【実施例】
【0016】
(実施例1)図面を参照して、実施例1の半導体装置10について説明する。本実施例の半導体装置10は、特に限定されないが、パワー半導体装置に属するものであり、例えば電動型の自動車において、コンバータやインバータのスイッチング素子として採用することができる。ここでいう電動型の自動車には、例えば、ハイブリッド車、燃料電池車又は再充電式の電気自動車といった、車輪をモータによって駆動する各種の自動車が含まれる。
【0017】
図1に示すように、半導体装置10は、半導体基板12と、半導体基板12の上面12aに設けられた上面電極14と、半導体基板12の下面12bに設けられた下面電極16とを備える。半導体基板12は、シリコン(Si)で構成されたシリコン基板である。但し、半導体基板12は、シリコン基板に限定されず、炭化シリコン(SiC)基板又はその他の半導体材料で構成された基板(結晶体)であってもよい。上面電極14と下面電極16は、それぞれ導電性を有する材料で構成されている。上面電極14と下面電極16を構成する材料は特に限定されず、例えばアルミニウム(Al)、ニッケル(Ni)、チタン(Ti)、金(Au)といった金属材料であってよい。
【0018】
なお、半導体基板12の上面12aとは、半導体基板12の一つの表面を意味し、半導体基板12の下面12bとは、半導体基板12の他の一つの表面であって、上面12aとは反対側に位置する表面を意味する。本明細書において、「上面」及び「下面」という表現は、互いに反対側に位置する二つの表面を便宜的に区別するものであり、半導体装置10の製造時や使用時における姿勢を限定するものではない。
【0019】
半導体基板12は、ダイオード領域12XとIGBT領域12Yとを有する。ダイオード領域12XとIGBT領域12Yは、それぞれ半導体基板12の上面12aから下面12bまで延びているとともに、半導体基板12を平面視したときに互いに隣接する。後述する説明から理解されるように、ダイオード領域12Xには、pn接合型ダイオードとショットキー接合型ダイオードの両構造が形成されており、IGBT領域には、IGBTの構造が形成されている。即ち、半導体装置10は、ダイオードの構造とIGBTの構造を併せ持つ半導体装置であり、一般にRC−IGBTと称される。
【0020】
ダイオード領域12Xは、アノード領域22と、カソード領域24と、ドリフト領域26と、バリア領域28と、ピラー領域30とを備える。アノード領域22は、p型の半導体領域であり、上面電極14に接触している。なお、アノード領域22の上面電極14に接触する部分22aは、他の部分よりもキャリア密度(即ち、正孔の密度)が高くなっており、上面電極14にオーミック接触している。カソード領域24は、n型の半導体領域であり、下面電極16に接触している。カソード領域24のキャリア密度は十分に高く、カソード領域24は下面電極16にオーミック接触している。
【0021】
ドリフト領域26は、カソード領域24と同じくn型の半導体領域である。但し、ドリフト領域26のキャリア密度(即ち、自由電子の密度)は、カソード領域24のキャリア密度よりも低い。ドリフト領域26は、アノード領域22とカソード領域24との間に介在している。即ち、アノード領域22とカソード領域24は、少なくともドリフト領域26によって互いに隔てられている。ドリフト領域26は、ダイオード領域12Xだけでなく、IGBT領域12Yにも広がっている。
【0022】
バリア領域28は、アノード領域22とドリフト領域26との間に介在している。即ち、アノード領域22とドリフト領域26は、少なくともバリア領域28によって互いに隔てられている。ピラー領域30は、n型の半導体領域である。ピラー領域30のキャリア密度は、カソード領域24のキャリア密度よりも低く、ドリフト領域26のキャリア密度と同程度又はそれよりも高くなっている。ピラー領域30は、バリア領域28と上面電極14との間を延びており、上面電極14にショットキー接触している。バリア領域28及びピラー領域30は、ダイオード領域12Xだけでなく、IGBT領域12Yにも設けられている。
【0023】
