特許第6945282号(P6945282)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6945282不快臭の消臭方法、並びに、加工食品の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6945282
(24)【登録日】2021年9月16日
(45)【発行日】2021年10月6日
(54)【発明の名称】不快臭の消臭方法、並びに、加工食品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 5/20 20160101AFI20210927BHJP
   A23L 13/00 20160101ALI20210927BHJP
   A23L 27/24 20160101ALI20210927BHJP
   A23L 17/00 20160101ALI20210927BHJP
   C12G 3/08 20060101ALI20210927BHJP
【FI】
   A23L5/20
   A23L13/00 A
   A23L27/24
   A23L17/00 A
   C12G3/08
【請求項の数】8
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2016-140576(P2016-140576)
(22)【出願日】2016年7月15日
(65)【公開番号】特開2018-7643(P2018-7643A)
(43)【公開日】2018年1月18日
【審査請求日】2019年5月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】302026508
【氏名又は名称】宝酒造株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100480
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100135839
【弁理士】
【氏名又は名称】大南 匡史
(72)【発明者】
【氏名】松本 ふう香
(72)【発明者】
【氏名】畑 千嘉子
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼倉 裕
(72)【発明者】
【氏名】井上 隆之
【審査官】 小金井 悟
(56)【参考文献】
【文献】 韓国登録特許第10−0802908(KR,B1)
【文献】 特開2006−081461(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第102851170(CN,A)
【文献】 中国特許出願公開第101455362(CN,A)
【文献】 特開2005−261419(JP,A)
【文献】 J. Brew. Soc. Japan,2003年,Vol.98, No.12,pp.861-868
【文献】 油化学,1980年,Vol.29, No.7,pp.469-488
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12G 1/00− 3/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
食材の不快臭の消臭方法であって、
原料の少なくとも一部にクローブを用いて蒸留した蒸留酒類であって、アルコール濃度25v/v%換算で、オイゲノール含量が50〜3000mg/Lである蒸留酒類を用いるものであり、
前記蒸留酒類を前記食材に接触させ、加熱する工程を含み、
前記食材の脂質酸化臭を抑制するものであることを特徴とする不快臭の消臭方法。
【請求項2】
前記蒸留酒類における、DPPHラジカル消去活性を指標として測定された抗酸化能が、Trolox当量で30〜2500μmol/100mLであることを特徴とする請求項1に記載の不快臭の消臭方法。
【請求項3】
前記蒸留酒類が、焼酎又はスピリッツであることを特徴とする請求項1又は2に記載の不快臭の消臭方法。
【請求項4】
前記蒸留酒類は、減圧蒸留されたものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の不快臭の消臭方法。
【請求項5】
食材の不快臭の消臭方法であって、
請求項1〜4のいずれかで定義された蒸留酒類を含有する発酵調味料を用いるものであり、
前記発酵調味料を前記食材に接触させ、加熱する工程を含み、
前記食材の脂質酸化臭を抑制するものであることを特徴とする不快臭の消臭方法。
【請求項6】
前記食材が、畜肉又は魚介類であることを特徴とする請求項1〜のいずれかに記載の不快臭の消臭方法。
【請求項7】
請求項1〜4のいずれかで定義された蒸留酒類、又は請求項で定義された発酵調味料を食材に接触させることによって、前記食材の脂質酸化臭が抑えられた加工食品を得ることを特徴とする加工食品の製造方法。
【請求項8】
