(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、シリコーンブランケットの表面層を構成するシリコーンゴムは、撥水性を有していることから、オフセット印刷のインクに水性インクを用いると、受理しにくいという問題がある。一方、シリコーンゴムの表面に処理剤を塗布し親水性を持たせると、シリコーンゴムの表面と処理剤との密着性が低下してしまうおそれがある。
【0005】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、高密着性を保持しつつ親水性を有するシリコーンブランケット及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の第1の観点にかかるシリコーンブランケットは、
基材と、
前記基材上にシリコーンゴムにより形成され、その表面
の少なくとも一部が二酸化ケイ素で被覆されたシリコーンゴム層と、
前
記シリコーンゴム層の表面に形成され、ウレタン樹脂エマルジョンと変性シリコーンエマルジョンとの混合物からなる塗膜層と、
を備え
、
前記ウレタン樹脂エマルジョンと前記変性シリコーンエマルジョンとの混合物の全重量に対して、前記変性シリコーンエマルジョンの添加量が8重量%〜60重量%である、ことを特徴とする。
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の第2の観点にかかるシリコーンブランケットは、
基材と、
前記基材上にシリコーンゴムにより形成され、その表面の少なくとも一部が二酸化ケイ素で被覆されたシリコーンゴム層と、
前記シリコーンゴム層の表面に形成され、ウレタン樹脂エマルジョンと変性シリコーンエマルジョンとの混合物からなる塗膜層と、
を備え、
前記変性シリコーンエマルジョンは、アクリル変性シリコーンエマルジョンである
、こと
を特徴とする。
【0009】
本発明の第
3の観点にかかるシリコーンブランケットの製造方法は、
基材上に、シリコーンゴムを成膜してシリコーンゴム層を形成するシリコーンゴム層形成工程と、
前記シリコーンゴム層形成工程で形成されたシリコーンゴム層の表面にイトロ処理を施すイトロ処理工程と、
前記イトロ処理が施されたシリコーンゴム層の表面に、ウレタン樹脂エマルジョンと変性シリコーンエマルジョンとの混合物を塗布して塗膜層を形成する塗膜層形成工程と、
を備え
、
前記塗膜層形成工程では、前記ウレタン樹脂エマルジョンと前記変性シリコーンエマルジョンとの混合物の全重量に対して、前記変性シリコーンエマルジョンの添加量が8重量%〜60重量%である、ことを特徴とする。
【0011】
本発明の第4の観点にかかるシリコーンブランケットの製造方法は、
基材上に、シリコーンゴムを成膜してシリコーンゴム層を形成するシリコーンゴム層形成工程と、
前記シリコーンゴム層形成工程で形成されたシリコーンゴム層の表面にイトロ処理を施すイトロ処理工程と、
前記イトロ処理が施されたシリコーンゴム層の表面に、ウレタン樹脂エマルジョンと変性シリコーンエマルジョンとの混合物を塗布して塗膜層を形成する塗膜層形成工程と、
を備え、
前記変性シリコーンエマルジョンに、アクリル変性シリコーンエマルジョンを用いる
、こと
を特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、高密着性を保持しつつ親水性を有するシリコーンブランケット及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明のシリコーンブランケット及びその製造方法について説明する。
【0015】
図1に示すように、本発明のシリコーンブランケット1は、基材2と、シリコーンゴム層3と、塗膜層4とを備えている。
【0016】
基材2としては、種々の樹脂のフィルムまたはシートや、金属の薄板等が挙げられる。このうち樹脂のフィルムまたはシートとしては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレンおよびその共重合物、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、フッ素樹脂、ポリカーボネート、セルロースアセテート、ポリアミド、ポリイミド、変性ポリフェニレンエーテル、ポリスルホン、ポリアリレート、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、TPXポリマ、およびポリパラキシレン等の樹脂からなるフィルムまたはシートが挙げられる。
【0017】
