【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によれば、各独立請求項の特徴を有する光学走査顕微鏡およびこうした走査顕微鏡を用いて試料を検査する方法が提案される。有利な各構成は、各従属請求項および以下の説明の対象となっている。
【0011】
本発明は、走査顕微鏡においていずれの時点でもオルソスコピックビーム路およびコノスコピックビーム路の双方を利用可能状態に維持し、偏光性のビーム分割によりこれら2つのビーム路の切り替えを実現するという基本的思想を基礎としている。2つのビーム路の組み合わせも偏光光学手段により実現する。
【0012】
本発明は、こうした背景から、光源から出発する光源区間、偏光依存性の第1のビームスプリッタおよび第2のビームスプリッタ、ならびに第1のビームスプリッタと第2のビームスプリッタとの間の第1の光学チャネルおよび第2の光学チャネルを有する照明装置を備えた光学走査顕微鏡を提案する。光学走査顕微鏡の光源区間には、公知のタイプの走査ユニットが組み込まれるが、これは基本的に公知であって、さらに以下でも説明する。
【0013】
ここで「偏光依存性のビームスプリッタ」(英語:Polarizing Beam Splitter, PBS;所定の構造形態で地域によっては「偏光プリズム」とも称される)をいう場合、これは、種々の偏光方向の光をそれぞれ異なって偏向する光学素子であると理解されたい。例えば、偏光ビームスプリッタは、第1の偏光方向の光を偏向せずに通過させ、これに対して、異なる第2の偏光方向の光を、構造形状および光学材料によって定められる角度で偏向させることができる。偏光ビームスプリッタについての技術知識およびここでの基礎となる物理的基礎に関しては、簡明性のために、関連技術文献、例えば、Bennett,J.M.: Polarizers, Kapitel 3, in: Bass,M.E. et al.(Hrsg.): Handbook of Optics. Fundamentals, Techniques & Design, Band 2, New York: McGraw-Hill, 2.Auflage 1995を参照されたい。
【0014】
ここで提案している光学走査顕微鏡では、光源区間が、第1の主偏光方向の光および第2の主偏光方向の光を含む第1の照明光ビームを放射するように構成される。
【0015】
ここで、「第1の主偏光方向の光」または「第2の主偏光方向の光」とは、本発明においては、主としてもしくは専ら、第1の偏光方向もしくは第2の偏光方向で生じる光波またはこれらの偏光方向がそれぞれ例えば±10℃、±5℃または±1℃の狭く限定された角度領域にある光波を含む光であると理解される。不完全な偏光状態により、1つもしくは複数の別の偏光方向においても僅かな成分が生じうる。相応の光が「主としてもしくは専ら」第1の偏光方向または第2の偏光方向で生じる光波を含むという表現は、ここでは、例えば異なる偏光方向の光が25%未満、10%未満、5%未満または1%未満しか生じないことを表す。第1の偏光方向および第2の偏光方向は、相互に直交するように配向されている。この場合、直交する配向状態は、2つの偏光方向で生じる円偏光の光および直線偏光の光の双方を含む。
【0016】
ここで、第1の主偏光方向の光および第2の主偏光方向の光は、本発明では、同時に、すなわち1つの時点で同一の照明光ビームとして形成可能である。この場合、照明光ビームは、直交する主偏光方向の線形結合に相当する偏光状態の相応の照明光を含む。ただし、照明光ビームは、順次にも、すなわち第1の主偏光方向についで第2の主偏光方向でも放射可能であり、このことは以下でも説明する。後者の場合、照明光ビームは、第1の時間範囲では主としてもしくは専ら第1の主偏光方向の光を含み、第2の時間範囲では主としてもしくは専ら第2の主偏光方向の光を含む。また、当該光はここでは必ずしも完全に偏光されていなくてよい。異なる偏光方向の残留光を消去するために、例えば、後述する光学シャッタを備えた装置を使用することができる。
【0017】
