする前消火戻り経路63とを有している。
前点火押し込み経路60の底面は、始端から終端に向けて上り傾斜しており、前点火押し込み経路60の終端の手前には、当該終端が一段低くなる段部60aが形成されている。
前点火戻り経路61の底面は、前循環部56の後端の手前まで僅かに上り傾斜しており、当該後端の手前には、当該後端が一段低くなる段部61aが形成されて、前循環部56の後端(前直線部57の前端)は、平坦な最深部64となっている。最深部64から前直線部57の後端までは、当該後端に向けて上り傾斜している。なお、前カム溝54の底面の勾配(上り下り方向)については、図2,3の上下方向でなく、図6のように前カム溝54のみを上方から見た場合で説明している。これは後述する後カム溝74についても同様である。
【0016】
「前消火押し込み経路」
前消火押し込み経路62の底面は、同図下側に示すように、始端から前直線部57を下り傾斜して、中間部位である最深部64に至り、最深部64から終端に至る前循環部56の右側部分65では、前端に向けて上り傾斜している。当該前端の手前には、当該前端が一段低くなる段部62aが形成されている。
前消火戻り経路63の底面は、始端から終端に向けて上り傾斜しており、当該終端の手前には、終端が一段低くなる段部63aが形成されている。
このように各経路の終端手前或いは経路の合流部分の手前に段部60a,61a,62a,63aを形成したことで、前カム溝54内の前レバーピン45は、前点火押し込み経路60、前点火戻り経路61、前消火押し込み経路62、前消火戻り経路63の順に一方通行で相対移動することになる。
そして、ここでは、前消火押し込み経路62を形成する前循環部56の右側部分65と前直線部57とがなす屈曲部分の角度αが、前点火戻り経路61を形成する前循環部56の左側部分と前直線部57とがなす屈曲部分の角度βよりも大きくなっている。すなわち、前消火押し込み経路62の方が前点火戻り経路61よりも前直線部57に対する屈曲角度が小さくなって直線に近い形状となっている。
【0017】
後カム26も、図5に示すように、上部外形がボックス本体に嵌合する横断面U字状のブロック体で、後面には、流路開閉部22の後述する弁軸94を押圧する後側ロッド70が後向きに突設されている。また、左右の両側面には、左アーム71と右アーム72とがそれぞれ突設されている。左アーム71は、後カム26の後退に伴って基板スイッチ29のレバー29aを、右アーム72は、後カム26の後退に伴ってイグナイタスイッチ30のレバー30aをそれぞれ押し込むもので、ここでは左アーム71の方が右アーム72よりも後方へ長く形成されて、基板スイッチ29をONさせるタイミングをイグナイタスイッチ30をONさせるタイミングよりも早く設定している。
【0018】
さらに、後カム26の下部には、前カム25のカム板部53が進入可能な逃げ凹部73が前後方向に形成されており、逃げ凹部73の底面に、後カム溝74が形成されている。この後カム溝74は、尖端を後側に向けて右側が左側よりも前方へ長くなる平面視ハート形状の後循環部75と、後循環部75の尖端から後方へ延びる後直線部76とからなる有底溝となっている。この後カム溝74に、後長孔47を貫通した後レバーピン39の前端が挿入して、後述するように後カム26の進退動に伴い後カム溝74内を相対移動するようになっている。
そして、後カム26の外周面にも、U字状の上面と、左右アーム71,72を除く左右の側面とに、複数のガイド突起77,77・・が前後方向に突設されている。
【0019】
後カム溝74も、図6(B)に示すように、後直線部76の後端を始端として前方に延び、後循環部75の後端を経て後循環部75の右側を前進し、後循環部75の右側前端を終端とする後点火押し込み経路80と、後点火押し込み経路80の終端を始端として斜め後方に延び、後循環部75の前側中央を終端とする後点火戻り経路81と、後点火戻り経路81の終端を始端として斜め前方に延び、後循環部75の左側前端を終端とする後消火押し込み経路82と、後消火押し込み経路82の終端を始端として後循環部75の左側を後退し、後循環部75の後端を経て後直線部76に入り、その後端を終端とする後消火戻り経路83とを有している。
【0020】
「後点火押し込み経路」
後点火押し込み経路80の底面は、同図下側に示すように、始端から後直線部76、後循環部75の後端から後循環部75右側の傾斜部分84までは平坦となっており、傾斜部分84から前方へ延びる直線部分85は、終端に向けて上り傾斜している。当該終端の手前には、当該終端が一段低くなる段部80aが形成されている。
後点火戻り経路81の底面は、始端から終端に向けて上り傾斜しており、当該後端の手前には、当該後端が一段低くなる段部81aが形成されている。
【0021】
