(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6945301
(24)【登録日】2021年9月16日
(45)【発行日】2021年10月6日
(54)【発明の名称】HPVおよび関連する疾病のための免疫増強治療ワクチン
(51)【国際特許分類】
C07K 19/00 20060101AFI20210927BHJP
A61K 35/76 20150101ALI20210927BHJP
A61K 35/761 20150101ALI20210927BHJP
A61K 39/00 20060101ALI20210927BHJP
A61K 39/39 20060101ALI20210927BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20210927BHJP
A61P 31/12 20060101ALI20210927BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20210927BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20210927BHJP
C07K 14/025 20060101ALI20210927BHJP
C12N 7/01 20060101ALI20210927BHJP
C12N 15/37 20060101ALI20210927BHJP
【FI】
C07K19/00
A61K35/76
A61K35/761
A61K39/00 H
A61K39/39
A61K45/00
A61P31/12
A61P35/00
A61P37/04
C07K14/025
C12N7/01
C12N15/37ZNA
【請求項の数】12
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2016-546446(P2016-546446)
(86)(22)【出願日】2015年1月15日
(65)【公表番号】特表2017-507918(P2017-507918A)
(43)【公表日】2017年3月23日
(86)【国際出願番号】CN2015070789
(87)【国際公開番号】WO2015106697
(87)【国際公開日】20150723
【審査請求日】2017年9月7日
【審判番号】不服2019-9612(P2019-9612/J1)
【審判請求日】2019年7月19日
(31)【優先権主張番号】201410017909.8
(32)【優先日】2014年1月15日
(33)【優先権主張国】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】519125210
【氏名又は名称】上海勉亦生物科技有限公司
【氏名又は名称原語表記】MYGT Biopharmaceutical LLC
(74)【代理人】
【識別番号】110002158
【氏名又は名称】特許業務法人上野特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】辺 涛
(72)【発明者】
【氏名】李 娟
(72)【発明者】
【氏名】肖 嘯
【合議体】
【審判長】
長井 啓子
【審判官】
高堀 栄二
【審判官】
安居 拓哉
(56)【参考文献】
【文献】
特表2004−500047(JP,A)
【文献】
特表平6−505626(JP,A)
【文献】
特表2004−531253(JP,A)
【文献】
中国特許出願公開第101280316(CN,A)
【文献】
特表2006−501825(JP,A)
【文献】
特表2001−513986(JP,A)
【文献】
Virology(2013)Vol.445,No.1−2,p.115−137
【文献】
Virology(1995)Vol.212,No.2,p.535−542
【文献】
J.Virol.(1999)Vol.73,No.9,p.7297−7307
【文献】
Vaccine,Vol.14, No.16(1996),p.1485−1494
【文献】
Immunologic Resarch,Vol. 47, No.1−3(2010),p.86−112
【文献】
Gynecologic Oncology,Vol.107(2007),p.404−412
【文献】
Vaccine,vol.23(2005),p.2909−2921
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K14/00-19/00
C12N15/00-15/37
CA/BIOSIS/WPIDS(STN)
PubMed
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトパピローマウイルス(HPV)16型のE6タンパク質と、
HPV16型のE7タンパク質と、
HPV18型のE6タンパク質と、
HPV18型のE7タンパク質と、
免疫増強因子であるアジュバントタンパク質と、を含み、
HPV16型のE6タンパク質におけるE121G変異、
HPV16型のE6タンパク質におけるK122G変異、
HPV18型のE6タンパク質におけるE116G変異、
HPV18型のE6タンパク質におけるK117G変異、
よりなる群から選択される1つ以上の変異を有する融合抗原をコードする核酸を含む発現カセット、および免疫刺激剤をコードする核酸を含む発現カセットを含み、
前記免疫増強因子のアジュバントタンパク質は、原核生物または哺乳類由来の熱ショックタンパク質であって、