本発明の基本的思想、すなわちオルソスコピックビーム路およびコノスコピックビーム路を同時に用意するという思想は、第1のビームスプリッタと第2のビームスプリッタとの間でそれぞれ異なる光学チャネルを使用することにより実現される。このために、本発明の走査顕微鏡の第1のビームスプリッタは、第1の照明光ビームの第1の主偏光方向の光の少なくとも大部分が第1のチャネルでガイドされ、第1の照明光ビームの第2の主偏光方向の光の少なくとも大部分が第2のチャネルでガイドされるように構成される。したがって、第1のビームスプリッタでは、第1の主偏光方向の光または第2の主偏光方向の光のそれぞれ異なる「処理」が行われる。
【0018】
よって、光源区間と第1のビームスプリッタとの間で共通のビーム路区間を走行する照明光ビームは、偏光に依存して、第1のチャネル内または第2のチャネル内をガイドされる。こうした手段により、例えば2つのチャネルの異なる光学長さのみによって既に、かつ/または2つのチャネル内の異なる光学素子によって、第1のチャネルの光が第2のチャネルの光とは異なって制御可能となる。
【0019】
本発明により2つのチャネル内をガイドされる、第1の主偏光方向の光または第2の主偏光方向の光は、続いて、再び共通のビーム路区間内をガイドされる。このために、本発明によれば、第2のビームスプリッタは、第1のチャネルからの第1の主偏光方向の光と、第2のチャネルからの第2の主偏光方向の光と、から第2の照明光ビームを形成するように構成される。
【0020】
ここで、例えば光源区間により、第1の時間範囲において、主としてもしくは専ら第1の主偏光方向の光を含む照明光ビームが放射される場合、この光は主としてもしくは専ら第1のチャネルへ入射し、そこから第2のビームスプリッタへ入射する。ついで、第2のビームスプリッタが、主としてもしくは専ら第1のチャネルからの光から、第2の照明光ビームを形成する。こうした手段により、第2の照明光ビームは、主としてもしくは専ら第1の主偏光方向の光を含む。当該光源区間により、主としてもしくは専ら第2の主偏光方向の光を含む照明光ビームが放射される第2の時間範囲では、この光は第1のビームスプリッタを介して主としてもしくは専ら第2のチャネル内へ入射し、そこから第2のビームスプリッタへ入射する。こうした手段により、第2のビームスプリッタは、主としてもしくは専ら、第2のチャネルからの第2の主偏光方向の光から、第2の照明光ビームを形成する。
【0021】
これに対して、光源区間により、照明光ビームが第1の主偏光方向の光および第2の主偏光方向の光を同時に含む状態で放射される場合、第1の主偏光方向の光は第1のビームスプリッタを介して主としてもしくは専ら第1のチャネルへ入射し、第2の主偏光方向の光は主としてもしくは専ら第2のチャネルへ入射する。第1の主偏光方向の光および第2の主偏光方向の光の双方が同時に第1のチャネルおよび第2のチャネルからビームスプリッタへ入射して、これにより第2の照明光ビームが第1の主偏光方向および第2の主偏光方向で同時に形成され、場合により望ましくない結果をまねくことを回避するため、第1のチャネル内および/または第2のチャネル内に、それぞれ、第1のチャネルまたは第2のチャネルの一方をそのつど光学的にブロックする適切な光学シャッタを形成することができる。こうした手段によっても、第2のビームスプリッタを用いて、2つの主偏光方向のうちつねに一方のみの光から第2の照明光ビームが形成されることを保証できる。
【0022】
既述のように、本発明によれば、上記の2つの光学チャネルが、第1のチャネルからの第1の主偏光方向の光と、第2のチャネルからの第2の主偏光方向の光と、をそれぞれ異なる集束角度で放射するように構成される。
【0023】
例えば、第1のチャネルは、第1の主偏光方向の光を発散性の光ビームまたは光束の形態で放射するように構成可能であり、第2のチャネルは、第2のチャネルからの第2の主偏光方向の光をコリメート光ビームの形態で放射するように構成可能である。このために、既述のように、それぞれ異なる光学距離および/またはそれぞれ異なる光学素子が2つのチャネルに設けられる。なお、基本的には、オルソスコピックビーム路およびコノスコピックビーム路の並列での用意は、ここで説明したのとは別の方式でも可能であり、以下に説明する。
【0024】
有利には、相応の走査顕微鏡では、光源区間は、第1の照明光ビームがコリメート光束の形態で形成されるように、すなわち光源が無限へ向かって結像されるように構成される。また、2つの異なるチャネルにより、走査ユニットが後にオルソスコピックビーム路に沿って対物瞳へ結像されて、そこから対物側のテレセントリック対物レンズを通して無限へ向かって結像され、その際に、光源が試料(対物レンズの前方焦点面)へ結像される構成、または走査ユニットがコノスコピックビーム路に沿って試料へ結像され、その際に光源が無限内にとどまる構成のいずれかが可能である。
