【文献】
Sudhrsan Kanagaraj et al.,An Online Fully-digital Calibration of Leakage Noise in MASH Continuous Time ΔΣ modulators,2011 IEEE international Symposium of Circuits and Systems (ISCAS),IEEE,2011年,pp.1632-1635
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
対象物へ送信波を送信し、複数のアンテナで受信した前記対象物からの反射波を前記送信波を用いてダウンコンバートすることで複数のビート信号を生成する高周波ユニットと、
前記複数のビート信号が入力されるロウパスフィルタと、
前記ロウパスフィルタからの前記複数のビート信号を処理するベースバンドユニットと、
を有するミリ波レーダシステムであって、
前記ベースバンドユニットは、前記ロウパスフィルタからの前記複数のビート信号をそれぞれディジタル信号に変換するMASH(Multi stAge Noise SHaping)型およびシグマデルタ型の複数のアナログ・ディジタル変換器を備え、
前記複数のアナログ・ディジタル変換器のそれぞれは、
アナログ回路で構成される第1のアナログ積分器と、前記第1のアナログ積分器の出力信号を量子化する第1の量子化器とを含み、前記複数のビート信号の中の対応するビート信号が入力される第1の変調器と、
前記第1の変調器の後段に結合され、アナログ回路で構成される第2のアナログ積分器と、前記第2のアナログ積分器の出力信号を量子化する第2の量子化器とを含む第2の変調器と、
前記第1の変調器にプローブ信号を注入するプローブ信号生成回路と、
前記プローブ信号に応じた前記第1の量子化器の出力信号を観測することで前記第1の変調器の伝達関数を探索する第1の適応フィルタと、
前記プローブ信号に応じた前記第2の量子化器の出力信号を観測することで前記第2の変調器の伝達関数を探索する第2の適応フィルタと、
前記第1の適応フィルタの探索結果と前記第2の適応フィルタの探索結果とを用いて前記第1の量子化器で生じる量子化誤差をキャンセルするノイズキャンセル回路と、
を有し、
前記第1のアナログ積分器または前記第2のアナログ積分器は、可変設定可能な回路パラメータを備え、
前記複数のアナログ・ディジタル変換器のそれぞれは、さらに、前記第1の適応フィルタの探索結果に基づき前記第1のアナログ積分器の前記回路パラメータを制御するか、または、前記第2の適応フィルタの探索結果に基づき前記第2のアナログ積分器の前記回路パラメータを調整する調整回路を有する、
ミリ波レーダシステム。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下の実施の形態においては便宜上その必要があるときは、複数のセクションまたは実施の形態に分割して説明するが、特に明示した場合を除き、それらは互いに無関係なものではなく、一方は他方の一部または全部の変形例、詳細、補足説明等の関係にある。また、以下の実施の形態において、要素の数等(個数、数値、量、範囲等を含む)に言及する場合、特に明示した場合および原理的に明らかに特定の数に限定される場合等を除き、その特定の数に限定されるものではなく、特定の数以上でも以下でも良い。
【0012】
さらに、以下の実施の形態において、その構成要素(要素ステップ等も含む)は、特に明示した場合および原理的に明らかに必須であると考えられる場合等を除き、必ずしも必須のものではないことは言うまでもない。同様に、以下の実施の形態において、構成要素等の形状、位置関係等に言及するときは、特に明示した場合および原理的に明らかにそうでないと考えられる場合等を除き、実質的にその形状等に近似または類似するもの等を含むものとする。このことは、上記数値および範囲についても同様である。
【0013】
また、実施の形態の各機能ブロックを構成する回路素子は、特に制限されないが、公知のCMOS(相補型MOSトランジスタ)等の集積回路技術によって、単結晶シリコンのような半導体基板上に形成される。
【0014】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、実施の形態を説明するための全図において、同一の部材には原則として同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。
【0015】
(実施の形態1)
《ミリ波レーダシステムの概略》
図1は、本発明の実施の形態1によるミリ波レーダシステムの主要部の構成例を示す概略図である。
図1に示すミリ波レーダシステムは、ベースバンドユニットBBUと、高周波ユニットRFUと、ロウパスフィルタLPFと、送信アンテナANTtと、n個(nは1以上の整数)の受信アンテナANTr[1]〜ANTr[n]とを備える。高周波ユニットRFUは、高周波帯域での各種信号処理を行い、送信回路として、変調器MOD、発振器OSCおよびパワーアンプPAを備え、受信回路として、n個のミキサMIX[1]〜MIX[n]およびn個のアンプIA[1]〜IA[n]を備える。
【0016】
ベースバンドユニットBBUは、例えば、マイクロコントローラ等の1個の半導体チップで構成され、ベースバンドでの各種信号処理を行う。ベースバンドユニットBBUは、n個のアナログ・ディジタル変換器ADC[1]〜ADC[n]と、CPU(Central Processing Unit)と、RAM(Random Access Memory)と、ディジタル・アナログ変換器DACUと、フラッシュメモリ等の不揮発性メモリNVMとを備える。
【0017】
変調器MODおよび発振器OSCは、ベースバンドユニットBBUからの制御に基づき、周波数変調された送信波(FM−CW方式の送信波)や、または、周波数が異なる2個の送信波(2周波CW方式の送信波)等を生成する。当該送信波は、例えば、60GHz帯や76GHz帯といった周波数を備え、パワーアンプPAを介して送信アンテナANTtから送信される。
【0018】
一方、送信アンテナANTtから送信された送信波は、対象物で反射されたのち、n個の受信アンテナANTr[1]〜ANTr[n]で受信される。n個のミキサMIX[1]〜MIX[n]は、それぞれ、受信アンテナANTr[1]〜ANTr[n]で受信された受信波(反射波)を、発振器OSCからの送信波を用いてダウンコンバートすることでn個のビート信号を出力する。このn個のビート信号は、ロウパスフィルタ(アンチエイリアシングフィルタ)LPFを介してベースバンドユニットBBUのn個のアナログ・ディジタル変換器ADC[1]〜ADC[n]にそれぞれ入力される。
【0019】
n個のアナログ・ディジタル変換器ADC[1]〜ADC[n]は、詳細は後述するが、MASH型およびシグマデルタ(ΣΔ)型の構成を備え、ロウパスフィルタLPFからの複数のビート信号をそれぞれディジタル信号に変換する。ベースバンドユニットBBUは、アナログディジタル変換器ADC[1]〜ADC[n]からのディジタル信号をCPU等を用いて処理することで、対象物との距離や相対速度等を検出する。
【0020】
このようなミリ波レーダシステムは、自動車や医療装置等を代表に、様々な分野で用いられる。また、レーダとしての性能を向上させるため、n個のアナログ・ディジタル変換器ADC[1]〜ADC[n]は、高分解能(つまり、広ダイナミックレンジ)かつ広信号帯域であることが求められる。このような要求を満たすADCとして、シグマデルタADCが知られている。
【0021】
シグマデルタADCは、オーバーサンプリングを行う動作原理上、サンプリングレート(サンプリング周波数)が高い。このため、ロウパスフィルタ(アンチエイリアシングフィルタ)LPFの仕様を緩和することが可能となり、ナイキスト型ADC(例えば、パイプライン型、逐次比較型、フラッシュ型など)を用いる場合と比べて有益となり得る。シグマデルタADCでは、離散時間型(例えば、スイッチトキャパシタ型)の積分器や、連続時間型(例えばRC型)の積分器を用いることができる。連続時間型の積分器を用いると、ロウパスフィルタLPFの仕様を更に緩和でき、シグマデルタADCの広信号帯域化が容易となる場合がある。
【0022】
《アナログ・ディジタル変換器(比較例)の概略および問題点》
図19は、MASH型シグマデルタADCの基本構成例および動作例を示す回路ブロック図である。
図19に示すMASH型シグマデルタADCは、複数段(ここでは2段)の変調器(シグマデルタ型変調器)SDM1’,SDM2’と、ノイズキャンセル回路NCU’とを備え、アナログ信号となる外部入力信号SIが入力され、ディジタル信号となる外部出力信号SOを出力する。1段目の変調器SDM1’は、アナログ加減算器AS11と、アナログ積分器ユニットINTU1と、量子化器QT1と、ディジタル・アナログ変換回路DAC11,DAC12とを備える。
