(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6945476
(24)【登録日】2021年9月16日
(45)【発行日】2021年10月6日
(54)【発明の名称】電気膜抽出のための新規な装置
(51)【国際特許分類】
G01N 1/10 20060101AFI20210927BHJP
B01D 63/00 20060101ALI20210927BHJP
B01D 61/38 20060101ALI20210927BHJP
B01D 61/46 20060101ALI20210927BHJP
B01D 71/06 20060101ALI20210927BHJP
【FI】
G01N1/10 B
B01D63/00
B01D63/00 500
B01D61/38
B01D61/46 500
B01D61/46 510
B01D71/06
G01N1/10 G
【請求項の数】18
【外国語出願】
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2018-37403(P2018-37403)
(22)【出願日】2018年3月2日
(65)【公開番号】特開2018-179970(P2018-179970A)
(43)【公開日】2018年11月15日
【審査請求日】2021年2月2日
(31)【優先権主張番号】15/478,830
(32)【優先日】2017年4月4日
(33)【優先権主張国】US
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】518073217
【氏名又は名称】エクストラクション テクノロジーズ ノルウェー アーエス
(74)【代理人】
【識別番号】100077838
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 憲保
(74)【代理人】
【識別番号】100129023
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 敬
(72)【発明者】
【氏名】ローゲル トローネス
(72)【発明者】
【氏名】トロンド レブリ
(72)【発明者】
【氏名】ティーゲ グライブロック
【審査官】
北条 弥作子
(56)【参考文献】
【文献】
西独国特許第01002539(DE,B)
【文献】
国際公開第2007/004892(WO,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2012/0186979(US,A1)
【文献】
中国実用新案第205501025(CN,U)
【文献】
特開2000−093972(JP,A)
【文献】
Chuixiu Huang,Exhaustive extraction of peptides by electromembrane extraction,Anal Chim Acta.,2015年01月01日,853,328-334,doi: 10.1016/j.aca.2014.10.017
【文献】
Chuixiu Huang,Development of a flat membrane based device for electromembrane extraction: a new approach for exhaustive extraction of basic drugs from human plasma,J Chromatogr A.,2014年01月24日,1326,7-12,doi: 10.1016/j.chroma.2013.12.028.
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 1/00〜 1/44
B01D 61/00〜71/82
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気絶縁性材料で作られている合体用コネクタと、
アクセプタ区画のコネクタ側の端部を有するアクセプタ区画と、
ドナー区画のコネクタ側の端部を有するドナー区画と、
を含み、
前記アクセプタおよびドナー区画のコネクタ側の端部の両方は前記合体用コネクタに接続可能であり、
前記合体用コネクタは封止体を各々の側に有する平坦膜を含み、前記アクセプタ区画および前記ドナー区画が前記合体用コネクタに接続されるときに前記封止体は前記アクセプタ区画のコネクタ側の端部と前記平坦膜との間および前記ドナー区画のコネクタ側の端部と前記平坦膜との間にそれぞれ配置され、
前記アクセプタ区画と前記ドナー区画は、使用の際、電源に接続される導電性部分を含む
電気膜抽出(EME)装置。
【請求項2】
前記アクセプタ区画および前記ドナー区画のうち少なくとも一方はキャップで閉じられる開口を含む、請求項1に記載のEME装置。
【請求項3】
前記キャップはねじ付きキャップまたはスナップキャップである、請求項2に記載のEME装置。
【請求項4】
前記キャップはセプタムを含み、前記セプタムは、シリンジ針電極(単数または複数)、またはL−形状のもしくはT−形状のシリンジ電極(単数または複数)または貫通孔を有する円板状電極(単数または複数)によって貫かれるように配置され、前記セプタムは前記導電性部分として役立つ、請求項2又は3に記載のEME装置。
【請求項5】
前記封止体はリング状であり、前記平坦膜を保持しており、かつ電気絶縁性材料で作られている、請求項1〜4のいずれか一項に記載のEME装置。
【請求項6】
前記アクセプタ区画および/または前記ドナー区画の一部は導電性材料で作られ、前記導電性部分を構成する、請求項1〜5のいずれか一項に記載のEME装置。
【請求項7】
前記アクセプタ区画および/または前記ドナー区画は導電性材料で作られ、前記導電性材料の前記アクセプタ区画および/または前記ドナー区画は、前記導電性部分を構成する、請求項1〜6のいずれか一項に記載のEME装置。
【請求項8】
前記アクセプタ区画および/または前記ドナー区画は前記導電性部分として更に導電性プラグを含み、当該プラグは、当該プラグ(単数または複数)を含む区画(単数または複数)に電流を送るためのものである、請求項6または7に記載のEME装置。
【請求項9】
前記セプタムは導電性材料で作られ、更に前記導電性部分を構成する、請求項4に記載のEME装置。
【請求項10】
電気絶縁性材料で作られている合体用コネクタと、
アクセプタ区画のコネクタ側の端部を有するアクセプタ区画と、
ドナー区画のコネクタ側の端部を有するドナー区画と、
を含み、
前記アクセプタおよびドナー区画のコネクタ側の端部の両方は前記合体用コネクタに接続可能であり、
前記合体用コネクタは封止体を各々の側に有する平坦膜を含み、
前記アクセプタ区画および前記ドナー区画が前記合体用コネクタに接続されるときに前記封止体は前記アクセプタ区画のコネクタ側の端部と前記平坦膜との間および前記ドナー区画のコネクタ側の端部と前記平坦膜との間にそれぞれ配置され、
前記アクセプタ区画および/または前記ドナー区画はガラスで作られており、且つ、前記アクセプタ区画および/または前記ドナー区画は、使用の際、前記アクセプタ区画と前記ドナー区画を電源に接続される導電性部分を含む、
EME装置。
【請求項11】
