(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、実施の形態について図面を参照しながら説明する。なお、実施の形態を通して共通の構成には同一の符号を付すものとし、重複する説明は省略する。また、各図は実施の形態の説明とその理解を促すための模式図であり、その形状や寸法、比などは実際の装置と異なる個所があるが、これらは以下の説明と公知の技術とを参酌して、適宜設計変更することができる。
【0010】
(第1の実施形態)
第1の実施形態によると、非水電解質電池が提供される。この非水電解質電池は、正極材料層を含んだ正極と、負極と、非水電解質とを具備する。非水電解質は、少なくとも正極材料層に保持されている。正極材料層は、正極活物質と、PF
2(=O)O
-、PF(=O)(O
-)
2及びこれらの組み合わせからなる群より選択される第1の基とを含む。非水電解質は、六フッ化リン酸リチウムと、PF
2(=O)O
-、PF(=O)(O
-)
2及びこれらの組み合わせからなる群より選択される第2の基とを含む。正極材料層における第1の基の含有割合C1は、0.3質量%以上2質量%以下である。非水電解質における第2の基の含有割合C2は、0.1質量%以上1.5質量%以下である。含有割合C1は、含有割合C2よりも大きい。
【0011】
本発明者らは、低温環境下での電池の出力性能を高めるために、鋭意研究を重ねた。その1つのアプローチとして、非水電解質に添加剤を加えて、正極界面でのLi塩の解離を促進すること及び正極からの金属溶出を抑制することを検討してきた。しかしながら、正極において効果を発揮する添加剤は、非水電解質に添加した場合、その全てが正極に作用するわけではなく、一部が負極側に移動してしまうため、添加量に対応する効果を十分に利用することができないことがわかった。このような問題を鑑みて鋭意研究した結果、本発明者らは、第1の実施形態に係る非水電解質電池を実現した。
【0012】
第1の実施形態に係る非水電解質電池では、第1の基及び第2の基が、非水電解質からのLiイオンの解離を促進することができる。非水電解質は少なくとも正極材料層に保持されているので、第1の基及び第2の基は、正極材料層と非水電解質との界面近傍にLiイオンを効率的に供給できる。正極活物質を含む正極材料層と非水電解質との界面は、正極の反応場となることができる。正極の反応場近傍に供給されたLiイオンは、この界面での正極反応に関与する際に移動する必要のある距離が小さい。その結果、低温環境下での充放電の際の抵抗値を下げることができる。
【0013】
加えて、第1の基及び第2の基は、正極材料層と非水電解質との界面での正極反応を促進することができる。第1の実施形態に係る非水電解質電池では、正極材料層における第1の基の含有割合C1が0.3質量%以上2質量%以下であり、非水電解質における第2の基の含有割合C2が0.1質量%以上1.5質量%以下であり、含有割合C1が含有割合C2よりも大きい。含有割合C1及びC2がこの条件を満たす状態にある非水電解質電池では、正極材料層に含まれる第1の基が非水電解質中に移動するのを防ぐことができる。そのため、第1の実施形態に係る非水電解質電池では、正極の反応場近傍に、十分な量の第1の基を留めておくことができる。したがって、第1の実施形態に係る非水電解質電池は、第1の基の含有割合C1に対応する効果を十分に利用することができる。
【0014】
そして、含有割合C1で正極材料層に含まれる第1の基及び含有割合C2で非水電解質に含まれる第2の基は、非水電解質に含まれる六フッ化リン酸リチウムの分解を抑制することもできる。六フッ化リン酸リチウムの分解生成物は、電極上に付着して、電池の抵抗成分となる。特に低温環境下では、抵抗成分の生成によってLiの移動距離が大きくなると、電池抵抗が大きくなる。このような抵抗成分の生成を防ぐことができるので、第1の実施形態に係る非水電解質電池は、より低い抵抗値を示すことができる。
【0015】
このように、第1の実施形態に係る非水電解質電池では、正極の反応場近傍にLiイオンを供給できると共に、正極反応を促進することができる。加えて、電池の抵抗上昇の原因となる抵抗成分の生成を抑えることができる。これらの結果、第1の実施形態に係る非水電解質電池は、低温環境下で優れた出力性能を示すことができる。
【0016】
以下、第1の実施形態に係る非水電解質電池をより詳細に説明する。
非水電解質に含まれる六フッ化リン酸リチウムは、例えば、化学式LiPF
6で表すことができる。非水電解質においては、六フッ化リン酸リチウムの少なくとも一部が、Liイオン(Li
+)と、ヘキサフルオロリン酸アニオン(PF
6-)とに解離していてもよい。第1の実施形態に係る非水電解質電池に含まれる第1の基及び第2の基は、例えば、この解離を促進することができる。また、先に述べたように、第1の基及び第2の基は、六フッ化リン酸リチウムの分解を抑制することもできる。ここで、六フッ化リン酸リチウムの分解は、LiPF
6からのLi
+の解離ではなく、ヘキサフルオロリン酸アニオンの構造の変化を意味する。六フッ化リン酸リチウムの分解は、例えば、HF、PF
5、POF
3及びLiFからなる群より選択される少なくとも1種が生成する反応であり得る。
【0017】
正極材料層に含まれる第1の基は、PF
2(=O)O
-、PF(=O)(O
-)
2及びこれらの組み合わせからなる群より選択される。第1の基は、PF
2(=O)O
-若しくはPF(=O)(O
-)
2の何れかであってもよいし、又はPF
2(=O)O
-及びPF(=O)(O
-)
2の組み合わせであってもよい。
【0018】
正極材料層は、例えば、第1の基を有する第1の化合物を含むことができる。或いは、正極活物質が、第1の基を含んでいてもよい。
【0019】
非水電解質に含まれる第2の基は、PF
2(=O)O
-、PF(=O)(O
-)
2及びこれらの組み合わせからなる群より選択される。第2の基は、PF
2(=O)O
-若しくはPF(=O)(O
-)
2の何れかであってもよいし、又はPF
2(=O)O
-及びPF(=O)(O
-)
2の組み合わせであってもよい。
【0020】
非水電解質は、例えば、第2の基を有する第2の化合物を含むことができる。
【0021】
第1の化合物及び第2の化合物は、同じでもよいし、又は異なっていてもよい。第1の化合物及び/又は第2の化合物は、化合物としては、水素元素及び/又はリチウムなどのアルカリ金属元素を更に含むこともできる。また、第1の化合物及び第2の化合物は、化合物として、アルキル基、カルボニル基、ヒドロキシル基及びアルキルリチウム基からなる群より選択される少なくとも1つの基を更に含むこともできる。また、第1の化合物及び/又は第2の化合物は、リン酸エステル部分などを含んでいてもよい。第1の化合物及び/又は第2の化合物は、電池内では、化合物の状態であってもよい。或いは、第1の化合物及び/又は第2の化合物は、電池内において、少なくとも一部が解離した状態であってもよい。正極材料層が第1の基を含んでいることは、例えば、第1の化合物の少なくとも一部が解離して生じた第1の基を正極材料層が含んでいる状態も包含する。同様に、非水電解質が第2の基を含んでいることは、例えば、第2の化合物の少なくとも一部が解離して生じた第2の基を非水電解質が含んでいる状態も包含する。
【0022】
第1の基と第2の基とを先に述べた含有割合C1及びC2で正極材料層と非水電解質とのそれぞれに含む第1の実施形態に係る非水電解質電池は、非水電解質からのLiイオンの解離促進による正極の反応場近傍へのLiイオンの供給の促進と、正極反応の促進と、非水電解質中の六フッ化リン酸リチウムの分解の抑制とを達成することができる。理論により縛られることを望まないが、六フッ化リン酸リチウムの分解抑制のメカニズムは、主にLiイオンの解離促進のメカニズムに類似すると予想される。第1の基及び第2の基は、Liイオンの供給源である六フッ化リン酸リチウムの分解を抑制することにより、正極反応場へのLiイオンの安定的な供給にも寄与することができる。
【0023】
正極材料層における第1の基の含有割合C1が0.3質量%未満である非水電解質電池では、正極材料層中に存在する第1の基が少な過ぎる。このような電池では、正極の反応場近傍での六フッ化リン酸リチウムの分解の抑制及びLi塩の解離促進効果が十分に発揮されない。一方、含有割合C1が2質量%を超える非水電解質電池では、正極材料層中に含まれる第1の基のうち電極反応に直接関与しない部分の割合が多くなり過ぎる。このような電池では、正極材料層において、第1の基のうち電極反応に直接関与しない部分が、電極反応を阻害し、低温環境下での抵抗が上昇する。ここで、電極反応が阻害される理由のひとつとして、例えば、第1の基のうち電極反応に直接関与しない部分が、正極活物質と正極材料層に含まれ得る導電剤との間の距離を広げてしまうことが挙げられる。
【0024】
また、非水電解質における第2の基の含有割合C2が0.1質量%未満である非水電解質電池では、非水電解質中に存在する第2の基が少な過ぎる。このような電池では、正極材料層から非水電解質への第1の基の移動が誘発される。移動した第1の基は、非水電解質中を拡散する。その結果、正極材料層と非水電解質との界面近傍に存在する第1の基の量が低減してしまい、正極の反応場近傍へのLiイオンの供給及びこの界面での正極反応の促進の効果を発現することができない。また、このような電池では、非水電解質中の六フッ化リン酸リチウムの分解を十分に抑制することができない。一方、非水電解質における含有割合C2が1.5質量%を超える非水電解質電池では、正極材料層と非水電解質との界面及び非水電解質中において、第2の基が多量に存在している。このような電池では、正極反応に六フッ化リン酸リチウムが関与することが阻害され、抵抗が増加してしまう。また、非水電解質における含有割合C2が1.5質量%を超えると、非水電解質の粘度が増加するだけでなく、非水電解質中に電池反応を阻害する成分が存在するようになる。そのため、このような非水電解質電池では、低温抵抗が増加し、その結果出力性能が低減する。
【0025】
含有割合C1及びC2は、分母となる正極材料層及び非水電解質の質量及び比重が異なる。しかしながら、正極材料層は、例えば遷移金属を含むことができるので、非水電解質よりも大きな比重を有することができる。そのため、含有割合C1が含有割合C2より大きいことは、PF
2(=O)O
-、PF(=O)(O
-)
2及びこれらの組み合わせからなる群より選択される基が、正極の反応場近傍の同体積の非水電解質と正極材料層とでは、非水電解質中よりも、正極材料層中に多く含まれている、ということができる。
