(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
ショウガの辛味成分であるショウガオール類は、食品香料として利用されるだけでなく、解熱作用、鎮痛作用、抗炎症作用、抗酸化作用、プロスタグランジンの生合成阻害作用、血行促進作用、体温上昇作用などを有し、さらには、糖尿病及び肥満などといった生活習慣病などの治療・予防効果があることが知られている。そのため、ショウガオール類及びこれを含む原料を、機能性食品、化粧料等へ活用することが期待されている。
【0003】
一方、ショウガ科の代表的な植物であるショウガには、辛味を有する成分としてジンゲロール類やショウガオール類が含まれる。
ショウガは、生で未加工の状態では、下記に示す構造の化合物であるジンゲロール類が多く、ショウガオール類はわずかしか存在しないが、ジンゲロール類から水を脱離させる脱水反応によりショウガオール類を得ることができる。
【0004】
【化1】
【0005】
ショウガ含有成分であるショウガオール類とは下記に示す構造の化合物を意味し、主にショウガオール類として、n=4,6,8に相当する6−ショウガオール、8−ショウガオール、または10−ショウガオールを意味する。
【0006】
【化2】
【0007】
なお、ショウガには、ジンゲロール類として、n=4,6,8に相当する6−ジンゲロール、8−ジンゲロール、10−ジンゲロールが含まれ、その中でも、6−ジンゲロールが主成分である。そのため、6−ジンゲロールから6−ショウガオールへの変換が主反応である。
【0008】
このような状況の中、ショウガの中に含まれるジンゲロール類をショウガオール類に変換し、ショウガオール類を富化させる方法が検討されてきた。
【0009】
例えば、特許文献1には、ジンゲロール類を酸触媒の存在下で加熱することでショウガオール類を得る方法が報告されている。しかしながら、特許文献1の方法ではトルエン等の有機溶剤を使用しているため、ヒトへの安全性の面が懸念される。
【0010】
また、有機溶剤を使用しないジンゲロール類の富化方法も報告されている。例えば、特許文献2には、ショウガの超臨界CO
2抽出物を乳酸の存在下、110℃〜150℃で加熱する工程を含むショウガオール類の富化方法が開示されている。
また、特許文献3には、ショウガ抽出物をクエン酸、コハク酸及びリンゴ酸から選ばれる有機酸の存在下、110℃〜150℃で加熱する工程を含むショウガ抽出処理物の製造方法が開示されている。また、特許文献4には、ショウガ粉末と平均一次粒径d50が500μm以下の多価カルボン酸(クエン酸等)の乾燥粉末とを混合して混合粉末を得る混合工程と、前記混合粉末を加熱する加熱工程とを含むことを特徴とするショウガ粉末加工物の製造方法が開示されている。
また、特許文献5にはショウガ抽出物を、塩酸、硫酸、リン酸及びイノシトール6リン酸から選ばれる酸の存在下、系内の水分量が10〜50%の状態で、90〜150℃で加熱する工程を含む、ショウガ抽出処理物の製造方法が開示されている。
【0011】
また、本出願人も、特許文献6にて、ショウガを発酵液と混合した後に、温度30℃〜90℃、湿度50%〜90%の条件下で加熱する工程を含むショウガオール類の富化方法を報告している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
一方、ショウガオール類が富化されたショウガ加工物であっても、製造方法の違いにより、味や臭い等が異なることが経験的に知られている。特許文献2〜6で開示されたショウガオール類の富化方法は、有機溶媒を使用しないため、ヒトへの安全性に優れる方法であるが、原料としてショウガ以外にも、乳酸(特許文献2)、クエン酸等の有機酸(特許文献3,4)、塩酸等の無機酸(特許文献5)、発酵液(特許文献6)等のショウガ以外の成分を必須とする。そのため、製造されるショウガ加工物には、前記ショウガ以外の成分由来の風味が必然的に付与される。そのため、得られるショウガ加工物は、ショウガ以外の成分の風味によってショウガ本来の風味が損なわれるというおそれがあった。
【0014】