後消火押し込み経路82の底面は、終端の手前まで平坦となっており、当該終端の手前には、当該終端が一段低くなる段部82aが形成されている。
後消火戻り経路83の底面は、始端から後循環部75の中間部(直線部分)までは平坦となっており、当該中間部から後循環部75の後端に向けて上り傾斜している。当該終端の手前には、当該後端が一段低くなる段部83aが形成されている。後直線部76から終端までは平坦である。
このように各経路の終端手前或いは経路の合流部分の手前に、段部80a,81a,82a,83aを形成したことで、後カム溝74内の後レバーピン39は、後点火押し込み経路80、後点火戻り経路81、後消火押し込み経路82、後消火戻り経路83の順に一方通行で相対移動することになる。
【0022】
ここでは前カム25が、仕切板31の前側でボックス本体27に収容されて、前カム25と仕切板31との間には、前カム25の前側ロッド51が挿入する前コイルバネ90が設けられる。よって、前カム25は、係止面52,52がボックス本体27のストッパ41,41に当接する前方位置と、カム板部53を除く後面が仕切板31に当接する後方位置との間で前後移動可能となる。
また、後カム26は、仕切板31の後側でボックス本体27に収容されて、後カム26とボックス本体27の閉塞板35との間には、後カム26の後側ロッド70が挿入する後コイルバネ91が設けられる。後コイルバネ91は、閉塞板35の前面でリング状突起37に後端が嵌合して保持される。よって、後カム26は、前面が仕切板31に当接する前方位置と、後側ロッド70が弁軸94を押し込んで後面がリング状突起37に近接する後方位置との間で前後移動可能となる。
【0023】
この状態でカバー28をボックス本体27に被せて下面を閉塞し、前レバーピン45の後端を前長孔48を介して前カム25の前カム溝54に挿入させ、後レバーピン39の前端を後長孔47を介して後カム26の後カム溝74に挿入させる。前カム25及び後カム26は、前コイルバネ90と後コイルバネ91とによってそれぞれ前方位置へ付勢されるが、後述するように、前レバーピン45による前カム溝54への係止と、後レバーピン39による後カム溝74への係止と、ボックス本体27内の仕切板31又はストッパ41との当接と、弁軸94との当接により、それぞれメカボックス24内で前後位置を変更することになる。このとき前カム25では、メカボックス24の内面に対して異なる摺動面となる上下面及び左右の側面に設けられたガイド突起58,58・・が、メカボックス24の内面に当接する。後カム26も、メカボックス24の内面に対して異なる摺動面となる上面及び左右の側面に設けられたガイド突起77,77・・が、メカボックス24の内面に当接する。
後カム26の左右アーム71,72は、ボックス本体27の切欠窓33,33を介してそれぞれ左右外方へ突出して、後カム26の進退動に伴い、基板スイッチ29及びイグナイタスイッチ30をON/OFFさせることになる。
【0024】
流路開閉部22は、下側にガス入口92を有して内部にガス流路が形成される筒状体で、後端には、ガス流路の上流側を開閉するマグネット電磁弁93が設けられて、ガス流路内には、ガス流路の下流側を開閉するメイン弁95(図2)を備えた弁軸94が進退動可能に収容されている。但し、弁軸94は、前方へ閉弁付勢されるマグネット電磁弁93によって、常態ではメイン弁95を閉弁する前進位置に付勢されている。流路開閉部22の前端には、弁軸94が突出する取付フランジ96が延設されて、ボックス本体27の閉塞板35に取付フランジ96をネジ止めすることで、閉塞板35の透孔36と取付フランジ96の開口97とが同軸で連通して、弁軸94がボックス本体27内に突出可能となっている。
【0025】
火力調整部23は、流路開閉部22のガス流路の出口と連通するガス流路を内部に有して前後方向に延び、前方上側に、コンロバーナ10へ繋がるガスパイプが接続されるガス出口100が形成されている。火力調整部23の上流側には、ガス流路を開閉する切替電磁弁101が設けられ、下流側でガス出口100より上流側には、軸方向への移動によってガス流路の開口面積を変更する火力調節ニードル102が設けられている。この火力調節ニードル102の前端には、ガイドピン103が上下方向に貫通し、このガイドピン103の上端が、火力調整部23の前端に設けたガイド板104の前後方向の長孔を貫通することで、火力調節ニードル102の回転が規制されている。
【0026】
メカボックス24のボックス本体27の上面には、火力調整板105が設けられている。この火力調整板105は、ボックス本体27の上面形状に合致する円弧状の底面を有して前後方向に延び、後部の上面には、ガイドピン103の下端が遊挿する螺旋溝106が形成され、下面には、ボックス本体27の突条42,42が嵌合する図示しない前後2つの凹溝が形成されている。火力調整板105の後端は、ボックス本体27に組み付けられる押さえ板107によって、ボックス本体27上で摺動可能に保持される。
