(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6945273
(24)【登録日】2021年9月16日
(45)【発行日】2021年10月6日
(54)【発明の名称】毛髪用剤
(51)【国際特許分類】
A61K 8/97 20170101AFI20210927BHJP
A61Q 5/00 20060101ALI20210927BHJP
【FI】
A61K8/97
A61Q5/00
【請求項の数】7
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2015-244762(P2015-244762)
(22)【出願日】2015年12月16日
(65)【公開番号】特開2016-121134(P2016-121134A)
(43)【公開日】2016年7月7日
【審査請求日】2018年12月6日
【審判番号】不服2020-6814(P2020-6814/J1)
【審判請求日】2020年5月20日
(31)【優先権主張番号】特願2014-261851(P2014-261851)
(32)【優先日】2014年12月25日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002819
【氏名又は名称】大正製薬株式会社
(72)【発明者】
【氏名】新井 良平
(72)【発明者】
【氏名】井野口 友紀
【合議体】
【審判長】
岡崎 美穂
【審判官】
齋藤 恵
【審判官】
冨永 みどり
(56)【参考文献】
【文献】
特開2007−131571(JP,A)
【文献】
特開2003−171240(JP,A)
【文献】
特開2000−080029(JP,A)
【文献】
特開2000−086449(JP,A)
【文献】
特開2002−226331(JP,A)
【文献】
特開平5−043424(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K8/00- 8/99
A61Q1/00-90/0
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒバマタ又はそのエキスを有効成分とする、白髪予防又は改善剤。
【請求項2】
さらにオウバク又はそのエキスを含有する、請求項1に記載の白髪予防又は改善剤。
【請求項3】
さらに、発育毛物質を含有する、請求項1又は2に記載の白髪予防又は改善剤。
【請求項4】
皮膚外用である、請求項1〜3に記載の白髪予防又は改善剤。
【請求項5】
ヒバマタ又はそのエキスを有効成分とする、bFGF産生促進剤。
【請求項6】
さらにオウバク又はそのエキスを含有する、請求項5に記載のbFGF産生促進剤。
【請求項7】
bFGF産生促進効果を有することを特徴とし、bFGFの産生を促進するために用いるものである旨の表示をした、請求項5又は6に記載のbFGF産生促進剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加齢やストレス等により生じる白髪の予防又は改善剤、bFGF(塩基性線維芽細胞増殖因子、basic Fibroblast Growth Factor、FGF-2)産生促進剤に関する。
【背景技術】
【0002】
体毛の色素は毛球部に存在する色素細胞により産生され、この色素を供給された毛母細胞が体毛を形成することにより、色素を持った体毛が発生する。体毛が生え変わる際に毛球部は消失し、それに伴って毛球部の色素細胞も消失する。新たな毛周期が始まり、新たな体毛が生じる際には、バルジ領域に存在する色素幹細胞より色素細胞が供給されることにより、再び色素を持った体毛が生じる。加齢や種々のストレスが原因となって、色素幹細胞が減少又は枯渇したり、色素細胞の供給過程に問題が生じることで、適切に色素細胞の供給が行なわれないと、色素を持たない白髪が発生する。
白髪の対処法として、一般に染毛剤が用いられているが、継続的な染毛が必要である煩わしさや、その刺激性からの髪へのダメージ、また接触皮膚炎が生じるなど、必ずしも十分とはいえない。
【0003】
白髪の予防又は改善剤としては、色素細胞の色素合成に関わるチロシナーゼをはじめとする酵素を活性化する作用を指標として、数多くの物質が見出されている(特許文献1〜5、非特許文献1)。しかし、色素産生系を活性化しても、そもそも毛球部の色素細胞の数が不十分である場合等は、このような指標により見出された物質の効果はあまり期待できない。
【0004】
