(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を説明する。本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味で用いられることが理解されるべきである。したがって、他に定義されない限り、本明細書中で使用される全ての専門用語および科学技術用語は、本発明の属する分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。矛盾する場合、本明細書(定義を含めて)が優先する。
【0011】
本明細書において、「加工」とは、研削、研磨、切削など、被加工物の表面を除去する処理のことをいう。
【0012】
本明細書において、「約」とは、後に続く数字の±10%の範囲内をいう。
【0013】
本発明は、加工熱を効果的に冷却することができ、被加工物との接触部分での発熱を十分に抑制することが可能な加工工具を得ることを課題とし、
回転軸を有する加工工具であって、
上部と側壁と底部とを含むカップ形状の工具本体と、
側壁の外周を囲むように工具本体に設けられた周壁と
を備えることにより、上記の課題を解決したものである。
【0014】
このような構成の加工装置では、液体供給部から液体が加工工具の側壁の上面に供給されると、工具本体の側壁と周壁との間の領域に液体が貯留されることにより、加工工具を冷却することが可能となる。さらに、本発明の加工工具は、側壁に、液体が通過可能な複数の貫通孔が形成されていてもよい。このようにすることにより、貫通孔を介して工具本体の内側に液体を流すことが出来る。工具本体の内側に流れた液体は工具本体の回転遠心力により工具本体および被加工物に流れる。これにより、加工工具における被加工物との接触による加工熱を効果的に冷却することができ、加工工具の摩耗や加工屑の加工工具への融着を防止し、加工工具の寿命や加工精度の向上を図ることが可能となる。
【0015】
従って、本発明の加工工具は、側壁を有するカップ形状の工具本体と、側壁の外周を囲む周壁とを備え、側壁に複数の貫通孔が形成されたものであれば、その他の構成は、特に限定されるものではなく、任意であり得る。
【0016】
(工具本体)
工具本体は、加工装置に被加工物を加工する加工部材を取り付けるためのものであって、加工装置の回転軸に装着される上部と、加工部材を取り付けるための底部と、上部と底部とを接続する周壁とを備える。ここで、工具本体の形状は、カップ形状を有する。
【0017】
また、カップ形状の側壁部分の形状は、円筒体でも、多角形の筒体でもよく、さらには円錐台形状あるいは角錐台形状の筒体でもよい。好ましくは、円錐台形状であり得る。
【0018】
さらに、カップ形状の工具本体の側壁に形成されている液体が通過可能な複数の貫通孔の配置、個数、サイズおよび形状は特に限定されるものではなく、任意であり得る。貫通孔の形状は、例えば、略円形、略楕円形、略矩形などである。
【0019】
好ましくは、複数の貫通孔の配置は、工具本体の回転軸の軸回りに所定の間隔を持って設けられる。このようにすることで工具本体の全体に対して略均一に液体を供給することが可能となる。ただし、本発明はこれに限定されない。例えば、複数の貫通孔は異なる間隔を持って配置されていてもよい。また、貫通孔は工具本体底面に設けられる加工部材の近傍に設けるのが好ましい。そのようにすることにより、より効率的に加工場の冷却を行うことが可能となる。
【0020】
また、好ましくは、複数の貫通孔のうち少なくとも1つの貫通孔の配置は、周壁と側壁との結合部近傍に設けられている。ここで近傍とは、周壁と側壁との結合部を境界に回転軸側とその反対側に約5mmの範囲のことを言う。さらに好ましくは、貫通孔は加工部材の近傍に設ける。加工部材の近傍に設けることによりさらに、工具本体だけでなく加工部材を効率的に冷却することが可能となる。
【0021】
このようにすることにより貫通孔を通過した液体が加工工具(特に加工部材)近くに供給することが可能となり、より効果的に加工熱の冷却を行うことが可能となる。さらに、加工屑に対して効果的に液体を供給することができ、加工屑の飛散をより効果的に防ぐことも可能となる。