前記免疫刺激剤は、顆粒球・マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)、またはインターロイキン、またはインターフェロン、またはケモカインであることを特徴とする組換え遺伝子発現ベクター。
【請求項2】
前記免疫増強因子のアジュバントタンパク質は、結核菌由来の熱ショックタンパク質であることを特徴とする請求項1に記載の組換え遺伝子発現ベクター。
【請求項3】
前記免疫刺激剤は、顆粒球・マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)であることを特徴とする請求項1または2に記載の組換え遺伝子発現ベクター。
【請求項4】
SEQ ID No.3で表現されるヌクレオチド配列を有するDNAフラグメントを含むことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の組換え遺伝子発現ベクター。
【請求項5】
組換えアデノウイルスベクター、または組換えアデノ随伴ウイルスベクター、または組換えレトロウイルスベクター、または組換えレンチウイルスベクター、または組換えヘルペスウイルスベクター、または組換えワクシニアベクター、または組換えセンダイウイルスベクターであることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の組換え遺伝子発現ベクター。
【請求項6】
裸DNAベクター、ナノ粒子、ポリマー、リポソームよりなる群から選択される非ウイルスベクターであることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の組換え遺伝子発現ベクター。
【請求項7】
治療効果を有する量の請求項1から6のいずれか1項に記載の組換え遺伝子発現ベクターを含む、HPV感染に誘起される疾病を治療するための医薬製剤。
【請求項8】
ヒトパピローマウイルス(HPV)16型のE6タンパク質と、
HPV16型のE7タンパク質と、
HPV18型のE6タンパク質と、
HPV18型のE7タンパク質と、
免疫増強因子であるアジュバントタンパク質と、を含み、
HPV16型のE6タンパク質におけるE121G変異、
HPV16型のE6タンパク質におけるK122G変異、
HPV18型のE6タンパク質におけるE116G変異、
HPV18型のE6タンパク質におけるK117G変異、
よりなる群から選択される1つ以上の変異を有する融合抗原と、
免疫刺激剤とを含み、
前記免疫増強因子のアジュバントタンパク質は、原核生物または哺乳類由来の熱ショックタンパク質であって、
前記免疫刺激剤は、顆粒球・マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)、またはインターロイキン、またはインターフェロン、またはケモカインであることを特徴とする医薬製剤。
【請求項9】
前記免疫刺激剤は、顆粒球・マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)であることを特徴とする請求項8に記載の医薬製剤。
【請求項10】
請求項1から6のいずれか1項に記載の組換え遺伝子発現ベクターを含むことを特徴とする組換えアデノウイルス。
【請求項11】
HPV感染によって誘起される疾病を治療するための医薬品の製造に用いる、請求項1から6のいずれか1項に記載の組換え遺伝子発現ベクター、または請求項7から9のいずれか1項に記載の医薬製剤、または請求項10に記載のアデノウイルスの使用方法。
【請求項12】
前記HPV感染によって誘起される疾病は、HPV慢性感染に関連する疾病であり、好ましくは、子宮頸癌、陰茎癌、肛門癌、咽頭癌、口腔癌、頭および首の癌、子宮頸部前癌病変、子宮頸部過形成であることを特徴とする請求項11に記載の使用方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワクチンの分野に関し、具体的には、ヒトパピローマウイルス(HPV)持続感染、子宮頸癌や、その他HPV持続感染によって誘起される病変のための治療ワクチンに関する。さらに具体的には、免疫増強剤を含んだHPVのための治療ワクチンに関する。
【背景技術】
【0002】
子宮頸癌は、全世界で、女性における発生率が2番目に多い癌であり、毎年約274,000人の患者がその疾病で死亡している。全ての子宮頸癌において、HPV感染が検出される。加えて、肛門や陰茎の癌、一部の口腔癌、咽頭癌も、HPV感染に関連している。現在までのところ、2種の予防ワクチンが市場に投入されているが、それらは既に起こってしまったHPV感染を治療するのには効果を有さず、病変の悪性度の進行を阻止するのにはなおさら効果を有さない。そして、HPVに感染している患者の人口は既に非常に多いと推定される。その結果、子宮頸癌の発生率の減少を実質的に達成するためには、少なくとも20年間、大規模な予防ワクチンの接種が必要となる可能性がある。多くの人々がHPVに感染し、子宮頸癌あるいは前癌病変にまで進行している可能性があることに鑑みると、それらの細胞や既に感染している癌細胞を除去する目的の治療ワクチンの開発が、緊急に必要である。HPV E6およびE7タンパク質は、HPVウイルスに運搬される2つの発癌遺伝子にコードされる癌タンパク質であり、自家性でなく外来性のタンパク抗原に属し、前癌病変から子宮頸癌の発生に至るまで、安定に発現し続ける。そのため、免疫療法の理想的な標的である。ウイルス、ポリペプチド、タンパク質、DNAの各組換え型ワクチンに関する研究を含め、多数の臨床研究において、これら2つの癌タンパク質を標的とすることが試みられてきた。これらの治療ワクチンは優れた安全性を示し、一部の患者において病変の減退および生存期間の延長が見られる。さらに、ワクチン接種に誘起されるT細胞免疫の程度が、治療法の治療効果に関連している可能性があることが、研究によって示されている。しかしながら、一部の臨床研究には既に展望があるものの、持続感染を完全に治癒し、癌を除去する目的のためには、特定の抗原に対する抗腫瘍性T細胞免疫応答を十分に誘起するための新しい戦略が、依然として必要である。