【0023】
量子化器QT1は、アナログ回路で構成されるアナログ積分器ユニットINTU1の出力信号を量子化する。ディジタル・アナログ変換回路DAC11,DAC12は、共に、量子化器QT1の出力信号をアナログ信号に変換する。アナログ加減算器AS11は、外部入力信号SIと、ディジタル・アナログ変換回路DAC11の出力信号との差分信号をアナログ積分器ユニットINTU1へ出力する。ここで、量子化器QT1では、量子化器QT1で加算されるような形で量子化誤差Q
1が生じる。当該量子化誤差Q
1は、ディジタル・アナログ変換回路DAC12の出力信号とアナログ積分器ユニットINTU1の出力信号との差分信号によって抽出することができる。
【0024】
2段目の変調器SDM2’は、アナログ加減算器AS21と、アナログ積分器ユニットINTU2と、量子化器QT2と、ディジタル・アナログ変換回路DAC21とを備える。量子化器QT2は、アナログ回路で構成されるアナログ積分器ユニットINTU2の出力信号を量子化する。量子化器QT2でも、量子化器QT1の場合と同様に量子化誤差Q
2が生じる。ディジタル・アナログ変換回路DAC21は、量子化器QT2の出力信号をアナログ信号に変換する。アナログ加減算器AS21は、前述した変調器SDM1’における量子化誤差Q
1の抽出信号と、ディジタル・アナログ変換回路DAC21の出力信号との差分信号をアナログ積分器ユニットINTU2へ出力する。
【0025】
ノイズキャンセル回路NCU’は、ノイズキャンセルフィルタNCF1’,NCF2’と、ディジタル加減算器DAS31とを備える。ノイズキャンセルフィルタNCF1’は、量子化器QT1の出力信号S11が入力されるディジタルフィルタであり、ノイズキャンセルフィルタNCF2’は、量子化器QT2の出力信号S21が入力されるディジタルフィルタである。ディジタルフィルタは、例えば、複数のタップ係数によって所望のフィルタ特性を実現するFIR(Finite Impulse Response)フィルタや、IIR(Infinite Impulse Response)フィルタ等である。ディジタル加減算器DAS31は、ノイズキャンセルフィルタNCF1’の出力信号S12とノイズキャンセルフィルタNCF2’の出力信号S22との差分(ここでは“S12−S22”)を算出し、外部出力信号SOを出力する。
【0026】
ここで、明細書では、伝達関数H
1A(f)を、“量子化誤差Q
1の印加点から変調器SDM1’(量子化器QT1)の出力信号S11までの伝達関数”と定義する。
図19の例では、伝達関数H
1A(f)は、変調器SDM1’の雑音伝達関数(NTF:Noise Transfer Function)と一致する。また、伝達関数H
2A(f)を、“量子化誤差Q
1の印加点から変調器SDM2’(量子化器QT2)の出力信号S21までの伝達関数”と定義する。
図19の例では、伝達関数H
2A(f)は、変調器SDM2’の信号伝達関数(STF:Signal Transfer Function)と一致する。
【0027】
変調器SDM1’の出力信号S11は、“H
1A(f)・Q
1+STF1・SI”(STF1は、変調器SDM1’の信号伝達関数)となる。変調器SDM2’の出力信号S21は、“H
2A(f)・Q
1+NTF2・Q
2”(NTF2は、変調器SDM2’の雑音伝達関数)となる。ノイズキャンセルフィルタNCF1’の伝達関数H
2D(f)は、予め伝達関数H
2A(f)に設定され、ノイズキャンセルフィルタNCF2’の伝達関数H
1D(f)は、予め伝達関数H
1A(f)に設定される。その結果、ノイズキャンセルフィルタNCF1’の出力信号S12は、“H
1A(f)・H
2A(f)・Q
1+STF1・H
2A(f)・SI”となり、ノイズキャンセルフィルタNCF2’の出力信号S22は、“H
2A(f)・H
1A(f)・Q
1+NTF2・H
1A(f)・Q
2”となる。
【0028】
その結果、外部出力信号SOにおいて、外部入力信号SIは、“STF1・H
2A(f)”の次数分(すなわち、アナログ積分器ユニットINTU1,INTU2のトータル積分次数分)だけ遅延して出力される。また、量子化誤差Q
1は、キャンセルされる。さらに、量子化誤差Q
2は、“NTF2・H
1A(f)”の次数分(トータル積分次数分)のノイズシェーピングによって低減される。
【0029】
例えば、
図1のようなミリ波レーダシステム等では、高周波成分の入力ノイズが生じる場合がある。MASH型シグマデルタADCは、非MASH型(単一ループ型)シグマデルタADCと比べて、外部入力信号SI中に高周波成分が含まれていても安定に動作できる。すなわち、一般的に、シグマデルタADCを高分解能化するには、積分器の次数を増やす必要がある。例えば、
図19のMASH型シグマデルタADCで4次を実現する場合、アナログ積分器ユニットINTU1,INTU2のそれぞれを2次の積分器で構成すればよい。一方、非MASH型では、単一ループ内に4次の積分器が必要となり、その結果、外部入力信号SIに高周波成分が含まれるとループ動作が不安定になり易い。
【0030】
例えば、4次のMASH型シグマデルタADCを用いた場合、量子化誤差Q
2は、4次分のノイズシェーピングによって十分に無視できるレベルまで低減される。したがって、MASH型シグマデルタADCでは、量子化誤差Q
1をキャンセルできる限り、高分解能化等が図れる。ただし、量子化誤差Q
1のキャンセルが不十分な場合、残留する量子化誤差Q
1により、分解能が低下してしまう。
【0031】
図20は、
図19のMASH型シグマデルタADCにおける問題点の一例を示す図である。
図20に示されるように、実際のアナログ積分器ユニットINTU1,INTU2では、ある理想状態を基準として各種特性ばらつきが生じ得る。特性ばらつきの要因として、連続時間型の積分器の場合、RC(抵抗・コンデンサ)素子の製造ばらつき、オペアンプの利得不足、帯域不足等が挙げられる。
【0032】
これにより、
図19の変調器SDM1’の出力信号S11における“H
1A(f)・Q
1”は、
図20のように、実際には、“H
1A_R(f)・Q
1”となる。伝達関数H
1A_R(f)は、理想的な伝達関数H
1A(f)に対する実際の伝達関数である。同様に、
図19の変調器SDM2’の出力信号S21における“H
2A(f)・Q
1”は、実際には、
図20のように、“H
2A_R(f)・Q
1”となる。伝達関数H
2A_R(f)は、理想的な伝達関数H
2A(f)に対する実際の伝達関数である。一方、ノイズキャンセルフィルタNCF1’,NCF2’の伝達関数H
2D(f),H
1D(f)は、予め設定された理想的な伝達関数H
2A(f),H
1A(f)である。その結果、外部出力信号SOにおける量子化誤差Q
1のキャンセルが不十分となる。
【0033】
図21は、本発明の比較例となるアナログ・ディジタル変換器の主要部の概略構成例および動作例を示す回路ブロック図である。
図20で述べたような問題を解決するため、
図21に示されるような方式が考えられる。
図21では、
図19の構成例と比較して、アナログ積分器ユニットINTU1が可変回路パラメータを含むアナログ積分器ユニットINTU1aに変更され、また、キャリブレーション回路CAL’が追加されている。
【0034】
比較例1の方式(方式A)は、実際の伝達関数H
1A_R(f),H
2A_R(f)を調整して、理想状態の伝達関数H
1A(f),H
2A(f)に近づける方式である。
図21の例では、実際の伝達関数H
1A_R(f)を理想状態の伝達関数H
1A(f)に近づけるため、アナログ積分器ユニットINTU1aが設けられる。キャリブレーション回路CAL’は、例えば、所定のキャリブレーション期間で外部出力信号SOに残留する量子化誤差Q
1を観測しながら、それが最小となるように、アナログ積分器ユニットINTU1a内の回路パラメータ(具体的には、RCの時定数)を調整する。
【0035】
しかし、当該方式Aの場合、アナログ積分器ユニットINTU1a内のオペアンプの特性ばらつきは調整されないため、依然として、外部出力信号SOにおける量子化誤差Q
1のキャンセルは不十分となる。また、同様にして、アナログ積分器ユニットINTU2の調整を行うことも考えられる。ただし、このように1個の観測結果(外部出力信号SOに残留する量子化誤差Q
1)から複数のアナログ積分器ユニットを調整する場合、調整処理が複雑化し、調整精度の低下が生じる恐れや、場合によっては、解を得ること自体が困難となる恐れがある。
