(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
地震国であるわが国においては、ビルや橋梁、高架道路、戸建の住宅といった様々な構造物に対して、地震力に抗する技術、構造物に入る地震力を低減する技術など、様々な耐震技術、免震技術及び制震技術が開発され、各種構造物に適用されている。中でも免震技術は、構造物に入る地震力そのものを低減する技術であることから、地震時の構造物の振動は効果的に低減される。この免震技術を概説すると、下部構造体と上部構造体との間に免震装置を介在させ、地震による下部構造体の振動の上部構造体への伝達を低減し、上部構造体の振動を低減して構造安定性を保証するものである。
【0003】
免震装置には、鉛プラグ入り積層ゴム支承装置や高減衰積層ゴム支承装置、積層ゴム支承とダンパーを組み合わせた装置、滑り免震装置など、様々な形態の装置が存在している。その中で、滑り免震装置には平面滑り免震装置と球面滑り免震装置があり、平面滑り免震装置は復元力を有しないが、球面滑り免震装置は復元力を有し、地震時のセルフセンタリング機能を有する。ここで、球面滑り免震装置の一例を取り上げてその構成を説明すると、球座を備えている受け台と、球座に回動自在に収容される摺動体(スライダー)と、摺動体の表面を摺動する沓と、を有する滑り免震装置であり、この種の滑り免震装置はシングルコンケイブ式の免震装置(片面滑り支承の滑り免震装置)と称されることもある。
【0004】
ところで、滑り免震装置においては、沓の滑り面の曲率や摺動体の滑り面の曲率、さらには摩擦係数が調整されることにより、滑り免震装置の復元力特性の調整が行われる。そのため、沓の滑り面や摺動体の滑り面に粉塵やゴミ等が付着すると、滑り免震装置の摩擦係数が設計時の摩擦係数から変化する恐れがあるため、沓や摺動体の滑り面に粉塵等が付着しない対策が講じられることが望ましい。
【0005】
ここで、特許文献1には、すべり支承の設置方法が提案されている。具体的には、すべり板と、すべり板を摺動可能に設けたすべり材と、すべり材を下部で支持するホルダーとを備えたすべり支承を、基礎と建物の基礎梁との間に設置する、すべり支承の設置方法である。この設置方法において、すべり材とすべり板とを所定の相対位置に置き、一端をホルダーに固定させ、他端をすべり板に固定させた固定部材を設けてすべり支承を予め一体化させておき、一体化したすべり支承を所定位置に設置した後、固定部材をすべり板から取り外すものである。この設置方法において、固定部材の外方には、一端がホルダーに固定され、他端がすべり板に接触するようにして、すべり材とすべり板とホルダーとにより囲まれた摺動領域を覆う、防塵シートを設けるようにしている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載のすべり支承の設置方法によれば、防塵シートによって摺動領域内を防塵することができるため、摺動領域内のすべり材やすべり板に粉塵が付着することがなく、摺動性能に関する耐久性を確保できるとしている。ところで、特許文献1に記載の設置方法では、すべり板に対して防塵シートを接触させる態様で摺動領域を覆っていることから、防塵シートそのものがすべり支承の摩擦係数を変化させる恐れがある。また、すべり材が摺動する過程で防塵シートが固定部材に巻き込まれる可能性が十分にあり、滑り免震装置の性能や信頼性に疑問がある。
【0008】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、滑り免震装置を構成する摺動面に対する防塵性に優れ、設計時の摩擦係数を保証することのできる、滑り免震装置と免震支承を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成すべく、本発明による滑り免震装置の一態様は、
第一凹球面を有する球座を備えている、受け台と、
前記第一凹球面に収容される第一凸球面を備え、該第一凸球面の反対側に第二凸球面を備えている摺動体と、
前記第二凸球面が摺動する第二凹球面を備えている沓と、を有し、
前記沓には、防塵シートが取り付けられており、該沓から前記受け台に向かって延設する該防塵シートの一部が前記受け台に接触していることを特徴とする。
【0010】