【0022】
また、複数の貫通孔は、例えば、複数の貫通孔のうち1以上の貫通孔は、上部側に設けられる第1の開口部と、底部側に設けられる第2の開口部とを備えている。1以上の貫通孔は、第1の開口部の位置と第2の開口部の位置とが回転軸から同じ距離離れた位置であってもよいし、第1の開口部の位置が第2の開口部の位置よりも回転軸から離間した位置となるように傾斜するように構成されていてもよい。このように第1の開口部の位置が第2の開口部の位置よりも回転軸から離間した位置となるように傾斜させることで、工具本体内部に貯まった液体を遠心力によって均等に加工場(加工部材)に供給することが可能となる。
【0023】
さらに、複数の貫通孔は上述した1以上の貫通孔以外の他の1以上の貫通孔を含み、他の1以上の貫通孔は、上部側に設けられる第1の開口部と、底部側に設けられる第2の開口部とを備え、他の1以上の貫通孔は、第1の開口部の位置が第2の開口部の位置よりも加工工具の回転方向の前方側に位置するように傾斜するように構成されていてもよい。このようにすることにより、液体を効率よく加工場(加工部材)に向けて供給することができ、より効率的に加工場を冷却することが可能となる。
【0024】
複数の貫通孔(第1の開口部の位置が第2の開口部の位置よりも回転軸から離間した位置となるように傾斜するものおよび/または第1の開口部の位置が第2の開口部の位置よりも加工工具の回転方向の前方側に位置するように傾斜するもの)の大きさは任意であり得る。例えば、貫通孔の大きさはφ約2mm〜φ約5mmである。しかし、貫通孔の大きさは所望の液体供給量および/回転速度との関係で適宜調整され得るものであって、貫通孔の大きさは上記数値範囲に限定されない。1つの実施形態において、約12000rpmの加工工具において、貫通孔の大きさはφ約3mmである。
【0025】
工具本体の側壁の上面には、回転軸に対して半径方向外側に向かって放射状に拡がる複数の溝が形成されていてもよい。このような溝を設けることによって、溝内に貯留された水が勢いよく周壁に流れるようになりより効果的に工具本体を冷却することが可能となる。なお、溝の深さは、回転軸の半径方向に遠ざかるほど浅くなるように構成されていてもよいし、あるいは、溝の全体に渡って一定であってもよい。溝の深さは、回転軸の半径方向に遠ざかるほど浅くすることによって、溝内に溜まった水がスムーズに周壁側へ移動することが可能となる。
【0026】
(加工部材)
さらに、工具本体の底部は、被加工物に対する加工が可能な加工部材を装着可能であれば特に限定されるものではない。
【0027】
例えば、工具本体の底部には、被加工物を加工する加工部材が1以上取り付けられていてもよい。ここで、加工部材は、被加工物の表面を除去する加工を行うための部材であればどのようなものでもよく、例えば、加工部材は、研削、切断、剥離などを行う砥石であっても良いし、切削、切断、剥離などを行う加工刃(カッター)であってもよいし、研磨、剥離などを行うウレタンなどの柔軟な素材からなる研磨パッドであってもよい。
【0028】
また、底部に設ける加工部材の配置、形状や個数などは任意であり得る。例えば、ダイヤモンドカッターなど加工部材が硬い素材の場合は、加工における切り込み量を小さくし、その分加工部材の数を多くするのが好ましい。なお、ウレタンパッドなどの加工部材が柔らかい素材の場合は、目詰まりを防止するために切り込み量を大きくし、その分の数は少なくするのが好ましい。1つの実施形態において、工具本体がφ125mmの円筒体の場合において、φ10mmの丸いコマ状の切削チップを略均等に9個配置している。
【0029】
(周壁)
周壁は、工具本体の側壁の外周を囲むように工具本体に設けられたものであれば、その他の構成は限定されず、任意であり得る。例えば、周壁は、工具本体の側壁を囲む周壁本体と、周壁本体の上部に回転軸側に突出するフランジとを有するものでもよいし、フランジを有さず、周壁本体のみを有するものでもよい。また、周壁本体は、工具本体の側壁を囲むものであれば、周壁本体の形状は限定されるものではなく、任意であり得る。