【0036】
一方、比較例2の方式(方式B)は、ノイズキャンセルフィルタNCF1’,NCF2’の一方(ここではNCF1’)を固定し、他方(NCF2’)を調整する方式である。具体的には、キャリブレーション回路CAL’は、例えば、所定のキャリブレーション期間で、外部出力信号SOに残留する量子化誤差Q
1を観測しながら、それが最小となるように、ノイズキャンセルフィルタNCF2’のタップ係数を調整する。
【0037】
しかし、当該方式Bの場合、ノイズキャンセルフィルタNCF1’,NCF2’の一方のみの調整となるため、依然として、外部出力信号SOにおける量子化誤差Q
1のキャンセルは不十分となる。また、同様にして、ノイズキャンセルフィルタNCF1’,NCF2’の他方を調整することも考えられるが、方式Aの場合と同様に、1個の観測結果から2個のノイズキャンセルフィルタの調整を行うと、調整処理が複雑化し、調整精度の低下が生じる恐れや、場合によっては、解を得ること自体が困難となる恐れがある。
【0038】
《アナログ・ディジタル変換器(実施の形態1)の概略》
図2は、本発明の実施の形態1によるアナログ・ディジタル変換器の主要部の概略構成例および動作例を示す回路ブロック図である。
図2に示すMASH型シグマデルタADCは、複数段(ここでは2段)の変調器(シグマデルタ型変調器)SDM1,SDM2と、ノイズキャンセル回路NCUとに加えて、キャリブレーション回路を備える。キャリブレーション回路は、プローブ信号生成回路XGと、複数(ここでは2個)の適応フィルタAF1,AF2と、複数(ここでは2個)のディジタル加減算器DAS41,DAS42とを備える。
【0039】
変調器SDM1は、
図19の変調器SDM1’と同様に、アナログ加減算器AS11と、アナログ積分器ユニットINTU1と、量子化器QT1と、ディジタル・アナログ変換回路DAC11,DAC12とを備える。これに加えて、変調器SDM1は、
図19の変調器SDM1’と異なり、量子化器QT1の入力に挿入されるアナログ加減算器AS12と、その入力に結合されるディジタル・アナログ変換回路DAC13とを備える。一方、変調器SDM2は、
図19の変調器SDM2’と同様であり、アナログ加減算器AS21と、アナログ積分器ユニットINTU2と、量子化器QT2と、ディジタル・アナログ変換回路DAC21とを備える。
【0040】
プローブ信号生成回路XGは、プローブ信号Xを生成する。プローブ信号Xは、例えば、擬似ランダム信号であり、望ましくは、1ビット(2値)の擬似ランダム信号である。プローブ信号Xは、変調器SDM1のディジタル・アナログ変換回路DAC13を介してアナログ信号に変換されたのち、量子化器QT1の入力信号にアナログ加減算器AS12を介して注入される。また、プローブ信号Xは、ディジタル信号として、適応フィルタAF1,AF2にも入力される。
【0041】
適応フィルタAF1は、プローブ信号Xに応じた変調器SDM1(量子化器QT1)の出力信号S11を観測することで、変調器SDM1の実際の伝達関数を探索する。具体的には、ディジタル加減算器DAS41は、プローブ信号Xに応じた変調器SDM1(量子化器QT1)の出力信号S11と、適応フィルタAF1の出力信号S13との誤差を算出し、その算出結果となる誤差信号E1を生成する。適応フィルタAF1は、プローブ信号Xと当該誤差信号E1とに基づき、LMS(Least Mean Square)アルゴリズムを用いて自身のフィルタ係数(タップ係数)を探索する。
【0042】
この際に、出力信号S11は、プローブ信号Xの注入箇所と量子化誤差Q
1の印加点が実質的に等しいことから、前述した量子化誤差Q
1に対する実際の伝達関数H
1A_R(f)を用いて“H
1A_R(f)・X”の成分を含む。出力信号S13は、“H
1D(f)・X”である。出力信号S11には、
図19で述べたように、厳密には、量子化誤差Q
1の成分や、外部入力信号SIの成分も含まれている。ただし、量子化誤差Q
1や外部入力信号SIの成分は、詳細は後述するが、ディジタル加減算器DAS41を介した適応フィルタAF1への入力信号という観点では無視することができる。適応フィルタAF1は、この出力信号S11と出力信号S13との誤差を最小にするタップ係数を探索する。その結果、適応フィルタAF1の伝達関数H
1D(f)は、伝達関数H
1A_R(f)に収束する。
【0043】
同様に、適応フィルタAF2は、プローブ信号Xに応じた変調器SDM2(量子化器QT2)の出力信号S21を観測することで、変調器SDM2の実際の伝達関数を探索する。具体的には、ディジタル加減算器DAS42は、プローブ信号Xに応じた変調器SDM2(量子化器QT2)の出力信号S21と、適応フィルタAF2の出力信号S23との誤差を算出し、その算出結果となる誤差信号E2を生成する。適応フィルタAF2は、プローブ信号Xと当該誤差信号E2とに基づき、LMSアルゴリズムを用いて自身のフィルタ係数(タップ係数)を探索する。
【0044】
この際に、出力信号S21は、プローブ信号Xの注入箇所と量子化誤差Q
1の印加点が実質的に等しいことから、前述した量子化誤差Q
1に対する実際の伝達関数H
2A_R(f)を用いて“H
2A_R(f)・X”の成分を含む。出力信号S23は、“H
2D(f)・X”である。出力信号S21には、
図19で述べたように、厳密には、量子化誤差Q
1の成分や、量子化誤差Q
2の成分も含まれている。ただし、量子化誤差Q
1や量子化誤差Q
2の成分は、詳細は後述するが、ディジタル加減算器DAS42を介した適応フィルタAF2への入力信号という観点では無視することができる。適応フィルタAF2は、この出力信号S21と出力信号S23との誤差を最小にするタップ係数を探索する。その結果、適応フィルタAF2の伝達関数H
2D(f)は、伝達関数H
2A_R(f)に収束する。
【0045】
ノイズキャンセル回路NCUは、ノイズキャンセルフィルタNCF1,NCF2と、ディジタル加減算器DAS31とを備える。ディジタル加減算器DAS31は、
図19の場合と同様である。ノイズキャンセルフィルタNCF1,NCF2も、
図19のノイズキャンセルフィルタNCF1’,NCF2’と同様に、それぞれ、伝達関数H
2D(f),H
1D(f)を備える。ただし、
図19の場合と異なり、ノイズキャンセルフィルタNCF1は、適応フィルタAF2の探索結果に基づくタップ係数(すなわち伝達関数H
2A_R(f))を備え、ノイズキャンセルフィルタNCF2は、適応フィルタAF1の探索結果に基づくタップ係数(すなわち伝達関数H
1A_R(f))を備える。
【0046】
これにより、外部出力信号SOにおいて、量子化誤差Q
1をキャンセルすることが可能になる。また、プローブ信号Xも、量子化誤差Q
1と同じ経路で伝送されるため、外部出力信号SOにおいてキャンセルされる。その結果、外部出力信号SOには、
図19で説明したように、外部入力信号SIの成分と、ノイズシェーピングされた量子化誤差Q
2の成分とが含まれることになる。なお、プローブ信号Xは、例えば、±0.1といった1ビット(2値)のディジタル信号に定められ、ディジタル・アナログ変換回路DAC13は、基準電圧をVrefとして、当該プローブ信号Xを“±0.1×Vref(V)”等の電圧信号に変換する。また、プローブ信号Xの注入は、
図21の場合と異なり、外部入力信号SIのA/D変換処理と並行して(すなわちバックグラウンドで)行うことも可能である。
【0047】
《アナログ積分器ユニットの詳細》
図3は、
図2におけるアナログ積分器ユニットの構成例を示す回路ブロック図である。
図3に示すアナログ積分器ユニットINTUは、例えば、2個(すなわち2次)のアナログ積分器AINT1,AINT2と、アナログ加減算器ASi1,ASi2と、ディジタル・アナログ変換回路DACiと、複数のアンプ回路(α1,α2,β1)とを備える。アナログ積分器AINT1には、
図2のアナログ加減算器AS11(またはAS21)からの信号が入力される。ディジタル・アナログ変換回路DACiには、
図2の出力信号S11(または出力信号S21)が入力される。
【0048】
アナログ積分器AINT1の出力信号は、アンプ回路によって所定の係数α1が乗算されたのちアナログ加減算器ASi1に入力される。ディジタル・アナログ変換回路DACiの出力信号は、アンプ回路によって所定の係数β1が乗算されたのちアナログ加減算器ASi1に入力される。アナログ加減算器ASi1は、この2つの入力を加算し、アナログ積分器AINT2は、アナログ加減算器ASi1の加算結果を積分する。
【0049】