【0026】
更に、この好ましい態様では、例えば、正極材料層における含有割合C1が、PF
2(=O)O
-、PF(=O)(O
-)
2及びこれらの組み合わせからなる群より選択される基についての非水電解質における溶解度を超えることができる。このような態様では、第1の基の一部が正極材料層から非水電解質に移動しても、より充分な量の化合物が正極材料層と非水電解質との界面に存在し続けることができ、低温環境下での電池の抵抗をより低減することができる。
【0027】
一方、第2の基の含有割合C2が第1の基の含有割合C1以上である非水電解質電池は、高い抵抗を示す。理論に縛られることは望まないが、このような非水電解質電池が高い抵抗を示す理由は、以下の通りであると考えられる。
【0028】
まず、正極材料層における第1の基の含有割合C1が0.3質量%以上である非水電解質電池では、正極反応を促進するのに十分な量の第1の基が、正極材料層に存在しているということができる。しかしながら、第2の基の含有割合C2が第1の基の含有割合C1以上である非水電解質電池では、非水電解質中の第2の基が非水電解質と正極材料層との間の界面近傍に移動する。このような非水電解質電池では、正極材料層のうち非水電解質に接する部分に第1の基が十分な量で存在すると共に、非水電解質のうち正極材料層に接する部分に第2の基が偏在するようになる。正極の反応場近傍の非水電解質に偏在する第2の基は、正極反応場近傍へのLiの移動を阻害する。その結果、このような非水電解質電池は、高い抵抗を示す。
【0029】
六フッ化リン酸リチウムは、非水溶媒中で、他のリチウム塩に比べて高い解離度を示すことができる。これは、六フッ化リン酸リチウムが、非水電解質において、他のLi塩に比べて多くのLiイオンを提供できることを意味する。Liをイオンの状態でより多く含む非水電解質ほど、より高いLiイオン伝導性を示すことができる。これは、移動できるLiイオンの量が多いだけでなく、Liイオンが円滑に移動できることにも起因する。そのため、六フッ化リン酸リチウムを含んだ非水電解質は、六フッ化リン酸リチウムを含まない非水電解質よりも、高いLiイオン伝導性を示すことができる。よって、六フッ化リン酸リチウムを含んだ非水電解質は、正極の反応場近傍へのLiの供給を促進することができる。なお、非水電解質が六フッ化リン酸リチウムを含まない非水電解質電池では、第1の基及び第2の基によるLi支持塩の分解抑制効果を利用できないだけでなく、第1の基及び/又は第2の基が抵抗成分として働き、低温環境下において高い抵抗を示すことがある。
【0030】
次に、第1の実施形態に係る非水電解質電池をより詳細に説明する。
【0031】
第1の実施形態に係る非水電解質電池は、正極と、負極と、非水電解質とを具備する。
【0032】
正極は、正極材料層を含む。
正極材料層は、正極活物質を更に含む。すなわち、正極材料層は、正極活物質含有層と呼ぶこともできる。また、正極材料層は、PF
2(=O)O
-、PF(=O)(O
-)
2及びこれらの組み合わせからなる群より選択される第1の基を更に含む。正極材料層は、必要に応じて、導電剤及びバインダーをさらに含むことができる。
【0033】
正極は、正極集電体を更に含むことができる。正極材料層は、正極集電体上に形成され得る。正極集電体は、例えば、第1の表面と、その裏面としての第2の表面とを有することができる。正極材料層は、正極集電体の両方の表面上に形成されてもよいし、又は一方の表面上に形成されてもよい。
【0034】
正極集電体は、表面に正極材料層を担持していない部分を含むことができる。この部分は、例えば正極タブとして働くことができる。或いは、正極は、正極集電体とは別体の正極タブをさらに具備することもできる。
【0035】
負極は、負極集電体と、負極集電体上に形成された負極材料層とを含むことができる。
【0036】
負極集電体は、例えば、第1の表面と、その裏面としての第2の表面とを有することができる。負極材料層は、負極集電体の両方の表面上に形成されてもよいし、又は一方の表面上に形成されてもよい。
【0037】
負極集電体は、表面に負極材料層を担持していない部分を含むことができる。この部分は、例えば、負極タブとして働くことができる。或いは、負極は、負極集電体とは別体の負極タブを更に具備することもできる。
【0038】
負極材料層は、負極活物質を含むことができる。すなわち、負極材料層は、負極活物質含有層と呼ぶこともできる。負極材料層は、例えば、作動電位が0.7V(vs.Li/Li
+)以上である負極活物質を含むことができる。負極材料層は、1種類のこのような負極活物質を含んでも良いし、又は複数種のこのような負極活物質の組み合わせを含んでも良い。負極材料層は、任意に、導電剤及び結着剤を更に含むことができる。
【0039】
正極と負極とは、電極群を構成することができる。例えば、電極群において、正極材料層と負極材料層とが、セパレータを介して対向することができる。電極群の構造は特に限定されず、様々な構造を採ることができる。例えば、電極群は、スタック型の構造を有することができる。スタック型構造の電極群は、例えば、複数の正極及び負極を、正極材料層と負極材料層との間にセパレータを挟んで積層することによって得られる。或いは、電極群は、例えば捲回型の構造を有することができる。捲回型の電極群は、例えば、正極とセパレータと負極とを渦巻き状に捲回することによって得られる。
【0040】
非水電解質は、六フッ化リン酸リチウムと、PF
2(=O)O
-、PF(=O)(O
-)
2及びこれらの組み合わせからなる群より選択される第2の基と含む。
【0041】
この非水電解質は、少なくとも正極材料層に保持されている。例えば、先に説明した正極材料層は、細孔を有することができる。例えば、非水電解質の一部は、正極材料層の細孔に入り込んだ状態(含浸した状態)で、正極材料層に保持され得る。負極材料層及びセパレータも、細孔を有することができる。非水電解質の他の一部は、例えば、負極材料層の細孔に入り込んだ状態(含浸した状態)で、負極材料層に保持され得る。非水電解質の更に他の一部は、例えば、セパレータの細孔に入り込んだ状態(含浸した状態)で、セパレータに保持され得る。これらの結果、非水電解質は、電極群に保持されることができる。
【0042】
第1の実施形態に係る非水電解質電池は、負極端子及び正極端子を更に含むことができる。負極端子は、その一部が負極の一部に電気的に接続されることによって、負極と外部端子との間で電子が移動するための導体として働くことができる。負極端子は、例えば、負極集電体、特に負極タブに接続することができる。同様に、正極端子は、その一部が正極の一部に電気的に接続されることによって、正極と外部回路との間で電子が移動するための導体として働くことができる。正極端子は、例えば、正極集電体、特に正極タブに接続することができる。
【0043】
第1の実施形態に係る非水電解質電池は、外装部材を更に具備することができる。外装部材は、電極群及び非水電解質を収容することができる。非水電解質は、外装部材内で、電極群に保持され得る。正極端子及び負極端子のそれぞれの一部は、外装部材から延出させることができる。
【0044】
以下、実施形態に係る非水電解質電池が具備することができる各部材の材料について、詳細に説明する。
【0045】
(1)正極
正極集電体としては、例えば、アルミニウム及び銅などの金属箔を使用することができる。正極集電体とは別体の正極タブを用いる場合、正極タブの材料は、正極集電体との接触抵抗を抑えるために、正極集電体の材料と同様のものであることが好ましい。
【0046】
正極活物質は、リチウム又はリチウムイオンを吸蔵及び放出できるものであれば、特に限定されない。正極活物質の例としては、二酸化マンガン(MnO
2)、酸化鉄、酸化銅、酸化ニッケル、リチウムコバルト複合酸化物(例えばLi
xCoO
2、0<x≦1)、リチウムニッケル複合酸化物(例えば、Li
xNiO
2、0<x≦1)、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物(例えば、Li
xNi
1-a-b-cCo
aMn
bM1
cO
2の一般式で表される組成を有することができる。M1は、Mg、Al、Si、Ti、Zn、Zr、Ca、W、Nb及びSnからなる群より選択される少なくとも1種であり、各添字は、−0.2≦x≦0.5、0<a<0.4(好ましくは、0.25<a<0.4)、0<b<0.5、0≦c<0.1の範囲内にある)、リチウムニッケルコバルト複合酸化物(例えば、Li
xNi
1-eCo
eO
2、0<x≦1、0<e<1)、リチウムマンガンコバルト複合酸化物(例えば、Li
xMn
fCo
1-fO
2、0<x≦1、0<f<1)、リチウムニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物(例えば、Li
xNi
1-g-hCo
gAl
hO
2、0<x≦1、0<g<1、0<h<1)、リチウムマンガン複合酸化物(例えば、Li
xMn
2O
4、Li
xMnO
2、0<x≦1)、オリビン構造を有するリチウムリン酸化物(例えば、Li
xFePO
4、Li
xMnPO
4、Li
xMn
1-iFe
iPO
4、Li
xCoPO
4、0<x≦1、0<i<1)、硫酸鉄(Fe
2(SO
4)
3)、及びバナジウム酸化物(例えば、V
2O
5)が挙げられる。正極材料層が含む正極活物質の種類は、1種類でもよいし、又は2種以上でもよい。
【0047】
正極活物質は、PF
2(=O)O
-、PF(=O)(O
-)
2及びこれらの組み合わせからなる群より選択される第1の基を含んだ相との混相でもよい。
【0048】
正極材料層が含むことができる導電剤は、カーボン材料を含むことが好ましい。カーボン材料としては、例えば、アセチレンブラック、ケチェンブラック、ファーネスブラック、グラファイト、カーボンナノチューブなどを挙げることができる。正極材料層は、上記カーボン材料の1種若しくは2種以上を含むことができるし、又は他の導電剤を更に含むこともできる。
【0049】
また、正極材料層が含むことができる結着剤は、特に限定されない。例えば、結着剤として、スラリー調製用の混合用溶媒、例えばn−メチルピロリドン(NMP)によく分散するポリマーを用いることができる。このようなポリマーとしては、例えば、ポリフッ化ビニリデン、ヘキサフルオロプロピレン及びポリテトラフルオロエチレンなどが挙げられる。
【0050】
正極作製の際に正極材料層に含ませ得る第1の化合物の具体例としては、モノフルオロリン酸(PF(=O)(OH)
