(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記燃焼室内の燃料を点火するための点火プラグによる点火タイミングにおける前記点火プラグの周りの空気と前記燃料との混合気が、前記燃焼室内の平均当量比よりも大きい請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の燃料噴射制御装置。
前記燃料噴射装置は、弁体と、前記弁体が着座する座面を有する弁座部と、前記弁体を駆動させる可動子と、駆動電流が流れることで前記可動子を駆動するコイルと、を備えており、
前記噴射制御部は、前記圧縮行程における少なくともいずれか1回の燃料の噴射において、前記弁体の移動量を、最大の移動量よりも少ない移動量に制御する
請求項1から請求項9のいずれか一項に記載の燃料噴射制御装置。
【発明を実施するための形態】
【0013】
いくつかの実施形態について、図面を参照して説明する。なお、以下に説明する実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではなく、また実施形態の中で説明されている諸要素およびその組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0014】
まず、第1実施形態に係るエンジンシステムについて説明する。
【0015】
図1は、第1実施形態に係るエンジンシステムの概略全体図である。
【0016】
エンジンシステム100は、燃料噴射装置101と、燃料噴射制御装置の一例としてのECU(エンジンコントロールユニット)150とを備える。エンジンシステム100のエンジン(内燃機関)は、直接噴射式エンジンであり、複数(
図1の例では、4つ)の気筒108のそれぞれに対して、気筒108内の燃焼室107に燃料の噴霧が直接噴射されるように燃料噴射装置101が設置されている。図示しない燃料タンクに貯留された燃料は、燃料ポンプ106によって昇圧されてレール状の燃料配管105に送出され、燃料配管105から各燃料噴射装置101に配送されるようになっている。燃料配管105には、燃料配管105内の燃料の圧力(燃料圧力:燃圧と称する)を測定する圧力センサ102が設置されている。
【0017】
燃料配管105内の燃料圧力は、燃料ポンプ106によって吐出された燃料の流量と、各燃料噴射装置101によって各燃焼室107に噴射された燃料の噴射量(燃料噴射量)とのバランスによって変動する。
【0018】
本実施形態では、ECU150が、圧力センサ102から出力されるセンサ情報(燃圧値を示す情報)に基づいて、燃料配管105内の燃圧が所定の目標圧力値となるように、燃料ポンプ106の吐出量を制御する。
【0019】
燃料噴射装置101による燃料の噴射は、ECU150のCPU104から送出される噴射パルスによって制御される。この噴射パルスは、ECU150の駆動回路103に入力される。駆動回路103は、CPU104からの指令に基づいて駆動電流波形を決定し、噴射パルスに基づく時間だけ燃料噴射装置101に駆動電流波形を供給する。
【0020】
なお、ECU150の駆動回路103と、CPU104とは、一体の部品や、基板として実装されてもよい。
【0021】
次に、燃料噴射装置101およびECU150の構成と基本的な動作を説明する。
【0022】
図2は、第1実施形態に係る燃料噴射装置の縦断面図およびECUの接続関係を示す図である。
図3は、第1実施形態に係る燃料噴射装置の一部の拡大断面図である。
【0023】
ECU150のCPU104は、エンジンの状態を示す各種信号を各種センサから取り込んで、エンジンの運転条件に応じて燃料噴射装置101から噴射する燃料の噴射量を制御するための噴射パルスの幅や噴射タイミングの演算を行う。CPU104は、演算結果に対応する噴射パルスを駆動回路103に出力する。
【0024】
CPU104は、各種センサからの信号を取り込むための図示しないA/D変換器、I/Oポート等を備えている。各種センサとしては、例えば、エンジン回転数(回転速度)を測定可能なセンサ(例えば、エンジンの図示しないクランク軸の回転角を検出するセンサ)や、燃料配管105内の燃圧を測定する圧力センサ102や、排気温度を測定する排気温度センサ等がある。
【0025】
CPU104から出力される噴射パルスは、信号線110を通して駆動回路103に入力される。駆動回路103は、燃料噴射装置101のソレノイド205に印加する電圧を制御し、電流を供給する。CPU104は、通信ライン111を通して、駆動回路103と通信可能であり、燃料噴射装置101に供給されている燃料の圧力や運転条件等によって駆動回路103により生成する駆動電流を切替えるように制御したり、駆動電流および電流を出力する時間の設定値を変更したりすることができる。
【0026】
燃料噴射装置101は、通常時閉型の電磁弁(電磁式燃料噴射装置)であり、コイルの一例としてのソレノイド205と、可動子202と、弁体214とを備える。燃料噴射装置101は、ソレノイド205が通電されていない状態では、スプリング210によって弁体214が閉弁方向に付勢され、弁体214が弁座218に密着した状態(閉弁状態)となっている。
【0027】
可動子202は、戻しばね212によって開弁方向へ付勢されている。閉弁状態においては、スプリング210により弁体214に作用する力が、戻しばね212による力に比べて大きいため、可動子202が弁体214のつば部302に接触し、静止した状態となっている。
【0028】
弁体214と可動子202とは、相対変位可能に構成されており、ノズルホルダ201に内包されている。ノズルホルダ201は、戻しばね212のばね座となる端面304を有している。スプリング210による付勢力は、固定コア207の内径に固定されるバネ押さえ224の押し込み量によって組み立て時に調整されている。
【0029】
燃料噴射装置101においては、固定コア207、可動子202、ノズルホルダ201、およびハウシング203によって磁気回路が構成されている。可動子202と、固定コア207との間には、空隙301が設けられている。ノズルホルダ201の空隙301に対応する部分(空隙301の外周側)には、磁気絞り211が形成されている。
【0030】
ソレノイド205は、ボビン204に巻き付けられた状態でノズルホルダ201の外周側に取り付けられている。ノズルホルダ201の弁体214の弁座218側の先端部の近傍となる位置には、ロッドガイド215が固定されている。このような構成により、弁体214は、弁体214のつば部303と固定コア207とが摺動する箇所と、弁体214とロッドガイド215とが摺動する箇所との2つの摺動箇所により、弁軸方向(図面上下方向)にガイドされて動くようになっている。ノズルホルダ201の先端部には、弁座218と燃料噴射孔219とが形成されたオリフィス216が固定されている。このような構成により、弁体214の先端部と、オリフィス216の弁座218とが接触することにより、ノズルホルダ201と弁体214との間の内部空間(燃料通路)を封止した状態(閉弁状態)にできるようになっている。
【0031】
燃料配管105から燃料噴射装置101に供給された燃料は、燃料噴射装置101が閉弁状態の場合においては、燃料通路孔231を通って弁体214の先端側まで流れるが、弁体214の弁座218側の先端部分と弁座218とが接触しており、内部がシールされているのでオリフィス219の燃料噴射孔219を介して外部に噴射されない。燃料噴射装置101が閉弁状態の場合には、燃料圧力によって弁体214の上部と下部との間に差圧が生じ、燃料圧力と弁座位置における受圧面積とを乗じて求まる差圧力およびスプリング210の荷重によって弁体214が閉弁方向に押されている。
【0032】
燃料噴射装置101が閉弁状態の場合において、ソレノイド205への電流の供給が開始されると、磁気回路に磁界が生じ、固定コア207と可動子202との間に磁束が通過して、可動子202に磁気吸引力が作用する。可動子202に作用する磁気吸引力が、差圧力およびスプリング210による荷重を越えるタイミングで、可動子202は、固定コア207の方向に変位を開始する。そして、弁体214が開弁動作を開始した後、可動子202は固定コア207に近づくように移動し、可動子202が固定コア207に衝突する。このように可動子202が固定コア207に衝突した後には、可動子202は固定コア207からの反力を受けて跳ね返る動作をするが、可動子202に作用する磁気吸引力によって可動子202は固定コア207に吸引され、やがて停止し、開弁動作を終了する。このとき、可動子202には、戻しばね212によって固定コア207の方向に力が作用しているため、跳ね返りが収束するまでの時間を短縮できる。跳ね返り動作が小さいことで、可動子202と固定コア207との間のギャップが大きくなってしまう時間が短くなり、より小さい噴射パルス幅に対しても安定した動作が行えるようになる。
【0033】
このようにして開弁動作を終えた可動子202および弁体214は、開弁状態で静止する。開弁状態では、弁体214と弁座218との間には隙間が生じており、燃料噴射孔219より燃料が噴射される。なお、燃料通路孔231を通って供給される燃料は、固定コア207に設けられた中心孔と、可動子202に設けられた下部燃料通路孔305を通過して下流方向(燃料噴射孔219側)へ流れる。
【0034】
この後、燃料噴射装置101のソレノイド205への通電が断たれると、磁気回路中に生じていた磁束が消滅し、磁気吸引力も消滅する。このように可動子202に作用する磁気吸引力が消滅すると、可動子202および弁体214は、スプリング210の荷重と、差圧力とによって、弁座218に接触する閉弁位置に押し戻される。
【0035】
このように、弁体214が開弁状態から閉弁状態となる際には、弁体214が弁座218と接触した後、可動子202が弁体214から分離して閉弁方向に移動して、或る程度の時間運動した後に、戻しばね212の作用によって、閉弁状態の初期位置まで戻される。このように、弁体214が閉弁状態となる瞬間に可動子202が、弁体214から離間することで、弁体214が弁座218と衝突する瞬間の可動部材の質量を可動子202の質量分だけ低減することができるため、弁座218と衝突する際の衝突エネルギーを小さくすことができ、弁体214が弁座218に衝突することによって生じる弁体214のバウンドを抑制できる。