電気絶縁性材料で作られている合体用コネクタと、
アクセプタ区画のコネクタ側の端部を有するアクセプタ区画と、
ドナー区画のコネクタ側の端部を有するドナー区画と、
を含み、
前記アクセプタおよびドナー区画のコネクタ側の端部の両方は前記合体用コネクタに接続可能であり、
前記合体用コネクタは封止体を各々の側に有する平坦膜を含み、前記アクセプタ区画および前記ドナー区画が前記合体用コネクタに接続されるときに前記封止体は前記アクセプタ区画のコネクタ側の端部と前記平坦膜との間および前記ドナー区画のコネクタ側の端部と前記平坦膜との間にそれぞれ配置され、
前記アクセプタ区画および/または前記ドナー区画は、開口を含み、前記開口が前記膜より上のレベルに配置されるように曲げられた構造を有し、且つ
前記アクセプタ区画および/または前記ドナー区画は、使用の際、前記アクセプタ区画と前記ドナー区画を電源に接続する導電性部分を含む、
EME装置。
【請求項12】
3相システムにおける有機化合物の電気膜抽出(EME)のための方法であって、
- 合体用コネクタにアクセプタ区画のコネクタ側の端部を接続し、当該合体用コネクタは封止体を各々の側に有する平坦膜を含み、当該平坦膜と前記封止体の一方とは前記アクセプタ区画のコネクタ側の端部を密封し、かつ当該平坦膜は支持液膜を含んでおり、
- 前記アクセプタ区画の反対側で前記合体用コネクタにドナー区画のコネクタ側の端部を接続し、前記平坦膜と前記封止体の一方とは前記ドナー区画のコネクタ側の端部を密封しており、
- 前記アクセプタ区画にアクセプタ溶液を供給し、
- 前記アクセプタ区画にアクセプタ電極を配置し、
- 前記コネクタ側の端部とは反対側のキャップ側の端部に配置されたねじ付のキャップまたはスナップキャップで前記アクセプタ区画を閉鎖し、
- 抽出されるべき少なくとも一つの有機化合物を含むドナー溶液を前記ドナー区画に供給し、
- 前記ドナー区画にドナー電極を配置し、
- 前記コネクタ側の端部とは反対側の前記キャップ側の端部に配置されたねじ付のキャップまたはスナップキャップで前記ドナー区画を閉鎖し、そして
- 前記アクセプタおよび前記ドナー電極に電力を印加して、前記ドナー溶液から前記支持液膜を通って前記アクセプタ溶液への前記有機化合物の移動を促進する、
ことを含む方法。
【請求項13】
前記ドナーおよび前記アクセプタ溶液を振動によって撹拌することをさらに含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記アクセプタ溶液が、分析用HPLC装置のような専用分析装置、またはLC−MSのようなもしくは96穴型マイクロプレートを使用した自動化および/またはロボット・オートサンプラーを含むMS装置へ、詳細分析のために送られる、請求項12または13に記載の方法。
【請求項15】
前記96穴型マイクロプレートは導電性であり、その中に配置された電極/導電性バイアルに電流を送り込むのに適合したものである、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
選択されるべき前記支持液膜が前記少なくとも一つの有機化合物の極性に基づいている、請求項12〜15のうちのいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記支持液膜が、疎水性化合物に対しては2−ニトロフェニール・オクチル・エーテル(NPOE)である、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記支持液膜が、より疎水性の化合物に対してはNPOEに10−50%のビス(2−エチルヘキシル)フォスファイトである、請求項16による方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気運動的移動(electrokinetic migration)または電気運動的膜横断(electronkinetic cross-membrane)分離と従来は名付けられていた電気膜抽出(EME: electromembrane extraction)による、有機または生化学化合物の分離、精製、および/または濃縮のための装置に関し、また、当該装置を使用するための改良された方法に関する。
【背景技術】
【0002】
分析的有機化学、生化学、および医薬化学は、様々な起源の試料から化合物を検出するための良い方法を提供するという課題に直面している。当該化合物はそこから分離しなければならない複合混合物からしばしば出現するし、また非常に低濃度で存在することもありうる。複雑化させる他の要因としては、検出されるべき化合物を含む試料の量が、例えば乳児や幼児からの血液試料のように、非常に少ないといったこともありうる。
【0003】
生物有機化合物を分離し、単離し、精製し、濃縮するために多くの様々な方法が長年にわたって開発されてきている。多くのものは当業者に周知の方法であり、例としては、2相抽出(例えば、水相-有機相)および3相抽出(例えば、水相-有機相-水相)がある。
【0004】
特許文献1からは、アクセプタ溶液中の検体を高度に濃縮するための2相液および3相液ミクロ抽出のための方法および装置が知られる。しかしながら、古典的な抽出方法は検体の拡散に基づいており、これは時間のかかる方法である。検体の到達可能な最終濃度は、例えば2相または3相システムの相の各々に対する平衡条件に依存し、たとえあったとしても収率は低いものでしかない。
【0005】
上記のような方法をたとえ自動化したとしても、なお時間がかかり、しばしば有機溶剤の浪費をももたらすことになる。
【0006】
このタイプの分離方法についての選択性と必要時間の短縮との両方を改善するために、電気膜抽出(EME:electro-membrane extraction )を導入することがこの分野における最近の開発に好ましく追加されている。
【0007】
イオン化された化学および生化学物質は電界が印加されると溶液中を移動することはよく知られている。このタイプの移送は、電気運動的移動と呼ばれているが、電気泳動法(electrophoresis)の基盤であり、また産業上の利用(精製)および分析化学の分野(試料調製)の両方において分離の目的で広く使用されている。
【0008】
電気膜抽出に基づく分離は、水1相システムにおいてよく実施される。これの例として一つの重要なものは電気透析(electrodialysis)であり、そこではイオン化された化学物質が水ドナー/試料区画から、同一の水媒体で満たされたイオン交換膜の孔を通って、水アクセプタ区画中に移動する。電気透析においては、分離に関与している移動選択性は、ポリマー膜に小孔が存在してより大きい分子がアクセプタ区画に入るのを阻止することによって得られている。電気透析法は重要な産業的精製および脱塩プロセスであり、また分析化学における試料調製技術として報告されてもいる。
【0009】
特許文献2は、電気運動的移動すなわち電気膜抽出(EME)による有機または生化学化合物の分離、精製、集中および/または濃縮のための方法を開示している。中空繊維膜(HFM:hollow fiber membrane)が分析を目的とする最も好ましい装置として記述されている。
【0010】