アナログ積分器AINT1の出力信号は、アンプ回路によって所定の係数α2が乗算されたのちアナログ加減算器ASi2に入力される。アナログ積分器AINT2の出力信号は、アナログ加減算器ASi2に入力される。アナログ加減算器ASi2は、この2つの入力を加算し、その加算結果をアナログ積分器ユニットINTUの出力信号として出力する。
【0050】
なお、アナログ加減算器ASi2には、加えて、変調器の入力信号(例えば、
図2の外部入力信号SI)がアンプ回路によって所定の係数α3が乗算されたのち入力される場合がある。また、アナログ積分器ユニットは、様々な構成が知られており、特に、
図3のような構成に限定されず、各種構成を適用することが可能である。アナログ積分器ユニットINTUの次数も、2次に限らず3次以上でもよく、場合によっては1次であってもよい。
【0051】
図4(a)は、
図3のアナログ積分器ユニットにおけるアナログ積分器の概略構成例を示す回路図であり、
図4(b)は、
図4(a)とは異なるアナログ積分器の概略構成例を示す回路図である。
図4(a)および
図4(b)のアナログ積分器は、連続時間型の積分器となる。
図4(a)のアナログ積分器AINT_Aは、抵抗Rと、コンデンサCと、オペアンプOPAMPとを含むRC型の積分器となっている。実際には、このようなシングルエンド型ではなく、差動型で構成される場合が多い。入力信号Viは、抵抗Rによって電流に変換され、当該電流に伴う電荷は、コンデンサCに蓄積される。その結果、入力信号Viの積分結果が出力信号Voとして得られる。
【0052】
オペアンプOPAMPの利得および帯域が共に無限大である場合、当該アナログ積分器AINT_Aは、理想的な積分器となる。ただし、実際のオペアンプOPAMPは、有限利得および有限帯域である。また、抵抗RやコンデンサCの特性も、実際には、製造ばらつき等によって理想的な特性からばらつく。その結果、
図20に示したように、実際の伝達関数H
1A_R(f),H
2A_R(f)は、理想状態の伝達関数H
1A(f),H
2A(f)とは異なる。
図2の構成例を用いると、このオペアンプOPAMPの有限利得および有限帯域の影響を含めた実際の伝達関数H
1A_R(f),H
2A_R(f)を探索することができる。これにより、オペアンプOPAMPの性能に対する要求が緩和され、動作電流の低減(省電力化)等を図れる場合がある。
【0053】
図4(b)のアナログ積分器AINT_Bは、電流アンプ(gmアンプ)OTAと、コンデンサCとを含む電流アンプ型の積分器となっている。実際には、このようなシングルエンド型ではなく、差動型で構成される場合が多い。入力信号Viは、電流アンプOTAの相互コンダクタンスgmに基づき電流に変換され、当該電流に伴う電荷は、コンデンサCに蓄積される。その結果、入力信号Viの積分結果が出力信号Voとして得られる。一般的に、電流アンプ型は、RC型に比べて電流を減らせるが、線形性が劣る。
【0054】
図5は、
図3のアナログ積分器ユニットにおけるアナログ積分器の他の概略構成例を示す回路図である。
図5のアナログ積分器AINT_Cは、スイッチトキャパシタによって構成され、離散時間型の積分器となる。実際には、このようなシングルエンド型ではなく、差動型で構成される場合が多い。当該アナログ積分器AINT_Cは、サンプリングクロックφ1で制御される2個のスイッチSWと、反転サンプリングクロックφ2で制御される2個のスイッチSWと、サンプリングコンデンサCsと、帰還コンデンサCfと、オペアンプOPAMPとを備える。入力信号Viは、サンプリングクロックφ1に応じてサンプリングコンデンサCsでサンプリングされ、反転サンプリングクロックφ2で帰還コンデンサCfに転送される。その結果、入力信号Viの積分結果が出力信号Voとして得られる。
【0055】
オペアンプOPAMPの利得が無限大であり、かつ出力信号Voの過渡応答がサンプリング周期毎に収束すれば、当該アナログ積分器AINT_Cは、理想的な積分器となる。後者に関しては、例えば、オペアンプOPAMPに十分な電流を流すことで保証される。一方、前者に関し、実際のオペアンプOPAMPは、有限利得である。その結果、
図20に示したように、実際の伝達関数H
1A_R(f),H
2A_R(f)は、理想状態の伝達関数H
1A(f),H
2A(f)とは異なる。
図2の構成例を用いると、このオペアンプOPAMPの有限利得の影響を含めた実際の伝達関数H
1A_R(f),H
2A_R(f)を探索することができる。
【0056】
ここで、
図2のMASH型シグマデルタADCにおいて、適応フィルタAF1,AF2は、伝達関数H
1A_R(f),H
2A_R(f)をz関数に基づき探索する。アナログ積分器ユニットINTU1,INTU2に、
図5のような離散時間型の積分器を用いた場合、各伝達関数H
1A_R(f),H
2A_R(f)はz関数に基づき定義できるため、適応フィルタAF1,AF2によって、各伝達関数H
1A_R(f),H
2A_R(f)そのものを探索することができる。
【0057】
一方、アナログ積分器ユニットINTU1,INTU2に、
図4(a)および
図4(b)のような連続時間型の積分器を用いた場合、各伝達関数H
1A_R(f),H
2A_R(f)は、厳密には、ラプラス関数(s関数)となる。このため、適応フィルタAF1,AF2は、当該ラプラス関数をz関数に変換した伝達関数を探索することになり、探索結果として、伝達関数H
1A_R(f),H
2A_R(f)そのものとは若干ズレた伝達関数が得られる場合がある。このような違いはあるが、いずれの積分器を用いた場合でも、伝達関数H
1A_R(f),H
2A_R(f)を適応フィルタAF1,AF2によって一意に探索できることに変わりはない。
【0058】
《アナログ加減算器の詳細》
図6は、
図2におけるアナログ加減算器の構成例を示す回路ブロック図である。
図6に示すアナログ加減算器ASは、入力抵抗Ri1,Ri2と、帰還抵抗Rfと、オペアンプOPAMPとを備える。入力信号(電圧信号)Vi1,Vi2は、それぞれ、入力抵抗Ri1,Ri2によって電流に変換され、その合計電流が帰還抵抗Rfによって電圧に変換される。その結果、入力信号Vi1,Vi2の加算結果が出力信号Voとして得られる。実際には、このようなシングルエンド型ではなく、差動型で構成される場合が多い。この場合、逆極性の入力信号(−Vi2等)も存在し、それを用いることで減算を行うことができる。
【0059】
オペアンプOPAMPの利得および帯域が共に無限大の場合、当該アナログ加減算器ASは、理想的な加減算器となる。この場合、出力信号Voは、式(1)となり、入力抵抗Ri1,Ri2の抵抗値によって加算の重みが設定される。しかし、オペアンプOPAMPは、実際には、有限利得かつ有限帯域である。その結果、
図20の場合と同様に、実際の伝達関数H
1A_R(f),H
2A_R(f)は、このアナログ加減算器ASによっても理想状態の伝達関数H
1A(f),H
2A(f)とは異なる場合がある。
図2の構成例を用いると、このアナログ加減算器AS内のオペアンプOPAMPの有限利得および有限帯域の影響を含めた実際の伝達関数H
1A_R(f),H
2A_R(f)を探索することができる。
【0060】
Vo=−(Rf/Ri1)・Vi1−(Rf/Ri2)・Vi2 (1)
なお、帰還抵抗Rfを帰還容量に置換すれば、加算と積分を一つのオペアンプOPAMPで実現することも可能である。すなわち、このような構成によって、
図2のアナログ加減算器AS11およびアナログ積分器ユニットINTU1や、アナログ加減算器AS21およびアナログ積分器ユニットINTU2を実現することも可能である。また、オペアンプOPAMPを用いずに、抵抗素子と容量素子で構成したパッシブな加算器、減算器を用いてもよい。その場合は、利得<1となるため、他の回路ブロックで利得を補償する必要がある。さらに、スイッチトキャパシタを用いて、離散時間型の加減算器や、離散時間型の加減算器および積分器を構成することも可能である。
【0061】
《適応フィルタの詳細》
図7(a)および
図7(b)は、
図2における適応フィルタの動作例を示す説明図である。
図8は、
図2における適応フィルタの構成例を示すブロック線図である。
図7(a)において、適応フィルタAF1は、プローブ信号Xに応じた変調器SDM1(量子化器QT1)の出力信号S11と、自身の出力信号S13との誤差となる誤差信号E1に基づき、LMSアルゴリズムを用いて誤差信号E1がゼロに近づくように自身のフィルタ係数(タップ係数)を探索する。具体的には、変調器SDM1のプローブ信号Xに応じた出力信号S11は、“H
1A_R(f)・X”となり、伝達関数H
1A_R(f)は、“a
0z
−0+a
1z
−1+a
2z
−2+a
3z
−3”で表すことができる。一方、適応フィルタAF1の出力信号S13は、“a
0(D)z
−0+a
1(D)z
−1+a
