特許第6945883号(P6945883)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6945883セルロース結合モジュールを含む組換えベクター及び前記ベクターを用いてタンパク質を分離・精製する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6945883
(24)【登録日】2021年9月17日
(45)【発行日】2021年10月6日
(54)【発明の名称】セルロース結合モジュールを含む組換えベクター及び前記ベクターを用いてタンパク質を分離・精製する方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/82 20060101AFI20210927BHJP
   C12P 21/02 20060101ALI20210927BHJP
   C07K 1/22 20060101ALI20210927BHJP
   A01H 6/04 20180101ALN20210927BHJP
   A01H 6/06 20180101ALN20210927BHJP
   A01H 6/20 20180101ALN20210927BHJP
   A01H 6/34 20180101ALN20210927BHJP
   A01H 6/46 20180101ALN20210927BHJP
   A01H 6/54 20180101ALN20210927BHJP
   A01H 6/74 20180101ALN20210927BHJP
   A01H 6/82 20180101ALN20210927BHJP
【FI】
   C12N15/82 ZZNA
   C12P21/02 C
   C07K1/22
   !A01H6/04
   !A01H6/06
   !A01H6/20
   !A01H6/34
   !A01H6/46
   !A01H6/54
   !A01H6/74
   !A01H6/82
【請求項の数】15
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2019-561814(P2019-561814)
(86)(22)【出願日】2018年5月10日
(65)【公表番号】特表2020-519264(P2020-519264A)
(43)【公表日】2020年7月2日
(86)【国際出願番号】KR2018005371
(87)【国際公開番号】WO2018208099
(87)【国際公開日】20181115
【審査請求日】2019年12月11日
(31)【優先権主張番号】10-2017-0058882
(32)【優先日】2017年5月11日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】519142114
【氏名又は名称】バイオアプリケーションズ インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】BIOAPPLICATIONS INC.
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ファン、イン ファン
(72)【発明者】
【氏名】ソン、ウン ジュ
(72)【発明者】
【氏名】イ、ヨンジク
【審査官】 小林 薫
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2012/0255069(US,A1)
【文献】 特表2007−517765(JP,A)
【文献】 特開平11−225763(JP,A)
【文献】 特表2007−503211(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2015/0274772(US,A1)
【文献】 韓国公開特許第10−2013−0130563(KR,A)
【文献】 韓国公開特許第10−2005−0040601(KR,A)
【文献】 Appl. Microbiol. Biotechnol., 2011, Vol.91, pp.789-798
【文献】 Database GenBank [online], Accesion No. AEI55081.1 <https://www.ncbi.nlm.nih.gov/protein/AEI55081.1>, 2016.07.25, [令和3年1月22日検索], Definition: CBM3, partial [synthetic construct]
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00−15/90
C07K 1/00−19/00
C12P 1/00−41/00
A01H 1/00−17/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロース結合モジュール3をコードする配列番号1の塩基配列を含み、植物の形質転換用である、組換えベクター。
