(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
希土類物質を含む磁石材料粒子を含み、長さ方向に延びる第1の表面と、該第1の表面から厚み方向に間隔をもった位置にあり長さ方向に延びる第2の表面と、長さ方向両端部の端面とを有する長さ方向断面形状をもつ方形に、該磁石材料粒子が一体に焼結成形された、希土類永久磁石形成用焼結体であって、
長さ方向にみて両端の第1及び第2の端部領域の間に、これら端部領域と一体の焼結体として連続して位置する中央領域においては、該中央領域に含まれる前記磁石材料粒子は、その磁化容易軸が、前記中央領域の長さ方向中央部を通り前記第1の表面に垂直な長さ方向中心線より前記第1の端部領域の側に位置する部分で、前記第2の表面から前記焼結体の内部に入り、前記長さ方向中心線を長さ方向に横切り、前記中央領域の前記長さ方向中心線より前記第2の端部領域の側に位置する部分で、前記第2の表面に向けられる経路に沿って指向するように配向され、
前記第1の端部領域においては、該第1の領域に含まれる前記磁石材料粒子は、その磁化容易軸が前記第2の表面から前記焼結体の内部に入り、前記第1の表面に向けられるように配向され、
前記第2の端部領域においては、該第2の領域に含まれる前記磁石材料粒子は、その磁化容易軸が前記第1の表面から前記焼結体の内部に入り、前記第2の表面に向けられるように配向され、
該第1及び第2の端部領域の各々に含まれる前記磁石材料粒子の磁化容易軸は、前記第2の表面に対してほぼ直角の方向に向けられるようにパラレル配向された
ことを特徴とする希土類永久磁石形成用焼結体。
請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載した希土類永久磁石形成用焼結体であって、前記磁石材料粒子はNd−Fe−B系磁石材料であることを特徴とする希土類永久磁石形成用焼結体。
請求項5に記載した希土類永久磁石を備える可動子と、該希土類永久磁石の前記第1の表面に対して間隔をもって配置された固定磁極とからなり、前記希土類永久磁石形成用焼結体の前記第2の表面に対応する前記希土類永久磁石の表面に対してバックヨークが配置されていない
ことを特徴とするリニアモータ。
請求項6に記載したリニアモータであって、前記可動子の前記希土類磁石は、長さ方向が該可動子の移動方向に平行になるように配置されたことを特徴とするリニアモータ。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1に、従来のリニアモータに使用されるように配列された2個の永久磁石1a、1bを有する磁石ユニット1を示す。各々の磁石1a、1bは、長さ方向寸法Lと、幅方向寸法Wと、厚さtとを有する。この磁石ユニット1が可動子としてリニアモータに組み込まれたときの、該可動子の移動方向を
図1(a)に矢印Aで示す。
【0018】
各々の磁石1a、1bは、長さ方向の一端部にS極を、他端部にN極を有する構成であり、その長さ方向が可動子の移動方向に対して平行になるように配置される。これら磁石1a、1bには、バックヨーク2が取り付けられている。典型的な往復動部材に使用される磁石ユニット1においては、各永久磁石1a、1bの長さLは20mm、幅Wは8mm、厚さtは1.3mmである。バックヨーク2は、長さLが永久磁石1a、1bの長さより僅かに長い25mmで、幅8mmの長方形であり、厚さtは2.0mmである。
【0019】
この磁石ユニット1は、
図2に示すように、鉄心に巻かれたコイル3a、3b、3cからなる電磁石の列を備える固定子3に対向して配置される。この状態において、バックヨーク2は、永久磁石1a、1bを挟んで固定子3とは反対側に配置される。
【0020】
図3は、本発明の概念を示すため、本発明の実施形態
及び参考形態による希土類永久磁石形成用焼結体5a、5b、5c、5dを示す概略図である。
図3(a)に本発明の第一の実施形態による永久磁石形成用焼結体5aを、
図3(b)に参考形態による永久磁石形成用焼結体5bを、
図3(c)に本発明の
別の実施形態による永久磁石形成用焼結体5cを、
図3(d)に本発明の
さらに別の実施形態による永久磁石形成用焼結体5dを、長さ方向断面図によりそれぞれ示す。
図3(a)に示す実施形態では、永久磁石形成用焼結体5aは、例えばNd−Fe−B系磁石材料のような希土類磁石材料の粒子を焼結することにより製造された構成であり、長さLの方向に延びる第1の表面6と、該第1の表面6から厚み方向に厚みtに相当する間隔をもって長さLの方向に延びる第2の表面7とを有する。焼結体5aの長さL方向両端部には端面8が形成されている。
図3(a)には示されていないが、焼結体5aは、
図1に示す永久磁石1a、1bと同様に、幅方向寸法Wを有する。したがって、焼結体6は、全体として長方体の形状であり、往復動部材用のリニアモータに使用する場合には、
図1について前述したのと同様な長さ方向寸法Lと幅方向寸法Wとを有するものとすることができる。
【0021】
図3(a)に示す実施形態においては、長さ方向中心線Cから長さ方向両側に所定の長さだけ延びる中央領域9において、該領域9に含まれる磁石材料粒子(図示せず)の磁化容易軸10aは、長さ方向中心線Cの第2の表面7上の点を中心に、下向きにアーチ状の経路に沿って指向するように配向される。さらに、該中央領域9から一方の端面8までの第1の端部領域11に含まれる磁石材料粒子の磁化容易軸10bは、長さ方向に延びる第2の表面7から第1の表面6に向けられる経路に沿ってほぼ平行に指向するようにパラレル配向され、該中央領域9から他方の端面8までの第2の端部領域12に含まれる磁石材料粒子の磁化容易軸10cは、長さ方向に延びる第1の表面6から第2の表面7に向けられる経路に沿ってほぼ平行に指向するようにパラレル配向される。