【0036】
本実施形態に係る燃料噴射装置101では、開弁時に可動子202が固定コア207と衝突した瞬間と、閉弁時に弁体214が弁座218と衝突した瞬間との短い時間において、弁体214と可動子202とに相対的な変位を生じることにより、可動子202の固定コア207に対するバウンドや、弁体214の弁座218に対するバウンドを抑制することができる。
【0037】
次に、第1実施形態に係るECUの構成について説明する。
【0038】
図5は、第1実施形態に係るECUの詳細な構成図である。
【0039】
ECU150は、取得部、噴射制御部、点火制御部、吸気制御部、過給制御部、及び回転速度取得部の一例としてのCPU104と、駆動回路103とを内蔵している。CPU104は、燃料噴射装置101の上流の燃料配管105に取り付けられた圧力センサ102、気筒108内への流入空気量を測定するA/F(Air Flow)センサ、燃焼室107から排出された排気ガスの酸素濃度を検出するための酸素センサ、クランク角センサ等のエンジンの状態を示す信号(情報)を取得するセンサ等からセンサ値を取り込み、内燃機関の運転状態に応じて燃料噴射装置101から噴射する燃料噴射量を制御するための噴射パルスTi(すなわち噴射量に相当)や噴射タイミングの演算を行い、通信ライン504を通して駆動回路103の駆動IC502に噴射パルス幅Tiを出力する。また、CPU104は、内燃機関の運転条件に応じて点火プラグ604を点火する制御を行う。駆動IC502は、噴射パルス幅Tiに基づいて、スイッチング素子505,506,507の通電・非通電を切り替えて燃料噴射装置101へ駆動電流を供給する。
【0040】
CPU104には、噴射パルス幅の演算等のエンジンの制御に必要な数値データを記憶させるために、レジスタおよびメモリが搭載されている。なお、レジスタおよびメモリを、ECU150内のCPU104以外に搭載するようにしてもよい。
【0041】
スイッチング素子505,506,507は、例えばFETやトランジスタ等によって構成され、燃料噴射装置101への通電・非通電を切り替えることができる。
【0042】
スイッチング素子505は、駆動回路103に入力された低電圧源(例えば、バッテリ)からの低電圧(バッテリ電圧)VBよりも高い電圧を出力する高電圧源(昇圧回路514)と、燃料噴射装置101のソレノイド205の高電圧側の端子(高圧端子)590との間に接続されている。ここで、バッテリ電圧VBの電圧値は、例えば、12から14V程度である。高電圧源の初期電圧値である昇圧電圧VHは、例えば60Vであり、バッテリ電圧VBを昇圧回路514によって昇圧することで生成される。昇圧回路514は、例えばDC/DCコンバータ等により構成するようにしてもよく、
図5に示すように、コイル530、トランジスタ531、ダイオード532、およびコンデンサ533で構成するようにしてもよい。
図5に示す昇圧回路514の場合、トランジスタ531をONにすると、バッテリ電圧VBは接地電位534側へ流れる一方、トランジスタ531をOFFにすると、コイル530に発生する高い電圧がダイオード532を通して整流され、コンデンサ533に電荷が蓄積される。昇圧回路514から出力される電圧が昇圧電圧VHとなるまで、トランジスタ531のON・OFFが繰り返し実行され、コンデンサ533の電圧が増加される。トランジスタ531は、駆動IC502もしくはCPU104と接続されて、駆動IC502もしくはCPU104によりON・OFFが制御される。昇圧回路514から出力される電圧は、駆動IC502もしくはCPU104で検出される。
【0043】
ソレノイド205の高圧端子590とスイッチング素子505との間には、高電圧源から、ソレノイド205、接地電位515の方向に電流が流れるようにダイオード535が設けられており、また、ソレノイド205の高圧端子590とスイッチング素子507との間にも、バッテリから、ソレノイド205、接地電位515の方向に電流が流れるようにダイオード511が設けられている。このため、スイッチ素子506を通電している間は、バッテリからスイッチング素子506を通って接地電位515に電流が流れるようになっているので、接地電位515から、ソレノイド205、バッテリ、および高圧電源へ向けては電流が流れられない構成となっている。
【0044】
また、スイッチング素子507は、低電圧源(バッテリ)と燃料噴射装置101の高圧端子590と間に接続されている。スイッチング素子506は、燃料噴射装置101の低電圧側の端子591と接地電位515の間に接続されている。駆動IC502は、電流検出用の抵抗508,512,513により、燃料噴射装置101に流れている電流値を検出し、検出した電流値によって、スイッチング素子505,506,507の通電・非通電を切替え、所望の駆動電流を生成している。ダイオード509と510とは、燃料噴射装置101のソレノイド205に逆電圧を印加し、ソレノイド205に供給されている電流を急速に低減するために備え付けられている。CPU104は、駆動IC502と通信ライン503を通して、通信を行っており、燃料噴射装置101に供給する燃料の圧力や運転条件によって駆動IC502によって生成する駆動電流を切替えることが可能である。また、抵抗508,512,513の両端は、駆動IC502のA/D変換ポートに接続されており、抵抗508,512,513の両端にかかる電圧を駆動IC502で検出できるように構成されている。
【0045】
次に、CPU104から出力される噴射パルスと、燃料噴射装置101のソレノイド205の端子両端の駆動電圧と、駆動電流(励磁電流)と、燃料噴射装置101の弁体214の変位量(弁体挙動)との関係について説明する。
【0046】
図4は、燃料噴射装置を駆動する際における一般的な、噴射パルス、駆動電圧、駆動電流、および弁体変位量についての時間変化を示す図である。
【0047】
駆動IC502にCPU104からの噴射パルス(ON)が入力されると、駆動IC502は、スイッチング素子505,506を通電してバッテリ電圧よりも高い電圧401(昇圧回路514により昇圧された昇圧電圧VH)をソレノイド205に印加して、ソレノイド205への電流の供給を開始する。駆動IC502は、ソレノイド205への電流値が予めCPU104において定められたピーク電流値I
peakに到達すると、高電圧401の印加を停止する。その後、駆動IC502は、スイッチング素子505、スイッチング素子506、およびスイッチング素子507を非通電にする。この結果、燃料噴射装置101のインダクタンスによる逆起電力によって、ダイオード509とダイオード510とが通電し、電流が高圧電源(昇圧回路514)側へ帰還され、燃料噴射装置101に供給されていた電流は、電流402のようにピーク電流値I
peakから急速に低下する。なお、ピーク電流値I
peakから電流403(保持電流)への移行期間にスイッチング素子506をONにするようにしてもよく、このようにすると、逆起電力エネルギーによる電流は接地電位515側に流れ、電流が回路内を回生し、ソレノイド205には、ほぼ0Vの電圧が印加されて電流は緩やかに低下することとなる。
【0048】
電流値が所定の電流値404より小さくなると、駆動IC502は、スイッチング素子506を通電し、バッテリ電圧VBの印加をスイッチング素子507の通電・非通電を制御することにより、所定の電流403が保たれるように制御するスイッチング期間を設けるように動作する。ここで、燃料噴射装置101に供給される燃料圧力が大きくなると、弁体214に作用する流体力が増加し、弁体214が目標開度に到達するまでの時間が長くなる。この結果、ピーク電流I
peakの到達時間に対して目標開度への到達タイミングが遅れる場合があるが、電流を電流402のように急速に低減すると、可動子202に働く磁気吸引力も急速に低下するため、弁体214の挙動が不安定となり、場合によっては通電中にも関わらず閉弁を開始してしまう場合がある。ピーク電流I
peakから電流403の移行中にスイッチング素子505をONにして電流を緩やかに減少させるようにすると、磁気吸引力の低下を抑制でき、高燃料圧力での弁体214の安定性を確保でき、噴射量のばらつきを抑制できる。
【0049】
このような駆動電流のプロファイルにより、燃料噴射装置101は駆動される。高電圧401の印加からピーク電流値I
peakに達するまでの間に、可動子202および弁体214がタイミングt
41で変位を開始し、その後、可動子202および弁体214が最大高さ位置に到達する。可動子202が最大高さ位置に到達したタイミングt
42で、可動子202が固定コア207に衝突し、可動子202が固定コア207との間でバウンド動作を行う。弁体214は可動子202に対して相対変位可能に構成されているため、弁体214は可動子202から離間し、弁体214の変位は、最大高さ位置を越えてオーバーシュートする。その後、保持電流403によって生成される磁気吸引力と戻しばね212の開弁方向への力によって、可動子202は、所定の最大高さ位置で静止し、弁体214は可動子202に着座して最大高さ位置で静止し、開弁状態となる。
【0050】
なお、弁体と可動子とが一体となっている可動弁を持つ燃料噴射装置の場合には、弁体の変位量は、最大高さ位置よりも大きくならず、最大高さ位置に到達後の可動子と弁体の変位量は同等となる。
【0051】
次に、第1実施形態に係るエンジンの気筒内およびエンジン周囲の構成について説明する。
【0052】
図6は、第1実施形態に係るエンジンの気筒内およびエンジン周囲の構成についての模式図である。
図6に示すエンジンは、エンジンの気筒108内に直接燃料を噴射する筒内直接噴射方式のエンジン(直噴エンジン)である。
図6は、エンジンの気筒108内の中心における断面図であり、燃料噴射装置101のオリフィス216の先端部から燃料が噴射された直後の状態を示している。なお、吸気バルブ605を2個備え、排気バルブ610を2個備えている直噴エンジンでは、エンジンの筒内の中心における断面では、吸気バルブ605および排気バルブ610は見えないが、
図6では、説明上、吸気バルブ605と排気バルブ610とを図示している。