【0030】
このような周壁が工具本体の外周を覆うように配置されていることで、工具本体の側壁上に液体が供給されたとき、液体が工具本体の側壁と周壁との間に溜まることとなり、供給された液体が工具本体の側壁の貫通孔を通ってカップ形状の工具本体の内部に流れ込み易くなる。これにより、工具本体および被加工物に液体が供給され易くなり、加工部材における被加工物の加工により生じる加工熱が液体で冷却されることとなる。フランジを設けることによって、加工工具の外部に液体が流れにくくなり、より効果的に工具本体の側壁と周壁との間に液体を溜めることが可能となる。
【0031】
周壁(例えば、周壁本体における)の高さは任意であり得る。ここで、周壁の高さとは、周壁(具体的には周壁本体)と側壁の上面とが当接する部分からの高さを意味する。例えば、周壁の高さは約5mm以上である。約5mm以上ですることで、側壁の上面(特に、後述する線状溝)から流れる液体が、加工工具の回転中に遠心力によって周壁と側壁の上面とで形成される領域に液体を溜めることが可能となる。1つの実施形態において、周壁本体の高さは約25mm、周壁本体と側壁の上面とが当接する部分からの高さは約10mmである。
【0032】
(被加工物)
被加工物は、表面が加工されるものであれば特に限定されるものではないが、例えば、被加工物は、アスベスト、コンクリート、モルタル、アスファルト、レンガ、セメント、石材およびそれらの複合材料からなる群から選択される材料を含むものでもよい。また、被加工物は、下地部材と、下地部材の表面を被覆する表面被覆材とを有するものでもよい。この場合、下地部材は、鋼鉄製部材あるいはコンクリート製部材などの構造物の骨格となる部材であり、表面被覆材は、アスベスト、モルタル、アスファルト、レンガ、石材およびそれらの複合材料からなる群から選択される材料で構成されていてもよい。
【0033】
さらに、上述した加工工具は、加工装置に装着して用いられるものであり、加工装置は、上述した加工工具と、加工工具を回転駆動する駆動部と、側壁の上面に液体を供給する液体供給部とを有するものであれば、その他の構成は特に限定されるものではない。
【0034】
(駆動部)
駆動部は、加工工具を回転させることができるものであれば、具体的な構成およびは任意であり得る。例えば、駆動源は電力であってもよいし、圧縮空気などであってもよい。これにより、駆動部により加工工具を回転させることが可能となり、加工装置を手動の工具としてではなく、電動工具あるいはエアー工具などの動力工具として利用することが可能となる。
【0035】
(液供給部)
さらに、液供給部もその構成が限定されるものではなく任意であり、例えば、水道管に接続された液供給管であってもよいし、貯水部から液体を汲み上げるポンプに接続された液供給管であってもよい。
【0036】
さらに、加工装置は、加工屑の飛散防止という観点からは、加工工具を覆う集塵カバーをさらに備えることが好ましいが、集塵カバーは必ずしも必須のものではない。
【0037】
(集塵カバー)
集塵カバーは、加工工具を覆う部材であって、加工工具による被加工物を加工した後の加工屑を外部に飛散しないようにすることが達成できれば、その形状などは任意であり得る。一つの実施形態において、集塵カバーはカップ形状からなる筒状体を有している。また、好ましくは、集塵カバー内に液体を供給する液供給部および/または集塵カバー内の加工屑や液体を外部に排出するための加工屑排出部を有している。集塵カバーの形状は、筒状体の一端側開口を平板で閉塞した構造でもよいし、中空の球体の一部を構成するドーム形状でもよい。
【0038】
また、集塵カバーは、内側カバーと内側カバーを囲む外側カバーとを備え、カバー支持機構により外側カバーを内側カバーに対して加工工具の回転軸の方向にスライド可能に支持するようにしたものでもよい。このようにすることで、加工を行わない際に加工工具が集塵カバーの内側に隠すことが可能となり、不用意に加工工具をぶつけたりして損傷するのを防ぐことが可能となる。さらに、加工を行うときには加工工具を被加工部材に押し付けることにより、集塵カバーがスライド移動し引っ込むことにより、加工工具が被加工部材に当接することが可能となる。