【請求項2】
前記組換えベクターは、セルロース結合モジュール3、連結ペプチド、エンテロキナーゼの切断部位及び目的タンパク質のコード遺伝子が順次に連結されていることを特徴とする、請求項1に記載の組換えベクター。
【請求項3】
前記目的タンパク質のコード遺伝子は、配列番号3の塩基配列で構成されることを特徴とする、請求項2に記載の組換えベクター。
【請求項4】
前記連結ペプチドのコード遺伝子は、配列番号5の塩基配列で構成されることを特徴とする、請求項2又は3に記載の組換えベクター。
【請求項5】
前記エンテロキナーゼの切断部位のコード遺伝子は、配列番号6の塩基配列で構成されることを特徴とする、請求項2〜4のいずれか一項に記載の組換えベクター。
【請求項6】
前記組換えベクターは、植物細胞で目的タンパク質を小胞体にターゲティングすることができるBiP(Binding immunoglobulin protein)タンパク質をコードする遺伝子が追加的に作動可能に連結されたことを特徴とする、請求項2〜5のいずれか一項に記載の組換えベクター。
【請求項7】
前記BiPタンパク質をコードする遺伝子は、配列番号7の塩基配列で構成されることを特徴とする、請求項6に記載の組換えベクター。
【請求項8】
前記組換えベクターは、HDEL(His−Asp−Glu−Leu)ペプチドをコードする塩基配列が追加的に作動可能に連結されたことを特徴とする、請求項2〜7のいずれか一項に記載の組換えベクター。
【請求項9】
下記ステップを含むことを特徴とする、目的タンパク質の分離・精製方法:
請求項1に記載の組換えベクターを用いて形質転換された植物体とタンパク質抽出緩衝溶液を混合して植物体混合液を製造するステップ(ステップS1);
前記ステップS1の混合液をセルロースが満たされたカラムに注入してセルロース結合モジュール3及び目的タンパク質が融合された融合タンパク質をセルロースに吸着させるステップ(ステップS2);及び
前記ステップS2で前記融合タンパク質が吸着されたセルロースを遠心分離して沈澱させた後、エンテロキナーゼに懸濁して懸濁液を収得するステップ(ステップS3)。
【請求項10】
前記ステップS3の後、セファロースカラムに前記懸濁液を注入してエンテロキナーゼを除去するステップをさらに含むことを特徴とする、請求項9に記載の目的タンパク質の分離・精製方法。
【請求項11】
前記タンパク質抽出緩衝溶液は、10〜100mMのトリス(Tris)緩衝液、100〜200mMの塩化ナトリウム(NaCl)溶液、0.01〜0.5%のTriton X−100及びプロテアーゼインヒビターを含むことを特徴とする、請求項9又は10に記載の目的タンパク質の分離・精製方法。
【請求項12】
前記形質転換された植物体は、
a)請求項1に記載の組換えベクターを菌株に導入して形質転換菌株を製造するステップ;及び
b)前記形質転換菌株を用いて植物体を形質転換するステップ
を含む方法で製造されることを特徴とする、請求項9〜11のいずれか一項に記載の目的タンパク質の分離・精製方法。
【請求項13】
前記菌株は、アグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)であることを特徴とする、請求項12に記載の目的タンパク質の分離・精製方法。
【請求項14】
前記植物体は、シロイヌナズナ、大豆、タバコ、ナス、トウガラシ、ジャガイモ、トマト、白菜、大根、キャベツ、チシャ、桃、梨、イチゴ、スイカ、マクワウリ、キュウリ、ニンジン及びセロリからなる群より選択される双子葉植物;又は稲、麦、小麦、ライ麦、トウモロコシ、サトウキビ、エンバク及びタマネギからなる群より選択される単子葉植物であることを特徴とする、請求項9〜13のいずれか一項に記載の目的タンパク質の分離・精製方法。
【請求項15】
前記セルロースは、微細結晶セルロース(Microcrystalline cellulose)であることを特徴とする、請求項9〜14のいずれか一項に記載の目的タンパク質の分離・精製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロース結合モジュールを含む組換えベクター及び前記ベクターを用いてタンパク質を分離・精製する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セルロースは、植物の細胞膜及び木質部を構成する基本成分であって、植物体の約30%以上を占める有機化合物の一種である。多糖類に属し、化学構造は、D−グルコースがβ−1,4−グルコシド結合で多数重合され、天然状態の分子量が数万〜数十万に至る。セルロースは、無臭の白色固体であって、水、エタノール及びエーテルには溶けず、アルカリに非常に強い耐性を有しているが、酸や銅アンモニア溶液内では加水分解されて中間産物としてセロビオースを多量生成し、最終的には、グルコースに変換される。セルロースは、自然界で最も豊かな天然資源の一種類であって、これを利用しようとする多くの研究が進行中である。