白髪を予防するためには、色素幹細胞の減少を防いだり、毛母への移行を促進したり、減少した毛母の色素細胞を増加させることが重要であると考えられる。bFGFは色素細胞系譜の細胞全般に対して、細胞増殖作用を示す因子として知られることから(非特許文献2)、毛球部の色素細胞やバルジ領域の色素幹細胞の減少を食い止め、また数を増やし、白髪予防又は改善に対して有効であると考えられる。実際に、bFGFを頭皮に適用することで白髪予防又は改善効果を発揮することが明らかにされている(特許文献 6)。さらに毛乳頭細胞に作用し、bFGFをはじめとする因子の毛乳頭細胞からの発現を促す物質は、白髪を予防及び改善することが明らかにされている(特許文献7)。毛球部の色素細胞やバルジ領域の色素幹細胞に作用させるためには、毛包を構成する種々の細胞とインタラクションし、毛包の司令塔といわれる、毛乳頭細胞におけるbFGFの産生を促すことが重要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許4433241
【特許文献2】特開2001-131032
【特許文献3】特許4921732
【特許文献4】特開2011-157317
【特許文献5】特開2002-47130
【特許文献6】特開平5-43424
【特許文献7】特開2003-171240
【特許文献8】特開2010-126475
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】松田英秋ら著「アンチエイジングシリーズ1 白髪・脱毛・育毛の実際」エヌ・ティー・エス、2005年7月4日、p.37-48
【非特許文献2】Hirobe T et al.,Life cycle of human melanocytes is regulated by endothelin-1 and stem cell factor in synergy with cyclic AMP and basic fibroblast growth factor, J Dermatol Sci, 57(2), 123-131, (2010)
【非特許文献3】Sasaki S et al.,Influence of prostaglandin F2alpha and its analogues on hair regrowth and follicular melanogenesis in a murine model, Exp Dermatol, 14(5), 323-328,(2005)
【非特許文献4】Bellandi S et al.,Repigmentation of hair after latanoprost therapy, J Eur Acad Dermatol Venereol, 25(12), 1485-1487,(2010)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、加齢やストレス等により生じる白髪を予防又は改善する手段を提供することである。本発明のもう一つの目的は、bFGFの産生を促す素材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで発明者らは鋭意検討した結果、ヒバマタが優れた白髪改善、または防止作用を有すると共に、その作用が非常に高いbFGF産生促進作用に起因することを見出し、本発明を完成するに至った。さらにこの作用は、オウバクと組み合わせると増強することも見出した。
【0009】
すなわち、本発明は、
(1)ヒバマタ又はそのエキスを有効成分とする、白髪予防又は改善剤、
(2)さらにオウバク又はそのエキスを含有する、(1)に記載の白髪予防又は改善剤、
(3)さらに、発育毛物質を含有する、(1)又は(2)に記載の白髪予防又は改善剤、
(4)皮膚外用である、(1)〜(3)に記載の白髪予防又は改善剤、
(5)ヒバマタ又はそのエキスを有効成分とする、bFGF産生促進剤、
(6)さらにオウバク又はそのエキスを含有する、(5)に記載のbFGF産生促進剤、
(7)bFGF産生促進効果を有することを特徴とし、bFGFの産生を促進するために用いるものである旨の表示をした、(6)に記載のbFGF産生促進剤、
である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の白髪予防又は改善剤は、毛乳頭細胞に対しbFGFの産生を促すことで、加齢やストレス等により生じる白髪の発生を予防し又は改善することができる。また、bFGFの産生を促進し得る新規な素材を提供することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、試験例1におけるbFGF相対発現量を示すグラフである。なお、図中、ヒバマタBは1,3−ブチレングリコールと水の混液によるヒバマタエキスであり、ヒバマタE:エタノールと水の混液によるヒバマタエキスである。