2(D)z
−2+a
3(D)z
−3”で定められる。適応フィルタAF1は、“a
0=a
0(D)”,“a
1=a
1(D)”,“a
2=a
2(D)”,“a
3=a
3(D)”となるようなa
0(D),a
1(D),a
2(D),a
3(D)を探索する。
【0062】
同様に、
図7(b)において、適応フィルタAF2は、プローブ信号Xに応じた変調器SDM2(量子化器QT2)の出力信号S21と、自身の出力信号S23との誤差となる誤差信号E2に基づき、LMSアルゴリズムを用いて誤差信号E2がゼロに近づくように自身のタップ係数を探索する。具体的には、変調器SDM2のプローブ信号Xに応じた出力信号S21は、“H
2A_R(f)・X”となり、伝達関数H
2A_R(f)は、“b
0z
−0+b
1z
−1+b
2z
−2+b
3z
−3”で表すことができる。一方、適応フィルタAF2の出力信号S23は、“b
0(D)z
−0+b
1(D)z
−1+b
2(D)z
−2+b
3(D)z
−3”で定められる。適応フィルタAF2は、“b
0=b
0(D)”,“b
1=b
1(D)”,“b
2=b
2(D)”,“b
3=b
3(D)”となるようなb
0(D),b
1(D),b
2(D),b
3(D)を探索する。
【0063】
図8には、
図7(a)の適応フィルタAF1の構成例が示される。
図7(b)の適応フィルタAF2に関しても同様の構成となる。
図8の適応フィルタAF1は、複数(ここでは4個)のタップ回路TP[0]〜TP[3]と、当該複数のタップ回路TP[0]〜TP[3]の出力信号を加算するディジタル加算器ADDとを備える。タップ回路TP[k](k=0,1,2,3)は、ディジタル乗算器MUL1,MUL2と、ディジタル積分器DINTとを備える。
【0064】
ディジタル乗算器MUL1は、誤差信号E1と、遅延プローブ信号X
kとを乗算する。ディジタル積分器DINTは、ディジタル乗算器MUL1の乗算結果に所定のステップ係数μ
kを乗算した値を積分する。ディジタル乗算器MUL2は、遅延プローブ信号X
kとディジタル積分器DINTの積分結果(a
k(D))とを乗算し、当該乗算結果をディジタル加算器ADDへ出力する。遅延プローブ信号X
kは、タップ回路TP[k]毎に異なり、プローブ信号Xをタップ回路TP[k]毎に異なる次数(z
−k)で遅延させた信号である。すなわち、タップ回路TP[0],TP[1],TP[2],TP[3]の遅延プローブ信号X
0,X
1,X
2,X
3は、それぞれ、z
−0・X,z
−1・X,z
−2・X,z
−3・Xとなる。
【0065】
ここで、タップ回路TP[0]を例に動作を説明する。他のタップ回路TP[1],TP[2],TP[3]に関しても同様である。誤差信号E1は、式(2)で表される。ディジタル乗算器MUL1は、サイクル毎に、式(3)に示されるように、誤算信号E1と遅延プローブ信号X
0(=z
−0・X)との相関を取ることで、z
−0・Xの目標タップ係数a
0に対する欠損量(a
0−a
0(D))を算出する。そして、当該欠損量にステップ係数μ
0を乗算することで、タップ係数a
0(D)を目標タップ係数a
0に近づけるための更新量“μ
0(a
0−a
0(D))”が算出される。
【0068】
ディジタル積分器DINTは、サイクル毎に当該更新量“μ
0(a
0−a
0(D))”を積分する。その結果、更新量“μ
0(a
0−a
0(D))”は順にゼロに近づいていき、ゼロに収束した時点で、ディジタル積分器DINTからは、目標タップ係数a
0に等しい積分結果(すなわちタップ係数a
0(D))が出力される。他のタップ回路TP[1],TP[2],TP[3]も同様に、更新量がゼロに収束した時点で、各ディジタル積分器DINTからは、目標タップ係数a
1,a
2,a
3に等しい積分結果(タップ係数a
1(D),a
2(D),a
3(D))がそれぞれ出力される。
図2のノイズキャンセルフィルタNCF2(例えばFIRフィルタやIIRフィルタ)には、このタップ係数a
0(D),a
1(D),a
2(D),a
3(D)が反映される。
【0069】
なお、タップ回路TP[0]における更新量には、式(3)に示されるように、実際には、“a
0−a
0(D)”を除く他の項の値(例えば、“a
1−a
1(D)・z
−1X・z
−0X”等)が含まれる。ただし、当該他の項の値に関しては、各遅延プローブ信号(例えば、z
−0Xとz
−1X)が互いに無相関であるため、当該他の項の値に関するディジタル積分器DINTの積分結果はゼロとなる。したがって、更新量に対する当該他の項の値の影響は無視することができ、更新量を“μ
0(a
0−a
0(D))”とみなすことができる。式(4)、式(5)、式(6)に示されるように、その他のタップ回路TP[1],TP[2],TP[3]における各更新量に関しても同様であり、例えば、タップ回路TP[1]における更新量は“μ
1(a
1−a
1(D))”とみなすことができる。
【0073】
また、例えば、
図7(a)における変調器SDM1の出力信号S11には、実際には、量子化誤差Q
1の成分や、外部入力信号SIの成分も含まれており、これらの成分は、式(2)の誤差信号E1にも含まれることになる。ただし、プローブ信号Xと量子化誤差Q
1は無相関であり、プローブ信号Xと外部入力信号SIも無相関である。このため、前述した他の項の値の場合と同様に、当該量子化誤差Q
1の成分や、外部入力信号SIの成分に対するディジタル積分器DINTの積分結果はゼロとなり、更新量に対するこれらの成分の影響も無視することができる。その結果、
図2で述べたように、出力信号S11における量子化誤差Q
1の成分や外部入力信号SIの成分は、ディジタル加減算器DAS41を介した適応フィルタAF1への入力信号という観点では無視することができる。
【0074】
このように、実施の形態1では、プローブ信号Xは、量子化誤差Q
1や外部入力信号SIと無相関な信号であり、各遅延プローブ信号X
0,X
1,X
2,X
3も互いに無相関な信号であることを前提としている。このため、プローブ信号Xは、擬似ランダム信号であることが望ましい。また、様々な周波数成分のプローブ信号Xを用いて適応フィルタAF1,AF2の探索を行う観点からも、プローブ信号Xは、擬似ランダム信号であることが望ましい。
【0075】
さらに、プローブ信号Xは、より望ましくは、1ビット(2値)の擬似ランダム信号であるとよい。1ビット(2値)の場合、2ビット(4値)以上の場合に比べて、
図2のディジタル・アナログ変換回路DAC13の特性ばらつきを小さくすることができる。具体的には、ディジタル・アナログ変換回路DAC13は、例えば、+Xの入力に応じて“+X×Vref(V)”を生成し、−Xの入力に応じて、“+X×Vref(V)”を反転させることで“−X×Vref(V)”を生成することができるため、±Xに応じた電圧振幅を均等に保つことができる。
【0076】
《アナログ・ディジタル変換器(変形例)の概略》
図9は、
図2のアナログ・ディジタル変換器を変形した概略構成例および動作例を示す回路ブロック図である。
図9に示すアナログ・ディジタル変換器は、
図2のアナログ・ディジタル変換器と比較して、ノイズキャンセルフィルタNCF1の入力信号が誤差信号E1となっており、ノイズキャンセルフィルタNCF2の入力が誤差信号E2となっている。
図2の構成例の場合、ノイズキャンセルフィルタNCF1の入力信号S11には、“H
1A_R(f)・X”の成分が含まれており、ノイズキャンセルフィルタNCF2の入力信号S21には、“H
2A_R(f)・X”の成分が含まれている。これらの成分は、量子化誤差Q
1と同様に、ディジタル加減算器DAS31でキャンセルされることになる。
【0077】
一方、
図9の構成例の場合、ノイズキャンセルフィルタNCF1の入力信号となる誤差信号E1には、適応フィルタAF1の動作に伴い“H
1A_R(f)・X”の成分は含まれておらず、ノイズキャンセルフィルタNCF2の入力信号となる誤差信号E2にも、適応フィルタAF2の動作に伴い“H
2A_R(f)・X”の成分は含まれていない。ただし、ノイズキャンセルフィルタNCF1に、直接的または間接的に、変調器SDM1(量子化器QT1)の出力信号(すなわち外部入力信号SIの成分および量子化誤差Q
1の成分)が入力される点に関しては、
図2と
図9とで違いは無い。同様に、ノイズキャンセルフィルタNCF2に、直接的または間接的に、変調器SDM2(量子化器QT2)の出力信号(すなわち量子化誤差Q
1の成分および量子化誤差Q
2の成分)が入力される点に関しても、
図2と
図9とで違いは無い。
【0078】
《実施の形態1の主要な効果》
以上、実施の形態1の方式を用いることで、アナログ積分器等に特性ばらつきが生じた場合であっても量子化誤差Q
