特許第6945525号(P6945525)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ゼネラル・エレクトリック・カンパニイの特許一覧

<>
  • 特許6945525-酢酸塩錯体および酢酸塩定量法 図000031
  • 特許6945525-酢酸塩錯体および酢酸塩定量法 図000032
  • 特許6945525-酢酸塩錯体および酢酸塩定量法 図000033
  • 特許6945525-酢酸塩錯体および酢酸塩定量法 図000034
  • 特許6945525-酢酸塩錯体および酢酸塩定量法 図000035
  • 特許6945525-酢酸塩錯体および酢酸塩定量法 図000036
  • 特許6945525-酢酸塩錯体および酢酸塩定量法 図000037
  • 特許6945525-酢酸塩錯体および酢酸塩定量法 図000038
  • 特許6945525-酢酸塩錯体および酢酸塩定量法 図000039
  • 特許6945525-酢酸塩錯体および酢酸塩定量法 図000040
  • 特許6945525-酢酸塩錯体および酢酸塩定量法 図000041
  • 特許6945525-酢酸塩錯体および酢酸塩定量法 図000042
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6945525
(24)【登録日】2021年9月16日
(45)【発行日】2021年10月6日
(54)【発明の名称】酢酸塩錯体および酢酸塩定量法
(51)【国際特許分類】
   C07C 51/41 20060101AFI20210927BHJP
   C07C 65/03 20060101ALI20210927BHJP
   C07C 309/60 20060101ALI20210927BHJP
   G01N 21/77 20060101ALI20210927BHJP
   G01N 21/78 20060101ALI20210927BHJP
   A61B 5/055 20060101ALI20210927BHJP
   C07C 53/10 20060101ALI20210927BHJP
【FI】
   C07C51/41
   C07C65/03 D
   C07C309/60
   G01N21/77 B
   G01N21/78 Z
   A61B5/055 383
   C07C53/10
【請求項の数】19
【全頁数】29
(21)【出願番号】特願2018-519438(P2018-519438)
(86)(22)【出願日】2016年10月6日
(65)【公表番号】特表2018-538242(P2018-538242A)
(43)【公表日】2018年12月27日
(86)【国際出願番号】US2016055673
(87)【国際公開番号】WO2017066070
(87)【国際公開日】20170420
【審査請求日】2019年10月4日
(31)【優先権主張番号】14/884,992
(32)【優先日】2015年10月16日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】390041542
【氏名又は名称】ゼネラル・エレクトリック・カンパニイ
(74)【代理人】
【識別番号】100105588
【弁理士】
【氏名又は名称】小倉 博
(74)【代理人】
【識別番号】100151286
【弁理士】
【氏名又は名称】澤木 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100113974
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 拓人
(72)【発明者】
【氏名】リーチ,アンドリュー
(72)【発明者】
【氏名】チェン,ルイ
(72)【発明者】
【氏名】パラシオス,マニュエル
【審査官】 神谷 昌克
(56)【参考文献】
【文献】 Ogawa, Kinya 他,A spectrophotometric study of the complex formation between Fe(III) and sulfosalicylic acid,Bulletin of the Chemical Society of Japan ,1966年,39(2),223-227
【文献】 Foley, Robert T. 他,Spectrophotometric studies on complex formation with sulfosalicylic acid. IV. With iron (III) at higher pH values,Journal of the American Chemical Society ,1950年,72,5609-5612
【文献】 Mehlig, J. P.,Colorimetric determination of iron with salicylic acid. A spectrophotometric study,Industrial and Engineering Chemistry, Analytical Edition ,1938年,10,136-139
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
G01N
A61B
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料中の酢酸塩の濃度を決定する方法であって、前記方法は、
前記試料とFe3+および酸性化合物とを接触させることを含み、ここで前記酸性化合物はスルホサリチル酸およびサリチル酸からなる群から選択され、それによって酢酸塩錯体を形成することを含み、
前記酸性化合物がスルホサリチル酸である場合、前記酢酸塩錯体は酢酸塩、Fe3+、および式(Ia)の化合物を含み、
【化5】
前記酸性化合物がサリチル酸である場合、前記酢酸塩錯体は酢酸塩、Fe3+、および式(Ib)の化合物を含み、
【化6】
式中、
は−OHまたは−Oであり、
は−OHまたは−Oであり、さらに
前記酢酸塩錯体を測光的に測定して、前記試料中の酢酸塩の濃度を決定することとを含む方法。
【請求項2】
前記試料中の酢酸塩が、13C過分極酢酸塩を含む請求項に記載の方法。
【請求項3】
前記酸性化合物がスルホサリチル酸であり、測光的に測定することが、
約350nm〜約550nmの光の波長で前記酢酸塩錯体の吸光度値を測定することと、