【0003】
熱ショックタンパク質(HSP)は、細胞機能を調整し、免疫応答を増強するのに効果を有しうる。熱ショックタンパク質は、第一に、タンパク質の輸送および配置、フォールディングを補助する「シャペロン」として機能する。第二に、自己の抗原提示細胞(APC)を活性化することができる。HSP70は、マクロファージのレセプターに結合することができ、それによって効果的に免疫応答を誘起する。SGN−00101は、HPV16型のE7タンパク質および結核菌のHSP65と融合した融合タンパク質であり、安全性が高く、子宮頸部上皮細胞の高度異型増殖を抑制する効果をいくぶん有する。
【0004】
顆粒球・マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)は、幅広く研究され、最も効果的な治療剤の1つであると認識されている。GM−CSFは、ナチュラルキラー細胞を媒介し、抗原提示細胞を介して、腫瘍に対して特異的にCD8+キラーTリンパ球を活性化することができ、それによって抗腫瘍作用を生じさせる。多数の動物実験や臨床試験において、それらの能力が、抗腫瘍免疫応答を長期にわたって効果的に刺激することが示されてきた。例えば、免疫治療薬であるシプリューセル−Tは、GM−CSFによって抗原提示細胞を活性化するのに有利なものであり、現在、米国食品医薬品局に市販を承認されている。Jennerex等の最新の臨床研究も、GM−CSFを発現させた腫瘍溶解性ワクシニアが、種々の癌の病変を軽減することができることを示している。しかしながら、これらの免疫増強法は全て、腫瘍抗原に対する選択性に乏しかったり、あるいは免疫刺激が十分でなかったりと、治療効果が満足できる水準で得られるものではない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
先行技術の免疫増強法において、腫瘍抗腫瘍抗原に対する選択性に乏しかったり、あるいは免疫刺激が十分でなかったりと、治療効果が満足できる水準で得られるものではないという問題を解決するために、本発明は、HPV感染および関連する疾病のための免疫増強治療ワクチンを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第一に、本発明はHPVの5つの遺伝子型と、免疫増強因子とを有する融合抗原であって、HPV16型のE6およびE7タンパク質と、HPV18型のE6およびE7タンパク質と、免疫増強因子としてのアジュバントタンパク質と、を含む融合抗原を提供する。
【0007】
本発明は、多価抗原が線形に配置された形態をとっており、そのため、融合抗原のT細胞エピトープには影響がない。T細胞免疫応答が治療ワクチン接種において中心的な役割を果たす。T細胞抗原決定基は、抗原提示の過程で線形の短いペプチドに分解され得、認識部位は、典型的にはアミノ酸を8個のみ有している。従って、抗原配置における順序の変化は、免疫刺激にも実質的な影響を及ぼさない。本発明において、発明者らは、HPV16型および18型の4つの抗原タンパク質を熱ショックタンパク質分子と融合させている。多くのHPV抗原を融合させるほど、可能性のある抗原決定基を多数提供すること、抗原提示を増強すること、免疫応答を増大させること、遺伝子型の異なる多くのHPV感染に対して機能することが可能であるという点において、有利であり、それによって、ワクチンによる免疫付与によって潜在的に恩恵を受ける人口を効果的に増加させることができる。加えて、大きなタンパク質ほど、分解されやすく、提示されやすいので、強力な免疫応答を刺激することができる。
【0008】
本発明の一実施形態においては、前記融合抗原は、以下のような1つ以上の変異点を有する。含まれる変異点としては、HPV16型のE6タンパク質の121番目の位置でグルタミン酸がグリシンで置換されており、122番目の位置でリシンがグリシンに置換されている。また、HPV16型のE7タンパク質の24番目の位置でシステインがグリシンに置換されており、26番目の位置でグルタミン酸がグリシンに置換されている。また、HPV18型のE6タンパク質の116番目の位置でグルタミン酸がグリシンに置換されており、117番目の位置でリシンがグリシンに置換されている。また、HPV18型のE7タンパク質の27番目の位置でシステインがグリシンに置換されており、29番目の位置でグルタミン酸がグリシンに置換されている。
【0009】
本発明において、アミノ酸の点変異は、HPV E6タンパク質において細胞のp53タンパク質に結合される領域、およびHPV E7タンパク質において細胞のpRbタンパク質に結合される領域において、行われている。変異を導入したタンパク質は、上記2種のタンパク質のいずれにも特異的に結合せず、その結果、HPV E6およびE7タンパク質が正常な細胞を潜在的に変化させる可能性が生じる危険が排除される。本発明において、点変異はいくつかの主要位置にのみ導入することができ、そのため、点変異がタンパク質の抗原性に影響を及ぼさないことに留意すべきである。