【0003】
一方、セルロースを分解するセルラーゼは、セルロース結合ドメイン(cellulose binding domain、CBD)を有しており、セルロースに特異的に結合してセルロースを効果的に分解する。上記のようなセルロース結合ドメインを必要とする目的タンパク質に結合させてセルロースに特異的に結合する組換えタンパク質を製造しようとする試みが活発に行われている(大韓民国登録特許第10−0618563号)。しかし、このような試みは、微生物を用いて組換えタンパク質を製造する方法に限られており、植物を用いた例はまだ知られていない。
【0004】
しかし、最近、植物由来の組換えタンパク質、ワクチンなどの生産と関連して関心が集中しており、植物体を用いて大量の組換えタンパク質を生産し、高純度の組換えタンパク質を大量に迅速で且つ低価で分離する方法の開発が切実に求められているという実情がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記のような従来技術上の問題点を解決するために案出されたもので、植物体内で目的タンパク質を生成した後、生成された目的タンパク質を大量に迅速で簡単に分離するために、セルロース結合モジュール3(Cellulose binding module 3、CBM3)を含む組換えベクターと、前記組換えベクターを用いて目的タンパク質を分離・精製する方法を提供することをその目的とする。
【0006】
しかし、本発明が達成しようとする技術的課題は、上記で言及した課題に制限されず、言及しなかったまた他の課題は、下の記載から当業者に明確に理解されるべきである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記のような本発明の目的を達成するために、本発明は、セルロース結合モジュール3をコードする配列番号1の塩基配列を含む組換えベクターを提供するものとして、前記組換えベクターの構成は、図1に示した通りである。
【0008】
本発明の一具現例において、前記組換えベクターは、セルロース結合モジュール3、連結ペプチド、エンテロキナーゼの切断部位及び目的タンパク質のコード遺伝子が順次に連結されているものであってもよい。
【0009】
本発明の他の具現例において、前記目的タンパク質のコード遺伝子は、配列番号3の塩基配列で構成されるものであってもよい。
【0010】
本発明のまた他の具現例において、前記連結ペプチドは、配列番号5の塩基配列で構成されるものであってもよい。
【0011】
本発明のまた他の具現例において、前記エンテロキナーゼの切断部位は、配列番号6の塩基配列で構成されるものであってもよい。
【0012】
本発明のまた他の具現例において、前記組換えベクターは、植物細胞で目的タンパク質を小胞体にターゲティングすることができるBiP(Binding immunoglobulin protein)タンパク質をコードする遺伝子が追加的に作動可能に連結されたものであってもよい。
【0013】
本発明のまた他の具現例において、前記BiPタンパク質をコードする遺伝子は、配列番号7の塩基配列で構成されるものであってもよい。
【0014】
本発明のまた他の具現例において、前記組換えベクターは、HDEL(His−Asp−Glu−Leu)ペプチドをコードする塩基配列が追加的に作動可能に連結されたものであってもよい。
【0015】
また、本発明は、下記ステップを含む目的タンパク質の分離・精製方法を提供する:
【0016】
前記組換えベクターを用いて形質転換された植物体とタンパク質抽出緩衝溶液を混合して植物体混合液を製造するステップ(ステップS1);
前記ステップS1の混合液をセルロースが満たされたカラムに注入してセルロース結合モジュール3及び目的タンパク質が融合された融合タンパク質をセルロースに吸着させるステップ(ステップS2);及び
前記ステップS2で前記融合タンパク質が吸着されたセルロースを遠心分離して沈澱させた後、エンテロキナーゼに懸濁して懸濁液を収得するステップ(ステップS3)。
【0017】
本発明の一具現例において、前記ステップS3後、セファロースカラムに前記懸濁液を注入してエンテロキナーゼを除去するステップをさらに含むものであってもよい。
【0018】
本発明の他の具現例において、前記タンパク質抽出緩衝溶液は、10〜100mMのトリス(Tris)緩衝液、100〜200mMの塩化ナトリウム(NaCl)溶液、0.01〜0.5%のTriton X−100及びプロテアーゼインヒビターを含むものであってもよい。
【0019】
本発明のまた他の具現例において、前記形質転換植物体は、
a)前記組換えベクターを菌株に導入して形質転換菌株を製造するステップ;及び
b)前記形質転換菌株を用いて植物体を形質転換するステップを含む方法で製造されるものであってもよい。
【0020】