前記酢酸塩錯体の前記吸光度値から前記試料中の酢酸塩の濃度を決定することとを含む請求項に記載の方法。
【請求項4】
前記酸性化合物がサリチル酸であり、測光的に測定することが、
約400nm〜約650nmの光の波長で前記酢酸塩錯体の吸光度値を測定することと、
前記酢酸塩錯体の前記吸光度値から前記試料中の酢酸塩の濃度を決定することと
を含む請求項に記載の方法。
【請求項5】
前記酢酸塩錯体が、式[酢酸塩]3n([Fe3+][式(Ia)の化合物])を有し、式中、nは1〜3の整数である請求項に記載の方法。
【請求項6】
前記酢酸塩錯体が、式[酢酸塩][Fe3+][式(Ib)の化合物]を有し、式中、mは1〜3の整数であり、pは1〜3の整数である請求項に記載の方法。
【請求項7】
試料中の13C過分極酢酸塩の濃度を決定する方法であって、前記方法が、
前記試料とFe3+および酸性化合物とを接触させることを含み、ここで前記酸性化合物はスルホサリチル酸およびサリチル酸からなる群から選択され、それによって酢酸塩錯体を形成することを含み、
前記酸性化合物がスルホサリチル酸である場合、前記酢酸塩錯体は13C過分極酢酸塩、Fe3+、および式(Ia)の化合物を含み、
【化7】
前記酸性化合物がサリチル酸である場合、前記酢酸塩錯体は13C過分極酢酸塩、Fe3+、および式(Ib)の化合物を含み、
【化8】
式中、
は−OHまたは−Oであり、
は−OHまたは−Oであり、さらに
前記酢酸塩錯体を測光的に測定して、前記試料中の13C過分極酢酸塩の濃度を決定することとを含む方法。
【請求項8】
前記方法が、13C過分極酢酸塩の品質管理用に設計された装置を使用して実施される請求項2または7に記載の方法。
【請求項9】
前記酸性化合物がスルホサリチル酸であり、測光的に測定することが、
約350nm〜約550nmの光の波長で前記酢酸塩錯体の吸光度値を測定することと、
前記酢酸塩錯体の前記吸光度値から前記試料中の13C過分極酢酸塩の濃度を決定することと
を含む請求項に記載の方法。
【請求項10】
前記光の波長が約430nm〜約470nmである請求項3または9に記載の方法。
【請求項11】
前記酸性化合物がサリチル酸であり、測光的に測定することが、
約400nm〜約650nmの光の波長で前記酢酸塩錯体の吸光度値を測定することと、
前記酢酸塩錯体の前記吸光度値から前記試料中の13C過分極酢酸塩の濃度を決定することと
を含む請求項に記載の方法。
【請求項12】
前記光の波長が約400nm〜約520nmである請求項4または11に記載の方法。
【請求項13】
前記酢酸塩錯体が、式[13C過分極酢酸塩]3n([Fe3+][式(Ia)の化合物])を有し、式中、nは1〜3の整数である請求項に記載の方法。
【請求項14】
前記酢酸塩錯体が、式[13C過分極酢酸塩][Fe3+][式(Ib)の化合物]を有し、式中、mは1〜3の整数であり、pは1〜3の整数である請求項に記載の方法。
【請求項15】
前記試料とFe3+および前記酸性化合物とを接触させることが、前記試料と試薬組成物とを接触させることを含み、前記試薬組成物がFe3+−スルホサリチル酸錯体または
Fe3+−サリチル酸錯体を含む請求項に記載の方法。
【請求項16】
13C過分極酢酸塩、Fe3+、および式(Ia)の化合物
【化1】
または式(Ib)の化合物を含む酢酸塩錯体であって、
【化2】
式中、
は−OHまたは−Oであり、
は−OHまたは−Oである酢酸塩錯体。
【請求項17】
酢酸塩、Fe3+、および式(Ia)の化合物を含む酢酸塩錯体であって、
【化1】
式中、
は−OHまたは−Oであり
前記酢酸塩錯体が、式[酢酸塩]3n([Fe3+][式(Ia)の化合物])を有し、式中、nは1〜3の整数である酢酸塩錯体。
【請求項18】
酢酸塩、Fe3+、および式(I)の化合物を含む酢酸塩錯体であって、
【化2】
式中
は−OHまたは−Oであり、
前記酢酸塩錯体が、式[酢酸塩][Fe3+][式(Ib)の化合物]を有し、式中、mは1〜3の整数であり、pは1〜3の整数である酢酸塩錯体。
【請求項19】
酢酸塩錯体および溶媒を含む組成物であって、前記酢酸塩錯体が、13C過分極酢酸塩、Fe3+、および式(Ia)の化合物
【化3】
または式(Ib)の化合物を含み、
【化4】
式中、
は−OHまたは−Oであり、
は−OHまたは−Oである組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酢酸塩定量法および酢酸塩定量法に有用な酢酸塩錯体に関する。そのような方法および錯体は、MRIおよびNMR分光法に使用するための造影剤の品質管理のための13C過分極酢酸塩の濃度の測定を含め、酢酸塩の定量が望ましいあらゆる用途に有用である。
【背景技術】
【0002】
医薬品の品質管理(「QC」)分析は、ヘルスケア分野で使用される製品の安全性を確保し、仕様外製品が患者に侵入するリスクを排除するのに有用な不可欠な課題である。場合により、医薬品のQCは、製品の調製直後および患者への注入直前に行う必要がある。注入の直前に最終的な調製が行われる医薬品の一例には、MRIおよびNMR分光法に使用するための過分極造影剤がある。
【0003】
MRIおよびNMR分光法に使用する造影剤の過分極は、造影剤の感度を高めるために行われる。ただし、過分極造影剤の寿命は非常に短いため、そのような過分極は、造影剤を患者に注入する直前にのみ行うことができる。すなわち、造影剤は、わずか数分以内に、その生産源から、意図された最終用途(すなわち、患者への注入)の場に素早く移さなければならない。このような製品では、注入直前にQC分析を実施することが唯一の選択肢となる。さらに、QC分析は、患者に追加の化学物質を導入することなく、医薬品の無菌性を保持しながら短時間で実施しなければならない。そのようなQC分析のための装置は公知であり、それらの説明は、例えば、米国特許第7,803,320号、第7,519,492号および第7,610,157号に見出すことができる。
【0004】
