特許第6945341号(P6945341)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6945341
(24)【登録日】2021年9月16日
(45)【発行日】2021年10月6日
(54)【発明の名称】増設基礎構造
(51)【国際特許分類】
   E02D 27/34 20060101AFI20210927BHJP
   E02D 27/01 20060101ALI20210927BHJP
【FI】
   E02D27/34 A
   E02D27/01 Z
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2017-95384(P2017-95384)
(22)【出願日】2017年5月12日
(65)【公開番号】特開2018-193672(P2018-193672A)
(43)【公開日】2018年12月6日
【審査請求日】2020年4月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(72)【発明者】
【氏名】小山 智子
【審査官】 亀谷 英樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−047933(JP,A)
【文献】 特開平09−137610(JP,A)
【文献】 特開2005−133296(JP,A)
【文献】 特開2014−173319(JP,A)
【文献】 特開2012−052358(JP,A)
【文献】 特開2001−090191(JP,A)
【文献】 特開2003−306948(JP,A)
【文献】 特開2015−161071(JP,A)
【文献】 特開2010−121358(JP,A)
【文献】 特開2005−155139(JP,A)
【文献】 特開2005−163452(JP,A)
【文献】 特開2014−214514(JP,A)
【文献】 特開平10−292637(JP,A)
【文献】 特開2005−113481(JP,A)
【文献】 特開2005−113622(JP,A)
【文献】 特開平08−184061(JP,A)
【文献】 特開平03−241172(JP,A)
【文献】 国際公開第02/092944(WO,A1)
【文献】 登録実用新案第3187006(JP,U)
【文献】 特開2003−074213(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 27/00−27/52
E04G 23/00−23/08
E01D 1/00−24/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
壁または柱に沿って複数の補強柱を立設する既存建物の耐震補強に伴う増設基礎構造であって、
既設基礎に接するように地盤上に形成されたコンクリート版と、
前記コンクリート版上に設けられて前記補強柱を支持する補強基礎梁と、
前記コンクリート版と前記補強基礎梁との間に介設された支承部と、を備えてなり、
前記コンクリート版は、少なくともその上部が前記既設基礎の側面にアンカーで一体に接続され、かつ、前記支承部は、前記補強柱の直下から前記コンクリート版の中央部側へずれた位置に配設されていることを特徴とする、増設基礎構造。
【請求項2】
前記補強基礎梁は、隣り合う前記補強柱同士の間に横架されていることを特徴とする、請求項1に記載の増設基礎構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、既設建物の補強工事に伴う増設基礎構造に関する。
【背景技術】
【0002】
既設建物の耐震補強工事において、既設建物の躯体に沿って、鉄骨架構を増設する場合がある(例えば、特許文献1参照)。
一方、中低層の構造物に対しては、表層を支持地盤とする直接基礎が広く採用されている。地耐力が比較的小さい地盤や、比較的緩い砂質地盤上に形成された直接基礎により支持されている既設建物に対して補強用の鉄骨架構(補強架構)を増設すると、建物の自重が大きくなるため、既存の基礎構造では十分な支持力を確保できない場合がある。
そのため、支持力を確保することを目的として、基礎を増設する場合がある。例えば、既存の基礎が布基礎や独立基礎である場合には、既存基礎同士の間の空間の一部分、または全体にラブルコンクリート(Rubble concrete)等を打設することで、既存の基礎と一体化された増設基礎構造を構築すればよい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−061204号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、基礎地盤の地耐力が不足していると、増設基礎構造によって支持力を増加させた場合であっても、増設された補強架構を介して既存の基礎の近傍に荷重が集中し、建物に不同沈下が生じるおそれがある。また、既存の躯体や配管が邪魔になって補強架構の柱の配置が制約を受けたり、荷重の偏在により基礎に偏心曲げモーメントが作用する場合には、例えば支点と基礎の中心位置を揃えることで偏心曲げをキャンセルし、地反力を増大させない工夫が必要となる。