2)、モノフルオロリン酸リチウム(PF(=O)(OLi)
2)、モノフルオロリン酸ナトリウム(PF(=O)(ONa)
2)、モノフルオロリン酸カリウム(PF(=O)(OK)
2)、モノフルオロリン酸ジメチル(PF(=O)(OCH
3)
2)、モノフルオロリン酸ジエチル(PF(=O)(OC
2H
5)
2)、モノフルオロリン酸エチルメチル(PF(=O)(OCH
3)(OC
2H
5))、ジフルオロリン酸(PF
2(=O)(OH))、ジフルオロリン酸0.5水和物(PF
2(=O)(OH)・0.5H
2O)、ジフルオロリン酸リチウム(PF
2(=O)(OLi))、ジフルオロリン酸ナトリウム(PF
2(=O)(ONa))、ジフルオロリン酸カリウム(PF
2(=O)(OK))、ジフルオロリン酸メチル(PF
2(=O)(OCH
3))、及びジフルオロリン酸エチル(PF
2(=O)(OC
2H
5))が挙げられる。
【0051】
正極材料層における第1の基の含有割合C1は、0.3質量%以上2質量%以下である。含有割合C1は、正極材料層の質量を100%として、正極材料層に含まれる、基PF
2(=O)O
-の質量、基PF(=O)(O
-)
2の質量、又は基PF
2(=O)O
-の質量と基PF(=O)(O
-)
2の質量との合計を百分率で示したものである。含有割合C1は、0.5質量%より大きく2質量%以下であることが好ましく、1質量%以上2質量%以下であることがより好ましい。
【0052】
また、正極材料層における、正極活物質、導電剤及び結着剤の含有量は、正極材料層の質量を基準(100%)として、それぞれ、80質量%以上97質量%以下、0.5質量%以上10質量%以下及び0.5質量%以上10質量%以下であることが好ましく、90質量%以上96質量%以下、1質量%以上8質量%以下及び1質量%以上8質量%以下であることがより好ましい。
【0053】
(2)負極
負極集電体としては、例えば、アルミニウム、銅などの金属箔を使用することができる。負極集電体とは別体の負極タブを用いる場合は、負極タブの材料は、負極集電体との接触抵抗を抑えるために、負極集電体の材料と同様のものであることが好ましい。
【0054】
負極活物質は、リチウム又はリチウムイオンを吸蔵及び放出できるものであれば、特に限定されない。負極活物質の例としては、例えば、スピネル型の結晶構造を有するチタン酸リチウム(例えば、Li
4+yTi
5O
12(yは、充電状態に応じて、0≦y≦3の範囲内で変化する)の組成を有することができる)、ラムズデライト型の結晶構造を有するチタン酸リチウム(例えば、Li
2+zTi
3O
7)(zは、充電状態に応じて、0≦z≦2の範囲内で変化する)の組成を有することができる)、アナターゼ型、ルチル型又はブロンズ型のチタン含有酸化物、単斜晶型の結晶構造を有するニオブチタン複合酸化物、及び斜方晶型の結晶構造を有するNa含有ニオブチタン複合酸化物が挙げられる。これらの負極活物質は、0.7V(vs.Li/Li
+)以上の作動電位を示すことができる。作動電位が0.7V(vs.Li/Li
+)以上である負極活物質を用いることにより、低温作動におけるリチウムデンドライトの生成を防ぐことができる。負極材料層が含む負極活物質の種類は、1種類でもよいし、又は2種以上でもよい。
【0055】
負極材料層が含むことができる導電剤及び結着剤は、正極材料層が含むことができるそれらと同様のものを用いることができる。
【0056】
負極材料層における負極活物質、導電剤及び結着剤の含有量は、負極材料層の質量を基準として、それぞれ、80質量%以上98質量%以下、1質量%以上10質量%以下及び1質量%以上10質量%以下であることが好ましく、90質量%以上94質量%以下、2質量%以上8質量%以下及び1質量%以上5質量%以下であることがより好ましい。
【0057】
(3)非水電解質
非水電解質は、例えば、非水溶媒と、非水溶媒中に溶解された電解質(Li支持塩)及び添加剤とを含むことができる。
【0058】
六フッ化リン酸リチウム(LiPF
6)は、例えば電解質として、非水電解質に含まれ得る。電解質としては、六フッ化リン酸リチウムを単独で用いてもよいし、又は六フッ化リン酸リチウムと、その他の1種若しくは2種以上の電解質との組み合わせを用いることもできる。六フッ化リン酸リチウム以外の電解質の例としては、例えば、過塩素酸リチウム(LiClO
4)、四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF
4)、六フッ化砒素リチウム(LiAsF
6)、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム(LiCF
3SO
3)などのリチウム塩を挙げることができる。
【0059】
電解質の質量の50質量%以上が六フッ化リン酸リチウムであることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましい。
【0060】
非水溶媒としては、例えば、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、γ−ブチロラクトン(γ−BL)、スルホラン、アセトニトリル、1,2−ジメトキシエタン、1,3−ジメトキシプロパン、ジメチルエーテル、テトラヒドロフラン(THF)、2−メチルテトラヒドロフランなどを挙げることができる。
【0061】
非水溶媒としては、1種類の溶媒を単独で使用してもよいし、又は2種以上の溶媒を混合した混合溶媒を使用してもよい。
【0062】
電解質の非水溶媒に対する溶解量は、0.5mol/L〜3mol/Lとすることが望ましい。なお、溶解量が高過ぎると電解液に完全に溶解できない場合がある。
【0063】
PF
2(=O)O
-、PF(=O)(O
-)
2及びこれらの組み合わせからなる群より選択される第2の基を有する第2の化合物は、例えば、添加剤として、非水電解質に含まれ得る。
【0064】
非水電解質調製の際に含ませ得る第2の化合物の具体例としては、先に説明した第1の化合物として用いることができる具体例と同様の化合物を挙げることができる。
【0065】
非水電解質における第2の基の含有割合C2は、0.1質量%以上1.5質量%以下である。含有割合C2は、非水電解質の質量を100%として、非水電解質に含まれる、基PF
2(=O)O
-の質量、基PF(=O)(O
-)
2の質量、又は基PF
2(=O)O
-の質量と基PF(=O)(O
-)
2の質量との合計を百分率で示したものである。含有割合C2は、0.3質量%以上1.4質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以上1.3質量%以下であることがより好ましい。
【0066】
非水電解質は、第2の化合物以外の1種又は2種以上の添加剤を更に含むこともできる。第2の化合物以外の添加剤としては、例えば、ビニレンカーボネート(VC)、フルオロビニレンカーボネート、メチルビニレンカーボネート、フルオロメチルビニレンカーボネート、エチルビニレンカーボネート、プロピルビニレンカーボネート、ブチルビニレンカーボネート、ジメチルビニレンカーボネート、ジエチルビニレンカーボネート、ジプロピルビニレンカーボネート、ビニレンアセテート(VA)、ビニレンブチレート、ビニレンヘキサネート、ビニレンクロトネート、カテコールカーボネート、プロパンスルトン、ブタンスルトン、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム(LiCF
3SO
3)、ビスオキサラトボラートリチウム(LiBOB)、ビス(フルオロスルホニル)イミドリチウム[LiN(SO
2F)
2]、ビストリフルオロメチルスルホニルイミドリチウム[LiN(CF
3SO
2)
2]等が挙げられる。これらの添加剤は、非水電解質に5質量%以下の含有割合で含まれることが好ましく3質量%以下の含有割合で含まれることがより好ましい。また、これらの添加剤は、例えば、非水電解質に、0.1質量%以上の量で含まれることができる。
【0067】
(4)セパレータ
セパレータは、特に限定されるものではなく、例えば、微多孔性の膜、織布、不織布、これらのうち同一材または異種材の積層物などを用いることができる。セパレータを形成する材料としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合ポリマー、エチレン−ブテン共重合ポリマー、セルロースなどを挙げることができる。
【0068】
(5)外装部材
外装部材としては、例えば金属製容器又はラミネートフィルム製容器を用いることができるが、特に限定されない。
【0069】
外装部材として金属製容器を用いることにより、耐衝撃性及び長期信頼性に優れた非水電解質電池を実現することができる。容器としてラミネートフィルム製容器を用いることにより、耐腐食性に優れた非水電解質電池を実現することができると共に、非水電解質電池の軽量化を図ることができる。
【0070】
金属製容器は、例えば、壁厚が0.2mm以上1mm以下の範囲内にあるものを用いることができる。金属製容器は、壁厚が0.3〜0.8mm以下であることがより好ましい。
【0071】
金属製容器は、Fe、Ni、Cu、Sn及びAlからなる群より選択される少なくとも1種を含んでいることが好ましい。金属製容器は、例えば、アルミニウム、アルミニウム合金、鉄、ニッケル(Ni)めっきした鉄、ステンレス(SUS)等から作ることができる。アルミニウム合金は、マグネシウム、亜鉛、ケイ素等の元素を含む合金が好ましい。合金中に鉄、銅、ニッケル、クロム等の遷移金属を含む場合、その含有量は1質量%以下にすることが好ましい。これにより、高温環境下での長期信頼性及び放熱性を飛躍的に向上させることができる。
【0072】
ラミネートフィルム製容器は、例えば、厚さが0.1以上2mm以下の範囲内にあるものを用いることができる。ラミネートフィルムの厚さは0.2mm以下であることがより好ましい。
ラミネートフィルムとしては、例えば、金属層と、この金属層を挟み込んだ樹脂層を含む多層フィルムが用いられる。金属層は、Fe、Ni、Cu、Sn及びAlからなる群より選択される少なくとも1種を含む金属を含むことが好ましい。金属層は、軽量化のためにアルミニウム箔又はアルミニウム合金箔であることが好ましい。樹脂層の材料としては、例えば、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ナイロン、ポリエチレンテレフタレート(PET)等の高分子材料を用いることができる。ラミネートフィルムは、熱融着によりシールを行って外装部材の形状に成形することができる。
