(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ケースの内部に収容されたロータの回転運動を、雄ネジ部材と雌ネジ部材とのネジ螺合により直線運動に変換し、この直線運動に基づいて弁本体内に収容された弁体を前記弁本体の中心軸方向に移動させるとともに、前記弁体の上方側に背圧室を設け、前記中心軸方向において前記弁体の直下に設けられた弁ポート内の圧力を前記背圧室に導入する電動弁であって、
前記弁体の外周面を摺動させて、前記中心軸方向への移動を案内する弁体案内部と、
前記弁本体の内部において前記弁体の外側に形成された空間である弁室と、
前記弁体案内部と前記弁体との間に介装され、前記背圧室と前記弁室との間を気密に分離するシール部材と
を備え、
前記弁体または前記弁体案内部は、
前記シール部材と摺接する円筒面上の領域であるシール摺接面と、
前記弁体および前記弁体案内部のうちで前記シール摺接面が形成されている部材に形成され、前記弁体および前記弁体案内部のうちで相手方となる部材と摺接する円筒面上の領域である弁摺接面と
を有し、
かつ前記シール摺接面と前記弁摺接面とが前記中心軸方向に重複せず、
前記中心軸方向の前記シール摺接面を構成する位置における前記弁体と前記弁体案内部との間隙が、前記中心軸方向の前記弁摺接面を構成する位置における前記弁体と前記弁体案内部との間隙よりも大きいことを特徴とする電動弁。
前記シール部材は、Oリングにより、またはOリングと断面C字状の環状部材を組み合わせて形成されていることを特徴とする請求項1〜8の何れか一項に記載の電動弁。
圧縮機、凝縮器、膨張弁、および蒸発器を含む冷凍サイクルシステムであって、請求項1〜10の何れか一項に記載の電動弁を前記膨張弁として用いることを特徴とする冷凍サイクルシステム。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、
図9(a)は、上述の電動弁101において、弁体120が弁座部116から離間した弁開状態を示す図であり、
図9(b)は、上述の電動弁101において、弁体120が弁座部116に着座した弁閉状態を示す図である。
図9(a)、(b)に示すように、弁体案内部172の下方の内周面には、弁体と摺接する摺接領域172a(斜線部分)が形成されている。
【0007】
この摺接領域172aは、
図9(a)に示す離間状態においては弁体120の外周面のみと摺接するが、
図9(b)に示す着座状態においてはシール部材137の外周面とも摺接する。すなわち、摺接領域172aは、弁体120との摺接面としての機能とシール部材137の摺接面としての機能との双方を有している。
【0008】
この場合、弁体120が中心軸L方向に昇降し、弁体案内部172の摺接領域172aと弁体120の外周面が中心軸L方向に互いに摺動を繰り返すことで摺接領域172aに摺動痕が発生する場合がある。さらに、弁体120と摺接領域172aの間に異物等が入り込むことで、摺接領域172aに傷ができる場合がある。
【0009】
この状態で、
図9(b)に示すように、摺接領域172aがシール部材137に差し掛かると、摺接領域172aにできた摺動痕や傷により、背圧室129と弁室107との間で流体の漏れが発生し、圧力バランス機構の効果が十分に発揮されなくなる可能性がある。
【0010】
本発明の目的は、シール部材のシール性を維持すると共に、圧力バランス機構を長期間にわたって安定して維持することができる電動弁、および該電動弁を用いた冷凍サイクルシステムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
[1]本発明の電動弁は、
ケースの内部に収容されたロータの回転運動を、雄ネジ部材と雌ネジ部材とのネジ螺合により直線運動に変換し、この直線運動に基づいて弁本体内に収容された弁体を前記弁本体の中心軸方向に移動させるとともに、前記弁体の上方側に背圧室を設け、前記中心軸方向において前記弁体の直下に設けられた弁ポート内の圧力を前記背圧室に導入する電動弁であって、
前記弁体の外周面を摺動させて、前記中心軸方向への移動を案内する弁体案内部と、
前記弁本体の内部において前記弁体の外側に形成された空間である弁室と、
前記弁体案内部と前記弁体との間に介装され、前記背圧室と前記弁室との間を気密に分離するシール部材とを備え、
前記弁体または前記弁体案内部は、