1がキャンセルすることが可能になり、高分解能なアナログ・ディジタル変換器が実現可能になる。この際には、
図21に示した比較例の方式と異なり、各変調器SDM1,SDM2の出力信号をそれぞれ観測することで、1個の観測結果から1個のノイズキャンセルフィルタの調整を行うことができる。その結果、調整処理が簡素化され、解を容易に得ることや、解の精度(言い換えれば適応フィルタAF1,AF2の探索精度)を高めること等が可能になる。
【0079】
また、アナログ積分器の特性ばらつきに限らず、その他の各種回路の特性ばらつき(例えば、アナログ加減算器の特性ばらつきや、量子化器とディジタル・アナログ変換回路との間の基準電圧ミスマッチに伴う特性ばらつき等)も反映してノイズキャンセルフィルタNCF1,NCF2の調整を行うことができる。さらに、
図21に示した比較例の方式と異なり、外部入力信号SIに対するA/D変換を行いながら、これを並行して(すなわちバックグランドで)、適応フィルタAF1,AF2の探索動作を行うことが可能である。その結果、例えば、使用環境の変化等に伴い各種回路の特性変動が生じた場合であっても、それを早期にノイズキャンセルフィルタNCF1,NCF2に反映させることができる。これらによっても、高分解能なアナログ・ディジタル変換器が実現可能になる。
【0080】
(実施の形態2)
《アナログディジタル変換器(実施の形態2)の概略》
図10は、本発明の実施の形態2によるアナログ・ディジタル変換器の主要部の概略構成例および動作例を示す回路ブロック図である。
図10に示すMASH型シグマデルタADCは、
図2の構成例と比較して、変調器SDM1内のディジタル・アナログ変換回路DAC13およびアナログ加減算器AS12がディジタル加減算器DAS12に置き換わっている。これにより、プローブ信号Xは、量子化器QT1の出力信号に、ディジタル加減算器DAS12を介して注入される。すなわち、
図2の構成例と
図10の構成例は、プローブ信号Xをアナログ信号で注入するかディジタル信号で注入するかの違いとなる。
【0081】
《実施の形態2の主要な効果》
実施の形態2の方式を用いても、実施の形態1で述べた各種効果と同様の効果が得られる。また、
図2の構成例と比較して、アナログ加減算器AS12が不要となるため、電力を低減でき、かつ、アナログ加減算器AS12の利得不足や帯域不足にともなう加算値の誤差がないため、適応フィルタAF1,AF2による探索精度が良くなる場合がある。ただし、
図2の構成例と比較して、ディジタル・アナログ変換回路DAC11,DAC12に特殊な構成が必要とされる場合があり、この観点では、
図2の構成例の方が望ましい。
【0082】
具体的には、例えば、量子化器QT1を3ビット(8値)で構成した場合、量子化器QT1の出力信号は、−1,−3/4,−1/2,−1/4,0,1/4,1/2,3/4,1のような系列となる。プローブ信号Xを±0.1の2値とした場合、ディジタル・アナログ変換回路DAC11,DAC12には、例えば、0.85(3/4+0.1)、0.15(1/4−0.1)のようなディジタル値の入力に対応した構成が必要とされる。なお、プローブ信号Xの2値を例えば±1/4等とすれば特殊な構成は不要となる。ただし、このようにプローブ信号Xのディジタル値を量子化器QT1のディジタル値に揃えると、適応フィルタAF1,AF2による探索の収束性が低下する場合がある。
【0083】
(実施の形態3)
《アナログディジタル変換器(実施の形態3)の概略》
図11は、本発明の実施の形態3によるアナログ・ディジタル変換器の主要部の概略構成例および動作例を示す回路ブロック図である。
図11に示すMASH型シグマデルタADCは、
図2の構成例と比較して、変調器SDM2内のアナログ加減算器AS21がアナログ加減算器AS21aに置き換わり、変調器SDM1内のディジタル・アナログ変換回路DAC12を介したアナログ加減算器AS21への信号パスが削除されている。すなわち、変調器SDM1から変調器SDM2内のアナログ加減算器AS21aへの信号パスは、アナログ積分器ユニットINTU1の出力信号のみとなっている。
【0084】
例えば、
図3に示したようなアナログ積分器ユニットINTUの内部構成によっては、アナログ積分器ユニットINTU1の出力信号から量子化誤差Q
1の成分を抽出することができる。この場合、アナログ積分器ユニットINTU1の出力信号S14には、“H
PRE(f)・Q
1”の成分と、“H
PRE(f)・X”の成分とが含まれる。伝達関数H
PRE(f)は、“量子化誤差Q
1の印加点からアナログ積分器ユニットINTU1の出力信号S14までの伝達関数”である。
【0085】
このような出力信号S14に伴い、実施の形態1の場合と異なり、伝達関数H
2A_R(f)は、“H
PRE(f)・STF2”(STF2は、変調器SDM2の信号伝達関数)となる。適応フィルタAF2は、この伝達関数H
2A_R(f)を探索する。厳密には、前述したように、アナログ積分器ユニットINTU1,INTU2に
図4(a)および
図4(b)のような連続時間型の積分器を用いるか、
図5のような離散時間型の積分器を用いるかによって探索結果に差が生じ得るが、いずれの積分器を用いた場合でも、伝達関数H
2A_R(f)を適応フィルタAF2によって一意に探索できることに変わりはない。
【0086】
《実施の形態3の主要な効果》
実施の形態3の方式を用いても、実施の形態1で述べた各種効果と同様の効果が得られる。また、
図2の構成例と比較して、ディジタル・アナログ変換回路DAC12が不要となるため、回路面積の低減等が図れる。さらに、変調器SDM2への入力(すなわち回路構成)に柔軟性を持たせることが可能になる。すなわち、変調器SDM2への入力は、実施の形態1の場合のような量子化誤差Q
1やプローブ信号Xそのものである必要はなく、量子化誤差Q
1やプローブ信号Xに何らかの伝達関数H
PRE(f)が乗算された信号であってもよい。
【0087】
このような場合であっても、適応フィルタAF2は、伝達関数H
2A_R(f)を、実施の形態1における変調器SDM2の信号伝達関数(STF2)の代わりに“H
PRE(f)・STF2”として探索することができる。なお、実施の形態1の
図2の構成例においても、厳密には、変調器SDM2の入力は、量子化誤差Q
1やプローブ信号Xそのものとならない場合がある。例えば、アナログ積分器ユニットINTU1を連続時間型の積分器とした場合、変調器SDM2の入力は、厳密には、量子化器QT1からの離散的な信号と、アナログ積分器ユニットINTU1からの連続的な信号との差分に伴い、量子化誤差Q
1やプローブ信号Xに所定の伝達関数が乗算されたような信号となる。この場合も同様に、適応フィルタAF2は、当該所定の伝達関数を含めて探索することができる。
【0088】
(実施の形態4)
《アナログディジタル変換器(実施の形態4)の概略》
図12は、本発明の実施の形態4によるアナログ・ディジタル変換器の主要部の概略構成例および動作例を示す回路ブロック図である。
図12に示すMASH型シグマデルタADCは、
図2の構成例と比較して、次の3点が異なっている。1点目として、変調器SDM1内のアナログ加減算器AS11がアナログ加減算器AS11aに置き換えられ、変調器SDM2内のアナログ加減算器AS21がアナログ加減算器AS21aに置き換えられる。
【0089】
2点目として、アナログ加減算器AS12およびディジタル・アナログ変換回路DAC13が削除され、代わりに、プローブ信号Xを入力とするディジタル・アナログ変換回路DAC14,DAC15が追加される。ディジタル・アナログ変換回路DAC14の出力信号は、アナログ加減算器AS11aに入力され、ディジタル・アナログ変換回路DAC15の出力信号は、アナログ加減算器AS21aに入力される。3点目として、ディジタル加減算器DAS41がディジタル加減算器DAS41aに置き換えられる。ディジタル加減算器DAS41aには、
図2の場合と同様の出力信号S11,S13に加えて、プローブ信号Xが入力される。
【0090】
このように、
図12の構成例では、プローブ信号Xは、変調器SDM1の入力部分となるアナログ加減算器AS11aと、変調器SDM2の入力部分となるアナログ加減算器AS21aとに注入される。このような注入箇所に伴い、変調器SDM1(量子化器QT1)の出力信号S11は、
図2の場合と異なり、“{H
1A_R(f)−1}・X”となる。“H
1A_R(f)−1”は、変調器SDM1の信号伝達関数(SFT1)である。ディジタル加減算器DAS41aは、この“{H
1A_R(f)−1}・X”にプローブ信号Xを加算することで、
図2の場合と同様の信号“H
1A_R(f)・X”を内部で生成する。また、