本態様によれば、シングルコンケイブ式(シングルタイプ)の滑り免震装置を構成する沓(上沓の場合と、下沓の場合がある)に防塵シートが取り付けられ、沓から受け台に向かって延設する防塵シートの一部が受け台に接触していることにより、沓の備える摺動面(第二凹球面)と摺動体の備える摺動面(第一凸球面や第二凸球面)、受け台の球座の備える第一凹球面といった全ての摺動面に防塵シートが巻き込まれる恐れがなく、さらには、各摺動面への粉塵等の付着が抑止されて、設計時の摩擦係数が保証された滑り免震装置となる。
【0011】
ここで、「沓から受け台に向かって延設する防塵シート」とは、受け台が下方にあり、沓が上沓である形態においては、上沓に取り付けられている防塵シートが受け台まで垂下されていることを意味しており、この形態ではさらに、防塵シートの下方が受け台に接触している形態と、防塵シートの下方が受け台に固定されている形態が含まれる。一方、受け台が上方にあり、沓が下沓である形態においては、下沓に防塵シートの一端が固定され、受け台に防塵シートの他端が固定されている形態となる。また、「防塵シートの一部が受け台に接触している」とは、例えば、沓が上沓の場合に、防塵シートの下方が、受け台の側面に接触している形態や、受け台の上面における球座の外側領域等に接触している形態を含んでいる。また、防塵シートには、合成ゴムや天然ゴム等のゴムに代表される樹脂シート等が適用される。
【0012】
沓の平面視形状が矩形の場合には、例えば四つの側面(全側面)に防塵シートが取り付けられることにより、滑り免震装置の内部を防塵シートで完全に包囲することができる。また、沓の平面視形状が円形や楕円形の場合には、沓の側面の全周に防塵シートを取り付け、例えば一定の間隔で防塵シートにスリットを設けておくことにより、スリットにて縁切りされた各防塵シートの良好な変形性を保証しながら、各防塵シートの一部を受け台に接触させることができる。
【0013】
また、本発明による滑り免震装置の他の態様は、
前記沓の側面に対して、押さえ付け板を介して前記防塵シートの一部が押さえ付けられた状態で取り付けられていることを特徴とする。
【0014】
本態様によれば、沓の側面に対して、押さえ付け板を介して防塵シートの一部が押さえ付けられた状態で取り付けられていることにより、沓に対する防塵シートの接続強度が高くなり、取り付け部における防塵シートのばたつきや剥がれを抑制できる。
【0015】
また、本発明による滑り免震装置の他の態様は、
前記防塵シートが、前記沓と前記受け台の双方に取り付けられており、
所定の地震動による水平荷重が作用して、前記受け台に対して前記沓が相対変位した際に前記防塵シートが破断するようになっていることを特徴とする。
【0016】
本態様によれば、防塵シートが沓と受け台の双方に取り付けられている形態において、所定の地震動による水平荷重が作用して沓が相対変位した際に防塵シートが破断することにより、常時においては沓と受け台の間の内部空間(摺動面が存在する空間)を外部から閉塞(もしくは密閉)した状態とし、高い防塵性を有しながら、所定の地震動が作用した際に防塵シートを破断させることにより、防塵シートが受け台と沓の相対変位を阻害することを防止できる。
【0017】
ここで、所定の地震動とは、極めて稀に起きる(500年に一度程度)レベル2地震動や、想定外の最大級の地震であってレベル2地震動よりも規模の大きな極大地震動である、レベル3地震動等が挙げられる。このような大規模地震動による水平荷重が作用して、沓が相対変位した際には、ゴム等の樹脂シートや繊維系シート等の防塵シートは、強度不足であることから自ずと破断することになる。また、その他、防塵シートの途中位置に破断線等を設けておき、水平荷重が作用した際に破断線を中心として防塵シートが破断するようにしておいてもよい。
【0018】
また、本発明による滑り免震装置の他の態様は、
前記沓と前記受け台に跨る一対の移動方向規制治具が、該沓と該受け台のいずれか一方に対して固定され、該沓と該受け台の他方に対して固定されておらず、該他方の沓もしくは受け台の所定方向への水平変位が該移動方向規制治具により規制され、
前記移動方向規制治具は鍵部を備え、該鍵部が前記他方の沓もしくは受け台の端部に配設されることにより、該他方の沓もしくは受け台の鉛直変位が規制されており、