一般的な過分極造影剤は、例えば、米国特許第8,731,640号、第8,763,410号および第7,633,290号に開示されているように、13−ピルビン酸塩である。ピルビン酸塩に加えて、酢酸塩は多くの代謝過程にとって重要であることが知られている。しかし、その紫外線吸収によって容易に測定することができるピルビン酸塩とは異なり、酢酸塩はQC目的のためのそのような吸収を有しない。13C QC要件を満たすためには、酢酸塩剤からの瞬間的かつ強力なシグナルが非常に重要である。例えば、米国特許第4,035,239号に記載されているように、酵素に基づく検出方法を利用する酢酸塩の既知のアッセイがある。しかし、過分極酢酸塩の寿命は非常に短いため、酵素に基づく酢酸塩アッセイ法は時間がかかり、過分極酢酸塩のQCには適していない。そのうえ、酵素に基づく酢酸塩アッセイ法は高価である。さらに、酵素バッチの安定性および活性差のために、通常、既知の酢酸塩標準物質を使用する追加の校正工程が必要である。
【0005】
この文献はまた、Fe(III)イオンの存在下でのローダミン6G−フェニル尿素(RGPU)コンジュゲートに基づく酢酸塩イオンの比色分析および蛍光アッセイも報告している(Huら、Chem.Commun.,47:1622−1624(2011))。このアッセイでは、酢酸塩イオンの添加は、RGPU−Fe錯体の解離および遊離RGPUの放出を促し、これにより蛍光の変化およびピンク色から無色への色の変化が引き起こされる。このRGPUに基づくアッセイの反応媒体は、水とアセトニトリルとの1:1混合物であり、検出可能な酢酸塩の濃度範囲は0〜200nMである。しかし、この濃度範囲は、過分極造影剤のQCにとって望ましいものよりも約6桁低い。さらに、このRGPUに基づくアッセイは100%水溶液では機能しないため、最適なアッセイ条件のために、酢酸塩濃度を調整し、酢酸塩を含む液体組成物の特性を調整するために複数の希釈工程を必要とする。このため、RGPUに基づく方法は、扱いにくく、時間がかかり、信頼性が低い。したがって、好ましくは水を溶媒として使用する迅速かつ安価な酢酸塩アッセイ法が必要とされている。本明細書中に開示される方法および錯体は、この必要性を解決し、過分極酢酸塩造影剤のアッセイを含むがこれに限定されない広範囲の用途において酢酸塩をアッセイするために使用され得る。
【発明の概要】
【0006】
本発明の実施形態は、従来の酢酸塩アッセイ法に関連する上述の欠点を克服する。
【0007】
本発明者らは、酢酸塩の定量に有用な新規の酢酸塩錯体を発見した。したがって、一実施形態では、本発明は、酢酸塩錯体に関し、酢酸塩錯体は、酢酸塩、Fe3+、および式(Ia)の化合物
【0008】
【化1】
または式(Ib)の化合物を含み、
【0009】
【化2】
式中、Rは−OHまたは−Oであり、Rは−OHまたは−Oである。
【0010】
別の実施形態では、本発明は、酢酸塩錯体および溶媒を含む組成物に関し、酢酸塩錯体は、酢酸塩、Fe3+、および式(Ia)の化合物
【0011】
【化3】
または式(Ib)の化合物を含み、
【0012】
【化4】
式中、Rは−OHまたは−Oであり、Rは−OHまたは−Oである。
【0013】
別の実施形態では、本発明は、試料中の酢酸塩の濃度を測定する方法に関し、該方法は、試料とFe3+および酸性化合物とを接触させることを含み、ここで酸性化合物はスルホサリチル酸およびサリチル酸からなる群から選択され、それによって酢酸塩錯体を形成することを含み、酸性化合物がスルホサリチル酸である場合、酢酸塩錯体は酢酸塩、Fe3+、および式(Ia)の化合物を含み、
【0014】
【化5】
酸性化合物がサリチル酸である場合、酢酸塩錯体は酢酸塩、Fe3+、および式(Ib)の化合物を含み、
【0015】
【化6】
式中、Rは−OHまたは−Oであり、Rは−OHまたは−Oであり、さらに酢酸塩錯体を測光的に測定して、試料中の酢酸塩の濃度を決定することとを含む。
【0016】
別の実施形態では、本発明は、試料中の13C過分極酢酸塩の濃度を決定する方法に関し、該方法は、試料とFe3+および酸性化合物とを接触させることを含み、ここで酸性化合物はスルホサリチル酸およびサリチル酸からなる群から選択され、それによって酢酸塩錯体を形成することを含み、酸性化合物がスルホサリチル酸である場合、酢酸塩錯体は13C過分極酢酸塩、Fe3+、および式(Ia)の化合物を含み、
【0017】
【化7】
酸性化合物がサリチル酸である場合、酢酸塩錯体は13C過分極酢酸塩、Fe3+、および式(Ib)の化合物を含み、
【0018】
【化8】
式中、Rは−OHまたは−Oであり、Rは−OHまたは−Oであり、さらに酢酸塩錯体を測光的に測定して、試料中の13C過分極酢酸塩の濃度を決定することとを含む。
【0019】
好都合なことに、本発明の実施形態による方法は、安価で、現在のピルビン酸塩に基づく定量プラットフォームと適合し、迅速かつ正確な酢酸塩の定量を可能にする。さらに、本発明の実施形態による方法は、溶媒として水を用いて都合よく使用することができる。
【0020】
本明細書に記載される本発明の実施形態による酢酸塩錯体および方法の新規かつ好都合な特徴は、従来の酢酸塩アッセイ法の欠点を克服する。
【0021】
本発明のこれらならびに他の特徴、態様および利点は、添付の図面を参照して以下の詳細な説明を読めば、さらによく理解されよう。図面を通じて、同様の符号は、同様の部分を表す。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1図1は、水溶液中のFe3+/SSA錯体のジョブプロットを示す。
図2図2は、一連のFe/SSA/酢酸塩混合物の吸光度スペクトルを示す。
図3図3は、酢酸塩の450nmの吸光度対モル分率のジョブプロットを示す。
図4図4は、酢酸塩/Fe/SSA錯体の吸光度スペクトルを示す。
図5図5は、酢酸塩/Fe/SSA錯体の吸光度に基づく2種類のpH条件での酢酸塩標準物質の検量線を示す。
図6図6は、伝達関数解析の結果のグラフ表示を示す。
図7図7は、水溶液中のFe3+/SA錯体のジョブプロットを示す。
図8図8は、一連のFe/SA/酢酸塩混合物の吸光度スペクトルを示す。
図9図9は、酢酸塩の465nmの吸光度対モル分率のジョブプロットを示す。
図10図10は、酢酸塩/Fe/SA錯体の吸光度に基づく酢酸塩標準物質の検量線を示す。
図11図11は、QC光モジュールを用いた酢酸塩QC法に影響を及ぼす因子の因果関係図を示す。
図12図12は、過分極13C酢酸塩QC用に考えられる流路底板設計の概略図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下の明細書および特許請求の範囲において、多数の用語に言及するが、これらは以下の意味を有すると定義する。
【0024】
単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」および「前記(the)」は、文脈が他のことを明確に示さない限り、複数の指示対象を含む。