図2の場合と異なり、アナログ加減算器AS11aに注入されたプローブ信号Xは、変調器SDM2には伝送されないため、ここでは、アナログ加減算器AS21aにもプローブ信号Xが注入される。
【0091】
《実施の形態4の主要な効果》
実施の形態4の方式を用いても、実施の形態1で述べた各種効果と同様の効果が得られる。また、プローブ信号Xの注入は、別途設けた1ビットのディジタル・アナログ変換回路DAC14,DAC15を介して行われるため、実施の形態2の
図10の場合のように、ディジタル・アナログ変換回路DAC11,DAC12に特殊な構成を用いる必要はなく、元々の構成をそのまま用いることができる。さらに、アナログ加減算器AS11a,AS21aは、例えば、
図6において、入力抵抗(図示しないRi3に相当)を追加することで実現できるため、これに伴う面積オーバヘッドも小さい。ただし、ディジタル・アナログ変換回路DAC14,DAC15と、ディジタル・アナログ変換回路DAC11,DAC12との間に利得ミスマッチがあると、適応フィルタAF1,AF2による探索精度が低下する恐れがあるため、この観点からは、
図10の構成例の方が望ましい場合がある。
【0092】
(実施の形態5)
《アナログディジタル変換器(実施の形態5)の概略》
図13は、本発明の実施の形態5によるアナログ・ディジタル変換器の主要部の概略構成例および動作例を示す回路ブロック図である。
図13に示すMASH型シグマデルタADCは、実施の形態2の
図10の構成例と、実施の形態3の
図11の構成例とを組み合わせたような構成となっている。すなわち、
図10の場合と同様に、プローブ信号Xは、量子化器QT1の出力信号にディジタル加減算器DAS12を介して注入され、
図11の場合と同様に、変調器SDM2のアナログ加減算器AS21aには、アナログ積分器ユニットINTU1の出力信号S14が入力される。
【0093】
《実施の形態5の主要な効果》
実施の形態5の方式を用いることで、実施の形態2および実施の形態3の場合と同様の効果が得られる。
【0094】
(実施の形態6)
《アナログディジタル変換器(実施の形態6)の概略》
図14は、本発明の実施の形態6によるアナログ・ディジタル変換器の主要部の概略構成例および動作例を示す回路ブロック図である。
図14に示すMASH型シグマデルタADCは、実施の形態3の
図11の構成例と、実施の形態4の
図12の構成例とを組み合わせたような構成となっている。すなわち、
図11の場合と同様に、変調器SDM2のアナログ加減算器AS21aには、アナログ積分器ユニットINTU1の出力信号S14が入力され、
図12の場合と同様に、プローブ信号Xは、変調器SDM1の入力部分のアナログ加減算器AS11aにディジタル・アナログ変換回路DAC14を介して注入される。この場合、出力信号S14には、プローブ信号Xの成分が含まれるため、
図12の場合のように、変調器SDM2の入力部分のアナログ加減算器AS21aにプローブ信号Xを、別途、注入する必要はない。
【0095】
《実施の形態6の主要な効果》
実施の形態6の方式を用いることで、実施の形態3および実施の形態4の場合と同様の効果が得られる。
【0096】
(実施の形態7)
《アナログディジタル変換器(実施の形態7)の概略》
図15は、本発明の実施の形態7によるアナログ・ディジタル変換器の主要部の概略構成例および動作例を示す回路ブロック図である。
図15に示すMASH型シグマデルタADCは、実施の形態1の
図2の構成例と比較して、アナログ積分器ユニットINTU1,INTU2が、それぞれ、アナログ積分器ユニットINTU1a,INTU2aに置き換えられ、さらに、調整回路PCC1,PCC2が追加された構成となっている。
【0097】
アナログ積分器ユニットINTU1a,INTU2aのそれぞれは、可変設定可能な回路パラメータを備える。具体的には、例えば、
図4(a)における抵抗Rが可変抵抗である構成や、オペアンプOPAMPのバイアス電流値が可変である構成等が挙げられる。調整回路PCC1は、適応フィルタAF1の探索結果に基づきアナログ積分器ユニットINTU1aの回路パラメータを調整し、調整回路PCC2は、適応フィルタAF2の探索結果に基づきアナログ積分器ユニットINTU2aの回路パラメータを調整する。
【0098】
例えば、適応フィルタAF1の探索結果となる伝達関数H
1D(f)は、
図7(a)に示したように、タップ係数a
k(D)(k=0,1,…)を含む。当該タップ係数a
k(D)は、アナログ積分器ユニットINTU1を構成するRC時定数、オペアンプの利得および帯域により解析的(数式的)に表現される。このため、調整回路PCC1は、タップ係数a
k(D)の値から、RC時定数、オペアンプの利得、帯域をデジタル演算により逆算することができ、その結果に基づいて、RC時定数、オペアンプの利得および帯域を調整する。
【0099】
また、適応フィルタAF1は、調整後に、探索を再度行ってもよい。すなわち、“適応フィルタAF1が伝達関数を探索したのちノイズキャンセルフィルタNCF2へ反映し、調整回路PCC1が適応フィルタAF1の探索結果に基づきアナログ積分器ユニットINTU1の調整を行う”というサイクルを複数回繰り返してもよい。適応フィルタAF2に関しても同様である。なお、ここでは、アナログ積分器ユニットINTU1a,INTU2aの両方が可変設定可能な回路パラメータを備えたが、いずれか一方が備えるように構成することも可能である。
【0100】
《実施の形態7の主要な効果》
実施の形態7の方式を用いても、実施の形態1で述べた各種効果と同様の効果が得られる。また、アナログ積分器ユニットINTU1a,INTU2aの特性ばらつきを予め定めた範囲内に収めることが可能になるため、ADCの周波数特性(すなわち、外部入力信号SIから外部出力信号SOへの伝達関数)を最適に調整することが可能になる。その結果、例えば、
図1のミリ波レーダシステムのように、複数のアナログ・ディジタル変換器ADC[1]〜ADC[n]を備えるシステムにおいて、複数のADC間の周波数特性のミスマッチを低減でき、レーダとしての精度の向上等が図れる。なお、各アナログ積分器ユニットINTU1a,INTU2aの回路パラメータの調整は、
図21の場合のような外部出力信号SOではなく、各変調器SDM1,SDM2の出力信号を観測することで行われるため、調整の容易化や調整精度の向上等も図れる。
【0101】
(実施の形態8)
《アナログディジタル変換器(実施の形態8)の概略》
図16は、本発明の実施の形態8によるアナログ・ディジタル変換器の主要部の概略構成例および動作例を示す回路ブロック図である。
図16に示すMASH型シグマデルタADCは、実施の形態1の
図2の構成例と比較して、周波数特性補正回路FSCが追加されている。周波数特性補正回路FSCは、ディジタル加減算器DAS31の出力信号に適応フィルタAF1,AF2の探索結果を反映させることで、ADCの周波数特性を補正したのちに外部出力信号SOを出力する。
【0102】
例えば、
図16には、ADCの周波数特性を“1”(すなわちフラットな周波数特性)に補正する場合の動作例が示されている。
図16において、変調器SDM1(量子化器QT1)の出力信号S11には、
図19でも述べたように、“STF1・SI”の成分が含まれる。信号伝達関数(STF1)は、“1−H
1A_R(f)”である。これに伴い、ノイズキャンセルフィルタNCF1の出力信号S12は、“H
1A2A_R(f)・SI”(H
1A2A_R(f)={1−H
1A_R(f)}・H
2A_R(f))の成分を含む。ノイズキャンセルフィルタNCF2の出力信号S22には、外部入力信号SIの成分は含まれていない。
【0103】
周波数特性補正回路FSCは、適応フィルタAF1,AF2の探索結果から、伝達関数H
1A_R(f),H
2A_R(f)を取得し、ADC全体の信号伝達関数となる伝達関数H
1A2A_R(f)(={1−H
1A_R(f)}・H
2A_R(f))の逆関数“1/H
1A2A_R(f)”を算出する。周波数特性補正回路FSCは、ディジタル加減算器DAS31の出力信号に当該逆関数“1/H
1A2A_R(f)”を乗算することで、ADCの周波数特性をフラットに補正する。
【0104】
《実施の形態8の主要な効果》
実施の形態8の方式を用いても、実施の形態1で述べた各種効果と同様の効果が得られる。また、実施の形態7の場合と同様に、複数のADC間の周波数特性のミスマッチを低減でき、例えば、ミリ波レーダシステムとしての精度の向上等が図れる。さらに、個々のADCにおいて、周波数特性の向上(広信号帯域化)が図れる。
【0105】
(実施の形態9)
《アナログディジタル変換器(実施の形態9)の概略》