【0073】
外装部材の形状としては、扁平型(薄型)、角型、円筒型、コイン型、ボタン型等が挙げられる。外装部材は、用途に応じて様々な寸法を採ることができる。例えば、第1の実施形態に係る非水電解質電池が携帯用電子機器の用途に用いられる場合は、外装部材は搭載する電子機器の大きさに合わせて小型のものにすることができる。或いは、二輪乃至四輪の自動車等に積載される非水電解質電池である場合、外装部材は大型電池用容器であり得る。
【0074】
(6)正極端子及び負極端子
正極端子及び負極端子は、例えば、アルミニウム又はアルミニウム合金から形成することが望ましい。
【0075】
<製造方法>
以下に、第1の実施形態に係る非水電解質電池の製造方法の例を説明する。
【0076】
PF
2(=O)O
-、PF(=O)(O
-)
2及びこれらの組み合わせからなる群より選択される基を有する化合物を、正極材料層には含ませず、非水電解質に添加剤として含ませて作製した非水電解質電池では、0.3質量%以上2質量%以下の範囲内にある正極材料層における第1の基の含有割合C1と、0.1質量%以上1.5質量%以下の範囲内にあり且つ含有割合C1よりも小さな非水電解質における第2の基の含有割合C2とを両立することができない。その理由は、以下のとおりである。このような電池では、PF
2(=O)O
-、PF(=O)(O
-)
2及びこれらの組み合わせからなる群より選択される基を有する化合物の正極材料層への供給は、非水電解質を通してのみとなる。正極材料層は、例えば細孔を有することができ、これらの細孔が、非水電解質の流路となり、且つ非水電解質を保持することができる。このような電池では、PF
2(=O)O
-、PF(=O)(O
-)
2及びこれらの組み合わせからなる群より選択される基を有する化合物は、細孔中にしか存在できない。そのため、このような電池では、正極活物質、導電剤及び結着剤を更に含み得る正極材料層におけるPF
2(=O)O
-、PF(=O)(O
-)
2及びこれらの組み合わせからなる群より選択される第1の基の含有割合C1が、必然的に、非水電解質におけるPF
2(=O)O
-、PF(=O)(O
-)
2及びこれらの組み合わせからなる群より選択される第2の基の含有割合C2よりも小さくなる。
【0077】
また、PF
2(=O)O
-、PF(=O)(O
-)
2及びこれらの組み合わせからなる群より選択される第1の基を、正極材料層に例えば0.5質量%以下の量で含ませ、非水電解質にはこのような基を含ませずに作製した非水電解質電池でも、上記範囲内にある含有割合C1及びC2を両立することはできない。このような非水電解質電池では、正極材料層から第1の基の一部が非水電解質に移動する。その結果、正極材料層におけるPF
2(=O)O
-、PF(=O)(O
-)
2及びこれらの組み合わせからなる群より選択される第1の基の含有割合は、正極材料層の質量に対して0.3質量%未満となってしまう。
【0078】
一方、ここで説明する例の製造方法では、正極材料層にPF
2(=O)O
-、PF(=O)(O
-)
2及びこれらの組み合わせからなる群より選択される第1の基を有する化合物(第1の化合物)を添加し、非水電解質にも添加剤としてPF
2(=O)O
-、PF(=O)(O
-)
2及びこれらの組み合わせからなる群より選択される第2の基を有する化合物(第2の化合物)を添加する。ここで、正極材料層を作製するための正極作製用スラリーの質量に対する第1の化合物の配合割合P1(質量%)を、非水電解質の質量に対する第2の化合物の配合割合P2(質量%)よりも大きくする。
【0079】
この例の製造方法を、以下により具体的に説明する。
まず、正極及び負極を作製する。正極は、例えば、以下の方法によって作製することができる。まず、正極活物質と、導電剤と、結着剤とを混合し、正極合材を得る。次いで、この正極合材に、例えば粉末状の第1の化合物を投入量P1(質量%)で投入する。第1の化合物の投入量P1は、完成させる非水電解質電池におけるPF
2(=O)O
-、PF(=O)(O
-)
2及びこれらの組み合わせからなる群より選択される第1の基の含有割合C1が0.3質量%以上2質量%以下となるように調整する。続いて、得られた正極合材を、適切な溶媒、例えばN−メチルピロリドンに加える。かくして得られた混合物を撹拌して、正極作製用スラリーを得る。かくして得られた正極作製用スラリーを、正極集電体上に塗布し、塗膜を乾燥させる。乾燥させた塗膜をプレスすることによって、正極集電体と、正極集電体上に形成された正極材料層とを具備した正極を得ることができる。
【0080】
負極は、例えば、以下の手順により作製することができる。まず、負極活物質と、導電剤と、結着剤とを混合して、負極合材を得る。かくして得られた負極合材を適切な溶媒、例えばN−メチルピロリドンに加え、混合物を攪拌して、負極作製用スラリーを得る。この負極作製用スラリーを負極集電体に塗布し、塗膜を乾燥させる。乾燥させた塗膜をプレスすることによって、負極集電体と、負極集電体上に形成された負極材料層とを具備した負極を得ることができる。
【0081】
続いて、作製した正極及び負極、並びに必要に応じてセパレータを用いて、電極群を作製する。次に、作製した電極群を、外装部材に収容する。
【0082】
一方で、非水電解質を調製する。非水電解質は、非水溶媒に、電解質(Li塩)及び第2の化合物、並びに必要に応じて更なる添加剤を溶解させることにより、調製することができる。ここで、非水電解質を調製する際の第2の化合物の投入量P2を、第1の化合物の投入量P1よりも小さくする。また、投入量P2は、完成させる非水電解質電池におけるPF
2(=O)O
-、PF(=O)(O
-)
2及びこれらの組み合わせからなる群より選択される第2の基の含有割合C2が0.1質量%以上1.5質量%以下となるように調整する。
【0083】
次いで、電極群を収容した外装部材内に、非水電解質を導入する。最後に外装部材を封止することにより、非水電解質が得られる。
【0084】
以上では、第1の化合物を正極合材に添加する例を説明したが、正極材料層中に第1の基を含ませる方法は、この手段に限られない。例えば、正極作製用スラリーを調製したあと、この正極作製用スラリーに第1の化合物の粉末又はその溶液を含ませてもよい。
【0085】
又は、正極作製用スラリーを用いて正極合材層を正極集電体上に形成したのち、正極合材層の表面に第1の基を有する第1の化合物を含んだ溶液を塗布し、塗膜を乾燥させることによって、第1の基を含む正極材料層を得ることができる。この例では、必要に応じて、塗膜を乾燥に供する前に加熱に供することが好ましい。加熱は、例えば、60℃〜150℃の温度で、1分〜60分間行うことができる。この加熱により、正極合材層の細孔内部に、第1の化合物を固着させることができる。なお、この加熱により、第1の化合物の一部が変性することがある。
【0086】
又は、正極合材層を正極集電体上に形成したのち、正極合材層に第1の基を有する第1の化合物の溶液を含浸させ、その後、正極合材層を乾燥させることによって、第1の基を含んだ正極材料層を得てもよい。この例でも、必要に応じて、正極合材層を乾燥に供する前に加熱に供することが好ましい。加熱は、例えば、50℃〜80℃の温度で、1分〜120分間行うことができる。この加熱は、例えば、減圧装置内で正極合材層に第1の化合物を含浸させ、この減圧装置を上記範囲内の温度にし、その状態を上記時間に亘って維持することによって行ってもよい。正極合材層の細孔内部に、第1の化合物を固着させることができる。なお、この加熱により、第1の化合物の一部が変性することがある。
【0087】
或いは、LiPF
6の粉末を含ませた正極作製用スラリーを用いて正極合材層を形成し、次いでこの正極合材層において第1の基を有する化合物を合成することもできる。例えば、正極合材層に水を含ませ、この状態で正極合材層を加熱することにより、第1の基を含んだ正極材料層を得ることができる。この方法では、例えば、正極作製用スラリー調製の際のLiPF
6の添加量、正極合材層への水分の添加量、加熱温度及び加熱時間を組み合わせて制御することにより、正極材料層における第1の基の含有割合C1を調整することができる。
【0088】
なお、含有割合C1及び含有割合C2は、例えば、第1の基の一部の非水電解質への移動、及び非水電解質電池の充放電により変化し得る。しかしながら、例えば、下記実施例に記載した手順で作製した電池は、正極材料層における第1の基の含有割合C1を0.3質量%以上2質量%以下の範囲内に維持することができ、非水電解質における第2の基の含有割合C2を0.1質量%以上1.5質量%以下の範囲内に維持することができる。
【0089】
<各種分析方法>
(含有割合C1及び含有割合C2の定量)
正極材料層における第1の基の含有割合C1(質量%)及び非水電解質における第2の基の含有割合C2(質量%)は、例えば、以下の方法によって定量することができる。
【0090】
まず、検査対象の非水電解質電池を用意する。対象の非水電解質電池は、定格容量の80%以上の容量を有する電池とする。電池の容量維持率は、以下の方法により判断する。まず、電池を作動上限電圧まで充電する。この時の電流値は定格容量から求めた1Cレートに相当する電流値である。作動上限電圧に達した後、3時間電圧を保持する。充電及び電圧保持後、0.2Cのレートで作動電圧下限値まで放電を行い、放電容量を計測する。得られた容量の定格容量に対する比率を容量維持率と定義する。容量維持率測定後、電池は放電状態のままとする。
【0091】
次に、不活性ガス雰囲気内で電池を解体する。次いで、解体した電池から、正極の一部及び非水電解質の一部を採取する。例えば、アルゴンガス雰囲気のグローブボックス内で、電池を解体し、解体した電池から非水電解質を抜き取り、電極群中の正極を切り取る。
【0092】
次いで、切り取った正極を溶媒で洗浄する。溶媒としては、鎖状カーボネート(例えばジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネートなど)やアセトニトリルを用いることができる。洗浄後、不活性ガス雰囲気を保ったまま真空状態にし、正極を乾燥させる。正極の乾燥は、例えば、50℃の真空下で10時間行うことができる。
【0093】
次いで、乾燥させた正極から、正極材料層の一部を剥ぎ取る。この際、正極集電体の表面が露出するように、正極材料層を正極集電体から剥ぎ取る。次に、剥離した正極材料層の質量を測定する。
【0094】