前記食材は、畜肉又は魚介類であることを特徴とする請求項に記載の加工食品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸留酒類、清酒、みりん、発酵調味料、食材の処理方法、不快臭の消臭方法、並びに、加工食品の製造方法に関する。さらに詳細には、本発明は、特定量のオイゲノールを含有する蒸留酒類、該蒸留酒類を含有する清酒又はみりん、該蒸留酒類、清酒又はみりんを含有する発酵調味料、該蒸留酒類、清酒、みりん又は発酵調味料を食材に接触させる食材の処理方法、該処理方法を利用する不快臭の消臭方法、並びに、該蒸留酒類、清酒、みりん又は発酵調味料で食材を処理する加工食品の製造方法に関する。本発明の蒸留酒類、清酒、みりん又は発酵調味料は、特定量のオイゲノールを含有し、食材の不快臭の消臭に有用なものである。
【背景技術】
【0002】
クローブ(Clove)は、フトモモ科の植物であるチョウジノキの開花前の花蕾を乾燥させた香辛料であり、非常に強い香気を有している。クローブは丁子(ちょうじ)とも呼ばれている。クローブは古くから着香料として食品に使用されたり、肉の臭み消しなどの矯臭に使用されたりしている。クローブには刺激的な臭いや苦味、雑味があり、使いすぎには注意が必要とされている。またクローブ精油にはオイゲノールが含まれていることが知られている。
【0003】
オイゲノールは、グアイアコールにアリル基が置換したフェニルプロパノイドの一種であり、分子式C1012で示されるCAS登録番号97−53−0の物質である。オイゲノールは、天然には、クローブの他に、オールスパイス、バジル、シナモン、ナツメグ等に含まれる。オイゲノールの性質については広く研究されており、例えば、その抗酸化能が挙げられる(非特許文献1)。
【0004】
酒類分野における、香辛料の利用技術としては、例えば、特許文献1〜4に開示されたものがある。特許文献1には、香辛料を、酒精濃度10v/v%以上の酒精含有溶液で抽出する工程、水で抽出する工程の各工程を任意の順序で1回以上行う工程、及び全抽出液を混合する工程を経て得られる、香辛料の抽出物を含有する酒精含有調味料が開示されている。
特許文献2には、原材料として生あるいは冷凍の果実、香辛野菜類を含む野菜、特に芳香成分に富む果皮を用い、これらの原材料を40〜100%のアルコールに浸漬して芳香成分を抽出した後、減圧蒸留してなる、フレッシュで雑味の少ない新規な蒸留酒が開示されている。
特許文献3には、アルコール分8〜20%のもろみに対し、茶葉類(玉露、煎茶、番茶等の緑茶、ほうじ茶、紅茶やウーロン茶など)、シソ、わさび、あるいはミントやローズマリーなどのハーブ類など特徴ある香りを有する植物の葉を重量比1〜20%添加し、熟成したもろみを気液向流接触装置に導入してカラム内の温度40〜80℃、ストリップ比10〜30%の条件で処理させた焼酎が開示されている。
特許文献4には、薬味料を磨砕する磨砕工程と、前工程で磨砕した薬味料をアルコール濃度10〜75v/v%の酒精含有溶液に接触させて、薬味料の抽出液を調製する抽出工程と、前工程で調製した薬味料の抽出液を蒸留する蒸留工程とを含む方法によって得られ、薬味料の抽出物を含有し、最終製品のアルコール濃度が1〜60v/v%である料理用酒類が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−103815号公報
【特許文献2】特開2002−125653号公報
【特許文献3】特開2007−60962号公報
【特許文献4】特開2009−213410号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】K.SRINIVASAN,「Antioxidant Potential of Spices and Their Active Constituents」,Critical Reviews in Food Science and Nutrition,2014年,第54巻,p.352−372
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、酒類や調味料の分野において、香料としてのオイゲノールやオイゲノールの抗酸化能に着目した商品設計はあまりされておらず、高いオイゲノール含量を有する酒類や調味料については十分検討されていない。そこで本発明は、オイゲノールを含有する新規の酒類とその用途を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、食材の不快臭の消臭効果に優れ、かつ従来品とは異なる特性を有する蒸留酒類を提供すべく鋭意検討を行った。その結果、原料の少なくとも一部にクローブを用い、発酵醪又は酒類に対してクローブを添加して蒸留することにより、特定量のオイゲノールを含有し、食材の不快臭の消臭効果に優れた蒸留酒類を得ることに成功した。さらに、この蒸留酒類を用いて、食材の不快臭の消臭効果に優れた清酒、みりん、及び発酵調味料を得ることに成功した。
【0009】
上記した知見に基づいて提供される関連の発明は、原料の少なくとも一部にクローブを用いた蒸留酒類であって、アルコール濃度25v/v%換算で、オイゲノール含量が50〜3000mg/Lであることを特徴とする蒸留酒類である。
【0010】