さらに特許文献2,3及び5の方法では、ショウガそのものではなく、ショウガの抽出物を原料とするため、抽出工程が必須となり、抽出工程によっては高コストになる一因となっていた。また、特許文献4の方法では、特定の粒径の多価カルボン酸粉末を使用し、かつ、これと均一混合できる程度の粒径のショウガ粉末を使用する必要があり、高コストになる一因となっていた。
また、特許文献6の方法では、ショウガをそのまま原料として使用できるが、ジンゲロール類からのショウガオール類への変換に十分な加熱時間として120時間〜500時間加熱する必要があった。そのため、加熱のための時間が長くなり、生産性や製造コストの面で改善の余地があった。
【0015】
かかる状況下、本発明の目的は、ショウガの風味を損ねることなく、ショウガオール類が富化されたショウガ加工物並びにこれを含有する組成物及びこれを抽出原料として得られる抽出物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、冷凍処理を行ったショウガを、水蒸気共存下、特定の温度で蒸気加熱処理することにより、ショウガ以外の成分を添加しなくとも、ショウガに含まれるジンゲロール類を、高効率にショウガオール類に変換できることを見出した。さらに原料として塊状のショウガを使用し、脱水方法を減圧脱水とすることにより、ショウガが含有するショウガオール類(及びジンゲロール類)の絶対量の低減を抑制できることを見出し、本発明に至った。
【0017】
すなわち、本発明は以下に係るものである。
<1> ショウガオール類が富化されたショウガ加工物(但し、ショウガ抽出物を除く。)であって、
6−ショウガオールの含有量が、ショウガ加工物1g(固形物換算)当たり、6.0mg以上であり、
6−ジンゲロール(G)に対する6−ショウガオール(S)の含有量の比(6S/6G)が2以上であり、
含水率が30重量%以下であるショウガ加工物。
<2> 6−ジンゲロール及び6−ショウガオールの合計含有量が、ショウガ加工物1g(固形物換算)当たり、10mg以上である<1>に記載のショウガ加工物。
<3> 6−ショウガオールの含有量が、ショウガ加工物1g(固形物換算)当たり、6.7mg以上である<1>または<2>に記載のショウガ加工物。
<4> 含水率が10重量%以下である<1>から<3>のいずれかに記載のショウガ加工物。
[1a] ショウガオール類が富化されたショウガ加工物(但し、ショウガ抽出物を除く。)を含有する組成物であって、
前記ショウガ加工物における、6−ショウガオールの含有量が、ショウガ加工物1g(固形物換算)当たり、6.0mg以上であり、
6−ジンゲロール(6G)に対する6−ショウガオール(6S)の含有量の比(6S/6G)が2以上であり、
含水率が30重量%以下である、組成物。
[2a] 機能性食品、食品添加剤又はサプリメントである[1a]に記載の組成物。
[3a] 化粧料組成物である[1a]に記載の組成物。
[4a] ショウガオール類が富化されたショウガ加工物を抽出原料として得られる抽出物であって、
前記ショウガ加工物における、6−ショウガオールの含有量が、ショウガ加工物1g(固形物換算)当たり、6.0mg以上であり、6−ジンゲロール(6G)に対する6−ショウガオール(6S)の含有量の比(6S/6G)が2以上であり、含水率が30重量%以下である、ショウガ加工物を抽出原料として得られる抽出物。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、ショウガの風味を損ねることなく、ショウガオール類が富化されたショウガ加工物並びにこれを含有する組成物及びこれを抽出原料として得られる抽出物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明について例示物等を示して詳細に説明するが、本発明は以下の例示物等に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において任意に変更して実施できる。なお、本明細書において、「〜」とはその前後の数値または物理量を含む表現として用いるものとする。
【0020】
<ショウガ加工物>
本発明は、ショウガオール類が富化されたショウガ加工物であって、当該ショウガ加工物1g(固形物換算)当たり、6−ショウガオールを6.0mg以上含有し、6−ジンゲロール(G)に対する6−ショウガオール(S)の含有量の比(6S/6G)が2以上であり、含水率が30重量%以下であるショウガ加工物に関する。