【0039】
また、液供給部および/または加工屑排出部はカップ形状の天板に取り付けられていてもよいし、あるいはカップ形状の周壁に取り付けられていてもよい。さらに、液供給管はカップ形状の天板に取り付けられ、屑排出管はカップ形状の周壁に取り付けられていてもよいし、あるいは、液供給管はカップ形状の周壁に取り付けられ、屑排出管はカップ形状の天板に取り付けられていてもよい。
【0040】
なお、液供給部および/または加工屑排出部は、工具本体に設けてもよいし、加工装置の駆動部に設けても良い。好ましくは、加工装置は液供給部および加工屑排出部を備え、それぞれが異なる場所に設けられる。しかしながら、本発明はこれに限定されない。
【0041】
ただし、以下の実施形態では、本発明の加工装置の一例として、加工工具が、円錐台形状の筒体からなる側壁を含む工具本体と、工具本体の側壁を囲むように設けられた周壁とを有し、工具本体の側壁には複数の貫通孔が側壁の周方向に沿って均等な間隔で並ぶように設けられているものを挙げる。
【0042】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0043】
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1による加工工具100の外観を示す斜視図であり、
図1(a)は、加工工具100の全体を示し、
図1(b)は、
図1(a)のB部分の拡大図である。
【0044】
〔加工工具100〕
実施形態1の加工工具100は、被加工物Pの表面を加工する工具であって、回転軸Arを有している。この加工工具100は、上部110aと側壁110bと底部110cとを含むカップ形状の工具本体110と、側壁110aの外周を囲むように工具本体110に設けられた周壁120とを備え、側壁110bに複数の貫通孔(第1の貫通孔)102aが形成されている。
以下、加工工具100を詳しく説明する。
【0045】
図2および
図3は、
図1に示す加工工具110の具体的な構造を示す図であり、
図2(a)は、
図1に示す加工工具110を紙面上方から見た構造を示す平面図、
図2(b)は、
図2(a)の2A−2A線断面図であり、
図3(a)は、
図1に示す加工工具100を紙面下方から見た構造を示す平面図、
図3(b)は、
図3(a)の3A−3A線断面図である。
【0046】
加工工具110は、
図2、
図3に示すように、カップ形状の工具本体110および周壁120に加えて加工刃130を含む。
【0047】
すなわち、工具本体110を構成する上部110aは、円板形状の部分であり、工具本体110を構成する側壁110bは、上部110aに繋がる円錐台形状の筒体部分であり、工具本体110を構成する底部110cは、側壁110bの下端に繋がるリング状部分であり、この底部110cの裏面には複数の加工刃130が取り付けられている。
【0048】
そして、側壁110bには、1以上(ここでは6個)の貫通孔(第1の貫通孔)102aが形成され、これら6個の貫通孔102aが回転軸Arを中心とする1つの円周上に均等な間隔で配置されている。
【0049】
ここで、それぞれの貫通孔102aは、
図1(b)に示すように、側壁110bの上面側の第1の開口部2a1と、側壁110bの下面側の第2の開口部2a2とを有し、第1の開口部2a1の位置が、第2の開口部2a2の位置よりも回転軸Arから離間した位置となるように傾斜した構造となっている。なお、貫通孔102aは、第1の開口部2a1の位置と第2の開口部2a2の位置とが回転軸Arからの離間距離が等しい位置となる構造であってもよい。
【0050】
工具本体110の側壁110bは、上部側に対して底部側が拡がる略円錐台形状を有しており、側壁110bの上面には、回転軸Arに対して半径方向外側に向かって放射状に拡がる複数の線状溝101bが回転軸Arを中心とする1つの円周上に等間隔で形成されている。この線状溝101bの深さは、回転軸Arから遠ざかるほど浅くなるように構成されている。なお、この線状溝101bは、その内部で均一な深さを有するものでもよい。
