特許第6946114号(P6946114)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6946114
(24)【登録日】2021年9月17日
(45)【発行日】2021年10月6日
(54)【発明の名称】水性被覆材
(51)【国際特許分類】
   C09D 201/00 20060101AFI20210927BHJP
   C09D 183/04 20060101ALI20210927BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20210927BHJP
   C09D 7/65 20180101ALI20210927BHJP
   C09D 5/02 20060101ALI20210927BHJP
【FI】
   C09D201/00
   C09D183/04
   C09D7/61
   C09D7/65
   C09D5/02
【請求項の数】2
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2017-160786(P2017-160786)
(22)【出願日】2017年8月24日
(65)【公開番号】特開2019-38910(P2019-38910A)
(43)【公開日】2019年3月14日
【審査請求日】2020年4月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】599071496
【氏名又は名称】ベック株式会社
(72)【発明者】
【氏名】五味 岳志
【審査官】 上條 のぶよ
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−217897(JP,A)
【文献】 特開2014−005316(JP,A)
【文献】 特開昭55−054358(JP,A)
【文献】 特開平06−228464(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 201/00
C09D 183/04
C09D 7/40
C09D 5/02
C09D 133/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
着色被膜を形成する水性被覆材であって、
着色顔料(A)、体質顔料としてリン片状粉体(B)、水分散性撥水剤(C)、及び水性樹脂(D)を含み、
固形分換算にて、前記着色顔料(A)100重量部に対し、前記リン片状粉体(B)を10〜2000重量部、前記水分散性撥水剤(C)を1〜100重量部、前記水性樹脂(D)を10〜2000重量部含み、
前記水分散性撥水剤(C)として、平均粒子径100nm以下のシリコーン樹脂エマルション(C−1)を含む
ことを特徴とする水性被覆材。
【請求項2】
前記着色顔料(A)として、白色顔料、無機有彩色顔料、有機有彩色顔料、黒色顔料、パール顔料、アルミニウム顔料、光輝性顔料、蓄光顔料、蛍光顔料から選ばれる2種以上を含むことを特徴とする請求項1記載の水性被覆材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な水性被覆材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、建築物や土木構造物等においては、その表面保護、美観性向上等の目的で種々の被覆材によってコーティングが行われている。この中でも、着色タイプの被覆材は、種々の色彩が付与された被膜を形成することができることから、汎用的に用いられている。また、近年、コーティング分野では、環境に対する負荷低減の動き等を背景に水性化が進んでおり、着色タイプの被覆材も例外ではない。
【0003】
このような着色タイプの被覆材の一例として、例えば特許文献1(特開2002−47450号公報)には、樹脂エマルションと顔料を含む水性被覆材が記載されており、このうち顔料としては、二酸化チタン、カーボンブラック等の無機系着色顔料、フタロシアニン系、ベンズイミダゾロン系等の有機系着色顔料、炭酸カルシウム等の体質顔料等が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−47450号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述のような水性被覆材では、その被膜に水分が接触すると、水分が吸収され、被膜が変色するおそれがある。また、一方では、圧力、摩擦、飛来物等の外的因子によって、その被膜表面にキズ等がつき、本来の色調が損なわれるおそれがある。