【0053】
エンジンは、燃料噴射装置101と、点火プラグ604と、吸気ポート607と、排気ポート608と、ピストン609と、吸気バルブ605と、吸気バルブ610とを備える。
【0054】
ピストン609の点火プラグ604側の面(冠面)には、ピストン609の点火プラグ604側の上端部よりも低いキャビティ606が形成されている。このキャビティ606は、燃料噴射装置101から噴射された燃料と吸気ポート607から吸気された空気との混合気を一時的に保持する機能を有している。ここで、本実施形態では、キャビティ606とは、ピストン609の点火プラグ604側の冠面において、上端部から最も深い(点火プラグ604側から最も遠い)部分のことをいう。キャビティ606は、点火プラグ604のマイナス電極612とプラス電極613との間の火花が発生する発火位置を含む領域である空隙617のピストン609のストローク方向(摺動方向)の延長線618がキャビティ606内となるような範囲に形成されている。本実施形態では、キャビティ606は、ストローク方向に垂直な方向については、吸気ポート607側(図面左側)から、空隙617のピストン609のストローク方向の延長線618との交点よりも排気ポート608側(図面右側)となる範囲まで形成されている。このような構成により、キャビティ606に保持された混合気が、点火プラグ604の空隙617の直下(延長線618上)に位置することとなるので、キャビティ606の混合気を点火プラグ604側に引き上げることにより、点火プラグ604よる点火によって効果的に燃焼させることができる。
【0055】
吸気ポート607には、吸気ポート607の上部流路(第1流路)620と下部流路(第2流路)611とに空気の流れを分断する固定式の隔壁602が取り付けられており、その下部流路611の上流には、下部流路611側の開閉(解放・遮断)を行うバルブ601が設けられている。このバルブ601は、CPU104により開弁・閉弁を制御できるように構成されている。
図6においては、バルブ601が閉弁している状態を示している。
【0056】
次に、エンジンにおける吸気及び排気に関わる構成の一部について説明する。
【0057】
図7は、第1実施形態に係るエンジンの吸気系及び排気系の一部の構成図である。
【0058】
エンジンの燃焼室107には、図示しない吸気口から、エアークリーナー701、過給室704、インタークーラー705、スロットルバルブ706、吸気ポート607を介して、空気が吸入される。エアークリーナー701は、吸入した空気中のごみを取り除く。これにより、エンジンにごみが吸入されて、エンジン内部が摩耗等することが抑制される。
【0059】
過給室704には過給機702が備えられている。過給機702は、吸気側の空気を圧縮するコンプレッサ702Aと、排気側に配置され排気ガスの流れにより回転されるタービン702Bと、コンプレッサ702Aと、タービン702Bとを接続するシャフト707とを備える。過給機702においては、タービン702Bが排気ガスの流速に応じて回転され、シャフト707を介してコンプレッサ702Aが回転され、その結果、コンプレッサ702Aの回転により、エアークリーナー701を通過した空気が圧縮されてインタークーラー705側に流される。この結果、エンジンの燃焼室107への流入空気量を増加することができ、エンジンの出力を向上することができる。なお、過給室704を通過した空気は、コンプレッサ702Aにより圧縮されるので、温度が上昇する。
【0060】
インタークーラー705は、コンプレッサ702Aで圧縮された温度が上昇した空気を冷却する。スロットルバルブ706は、エンジンの燃焼室107に吸入する空気量を調整する。スロットルバルブ706の開度は、図示しないアクセルの開度等に基づいて、ECU150により制御される。
【0061】
吸気ポート607には、吸気バルブ605が設けられており、所定のタイミングで吸気バルブ605を開弁することにより、エンジンの燃焼室107内に空気が流入する。
【0062】
エンジンにおいては、吸気ポート607側のピストン609のストローク方向と交わる方向から燃焼室107に向けて燃料を噴射するように燃料噴射装置101が配置されている。
【0063】
エンジンの燃焼室107においては、流入した空気と、燃料噴射装置101から噴射された燃料とが混合されて混合気となり、点火プラグ604による着火により、燃焼される。この混合気の燃焼により発生する力がピストン609、コンロッド(コネクティングロッド)710を介して、図示しないクランクシャフトに伝達される。
【0064】
燃焼室107において混合気が燃焼して発生した排気ガスは、膨張行程に排気バルブ610が開弁された際に、排気ポート608を通過して、過給機702のタービン702Bを回転させる。タービン702Bを回転させた排気ガスは、触媒703を通過して、外部に排出される。触媒703は、例えば、パラジウム、ロジウム、プラチナなどにより作製された触媒を有する3元触媒であり、排ガス中に含まれるHC、NOx、CO(一酸化炭素)を触媒により還元をさせたり、酸化させたりすることにより除去する。この触媒703は、温度が低い場合では、還元能力が低いため、例えば、エンジンの始動直後においては、触媒703の温度を早期に暖めるための暖機が必要となる。
【0065】
次に、エンジン動作時の一般的な噴射タイミングの制御について説明する。
【0066】
図8は、エンジン動作時の一般的なクランク角度と、噴射タイミングとの関係を示す図である。
図8において、横軸は、クランクシャフトの角度(クランク角度)を示し、縦軸は、吸気バルブのリフト量、燃焼室107の空気の乱れ速度(Turbulent velocity)、タンブル(tumble)を示す。
図8においては、吸気バルブ605のリフト量を点線で示し、エンジンの燃焼室107内の空気の乱れ速度の平均値を破線で示し、燃焼室107内のタンブルを実線で示す。クランク角度は、吸気行程のTDC(上死点)を−360degとし、BDC(下死点)を-180degとし、圧縮行程のTDCを0degとしている。
【0067】
ECU150は、ピストン609がTDCに到達するタイミングt81かつ排気バルブ610が閉弁する直前または同時のタイミングにおいて、吸気バルブ605の開弁を開始させ、燃焼室107に空気を取り込む。
【0068】
次いで、ECU150は、吸気バルブ605が開弁を開始し、最大リフトに到達するまでの間のタイミングt82(クランク角度−300deg)において、吸気行程802における噴射を行う。
【0069】
次いで、ECU150は、ピストン609がBDCに到達し、圧縮行程803に入り、ピストン609がTDCに到達する前のタイミングt83(クランク角度−60deg)において圧縮行程の噴射を行う。
【0070】
次いで、ECU150は、ピストン609がTDCに到達した後のタイミングt84において、点火プラグ604による点火を行って、混合気に着火させて燃焼させる。
【0071】
ここで、点火するタイミングt84において点火プラグ604の電極周りに混合気を確保するためには、圧縮行程803の噴射量を多くすることが考えられるが、圧縮行程803では燃料噴射装置101とピストン609との距離が近いため、燃料噴射装置101から噴射した燃料がピストン609に付着し、HCやPNが増加する場合があった。
【0072】
次に、本実施形態に係る燃料噴射装置101から噴射される噴霧の状態について説明する。
【0073】
図9は、
図6のA−A’’断面において、燃料噴射装置の方向を向いた場合における燃料噴射装置のオリフィスから噴射される燃料噴霧についての投影図である。
【0074】
燃料噴射装置101は、複数の燃料噴射孔を有するマルチホールタイプの燃料噴射装置である。燃料噴射装置101は、例えば、点火プラグ604を指向する噴霧D1を形成する燃料噴射孔と、吸気バルブ605に近い方向へ噴射される噴霧D2,D6のそれぞれを形成する2つの燃料噴射孔と、ピストン側609を指向する噴霧D3,D4,D5のそれぞれを形成する3つの燃料噴射孔との合計6つの燃料噴射孔を備える。
【0075】
燃料噴射装置101による噴霧をこのようにしたのは、圧縮行程における燃料の噴射において、噴霧D4をキャビティ606に入れて、点火プラグ604の近傍に当量比の高い混合気を形成するコンセプトに基づいている。キャビティ606の大きさや、噴射タイミングによっては噴霧D1,D2,D6をキャビティ606内に入れるようにしてもよい。第1実施形態における燃料噴射装置101では、噴霧D1,D2,D6に比べて、ピストン609方向を指向する噴霧D3,D4,D5の流量を小さくするように構成するとよい。この構成により、圧縮行程に燃料を噴射する場合であっても、ピストン609への燃料付着を抑制できるため、PNやHCを低減することができる。具体的には、噴霧D1,D2,D6の燃料噴射孔に比べて、噴霧D3,D4,D5の燃料噴射孔の断面積を小さくするように、例えば、燃料噴射孔の径を小さくするとよい。
【0076】
次に、第1実施形態に係る触媒暖機時の燃料圧力が高い(燃料圧力が所定の目標燃圧以上)場合における燃料の噴射タイミングについて説明する。
【0077】
図10は、第1実施形態に係る触媒暖機時の燃料圧力が高い場合におけるクランク角度と、噴射タイミングとの関係を示す図である。
図10において、横軸は、クランク角度を示し、縦軸は、吸気バルブのリフト量、燃焼室107の空気の乱れ速度の平均値、タンブルを示す。
図10においては、吸気バルブ605のリフト量を点線で示し、エンジンの燃焼室107内の乱れ速度の平均値を破線で示し、燃焼室107内のタンブルを実線で示す。クランク角度は、吸気行程のTDC(上死点)を−360degとし、BDC(下死点)を-180degとし、圧縮行程のTDCを0degとしている。タンブルは、反時計回り方向を+とし、時計回り方向を−としている。
【0078】
図11は、第1実施形態に係るエンジンの筒内の空気流動の速度ベクトルを示す図である。
図11(a)は、エンジンの燃焼室107内の空気の乱れ速度が最大となるタイミングt108での空気流動の速度ベクトルを示し、
図11(b)は、タンブル(絶対値)が最大となるタイミングt110での空気流動の速度ベクトルを示している。
【0079】