本発明の蒸留酒類は、原料の少なくとも一部にクローブを用いた蒸留酒類であり、かつ特定量のオイゲノールを含有する。本発明の蒸留酒類は、クローブ特有の臭いや苦味、雑味もなく、調理の際に生成する脂質酸化臭の生成を抑制することができ、食材の不快臭の消臭効果が高い。
【0011】
ここで、「アルコール濃度」とは、エチルアルコール(エタノール)の濃度をいう。すなわち、本明細書において「アルコール」と記載した場合は、特に断らない限りエチルアルコール(エタノール)を指す。
【0012】
ここで「蒸留酒類」とは酒税法上の蒸留酒類であり、焼酎、スピリッツ等が例として挙げられる。焼酎、スピリッツの原料に特に限定はなく、また、発酵方法、蒸留方法にも特に限定は無い。焼酎には、甲類焼酎(連続式蒸留焼酎)と乙類焼酎(単式蒸留焼酎)の両方が含まれる。
【0013】
関連の発明は、DPPHラジカル消去活性を指標として測定された抗酸化能が、Trolox当量で30〜2500μmol/100mLであることを特徴とする上記の蒸留酒類である。
【0014】
DPPHラジカル消去活性とは、1,1−ジフェニル−2−ピクリルヒドラジル(1,1−Diphenyl−2−Picrylhydrazyl;以下「DPPH」と略記する)ラジカル消去活性のことを指す。DPPHラジカル消去活性を指標とする抗酸化能の測定方法は、抗酸化物質と反応してDPPHが退色することを利用し、その退色の度合いにより抗酸化力の評価を行う方法である。本方法では、その値が大きいほど抗酸化能が高いことを示す。
【0015】
そして本発明の蒸留酒類は、DPPHラジカル消去活性を指標として測定された抗酸化能が、Trolox当量で30〜2500μmol/100mLである。かかる構成により、本発明の蒸留酒類は、高い抗酸化能を有し、調理の際に生成する脂質酸化臭の生成を抑制することができ、食材の不快臭の消臭効果が特に高いものとなる。
【0016】
関連の発明は、蒸留酒類が、焼酎又はスピリッツである上記の蒸留酒類である。
【0017】
かかる構成により、特定量のオイゲノールを含有し、クローブ特有の臭いや苦味、雑味もなく、調理の際に生成する脂質酸化臭の生成を抑制することができ、食材の不快臭の消臭効果が高い焼酎又はスピリッツが提供される。
【0018】
関連の発明は、上記の蒸留酒類を含有することを特徴とする清酒である。
【0019】
関連の発明は、上記の蒸留酒類を含有することを特徴とするみりんである。
【0020】
本発明の清酒又はみりんは、原料の少なくとも一部にクローブを用いた上記の蒸留酒類を含有するものである。かかる構成により、特定量のオイゲノールを含有し、クローブ特有の臭いや苦味、雑味もなく、調理の際に生成する脂質酸化臭の生成を抑制することができ、食材の不快臭の消臭効果が高い清酒又はみりんが提供される。
【0021】
本発明における「清酒」とは、酒税法でいう醸造酒類の中の清酒のことであり、例えば以下に掲げる酒類でアルコール分が22度(22v/v%)未満のものである。
(1)米、米こうじ及び水を原料として発酵させて、こしたもの。
(2)米、米こうじ、水及び清酒かすその他政令で定める物品を原料として発酵させて、こしたもの。但し、その原料中当該政令で定める物品の重量の合計が米(こうじ米を含む)の重量の100分の50を超えないものに限る。
(3)清酒に清酒かすを加えて、こしたもの。
【0022】
本発明における「みりん」とは、酒税法でいう混成酒類の中のみりんのことであり、例えば以下に掲げる酒類でアルコール分が15度(15v/v%)未満のもの(エキス分が40度以上のものその他政令で定めるものに限る。)である。
(1)米及び米こうじにしょうちゅう又はアルコールを加えて、こしたもの。
(2)米、米こうじ及びしょうちゅう又はアルコールにみりんその他政令で定める物品を加えて、こしたもの。
(3)みりんにしょうちゅう又はアルコールを加えたもの。
(4)みりんにみりんかすを加えて、こしたもの。
【0023】
関連の発明は、上記の蒸留酒類、上記の清酒、又は上記のみりんを含有することを特徴とする発酵調味料である。
【0024】
本発明の発酵調味料は、原料の少なくとも一部にクローブを用いた上記の蒸留酒類、清酒、又はみりんを含有するものである。かかる構成により、特定量のオイゲノールを含有し、クローブ特有の臭いや苦味、雑味もなく、調理の際に生成する脂質酸化臭の生成を抑制することができ、食材の不快臭の消臭効果が高い発酵調味料が提供される。
【0025】
関連の発明は、上記の蒸留酒類、上記の清酒、上記のみりん、又は上記の発酵調味料を食材に接触させ、加熱する工程を含むことを特徴とする食材の処理方法である。
【0026】
本発明は食材の処理方法に係るものであり、上記した本発明の蒸留酒類、清酒、みりん又は発酵調味料を食材に接触させ、加熱する工程を含む。本発明では、特定量のオイゲノールを含有し、食材の不快臭の消臭効果が高い蒸留酒類、清酒、みりん又は発酵調味料を用いるので、少量の使用で食材の不快臭を消臭することができる。
【0027】
関連の発明は、上記の食材の処理方法によって食材を処理し、前記食材の不快臭を消臭することを特徴とする不快臭の消臭方法である。
【0028】
また関連の発明は、前記食材が、畜肉又は魚介類であることを特徴とする上記の不快臭の消臭方法である。
【0029】
