(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
  上記特許文献1〜7および非特許文献1に記載のとおり、無細胞タンパク質合成の分野では、5’UTRおよび3’UTRについて、様々な研究がなされている。しかしながら、特許文献1および2に記載されているように、5’UTRに特定の翻訳促進配列を導入することは知られているが、5’UTRを短くする方法は知られていない。
【0011】
  本出願における開示は、上記従来の問題点を解決するためになされたものであり、鋭意研究を行ったところ、(1)目的タンパク質のアミノ酸配列をコードするコード領域の5’末端側のUTRである第1配列および3’末端側のUTRである第2配列の組合せに着目し、(2)第1配列および第2配列が接合部を形成できるように設計することで、5’UTRを短くできることを新たに見出した。
【0012】
  すなわち、本出願の開示の目的は、比較的短い5’UTRにもかかわらず、目的タンパク質を合成できる翻訳促進剤、翻訳鋳型mRNA、転写鋳型DNA、翻訳鋳型mRNAの生産方法、および、タンパク質の生産方法を提供することである。
 
【課題を解決するための手段】
【0013】
  本出願の開示は、以下に示す、翻訳促進剤、翻訳鋳型mRNA、転写鋳型DNA、翻訳鋳型mRNAの生産方法、および、タンパク質の生産方法に関する。
【0014】
(1)無細胞タンパク質合成系に用いる翻訳促進剤であって、
  該翻訳促進剤は、
    目的タンパク質のアミノ酸配列をコードするコード領域の5’末端に隣接して連結される5’非翻訳領域としての核酸である第1配列と、
    目的タンパク質のアミノ酸配列をコードするコード領域の3’末端に隣接して連結される3’非翻訳領域としての核酸である第2配列と、
の組合せであり、
  第1配列および第2配列は、接合部を形成する相補配列を有する
  翻訳促進剤。
(2)第1配列の核酸の長さが3以上である
  上記(1)に記載の翻訳促進剤。
(3)第2配列の核酸の長さが20以上である
  上記(1)または(2)に記載の翻訳促進剤。
(4)第2配列が接合部より3’側にA(アデニン)が連続するポリA配列を更に含む
  上記(1)〜(3)の何れか一つに記載の翻訳促進剤。
(5)第1配列および/または第2配列が、1個以上のステムまたはステムループを含む
  上記(1)〜(4)の何れか一つに記載の翻訳促進剤。
(6)第1配列の接合部より3’側の核酸の数および第2配列の接合部より5’側の核酸の数の和が25以下である
  上記(1)〜(5)のいずれか一つに記載の翻訳促進剤。
(7)上記(1)〜(6)の何れか一つに記載の翻訳促進剤と、
  第1配列と第2配列との間に配置される目的タンパク質のアミノ酸配列をコードするコード領域と
  を含む翻訳鋳型mRNA。
(8)無細胞タンパク質合成系に用いる転写鋳型DNAであって、
  該転写鋳型DNAは、
    プロモーター領域と、
    目的タンパク質のアミノ酸配列をコードするコード領域と、
    上記(1)〜(6)の何れか一つに記載の翻訳促進剤と、
を含み、
    翻訳促進剤の第1配列はプロモーター領域とコード領域との間に配置され、
    翻訳促進剤の第2配列はコード領域の3’末端に隣接して連結されている
  転写鋳型DNA。
(9)無細胞タンパク質合成系に用いる翻訳鋳型mRNAの生産方法であって、
  細胞の不存在下であってかつ転写鋳型DNAをmRNAに転写するための要素の存在下で上記(8)に記載の転写鋳型DNAを用いて翻訳鋳型mRNAを合成する工程、
を備える、翻訳鋳型mRNAの生産方法。
(10)タンパク質の生産方法であって、
  細胞の不存在下であってかつ翻訳鋳型mRNAをタンパク質に翻訳するための要素の存在下で、上記(7)に記載の翻訳鋳型mRNAまたは上記(9)に記載の翻訳鋳型mRNAの生産方法で生産した翻訳鋳型mRNAを用いてタンパク質を合成する工程、
を備える、タンパク質の生産方法。
 
【発明の効果】
【0015】
  本出願で開示する翻訳促進剤を用いると、比較的短い5’UTRにもかかわらず、目的タンパク質を合成できる。
 
 
【発明を実施するための形態】
【0017】
  以下に、本出願で開示する、翻訳促進剤、翻訳鋳型mRNA、転写鋳型DNA、翻訳鋳型mRNAの生産方法、および、タンパク質の生産方法について詳しく説明する。なお、以下の説明は、理解を容易にするためのものであり、本出願で開示する技術事項の範囲は、以下の説明に限定されない。以下の例示以外にも、本出願で開示する趣旨を損なわない範囲で適宜変更できることは言うまでもない。
 