前記シール部材と摺接する円筒面上の領域であるシール摺接面と、
前記弁体および前記弁体案内部のうちで前記シール摺接面が形成されている部材に形成され、前記弁体および前記弁体案内部のうちで相手方となる部材と摺接する円筒面上の領域である弁摺接面とを有し、
かつ前記シール摺接面と前記弁摺接面とが前記中心軸方向に重複
せず、
前記中心軸方向の前記シール摺接面を構成する位置における前記弁体と前記弁体案内部との間隙が、前記中心軸方向の前記弁摺接面を構成する位置における前記弁体と前記弁体案内部との間隙よりも大きいことを特徴とする。
【0012】
このように、シール摺接面と弁摺接面とが中心軸方向に重複しないようにすることにより、仮に弁摺接面に摺動痕や傷があったとしても、弁摺接面がシール部材と摺動することがないため、弁摺接面の摺動痕や傷によってシール部材によって気密に分離された背圧室と弁室との間に流体の漏れが発生するおそれが低減される。したがって、シール部材のシール性を維持すると共に、圧力バランス機構を長期間にわたって安定して維持することができる。
【0013】
[2]また、本発明の電動弁は、
前記シール摺接面の径の大きさと前記弁摺接面の径の大きさが異なることを特徴とする。
これにより、シール摺接面と弁摺接面とを明確かつ確実に区分し、シール摺接面と弁摺接面とが中心軸方向に重複しないようにすることができる。
【0014】
[3]また、本発明の電動弁は、
前記弁ポートが内部に貫通して形成された筒状の弁座部を備え、
前記弁体の外周面の下端には、前記弁ポート側に向かって径を小さくするテーパー部が形成され、
前記テーパー部
が、前記弁ポートの前記ロータ側に形成された開口部分と当接
することを特徴とする。
これにより、弁体がテーパー部を着座面として弁座部に着座するため、着座面におけるシール性を向上させることができる。
【0015】
[4]また、本発明の電動弁は、
前記シール摺接面の径と前記弁摺接面の径のうち、いずれか前記弁ポートに近い一方の径が、他方の径より大きいことを特徴とする。
【0016】
このように、弁ポートに近い一方の径を他方の径より大きくし、かつ弁体の外周面下端のテーパー部を着座面として弁座部に着座させることにより、容易にシール摺接面の径を弁体着座径と同径にすることができる。このため、圧力バランス構造を有する電動弁において、的確に差圧力を無くすことができる。
【0017】
[5]また、本発明の電動弁は、
前記弁摺接面は前記シール摺接面よりも前記弁ポート側に配置され、
前記弁摺接面の径が前記シール摺接面の径よりも大きいことを特徴とする。
【0018】
この場合においても、容易にシール摺接面の径を弁体着座径と同径にすることができる。このため、圧力バランス構造を有する電動弁において、的確に差圧力を無くすことができる。
【0019】
[6]また、本発明の電動弁は、
前記テーパー部が前記弁ポートの前記ロータ側に形成された開口部分と当接することで前記開口部分の径が弁体着座径とされるとともに、前記シール摺接面の径と、前記弁体着座径が同径であることを特徴とする。
これにより、シール摺接面における流体の受圧面積と着座部分における流体の受圧面積を同一にすることができ、さらに背圧室と弁ポートの圧力も同一であることから、より正確に差圧力を無くすことが可能となる。
【0020】
[7]また、本発明の電動弁は、
前記シール部材が前記弁体案内部に配置され、
前記シール摺接面および前記弁摺接面は、前記弁体の外周面に形成されていることを特徴とする。
【0021】
このように、シール部材が弁体案内部に配置された内シール構造において、シール摺接面と弁摺接面とが中心軸方向に重複しないようにすることにより、シール部材のシール性を維持することができる。
【0022】
[8]また、本発明の電動弁は、
前記シール部材が前記弁体に配置され、
前記シール摺接面および前記弁摺接面は、前記弁体案内部の内周面に形成されていることを特徴とする。
【0023】
このように、シール部材が弁体に配置された外シール構造において、シール摺接面と弁摺接面とが中心軸方向に重複しないようにすることにより、シール部材のシール性を維持することができる。
【0024】
[9]また、本発明の電動弁は、
前記シール部材が、断面L字状のL字環状パッキンを用いて形成されていることを特徴とする。
【0025】
