特許第6946922号(P6946922)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社デンソーの特許一覧

<>
  • 特許6946922-半導体装置 図000002
  • 特許6946922-半導体装置 図000003
  • 特許6946922-半導体装置 図000004
  • 特許6946922-半導体装置 図000005
  • 特許6946922-半導体装置 図000006
  • 特許6946922-半導体装置 図000007
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6946922
(24)【登録日】2021年9月21日
(45)【発行日】2021年10月13日
(54)【発明の名称】半導体装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 29/78 20060101AFI20210930BHJP
   H01L 29/739 20060101ALI20210930BHJP
   H01L 29/12 20060101ALI20210930BHJP
   H01L 29/861 20060101ALI20210930BHJP
   H01L 29/868 20060101ALI20210930BHJP
   H01L 29/872 20060101ALI20210930BHJP
   H01L 21/8234 20060101ALI20210930BHJP
   H01L 27/06 20060101ALI20210930BHJP
   H01L 27/088 20060101ALI20210930BHJP
   H01L 29/47 20060101ALI20210930BHJP
【FI】
   H01L29/78 652J
   H01L29/78 653A
   H01L29/78 655D
   H01L29/78 655A
   H01L29/78 652T
   H01L29/78 657D
   H01L29/91 K
   H01L29/86 301F
   H01L29/91 C
   H01L27/06 102A
   H01L27/088 E
   H01L29/48 F
   H01L29/86 301D
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-201922(P2017-201922)
(22)【出願日】2017年10月18日
(65)【公開番号】特開2019-75502(P2019-75502A)
(43)【公開日】2019年5月16日
【審査請求日】2020年10月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】特許業務法人快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】平林 康弘
【審査官】 市川 武宜
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−115763(JP,A)
【文献】 特開2013−48230(JP,A)
【文献】 特開2017−107948(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 29/78
H01L 29/739
H01L 29/12
H01L 29/861
H01L 29/872
H01L 21/8234
H01L 29/47
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体基板と、
前記半導体基板の上面に設けられた上面電極と、
前記半導体基板の前記上面とは反対側に位置する下面に設けられた下面電極とを備え、
前記半導体基板は、
前記上面電極に接触しているp型のアノード領域と、
前記下面電極に接触しているn型のカソード領域と、
前記アノード領域と前記カソード領域との間に介在するとともに、前記カソード領域よりもキャリア密度が低いn型のドリフト領域と、
前記アノード領域と前記ドリフト領域との間に介在するバリア領域と、
前記バリア領域と前記上面電極との間を延びるとともに、前記上面電極にショットキー接触しているn型のピラー領域とを備え、
前記バリア領域は、n型の第1バリア層と、p型の第2バリア層と、n型の第3バリア層とを含み、前記第1バリア層と前記第3バリア層との間に前記第2バリア層が介在する多層構造を有し、