【0051】
また、周壁120は、工具本体110の側壁110bを囲む円筒状の周壁本体120aと、周壁本体120aの上端部に回転軸側に突出するように設けられたフランジ(環状庇部)120bとを有する。なお、周壁120は、フランジを有さず、周壁本体のみを有するものでもよい。
【0052】
工具本体110の底部110cの下面(底部110cのうちの被加工物Pに対向する面)には、加工部材として、チップ状の加工刃130が固定されている。具体的には、加工刃130は、底部110cを構成するリング状部分の裏面の3箇所に均等に分散させて配置されており、各箇所には3つの加工刃130が隣接するように配置されている(
図3(a)参照)。
【0053】
ここで、加工刃130は、研削、切断砥石、剥離などを行う砥石である。
【0054】
なお、工具本体110の上部110aの中央には工具固定孔103が形成されている。この工具固定孔103は、加工工具100を加工装置1の駆動部10の工具取付シャフト12b(
図4参照)に固定するための孔である。
【0055】
〔加工装置1〕
図4は、
図1に示す加工工具100を用いた加工装置1を模式的に示す斜視図である。
【0056】
この加工装置1は、被加工物Pを加工する加工工具100と、加工工具100を覆う集塵カバー200と、集塵カバー200の内部に液体(例えば、水、クーラントまたは研磨液)を供給する液供給管210と、加工屑を液体とともに集塵カバー200の内部から排出する屑排出管220と、加工工具100を回転駆動する駆動部10とを備えている。ここで、加工工具100は、
図1〜
図3を用いて説明した加工工具100である。
【0057】
(被加工物P)
被加工物Pは、建造物の柱部材であり、下地部材である鋼材の表面に表面被覆材としてアスベストを塗布したものである。ただし、被加工物Pは、このような建造物の柱部材に限定されず、建造物の壁部材、天井部材、あるいは床部材であってもよく、被加工物Pの下地部材は、鋼材に限定されず、コンクリート材であってもよく、表面被覆材はアスベストに限定されず、塗料、モルタル、アスファルト、レンガ、セメント、石材およびそれらの複合材料からなる群から選択される材料であってもよい。
【0058】
(駆動部10)
駆動部10は、モータ部11とギヤ部12とを含む。モータ部11は、回転力を発生する電動モータ11aを有し、ギヤ部12は、電動モータ11aのモータシャフト11bの回転速度を減速する第1のギア部12aと、第1のギア部12aの出力シャフト12cの回転軸の方向を、工具取付シャフト12dの回転軸の方向に変換する第2のギア部12bとを有する。モータ部11およびギア部12は、加工装置100の装置筐体1a内に収容されており、ギア部12を構成する工具取付シャフト12dの一端側が装置筐体1aから突出している。
【0059】
(集塵カバー200)
集塵カバー200は、工具取付シャフト12dおよび加工工具100を囲むように装置筐体1aの一端側(工具取付シャフト12d側)に取り付けられている。集塵カバー200には、水を集塵カバー120内に供給する液供給管210が接続され、加工屑を水とともに集塵カバー120から排出するための屑排出管220が接続されている。
【0060】
以下、集塵カバー200のより具体的な構造を説明する。
【0061】
図5は、
図4に示す加工装置1のより具体的な構造を説明するための図であり、
図5(a)は、
図4に示す加工装置1を紙面の上方から見た構造を示す平面図、
図5(b)は、加工工具100の下端が加工装置1の集塵カバーの下端より浮き上がっている状態を示す5A−5A線断面図、
図5(c)は、加工装置1の集塵カバーの下端と加工工具100の下端とが一致している状態を示す5A−5A線断面図である。
【0062】
集塵カバー200は、カップ状の内側カバー200aと、環状の外側カバー200bと、カバー支持機構200cとを有する。
【0063】
内側カバー200aは、加工工具100を囲むように装置筐体1aに固定されており、外側カバー200bは、内側カバー200aの周囲を囲むように配置されており、カバー支持機構200cは、外側カバー200bを内側カバー200aに対して、加工工具100の回転軸Arの方向にスライド可能に支持している。