特許文献3は、電気膜抽出のための装置を開示しており、その発明の一実施形態では中空繊維膜とともに第二の電極(アクセプタ相)としてシリンジ針を用いている。
【0011】
特許文献2に記載された方法で解決されるべき残余の問題は当該特許に記載された装置の取り扱いおよび使用である。第一世代装置として、改良の可能性が大いにある。一つの改良は(特許文献3に表現されているように)電気膜抽出のプロセス全体を簡略化したことで、より信頼性のある結果をももたらしている。
【0012】
しかしながら、高純度で所要の化合物を回収する改良された新しい方法が必要であり、最後にそれに劣らず重要なことであるが、分離または精製工程をより早くかつ高度の自動化で進められるような新しい技術が必要である。
【0013】
残りの課題は、試料溶液中の有機または生化学化合物のより迅速かつより自動化された分析をいかに容易にするかということである。
【0014】
更なる課題は、より迅速かつより自動化された分析のために提供する電極を改良することである。
【0015】
本発明の更なる目的は、既存の設備と結合して一緒に使用できるような解決策を提供することにある。
【0016】
他の目的は、分析用HPLC装置のような産業用の自動化された装置、または96穴型マイクロプレートを使用した自動化および/またはロボット・オートサンプラーを含むLC−MSのようなMS装置の使用を提供することにある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】国際公開第00/33050号
【特許文献2】米国特許第8317991号明細書
【特許文献3】米国特許第8940146号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明は、付随する請求項で規定されるような方法および装置によって前記の課題を解決することに向けられている。
【0019】
本発明は、中空繊維膜を平坦膜で置き換え、それによって標準的なバイアルに適用可能な構造への組込みを行うことを含む。
【課題を解決するための手段】
【0020】
そこで本発明によれば、第一の実施形態では、貫通孔(スルーホール)を有する特別仕様の第一の円板状電極を含む、アクセプタ溶液用のスナップキャップまたはネジ式キャップで蓋をしたガラス区画と、平坦膜の各々の側にアイソレータとして機能する封止体を含むネジ付きの合体用コネクタ(ユニオンコネクタ)と、貫通孔を有する特別仕様の第二の円板状電極を含む、ドナー溶液用のスナップキャップまたはネジ式キャップで蓋をしたガラス区画とを有する、電気膜抽出(EME)のための装置が提供される。
【0021】
本発明の第二の実施形態では、ドナー区画は第一の実施形態と同様に維持される。アクセプタ区画は、電極とバイアルとの両方として機能し、電極表面積を著しく増加させる、電気伝導性の樹脂から作られた特別仕様の区画によって置き換えられ、機械的構成要素を少なくして分析用のロボット装置に導入することをより容易にする。
【0022】
貫通孔を有する新規な円板状電極は、例えばEMEで現在使用されている従来式のプラチナ棒電極よりもより大きい表面積を与える。貫通孔は、電極(単数または複数)の裏側と表側との間のイオン移送距離の差異を減らし、かつ、使用中の区画(compartment(s))における液の対流を促進し改善するという別の特徴をもたらす。貫通孔を有する円板状電極は、電気的伝導性の物質、例えばポリマー、プラチナ、金、銀、またはスチール、で作ることができる。
【0023】
本発明の第三の実施形態では、ドナーおよびアクセプタ区画の両方が、自動化/ロボットシステムへの導入のためさらなる簡素化をするべく、電極とバイアルとの両方として機能する電気伝導性の樹脂から特別仕様で作られる。
【0024】
本発明はさらに、3相システムにおける有機または生化学化合物の電気膜抽出(EME)のための方法であって、
- ネジ付きの合体用コネクタにアクセプタ区画を接続し、
- ネジ付きの合体用コネクタの内部の封止部の中間に平坦膜を取り付け、
- 膜のドナー側に手動または自動で付加する作業を行うことで有機液を加え、それによってドナーおよびアクセプタ溶液を分離しておくことができるように支持液膜(SLM:supported liquid membrane)を形成し、
- アクセプタ区画にアクセプタ溶液を供給し、
- 抽出されるべき少なくとも一つの有機化合物を含むドナー溶液をドナー区画に添加し、
- ネジ付きの合体用コネクタにドナー区画を取り付け、そして
- 電力(電圧)を、それぞれの区画に設置された4−12の貫通孔を有する二つの電極に印加してSLMを横切る電界を発生させるか、または4−12の貫通孔を有する一つの電極と一つの部分的に導電性の区画とにもしくは二つの導電性の区画に印加してドナー区画からSLMを通ってアクセプタ区画まで前記単数または複数
の有機化合物が移動するのを促進させる、
という方法を提供する。
【0025】
一態様においては、本方法は振動によって装置を揺動(agitate)させることをさらに含む。
【0026】
第二の態様においては、本方法は振動による装置の揺動を含まなくてもよい。
【0027】
本方法では、専用の分析装置における分析のために手動でまたは例えばオートサンプラーにより自動的にアクセプタ溶液を移送する工程をさらに含んでもよい。
【0028】
本発明は、分析(または分離)のために試料を調整する方法であって、
- 当該ドナー溶液からアクセプタ溶液に移送されるべき少なくとも一つの有機化合物を含む第一の親水性ドナー溶液を準備し、
- 前記ドナー溶液のpHは、必要に応じてpHを調整することによって前記有機化合物が正にまたは負にイオン化されるようなレベルであり、
- 第二の親水性アクセプタ溶液を準備し、
- 前記第二の親水性アクセプタ溶液のpHは、ドナー溶液からアクセプタ溶液へ移送されるべき前記有機化合物が必要に応じてpHを調整することによってイオン化されるようなレベルであり、
- 固定化された(immobilized)有機液を含みその厚さが10−1000μmの範囲にある支持液膜であって、実質的に水に非混和性であり、電界と前記少なくとも一つのイオン化された有機化合物とがそれを横断することができる支持液膜を準備し、そして
- 前記膜を前記ドナー溶液および前記アクセプタ溶液に液接触するように配置して前記ドナー溶液と前記アクセプタ溶液とを分離するようにし、
- 前記ドナー溶液におよび前記アクセプタ溶液に液接触するように配置されるべき電極および/または導電性の区画を準備し、
- 前記電極および/または電気的伝導性の区画に対して電圧を印加して、前記有機化合物がドナー溶液から支持液膜を通ってアクセプタ溶液に移動するのを促進し、そして
- 適切な検出システムによって前記有機化合物を検出し、かつ/または生化学テストシステムにおいて生化学的活性をチェックする、
という工程を備える方法を含む。
【0029】
また、試料の精製のための方法であって、当該ドナー溶液からアクセプタ溶液に移送されるべき少なくとも一つの有機化合物を含む第一の親水性ドナー溶液を準備し、前記ドナー溶液のpHは、必要に応じてpHを調整することによって前記有機化合物が正にまたは負にイオン化されるようなレベルであり
- 第二の親水性アクセプタ溶液を準備し、
- 前記第二の親水性アクセプタ溶液のpHは、ドナー溶液からアクセプタ溶液へ移送されるべき前記有機化合物が必要に応じてpHを調整することによってイオン化されるようなレベルであり、