このように、断面L字状の環状パッキンを用いてシール部材を形成し、かつ環状パッキンを弁体の外周面や弁体案内部の内周面と摺接させることより、的確に背圧室と弁室との間を気密に分離することができる。
【0026】
[10]また、本発明の電動弁は、
前記シール部材が、Oリングにより、またはOリングと断面C字状の環状部材を組み合わせて形成されていることを特徴とする。
このように、Oリングを用いた場合においても、的確に背圧室と弁室との間を気密に分離することができる。
【0027】
[11]また、本発明の冷凍サイクルシステムは、
圧縮機、凝縮器、膨張弁、および蒸発器を含む冷凍サイクルシステムであって、上述の電動弁を前記膨張弁として用いることを特徴とする。
【0028】
このような電動弁であれば、制御弁として、確実に弁の開度を調整し、流量を制御することが出来るため、冷凍サイクルシステムとして好適である。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、シール部材のシール性を維持すると共に、圧力バランス機構を長期間にわたって安定して維持することができる電動弁、および該電動弁を用いた冷凍サイクルシステムを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態に係る電動弁について説明する。
図1は、実施の形態に係る電動弁2を示した概略断面図である。なお、本明細書において、「上」あるいは「下」とは
図1の状態で規定したものである。すなわち、ロータ4は弁体17より上方に位置している。
【0032】
この電動弁2では、金属により筒状のカップ形状をなすケース60の開口側の下方に、弁本体30が溶接などにより一体的に接続されている。
ここで、弁本体30は、たとえばステンレス等の金属から成り、内部において弁体17の外側に形成された空間である弁室11を有している。また、弁本体30の側面には、弁室11に直接連通するたとえばステンレス製や銅製の第1管継手12が固定装着されている。さらに、弁本体30の下方内側には、断面円形の弁ポート16aが内部に貫通して形成された弁座部16が組み込まれている。弁ポート16aは、弁体17の直下において弁体17と同軸方向に設けられている。弁座部16には、弁ポート16a、弁室11を介して第1管継手12に連通するたとえばステンレス製や銅製の第2管継手15が固定装着されている。
【0033】
ケース60の内部には、回転可能なロータ4が収容され、ロータ4の軸芯部分には、ブッシュ部材33を介して弁軸41が配置されている。なお、ロータ4は、磁性粉を含有する樹脂材料等の磁性を有する素材で形成されている。ブッシュ部材33と弁軸41は、共にたとえばステンレス等の金属で形成されており、ブッシュ部材33で結合された弁軸41とロータ4とは、回転しながら上下方向に一体的に移動する。なお、この弁軸41の中間部付近の外周面には雄ネジ41aが形成されている。本実施の形態では、弁軸41が雄ネジ部材として機能している。また、弁体17は弁ポート16aに対して近接又は離間可能となっている。
【0034】
ケース60の外周には、図示しないヨーク、ボビン、およびコイルなどからなるステータが配置され、ロータ4とステータとでステッピングモータが構成されている。
ケース60の天井面にはガイド支持体52が固定されている。ガイド支持体52は、円筒部53と、円筒部53の上端側に形成された傘状部54とを有し、全体をプレス加工により一体成形されている。傘状部54はケース60の頂部内側と略同形状に成形されている。
【0035】
ガイド支持体52の円筒部53内には、弁軸41のガイドを兼ねる筒部材65が嵌合されている。筒部材65は、金属、合成樹脂、あるいは表面処理を施された部品により構成され、弁軸41を回転可能に保持している。
【0036】
弁軸41のブッシュ部材33より下方には、後述するように弁軸41との間でネジ送り機構Aを構成するとともに弁軸41の傾きを抑制する機能を有する弁軸ホルダ6が、弁本体30に対して相対的に回転不能に固定されている。
【0037】
この弁軸ホルダ6は、上部側の筒状小径部6a、下部側の筒状大径部6b、後述する弁体案内部72の内周面に嵌合される嵌合部6c、リング状のフランジ部6f、および嵌合部6cの下方に延設された延設部6kから成る。そして、弁軸ホルダ6の内部には、後述する弁ガイド18を収容する収容室6hが形成されている。なお、弁軸ホルダ6は、金属のフランジ部6f以外が樹脂材料で形成されている。
【0038】