前記第1バリア層及び前記第3バリア層における各キャリア密度は、前記ドリフト領域におけるキャリア密度よりも高く、
前記第1バリア層は、前記アノード領域に接しているとともに、前記ピラー領域を介して前記上面電極に接続されている、
半導体装置。
【請求項2】
前記半導体基板は、
前記上面電極に接触しているp型のボディ領域と、
前記上面電極に接触しているとともに、前記ボディ領域によって前記ドリフト領域から隔てられているn型のエミッタ領域と、
前記上面に設けられているとともに、前記ドリフト領域に達するトレンチと、
前記下面電極に接触しているとともに、前記ドリフト領域によって前記ボディ領域から隔てられているp型のコレクタ領域と、をさらに備え、
前記トレンチ内には、ゲート絶縁膜を介して前記エミッタ領域、前記ボディ領域及び前記ドリフト領域に対向しているゲート電極が設けられており、
前記ボディ領域と前記ドリフト領域との間に前記バリア領域が介在している、請求項1に記載の半導体装置。
【請求項3】
前記バリア領域は、前記第3バリア層と前記ドリフト領域との間に介在するp型の第4バリア層をさらに有する、請求項2に記載の半導体装置。
【請求項4】
前記第3バリア層における前記キャリア密度は、前記第1バリア層における前記キャリア密度よりも高い、請求項1から3のいずれか一項に記載の半導体装置。
【請求項5】
前記第3バリア層における前記キャリア密度は、前記第1バリア層における前記キャリア密度の三倍以上である、請求項4に記載の半導体装置。
【請求項6】
前記第3バリア層における前記キャリア密度は、前記半導体基板と平行な方向に沿って均一である、請求項1から5のいずれか一項に記載の半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書で開示する技術は、半導体装置に関し、特に、ダイオードの構造を有する半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に、ダイオードの構造を有する半導体装置が開示されている。この半導体装置は、半導体基板と、半導体基板の上面に設けられた上面電極と、半導体基板の上面とは反対側に位置する下面に設けられた下面電極とを備える。半導体基板は、上面電極に接触しているp型のアノード領域と、下面電極に接触しているn型のカソード領域と、アノード領域とカソード領域との間に介在するとともに、カソード領域よりもキャリア密度が低いn型のドリフト領域とを備える。
【0003】
この半導体装置はさらに、アノード領域とドリフト領域との間に介在するn型のバリア領域と、バリア領域と上面電極との間を延びるとともに上面電極にショットキー接触しているn型のピラー領域とを備える。バリア領域のキャリア密度は、ドリフト領域のキャリア密度よりも高い。このような構成によると、順方向バイアス時にアノード領域からドリフト領域に注入される正孔が抑制されるので、逆方向バイアスへの切り替え時に生じるリカバリ電流を低減することができる。
【0004】
その一方で、上記したバリア領域及びピラー領域の存在は、順方向バイアスへの切り替え時に、順方向電圧の上昇に対して順方向電流の増大が一時的に遅延するスナップバック現象を招く要因となり得る。このようなスナップバック現象を抑制するためには、バリア領域のキャリア密度を低くすることが好ましい。しかしながら、バリア領域のキャリア密度を低くすると、前述した正孔の注入を抑制する効果を低下させてしまう。この点に関して、特許文献1に記載の半導体装置では、バリア領域のキャリア密度を、半導体基板の横方向(即ち、半導体基板に平行な方向)に沿って変化させている。このような構成によると、バリア領域は、キャリア密度が高い部分によって正孔の注入を抑制しつつ、キャリア密度が低い部分によってスナップバック現象の発生を抑制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2016−162897号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように、ダイオードの構造を有する半導体装置では、バリア領域を設けることによって、リカバリ電流を低減することができる。その一方で、バリア領域を設けることは、スナップバック現象という問題の要因となり得る。本明細書は、リカバリ電流を低減しつつ、スナップバック現象を抑制し得る新たな技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本明細書で開示される技術は、半導体装置に具現化される。