【0006】
本発明は、このような点に鑑みなされたものであり、着色被膜を形成する水性被覆材において、水分その他外的因子による被膜の変色を抑制することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このような課題を解決するために本発明者は、鋭意検討の結果、着色顔料(A)、体質顔料としてリン片状粉体(B)、水分散性撥水剤(C)、及び水性樹脂(D)をそれぞれ特定比率で含む水性被覆材に想到し、本発明を完成するに到った。
【0008】
すなわち、本発明は以下の特徴を有するものである。
1.着色被膜を形成する水性被覆材であって、
着色顔料(A)、体質顔料としてリン片状粉体(B)、水分散性撥水剤(C)、及び水性樹脂(D)を含み、
固形分換算にて、前記着色顔料(A)100重量部に対し、前記リン片状粉体(B)を10〜2000重量部、前記水分散性撥水剤(C)を1〜100重量部、前記水性樹脂(D)を10〜2000重量部含み、
前記水分散性撥水剤(C)として、平均粒子径100nm以下のシリコーン樹脂エマルション(C−1)を含む
ことを特徴とする水性被覆材。
2.前記着色顔料(A)として、白色顔料、無機有彩色顔料、有機有彩色顔料、黒色顔料、パール顔料、アルミニウム顔料、光輝性顔料、蓄光顔料、蛍光顔料から選ばれる2種以上を含むことを特徴とする1.記載の水性被覆材。

【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、着色被膜を形成する水性被覆材において、水分その他外的因子による被膜の変色を抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。
【0011】
本発明の水性被覆材(以下単に「被覆材」ともいう)は、着色顔料(A)、体質顔料としてリン片状粉体(B)、水分散性撥水剤(C)、及び水性樹脂(D)を含むものである。本発明では、特に、リン片状粉体(B)と水分散性撥水剤(C)との併用により、水分、あるいは圧力、摩擦、飛来物等の外的因子による被膜変色を抑制する効果を十分に得ることができる。このような効果は、リン片状粉体(B)の形状に由来する、水を遮断する作用、被膜表面を滑らかにする作用等と、水分散性撥水剤(C)による撥水作用等が相俟って奏されるものと考えられる。
【0012】
着色顔料(A)(以下「(A)成分」ともいう)は、本発明被覆材に所望の色彩を付与する成分である。本発明では、このような(A)成分を含むことにより、着色被膜を形成することができる。(A)成分としては、例えば、酸化チタン、酸化亜鉛、アルミナ等の白色顔料;酸化第二鉄(弁柄)、黄色酸化鉄、群青、コバルトグリーン等の無機有彩色顔料;アゾ系、ナフトール系、ピラゾロン系、アントラキノン系、ペリレン系、キナクリドン系、ジスアゾ系、イソインドリノン系、ベンゾイミダゾール系、フタロシアニン系、キノフタロン系等の有機有彩色顔料;カーボンブラック、鉄‐マンガン複合酸化物、鉄‐銅‐マンガン複合酸化物、鉄‐クロム‐コバルト複合酸化物、銅‐クロム複合酸化物、銅‐マンガン‐クロム複合酸化物、黒色酸化鉄等の黒色顔料;その他パール顔料、アルミニウム顔料、光輝性顔料、蓄光顔料、蛍光顔料等が挙げられる。これらは1種または2種以上で使用できる。(A)成分の平均粒子径は、好ましくは1μm未満、より好ましくは0.01〜0.9μmである。なお、本発明において「a〜b」は「a以上b以下」と同義である。
【0013】
本発明では、顔料として、上記着色顔料(A)に加え、体質顔料を含む。体質顔料は、例えば、被覆材における粘性調整、増量化、着色顔料の分散安定化、形成被膜における強度向上化、肉厚感付与、艶調整、発色性向上化等のいずれか1つ以上の目的のために混合することができる。体質顔料としては、例えば、重質炭酸カルシウム、軽微性炭酸カルシウム、カオリン、クレー、陶土、チャイナクレー、珪藻土、含水微粉珪酸、タルク、マイカ、バライト粉、硫酸バリウム、沈降性硫酸バリウム、炭酸バリウム、炭酸マグネシウム、シリカ粉、水酸化アルミニウム等が挙げられる。これらは1種または2種以上で使用できる。体質顔料の平均粒子径は、好ましくは1〜100μm、より好ましくは2〜50μmである。