【0018】
(翻訳促進剤)
  
図1および
図2を参照して、翻訳促進剤の実施形態について説明する。
図1は、翻訳促進剤の概略を説明する概略図である。
図2は翻訳促進剤の接合部の概略を説明する概略図である。翻訳促進剤1は、5’非翻訳領域としての核酸である第1配列2と、3’非翻訳領域としての核酸である第2配列3と、の組合せである。第1配列2は、目的タンパク質のアミノ酸配列をコードするコード領域4の5’末端(startコドン)に隣接して連結される。第2配列3は、目的タンパク質のアミノ酸配列をコードするコード領域4の3’末端(stopコドン)に隣接して連結される。なお、「stopコドン」はアミノ酸に翻訳されないことから3’非翻訳領域として考えられる場合もあるが、本明細書において「第2配列3」には「stopコドン」は含まれない。換言すると、「stopコドン」はコード領域4の配列と規定する。ただし、stopコドンの一部が相補対を形成することを妨げるものではない。第1配列2および第2配列3は、接合部Cを形成する相補配列CSを有する。
 
【0019】
  第1配列2の核酸の長さは、第2配列3と接合部が形成されれば特に制限はない。第1配列2の核酸の長さは、例えば、1以上、2以上、3以上、4以上、5以上とすればよい。なお、翻訳鋳型であるmRNAを核酸合成により作製する場合は、上記のとおり第1配列2の長さは1以上であればよい。一方、転写鋳型DNAから転写により翻訳鋳型mRNAを作製する場合は、プロモーターより3’側の転写開始点からmRNAの転写が開始される。したがって、転写鋳型DNAから翻訳鋳型mRNAを作製する場合、第1配列2はプロモーターの種類に応じた転写開始点の配列を少なくとも含む長さとすればよい。
 
【0020】
  第1配列2は、第2配列3と接合部を形成することができ、且つ、目的タンパク質を合成できる範囲内であれば長さに上限はない。なお、本出願で開示する翻訳促進剤1は、第1配列2および第2配列3が接合部を形成する相補配列CSを有するように設計することで、従来の5’UTRより第1配列2を短くできることが特徴である。コスト的観点から、目的タンパク質を合成することができればUTRは短い方が好ましい。したがって、第1配列2の核酸の長さは、限定されるものではないが、例えば、70以下、65以下、60以下、55以下、50以下、45以下、40以下、35以下、30以下、25以下、20以下、15以下、10以下としてもよい。
 
【0021】
  第2配列3の核酸の長さは、第1配列2と接合部が形成されれば特に制限はない。第2配列3の核酸の長さは、例えば、1以上、2以上、3以上、4以上、5以上とすればよい。なお、特許文献3〜7に記載されているように、3’UTRの長さは目的タンパク質の合成効率に影響を与える旨の報告が多い。したがって、目的タンパク質の合成効率の向上との観点では第2配列3の核酸を更に長くしてもよく、例えば、20以上、25以上、30以上としてもよい。どの程度の長さとするのかは、目的タンパク質の種類および第1配列2の長さ等に応じて適宜調整すればよい。
 
【0022】
  第2配列3は、第1配列2と接合部を形成することができ、且つ、目的タンパク質を合成できる範囲内であれば長さに上限はない。しかしながら、第1配列2と同様、コスト的観点から、目的タンパク質を合成することができればUTRは短い方が好ましい。したがって、第2配列3の核酸の長さは、限定されるものではないが、例えば、55以下、50以下、45以下、40以下、35以下、30以下、25以下としてもよい。
 
【0023】
  次に、
図2を参照して接合部の具体例についてより詳しく説明する。先ず、本明細書において「接合部」とは、第1配列2および第2配列3が相補対を形成する領域を意味する。また、「接合部」は、第1配列2をコード領域4の5’末端側に連結し第2配列3をコード領域4の3’末端側に連結して翻訳鋳型mRNAを作製した時に、翻訳鋳型mRNAが環状構造を形成するための接着部分と言うこともできる。
 