【
図2】
図2は、試験例1におけるbFGF相対発現量を示すグラフである。なお、図中、オウバクBは1,3−ブチレングリコールと水の混液によるオウバクエキスである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に用いるヒバマタ(学名Fucus vesiculosus)は、ヒバマタ目ヒバマタ科ヒバマタ属に属する褐藻である。また、本発明に用いるオウバクはムクロジ目ミカン科キハダ属キハダ(学名Phellodendron amurense)又はその他同属植物の周皮を除いた樹皮に由来する生薬である。ヒバマタ及びオウバクは、生薬末、生薬エキスの形で使用される。本発明に用いる生薬末としては、例えば乾燥刻み加工品を更に細かく粉砕した粉末状の乾燥品としてもよい。
【0013】
本発明に用いるヒバマタエキスは、水、低級脂肪族アルコール(メタノール、エタノール、イソプロピルアルコールなど)、多価アルコール(プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、グリセリン、ジプロピレングリコールなど)、低級脂肪族ケトン(アセトンなど)などの溶媒により抽出したものを使用することができるが、エタノールと水の混液、または多価アルコールと水の混液で抽出することが好ましく、1,3−ブチレングリコールと水の混液が最も好ましい。水と1,3−ブチレングリコールからなる溶媒で抽出する場合、溶媒中における1,3−ブチレングリコールの含有量は、30〜70体積%が好ましい。
【0014】
本発明に用いるオウバクエキスは、水、低級脂肪族アルコール(メタノール、エタノール、イソプロピルアルコールなど)、多価アルコール(プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、グリセリン、ジプロピレングリコールなど)、低級脂肪族ケトン(アセトンなど)などの溶媒により抽出したものを使用することができるが、多価アルコール(1,3−ブチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、グリセリン)を含有する溶媒により抽出したものが好ましい。多価アルコールに加えて、水、低級脂肪族アルコール(メタノール、エタノール、イソプロピルアルコールなど)、低級脂肪族ケトン(アセトンなど)などを含有していても良く、このうち多価アルコールと水からなる混液で抽出することが最も好ましい。多価アルコールとしては、好ましくは1,3−ブチレングリコール、またはプロピレングリコールが挙げられるが、1,3−ブチレングリコールが最も好ましい。水と1,3−ブチレングリコールからなる溶媒で抽出する場合、溶媒中における1,3−ブチレングリコールの含有量は、30〜70体積%が好ましい。
【0015】
また、エキスの形態は特に制限されるものではなく、加熱処理、凍結乾燥あるいは減圧乾燥などの処理により、乾燥エキス末、エキス末、軟エキス、流エキスなどにすることができる。
【0016】
本発明の白髪予防又は改善剤は、化粧品、医薬部外品、医薬品又は飲食品等として提供することができる。その他、試薬として用いることも可能である。投与形態としては、特に限定されるものではないが、外用や内服が挙げられ、好ましくは頭皮を含む皮膚に適用する外用である。本発明を外用で適用する場合の剤形としては、例えば、ローション剤、液剤、クリーム剤、軟膏剤、ゲル剤、スプレー剤、シャンプー、コンディショナー、石鹸等が挙げられ、内服で適用する場合の剤形としては、錠剤、粉末剤、散剤、顆粒剤、液剤、カプセル剤、ドライシロップ剤、ゼリー剤、液状食品、半固形食品、固形食品等が挙げられる。これらは、公知の方法で製造することができる。製造に際しては、本発明の効果を損なわない範囲で、化粧品、医薬部外品、医薬品、飲食品又は試薬に含有可能な種々の添加物を配合することができる。
【0017】
さらに本発明の白髪予防又は改善剤は、センブリエキス、ニンジンエキス、トウガラシチンキ、ショウキョウチンキ、ビワ葉エキス、グリチルレチン酸、グリチルリチン酸ジカリウム、グリチルリチン酸モノアンモニウム、パントテン酸、パンテノール、ビタミンE及びその誘導体、ヒノキチオール、サリチル酸、ピロクトンオラミン、ミノキシジル、アデノシン、t-フラバノン、サイトプリン、ペンタデカン酸グリセリド、アラントイン、ニコチン酸アミドをはじめとした発育毛物質と組み合わせて使用することもできる。組み合わせることにより、毛の産生が早まり、早期に白髪予防又は改善効果を得ることができる。
【0018】