図17は、本発明の実施の形態9によるアナログ・ディジタル変換器の主要部の概略構成例および動作例を示す回路ブロック図である。
図17に示すMASH型シグマデルタADCは、実施の形態1の
図2の構成例と比較して、次の3点が異なっている。1点目として、プローブ信号生成回路XGは、プローブ信号Xに加えて、別のプローブ信号X2を生成する。2点目として、変調器SDM2内のアナログ加減算器AS21はアナログ加減算器AS21bに置き換えられ、プローブ信号X2を当該アナログ加減算器AS21bに注入するディジタル・アナログ変換回路DAC22が追加される。3点目として、ノイズキャンセルフィルタNCF2には、誤差信号E2が入力される。
【0106】
このように、変調器SDM1,SDM2に対して、それぞれ異なるプローブ信号X,X2を注入することも可能である。プローブ信号X2は、例えば、プローブ信号Xと同様に1ビットの擬似ランダム信号であるが、プローブ信号Xとは異なるM系列によって生成され、プローブ信号Xとは無相関となる信号である。適応フィルタAF2は、変調器SDM2(量子化器QT2)の出力信号S21と自身の出力信号S23との誤差信号E2に基づいて伝達関数H
2A_R(f)を探索する。
【0107】
この際に、
図2の場合と異なり、出力信号S21には、“H
2A_R(f)・X2”の成分が含まれ、出力信号S23には、“H
2D(f)・X2”の成分が含まれる。なお、出力信号S21には、実際には、
図2の場合と同様に、“H
2A_R(f)・X”の成分も含まれる。ただし、プローブ信号Xとプローブ信号X2は無相関であり、適応フィルタAF2は、
図8におけるプローブ信号Xの代わりにプローブ信号X2を入力として探索を行うため、
図8で述べたように、出力信号S21におけるプローブ信号Xの成分は、適応フィルタAF2への入力として見た場合には無視できる。
【0108】
このような構成を用いると、プローブ信号X2は、変調器SDM2のみに注入されるため、プローブ信号Xと異なり、ノイズキャンセル回路NCUでキャンセルできなくなる。そこで、ノイズキャンセルフィルタNCF2には、プローブ信号X2がキャンセルされた信号となる誤差信号E2が入力される。誤差信号E2には、量子化誤差Q
1の成分に加えて、図示は省略されているが、量子化誤差Q
2の成分と、プローブ信号Xの成分とが含まれている。量子化誤差Q
1の成分とプローブ信号Xの成分は、ノイズキャンセル回路NCUによってキャンセルされる。
【0109】
《実施の形態9の主要な効果》
実施の形態9の方式を用いても、実施の形態1で述べた各種効果と同様の効果が得られる。ただし、適応フィルタAF2の探索精度の観点からは、実施の形態1の方式の方が望ましい場合がある。すなわち、適応フィルタAF2は、伝達関数H
2A_R(f)(すなわち量子化誤差Q
1の印加点から変調器SDM2の出力信号S21までの伝達関数)を探索する必要があるが、ここでは、変調器SDM2の信号伝達関数(STF2)を探索することになる。伝達関数H
2A_R(f)と信号伝達関数(STF2)は、必ずしも一致するとは限らない。例えば、実施の形態3でも述べたように、アナログ積分器ユニットINTU1に
図4(a)および
図4(b)に示したようなアナログ積分器を用いた場合や、
図17の構成を
図11のような構成に変形したような場合には、伝達関数H
2A_R(f)と信号伝達関数(STF2)にズレが生じ得る。
【0110】
(実施の形態10)
《アナログディジタル変換器(実施の形態10)の概略》
図18は、本発明の実施の形態10によるアナログ・ディジタル変換器の主要部の概略構成例および動作例を示す回路ブロック図である。
図18に示すMASH型シグマデルタADCは、実施の形態3の
図11の構成例と比較して、変調器SDM2がシグマデルタ型変調器の代わりにナイキスト型アナログ・ディジタル変換ユニットADCUとなっている。アナログ・ディジタル変換ユニットADCUは、量子化器QT2のみの構成となり、例えば、パイプライン型ADC、逐次比較型ADC、サイクリック型ADC、フラッシュ型ADC、または、それらの混合型となるADC等である。当該構成は、
図11における2段目の変調器の積分次数が0次である場合のMASH型シグマデルタADCとも言える。
【0111】
変調器SDM1からの出力信号S14には、
図11の場合と同様に、“H
PRE(f)・Q
1”の成分と、“H
PRE(f)・X”の成分とが含まれている。一方、ナイキスト型アナログ・ディジタル変換ユニットADCUの伝達関数は“z
−L”(Lは、A/D変換に要するクロック周期数)となる。適応フィルタAF2は、“z
−L・H
PRE(f)”を伝達関数H
2A_R(f)として探索を行う。
【0112】
《実施の形態10の主要な効果》
実施の形態10の方式を用いても、実施の形態3で述べた各種効果と同様の効果が得られる。また、ナイキスト型アナログ・ディジタル変換ユニットADCUのビット数は、シグマデルタ型変調器内の量子化器のビット数よりも大きくできるため、量子化誤差Q
2を低減できる。すなわち、
図11の構成例と比較して、量子化誤差Q
2に対する積分次数が小さくなる(結果としてノイズシェーピング効果が弱まる)代わりに、量子化誤差Q
2自体を低減できる。その結果、MASH型シグマデルタADCとしての高分解能化等が図れる。
【0113】
以上、本発明者によってなされた発明を実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。例えば、前述した実施の形態は、本発明を分かり易く説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施の形態の構成の一部を他の実施の形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施の形態の構成に他の実施の形態の構成を加えることも可能である。また、各実施の形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【0114】
例えば、ここでは、2段構成のMASH型シグマデルタADCを例としたが、同様にして、3段以上に拡張することも可能である。
【0115】
《付記》
(1)MASH(Multi stAge Noise SHaping)型およびシグマデルタ型のアナログ・ディジタル変換器の補正方法であって、
前記アナログ・ディジタル変換器は、
アナログ回路で構成される第1のアナログ積分器と、前記第1のアナログ積分器の出力信号を量子化する第1の量子化器とを含み、アナログ信号となる外部入力信号が入力される第1の変調器と、
前記第1の変調器の後段に結合され、第2の量子化器を含む第2の変調器と、
前記第1の量子化器の出力信号が入力される第1のノイズキャンセルフィルタと、前記第2の量子化器の出力信号が入力される第2のノイズキャンセルフィルタとを用いて前記第1の量子化器で生じる量子化誤差をキャンセルするノイズキャンセル回路と、
を有し、
前記補正方法は、
前記第1の変調器にプローブ信号を注入する第1のステップと、
前記プローブ信号に応じた前記第1の量子化器の出力信号を観測することで前記第1の変調器の伝達関数を探索する第2のステップと、
前記プローブ信号に応じた前記第2の量子化器の出力信号を観測することで前記第2の変調器の伝達関数を探索する第3のステップと、
前記第2のステップの探索結果を前記第2のノイズキャンセルフィルタのタップ係数に反映させる第4のステップと、
前記第3のステップの探索結果を前記第1のノイズキャンセルフィルタのタップ係数に反映させる第5のステップと、
を有するアナログ・ディジタル変換器の補正方法。
【0116】
(2)MASH(Multi stAge Noise SHaping)型およびシグマデルタ型のアナログ・ディジタル変換器であって、
アナログ回路で構成される第1のアナログ積分器と、前記第1のアナログ積分器の出力信号を量子化する第1の量子化器とを含み、アナログ信号となる外部入力信号が入力される第1の変調器と、
前記第1の変調器の後段に結合され、第2の量子化器を含むナイキスト型アナログ・ディジタル変換ユニットと、
前記第1の変調器にプローブ信号を注入するプローブ信号生成回路と、
前記プローブ信号に応じた前記第1の量子化器の出力信号を観測することで前記第1の変調器の伝達関数を探索する第1の適応フィルタと、
前記プローブ信号に応じた前記第2の量子化器の出力信号を観測することで前記ナイキスト型アナログ・ディジタル変換ユニットの伝達関数を探索する第2の適応フィルタと、
前記第1の適応フィルタの探索結果と前記第2の適応フィルタの探索結果とを用いて前記第1の量子化器で生じる量子化誤差をキャンセルするノイズキャンセル回路と、
を有するアナログ・ディジタル変換器。