このような観点から、本発明は、偏心曲げにより増大する地反力が生じないように、補強架構の柱の軸力を基礎に伝達する位置を調整することで、不同沈下を抑制することを可能とした増設基礎構造を提案することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決するために、本発明は、壁または柱に沿って複数の補強柱を立設する既存建物の耐震補強に伴う増設基礎構造であって、既設基礎に接するように地盤上に形成されたコンクリート版と、前記コンクリート版上に設けられて前記補強柱を支持する補強基礎梁と、前記コンクリート版と前記補強基礎梁との間に介設された支承部と、を備えてなり、前記コンクリート版は、少なくともその上部が前記既設基礎の側面にアンカーで一体に接続され、かつ、前記支承部は、前記補強柱の直下から前記コンクリート版の中央部側へずれた位置に配設されていることを特徴とする。
前記コンクリート版は、補強による荷重の増分を地盤に伝達するのに必要な強度や大きさ、耐力を備えており、必要に応じて鉄筋や繊維材で補強するが、設計荷重によってはコンクリートだけで構成される場合もある。
なお、前記コンクリート版は、ラブルコンクリート層と、前記ラブルコンクリート層の上に形成された鉄筋コンクリート層とを備えていると、補強架構からの荷重が直接作用する上面が補強されてより好ましい。この鉄筋コンクリート層は、前記既設基礎に一体に接続されているのが望ましい。
かかる増設基礎構造によれば、補強構造の増設に伴う荷重の増加に対する支持力を確保することができる。また、補強柱を介して基礎に作用する荷重は、補強基礎梁によって分散されるため、不同沈下を抑制することができる。
【0006】
前記増設基礎構造において、前記補強柱の直下から前記コンクリート版の中央部側へずれた位置において前記コンクリート版と前記補強基礎梁との間に支承部を介設し、前記コンクリート版と前記補強基礎梁との間に隙間を形成することが望ましい。前記支承部は、前記コンクリート版の上面に設けられたベースモルタル(敷きモルタル、モルタル団子)と、前記ベースモルタルの上面に設けられた鋼板とにより構成すればよい。
かかる増設基礎構造によれば、地震時等において、補強柱を介してコンクリート版に作用する荷重の作用位置をコントロールすることができるので、不同沈下を抑制することができる。
【発明の効果】
【0007】
本発明の増設基礎構造によれば、既存建物に対して耐震補強工事を施した場合であっても、十分な支持力を確保するとともに、不同沈下を抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の実施形態に係る耐震補強構造を示す断面図である。
図2】本実施形態に係る増設基礎構造を示す図であって、(a)は断面図、(b)は平断面図である。
図3】他の形態に係る増設基礎構造を示す図であって、(a)は断面図、(b)は平断面図である。
図4】支承部を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本実施形態では、既存建物1の耐震補強工事に伴い増設する増設基礎構造3について説明する。本実施形態の既存建物1の耐震補強工事では、建物内部に補強架構2を増設するとともに、増設基礎構造3を構築する。
補強架構2は、既存建物1の躯体(壁または柱等)11の近傍に沿って立設された補強柱21と、補強柱21同士の間に横架された補強梁22とを備えている。本実施形態の補強柱21は、上層階の既設床版12を貫通している。補強柱21と既設床版12との間に形成された隙間には、充填材13を充填する。なお、補強梁22を既設床版12の下面に沿って配設する場合には、補強柱21は既設床版12を貫通している必要はない。躯体11は、既設基礎14に支持されている。なお、既存建物1の既設基礎14の形状等は限定されるものではない。
【0010】
増設基礎構造3は、図2(a)に示すように、既設基礎14に接するように形成されたコンクリート版4と、コンクリート版4上に設けられた補強基礎梁5とを備えている。
コンクリート版4は、補強柱21の下方に形成されている。本実施形態のコンクリート版4は、図2(a)および(b)に示すように、既設基礎14の角部において、平面視矩形状に形成されている。コンクリート版4は、補強柱21を介して作用する荷重に対して、十分な支持力を確保できる面積を有している。本実施形態のコンクリート版4の幅は、既存建物1の躯体11(既設基礎14)の延長よりも小さい。なお、コンクリート版4の形状寸法は限定されるものではなく、躯体11(既設基礎14)の全長にわたって形成されていてもよい。なお、コンクリート版4は、図3(a)および(b)に示すように、対向する既設基礎14同士を連結するように形成してもよい。
【0011】
本実施形態のコンクリート版4は、ラブルコンクリート層(無筋コンクリート層)41と鉄筋コンクリート層42とを備えている。
ラブルコンクリート層41は、図2(a)に示すように、地盤にコンクリートを打設することにより形成されている。ラブルコンクリート層41の厚さは限定されるものではなく、既設基礎14の形状(高さ)や床の標高に応じて適宜決定すればよい。また、ラブルコンクリート層41を構成するコンクリートの配合等は限定されるものではなく、適宜決定すればよい。
【0012】