また、この弁軸ホルダ6の筒状小径部6aの上部開口部6gから所定の深さまで下方に向かって雌ネジ6dが形成されている。このため、本実施の形態では、弁軸ホルダ6が雌ネジ部材として機能している。そして、弁軸41の外周に形成された雄ネジ41aと、弁軸ホルダ6の筒状小径部6aの内周に形成された雌ネジ6dとにより、ネジ送り機構Aが構成されている。
【0039】
さらに、弁軸ホルダ6の筒状大径部6bの側面には、均圧孔51が穿設され、この均圧孔51により、筒状大径部6b内の収容室6hと、ロータ収容室66(第2の背圧室)との間が連通している。このように均圧孔51を設けることにより、ケース60のロータ4を収容する空間と、弁軸ホルダ6内の空間とが連通され、弁体17の移動動作をスムーズに行うことができる。
【0040】
また、弁軸41の下方には、筒状の弁ガイド18が弁軸ホルダ6の収容室6hに対して摺動可能に配置されている。また、弁ガイド18内には、圧縮された弁バネ27とバネ受け35とが収容されている。バネ受け35の上端部は、弁軸41の突出部41cと接触している。
【0041】
弁ガイド18は天井部21側がプレス成形により略直角に折り曲げられている。そして、この天井部21には貫通孔18aが形成されている。また、弁軸41の下方には、さらに鍔部41bが形成されている。
【0042】
ここで、弁軸41は、弁ガイド18に対して回転可能、かつ径方向に変位可能となるように弁ガイド18の貫通孔18aに遊貫状態で挿入されており、鍔部41bは、弁ガイド18に対して回転可能、かつ、径方向に変位可能となるように弁ガイド18内に配置されている。また、弁軸41は貫通孔18aを挿通し、鍔部41bの上面が、弁ガイド18の天井部21に対向するように配置されている。なお、鍔部41bが弁ガイド18の貫通孔18aより大径であることにより、弁軸41の抜け止めがなされている。
【0043】
弁軸41と弁ガイド18とが互いに径方向に移動可能であることにより、弁軸ホルダ6および弁軸41の配置位置に関して、さほど高度な同芯取付精度を求められることなく、弁ガイド18および弁体17との同芯性が得られる。
【0044】
弁ガイド18の天井部21と弁軸41の鍔部41bとの間には、中央部に貫通孔が形成されたワッシャ70が設置されている。
また、弁本体30の内側には、弁体17、および弁本体30の中心軸M方向への弁体17の移動を案内する弁体案内部72が配置されている。また、弁体17(後述する均圧路を介して背圧室28と弁ポート16aとを連通)と弁体案内部72との間には、両者間の円筒状の隙間をシールすることで背圧室28と弁室11との間を気密に分離するシール部材48が介装されている。
【0045】
弁体17は、たとえばステンレス等の金属で形成された部品であり、音叉形の断面形状を有している。弁体17は、環状の固定具36を介して弁ガイド18に固定される略円柱状の頭部17a、内部に柱状の空間17dが形成された円筒状の摺動筒部17b、および頭部17aと摺動筒部17bを一体的に接続する接続部17cから構成されている。さらに、頭部17aの内部には、縦方向の孔部17k、および横方向の導通孔17lが均圧路として形成されている。このため、弁ポート16a(第2管継手15内)の圧力は、空間17d、孔部17k、および導通孔17lを介して背圧室28に導かれる。
【0046】
弁体案内部72は、内部が貫通した筒体であり、中心軸M方向に延びる円筒状の側壁72a、シール部材48を固定する固定部72b、シール部材48を固定すると共に弁体17の外周面を摺動させて中心軸M方向に案内する弁ガイド部72cを備えている。また、側壁72aは、最上位に位置するフランジ部72jと、その下方の中間筒部72kと、さらにその下方の下端部72lとを有したもので、切削加工などによって形成されている。
【0047】
この弁体案内部72は、弁軸ホルダ6のフランジ部6fおよびケース60の下端部と弁本体30の上端部との間にフランジ部72jを固定することで、弁本体30内の所定の位置に配置されている。ここで、弁体案内部72のフランジ部72jとケース60の下端部、および弁体案内部72のフランジ部72jと弁本体30の上端部との間は、溶接、ろう付け、接着などの固着手段により全周に亘って密閉した状態に一体化されている。
【0048】