【0025】
本明細書および特許請求の範囲を通してここで使用される、近似を表す文言は、関連する基本的機能に変化をもたらすことなく、差し支えない程度に変動してもよい任意の量的表現を修飾するために適用することができる。したがって、「約」などの1つまたは複数の用語により修飾された値は、指定された正確な値に限定されるものではない。場合により、近似を表す文言は、値を測定するための機器の精度に対応する場合がある。
【0026】
本明細書で使用されるように、「測光的に測定する」という用語は、光を測定するあらゆる方法を指す。したがって、測光的に測定することは、比色法によって吸光度を測定することを含む吸光度の測定を含む。吸光度を含む光を測定するための適切な方法は、当技術分野で公知である。例えば、Ocean Opticsの光ファイバ分光計を使用して、吸光度を測定し、吸光度値を決定してもよい。ウェルプレートリーダーまたはUV可視分光計を使用して、吸光度を測定してもよい。また、LEDなどの光源やフォトダイオード等の光検出器を使用してもよい。
【0027】
本発明の方法では、測光測定からの酢酸塩濃度の決定は、実施例の項で提供される伝達関数式を用いて実施することができる。測光測定からの酢酸塩濃度の決定は、検量線を得るために既知の酢酸塩濃度を有する標準試料を用いて実験を行うことによっても実施することができる。次いで、得られた検量線を使用して、未知の酢酸塩濃度を有する試料から酢酸塩濃度を決定することができる。
【0028】
本明細書で使用される「13C過分極酢酸塩の品質管理用に設計された装置」という用語は、過分極造影剤のQCに使用され得るあらゆる装置を指し、この装置は、本明細書に開示される少なくとも1つの酢酸塩錯体を測光的に測定するように装備されている。例えば、既知の過分極ピルビン酸塩QC装置が、本明細書に開示される少なくとも1つの酢酸塩錯体を測光的に測定するために採用されてもよい。そのような装置の1つの可能な例が実施例13に記載されている。
【0029】
本発明は、酢酸塩アッセイ法および開示された酢酸塩アッセイ法に有用な酢酸塩錯体に関する。一実施形態では、本発明は、酢酸塩、Fe3+、および式(Ia)の化合物
【0030】
【化9】
または式(Ib)の化合物を含む酢酸塩錯体に関し、
【0031】
【化10】
式中、Rは−OHまたは−Oであり、Rは−OHまたは−Oである。
【0032】
一実施形態では、酢酸塩錯体中の酢酸塩は、13C過分極酢酸塩である。別の実施形態では、酢酸塩錯体は、酢酸塩、Fe3+、および式(Ia)の化合物を含む。さらに別の実施形態では、酢酸塩錯体は、式[酢酸塩]3n([Fe3+][式(Ia)の化合物])を有し、式中、nは1〜3の整数である。したがって、nは1、2または3であってよい。
【0033】
一実施形態では、酢酸塩錯体は、酢酸塩、Fe3+、および式(Ib)の化合物を含む。別の実施形態では、酢酸塩錯体は、式[酢酸塩][Fe3+][式(Ib)の化合物]を有する。さらに別の実施形態では、酢酸塩錯体は、式[酢酸塩][Fe3+][式(Ib)の化合物]であってよく、式中、mは1〜3の整数であり、pは1〜3の整数である。したがって、mは1、2または3であってよい。さらに、pは1、2または3であってよい。したがって、一実施形態では、酢酸塩錯体は、式[酢酸塩][Fe3+][式(Ib)の化合物]であってよい。別の実施形態では、酢酸塩錯体は、式[酢酸塩][Fe3+][式(Ib)の化合物]であってよい。さらに別の実施形態では、酢酸塩錯体は、式[酢酸塩][Fe3+][式(Ib)の化合物]であってよい。
【0034】
本発明はまた、本明細書に開示される錯体を含む組成物に関する。一実施形態では、組成物は酢酸塩錯体および溶媒を含み、酢酸塩錯体は、酢酸塩、Fe3+、および式(Ia)の化合物
【0035】
【化11】
または式(Ib)の化合物を含み、
【0036】
【化12】
式中、Rは−OHまたは−Oであり、Rは−OHまたは−Oである。
【0037】
一実施形態では、本発明の組成物中の酢酸塩は、13C過分極酢酸塩である。
【0038】
一実施形態では、本発明の組成物の酢酸塩錯体は、酢酸塩、Fe3+、および式(Ia)の化合物を含む。別の実施形態では、酢酸塩錯体は、式[酢酸塩]3n([Fe3+][式(Ia)の化合物])を有し、式中、nは1〜3の整数である。一実施形態では、nは1である。別の実施形態では、nは2である。さらに別の実施形態では、nは3である。
【0039】
別の実施形態では、本発明の組成物の酢酸塩錯体は、酢酸塩、Fe3+、および式(Ib)の化合物を含む。一実施形態では、酢酸塩錯体は、式[酢酸塩][Fe3+][式(Ib)の化合物]を有する。さらに別の実施形態では、酢酸塩錯体は、式[酢酸塩][Fe3+][式(Ib)の化合物]であってよく、式中、mは1〜3の整数であり、pは1〜3の整数である。したがって、mは1、2または3であってよい。さらに、pは1、2または3であってよい。
【0040】
本発明の組成物は、エチレンジアミン四酢酸(「EDTA」)および金属イオンをさらに含んでもよく、金属イオンは、Zn2+、Cu2+およびそれらの混合物からなる群から選択される。いくつかの実施形態では、本発明の組成物は緩衝液を含んでもよい。
【0041】
一実施形態では、本発明の組成物中の溶媒は水性溶媒である。別の実施形態では、本発明の組成物中の溶媒は水である。
【0042】
別の実施形態では、本発明は、試料中の酢酸塩の濃度を測定する方法に関し、該方法は、試料とFe3+および酸性化合物とを接触させることを含み、ここで酸性化合物はスルホサリチル酸およびサリチル酸からなる群から選択され、それによって酢酸塩錯体を形成することを含み、酸性化合物がスルホサリチル酸である場合、酢酸塩錯体は酢酸塩、Fe3+、および式(Ia)の化合物を含み、
【0043】
【化13】
酸性化合物がサリチル酸である場合、酢酸塩錯体は酢酸塩、Fe3+、および式(Ib)の化合物を含み、
【0044】
【化14】
式中、Rは−OHまたは−Oであり、Rは−OHまたは−Oであり、さらに酢酸塩錯体を測光的に測定して、試料中の酢酸塩の濃度を決定することとを含む。
【0045】
一実施形態では、試料中の酢酸塩は、13C過分極酢酸塩を含む。別の実施形態では、該方法は、13C過分極酢酸塩の品質管理用に設計された装置を使用して実施される。
【0046】