【0024】
  接合部Cを形成する相補対(塩基対)の数に特に制限はない。第1配列2および/または第2配列3に含まれる全ての核酸(塩基)が接合部を形成してもよいし、一部の核酸が接合部を形成してもよい。例えば、
図2(a)に示す例では、隣接する2組の相補対で接合部Cが形成されている。また、
図2(a)に示す例では、第1配列2の5’末端の端部2つの核酸が相補対を形成しているが、相補対を形成する核酸は5’末端から下流側であってもよい。換言すると、第1配列2は接合部Cより5’側(上流側)に相補対を形成しない核酸を含んでいてもよい。第2配列3に関しても第1配列2と同様、相補対を形成する核酸は3’末端の端部からでもよいし、
図2(a)に示す例のように、3’末端より上流側(5’側)から相補対を形成してもよい。
 
【0025】
  図2(b)に示すように、接合部Cは相補対を形成しない核酸配列を含んでいてもよい。その場合、「接合部」は相補対を形成する核酸の端部から端部までの領域を意味する。
図2(b)に示す例では、第1配列2は5個の核酸を有し、5’末端から2個の核酸と3’末端から1個の核酸が第2配列3の核酸と相補対を形成している。したがって、
図2(b)に示す例では、第1配列2は全ての核酸が接合部Cを形成し、接合部C中に相補対を形成しない配列が含まれている。一方、
図2(b)に示す例では、第2配列3は一部の核酸が接合部Cを形成し、接合部C中に相補対を形成しない配列が含まれている。
 
【0026】
  図2(c)に示すように、接合部Cは1以上のループLを含んでいてもよい。
図2(c)に示す例では、第1配列2に1つのループLが形成されているが、ループLの数は2以上であってもよい。また、図示は省略するが、第2配列3のみにループLが形成されてもよいし、第1配列2および第2配列3の両方にループLが形成されてもよい。
 
【0027】
  図2(d)に示すように、接合部Cは1以上のステムループSLを含んでいてもよい。
図2(d)に示す例では、第1配列2に1つのステムループSLが形成されているが、ステムループSLの数は2以上であってもよい。また、図示は省略するが、第2配列3のみにステムループSLが形成されてもよいし、第1配列2および第2配列3の両方にステムループSLが形成されてもよい。
 
【0028】
  図2(a)〜
図2(d)に示す例は、接合部Cの配置の例示に過ぎず、例示した配置に限定されるものではない。例えば、第1配列2がループLを有し、第2配列3がステムループSLを有する等、
図2(a)〜
図2(d)に記載の例を組合わせてもよい。また、
図2(a)〜
図2(d)に示す例は、接合部Cの配置である。例えば、第1配列2が接合部Cを形成する以外の配列を有する場合には、接合部Cの形成に関与しない配列部分がループまたはステムループを含んでいてもよい。同様に、第2配列3が接合部Cを形成する以外の配列を有する場合には、接合部Cの形成に関与しない配列部分がループまたはステムループを含んでいてもよい。接合部Cを形成し、且つ、翻訳促進剤1として機能する範囲であれば、第1配列および第2配列3の配列に特に制限はない。
 
【0029】
  また、
図2(a)に示す例のように、第1配列2および第2配列3が相補対を形成しない核酸を含む場合、相補対を形成しない核酸の数を調整してもよい。
図3を参照して核酸の数について説明する。第1配列2の接合部Cより3’側の核酸、換言すると、startコドンの直前までの核酸配列を配列A(SQ.A)と規定する。第2配列3の接合部Cより5’側の核酸、換言すると、stopコドンの直前までの核酸配列を配列B(SQ.B)と規定する。
図3に示す例では、配列A=2、配列B=3である。後述する実施例に示すとおり、タンパク質の発現には配列A+配列Bの数が少ない方が好ましい。限定されるものではないが、例えば、配列A+配列Bは、25以下、20以下、15以下、13以下、11以下、10以下、6以下とすることが望ましい。
 
【0030】
(翻訳促進剤1の任意付加的な構成)
  
図1および
図4を参照し、翻訳促進剤1の任意付加的な構成について説明する。
図4は、翻訳促進剤1の任意付加的な構成を説明する概略図である。第2配列3は、3’末端側にA(アデニン)が連続するポリA配列3aを更に含んでもよい。ポリA配列3aは、
図4(a)に示すように第2配列3の接合部Cの直後に連結してもよいし、
図4(b)に示すように接合部Cの後に続く第2配列3の3’末端に連結してもよい。
 