続いて、剥ぎ取った正極材料層を重水中に浸漬し、正極材料層中に含まれる成分を抽出する。次に、この抽出液を測定サンプルとして、NMR装置内に導入し、19F−NMR及び31P−NMR測定を行う。測定結果と標準物質とのピークの比率から、測定サンプルに含まれている各成分の定量を行うことができる。このようにして19F−NMR及び31P−NMR測定を行うことにより、測定サンプル中に含まれているPF
2(=O)O
-、PF(=O)(O
-)
2及びこれらの組み合わせからなる群より選択される基の質量を測定することができる。測定した質量を測定サンプルの質量で除することで、正極材料層における第1の基の含有割合C1[質量%]を算出することができる。
【0095】
含有割合C2は、以下の手順で算出できる。まず、先のように解体した非水電解質から、非水電解質の一部を測定サンプルとして抽出し、秤量する。このサンプルについて、19F−NMR及び31P−NMRを行う。得られた測定結果から、測定サンプルに含まれているPF
2(=O)O
-、PF(=O)(O
-)
2及びこれらの組み合わせからなる群より選択される基の質量を測定することができる。測定した質量を測定サンプルの秤量値で除することで、非水電解質における第2の基の含有割合C2[質量%]を算出することができる。
【0096】
(非水電解質に含まれる成分の同定方法)
非水電解質に含まれる溶媒の成分の同定方法を以下に説明する。
まず、測定対象の非水電解質電池を、電池電圧が1.0Vになるまで1Cで放電する。放電した非水電解質電池を、不活性雰囲気のグローブボックス内で解体する。
【0097】
次いで、電池及び電極群に含まれる非水電解質を抽出する。非水電解質電池を開封した箇所から非水電解質を取り出せる場合は、そのまま非水電解質のサンプリングを行う。一方、電極群に保持されている場合は、電極群を更に解体し、例えば非水電解質を含浸したセパレータを取り出す。セパレータに含浸されている非水電解質は、例えば遠心分離機などを用いて抽出することができる。かくして、非水電解質のサンプリングを行うことができる。なお、非水電解質電池に含まれている非水電解質が少量である場合、電極及びセパレータをアセトニトリル液中に浸すことで非水電解質を抽出することもできる。アセトニトリル液の質量を抽出前後で測定し、抽出量を算出することができる。
【0098】
かくして得られた非水電解質のサンプルを、例えばガスクロマトグラフィー質量分析装置(GC−MS)又は核磁気共鳴分光法(NMR)に供して、組成分析を行う。かくして、非水電解質中に六フッ化リン酸リチウムが含まれているか否かを判断することができる。
【0099】
また、この方法によれば、六フッ化リン酸リチウムを定量することもできる。定量に際しては、まず、六フッ化リン酸リチウムの検量線を作製する。作成した検量線と、非水電解質のサンプルを測定して得られた結果におけるピーク強度又は面積とを対比させることで、非水電解質中の六フッ化リン酸リチウムの量を算出することができる。
【0100】
(正極活物質及び負極活物質の同定方法)
非水電解質電池に含まれている正極活物質は、以下の方法に従って同定することができる。
まず、非水電解質電池を電池電圧が1.0Vになるまで1Cで放電する。次に、このような状態にした電池を、アルゴンを充填したグローブボックス中で分解する。分解した電池から、正極を取り出す。取り出した正極を適切な溶媒で洗浄する。たとえばエチルメチルカーボネートなどを用いると良い。洗浄が不十分であると、正極中に残留したリチウムイオンの影響で、炭酸リチウムやフッ化リチウムなどの不純物相が混入することがある。その場合は、測定を不活性ガス雰囲気中で行うことができる気密容器を用いるとよい。洗浄した後、正極を真空乾燥に供する。乾燥後、スパチュラなどを用いて正極材料層を集電体から剥離させ、粉末状の正極材料層を得る。
【0101】
かくして得られた粉末に対して粉末X線回折測定(X-ray diffraction;XRD)を行うことによって、この粉末に含まれる化合物の結晶構造を同定することができる。測定は、CuKα線を線源として、2θが10〜90°の測定範囲で行う。この測定により、この粉末に含まれる化合物のX線回折パターンを得ることができる。粉末X線回折測定の装置としては、例えばRigaku社製SmartLabを用いる。測定条件は以下の通りとする:Cuターゲット;45kV 200mA;ソーラスリット:入射及び受光共に5°;ステップ幅:0.02deg;スキャン速度:20deg/分;半導体検出器:D/teX Ultra 250;試料板ホルダ:平板ガラス試料板ホルダ(厚さ0.5mm);測定範囲:10°≦2θ≦90°の範囲。その他の装置を使用する場合は、上記と同等の測定結果が得られるように、粉末X線回折用標準Si粉末を用いた測定を行い、ピーク強度及びピークトップ位置が上記装置と一致する条件で行う。
【0102】
測定結果において、複数の結晶構造に帰属されるピークが表れるかどうかで活物質の混合状態を判断することができる。
【0103】
続いて、走査型電子顕微鏡(Scanning electron microscope;SEM)によって、正極材料層を観察する。試料のサンプリングについても大気に触れないようにし、アルゴンや窒素など不活性雰囲気で行う。
【0104】
3000倍のSEM観察像にて、視野内で確認される1次粒子あるいは2次粒子の形態を持つ幾つかの粒子を選定する。この際、選定した粒子の粒度分布ができるだけ広くなるように選定する。観察できた活物質粒子に対し、エネルギー分散型X線分光法(Energy Dispersive X-ray Spectroscopy;EDX)で活物質の構成元素の種類及び組成を特定する。これにより、選定したそれぞれの粒子に含まれる元素のうちLi以外の元素の種類及び量を特定することができる。複数の活物質粒子それぞれに対し同様の操作を行い、活物質粒子の混合状態を判断する。
【0105】
続いて、正極材料層を秤量する。秤量した粉末を塩酸で溶解し、イオン交換水で希釈した後、誘導結合プラズマ発光分光分析法(Inductively Coupled Plasma Atomic Emission Spectroscopy:ICP−AES)により含有金属量を算出する。活物質が複数種類存在している場合は、各活物質に固有の元素の含有比率からその質量比を推定する。固有の元素と活物質質量の比率とは、エネルギー分散型X線分光法により求めた構成元素の組成から判断する。
【0106】
かくして、非水電解質電池の正極に含まれている活物質を同定することができる。
【0107】
非水電解質電池に含まれている負極活物質も、先と同様の手順で同定することができる。但し、ここでは、負極活物質の結晶状態を把握するために、測定対象の活物質からリチウムイオンが離脱した状態にする。例えば、非水電解質電池を電池電圧が1.0Vになるまで1Cで放電する。但し、電池を放電した状態でも、活物質に残留したリチウムイオンが存在することがあり得る。
【0108】
(活物質の作動電位の測定方法)
まず、電池の構成要素が解体時に大気成分や水分と反応することを防ぐために、例えば、アルゴンガス雰囲気のグローブボックス内のような不活性ガス雰囲気内に電池を入れる。次に、このようなグローブボックス内で、非水電解質電池を開く。例えば、正極集電タブ及び負極集電タブのそれぞれの周辺にあるヒートシール部を切断して、非水電解質電池を切り開くことができる。切り開いた非水電解質電池から、電極群を取り出す。取り出した電極群が正極リード及び負極リードを含む場合は、正負極を短絡させないように注意しながら、正極リード及び負極リードを切断する。
【0109】
次に、解体した電極郡から取り出した負極のうち正極に対向していた部分の重量を測定する。その後、負極から例えば3cm四方の負極サンプルを切り取る。電池の充電状態はいずれの状態であっても構わない。なお、負極サンプルは、負極のうち正極に対向した部分から切り取る。
【0110】
次に、切り取った負極サンプルの重量を測定する。測定後、負極サンプルを作用極とし、対極及び参照極にリチウム金属箔を用いた2極式又は3極式の電気化学測定セルを作成する。作成した電気化学測定セルを、下限電位1.0V(vs. Li/Li
+)まで充電する。この時の電流値は、電池に含まれていた負極のうち正極に対向していた部分の重量に対する切り取った負極サンプルの重量の比率に、電池の定格容量を掛けたものとする。充電及び電圧保持後、充電と同じ電流値で負極電位が2.0V(vs. Li/Li
+)になるまで放電を行う。上記の充放電を計3サイクル行う。最終3サイクル目の充電における平均電位及び放電における平均電位をそれぞれ求め、両者の平均を負極の作動電位とする。
【0111】
第1の実施形態に係る非水電解質電池を
図1及び
図2を参照してより具体的に説明する。
図1は、第1の実施形態に係る第1の例の非水電解質電池を厚さ方向に切断した断面図である。
図2は、
図1のA部の拡大断面図である。
【0112】
図1及び
図2に示す非水電解質電池10は、扁平状の捲回電極群1を具備する。扁平状の捲回電極群1は、金属層とこれを挟む2枚の樹脂フィルムとを含んだラミネートフィルムからなる袋状外装部材2内に収納されている。
【0113】
扁平状の捲回電極群1は、外側から負極3、セパレータ4、正極5、セパレータ4の順で積層した積層物を渦巻状に捲回し、プレス成型することにより形成される。負極3は、負極集電体3aと、負極集電体3a上に形成された負極材料層3bとを具備する。負極3の最外層に位置する部分では、
図2に示すように、負極集電体3aの内面側の片方の表面上に負極材料層3bが形成されている。負極3のその他の部分では、負極集電体3aの両方の表面上に負極材料層3bが形成されている。正極5は、正極集電体5aと、正極集電体5aの両方の表面上に形成された正極材料層5bとを具備している。
【0114】
図1に示すように、捲回電極群1の外周端近傍において、負極端子6が負極3の負極集電体3aに接続されており、正極端子7が正極5の正極集電体5aに接続されている。これらの負極端子6及び正極端子7は、袋状外装部材2の一端から外部に延出されている。
【0115】
図1及び
図2に示す非水電解質電池10は、図示しない非水電解質を更に具備する。非水電解質は、電極群1、例えば負極材料層3b、正極材料層5b及びセパレータ4に保持された状態で、外装部材2内に収容されている。
【0116】
非水電解質は、例えば、袋状外装部材2の開口部から注入することができる。非水電解質注入後、袋状外装部材2の開口部を負極端子6及び正極端子7を挟んでヒートシールすることにより、捲回電極群1及び非水電解質を完全密封することができる。
【0117】
第1の実施形態に係る非水電解質電池は、前述した
図1及び