また、金属の薄板としては銅またはその合金、アルミニウムまたはその合金、ステンレス鋼、ニッケル等の金属からなる薄板が挙げられる。
【0018】
これのうち、任意の厚み、および表面粗さを有するフィルム状またはシート状に加工しやすく、寸法安定性に優れたPETのフィルムまたはシートを基材2として用いるのが好ましい。
【0019】
シリコーンゴム層3は、基材2上に成膜されている。シリコーンゴム層3は、シリコーンゴムにより形成されている。シリコーンゴム層3の形成に用いられるシリコーンゴムとしては、種々のシリコーンゴムを用いることができ、例えば、過酸化物架橋型のシリコーンゴム、付加架橋型のシリコーンゴムなどが挙げられる。
【0020】
過酸化物架橋型シリコーンゴムは、有機過酸化物を加硫化剤として用いて架橋したものである。過酸化物架橋型シリコーンゴムとしては、例えば、ポリジメチルシロキサン、末端にビニル基を有するポリジメチルシロキサン、ビニルメチルシロキサン/ポリジメチルシロキサンコポリマー、末端にビニル基を有するポリフェニルメチルシロキサン、末端にトリメチルシロキサン基を有するポリビニルメチルシロキサン、末端にメタアクリロキシプロピル基を有するポリジメチルシロキサン、及び末端にアクリロキシプロピル基を有するポリジメチルシロキサンからなる群より選ばれる少なくとも一種を架橋したものが挙げられる。
【0021】
付加架橋型のシリコーンゴムとしては、ビニル基含有オルガノポリシロキサンからなる主剤と、オルガノハイドロジェンポリシロキサンからなる硬化剤と、付加反応触媒とを含有するシリコーンゴム組成物を例示することができる。
【0022】
主剤として使用することのできるビニル基含有オルガノポリシロキサンは、ケイ素原子に結合されたビニル基(Si−CH=CH
2)を1分子中に2個以上有するオルガノポリシロキサンである。市販品としては、例えば、信越化学工業株式会社製の「KE−1935−A」の両末端がジメチルビニルシロキシ基で封鎖された直鎖状のビニル基含有ジメチルポリシロキサンが挙げられる。
【0023】
硬化剤として使用することのできるオルガノハイドロジェンポリシロキサンは、ケイ素原子に結合された水素原子(ビニル基との付加反応に供されるSiH基)を1分子中に2個以上、好ましくは3個以上有するオルガノポリシロキサンである。市販品としては、例えば、信越化学工業株式会社製の「KE−1934−B」の分岐構造を有するメチルハイドロジェンポリシロキサンが挙げられる。
【0024】
付加反応触媒としては、白金ブラック、塩化第二白金、塩化白金酸と一価アルコールとの反応物、塩化白金酸とオレフィン類との錯体、白金ビスアセトアセテート、パラジウム系触媒、ロジウム系触媒などの白金族金属系触媒が挙げられる。
【0025】
また、シリコーンゴム層3は、その表面(塗膜層4側の表面)にイトロ処理が施されている。このイトロ処理が施されたシリコーンゴム層3の表面に塗膜層4が形成されている。
【0026】
イトロ処理は、シリコーンゴム層3の表面に、シラン化合物を蒸気として含む火炎に晒す熱処理を行い、当該表面の少なくとも一部を二酸化ケイ素(SiO
2)で被覆する処理である。火炎中に蒸気として含ませるシラン化合物としては、例えば、テトラメチルシラン、テトラメトキシシラン及びそれらの混合物等が使用される。このイトロ処理により、シリコーンゴム層3の表面では、以下の(式1)で示す化学反応が生じる。
【0027】
シラン化合物(有機ケイ素:Si−O)+O
2(酸素、空気)+LPG(液化石油ガス)⇒SiO
2+H
2O(水蒸気)+CO
2(二酸化炭素)・・・(式1)
【0028】
また、熱処理には、ガスを用いずに、火炎(フレーム)のみでも処理可能である。その他、火炎とともにシラン化合物を含むイトロガス(登録商標)を使用する場合には、プロパンガス:空気:イトロガス(登録商標)の比率が、2〜10:130〜180:0〜10の範囲とした火炎を使用することが好ましい。この範囲の上限値を外れると、シリカ等の堆積物が層状に形成されることおそれがあるためである。
【0029】
塗膜層4は、イトロ処理が施されたシリコーンゴム層3の表面に形成されている。塗膜層4は、その表面(シリコーンブランケット1の表面層)に親水性を持たせるための塗膜であり、ウレタン塗料(ウレタン樹脂エマルジョン)と変性シリコーンエマルジョンとの混合物を塗布することにより形成される。
【0030】
ウレタン樹脂エマルジョンとしては、分子中にウレタン結合を有する樹脂エマルジョンであればよく、例えば、主鎖にエーテル結合を含むポリエーテル型ウレタン樹脂、主鎖にエステル結合を含むポリエステル型ウレタン樹脂、及び主鎖にカーボネート結合を含むポリカーボネート型ウレタン樹脂などが挙げられる。