- 固定化された有機液を含みその厚さが10−1000μmの範囲にある支持液膜であって、実質的に水に非混和性であり、電界と前記少なくとも一つのイオン化された有機化合物とがそれを横断することができる支持液膜を準備し、そして、
- 前記膜を前記ドナー溶液および前記アクセプタ溶液に液接触するように配置して前記ドナー溶液と前記アクセプタ溶液とを分離するようにし、
- ドナー溶液におよび前記アクセプタ溶液に液接触するように配置されるべき電極および/または導電性の区画を準備し、そして、
- 前記電極および/または導電性の区画に対して電圧を印加して、前記有機化合物がドナー溶液から支持液膜を通ってアクセプタ溶液に移動するのを促進し、オプションとして、必要に応じて溶液のpHを調整した後にアクセプタ溶液を除去することで少なくとも一つの有機化合物を分離する、
という工程を備えた方法も含まれる。
【0030】
本発明は、その中に配置された電極/導電性バイアルに電流を送り込むのに適合した導電性の96穴型マイクロプレートを例えば用いることを含んでよいオートサンプラーと共に使用するのに適合させることができる。
【0031】
本発明は、分析用HPLC装置のような産業用の自動化装置またはLC−MS装置のようなMS装置におけるEMEの使用を提供する。得られたアクセプタ溶液は、分析用HPLC装置のような専用分析装置、またはLC−MSのようなもしくは96穴型マイクロプレートを使用した自動化および/またはロボット・オートサンプラーを含むMS装置へ、詳細分析のために送られる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1c】アクセプタバイアルに接続されたネジ付き合体用コネクタの断面図である。
【
図1d】封止体の中間に設置された平坦膜を有するネジ付き合体用コネクタの断面図である。
【
図2】平坦膜に対向して配置されたアクセプタおよびドナーバイアルを有するネジ付き合体用コネクタの断面図である。
【
図3】閉鎖されたバイアルと設置された電極とを有するEME装置の断面図である。
【
図4】閉鎖されたバイアルと設置されたシリンジ針電極とを有するEME装置の断面図である。
【
図5】閉鎖されたバイアルと設置されたL−形状のシリンジ電極とを有するEME装置の断面図である。
【
図6】閉鎖されたバイアルと設置されたT−形状のシリンジ電極およびシリンジ針電極とを有するEME装置の断面図である。
【
図7】導電性のバイアル部分を含むアクセプタバイアルに接続されたネジ付き合体用コネクタの断面図である。
【
図8】閉鎖されたバイアルと設置された電極とを有する、
図7によるバイアルを含むEME装置の断面図である。
【
図9】閉鎖されたバイアルと設置されたシリンジ針電極とを有する、
図7によるバイアルを含むEME装置の断面図である。
【
図10】閉鎖されたバイアルと設置されたT−形状のシリンジ電極とを有する、
図7によるバイアルを含むEME装置の断面図である。
【
図11a】導電性のアクセプタバイアルの部分に接続されたネジ付き合体用コネクタの断面図である。
【
図11b】導電性のアクセプタバイアルの部分に接続された、封止体の中間に設置された平坦膜を内部に有するネジ付き合体用コネクタの断面図である。
【
図11c】平坦膜が設置されていて、導電性のアクセプタバイアルの部分および導電性のドナーバイアルの部分に接続されたネジ付き合体用コネクタの断面図である。
【
図11d】閉鎖された導電性のバイアルを有するEME装置の断面図である。
【
図12】導電性のキャップによって閉鎖された導電性のバイアルを有するEME装置の断面図である。
【
図13】導電性のキャップで閉鎖されかつ曲げられた導電性のバイアルを有するEME装置の断面図である。
【
図14】導電性のキャップで閉鎖されかつ曲げられた導電性のバイアルを有するEME装置の断面図である。
【
図15】導電性のキャップで閉鎖されかつ曲げられたドナーバイアルを有する、導電性のバイアルを備えたEME装置の断面図である。
【
図16】導電性のキャップで閉鎖されかつ曲げられたアクセプタバイアルを有する、導電性のバイアルを備えたEME装置の断面図である。
【
図17】導電性のセプタム(septum:隔壁)を有する導電性のキャップで閉鎖されかつ曲げられた導電性のバイアルを備えたEME装置の断面図である。
【
図18】導電性のセプタムを有する導電性のキャップで閉鎖されかつ曲げられた導電性のバイアルを備えたEME装置の断面図である。
【
図19】導電性のセプタムを有する導電性のキャップで閉鎖されかつ曲げられたドナーバイアルを有する、導電性のバイアルを備えたEME装置の断面図である。
【
図20】導電性のセプタムを有する導電性のキャップで閉鎖されかつ曲げられたアクセプタバイアルを有する、導電性のバイアルを備えたEME装置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
(詳細な説明)
図1−6に第一の実施形態が示されている。
図7−10に示された第二の実施形態は、電極とバイアルとの両方として機能する電気伝導性の樹脂から作られたアクセプタ区画を含む。第三の実施形態(
図11−20)では、ドナーおよびアクセプタ区画の両方が、ロボットシステムでの自動化分析の目的で、電極とバイアルとの両方として機能する電気伝導性の樹脂から作られている。すべての実施形態(1−3)で、抽出結果は、ドナー溶液からのいくつかの例の生化学化合物の収率が良から優であった。実施形態1および2で使用されている特別な電極は、
図3および8に示されている。本発明に含まれる装置は、本装置または変形された装置を例えば分析用HPLC装置のような産業用の自動化された装置またはLC−MSのようなMS装置に使用するという意図をもって設計されたものである。
【0034】
次に本発明を、電気膜抽出(EME)装置の多数の異なる実施形態を示す図面を参照しながら、さらに詳細に説明する。
【0035】
図1aは、内側ねじ山2を備えた合体用コネクタ1を示す。合体用コネクタ1は、開管状に形成されている。合体用コネクタは好ましくは電気絶縁性の材料で作られている。
図1bは、コネクタ側の端に外側ねじ山4を含みキャップ側の端に外側のキャップ接続素子5を含むアクセプタバイアル/区画(compartment)3を図示している。一実施形態ではキャップ接続素子5はねじ山であり、内側にねじ山を有するスクリューキャップに接続するのに適合している。あるいはその代わりにキャップ接続素子は、スナップキャップに接続するのに適合した外側のフランジである。この実施形態ではアクセプタバイアル3は最初両端が開放している。
図1cで、アクセプタバイアル3と合体用コネクタ1とはねじ山2および4で接続されている。
図1dでは、テフロン(登録商標)の封止体6および平坦膜7が合体用コネクタ1の内部に配置されている。封止体6は、好ましくはリング状の形状でテフロンまたは同様の材料から作られている。平坦膜7は、管形状の合体用コネクタ1の開口の断面にわたって広がっており、一方の封止体がアクセプタバイアルのコネクタ側の端と平坦膜との間に配置されてそれらの間に密封した接続8を提供している。また封止体6は平坦膜を支えており、合体用コネクタ1の内部の所定の位置に平坦膜を保持している。