【0010】
本発明において、前記免疫増強因子のアジュバントタンパク質は、原核生物または哺乳類由来の熱ショックタンパク質としてもよく、好ましくは、結核菌由来の熱ショックタンパク質としてもよい。
【0011】
本発明の特定の実施形態において、HPVの5つの遺伝子と免疫増強因子との融合抗原は、SEQ ID No.1で表現されるアミノ酸配列を有している。
【0012】
さらに、本発明は、上記融合抗原を発現させるための組換え遺伝子発現ベクターを提供する。
【0013】
本発明の一実施形態において、前記ベクターは、好ましくは免疫刺激剤の発現カセットも運搬してもよい。
【0014】
前記免疫刺激剤は、顆粒球・マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)、またはインターロイキン、またはインターフェロン、またはケモカインとしてもよく、好ましくは顆粒球・マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)としてもよい。
【0015】
本発明の特定の実施形態において、前記発現ベクターは、SEQ ID No.3で表現されるヌクレオチド配列を有するDNAフラグメントを運搬してもよい。
【0016】
本発明において、前記ベクターは、組換えアデノウイルスベクター、または組換えアデノ随伴ウイルスベクター、または組換えレトロウイルスベクター、または組換えレンチウイルスベクター、または組換えヘルペスウイルスベクター、または組換えワクシニアベクター、または組換えセンダイウイルスベクターとすることができる。また、裸DNAベクター、ナノ粒子、ポリマー、リポソームよりなる群から選択される非ウイルスベクターとしてもよい。
【0017】
さらに、本発明は、治療効果を有する量の上記の融合抗原、または治療効果を有する量の上記の組換え遺伝子発現ベクターを含む、HPV感染に誘起される疾病を治療するための医薬製剤を提供する。
【0018】
好ましい実施形態において、医薬製剤は、治療効果を有する量の融合抗原と、免疫刺激剤とを含む。
【0019】
医薬製剤において、前記免疫刺激剤は、顆粒球・マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)、またはインターロイキン、またはインターフェロン、またはケモカイン、好ましくは顆粒球・マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)としてもよい。
【0020】
本発明の特定の実施形態において、医薬製剤は、HPV16型および18型のE6およびE7と、結核菌由来の熱ショックタンパク質であり、上記多価融合タンパク質と再融合された免疫増強因子のアジュバントと、顆粒球・マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)である免疫刺激剤と、の複数遺伝子融合抗原である抗原を発現させることを目的とする。
【0021】
本発明の別の特定の実施形態において、医薬製剤は、さらに、医薬的に許容されるキャリア、医薬品添加物、補助剤等を含有してもよい。
【0022】
本発明の特定の実施例において、医薬製剤は、単回注射、あるいは単回または複数回の免疫増強注射によって、ワクチンとして患者に直接注射し、免疫刺激および免疫増強の効果を達成してもよい。あるいは、医薬製剤は、リンパ球、樹状細胞、腫瘍細胞、臍帯血細胞等を含む患者の自家細胞あるいはドナーの細胞を、イン・ビトロで処理し、培養するための抗原として、間接的に使用することができる。そして、それらの細胞は、単回または複数回の注射によって、患者に注射し、免疫刺激および免疫増強の効果を達成してもよい。
【0023】
さらに、本発明は、上記の組換え遺伝子発現ベクターを運搬する組換えアデノウイルスを提供する。
【0024】
本発明の特定の実施形態において、組替えアデノウイルスは、HPV16型および18型のE6およびE7、顆粒球・マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)を発現させることができる。
【0025】
本発明の別の特定の実施形態において、組替えアデノウイルスは、HPV16型および18型のE6およびE7タンパク質、結核菌由来の熱ショックタンパク質、顆粒球・マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)を発現させられることが好ましい。
【0026】
組替えアデノウイルスにおいて、HPV16型および18型のE6およびE7タンパク質は、結核菌由来の熱ショックタンパク質と融合させ、多価融合タンパク質としてもよい。また、融合タンパク質の発現カセットは、GM−CSFの発現カセットと、同じベクターの中で共発現させてもよい。
【0027】
組替えアデノウイルスにおいて、HPV16型および18型のE6およびE7タンパク質は、多価融合タンパク質に組み込んでもよく、その多価融合タンパク質は熱ショックタンパク質と融合させなくてもよい。また、融合タンパク質の発現カセットは、GM−CSFの発現カセットと、同じベクターの中で共発現させてもよい。
【0028】
さらに、本発明は、HPV感染によって誘起される疾病を治療するための医薬品の製造に用いるという、上記融合抗原、または上記組換え遺伝子発現ベクター、または上記アデノウイルス、または上記医薬製剤の使用方法を提供する。
【0029】
前記HPV感染によって誘起される疾病は、HPV慢性感染に関連する疾病であり、特に、子宮頸癌、陰茎癌、肛門癌、咽頭癌、口腔癌、頭および首の癌、子宮頸部前癌病変、子宮頸部過形成である。