本発明の不快臭の消臭方法は、上記した本発明の蒸留酒類、清酒、みりん又は発酵調味料によって畜肉、魚介類等の食材を処理し、これらの食材から発生する不快臭を消臭するものである。本発明によれば、食材の不快臭を効率的に消臭することができる。
【0030】
関連の発明は、上記の蒸留酒類、上記の清酒、上記のみりん、又は上記の発酵調味料を食材に接触させることによって加工食品を得ることを特徴とする加工食品の製造方法である。
【0031】
本発明は加工食品の製造方法に係るものであり、上記した本発明の蒸留酒類、清酒、みりん又は発酵調味料を食材に接触させることによって加工食品を得るものである。本発明によれば、不快臭が極めて少ない高品質の加工食品が提供される。
【0032】
前記食材が、畜肉又は魚介類である構成が推奨される。
【0033】
請求項1に記載の発明は、食材の不快臭の消臭方法であって、原料の少なくとも一部にクローブを用いて蒸留した蒸留酒類であって、アルコール濃度25v/v%換算で、オイゲノール含量が50〜3000mg/Lである蒸留酒類を用いるものであり、前記蒸留酒類を前記食材に接触させ、加熱する工程を含み、前記食材の脂質酸化臭を抑制するものであることを特徴とする不快臭の消臭方法である。
【0034】
請求項2に記載の発明は、前記蒸留酒類における、DPPHラジカル消去活性を指標として測定された抗酸化能が、Trolox当量で30〜2500μmol/100mLであることを特徴とする請求項1に記載の不快臭の消臭方法である。
【0035】
請求項3に記載の発明は、前記蒸留酒類が、焼酎又はスピリッツであることを特徴とする請求項1又は2に記載の不快臭の消臭方法である。
【0036】
請求項4に記載の発明は、前記蒸留酒類は、減圧蒸留されたものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の不快臭の消臭方法である。
【0037】
請求項に記載の発明は、食材の不快臭の消臭方法であって、請求項1〜4のいずれかで定義された蒸留酒類を含有する発酵調味料を用いるものであり、前記発酵調味料を前記食材に接触させ、加熱する工程を含み、前記食材の脂質酸化臭を抑制するものであることを特徴とする不快臭の消臭方法である。
【0038】
請求項に記載の発明は、前記食材が、畜肉又は魚介類であることを特徴とする請求項1〜のいずれかに記載の不快臭の消臭方法である。
【0039】
請求項に記載の発明は、請求項1〜4のいずれかで定義された蒸留酒類、又は請求項で定義された発酵調味料を食材に接触させることによって、前記食材の脂質酸化臭が抑えられた加工食品を得ることを特徴とする加工食品の製造方法である。
【0040】
請求項に記載の発明は、前記食材は、畜肉又は魚介類であることを特徴とする請求項に記載の加工食品の製造方法である。
【発明の効果】
【0041】
本発明の蒸留酒類及び発酵調味料は、特定量のオイゲノールを含有し、クローブ特有の臭いや苦味、雑味もなく、高い抗酸化能を有し、調理の際に生成する脂質酸化臭の生成を抑制することができ、食材の不快臭の消臭効果を備えている。
【0042】
本発明の食材の処理方法によれば、畜肉や魚介類といった食材を加熱調理した際に発生する不快臭を効率的に消臭することができる。
【0043】
本発明の不快臭の消臭方法によれば、畜肉や魚介類といった食材を加熱調理した際に発生する不快臭を効率的に消臭することができる。
【0044】
本発明の加工食品の製造方法によれば、不快臭が極めて少ない高品質の加工食品が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0045】
以下、本発明を実施するための形態について具体的に説明する。なお、本明細書においては、特に断らない限り、オイゲノール含量の値は全てアルコール濃度25v/v%換算での値である。また前述したように、ここで「アルコール濃度」とはエチルアルコール(エタノール)の濃度をいう。すなわち、本明細書において「アルコール」と記載した場合は、特に断らない限りエチルアルコール(エタノール)を指す。
【0046】
本発明の蒸留酒類は、原料の少なくとも一部にクローブを用いたものであり、かつアルコール濃度25v/v%換算で、オイゲノール含量が50〜3000mg/Lのものである。
【0047】
原料として用いるクローブの形態としては特に限定されず、乾燥品、冷蔵品、冷凍品等のいずれでもよい。また必要に応じて、細断、粉砕、磨砕などの処理を行ってもよい。
【0048】
本発明の蒸留酒類におけるオイゲノール含量は、50〜3000mg/L(アルコール濃度25v/v%換算)である。オイゲノール含量は、好ましくは100〜2500mg/L、より好ましくは200〜2000mg/Lである。
オイゲノール含量が50mg/L未満であると食材の不快臭の消臭効果が十分得られない。また、オイゲノール含量が3000mg/L超であると、消毒臭さが立ち、食材へ悪影響を与えるおそれがある。
【0049】
好ましい実施形態では、上記蒸留酒類における、DPPHラジカル消去活性を指標として測定された抗酸化能が、Trolox当量で30〜2500μmol/100mLである。上記抗酸化能は、好ましくは60〜2000μmol/100mL、より好ましくは120〜1500μmol/100mLである。上記抗酸化能が高いほど、特に、調理の際に生成する脂質酸化臭の生成を効率的に抑制することができる。