本発明のまた他の具現例において、前記菌株は、アグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)であってもよい。
【0021】
本発明のまた他の具現例において、前記植物体は、シロイヌナズナ、大豆、タバコ、ナス、トウガラシ、ジャガイモ、トマト、白菜、大根、キャベツ、チシャ、桃、梨、イチゴ、スイカ、マクワウリ、キュウリ、ニンジン及びセロリからなる群より選択される双子葉植物;又は稲、麦、小麦、ライ麦、トウモロコシ、サトウキビ、エンバク及びタマネギからなる群より選択される単子葉植物であってもよい。
【0022】
本発明のまた他の具現例において、前記セルロースは、微細結晶セルロース(Microcrystalline cellulose)であってもよい。
【発明の効果】
【0023】
本発明の組換えベクターを用いたタンパク質の分離方法は、セルロースに対する高い親和度を有するセルロース結合モジュール3を用いることで、非特異的なタンパク質が結合することを防止して多様なタンパク質が混合されている植物体の総抽出物(total extract)からも目的とするタンパク質を高純度で迅速に分離し得、低い濃度のタンパク質でも分離が可能である。また、目的とするタンパク質と前記タンパク質をタグ化するセルロース結合ドメインを、エンテロキナーゼ処理して迅速に分離し得る。したがって、本発明のタンパク質分離方法は、植物体から大量の目的タンパク質を高純度で迅速に且つ低価で効率的に分離することを可能にするため、産業的に多様な分野に応用が可能であると期待される。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1図1は、本発明で用いた組換えベクターの構成を示した図である。
図2図2は、微細結晶セルロースにCBM3融合タンパク質(CBM3:Ag85A)の吸着を確認した結果を示した図である。
図3図3は、エンテロキナーゼを用いてCBM3融合タンパク質から目的タンパク質(Ag85A)が分離されたかを確認した結果を示した図である。
図4図4は、アフィニティークロマトグラフィーでエンテロキナーゼを除去した後、目的タンパク質(Ag85A)が分離・精製されたことを確認した結果を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明は、セルロース結合モジュール3(Cellulose binding module 3、CBM3)をコードする配列番号1の塩基配列を含む組換えベクターを提供することにその特徴がある。
【0026】
本発明者らは、高純度の目的タンパク質を植物体から大量に迅速で且つ低価に分離する方法に対して研究した結果、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明の一実施例では、目的タンパク質をコーディングする遺伝子の3’末端方向に配列番号1の塩基配列又は配列番号2のアミノ酸配列で構成されるセルロース結合モジュール3(Cellulose binding module 3、CBM3)を結合して組換えベクターを作製し、前記組換えベクターを用いて目的タンパク質を生産する形質転換された植物体を製造した後、微細結晶セルロース(Microcrystalline cellulose、MCC)を用いてCBM3融合タンパク質を分離した後、エンテロキナーゼを処理して目的タンパク質を分離できることを確認した(実施例1〜4参照)、
【0027】
上記から本発明者らは、セルロース結合ドメインを含む組換えベクターを用いて目的タンパク質が発現された植物体からセルロースを用いて容易に目的タンパク質を精製し得る事実が分かった。
【0028】
したがって、本発明は、前記組換えベクターを用いる目的タンパク質の分離方法を提供し得る。
【0029】
さて、本発明は、下記ステップを含む目的タンパク質の分離・精製方法を提供する:
【0030】
前記組換えベクターを用いて形質転換された植物体とタンパク質抽出緩衝溶液を混合して植物体混合液を製造するステップ(ステップS1);
前記ステップS1の混合液をセルロース(cellulose)が満たされたカラムに注入してセルロース結合モジュール3及び目的タンパク質が融合された融合タンパク質をセルロースに吸着させるステップ(ステップS2);及び
前記ステップS2で前記融合タンパク質が吸着されたセルロースを遠心分離して沈澱させた後、エンテロキナーゼに懸濁して懸濁液を収得するステップ(ステップS3)。
【0031】
より具体的に、本発明で前記セルロースは、微細結晶セルロース(Microcrystalline cellulose)を用いることが好ましく、非結晶セルロース(amorphous cellulose)も用いることができるが、微細結晶セルロースを用いることが、分離効率などを考慮すると、より好ましい。
【0032】