【0030】
イン・ビトロのTリンパ球活性化実験が示すところによると、HPV抗原のHSPとの融合タンパク質を発現しているベクターと、HPV抗原とGM−CSFを共発現しているベクターは、ともに、HPV抗原を単独で発現しているベクターよりも強いT細胞免疫応答を誘起することができる。また、HPV抗原のHSPとの融合タンパク質とGM−CSFをともに発現しているベクターは、最も強いT細胞免疫応答を誘起することができる。さらに、GM−CSFの発現により、高ドーズおよび低ドーズのグループのそれぞれにおいて、T細胞免疫レベルを顕著に向上させることができ、多数の腫瘍浸潤T細胞を誘起できるようになる。HPV抗原をマウスに発現させる腫瘍治療実験において、各グループのマウスにおける腫瘍発生率および腫瘍サイズの評価結果によると、HSP融合したベクターおよびGMS−CSFを発現しているベクターは、腫瘍の排除および再発の防止に優れており、HPV抗原のHSPとの融合タンパク質とGMS−CSFをともに発現しているベクターは、最も高い効果を示しうる。これらは、イン・ビトロの実験の結果と整合している。このように、本発明は、初めて、HSP融合タンパク質に由来する免疫刺激のGM−CSFとの相乗効果を提示し、また、子宮頸癌の治療におけるワクチンの効果を増強する新規な方法を提供するものである。
【0031】
マウスでの現行の実験結果によると、同じ機構で、このワクチンが、人間においても、HPVウイルスが発現した抗原に特異的な免疫応答を誘起することができ、その結果、HPVに感染した細胞や子宮頸癌に対するT細胞のような特定の免疫細胞の強力な致死効果を達成し、また増強することができると考えられる。このようなワクチンが、HPVウイルスの2つの主要な癌たんぱく質、つまり長期にわたって発現され、感染した細胞を慢性的に増殖させて最終的に癌を進行させる能力のある2つの癌抗原たんぱく質であるE6およびE7に特異的な免疫応答を誘起することに鑑みると、ワクチンは、HPV慢性感染によって誘起される子宮頸癌、子宮頸部前癌病変、子宮頸部過形成、そして咽頭癌や口腔癌等、HPV慢性感染によって誘起される他の癌の治療に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】
図1は、組換えアデノウイルスの構築および同定を示している。
図1のaは、Ad−Easy系を用いて調製した対応する組換えアデノウイルスの5つのcDNAの構造パターンを示す。
図1のbは、ウエスタンブロット法によって測定されたHEK293細胞における組換えアデノウイルスベクターの発現を示し、図中において、HEK293細胞は、組換えアデノウイルスに感染しており、外因性遺伝子の発現は、Ad−GFPを有する抗HPV16E7抗体を陰性対照として用いて測定されている。
図1のcは、ウエスタンブロット法によって測定されたHEK293細胞における対応組換えアデノウイルスベクターのGM−CSFの発現を示す。
図1のdは、コドン最適化をしていないものと比較した場合のコドン最適化の結果として、組換えアデノウイルスAd−E6E7hsp−GMによって著しく増加された融合タンパク質HPV18 /16E6E7−HSPの発現を示す。
【0033】
【
図2】
図2は、Tリンパ球増殖実験を示し、特に、E7ポリペプチドでの刺激下で対応組換えアデノウイルスの免疫を持つマウスにおける脾臓細胞の増殖倍数を示し、縦座標は相対的増殖倍数、すなわち、E7ポリペプチドで刺激していない脾臓細胞のOD値に対するE7ポリペプチドで刺激した脾臓細胞のOD値の割合を表す。n=3であり、エラーバーはSEを表す。記号「
*」はp<0.05であることを表す。
【0034】
【
図3】
図3は、ELISPOT実験を示し、
図3のAは、対応組換えアデノウイルスの免疫を持つマウスにおけるE6ポリペプチド刺激下でのIFNγ分泌脾臓細胞量を示し、
図3のBは、対応組換えアデノウイルスの免疫を持つマウスにおけるE7ポリペプチド刺激下でのIFNγ分泌脾臓細胞量を示し、
図3において縦座標は、10
6脾臓細胞あたりのスポット形成細胞数を示す。n=3であり、エラーバーはSEを表す。記号「
*」はp<0.05であることを表す。
【0035】
【
図4】
図4は、腫瘍浸潤のTリンパ球を示す。組換えアデノウイルスによる免疫付与により、腫瘍浸潤のCD8+やCD4+T細胞の量を増やすことができる。
図4において、縦座標は、対照Ad−GFPとの比較において、4つの表示の総数の平均として各表示のCD4+またはCD8+Tリンパ球の数を示す。n=3であり、エラーバーはSEを表す。記号「
*」はp<0.05であることを表す。
【0036】
【
図5】
図5は、組換えアデノウイルスベクターの投与実験を示す。ELISPOT実験のために、複数のマウスに対し、それぞれ対応組換えアデノウイルスを3種類の投与量で免疫を与え、IFNγ分泌脾臓細胞量を比較する。n=3であり、エラーバーはSEを表す。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下の実施例は、本発明を説明するためのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例】
【0038】
実施例1 プラスミド構築およびウイルスパッケージング
【0039】