【0050】
DPPHは、他の物質を酸化する能力を持っているときは紫色を示すが、他の物質を酸化する能力がなくなると紫色を失う性質を持つ。DPPHラジカル消去活性は、そのDPPHの性質を利用した比色法により測定される。このように、DPPHラジカル消去活性は、抗酸化物質と反応してDPPHが退色することを利用し、その退色の度合いにより抗酸化力の評価を行う方法であり、その値が大きいほど抗酸化能が高いことを示す。
【0051】
上述したように、本発明でいう「蒸留酒類」とは、酒税法上の蒸留酒類であり、焼酎、スピリッツ等が例として挙げられる。焼酎、スピリッツの原料に特に限定はなく、また、発酵方法、蒸留方法にも特に限定は無い。焼酎には、甲類焼酎(連続式蒸留焼酎)と乙類焼酎(単式蒸留焼酎)の両方が含まれる。
【0052】
ここで、本発明の蒸留酒類を製造する方法について、焼酎を例として説明する。焼酎を製造する方法については特に限定はなく、焼酎の一般的な製法を基礎として行うことができる。一般に、焼酎の製造工程は、原料処理、仕込、発酵(糖化・発酵)、蒸留工程及び精製工程よりなる。なお、原料処理には、製麹工程、原料液化、液化・糖化工程も含むものとする。通常、焼酎の製造において、一次醪は穀類麹を水と混合して仕込み、酵母を添加して増殖させて得ることができる。次に、得られた一次醪に、例えば蒸きょうした掛原料を添加して二次醪とする。
【0053】
蒸留工程についても特に限定はなく、通常の焼酎の製造で採用されている方法をそのまま適用することができる。例えば、甲類焼酎(連続式蒸留焼酎)を得るための連続蒸留法、乙類焼酎(単式蒸留焼酎)を得るための単式蒸留法のいずれもが採用可能である。また、醪を通常の大気圧下で蒸留する常圧蒸留法、真空ポンプで醪を大気圧より低くして蒸留する減圧蒸留法のいずれもが採用可能である。
【0054】
本発明の蒸留酒類は、例えば、クローブを含有させた発酵醪又は酒類を蒸留することによって製造することができる。例えば、発酵醪(例えば、二次醪)又は酒類にクローブを添加し、これを蒸留することにより製造することができる。ここで、クローブが添加される「酒類」としては特に限定はないが、例えば清酒、合成清酒、ビール、ワイン、みりん等の醸造酒;焼酎、ウイスキー、ウォッカ、ラム、ジン、スピリッツ等の蒸留酒;雑酒;リキュール、等を単独又は組み合わせて用いることができる。
発酵醪又は酒類に対するクローブの添加量としては、発酵醪又は酒類中におけるクローブ含量が、例えば0.1〜50w/v%、好ましくは0.1〜30w/v%、より好ましくは0.1〜20w/v%となるよう添加すればよい。原料の少なくとも一部にクローブを用い、発酵醪又は酒類に対してクローブを添加して蒸留し、アルコール濃度25v/v%換算で、オイゲノール含量が3000mg/Lである蒸留酒類を製造できることは確認済みである。
【0055】
上記したように、原料の一部にクローブを用いて蒸留することを経て、最終的に蒸留酒類、例えば焼酎が得られる。その焼酎を用いて、酒税法で定義された醸造酒類の1つである清酒を製造することができる。すなわち本発明は、上記の蒸留酒類を含有することを特徴とする清酒を包含する。例えば、米、米こうじ、水及び本発明の蒸留酒類を原料として用い、新たな清酒を製造することができる。
【0056】
上述したように、本発明における「清酒」とは、酒税法でいう醸造酒類の中の清酒のことであり、例えば以下に掲げる酒類でアルコール分が22度(22v/v%)未満のものである。
(1)米、米こうじ及び水を原料として発酵させて、こしたもの。
(2)米、米こうじ、水及び清酒かすその他政令で定める物品を原料として発酵させて、こしたもの。但し、その原料中当該政令で定める物品の重量の合計が米(こうじ米を含む)の重量の100分の50を超えないものに限る。
(3)清酒に清酒かすを加えて、こしたもの。
【0057】
清酒の製造方法は、酒税法に則った清酒の製造方法であれば特に限定はない。一般に、清酒の製造工程は、原料処理、仕込、糖化・発酵、上槽、精製の各工程よりなり、さらに清酒の精製は、活性炭処理・ろ過、火入れ、貯蔵、おり下げ・ろ過、調合・割水、火入れ等の工程よりなる。清酒醸造の原料の一般的処理は、精白、洗浄、浸漬、水切り、蒸きょう(蒸煮)、放冷の工程があるが、前記した原料処理は、掛原料の液化及び/又は糖化並びに麹原料の処理、製麹工程も含んでいる。
【0058】
また、原料の一部にクローブを用いて蒸留して得られた蒸留酒類、例えば焼酎を用いて、酒税法で定義された混成酒類の1つである「みりん」を製造することができる。すなわち本発明は、上記の蒸留酒類を含有することを特徴とするみりんを包含する。例えば、米及び米こうじに本発明の蒸留酒類を加えて、新たなみりんを製造することができる。
【0059】
本発明における「みりん」とは、酒税法でいう混成酒類の中のみりんのことであり、例えば以下に掲げる酒類でアルコール分が15度(15v/v%)未満のもの(エキス分が40度以上のものその他政令で定めるものに限る。)である。
(1)米及び米こうじにしょうちゅう又はアルコールを加えて、こしたもの。
