特許第6945482号(P6945482)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6945482作業車両用の摩擦係合装置、及び、作業車両
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6945482
(24)【登録日】2021年9月16日
(45)【発行日】2021年10月6日
(54)【発明の名称】作業車両用の摩擦係合装置、及び、作業車両
(51)【国際特許分類】
   F16D 25/0638 20060101AFI20210927BHJP
   B60K 17/06 20060101ALI20210927BHJP
   F16D 13/69 20060101ALI20210927BHJP
【FI】
   F16D25/0638
   B60K17/06 D
   B60K17/06 H
   F16D13/69 B
【請求項の数】9
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2018-62236(P2018-62236)
(22)【出願日】2018年3月28日
(65)【公開番号】特開2019-173864(P2019-173864A)
(43)【公開日】2019年10月10日
【審査請求日】2021年2月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001236
【氏名又は名称】株式会社小松製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000202
【氏名又は名称】新樹グローバル・アイピー特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】内藤 慎一
(72)【発明者】
【氏名】田中 大貴
(72)【発明者】
【氏名】森口 恭介
【審査官】 日下部 由泰
(56)【参考文献】
【文献】 独国特許出願公開第19833376(DE,A1)
【文献】 特開2016−8627(JP,A)
【文献】 特開2005−344792(JP,A)
【文献】 特開平5−288227(JP,A)
【文献】 実開昭48−90046(JP,U)
【文献】 特開2009−220593(JP,A)
【文献】 独国特許出願公開第102015225033(DE,A1)
【文献】 特開平4−307122(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 25/0638,13/69
B60K 17/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
作業車両用の摩擦係合装置であって、
回転軸と、
前記回転軸と共に回転する複数の第1の摩擦板と、
前記第1の摩擦板に対向して配置される複数の第2の摩擦板と、
作動油が供給される油室と、
前記第1の摩擦板と前記第2の摩擦板とを係合させる係合位置と、前記第1の摩擦板と前記第2の摩擦板とを解放する解放位置とに移動可能に設けられ、前記油室の油圧により前記係合位置に向けて押圧されるピストンと、
前記係合位置から、前記解放位置と前記係合位置との間の待機位置まで前記ピストンに接触して前記ピストンを前記解放位置に向けて付勢する第1の戻しバネと、
前記係合位置から前記解放位置まで前記ピストンに接触して前記ピストンを前記解放位置に向けて付勢する第2の戻しバネと、
前記ピストンと前記第1の戻しバネとの間に配置されるスペーサと、
前記スペーサの前記解放位置に向けての移動を規制する規制部材と、
を備え、
前記第1の戻しバネの中心軸は、前記回転軸の中心軸と一致するように配置され、
前記第2の戻しバネの中心軸は、前記回転軸の中心軸と一致するように配置され
前記ピストンが前記解放位置で、前記スペーサは前記ピストンから離れている、
摩擦係合装置。
【請求項2】
前記第1の戻しバネと前記第2の戻しバネとは、前記回転軸の外径よりも大きな内径を有する、
請求項1に記載の摩擦係合装置。
【請求項3】
前記第2の戻しバネは、前記第1の戻しバネの径方向外方に配置されている、
請求項1又は2に記載の摩擦係合装置。
【請求項4】
前記第1の戻しバネは、前記第2の摩擦板の径方向内方に配置され、
前記第2の戻しバネは、前記第2の摩擦板の径方向外方に配置されている、
請求項1から3のいずれかに記載の摩擦係合装置。
【請求項5】
前記第1の戻しバネは、前記第2の摩擦板の径方向内方に配置され、