HPV18型のE6(ジェンバンクアクセス番号:AF373109)とE7(AF373110)と、HPV16型のE6(AB818691)とE7(KC736931)と、テンプレートとして結核菌のHSP(EU747334)の遺伝子を用い、コドンを人間において発現させるために最適化し、次いで、中間の終止コドンを除去しながら融合遺伝子のオープンリーディングフレームに接合した。完全な配列は、ジェンスクリプト社によって合成された。E6およびE7による細胞の悪性形質転換のリスクを排除するために、HPV18型および16型のE6およびE7タンパク質のいくつかの主要位置に、すなわち、HPV18型のE6タンパク質(Glu116Gly、Lys117Gly)、HPV16型のE6タンパク質(Glu121Gly、Lys122Gly)、HPV18型E7タンパク質(Cys27Gly、Glu29Gly)、HPV16型のE7タンパク質(Cys24Gly、Glu26Gly)に、点変異を導入した。HPV18型&16型/E6/E7は、SEQ ID No.1で表されるアミノ酸配列を有し、HPV18型&16型/E6/E7HSPは、SEQ ID No.2で表されるアミノ酸配列と、SEQ ID No.3で表現されるヌクレオチド配列を有する。ヒト由来のGM−CSF遺伝子のcDNAをRT−PCR増幅により得た(SEQ ID No.4)。
【0040】
Ad−Easyアデノウイルスパッケージングシステム(カリフォルニア州サンタ・クララ市、アジレント・テクノロジー社より購入)を用いて、5つの組換えアデノウイルスを作った。まず、異なる遺伝子が挿入された5つのシャトルプラスミドと、CMVプロモーターを構築した。具体的には、(1)HPV16型のE6およびE7の融合タンパク質を発現するためのシャトル−E6E7、(2)HPV16型のE6およびE7とhspとの融合タンパク質を発現するためのシャトル−E6E7hsp、(3)(1)をベースにした、ヒト由来GM−CSFを共発現するためのシャトル−E6E7−GM、(4)HPV18型/16型のE6およびE7とhspとヒト由来GM−CSFとの融合タンパク質を共発現するためのシャトル−E6E7hsp−GM、(5)対照としての、eGFPを発現するためのシャトル−GFPの、5つのシャトルプラスミド(
図1a)である。次に、従来の方法で、前記5つの組換えアデノウイルスを、Ad−E6E7、Ad−E6E7hsp、Ad−E6E7−GM、Ad−E6E7hsp−GMおよびAd−GFPにそれぞれパッケージした。
【0041】
実施例2 組換え外因性タンパク質発現の測定
【0042】
アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(ATCC社、メリーランド州ロックビル)から購入したヒト胚性腎臓293(HEK293)細胞を、2プラーク形成単位(pfu)/細胞の感染力価で、実施例1にて作製したパッケージングされた組換えアデノウイルスに感染させ、感染2日後にPBSで2回洗浄した。次に、細胞をレムリー溶解用緩衝液で溶解し、全細胞タンパク質を変性のために5分間煮沸し、その後SDS電気泳動を行った。その後、タンパク質をセルロースアセテート膜に電気的に移動させ、対応する抗体、つまり抗HPV16型E7タンパク質抗体(カリフォルニア州サンタクルーズ、サンタクルーズバイオテクノロジー社)および抗GM−CSF抗体(カリフォルニア州サンディエゴ、バイオレジェンド社)を用いて、測定を行った。発色のために、増強化学発光(ECL)システムを用いた。GM−CSF用ELISA分析キット(カリフォルニア州サンディエゴ、バイオレジェンド社)を用いて、マウスにおけるGM−CSF濃度を測定した。
【0043】
5つの組換えアデノウイルスを、標準的な方法に従って調製し、2回の超遠心分離で精製した。外因性遺伝子の発現を検出するために、ウエスタンブロット法を用いて、組換えウイルスに感染した293細胞を検出した。その結果、発現バンドが予想分子量のバンド位置で検出されたが、Ad−GFPに感染した陰性対照試料の対応位置では何も観察されなかったことが証明された(
図1b、c)。HPV抗原とGM−CSFとの融合タンパク質が高い効率で発現したことが、結果に示される。ELISA分析の結果、マウスにおけるGM−CSFの血清濃度としては、このテストグループは、注射5日後は対照グループよりも7倍高く、注射2ヶ月後は依然約1.5倍高いことが分かった。
【0044】
HPV抗原の発現効率はコドン最適化後に大幅に改善され、その発現は最適化前よりも3倍を上回って増加した(
図1d)。
【0045】
実施例3 イン・ビトロでのリンパ球増殖およびELISPOT
【0046】
雌のC57BL/6マウス(H−2
b、6−8週齢)をジャクソン研究所(メイン州バー・ハーバー)から購入し、Ad−E6E7ウイルス、Ad−E6E7hspウイルス、Ad−E6E7−GMウイルス、Ad−E6E7hsp−GMウイルスおよびAd−GFPウイルスを、10
7pfu/マウスの投与量で皮下注射した。4週間後、マウスの脾臓細胞(1×10
5/ウェル)を単離および培養し、各マウスの脾臓細胞を5日間、10μg/mlのE7ポリペプチド有りまたは無しで培養した。4日目にBrdUを添加した。Calbiochem細胞増殖キット(マサチューセッツ州ビレリカ、ミリポア社)を用いて、細胞に融合したBrdU量を測定した。E7ポリペプチド有りの場合に読み取られたO.D.をE7ポリペプチド無しの場合に読み取られたO.D.で割ることによって計算した相対的増殖倍数として、測定結果を表した。
【0047】
E6およびE7ポリペプチドに特異的なインターフェロンIFNγ分泌Tリンパ球を計数し、T細胞からの免疫応答を評価する方法で、ELISPOT実験を行った。最初に、免疫付与のため上記の組換えウイルスを雌のC57BL/6マウスに接種した。2−4週間後、1×10