(2)米、米こうじ及びしょうちゅう又はアルコールにみりんその他政令で定める物品を加えて、こしたもの。
(3)みりんにしょうちゅう又はアルコールを加えたもの。
(4)みりんにみりんかすを加えて、こしたもの。
【0060】
みりんの製造方法は、酒税法に則ったみりんの製造方法であれば特に限定はない。一般的なみりんの製造方法は、まず、搗精、洗米等の原料処理を行い、麹などを添加して仕込醪となし、糖化・熟成する。次に、糖化・熟成を終えた醪を圧搾機で上槽して搾汁液と粕に分離する。最後に、得られた搾汁液に対して精製工程で火入れし、滓下げして清澄な製品みりんとなる。ここでいう原料処理には、精白、洗米、浸漬、水切り、蒸煮、放冷の各工程があるが、更に掛原料の液化及び/又は糖化工程も含んでいる。原料として、米、米麹、醸造用アルコール又は焼酎以外に、デンプン部分加水分解物を使用してもよい。また、必要に応じて酵素製剤を掛原料の処理の液化及び/又は糖化工程並びに醪へ添加してもよい。
【0061】
さらに本発明は、上記の蒸留酒類、清酒又はみりんを含有することを特徴とする発酵調味料を包含する。例えば、本発明の蒸留酒類、清酒又はみりんを、酒類の不可飲処置による免税措置に基づいた発酵調味料とすることができる。
一般的なみりんタイプの発酵調味料の製造方法は、まず、掛原料、麹、酵母を添加して醪とし、食塩を添加して糖化・発酵を行い、更に米麹、糖質原料を添加して熟成させ、圧搾ろ過して搾汁液と粕を得る。そして、この搾汁液、又は搾汁液を精製して発酵調味料を得る。
本発明の発酵調味料において、蒸留酒類、清酒、及びみりんについては、いずれか1つを含有していてもよいし、2つ以上を含有していてもよい。
【0062】
本発明の蒸留酒類、清酒、みりん、発酵調味料の形態としては特に限定はなく、液状だけでなく、例えば、粉末状、顆粒状、錠剤状、乳液状、ペースト状等に調製してもよい。必要に応じて、食塩などを添加することもできる。
【0063】
本発明の食材の処理方法は、本発明の蒸留酒類、清酒、みりん、又は発酵調味料を食材に接触させ、加熱する工程を含むことを特徴とする。また本発明の不快臭の消臭方法は、前記の食材の処理方法によって食材を処理し、これらの食材から発生する不快臭を消臭するものである。食材としては特に限定はないが、例えば、畜肉、魚介類が挙げられる。
本発明の食材の処理方法と不快臭の消臭方法において、蒸留酒類、清酒、みりん、及び発酵調味料については、いずれか1つを用いてもよいし、2つ以上を組み合わせて用いてもよい。
【0064】
蒸留酒類、清酒、みりん、又は発酵調味料を接触させる方法としては浸漬が代表的であるが、塗布あるいは噴霧によって接触させてもよい。本発明の食材の処理方法を畜肉又は魚介類に適用する場合の、本発明の蒸留酒類、清酒、みりん、又は発酵調味料の畜肉又は魚介類への使用量に特に限定はなく、例えば使用する蒸留酒類等のオイゲノール含量に応じて適宜設定すればよい。なお、蒸留酒類、清酒、みりん、又は発酵調味料の使用量が多いほど不快臭の消臭の顕著な効果を示す。
【0065】
前述のように、本発明の食材の処理方法の対象となる食材は、畜肉又は魚介類が代表的である。畜肉は、食用できる肉であれば特に限定はなく、例えば獣肉類では、牛、豚、馬、羊、山羊、鹿、猪、熊などが挙げられ、鳥肉類では、鶏、アヒル、七面鳥、雉、鴨などが挙げられる。同様に、魚介類は、食用できる魚介類であれば特に限定はなく、魚類及び貝類などの水中にすむ水産動物が例として挙げられる。さらに、エビ、カニなどの節足動物、イカ、タコなどの軟体動物、クラゲなどの腔腸動物、ウニ、ナマコなどの棘皮動物、ホヤなどの原索動物なども対象となる。
【0066】
本発明の加工食品の製造方法は、本発明の蒸留酒類、清酒、みりん、又は発酵調味料を食材に接触させることによって、加工食品を得ることを特徴とする。この場合の蒸留酒類、清酒、みりん、又は発酵調味料の使用量についても特に限定はなく、例えば使用する蒸留酒類等のオイゲノール含量に応じて適宜設定すればよい。好ましい実施形態では、当該食材が畜肉又は魚介類である。畜肉、魚介類の例としては、上記で挙げたものと同じものが挙げられる。
本発明の加工食品の製造方法において、蒸留酒類、清酒、みりん、及び発酵調味料については、いずれか1つを用いてもよいし、2つ以上を組み合わせて用いてもよい。
【0067】
なお、本発明において、食材の不快臭の消臭効果のメカニズムとしては、抗酸化能を有するオイゲノールとその類縁体であるイソオイゲノールが、畜肉又は魚介類に共通する脂質酸化臭の生成を抑制することによるものと推察している。原料の少なくとも一部にクローブを用いた蒸留酒類が、例えば畜肉の臭み成分として知られる脂質酸化臭成分、ヘキサナール、オクタナール、2,3−オクタジエン、ノネナール、1−オクテン−3−オール等の生成を抑制していることは確認済みである。
【0068】
以下に、実施例をもって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0069】
市販のクローブ粉末40gに95v/v%発酵アルコール42mL、水158mLを加え、常温で1時間攪拌抽出後、40℃の条件下、エバポレーターで減圧濃縮し、アルコール濃度29.9v/v%の留液120mLを得た(実施例1)。なお、エバポレーターでの減圧濃縮は、減圧蒸留と同等の効果を有するものである。上記留液は蒸留酒類に相当する。