【0021】
本明細書における「ショウガ加工物」は、原料ショウガを冷凍、加熱(蒸気加熱含む)、脱水処理(乾燥処理を含む)を行ったものを意味し、生のショウガをそのままや単に切断したり、擦り下ろしたものは含まれない。
【0022】
本発明において、「ショウガオール類」とは上述した式(2)で示す構造の化合物を意味する。ショウガオール類として、具体的には、式(2)中、n=4,6,8に相当する6−ショウガオール、8−ショウガオール、または10−ショウガオールを意味する。本発明のショウガ加工物は少なくとも6−ショウガオールが原料ショウガより富化されたショウガ加工物である。
また、「ジンゲロール類」とは上述した式(1)で示す構造の化合物を意味する。ジンゲロール類として、具体的には、式(1)中、n=4,6,8に相当する6−ジンゲロール、8−ジンゲロール、10−ジンゲロールを意味する。
【0023】
本発明のショウガ加工物は、1g(固形物換算)当たり、6−ショウガオールを6.0mg以上含有する。本発明のショウガ加工物は、1g(固形物換算)当たり、6−ショウガオールを好適には6.5mg以上、より好適には6.7mg以上、さらに好適には6.9mg以上含有する。
なお、本発明のショウガ加工物における6−ショウガオール及び6−ジンゲロールの含有量は、含有する水分量による影響を排除するために、脱水処理(含有水分の除去処理)を行った後の固形物換算で規定した値である。具体的な脱水処理法については、実施例で後述する。
【0024】
本発明のショウガ加工物は、6−ジンゲロールと6−ショウガオールの合計含有量として、ショウガ加工物1g(固形物換算)当たり、10mg以上含有することが好適であり、より好適には11mg以上である。
【0025】
本発明のショウガ加工物は、含水率が30重量%以下である。水分量が多いとペースト状になり、べとつきやすい。そのため、より流動性が高い乾燥状態とするためには、ショウガ加工物の含水率が10重量%以下であり、好適には6重量%以下、より好適には5重量%以下である。含水率は脱水方法や脱水装置(乾燥装置)、製造時や保管時の温度や湿度により適宜調整することができる。含水率は後述する実施例の方法で測定することができる。
【0026】
本発明のショウガ加工物は、後述する通り、原料ショウガ以外の成分(酸や発酵液等)を使用せずに製造することができ、ショウガオール類(及びジンゲロール類)の絶対量が多いため、ショウガ本来の風味を損なわれないという利点もある。
【0027】
本発明のショウガ加工物は、製造された状態でそのまま使用してもよいし、さらに任意の加工処理を行い二次加工物としてもよい。任意の加工処理としては、本発明の効果を損なわないものであるならば、適宜のものが選択でき、例えば、粉砕、細断、抽出などが挙げられる。なお、ここでいう「抽出」とは、抽出対象を溶媒抽出して、有効成分の含有量を高めた形態のものを総括した概念である。具体的には本発明のショウガ加工物を抽出原料として得られる抽出液、該抽出液の希釈液若しくは濃縮液、またはこれらの粗精製物若しくは精製物のいずれもが含まれる。なお、抽出液を脱水して得られる脱水物(乾燥物含む)も、抽出物に該当するものとする。
【0028】
また、本発明のショウガ加工物と任意の成分を組み合わせて、ショウガ加工物を含有する組成物としてもよい。任意成分の配合割合は、その目的に応じて適宜選択して決定することができる。
【0029】
本発明のショウガ加工物が含有するショウガオール類は、解熱、鎮痛、抗炎症、プロスタグランジンの生合成阻害、血行促進、体温上昇、アディポネクチン発現の上昇等の様々な薬理的作用を有し、また、糖尿病や肥満等により誘発されるメタボリックシンドロームの予防にも有効な成分である。
そのため、本発明のショウガ加工物(二次加工物含む)やショウガ加工物を含む組成物は、以下に説明するようにボディーケア製品、機能性食品等の原料として好適に使用できる。なお、以下、機能性食品、食品添加物、サプリメント及び化粧料組成物について説明するが、本発明のショウガ加工物の用途はこれらの用途に限定されるものではなく、例えば、医薬品用途に使用してもよい。
【0030】
(機能性食品)
本発明のショウガ加工物は、食品、飲料に含有させて機能性食品としてもよい。