前記第2の戻しバネは、前記第2の摩擦板の径方向内方に配置されている、
請求項1から3のいずれかに記載の摩擦係合装置。
【請求項6】
前記第1の戻しバネは、コイルスプリングである、
請求項1から5のいずれかに記載の摩擦係合装置。
【請求項7】
前記第2の戻しバネは、ウェーブスプリングである、
請求項1から6のいずれかに記載の摩擦係合装置。
【請求項8】
前記第2の戻しバネは、コイルスプリングである、
請求項1から6のいずれかに記載の摩擦係合装置。
【請求項9】
エンジンと、
前記エンジンによって駆動される油圧ポンプと、
前記油圧ポンプから吐出される作動油によって駆動される作業機と、
請求項1からのいずれかに記載の摩擦係合装置と、
を備える作業車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業車両用の摩擦係合装置、及び、作業車両に関する。
【背景技術】
【0002】
摩擦係合装置は、ピストンと、複数の第1の摩擦板と、複数の第2の摩擦板とを備えている。第1の摩擦板は、回転部材に連結されている。第2の摩擦板は、回転方向を拘束する部材に連結されている。摩擦係合装置では、油圧によってピストンが係合位置に向けて押圧されることで、第1の摩擦板と第2の摩擦板とを係合させる。また、ピストンは戻しバネによって解放位置に向けて付勢されている。油圧が低減されると、ピストンは、戻しばねの付勢力によって、解放位置へ押し戻される。それにより、第1の摩擦板と第2の摩擦板とが解放される。
【0003】
摩擦板の解放を確実なものにするため、あるいは、摩擦熱によって加熱された摩擦板の冷却のため、摩擦板の間には、切り代(隙間)設けられている。従って、摩擦板の枚数が多い場合には、係合にかかる時間が長くなるという問題がある。また、ピストンの容積が大きいときにも同様の問題がある。
【0004】
上記の問題を解決するためには、係合はしていないが、切り代が略ゼロになるような状態(係合待機状態)を油圧制御によって実現することが考えられる。しかし、そのためには、非常に精度の高い油圧制御が要求される。また、遠心油圧などの作動時の外的要因や、部品公差がある場合には、そのための校正も必要になる。
【0005】
そこで、特許文献1では、第1の戻しバネと第2の戻しバネとを用いることを提案している。第1の戻しバネは、全ストローク位置でピストンに当接する。第2の戻しバネは、ピストンが所定量、係合方向へストロークした係合待機位置でピストンに当接する。これにより、高精度の油圧制御無しで、係合待機状態を作り出すことができ、係合にかかる時間を容易に短縮できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平7−113465号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に係る発明は、乗用車の変速機に関する発明であるため、変速機を通過するトルクが小さい。そのため、摩擦板の枚数が少なく、ピストンの容積が小さい。従って、戻しバネに求められる付勢力が小さい。また、ピストン及び摩擦板の周囲に、戻しバネを配置できる空間を確保しやすい。
【0008】
それに対して、作業車両では、摩擦係合装置を通過するトルクが大きい。そのため、摩擦板の枚数が多く、ピストン容積が大きい。従って、戻しバネに求められる付勢力が大きい。戻しバネの付勢力を大きくするためには、大型の戻しバネが必要となる。しかし、ピストン及び摩擦板の周囲に、大型の戻しバネを配置できる空間を確保することは困難である。
【0009】
本発明の目的は、作業車両用の摩擦係合装置において、戻しバネによって作業車両に適した大きな付勢力を得ると共に、係合にかかる時間を容易に短縮することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
第1の態様は、作業車両用の摩擦係合装置であって、回転軸と、複数の第1の摩擦板と、複数の第2の摩擦板と、ピストンと、第1の戻しバネと、第2の戻しバネとを備える。第1の摩擦板は、回転軸と共に回転する。第2の摩擦板は、第1の摩擦板に対向して配置される。油室には、作動油が供給される。ピストンは、係合位置と解放位置とに移動可能に設けられる。ピストンは、係合位置で、第1の摩擦板と第2の摩擦板とを係合させる。ピストンは、解放位置で、第1の摩擦板と第2の摩擦板とを解放する。ピストンは、油室の油圧により係合位置に向けて押圧される。第1の戻しバネは、係合位置から待機位置までピストンに接触してピストンを解放位置に向けて付勢する。待機位置は、解放位置と係合位置との間の位置である。第2の戻しバネは、係合位置から解放位置までピストンに接触してピストンを解放位置に向けて付勢する。第1の戻しバネの中心軸は、回転軸の中心軸と一致するように配置されている。第2の戻しバネの中心軸は、回転軸の中心軸と一致するように配置されている。