前記他方の沓もしくは受け台には、前記摺動体の摺動範囲を規定するストッパーリングと、該ストッパーリングの内側にある凹球状で平面視円形の摺動面が設けられており、
前記沓のうち、少なくとも前記移動方向規制治具が存在しない側面において、前記防塵シートが取り付けられていることを特徴とする。
【0019】
本態様によれば、沓と受け台のいずれか一方に対して一対の移動方向規制治具が固定され、沓と受け台のいずれか他方には移動方向規制治具が固定されず、当該一対の移動方向規制治具をガイドとして水平方向の変位(移動)が自在となっていることにより、沓と受け台の水平方向の相対移動のうち、所定方向の移動を規制(制限)することができる。その上で、沓における移動方向規制治具が存在しない側面において防塵シートが取り付けられていることにより、一対の移動方向規制治具と防塵シートとによって、沓と受け台の間の内部空間を閉塞して、防塵性の高い滑り免震装置を形成できる。ここで、「少なくとも移動方向規制治具が存在しない側面において防塵シートが取り付けられている」とは、移動方向規制治具が存在しない側面にのみ防塵シートが取り付けられている形態と、移動方向規制治具が存在しない側面に加えて、移動方向規制治具が存在する側面にも防塵シートが取り付けられている形態を含む意味である。
【0020】
本態様は、橋梁や高架道路、住宅等、いずれの構造物に対しても適用可能であるが、本態様が橋梁の可動支承に適用される場合、上記する「所定方向」として、例えば橋軸直角方向が一例となり、例えば沓の橋軸方向への移動が許容され、橋軸直角方向への移動が規制される。例えば、上記するレベル2以下の地震(レベル1地震とレベル2地震)においては、受け台に対して沓を橋軸方向に自由に水平変位させることが許容できる。
【0021】
さらに、本態様では、移動方向規制治具が鍵部を備え、当該移動方向規制治具が固定されていない他方の沓の端部や受け台の端部に鍵部が配設されていることにより、他方の沓もしくは受け台の鉛直変位(上下変位)を規制することができる。従って、例えば、沓(上沓)にレベル2以上の地震(レベル2地震とレベル2より大きな地震)に起因する上揚力が作用した際に、沓が移動方向規制治具の鍵部に接触し、沓の浮き上がり(鉛直変位の一例)等を抑制することができる。このような沓の浮き上がりの抑制により、下部構造体から沓及び上部構造体が脱落することを防止できる。
【0022】
本態様はさらに、移動方向規制治具が固定されない他方の沓もしくは受け台における、摺動体が摺動する摺動面において、摺動体の摺動範囲を規定するストッパーリングを備えている。このストッパーリングにより、想定外の地震による水平力(レベル2地震までを想定していた際に、レベル2より大きな地震が作用する場合等)が例えば沓(上沓)に作用した際に、沓の過度な水平変位をストッパーリングにて抑制することが可能になる。ここで、ストッパーリングの一例として、移動方向規制治具が固定されていない他方の沓もしくは受け台のうち、摺動体が摺動する面に開設された円柱状の溝からなる形態が挙げられ、この円柱状の溝のストッパーリングの内側に、凹球状の摺動面が設けられる。他方の沓が上沓の場合、上記する第二凹球面が凹球状の摺動面となる。また、ストッパーリングの他例として、他方の沓もしくは受け台のうち、摺動体が摺動する面に設けられているリング状の突起からなる形態が挙げられ、このリング状の突起の内側に、凹球状の摺動面が設けられる。
【0023】
このように、本態様の滑り免震装置は、沓もしくは受け台の一方に対して第一のフェールセーフ機構である移動方向規制治具が固定され、沓もしくは受け台の他方(第一のフェールセーフ機構が固定されていない沓もしくは受け台)に対して第二のフェールセーフ機構であるストッパーリングが設けられている。これらの構成により、移動方向規制治具が固定されていない沓もしくは受け台の水平面内における移動方向を移動方向規制治具にて規制しながら、上揚力による浮き上がり等の鉛直変位を移動方向規制治具にて抑制でき、さらには、移動方向規制治具が固定されていない沓もしくは受け台であってストッパーリングが設けられている沓もしくは受け台の過度な水平変位を、摺動体が当該ストッパーリングに当接することにより抑制することができる。
【0024】
また、本発明による免震支承の一態様は、
橋梁の橋台もしくは橋脚において、前記滑り免震装置が設置されており、