ここで、触媒暖機時であるか否かについては、ECU150は、例えば、エンジン始動からの時間が所定時間以内であるとの条件や、触媒703の温度が所定温度以下であるとの条件等の触媒暖機を行う所定の条件を満たすか否かにより判断することができる。
【0080】
触媒暖機時であり、且つ燃圧が目標燃圧よりも高い場合においては、ECU150は、ピストン609が吸気行程1002のTDCからBDCへ移行する吸気行程1002に少なくとも1回の燃料噴射を行うように燃料噴射装置101を制御する。この吸気行程1002における燃料噴射は、ピストン609の燃焼室107内に均質な混合気を作り出すための噴射であり、燃料噴射の噴射タイミングt102は、吸気バルブ605が開弁を開始するタイミングt101から吸気バルブ606が最大リフト1001に到達するタイミングt103までの間に設定するとよい。
【0081】
吸気行程1002における燃料噴射では、ピストン609がBDCへ向けて移動しており、燃料噴射装置101とピストン609との距離が圧縮行程1003に比べて長いが、圧縮行程1003に比べて噴射量が多いため、噴射した燃料がボア壁面に付着しやすい。なお、吸気行程1002と圧縮行程1003との燃料の分割比は、吸気行程1002の燃料噴射量が多くなるように設定し、たとえば6:4、7:3、8:2程度とするとよい。
【0082】
エンジンの燃焼室107内の空気の乱れ速度が最大となるタイミングは、吸気バルブ605の開弁の速度に依存して決まり、吸気バルブ605がタイミングt101で開弁を開始した後、吸気バルブ615の断面積が大きくなったタイミングt108で最大値となる。ただし、
図11(a)に示すように、タイミングt108では、ピストン609の位置がTDCに近く、エンジンの燃焼室107内の縦方向の距離が小さいため、縦方向の渦であるタンブルは形成されていないか、もしくは小さい。タンブルは、ピストン605の速度が最大となる吸気行程1002のTDCからBDCの中間のタイミングt109(クランク角度−270deg)以降のタイミングt110において、最大となる。タイミングt110におけるタンブル1101は、
図11(b)に示すように、時計回りの流動が最も強くなっている。
【0083】
ECU150は、吸気行程1002の噴射1004の噴射を開始するタイミングt102から噴射を終了するタイミングt104までの期間1007(以降、噴射期間と称する)が、タンブルが最大となるタイミングt110と重なるように吸気行程1002の噴射タイミングt102を決定する。このようにタンブルが強い際に燃料噴射を行うことで、混合気がタンブルに巻き込まれるため、吸気行程1002における燃料の噴射量を大きくしても、シリンダ壁面614への燃料付着を抑制することができ、排気ガスにおけるHCとPNの低減が可能となる。
【0084】
ここで、タンブルが最大となるタイミングt110は、前述したとおり、ピストン609の速度が最大となるタイミングt109(クランク角度−270deg)以降かつ吸気バルブ605のリフト量が最大となるタイミングt103までにくるため、ECU150は、クランク角度−270deg以降かつ吸気バルブ605のリフト量が最大となる期間1008に吸気行程1002の噴射期間1007の少なくとも一部が重なるように噴射タイミングt102を設定するとよい。この際、ECU150は、図示しないクランクシャフトに取り付けたクランク角センサからセンサ値(クランク角情報)を取得しているので、このクランク角情報に基づいて、期間1008を算出して、噴射タイミングt102を設定することができる。
【0085】
このように吸気行程1002における燃料噴射の噴射タイミングを制御することで、エンジン回転数や、運転条件等により吸気バルブ605の開弁開始のタイミングt101が変わった場合であっても適切に吸気行程1002の噴射のタイミングt102を設定することができる。この結果、シリンダ壁面614への燃料付着を抑制でき、PNおよびHCの低減効果を高めることができる。
【0086】
次に、燃料噴射装置101のオリフィス216について説明する。
【0087】
図22は、第1実施形態に係る燃料噴射装置のオリフィスの拡大図である。
図23は、
図22の断面B−B’でのオリフィスの断面図である。
【0088】
オリフィス216には、燃料噴射孔2301,2302,2303,2304,2305,2306の6つの燃料噴射孔が形成されている。各燃料噴射孔から噴射される噴霧は、それぞれ、
図9に示す噴霧D1,D2,D3,D4,D5,D6に対応する。なお、燃料噴射孔2301,2302,2306が第1燃料噴射孔に対応し、燃料噴射孔2303,2304,2305が第2燃料噴射孔に対応する。
【0089】
第1実施形態に係る燃焼室107においては、
図6に示す隔壁602とバルブ601を閉弁することにより、吸気ポート607の上部流路620に吸入された空気が流れるようになり、燃焼室107内において時計回りの空気流動であるタンブル1101が形成されることとなる。このため、タンブル方向に噴射される噴霧D1,D2,D6の流量を、ピストン方向に噴射される噴霧D3,D4,D5の流量よりも大きく設定することで、噴射した噴霧を含む混合気が流動に乗りやすくなり、吸気行程1002におけるピストン609やシリンダ壁面614への燃料付着を抑制でき、HCの低減効果を高めることができる。
【0090】
ここで、燃料噴射孔から噴射される燃料噴射量Qは、燃料噴射孔の断面積をAo、燃料噴射孔の出口の燃料の流速をVとすると、以下の式(1)で表される。
【0092】
式(1)によると、断面積Aoを小さくする、すなわち、燃料噴射孔の径を小さくすることで、燃料噴射量を小さくすることができ、断面積Aoを大きくする、すなわち、燃料噴射孔の径を大きくすることで、燃料噴射量を大きくすることができる。
【0093】
このことから、噴霧D1,D2,D6の流量を、噴霧D3,D4,D5の流量よりも大きくするためには、燃料噴射孔2301、2302、2306の内径(例えば、燃料噴射孔2301の内径2311(
図23))が燃料噴射孔2303、2304、2305の内径(例えば、燃料噴射孔2304の内径2314(
図23参照))よりも大きくなるように構成すればよい。
【0094】
また、噴霧D1,D2、D6においては、噴霧D1よりも、噴霧D2,D6の方が位置的に吸気バルブ605へ近い方向へ噴射され、流動の影響を受けやすいので、噴霧D1よりも、噴霧D2,D6の燃料噴射量を大きくしてもよい。これを実現するためには、噴霧D2,D6の燃料噴射孔2302,2306の断面積を、噴霧D1の燃料噴射孔2301の断面積よりも大きくすればよい。
【0095】
この構成によれば、バルブ601を閉弁して流動が強くなった条件においても噴霧D2,D6が流動の影響を受けにくくなり、混合気を形成しやすい。結果、エンジンの燃焼室107内の混合気の均質性を高めることができ、NOxを低減する効果が得られる。
【0096】
触媒暖機時においては、点火タイミングをリタード(遅角)させるため、燃焼が不安定となる場合がある。この場合は、バルブ601を閉じることで、点火タイミングにおけるエンジンの燃焼室107内の空気の乱れ速度を確保し、燃焼速度の低下をおさえることで、安定した燃焼が可能となる。したがって、触媒暖機時においては、ECU150は、バルブ601を閉じるように制御するとよい。
【0097】
また、噴霧D1,D2,D6は、噴霧D3,D4,D5に比べて噴霧の貫徹力すなわち到達距離(ペネトレーションと称する)が短くなるようにしてもよい。このためには、気筒108のボア径(内径)、すなわちピストン609の外径を小さくし、ピストン609のストロークを大きくすることで、ピストン609の速度を向上させて、圧縮行程でタンブルの崩壊を促進させることが有効である。気筒108のボア径が小さくなると、吸気行程1002の噴射1004で噴射された燃料がシリンダ壁面614に付着しやすくなるため、噴霧D3、D4,D5に比べて噴霧D1、D2、D6の到達距離を短くすることで、吸気行程1002での燃料付着を抑制し、HCおよびPNを低減する効果が高まる。
【0098】
第1実施形態に係る噴霧D1、D2、D3、D4、D5、D6の構成は、例えば、ボアとストロークとの比率が1.0よりも大きいロングストロークのエンジンに適用すると効果が高い。また、圧縮行程1003において燃料を噴射する場合であっても、噴霧D3,D4,D5の噴射量が、噴霧D1,D2,D6の噴射量よりも小さいことで、ペネトレーションが長くてもピストン609に付着する燃料を抑制する効果がある。噴霧D3,D4,D5よりも噴霧D1,D2,D6のペネトレーションを短くする方法としては、噴霧D3,D4,D5の燃料噴射孔2303,2304,2305の上流側にテーパー部を設けるようにする方法がある。具体的には、
図23に示すように、燃料噴射孔2304の上流側にテーパー部2424を設けることで、燃料噴射孔2304の入り口面2434で、燃料が燃料噴射孔に入る際の燃料の剥離を抑制することができ、噴霧出口面での流速分布を均一化することで、ペネトレーションを低減することができる。
【0099】
また、燃料噴射装置101とピストン609との幾何学的な距離は、噴霧D3,D5に比べて噴霧D4のほうが短くなるため、噴霧D3,D5よりも噴霧D4の到達距離を短くするようにしてもよい。このようにすると、ピストン609への燃料付着を抑制し、HCおよびPNの低減効果を高めることができ、さらに噴霧D3,D5の到達距離を確保することにより、燃焼室107内の空間全体に燃料を拡散しやすくなり、混合気の均質性を高め、NOxの発生を低減することができる。
【0100】
また、噴霧D2、D6に比べて噴霧D1の到達距離が短くなるように設定してもよい。噴霧D1は噴霧D2,D6に比べてシリンダ壁面614への幾何学的な距離が短く、また、噴霧D1は噴霧D2,D6に比べて吸気バルブ605との距離があるため、流動の影響を受けにくい。したがって、吸気行程1002に噴射する場合、噴霧D2,D6に比べて噴霧D1の到達距離を短くしておくことで、噴霧のシリンダ壁面614への燃料付着をおさえてHCおよびPNの低減効果を高められる。
【0101】
上記した燃料噴射装置101の構成は、