また、火力調整板105の中間部分は、周方向の幅が前側へ向けて小さくなるテーパ部108(図8,9)に形成されて、前部は後部よりも幅狭となっている。前部の下面には、周方向に複数の歯109,109が形成されている。
【0027】
点消火ボタン15は、正面視が円形状で、前カム25の連結ロッド50へ回転可能に外装された中間筒110の前端に連結されることで、中間筒110を介して前カム25と一体に前後移動可能且つ別体で回転可能に連結される。中間筒110の後端には、後述する燃焼位置で火力調整板105の歯109,109が噛合する歯部111(図9)が周設されている。
また、中間軸110の後方で連結ロッド50には、中間筒110の後端を受ける回り止め部材112が設けられている。この回り止め部材112は、連結ロッド50に回転規制された状態で外装されるリング状で、上側に形成した円弧状空間に、火力調整板105の前端が遊挿することで、円弧状空間の両端に火力調整板105の前端が当接する範囲で点消火ボタン15の回転角度が規制される。さらに、点消火ボタン15を点火操作する際に、弱火又は強火位置にある火力調整板105のテーパ部108は、円弧状空間の両端の何れかに当接するようになっており、回り止め部材112との干渉により、火力調整板105は、円弧状空間の中央に位置する中火位置に常にガイドされることになる。
【0028】
[プッシュスイッチ機構における点消火動作]
以上の如く構成されたビルトインコンロ1のコンロ部3におけるプッシュスイッチ機構20において、点火から消火に至る動作を、図7図10に基づいて説明する。なお、各図(A)は図2と同じ上下の側面を示し、各図(B)は底面を示すと共に、カバー28を省略して後長孔47及び前長孔48のみを仮想線で示している。グリル部4におけるプッシュスイッチ機構20の動作も、上下バーナでそれぞれ設定される火力調整部の構成を除いてコンロ部3と同じである。
まず、点消火ボタン15を操作しない状態では、図7に示すように、前カム25は、前レバーピン45の後端が前長孔48を介して前カム溝54の前循環部56の前側中央(前点火押し込み経路60の始端(図6(A)の位置A))に係止することで、前コイルバネ90の付勢に抗して前方位置よりやや後方(初期位置)にある。後カム26は、後コイルバネ91の付勢により、仕切板31に当接する前方位置にある。このとき、後レバーピン39の前端は、後長孔47を介して後カム溝74の後直線部76内にあるが、後点火押し込み経路80の始端には位置せず、始端よりも前側(図6(B)の位置A)に位置している。
【0029】
この状態で、前カム25と前後動が一体の点消火ボタン15は、前面が器体2の前面(ここではフロントパネル7の前面で、ラインLで示す。)よりやや突出してラインLに沿った位置にある。ここでは前カム25のカム板部53が仕切板31より後方へ突出しているが、後カム26には逃げ凹部73が形成されているため、後カム26とは干渉せず、カム板部53は逃げ凹部73の底面に重合している。
また、この状態で、後カム26の後側ロッド70は、流路開閉部22の弁軸94から前方へ離間しているので、弁軸94は前進位置にあってマグネット電磁弁93及びメイン弁95は閉弁状態にある(消火位置)。また、後カム26の左右アーム71,72も基板スイッチ29及びイグナイタスイッチ30の各レバー29a,30aから前方へ離間している。
【0030】
ここから点消火ボタン15を押し込むと、図8に示すように、後退した前カム25の前側ロッド51が仕切板31の透孔32を貫通して後カム26に当接し、後カム26を後コイルバネ91の付勢に抗して後退させる。そして、後退した後カム26の後側ロッド70が弁軸94に当接して弁軸94を後退させてメイン弁95を開弁させ、後退した弁軸94がマグネット電磁弁93を強制的に開弁させた状態で押し込みが規制される(点火押切位置)。このとき、前レバーピン45の後端は、前カム25が後カム26に当接した時点では前循環部56の前点火押し込み経路60の途中(図6(A)の二点鎖線で示す位置A’)にあり、そこから前カム25の後退につれて前点火押し込み経路60内を移動して段部60aを越え(図6(A)の二点鎖線で示す位置A”)、前点火押し込み経路60の終端に達するが、前循環部56の左側前端には係止せず、やや後側(図6(A)の位置B)に位置している。
【0031】
一方、後レバーピン39の前端は、後カム26の後退と共に後循環部75の後点火押し込み経路80を移動して段部80aを越え(図6(B)の二点鎖線で示す位置A’)、後点火押し込み経路80の終端に達するが、後循環部75の右側前端には係止せず、やや後側(図6(B)の位置B)に位置している。