一対の前記移動方向規制治具は橋軸直角方向に配設され、前記沓における橋軸方向の一対の側面に前記防塵シートが取り付けられていることを特徴とする。
【0025】
本態様によれば、本発明の滑り免震装置が橋梁の橋台もしくは橋脚における免震支承を形成することにより、例えば常時や想定地震の際の上沓等の水平変位の抑制と浮き上がりの抑制が保証され、想定外地震の際の上沓等の過度な水平変位の抑制が保証されながら、さらに、滑り免震装置の備える摺動面への粉塵等の付着が抑止されることにより、設計時の摩擦係数が保証され、あらゆる規模の地震に対して十分な制震性能を発揮し得る橋梁を提供することができる。
【発明の効果】
【0026】
以上の説明から理解できるように、本発明の滑り免震装置と免震支承によれば、滑り免震装置を構成する摺動面に対する防塵性に優れ、設計時の摩擦係数を保証することができる。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、実施形態に係る滑り免震装置と免震支承について、添付の図面を参照しながら説明する。尚、本明細書及び図面において、実質的に同一の構成要素については、同一の符号を付することにより重複した説明を省く場合がある。
【0029】
[実施形態に係る滑り免震装置と免震支承]
図1乃至
図6を参照して、実施形態に係る滑り免震装置の複数例と免震支承の一例について説明する。ここで、
図1は、実施形態に係る滑り免震装置の一例が橋脚の天端に固定されている状態において、滑り免震装置から防塵シートを取り外して示す分解斜視図であり、
図2は、実施形態に係る滑り免震装置の一例が橋脚の天端に固定されている状態を示す斜視図である。また、
図3は、実施形態に係る滑り免震装置の他の例が橋脚の天端に固定されている状態を示す斜視図であり、
図4は、
図1のIV−IV矢視図であって、橋脚の天端に固定されている滑り免震装置の一例の縦断面図である。さらに、
図5は、実施形態に係る免震支承が、上部構造体と下部構造体の間に介在している状態を橋軸方向から見た縦断面図であり、
図6は、実施形態に係る滑り免震装置に対して橋軸方向に水平力が作用して、受け台に対して沓が相対変位している状態を示す縦断面図である。
【0030】
図示例において、実施形態に係る滑り免震装置40と、滑り免震装置40により形成される免震支承60は、橋梁の可動支承や固定支承を形成する例として説明する。尚、滑り免震装置40や免震支承60は、橋梁の他にも、高架道路、ビルやマンション等、様々な建築物に適用できる。
【0031】
滑り免震装置40が適用される橋梁(図示せず)は、橋軸方向に間隔を置いて配設される、例えば鉄筋コンクリート製の複数の橋脚20(下部構造体)に対して、固定支承や可動支承である滑り免震装置40を介して上部構造体10(
図5参照)が支持されることにより形成されている。
【0032】
図1及び
図2に示すように、滑り免震装置40は、上沓41(沓の一例)と、下沓43(受け台の一例)と、受け台43に対して回動自在な摺動体45とを有し、摺動体45に対して沓41がスライド自在に構成されている片面滑り支承の滑り免震装置である。尚、図示を省略するが、滑り免震装置は、図示例の形態以外にも、摺動体45が上沓41に対して回動自在に配設され(上沓が受け台である)、摺動体45に対して下沓43がスライド自在に構成されている(下沓が沓である)、図示例とは天地逆転した構成の片面滑り支承の滑り免震装置であってもよい。
【0033】
沓41と受け台43はともに、溶接鋼材用圧延鋼材(SM490A、B、C、もしくはSN490B、C、もしくはS45C)、あるいはSUS材や鋳鋼材、鋳鉄等から形成され、相互に平面寸法の異なる平面視矩形を呈している。図示例では、受け台43の平面寸法が相対的に大きくなっている。
【0034】
沓41の上面は、上部構造体を支持する平坦な構造体支持面41aである。この構造体支持面41aのうち、一対の端辺には係合溝41bが設けられている。また、受け台43の上面には、ブロック状の本体部47aと、本体部47aの上部において沓41側に突出する鍵部47bとを備える二つの移動方向規制治具47が設けられている。そして、それぞれの移動方向規制治具47の有する鍵部47bが、対応する係合溝41bに対して遊嵌されている。
【0035】