【0031】
ウレタン樹脂エマルジョンは、JIS K 7161(プラスチック−引張特性の試験方法)に準拠して測定した破断伸びが150%以上の柔軟性を有すもの(いわゆる軟質グレード)であることが好ましい。市販品としては、例えば、宇部興産株式会社製の「UV−1527F」を用いることが好ましい。また、三洋化成工業株式会社製の「ユーコートUX−485」(ポリカーボネート系ウレタン樹脂エマルジョン)や、三洋化成工業株式会社製の「パーマリンUA−368T」、「パーマリンUA−200」を用いることが好ましい。
【0032】
変性シリコーンエマルジョンとしては、各種の変性シリコーンエマルジョンを用いることができ、例えば、アクリル変性シリコーンエマルジョンを用いることが好ましい。市販品としては、例えば、日信化学工業株式会社製の「FE−502」を用いることが好ましい。また、変性シリコーンエマルジョンは、シリコーンゴム層3の表面に均一に塗布することが容易な水系エマルジョンを用いることが好ましい。
【0033】
変性シリコーンエマルジョンの添加量は、ウレタン樹脂エマルジョンと変性シリコーンエマルジョンとの混合物の全重量に対して、8重量%〜60重量%であることが好ましく、8重量%〜20重量%であることがさらに好ましい。かかる範囲とすることにより、ウレタン樹脂エマルジョンと変性シリコーンエマルジョンとの混合物と、シリコーンゴム層3の表面との高密着性を保持しつつ、シリコーンブランケット1の表面層(塗膜層4)に親水性を持たせることができるためである。
【0034】
シリコーンブランケット1の表面層の親水性は、シリコーンブランケット1の表面層での水接触角が90°以下であることが好ましく、70°以下であることがより好ましい。
【0035】
次に、以上のように構成されたシリコーンブランケット1の製造方法について説明する。
【0036】
まず、基材2として、例えば、PETのフィルムを用意する。次に、PETのフィルム上に、シリコーンゴムを成膜し、接着(加硫接着)することにより基材2上にシリコーンゴム層3を形成する。続いて、シリコーンゴム層3の表面にシラン化合物を蒸気として含む火炎に晒す熱処理(イトロ処理)を施し、シリコーンゴム層3の表面の少なくとも一部を二酸化ケイ素で被覆する。
【0037】
ここで、火炎を放出するバーナーと、シリコーンブランケット1との距離は、20〜100mmであることが好ましい。また、バーナー速度は20〜60m/minとすることが好ましい。これらの範囲の下限値を外れると、燃焼してしまうおそれがあり、上限値を外れると、熱処理が不十分となり、所望する表面処理が実現されないおそれがあるためである。
【0038】
次に、イトロ処理が施されたシリコーンゴム層3の表面に、ウレタン樹脂エマルジョンと変性シリコーンエマルジョンとの混合物を塗布し、シリコーンブランケット1の表面層に塗膜層4を形成する。これにより、シリコーンブランケット1を製造することができる。
【0039】
このように製造されたシリコーンブランケット1によれば、イトロ処理が施されたシリコーンゴム層3の表面に塗膜層4が形成されるとともに、シリコーンブランケット1の表面層に塗膜層4が形成されている。このため、シリコーンブランケット1に親水性を持たせることができる。また、シリコーンゴム層3と塗膜層4との密着性を保持することができる。
【実施例】
【0040】
以下、本発明のシリコーンブランケット及びその製造方法を実施例、および、比較例により具体的に説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。また、以下に説明する実施例1〜5、比較例1〜3の変性シリコーンエマルジョンの添加量を表1に示す。
【0041】
(実施例1)
まず、両末端がジメチルビニルシロキシ基で封鎖された直鎖状のビニル基含有ジメチルポリシロキサン(信越化学工業株式会社製、商品名:KE−1935−A)からなる主剤と、分岐構造を有するメチルハイドロジェンポリシロキサン(信越化学工業株式会社製、商品名:KE−1934−B)からなる硬化剤とを準備した。これら主剤及び硬化剤を、主剤中のビニル基のモル数と、硬化剤中のSiH基のモル数とが等しくなる割合で混合した。得られた混合液に白金族金属系触媒を添加し、トルエンに溶解して付加架橋型のシリコーンゴム組成物を調製した。
【0042】
調整したシリコーンゴム組成物を、厚さ125μm、表面粗さ(Ra)が0.5μmのPETフィルムの表面に製膜した。次に、シリコーンゴム組成物を140℃で3分間加熱して付加架橋させた。これにより、PETからなる樹脂フィルム(基材2)上に、付加架橋したシリコーンゴム層3を形成した。