図2に示す構成のものに限らず、例えば
図3及び
図4に示す構成にすることができる。
【0118】
図3は、第1の実施形態に係る第2の例の非水電解質電池の一部切欠き斜視図である。
図4は、
図3のB部の拡大断面図である。
【0119】
図3及び4に示す例の非水電解質電池10は、積層型電極群11を具備する。積層型電極群11は、金属層と、これを間に挟んだ2枚の樹脂フィルムとを含むラミネートフィルムからなる外装部材12内に収納されている。
【0120】
積層型電極群11は、
図4に示すように、正極13と負極14とをその間にセパレータ15を介在させながら交互に積層した構造を有する。正極13は複数枚存在し、それぞれが集電体13aと、集電体13aの両面に担持された正極材料層13bとを備える。負極14は複数枚存在し、それぞれが集電体14aと、集電体14aの両面に担持された負極材料層14bとを備える。各負極14の集電体14aの一部14cは、正極13の一方の端部から突出している。集電体14aの一部14cは、帯状の負極端子16に電気的に接続されている。帯状の負極端子16の先端は、
図3に示すように、外装部材12から外部に引き出されている。また、図示しないが、正極13の集電体13aのうち、集電体14aの一部14cと反対側に位置する部分が、負極14の一方の端部から突出している。集電体13aのうち負極14から突出した部分は、帯状の正極端子17に電気的に接続されている。帯状の正極端子17の先端は、
図3に示すように、負極端子16とは反対側に位置し、外装部材12の辺から外部に引き出されている。
【0121】
電池の形状としては、例えば、扁平型、角型、円筒型、コイン型、ボタン型、シート型、積層型等が挙げられる。なお、無論、携帯用電子機器等に積載される小型電池の他、二輪乃至四輪の自動車等に積載される大型電池でも良い。
【0122】
第1の実施形態に係る非水電解質電池は、正極材料層を含んだ正極と、負極と、非水電解質とを具備する。正極材料層は、正極活物質とPF
2(=O)O
-、PF(=O)(O
-)
2及びこれらの組み合わせからなる群より選択される第1の基とを含む。非水電解質は、六フッ化リン酸リチウムと、PF
2(=O)O
-、PF(=O)(O
-)
2及びこれらの組み合わせからなる群より選択される第2の基とを含む。正極材料層における第1の基の含有割合C1は、0.3質量%以上2質量%以下である。非水電解質における第2の基の含有割合C2は、0.1質量%以上1.5質量%以下であり、含有割合C1よりも小さい。このような含有割合C1及びC2を満足する非水電解質電池では、正極の反応場近傍へのLiイオンの供給を促進でき、正極反応を促進でき、且つ六フッ化リン酸リチウムの分解を防ぐことができる。これらの結果、第1の実施形態に係る非水電解質電池は、低温環境下において、優れた出力性能を示すことができる。
【0123】
(第2の実施形態)
第2の実施形態によると、電池パックが提供される。この電池パックは、第1の実施形態に係る非水電解質電池を具備する。
【0124】
第2の実施形態に係る電池パックは、複数の非水電解質電池を備えることもできる。複数の非水電解質電池は、電気的に直列に接続することもできるし、又は電気的に並列に接続することもできる。或いは、複数の非水電解質電池を、直列及び並列の組み合わせで電気的に接続することもできる。電気的に接続された非水電解質電池は、組電池を構成することができる。すなわち、第2の実施形態に係る電池パックは、組電池を具備することもできる。
【0125】
第2の実施形態に係る電池パックは、複数の組電池を具備することができる。複数の組電池は、直列、並列、又は直列及び並列の組み合わせで接続することができる。
【0126】
第2の実施形態の電池パックの一例について、図面を参照しながら説明する。
【0127】
図5は、第2の実施形態に係る一例の電池パックの分解斜視図である。
図6は、
図5に示す電池パックの電気回路を示すブロック図である。単電池には、例えば、
図1及び2に示す扁平型電池を使用することができる。
【0128】
前述した
図1及び
図2に示す扁平型非水電解質電池から構成される複数の単電池21は、外部に延出した負極端子6および正極端子7が同じ向きに揃えられるように積層され、粘着テープ22で締結することにより組電池23を構成している。これらの単電池21は、
図6に示すように互いに電気的に直列に接続されている。
【0129】
プリント配線基板24は、単電池21の側面のうち負極端子6及び正極端子7が延出する側面と対向して配置されている。プリント配線基板24には、
図6に示すようにサーミスタ25、保護回路26及び外部機器への通電用端子27が搭載されている。なお、プリント配線基板24の組電池23と対向する面には、組電池23の配線との不要な接続を回避するために絶縁板(図示せず)が取り付けられている。
【0130】
正極側リード28は、組電池23の最下層に位置する単電池21の正極端子7に接続され、その先端はプリント配線基板24の正極側コネクタ29に挿入されて電気的に接続されている。負極側リード30は、組電池23の最上層に位置する単電池21の負極端子6に接続され、その先端はプリント配線基板24の負極側コネクタ31に挿入されて電気的に接続されている。これらのコネクタ29及び31は、プリント配線基板24に形成された配線32及び33を通して保護回路26に接続されている。
【0131】
サーミスタ25は、単電池21の温度を検出し、その検出信号は保護回路26に送信される。保護回路26は、所定の条件で保護回路26と外部機器への通電用端子27との間のプラス側配線34aおよびマイナス側配線34bを遮断できる。所定の条件とは、例えば、サーミスタ25の検出温度が所定温度以上になったときである。また、所定の条件とは、例えば、単電池21の過充電、過放電、又は過電流等を検出したときである。この過充電等の検出は、個々の単電池21又は組電池23全体について行われる。個々の単電池21を検出する場合、電池電圧を検出してもよいし、又は正極電位若しくは負極電位を検出してもよい。後者の場合、個々の単電池21中に参照極として用いるリチウム電極が挿入される。
図5及び
図6に示した電池パック20の場合、単電池21それぞれに電圧検出のための配線35が接続されている。単電池21のそれぞれの電圧に関する検出信号は、これら配線35を通して、保護回路26に送信される。
【0132】
正極端子7及び負極端子6が突出する側面を除く組電池23の三側面には、ゴム又は樹脂からなる保護シート36がそれぞれ配置されている。
【0133】
組電池23は、各保護シート36及びプリント配線基板24と共に収納容器37内に収納される。すなわち、収納容器37の長辺方向の両方の内側面と短辺方向の内側面それぞれに保護シート36が配置され、短辺方向の反対側の内側面にプリント配線基板24が配置される。組電池23は、保護シート36及びプリント配線基板24で四方を囲まれた空間内に位置する。蓋38は、収納容器37の上面に取り付けられている。
【0134】
なお、組電池23の固定には粘着テープ22に代えて、熱収縮テープを用いてもよい。この場合の組電池の固定は、例えば以下の手順で行うことができる。まず、組電池23の両側面に保護シートを配置する。次いで、この保護シートの上から、熱収縮テープで組電池23を巻く。巻いた熱収縮テープを熱収縮させることで、組電池23を結束させることができる。
【0135】
図5及び
図6では単電池21を直列接続した形態を示したが、電池容量を増大させるためには並列に接続してもよい。組み上がった電池パックを直列、並列に接続することもできる。
【0136】
また、電池パックの態様は用途により適宜変更される。電池パックの用途としては、大電流特性でのサイクル特性が望まれるものが好ましい。具体的には車両用、例えば、二輪乃至四輪のハイブリッド電気自動車、二輪乃至四輪の電気自動車、アシスト自転車等の車載用、電車等が挙げられる。特に、車載用が好適である。
【0137】
第2の実施形態に係る電池パックは、第1の実施形態に係る非水電解質電池を具備するので、低温環境下で優れた出力性能を示すことができる。
【0138】
[実施例]
以下に実施例を説明するが、本発明の主旨を超えない限り、本発明は以下に掲載される実施例に限定されるものでない。
【0139】
(実施例1)
実施例1では、非水電解質電池を以下の手順で製造した。
【0140】
<負極の作製>
負極活物質として、1.55V(vs.Li/Li
+)の作動電位でリチウムの吸蔵及び放出が可能なスピネル構造のリチウムチタン複合酸化物(Li
4Ti
5O
12:LTO)の粉末を用いた。この負極活物質を90質量部の割合で含み、導電剤としてカーボンブラックを5質量部の割合で含み、且つ結着剤としてポリフッ化ビニリデン(PVdF)を5質量部の割合で含む負極合材を調製した。この負極合材をN−メチルピロリドン(NMP)に加えて、負極作製用スラリーを調製した。このようにして調製した負極作製用スラリーを、厚さが20μmであるアルミニウム箔(負極集電体)の両面に塗布した。この際、負極集電体に、表面に負極作製用スラリーが塗布されていない部分を残した。次に、塗膜を乾燥させ、次いでプレス処理に供した。かくして、負極集電体と、負極集電体上に形成された負極材料層とを含む負極が得られた。
【0141】
<正極の作製>
正極活物質としてリチウムコバルト複合酸化物(LiCoO
2:LCO)の粉末を用いた。この正極活物質を90質量部の割合で含み、導電剤としてカーボンブラックを5質量部の割合で含み、且つ結着剤としてポリフッ化ビニリデン(PVdF)を5質量部の割合で含む正極合材を調製した。更に、この正極合材に、第1の化合物としてモノフルオロリン酸リチウム(PF(=O)(OLi)
2)の粉末を配合割合P1が1.1質量%になるように混合した。次いで、この正極合材をNMPに加えて、正極作製用スラリーを調製した。
【0142】
この正極作製用スラリーを、厚さが20μmであるアルミニウム箔(正極集電体)の両面に塗布した。この際、正極集電体に、表面に正極作製用スラリーが塗布されていない部分を残した。次に、塗膜を乾燥させ、次いでこれをプレス処理に供した。かくして、正極集電体と、正極集電体上に形成された正極材料層とを具備した正極が得られた。
【0143】
<電極群の作製>
上記のように作製した正極と、厚さが20μmであるポリエチレン製多孔質フィルムからなるセパレータと、上記のように作製した負極と、もう一枚のセパレータとをこの順序で積層させて、積層体を得た。これを50℃で加熱プレスすることにより、幅58mm、高さ95mm、厚さ3.0mmの偏平状電極群を作製した。次に、アルミニウム箔とその両面に形成されたポリプロピレン層とで構成されたラミネートフィルムからなる外装部材を用意した。この外装部材内に、上記のようにして得られた電極群を収容した。