ここでいう「機能性食品」とは、健康食品、栄養補助食品、栄養機能食品等、健康の維持の目的で摂取する食品または飲料を意味している。なお、機能性食品として製品化する場合には、食品に用いられる様々な添加剤、具体的には、着色料、保存料、増粘安定剤、酸化防止剤漂白剤、防菌防黴剤、酸味料、調味料、乳化剤、強化剤、製造用剤、香料等を添加していてもよい。
【0031】
機能性食品の対象となる食品、飲料は特に限定されるものではないが、特にショウガの風味が加えられることが好適な食品、飲料が好ましい。例えば、食品として、ソーセージ、ハム、魚介加工品、ゼリー、キャンディー、チューインガムなどの食品類が挙げられる。また、飲料としては、各種の茶類、清涼飲料水、酒類、栄養ドリンクなどが挙げられる。
【0032】
(食品添加剤)
また、本発明のショウガ加工物は、それ自体またはこれに他の成分を添加して食品添加剤として使用することも可能である。他の成分は、食品添加剤として使用可能であるならば特に制限はない。食品添加剤の添加対象となる飲料、食品についても任意であり、特に制限はない。添加量も添加対象に応じて任意である。
【0033】
(サプリメント)
本発明のサプリメントは、本発明のショウガ加工物を含有する。本発明のサプリメントの形態は、特に制限されず、錠剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤、糖衣錠、フィルム剤、トローチ剤、チュアブル剤、溶液、乳濁液、懸濁液等の任意の形態でよい。
本発明のサプリメントは、本発明のショウガ加工物以外に、サプリメントとして通常使用される任意の成分を含んでいてもよい。そのような成分としては、例えば、アミノ酸,ペプチド;ビタミンE、ビタミンC、ビタミンA、ビタミンB、葉酸等のビタミン類;ミネラル類;糖類;無機塩類;クエン酸またはその塩;茶エキス;油脂;プロポリス、ローヤルゼリー、タウリン等の滋養強壮成分;ショウガエキス、高麗人参エキス等の生薬エキス;ハーブ類:コラーゲン等が挙げられる。
【0034】
本発明のショウガ加工物は、ヒト以外の動物に対して適用することもできる。そのため、ペットフード等の動物用のサプリメントや機能性食品へ添加することもできる。
【0035】
(化粧料組成物)
本発明の化粧料組成物は、上記ショウガ加工物を含有することを特徴とする。本発明のショウガ加工物は、各種化粧料基材及び化粧料添加物に対して任意に配合できる。
【0036】
本発明の化粧料組成物は、慣用の化粧料基材を適宜配合し、所望の剤型とすることができる。その形態は特に制限はないが、化粧水、乳液、ジェル、クリーム、パック、ヘアトニック、ヘアクリームファンデーション、水性軟膏、スプレー等の形態が挙げられる。また、本発明において、化粧料組成物は、入浴剤、ボディーソープ、シャンプー等の入浴用組成物も含む概念である。
【0037】
また、本発明の化粧料組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で通常化粧料や皮膚外用医薬、入浴用製品で使用される任意の成分を添加することができる。かかる任意成分の具体例としては、増粘・ゲル化剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、色素剤、金属封鎖剤、防腐剤、pH調整剤、香料、ミツロウ等が挙げられる。これら任意成分の配合割合は、その目的に応じて適宜選択して決定することができる。
【0038】
<ショウガ加工物の製造方法>
本発明のショウガ加工物は、以下に説明する製造方法(以下、「本発明の製造方法」と記載する場合がある。)によって好適に製造することができる。
すなわち、本発明の製造方法は、原料ショウガを冷凍処理する冷凍工程と、冷凍工程後のショウガを、ショウガに含まれるジンゲロール類の濃度より、ショウガオール類の濃度が高くなるまで、水蒸気共存下、温度100℃以上150℃以下の条件で加熱処理する蒸気加熱工程と、蒸気加熱工程後のショウガを脱水する脱水工程と、を有し、前記原料ショウガが、塊状のショウガであり、脱水工程における脱水処理方法が減圧脱水処理である、ショウガ加工物の製造方法である。
【0039】
以下、本発明の製造方法をより詳細に説明する。
【0040】