【0014】
本発明では、上記体質顔料としてリン片状粉体(B)(以下「(B)成分」ともいう)を含むことを特徴とする。これにより、本発明では、水分その他外的因子による被膜の変色を抑制することが可能となる。さらに、被膜からの着色顔料の脱離防止(色移り防止)等の効果を高めることもできる。リン片状粉体(B)の具体例としては、例えば、タルク、マイカ、クレー等が挙げられ、これらは1種または2種以上で使用できる。(B)成分の平均粒子径は、好ましくは1〜100μm、より好ましくは2〜50μmである。
【0015】
(B)成分の混合比率は、固形分換算にて、(A)成分100重量部に対し10〜2000重量部であり、好ましくは15〜1200重量部、より好ましくは20〜1000重量部である。これにより、変色抑制効果等を十分に得ることができる。特に(B)成分の混合比率の下限が上記値であることにより、変色抑制、色移り防止等の点で好適である。(B)成分の混合比率の上限が上記値であることにより、着色顔料(A)による十分な発色性を得ることができ、被膜の割れ防止等の点でも好適である。
【0016】
水分散性撥水剤(C)(以下「(C)成分」ともいう)は、上記リン片状粉体(B)と共に、本発明に不可欠の成分である。(C)成分としては、例えば、パラフィンワックス、ポリエチレンワックス、アクリル・エチレン共重合体ワックス等のワックス系撥水剤;シリコーン樹脂、アルキルアルコキシシラン等のシリコン系撥水剤;パーフロロアルキルカルボン酸塩、パーフロロアルキルリン酸エステル、パーフロロアルキルトリメチルアンモニウム塩等のフッ素系撥水剤等が挙げられる。これらは1種または2種以上で使用することができる。(C)成分の形態は、水中に分散した形態であれば特に制限されず、界面活性剤を用いた強制乳化型エマルション、あるいは自己乳化型エマルションのいずれであってもよい。
【0017】
本発明では、(C)成分としてシリコン系撥水剤が好ましく、特にシリコーン樹脂エマルション(C−1)(以下「(C−1)成分」ともいう)が好ましい。シリコーン樹脂エマルション(C−1)は、撥水作用に加え、弾性を有することから、圧力、摩擦、飛来物等の外的因子に対する抵抗性が高まり、変色抑制等に有利に作用するものと考えられる。
【0018】
(C−1)成分は、シリコーン樹脂を主成分とする樹脂粒子の水分散体である。このような(C−1)成分は、例えば、シロキサン化合物、アルコキシシラン化合物等のシリコーン成分を重合して得ることができる。(C−1)成分としては、シリコーン成分以外のモノマーを構成成分に含むものであってもよいが、本発明では、(C−1)成分を構成する重合体中、シリコーン成分を、好ましくは50重量%以上、より好ましくは70重量%以上、さらに好ましくは90重量%以上含むものが適している。
【0019】
(C−1)成分を構成するシリコーン成分のうち、シロキサン化合物としては、例えば、環状シロキサン化合物、直鎖状シロキサン化合物、分岐状シロキサン化合物等が挙げられる。このうち環状シロキサン化合物としては、例えば、ヘキサメチルシクロトリシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン等が挙げられる。アルコキシシラン化合物としては、分子中に1個以上のアルコキシル基を有するシラン化合物が使用でき、例えばテトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン等の他、ビニルメチルジメトキシシラン、γ−(メタ)アクリロイルオキシトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン等のシランカップリング剤等が挙げられる。これらは、1種または2種以上で使用できる。また、(C−1)成分の重合時には、乳化剤、触媒、中和剤等を適宜混合することができる。シリコーン樹脂の平均分子量は、好ましくは10000以上、より好ましくは50000以上である。
【0020】