このように、後レバーピン39は、位置Aから位置Bまで後カム溝74に係止しないため、ヨレは生じない。また、後直線部76から後循環部75の傾斜部分84までは平坦面を通過するので、点火操作時の後レバーピン39の突っかかりが生じにくくなり、操作感が重くならない。さらに、傾斜部分84を平坦面としても、直線部分85では上り勾配となっているので、段部80aを形成するための厚みは確保できる。
【0032】
「消火位置から点火押切位置への前後レバーピンのストローク設定」
こうして点消火ボタン15が点火押切位置に押し込まれる際、前カム25の前側ロッド51が後カム26に当接するまで前カム25が両カム25,26間の遊び分後退することで、前レバーピン45の後端が位置Aから当該遊び分前方へ移動した位置をA’として、位置A’から点火時前側段部としての段部60aを越えた時点である位置A”まで移動した場合の前後方向での前側ストローク(前レバーピン45の中心間の移動距離)をS1とする。
一方、後レバーピン39が位置Aから、点火時後側段部としての段部80aを越えた時点である位置A’へ移動した場合の前後方向での後側ストローク(後レバーピン39の中心間の移動距離)をS2とすると、両ストロークの関係は、S1<S2となっている。つまり、消火位置から点火押切位置へ押し込まれる際には、前点火押し込み経路60を移動する前レバーピン45が、後点火押し込み経路80を移動する後レバーピン39が段部80aを越えるタイミングよりも先に段部60aを越えることになる。
【0033】
逆に言うと、前レバーピン45が段部60aを越えない限り、後レバーピン39も確実に段部80aを越えないことになるため、前レバーピン45が段部60aを越える前の中途半端な位置で点消火ボタン15から手を離して点火操作をやめた場合には、前後カム25,26はいずれも消火位置まで戻ることになる。よって、前カム25側で前レバーピン45が段部60aを乗り越えないまま、後カム26側で後レバーピン39が段部80aを乗り越えるおそれがなく、点消火ボタン15が消火位置に戻った状態でコンロバーナ10の燃焼が開始されるようなことは生じない。
【0034】
また、前カム25が後退する際、後方へ突出するカム板部53は、後カム溝74の逃げ凹部73の底面上を摺接するので、前カム25の後退がカム板部53を介して後カム26の逃げ凹部73にガイドされ、スムーズに移動できる。また、カム板部53が後カム溝74と干渉することはない。
さらに、前カム25及び後カム26の外周面には、前後方向にガイド突起58,77が形成されているので、メカボックス24内でこじれたりすることなくスムーズに前後移動できる。
【0035】
この点火押切位置では、マグネット電磁弁93と共にメイン弁95も開弁するため、流路開閉部22のガス流路内に燃料ガスが供給される。よって、火力調整部23を介してコンロバーナ10へ燃料ガスが供給される。これと同時に、後カム26の左アーム71が基板スイッチ29のレバー29aを、右アーム72がイグナイタスイッチ30のレバー30aをそれぞれ順番に押し込んで両スイッチ29,30をONさせるため、回路基板からなる図示しないコントローラからマグネット電磁弁93に通電されると共にイグナイタが作動して点火動作がなされる。
【0036】
次に、点火押切位置から点消火ボタン15の押し込みを解除すると、図9に示すように、前カム25は、前コイルバネ90の付勢により、係止面52,52がボックス本体27のストッパ41,41に係止する前方位置に移動する。この前進の際、前カム25の前側上部には凹部55が形成されているので、メカボックス24側の前ピン受け部44とは干渉しない。
この前カム25の前進と共に点消火ボタン15も前進して、フロントパネル7の前面Lよりも大きく前方へ突出する。このとき前レバーピン45の後端は、前点火戻り経路61を通って前循環部56から前直線部57に移動するが、前点火戻り経路61の終端には係止せず、やや前側(図6(A)の位置C)に位置している。このとき、前点火戻り経路61の底面は、前循環部56の後端の手前までの上り傾斜が僅かであるため、前レバーピン45の突っかかりが生じにくくなる。また、このように前点火戻り経路61の傾斜を小さくしても、前消火押し込み経路62の最深部64と合流しているので、その手前に段部61aを形成できる。
また、後カム26は、後コイルバネ91の付勢により、後レバーピン39の前端が後点火戻り経路81を通って後循環部75内を移動してその前側中央の終端(図6(B)の位置C)に係止することで前進が規制される。なお、後長孔47の前縁には、後レバーピン39の前端に軽係止する係止突部47a(図3,8)が形成されて、後レバーピン39が係止位置から不意に移動することを防止している。