(原料ショウガ)
本発明に係るショウガ加工物の原料である「原料ショウガ」は、ショウガ科の植物であり、ショウガ目ショウガ科ショウガ属であるショウガ(Zingiber officinale)のことを示す。原料ショウガは、その大きさでの分類である大生姜、中生姜、小生姜のいずれも使用できる。原料ショウガの品種としては、例えば、金時ショウガ、三州ショウガ、黄金ショウガ、近江ショウガ、谷中ショウガ、静岡4号、黄生ショウガ、土生ショウガ、オタフクショウガなどが挙げられる。特にこれらの中でも、金時ショウガや三州ショウガや黄金ショウガはジンゲロール類を多く含有するため好ましい。
【0041】
一方で、本発明の製造方法によれば、原料ショウガとして一般的な大生姜を使用しても、従来の方法と比較してショウガオール類やジンゲロール類の減少が少なく、ショウガオール類の含有量が多いショウガ加工物を提供できる利点がある。
【0042】
原料ショウガとしては、収穫直後のショウガでも、収穫後保管されていたショウガでもよい。また、使用する原料ショウガの部位としては、適宜の部位を選択できるが、根茎がジンゲロール類の含有量が多いことから好ましい。
原料ショウガは、塊状のショウガが使用される。なお、ここでいう「塊状のショウガ」は、ショウガ丸ごとのみならず、3〜8cm角程度の大きさのものを含む。よりジンゲロール類及びショウガオール類の蒸散を抑制するためには、できる限り切断をしていない塊状のショウガが好ましい。処理せずに生のものを丸ごと使用してもよく、切断等の加工をしたものを使用することもできる。
原料ショウガの形態が、塊状のショウガであると、加工中(特には加熱中や脱水処理脱水中)でのジンゲロール類及びショウガオール類、さらにはショウガに含まれる微量成分の蒸散が抑制されるため好ましい。
【0043】
(冷凍工程)
原料ショウガは、冷凍工程に供される。冷凍工程での冷凍温度は、0℃以下であればよいが、−10℃以下であることが好ましく、−15℃以下がより好ましい。冷凍温度の下限は特に制限がないが、解凍に余計なエネルギーや時間が必要になるため、通常、−25℃以上である。
【0044】
冷凍時間は、本発明の効果であるショウガオール類を富化させる効果を有する限りは適宜の長さにしてもよいが、通常、1時間以上、好ましくは3時間以上、好ましくは5時間以上、より好ましくは10時間以上である。冷凍時間の上限は特に制限はなく、保管を兼ねて1か月以上、3か月以上、6か月以上冷凍していてもよい。
【0045】
冷凍工程を行う手段としては、冷凍の温度調節ができる限りにおいて適宜のものが選択でき、例えば一般に市販されている冷凍庫を使用することができる。また、大型の設備化された冷凍施設を用いてもよい。温度調節ができる限りは、例えば、電気式のものでなく自然の寒冷環境を用いたものでもよい。
【0046】
(蒸気加熱工程)
蒸気加熱工程は、冷凍工程に供された冷凍工程後のショウガを、ショウガに含まれるジンゲロール類の濃度より、ショウガオール類の濃度が高くなるまで水蒸気共存下、温度100℃以上150℃以下の条件で加熱処理する工程である。
【0047】
なお、蒸気加熱工程に供される冷凍工程後のショウガは、冷凍されたままのショウガであってもよいし、冷凍後解凍したショウガであってもよい。また、冷凍工程と蒸気加熱工程とは必ずしも連続に行う必要はなく、これらの工程の間に他の工程を含んでいてもよい。また、冷凍工程と、蒸気加熱工程をそれぞれ異なる場所で行ってもよい。
また、冷凍設備において冷凍ショウガを保管し、これを冷凍工程とみなしてもよい。この場合、ショウガ加工物を生産するときに、冷凍した適当な量の冷凍ショウガを蒸気加熱工程に供して、ショウガ加工物を製造することができ、蒸気加熱工程の時間が実質的な製造時間となる。
【0048】
蒸気加熱工程の温度は、100℃以上150℃以下であり、よりショウガオール類への変換速度を高めることができる点で、好ましくは110℃以上130℃以下である。
【0049】
蒸気加熱工程における圧力としては、0.12MPa以上であり、よりショウガオール類への変換速度を高めることができる点で、好ましくは0.13MPa以上である。圧力の上限としては、本発明の効果を損なわない範囲で決定され、好ましくは0.3MPa以下である。
【0050】