【0022】
図3(b)に示す
参考形態においては、長さ方向中心線Cから長さ方向両側に所定の長さだけ延びる中央領域19において、該領域19に含まれる磁石材料粒子(図示せず)の磁化容易軸20aは、
図3(a)に示す実施形態におけると同様に、長さ方向中心線Cの第2の表面7上の点を中心に、下向きにアーチ状の経路に沿って指向するように配向される。しかし、この
参考形態の場合には、該中央領域19から一方の端面8までの第1の端部領域21に含まれる磁石材料粒子の磁化容易軸20bは、長さ方向に延びる第2の表面7から第1の表面6に向けられ、該第1の表面6に近づくに従って中央領域19に近づく湾曲経路に沿って指向するように配向され、該中央領域19から他方の端面8までの第2の端部領域22に含まれる磁石材料粒子の磁化容易軸20cは、長さ方向に延びる第1の表面6から第2の表面7に向けられ、該第2の表面7に近づくに従って中央領域19から離れる湾曲経路に沿って指向するように配向される。
【0023】
図3(c)に示す実施形態においては、長さ方向中心線Cから長さ方向両側に所定の長さだけ延びる中央領域29において、該領域29に含まれる磁石材料粒子(図示せず)の磁化容易軸30aは、長さ方向中心線Cからの距離bが大きくなるにしたがって大きくなる傾斜角で、第1の表面6に対して傾斜するように配向されている。詳細に述べると、
図3(c)に示すように、長さ方向中心線Cと第1の表面6との交差点Oから第1の端部領域31の方向にとった距離を「−b」とし、該交差点Oから第2の端部領域32の方向にとった距離を「+b」としたとき、距離「b」における磁石材料粒子の磁化容易軸30aは、第1の表面6に対する傾斜角である配向角θが、
θ(°)=(b/bmax)×c×90
(但しcは定数であり、配向角θは左回り方向を正とし、右回り方向を負とし、(b/bmax)×c<−1のときはθ=−90°、(b/bmax)×c>1のときはθ=90°とする)
となるように配向され、該配向角は、該長さ方向中心線からの距離bが同一の位置においては厚み方向にほぼ一定である。端部領域31、32においては、該領域31、32に含まれる磁石材料粒子の磁化容易軸30b、30cは、パラレル配向となる。
【0024】
図3(d)に示す実施形態においては、
図3(c)の実施形態におけると同様に、長さ方向中心線Cから長さ方向両側に所定の長さだけ延びる中央領域39において、該領域39に含まれる磁石材料粒子(図示せず)の磁化容易軸40aは、長さ方向中心線Cからの距離bが大きくなるにしたがって大きくなる傾斜角で、第1の表面6に対して傾斜するように配向されている。しかし、本実施形態における磁石材料粒子の磁化容易軸40aの配向角θを規定する式θ(°)=(b/bmax)×c×90中の「c」は定数ではなく、第1の表面6からの厚み方向の距離「a」に応じて異なる値をとる係数である。この関係は、
図3(f)に示すグラフで表される。この場合、距離「b」が同じとなる長さ方向位置においては、配向角θは、厚み方向の距離「a」が大きくなるにしたがって小さくくなる。端部領域41、42においては、該領域41、42に含まれる磁石材料粒子の磁化容易軸40b、40cは、パラレル配向となる。
【0025】
図4(a)に、
図3(a)の実施形態による希土類永久磁石形成用焼結体5aにおける磁石材料粒子の磁化容易軸10aの配向を詳細に示す。中央領域9においては、個々の磁石材料粒子の磁化容易軸10aは、第1の端部領域11において第2の表面7から焼結体5a内に入り、該焼結体5a内を通り、第2の端部領域12において再び第2の表面7に達するほぼ円弧状又はアーチ状の経路に沿って指向するように配向される。第1の端部領域11においては、該領域11に含まれる磁石材料粒子の磁化容易軸10bは第2の表面7から第1の表面6に向かうほぼ平行な経路に沿って指向するパラレル配向となる。逆に、第2の端部領域12においては、該領域12に含まれる磁石材料粒子の磁化容易軸10cは第1の表面6から第2の表面7に向かうほぼ平行な経路に沿って指向するパラレル配向となる。
【0026】
なお、中央領域9において、第1及び第2の端部領域11、12にそれぞれ隣接する部分のうち、第1の表面6に近いコーナー部分9a、9bでは、該部分9a、9bに含まれる磁石材料粒子の磁化容易軸10a1、10a2は、上述の円弧状又はアーチ状経路に対応する湾曲経路に沿って指向するように配向される。
【0027】
このように形成された希土類永久磁石形成用焼結体5aに着磁することによって得られた希土類永久磁石は、第1の端部領域11における第1の表面6から出て第2の端部領域12における第1の表面6に至り、第2の端部領域12における第2の表面7から出て第1の端部領域11における第2の表面7に至るように循環する磁束を生じるものとなる。すなわち、この永久磁石は、バックヨークを設けることなしに、高い磁束密度を生成することができる。
【0028】
図4(b)は、本発明の該実施形態によるNd−Fe−B系磁石における磁束密度の増大を、従来のNd−Fe−B系磁石と対比して示す図表である。この対比は、
図1に関連して前述した寸法を有するNd−Fe−B系焼結磁石について行ったものである。前述したように、従来の焼結磁石では、焼結体は厚み1.3mmであり、該焼結体に厚み2mmのバックヨークが取り付けられる。