鉄筋コンクリート層42は、ラブルコンクリート層41の上面に、必要な配筋を行うとともに、コンクリートを打設することにより形成されている。鉄筋コンクリート層42に配筋される鉄筋の径や配筋ピッチ等は限定されるものではなく、適宜決定すればよい。また、鉄筋コンクリート層42に打設されるコンクリートの配合も限定されるものではなく、適宜決定すればよい。本実施形態の鉄筋コンクリート層42は、図2(a)および(b)に示すように、アンカー43により、既設基礎14に一体に接続されている。アンカー43は、既設基礎14と鉄筋コンクリート層42との当接面に対して、所定の間隔により複数本配設されている。なお、アンカー43の本数および配設ピッチは限定されるものではない。また、本実施形態では、アンカー43を上下2段で配設したが、アンカー43の段数は限定されるものではない。また、鉄筋コンクリート層42の既設基礎14への接続方法は限定されるものではなく、例えば、鉄筋コンクリート層42の鉄筋の端部を既設基礎14に挿入してもよい。
【0013】
補強基礎梁5は、補強柱21(補強架構2)を支持している。補強基礎梁5は、隣り合う補強柱21同士の間に横架されている。すなわち、本実施形態の耐震補強工事では、補強架構2と補強基礎梁5とを組み合わせることにより、枠状の構造体を形成する。図1に示すように、隣り合う補強柱21同士の間に間仕切り壁15等の既設部材が形成されている場合には、補強基礎梁5を挿通するための開口部を間仕切り壁15に形成する。なお、開口部と補強基礎梁5との間に形成された隙間は、モルタル等の充填材13により遮蔽する。補強基礎梁5を構成する材料は限定されるものではないが、本実施形態ではH形鋼を使用する。補強基礎梁5の上面には、補強柱21の脚部が固定されている。なお、補強基礎梁5と補強柱21との固定方法は限定されるものではないが、本実施形態ではボルト接合する。補強基礎梁5は、コンクリート版4の上面に形成された支承部6を介してコンクリート版4に上載されている。支承部6は、補強基礎梁5の長手方向に対して、コンクリート版4の中央部に形成されている。すなわち、コンクリート版4と補強基礎梁5との間には、支承部6が介設されていることにより隙間が形成されている。なお、支承部6の形成個所は、補強柱21の延長上からずれた位置であれば限定されるものではない。
【0014】
支承部6は、図4に示すように、コンクリート版4の上面に設けられたベースモルタル61と、ベースモルタル61の上面に設けられた鋼板62とからなる。ベースモルタル61は、上面が底面をよりも小さい円錐台状に形成されている。なお、ベースモルタル61の形状は限定されるものではなく、例えば、角錐台状であってもよいし、柱状であってもよい。鋼板62は、ブロック状に形成されたベースモルタル61の上面と同形状に形成されているが、支承部6に作用する荷重に対して必要な強度と大きさを備えている。
支承部6は、鉄筋コンクリート層42に埋め込まれた連結鉄筋44により、鉄筋コンクリート層42と一体に形成されている。連結鉄筋44は、支承部6を貫通して、補強基礎梁5の下フランジに固定されている。なお、支承部6は、必要に応じて形成すればよく、省略してもよい。
【0015】
以上、本実施形態の増設基礎構造3によれば、補強構造(補強架構2)の増設に伴う荷重の増加に対する支持力を確保することができる。また、補強柱21を介して基礎に作用する荷重は、補強基礎梁5によって基礎(コンクリート版4)に伝達されるため、基礎の中心に支持点を近づけることになる。これにより偏心曲げをなくして地反力の増大を防ぎ、不同沈下を抑制することができる。
補強基礎梁5とコンクリート版4との間に隙間が形成されているため、地震時等において補強柱21に作用する荷重は、補強柱21の直下に直接的に作用せず、補強基礎梁5および支承部6を介し、補強柱21の直下からずれた位置に作用する。本実施形態では、補強柱21を介して基礎部分に作用する荷重は補強基礎梁5および支承部6を介してコンクリート版4の中央部に作用する。そのため、当該荷重はコンクリート版4によって分散されて、コンクリート版4の直下の基礎地盤に均等に作用し、その結果、不同沈下が抑制される。言い換えると、偏心曲げによる対策を講じることで、基礎(コンクリート版4)の底面で応力が不均等となって圧縮側の必要地耐力が確保できない事態が生じないようにしている。
【0016】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、前述の実施形態に限られず、前記の各構成要素については本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更が可能である。
例えば、前記実施形態では、コンクリート版4が2層構造である場合について説明したが、コンクリート版4の構成はこれに限定されるものではない。例えば、補強柱21の荷重を基礎に均等に伝達し、偏心曲げによる地反力の増大を防いだりして、所定の地耐力を確保することができれば、ラブルコンクリート層41を省略して1層構造としてもよい。また、鉄筋コンクリート層42は、必ずしも既設基礎14に対して一体に固定する必要はない。
また、前記実施形態では、コンクリート版4に対して支承部6を1か所に形成する場合について説明したが、支承部6の箇所数は限定されない。基礎の底面で応力をなるべく均等にするという主旨の範囲であれば、補強基礎梁5の延長方向に対して、所定の間隔をあけて複数の支承部6を形成してもよい。
【符号の説明】
【0017】
1 既存建物
11 躯体
14 既設基礎
2 補強架構
21 補強柱
22 補強梁
3 増設基礎構造
4 コンクリート版
41 ラブルコンクリート層
42 鉄筋コンクリート層
43 アンカー
5 補強基礎梁
6 支承部
61 ベースモルタル(敷きモルタル)
62 鋼板
図1
図2
図3
図4