【0011】
本態様に係る摩擦係合装置では、第1の戻しバネと第2の戻しバネとによって、切り代が小さい係合待機状態を作り出すことができる。それにより、係合にかかる時間を容易に短縮することができる。また、第1の戻しバネの中心軸と第2の戻しバネの中心軸とは、回転軸の中心軸と一致するように配置される。従って、大型の第1の戻しバネと第2の戻しバネとを配置できる空間を確保することができる。そのため、大型の第1の戻しバネと第2の戻しバネとを用いることで大きな付勢力を得ることができる。
【0012】
第1の戻しバネと第2の戻しバネとは、回転軸の外径よりも大きな内径を有してもよい。この場合、大型の第1の戻しバネと第2の戻しバネとによって、大きな付勢力を得ることができる。
【0013】
第2の戻しバネは、第1の戻しバネの径方向外方に配置されてもよい。この場合、大型の第2の戻しバネを配置できる空間を確保することができる。
【0014】
第1の戻しバネは、第2の摩擦板の径方向内方に配置されてもよい。第2の戻しバネは、第2の摩擦板の径方向外方に配置されてもよい。この場合、大型の第1の戻しバネと第2の戻しバネとを配置できる空間を確保することができる。
【0015】
第1の戻しバネは、第2の摩擦板の径方向内方に配置されてもよい。第2の戻しバネは、第2の摩擦板の径方向内方に配置されてもよい。この場合、大型の第1の戻しバネと第2の戻しバネとを配置できる空間を確保することができる。
【0016】
第1の戻しバネは、コイルスプリングであってもよい。この場合、回転軸と同心に配置されるコイルスプリングによって大きな付勢力を得ることができる。
【0017】
第2の戻しバネは、ウェーブスプリングであってもよい。この場合、回転軸と同心に配置されるウェーブスプリングによって大きな付勢力を得ることができる。また、ウェーブスプリングによって、第1の摩擦板と第2の摩擦板との隙間を均等に確保することができる。そのため、摩擦板の冷却効率を向上させることができる。
【0018】
第2の戻しバネは、コイルスプリングであってもよい。この場合、回転軸と同心に配置されるコイルスプリングによって大きな付勢力を得ることができる。
【0019】
摩擦係合装置は、スペーサと規制部材とをさらに備えてもよい。スペーサは、ピストンと第1の戻しバネとの間に配置されてもよい。規制部材は、スペーサの解放位置に向けての移動を規制してもよい。ピストンが解放位置で、スペーサはピストンから離れていてもよい。この場合、スペーサの形状によって、ピストンが解放位置でのスペーサとピストンとの間の距離を設定することで、待機位置を容易に調整することができる。それにより、摩擦板が係合待機状態となるタイミングを容易に調整することができる。
【0020】
第2の態様は、作業車両であって、エンジンと、油圧ポンプと、作業機と、上述した摩擦係合装置とを備える。油圧ポンプは、エンジンによって駆動される。作業機は、油圧ポンプから吐出される作動油によって駆動される。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、作業車両用の摩擦係合装置において、戻しバネによって作業車両に適した大きな付勢力を得ると共に、係合にかかる時間を容易に短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】実施形態に係る作業車両の側面図である。
図2】作業車両の構成を示すブロック図である。
図3】第1実施形態に係るトランスミッションの断面図である。
図4】供給油圧とピストンのストロークとの関係を示す図である。
図5】第2実施形態に係るトランスミッションの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。図1は、本発明の実施形態に係る作業車両1の側面図である。図2は、作業車両1の制御システムの構成を示すブロック図である。図1に示すように、作業車両1は、車体フレーム2と、作業機3と、走行輪4,5と、運転室6と、エンジン7と、トランスミッション8aとを備えている。
【0024】
車体フレーム2は、フロントフレーム2aとリアフレーム2bとを有している。フロントフレーム2aは、リアフレーム2bの前方に取り付けられている。フロントフレーム2aは、リアフレーム2bに、回動可能に連結されている。走行輪4,5は、前輪4と後輪5とを含んでいる。フロントフレーム2aには、前輪4が回転可能に取り付けられている。リアフレーム2bには、後輪5が回転可能に取り付けられている。