【0031】
  ポリA配列3aをmRNAの3’末端側に連結すると、目的タンパク質の翻訳効率の向上が期待できる。ポリA配列3aの長さは目的タンパク質の翻訳効率が向上する範囲で適宜設定すればよい。限定されるものではないが、ポリA配列3aの長さ(個数)は、例えば、2以上、3以上、4以上、5以上、6以上、7以上、8以上、9以上、10以上、11以上、12以上、13以上、14以上、15以上とすればよい。一方、上限に関しては、目的タンパク質を合成できる範囲内であれば特に制限はないが、プライマー設計上の観点やコストの観点から、ポリA配列3aの長さ(個数)は、50以下、45以下、40以下、35以下、30以下、とすればよい。
 
【0032】
(翻訳鋳型mRNAの実施形態)
  
図1乃至
図4を参照して翻訳鋳型mRNAの実施形態について説明する。翻訳鋳型mRNA10は、
図1乃至
図4に示す翻訳促進剤1の第1配列2と第2配列3との間に目的タンパク質のアミノ酸配列をコードするコード領域4が配置されている。本出願で開示する翻訳促進剤1を含むことで、翻訳鋳型mRNAの5’UTRを短くできる。図示は省略するが、コード領域4はループおよびステムループから選択される1以上の構造を含んでいてもよい。
 
【0033】
  また、第1配列2の接合部Cより3’側に接合部Cを形成しない核酸配列を有する場合は、接合部Cを形成しない核酸配列とコード領域4とが共同してループおよびステムループから選択される1以上の構造を形成してもよい。第2配列3の接合部Cより5’側に接合部Cを形成しない核酸配列を有する場合も同様に、接合部Cを形成しない核酸配列とコード領域4とが共同してループおよびステムループから選択される1以上の構造を形成してもよい。
 
【0034】
  翻訳促進剤1が翻訳鋳型mRNAに適用される場合には、コード領域4の5’末端側および3’末端側に一本鎖の核酸として備えられる。一方、翻訳促進剤1が後述する転写鋳型DNAに適用される場合には、コード領域4の5’末端側および3’末端側に二本鎖の核酸として備えられる。
 
【0035】
(転写鋳型DNA)
  
図5を参照して、転写鋳型DNAの実施形態について説明する。
図5は、転写鋳型DNAの概略を説明する概略図である。転写鋳型DNA100は、プロモーター領域5と、目的タンパク質のアミノ酸配列をコードするコード領域4と、翻訳促進剤1(第1配列2および第2配列3、並びに、必要に応じてポリA配列3a)と、を含む。翻訳促進剤1は、既に説明済みであることから、プロモーター領域5とコード領域4について、以下により詳しく説明をする。
 
【0036】
  プロモーター領域5は、遺伝子の転写が行われるときの転写開始部分として機能すれば、配列は特に制限はなく、当該技術分野で公知のプロモーター配列を採用することができる。プロモーター領域5を構成する配列としては、例示であって限定するものではないが、公知のT7プロモーター配列、SP6プロモーター配列、T3プロモーター配列などが挙げられる。
 
【0037】
  コード領域4は、目的タンパク質のアミノ酸をコードする核酸配列であり、且つ、プロモーター領域5によって作動可能となるように連結されていれば特に制限はない。また、翻訳促進剤1の第1配列2は、プロモーター領域5とコード領域4との間に配置される。
 
【0038】
  なお、
図5に示す例では、第1配列2の直後にコード領域4が連結しているが、コード領域4の第1配列2側に、コード領域4により合成される目的タンパク質に付加するプロテインタグ(N末端プロテインタグ)をコードする配列を連結してもよい。プロテインタグ配列を含むことで、目的タンパク質をタグ付きの融合タンパク質として合成できる。同様に、コード領域4の第2配列3側に、コード領域4により合成される目的タンパク質に付加するプロテインタグ(C末端プロテインタグ)をコードする配列を連結してもよい。C末端プロテインタグ配列およびN末端プロテインタグ配列は、いずれか一方のみ連結してもよいし、両方を連結してもよい。
 
【0039】
  C末端プロテインタグおよびN末端プロテインタグは、例えば、Hisタグ、GSTタグ、MBPタグ、mycタグ、FLAGタグ、BCCPタグが挙げられる。また、視覚的に検出可能なものとしては、例えば、GFP(Green  Fluorescent  Protein)、BFP(Blue  Fluorescent  Protein)、CFP(Cyan  Fluorescent  Protein)、RFP(Red  Fluorescent  Protein)、YFP(Yellow  Fluorescent  Protein)、EGFP(Enhanced  Green  Fluorescent  Protein)、ECFP(Enhanced  Cyan  Fluorescent  Protein)、ERFP(Enhanced  Red  Fluorescent  Protein)、EYFP(Enhanced  Yellow  Fluorescent  Protein)、TMR(TetraMethyl−Rhodamine)、ルシフェラーゼ等が挙げられる。なお、上記C末端プロテインタグおよびN末端プロテインタグは、単なる例示で、その他のプロテインタグであってもよい。
 