図4からも明らかなように、沓41の係合溝41bと移動方向規制治具47の鍵部47bとの間には隙間があり、鍵部47bの下面と係合溝41bの底面の間には鉛直方向の長さt1の隙間41fが設けられ、本体部47aと沓41の外周面との間には水平方向の長さt2の隙間41gが設けられている。
【0036】
図4に示すように、常時においては、左右一対の移動方向規制治具47と沓41は相互に隙間41f,41gを有した状態で完全に縁切りされており、従って、
図2に示すように、上部構造体(図示せず)を支持する沓41は橋軸方向に移動自在となっている。
【0037】
一方、
図4に示すように、沓41の下面には、円柱状の溝からなるストッパーリング41dが設けられ、このストッパーリング41dの内側には、凹球状で平面視円形の摺動面である、第二凹球面41cが設けられている。そして、第二凹球面41cには、ステンレス製で平面視円形の相手材42(滑り板)が嵌め込まれている。また、相手材42の摺動面には鏡面仕上げ加工が施されている。相手材42は、ストッパーリング41d及び第二凹球面41cの平面視寸法よりも大きな平面視寸法を有しており、相対的に平面視寸法の大きな相手材42がストッパーリング41dを介して第二凹球面41cに嵌め込まれていることにより、相手材42にはその径方向に圧縮力が生じ、この圧縮力の反力がストッパーリング41dを径方向外側へ押し込むことにより、第二凹球面41cに対して相手材42が強固に固定されている。
【0038】
図4に示すように、受け台43の上面には、第一凹球面44a(摺動面)を備えている球座44が、複数のボルト(図示せず)により着脱自在に固定されている。ここで、球座44も、沓41や受け台43と同様の素材により形成されている。
【0039】
また、
図4に示すように、受け台43には、橋脚20の天端から上方に突出する複数のアンカーボルト22が挿通される複数のアンカーボルト孔43aと、移動方向規制治具47の有する複数のボルト孔(図示せず)に対応する複数のボルト孔(図示せず)が設けられている。
図4に示すように、アンカーボルト22が受け台43のアンカーボルト孔43aに挿通され、受け台43の上面から突出するアンカーボルト22をナット23にて締め付けることにより、受け台43が橋脚20の沓座21の上面に固定される。尚、受け台43の下面と沓座21の上面の間には、不図示のモルタル等が充填され、これらの間に生じ得る隙間が解消されている。
【0040】
球座44の第一凹球面44aには、摺動体45の有する下方の第一凸球面45b(摺動面)が回動自在に収容されている。摺動体45は、その上方に沓41の第二凹球面41cと同様の曲率を有する第二凸球面45a(摺動面)を有し、その下方に上記する第一凸球面45bを有している。第二凸球面45aには、摩擦材46が取り付けられている。
【0041】
ここで、摩擦材46は、例えば、少なくともPTFEを素材とする摩擦材である。摩擦材46は二重織物により形成され、二重織物は、PTFE繊維(polytetrafluoroethylene、ポリテトラフルオロエチレン)と、PTFE繊維よりも引張強度の高い繊維(高強度繊維)とにより形成される。ここで、「PTFE繊維よりも引張強度の高い繊維」としては、ナイロン6・6、ナイロン6、ナイロン4・6などのポリアミドやポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステルやパラアラミドなどの繊維を挙げることができる。また、メタアラミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ガラス、カーボン、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、LCP、ポリイミド、PEEKなどの繊維を挙げることができる。また、さらに、熱融着繊維や綿、ウールなどの繊維を適用してもよい。その中でも、耐薬品性、耐加水分解性に優れ、引張強度の極めて高いPPS繊維が望ましい。
【0042】
尚、少なくともPTFEを素材とする摩擦材46としては、二重織物以外のPTFE繊維を含む織物でもよく、また、PTFEのみを素材とする摩擦材、PTFEと他の樹脂の複合素材からなる摩擦材、PTFEを素材とする摩擦材と他の樹脂を素材とする摩擦材との積層構造の摩擦材などであってもよい。
【0043】
図2及び