本発明のヒバマタ又はそのエキス、もしくはオウバク又はそのエキスの配合量は、化粧品、医薬部外品、医薬品、飲食品又は試薬で提供する場合、組成物全体に対して0.000001〜10質量%、好ましくは0.0001〜5質量%、より好ましくは0.001〜1質量%である。
【0019】
また、本発明のbFGF産生促進剤を含む製品(医薬品、医薬部外品、化粧品、飲食品、又は試薬)又はその説明書は、bFGF産生を促進するために用いられる旨の表示を付したものである。ここで、「製品またはその説明書に表示を付した」とは、製品の本体、容器、包装などに表示を付したこと、あるいは製品の情報を開示する説明書、添付文書、宣伝物、申請資料、その他の印刷物又は広告などに表示を付したことを意味する。また、これら表示においては、bFGF産生の促進に起因する疾患や症状の予防又は治療のために用いられることに関する情報を含むことができる。
【実施例】
【0020】
以下に実施例および試験例を挙げ、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されない。
【0021】
(試験例1)ヒト毛乳頭細胞に対するbFGF産生促進作用の評価
<試験方法>
ヒト毛乳頭細胞は2×10
4細胞/mLの密度で播種し、2日間、37℃、CO
2 5%にセットしたインキュベーター内で予備培養した。培地には、12%FBS及び規定量のペニシリン・ストレプトマイシンを含むEarle’s MEMを用いた。予備培養後、PBSにて細胞表面を洗浄した後、無血清Earle’s MEMに交換した。さらに1日間培養した後、被験物質または対照物質を添加して24時間培養した。その後、培地を吸引除去し、ライセートバッファーを添加して細胞を溶解し、細胞溶解液を回収した。細胞溶解液より、RNeasy Mini Kit(キアゲン)を用いて添付のプロトコールに従いRNAを回収し、これを鋳型として、Prime Script RT Master mix(タカラバイオ)を用いた逆転写反応によりcDNAを合成した。合成したcDNAを用いてリアルタイムPCRシステム(Step One Plus、アプライドバイオシステムズ)により、GAPDH及びbFGFそれぞれのmRNAの発現量を測定し、bFGF発現量をGAPDH発現量により補正した。プライマー・プローブとしては、TaqMan Gene Expression Assays(GAPDH: Hs99999905_m1、bFGF: Hs00266645_m1、アプライドバイオシステムズ)を用いた。なお、被験物質としては、1,3−ブチレングリコール50体積%と水50体積%の混液により抽出したヒバマタエキス(ヒバマタB)、エタノール10体積%と水90体積%の混液により抽出したヒバマタエキス(ヒバマタE)、及び1,3−ブチレングリコール50体積%と水50体積%の混液により抽出したオウバクエキス(オウバクB)を用いた。
【0022】
<試験結果>
図1は、ヒバマタ単独のbFGF産生促進効果を評価した結果である。コントロール群のbFGF相対発現量を1としたときの各群のbFGF相対発現量を示す。1,3−ブチレングリコールと水の混液により抽出したヒバマタエキス(ヒバマタB)は、3〜10μg/mLの濃度において、対照群と比較して有意に毛乳頭細胞におけるbFGFの発現量を上昇させた。プロスタグランジンF
2α及びその誘導体には白髪予防又は改善作用があることが知られるが(特許文献8、非特許文献3、4)、ヒバマタエキスによるbFGF産生促進効果は、プロスタグランジンF
2α 10μM(本試験系で最大の作用を示す濃度)を上回った。なお、エタノールと水の混液により抽出したヒバマタエキス(ヒバマタE)においても同様の作用が認められた。ただし、その作用は1,3−ブチレングリコールと水の混液により抽出したヒバマタエキスよりは弱かった。
以上の結果から、ヒバマタは毛乳頭細胞におけるbFGF産生を促進する効果を有することが明らかとなったので、本作用に基づき、ヒバマタは白髪の予防又は改善効果を有することが示された。
図2は、ヒバマタエキスとオウバクエキスと組み合わせた場合のbFGF産生促進効果を評価した結果である。ヒバマタ、オウバクともに単独でbFGF産生促進効果を示すが、これらを組み合わせることで、その作用は相乗的に促進された。
よって、ヒバマタとオウバクを組み合わせると、白髪予防又は改善効果が増強することが示された。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明のヒバマタは又はそのエキスは、bFGF産生促進作用を有するため、加齢やストレス等により生じる白髪の予防又は改善用の化粧品、医薬部外品、医薬品又は飲食品の分野に利用可能である。また、本発明のbFGF産生促進剤は、素材スクリーニング等を行なうに際し、陽性対照薬としても用いることができる。