【0037】
この状態で、流路開閉部22では、マグネット電磁弁93は通電によって開弁保持されているので、弁軸94は移動せず、メイン弁95も開弁した状態となって燃料ガスの供給は継続される(燃焼位置)。また、後カム26の左アーム71は基板スイッチ29のレバー29aを押し込んだ状態にあって基板スイッチ29のONを継続させ、右アーム72はイグナイタスイッチ30のレバー30aから離間してイグナイタスイッチ30をOFFさせる。
さらに、燃焼位置では、火力調整板105の歯109が中間筒110の歯部111と噛合するので、点消火ボタン15を回転させれば、中間筒110と噛合する火力調整板105をボックス本体27の上面で左右にスライドさせることができる。すると、螺旋溝106に案内されるガイドピン103を介して火力調整ニードル102が軸方向に移動するため、火力調整部23でのガス流路の開口面積を変更してコンロバーナ10の火力を調整することができる。逆に、燃焼位置以外の位置では、火力調整板105の歯109に中間筒110の歯部111が噛合しないので、点消火ボタン15を回転させても火力調整板105はスライドせず、火力調整ニードル102は移動しないことになる。
【0038】
そして、燃焼位置から点消火ボタン15を押し込むと、図10に示すように、前カム25は後退して、前レバーピン45の後端が前消火押し込み経路62を移動し、前直線部57から前循環部56内を通り、段部62aを越えて当該経路の終端である前循環部56の右側前端(図6(A)の位置D)に係止することで押し込みが規制される(消火押切位置)。この前カム25の押し込みにより、前側ロッド51に押圧されて後カム26も後退し、後レバーピン39の前端は、後消火押し込み経路82を移動して段部82aを越えるが(図6(B)の二点鎖線で示す位置C’)、終端である後循環部75の左側前端には係止せず、その後側(図6(B)の位置D)に位置している。
このときも前カム25が後退する際、カム板部53が、後カム溝74の逃げ凹部73の底面上に再び重なって当該底面上を摺接するので、前カム25の後退がカム板部53を介して後カム26の逃げ凹部73にガイドされ、スムーズに移動できる。
また、前カム25が前消火押し込み経路62を移動する際、始端からは下り傾斜する前直線部57を移動することになるので、押切初期における摺動抵抗が軽減され、操作感が軽くなる。特に、前消火押し込み経路62における前直線部57と前循環部56とに跨がる屈曲部分の角度αを大きくしているので、操作感の一層の軽減に繋がる。
【0039】
「燃焼位置から消火押切位置への前後レバーピンのストローク設定」
こうして点消火ボタン15が消火押切位置に押し込まれる際、前カム25の前側ロッド51が後カム26に当接するまで前カム25が両カム25,26間の遊び分後退することで、前レバーピン45の後端が位置Cから前方へ移動した位置をC’として、位置C’から消火時前側段部としての段部62aを越えた位置Dまで移動した場合の前後方向での前側ストローク(前レバーピン45の中心間の移動距離)をS3とする。
一方、後レバーピン25が位置Cから、後点火押し込み経路82を移動する途中で消火時後側段部としての段部82aを越えた時点を位置C’として、位置Cから位置C’まで移動した際の前後方向での後側ストローク(後レバーピン39の中心間の移動距離)をS4とすると、両ストロークの関係は、S3>S4となっている。つまり、燃焼位置から消火押切位置へ押し込まれる際には、後消火押し込み経路82を移動する後レバーピン39が、前消火押し込み経路62を移動する前レバーピン45が段部62aを越えるタイミングよりも先に段部82aを越えることになる。
【0040】
逆に言うと、後レバーピン39が段部82aを越えない限り、前レバーピン45も確実に段部62aを越えないことになるため、後レバーピン39が段部82aを越える前の中途半端な位置で点消火ボタン15から手を離して消火操作をやめた場合には、前後カム25,26はいずれも燃焼位置まで戻ることになる。よって、後カム26側で後レバーピン39が段部82aを乗り越えないまま、前カム25側で前レバーピン45が段部62aを乗り越えるおそれがなく、点消火ボタン15が消火位置に戻った状態でコンロバーナ10の燃焼が継続されるようなことは生じない。
【0041】
この消火押切位置で点消火ボタン15から手を離すと、前カム25は、前コイルバネ90の付勢により、前レバーピン45の後端が前消火戻り経路63の前循環部56内を移動して、当該経路の終端である前循環部56の前側中央に係止する図6(A)の位置Aに復帰する。後カム26も、仕切板31に当接すると共に、後レバーピン39の前端が後消火戻り経路83の後循環部75から後直線部76に移動する図6(A)の位置Aに復帰する。このときも後レバーピン39は位置Dから位置Aまで後カム溝74に係止しないため、ヨレは生じない。