図4に示すように、受け台43の上面に固定されている球座44に摺動体45が回動自在に収容され、摺動体45の天端の摩擦材46に対して、第二凹球面41cに嵌め込まれている相手材42が当接するようにして沓41が配設される。この状態で、沓41の左右の係合溝41bに鍵部47bが遊嵌するようにして、断面視逆L型の一対の移動方向規制治具47が、複数のボルト48により受け台43に固定され、可動支承や固定支承を構成する滑り免震装置40が形成される。ここで、移動方向規制治具47も、沓41や受け台43と同様の素材により形成される。
【0044】
図4に示すように、移動方向規制治具47の鍵部47bと沓41の係合溝41bの底面との間に、鉛直方向の長さt1の隙間41fが存在するものの、例えば、大地震時において沓41が水平変位する過程で上方に持ち上げられた際に、上方にある鍵部47bがストッパーとなることにより、上部構造体を支持する沓41の過度な上方への浮き上がりが抑制される。
【0045】
図1に戻り、沓41のうち、移動方向規制治具47が取り付けられていない一対の側面41jに対してそれぞれ、防塵シート50が取り付けられる。
【0046】
沓41の側面41jの正面視形状は、係合溝41bを左右に備えている関係で幅の異なる横幅の異なる二つの矩形が積層した多角形状であり、別の言い方をすれば、正面視横長矩形の左右上方の隅角部が矩形状に切り欠かれた形状である。そして、この側面41jに取り付けられる防塵シート50に関し、側面41jに対応する領域である上方51は側面41jと相補的形状を有し、上方の左右端に切り欠き53を備えるとともに、その下方52は受け台43まで伸びている。
【0047】
ここで、防塵シート50としては、EPDM(エチレンプロピレンジエンゴム)等の合成ゴムや天然ゴム等のゴムに代表される樹脂シートや、繊維系シート、織物シート、不織布等、様々な素材のシートが適用される。
【0048】
沓41の側面41jには、防塵シート50を取り付けるボルト58が螺合される複数(図示例は三つ)のボルト孔41kが開設されている。一方、防塵シート50の上方51にも、各ボルト孔41kに対応する位置に複数(図示例は三つ)の貫通孔54が開設されている。
【0049】
また、防塵シート50のさらに外側には、沓41の側面41jに対して防塵シート50を押さえ付けて取り付けるための押さえ付け板55が配設される。
【0050】
図示例の押さえ付け板55の正面視形状(平面視形状)は、沓41の側面41jの正面視形状と同じ形状であり、横長矩形の上方の左右端に切り欠き56を備え、防塵シート50の備える各貫通孔54に対応する位置に複数(図示例は三つ)の貫通孔57を備えている。
【0051】
ここで、押さえ付け板55は、鉄板やステンレス鋼板、硬質樹脂板等により形成される。
【0052】
沓41の側面41jに対して、防塵シート50と押さえ付け板55を配設し、対応する貫通孔57,54にボルト58を挿通し、対応するボルト孔41kにボルト58を螺合することにより、
図2に示すように、沓41の側面41jに対して防塵シート50が取り付けられる。
【0053】
図2に示すように、沓41の側面41jに取り付けられている防塵シート50は、沓41から受け台43に向かって延設して、防塵シート50の下方52(防塵シート50の一部)は受け台43の上面から側面に亘って接触している。
【0054】
このように、滑り免震装置40においては、平面視矩形の沓41と受け台43の対応する四つの端辺のうち、一対の端辺に対応する各側面には移動方向規制治具47が配設されており、他の一対の端辺に対応する各側面41jには防塵シート50が配設され、これら移動方向規制治具47と防塵シート50によって滑り免震装置40の内部空間49(
図4参照)が外部から閉塞されることにより、高い防塵性が奏される。
【0055】
このことにより、外部に浮遊する粉塵やゴミ等が滑り免震装置40の内部空間49に入り込み、各摺動面41c、44a,45a,45bに粉塵等が付着して滑り免震装置40の設計時の摩擦係数が変化することを抑止できる。
【0056】
また、防塵シート50が、沓41の側面41jと同じ正面視形状の押さえ付け板55にて押さえ付けられた状態で取り付けられていることにより、防塵シート50の取り付け部の接続強度が高められ、当該取り付け部における防塵シート50のばたつきや剥がれを抑制できる。
【0057】
一方、