一実施形態では、酸性化合物はスルホサリチル酸であり、測光的に測定することは、約350nm〜約550nmの光の波長で酢酸塩錯体の吸光度値を測定することと、酢酸塩錯体の吸光度値から試料中の酢酸塩の濃度を決定することとを含む。この方法で使用される光の波長は、約430nm〜約470nmであってもよい。
【0047】
一実施形態では、酸性化合物はサリチル酸であり、測光的に測定することは、約400nm〜約650nmの光の波長で酢酸塩錯体の吸光度値を測定することと、酢酸塩錯体の吸光度値から試料中の酢酸塩の濃度を決定することとを含む。この方法で使用される光の波長は、約400nm〜約520nmであってもよい。
【0048】
記載された方法の試料は、酢酸塩および水性溶媒を含んでもよい。試料はさらに緩衝液を含んでもよい。
【0049】
一実施形態では、本明細書に開示される方法の酢酸塩錯体は、式[酢酸塩]3n([Fe3+][式(Ia)の化合物])であってよく、式中、nは1〜3の整数である。したがって、nは1、2または3であってよい。
【0050】
別の実施形態では、本明細書に開示される方法の酢酸塩錯体は、式[酢酸塩][Fe3+][式(Ib)の化合物]であってよい。別の実施形態では、酢酸塩錯体は、式[酢酸塩][Fe3+][式(Ib)の化合物]であってよく、式中、mは1〜3の整数であり、pは1〜3の整数である。したがって、mは1、2または3であってよい。さらに、pは1、2または3であってよい。
【0051】
一実施形態では、試料とFe3+および酸性化合物とを接触させることは、試料と試薬組成物とを接触させることを含み、試薬組成物はFe3+−スルホサリチル酸錯体またはFe3+−サリチル酸錯体を含む。一実施形態では、試薬組成物は液体である。別の実施形態では、試薬組成物は乾燥粉末である。
【0052】
一実施形態では、試料はEDTAをさらに含み、試薬組成物は金属イオンをさらに含み、金属イオンはZn2+、Cu2+およびそれらの混合物からなる群から選択される。一実施形態では、試薬組成物は緩衝液をさらに含む。
【0053】
別の実施形態では、本発明は、試料中の13C過分極酢酸塩の濃度を決定する方法に関し、該方法は、試料とFe3+および酸性化合物とを接触させることを含み、ここで酸性化合物はスルホサリチル酸およびサリチル酸からなる群から選択され、それによって酢酸塩錯体を形成することを含み、酸性化合物がスルホサリチル酸である場合、酢酸塩錯体は13C過分極酢酸塩、Fe3+、および式(Ia)の化合物を含み、
【0054】
【化15】
酸性化合物がサリチル酸である場合、酢酸塩錯体は13C過分極酢酸塩、Fe3+、および式(Ib)の化合物を含み、
【0055】
【化16】
式中、Rは−OHまたは−Oであり、Rは−OHまたは−Oであり、さらに酢酸塩錯体を測光的に測定して、試料中の13C過分極酢酸塩の濃度を決定することとを含む。
【0056】
一実施形態では、該方法は、13C過分極酢酸塩の品質管理用に設計された装置を使用して実施される。
【0057】
一実施形態では、酸性化合物はスルホサリチル酸であり、測光的に測定することは、約350nm〜約550nmの光の波長で酢酸塩錯体の吸光度値を測定することと、酢酸塩錯体の吸光度値から試料中の13C過分極酢酸塩の濃度を決定することとを含む。この方法で使用される光の波長は、約430nm〜約470nmであってもよい。
【0058】
別の実施形態では、酸性化合物はサリチル酸であり、測光的に測定することは、約400nm〜約650nmの光の波長で酢酸塩錯体の吸光度値を測定することと、酢酸塩錯体の吸光度値から試料中の13C過分極酢酸塩の濃度を決定することとを含む。この方法で使用される光の波長は、約400nm〜約520nmであってもよい。
【0059】
一実施形態では、試料は、13C過分極酢酸塩および水性溶媒を含む。別の実施形態では、試料は緩衝液をさらに含む。
【0060】
一実施形態では、本明細書に開示される方法の酢酸塩錯体は、式[13C過分極酢酸塩]3n([Fe3+][式(Ia)の化合物])であってよく、式中、nは1〜3の整数である。一実施形態では、nは1である。別の実施形態では、nは2である。さらに別の実施形態では、nは3である。
【0061】
別の実施形態では、本明細書に開示される方法の酢酸塩錯体は、式[13C過分極酢酸塩][Fe3+][式(Ib)の化合物]であってよい。さらに別の実施形態では、酢酸塩錯体は、式[酢酸塩][Fe3+][式(Ib)の化合物]であってよく、式中、mは1〜3の整数であり、pは1〜3の整数である。したがって、mは1、2または3であってよい。さらに、pは1、2または3であってよい。
【0062】
一実施形態では、試料とFe3+および酸性化合物とを接触させることは、試料と試薬組成物とを接触させることを含み、試薬組成物はFe3+−スルホサリチル酸錯体またはFe3+−サリチル酸錯体を含む。一実施形態では、試薬組成物は液体である。別の実施形態では、試薬組成物は乾燥粉末である。
【0063】
一実施形態では、試料はEDTAをさらに含み、試薬組成物は金属イオンをさらに含み、金属イオンはZn2+、Cu2+およびそれらの混合物からなる群から選択される。一実施形態では、試薬組成物は緩衝液をさらに含む。
【0064】
本明細書は、最良の形態を含めて、本発明の実施形態を開示するために実施例を用いており、また、任意のデバイスまたはシステムを製作し使用し、任意の組み込まれた方法を実施することを含めて、いかなる当業者も本発明を実施することが可能となるように実施例を用いている。本発明の特許可能な範囲は、提供される実施例の範囲に限定されず、当業者に思い付く他の例を含むことができる。このような他の実施例が請求項の字義通りの文言と異ならない構造要素を有する場合、または、それらが請求項の字義通りの文言と実質的な差異がない等価な構造要素を含む場合には、このような他の実施例は特許請求の範囲内であることを意図している。
【実施例】
【0065】
実施例1
Fe/SSA錯体のジョブプロット
Fe3+/SSA錯体の形成は鉄の定量のための比色法として一般的に用いられてきた。鉄とSSAとは、酸性媒体中で1:1の紫色の錯体を形成し、pHが中性および塩基性範囲に増加するにつれてオレンジ色および黄色に変化する。我々の試験では、SSAの存在により酸性である水溶液中でFe/SSA試薬を調製した。様々な量の1mM Fe3+と1mM SSA溶液とを混合し、全容量を2mLで一定に保った。Fe3+およびSSAの総モル濃度を一定に保った。Ocean Opticsの光ファイバ分光計を設置し、UV−Vis光源を吸光度測定に使用した。図1に示すように、Fe3+のモル比を連続的に変化させて吸光度変化を測定することによってジョブプロットを得た。例えば、0.2のFe(III)比で、0.4mLの1mM Fe3+と1.6mLの1mM SSA溶液とを混合した。490nmでのピーク吸光度はモル比0.5で最大に達し、これはFe3+のSSAに対する1:1の化学量論に相当する。