【0025】
有利には、第1のビームスプリッタの上流に第1の光学素子が配置されており、この第1の光学素子は、コリメート光束の形態で形成された照明光ビームを集束光束の形態で第1のビームスプリッタへ入射させるように構成される。本発明において、有利には、第1のビームスプリッタは集束制御特性を有さないので、集束光束の形態で第1のビームスプリッタへ入射する光は、そこから集束状態でも既述のチャネルへガイドされる。第1の光学素子は、最も単純な場合、例えば、場合により適切な光学コレクタ手段を含む集光レンズの形態で形成することができる。第1の光学素子は、照明光ビームのコリメート光束を第1の光学素子の像側の平面へフォーカシングする。こうした手段により、第1の光学素子を用いてフォーカシングされた光は第1の光学素子の焦点を超えた先で発散し、このようにして、さらなる光学制御部なしに、例えば第1のチャネルから発散光束の形態で当該光を出射させ、第2のビームスプリッタへ入射させることができる。第2の光学チャネルでは、焦点を超えた先で発散する相応の光束を、適切な光学素子および偏向装置により偏向し、コリメートして第2のチャネルから出射させ、第2のビームスプリッタへ入射させることができる。このために特に、独国特許出願公開第102013222562号明細書(DE102013222562A1)から公知のように、ベルトランレンズ装置の一部を第2のチャネル内に設けることができる。ベルトランレンズ装置の残りの部分は、有利には、後述する第2の光学素子によって形成され、この第2の光学素子は、第2のビームスプリッタを超えた先に配置される、例えばチューブレンズである。
【0026】
既述のように、有利には、第1のチャネルは、光の少なくとも大部分を発散させて第2のビームスプリッタへ入射させるように構成され、第2のチャネルは、有利には、光の少なくとも大部分をコリメートして第2のビームスプリッタへ入射させるように構成される。第1のチャネルが主としてもしくは専ら第1の主偏光方向の光をガイドするので、この光は第1のチャネルから発散光束の形態で出射され、第2のビームスプリッタへ入射する。これに対して、第2のチャネルからの第2の主偏光方向の光は、コリメート光束の形態で第2のビームスプリッタへ入射する。相応の光は、第2のビームスプリッタを通過した後、それぞれ所望の方式で光学的に制御可能である。
【0027】
有利には、特に第2のビームスプリッタの下流に既述の第2の光学素子が配置され、この第2の光学素子は、第2のビームスプリッタから発散して放射される光を(主としてもしくは専ら第1の主偏光方向で)コリメートし、第2のビームスプリッタから発散して放射される光を(主としてもしくは専ら第2の主偏光方向で)フォーカシングするように構成される。特に、第2の光学素子は、走査顕微鏡のチューブレンズであってよい。
【0028】
相応に特に、コリメート光を対物レンズに入射させることができ、ここで、当該コリメート光が後側対物瞳へ入射する際の角度を走査ユニットによって変化させることができる。こうした手段により、走査照明および試料マニピュレーションを実行可能である。コリメート光束を第2のビームスプリッタから後側対物瞳へフォーカシングして、走査ユニットによって後側対物瞳での横方向焦点位置を制御することにより、例えばエバネセント照明を実現できる。これにより、対物レンズがここでのコリメート光束の出射角度、ひいては試料へのまたは浸漬媒体もしくはカバーガラスと試料との界面への光束の入射角度が制御される。
【0029】
したがって特に有利には、本発明は、対物レンズ収容部に取り付け可能でありかつ対物位置において位置決め可能であって、後側対物瞳を含む対物レンズを備え、第2の光学素子が第2の主偏光方向の光を後側対物瞳の平面へフォーカシングするように構成された、光学走査顕微鏡に関連する。これに対して、第2の光学素子によってコリメートされた第1の主偏光方向の光は、後側対物瞳を通ってコリメート形態で入射する。
【0030】