【0036】
図2において、ドナーバイアル/区画(compartment)103がそのコネクタ側の端で外側ねじ山104によって合体用コネクタ1の反対側に接続されている。ドナーバイアル103はこの実施形態ではアクセプタバイアルと同じものであり、両端が開放されている。キャップ接続素子105がコネクタ側の端とは反対側のキャップ側の端に配置されており、ねじ山を持つキャップ、または、スナップキャップとの接続用である。封止接続8がドナーバイアル103のコネクタ側の端と封止体6との間に構築されている。使用状態では、平坦膜は支持液膜(SLM:supported liquid membrane)となる。組立の前、または組立の初めの部分の間、平坦膜7は有機液でぬらされるべき、SLMを形成するための単なる支持構造である。合体用コネクタ内に配置されて初めて、そして実際的には区画の一方または両方が接続された後に、膜のドナー側から膜に有機液が供給されて、SLMを形成することになる。
【0037】
図3は、平坦膜のアクセプタ側およびドナー側に電極9および10をそれぞれ設置した後の
図2のシステムを示す。図示した電極は円板状素子14を有する棒からなり、膜から所与の距離をおいて配置されている。円板14の各々は多数の貫通孔15を有していて、アクセプタ溶液およびドナー溶液が円板14の領域で循環する可能性を改善している。電極9および10の棒は、電源への接続のために、セプタム(septum:隔壁)12、112およびキャップ11および111を貫いてそれぞれ延びている。キャップは、それぞれのバイアル内にアクセプタおよびドナー溶液が含まれるように配置されている。
【0038】
図4は、
図3と同様の実施形態を示すが、セプタムを備えた各々のキャップを貫通するシリンジ針電極109、110を有する点で異なっている。
【0039】
図5は、
図4と同様の実施形態を示すが、セプタムを備えた各々のキャップを貫通するL−形状のシリンジ電極209、210を有する点で異なっている。
【0040】
図6は、
図4と同様の実施形態を示すが、T−形状のシリンジ・ドナー電極310を有する点で異なっている。ドナー電極のみ図示しているが、アクセプタ電極もT−形状とすることもできる。異なる電極を自由に組み合わせることができることは、当業者に認識できるであろう。
【0041】
図7は、ガラス製のバイアル3と電源への接続のための導電プラグ17を備えた導電性バイアル16とからなる部分的に導電性の特別仕様のアクセプタバイアル203を取り付けた合体用コネクタ1を示す。部分的に導電性のバイアル203は、電極およびバイアルの両方として機能している。
【0042】
図8は、内側にねじ山2を持つ合体用コネクタ1に取り付けたドナーバイアル103と、テフロンの封止体6の中間に取り付けた平坦膜7と、貫通孔を持つ円板状のドナー電極10とを
図7のシステムに付加したものを示す。電極10は、それぞれ電源への接続のために、ドナーセプタム112を貫通しドナーキャップ111を貫いて延びている。
【0043】
図9は、
図8と同様の実施形態を示すが、シリンジ針電極110を有する点で異なっている。
【0044】
図10は、
図8と同様の実施形態を示すが、T―形状のシリンジ・ドナー電極310を有する点で異なっている。
【0045】
図11aは、導電性のアクセプタバイアル116の接続部を取り付けた合体用コネクタ1を示す。
【0046】
図11bは、内側にねじ山2を持つ合体用コネクタ1の内部に配置されたテフロン封止体6の中間に取り付けられた平坦膜7を
図11aのシステムに付加したものを示す。
【0047】
図11cは、合体用コネクタ1内に配置された導電性のドナーバイアル216の接続部を
図11bのシステムに付加したものを示す。
【0048】
図11dは、導電性のアクセプタプラグ117を含む導電性のアクセプタバイアル118と、導電性のドナープラグ217を含む導電性のドナーバイアル218とを
図11cのシステムに取り付けたものを示す。
【0049】
図12は、テフロン封止体6の中間の膜7と、導電性のアクセプタキャップ311、アクセプタセプタム312、および導電性のアクセプタキャッププラグ317を含む導電性のアクセプタバイアル316とを合体用コネクタ1に取り付けたものを示す。さらに、導電性のドナーキャップ411、ドナーセプタム412、および導電性のドナーキャッププラグ417を含む導電性のドナーバイアル416が合体用コネクタ1に取り付けられている。
【0050】
図13は、曲げられた導電性のアクセプタバイアル516と曲げられた導電性のドナーバイアル616とを取り付けた
図12のシステムを示す。
【0051】
図14は、曲げられた導電性のアクセプタバイアル716と曲げられた導電性のドナーバイアル816とを取り付けた
図12のシステムを示す。
【0052】
図15は、導電性のアクセプタバイアル316と曲げられた導電性のドナーバイアル816とを取り付けた
図12のシステムを示す。
【0053】
図16は、曲げられた導電性のアクセプタバイアル716と導電性のドナーバイアル416とを取り付けた
図12のシステムを示す。
【0054】
図17は、テフロン封止体6の中間の平坦膜7と、導電性のアクセプタセプタム512を含む導電性のアクセプタキャップ311を備えた曲げられた導電性のアクセプタバイアル516とを内側にねじ山2を持つ合体用コネクタ1に取り付けたものを示す。さらに、導電性のドナーセプタム612を含む導電性のドナーキャップ411を備えた曲げられた導電性のドナーバイアル616が合体用コネクタ1に取り付けられている。
【0055】
図18は、曲げられた導電性のアクセプタバイアル716と曲げられた導電性のドナーバイアル816とを取り付けた
図17のシステムを示す。
【0056】
図19は、導電性のアクセプタバイアル316と曲げられた導電性のドナーバイアル816とを取り付けた
図17のシステムを示す。
【0057】
図20は、曲げられた導電性のアクセプタバイアル716と導電性のドナーバイアル416とを取り付けた
図17のシステムを示す。
【0058】
実施形態1:貫通孔を有する特別仕様の第一の円板状電極を含む、ドナー溶液用のトレッドを備えたスナップキャップで蓋をしたガラスの区画と、平坦膜の各々の側にアイソレータとして機能するテフロン封止体を含むネジ付きの合体用コネクタと、特別仕様の第二の円板状電極を含む、アクセプタ溶液用のトレッドを備えたスナップキャップで蓋をしたガラスの区画とを含む。
【0059】
実施形態2:第一の実施形態(単一電極を有する)と同様に維持されたドナー区画と、平坦膜の各々の側にアイソレータとして機能するテフロン封止体を含むネジ付きの合体用コネクタと、電極とバイアルとの両方として機能し、導電性樹脂や金属のような電気伝導性材料から作られた特別仕様の区画によって置き換えられアクセプタ区画とを含む。
【0060】
実施形態3:電気伝導性材料から作られた特別仕様のドナーおよびアクセプタ区画を含む。両者は、平坦膜の各々の側にアイソレータとして機能するテフロン封止体を含むネジ付きの合体用コネクタによって接続されている。ドナーおよびアクセプタ区画は、電極およびバイアルの両方として機能している。
【0061】