また、下端部72lの内周側には、シール部材48が配置されている。シール部材48は、中心軸M方向に配置された二つの断面L字状のL字環状パッキン48aの間に環状の補強板48bを挟んで環状に形成され、弁体17の外周面と摺接している。これにより、的確に背圧室28と弁室11との間を気密に分離することができる。なお、L字環状パッキン48aは、たとえば、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)等やPFA(テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)等のフッ素系樹脂材料で形成されており、補強板48bは、たとえば、PPS(ポリフェニレンサルファイド)等の樹脂材料や真鍮、黄銅等の金属材料で形成されている。
【0049】
また、シール部材48は、中心軸M方向において固定部72bと弁ガイド部72cの間に挟まれて固定され、潰し量が一定になるように保持されている。固定部72bと弁ガイド部72cは、たとえばステンレス等の金属でそれぞれ形成されている。
【0050】
また、弁体17の接続部17cの外周には、円錐台型の筒体であるバネ受け金具29が配置されている。バネ受け金具29は、下端部において外径側に延びる環状平面であるフランジ29aを有している。このフランジ29aと弁軸ホルダ6の嵌合部6cとの間には、圧縮された付勢バネ32が配置されている。これにより、弁体17が下方に押し下げられて雄ネジ41aと雌ネジ6dのネジ山の接触面を一定に保つことができる。このため、弁体17が弁閉状態から弁開状態または、弁開状態から弁閉状態に作動方向を切り替えた場合においてネジガタが生じることがなく、弁体17の作動方向が切り替わる際に流量特性にヒステリシスが生じることを防止できる。また、内径の大きな付勢バネ32で弁体17を付勢するため、弁体17の傾斜を抑制することができる。
【0051】
次に、実施の形態に係る電動弁2の要部について説明する。
図2(a)、(b)は、実施の形態に係る電動弁2の要部を拡大した図である。ここで、
図2(a)は、弁体17が弁座部16に着座した弁閉状態を示しており、
図2(b)は、弁体17が弁座部16から離間した弁開状態を示している。
【0052】
図2(a)、(b)に示すように、弁体17の摺動筒部17bの外周面には、シール部材48と摺接する円筒面上の領域であるシール摺接面17e、および弁体案内部72の弁ガイド部72cの内周面と摺接する円筒面上の領域である弁摺接面17fが形成されている。また、弁体17の摺動筒部17bの外周面の下端には、下方(弁ポート16a側)に向かって径を小さくするテーパー部17jが形成されている。
【0053】
上述のシール摺接面17eと弁摺接面17fは中心軸M方向に重複することはなく、同じ弁体17の摺動筒部17bの外周面において互いに外径が異なる状態に形成されている。また、シール摺接面17eの径の大きさと弁摺接面17fの径の大きさは異なるように形成され、シール摺接面17eと弁摺接面17fの間には段差17gが形成されている。
【0054】
また、シール摺接面17eよりも弁ポート16aに近い弁摺接面17fの外径Xは、シール摺接面17eの外径(シール径)Yよりも大径となるように形成され(X>Y)、シール摺接面17eの外径Yが弁体着座径Zと同径となるように形成されている(Y=Z)。ここで、弁体着座径Zは、弁体17が弁座部16に着座した場合において、テーパー部17jと当接する開口部分16bの径である。なお、開口部分16bとは、弁ポート16aの上方(ロータ4側)に形成された弁ポート16aと弁座上面16cの境界を成す部分である。
【0055】
ここで、
図2(a)に示すように、弁閉状態において、シール摺接面17eは、シール部材48の中心軸M方向に配置された二つのL字環状パッキン48aの内周面と摺接し、弁摺接面17fは、弁ガイド部72cの内周面に摺接している。また、弁体17は、テーパー部17jを着座面として弁座部16に着座している。
【0056】
この弁閉状態において、ロータ4を回転させ、弁体17を上昇させると、シール摺接面17eはL字環状パッキン48aの内周面を、弁摺接面17fは弁ガイド部72cの内周面を、それぞれ中心軸M方向に摺動し、
図2(b)に示すように、弁開状態となる。
【0057】