同様に既述のように、光源区間により、第1の主偏光方向の光と第2の主偏光方向の光とを同時に形成することができるか、または第1の主偏光方向の光を第1の時間範囲で形成し、第2の主偏光方向の光を第2の時間範囲で形成することができる。後者の場合、好ましくは、使用される光源区間により、第1の主偏光方向の光と第2の主偏光方向の光との高速の切り替えが行われる。
【0031】
第1の主偏光方向の光と第2の主偏光方向の光との相応の高速の切り替えのために、有利には、切り替え可能な遅延素子が用いられる。当該切り替え可能な遅延素子は、例えば、光源区間のビーム路内へ傾動可能にまたはビーム路内へ回動可能に配置された遅延プレート、例えば半波長板または相応の複数のプレートを含むことができる。なお、遅延素子として電気光学装置および/または音響光学装置および/または液晶ベースで実現される装置を使用すると特に有利である。偏光の光を形成する相応の素子は従来技術から基本的に公知であり、これについては関連技術文献を参照することができる。
【0032】
これに対して、基本的に同様に可能な構成として、それぞれ異なる2つの偏光レーザーの光を用いて第1の照明光ビームに統合することにより、または一方の主偏光方向に沿った光の不充分な偏光、例えば偏光光学モジュールの不完全性により、光源区間を通してそれぞれ異なる2つの主偏光方向を有する光が同時に放射される場合、相応の遅延素子に代えてまたはこれに加えて、高速のシャッタをチャネルの一方または双方に設けることができる。このケースで第1のチャネルからの第1の主偏光方向を有する光が必要となるときにはつねに、第2のチャネルが相応のシャッタによって阻止され、逆も同様である。相応の高速のシャッタは、例えば同期回転する複数の絞りもしくは複数の絞りセグメント、複数のアイリス絞り、複数の高速LCD装置、複数の電気光学素子および/または複数の音響光学素子の形態で構成可能である。
【0033】
本発明の特に好ましい実施形態による光学走査顕微鏡では、第1のチャネルに沿って、走査装置の1つもしくは複数の実偏向点または虚偏向点を対物瞳内またはその近傍へ結像するガリレオ望遠鏡を形成するように構成および配置された光学素子が用意される。「実偏向点または虚偏向点」とは、ここでは、相応の走査ユニット上で光源の光が空間的に限定されて(「点状に」)偏向され、これにより走査光ビームが形成される点をいう。実偏向点とは、相応の偏向点が実際に設けられている素子、例えばミラーによって形成されることをいい、「虚」偏向点とは、空間における相応の素子の像である。
【0034】
本発明の照明装置が取り外し可能に構成され、特に第1のビームスプリッタおよび第2のビームスプリッタならびにこれらのビームスプリッタの間に形成された第1のチャネルおよび第2のチャネルが走査顕微鏡から取り外し可能な挿入部材に配置される場合、特に有利である。有利には、光学走査顕微鏡は、広視野顕微鏡に部分モジュールとして適合させるための手段を含む。
【0035】
本発明は、光源区間、偏光依存性の第1のビームスプリッタおよび第2のビームスプリッタ、ならびに第1のビームスプリッタと第2のビームスプリッタとの間の第1の光学チャネルおよび第2の光学チャネルを有する照明装置を備えた光学走査顕微鏡を用いて試料を検査する方法もカバーする。
【0036】
本発明の方法では、光源区間を用いて第1の主偏光方向の光および第2の主偏光方向の光を含む第1の照明光ビームを放射し、第1のビームスプリッタを用いて第1の主偏光方向の光の少なくとも大部分を第1のチャネルへガイドし、第2の主偏光方向の光の少なくとも大部分を第2のチャネルへガイドし、第2のビームスプリッタを用いて、第1のチャネルからの第1の主偏光方向の光と、第2のチャネルからの第2の主偏光方向の光と、から第2の照明光ビームを形成し、第1のチャネルを用いた第1の偏光状態を有する光と第2のチャネルを用いた第2の偏光状態を有する光とをそれぞれ異なる集束角度で放射させるように構成される。
【0037】
特に、相応の方法において、上で詳しく説明した走査顕微鏡を用いることができる。相応の方法の特徴および利点については上の明示的説明を参照されたい。
【0038】
本発明のさらなる利点および構成は、説明および添付図から得られる。
【0039】
上述および下述の特徴は、本発明の範囲から逸脱することなく、それぞれ提示した組み合わせのみならず、他の組み合わせにおいてもまたは単独でも使用可能であることが理解される。
【0040】
本発明を、実施例に即して概略的に図示し、以下に図を参照しながら説明する。