この半導体装置は、半導体基板と、半導体基板の上面に設けられた上面電極と、半導体基板の上面とは反対側に位置する下面に設けられた下面電極とを備える。半導体基板は、上面電極に接触しているp型のアノード領域と、下面電極に接触しているn型のカソード領域と、アノード領域とカソード領域との間に介在するとともに、カソード領域よりもキャリア密度が低いn型のドリフト領域とを備える。半導体基板はさらに、アノード領域とドリフト領域との間に介在するバリア領域と、バリア領域と上面電極との間を延びるとともに、上面電極にショットキー接触しているn型のピラー領域とを備える。バリア領域は、n型の第1バリア層と、p型の第2バリア層と、n型の第3バリア層とを含み、前記第1バリア層と前記第3バリア層との間に前記第2バリア層が介在する多層構造を有する。第1バリア層及び第3バリア層における各キャリア密度は、ドリフト領域におけるキャリア密度よりも高い。そして、第1バリア層は、アノード領域に接しているとともに、ピラー領域を介して上面電極に接続されている。
【0008】
上記した半導体装置では、半導体基板内にダイオードの構造が形成されている。このダイオードは、上面電極から下面電極へ流れる電流を許容し、下面電極から上面電極へ流れる電流を禁止する。アノード領域とドリフト領域との間には、バリア領域が設けられている。バリア領域は、多層構造を有しており、n型の第1バリア層及び第3バリア層の間に、p型の第2バリア層が介在している。n型の第1バリア層及び第3バリア層は、順方向バイアス時において、アノード領域からドリフト領域に注入される正孔を抑制する。これにより、逆方向バイアスへの切り替え時に生じるリカバリ電流が低減される。加えて、p型の第2バリア層は、順方向バイアスへの切り替え時に、ドリフト領域からピラー領域を通じて上面電極へ流れる電子を抑制することができる。これにより、アノード領域に注入される電子が増大することから、スナップバック現象の発生が抑制される。
【0009】
n型の第1バリア層及び第3バリア層は、p型の第2バリア層によって互いに隔てられている。従って、第1バリア層と第3バリア層との間で、キャリア密度を互いに相違させてもよい。一例ではあるが、ピラー領域に接続された第1バリア層については、そのキャリア密度を比較的に低くしてもよい。これにより、順方向バイアスへの切り替え時に、ドリフト領域からピラー領域を通じて上面電極へ流れる電子が抑制され、スナップバック現象の発生がさらに抑制される。それに対して、第3バリア層については、そのキャリア密度を比較的に高くするとよい。これにより、リカバリ電流を低減するというバリア領域の機能を高めることができる。第3バリア層は、第2バリア層によってピラー領域から隔てられているので、第3バリア層のキャリア密度を高くしても、スナップバック現象の発生が助長されることはない。
【0010】
本技術の一実施形態では、半導体基板が、上面電極に接触しているp型のボディ領域と、上面電極に接触しているとともに、ボディ領域によってドリフト領域から隔てられているn型のエミッタ領域と、上面に設けられているとともにドリフト領域に達するトレンチと、下面電極に接触しているとともにドリフト領域によってボディ領域から隔てられているp型のコレクタ領域とをさらに備えてもよい。この場合、トレンチ内には、ゲート絶縁膜を介してエミッタ領域、ボディ領域及びドリフト領域に対向しているゲート電極が設けられているとともに、ボディ領域とドリフト領域との間にバリア領域が介在しているとよい。このような構成によると、半導体基板には、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)の構造がさらに形成される。即ち、半導体装置は、ダイオードの構造とIGBTの構造を併せ持つRC(Reverse Conducting)−IGBTの構造を有することができる。
【0011】
上記した半導体装置では、ゲート電極に所定の駆動電圧が印加され、IGBTがターンオンされると、下面電極から上面電極に向けて電流が流れ得る。半導体基板内では、エミッタ領域からドリフト領域に電子が注入され、コレクタ領域からドリフト領域へ正孔が注入され、ドリフト領域の伝導度変調が生じる。このとき、キャリア密度の比較的に高いn型の第3バリア層が、ドリフト領域に近接していることから、ドリフト領域に多くの正孔が蓄積されやすい。従って、ドリフト領域の伝導度変調が促進され、IGBTのオン抵抗が低減される。このように、バリア領域の第3バリア層は、ダイオードにおけるリカバリ特性の改善だけでなく、IGBTにおけるオン抵抗の改善にも寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施例1の半導体装置10の構成を模式的に示す断面図。