本実施例におけるバリア領域28は、n型の第1バリア層28aと、p型の第2バリア層28bと、n型の第3バリア層28cとを含み、第1バリア層28aと第3バリア層28cとの間に第2バリア層28bが介在する多層構造を有する。第1バリア層28a及び第3バリア層28cにおける各キャリア密度は、ドリフト領域26におけるキャリア密度よりも高く、カソード領域24におけるキャリア密度よりも低い。第1バリア層28aは、アノード領域22に接しているとともに、ピラー領域30を介して上面電極14に接続されている。第3バリア層28cは、第2バリア層28bによって、第1バリア層28a及びピラー領域30から隔てられている。特に限定されないが、本実施例のバリア領域28では、第3バリア層28cのキャリア密度が、第1バリア層28aのキャリア密度よりも高くなっている。なお、バリア領域28の厚み(
図1中の上下方向の寸法)は、アノード領域22の厚み及びドリフト領域26の厚みよりも十分に小さい。
【0024】
ダイオード領域12Xにはさらに、トレンチ32が設けられている。トレンチ32は、半導体基板12の上面12aに設けられており、ドリフト領域26に達する深さを有する。トレンチ32内には、トレンチ絶縁膜34と、ダミー電極36とが設けられている。ダミー電極36は、トレンチ絶縁膜34によって半導体基板12(即ち、トレンチ32の内面)から隔てられている。また、ダミー電極36と上面電極14との間には、層間絶縁膜38が設けられている。ダミー電極36は、上面電極14と同電位に維持されるように構成されている。前述したピラー領域30は、隣接する二つのトレンチ32の間に位置しており、各々のトレンチ32とピラー領域30との間にアノード領域22が介在している。なお、トレンチ32、トレンチ絶縁膜34、ダミー電極36及び層間絶縁膜38は、ダイオード領域12Xにおいて必ずしも必要とされない構成であり、省略されてもよい。
【0025】
次に、IGBT領域12Yについて説明する。IGBT領域12Yは、ボディ領域52と、エミッタ領域54と、コレクタ領域56と、ドリフト領域26と、バリア領域28と、ピラー領域30とを備える。ボディ領域52は、p型の半導体領域であり、上面電極14に接触している。なお、ボディ領域52の上面電極14に接触する部分52aは、他の部分よりもキャリア密度(即ち、正孔の密度)が高くなっており、上面電極14にオーミック接触している。ボディ領域52とドリフト領域26の間には、バリア領域28が介在している。即ち、ボディ領域52は、バリア領域28によってドリフト領域26から隔てられている。IGBT領域12Yにおいても、ピラー領域30は、バリア領域28と上面電極14との間を延びており、上面電極14にショットキー接触している。
【0026】
エミッタ領域54は、n型の半導体領域であり、上面電極14に接触している。エミッタ領域54のキャリア密度は十分に高く、エミッタ領域54は上面電極14にオーミック接触している。エミッタ領域54は、ボディ領域52によってドリフト領域26及びピラー領域30から隔てられている。なお、本実施例の半導体装置10では、エミッタ領域54と同様のn型の半導体領域が、ダイオード領域12Xにも設けられているが、ダイオード領域12Xにおける当該n型の半導体領域は必ずしも必要とされない構成であり、省略されてもよい。
【0027】
コレクタ領域56は、p型の半導体領域であり、下面電極16に接触している。コレクタ領域56のキャリア密度は十分に高く、コレクタ領域56は下面電極16にオーミック接触している。コレクタ領域56は、ドリフト領域26及びバリア領域28によってボディ領域52から隔てられている。
図1に示すように、前述したダイオード領域12Xでは、半導体基板12の下面12bに沿ってn型のカソード領域24が設けられているのに対して、IGBT領域12Yでは、半導体基板12の下面12bに沿ってp型のコレクタ領域56が設けられており、この点においてダイオード領域12XとIGBT領域12Yとは互いに相違する。
【0028】
IGBT領域12Yには、トレンチ62が設けられている。トレンチ62は、半導体基板12の上面12aに設けられており、ドリフト領域26に達する深さを有する。トレンチ62内には、ゲート絶縁膜64と、ゲート電極66とが設けられている。ゲート電極66は、ゲート絶縁膜64によって半導体基板12(即ち、トレンチ62の内面)から隔てられている。また、ゲート電極66と上面電極14との間には、層間絶縁膜68が設けられている。ゲート電極66は、ゲート絶縁膜64を介して、エミッタ領域54、ボディ領域52及びドリフト領域26に対向している。ゲート電極66は、外部の駆動回路によって、所定のゲート電圧が印加されるように構成されている。