図6に示すように、シリンダ壁面614のサイドに取り付けられる燃料噴射装置、すなわち、サイド噴射を対象とした場合に効果が高まる。これは、点火プラグ604の近くに燃料噴射装置101が構成されるセンタ噴射を対象とした場合には、点火タイミング直前で燃料を噴射すれば、点火プラグの電極周りの当量比を確保できるが、サイド噴射では、燃料噴射装置101と点火プラグ604のプラス電極613とマイナス電極612との幾何学的な距離がセンタ噴射の場合に比べて長いため、以下に詳述するように、圧縮行程における燃料噴射を2回以上に分割する効果が顕著に現れるためである。
【0102】
次に、触媒暖機時の燃料圧力が高い場合における圧縮行程における燃料噴射の噴射制御について、
図10及び
図12を参照して説明する。
【0103】
図12は、第1実施形態における、各クランク角度の時点におけるエンジンの燃焼室内の混合気の当量比の分布を示す図である。
図12においては、クランク角度−70、−55、−40、−10、+20deg.ATDC(After TDC)における燃焼室107内の当量比の分布を等高線により示している。
図12中においては、等高線上に当量比の値を表示している。
【0104】
ECU150は、圧縮行程1003における燃料噴射として、圧縮行程1003の1回目の噴射1005(点火タイミングの直前よりも前(本実施形態では、2つ前)の噴射)と、2回目の噴射1006(点火タイミングの直前の噴射)の少なくとも2つに設定する。本実施形態では、ECU150は、例えば、圧縮行程1003の1回目の噴射1005をタイミングt105(−60deg)とし、圧縮行程1003の2回目の噴射タイミング1006をタイミングt106(−40deg)としている。
【0105】
圧縮行程1003の1回目の噴射1005(点火タイミングt107の直前の噴射よりも前の噴射)は、ピストン609のキャビティ606に混合気1201を形成するように作用し、2回目の噴射1006(点火タイミングt107の直前の噴射)によると、キャビティ606に形成された混合気1201を、点火プラグ604のマイナス電極612側に持ち上げるように作用する。
【0106】
ここで、
図12に示すように、噴霧D1の重心の軸を重心軸1203とし、噴霧D4の重心の軸を重心軸1204とすると、重心軸1204は、キャビティ606が近いため、ピストン609の壁面(上面)とのせん断抵抗で噴霧D4の流速が遅くなるのに対し、重心軸1203は、ピストン609の壁面(上面)との距離が長く、せん断抵抗が小さいため、噴霧D1の流速は、噴霧D4に比べて維持される。すなわち、噴霧の流速は、噴霧D4に比べて噴霧D1のほうが速くなるため、エンジンの燃焼室107内で圧力差が生じて、圧縮行程1003の1回目の噴射1005でキャビティ606に形成された混合気1201は、マイナス電極612の方向へ押し上げられる。この結果、微小な噴射量でも点火タイミングt107において、点火プラグ604のマイナス電極612とプラス電極613の周辺(空隙617)に理論空燃比よりもリッチな混合気を形成でき、TDCよりもリタードした点火タイミングにおいて、安定的に着火することができる。
【0107】
ここで、ECU150は、圧縮行程1003の1回目の噴射1005と、2回目の噴射1006とにおける燃料噴射量の合計が、吸気行程1002における1回目の噴射1004の燃料噴射量よりも小さくなるように設定するようにするとよい。吸気行程1002においては、圧縮行程1003に比べて、燃料噴射装置101とピストン609との幾何学的な距離が長く、かつ燃焼室107内のタンブルが強いため、噴射された燃料が流動し易く、シリンダ壁面614やピストン609の壁面へ付着しにくい。一方、圧縮行程1003において、燃料噴射装置101とピストン609との距離が小さいため、噴射された燃料がピストン609に付着し易い。したがって、圧縮行程1003よりも吸気行程1002における燃料噴射量を多くすることで、燃焼室107内の当量比をストイキに設定し易く、かつ圧縮行程1002における燃料噴射での燃料付着を抑制し、HCおよびPNを低減できる。
【0108】
ECU150は、圧縮行程1003における2回目の噴射1006の噴射タイミングとして、点火タイミングt107よりも前、かつ、圧縮行程1003のTDCよりも前に設定する。燃料を噴射してから燃焼室107内に差圧が生じて、混合気が持ち上がるには、噴霧の到達速度、弁体214の開弁遅れに起因する時間遅れが生じるため、TDCよりも前に圧縮行程1003の2回目の噴射(点火タイミングt107の直前の噴射)の噴射タイミングt106を設定することで、点火タイミングt107で点火プラグ604の周りにリッチな混合気を確実に形成することができる。この結果、燃焼安定性が改善し、点火リタード量を大きくすることができ、触媒703の早期昇温(暖機時間の短縮)に伴うHCの低減効果を高めることができる。
【0109】
例えば、触媒暖機の期間1303(
図13参照)における点火リタードの量は、過給気がないNA(自然吸気)のエンジン構成では、例えば、10deg以上に設定し、過給気702があるエンジン構成においては、15deg以上に設定するようにしてもよい。過給機702があると燃焼室107内から触媒703までの排気系の質量が増加するため、排気の温度をNAに比べて大きくする必要がある。過給機702がある構成では、例えば、北米のSULEV(Super Ultra Low Emission Vehicle)30の排気規制をクリアするための実測値として、点火リタード量を15deg以上とすることで、排気系の質量が増加する場合であっても、触媒703を確実に昇温させて、HC低減が可能となる。
【0110】
上述した圧縮行程1003の1回目の噴射1005と、2回目の噴射1006とにおける噴射タイミングと噴射量とは、エンジンの燃焼室107内の平均当量比よりも点火プラグ604の電極周りの当量比が濃くなるように決定すればよい。エンジンの燃焼室107の平均当量比よりも点火プラグ604の電極周りの当量比を濃くすることで、確実に混合気に着火でき、燃焼安定性を高めることができ、点火リタード量を大きくすることができる。この結果、触媒703を昇温するまでの時間を短縮でき、HCの低減効果を高めることができる。
【0111】
また、燃料噴射装置101に供給する燃料の圧力、すなわち燃料配管105内の燃料圧力が高い場合には、圧縮行程1003の1回目の噴射1005における燃料噴射量に比べて、2回目の噴射1006の燃料噴射量を小さくなるように設定してもよい。ここで、圧縮行程1003の1回目の噴射1005においては、キャビティ606での混合気形成が目的であるため、一定量以上の燃料噴射量を噴射する必要があるが、圧縮行程1003の2回目の噴射1006においては、エンジンの燃焼室107内に差圧を作り出すことが目的である。したがって、圧縮行程1003の2回目の噴射1006においては、噴霧の流速が確保できていればよいので、圧縮行程1003の2回目の噴射1006の燃料噴射量は、圧縮行程1003の1回目の噴射1005の燃料噴射量よりも少なくてもよく、このようにしても点火プラグ604の電極周りの当量比を大きくすることができる。また、圧縮行程1003においては、TDCに近づくほど燃料噴射装置101とピストン609との距離が近くなるため、噴射した噴霧がピストン609の冠面に付着しやすい。したがって、TDCに近づく時点における噴射(ここでは、2回目の噴射1006)における燃料噴射量を小さくすることで、ピストン609への燃料付着を抑制し、PNおよびHCを低減する効果を得ることができる。また、点火タイミングt107において、当量比が大きい領域(燃料が濃い領域)が複数あると、PNが増加してしまうが、上記したように、圧縮行程1003の2回目の噴射1006の燃料噴射量を圧縮行程1003の1回目の噴射1005の燃料噴射量よりも少なくするように制御することで、当量比が濃い領域の数を抑制でき、PNの低減効果を高めることができる。
【0112】
圧縮行程1003では、燃焼室107の内圧が高まることから噴霧の貫徹力が低下する場合がある。そこで、圧縮行程1003の2回目の噴射1006の噴射タイミングは、噴霧がキャビティ606に到達するまでの遅れ時間を考慮し、キャビティ606の排気管側終端部1202(
図12参照)よりも噴霧D1の重心軸1203がピストン609のストローク方向において点火プラグ604側(上側)にあり、且つ、噴霧D4の重心軸1204の延長軸1207とピストン609との交点1205がキャビティ606内にあるタイミングに設定するとよい。このような噴射タイミングとすることで、圧縮行程1003の1回目の噴射1005で形成した噴霧を確実にキャビティ606にいれることができる。これにより、点火タイミングt107における点火プラグ604のプラス側電極613とマイナス側電極612との周りの当量比を大きくすることができる。この結果、点火タイミングt107をTDCからリタードさせても燃焼安定性が高められ、触媒703の早期昇温を実現でき、HCの抑制を早期に実現することができる。
【0113】
具体的には、圧縮行程1003の1回目の噴射1005の噴射タイミングt105は、例えば、クランク角度−100から−40degの範囲(クランク角度−100deg以上−40deg以下)に設定するとよい。
【0114】
圧縮行程TDC前に、タンブルが最大となるタイミングは、エンジンの燃焼室107の縦方向(ストローク方向)の距離と、径方向の距離との比であるアスペクト比で決まる。径方向の距離は、ピストンの外径604で決まるため一定であり、圧縮行程1003において、ピストン604がBDCからTDCへ移動すると、縦方向の距離が小さくなり、アスペクト比が小さくなる。このアスペクト比の減少に応じて、クランク角度−120degとなるタイミングt111付近からタンブル、及び乱れ速度が増加に転じ、圧縮行程1003のTDCの手前−40deg付近で空気の乱れ速度が圧縮行程1003における最大値となるタイミングt112がくる。圧縮行程1003の2回目の噴射1006における噴射タイミングt106は、噴射1006における噴射期間1008が、乱れ速度が減少する期間、すなわち、圧縮行程1003における空気の乱れ速度が最大となるタイミングt112、もしくは、それ以降(クランク角度−40deg以降)となるように設定するとよい。このように、乱れ速度が減少するタイミングで圧縮行程1003の2回目の噴射1006を行うことにより、噴射した噴霧が燃焼室107内の流動に乱されにくくなり、エンジンの燃焼室107内に差圧を確実に作り出して、混合気1201を点火プラグ604の方向へ押し上げることができる。この結果、点火タイミングt107における点火プラグのプラス側電極613とマイナス側電極612との周りの当量比を高くすることができ、点火リタードの条件で安定的に燃焼を継続でき、排気温度を増加させて、触媒703を早期に昇温することができる。このため、排気ガス中のHCを低減することができる。