【0040】
  なお、C末端プロテインタグ配列およびN末端プロテインタグ配列は、任意のタンパク質配列のN末端および/またはC末端に対して直接連結されてもよいし、適当なリンカー配列を介して連結されてもよい。
 
【0041】
  転写鋳型DNA100は、後述する無細胞タンパク質合成系に用いる要素の一つである。転写鋳型DNA100は、PCR等で合成された直鎖状の他、プラスミドなどの環状体であってもよい。転写鋳型DNA100がDNA二本鎖の形態の場合、センス鎖が翻訳促進剤1としてポリA配列3aを有しているとき、アンチセンス鎖は対応してポリT配列を有していることになる。
 
【0042】
  転写鋳型DNA100は、公知の化学的又は遺伝子工学的方法により取得できるが、後述するように、PCR等の核酸増幅反応を利用して遺伝子やcDNAを鋳型として取得することもできる。また、翻訳鋳型mRNA10は、ツーステップ法等に適用される公知の翻訳鋳型mRNAの合成方法により取得することができる。
 
【0043】
(転写鋳型DNAの生産方法)
  無細胞タンパク質合成系のための転写鋳型DNA100の生産方法は、目的タンパク質のコード領域4を含むDNAに対して核酸増幅反応を実施して、転写鋳型DNA100を合成する工程、を備えることができる。転写鋳型DNA100は、例えば、適宜設計したプライマーセットを用いて、目的タンパク質のアミノ酸配列をコードするコード領域4を含むDNAに対して、PCRの核酸増幅反応により得ることができる。
 
【0044】
  また、転写鋳型DNA100は、ベクターを用いて取得することもできる。タンパク質のアミノ酸配列をコードするコード領域4を少なくとも含むDNAをベクターに挿入することによって鋳型核酸を取得できる。こうして作製したベクターは、それ自体を転写鋳型DNAとして用いることができるし、ベクターから転写鋳型DNAに相当するDNA断片を切り出して用いることもできる。
 
【0045】
  転写鋳型DNA100は、例えば、PCR反応液(すなわち、転写鋳型DNA100を精製することなく)として、無細胞タンパク質合成系に適用してもよいし、適宜精製等して無細胞タンパク質合成系に適用してもよい。
 
【0046】
(翻訳鋳型mRNAの生産方法)
  無細胞タンパク質合成系のための翻訳鋳型mRNAの生産方法は、細胞の不存在下であってかつ転写鋳型DNAをmRNAに転写するための要素の存在下で転写鋳型DNA100を用いて翻訳鋳型mRNA10を合成する工程、を備えることができる。より具体的には、転写鋳型DNA100を含むPCR反応液又はベクターに由来する転写鋳型DNA100に対して、転写鋳型DNA100が備えるプロモーター領域5に適合するRNAポリメラーゼおよびRNA合成用の基質(4種類のリボヌクレオシド3リン酸)等を転写反応に必要な成分を含む組成の下で、例えば、約20℃〜60℃、好ましくは、約30℃〜42℃で適当な時間インキュベートすることにより翻訳鋳型mRNA10を得ることができる。なお、上記の例は、転写鋳型DNA100から翻訳鋳型mRNA10を合成する手順を示している。代替的に、mRNAの長さにもよるが、核酸合成により翻訳鋳型mRNA10を直接合成してもよい。
 
【0047】
  翻訳鋳型mRNA10の生産方法は、無細胞タンパク質合成系としての転写/翻訳系の一部として実施することができるし、翻訳鋳型mRNA10の翻訳系への適用に先立つ工程として実施することもできる。こうして得られた翻訳鋳型mRNA10は、その反応液を、翻訳系に適用することができる。
 
【0048】
(タンパク質の生産方法)
  タンパク質の生産方法は、細胞の不存在下であってかつ翻訳鋳型mRNAからタンパク質に翻訳するための要素の存在下で、翻訳鋳型mRNA10を用いてタンパク質を合成する工程、を備えることができる。タンパク質の生産方法は、また、細胞の不存在下であってかつ転写鋳型DNAをmRNAに転写するための要素の存在下で転写鋳型DNA100を用いて翻訳鋳型mRNA10を合成する工程も備えることができる。さらに、タンパク質の生産方法は、目的タンパク質のコード領域4を含むDNAに対して核酸増幅反応を実施して、前記転写鋳型DNA100を合成する工程を備えることもできる。本出願で開示するタンパク質の生産方法は、翻訳促進剤1を含む翻訳鋳型mRNA10、転写鋳型DNA100を用いるために、5’UTRを短くできる。
 