水分散性撥水剤(C)の平均粒子径は、好ましくは100nm以下、より好ましくは5〜80nm、さらに好ましくは10〜70nm、特に好ましくは20〜65nmである。これにより、水分その他外的因子による被膜の変色が十分に抑制され、耐変色性をいっそう向上させることができる。
【0021】
水分散性撥水剤(C)の混合比率は、固形分換算にて、着色顔料(B)100重量部に対し好ましくは1〜100重量部、より好ましくは2〜80重量部、さらに好ましくは3〜60重量部である。これにより、変色抑制効果等を十分に得ることができる。特に(C)成分の混合比率の下限が上記値であることにより、変色抑制効果等の点で好適である。(C)成分の混合比率の上限が上記値であることにより、汚染物質等が被膜に付着し難くなり、汚染による被膜の変色を抑制することもできる。
【0022】
水性樹脂(D)(以下「(D)成分」ともいう)は、主に結合材として作用する成分である。このような(D)成分としては、水溶性樹脂及び/または水分散性樹脂が使用でき、この中でも水分散性樹脂(樹脂エマルション)が好適である。水分散性樹脂としては、例えば、アクリル樹脂エマルション、ウレタン樹脂エマルション、酢酸ビニル樹脂エマルション、エポキシ樹脂エマルション、フッ素樹脂エマルション等が挙げられ、これらの1種または2種以上を使用することができる。(D)成分の形態は、例えば、多段階重合で得られる多層構造型エマルション(コアシェル型エマルション)等であってもよいし、架橋反応を生じる架橋反応型エマルション等であってもよい。架橋反応型エマルションとしては、例えば、エマルション粒子内の官能基同士で架橋反応を生じるもの、あるいは、別途混合する架橋剤とエマルション粒子内の官能基が架橋反応を生じるもの等が挙げられる。
【0023】
(D)成分としては、特に、アクリル樹脂エマルション(D−1)(以下「(D−1)成分」ともいう)が好適である。このような(D−1)成分は、(メタ)アクリル酸アルキルエステルを主成分とする重合体粒子の水分散体である。(D−1)成分は、例えば、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、及び必要に応じその他のモノマーを含むモノマー群を、公知の方法で乳化重合することによって得ることができる。
【0024】
(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、例えばメチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、n−アミル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、n−ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、オクタデシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらは、1種または2種以上で使用できる。このような(メタ)アクリル酸アルキルエステルの構成比率は、(A)成分を構成する全モノマーに対し、好ましくは30重量%以上、より好ましくは40〜99.9重量%、さらに好ましくは50〜99.5重量%である。なお、本発明では、アクリル酸アルキルエステルとメタクリル酸アルキルエステルを合わせて、(メタ)アクリル酸アルキルエステルと表記している。
【0025】
その他のモノマーとしては、例えばカルボキシル基含有モノマー、アミノ基含有モノマー、ピリジン系モノマー、水酸基含有モノマー、ニトリル基含有モノマー、アミド基含有モノマー、エポキシ基含有モノマー、カルボニル基含有モノマー、アルコキシシリル基含有モノマー、芳香族モノマー等が挙げられる。これらは、1種または2種以上で使用できる。これらその他のモノマーの構成比率は、(D−1)成分を構成する全モノマーに対し、好ましくは0.1〜60重量%、より好ましくは0.5〜50重量%である。
【0026】
(D−1)成分は、上記条件を満たすものであればよい。(D−1)成分としては、例えば、アクリルスチレン樹脂エマルション、エポキシ変性アクリル樹脂エマルション、ウレタン変性アクリル樹脂エマルション、シリコン変性アクリル樹脂エマルション、フッ素変性アクリル樹脂エマルション等を使用することもできる。
【0027】