【0029】
以上の構成により、本実施例の半導体装置10は、ダイオード領域12Xにおいて、ダイオードとして機能することができる。ダイオード領域12Xは、上面電極14から下面電極16へ流れる電流を許容し、下面電極16から上面電極14へ流れる電流を禁止する。即ち、
図2に示すように、上面電極14と下面電極16との間に順方向電圧Vfを印加すると、半導体装置10には順方向電流Ifが流れる。
図3に示すグラフAは、順方向電圧Vfと順方向電流Ifとの関係を模式的に示す。
【0030】
本実施例の半導体装置10では、アノード領域22とドリフト領域26との間に、バリア領域28が設けられている。バリア領域28は、多層構造を有しており、n型の第1バリア層28a及び第3バリア層28cの間に、p型の第2バリア層28bが介在している。n型の第1バリア層28a及び第3バリア層28cは、
図2に示す順方向バイアス時において、アノード領域22からドリフト領域26に注入される正孔を抑制する。これにより、逆方向バイアスへの切り替え時に生じるリカバリ電流が低減される。加えて、p型の第2バリア層28bは、順方向バイアスへの切り替え時に、ドリフト領域26からピラー領域30を通じて上面電極14へ流れる電子Eを抑制することができる。これにより、アノード領域22へ注入される電子が増大することから、スナップバック現象の発生が抑制される。スナップバック現象とは、
図3中のグラフBで示すように、順方向バイアスへの切り替え時に、順方向電圧Vfの上昇に対して順方向電流Ifの増大が一時的に遅延する現象であり、例えば無用な損失を招き得る。
【0031】
加えて、n型の第1バリア層28a及び第3バリア層28cは、p型の第2バリア層28bによって互いに隔てられている。従って、第1バリア層28aと第3バリア層28cとの間で、キャリア密度を互いに相違させることができる。前述したように、本実施例のバリア領域28では、第3バリア層28cのキャリア密度が、第1バリア層28aのキャリア密度よりも高くなっている。ピラー領域30に接続された第1バリア層28aのキャリア密度が低いほど、順方向バイアスへの切り替え時に、ドリフト領域26からピラー領域30を通じて上面電極14へ流れる電子Eが抑制され、スナップバック現象の発生がさらに抑制される。その一方で、第3バリア層28cについては、そのキャリア密度を高くすることによって、リカバリ電流を低減するというバリア領域28の機能を高めることができる。第3バリア層28cは、第2バリア層28bによってピラー領域30から隔てられているので、第3バリア層28cのキャリア密度を高くしても、スナップバック現象の発生が助長されることはない。このように、多層構造を有するバリア領域28は、ダイオード領域12Xにおいて、リカバリ電流を低減するとともにスナップバック現象の発生を抑制することができる。
【0032】
本実施例の半導体装置10はさらに、IGBT領域12Yにおいて、IGBTとして機能することができる。
図4に示すように、ゲート電極66に所定のゲート電圧Vgが印加され、IGBTがターンオンされると、下面電極16から上面電極14に向けて電流Icが流れ得る。半導体基板12内では、エミッタ領域54からドリフト領域26に電子が注入され、コレクタ領域56からドリフト領域26へ正孔が注入され、ドリフト領域26の伝導度変調が生じる。このとき、キャリア密度の比較的に高いn型の第3バリア層28cが、ドリフト領域26に近接していることから、ドリフト領域26に多くの正孔が蓄積されやすい。従って、ドリフト領域26の伝導度変調が促進され、IGBTのオン抵抗が低減される。このように、バリア領域28の第3バリア層28cは、ダイオードにおけるリカバリ特性の改善だけでなく、IGBTにおけるオン抵抗の改善にも寄与することができる。
【0033】
(実施例2)
図5を参照して、実施例2の半導体装置110について説明する。本実施例の半導体装置110は、実施例1の半導体装置10と比較して、バリア領域28の構成が変更されている。その他の構成については、実施例1、2の間で共通していることから、共通の符号を付すことによって、ここでは重複する説明を省略することがある。