図4(b)では、磁石により生成される磁束密度を長さ方向中心からの距離に関連して示すものであり、曲線a−1が比較例となる従来の磁石における磁束密度である。これに対し、曲線b−1、b−2、b−3、b−4、b−5、b−6、b−7は、それぞれ、厚み1.3mm、1.5mm、1.8mm、2.0mm、2.5mm、3.0mm、3.3mmとした場合の、本発明の該実施形態によるバックヨークを持たないNd−Fe−B系磁石における磁束密度を示すものである。図から分かるように、本発明の実施形態による磁石では、バックヨークをもたない構成であるにも拘わらず、厚み1.3mmの場合でも、従来の磁石よりも高いピーク磁束密度を得ることができる。さらに、焼結体5aの厚みが1.8mmより大きい場合には、バックヨークがないにも拘わらず、磁石の長さ方向ほぼ全長にわたり、バックヨークと焼結体を合わせた厚みが2.3mmである比較例の磁石より高い磁束密度で磁束を生成することができる。そして、厚みが同等になる曲線b−7の例では、磁束密度は比較例と対比して、43%以上の増加を示す。
【0029】
図5(a)に、
図3(b)の実施形態による希土類永久磁石形成用焼結体5aにおける磁石材料粒子の磁化容易軸20a、20b、20cの配向を詳細に示す。中央領域19においては、個々の磁石材料粒子の磁化容易軸20aは、第1の端部領域21において第2の表面7から焼結体5a内に入り、該焼結体5a内を通り、第2の端部領域12において再び第2の表面7に達するほぼ円弧状又はアーチ状の経路に沿って指向するように配向される。第1の端部領域21においては、該領域21に含まれる磁石材料粒子の磁化容易軸20bは第2の表面7から第1の表面6に向かう経路に沿って指向する配向となるが、この経路は、第2の表面7から第1の表面6に近づくにしたがって中央領域19の方向に近づく円弧状の湾曲線となる。逆に、第2の端部領域22においては、該領域22に含まれる磁石材料粒子の磁化容易軸20cは第1の表面6から第2の表面7に向かう円弧状湾曲経路に沿って指向する配向となる。
【0030】
このように形成された希土類永久磁石形成用焼結体5aに着磁することによって得られた希土類永久磁石は、前述した実施形態におけると同様に、第1の端部領域21における第1の表面6から出て第2の端部領域22における第1の表面6に至り、第2の端部領域22における第2の表面7から出て第1の端部領域21における第2の表面7に至るように循環する磁束を生じるものとなる。したがって、この永久磁石も、バックヨークを設けることなしに、高い磁束密度を生成することができる。
【0031】
図5(b)は、
上述の参考形態によるNd−Fe−B系磁石における磁束密度の増大を、従来のNd−Fe−B系磁石と対比して示す
図4(b)と同様な図表であり、曲線a−1が比較例となる従来の磁石における磁束密度である。これに対し、曲線c−1、c−2、c−3、c−4、c−5、c−6、c−7が、それぞれ、厚み1.3mm、1.5mm、1.8mm、2.0mm、2.5mm、3.0mm、3.3mmとした場合の、本発明の該第二の実施形態によるバックヨークを持たないNd−Fe−B系磁石における磁束密度を示すものである。図から分かるように、本発明の第二の実施形態による磁石では、第一の実施形態における磁石のように、磁束密度を表す曲線は、顕著なピークを示さず、比較的なだらかな曲線となる。また、この第二の実施形態による磁石は、焼結体5aの厚みが1.8mmのとき、比較例の磁石とほぼ同等の磁束密度となり、焼結体5aの厚みが1.8mmより大きい場合には、バックヨークがないにも拘わらず、バックヨークと焼結体を合わせた厚みが2.3mmである比較例の磁石より高い磁束密度の磁束を生成する。そして、厚みが同等になる曲線c−7の例では、磁束密度は比較例と対比して、39%以上の増加を示す。
【0032】
図5(c)は、
図3(c)に示す
本発明の実施形態による磁石形成用焼結体5cに着磁することにより得られたNd−Fe−B系希土類永久磁石における磁束密度の増大を、従来のNd−Fe−B系磁石と対比して示す
図4(b)及び
図5(b)と同様な図表であり、曲線a−1が比較例となる従来の磁石における磁束密度である。これに対し、曲線d−1、d−2、d−3、d−4、d−5、d−6、d−7が、それぞれ、厚み1.3mm、1.5mm、1.8mm、2.0mm、2.5mm、3.0mm、3.3mmとした場合の、本発明の該実施形態によるバックヨークを持たない磁石における磁束密度を示すものである。図から分かるように、この実施形態により得られる磁石は、磁束密度曲線に高いピークが生じるので、短い周期で可動子の移動方向が切り替わる往復動部材の駆動用リニアモータに使用するのに適したものとなる。
図5(e)に、この実施形態により得られる磁石における、磁石の厚みtと該磁石により生成される磁束量(μWb)の関係を従来の磁石との対比で示す。
図5(e)において、破線が従来の磁石における磁束量を示しており、実線で示される実施例の磁石は、厚み1.8mmより大きい範囲において従来の磁石より高い磁束量をもたらすことが分かる。
【0033】
図5(d)は、
図3(d)に示す実施形態による磁石形成用焼結体5dに着磁することにより得られたNd−Fe−B系希土類永久磁石における磁束密度の増大を、従来のNd−Fe−B系磁石と対比して示す
図4(b)及び