【0025】
作業車両1は、作業機3を用いて掘削等の作業を行うことができる。作業機3は、図2に示す油圧ポンプ15からの作動油によって駆動される。作業機3は、ブーム11とバケット12とを有する。作業機3は、油圧シリンダ13,14とを有している。油圧シリンダ13,14が油圧ポンプ15からの作動油によって伸縮することによって、ブーム11及びバケット12が動作する。
【0026】
運転室6は、車体フレーム2上に載置されている。運転室6内には、オペレータが着座するシートや、図2に示す操作装置17などが配置されている。操作装置17は、例えば、レバー、ペダル、スイッチ等を含む。エンジン7とトランスミッション8aとは、車体フレーム2に搭載されている。エンジン7は、例えばディーゼルエンジンである。トランスミッション8aは、エンジン7からの回転力を走行輪4,5に伝達する。それにより、走行輪4,5が回転駆動されることで、作業車両1が走行する。
【0027】
図2に示すように、作業車両1は、制御弁16を含む。制御弁16は、油圧ポンプ15から油圧シリンダ13,14に供給される作動油の流量を制御する。
【0028】
作業車両1は、油圧ポンプ18と制御弁19とを含む。油圧ポンプ18は、エンジン7によって駆動される。油圧ポンプ18から吐出された作動油は、トランスミッション8aに供給される。制御弁19は、油圧ポンプ18からトランスミッション8aに供給される作動油の流量を制御する。
【0029】
作業車両1の制御システムは、コントローラ20を含む。コントローラ20は、CPUなどのプロセッサと、RAM及びROMなどの記憶装置とを含む。コントローラ20は、操作装置17の操作に応じて、制御弁16を制御することで、作業機3を制御する。コントローラ20は、制御弁19を制御することで、トランスミッション8aを制御する。
【0030】
図3は、第1実施形態に係るトランスミッション8aの一部を示す断面図である。トランスミッション8aは、回転軸21と、第1の回転要素22と、第2の回転要素23と、複数の第1の摩擦板24と、複数の第2の摩擦板25と、ピストン26と、第1の戻しバネ27と、複数の第2の戻しバネ28aとを含む。なお、図面においては、複数の第1の摩擦板24の一部と、複数の第2の摩擦板25と、複数の第2の戻しバネ28aとの一部のみに符号を付している。
【0031】
回転軸21は、軸受31によって回転可能に支持されている。回転軸21は、エンジンからの駆動力により回転する。第1の回転要素22は、回転軸21の中心軸A1と同心に配置されている。なお、以下の説明では、中心軸A1に平行な方向を「軸線方向(A1)」と記す。
【0032】
第1の回転要素22は、貫通孔32を含む。貫通孔32には回転軸21が挿入されている。第1の回転要素22は、回転軸21に対して回転不能に固定されている。従って、第1の回転要素22は、回転軸21と共に回転する。
【0033】
第1の回転要素22は、第1ギア部33と第1スリーブ部34とを含む。第1ギア部33は、トランスミッション8aの図示しない他のギアと噛み合っている。第1スリーブ部34は、回転軸21の軸線方向(A1)に第1ギア部33と並んでおり、第1ギア部33に接続されている。ピストン26と、第1の摩擦板24と、第2の摩擦板25と、第1の戻しバネ27と、第2の戻しバネ28とは、第1スリーブ部34内に配置されている。
【0034】
第2の回転要素23は、回転軸21と同心に配置されている。第2の回転要素23は、貫通孔35を含む。貫通孔35には回転軸21が挿入されている。第2の回転要素23は、軸受36を介して、回転軸21に対して回転可能に支持されている。従って、第2の回転要素23は、回転軸21に対して相対的に回転可能である。
【0035】
第2の回転要素23は、第2ギア部37と第2スリーブ部38とを含む。第2ギア部37は、トランスミッション8aの図示しない他のギアと噛み合っている。第2スリーブ部38は、回転軸21の軸線方向(A1)に第2ギア部37と並んでおり、第2ギア部37に接続されている。第2スリーブ部38は、第1スリーブ部34内に配置されている。
【0036】
第1の摩擦板24と第2の摩擦板25とは、クラッチディスクである。第1の摩擦板24と第2の摩擦板25とは、回転軸21と同心に配置されている。第1の摩擦板24と第2の摩擦板25とは、軸線方向(A1)に交互に並んで配置されている。第1の摩擦板24と第2の摩擦板25とは、第1スリーブ部34の径方向における内方に配置されている。第1の摩擦板24と第2の摩擦板25とは、第2スリーブ部38の径方向における外方に配置されている。すなわち、第1の摩擦板24と第2の摩擦板25とは、径方向において、第1スリーブ部34と第2スリーブ部38との間に配置されている。