【0049】
  以下に実施例を掲げ、本出願で開示する実施形態を具体的に説明するが、この実施例は単に実施形態の説明のためのものである。本出願で開示する発明の範囲を限定したり、あるいは制限することを表すものではない。
 
【実施例】
【0050】
<実施例1〜19、比較例1>
(1)転写鋳型DNAの構造
  
図5を参照して、実施例1〜19および比較例1で用いた転写鋳型DNAの概略について説明する。転写鋳型DNAは、
図5に示すように、
・5’非翻訳領域(5’UTR):T7プロモーター5+第1配列2
・コード領域4:GFP−His
・3’非翻訳領域(3’UTR):第2配列3(核酸の長さ20個)+ポリA配列3a(Aの長さ15)
から構成されている。
【0051】
  実施例1〜19および比較例1では、翻訳促進剤(TRANSLATION  ENHANCER)の第1配列2の長さおよび種類を変えて実験を行った。第1配列2を除く配列は、以下のとおりである。
【0052】
【表1】
【0053】
  実施例1〜19および比較例1の第1配列2(First  SEQ)を表2に示す。実施例1〜19では、第1配列2の長さを5〜33まで変化させた。なお、比較例1のΩは、タバコモザイクウイルス由来の公知の5’UTR(核酸の長さ66個)翻訳促進剤であり、詳細は特表2013−503640号公報に記載されている。
【0054】
【表2】
【0055】
(2)PCRによる転写鋳型DNAの作製
  転写鋳型DNAは、実施例1では表3に示される1組のプライマー(フォワード側:FW−1−1A、リバース側:RV)を設計し、転写鋳型DNAをPCRにより作製した。なお、プライマーは、受託合成サービス(ユーロフィンジェノミクス株式会社)により作製した。実施例2〜19のフォワードプライマーは、下記表3のFW−1−1−Aの太字アンダーライン部分(GGGCC)を、それぞれ、表2の実施例2〜19の配列に置き換えたものを使用した。実施例2〜19のリバースプライマーは、実施例1と同様のRVを使用した。比較例1のΩは、フォワードプライマーにFW−Ω(SEQ.ID.25)を用いた以外は実施例1と同様に作製した。
【0056】
【表3】
【0057】
  PCRの反応溶液組成を表4に示す。また、反応サイクルを表5に示す。なお、使用した試薬および機械は以下のとおり。
・PCR酵素:東洋紡株式会社  KOD−Plus−Neo
・Thermal  Cycler:eppendorf社製  Mastecycler  X50s
【表4】
【0058】
【表5】
【0059】
(3)転写反応
  次に、作製した転写鋳型DNAを用いて、翻訳鋳型mRNAを作製した。転写反応は、NUProtein社製PSS4050の以下の表5に示す反応液を用い、先に作製したPCR反応溶液(転写鋳型DNA含有)2.5μlを用いて、37℃で3時間行った。
【0060】
【表6】
【0061】
  転写反応液25μlに対して10μlの4M  酢酸アンモニウムを加えてよく混合し、さらに、100μlの100%エタノールを加え転倒混和し、卓上遠心機で数秒間遠心分離した後、−20℃で10分静置した。その後、遠心分離(12,000rpm、15分、4°C)した。上清を除去後、卓上遠心機を用い数秒間遠心した。再度上清を除去し、沈殿が乾燥するまで静置した。その後、転写反応液25μlに対して40μlのRNase  free水(DEPC水)を加え、チップで沈殿をよく懸濁した。PSS4050プロトコルに従い、110μl翻訳溶液中のmRNA量を35μgとなるように核酸濃度測定を行い、80μlにフィルアップし、これを翻訳鋳型mRNA溶液とした。
【0062】
(4)翻訳反応
  次に、以下の組成の翻訳反応液を用いて、16℃のインキュベーターにいれて10時間反応させた。なお、以下の組成のうち、翻訳鋳型mRNAを除いた組成液を調製し、その後、この組成液を室温に戻した後に、翻訳鋳型mRNAを添加して、泡を立てないようにポンピングして、反応させた。Wheat  germ  extract、および、amino  acid  mixは、NUProtein社製PSS4050用いた。
【0063】
【表7】
 