図5(b)と同様な図表であり、曲線a−1が比較例となる従来の磁石における磁束密度である。これに対し、曲線e−1、e−2、e−3、e−4、e−5が、それぞれ、厚み1.3mm、1.8mm、2.5mm、3.0mm、3.3mmとした場合の、本発明の該実施形態によるバックヨークを持たない磁石における磁束密度を示すものである。図から分かるように、この実施形態により得られる磁石は、磁束密度曲線が比較的平らな形状である。
図5(f)に、この実施形態により得られる磁石における、磁石の厚みtと該磁石により生成される磁束量(μWb)の関係を従来の磁石との対比で示す。
図5(f)において、破線が従来の磁石における磁束量を示しており、実線で示される実施例の磁石は、厚み1.8mmより大きい範囲において従来の磁石より高い磁束量をもたらすことが分かる。
[希土類永久磁石形成用焼結体の製造方法]
【0034】
次に、
図4(a)に示す実施形態による希土類磁石形成用焼結体5aの製造方法について
図7を参照して説明する。
図7は、本実施形態に係る永久磁石形成用焼結体5aの製造工程を示す概略図である。
【0035】
先ず、所定分率のNd−Fe−B系合金からなる磁石材料のインゴットを鋳造法により製造する。代表的には、ネオジム磁石に使用されるNd−Fe−B系合金は、Ndが30wt%、電解鉄であることが好ましいFeが67wt%、Bが1.0wt%の割合で含まれる組成を有する。次いで、このインゴットを、スタンプミル又はクラッシャー等の公知の手段を使用して200μm程度の大きさに粗粉砕する。代替的には、インゴットを溶解し、ストリップキャスト法によりフレークを作製し、水素解砕法で粗粉化する。それによって、粗粉砕磁石材料粒子115が得られる(
図7(a)参照)。
【0036】
次いで、粗粉砕磁石材料粒子115を、ビーズミル116による湿式法又はジェットミルを用いた乾式法等の公知の粉砕方法によって微粉砕する。例えば、ビーズミル116による湿式法を用いた微粉砕では、粉砕媒体であるビーズ116aを充填したビーズミル116に溶媒を充填し、該溶媒に粗粉砕磁石粒子115を投入する。そして、溶媒中で粗粉砕磁石粒子115を所定範囲の粒径(例えば0.1μm〜5.0μm)に微粉砕し、溶媒中に磁石材料粒子を分散させる(
図7(b)参照)。その後、湿式粉砕後の溶媒に含まれる磁石粒子を真空乾燥などの手段によって乾燥させて、乾燥した磁石粒子を取り出す(図示せず)。ここで、粉砕に用いる溶媒の種類には特に制限はなく、イソプロピルアルコール、エタノール、メタノールなどのアルコール類、酢酸エチル等のエステル類、ペンタン、ヘキサンなどの低級炭化水素類、ベンゼン、トルエン、キシレンなど芳香族類、ケトン類、それらの混合物等が使用できる。溶媒としては、有機溶媒に限らず、液化アルゴン等の不活性ガスの液化物、その他の無機溶媒を使用することができる。いずれの場合においても、溶媒中に酸素原子を含まない溶媒を用いることが好ましい。
【0037】
一方、ジェットミルによる乾式法を用いる微粉砕においては、粗粉砕した磁石材料粒子115を、(a)酸素含有量が実質的に0%の窒素ガス、Arガス、Heガスなどの不活性ガスからなる雰囲気中、又は(b)酸素含有量が0.0001〜0.5%の窒素ガス、Arガス、Heガスなどの不活性ガスからなる雰囲気中で、ジェットミルにより微粉砕し、例えば0.7μm〜5.0μmといった所定範囲の平均粒径を有する微粒子とする。ここで、酸素濃度が実質的に0%とは、酸素濃度が完全に0%である場合に限定されず、微粉の表面にごく僅かに酸化被膜を形成する程度の量の酸素を含有しても良いことを意味する。
【0038】
次に、ビーズミル116その他の手段により微粉砕された磁石材料粒子を所望形状に成形する。この磁石材料粒子の成形のために、上述のように微粉砕された磁石材料粒子115とバインダーとを混合した混合物を準備する。バインダーとしては、樹脂材料を用いることが好ましく、バインダーに樹脂を用いる場合には、構造中に酸素原子を含まず、かつ解重合性のあるポリマーを用いるのが好ましい。また、後述のように磁石粒子とバインダーとの混合物を、例えば長方体形状のような所望形状に成形する際に生じた混合物の残余物を再利用できるようにするために、かつ、混合物を加熱して軟化した状態で磁場配向を行うことができるようにするために、熱可塑性樹脂を用いることが好ましい。具体的には、以下の一般式(1)に示されるモノマーから形成される1種又は2種以上の重合体又は共重合体からなるポリマーが好適に用いられる。
【化1】
(但し、R
1及びR
2は、水素原子、低級アルキル基、フェニル基又はビニル基を表す)
【0039】
上記条件に該当するポリマーとしては、例えばイソブチレンの重合体であるポリイソブチレン(PIB)、イソプレンの重合体であるポリイソプレン(イソプレンゴム、IR)、1,3−ブタジエンの重合体であるポリブタジエン(ブタジエンゴム、BR)、スチレンの重合体であるポリスチレン、スチレンとイソプレンの共重合体であるスチレン−イソプレンブロック共重合体(SIS)、イソブチレンとイソプレンの共重合体であるブチルゴム(IIR)、スチレンとブタジエンの共重合体であるスチレン−ブタジエンブロック共重合体(SBS)、スチレンとエチレン、ブタジエンの共重合体であるスチレン−エチレン−ブタジエン−スチレン共重合体(SEBS)、スチレンとエチレン、プロピレンの共重合体であるスチレン−エチレン−プロピレン−スチレン共重合体(SEPS)、エチレンとプロピレンの共重合体であるエチレン−プロピレン共重合体(EPM)、エチレン、プロピレンとともにジエンモノマーを共重合させたEPDM、エチレンの重合体であるポリエチレン、プロピレンの重合体であるポリプロピレン、2−メチル−1−ペンテンの重合体である2−メチル−1−ペンテン重合樹脂、2−メチル−1−ブテンの重合体である2−メチル−1−ブテン重合樹脂、α−メチルスチレンの重合体であるα−メチルスチレン重合樹脂等がある。また、バインダーに用いる樹脂としては、酸素原子、窒素原子を含むモノマーの重合体又は共重合体(例えば、ポリブチルメタクリレートやポリメチルメタクリレート等)を少量含む構成としても良い。更に、上記一般式(1)に該当しないモノマーが一部共重合していても良い。その場合であっても、本発明の目的を達成することが可能である。