【0043】
次に、形成したシリコーンゴム層3の表面に、株式会社イトロ製イトロ処理装置を用い、シラン化合物(テトラメチルシランとテトラメトキシシランの混合物(イトロガスに含まれるもの)を使用した。)を蒸気として含む燃料ガスの火炎によりイトロ処理を施した。イトロ処理の条件は、プロパンガス:エアー:イトロガス混合比を6:160:1とし、被処理物であるシリコーンゴム表面との離間距離:20〜40mm、バーナー速度は30m/minとするとともに、処理回数としては3回行った。
【0044】
ウレタン樹脂エマルジョンとしての宇部興産株式会社製の「UV−1527F」と、変性シリコーンエマルジョンとしての日信化学工業株式会社製の「FE−502」とを、ウレタン樹脂エマルジョンと変性シリコーンエマルジョンとの混合物の全重量に対して、変性シリコーンエマルジョンの添加量が8重量%となるように混合し、マグネチックスターラーにて5分間撹拌して混合物を形成した。形成した混合物を丸棒コートを用いて、イトロ処理が施されたシリコーンゴム層3の表面にコーティング(塗布)し、120℃で10分間焼成を行い、塗膜層4を形成した。これにより、実施例1のシリコーンブランケット1を得た。
【0045】
(実施例2)
ウレタン樹脂エマルジョンと変性シリコーンエマルジョンとの混合物の全重量に対して、変性シリコーンエマルジョンの添加量が10重量%となるように混合した点を除いて実施例1と同様の処理を行い、実施例2のシリコーンブランケット1を得た。
【0046】
(実施例3)
ウレタン樹脂エマルジョンと変性シリコーンエマルジョンとの混合物の全重量に対して、変性シリコーンエマルジョンの添加量が20重量%となるように混合した点を除いて実施例1と同様の処理を行い、実施例3のシリコーンブランケット1を得た。
【0047】
(実施例4)
ウレタン樹脂エマルジョンと変性シリコーンエマルジョンとの混合物の全重量に対して、変性シリコーンエマルジョンの添加量が40重量%となるように混合した点を除いて実施例1と同様の処理を行い、実施例4のシリコーンブランケット1を得た。
【0048】
(実施例5)
ウレタン樹脂エマルジョンと変性シリコーンエマルジョンとの混合物の全重量に対して、変性シリコーンエマルジョンの添加量が60重量%となるように混合した点を除いて実施例1と同様の処理を行い、実施例5のシリコーンブランケット1を得た。
【0049】
(比較例1)
ウレタン樹脂エマルジョンと変性シリコーンエマルジョンとの混合物の全重量に対して、変性シリコーンエマルジョンの添加量が0重量%となるように混合した点を除いて実施例1と同様の処理を行い、比較例1のシリコーンブランケット1を得た。
【0050】
(比較例2)
ウレタン樹脂エマルジョンと変性シリコーンエマルジョンとの混合物の全重量に対して、変性シリコーンエマルジョンの添加量が100重量%となるように混合した点を除いて実施例1と同様の処理を行い、比較例2のシリコーンブランケット1を得た。
【0051】
(比較例3)
シリコーンゴム層3の表面にイトロ処理を施さなかった点を除いて実施例3と同様の処理を行い、比較例3のシリコーンブランケット1を得た。
【0052】
実施例1〜5、比較例1〜3のシリコーンブランケット1について、シリコーンゴム層3と塗膜層4との密着性を評価した。密着性の評価は、碁盤目試験により行った。碁盤目試験は、間隔を1mmとした100マスにカットし、セロテープ(登録商標)を貼り付け、剥がした後に、セロテープ(登録商標)に塗膜の付着がないかを確認した。指でこすってもとれない、碁盤目ピール試験で剥離しない場合を「○」、碁盤目剥離しないが指で強くこすると塗膜がとれる場合を「△」、容易に塗膜がとれる、碁盤目剥離する場合を「×」として評価した。結果を表1に示す。
【0053】
また、実施例1〜5、比較例1〜3のシリコーンブランケット1について、水接触角を測定した。水接触角の測定は、協和界面科学株式会社製の接触角計DM−501(液滴量:2.0μL)を使用した。なお、比較例2、3については密着性を有しない等の理由から測定していない。結果を表1に示す。
【0054】
【表1】
【0055】
表1に示すように、シリコーンゴム層3の表面にイトロ処理を施し、変性シリコーンエマルジョンの添加量を、ウレタン樹脂エマルジョンと変性シリコーンエマルジョンとの混合物の全重量に対して、8重量%〜60重量%にすることにより、高密着性を保持しつつ親水性を有するシリコーンブランケット1が製造されることが確認できた。