図2】実施例1の半導体装置10において、順方向バイアス時のダイオード領域12Xを示す。
図3】実施例1の半導体装置10において、ダイオード領域12Xの順方向電圧Vfと順方向電流Ifの関係を模式的に示す。
図4】実施例1の半導体装置10において、ターンオン時のIGBT領域12Yを示す。
図5】実施例2の半導体装置110の構成を模式的に示す断面図。
図6】実施例3の半導体装置210の構成を模式的に示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本技術の一実施形態では、半導体基板が前述したIGBTの構造を有する場合、バリア領域は、第3バリア層とドリフト層との間に介在するp型の第4バリア層をさらに有してもよい。このような構成によると、ゲート電極がゲート絶縁膜を介してドリフト領域に対向する面積を、小さくすることができる。これにより、ゲート電極と下面電極との間の寄生容量が減少することから、IGBTのターンオフ(即ち、ゲート電極からの放電)を短時間で行うことができる。
【0014】
本技術の一実施形態において、第3バリア層のキャリア密度は、第1バリア層のキャリア密度よりも高くてもよい。このような構成によると、半導体装置がダイオードとして機能するときは、スナップバック現象の発生を抑制しながら、リカバリ電流を低減することができる。加えて、半導体装置がIGBTとして機能するときは、キャリア密度の高い第3バリア層によって、ドリフト領域の伝導度変調が促進され、IGBTのオン抵抗が低減される。一例ではあるが、第3バリア層におけるキャリア密度は、第1バリア層におけるキャリア密度の三倍以上であってよい。
【0015】
本技術の一実施形態において、第3バリア層におけるキャリア密度は、半導体基板と平行な方向に沿って均一であってよい。このような構成によると、半導体基板の電気的特性を均一にすることができる。特に、半導体装置がIGBTとして機能するときは、ドリフト領域の伝導度変調が均一に生じるので、オン抵抗が効果的に低減される。
【実施例】
【0016】
(実施例1)図面を参照して、実施例1の半導体装置10について説明する。本実施例の半導体装置10は、特に限定されないが、パワー半導体装置に属するものであり、例えば電動型の自動車において、コンバータやインバータのスイッチング素子として採用することができる。ここでいう電動型の自動車には、例えば、ハイブリッド車、燃料電池車又は再充電式の電気自動車といった、車輪をモータによって駆動する各種の自動車が含まれる。
【0017】
図1に示すように、半導体装置10は、半導体基板12と、半導体基板12の上面12aに設けられた上面電極14と、半導体基板12の下面12bに設けられた下面電極16とを備える。半導体基板12は、シリコン(Si)で構成されたシリコン基板である。但し、半導体基板12は、シリコン基板に限定されず、炭化シリコン(SiC)基板又はその他の半導体材料で構成された基板(結晶体)であってもよい。上面電極14と下面電極16は、それぞれ導電性を有する材料で構成されている。上面電極14と下面電極16を構成する材料は特に限定されず、例えばアルミニウム(Al)、ニッケル(Ni)、チタン(Ti)、金(Au)といった金属材料であってよい。
【0018】
なお、半導体基板12の上面12aとは、半導体基板12の一つの表面を意味し、半導体基板12の下面12bとは、半導体基板12の他の一つの表面であって、上面12aとは反対側に位置する表面を意味する。本明細書において、「上面」及び「下面」という表現は、互いに反対側に位置する二つの表面を便宜的に区別するものであり、半導体装置10の製造時や使用時における姿勢を限定するものではない。
【0019】
半導体基板12は、ダイオード領域12XとIGBT領域12Yとを有する。ダイオード領域12XとIGBT領域12Yは、それぞれ半導体基板12の上面12aから下面12bまで延びているとともに、半導体基板12を平面視したときに互いに隣接する。後述する説明から理解されるように、ダイオード領域12Xには、pn接合型ダイオードとショットキー接合型ダイオードの両構造が形成されており、IGBT領域には、IGBTの構造が形成されている。即ち、半導体装置10は、ダイオードの構造とIGBTの構造を併せ持つ半導体装置であり、一般にRC−IGBTと称される。
【0020】