【0040】
なお、バインダーに用いる樹脂としては、磁場配向を適切に行う為に250℃以下で軟化する熱可塑性樹脂、より具体的にはガラス転移点又は流動開始温度が250℃以下の熱可塑性樹脂を用いることが望ましい。
【0041】
熱可塑性樹脂中に磁石材料粒子を分散させるために、分散剤を適量添加することが望ましい。分散剤としては、アルコール、カルボン酸、ケトン、エーテル、エステル、アミン、イミン、イミド、アミド、シアン、リン系官能基、スルホン酸、二重結合や三重結合などの不飽和結合を有する化合物、液状飽和炭化水素化合物のうち、少なくともひとつを添加することが望ましい。複数を混合して用いても良い。
【0042】
そして、後述するように、磁石材料粒子とバインダーとの混合物に対して磁場を印加して該磁石材料を磁場配向するにあたっては、混合物を加熱してバインダー成分が軟化した状態で磁場配向処理を行う。
【0043】
磁石材料粒子に混合されるバインダーとして上述の条件を満たすバインダーを用いることによって、焼結後の希土類永久磁石形成用焼結体内に残存する炭素量及び酸素量を低減させることが可能となる。具体的には、焼結後に磁石形成用焼結体内に残存する炭素量を2000ppm以下、より好ましくは1000ppm以下とすることができる。また、焼結後に磁石形成用焼結体内に残存する酸素量を5000ppm以下、より好ましくは2000ppm以下とすることができる。
【0044】
バインダーの添加量は、スラリー又は加熱溶融したコンパウンドを成形する場合に、成形の結果として得られる成形体の厚み精度が向上するように、磁石材料粒子間の空隙を適切に充填できる量とする。例えば、磁石材料粒子とバインダーの合計量に対するバインダーの比率が、1wt%〜40wt%、より好ましくは2wt%〜30wt%、さらに好ましくは3wt%〜20wt%とする。
【0045】
以下の実施例では、混合物を一旦製品形状以外に成形した状態で磁場を印加して磁石材料粒子の磁化容易軸の配向を行い、その後に焼結処理を行うことによって、例えば
図4(a)に示す形状のような、所望の製品形状とする。特に、以下の実施例では、磁石材料粒子とバインダーとからなる混合物すなわちコンパウンド117を、シート形状のグリーン成形体(以下、「グリーンシート」という)に一旦成形した後に、配向処理のための成形体形状とする。混合物を特にシート形状に成形する場合には、例えば磁石材料粒子とバインダーとの混合物であるコンパウンド117を加熱した後にシート形状に成形するホットメルト塗工によるか、又は、磁石材料粒子とバインダーと有機溶媒とを含むスラリーを基材上に塗工することによりシート状に成形するスラリー塗工等による成形を採用することができる。
【0046】
以下においては、特にホットメルト塗工法によるグリーンシート形成に関連して実施形態を説明するが、本発明は、そのような特定の塗工法に限定されるものではなく、例えば、ホットメルトのダイ押出し等、他の方法を用いることができる。
【0047】
以下においては、特にホットメルト塗工を用いたグリーンシート成形について説明するが、本発明は、そのような特定の塗工法に限定されるものではない。
【0048】
既に述べたように、ビーズミル116によるか、他の方法で微粉砕された磁石材料粒子にバインダーを混合することにより、磁石材料粒子とバインダーとからなる粘土状の混合物すなわちコンパウンド117を作製する。ここで、バインダーとしては、上述したように樹脂、分散剤の混合物を用いることができる。例えば、樹脂としては、構造中に酸素原子を含まず、かつ解重合性のあるポリマーからなる熱可塑性樹脂を用いることが好ましく、一方、分散剤としては、アルコール、カルボン酸、ケトン、エーテル、エステル、アミン、イミン、イミド、アミド、シアン、リン系官能基、スルホン酸、二重結合や三重結合などの不飽和結合を有する化合物のうち、少なくともひとつを添加することが好ましい。また、バインダーの添加量は、上述したように添加後のコンパウンド117における磁石材料粒子とバインダーの合計量に対するバインダーの比率が、1wt%〜40wt%、より好ましくは2wt%〜30wt%、さらに好ましくは3wt%〜20wt%となるようにする。
【0049】
ここで分散剤の添加量は磁石材料粒子の粒子径に応じて決定することが好ましく、磁石材料粒子の粒子径が小さい程、添加量を多くすることが推奨される。具体的な添加量としては、磁石材料粒子に対して0.1部〜10部、より好ましくは0.3部〜8部とする。添加量が少ない場合には分散効果が小さく、配向性が低下する恐れがある。また、添加量が多い場合は、磁石材料粒子を汚染する恐れがある。磁石材料粒子に添加された分散剤は、磁石材料粒子の表面に付着し、磁石材料粒子を分散させ粘土状混合物を与えるとともに、後述の磁場配向処理において、磁石材料粒子の回動を補助するように作用する。その結果、磁場を印加した際に配向が容易に行われ、磁石粒子の磁化容易軸方向をほぼ同一方向に揃えること、すなわち、配向度を高くすることが可能になる。特に、磁石材料粒子にバインダーを混合する場合には、粒子表面にバインダーが存在するようになるため、磁場配向処理時の摩擦力が高くなり、そのために粒子の配向性が低下する恐れがあり、分散剤を添加することの効果がより高まる。