図3に示す滑り免震装置40Aは、防塵シート50の下方52が受け台43に接触するのみでなく、受け台43の側面にボルト59により固定されている点において、滑り免震装置40と相違する。
【0058】
滑り免震装置40Aでは、沓41と受け台43の双方に防塵シート50が固定されているが、滑り免震装置40Aに対して所定の地震動による水平荷重が作用し、受け台43に対して沓が相対変位した際(例えば
図6参照)に、防塵シート50が破断するようになっている。
【0059】
所定の地震動とは、例えばレベル2地震動や極大地震動であるレベル3地震動であるが、このように大規模な地震動による水平荷重が作用して沓41が相対変位した際に防塵シート50が破断することにより、常時においては沓41と受け台43の間の内部空間49を外部から閉塞した状態として高い防塵性を有しながら、所定の地震動が作用した際には防塵シート50を破断させることにより、防塵シート50が受け台43と沓41の相対変位を阻害することを防止できる。ここで、防塵シート50の途中位置に破断線(図示せず)を設けておき、水平荷重が作用した際に破断線を中心として防塵シート50が破断するように構成されてもよい。
【0060】
尚、防塵シートの正面視形状や取り付け形態は図示例に限定されるものでなく、様々な形状や形態がある。図示を省略するが、例えば、防塵シートが、沓41の側面41jの下段の横長矩形の領域に取り付けられる形態(従って、切り欠きを備えない形態)であってもよいし、押さえ付け板は沓41の側面41jの正面視形状と異なる形状であってもよい。また、防塵シートが、沓41の側面41jに加えて、移動方向規制治具が取り付けられている側面にも取り付けられる形態であってもよい。また、移動方向規制治具を備えていない形態の滑り免震装置では、例えば平面視矩形の沓の備える全ての側面(四つの側面)に、それぞれ防塵シートが取り付けられ、四つの防塵シートにて滑り免震装置の内部空間が外部から閉塞される。
【0061】
次に、
図5を参照して、実施形態に係る免震支承の一例について説明する。
【0062】
例えば可動支承である免震支承60は、沓41を橋軸方向に移動可能とした状態で受け台43に固定される一対の移動方向規制治具47を備え、下部構造体である橋脚20の天端の沓座21の上面において、一対の移動方向規制治具47は受け台43を介して橋軸直角方向に配設されている。尚、一対の移動方向規制治具47が沓41に固定される場合は、一対の移動方向規制治具47は、上部構造体の下面において、沓41を介して橋軸直角方向に配設されることになる。
【0063】
上部構造体10は、上下のフランジとウエブを有するI形鋼により形成される鋼製の主桁11と、左右の主桁11のウエブ同士を繋ぐ鋼製の横桁12とにより構成されている。ここで、ウエブから補強リブ(図示せず)が張り出し、補強リブと横桁12がスプライスプレート(図示せず)を介してボルト接合されていてもよいし、主桁11には、その長手方向に間隔を置いて補強リブが取り付けられていてもよい。また、上部構造体10は、図示例のI形鋼からなる主桁11と横桁12の組み合わせに限らず、トラス構造の主桁や箱桁、あるいはコンクリート桁等により形成されてもよい。
【0064】
免震支承60では、沓41が一対の移動方向規制治具47に固定されず、一対の移動方向規制治具47をガイドとして、受け台43に対する沓41の橋軸方向への相対移動が許容されている。そのため、主桁11を含む上部構造体10の温度変化に起因する橋軸方向への伸縮の際に、受け台43に対して沓41が橋軸方向へ相対移動することにより、この上部構造体10の橋軸方向への伸縮に対応することができる。
【0065】
図5に示すように、地震時の水平力は、免震支承60に作用し得る。また、鉛直方向の地震動やそれに伴うたわみ振動、さらには、例えば曲線桁のように重心が偏芯箇所となることに起因する橋脚20の天端における転倒モーメント等により、免震支承60には上揚力が作用し得る。図示する免震支承60においては、断面形状が逆L型を呈している一対の移動方向規制治具47の鍵部47bが、沓41の左右の端部にある係合溝41bに対して隙間を有した状態で配設されていることから、これら様々な要因にて作用し得る上揚力に対して、受け台43から沓41が過度に浮き上がり、脱落する危険性を抑止することができる。
【0066】
次に、