【0034】
図5に示すように、本実施例におけるバリア領域28は、第1バリア層28a、第2バリア層28b及び第3バリア層28cに加えて、第4バリア層28dをさらに備える。第4バリア層28dは、p型の半導体領域であり、第3バリア層28cとドリフト領域26との間に位置している。第4バリア層28dのキャリア密度は、コレクタ領域56のキャリア密度よりも低く、ボディ領域52のキャリア密度と同程度又はそれ以下であってよい。第4バリア層28dのキャリア密度は、第2バリア層28bのキャリア密度と同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0035】
バリア領域28が第4バリア層28dを有していると、ゲート電極66がゲート絶縁膜64を介してドリフト領域26に対向する面積Sを、小さくすることができる。これにより、ゲート電極66と下面電極16との間の寄生容量が減少することから、IGBTのターンオフ(即ち、ゲート電極66からの放電)を短時間で行うことができる。
【0036】
(実施例3)
図6を参照して、実施例3の半導体装置210について説明する。本実施例の半導体装置210は、IGBTの構造を有しておらず、ダイオードの構造のみを有する。バリア領域28の構成が変更されている。なお、本実施例の半導体装置210の構成のうち、実施例1、2の半導体装置10、110と共通するものについては、共通の符号が付されており、重複する説明については省略されることがある。
【0037】
半導体装置210は、半導体基板12と、半導体基板12の上面12aに設けられた上面電極14と、半導体基板12の下面12bに設けられた下面電極16とを備える。半導体基板12は、上面電極14に接触しているp型のアノード領域22と、下面電極16に接触しているn型のカソード領域24とを備える。アノード領域22の上面電極14に接触する部分22aは、他の部分よりもキャリア密度が高くなっており、上面電極14にオーミック接触している。カソード領域24のキャリア密度は十分に高く、カソード領域24は下面電極16にオーミック接触している。
【0038】
半導体基板12はさらに、アノード領域22とカソード領域24との間に介在するとともに、カソード領域24よりもキャリア密度が低いn型のドリフト領域26と、アノード領域22とドリフト領域26との間に介在するバリア領域28と、バリア領域28と上面電極14との間を延びるとともに、上面電極14にショットキー接触しているn型のピラー領域30とを備える。
【0039】
バリア領域28は、n型の第1バリア層28aと、p型の第2バリア層28bと、n型の第3バリア層28cとを含み、第1バリア層28aと第3バリア層28cとの間に第2バリア層28bが介在する多層構造を有する。第1バリア層28a及び第3バリア層28cにおける各キャリア密度は、ドリフト領域26におけるキャリア密度よりも高い。第1バリア層28aは、アノード領域22に接しているとともに、ピラー領域30を介して上面電極14に接続されている。
【0040】
本実施例の半導体装置210は、実施例1の半導体装置10のダイオード領域12Xと類似する構成を有しており、当該ダイオード領域12Xと同様に機能することができる。なお、本実施例の半導体装置210は、トレンチ32、トレンチ絶縁膜34、ダミー電極36及び層間絶縁膜38を有しておらず、この点において実施例1におけるダイオード領域12Xと相違する。しかしながら、本実施例の半導体装置210においても、多層構造を有するバリア領域28によって、リカバリ電流が低減されるとともに、スナップバック現象の発生が抑制される。
【0041】
以上、本技術の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。本明細書又は図面に記載された技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時の請求項に記載された組合せに限定されるものではない。また、本明細書又は図面に例示された技術は複数の目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。