この後カム26の前進により左アーム71が基板スイッチ29のレバー29aから離間して基板スイッチ29をOFFさせるため、コントローラはマグネット電磁弁93への通電を停止してマグネット電磁弁93を閉弁させる。これにより、流路開閉部22では弁軸94も前進してメイン弁95を閉弁させるため、燃料ガスの供給が停止してコンロバーナ10は消火する。
こうして前カム25と後カム26とが前進する際にも、ガイド突起58,77がメカボックス24の内面を摺動することで前後方向の姿勢が維持されるため、スムーズに前進できる。
【0042】
なお、上記ストロークS1<S2の設定により、点火操作の際、前カム25では前レバーピン45が段差60aを越え、後カム26では後レバーピン39が段差80aを越えないタイミングで点消火ボタン15から手を離すと、前カム25では前レバーピン45が位置Cまで達して点消火ボタン15が燃焼位置に突出するにもかかわらず、後カム26では後レバーピン39が位置Aに戻って消火位置のままとなる場合がある。
この状態で点消火ボタン15を再び押し込み操作すると、燃焼位置から後退する前カム25の前側ロッド51が後カム26に当接してそのまま後カム26を消火位置から後退させ、前レバーピン45の後端は位置Cから前消火押し込み経路62を、後レバーピン39の前端は位置Aから後点火押し込み経路80をそれぞれ相対移動することになる。
しかし、ここでは、後退した前カム25の前側ロッド51が消火位置の後カム26に当接した時点での前レバーピン45の位置(図6(A)に示す位置C”)から、段部62aを越えて位置Dまで達する前後方向の第2の前側ストロークとしての前側ストロークS5が、後カム26での後レバーピン39が位置Aから位置A’まで達する前後方向のストロークS2よりも小さく設定されているので、点消火ボタン15が一度消火押切位置まで押し込まれると、前カム25は前レバーピン45が位置Aとなる消火位置に戻り、後カム26は、後点火押し込み経路80内で後レバーピン39が再び位置Aに戻って消火位置が維持される。つまり、点火操作の際に前後カム25,26の位置に燃焼位置と消火位置との食い違いが生じても、点消火ボタン15の一度の押し込み操作で正常な状態に復帰できることになる。
【0043】
同様に、上記ストロークS3>S4の設定により、消火操作の際、後カム26では後レバーピン39が段差82aを越え、前カム25では前レバーピン45が段差62aを越えないタイミングで点消火ボタン15から手を離すと、後カム26では後レバーピン39が位置Aまで達して消火位置となるにもかかわらず、前カム26では前レバーピン45が位置Cに戻って燃焼位置のままとなる場合がある。
この状態で点消火ボタン15を再び押し込み操作すると、燃焼位置から後退する前カム25の前側ロッド51が後カム26に当接してそのまま後カム26を消火位置から後退させ、前レバーピン45の後端は位置Cから前消火押し込み経路62を、後レバーピン39の前端は位置Aから後点火押し込み経路80をそれぞれ相対移動することになる。
しかし、ここでは、ストロークS5<S2となっているので、点消火ボタン15が一度消火押切位置まで押し込まれると、前カム25は前レバーピン45が位置Aとなる消火位置に戻り、後カム26は、後点火押し込み経路80内で後レバーピン39が再び位置Aに戻って消火位置が維持される。つまり、消火操作の際に前後カム25,26の位置に燃焼位置と消火位置との食い違いが生じても、点消火ボタン15の一度の押し込み操作で正常な状態に復帰できることになる。
【0044】
[消火位置から点火押切位置への前後レバーピンのストローク設定に係る発明の効果]
このように、上記形態のビルトインコンロ1によれば、消火位置から点消火ボタン15が押し込み操作されて前カム25が後退し、後カム26に当接した際の前点火押し込み経路60内での前レバーピン45の挿入位置(図6(A)の位置A’)と、点火押切位置まで前カム25が後退する際に前点火押し込み経路60内で段部60aを越えた時点での前レバーピン45の挿入位置(同図の位置A”)との間の前後方向の前側ストロークS1よりも、消火位置における後点火押し込み経路80内での後レバーピン39の挿入位置(図6(B)の位置A)と、点火押切位置まで後カム26が後退する際に後点火押し込み経路80内で段部80aを越えた時点での後レバーピン39の挿入位置(同図の位置A’)との間の前後方向の後側ストロークS2の方が大きく設定されていることで、消火位置から点火押切位置へ押し込まれる際には、前点火押し込み経路60を移動する前レバーピン45が、後点火押し込み経路80を移動する後レバーピン39よりも先に段部60aを越えることになり、その後前カム25は確実に燃焼位置に移動して、点消火ボタン15をフロントパネル7の前面Lから突出させることができる。よって、前後カム25,26等の寸法誤差等にかかわらず、点消火ボタン15の押し込み操作に伴う前後カム25,26の燃焼位置を適正に保持することができる。