【0064】
  反応後、反応液をエッペンドルフチューブに回収し、遠心分離(15,000rpm、15分、4℃)を行い、上清を翻訳完了後のGFP溶液とした。
【0065】
[合成されたGFPの蛍光測定]
  実施例1〜19および比較例1で合成されたGFPの蛍光測定を行った。合成されたGFPを含む溶液220μlを試料とし、波長475nmの励起光を照射して、GFPからの蛍光をプレートリーダで測定した(吸収フィルター500−550nm)。プレートリーダには、GloMax(登録商標)プレートリーダ(プロメガ社)を用いた。測定結果を
図6に示す。
図6は、比較例1のΩの測定値を100とし、実施例1〜19の測定値を比較例1に対する相対値で表したグラフである。
【0066】
  また、実施例で作製した翻訳鋳型mRNAの内、実施例1、3、18および19の翻訳鋳型mRNAを2次構造予測ソフト  MXfold(http://www.dna.bio.keio.ac.jp/mxfold/)を用いて解析し、forna(http://rna.tbi.univie.ac.at/forna/)を用いて2次構造を可視化した。
図7Aおよび
図7Bは、可視化した実施例1、3、18および19の2次構造の結合部C付近の拡大図である。
【0067】
  なお、
図7Aおよび
図7B中の“start”の矢印は開始コドンである「AUG」のAを示している。Startの矢印のAより5’側が第1配列2に相当する。図中の“stop”は終止コドンである「UAG」のGを示している。Stopの矢印のGより3’側が第2配列3に相当する。
【0068】
  図7Aおよび
図7Bから明らかなように、相補配列を含むように翻訳促進剤の配列を設計することで第1配列2および第2配列3が接合部Cを形成できることを確認した。また、第1配列2および第2配列3の長さおよび配列を工夫することで、例えば、
(1)第1配列2単独で接合部Cより3’側(コード領域4側)にステムループSLを形成できること(実施例18および19)、
(2)接合部Cの中にループLを形成できること(実施例19)、
(3)第1配列2および/または第2配列3とコード領域4とが共同することで、mRNAにループLを形成できること(実施例1、3および18)、
を確認した。なお、その他の実施例に関しては2次構造の図示を省略するが、表2に示すように、全ての実施例において第1配列2の5’末端側の5個の核酸配列は同じであり、第2配列3も全ての実施例で同じであることから、接合部Cを形成できることは明らかである。
【0069】
  図6に示すように、第1配列2の核酸の長さが僅か5個(1−1−A)でもmRNAからタンパク質を合成することができ、長さが9個(1−3−A)の実施例3では5’UTRの翻訳促進剤として知られているΩの約2.5倍の翻訳促進効果を示した。以上の結果から、5’UTRと3’UTRで接合部Cを形成することで、5’UTRを短くできることを確認した。なお、5’UTRを短くできる機序は明らかではないが、
図7Aおよび
図7Bの2次構造からみて、接合部Cを形成することでstartコドンとstopコドンの位置が近くなり、翻訳終了後に速やかに次の翻訳が開始されるのではないかと推測される。
【0070】
<実施例20〜29>
  上記推測を確認するため、接合部Cからstartコドン直前までの第1配列2およびstopコドン直後から接合部Cまでの第2配列3の核酸数の和を変える実験を行った。具体的には、実施例1〜19に記載の第1配列2を表8の10個の核酸配列(SEQ.ID.27)とした。そして、「GGGCC」部分が接合部を形成し、「AAAGA」部分は接合部Cを形成しないように第2配列3を設計した。つまり、第1配列2の接合部Cからstartコドン直前までの核酸(配列A)は5個に固定した。
【0071】
  第2配列3の接合部Cを形成する配列は、表8に示すように、実施例20では「GCCC」とし、stopコドンの最後のGを含めて第1配列の「GGGCC」と接合部Cを形成するように設計した。stopコドンの最後のGも接合部Cを形成していることから、実施例20のstopコドン直後から接合部Cまでの核酸数(配列B)は0である。
【0072】
  実施例21では第2配列3の接合部Cを形成する配列を「GGCCC」とし、第1配列2の「GGGCC」と接合部Cを形成した上で、接合部Cからstopコドン直前までの核酸数(配列B)がアデニン(A)の一つとなるように設計した(表8のSEQ.ID.30のアンダーラインが付された太文字A)。実施例22〜28は、実施例21の配列Bにアデニン(A)のみを追加することで長さを調節したことから、配列表の記載は省略する。プロモーターは実施例1〜19と同じ、コード領域4は表8に示すGFPを用いた。