5細胞/ウェルの抗IFNγ抗体でコーティングした96ウェルプレートに、マウスの脾臓細胞を単離および培養した。培養用の各マウスの細胞を、E6ポリペプチド刺激グループとE7ポリペプチド刺激グループに分け、2μgのE6
48−57(EVYDFAFRDL、H−2Db制限)ポリペプチドおよびE7
49−57(RAHYNIVTF、H−2Db制限)ポリペプチドでそれぞれ刺激し、ポリペプチドで刺激していない細胞を陰性対照として用いた。37℃で24時間培養後、細胞を除去し、ウェル内の残留物を0.5%−20%PBS(PBST)で3回洗浄し、その後、酵素でラベルした抗IFNγ抗体で再度培養し、最終的にACE基質で展開を行った。基質展開および乾燥終了後、IFNγ応答スポットをELISPOTカウンターを用いて計数し分析した。
【0048】
抗原特異的T細胞免疫応答は、T細胞増殖およびELISPOT実験の結果から、イン・ビトロで測定することができる。T細胞増殖実験では、5日目の細胞の相対的な量を、細胞DNAに組み込まれたBrdU含有量として表すことができる。E7特異的ポリペプチドでの刺激下において、HPV抗原を発現する組換えウイルスを接種したマウスの全脾臓細胞は、Ad−GFPの免疫を持つ陰性対照マウスの脾臓細胞よりもはるかに増加した(
図2)。組換えウイルスAd−E6E7hspおよびAd−E6E7−GMの免疫を持つマウスの脾臓細胞はそれぞれ、Ad−E6E7を接種したマウスの脾臓細胞よりも高い増殖倍数を有し、Ad−E6E7hsp−GMの免疫を持つマウスは、最も高い増加を示した。抗原特異的キラーT細胞からの免疫応答の程度は、ELISPOT実験の結果からわかる。ELISPOT実験の結果によると、E6ポリペプチドでの刺激下において、HPV抗原を発現する組換えウイルスの免疫を持つマウスは全て、その抗原に特異的なキラーT細胞の免疫応答を得た。特に、Ad−E6E7hsp、Ad−E6E7−GMおよびAd−E6E7hsp−GMの免疫を持つ各マウスは、Ad−E6E7を接種したマウスよりもはるかに多くのIFNγ分泌脾臓細胞を有し、Ad−E6E7hsp−GMの免疫を持つマウスは、最大量のIFNγ分泌脾臓細胞を有した(
図3A)。E7ポリペプチドでの刺激下において、IFNγ分泌脾臓細胞は、各グループの絶対量がE6ポリペプチドでの刺激下のものよりもはるかに多かったことを除いて、E6ポリペプチドでの刺激下のものと類似の相対分布を有する。E7ポリペプチドは、E6ポリペプチドで刺激したものよりはるかに強力に、マウスにおけるキラーT細胞の免疫応答を誘導することもできることが示される(
図3B)。要約すると、T細胞増殖およびELISPOT実験の結果から、HSPおよびGM−CSFがE6およびE7抗原に特異的なTリンパ球の免疫応答を別々に又は相乗的に増強することができることが一貫して示される。
【0049】
実施例4 腫瘍浸潤Tリンパ球の分析
【0050】
C57BL/6マウスにTC−1細胞を接種した(HPV16型のE6およびE7のoncoantigenで形質転換されたC57BL/6マウスの腫瘍細胞は、最も一般的な子宮頸癌モデル細胞株の一つであり、ジョンズ・ホプキンス大学のT.C.Wu教授に贈呈された)。C57BL/6マウスTC−1細胞を10%ウシ胎児血清(FBS)および50U/mlの2種類の抗生物質を含有するRPMI1640完全培地で増殖させ、他の細胞をDMEM完全培地(Gibco)で増殖させた。皮下腫瘍がひとたび約5mmの直径に成長したら、1×10
7の組換えアデノウイルスAd−E6E7、Ad−E6E7hsp、Ad−E6E7−GM、Ad−E6E7hsp−GMおよびAd−GFPをマウスにそれぞれ皮下接種した。7日後に腫瘍を採取し、H&E染色と、抗CD4+およびCD8+細胞の免疫蛍光分析にかけた。その手順は次のとおりである。まず、腫瘍組織を除去、凍結し、OCTへの包埋を行い、5.0μmの厚さの切片に切断した。その後、4%アセトンで固定し、10%ウマ血清で30分ブロッキングした。次に、切片を室温で1時間、抗マウスCD4およびCD8抗体(カリフォルニア州サンノゼ、BDバイオサイエンス社)で培養し、PBSで洗浄後、2mg/mLのヤギ抗ラット二次抗体Alexa647(カリフォルニア州カールズバッド、インビトロゲン社)で培養した。その後、DAPIで核染色し顕微鏡分析を行った。陽性細胞は4つの画像に見られ、統計分析用の平均値±標準誤差を記録した。
【0051】
担癌マウスの腫瘍が約5mmの直径に成長したら、それぞれ異なる組換えアデノウイルスを用いた免疫治療に供した。7日後、組織学的分析のために腫瘍を取り出し、それぞれ異なるウイルスの免疫を持つマウスの腫瘍中のTリンパ球浸潤の程度を評価した。CD8+細胞の染色結果によると、HPV抗原を発現する組換えウイルスを与えられたマウスは、Ad−GFP免疫を付与された陰性対照マウスよりも、腫瘍組織におけるCD8+Tリンパ球浸潤が多かった(
図4)。HSPおよびGM−CSFと融合した融合タンパク質が別々に発現又は同時発現したベクターは両方とも、担癌マウスにおけるCD8+Tリンパ球浸潤を著しく向上することができた(
図4)。CD4+細胞の染色結果によると、GM−CSFを発現する組換えアデノウイルスを免疫付与されたマウスは、腫瘍組織のCD4+Tリンパ球浸潤量が著しく増えている。しかしながら、HSPはCD8+Tリンパ球浸潤の著しい増加をもたらしたものの、HSP融合タンパク質を発現したマウスは、Ad−E6E7およびAd−GFPの免疫を持つマウスと比較して、腫瘍組織のCD4+を発現するTリンパ球量がそれほど増えなかった(