図面は本発明の様々な実施形態を図示している。一つの図で図示された要素の一実施形態が、本発明の範囲内において、別の図に図示された要素の別の実施形態に取り替えてよいことは、当業者に認識されるであろう。
【0062】
(電気膜抽出(EME))
電気膜抽出(EME)のために使われる装置は
図3−6、8−10、および11d−20に図示されている。使用されたDC電源は、例えばデルタ・エレクトロニカBV(オランダ、ジーリクゼー市)製のモデルES0300−0.45であった。これは、0から300Vの範囲で電圧がプログラム可能であり、0から450mAの範囲で電流を供給する。(パルスDC電源を使用してもよい。)標準的な9V電池が9VのDC電源として使用され、また、例えば9V電池を直列に接続して、例えば9Vから200Vの間の必要な電圧を得た。
図3による貫通孔付きの二つの円板状電極が第一の実施形態の諸例において使用され、一方、
図8による部分的に電気伝導性の区画が貫通孔付の単一の円板状電極と共に第二の実施形態の諸例において使用された。
図11dによる二つの電気的伝導性の区画が第三の実施形態の諸例において使用された。電極(単数または複数)および電気伝導性の区画(単数または複数)は、動作中は全て電源に接続された。容積が100−5000μLのガラス製または電気伝導性のドナーおよびアクセプタ区画が、平坦膜の各々の側にアイソレータとして機能するテフロン封止体を含むネジ付きの合体用コネクタに接続された。3−20mm i.d.の平坦膜が、有機液を含ませて固定化され、支持液膜(SLM)とされた。アクセプタ区画に100−5000μLの水溶液が添加され、その区画にスナップキャップまたはネジ付キャップが取り付けられた。ドナー区画に100−5000μLのドナー溶液が添加され、その区画にスナップキャップまたはネジ付キャップが取り付けられて使用可能な装置が提供された。膜は、例えば、Accurel(登録商標) PP 1E (R/P)またはAccurel(登録商標) PP 2E HF (R/P) ポリプロピレン膜(ドイツ、ヴッパータール市、メンブラーナ社)でよく、または支持液膜として機能するように調製されたものなら他のどんな膜でもよい。PP 1E 膜は、直径が8mm、厚さが約110μm、孔の大きさが0.1μmであった。PP 2E 膜は、直径が8mm、厚さが約168μm、孔の大きさが0.2μmであった。実施形態1における貫通孔付の円板状電極および実施形態2における貫通孔付の単一の円板状電極の両方は、スチールで作られ、電源へ電極を接続するに先立って膜から2−5mmの距離になるよう調整された。試料は、例えば IKA MS3 デジタル (ドイツ、IKA−Werke GmbH & Co. KG)のような振動ユニットによって、0−1500rpmで、1−45分間、0−300Vの電圧を印加して「撹拌」されてもよい。
【0063】
EMEは次の手順によって実施された。容積が100−5000μLのドナーおよびアクセプタ区画が、平坦膜の各々の側にアイソレータとして機能するテフロンTM封止体を含むネジ付きの合体用コネクタに接続された。平坦膜は3−30μLの有機液で支持液膜となるよう固定化(又は不動態化)された。当該有機液は一般的には、2−ニトロフェニール・オクチル・エーテル(NPOE)、1−エチル−2−ニトロベンゼン(ENB)、2,4−ジメチル−1−ニトロベンゼン(DNB)、1−イソプロピル・ニトロベンゼン(INB)、1−ヘプタノール、1−オクタノール、1−ノナノール、1−デカノール、1−ウンデカノール、ビス(2−エチルヘキシル)フォスフェイト(BEHP)、ビス(2−エチルヘキシル)フォスファイト(BEHPi)、またはそれらの混合物であり、あるいは、平坦膜を手動または自動で事前に固定化して支持液膜とするための他の有機液である。アクセプタ区画に100−5000μLの水溶液、一般的には10mMのHCl、20mMのHCOOH、20mMのCH
3COOH、20mMのCF
3COOH、またはリン酸緩衝液、が添加された。ドナー区画に100−5000μLのドナー溶液が添加されてスナップキャップまたはネジ付きキャップが取り付けられ、使用準備のできたEME装置が得られた。
【0064】
第二の実施形態においては、ドナー区画は第一の実施形態と同様に維持され(電極は単一で)、ネジ付きの合体用コネクタは平坦膜の各々の側に置かれたアイソレータとして機能するテフロン封止体を含み、アクセプタ区画は電極とバイアルとの両方として機能する電気伝導性の樹脂から作られた特別仕様の区画によって置き換えられた。
【0065】
第三の実施形態においては、電気伝導性の樹脂から作られた特別仕様のドナーおよびアクセプタ区画が使用された。両区画は、平坦膜の各々の側にアイソレータとして機能するテフロン封止体を含むネジ付きの合体用コネクタによって接続された。ドナーおよびアクセプタ区画は、電極およびバイアルの両方として機能する。
【0066】
最後に振動ユニットが起動され、電圧(0−300V)が例えば25分間印加された。電気膜抽出の後で、アクセプタ溶液が回収され、引き続いて専用分析装置での手動または自動いずれかの分析のために移送された。
【0067】
理論に固執することなく、発明者等は本発明の理論的基盤は次の通りであると考えている。EMEを可能とするために、ドナー溶液、支持液膜(SLM)、およびアクセプタ溶液を含む全システムは電気回路としての役割を果たしている。システムの主要な電気抵抗は、電界の浸透を確実にするのに重要である支持液膜(およびその組成)に関連づけられる。従って、平坦膜において固定化されている有機液の極性は、電界の浸透を確実にするために充分な電気伝導度を確保するのに充分な極性を持たなければならない。基本的に、モデル検体の膜を横断する移動は、支持液膜の電気抵抗を減少させると増加した。ただし、支持液膜およびモデル検体が電極反応に不活性であるならば、伝導度を増加させた結果としてドナーおよびアクセプタ溶液に電気分解が起こることになる。
ドナー溶液: H
2O → 2H
++(1/2)O
2+2e
−
アクセプタ溶液: 2H
++2e
− → H
2
【0068】
電気分解は(酸素および水素の)泡の形成を引き起こし、pHの変化を、例えばアクセプタ溶液(陰極、負の電極、を有する)にpHの減少をそしてドナー溶液(陽極、正の電極、を有する)にpHの増加を、もたらすことになる。両方の場合とも、抽出の回収率、ロバスト性、および再現性に重大な影響を及ぼす。
【0069】
発生したシステム電流が50μAより小さい(<50μA)場合は、電気分解は電気膜抽出(EME)にほとんど影響がないことが知られている。電気二重層の形成は、電気運動プロセスの効率および安定性を減少させることが知られ、複雑化させる他の要因である。電極面積を増大させることは、すなわち第二の実施形態では一部が最大化され第三の実施形態では全体が最大化されているが、電気二重層の形成を減少させ、それによってシステム電流を低いレベルに安定化させることが期待される。電極面積を増大させることはまた、回収率を減らすことなく電圧をより低くすることができることも期待される。安全上の理由から、例えば100V(同時にシステム電流は20μAより低く)またはそれ以下のような、より低い電圧が、手動で操作する装置ならびに自動の専用ロボット装置の両方に対して好ましい。
【0070】