【0066】
実施例2
酢酸塩、Fe3+、SSA混合物試験
予測されたように、Fe3+と酢酸塩のみを混合しても色は発生しなかった。試薬A(0.5mM Fe3+、200mM酢酸塩)と試薬B(0.5mM Fe3+、200mM SSA)とを様々なモル比で混合して、酢酸塩、Fe3+およびSSAの混合物を試験した。例えば、酢酸塩のモル比が0.2である場合、0.4mLの試薬Aと1.6mLの試薬Bとを混合した。SSAと酢酸塩とを組み合わせた総濃度に対して、鉄濃度を一定に保った。結果を図2に示す。図2に見られるように、酢酸塩のモル分率が0.5未満である場合、吸光度スペクトルは490nmで最大の吸光度を有し、Fe/SSA錯体の吸光度と一致した。酢酸塩のモル分率が増加するにつれて、最大の吸光度は470nmに変化した。ピーク吸光度は最初に増加し、次いでモル分率が0.7を超えると減少した。0.5〜1.0のモル分率範囲内のデータ点は、0.75モル比で最大値を示す第2次多項式関数に適合させた。これは、Fe3+1モル当たりSSA 1モル当たり3モルの酢酸塩のモル比を有する酢酸塩、Fe3+およびSSAの錯体(「酢酸塩/Fe/SSA錯体」)に相当する(すなわち、3:1:1の酢酸塩:Fe3+:SSAのモル比)。
【0067】
Fe3+濃度は、精度と再現性の観点から、99%の吸光度(A=2)を超えずに比較的大きな吸光度信号を得るために、0.5〜0.65mMの範囲内に保った。図3は、酢酸塩のモル分率が0.5から0.7まで増加することにより、最大の吸光度変化対酢酸塩濃度が達成されたことを示す。必要とされる酢酸塩の定量の濃度範囲は200〜300mMであるため、この濃度範囲の酢酸塩の最適SSA濃度は130〜200mMであると算出された。
【0068】
実施例3
酢酸塩/Fe/SSA錯体の調製
最終濃度が0.65mM Fe3+および200mM SSAになるようにFeClおよび5−スルホサリチル酸二水和物を水に溶解することにより、Fe3+およびスルホサリチル酸(「SSA」)試薬(「Fe/SSA試薬」)を調製した。Fe/SSA試薬溶液はSSAの存在により酸性であった。
【0069】
トリスおよび水酸化ナトリウムを含む塩基性緩衝液に酢酸を希釈することによって、酢酸塩標準物質を調製した。例えば、5gの酢酸と83.6gの塩基性緩衝液(720mM NaOHおよび400mM TRIS)および110gの希釈媒体(0.1%EDTA水溶液)とを混合して、pH7.6で410mM前後の酢酸塩原液の最終酢酸塩原液を作製した。次に、必要に応じて酢酸塩原液を希釈媒体により希釈して、200〜300mMの酢酸塩試料を作製した。
【0070】
Fe/SSA試薬溶液(1mL)と酢酸塩標準物質(1mL)の水溶液とを1:1の容積比で混合して、酢酸塩、Fe3+およびSSAの酢酸塩錯体(「酢酸塩/Fe/SSA錯体」)溶液を調製した。
【0071】
実施例4
酢酸塩の定量のための酢酸塩/Fe/SSA錯体−分光測定
実施例3で調製した酢酸塩/Fe/SSA錯体溶液の吸光度測定により酢酸塩の定量を行った。吸光度測定は、1cmの経路長のキュベットを通して実施した。初期評価には、Ocean Opticsの光ファイバ分光計(USB4000)とUV−Vis光源とを使用した。ゲージおよび伝達関数の試験中に、市販のシステムのピルビン酸検出用に設計されたLEDフォトダイオード(PD)に基づくQCプレートを使用した。具体的には、1cmの経路長のTOPAS(登録商標)キュベット(照射およびエージング)、チャネル4 LED(450nm)およびチャネル3 PD検出を使用した。吸光度測定の結果を図4に示す。
【0072】
実施例5
酢酸塩の定量のための酢酸塩/Fe/SSA錯体−酢酸塩濃度の決定のための校正
図5は、pH6.8および8.2での酢酸塩/Fe/SSA錯体の吸光度値に基づく酢酸塩標準物質の検量線を示す。400mM酢酸塩原液の調製中に、様々な量の中和緩衝液と酢酸とを混合して6.8および8.2の最終pHにした。次いで、200〜300mMまでの5種類の濃度に400mM酢酸塩原液を希釈した。1mLのこれらの酢酸塩溶液と1mLのFe/SSA試薬とを混合し、Ocean Opticsの光ファイバ分光計により吸光度を測定した。
【0073】
実施例6
酢酸塩の定量のための酢酸塩/Fe/SSA錯体−ゲージおよび伝達関数解析
中心複合(応答曲面)計画を使用して実験的因子を調べ、QCモジュール(表1)を用いて酢酸塩濃度を校正するための伝達関数を決定した。各温度ブロック内でランダムな順序で合計50回の実行を実施し、各温度ブロックを実行する順序もランダム化した。EPAは電子常磁性剤の略であり、この試験のEPAは、トリス(8−カルボキシル−2,2,6,6−テトラ(2−(1−メトキシ−2,2−d2−エチル))−ベンゾ[1,2−d:4,5−d’]ビス(ジチオール−4−イル)メチルナトリウム塩であった。最終的に溶解した分極酢酸塩溶液中にEPAが存在し、可視領域内のその吸光度のために、実験デザイン(「DOE」)にEPAを含めた。pH調整に用いたトリス緩衝液(−0.03pH/温度)の温度感受性を考慮した。30℃で所望の実験デザインに対応するように、あらゆる標準物質のpH値を室温で調整した。例えば、酢酸塩標準物質を21℃でpH=7.47に調整した。これは30℃でpH=7.2に相当する。DOEの吸光度値をDESIGN−EXPERT(登録商標)(バージョン8.0.6)にインポートして分析した。変換は行わなかった。表1は、中心複合(応答曲面)計画に基づく実験パラメータ設定に関する情報を提供する。
【0074】
【表1】
表2は、DOE実行のANOVA分析結果を示す。酢酸塩濃度、pH、温度、酢酸塩濃度*pHおよびpHは有意であることが判明した。EPAは有意ではなく、酢酸塩/Fe/SSA錯体からの大きな吸光度の寄与のためである可能性が最も高いと考えられる。濃度±2%のEDTAも有意ではないことが判明した。R(0.9920)とRadjusted(0.9911)との間の良好な一致は、伝達関数に使用される項が有意であることを示唆した。R(0.9920)とRpredicted(0.9888)との間の一致は、モデルの品質が非常に高いことを示した。