ダイオード領域12Xは、アノード領域22と、カソード領域24と、ドリフト領域26と、バリア領域28と、ピラー領域30とを備える。アノード領域22は、p型の半導体領域であり、上面電極14に接触している。なお、アノード領域22の上面電極14に接触する部分22aは、他の部分よりもキャリア密度(即ち、正孔の密度)が高くなっており、上面電極14にオーミック接触している。カソード領域24は、n型の半導体領域であり、下面電極16に接触している。カソード領域24のキャリア密度は十分に高く、カソード領域24は下面電極16にオーミック接触している。
【0021】
ドリフト領域26は、カソード領域24と同じくn型の半導体領域である。但し、ドリフト領域26のキャリア密度(即ち、自由電子の密度)は、カソード領域24のキャリア密度よりも低い。ドリフト領域26は、アノード領域22とカソード領域24との間に介在している。即ち、アノード領域22とカソード領域24は、少なくともドリフト領域26によって互いに隔てられている。ドリフト領域26は、ダイオード領域12Xだけでなく、IGBT領域12Yにも広がっている。
【0022】
バリア領域28は、アノード領域22とドリフト領域26との間に介在している。即ち、アノード領域22とドリフト領域26は、少なくともバリア領域28によって互いに隔てられている。ピラー領域30は、n型の半導体領域である。ピラー領域30のキャリア密度は、カソード領域24のキャリア密度よりも低く、ドリフト領域26のキャリア密度と同程度又はそれよりも高くなっている。ピラー領域30は、バリア領域28と上面電極14との間を延びており、上面電極14にショットキー接触している。バリア領域28及びピラー領域30は、ダイオード領域12Xだけでなく、IGBT領域12Yにも設けられている。
【0023】
本実施例におけるバリア領域28は、n型の第1バリア層28aと、p型の第2バリア層28bと、n型の第3バリア層28cとを含み、第1バリア層28aと第3バリア層28cとの間に第2バリア層28bが介在する多層構造を有する。第1バリア層28a及び第3バリア層28cにおける各キャリア密度は、ドリフト領域26におけるキャリア密度よりも高く、カソード領域24におけるキャリア密度よりも低い。第1バリア層28aは、アノード領域22に接しているとともに、ピラー領域30を介して上面電極14に接続されている。第3バリア層28cは、第2バリア層28bによって、第1バリア層28a及びピラー領域30から隔てられている。特に限定されないが、本実施例のバリア領域28では、第3バリア層28cのキャリア密度が、第1バリア層28aのキャリア密度よりも高くなっている。なお、バリア領域28の厚み(図1中の上下方向の寸法)は、アノード領域22の厚み及びドリフト領域26の厚みよりも十分に小さい。
【0024】
ダイオード領域12Xにはさらに、トレンチ32が設けられている。トレンチ32は、半導体基板12の上面12aに設けられており、ドリフト領域26に達する深さを有する。トレンチ32内には、トレンチ絶縁膜34と、ダミー電極36とが設けられている。ダミー電極36は、トレンチ絶縁膜34によって半導体基板12(即ち、トレンチ32の内面)から隔てられている。また、ダミー電極36と上面電極14との間には、層間絶縁膜38が設けられている。ダミー電極36は、上面電極14と同電位に維持されるように構成されている。前述したピラー領域30は、隣接する二つのトレンチ32の間に位置しており、各々のトレンチ32とピラー領域30との間にアノード領域22が介在している。なお、トレンチ32、トレンチ絶縁膜34、ダミー電極36及び層間絶縁膜38は、ダイオード領域12Xにおいて必ずしも必要とされない構成であり、省略されてもよい。
【0025】
次に、IGBT領域12Yについて説明する。IGBT領域12Yは、ボディ領域52と、エミッタ領域54と、コレクタ領域56と、ドリフト領域26と、バリア領域28と、ピラー領域30とを備える。ボディ領域52は、p型の半導体領域であり、上面電極14に接触している。なお、ボディ領域52の上面電極14に接触する部分52aは、他の部分よりもキャリア密度(即ち、正孔の密度)が高くなっており、上面電極14にオーミック接触している。ボディ領域52とドリフト領域26の間には、バリア領域28が介在している。即ち、ボディ領域52は、バリア領域28によってドリフト領域26から隔てられている。IGBT領域12Yにおいても、ピラー領域30は、バリア領域28と上面電極14との間を延びており、上面電極14にショットキー接触している。
【0026】