また、前レバーピン45が段部60aを越える前の中途半端な位置で点消火ボタン15から手を離して点火操作をやめた場合でも、前後カム25,26はいずれも消火位置まで戻ることになるため、点消火ボタン15が消火位置に戻った状態でコンロバーナ10の燃焼が開始されるようなことは生じない。
【0045】
特にここでは、燃焼位置から点消火ボタン15が押し込み操作されて前カム25が後退し、後カム26に当接した際の前消火押し込み経路62内での前レバーピン45の挿入位置(図6(A)の位置C”)と、消火押切位置まで前カム25が後退する際に前消火押し込み経路62内で段部62aを越えた時点での前レバーピン45の挿入位置(同図の位置D)との間の前後方向の前側ストロークS5を、後側ストロークS2よりも小さく設定しているので、点火操作の際の点消火ボタン15の中途半端な押し込み操作によって前後カム25,26の位置に燃焼位置と消火位置との食い違いが生じても、点消火ボタン15の一度の押し込み操作で正常な状態に復帰できる。
【0046】
[燃焼位置から消火押切位置への前後レバーピンのストローク設定に係る発明の効果]
このように、上記形態のビルトインコンロ1によれば、燃焼位置から点消火ボタン15が押し込み操作されて前カム25が後退し、後カム26に当接した際の前消火押し込み経路62内での前レバーピン45の挿入位置(図6(A)の位置C’)と、消火押切位置まで前カム25が後退する際に前消火押し込み経路62内で段部62aを越えた時点での前レバーピン45の挿入位置(同図の位置D)との間の前後方向の前側ストロークS3よりも、燃焼位置における後消火押し込み経路82内での後レバーピン39の挿入位置(図6(B)の位置C)と、消火押切位置まで後カム26が後退する際に後消火押し込み経路82内で段部82aを越えた時点での後レバーピン39の挿入位置(同図の位置C’)との間の前後方向の後側ストロークS4の方が小さく設定されていることで、燃焼位置から消火押切位置へ押し込まれる際には、後消火押し込み経路82を移動する後レバーピン39が、前消火押し込み経路62を移動する前レバーピン45よりも先に段部82aを越えることになり、その後、後カム26を確実に消火位置に移動させることができる。よって、前後カム25,26等の寸法誤差等にかかわらず、点消火ボタン15の押し込み操作に伴う前後カム25,26の消火位置を適正に保持することができ、消火操作後は後カム26によって基板スイッチ29をOFFさせて確実にコンロバーナ10を消火させることができる。
また、後レバーピン39が段部82aを越える前の中途半端な位置で点消火ボタン15から手を離して消火操作をやめた場合でも、前後カム25,26はいずれも燃焼位置まで戻ることになるため、点消火ボタン15が消火位置に戻った状態でコンロバーナ10の燃焼が継続されるようなことは生じない。
【0047】
特にここでは、燃焼位置から点消火ボタン15が押し込み操作されて前カム25が後退し、後カム26に当接した際の前消火押し込み経路62内での前レバーピン45の挿入位置(図6(A)の位置C”)と、消火押切位置まで前カム25が後退する際に前消火押し込み経路62内で段部62aを越えた時点での前レバーピン45の挿入位置(同図の位置D)との間の前後方向の前側ストロークS5を、後側ストロークS2よりも小さく設定しているので、消火操作の際に前後カム25,26の位置に燃焼位置と消火位置との食い違いが生じても、点消火ボタン15の一度の押し込み操作で正常な状態に復帰できる。
【0048】
[前消火押し込み経路に係る発明の効果]
このように、上記形態のビルトインコンロ1によれば、前カム25の前カム溝54には、前カム25が燃焼位置から消火押切位置まで後退する際に、前レバーピン45が相対移動する前消火押し込み経路62が形成されて、前消火押し込み経路62の始端を含む上流側の底面には、下流側へ行くに従って徐々に深くなる下り勾配が付与されているので、点消火ボタン15の消火操作時に前レバーピン45が前消火押し込み経路62を相対移動する際の摺動抵抗が低減される。よって、消火操作の際の操作感が軽くなって使い勝手が良好となる。
【0049】
特にここでは、前消火押し込み経路62における前直線部57と前循環部56とに跨がる屈曲部分の角度αを、前点火戻り経路61における前直線部57と前循環部56とに跨がる屈曲部分の角度βよりも大きくしているので、前レバーピン45が直線的に相対移動でき、消火操作時の操作感を一層軽くすることができる。