【0073】
【表8】
【0074】
  実施例20〜28の概略を以下に記載する。配列Aの長さは全て5である。配列Bはアデニン(A)の数である。
・実施例20(1−4−A/RV0):配列B=0、配列A+B=5
・実施例21(1−4−A/RV1A):配列B=1、配列A+B=6
・実施例22(1−4−A/RV5A):配列B=5、配列A+B=10
・実施例23(1−4−A/RV10A):配列B=10、配列A+B=15
・実施例24(1−4−A/RV15A):配列B=15、配列A+B=20
・実施例25(1−4−A/RV20A):配列B=20、配列A+B=25
・実施例26(1−4−A/RV30A):配列B=30、配列A+B=35
・実施例27(1−4−A/RV40A):配列B=40、配列A+B=45
・実施例28(1−4−A/RV50A):配列B=50、配列A+B=55
【0075】
・比較対象(実施例29、GFP−1+PlyA)として、(1)第1配列2の核酸数は23、第1配列2の接合部Cを形成する核酸数は4、配列Aの核酸数は19、(2)第2配列3の核酸数は40(ポリA配列を含む)、第2配列3の接合部Cを形成する核酸数は4、配列Bの核酸数は21、の翻訳鋳型mRNAを作製した。
【0076】
  図8は実施例20、21および29で作製した翻訳鋳型mRNAを2次構造予測ソフト  MXfold(http://www.dna.bio.keio.ac.jp/mxfold/)を用いて解析し、forna(http://rna.tbi.univie.ac.at/forna/)を用いて2次構造を可視化した図である。実施例20,21および29において、配列Aおよび配列Bの数が設計通りになっていることを確認した。図示は省略するが、実施例22〜28で作製した翻訳鋳型mRNAも設計通りであることを確認した。
【0077】
  実施例20〜28のフォーワードプライマー(FW−1−4−A)は全ておなじものを使用した。実施例20のリバースプライマー(RV−0)および実施例21のリバースプライマー(RV−1)を表9に示す。なお、実施例22〜28のリバースプライマーは、RV−1の「GGGCCTC」(表9のSEQ.ID.33のアンダーライン部分)の“T”の長さを変えればよい。したがって、実施例22〜28のリバースプライマーの記載は省略する。実施例29のフォワードプライマー(FW−GFP−1+PlyA)、リバースプライマー(RV−GFP−1+PlyA)は表9に示す。
【0078】
【表9】
【0079】
  図9に合成したGFPの蛍光測定結果を示す。
図9は、比較対象(実施例29、GFP−1+PlyA)の測定値を100とし、実施例20〜28の測定値を実施例29に対する相対値で表したグラフである。
図9から明らかなように、配列Aおよび配列Bの数が少ない、換言すると、startコドンとstopコドンが近くに配置されると、翻訳効率が高くなることを確認した。
【0080】
<実施例30、比較例2>
  次に、実施例29の第2配列3の3’末端側のポリA配列を除いた実験を行った。実施例30は実施例29のポリA配列を除いた以外は、実施例29と同様である。比較例2は、5’UTRとして特開2003−556626号公報に記載の翻訳促進剤、3’UTRとして国際公開第2016/143799号に記載のpolyA配列を用いた。なお、比較例2の3’UTRはstopコドンの直後にポリA配列が連結しているため、接合部を形成しない。表10にプライマーを示す。実施例30のFWは実施例29と同様である。プライマーが異なる以外は、上記実施例と同様の手順でGFPの蛍光を測定した。
【0081】
【表10】
【0082】
  図10に合成したGFPの蛍光測定結果を示す。なお、対比のため、実施例29の測定結果も併せて示す。
図10は、比較例2の測定値を100とし、比較例2に対する相対値で表したグラフである。
図10から明らかなように、5’UTRおよび3’UTRが接合部を形成することで、公知の5’翻訳促進剤および3’翻訳促進剤を組合わせた翻訳鋳型mRNAより、より多くのタンパク質を合成できた。また、本出願で開示する翻訳促進剤は、第2配列3の3’側にポリA配列を付加すると、翻訳効率が更に向上することを確認した。
 
 
【解決手段】無細胞タンパク質合成系に用いる翻訳促進剤であって、該翻訳促進剤は、目的タンパク質のアミノ酸配列をコードするコード領域の5’末端に隣接して連結される5’非翻訳領域としての核酸である第1配列2と、目的タンパク質のアミノ酸配列をコードするコード領域の3’末端に隣接して連結される3’非翻訳領域としての核酸である第2配列3と、の組合せであり、第1配列および第2配列は、接合部Cを形成する相補配列を有する、翻訳促進剤。