この実施の形態に係る電動弁2によれば、シール部材48と摺動するシール摺接面17eと弁ガイド部72cの内周面と摺動する弁摺接面17fが互いに外径が異なる状態に形成されている。このため、仮に弁摺接面17fに摺動痕や傷があったとしても、弁摺接面17fがシール部材48と摺動することはなく、弁摺接面17fの摺動痕や傷によってシール部材48によって気密に分離された背圧室28と弁室11との間に漏れが発生するおそれが低減される。したがって、シール部材48のシール性を維持すると共に、圧力バランス機構を長期間にわたって安定して維持することができる。
【0058】
また、弁体17は、テーパー部17jを開口部分16bに当接させて弁座部16に着座し、さらに、シール摺接面17eよりも弁ポート16aに近い弁摺接面17fの外径Xをシール摺接面17eの外径Yよりも大径としているため(X>Y)、容易にシール摺接面17eの外径Yを弁体着座径Zと同径にすることができる(Y=Z)。このため、シール摺接面17eにおける流体の受圧面積と着座部分における流体の受圧面積を同一にすることができ、さらに背圧室28と弁ポート16aの圧力も同一であることから、正確に差圧力を無くすことが可能となる。
【0059】
なお、
図3(a)に示すように、弁摺接面17fの外径Xをシール摺接面17eの外径Yよりも小径とすることも考えられ得る(X<Y)。この場合でも、シール摺接面17eにおける摺動痕や傷の発生を抑制し、シール部材48のシール性を長期難にわたって維持できるが、弁体着座径Zaがシール摺接面17eの外径Yよりも小さくなるため(Za<Y)、シール摺接面17eの外径Yが弁体着座径Zと同径でなくなる。ここで、弁体着座径をシール摺接面17eの外径Yと同径にするためには、
図3(b)に示すように、弁体17の下端を外径側に張り出し、テーパー部17jを着座面として弁座部16に着座させる必要がある。しかし、このようにした場合、組み立て時に弁体案内部72と弁体17の組み立てができなくなるため、
図3(b)のように弁体17を分割するなどの手立てが必要となる。かかる組立性を考慮すると、弁体17および弁体案内部72は、
図2(a)、(b)に示すような形態とするのが好ましい。
【0060】
また、実施の形態に係る電動弁2によれば、弁体17がテーパー部17jを弁体着座面として弁座部16に着座するため、弁体着座面におけるシール性を向上させることができる。一方、
図4(a)に示すように、弁体17の摺動筒部17bの下端にテーパー部17jを設けない場合、角部17mが弁座部16に着座することになる。この場合、角部17mに加工時のバリや傷が生じるおそれがあり、漏れ性に影響する可能性がある。また、
図4(b)に示すように外径が一定の弁体17にテーパー部17jを設けた場合、弁座部16に着座する弁体着座径Z2がシール径Z1よりも小さくなるため、シール摺接面のシール部分における受圧面積と着座部分における受圧面積とが異なることになり、差圧力を完全に無くすことが困難になる。この点、
図2(a)、(b)に示すように、シール摺接面17eと弁摺接面17fのうちで弁ポート16aに近い方の径を他方の径よりも大径化することで、シール摺接面17eの外径(シール径)Yを弁体着座径Zと同径にできるため、確実に差圧力を無くす構造にすることができる。
【0061】
なお、上述の実施の形態においては、シール部材48が弁体案内部72側に設けられ、弁体17と当接する内シール構造の場合を例に説明したが、
図5(a)、(b)に示すように、シール部材48が弁体67側に設けられ、弁体案内部92の内周面と当接する外シール構造であってもよい。以下、外シール構造の電動弁について、内シール構造の電動弁2と同様の構成についての説明は省略し、異なる部分について説明する。
【0062】
この外シール構造の電動弁においては、シール部材48が摺動する円筒面上の領域であるシール摺接面92e、および弁体67の外周面が摺接する円筒面上の領域である弁摺接面92fが共に弁体案内部92の内周面に形成される。弁体案内部92は、弁摺接面92fの位置する範囲の壁厚がシール摺接面92eの位置する範囲の壁厚よりも薄く形成されており、シール摺接面92eと弁摺接面92fの間に段差92gが設けられている。
【0063】
また、
図5(a)、(b)に示す弁体67は、弁ガイド18に固定される略円柱状の弁体保持部67aと筒体である弁筒部67bとから構成されている。弁体保持部67aは、内部に縦方向の孔部67xが均圧路として形成された連結部67dと、内部に横方向の導通孔67yが均圧路として形成された頭部67eを備えている。また、弁筒部67bは、連結部67dを縦方向に受け入れる受入空間67hを備えると共に、下半の外径が上半の外径よりも大径となるように形成され、中央部に段差67gを備えている。