本発明で前記組換えベクターは、セルロース結合モジュール3、連結ペプチド、エンテロキナーゼの切断部位及び目的タンパク質のコード遺伝子が順次に連結されて構成され、前記セルロース結合モジュールの3’末端には、植物細胞で小胞体に目的タンパク質をターゲティングすることができるBiP(Binding immunoglobulin protein)タンパク質のシグナルペプチドが連結され、前記目的タンパク質のコード遺伝子のカルボキシル末端には、連結されたベクターが小胞体に保持されるようにするHDEL(His−Asp−Glu−Leu)が連結され得る。前記セルロース結合モジュール3は、配列番号1の塩基配列でコードされるものであってもよい。前記組換えベクターで生成されるタンパク質において、セルロース結合モジュール3は、配列番号2のアミノ酸配列で構成されるものである。
【0033】
本発明で用いられた用語「目的タンパク質(又はタンパク質)」は、本発明による遺伝子工学的方法で生産しようとするタンパク質を指すもので、特にいずれか一つに制限されない。好ましくは、商業的用途に用いられて多量で生産される必要があるタンパク質が含まれ得る。
【0034】
本発明の一具現例で、前記目的タンパク質のコード遺伝子は、配列番号3の塩基配列でコードされるAg85Aであってもよいが、上述のように分離して生産しようと目的とするタンパク質の種類に応じて変更して用いることができる。前記目的タンパク質は、配列番号4のアミノ酸配列からなるものであってもよい。
【0035】
本発明の他の具現例で、前記連結ペプチドは、配列番号5の塩基配列で構成されるものであってもよく、前記エンテロキナーゼの切断部位は、配列番号6の塩基配列で構成されるものであってもよく、前記BiPタンパク質のシグナルペプチドは、配列番号7の塩基配列で構成されるものであってもよい。
【0036】
本発明で用語「融合タンパク質」は、セルロース結合ドメインと目的タンパク質が融合されたタンパク質を意味するもので、前記融合タンパク質でタグに該当するセルロース結合ドメインを目的タンパク質から除去することは、目的タンパク質の分離・精製において重要である。したがって、本発明は、セルロース結合ドメインをエンテロキナーゼ処理して容易に分離し得る。
【0037】
本発明のまた他の具現例で、前記エンテロキナーゼを処理した後、アフィニティークロマトグラフィーであるセファロースカラム(STI−sepharose)に通過させてエンテロキナーゼを容易に除去し得る。
【0038】
本発明のまた他具現例で、植物体の混合液を製造するとき添加されるタンパク質抽出緩衝溶液は、10〜100mMのトリス((Tris)緩衝液、100〜200mMの塩化ナトリウム(NaCl)溶液、0.01〜0.5%のTriton X−100及びプロテアーゼインヒビターを含むものであってもよく、植物体の重量1g当たり1〜10mLずつ用いられてもよく、より好ましくは、3〜8mLずつ用いられてもよい。
【0039】
本発明の方法で、形質転換植物体は、a)前記組換えベクターを菌株に導入して形質転換菌株を製造するステップ;及びb)前記形質転換菌株を用いて植物体を形質転換するステップを含む方法で製造されるものであってもよい。
【0040】
前記形質転換菌株は、アグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)を用いるものであってもよいが、これに制限されるものではなく、前記植物体は、シロイヌナズナ、大豆、タバコ、ナス、トウガラシ、ジャガイモ、トマト、白菜、大根、キャベツ、チシャ、桃、梨、イチゴ、スイカ、マクワウリ、キュウリ、ニンジン又はセロリなどの双子葉植物;又は稲、麦、小麦、ライ麦、トウモロコシ、サトウキビ、エンバク又はタマネギの単子葉植物が用いられ得るが、これに制限されない。
【0041】
(発明の実施のための形態)
以下、本発明の理解を助けるために好ましい実施例を提示する。しかし、下記の実施例は、本発明をより容易に理解するために提供されるものに過ぎず、下記実施例によって本発明の内容が限定されるものではない。
【実施例】
【0042】
[実施例1.CBM3融合タンパク質が発現される形質転換植物体の製造]
図1のように、植物体でCBM3融合タンパク質を発現させるように組換えをした植物体の形質転換用ベクターを作製した。CBM3融合タンパク質を小胞体に移動させるようにBiP(chaperone binding protein)タンパク質のシグナルペプチドに該当するゲノムDNA配列を用いて目的タンパク質を小胞体に移動させ、融合タンパク質が小胞体に蓄積されるようにカルボキシル末端にHDEL(His−Asp−Glu−Leu)を付与して小胞体に保持した。目的タンパク質(Ag85A)をコーディングする遺伝子の前方に融合タンパク質の分離に必要なセルロース結合モジュール3(Cellulose binding module 3、CBM3)と連結ペプチド(リンカー)及びエンテロキナーゼにより認識されて切断される配列を結合し、植物発現用ベクターであるpCAMBIA 1300に挿入して組換えベクターを製造した。前記ベクターをアグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)LBA−4404菌株に形質転換させた。前記形質転換されたアグロバクテリウム菌株を用いてシロイヌナズナを形質転換させて目的タンパク質を生産する形質転換植物体を製造し、その後、安定的にCBM3融合タンパク質を生産する形質転換植物体を選別した。前記組換えベクターで用いられた配列は、下記表1に示した。