【0075】
伝達関数を用いて、50点の測定吸光度値に基づいて酢酸塩濃度を予測した。残差標準偏差(RSD)、具体的にはRSD250mMは0.7%(1.8mM)であると算出された(表3、図6)。伝達関数から温度入力を除く場合、方程式がわずかに調整される(表2参照)。RSD250mMは0.8%(2mM)までわずかに悪化すると算出されたが、依然として仕様の3%以内に十分に収まっている。
【0076】
【表2】
表2は、酢酸塩の定量に重要な因子や、Abs、pH、温度などの入力因子に基づいて酢酸塩濃度を導出するための実験データおよび伝達関数にモデルがどの程度適合しているかを含め、DESIGN−EXPERT(登録商標)の分析結果を示している。
【0077】
表2の方程式1および2の記号は以下の意味を有する。
【0078】
「[酢酸塩]」は、「酢酸塩のモル濃度」の意味を有する。
【0079】
「−」記号は「マイナス」の意味を有する。
【0080】
「+」記号は「プラス」の意味を有する。
【0081】
「E−03」は「10−3倍」、すなわち「0.001倍」の意味を有する。
【0082】
略語「Abs」は「吸光度」の意味を有する。
【0083】
「pH」は「酢酸塩/Fe/SSA錯体を含む溶液のpH値」の意味を有する。
【0084】
「温度」は「酢酸塩/Fe/SSA錯体を含む溶液の温度(℃)」の意味を有する。
【0085】
「*」記号は「乗算」の意味を有する。
【0086】
「/」記号は「除算」の意味を有する。
【0087】
「^」記号は「乗」の意味を有する。
【0088】
【表3】
表3は、表2からの方程式1または2を使用した場合の酢酸塩の定量に導入された相対誤差を示す。表3は、入力パラメータの1つとしての温度を削除すると、酢酸塩の定量に対する影響を無視できることを示す。
【0089】
酢酸塩濃度、pHおよび温度の範囲にわたってさらに10個の検証点を作成した。10個の酢酸塩試料を調製し、次いでFe/SSA試薬(1mM Fe(NH)(SO、200mM SSA)と1:1の容積で混合した。表2からの方程式2を予測に使用した。図6は、50個のDOE点と10個の検証点の両方をプロットしている。pH6.8の1つの検証試料が他の検証点よりも線形モデルから有意に逸脱しており、これはこのpHでの緩衝能が低いことに関連している可能性がある。検証セットのRSD250mMは2.66%であると算出され、依然として仕様要件の3%以内に収まっている(pH6.8のデータを除くRSD250mMは2%に等しい)。
【0090】
QC光モジュールを用いた伝達関数解析
発光ダイオード−フォトダイオードモジュールは、ゲージ試験で酢酸塩濃度を区別するのに十分であることが実証されているが、検出された吸光度信号に影響を及ぼし測定誤差につながる可能性のある多くの因子が存在する。図11は、考えられる因子の範囲を列挙した因果関係図である。
【0091】
完全な実験デザイン(「DOE」)の前に因子をスクリーニングするために一連の実験を行った。pHおよび温度は既知の因子である。1.2〜1.8%のグリセロールは、吸光度信号に有意に影響を及ぼさないことが判明した。EDTAは強力な錯体剤であり、Fe3+と錯体を形成して無色の錯体を形成した際に吸光度を低下させる。
【0092】
溶解媒体中の0.1g/L EDTA(0.27mM)の存在は酢酸塩/Fe/SSA錯体の形成を停止させないが、EDTAの20%の変動は大きな影響を及ぼす。EDTAの変動に対する可能な緩和は、EDTAと錯体を形成する第2の金属イオンを提供して、EDTAノイズを「緩衝する」ことである。EDTAの濃度が20%変化する場合に、200mM ZnClを添加すると、吸光度変動が0.08%に減少することが実証されている。その後、ZnClを含む反応混合物がゆっくりと減衰する(20分後に15%の損失)ことが判明した。検出は数秒以内に行われるため、これがQC法の因子となることはない。
【0093】
実施例7
酢酸塩の定量のための酢酸塩/Fe/SSA錯体−酢酸塩試料中のEDTA効果の補償
EDTAが酢酸塩試料の水溶液中に存在し、EDTA濃度が試料間で大きく変動する場合、酢酸塩の校正に影響を及ぼす可能性がある。Cu2+および/またはZn2+などの金属イオンを添加することにより、Fe/SSA試薬のEDTA変動に対する堅牢性を改善することができる。調整されたFe/SSA試薬は、1mM Fe3+の供給源である1mM Fe(NH)(SOと、200mM 5−スルホサリチル酸と、200mM ZnClとを含んでもよい。Fe/SSA試薬の別の例は、1mM Fe(NH)(SOと、200mM 5−スルホサリチル酸と、200mM CuClとを含んでもよい。次いで、Fe/SSA試薬と、酢酸塩試料(pH6.8〜8.2)の水溶液とを1:1の容積で混合する。例えば、1mLのFe/SSA試薬溶液と1mLの酢酸塩試料の水溶液とを混合する。
【0094】
実施例8
酢酸塩の定量のための酢酸塩/Fe/SSA錯体−乾燥Fe/SSA試薬の使用
酢酸塩の定量工程を簡略化するために、一定量のFe/SSA試薬を空の容器または光学キュベットに分注し、室温またはヒーターで乾燥させることができる。次いで、乾燥したFe/SSA試薬を得てもよい。その後に酢酸塩試料の水溶液を添加して乾燥したFe/SSA試薬粉末を溶解し、酢酸塩/Fe/SSA錯体を形成する。この手順は、フィールドアプリケーションおよびQCアプリケーションに適している。乾燥したFe/SSA試薬はきわめて水溶性が高く、迅速な反応および迅速な測定が容易になる。例えば、1cmの経路長のキュベット内で、1mM Fe(NH)(SOおよび200mM 5−スルホサリチル酸の水溶液などのFe/SSA試薬1mLを乾燥させることができる。その後に酢酸塩試料(pH6.8〜8.2)の水溶液を1〜2mL添加して、試料中の酢酸塩の吸光度測定および定量のための酢酸塩/Fe/SSA錯体を形成する。さらに高濃度でさらに少量のFe/SSA試薬を用いて、乾燥工程を高速化することもできる。
【0095】
実施例9
Fe/SA錯体のジョブプロット