蒸気加熱工程の時間は、ショウガの種類や大きさ等を勘案して決定され、ショウガオール類の富化が十分に起こる範囲で決定される。例えば10分の短時間でもショウガオール類の富化効果自体は認められるが、製品として十分な量のショウガオール類を得るためには(すなわち、ショウガに含まれるジンゲロール類の濃度より、ショウガオール類の濃度が高い)、例えば、1時間以上であり、好適には3時間以上、4時間以上、5時間以上である。蒸気加熱工程の時間の上限に制限はないが、時間が長すぎると含有されるショウガオール類(及びジンゲロール類)が蒸散する傾向にあるので、通常、20時間以下、10時間以下、8時間以下、6時間以下である。
【0051】
蒸気加熱工程を行う手段としては、市販のオートクレーブ、圧力鍋、あるいは圧力釜など、蒸気、圧力と温度の設定・調節ができるものであるならば、適宜のものを用いることができる。また、蒸気加熱は、高圧蒸気殺菌を行うことができるため、本発明のショウガ加工物の製造方法は、ショウガオール類の富化の効果に加え、本発明のショウガ加工物を殺菌し、清潔にもしている。蒸気加熱をする手段として、レトルト食品に用いられる殺菌器が使え、この場合も同様の滅菌・殺菌効果を得ることができる。
【0052】
上述のように、本発明の製造方法では、冷凍工程を経たショウガを、蒸気加熱工程で処理することにより、従来の方法より加熱時間が短くとも、ジンゲロール類からのショウガオール類への変換効率を向上させ、ショウガオール類を富化させることができる。
例えば、本出願人による特許文献6の製造方法では、原料ショウガを発酵液と混合した後に、温度30℃〜90℃、湿度50%〜90%の条件下で加熱処理する際に、ジンゲロール類からのショウガオール類への変換するためには、120時間以上の加熱を必要としていたが、本発明の製造方法では、冷凍後のショウガを1時間以上の蒸気加熱工程に供することにより同程度の変換効率を得られるので、ショウガオール類が富化されたショウガ加工物をより生産性よく得ることができる。
【0053】
必要に応じて、上記冷凍工程と、蒸気加熱工程を複数回繰り返してもよい。
【0054】
(脱水工程)
脱水工程は、蒸気加熱工程後のショウガを脱水する工程である。本発明の製造方法において、脱水工程における脱水処理方法が減圧脱水処理であることに特徴のひとつがある。
減圧脱水処理にて脱水することにより、後述する実施例で示されるように、常圧での脱水処理と比較して、得られるショウガ加工物におけるショウガオールの含有量が増加する。
【0055】
本明細書において、用語「脱水処理」は、対象物の水分量を減少させる処理を包含する概念とする。なお、本明細書において、「乾燥処理」は「脱水処理」に包含される概念とする。
【0056】
減圧脱水処理によりショウガオールの含有量が増加する詳細な理由は不明な点もあるが、現在のところ以下のように推測する。
減圧脱水処理は、脱水対象物を入れた容器を減圧して水分を留去する脱水処理方法であり、減圧することで水蒸気分圧が下がり水分の沸点が低下し蒸発速度が加速され、対象物の脱水を速めることができる。このように水分の留去する時間(実質的な脱水時間)が減少するため、ショウガオールやジンゲロール等のショウガ由来の有効成分の蒸散を抑制することができるものと推測される。
【0057】
減圧脱水処理は、公知の減圧乾燥装置を使用することができる。
減圧脱水時の圧力は、常圧(1気圧)での脱水処理の場合と比較して有意にショウガ由来の有効成分の残存量が多くなればよく、通常、0.2気圧以下、好適には0.1気圧以下である。なお、減圧脱水時の圧力は使用する装置に依存するが、0.03〜0.06気圧にすることが通常可能である。その時の水の沸点は25〜30℃程度となる。
【0058】
減圧脱水処理の方法としては、常温で減圧脱水する方法のみならず、凍結させてから減圧する凍結脱水(いわゆる、凍結乾燥)や、減圧時に加熱する減圧加熱脱水のいずれでもよく、適宜選択することができる。
【0059】
凍結脱水では冷凍温度が−10℃以下であることが好ましい。
【0060】
減圧加熱脱水では加熱温度は、通常、50〜100℃、好適には60〜90℃である。この範囲であると、減圧加熱脱水では水分の除去速度が高まり、結果として目的とする含水率に短時間で到達できる。温度が低すぎると加熱による水分除去速度が小さすぎ、温度が高すぎるとショウガ由来の有効成分の蒸散量が多くなるため好ましくない。