一方、クローブ粉末40gに95v/v%発酵アルコール42mL、水158mLを加え、常温で1時間攪拌抽出し、ろ過して、アルコール濃度19.9v/v%のアルコール抽出液204mLを得た(比較例1)。
【0070】
比較例1のアルコール抽出液では、茶褐色を呈し、クローブ由来の苦味、雑味があったが、実施例1の留液(蒸留酒類)では、無色透明で、クローブ由来の苦味、雑味は全く感じられなかった。すなわち、実施例1の留液は調理に適した品質となっていた。
【実施例2】
【0071】
クローブ粉末20gに、95v/v%発酵アルコール36mL、水164mLを加え、常温で48時間攪拌抽出後、40℃の条件下、エバポレーターで減圧濃縮し、アルコール濃度29.0v/v%の留液120mLを得た。得られた留液のオイゲノール含量を測定した。オイゲノールの分析は、キャピラリーカラムDB−WAX(J&W社製)を接続したガスクロマトグラフ7890A(アジレント・テクノロジー社製)に質量検出器5975C(アジレント・テクノロジー社製)を連結したもので、常法通り行った。
その結果、得られた留液のオイゲノール含量は1200mg/L(アルコール濃度未換算)であった。アルコール濃度25v/v%換算では、オイゲノール含量は1034.5mg/Lとなった。
以下、得られた留液をクローブ留液という。
【0072】
畜肉のうち牛肉の不快臭の消臭について検討を行った。
オーストラリア産牛肉60gに、クローブ留液1.2mLを加え、冷蔵保管後、230℃、3分間の加熱を行い、牛肉の加工食品を得た(実施例2)。対照は、クローブ留液の代わりにアルコール濃度29.0v/v%のアルコール水溶液を用いて、同様に加熱したものとした(比較例2)。実施例2と比較例2の牛肉の加工食品について、熟練したパネラー7名により、不快臭の官能評価試験を行った。評価方法は、比較例2と比べて、5点:消臭されている、4点:やや消臭されている、3点:比較例2と同じ、2点:やや臭いがする、1点:臭いがする、とした。結果を表1に示す。
【0073】
【表1】
【0074】
この結果より、クローブ留液を用いて牛肉を加熱調理すると、牛肉の臭みが抑制されることがわかった。
【実施例3】
【0075】
牛肉ひき肉90gと実施例2のクローブ留液13.5gを混ぜ合わせ、10分間蒸し、牛肉団子を得た(実施例3)。対照は、クローブ留液の代わりに、アルコール濃度29.0v/v%のアルコール水溶液を用いて、同様に加熱したものとした(比較例3)。調理後の牛肉団子をGC/MS分析に供し、牛肉の臭み成分であるヘキサナールの消臭率を算出したところ、69.4%であった。なお、ヘキサナールの消臭率は、比較例3におけるヘキサナールのクロマトグラムのピーク面積値に対する、実施例2のクローブ留液を用いた実施例3におけるヘキサナールのクロマトグラムのピーク面積値の減少率として算出した。
以上より、クローブ留液を用いて牛肉を加熱調理すると、牛肉の臭み成分であるヘキサナールが大きく減少することがわかった。
【実施例4】
【0076】
畜肉のうち豚肉の不快臭の消臭について検討を行った。
実施例2のクローブ留液を用い、メキシコ産豚肉60gに、実施例2と同様の方法により、豚肉の加工食品を得た(実施例4)。対照は、クローブ留液の代わりにアルコール濃度29.0v/v%のアルコール水溶液を用いて、同様に加熱したものとした(比較例4)。実施例4と比較例4の牛肉の加工食品について、実施例2と同様の方法により不快臭の官能評価試験を行った。結果を表2に示す。
【0077】
【表2】
【0078】
この結果より、クローブ留液を用いて豚肉を加熱調理すると、豚肉の臭みが抑制されることがわかった。
【実施例5】
【0079】
実施例2のクローブ留液と豚肉ひき肉を用いて、実施例3と同様の方法により、豚肉団子を得た(実施例5)。対照は、クローブ留液の代わりに、アルコール濃度29.0v/v%のアルコール水溶液を用いて、同様に加熱したものとした(比較例5)。実施例3と同様の方法により、GC/MS分析に供した。ヘキサナール、オクタナール、2,3−オクタジエン、ノネナール、1−オクテン−3−オールのクロマトグラムの消臭率を表3に示す。なお、消臭率は、比較例5における各成分のクロマトグラムのピーク面積値に対する、実施例2のクローブ留液を用いた実施例5における各成分のクロマトグラムのピーク面積値の減少率として算出した。
【0080】
【表3】
【0081】
この結果より、クローブ留液を用いて豚肉を加熱調理すると、豚肉の脂質酸化臭成分であるヘキサナール、オクタナール、2,3−オクタジエン、ノネナール、1−オクテン−3−オールが減少することがわかった。
【実施例6】
【0082】
畜肉のうち羊肉(マトン)の不快臭の消臭について検討を行った。
羊肉60gに、実施例2のクローブ留液4.8mLを加え、実施例2と同様の方法により、羊肉の加工食品を得た(実施例6)。なお、加熱時間は4分間とした。対照は、クローブ留液の代わりにアルコール濃度29.0v/v%のアルコール水溶液を用いて、同様に加熱したものとした(比較例6)。実施例6と比較例6の羊肉の加工食品について、実施例2と同様の方法により不快臭の官能評価試験を行った。結果を表4に示す。