【0064】
ここで、カバー支持機構200cは、支持プレート201と、固定ボルト202と、座金付の固定ナット203と、付勢ばね204とを含む。支持プレート201は外側カバー200bの上面に固定されている。内側カバー200aの上面に固定されている固定ボルト202は、支持プレート201の挿通孔(図示せず)に支持プレート201が上下移動可能となるように挿通されている。固定ボルト202には、付勢ばね204が装着され、さらに、固定ボルト202には、付勢ばね204が支持プレート201を下方側(被加工物P側)に付勢するように固定ナット203が装着されている。
【0065】
また、液供給管210の一端は内側カバー200aの上面部に取り付けられ、屑排出管220の一端は外側カバー200bの上面部に取り付けられている。液供給管210の他端は、水道管を接続するための供給管ジョイント部210aとなっており、屑排出管220の他端は、集塵装置につながるホース3に接続するための排出管ジョイント部220aとなっている(
図4参照)。
【0066】
なお、装置筐体1aには、
図5に示すように、作業者が装置筐体1aを持つための持ち手1bが取り付けられていてもよいが、持ち手1bは特に設けられていなくてもよい。
【0067】
次に加工工具100を装着した加工装置1の動作を説明する。
【0068】
図6は、
図4に示す加工装置1の加工工具100を回転させながら加工工具に水を供給したときの加工工具100での液体の流れを説明するための斜視図であり、
図7は、
図4に示す加工装置1により被加工物Pを加工する様子を模式的に示す斜視図である。
【0069】
加工装置100の液供給管210のジョイント部210aに水道管2などの水配管を接続し、屑排出管220のジョイント部220aに、集塵装置(図示せず)の吸引口に接続されているホース3を接続し、被加工物Pの基材Pbの表面に固着されているアスベストなどの塗装材料Paを剥離する作業を開始する。
【0070】
まず、加工装置1の電源を入れて駆動部10の電動モータ11aにより加工工具100を回転させ、同時に、集塵装置(図示せず)の電源を入れて、ホース3により集塵装置に繋がる屑排出管220から集塵カバー200内の空気を吸引し、かつ、液供給管210に繋がる水道管2から水を集塵カバー200内に供給する。
【0071】
この状態で、加工工具100の研削砥石などの加工部材130が被加工物Pの表面に接触するように加工装置1を被加工物Pに押し付けつつ、加工装置1を
図7の矢印Xに示すように移動させると、被加工物Pの基材Pbの表面に固着されている塗装材料Paが回転する加工工具100の加工部材130により削り取られる。
【0072】
このとき、加工工具100を覆う集塵カバー200内には液供給管210から水が供給されている。具体的には、液供給管210から吐出した水は、工具本体110の側壁110b上に落下する。この側壁110bに線状溝101bが形成されていることから、線状溝101b内に一旦収容された水は、線状溝101bと共に回転することで遠心力を受けて側壁110bを囲む周壁120側に移動する。この線状溝101b内に収容された水の周壁120側への移動は、線状溝101bの深さが回転軸Arから離れるほど浅くなっていることによりスムーズにかつ勢いよく行われる。
【0073】
そして、上記のように水が線状溝101bから周壁120側に移動することにより、工具本体110の側壁110bと周壁120とで形成される環状溝101aに水が溜まる。このようにして溜まった水は、遠心力により周壁120に押し付けられ、これにより発生した水圧により、側壁110bに形成されている複数の貫通孔102aを通ってカップ形状の工具本体110の内側の空間に流出する(
図2(b)、
図3(b)、
図6の矢印参照)。
【0074】