【0061】
脱水時間は、使用する装置、減圧脱水の方法、温度、湿度等を考慮してショウガ加工物が目的とする含水率になるように決定すればよく、通常、1〜10時間になるように設定される。これを目的とする水分量になるまで繰り返してもよい。
【0062】
脱水工程によりショウガ加工物の含水率が30重量%以下になるまで脱水する。含水率は後述する実施例の方法で測定することができる。
水分量が多いと粉砕してもペースト状となりべとつきやすい等の問題もあるため、より流動性が高い状態(いわゆる、乾燥状態)とするためには、ショウガ加工物の含水率が10重量%以下であり、好適には6重量%以下、より好適には5重量%以下である。含水率は脱水方法や脱水装置、製造時や保管時の温度や湿度により適宜調整することができる。
ショウガ加工物の使用用途にもよるが、含水率が小さいほうが保存性がより向上するという利点もある。
【0063】
また、6−ジンゲロール(G)に対する6−ショウガオール(S)の含有量の比(6S/6G)をより高めることができる点で、脱水工程において、減圧脱水処理と冷却処理とを繰り返してもよい。
冷却処理には、対象を0℃未満で冷却する「冷凍処理」と、0〜8℃で冷却する「冷蔵処理」が含まれる。
【0064】
減圧脱水処理と冷却処理とを繰り返すことにより、ショウガ加工物が含有するショウガオール類の低減を抑制でき、最終的にショウガ加工物に含まれるショウガオール類の絶対量が多くなる。この方法では、脱水処理が減圧加熱脱水処理であることが好ましい。減圧加熱脱水処理の好適な条件は上述の通りであり、温度50〜100℃(より好適には60〜90℃)である。
【0065】
冷凍処理の場合には温度が−10℃以下であることが好ましい。
減圧脱水処理と冷凍処理とを繰り返す場合における好適な条件を例示すると、減圧加熱脱水の時間を1〜10時間、冷凍温度を5〜20時間として、これを目的とする水分量になるまで繰り返す(通常、2〜5回繰り返し)。これにより、ショウガ加工物の品質を劣化させることなく、水分量を所定量(好適には10重量%以下)とすることができる。
【0066】
減圧脱水処理と冷却処理とを繰り返しにおいて、冷蔵処理(温度0〜8℃)する方法でもよい。この方法では、冷凍処理と比較して上記6S/6G比が増加し、ショウガオール類の絶対量が低減する傾向にある。この場合も水分量を所定量(好適には10重量%以下)とすることができる。
【0067】
なお、本発明の製造方法は、上述の冷凍工程と、蒸気加熱工程及び脱水工程に加え、適宜、他の工程をさらに加えてもよい。例えば、得られたショウガ加工物を粉砕したり、造形したりすることが挙げられる。
【0068】
以上、本発明の製造方法について述べたが、上記説明に明示的に開示されていない事項については、当業者が通常実施する範囲を逸脱するものではなく、通常の当業者であれば、容易に想定することが可能な方法や値を採用することができる。
【実施例】
【0069】
以下に実施例を挙げて本発明の方法をより具体的に説明する。なお、本発明は、以下の実施例のみに限定されるものではない。
【0070】
[実験例1]
原料ショウガとして、高知県産の大ショウガの根茎を切断せず丸ごと、温度−18℃に維持された冷凍庫に14時間保管し、冷凍されたショウガを得た(冷凍工程1)。
次いで、冷凍されたショウガ(塊状)を蒸煮釜(SOS120/10SV、サムソン)にて、水蒸気共存下、温度121℃で4時間蒸気加熱処理し(蒸気加熱工程)、得られた蒸気加熱処理されたショウガを減圧乾燥器(南極防熱、特注品)で、圧力0.1気圧以下、温度80℃、4時間減圧脱水(脱水工程1)することで水分を除去した。得られた試料を実験例1のショウガ加工物とした。
【0071】
[実験例2] 実験例1と同様の方法で得た脱水物(実験例1のショウガ加工物)を、冷凍庫(−18℃)にて再度14時間冷凍した(冷凍工程2)。次いで、再度減圧乾燥器(南極防熱、特注品)で、温度80℃、4時間脱水し、乾燥させた(脱水工程2)。
上記(冷凍工程2)〜(脱水工程2)まで3回繰り返し、実験例2のショウガ加工物を得た。
【0072】
[実験例3]