図4)。
【0052】
実施例5 組換えアデノウイルスの免疫投与
【0053】
Ad−E6E7、Ad−E6E7hsp、Ad−E6E7−GM、Ad−E6E7hsp−GMおよびAd−GFPを、2×10
5、1×10
6、1×10
7pfu/マウスの3種類の投与量で、それぞれマウスに接種した。接種4週間後、マウスを殺し、その脾臓細胞をELISPOT実験用に採取した。それぞれ異なる投与量で様々な組換えアデノウイルスの免疫を与えられた各マウスの脾臓細胞のIFNγ応答スポットを読み取り分析し、それぞれ異なる投与量により誘導されたT細胞の免疫の程度を評価した。
【0054】
本発明者らは、それぞれ異なる投与量でT細胞免疫応答を誘導する様々な組換えウイルスの能力を評価するために、投与実験を行った。測定されたIFNγ分泌細胞の量によると、2×10
5および1×10
6pfu/マウスの低投与量の状態では、組換えウイルスAd−E6E7−GMおよびAd−E6E7hsp−GMは、その他のウイルスより強いT細胞免疫応答を誘導し、そのうちAd−E6E7hsp−GMは、最も強いT細胞免疫応答を誘導した。1×10
7pfu/マウスの高投与量の状態では、HPV抗原を発現するすべての組換えウイルスが、効果的に免疫応答を誘導することができた。興味深いことに、組換えウイルスAd−E6E7hspの免疫を有するマウスの方が、Ad−E6E7−GMの免疫を有するマウスよりもIFNγ分泌脾臓細胞量が多かった。Ad−E6E7hsp−GM免疫グループは、依然としての最大のIFNγ分泌脾臓細胞量だった(
図5)。実験結果によると、GM−CSF発現は、低投与量グループにおけるT細胞免疫応答を効果的に増強する一方、HSP融合タンパク質は、高投与量においてより良い結果をもたらし、両者の共発現により相乗効果が得られる。
【0055】
GM−CSFは、比較的低投与量でキラーTリンパ球の免疫応答を増加することができるため、潜在的な副作用を減らしながらもより良い免疫結果が得られるよう、低投与量で用いてもよい。
【0056】
実施例6 マウスでのインビボ腫瘍治療
【0057】
この実験は、組換えアデノウイルスの治療効果を評価するのに大変重要である。まず、マウス被験体に1×10
5/マウスのTC−1細胞を皮下接種した。約9日後に、触知可能な腫瘍塊がマウスの皮下に形成されたら、Ad−E6E7、Ad−E6E7hsp、Ad−E6E7−GM、Ad−E6E7hsp−GMおよびAd−GFPを、1×10
6および1×10
7pfu/マウスの投与量でそれぞれのマウスに皮下注射した。最初の治療から2週間後、同じ投与量で免疫を強化した。最初の治療から2か月後、すべての腫瘍をマウスから取り除き、マウスに同じTC−1細胞を再接種した。マウスの腫瘍を3日間おきに4ヶ月間観察した。腫瘍の発生および腫瘍の大きさについて、それぞれ異なる組換えウイルスを接種したマウス間で比較し、異なる組換えアデノウイルスの治療効果及び腫瘍排除効果を測定した。
【0058】
上記の腫瘍治療実験の結果によると、異なる組換えウイルスごとに、インビボにおける腫瘍細胞排除能力が異なる。初期の投与実験においては、治療実験のために、1×10
6および1×10
7pfu/マウスの2種類の投与量を用いた。1×10
6pfu/マウスの投与量の場合、Ad−GFPで治療した対照グループの5匹のマウスはすべて腫瘍を発症した。Ad−E6E7で治療したマウスは10匹中2匹のみが、Ad−E6E7hspで治療したマウスは10匹中6匹が、Ad−E6E7−GMで治療したマウスは10匹中5匹が、Ad−E6E7hsp−GMで治療したマウスは10匹中7匹が、治療後2か月間は腫瘍を発症しなかった。実験結果によると、Ad−E6E7hsp−GMで治療したものの治療効果が一番高かった。また、1×10
7pfu/マウスの投与量の場合、2ヶ月後に、Ad−GFPで治療した対照グループの5匹のマウスはすべて腫瘍を発症したが、Ad−E6E7で治療したマウス5匹中4匹は腫瘍を発症せず、Ad−E6E7hsp、Ad−E6E7−GMおよびAd−E6E7hsp−GMで治療したマウスはすべて腫瘍を発症しなかった(表1)。また、同じ期間にわたって、Ad−E6E7hspで治療した腫瘍を有するマウスは、Ad−E6E7で治療したマウスよりも小さいサイズの腫瘍を有していた(表示せず)。最初の治療から2ヶ月後、全ての無腫瘍マウスにTC−1腫瘍細胞を再接種した。腫瘍を再接種されたマウスは全て、6ヶ月間の実験の最後まで依然として腫瘍を発症しなかった。要約すれば、実験結果によると、HSPおよびGM−CSFは独立に又は相乗的に機能し、HPVに特異的なT細胞免疫応答を増強し、そして更にはマウスの腫瘍を除去し、再発を防止する効果を達成することができる。実験結果によると、GM−CSFとHSPの組み合わせが、相乗的治療効果が一番高い。
【0059】
表1は、腫瘍治療実験における無腫瘍マウスの割合を表している。
【0060】
【表1】
【0061】
上記は、単に本発明を好適な実施形態に基づいて説明したものであり、当業者は、本発明の原理を逸脱しない範囲で修正や変形をしてもよく、そのような修正および変形も本発明の保護の範囲に含まれるべきである。
【産業上の利用可能性】
【0062】
この進歩的なワクチンは、免疫応答の増強および腫瘍の除去に効果を有し、子宮頸癌、子宮頸部前癌病変、子宮頸部過形成、そして、一部の咽頭癌、口腔癌、肛門癌等、HPVの慢性感染によって誘起される他の癌の治療に有用である。
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]