このようにして、カップ形状の工具本体110の内側の空間に入り込んだ水は、円錐台形状の側壁110bの内面を伝って工具本体110の底部側に流れ、底部110cと被加工物Pとの間を通って工具本体110の内部から外部に流出する。このとき、工具本体110の底部110cに形成されている加工部材である加工刃130が、底部110cと被加工物Pとの間を流れる水により冷却される。
【0075】
さらに、水が工具本体110の側壁110bに形成されている貫通孔102aから工具本体110の内側に入り込み、さらに、研削砥石113と被加工物Pとの隙間を通って工具本体111の外部に流れ出すとき、加工工具100の研削砥石130による被加工物Pの研削により発生した加工屑は、工具本体111内を流れる水と混ざることで、粉状から泥状になる。これにより、加工屑が集塵カバー120内であまり舞い上がることなく屑排出管220を通して集塵装置へ吸引される。
【0076】
さらに、加工工具100では、工具本体110の側壁110bを囲むように配置されている周壁120は、工具本体110を囲む筒状体120aと、筒状体120aの上端から内側に迫り出した環状庇部120bとで構成されているので、液供給管130から工具本体110の側壁110b上に供給された水が周壁120を乗り越えて加工工具100の環状溝101aから溢れるのを抑制することができ、集塵カバー200内に供給された水が工具本体110の側壁110bの貫通孔102aを通って工具本体110の内部に効率よく流れ込む。このため、工具本体110と被加工物Pとの間に水が供給され易くなり、加工部材130での発熱による温度上昇をより抑制できるとともに、加工屑が集塵カバー200内で舞い上がるのをより抑制することができ、引いては作業者が加工屑を吸い込むことによる健康被害を軽減することができる。
【0077】
このように、本実施形態1による加工装置100では、被加工物を加工する際に被加工物との接触部分を効果的に冷却することができ、被加工物との接触部分での発熱を十分に抑制することが可能な加工工具およびこのような加工工具を用いた加工装置1を得ることができる。
【0078】
なお、上記実施形態1の加工工具100では、貫通孔102aは、側壁110bの上面側の第1の開口部の位置が側壁110bの下面側の第2の開口部の位置よりも回転軸から離間した位置となるように傾斜した構造としているが、貫通孔102aは、第1の開口部の位置が第2の開口部の位置よりも回転方向Drの前方側に位置するように傾斜した構造であってもよい。
【0079】
さらに、実施形態1の加工工具100の工具本体110は、貫通孔として、第1の開口部の位置が第2の開口部の位置よりも回転軸から離間した位置となるように傾斜した構造の第1の貫通孔102aと、第1の開口部の位置が第2の開口部の位置よりも回転方向の前方側に位置するように傾斜した構造の第2の貫通孔102bとを含むものでもよい。
(実施形態2)
以下、本発明の実施形態2の加工工具100aとして、このような2種類の貫通孔を含むものを説明する。
【0080】
図8は、本発明の実施形態2による加工工具100aの外観を示す斜視図であり、
図8(a)は、加工工具100の全体を示し、
図8(b)は、
図8(a)のC部分の拡大図である。
【0081】
この実施形態2の加工工具100aは、実施形態1の加工工具100の構成に加えて、工具本体110の側壁110bに設けられた第2の貫通孔102bを備えたものであり、この加工工具100aにおけるその他の構成は、実施形態1の加工工具100におけるものと同一である。なお、第2の貫通孔102bは、この貫通孔を通る水による屑の排出効果を高めるには、工具本体110の側壁110bではなく、工具本体110の底部110cに設けられていることが望ましいが、場合によっては、第2の貫通孔102bは、工具本体110の側壁110bから底部110cに跨るように設けられていてもよい。
【0083】
図9および
図10は、
図8に示す加工工具100aの具体的な構造を示す図であり、
図9(a)は、
図8に示す加工工具100aを紙面上方から見た構造を示す平面図、
図9(b)は、
図9(a)の9A−9A線断面図、
図9(c)は、
図9(a)の9B−9B線断面図であり、
図10(a)は、
図8に示す加工工具100aを紙面下方から見た構造を示す平面図、