冷凍工程2を温度が5℃〜7℃の冷蔵庫(HOSHIZAKI INVERTER)にて14時間冷蔵する工程(冷蔵工程)とした以外は実験例2と同様にして実験例3のショウガ加工物を得た(上記(冷蔵工程)〜(脱水工程2)まで3回繰り返し)。
【0073】
[実験例4](比較例)
高知県産の大ショウガの根茎を3mm程度にスライスしたこと以外は実験例1と同様にして実験例4のショウガ加工物を得た。
【0074】
[実験例5](比較例)
高知県産の大ショウガの根茎を3mm程度にスライスしたこと以外は実験例1と同様にして実験例5のショウガ加工物を得た。
【0075】
[実験例6](比較例)
高知県産の大ショウガの根茎を3mm程度にスライスしたこと以外は実験例1と同様にして実験例6のショウガ加工物を得た。
【0076】
[実験例7](比較例)
原料ショウガとして、高知県産の大ショウガの根茎を、2〜4cm角程度に切断した後に、温度−18℃に維持された冷凍庫(HOSHIZAKI INVERTER)に15時間保管し、冷凍されたショウガを得た(冷凍工程)。次いで、冷凍されたショウガをフタ自動開閉式高圧蒸気滅菌器(ハイクレーブHG−50、(株)平山製作所製)にて、水蒸気共存下、温度121℃、圧力0.15MPaで5時間蒸気加熱処理した(蒸気加熱工程)。次いで、蒸気加熱処理されたショウガを、乾燥器(コンパクト食品乾燥器SM7S−EH(株)木原製作所製)で、温度80℃、24時間脱水して乾燥させ(脱水工程)、実験例7のショウガ加工物を得た。
【0077】
<ショウガ加工物における6−ジンゲロール及び6−ショウガオール含有量の評価>
上記方法で得られた各ショウガ加工物をメタノール100%溶媒に、2時間浸漬し、その後3000rpmで10分間遠心し、上清を0.45μmフィルターで濾過処理をして抽出液を作製し、当該抽出液の6−ジンゲロール及び6−ショウガオールの含量を分析した。
分析は、ウォーターズ社製、Alliance HPLCシステムで行った。使用カラムはWakosil−II 5C18 HG、溶媒はアセトニトリルと水を用い、時間によって溶媒比率を変化させた。流速は1ml/minで行い、吸光度は、280nmで行った。6−ジンゲロール、6−ショウガオールのそれぞれのピーク面積と濃度比から検量線を作成し、定量分析した。
【0078】
<含水率の評価>
約10gの試料を、130℃にて1時間保持した後、デシケータ中で室温まで冷却した。加熱前後の試料質量から含水率(重量%)を求めた。なお、上記「固形物換算」における固形物は加熱後の試料を意味する。
含水率= (加熱前試料重量−加熱後試料重量)/加熱前試料重量 × 100
【0079】
(評価結果)
表1に各実験例のショウガ加工物1g(固形物換算)当たりの6−ジンゲロール及び6−ショウガオールの含有量、6−ジンゲロールと6−ショウガオールとの合計量(6G+6S)、6−ジンゲロールに対する6−ショウガオールの含有量の比(6S/6G)及び含水率を示す。
【0080】
【表1】
【0081】
表1に示すように、塊状の原料ショウガを使用した実験例1は、スライス状の原料ショウガを使用した実験例4と比較して、6Sの含有量がはるかに多く(7.8mg/g)、6G+6S及び6S/6Gも大きいことが認められる。特に実験例1と実験例4とは6G含有量にはほとんど差がないのにかかわらず、6S含有量は実験例1の方が明らかに多いことは注目すべき点である。
【0082】
また、実験例2,3のように冷凍処理または冷蔵処理と減圧脱水処理を繰り返すことにより、6S/6Gを高めつつ、水分量を低減させることができることが確認された。特に冷凍処理と減圧脱水処理との実験例2では、6S,6Gの絶対量の低減を抑制しつつ、6S/6Gを高めることができることが認められた。
【0083】
また、実験例1(減圧脱水、80℃)と、実験例7(常圧脱水、80℃)のとを対比すると、6S,6G含有量、6G+6S及び6S/6Gのいずれもが減圧脱水の実験例1の方がはるかに大きくなっていることがわかる。すなわち、通常の常圧での加熱脱水では水分と共に6S,6Gが蒸散しているのに対し、実験例1では6S,6Gの蒸散が抑制されていると認められる。
【0084】
以上の通り、原料として塊状のショウガを使用し、かつ、減圧脱水処理による、脱水、乾燥を行うことにより、6-ショウガオールを多く含むショウガ加工物が得られることが確認された。