また、前消火押し込み経路62の底面は、中間部位が最深部64となり、そこから終端へ行くに従って徐々に浅くなる上り勾配が付与されて、最深部64で前点火戻り経路61と合流しているので、最深部64との間に段部61aを確実に形成でき、前点火戻り経路61の上り勾配の角度を小さくすることができる。よって、前点火戻り経路61内での前レバーピン45の突っかかりを好適に防止可能となる。
【0050】
なお、上記形態では、前消火押し込み経路の中間部位までの底面に下り勾配を付与しているが、少なくとも始端を含む底面であれば、中間部位を越えて下り勾配としてもよいし、経路全体を下り勾配としてもよい。
また、前消火押し込み経路の屈曲部分の角度は、前点火戻り経路の屈曲部分の角度と同じにすることもできる。
さらに、前点火戻り経路は、上り勾配でなく平坦な底面とすることも可能である。
そして、上記形態では、消火押し込み経路の底面に下り勾配を付与する発明を前カムにのみ適用しているが、後カム溝の形状によっては後カムにも適用して差し支えない。但し、本発明は、前後2つのカムを備えるカム機構部に限定するものではなく、1つのカムのみを備えるカム機構部であっても適用可能である。
【0051】
[後点火押し込み経路に係る発明の効果]
このように、上記形態のビルトインコンロ1によれば、後カム26の後カム溝74には、後点火押し込み経路80が形成されて、その直線部分85の底面には、点火押切位置へ行くに従って徐々に浅くなる上り勾配が付与される一方、傾斜部分84の底面は、平坦面となっているので、点消火ボタン15の点火操作時に後レバーピン39が後点火押し込み経路80を相対移動する際の摺動抵抗が低減されて後レバーピン39の突っかかりも生じにくくなる。よって、点火操作の際の操作感が軽くなって使い勝手が良好となる。また、点火操作時に突っかかりが生じにくい直線部分85には上り勾配を設けているため、段部80aを形成するための厚みを確保することができる。
【0052】
なお、上記形態では、後点火押し込み経路の傾斜部分の底面を平坦面としているが、直線部分より傾斜の小さい上り勾配としたり、下り勾配としたりしてもよい。
また、上記形態では、点火押し込み経路の直線部分の底面に上り勾配を付与して傾斜部分の底面を平坦面等とする発明を後カムにのみ適用しているが、前カム溝の形状によっては前カムにも適用して差し支えない。但し、本発明は、前後2つのカムを備えるカム機構部に限定するものではなく、1つのカムのみを備えるカム機構部であっても適用可能である。
【0053】
その他、各発明に共通して、カム機構部の2つのカムの形状や各カム溝の形状は上記形態に限らず、適宜変更可能で、例えば重合部となるカム板部を後カムに設けて前カムに対して摺接させることもできるし、カム溝のない重合部を設けることもできる。前後レバーピンや前後長孔の形状や位置も変更可能である。
また、ビルトインコンロの形態も上記説明に限らず、コンロ部が2口のものであってもよいし、ビルトインコンロに限らず、テーブルコンロ等の他のガス調理器具においても各発明は適用可能である。従って、グリル部等の他のプッシュスイッチ機構のカムに対しても各発明は適用できる。
【符号の説明】
【0054】
1・・ビルトインコンロ、2・・器体、3・・コンロ部、4・・グリル部、5・・本体、7・・フロントパネル、10・・コンロバーナ、15・・点消火ボタン、20・・プッシュスイッチ機構、21・・カム機構部、22・・流路開閉部、23・・火力調整部、24・メカボックス、25・・前カム、26・・後カム、27・・ボックス本体、29・・基板スイッチ、30・・イグナイタスイッチ、31・・仕切板、39・・後レバーピン、45・・前レバーピン、47・・後長孔、48・・前長孔、50・・連結ロッド、51・・前側ロッド、53・・カム板部、54・・前カム溝、56・・前循環部、57・・前直線部、58,77・・ガイド突起、60・・前点火押し込み経路、61・・前点火戻り経路、62・・前消火押し込み経路、63・・前消火戻り経路、64・・最深部、65・・右側部分、70・・後側ロッド、74・・後カム溝、75・・後循環部、76・・後直線部、80・・後点火押し込み経路、81・・後点火戻り経路、82・・後消火押し込み経路、83・・後消火戻り経路、84・・傾斜部分、85・・直線部分、90・・前コイルバネ、91・・後コイルバネ、92・・ガス入口、93・・マグネット電磁弁、94・・弁軸、95・・メイン弁、100・・ガス出口、L・・フロントパネルの前面、S1,S3,S5・・前側ストローク、S2,S4・・後側ストローク。
図1
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図10