実施形態1についてはシステム電流は50μAより低く、実施形態2および3については20μAより低かった(一般的には10−20μAの間)。
【0071】
(塩基性検体)
ドナー溶液においては、塩基性モデル検体(B)が完全にプロトン化される(BH+)のを確実にするべく、pHは酸性領域になるよう調整される。SLMを横切る電位差が印加された後は、プロトン化されたモデル検体は、ドナー溶液からアクセプタ溶液内に置かれた負の電極(または負に荷電された導電性の区画)に向かって電気運動的移動を開始することになる。ドナー水溶液においては、電界強度(V/cm)は、この相の低い電気抵抗に起因して、比較的低くなる。モデル検体は、完全にプロトン化しているので、支持液膜に向かって急速に移動することになる。これらの急速な移動は、支持液膜への移動距離を短くすることを確実にするようなドナー区画を使用することによっても促進される。異なるモデル検体ではそれらの電荷対寸法比に基づくドナー溶液中での異なる速度で移動することになるが、それは、それらの個別の移送効率(回収率値)に見られる差異の原因である小さな要因であるにすぎないことが予期される。
【0072】
次に、モデル検体は支持液膜への界面を横切ることになる。この相では、電界強度(V/cm)は、使用される有機液の電気抵抗に起因して高くなる。その結果、それらの電気運動的移動はこの媒体において強く抑制されることになるが、それは塩基性物質の非プロトン化が非極性媒体において(おそらく)起きることになるからである。換言すれば、支持液膜内部での移動は、
次の均衡: BH+ → B+H
+
によって強く制御されることになる(と信じられる)。
【0073】
非プロトン化の程度が低い化合物については支持液膜を通しての電気膜抽出は比較的高くなるが、強く非ポロトン化する化合物は非常に低い電気膜抽出を示し、支持液膜によって効果的に区別されることになる。理論に固執することなく、これは観察される電気膜抽出回収率の差の基本的な理由であると見込まれる。加えて、電荷対寸法比の差が支持液膜における個別の移送効率に影響することも予期されることにもなる。
【0074】
もしも電気分解が主要な問題になるのであれば、アクセプタ区画において緩衝液またはより高い濃度の酸を使用することに加えて、SLMの変形/最適化が必要になるかもしれない。
【0075】
(酸性検体)
本発明の新規な装置(実施形態1−3)および方法は、部分的にまたは完全にイオン化されることのできるいかなる有機化合物にも適用しうる。従って、酸性の薬品についてはドナーおよびアクセプタ溶液においてアルカリ性(または中世)状態が好ましい。酸性の検体(アニオン種)については、電界の方向が(塩基性検体のEMEに比較して)逆向きとされる。陰極(負の電極)はドナー区画に配置され、陽極(正の電極)はアクセプタ区画に配置される。
【0076】
ドナーおよびアクセプタ溶液は、例えば、負に荷電された検体の活性を高めるために、例えばNaOHまたは緩衝液でおよそpH12までアルカリ性にされる。有機液(例えばn−オクタノール)は平坦膜のドナー側において固定化される。アクセプタ区画には、アルカリ性のアクセプタ水溶液、例えば10mMのNaOHまたは緩衝液、が添加される。ドナー区画には、アルカリ性のドナー水溶液、例えば10mMのNaOHまたは緩衝液、が添加される。
【0077】
実施形態1の使用では、二つの電極は平坦膜に対してそれらの最適な位置に調整される。
【0078】
実施形態2の使用では、単一の電極(ドナー区画内)は平坦膜に対してその最適な位置に調整される。
【0079】
実施形態3の使用では、両区画は電気的に伝導性なので、すなわち、電極とバイアルとの両方として機能しているので、電極を調整する必要はない。振動ユニットが0−1500rpmで作動され、そして最後に電極に電源が接続され、一般的には例えば0−300Vが例えば1−45分間印加される。
【0080】
(実施例)
例1:初期実験
図3−6、8−10、および11d−20に図示された電気膜抽出(EME)のための新しい装置において基礎的実験が行われる。平坦膜の各々の側にアイソレータとして機能するテフロンTM封止体を含むネジ付きの合体用コネクタに、ドナーおよびアクセプタ区画がそれぞれ接続される。続いて、平坦膜のドナー側から有機液、一般的には10μLの2−ニトロフェニール・オクチル・エーテル(NPOE)(塩基性検体に対して)または1−オクタノール(酸性検体に対して)が添加され、平坦膜の細孔において有機液が固定化されて、または合成反応によって作られた液相によって、または膜表面の合成修飾によって、支持液膜(SLM)を形成する。アクセプタ区画にアクセプタ溶液が添加され、ネジ式キャップまたはスナップキャップで密閉される。ドナー区画には、対象の塩基性検体をイオン化するためにHCl(およそpH2)で酸性化された、または対象の酸性検体をイオンするためにNaOH(およそpH12)でアルカリ性にされた、ドナー溶液が添加され、EMEの前にネジ式キャップまたはスナップキャップで密閉される。装置は次いで「装置ホルダー」に設置される。電極に電源が接続され、一般的には[例えば]300V[まで]が1−45分間印加される。最後に、振動ユニット、次いで電源がオンにされる。電気膜抽出(EME)の後、振動ユニットおよび電源がオフにされて、アクセプタ溶液が回収され、引き続いて専用分析装置における詳細分析のために移送される。
【0081】
三つの異なった薬物が、新しいEME装置をテストするためのモデル検体として選択される。すなわち、モデル検体は10mMのHCl中に5μg/mLから0.15μg/mLまでの濃度(治療濃度)のクエチアピン(Quetiapine)、メタドン(methadone)、およびセルトラリン(sertraline)であり、あるいは、探求する検体を入れ20mMのHClで希釈したヒトの血液サンプルで供される。
【0082】
例2:模範的EMEプロトコル
抽出(EME)手順に使用される主たる装置は
図3−6、8−10、および11d−20に示されるもので、これに0−300Vの範囲でプログラム可能な電圧を、0−450mAの電流出力で供給する電源が加わる。EME装置(第一の実施形態)は、0−1500rpmの範囲で撹拌速度を調整可能な例えばIKA MS3デジタル上で1000rpmで撹拌された。使用されたポリプロピレン平坦膜は、メンブラーナ社(ドイツ、ヴッパータール市)製のAccurel(登録商標) PP 1E (R/P)、Accurel(登録商標) PP 2E HF (R/P)で、それぞれ外径(OD)が8mm、厚さが110−168μm、孔の大きさが0.1−0.2μmであった。
【0083】
次の検体が第一の実施形態(貫通孔を備えた二つの円板状電極を有する)のテストのためのモデル検体として選択された。すなわち、
クエチアピン、メタドンとセルトラリンとの混合物、およびクエチアピンとメタドンとセルトラリンとの混合物。ドナー溶液は、10mMのHCl中に合計で1500μLまでの検体を濃度が0.84μg/mLから5μg/mLまでの範囲で作られた。
【0084】