【0037】
第1の摩擦板24は、第1の回転要素22に対して、軸方向に移動可能、且つ、中心軸A1周りに回転不能に支持されている。従って、第1の摩擦板24は、回転軸21と共に回転する。第2の摩擦板25は、軸線方向(A1)において第1の摩擦板24に対向して配置されている。第2の摩擦板25の外径は、第1の摩擦板24の外径よりも小さい。第2の摩擦板25は、第2の回転要素23に対して、軸方向に移動可能、且つ、中心軸A1周りに回転不能に支持されている。従って、第2の摩擦板25は、第2の回転要素23と共に回転する。
【0038】
ピストン26は、第1スリーブ部34内において軸線方向(A1)に移動可能に設けられている。ピストン26は、係合位置と解放位置とに移動可能である。ピストン26は、係合位置において第1の摩擦板24と第2の摩擦板25とを係合させる。ピストン26は、解放位置において第1の摩擦板24と第2の摩擦板25とを解放する。
【0039】
ピストン26は、受圧部41と、押圧部42と、凹部43とを含む。受圧部41は、軸線方向(A1)におけるピストン26の一方の側面であり、押圧部42は、軸線方向(A1)におけるピストン26の他方の側面である。受圧部41は、軸線方向(A1)において、第1スリーブ部34の内側面44と対向して配置されている。受圧部41と第1スリーブ部34の内側面44との間に油室45が設けられている。回転軸21内にはオイル通路46が設けられている。オイル通路46の出口47は、油室45に臨んで配置されている。油室45には、オイル通路46を介して作動油が供給される。
【0040】
押圧部42は、軸線方向(A1)において第1の摩擦板24に対向している。油室45の油圧により、ピストン26は、係合位置に向けて(図3における右方に)押圧される。それにより、押圧部42が第1の摩擦板24を第2の摩擦板25に押し付ける。なお、第1の摩擦板24と第2の摩擦板25とに対して、ピストン26の反対側にはスペーサ48と規制部材49とが配置されている。規制部材49は、スナップリングであり、第1スリーブ部34に固定されている。スペーサ48と規制部材49とは、係合位置に向かう方向への第1の摩擦板24と第2の摩擦板25との移動を規制する。
【0041】
凹部43は、押圧部42から軸線方向(A1)に凹んだ形状を有している。第1の戻しバネ27の少なくとも一部は、凹部43内に配置されている。
【0042】
第1の戻しバネ27は、係合位置から待機位置までピストン26に接触してピストン26を解放位置に向けて付勢する。待機位置は、解放位置と係合位置との間の位置である。第1の戻しバネ27は、コイルスプリングである。回転軸21は、第1の戻しバネ27内を通るように配置されている。第1の戻しバネ27は、回転軸21と同心に配置されている。すなわち、第1の戻しバネ27の中心軸は、回転軸21の中心軸A1と一致するように配置されている。第1の戻しバネ27は、回転軸21の外径よりも大きな内径を有する。第1の戻しバネ27は、第1の摩擦板24及び第2の摩擦板25の径方向内方に配置されている。第1の戻しバネ27の少なくとも一部は、第2スリーブ部38内に配置されている。
【0043】
トランスミッション8aは、第1のスペーサ51と、第1の規制部材52と、第2のスペーサ53と、第2の規制部材54とを含む。第1のスペーサ51は、軸線方向(A1)において、ピストン26と第1の戻しバネ27との間に配置される。第1の規制部材52は、スナップリングであり、回転軸21に固定されている。第1の規制部材52は、解放位置に向けての第1のスペーサ51の移動を規制する。ピストン26が解放位置で、第1のスペーサ51はピストン26から所定の間隔をおいて離れている。
【0044】
第2のスペーサ53は、軸線方向(A1)において、第1の戻しバネ27に対して第1のスペーサ51の反対側に配置されている。第2の規制部材54は、スナップリングであり、回転軸21に固定されている。第2の規制部材54は、係合位置に向けての第2のスペーサ53の移動を規制する。第1の戻しバネ27は、圧縮された状態で、第1のスペーサ51と第2のスペーサ53との間に保持されている。
【0045】