水性樹脂(D)の平均粒子径は、好ましくは50〜500nm、より好ましくは70〜300nm、さらに好ましくは80〜250nm、特に好ましくは85〜200nmである。なお、本発明において、平均粒子径は、動的光散乱法により測定される値である。具体的には、動的光散乱測定装置(「LB‐550」株式会社堀場製作所製)等を用いて測定することができる(測定温度は25℃)。
【0028】
(D)成分のガラス転移温度は、好ましくは−30〜60℃、より好ましくは−20〜40℃である。このガラス転移温度は、Foxの計算式により求めることができる。
【0029】
(D)成分の混合比率は、固形分換算にて、着色顔料(B)100重量部に対し好ましくは10〜2000重量部、より好ましくは20〜1200重量部、さらに好ましくは50〜600重量部である。これにより、変色抑制効果等を十分に得ることができる。特に(D)成分の混合比率の下限が上記値であることにより、変色抑制、色移り防止性、耐久性等の点で好適である。(D)成分の混合比率の上限が上記値であることにより、(A)〜(C)成分にもとづく効果が十分に発揮され、発色性、隠ぺい性等の点においても好適である。
【0030】
本発明においては、上述の成分の他に、各種添加剤等を混合することもできる。このような添加剤としては、例えば、顔料分散剤、乳化剤、増粘剤、造膜助剤、レベリング剤、湿潤剤、可塑剤、凍結防止剤、pH調整剤、防腐剤、防黴剤、防藻剤、抗菌剤、消泡剤、吸着剤、脱臭剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、触媒、架橋剤等が挙げられる。
【0031】
本発明被覆材は、媒体として水を含む水性の材料である。媒体は、水の他に、必要に応じ水溶性溶剤を含むものであってもよい。水溶性溶剤としては、例えば、アルコール類、グリコール類、グリコールエーテル類等が挙げられる。
【0032】
本発明被覆材は、建築物や土木構築物等の表面(壁面等)に対して塗装することができる。塗装の対象となる基材は特に限定されないが、好ましくは無機質基材である。特に、本発明ではセメント系無機質基材が好適である。本発明被覆材をセメント系無機質基材に塗装した場合には、本発明の効果を十分に発揮することができる。
【0033】
このようなセメント系無機質基材は、セメントを必須成分として得られる材料である。セメント以外の成分として、例えば、珪砂、珪石、フライアッシュ等の骨材、パルプ、ガラスウール等の繊維類等が含まれていてもよい。具体的に、セメント系無機質基材としては、例えば、コンクリート、モルタル、繊維混入セメント板、スレート板、セメント珪酸カルシウム板、スラグセメントパーライト板、ALC板、サイディング板等が挙げられる。このうち、コンクリート、モルタル等の基材は、例えば、施工現場で水等と混練したものを硬化させることによって得ることができる。ALC板、サイディング板等の無機質建材は、例えば、抄造法、押し出し成形法、注型法等の各種方法によって板状に成形されたものである。セメント系無機質建材に本発明被覆材を塗装した場合は、基材の割れ、反り、寸法変化等を十分に抑制できる点で特に好適である。これら基材の表面は、何らかの表面処理(例えば、シーラー、サーフェーサー、パテ、フィラー等)が施されたものでもよく、既に塗膜が形成されたもの等であってもよい。
【0034】
本発明被覆材を塗装する際には、例えば、スプレー、ローラー、刷毛等の各種塗装器具を使用することができる。塗装の際には、水を用いて希釈することも可能である。水の混合量は、塗装器具の種類、塗装下地の状態、塗装時の温度等を勘案して適宜設定すればよいが、被覆材全体に対し、好ましくは0〜20重量%程度である。
【0035】
本発明被覆材の塗付け量は、好ましくは0.1〜1kg/m、より好ましくは0.2〜0.6kg/mである。また、本発明被覆材を塗装した後の乾燥は、好ましくは常温(5〜40℃)で行えばよいが、加熱することも可能である。乾燥時間は、好ましくは常温で0.5〜4時間程度である。塗り回数は、好ましくは1〜2回程度である。
【実施例】
【0036】
以下に実施例及び比較例を示して、本発明の特徴をより明確にする。
【0037】
(被覆材の製造)