【0050】
磁石材料粒子とバインダーとの混合は、窒素ガス、Arガス、Heガスなどの不活性ガスからなる雰囲気のもとで行うことが好ましい。磁石材料粒子とバインダーとの混合は、例えば磁石材料粒子とバインダーをそれぞれ攪拌機に投入し、攪拌機で攪拌することにより行う。この場合において、混練性を促進する為に加熱攪拌を行っても良い。さらに、磁石材料粒子とバインダーの混合も、窒素ガス、Arガス、Heガスなど不活性ガスからなる雰囲気で行うことが望ましい。また、特に磁石粒子を湿式法で粉砕した場合においては、粉砕に用いた溶媒から磁石粒子を取り出すことなくバインダーを溶媒中に添加して混練し、その後に溶媒を揮発させ、コンパウンド117を得るようにしても良い。
【0051】
続いて、コンパウンド117をシート状に成形することにより、前述したグリーンシートを作成する。ホットメルト塗工を採用する場合には、コンパウンド117を加熱することにより該コンパウンド117を溶融し、流動性を有する状態にした後、支持基材118上に塗工する。その後、放熱によりコンパウンド117を凝固させて、支持基材118上に長尺シート状のグリーンシート119を形成する。この場合、コンパウンド117を加熱溶融する際の温度は、用いるバインダーの種類や量によって異なるが、通常は50〜300℃とする。但し、用いるバインダーの流動開始温度よりも高い温度とする必要がある。なお、スラリー塗工を用いる場合には、多量の溶媒中に磁石材料粒子とバインダー、及び、任意ではあるが、配向を助長する添加剤を分散させ、スラリーを支持基材118上に塗工する。その後、乾燥して溶媒を揮発させることにより、支持基材118上に長尺シート状のグリーンシート119を形成する。
【0052】
ここで、溶融したコンパウンド117の塗工方式は、スロットダイ方式又はカレンダーロール方式等の、層厚制御性に優れる方式を用いることが好ましい。特に、高い厚み精度を実現する為には、特に層厚制御性に優れた、すなわち、基材の表面に高精度の厚さの層を塗工できる方式であるダイ方式やコンマ塗工方式を用いることが望ましい。例えば、スロットダイ方式では、加熱して流動性を有する状態にしたコンパウンド117をギアポンプにより圧送してダイに注入し、ダイから吐出することにより塗工を行う。また、カレンダーロール方式では、加熱した2本のロールのニップ間隙に、コンパウンド117を制御した量で送り込み、ロールを回転させながら、支持基材118上に、ロールの熱で溶融したコンパウンド117を塗工する。支持基材118としては、例えばシリコーン処理ポリエステルフィルムを用いることが好ましい。さらに、消泡剤を用いるか、加熱真空脱泡を行うことによって、塗工され展開されたコンパウンド117の層中に気泡が残らないよう、充分に脱泡処理することが好ましい。或いは、支持基材118上に塗工するのではなく、押出成型や射出成形によって溶融したコンパウンド117をシート状に成型しながら支持基材118上に押し出すことによって、支持基材118上にグリーンシート119を成形することもできる。
【0053】
図7に示す実施形態では、スロットダイ120を用いてコンパウンド117の塗工を行うようにしている。このスロットダイ方式によるグリーンシート119の形成工程では、塗工後のグリーンシート119のシート厚みを実測し、その実測値に基づいたフィードバック制御により、スロットダイ120と支持基材118との間のニップ間隙を調節することが望ましい。この場合において、スロットダイ120に供給する流動性コンパウンド117の量の変動を極力低下させ、例えば±0.1%以下の変動に抑え、さらに塗工速度の変動も極力低下させ、例えば±0.1%以下の変動に抑えることが望ましい。このような制御によって、グリーンシート119の厚み精度を向上させることが可能である。なお、形成されるグリーンシート119の厚み精度は、例えば1mmといった設計値に対して、±10%以内、より好ましくは±3%以内、さらに好ましくは±1%以内とすることが好ましい。カレンダーロール方式では、カレンダー条件を同様に実測値に基づいてフィードバック制御することで、支持基材118に転写されるコンパウンド117の膜厚を制御することが可能である。
【0054】
グリーンシート119の厚みは、0.05mm〜20mmの範囲に設定することが望ましい。厚みを0.05mmより薄くすると、必要な磁石厚みを達成するために、多層を積層しなければならなくなるので、生産性が低下することになる。
【0055】
次に、上述したホットメルト塗工によって支持基材118上に形成されたグリーンシート119から所望の磁石寸法に対応する寸法の直方体形状に切り出された加工用シート片を
図6に示すようにU字形に曲げて磁界印加用加工片123を作成する。本実施形態においては、加工片123は、半円形の円弧部123aと、該円弧部123aの両端から接線方向に延びる直線部123b、123cとからなる。円弧部123は、最終的に得られる永久磁石形成用焼結体5aの中央領域9に対応し、端部123bは、焼結体5aの端部領域11に、端部123cは、焼結体5aの端部領域12に、それぞれ対応する。
【0056】