【0115】
また、圧縮行程1003の2回目の噴射1006(すなわち、点火プラグ604の点火タイミングt107の直前の噴射)の噴射タイミングt106が、少なくともキャビティ606を指向する噴霧D4の重心軸1204の延長軸1207とピストン609の上面との交点1205が、キャビティ606の内部に位置するタイミング(すなわち、ピストン609の上面と、延長軸1207との交点1205がキャビティ606の排気管側終端部1202よりも燃料噴射装置101側に位置するタイミング)となるように、ECU150が噴射タイミングを制御するとよい。この結果、噴霧D4をキャビティ606内に確実に入れることができ、噴霧D4の流速を低下させて、ピストン604に近い側の圧力を高くすることができるので、燃焼室107内において上下差圧を生じさせて、混合気1201を点火プラグ604へ向けて押し上げることができる。また、圧縮行程1003の2回目の噴射1006の噴射タイミングt106を、噴霧D1の重心軸1203の延長軸1208とピストン609の上端面との交点1206が、キャビティ606よりもピストン609のストローク方向において点火プラグ604側にあるタイミングとするとよい。このような噴射タイミングとすることで、噴霧D1とピストン609の上端面との距離を確保でき、噴霧D1の流速低下を抑制できる。この結果、点火プラグ側604の噴霧D1を流速が高い状態で維持することができ、点火プラグ604周辺の圧力を減少させて、混合気1201を点火プラグ604方向に押し上げ、点火タイミングt107における点火プラグ604の電極周りの当量比を大きくすることができる。これにより、点火タイミングを圧縮行程1003のTDCよりもリタード(遅角)させた状態(点火リタード)で安定的に燃焼させることができ、触媒703を早期に昇温でき、HCを低減することができる。
【0116】
次に、エンジンを始動してから触媒703の暖機(触媒暖機)等を行う制御について説明する。
【0117】
図13は、第1実施形態に係る、エンジンの始動時からの経過時間と、点火リタード量、燃圧、燃料の噴射量、およびエンジン回転数との関係を示す図である。ここで、点火リタード量は、量が0のときは、圧縮行程TDCの位置で点火することを示し、点火リタード量が+のときは、圧縮行程TDCよりも前のタイミングで点火することを示し、点火リタード量が−のときは、圧縮行程TDCよりも後のタイミングで点火することを示す。
【0118】
ECU150は、エンジンを始動したタイミングt31から、エンジンにおける燃焼が安定するまで行われるクランキングが終了するタイミングt32までの期間1301では、点火リタードの量を圧縮行程TDCよりも進角させる制御を行うことにより、安定的な燃焼を実現させてエンジンの燃焼室107内の温度を上昇させる。
【0119】
クランキングが終了したタイミングt32以降において、ECU150は、点火リタードの量を小さくし、遅角側へ移行させる制御を行うことで、排気損失を大きくして、エンジンの燃焼室107内から排気ポート608に排出される排気ガスの温度を増加させる。この結果、触媒703の温度が早期に上昇することにより活性化され、触媒703によるHCを低減する効果が早期に得られるようになる。
【0120】
ここで、クランキングの期間1301から点火リタードへ移行するまでの移行期間1302、触媒暖機の期間1303においては、燃料噴射装置101に供給される燃圧が上昇していく過渡領域1304が存在する。これは、燃料噴射装置101に燃料を供給する燃料ポンプ106は、例えば、エンジンのカムシャフトと同期したプランジャの圧縮動作によって燃料を燃料配管105に供給するように構成されているため、エンジン回転数が低い状態では、燃圧が所定の目標圧力1305に到達するまでに一定の時間を要するからである。このような過渡領域1304は、エンジンを始動したタイミングt31から、触媒暖機が終了するタイミングt36までの間において生じる。
【0121】
燃圧が低い場合には、燃料噴射装置101から噴射される噴霧D1、D2、D3、D4、D5、D6の貫徹力が弱くなるため、燃料を噴射する噴射タイミングを変更することが望ましい。以下に、触媒暖機時の燃料圧力が低い場合(燃圧が目標圧力1305よりも低い場合)における燃料の噴射制御について説明する。
【0122】
図14は、第1実施形態に係る触媒暖機時の燃料圧力が低い場合におけるクランク角度と、噴射タイミングとの関係を示す図である。なお、
図14においては、
図10と同様な対象については、同一の符号を付している。
【0123】
ECU150は、圧縮行程1003の1回目の噴射1405(点火タイミングt107から2つ前の噴射)における噴射タイミングを、燃圧が高い場合の噴射タイミングt105(
図10参照)に比べて、期間1407だけ早くした噴射タイミングt404としている。このように、噴射タイミングを早くしているので、燃圧が低くて噴霧の貫徹力が弱く、キャビティ606への噴霧の到達時間が長くなってしまう場合において、混合気を確実にキャビティ606内に形成させることができる。なお、
図14の例は、ECU150が、圧力センサ102からのセンサ値による燃圧が目標圧力1305よりも低い場合に噴射タイミングを一定量だけ早くするようにしているが、例えば、圧力センサ102からのセンサ値による燃圧に応じて、段階的に噴射タイミングを早くするように制御してもよい。
【0124】
ECU150は、圧縮行程1003の2回目の噴射1406(点火タイミングt107の直前の噴射)の噴射タイミングt405についても、燃圧が高い場合の噴射タイミングt106に比べて早めるように制御してもよい。ここで、2回目の噴射は、燃焼室107内に差圧を生じさせて、キャビティ606内の噴霧を押し上げるようにする目的で行われるが、噴霧を押し上げるタイミングは、燃圧に依存しないが、燃圧が低いと、噴霧の貫徹力が低下し、圧縮行程1003の2回目の噴射による燃焼室107内の差圧が小さくなったり、燃料を噴射してから差圧が生じるまでの遅れ時間が長くなったりする可能性がある。これに対して、上記したように圧縮行程1003の2回目の噴射のタイミングを早くすることで、燃焼室107の内圧が低い状態で燃料を噴射するようにし、燃圧が高い場合に近いタイミングで差圧を生じさせることができ、点火プラグ604の電極周りに混合気を確保することができる。なお、燃圧が高い場合の2回目の噴射タイミングt106に対する燃圧が低い場合の1回目の噴射タイミングt405の変更量を、燃圧が高い場合の1回目の噴射タイミングt105に対する燃圧が低い場合の1回目の噴射タイミングt404の変更量よりも小さくするようにしてもよい。
【0125】
例えば、
図8に示すように圧縮行程に燃料を1回噴射する場合において、点火プラグ604の電極周りの混合気の当量比を高くするようにするためには、燃料噴射量を多くする必要があるが、上記したように、圧縮行程において燃料の噴射を2回に分割することで、圧縮行程の1回目で形成した混合気を2回目の噴射で点火プラグ604の方向へ押し上げることができるため、圧縮行程1回目の燃料噴射量を、1回噴射する場合に比べて小さくすることができ、ピストン609への燃料付着を抑制でき、燃料室107内から排気ポート608を介して排出されるHCやPNを低減することができる。
【0126】
上記した
図14に示す噴射タイミングの制御によれば、燃圧が低い場合であっても混合気を安定的に形成でき、点火プラグ604の電極周りの混合気の確保と、燃料付着の低減とを両立できる。なお、燃圧が所定の目標圧力1305以上となった場合には、ECU150は、燃料噴射の制御を
図14に示す制御から、上記した
図10に示す制御に移行させる。
【0127】
例えば、燃焼室107内の空燃比を理想空燃費14.7:1よりもリーンすなわち燃料が薄い状態にするリーン燃焼を行う場合において、点火プラグ604の電極周りにリッチな混合気を形成する場合において、上記したように、圧縮行程に燃料噴射を複数回(例えば2回)行うように制御してもよい。
【0128】
また、触媒暖機中において、エンジンにおける燃焼を安定化させるためには、点火タイミングt107直前の乱れ速度を大きくすること必要があるが、圧縮行程に2回の噴射を行う場合において、ECU150は、吸気ポート607内のバルブ601を閉弁するように制御し、吸気ポート607の下部流路611への空気の流れを遮断するようにしてもよい。このようにすると、燃焼室107内のタンブルを打ち消す方向の空気を低減することができ、燃料室107内の乱れ速度を確保することができる。
【0129】
次に、触媒暖機終了後における燃料の噴射制御について説明する。
【0130】
図24は、第1実施形態に係る触媒暖機終了後におけるクランク角度と、噴射タイミングとの関係を示す図である。
【0131】
ここで、触媒暖機終了後であるか否かについては、ECU150は、例えば、エンジン始動からの時間が所定時間を超えたとの条件や、触媒703の温度が所定温度を超えた等の条件により判断することができる。
【0132】
ECU150は、触媒暖機の期間1303が終了するタイミングt36の後の期間1308において、点火タイミングをTDCよりも進角側の点火タイミングt257に移動させる制御を行うとともに、圧縮行程1003における燃料の噴射を停止し、吸気行程1002のみで噴射2502を行うように制御を切り替える。
【0133】
ここで、吸気行程1002の噴射2502の噴射タイミングt252は、触媒暖機の期間1303における吸気行程1002の噴射タイミングt102(