図6を参照して、橋軸方向に例えばレベル2地震やレベル2より大きな地震(想定外の規模の地震)が作用した際の滑り免震装置40の作用の一例について説明する。尚、図示例と反対方向に地震時の水平力が作用した際には、上部構造体(図示せず)を支持する沓41の水平変位方向や摺動体45の回動方向が図示例とは逆になることは勿論のことである。
【0067】
まず、上部構造体を支持する滑り免震装置40に、レベル2地震による橋軸方向の水平力が作用した場合、摺動体45が回動するとともに、上部構造体を支持する沓41は水平力の作用方向に水平変位する。想定される最大地震であるレベル2地震が作用した場合は、沓41が橋軸方向に水平変位する過程で上方へ持ち上げられる。そして、沓41の左右の係合溝41bと移動方向規制治具47の鍵部47bの間の鉛直方向の隙間41f(
図4参照)が無くなって双方が接触し、沓41のそれ以上の上方への浮き上がりが抑止される。尚、滑り免震装置40に対してレベル1地震による橋軸方向の水平力が作用した場合は、隙間41fが無くなる程の沓41の水平変位は生じない。
【0068】
これに対して、レベル2より大きな地震による橋軸方向の水平力が同様に作用した場合は、沓41の係合溝41bと移動方向規制治具47の鍵部47bが接触し、沓41の浮き上がりが抑止される。しかしながら、レベル2より大きな地震ゆえに過大な水平力に起因して上沓41の係合溝41bが移動方向規制治具47の鍵部47bを上方に押し込むことにより、移動方向規制治具47を受け台43に固定していたボルトが破断したり、当該ボルトが引き抜かれたり、あるいは、移動方向規制治具47(の例えば鍵部47b)が塑性変形等することにより破壊され得る。
【0069】
そして、
図6に示すように、沓41は橋軸方向へX2方向にさらに水平変位し得るが、沓41の下面にストッパーリング41dが設けられていることにより、摺動体45がストッパーリング41dに当接し、沓41のそれ以上の過度な水平変位を抑制することができる。
【0070】
また、
図6からも明らかなように、沓41から垂下して下方52が受け台43に接触している防塵シート50に関しては、受け台43に対して沓41が相対変位した際に、沓41や受け台43等に巻き込まれる恐れはなく、このような巻き込まれに起因する滑り免震装置の性能低下や信頼性低下といった問題、摩擦係数の変動といった問題は生じない。
【0071】
一方、上部構造体を支持する滑り免震装置40に対して、レベル2地震(レベル1地震を含んでもよい)による橋軸直角方向の水平力が作用した場合、沓41が橋軸直角方向に水平変位することにより、移動方向規制治具47の本体部47aと沓41の外周面との間の水平方向の隙間41g(
図4参照)が無くなって双方が接触し、沓41のそれ以上の水平変位が抑制される。
【0072】
これに対して、レベル2より大きな地震による橋軸直角方向の水平力が同様に作用した場合は、沓41が移動方向規制治具47を橋軸直角方向にさらに押し込むことにより、移動方向規制治具47を受け台43に固定していたボルトが破断したり、当該ボルトが引き抜かれたり、あるいは移動方向規制治具47が塑性変形等することにより破壊され得る。
【0073】
また、このように受け台43に対して沓41が橋軸直角方向に相対変位する場合においても、防塵シート50が沓41や受け台43等に巻き込まれる恐れはなく、このような巻き込まれに起因する滑り免震装置の性能低下や信頼性低下といった問題、摩擦係数の変動といった問題は生じない。
【0074】
尚、上記実施形態に挙げた構成等に対し、その他の構成要素が組み合わされるなどした他の実施形態であってもよく、ここで示した構成に本発明が何等限定されるものではない。この点に関しては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更することが可能であり、その応用形態に応じて適切に定めることができる。
【解決手段】第一凹球面44aを有する球座44を備えている、受け台43と、第一凹球面44aに収容される第一凸球面45bを備え、第一凸球面45bの反対側に第二凸球面45aを備えている摺動体45と、第二凸球面45aが摺動する第二凹球面41cを備えている沓41とを有する滑り免震装置40であり、沓41には防塵シート50が取り付けられており、沓41から受け台43に向かって延設する防塵シート50の一部が受け台43に接触している。