【0064】
シール部材48は、弁体保持部67aと弁筒部67bの間に挟まれて固定され、潰し量が一定になるように保持されている。
また、弁摺接面92fの内径X´は、シール摺接面92eの内径(シール径)Y´よりも大径となるように形成され(X´>Y´)、シール摺接面92eの内径Y´は、弁ポート16aの弁体着座径Z´と同径となるように形成されている(Y´=Z´)。また、弁体17の摺動筒部17bの外周面の下端には、下方に向かって径を小さくするテーパー部67jが形成されている。
【0065】
ここで、
図5(a)に示す弁閉状態において、シール摺接面92eは、シール部材48のL字環状パッキン48aの外周面と摺接し、弁摺接面92fは、弁体67の外周面に摺接している。また、弁体67の弁筒部67bの外周面は、テーパー部67jを着座面として弁座部16に着座している。
【0066】
この弁閉状態において、ロータ4を回転させ、弁体67を上昇させると、中心軸M方向に配置された二つのL字環状パッキン48aは、シール摺接面92eを、弁筒部67bの下半の外周面67kは、弁摺接面92fを、それぞれ中心軸M方向に摺動し、
図5(b)に示すように、弁開状態となる。
【0067】
このように、外シール構造の電動弁においても、シール摺接面92eと弁摺接面92fが中心軸M方向において重複しないように、互いに内径が異なる状態に形成することにより、シール部材48のシール性を長期間にわたって維持することができる。すなわち、弁筒部67bの下半の外周面67kと弁体案内部92の弁摺接面92fが互いに摺動を繰り返し、弁摺接面92fに摺動痕や傷ができたとしても、弁摺接面92fがシール部材48と摺動することはないため、弁摺接面92fの摺動痕や傷によって、シール部材48で気密に分離された背圧室28と弁室11との間に漏れが発生するおそれが低減される。
【0068】
また、弁摺接面92fの内径X´をシール摺接面92eの内径Y´よりも大径とし、弁体17の下端外周にテーパー部67jを設けることにより(X´>Y´)、テーパー部67jを着座面として弁体67が弁座部16に着座し、容易にシール摺接面92eの内径Y´を弁体着座径Z´と同径にすることができる(Y´=Z´)。このため、圧力バランス構造を有する電動弁2において、的確に差圧力を無くすことができる。
【0069】
また、上述の形態に係るシール部材48においては、上方に配置されたL字環状パッキン48aの上側、および下方に配置されたL字環状パッキン48aの下側に、それぞれ環状パッキンを弁体17側に付勢する板バネ48cを必要に応じて配置してもよい。板バネ48cは、たとえばステンレス等の金属材料で形成されている。
【0070】
また、シール部材48には、
図6(a)に示すように、断面略円形状を有する環状パッキン(いわゆるOリング)48dのみから成るものを採用してもよいし、
図6(b)に示すように、シール部材48として、環状パッキン(Oリング)48dと断面C字状を有する環状部材48fを組み合わせた複合型のシール部材48を採用してもよい。ここで、環状パッキン(Oリング)48dは、NBR(ニトリルゴム)やH−NBR(水素添加ニトリルゴム)等のゴム材料で形成されており、環状部材48fは、PTFE等のフッ素系樹脂材料で形成されている。
【0071】
なお、
図5に示すような外シール構造の電動弁においても、シール部材48には、必ずしもL字環状パッキン48aを用いる必要はなく、
図6(a)、(b)に示すシール構造を採用してもよい。
【0072】
また、上述の実施の形態において、
図7に示すように、弁体17を中心軸M方向に案内する弁ガイド部72cがシール部材48の上方に位置するようにしてもよい。すなわち、弁摺接面92fがシール摺接面92eよりも上方に位置するような構造を採用してもよい。この場合、シール摺接面17eの外径Yが弁摺接面17fの外径Xよりも大径となるように形成することにより(Y>X)、弁摺接面17fの外径Xを弁体着座径Zと同径となるように形成することが容易となる(X=Z)。
【0073】
また、上述の実施の形態の電動弁2は、たとえば、圧縮機、凝縮器、膨張弁、および蒸発器等から成る冷凍サイクルシステムにおいて、凝縮器と蒸発器との間に設けられる膨張弁や流路の流量制御弁等として用いられる。