【0144】
<非水電解質の調製>
エチレンカーボネート(EC)とメチルエチルカーボネート(EMC)とを2:3の体積比となるよう混合し、混合溶媒を調製した。
【0145】
この混合溶媒に、電解質として、六フッ化リン酸リチウム(LiPF
6)を1.0mol/Lの濃度で溶解させた。また、混合溶媒に、第2の化合物としてモノフルオロリン酸リチウム(PF(=O)(OLi)
2)の粉末を、非水電解質の質量に対する配合割合P2が0.5質量%になるように混合し、溶解した。かくして非水電解質を調製した。
【0146】
<非水電解質の注入>
電極群を収容した外装部材に、上記のように調製した非水電解質を10g注入し、次いで外装部材を封止した。かくして、非水電解質電池を作製した。
【0147】
<初充電及び再充電>
まず、非水電解質電池を、25℃環境下において、0.2Cレートで電池電圧が2.9Vになるまで充電した。次いで、非水電解質電池の電圧をそのまま2.9Vに保った状態で、3時間放置した。この状態の非水電解質電池の充電率を100%、すなわち満充電とした。その後、非水電解質電池を、0.2Cレートで電池電圧が1.2Vになるまで放電した。次いで、この非水電解質電池を、充電率が50%となるよう、0.2Cレートで充電した。かくして、非水電解質電池を完成させた。
【0148】
<初回放電容量の測定>
続いて、完成した非水電解質電池を、25℃環境下において、0.2Cレートで1回の充放電サイクルに供した。充電終止電圧は2.9Vとした。放電終止電圧は1.2Vとした。充電と放電との間に、25℃環境下において、30分の休止を行った。ここでの放電の際の放電容量を測定し、初回放電容量とした。その後、非水電解質電池を、1Cのレートで充電して、充電率を50%に調整した。
【0149】
<低温性能試験>
続いて、非水電解質電池を25℃環境で0.2Cレートで電池電圧が2.9Vになるまで充電した。次いで、非水電解質電池の電圧をそのまま2.9Vに保った状態で、非水電解質電池を3時間放置した。その後、非水電解質電池を、25℃環境において、1Cレートで電池電圧が1.2Vになるまで放電した。この放電の際の放電容量を、25℃1C放電容量として記録した。
【0150】
続いて、非水電解質電池を、25℃環境において、0.2Cレートで電池電圧が2.9Vになるまで充電した。次いで、非水電解質電池の電圧をそのまま2.9Vに保った状態で、非水電解質電池を3時間放置した。その後、非水電解質電池を−20℃の環境に3時間放置した。その後、非水電解質電池を、−20℃環境において、1Cレートで電池電圧が1.2Vになるまで放電した。この放電の際の放電容量を、−20℃1C放電容量として記録した。
【0151】
−20℃1C放電容量の25℃1C放電容量に対する百分率(%)を、この非水電解質の低温性能指数とした。低温性能指数は、その値が高いほど、低温環境下での出力性能が高い電池であることを示す。
【0152】
(実施例2〜5、並びに比較例1〜5)
実施例2〜5、並びに比較例1〜5では、正極合材に加えた第1の化合物の配合割合P1及び/又は非水電解質に加えた第2の化合物の配合割合P2を以下の表1に示すように実施例1でのそれ又はそれらから変更した以外は実施例1と同様の手順により、各非水電解質電池を作製した。
【0154】
(実施例6)
正極活物質として、リチウムコバルト複合酸化物の代わりに、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物(LiNi
0.33Co
0.33Mn
0.33O
2:NCM)の粉末を用いたこと以外は実施例1と同様の手順により、非水電解質電池を作製した。
【0155】
正極活物質、導電剤及び結着剤を、実施例1と同じく、それぞれ90質量部、5質量部及び5質量部の割合で混合し、正極合材を調製した。正極合材への第1の化合物としてのモノフルオロリン酸リチウムの粉末の配合割合P1も、実施例1と同じく、正極合材の質量に対して1.1質量%になるようにした。
【0156】
(実施例7)
正極活物質として、リチウムコバルト複合酸化物の代わりに、リチウムマンガン複合酸化物(LiMn
2O
4:LMO)の粉末を用いたこと以外は実施例1と同様の手順により、非水電解質電池を作製した。
【0157】
正極活物質、導電剤及び結着剤を、実施例1と同じく、それぞれ90質量部、5質量部及び5質量部の割合で混合し、正極合材を調製した。正極合材への第1の化合物としてのモノフルオロリン酸リチウムの粉末の配合割合P1も、実施例1と同じく、正極合材の質量に対して1.1質量%になるようにした。
【0158】
(実施例8)
負極活物質として、リチウムチタン複合酸化物の粉末の代わりに、単斜晶型の結晶構造を有するニオブチタン複合酸化物(TiNb
2O
7:NTO)の粉末を用いたこと以外は実施例1と同様の手順により、非水電解質電池を作製した。このニオブチタン複合酸化物の作動電位は、0.8V(vs.Li/Li
+)〜2.0V(vs.Li/Li
+)の範囲内にある。
【0159】
(実施例9)
負極活物質として、リチウムチタン複合酸化物の粉末の代わりに、斜方晶型の結晶構造を有するNa含有ニオブチタン複合酸化物(Li
2Na
1.7Ti
5.7Nb
0.3O
14:LNT)の粉末を用いたこと以外は実施例1と同様の手順により、非水電解質電池を作製した。このNa含有ニオブチタン複合酸化物の作動電位は、0.8V(vs.Li/Li
+)〜2.0V(vs.Li/Li
+)の範囲内にある。
【0160】
(実施例10)
以下の手順で調製した非水電解質を用いたこと以外は実施例1と同様の手順により、非水電解質電池を作製した。
【0161】
エチレンカーボネート(EC)と、メチルエチルカーボネート溶媒(EMC)とを2:3の体積比となるよう混合し、混合溶媒を調製した。
【0162】
この混合溶媒に、電解質として、0.5mol/Lの濃度で六フッ化リン酸リチウム(LiPF
6)を、及び0.5mol/Lの濃度で四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF
4)をそれぞれ溶解させた。また、混合溶媒に、第2の化合物としてモノフルオロリン酸リチウム(PF(=O)(OLi)
2)の粉末を、非水電解質の質量に対する配合割合P2が0.5質量%になるように混合し、溶解した。かくして非水電解質を調製した。
【0163】
(実施例11)
以下の手順で作製した正極を用いたこと以外は実施例1と同様の手順により、非水電解質電池を作製した。
【0164】
まず、正極活物質としてリチウムコバルト複合酸化物(LiCoO
2:LCO)の粉末を用いた。この正極活物質を90質量部の割合で含み、導電剤としてカーボンブラックを5質量部の割合で含み、且つ結着剤としてポリフッ化ビニリデン(PVdF)を5質量部の割合で含む正極合材を調製した。次いで、この正極合材をNMPに加えて、正極作製用スラリーを調製した。
【0165】
この正極作製用スラリーを、厚さが20μmであるアルミニウム箔(正極集電体)の両面に塗布した。この際、正極集電体に、表面に正極作製用スラリーが塗布されていない部分を残した。次に、塗膜を乾燥させ、次いでこれをプレス処理に供した。かくして、正極集電体と、正極集電体上に形成された正極合材層とを具備した正極中間体が得られた。
【0166】
次に、不活性雰囲気内で、エチレンカーボネート(EC)と、メチルエチルカーボネート(EMC)とを2:3の体積比となるよう混合し、混合溶媒を調製した。この混合溶媒に、電解質として、3.2mol/Lの濃度で六フッ化リン酸リチウム(LiPF
6)を溶解させた。更に、この混合溶液に純水を1質量%になるよう添加し、処理溶液とした。
【0167】
かくして調製した処理溶液に、先に作製した正極中間体を浸漬させた。次いで、正極中間体を浸漬させた溶液を含む容器を、減圧装置に入れ、その中を減圧した。かくして、正極合材層内部に処理溶液を含浸させた。次いで、この容器を密閉し、60℃環境下で1時間放置した。次いで、正極中間体を容器から取り出し、メチルエチルカーボネート溶媒で洗浄し、真空乾燥に供した。かくして、正極を作製した。
【0168】
(実施例12)
以下の手順で作製した正極を用いたこと以外は実施例1と同様の手順により、非水電解質電池を作製した。
【0169】
まず、実施例11と同様の手順で、正極中間体を作製した。次に、不活性雰囲気内で、エチレンカーボネート(EC)と、メチルエチルカーボネート(EMC)とを2:3の体積比となるよう混合し、混合溶媒を調製した。この混合溶媒に、電解質として、0.5mol/Lの濃度で六フッ化リン酸リチウム(LiPF
6)を溶解させた。更に、この溶液にジフルオロリン酸リチウム(PF
2(=O)(OLi))を投入した。かくして、処理溶液を調製した。ジフルオロリン酸リチウムは、処理溶液の質量に対して2.0質量%の量で投入した。
【0170】
この処理溶液に、先に作製した正極中間体を浸漬させた。次いで、正極中間体を浸漬させた溶液を含む容器を、減圧装置に入れ、その中を減圧した。かくして、正極合材層内部に処理溶液を含浸させた。次いで、容器を密閉し、60℃環境下で1時間放置した。次いで、正極中間体を取り出し、メチルエチルカーボネート溶媒で洗浄し、真空乾燥に供した。かくして、正極を作製した。
【0171】
(比較例6)
以下の手順で調製した非水電解質を用いたこと以外は実施例1と同様の手順により、非水電解質電池を作製した。
【0172】
エチレンカーボネート(EC)と、メチルエチルカーボネート溶媒(EMC)とを2:3の体積比となるよう混合し、混合溶媒を調製した。
【0173】
この混合溶媒に、電解質として、1.0mol/Lの濃度で四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF
4)を溶解させた。また、混合溶媒に、第2の化合物としてモノフルオロリン酸リチウム(PF(=O)(OLi)
2)の粉末を、非水電解質の質量に対する配合割合P2が0.5質量%になるように混合し、溶解した。かくして非水電解質を調製した。
【0174】
(比較例7)
以下の点以外は実施例1と同様の手順により、非水電解質電池を作製した。
【0175】
まず、正極作製の際、正極合材にモノフルオロリン酸リチウムの粉末を混合しなかった。すなわち、配合割合P1を0質量%とした。
【0176】
また、負極作製の際、負極合材に、モノフルオロリン酸リチウムの粉末を、負極合材の質量に対する配合割合が2.0質量%になるように混合した。