EMEは次の手順によって実施された。すなわち、平坦膜の各々の側にアイソレータとして機能するテフロン封止体を含むネジ付きの合体用コネクタに、アクセプタおよびドナー区画がそれぞれ接続された。平坦膜は、平坦膜のドナー側からのNPOEによって固定化され、支持液膜(SLM)となった。アクセプタ区画には、10mMのHCl水溶液が600μL添加され、当該区画はネジ式キャップまたはスナップキャップで密閉された。ドナー区画には、酸性化されたドナー溶液が600μL添加され、当該区画はネジ式キャップまたはスナップキャップで密閉された。両電極は平坦膜に対してそれらの最適の位置になるよう調整された。EME装置は次いでIKA振動器に設置され、電源に接続された。最後に、振動ユニットおよび電源がオンにされて、それぞれ1000RPMおよび300Vが25分間加えられた。電気膜抽出の後、アクセプタ溶液は専用分析装置における詳細分析のために移送された。
【0085】
第一の実施形態において、Accurel(登録商標) PP 1E 膜を用いて数回の実験を連続して行い、0.84μg/mLから5μg/mLの標準溶液から次のような検体の平均回収率を得た。
クエチアピン: 9% から 40%
メタドン: 71% から 81%
セルトラリン: 63% から 78%
【0086】
Accurel(登録商標) PP 2E 膜を用いて数回の実験を連続して行い、0.84μg/mLから5μg/mLの標準溶液から次のような検体の平均回収率を得た。
クエチアピン: 20% から 60%
メタドン: 78% から 84%
セルトラリン: 73% から 81%
電気膜抽出の間、システム電流はやや、一般的には約50μAまで、増加したが、このシステム電流出力の変化は、プロセスが完全には平衡状態ではないことを示している。これはまた、電気膜抽出についての以前の研究からよく知られていることである。あるレベル(約50μA)を超えてシステム電流が増加すると、抽出プロセスが電気分解しやすくなることになろう。
【0087】
第二の実施形態(貫通孔を備えた単一の円板状スチール電極を有する)においては、電気的伝導性の区画がドナー区画として最初に設置された時は、回収率は20%を超えることはなかった。しかしながら、電気的伝導性樹脂の区画がアクセプタ区画として設置された時は、検体として1.25μg/mLから5μg/mLの濃度のクエチアピンでまず調べたところ(PP 2E膜を用い、300V、1000rpmで25分)、回収率は74−86%まで増加した。ドナーおよびアクセプタ区画の容積は600μLから2000μLまで変化させた。
【0088】
次に、メタドンおよびセルトラリンの混合物で回収率を調べた。電圧はより低くし、電気伝導性樹脂をアクセプタ区画として用いた。
9V 50V 150V
メタドン: 79% 76% 74%
セルトラリン: 10% 70% 67%
【0089】
電気膜抽出の間、システム電流は僅かに、一般的には約20μAまで、増加したが、安定したシステム電流出力はプロセスが安定で平衡状態であることを示している。
【0090】
第三の実施形態(バイアルおよび電極の両方として機能する二つの電気伝導性区画を備える)において、各区画の容積は700μLで、Accurel(登録商標) PP 2E膜を用い、9V、50V、および100Vでの回収率は次の様に測定された。
9V 50V 150V
メタドン: 85−88% 92% 88−89%
セルトラリン: 25−29% 85% 83−86%
電気膜抽出の間、システム電流は僅かに、一般的には約10−20μAの間まで、増加したが、非常に安定したシステム電流出力はプロセスが平衡状態にあることを示している。
【0091】
ヒト血漿の試料を20mMのHClで希釈するとともに約pH2まで酸性化し、メタドンおよびセルトラリンを0.15μg/mL(治療量)添加し、NPOEを平坦膜内で固定化して支持液膜(SLM)としたところ、100Vで、メタドンの回収率は60%、セルトラリンは81%だった。50Vおよび200Vでの回収率は同様であったが、200Vでは僅かに低かった。
【0092】
ヒト血漿を20mMのHClで希釈するとともに約pH2まで酸性化し、クエチアピンを0.15μg/mL(治療量)添加した試料では、(NPOE(v/v)に30%のビス(2−エチルヘキシル) フォスファイト(BEHPi)で構成した有機液を平坦膜で固定化して支持液膜(SLM)とした)100Vで43%の回収率となり、250Vでは56%まで増加した。
【0093】
実施形態2および3の両方は、電気分解に起因して抽出プロセスを阻害し、それによって回収率を顕著に減少させることになるシステム電流の増大に対する驚くべき安定性を示した。これらの実施形態を用いた全ての実験(最適化されていない)において、添加および酸性化が行われた水溶液試料に対して、生起したシステム電流は20μAより低かった(一般的には10−20μAの間)。
【0094】
同一の実施形態は、添加したヒト血漿試料に接して非常に安定であった。平坦膜において固定化されて支持液膜(SLM)を形成する有機液として例えば純粋NPOEまたは例えばNPOEとBEHPiとの組み合わせを用いた場合でも、生起したシステム電流は全ての実験で20μAより低かった。
【0095】
低いシステム電流が生起されることを根拠として、平坦膜で固定化されてSLMを形成する選択された有機液またはその組み合わせは、ヒト血漿からバックグラウンドの電解質イオンおよび基質イオンの物質移動を明らかに区別するものであった。もしそうでなければ、システム電流は、イオンの増加する流れによってはるかに高いものとなり、平坦膜を横切る伝導度を増加させ、それによって電気分解が回収率を低下させる優勢なプロセスになることになったであろう。
【符号の説明】
【0096】
1 ねじ付き合体用コネクタ
2 内側のねじ山
3 アクセプタバイアル
4 アクセプタバイアルのコネクタ側の端部の外側ねじ山
5 アクセプタバイアルのキャップ側の端部の外側ねじ山
6 テフロン封止体
7 平坦膜
8 密封接触
9 貫通孔を有する円板状アクセプタ電極
10 貫通孔を有する円板状ドナー電極
11 アクセプタキャップ
12 アクセプタセプタム
13 アクセプタキャップの内側ねじ山
14 電極円板
15 貫通孔
16 導電性バイアル
17 導電性プラグ
103 ドナーバイアル
104 ドナーバイアルのコネクタ側の端部の外側ねじ山
105 ドナーバイアルのキャップ側の端部の外側ねじ山
109 シリンジ針のアクセプタ電極
110 シリンジ針のドナー電極
111 ドナーキャップ
112 ドナーセプタム
113 ドナーキャップの内側ねじ山
116 導電性アクセプタバイアルの接続部
117 導電性アクセプタプラグ
118 導電性アクセプタバイアル
203 部分的に導電性のアクセプタバイアル
209 L−形状のアクセプタシリンジ電極
210 L−形状のドナーシリンジ電極
216 導電性ドナーバイアルの接続部
217 導電性ドナープラグ
218 導電性ドナーバイアル
310 T−形状のドナーシリンジ電極
311 導電性アクセプタキャップ
312 アクセプタセプタム
316 導電性アクセプタバイアル
317 導電性アクセプタキャッププラグ
411 導電性ドナーキャップ
412 ドナーセプタム
416 導電性ドナーバイアル
417 導電性ドナーキャッププラグ
512 導電性アクセプタセプタム
516 曲げられた導電性アクセプタバイアル
612 導電性ドナーセプタム
616 曲げられた導電性ドナーバイアル
716 曲げられた導電性アクセプタバイアル
816 曲げられた導電性ドナーバイアル