第2の戻しバネ28aは、係合位置から解放位置までピストン26に接触してピストン26を解放位置に向けて付勢する。第2の戻しバネ28aは、複数のウェーブスプリングである。複数のウェーブスプリングは、軸線方向(A1)において、複数の第1摩擦板と交互に配置されている。回転軸21は、第2の戻しバネ28a内を通るように配置されている。第2の戻しバネ28aは、回転軸21と同心に配置されている。すなわち、第2の戻しバネ28aの中心軸は、回転軸21の中心軸A1と一致するように配置されている。
【0046】
第2の戻しバネ28aは、回転軸21の外径よりも大きな内径を有する。第2の戻しバネ28aは、第1の戻しバネ27の径方向外方に配置されている。第2の戻しバネ28aは、第1の戻しバネ27の外径よりも大きな内径を有する。第2の戻しバネ28aは、第2スリーブ部38の径方向外方に配置されている。第2の戻しバネ28aは、第2の摩擦板25の径方向外方に配置されている。
【0047】
図4は、ピストン26のストロークと供給油圧との関係を示す図である。供給油圧は、ピストン26を係合位置に向けて押圧する油室45の油圧である。供給油圧は、第1の戻しバネ27及び第2の戻しバネ28aによる解放位置に向けたピストン26への付勢力の大きさ(戻しバネ力)に対応している。
【0048】
供給油圧が0であるときには、ピストン26はストローク0の解放位置に位置している。この状態では、図3に示すように、ピストン26は、第1のスペーサ51から離れている。供給油圧が0以上、第1圧力値F1未満の範囲では、供給油圧によるピストン26への押圧力は、第2の戻しバネ28aの付勢力よりも小さい。従って、この範囲では、ピストン26は、第2の戻しバネ28aの付勢力により、解放位置に維持される。この状態では、第1の摩擦板24と第2の摩擦板25とは解放されており、第1の回転要素22の回転は、第2の回転要素23に伝達されない。
【0049】
供給油圧が大きくなり第1圧力値F1以上になると、供給油圧によるピストン26への押圧力は、第2の戻しバネ28aの付勢力よりも大きくなる。そのため、ピストン26は、第2の戻しバネ28aの付勢力に抗して、係合位置に向けて移動する。ただし、ピストン26のストロークが第1ストローク値S1に到達するまでは、第1のスペーサ51はピストン26から離れている。そのため、ピストン26には第2の戻しバネ28aの付勢力が作用するが、第1の戻しバネ27の付勢力は作用しない。
【0050】
供給油圧が第2圧力値F2(>F1)に到達すると、ピストン26のストロークが第1ストローク値S1となる。この状態で、ピストン26は待機位置に位置している。ピストン26が待機位置では、ピストン26は、第1のスペーサ51に接触する。供給油圧が第2圧力値F2以上、第3圧力値F3未満の範囲では、供給油圧によるピストン26への押圧力は、第1の戻しバネ27及び第2の戻しバネ28aの付勢力よりも小さい。従って、この範囲では、ピストン26は、第1の戻しバネ27及び第2の戻しバネ28aの付勢力により、待機位置に維持される。この状態では、第1の摩擦板24と第2の摩擦板25との間の間隔(切り代)は略0であり、第1の摩擦板24と第2の摩擦板25とは、係合待機状態に維持される。
【0051】
供給油圧が第3圧力値F3(>F2)以上になると、供給油圧によるピストン26への押圧力は、第1の戻しバネ27及び第2の戻しバネ28aの付勢力よりも大きくなる。そのため、ピストン26は、第1の戻しバネ27及び第2の戻しバネ28aの付勢力に抗して、係合位置に向けて移動する。それにより、第1の摩擦板24と第2の摩擦板25との係合が開始される。それにより、第1の回転要素22の回転の第2の回転要素23への伝達が開始される。そして、供給油圧が第4圧力値F4に達すると、ピストン26のストロークが第2ストローク値S2となる。この状態で、ピストン26は係合位置に位置している。この状態では、第1の摩擦板24と第2の摩擦板25とは完全係合状態となる。
【0052】
以上説明した本実施形態に係るトランスミッション8aでは、第1の戻しバネ27と第2の戻しバネ28aとによって、切り代が小さい係合待機状態を作り出すことができる。それにより、係合にかかる時間を容易に短縮することができる。また、第1の戻しバネ27の中心軸と第2の戻しバネ28aの中心軸とは、回転軸21の中心軸A1と一致するように配置される。従って、大型の第1の戻しバネ27と第2の戻しバネ28aとを配置できる空間を確保することができる。それにより、大型の第1の戻しバネ27と第2の戻しバネ28aとを用いることで、作業車両1に適した大きな付勢力を得ることができる。
【0053】
第1の戻しバネ27と第2の戻しバネ28aとは、回転軸21の外径よりも大きな内径を有している。従って、大型の第1の戻しバネ27と第2の戻しバネ28aとによって、大きな付勢力を得ることができる。