この加工片123は、図の紙面に直角な方向の幅寸法を有し、この幅寸法及び厚みと長さ寸法は、後述する焼結工程における寸法の縮小を見込んで、焼結工程後に所定の磁石寸法が得られるように定める。
【0057】
図6に示す加工用シート片123には、直線部123b、123cの表面に直角になる方向に平行磁場121が印加される。この磁場印加により、加工片123に含まれる磁石材料粒子の磁化容易軸が、
図6に矢印122で示すように、磁場の方向に配向される。具体的に述べると、加工片123は、該加工片123に対応する形状のキャビティを有する磁場印加用型内に収容され(図示せず)、加熱することにより加工片123に含まれるバインダーを軟化させる。詳細には、加工片123内に含まれるバインダーの貯蔵弾性率が10
8Pa以下、好ましくは10
7Pa以下となるまで加工片123を加熱し、バインダーを軟化させる。それによって、磁石材料粒子はバインダー内で回動できるようになり、その磁化容易軸を平行磁場121に沿った方向に配向させることができる。
【0058】
ここで、加工片123を加熱するための温度及び時間は、用いるバインダーの種類及び量によって異なるが、例えば40〜250℃で0.1〜60分とする。いずれにしても、加工片123内のバインダーを軟化させるためには、加熱温度は、用いられるバインダーのガラス転移点又は流動開始温度以上の温度とする必要がある。加工片123を加熱するための手段としては、例えばホットプレートによる加熱、又はシリコーンオイルのような熱媒体を熱源に用いる方式がある。磁場印加における磁場の強さは、5000[Oe]〜150000[Oe]、好ましくは、10000[Oe]〜120000[Oe]とすることができる。その結果、加工片123に含まれる磁石材料粒子の磁化容易軸が、
図6に示すように、平行磁場121に沿った方向に、平行に配向される。この磁場印加工程では、複数個の加工用シート片123に対して同時に磁場を印加する構成とすることもできる。このためには、複数個のキャビティを有する型を使用するか、或いは、複数個の型を並べて、同時に平行磁場121を印加すればよい。加工片123に磁場を印加する工程は、加熱工程と同時に行っても良いし、加熱工程を行った後であって加工片123のバインダーが凝固する前に行っても良い。
【0059】
次に、
図6に示す磁場印加工程により磁石材料粒子の磁化容易軸が矢印122で示すように平行配向された加工片123を、磁場印加用型から取り出し、細長い長さ方向寸法の長方体形キャビティ124を有する最終成形用型内に移して、焼結処理用加工片に成形する。この成形により、加工片123は、円弧部123aが、直線状の中央領域9に対応する形状になり、同時に、両端の直線部123b、123cは、中央領域と直線状に整列する形状になる。この成形工程により形成される焼結処理用加工片においては、中央の直線状領域9に対応する領域に含まれる磁石材料粒子の磁化容易軸は、
図4(a)に示すように円弧状の経路に沿って指向する配向になる。さらに、両端の端部領域11、12に対応する直線部に含まれる磁石材料粒子の磁化容易軸は、
図4(a)に示すように、厚み方向の平行経路に沿って指向するパラレル配向となる。
【0060】
このようにして磁石材料粒子の磁化容易軸が配向された配向後の焼結処理用加工片を、大気圧、或いは、大気圧より高い圧力又は低い圧力(例えば、1.0Pa又は1.0MPa)に調節した非酸化性雰囲気において、バインダー分解温度で数時間〜数十時間(例えば5時間)保持することにより仮焼処理を行う。この処理では、水素雰囲気又は水素と不活性ガスの混合ガス雰囲気を用いることが推奨される。水素雰囲気のもとで仮焼処理を行う場合には、仮焼中の水素の供給量は、例えば5L/minとする。仮焼処理を行うことによって、バインダーに含まれる有機化合物を、解重合反応、その他の反応によりモノマーに分解し、飛散させて除去することが可能となる。すなわち、焼結処理用シート片125に残存する炭素の量を低減させる処理である脱カーボン処理が行われることとなる。また、仮焼処理は、焼結処理用シート片125内に残存する炭素の量が2000ppm以下、より好ましくは1000ppm以下とする条件で行うことが望ましい。それによって、その後の焼結処理で焼結処理用シート片125の全体を緻密に焼結させることが可能となり、残留磁束密度及び保磁力の低下を抑制することが可能になる。なお、上述した仮焼処理を行う際の加圧条件を大気圧より高い圧力とする場合には、圧力は15MPa以下とすることが望ましい。ここで、加圧条件は、大気圧より高い圧力、より具体的には0.2MPa以上とすれば、特に残存炭素量軽減の効果が期待できる。
【0061】
バインダー分解温度は、バインダー分解生成物および分解残渣の分析結果に基づき決定することができる。具体的には、バインダーの分解生成物を補集し、モノマー以外の分解生成物が生成せず、かつ残渣の分析においても残留するバインダー成分の副反応による生成物が検出されない温度範囲を選択することが推奨される。バインダーの種類により異なるが、200℃〜900℃、より好ましくは400℃〜600℃、例えば450℃とすればよい。
【0062】
上述の仮焼処理においては、一般的な希土類磁石の焼結処理と比較して、昇温速度を小さくすることが好ましい。具体的には、昇温速度を2℃/min以下、例えば1.5℃/minとすることにより、好ましい結果を得ることができる。従って、仮焼処理を行う場合には、