図10(b)は、
図10(a)の10A−10A線断面図である。
【0084】
この第2の貫通孔102bは、
図8(b)に示すように、工具本体110の側壁110bの上面側に設けられる第1の開口部2b1と、工具本体110の側壁110bの下面側に設けられる第2の開口部2b2とを備えている。この第2の貫通孔102bは、第1の開口部2b1の位置が第2の開口部2b2の位置よりも加工工具の回転方向Drの前方側に位置するように傾斜するように構成されている。
【0085】
次に実施形態2の加工工具100aを装着した加工装置1の動作を説明する。
【0086】
図11は、
図4に示す加工装置1に
図1に示す加工工具100に代えて
図8に示す加工工具100aを取り付けて回転させながら加工工具に液体を供給したときの加工工具100aでの液体の流れを説明するための斜視図である。
【0087】
実施形態1の加工工具100を用いた加工装置1と同様に、実施形態2の加工工具100aを用いた加工装置(図示せず)の電源を入れて駆動部により加工工具100aを回転させ、同時に、集塵装置(図示せず)の電源を入れて、ホース3により集塵装置に繋がる屑排出管220から集塵カバー200内の空気を吸引し、かつ、液供給管210に繋がる水道管2から水を集塵カバー200内に供給する(
図7参照)。
【0088】
この状態で、回転する加工工具100aにより、被加工物Pの基部Pbの表面に固着されている塗装材料Paを削り取る(
図7参照)。
【0089】
このとき、加工工具100aを覆う集塵カバー200内には液供給管210から水が供給されており、工具本体110の側壁110b上に落下した水は、実施形態1の加工工具100を用いた場合と同様、工具本体110の側壁110bの線状溝101b内に一旦収容され、線状溝101bと共に回転することで遠心力を受けて側壁110bを囲む周壁120側に移動する。これにより、工具本体110の側壁110bと周壁120とで形成される環状溝101aに水が溜まる。溜まった水は遠心力により周壁120に押し付けられ、これにより発生した水圧により、側壁110bに形成されている複数の第1の貫通孔102aを通ってカップ形状の工具本体110内に流入する(
図9(b)、
図10(b)、
図11の矢印参照)。
【0090】
さらに、この加工工具100aには、第1の貫通孔102aとは傾斜している方向が異なる第2の貫通孔102bが形成されており、第2の貫通孔102bの上側開口2b1がその下側開口2b2よりも回転方向Drの前方に位置しているので、加工工具100aが回転することで、第2の貫通孔102bには、環状溝101aに溜まった水が勢いよく流れ込み、これにより、第2の貫通孔102bからは水が工具本体110の加工部材130と被加工物Pとの間に勢いよく流れ込む。この水の流れにより、工具本体110の加工部材130と被加工物Pとの間に溜まった切削屑が洗い流される。そして、切削屑は水とともに屑排出管220から集塵装置に収集される。切削屑は水と一緒になることから、従来の切削屑をエアーによって集塵するのに対して外部に飛散することをより効果的に防止することが可能となる。
【0091】
以上のように、本発明の好ましい実施形態を用いて本発明を例示してきたが、本発明は、この実施形態に限定して解釈されるべきものではない。本発明は、特許請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。当業者は、本発明の具体的な好ましい実施形態の記載から、本発明の記載および技術常識に基づいて等価な範囲を実施することができることが理解される。本明細書において引用した文献は、その内容自体が具体的に本明細書に記載されているのと同様にその内容が本明細書に対する参考として援用されるべきであることが理解される。
【解決手段】本発明の加工装置は、回転軸Arを有する加工工具100であって、上部110aと側壁110bと底部110cとを含むカップ形状の工具本体110と、側壁110aの外周を囲むように工具本体110に設けられた周壁120とを備えている。側壁には、液体が通過可能な複数の貫通孔102aが形成されている。