【0043】
【表1】
【0044】
[実施例2.微細結晶セルロースを用いたタンパク質の分離]
微細結晶セルロース(Microcrystalline cellulose、MCC)にCBM3融合タンパク質を吸着させるために、微細結晶セルロース1gを蒸留水に添加して水和させた。以後、前記実施例1の方法で製造された形質転換植物体を土壌に植えて約3週間培養した後、根部分を除いた植物体を乳鉢に入れて液体窒素を用いて粉末化させた。前記粉末化された植物体1gを新しいチューブに移し、タンパク質抽出緩衝溶液(50mM Tris(pH7.2)、150mM NaCl、0.2%Triton X−100、プロテアーゼIXインヒビター)5mLを添加してボルテックスしてよく混合した。フィルターでミラクロス(Miracloth)を用いて植物破送物を除去した後、微細結晶セルロース1gを添加した後に1時間の間4℃でよく混合してCBM3融合タンパク質が微細結晶セルロースに吸着されるようにした。その後遠心分離(14,000rpm、4℃、10分)を通じて微細結晶セルロースに結合されないタンパク質を除去した後、5mLの洗浄用緩衝溶液(50mM Tris(pH7.2)、150mM NaCl)で微細結晶セルロースを2回洗浄した。CBM3融合タンパク質の微細結晶セルロースの吸着は、CBM3抗体を用いてウエスタンブロッティングで確認した。
【0045】
その結果、図2に示したように、植物で発現されたCBM3融合タンパク質は、ほとんど損失なしに微細結晶セルロースによく吸着され、洗浄段階でも微細結晶セルロースに吸着されているCBM3融合タンパク質がほとんど溶出されないことが確認できた。
【0046】
[実施例3.エンテロキナーゼを用いた融合タンパク質の切断]
Ag85Aを含んだ融合タンパク質が吸着されたセルロースを、遠心分離(14,000rpm、4℃、10分)を通じて沈澱させた後、エンテロキナーゼ反応溶液(50mM Tris(pH7.2)、150mM NaCl、1mM CaCl)にまた懸濁させた。懸濁液にエンテロキナーゼを5単位ほど添加して28℃で反応させた後、時間帯別に懸濁液を採取してSDS−PAGEを行った。エンテロキナーゼの処理時間による融合タンパク質の切断は、Ag85A抗体を用いてウエスタンブロッティングで確認した。
【0047】
その結果、図3から確認できるように、エンテロキナーゼの処理による融合タンパク質の切断反応は非常に効率的に起き、処理1時間後に約70%の融合タンパク質が切断され、4時間後には融合タンパク質は完全に切断されてCBM3とAg85Aに分離された。
【0048】
[実施例4.アフィニティークロマトグラフィーでエンテロキナーゼの除去を通じたAg85Aの分離・精製]
遠心分離(14,000rpm、4℃、10分)を通じてエンテロキナーゼと完全に切断されたAg85Aを含む反応液をセルロースから分離した(図4の左側)。反応液からエンテロキナーゼを除去するためにアフィニティークロマトグラフィーを実施した。反応液にSTI−Sepharoseを入れて4℃で1時間の間反応させた後、空のカラムに入れてSTI−Sepharoseに結合しない部分を回収した。図4の右側から確認できるように、STI−Sepharoseアフィニティークロマトグラフィーを通じて反応液からエンテロキナーゼを除去して純粋分離されたAg85Aを獲得し得ることがわかる。
【0049】
前記結果を通じて、本発明の組換えベクターを用いたタンパク質の分離方法は、溶出過程なしにエンテロキナーゼを用いて容易に目的タンパク質に分離させ得、これを通じて、最終的にはタンパク質の分離に所要される時間を減少させ得ることを確認した。これは、大量のタンパク質を分離する場合には、用いられる試料の減少及び所要時間短縮により作業効率を極大化し得ることを意味する。
【0050】
上述した本発明の説明は例示のためのもので、本発明が属する技術分野において通常の知識を有した者は、本発明の技術的思想や必須的な特徴を変更しなくても他の具体的な形態に容易に変形が可能であることが理解できる。したがって、以上で記述した実施例は、全ての面で例示的なものであり、限定的ではないことで理解すべきである。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明の組換えベクターを用いたタンパク質の分離方法は、植物体から大量の目的タンパク質を高純度に迅速、低価で且つ効率的に分離することが可能なので、産業的に多様な分野に応用が可能であると期待される。
図1
図2
図3
図4
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]