図9に示すように2℃/min以下の所定の昇温速度で昇温し、予め設定された設定温度(バインダー分解温度)に到達した後に、該設定温度で数時間〜数十時間保持することにより仮焼処理を行う。このように、仮焼処理において昇温速度を小さくすることによって、焼結処理用シート片125内の炭素が急激に除去されることがなく、段階的に除去されるようになるので、十分なレベルまで残量炭素を減少させて、焼結後の永久磁石形成用焼結体の密度を上昇させることが可能となる。すなわち、残留炭素量を減少させることにより、永久磁石中の空隙を減少させることができる。上述のように、昇温速度を10℃/min程度とすれば、焼結後の永久磁石形成用焼結体の密度を98%以上(7.40g/cm3以上)とすることができ、着磁後の磁石において高い磁石特性を達成することが期待できる。
【0063】
続いて、仮焼処理によって仮焼された焼結処理用加工片を焼結する焼結処理が行われる。焼結処理としては、真空中での無加圧焼結法を採用することもできるが、本実施形態では、焼結処理用加工片を幅方向に一軸加圧した状態で焼結する一軸加圧焼結法を採用することが好ましい。この方法では、
図4(a)に示すものと同じ形状のキャビティを有する焼結用型(図示せず)内に焼結処理用加工片125を装填し、型を閉じて、幅方向に加圧しながら焼結を行う。この加圧焼結技術としては、例えば、ホットプレス焼結、熱間静水圧加圧(HIP)焼結、超高圧合成焼結、ガス加圧焼結、放電プラズマ(SPS)焼結等、公知の技術のいずれを採用してもよい。特に、一軸方向に加圧可能であって、通電焼結により焼結が遂行されるSPS焼結を用いることが好ましい。
【0064】
なお、SPS焼結で焼結を行う場合には、加圧圧力を、例えば0.01MPa〜100MPaとし、数Pa以下の真空雰囲気で940℃まで10℃/分の昇温速度で温度上昇させ、その後5分保持することが好ましい。次いで冷却し、再び300℃〜1000℃に昇温して2時間、その温度に保持する熱処理を行う。このような焼結処理の結果、焼結処理用加工片から、
図4(a)に示す磁化容易軸配向を有する希土類永久磁石形成用焼結体5aが製造される。このように、焼結処理用加工片を幅方向に加圧した状態で焼結する一軸加圧焼結法によれば、焼結処理用加工片内の磁石材料粒子に与えられた磁化容易軸の配向が変化することを抑制できる。
【0065】
図5(a)に示す磁石材料粒子の磁化容易軸配向を有する希土類永久磁石形成用焼結体を作製するためには、
図6に示す加工片123に代えて、直線部123b、123cのない、円弧部123aだけの半円形の加工片を使用すれば、全体にわたり磁化容易軸が円弧状経路に沿って指向される配向の焼結体が得られる。この場合において、加工片の端部における曲率半径を、端部に向けて漸次増加するようにすれば、端部領域における湾曲経路が中央領域における円弧状経路とは異なる曲率のものとすることもできる。
【0066】
図8は、本発明の希土類永久磁石形成用焼結体5aに着磁することによって形成された永久磁石131を搭載した可動子130と、該可動子130に対向するように配置された固定子132とから構成される小型リニアモータ140の一例を示すものである。可動子130には、本発明の実施形態による永久磁石131が2個、並列に、かつ、極性が逆になるように配置されて、磁石列を形成している。磁石列には、該リニアモータ140によって駆動される被駆動部材134が取り付けられる。固定子132は、鉄心にまかれた複数のコイル133a、133b、133cが、矢印141で示す可動子130の移動方向に間隔をもって配置されている。このリニアモータの構成自体は、通常のものであるから、その詳細についての説明は省略する。本発明の希土類永久磁石は、バックヨークを使用せずに高い磁束密度を確保できるので、永久磁石ユニットの厚みを従来の永久磁石に比べて薄くすることができ、かつ、同じ厚みの永久磁石ユニットで比較した場合、リニアモータの出力を大幅に高めることができる。
【0067】
図9は、
図3(d)に示す磁化容易軸配向を有する希土類永久磁石形成用焼結体5dを作製するための方法の一例を示すものである。
図9(a)は、最初の工程を示すもので、
図7(d)と同様の工程により、薄いグリーンシート150が複数枚形成される。このグリ−ンシート150は、磁化容易軸151が長さ方向に配向した磁石材料粒子を含む。このグリーンシート150を、
図9(b)に示すように、U字形に類似した形状に曲げる。この工程で、曲げ曲率の異なる複数枚のグリーンシート150a〜150fを作成し、
図9(c)に示すように、これら複数枚のグリーンシート150a〜150fを重ね合せて熱融着する。次いで、中央部の必要な個所を、
図9(d)に示すように切り出して、中央部152を形成する。その後、
図9(e)に示すように、
図9(d)の工程で得られた該中央部152の長さ方向両端部に、磁化容易軸がパラレル配向したグリーンシート153、154を貼り合わせ、熱融着して成形体155を形成する。最後に、
図9(e)の工程で得られた成形体155を焼結することにより、
図3(d)に示す磁石形成用焼結体5dを得ることができる。
図9(b)の曲げ工程において、曲げ形状を適切に定めることにより、
図9(d)の工程で切り出される中央部152における磁石材料粒子の磁化容易軸の配向を所望のように定めることができる。したがって、
図3(c)に示す構成も、同様の方法で形成することが可能である。
【0068】
以上、本発明を特定の実施形態に関連して説明したが、本発明は、これら特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された思想に含まれるすべてが本発明に含まれるものである。