図10参照)に比べて早くなるように制御するとよい。たとえば、吸気行程1002の噴射タイミングt252は、タンブルが最大となるタイミングt110よりも早いタイミング、例えば、クランク角度−300から−280deg付近となるように制御するとよい。触媒暖機気の期間1303が終了した後は、ピストン609およびシリンダ壁面614の温度が高くなっているため、燃料が付着したとしても気化しやすく、HCやPNを発生させにくい。噴射タイミングt257を早くすることで、噴射した噴霧が流動に乗りやすくなり、均質性が向上するため、NOxを低減させる効果が得られる。このように触媒暖機の終了後に、燃料噴射の制御を切り替えることにより、触媒暖機の期間1303で確実に触媒703を昇温させてHCを低減することができるとともに、触媒暖機の期間1303が終了した後におけるNOxを低減することができる。
【0134】
次に、触媒暖機時における目標圧力を設定する方法について説明する。
【0135】
図20は、燃圧と燃料噴射装置から噴射される燃料の粒子径(粒径)との関係を示す図である。
図20において、実線2001は、Dv90を示し、破線2002はザウター平均粒径D32を示し、一点鎖線2003は、Dv90とD32との比を示している。ここで、Dv90とは、噴射される燃料における粒子径と粒子量との分布において、粒子量が90%に到達する際の粒子径である。
【0136】
Dv90が大きいということは、燃料の粒子として、粒径が大きい粗大粒が多いことを示しており、燃料の粒子が蒸発し辛く、シリンダ壁面614やピストン609に燃料が付着しやすいことを示す一方、Dv90が小さいということは、シリンダ壁面614やピストン609に燃料が付着し辛いことを示している。
【0137】
Dv90は、
図20の実線2001に示すように、燃圧が増加すると、Dv90の変化が変わる変曲点2004が存在する。一方、ザウター平均粒径D32は、
図20の破線2002に示すように、燃圧が増加しても、変化が変わる点が存在しない。
【0138】
触媒暖機時における目標圧力1305(
図13参照)としては、例えば、Dv90の変曲点2004の燃圧2005に設定するとよい。本実施形態においては、例えば、変曲点2004の燃圧2005は、10〜15MPa程度となるので、触媒暖機時における目標圧力1305は、10MPa以上としてもよい。
【0139】
このように目標圧力1305を決定することにより、燃圧が目標圧力1305以上であるか否かを判定することにより、燃料噴射装置101から噴射された噴霧が、シリンダ壁面614やピストン609に付着しやすい状態であるか否かを適切に判定することができ、その状態に適した燃料の噴射制御を行うことができる。
【0140】
次に、第2実施形態に係るエンジンシステムについて説明する。なお、第1実施形態に係るエンジンシステムにおける図面を適宜参照し、第1実施形態に係るエンジンシステムと異なる点を中心に説明する。
【0141】
図15は、第2実施形態に係る、燃料噴射装置を駆動するための噴射パルス、駆動電圧、駆動電流、および弁体変位量についての時間変化を示す図である。
【0142】
第2実施形態に係るECU150は、燃料噴射装置101の弁体214の変位量を、最大高さ位置1503と、最大高さ位置1503よりも低い低高さ位置1505とに切り替えて制御することにより、燃料噴射装置101から噴射される燃料噴射量を調整することができる。弁体214の変位量を低高さ位置1505とする場合には、ECU150は、噴射パルス1504に示すように、パルス幅を短くするように制御する。この場合には、駆動回路103から出力される駆動電圧及び駆動電流は、一点鎖線に示すようになり、弁体の変位は、線1501に示すように変化する。
【0143】
本実施形態では、ECU150は、
図10に示す圧縮行程1003の2回目の噴射1006(点火タイミングt107の直前の噴射)と、圧縮行程1003の1回目の噴射1005(点火タイミングt107の2回前の噴射)との少なくとも一方の噴射における燃料噴射装置101の弁体214の高さ位置を、最大高さ位置1503よりも低い低高さ位置1505に制御する。
【0144】
点火タイミングt107に近い噴射1006において、燃料噴射装置101とピストン609との距離が近いため、吸気行程1003に比べて、噴射した燃料がピストン609に付着しやすい。また、燃圧が高いと、微粒化が促進されてピストン609への燃料が付着しにくい一方で、噴霧の流速が増加するために噴霧の貫徹力が上がって、燃料が付着し易く、結果としてピストン609へ付着する燃料の量が増えてしまう可能性がある。
【0145】
本実施形態では、ECU150は、点火タイミングt107の直前の噴射1006において、弁体214の変位(高さ位置)が最大高さ位置1503よりも低い低高さ位置1505となるように、噴射パルス1504に示すようにパルス幅を小さくするように制御する。弁体214の高さ位置を最大高さ位置1503よりも低い低高さ位置1505として、弁体214と弁座218との間の燃料が通過する通路の断面積を小さくすることにより、その通路を通過する燃料の圧力降下を意図的に生じさせることができ、噴射される噴霧の流速を低減することができる。この結果、圧縮行程1006においてピストン609等への燃料付着を抑制することができ、発生するHCおよびPNを低減することができる。
【0146】
また、ECU150により、圧縮行程1003の1回目の噴射1005(点火タイミングt107の2つ前の噴射1005)において、弁体214の高さ位置が最大高さ位置1503よりも低い低高さ位置1505となるように制御してもよい。この結果、圧縮行程1003の1回目の噴射1005によりピストン609等への燃料付着を抑制することができ、発生するHCおよびPNを抑制することができる。
【0147】
なお、第2実施形態において、点火タイミングt107の直前の噴射1006においては、エンジンの燃焼室107内の空気の乱れ速度が大きいため、噴霧が流動に乗ってピストン609に燃料が付着しない場合や、また、第1実施形態で示したように、燃料噴射装置101において、ピストン609を指向する噴霧D3、D4、D5の流量を噴霧D1、D2、D6に比べて小さくしている場合においては、高い燃圧で圧縮行程1003に燃料を噴射してもピストン609に燃料が付着しない場合があるが、このような場合には、ECU150により、点火タイミングt107の直前の噴射1006においては、弁体214の高さ位置が最大高さ位置1503となるように噴射パルス幅を制御し、乱れ速度が弱くなる点火タイミングt107の2つ前の噴射1005においては、弁体214の高さ位置が低高さ位置1505となるように噴射パルス幅を制御するようにしてもよい。
【0148】
また、燃圧が低い場合において、ECU150は、
図14に示す圧縮行程1003の2回目の噴射1406(点火タイミングt107の直前の噴射)と、圧縮行程1003の1回目の噴射1405(点火タイミングt107の2回前の噴射)との少なくとも一方の噴射における燃料噴射装置101の弁体214の高さ位置を、最大高さ位置1503よりも低い低高さ位置1505に制御してもよい。なお、燃圧が低い場合においては、燃料噴射装置101から噴射される燃料の噴霧の流速が低下するため、圧縮行程1003の噴射(1405,1406)における弁体214の高さ位置を最大高さ位置1503に移動させてもピストン609へ燃料が付着しにくい場合がある。このような場合においては、噴霧の微粒化を促進させるため、ECU150は、圧縮行程1003の噴射(1405,1406)における弁体214の高さ位置を最大高さ位置1503とするように噴射パルス幅をECU150で制御するようにしてもよい。このようにすると、燃圧が低い場合において、燃料付着を抑制し、PNおよびHCを低減することができる。
【0149】
なお、第2実施形態に係るECU150による制御方法は、上記した第1実施形態、及び後述する第3実施形態乃至第5実施形態におけるECU150による制御方法と適宜組み合わせるようにしてもよい。
【0150】
次に、第3実施形態に係るエンジンシステムについて説明する。なお、第1実施形態に係るエンジンシステムにおける図面を適宜参照し、第1実施形態に係るエンジンシステムと異なる点を中心に説明する。
【0151】
図16は、第3実施形態に係る、燃料圧力が低い場合におけるクランク角度と、噴射タイミングとの関係を示す図である。
【0152】
第3実施形態は、第1実施形態において、圧縮行程1003における1回目の噴射における燃料噴射量と、2回目の噴射における燃料噴射量との分割比を、ECU150が燃圧に応じて変更するようにしたものである。
【0153】
ECU150は、燃料圧力が低い場合において、燃料圧力が高い場合(例えば、
図10に示す噴射制御が行われる場合)に比べて、圧縮行程1003の1回目の噴射(点火タイミングt107の2つ前の噴射)における燃料噴射量に対する圧縮行程1003の2回目の噴射(点火タイミングt107の直前の噴射)における燃料噴射量の比が高くなるように設定する。すなわち、ECU150は、
図10における噴射1005の燃料噴射量に対する噴射1006の燃料噴射量の比よりも、
図16に示す噴射1605の燃料噴射量に対する噴射1606の燃料噴射量の比の方が高くなるように設定する。
【0154】
ここで、燃圧が低い場合においては、噴霧の貫徹力が低下するため、圧縮行程1003における2回目の噴射1606の燃料噴射量が小さいと、エンジンの燃焼室107内に生じる差圧が小さくなり、圧縮行程1003の1回目の噴射1605で形成された混合気を点火プラグ604の方向へ押し上げにくくなる。これに対して、本実施形態によれば、圧縮行程1003の1回目の噴射1605の燃料噴射量に対する圧縮行程1003における2回目の噴射1606の燃料噴射量の比を、燃圧が高い場合における噴射1005の燃料噴射量に対する噴射1006の燃料噴射量の比よりも大きくすることで、噴霧の貫徹力を確保でき、差圧を大きくでき、点火タイミングt107における点火プラグ604の電極周りの混合気の当量比を大きくすることができる。この結果、点火リタードをさせていても燃焼が安定するため、触媒703の温度を早期に昇温させることができ、発生するHCを低減することができる。
【0155】
なお、圧縮行程1003の2回目の噴射1606における燃料噴射量をより多くする必要がある場合は、吸気行程1002の噴射1604における燃料噴射量を減らすようにしてもよい。噴射1604における燃料噴射量を小さくすることで、噴射した燃料がシリンダ壁面614に付着しにくくなるため、HCおよびPNを低減できる。