【0083】
【表4】
【0084】
この結果より、クローブ留液を用いて羊肉を加熱調理すると、羊肉の臭みが抑制されることがわかった。
【実施例7】
【0085】
実施例2のクローブ留液と羊肉ひき肉を用いて、実施例3と同様の方法により、羊肉団子を得た(実施例7)。対照は、クローブ留液の代わりに、アルコール濃度29.0v/v%のアルコール水溶液を用いて、同様に加熱したものとした(比較例7)。実施例3と同様の方法により、GC/MS分析に供した。その結果、実施例7では、ヘキサナール、オクタナール、2,3−オクタジエン、ノネナール、1−オクテン−3−オールのクロマトグラムのピーク面積値が、比較例7よりも大きく減少していることを確認した。すなわち、クローブ留液を用いて羊肉を加熱調理すると、羊肉の脂質酸化臭成分であるヘキサナール、オクタナール、2,3−オクタジエン、ノネナール、1−オクテン−3−オールが減少することがわかった。
【実施例8】
【0086】
実施例2のクローブ留液を水で20倍に希釈し、オイゲノール含量が51.7mg/Lである蒸留酒類を得た。得られた蒸留酒類200mLを、豚レバー100gに加え、7分間煮込み、豚レバーの加工食品を得た(実施例8)。対照は、蒸留酒類の代わりにアルコール濃度1.45v/v%のアルコール水溶液を用いて、同様に調理したものとした(比較例8)。実施例8と比較例8の豚レバーの加工食品について、熟練したパネラー9名により、レバー特有の不快臭の官能評価試験を行った。その結果、9名中9名が、比較例8より実施例8の方が不快臭が消臭されており、また食感もよいと回答した。
【実施例9】
【0087】
常法によって製造された麦焼酎発酵醪、米焼酎発酵醪に対してクローブ粉末を1w/v%となるように添加して、20℃で2日間発酵させた後、真空度(圧力)8.00×10−3MPaで単式減圧蒸留を行い、醪900mLに対し、蒸留液480mLを回収した。麦焼酎発酵醪の蒸留液はアルコール濃度が32.2v/v%であり、オイゲノール含量が1600mg/L(アルコール濃度未換算)であった。また、米焼酎発酵醪の蒸留液はアルコール濃度が32.8v/v%であり、オイゲノール含量が1620mg/L(アルコール濃度未換算)であった。これらの焼酎をもとにアルコール濃度12.9v/v%の焼酎を得た。得られた各焼酎のオイゲノール含量は、麦焼酎発酵醪で製造した焼酎では315mg/L(アルコール濃度未換算。アルコール濃度25v/v%換算で610mg/L。実施例9−1)、米焼酎発酵醪で製造した焼酎では320mg/L(アルコール濃度未換算。アルコール濃度25v/v%換算で620mg/L。実施例9−2)であった。
【0088】
タイ産鶏肉60gに、実施例9−1と実施例9−2の各焼酎3.0mLを加え、冷蔵保管後、230℃、10分間の加熱を行い、鶏肉の加工食品を得た(実施例9−1、実施例9−2の加工食品)。対照は、各焼酎の代わりにアルコール濃度12.9v/v%のアルコール水溶液を用いて、同様に加熱したものとした(比較例9−1、比較例9−2の加工食品)。実施例9−1、実施例9−2と比較例9−1、比較例9−2の鶏肉の加工食品について、実施例2と同様の方法により不快臭の官能評価試験を行った。その結果、9名中9名が、比較例9−1より実施例9−1の方が、また比較例9−1より実施例9−1の方が、不快臭が消臭されていると回答した。
【実施例10】
【0089】
実施例2のクローブ留液のDPPHラジカル消去活性(抗酸化能)を比色法により測定した。
DPPHラジカル消去活性の測定方法は、下記の通りである。
数段階に希釈したサンプル800μLに、0.5Mトリス−塩酸緩衝液(pH7.4)200μL、及びエタノールに溶解した500μMDPPH1mLを加え、50℃で20分間暗下で反応させた後、517nmの吸光度を測定した。ブランクは、サンプルの代りに水を加えた。
ラジカル消去率は、次式より求めた。
ラジカル消去率(%)=〔(ブランク吸光度−サンプル吸光度)/ブランク吸光度〕×100
各希釈サンプルのラジカル消去率から、50%のDPPHラジカル消去率を示すサンプルの濃度をIC50として算出した。ビタミンEの安定な同族体であるTroloxのIC50と比較し、サンプル100mL当りのDPPHラジカル消去活性をTrolox当量(単位:μmol)として示した。
その結果、実施例2のクローブ留液のDPPHラジカル消去活性は782μmol/100mLであった。
【実施例11】
【0090】
クローブ粉末を15w/v%となるように添加する以外は実施例2と同様の方法でクローブ留液を得た(実施例11)。得られたクローブ留液とオイゲノールのDPPHラジカル消去活性(抗酸化能)を、実施例10と同様にして比色法により測定した。比較例としてL−アスコルビン酸1000mg/Lの抗酸化能を同様に測定した。
【0091】
その結果、オイゲノールはL−アスコルビン酸よりやや高い抗酸化能を有していた。そして、実施例11のクローブ留液の抗酸化能は1140μmol/100mLであり、L−アスコルビン酸1000mg/Lに対して、約1.8倍の抗酸化能を有していた。