表1に示す重量部にて、各原料を常法により混合・攪拌することによって、各水性被覆材を製造した。原料としては下記のものを使用した。なお、水分散性撥水剤については、表1において「撥水剤」と略している。
【0038】
・着色顔料1:酸化チタン(平均粒子径0.2μm)
・着色顔料2:弁柄(平均粒子径0.2μm)
・着色顔料3:黄色酸化鉄(平均粒子径0.5μm)
・着色顔料4:カーボンブラック(平均粒子径0.1μm)
・体質顔料1:リン片状粉体(タルク、平均粒子径12μm)
・体質顔料2:粒状粉体(シリカ粉、平均粒子径4μm)
・水分散性撥水剤1:シリコーン樹脂エマルション(オクタメチルシクロテトラシロキサン・アルコキシシラン化合物重合物の乳化分散体、樹脂中のシリコーン成分比率:100重量%、平均粒子径:50nm、固形分:30重量%、樹脂比重:1.0、媒体:水)
・水分散性撥水剤2:シリコーン樹脂エマルション(ジメチルシロキサン化合物の乳化分散体、樹脂中のシリコーン成分比率:100重量%、平均粒子径:190nm、固形分:50重量%、樹脂比重:1.0、媒体:水)
・水性樹脂1:アクリル樹脂エマルション(メチルメタクリレート・シクロヘキシルメタクリレート・2−エチルヘキシルアクリレート・メタクリル酸の乳化重合体、全モノマー中の(メタ)アクリル酸アルキルエステルの構成比率:98重量%、平均粒子径:130nm、固形分:50重量%、ガラス転移温度:5℃、樹脂比重:1.0、媒体:水)
・水性樹脂2:アクリルスチレン樹脂エマルション(メチルメタクリレート・スチレン・n−ブチルアクリレート・2−エチルヘキシルアクリレート・アクリル酸の乳化重合体、全モノマー中の(メタ)アクリル酸アルキルエステルの構成比率:75重量%、平均粒子径:150nm、固形分:50重量%、ガラス転移温度:8℃、樹脂比重:1.0、媒体:水)
・造膜助剤:エステル系造膜助剤
・分散剤:アニオン系分散剤
・増粘剤:セルロース系増粘剤、ウレタン系増粘剤
・消泡剤:鉱物油系消泡剤
【0039】
(試験方法)
(1)耐変色性1
ガラス板の片面に、すきま150μmのフィルムアプリケータを用いて被覆材を塗り、塗面を水平に置いて標準状態で14日間乾燥したものを試験体とした。この試験体の被膜表面を紙製ウエスで擦り、擦り傷による変色の程度を評価した。評価は、変色が認められなかったものを「a」、著しい変色が認められたものを「d」とする4段階(優:a>b>c>d:劣)で行った。
【0040】
(2)耐変色性2
上記「耐変色性1」と同様の方法で試験体を作製した。この試験体の被膜表面に1分間連続して水を流した後、水による変色の程度を評価した。評価は、変色が認められなかったものを「a」、著しい変色が認められたものを「d」とする4段階(優:a>b>c>d:劣)で行った。
【0041】
(3)耐変色性3
予め下塗材を塗装したスレート板に、被覆材を塗付け量0.3kg/mにて刷毛塗りし、標準状態で14日間乾燥したものを試験体とした。この試験体を23℃の水中に7日間浸し、浸漬前後の被膜の色差(△E)を色彩色差計で測定した。評価は、色差0.3未満を「a」、色差0.3以上0.6未満を「b」、色差0.6以上1.0未満を「c」、色差1.0以上を「d」とする4段階(優:a>b>c>d:劣)で行った。
【0042】
(4)耐変色性4
予め下塗材を塗装したアルミニウム板(上方から3分の1の長さのところで、内角度が135度になるように折り曲げたもの)に、被覆材を塗付け量0.3kg/mにてスプレー塗りし、標準状態で14日間乾燥したものを試験体とした。この試験体について屋外暴露を実施し、垂直面における6ヶ月後の雨筋汚れによる変色の程度を評価した。評価は、変色が認められなかったものを「a」、著しい変色が認められたものを「d」とする4段階(優:a>b>c>d:劣)で行った。
【0043】
(5)色移り防止性
ガラス板の片面に、すきま150μmのフィルムアプリケータを用いて被覆材を塗り、塗面を水平に置いて標準状態で14日間乾燥したものを試験体とした。この試験体の被膜表面を紙製ウエスで擦り、紙製ウエスの着色の程度(紙製ウエスへの色移りの程度)を評価した。評価は、着色が認められなかったものを「a」、著しい着色が認められたものを「d」とする4段階(優:a>b>c>d:劣)で行った。
【0044】
(試験結果)
試験結果を表1に示す。実施例1〜8では、各試験において良好な結果が得られた。
【0045】
【表1】