【0156】
次に、第4実施形態に係るエンジンシステムについて説明する。なお、第1実施形態に係るエンジンシステムにおける図面を適宜参照し、第1実施形態に係るエンジンシステムと異なる点を中心に説明する。
【0157】
図17は、エンジン回転数と、点火プラグ周りの混合気の当量比の関係を示す図である。
図17において、当量比1の理論空燃比を線1702で示し、触媒暖機中における目標の当量比を線1704で示す。
【0158】
エンジン始動から触媒暖機の期間1303までには、
図13に示すように、エンジン回転数が変わる回転数過渡期間1306があり、エンジン回転数が変わると、点火プラグ604の電極周りの混合気の当量比は変化する。
【0159】
例えば、圧縮行程の噴射タイミングと燃料噴射量とを、燃圧が高い場合と同じとした場合における、エンジン回転数と、点火プラグ604の電極周りの混合気の当量比との関係は、線1701に示すようになる。すなわち、エンジン回転数が高い場合(目標回転数1705(
図13の目標系点数1307に対応)に近い場合)においては、点火プラグ604の電極周りの混合気の当量比を、線1704で示す目標当量比に近い値に保持できるのに対して、エンジン回転数が低い場合においては、例えば、点1706に示すように、点火プラグ604の電極周りの混合気の当量比が、線1702で示す当量比1よりも低下してしまう。
【0160】
ここで、点1706に対応するエンジン回転数の場合におけるエンジンの燃焼室107内の当量比分布について説明する。
【0161】
図18は、各クランク角度の時点におけるエンジンの燃焼室内の混合気の当量比の分布を示す図である。
図18(a)、(b)、(c)は、それぞれ、
図17の点1706における各クランク角度−55deg,−30deg,+20degにおける当量比の等高線を示している。
図18においては、当量比の数値を各等高線に表示している。なお、燃料噴射タイミングは、
図10に示す圧縮行程1003の1回目の噴射タイミングt105(−60deg)としている。
【0162】
クランク角度−55degの場合には、
図18(a)に示すように、燃料が濃い領域である混合気雲1801がキャビティ606の排気管側終端部1202を乗り越えており、混合気がキャビティ606に保持できていない。これは、圧縮行程1003の1回目の噴射タイミングを、回転数が高い場合と同じ噴射タイミングに設定していると、エンジン回転数が遅く、ピストン609が上昇する速度が遅く、噴霧が排気管側終端部1202を乗り越えてしまうためである。
【0163】
本実施形態では、エンジン回転数が低い場合であっても、点火プラグ604の電極周りの混合気の当量比を高く維持できるようにするために、ECU150は、エンジン回転数が高い場合に比べて、圧縮行程1003の1回目の噴射タイミングを遅くするように制御する。
【0164】
以上説明したように、第4実施形態に係るECU150によると、エンジン回転数が低い場合において、圧縮行程の1回目の噴射タイミングを、エンジン回転数が高い場合に比べて遅くするようにしたので、
図17の点1707に示すように、点火プラグ604の電極周りの混合気の当量比を大きくすることができ、点火プラグ604による点火を確実に行うことができ、エンジン回転数が変動する期間においても点火リタードでの燃焼を安定させることができる。このため、触媒703を早期に昇温させて、HCおよびNOxを低減することができる。
【0165】
第4実施形態においては、触媒暖機時における点火プラグ604の電極周りの混合気の当量比の目標値を1よりも大きな値に設定してもよい。点火リタードを行う場合においては、ピストン609がTDCからBDCの間にある膨張行程おいて点火を行うため、乱れ速度が小さくなり燃焼速度が遅くなって、燃焼が不安定となる可能性があるが、点火プラグ604の電極周りの混合気の当量比を1よりも大きく、すなわちストイキよりも燃料を濃い状態にすることにより、燃焼範囲を確保でき、燃焼を効果的に安定させることができる。このようにすれば、点火リタードを行っている場合であっても、燃焼を安定させ、触媒703の温度を確実に上昇させることができ、HCを低減することができる。
【0166】
第4実施形態に係るECU150の制御を、第1実施形態乃至第3実施形態に係るECU150の制御と組み合わせるようにしてもよい。
【0167】
次に、第5実施形態に係るエンジンシステムについて説明する。なお、第1実施形態に係るエンジンシステムにおける図面を適宜参照し、第1実施形態に係るエンジンシステムと異なる点を中心に説明する。
【0168】
図19は、第5実施形態に係る、エンジンの始動時からの経過時間と、点火リタードの量、吸気圧、燃圧、燃料の噴射量、エンジン回転数との関係を示す図である。
【0169】
第5実施形態に係るECU150は、触媒暖機の期間1303において、吸気ポート607の吸気圧が大気圧1901よりも大きくなるように、エンジンの始動後に過給機702を作動させて過給する制御を行う。
【0170】
このような制御を行うことにより、吸気ポート607の空気の圧力が増加するため、エンジンの燃焼室107内に流入する空気量が増加し、排気エンタルピが大きくなって、早期に触媒703の温度を昇温できる。この結果、HCおよびPNを低減することできる。また、過給機702による過給によって排気熱が吸気温度を上昇させ、エンジンシステムの温度が高まることで、エンジンシステムが供給される燃料の熱量を温度上昇に変える熱交換効率が上がる。したがって、燃料噴射量が同じ場合であっても、図示仕事、冷却損失、排気損失に変換した際の総熱量が増加し、触媒703を早期に昇温でき、HCおよびPNを低減できる。
【0171】
ここで、エンジンの始動直後は、エンジンシステムの温度が低く、かつエンジン回転数が低いことから、過給機702のコンプレッサ702Aを回転させることが難しい。これに対して、ECU150は、コンプレッサ702Aを回転させるタイミングt191を、クランキングの期間1301が終了した後としてもよい。また、点火タイミングを0degより進角する場合には、過給機702により過給すると、エンジンの出力が増加しすぎる場合があるため、コンプレッサ702Aを回転させるタイミングを、点火リタードへ移行するまでの移行期間1302が終了した後の点火タイミングを遅角させる時点以降としてもよい。コンプレッサ702Aを回転させるタイミングt191を上記のようにすることで、触媒703の温度を確実に早期に昇温でき、HCの低減効果を高めることができる。
【0172】
なお、第5実施形態に係るECU150の制御は、第1実施形態乃至第4実施形態に係るECU150の制御と組み合わせてもよい。
【0173】
次に、第6実施形態に係るエンジンシステムについて説明する。なお、第1実施形態に係るエンジンシステムにおける図面を適宜参照し、第1実施形態に係るエンジンシステムと異なる点を中心に説明する。
【0174】
図21は、第6実施形態に係るクランク角度と、噴射タイミングとの関係を示す図である。
【0175】
第6実施形態は、第1実施形態において、触媒暖機時の燃料圧力が高い場合における圧縮行程1003での燃料の噴射を、3回に分割して行うようにしたものである。
【0176】
本実施形態では、ECU150は、圧縮行程1003において、噴射2101、噴射2102、噴射2103を行うように制御する。ここで、噴射2101の噴射タイミングt211は、
図10に示す圧縮行程1003の1回目の噴射1005の噴射タイミングt105と同じタイミングとしてもよく、噴射2103(点火タイミングt107の直前の噴射)の噴射タイミングt213は、
図10に示す圧縮行程1003の2回目の噴射1006の噴射タイミングt106と同じタイミングとしてもよい。本実施形態では、ECU150は、
図10に示す噴射1005における燃料噴射量を、噴射2101と、噴射2102とに分割して噴射させるようにしている。
【0177】
ここで、圧縮行程1003の噴射では、燃料噴射装置101とピストン609との幾何学的な距離が吸気行程1002に比べて短いため、噴射した燃料がピストン609に付着しやすい。したがって、キャビティ606に混合気を形成するための噴射を、噴射1005だけではなく、噴射2101と噴射2102とに分割することで、1噴射当たりの燃料噴射量を抑制することができるため、噴霧の貫徹力を低減できる効果が得られる。この結果、ピストン609への燃料付着を抑制し、PNを低減することができる。
【0178】
また、噴射2102を設けることで、キャビティ606と燃料噴射装置101との距離が近くなるため、噴霧がキャビティ606に入りやすくなり、キャビティ606に混合気を形成しやすくなる。これにより、点火タイミングt107の直前の噴射2103によって、点火プラグ604の電極周りにリッチな混合気を安定的に形成でき、燃焼安定性を高められる。この結果、点火リタードを大きくすることができ、触媒703の早期昇温させることができ、HCの低減効果を高めることができる。
【0179】
なお、圧縮行程1003の1回目の噴射2101、圧縮行程1003の2回目の噴射2102において、弁体214が最大高さ位置よりも低い低高さ位置で駆動するように制御する第2実施形態の制御を組み合わせるようにしてもよい。このようにすると、噴霧の貫徹力を低減できるため、ピストン609への燃料付着をさらに低減することができ、PNのさらなる抑制が可能となる。
【0180】
また、圧縮行程1003における燃料の噴射を、3回に分割して行うようにしているが、燃料の噴射を4回以上に分割するようにしてもよい。また、触媒暖機時の燃圧が目標圧力よりも高い場合に分割する例を示したが、触媒暖機時の燃圧が目標圧力より低い場合に、圧縮行程1003における燃料の噴射を、3回以上に分割するようにしてもよい。
【0181】
なお、本発明は、上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜変形して実施することが可能である。
【0182】
例えば、上記実施形態において、ECU150が行っている処理の一部又は全部を、CPU104で行ってもよく、CPU104とは別のハードウェア回路で行うようにしてもよい。また、駆動回路103が行う処理の一部をCPU104で行うようにしてもよい。