【0177】
また、非水電解質の調製の際、非水電解質の質量に対する配合割合P2が0.7質量%となるように、モノフルオロリン酸リチウムを混合溶媒に添加した。
【0178】
(比較例8)
正極作製の際に正極合材にモノフルオロリン酸リチウムの粉末を混合しなかったこと、及び非水電解質調製の際、非水電解質の質量に対する配合割合P2が0.7質量%になるようにモノフルオロリン酸リチウムを混合溶媒に混合したこと以外は実施例1と同様の手順により、非水電解質電池を作製した。
【0179】
(比較例9)
比較例9では、非水電解質への第2の化合物の配合割合P2を1.7質量%に変更したこと以外は比較例8と同様の手順で非水電解質電池を作製した。
【0180】
以下の表2に、実施例1〜12及び比較例1〜9の非水電解質電池の製造の際の、集電体の片面当たりの正極作製用スラリー及び負極作製用スラリーの塗布量[g/m
2]、並びにプレス処理後の正極材料層及び負極材料層の密度[g/cm
3]をまとめて示す。
【0182】
[評価]
実施例2〜12及び比較例1〜9の非水電解質電池を、実施例1の非水電解質電池と同様の手順で試験した。また、実施例1〜12及び比較例1〜9の非水電解質電池に関し、正極材料層におけるPF
2(=O)O
-、PF(=O)(O
-)
2及びこれらの組み合わせからなる群より選択される第1の基の含有割合C1及び非水電解質におけるPF
2(=O)O
-、PF(=O)(O
-)
2及びこれらの組み合わせからなる群より選択される第2の基の含有割合C2を、先に説明した手順で定量した。なお、分析の結果、実施例11の非水電解質電池の正極の正極材料層は、基PF(=O)(O
-)
2を有している化合物を含んでいることが分かった。また、分析の結果、実施例11の非水電解質電池の正極の正極材料層は、基PF
2(=O)(O
-)を有している化合物を含んでいることが分かった。
【0183】
各実施例及び比較例の非水電解質電池についての含有割合C1及びC2、C1とC2との関係、正極活物質の組成、負極活物質の組成、用いた電解質の種類、並びに低温性能指数を、以下の表3にまとめて示す。
【0185】
(実施例13〜16並びに比較例10及び11)
実施例13〜16並びに比較例10及び11では、第1の化合物及び/又は第2の化合物を下記表4に記載したものに変更し、第1の化合物及び第2の化合物を下記表4に記載した配合割合P1及びP2に記載した量で添加したこと以外は実施例1と同様の手順により、非水電解質電池を作製した。
【0186】
以下の表5に、実施例13〜16並びに比較例10及び11の非水電解質電池の製造の際の、集電体の片面当たりの正極作製用スラリー及び負極作製用スラリーの塗布量[g/m
2]、並びにプレス処理後の正極材料層及び負極材料層の密度[g/cm
3]をまとめて示す。
【0187】
[評価]
実施例13〜16並びに比較例10及び11の非水電解質電池を、実施例1の非水電解質電池と同様の手順で試験した。また、実施例13〜16並びに比較例10及び11の非水電解質電池についての含有割合C1及び含有割合C2を、先に説明した手順で定量した。
【0188】
各実施例及び比較例の非水電解質電池についての含有割合C1及びC2、C1とC2との関係、並びに低温性能指数を、以下の表4及び6にまとめて示す。
【0192】
[結果]
表の結果から明らかな通り、実施例1〜16の電池は、低温性能指数、すなわち25℃1C放電容量に対する−20℃1C放電容量の比率が大きかった。すなわち、実施例1〜16の電池は、低温環境下で優れた出力性能を示すことができたことがわかる。これに対して、正極材料層における第1の基の含有割合C1が2質量%を超える比較例1、含有割合C1が0.3質量%未満である比較例2、非水電解質における第2の基の含有割合C2が1.5質量%を超える比較例3、含有割合C2が0.1質量%未満である比較例4、及び含有割合C2が含有割合C1よりも高い比較例5のそれぞれの電池は、低温性能指数が低く、低温環境下での出力性能に乏しかった。
【0193】
実施例1、実施例6及び実施例7の結果の比較から、正極活物質が異なっていても、正極材料層における第1の基の含有割合C1が0.3質量%以上2質量%以下の範囲内にあり、非水電解質における第2の基の含有割合C2が0.1質量%以上1.5質量%以下の範囲内にあり、且つ含有割合C1が含有割合C2よりも大きい電池は、高い低温性能指数を示すことができ、低温環境下で優れた出力性能を示すことができたことが分かる。同様に、実施例1、実施例8及び実施例9の結果の比較からも、負極活物質が異なっていても、含有割合C1及びC2が上記条件を満たしている電池は、高い低温性能指数を示すことができ、低温環境下で優れた出力性能を示すことができたことが分かる。
【0194】
実施例1では、電解質として、六フッ化リン酸リチウムのみを用いた。実施例10では、電解質として、六フッ化リン酸リチウムと四フッ化ホウ酸リチウムとを用いた。比較例6では、電解質として、四フッ化ホウ酸リチウムのみを用いた。これらの例の結果の比較から、第1の基及び第2の基の存在による電解質の分解抑制及びLiイオンの解離促進効果は、非水電解質が六フッ化リン酸リチウムを含んでいる場合に有効であることが分かる。
【0195】
実施例11及び12の電池は、第1の化合物の正極材料層への添加方法が実施例1のそれと異なる。実施例1と実施例11及び12との結果の比較から、第1の化合物の添加方法に関わらず、含有割合C1及びC2が上記条件を満たしている電池は、高い低温性能指数を示すことができ、低温環境下で優れた出力性能を示すことができたことが分かる。
【0196】
一方、比較例7では、第1の化合物を正極合材に添加せず、負極合材に添加した。また、比較例8及び9では、第1の化合物を正極合材に添加しなかった。表3に示した結果から、正極合材に第1の化合物を添加しなかったこれらの比較例では、第1の基の含有割合C1が0.3質量%以上である電池を作製できなかったことが分かる。そのため、比較例7〜9の電池は、低温性能指数が低く、低温環境下での出力性能に乏しかった。
【0197】
また、比較例9の非水電解質電池では、非水電解質の非水溶媒に溶けきらなかったモノフルオロリン酸リチウムが存在していた。すなわち、比較例9で用いた非水電解質は、モノフルオロリン酸リチウムについての飽和溶液であった。しかしながら、比較例9の非水電解質電池の正極材料層において、PF
2(=O)O
-、PF(=O)(O
-)
2及びこれらの組み合わせからなる群より選択される第1の基の含有量が0.3質量%未満であった。つまり、比較例9の結果から、PF
2(=O)O
-、PF(=O)(O
-)
2及びこれらの組み合わせからなる群より選択される基を有する化合物を正極材料層に含ませない場合、このような化合物についての飽和状態にある非水電解質を用いても、正極材料層における第1の基の含有割合C1を0.3質量%以上とすることができないことが分かる。更に、比較例9の非水電解質電池では、非水電解質における含有割合C2が1.5質量%を超えていたため、非水電解質に第2の基が過剰に存在していたと考えられる。そのため、比較例9の非水電解質電池では、正極反応に六フッ化リン酸リチウムが関与することが阻害され、低温抵抗が増加してしまったと考えられる。
【0198】
また、実施例12〜16の非水電解質電池は、実施例1から、第1の化合物及び/又は第2の化合物を変更したものである。しかしながら、実施例1及び12〜16の結果から、実施例1及び実施例12〜16の非水電解質電池は、同様に、低温環境下で優れた出力性能を示すことができたことが分かる。また、実施例12及び実施例14〜16の結果から、第1の化合物と第2の化合物とが別の化合物であっても、これらの実施例の非水電解質電池は、低温環境下で優れた出力性能を示すことができたことが分かる。
【0199】
一方、比較例10及び11の結果から、含有割合C1と含有割合C2とが等しいと、低温環境下での出力性能に乏しかったことが分かる。
【0200】
以上に説明した1つ以上の実施形態及び実施例によると、非水電解質電池が提供される。この非水電解質電池は、正極材料層を含んだ正極と、負極と、非水電解質とを具備する。正極材料層は、正極活物質とPF
2(=O)O
-、PF(=O)(O
-)
2及びこれらの組み合わせからなる群より選択される第1の基とを含む。非水電解質は、六フッ化リン酸リチウムと、PF
2(=O)O
-、PF(=O)(O
-)
2及びこれらの組み合わせからなる群より選択される第2の基と含む。正極材料層における第1の基の含有割合C1は、0.3質量%以上2質量%以下である。非水電解質における第2の基の含有割合C2は、0.1質量%以上1.5質量%以下であり、含有割合C1よりも小さい。このような含有割合C1及びC2を満足する非水電解質電池では、正極の反応場近傍へのLiイオンの供給を促進でき、正極反応を促進でき、且つ六フッ化リン酸リチウムの分解を防ぐことができる。これらの結果、この非水電解質電池は、低温環境下において、優れた出力性能を示すことができる。
【0201】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
以下に、本願出願の当初の特許請求の範囲に記載された発明を付記する。
[1] 正極材料層を含んだ正極と、
負極と、
少なくとも前記正極材料層に保持された非水電解質と
を具備し、
前記正極材料層は、正極活物質と、PF2(=O)O-、PF(=O)(O-)2及びこれらの組み合わせからなる群より選択される第1の基とを含み、
前記非水電解質は、六フッ化リン酸リチウムと、PF2(=O)O-、PF(=O)(O-)2及びこれらの組み合わせからなる群より選択される第2の基とを含み、
前記正極材料層における前記第1の基の含有割合C1は、0.3質量%以上2質量%以下であり、
前記非水電解質における前記第2の基の含有割合C2は、0.1質量%以上1.5質量%以下であり、
前記含有割合C1は、前記含有割合C2よりも大きい非水電解質電池。
[2] 前記正極材料層は、前記第1の基を有する第1の化合物を含み、
前記非水電解質は、前記第2の基を有する第2の化合物を含む[1]に記載の非水電解質電池。
[3] 前記第1の化合物は、前記第2の化合物と同じである、又は前記第2の化合物と異なる[2]に記載の非水電解質電池。
[4] 前記負極は、負極材料層を含み、
前記負極材料層は、作動電位が0.7V(vs.Li/Li+)以上である負極活物質を含む[1]〜[3]の何れか1つに記載の非水電解質電池。
[5] [1]〜[4]の何れか1つに記載の非水電解質電池を具備する電池パック。