【0054】
第1の戻しバネ27は、第1の摩擦板24の径方向内方に配置されている。第2の戻しバネ28aは、第1の戻しバネ27の径方向外方に配置されている。そのため、大型の第1の戻しバネ27と第2の戻しバネ28aとを配置できる空間を確保することができる。
【0055】
第2の戻しバネ28aは、ウェーブスプリングである。そのため、第1の摩擦板24と第2の摩擦板25との隙間を均等に確保することができる。それにより、摩擦板の冷却効率を向上させることができる。
【0056】
ピストン26が解放位置で、第1のスペーサ51はピストン26から離れている。そのため、第1のスペーサ51の形状によって、ピストン26が解放位置での第1のスペーサ51とピストン26との間の距離を設定することで、待機位置を容易に調整することができる。それにより、摩擦板24,25が係合待機状態となるタイミングを容易に調整することができる。
【0057】
次に、第2実施形態について説明する。図5は、第2実施形態に係るトランスミッション8bの一部を示す断面図である。第2実施形態に係るトランスミッション8bは、第1実施形態の第2の戻しバネ28aに代えて、第2の戻しバネ28bを備えている。第2の戻しバネ28bは、コイルスプリングである。回転軸21は、第2の戻しバネ28b内を通るように配置されている。第2の戻しバネ28bは、回転軸21と同心に配置されている。すなわち、第2の戻しバネ28bの中心軸は、回転軸21の中心軸と一致するように配置されている。第2の戻しバネ28bは、回転軸21の外径よりも大きな内径を有する。
【0058】
第2の戻しバネ28bは、第1の摩擦板24及び第2の摩擦板25の径方向内方に配置されている。第2の戻しバネ28bは、第1の戻しバネ27の外径よりも大きな内径を有する。第2の戻しバネ28bは、第1の戻しバネ27の径方向外方に配置されている。従って、第2の戻しバネ28bは、径方向において、第1の摩擦板24及び第2の摩擦板25と、第1の戻しバネ27との間に配置されている。第2の戻しバネ28bの少なくとも一部は、第2スリーブ部38内に配置されている。第2の戻しバネ28bの少なくとも一部は、径方向において、第2スリーブ部38と第1の戻しバネ27との間に配置されている。
【0059】
ピストン26は、バネ支持部61を含む。バネ支持部61は、ピストン26の凹部43の内面に設けられている。第2の戻しバネ28bは、バネ支持部61に支持されている。第2の戻しバネ28bは、第2のスペーサ53とピストン26との間に配置されている。第2の戻しバネ28bは、軸線方向(A1)において、第1の戻しバネ27よりも長い。
【0060】
第2実施形態に係るトランスミッション8bの他の構成については、第1実施形態に係るトランスミッション8aと同様である。第2実施形態に係るトランスミッション8bにおいても、上述した第1実施形態に係るトランスミッション8aと同様の効果を得ることができる。
【0061】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0062】
作業車両1は、ホイールローダに限らず、モータグレーダ、油圧ショベル、ブルドーザなどの他の種類の作業車両であってもよい。上記の実施形態では、摩擦係合装置の一例としてトランスミッションが挙げられている。しかし、摩擦係合装置は、ブレーキ装置などの他の装置であってもよい。
【0063】
回転軸21と、第1の回転要素22と、第2の回転要素23と、複数の第1の摩擦板24と、複数の第2の摩擦板25と、ピストン26と、第1の戻しバネ27と、第2の戻しバネ28a,28bとの形状及び配置は、上記の実施形態のものに限らず、変更されてもよい。スペーサ48,51,53及び規制部材49,52,54の形状及び配置は、上記の実施形態のものに限らず、変更されてもよい。例えば、規制部材は、スナップリングに限らず、他の部材であってもよい。例えば、規制部材は、回転軸21や第1の回転要素22に設けられた段部であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明によれば、作業車両用の摩擦係合装置において、戻しバネによって作業車両に適した大きな付勢力を得ると共に、係合にかかる時間を容易に短縮することができる。
【符号の説明】
【0065】
3 作業機
7 エンジン
15 油圧ポンプ
21 回転軸
24 第1の摩擦板
25 第2の摩擦板
26 ピストン
27 第1の戻しバネ
28 第2の戻しバネ
45 油室
51 第1のスペーサ
52 第1の規制部材
図1
図2
図3
図4
図5