図7に示されるジョブプロットは、Fe3+のモル比を連続的に変化させながら吸光度の変化を測定することによって得られた。Fe3+およびサリチル酸(「SA」)の総モル濃度を一定に保った。様々な量の1mM Fe3+と1mM SA溶液とを混合し、全容量を2mLで一定に保った。例えば、Fe3+のモル比が0.2の場合、0.4mLの1mM Fe3+と1.6mLの1mM SA溶液とを混合した。Ocean Opticsの光ファイバ分光計を設置し、UV−Vis光源を吸光度測定に使用した。520nmでのピーク吸光度は、SAのモル比0.6〜0.7で最大に達し、これはFe:SAの1:3の化学量論に相当する。
【0096】
実施例10
酢酸塩、Fe3+およびSA混合試験
酢酸塩、Fe3+およびSAの錯体(「酢酸塩/Fe/SA錯体」)を試験するために、試薬A(1mM Fe3+、15mM酢酸塩)と試薬B(1mM Fe3+、15mM SA)とを様々なモル比で混合した。鉄濃度と、SAと酢酸塩とを組み合わせた総濃度とを一定に保った。例えば、酢酸塩のモル比が0.2の場合、0.4mLの試薬Aと1.6mLの試薬Bとを混合した。Ocean Opticsの光ファイバ分光計を設置し、UV−Vis光源を吸光度測定に使用した。結果を図8に示す。酢酸塩を添加すると、最大の吸光度は、さらに低い波長に変化し始めた(Fe3+/SAの520nmから465nmへ)。
【0097】
図9に示すように、ピーク吸光度は最初に増加し、次いでモル分率が0.5を超えると減少した。これは、Fe3+(酢酸塩)(SA)の酢酸塩/Fe/SA錯体式に相当し、式中、mは1、2または3であってよい。
【0098】
このデータは、酢酸塩濃度がSA濃度よりも低いと、酢酸塩濃度とともに吸光度が増加することを示唆している。酢酸塩濃度がSA濃度よりも高くなると、酢酸塩濃度の増加とともに吸光度が減少する。
【0099】
実施例11
酢酸塩/Fe/SA錯体の調製および校正
アンモニウム鉄(III)硫酸塩とサリチル酸とを溶解して最終濃度1mMのFe3+および15mMのSAにすることにより、Fe3+およびサリチル酸(「SA」)試薬(「Fe/SA試薬」)を調製した。酢酸塩標準物質は、実施例3に記載されたものと同様の手順によって調製した。
【0100】
Fe/SA試薬溶液と酢酸塩標準物質の水溶液とを1:1の容積比で混合することにより、酢酸塩、Fe3+およびSAの酢酸塩錯体(「酢酸塩/Fe/SA錯体」)の溶液を調製した。Ocean Opticsの光ファイバ分光計を設置し、UV−Vis光源を吸光度測定に使用した。
【0101】
200〜300mM酢酸塩の定量のために、酢酸塩溶液と1mM Fe3+/15mM SAとの1:1混合物により図10に示す検量線を生成した。吸光度変化対酢酸塩濃度の相関が存在する。吸光度は、酢酸塩濃度と線形的に相関する。
【0102】
実施例12
酢酸塩の定量のための酢酸塩/Fe/SA錯体−酢酸塩試料に対するEDTA効果の補償
EDTAが酢酸塩試料の水溶液中に存在し、EDTA濃度が試料間で大きく変動する場合、酢酸塩の校正に影響を及ぼす可能性がある。Cu2+および/またはZn2+などの金属イオンを添加することにより、Fe/SA試薬のEDTA変動に対する堅牢性を改善することができる。調整されたFe/SA試薬は、1mM Fe3+の供給源である1mM Fe(NH)(SOと、200mMサリチル酸と、200mM ZnClとを含んでもよい。Fe/SA試薬の別の例は、1mM Fe(NH)(SOと、200mMサリチル酸と、200mM CuClとを含んでもよい。次いで、Fe/SA試薬と、酢酸塩試料(pH6.8〜8.2)の水溶液とを1:1の容積で混合する。例えば、1mLのFe/SA試薬溶液と1mLの酢酸塩試料の水溶液とを混合する。
【0103】
実施例13
過分極酢酸塩のQC
過分極造影剤のQCのための一般的な手順は当技術分野で公知であり、例えば、米国特許第7,803,320号および第7,519,492号に記載されている。過分極酢酸塩のQCのための方法を本明細書に記載するために、これらの手順を採用することができる。
【0104】
例えば、一実施形態では、生成物のQC分析を可能にするキュベットを含むQC付属物に過分極13C酢酸塩試料を入れる。キュベット内または流路内でFe/SSA試薬を予備乾燥することができる。LEDフォトダイオードの設定または他の形態を用いて、形成された錯体の光学的測定を行うことができる。特別なQC付属物には、ピルビン酸塩剤のQC使用のために既存の付属物に加えられた追加のキュベットが挙げられる。
【0105】
オフラインバージョンも実装できる。Ocean Opticsの分光計またはLEDフォトダイオードの設定を測定に使用できる。Fe/SSA試薬をキュベットにあらかじめ分注したりキュベット内で乾燥させたりしてから、一定量の溶解した13C酢酸塩溶液をキュベットに加えて測定することができる。錯体の形成および測定は数秒内で行うことができ、QCの速度要件を満たす。
【0106】
図12は、過分極13C酢酸塩QC用に考えられる流路底板設計の概略図を示す。流路底板は、吸光度/蛍光測定のための成形されたTOPAS(登録商標)キュベットと、NMRでの液体状態分極(LSP)測定のための円筒形ホルダーとを含む。電子常磁性剤(「EPA」)は、そのUV−Vis吸光度によって直接測定されるため、追加の試薬は必要とされない。受け取った生成物を最初にEPAキュベットに入れる。次いで、生成物をNMRバルブに通した後に、pHおよび酢酸塩検出のためにアッセイキュベットに到達させる。このフローは、順次または同時に発生してもよい。pH測定のために、NMRバルブの先端内部にpH感受性蛍光色素をあらかじめ沈着させる。受け取った生成物が染料を溶解し、混合物は測定のための1cmの経路長のキュベットに到達する。乾燥したFe/SSA試薬を保持するために、追加のNMRバルブ/キュベットを組み込むことができる。受け取った生成物がFe/SSA試薬を溶解し、混合物は1cmの経路長のキュベットに到達する。このように、過分極13C酢酸塩の定量のために、酢酸塩/Fe/SSA錯体の測光測定を行うことができる。
【0107】
本発明の特定の特徴のみを本明細書において例示および説明してきたが、当業者であれば多くの修正および変更を思い付くであろう。したがって、添付の特許請求の範囲が、本発明の真の精神の範囲内にあるすべてのこのような修正および変更を含むことが意図されることを理解すべきである。
【0108】
この出願を通じて、様々な参考文献に言及している。これらの参考文献の開示は、それらの全体が本明細書に記載されているかのように、参照により本明細書に組み込まれる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12