エミッタ領域54は、n型の半導体領域であり、上面電極14に接触している。エミッタ領域54のキャリア密度は十分に高く、エミッタ領域54は上面電極14にオーミック接触している。エミッタ領域54は、ボディ領域52によってドリフト領域26及びピラー領域30から隔てられている。なお、本実施例の半導体装置10では、エミッタ領域54と同様のn型の半導体領域が、ダイオード領域12Xにも設けられているが、ダイオード領域12Xにおける当該n型の半導体領域は必ずしも必要とされない構成であり、省略されてもよい。
【0027】
コレクタ領域56は、p型の半導体領域であり、下面電極16に接触している。コレクタ領域56のキャリア密度は十分に高く、コレクタ領域56は下面電極16にオーミック接触している。コレクタ領域56は、ドリフト領域26及びバリア領域28によってボディ領域52から隔てられている。図1に示すように、前述したダイオード領域12Xでは、半導体基板12の下面12bに沿ってn型のカソード領域24が設けられているのに対して、IGBT領域12Yでは、半導体基板12の下面12bに沿ってp型のコレクタ領域56が設けられており、この点においてダイオード領域12XとIGBT領域12Yとは互いに相違する。
【0028】
IGBT領域12Yには、トレンチ62が設けられている。トレンチ62は、半導体基板12の上面12aに設けられており、ドリフト領域26に達する深さを有する。トレンチ62内には、ゲート絶縁膜64と、ゲート電極66とが設けられている。ゲート電極66は、ゲート絶縁膜64によって半導体基板12(即ち、トレンチ62の内面)から隔てられている。また、ゲート電極66と上面電極14との間には、層間絶縁膜68が設けられている。ゲート電極66は、ゲート絶縁膜64を介して、エミッタ領域54、ボディ領域52及びドリフト領域26に対向している。ゲート電極66は、外部の駆動回路によって、所定のゲート電圧が印加されるように構成されている。
【0029】
以上の構成により、本実施例の半導体装置10は、ダイオード領域12Xにおいて、ダイオードとして機能することができる。ダイオード領域12Xは、上面電極14から下面電極16へ流れる電流を許容し、下面電極16から上面電極14へ流れる電流を禁止する。即ち、図2に示すように、上面電極14と下面電極16との間に順方向電圧Vfを印加すると、半導体装置10には順方向電流Ifが流れる。図3に示すグラフAは、順方向電圧Vfと順方向電流Ifとの関係を模式的に示す。
【0030】
本実施例の半導体装置10では、アノード領域22とドリフト領域26との間に、バリア領域28が設けられている。バリア領域28は、多層構造を有しており、n型の第1バリア層28a及び第3バリア層28cの間に、p型の第2バリア層28bが介在している。n型の第1バリア層28a及び第3バリア層28cは、図2に示す順方向バイアス時において、アノード領域22からドリフト領域26に注入される正孔を抑制する。これにより、逆方向バイアスへの切り替え時に生じるリカバリ電流が低減される。加えて、p型の第2バリア層28bは、順方向バイアスへの切り替え時に、ドリフト領域26からピラー領域30を通じて上面電極14へ流れる電子Eを抑制することができる。これにより、アノード領域22へ注入される電子が増大することから、スナップバック現象の発生が抑制される。スナップバック現象とは、図3中のグラフBで示すように、順方向バイアスへの切り替え時に、順方向電圧Vfの上昇に対して順方向電流Ifの増大が一時的に遅延する現象であり、例えば無用な損失を招き得る。
【0031】
加えて、n型の第1バリア層28a及び第3バリア層28cは、p型の第2バリア層28bによって互いに隔てられている。従って、第1バリア層28aと第3バリア層28cとの間で、キャリア密度を互いに相違させることができる。前述したように、本実施例のバリア領域28では、第3バリア層28cのキャリア密度が、第1バリア層28aのキャリア密度よりも高くなっている。ピラー領域30に接続された第1バリア層28aのキャリア密度が低いほど、順方向バイアスへの切り替え時に、ドリフト領域26からピラー領域30を通じて上面電極14へ流れる電子Eが抑制され、スナップバック現象の発生がさらに抑制される。その一方で、第3バリア層28cについては、そのキャリア密度を高くすることによって、リカバリ電流を低減するというバリア領域28の機能を高めることができる。第3バリア層28cは、第2バリア層28bによってピラー領域30から隔てられているので、第3バリア層28cのキャリア密度を高くしても、スナップバック現象の発生が助長されることはない。このように、多層構造を有するバリア領域28は、ダイオード領域12Xにおいて、リカバリ電流を低減するとともにスナップバック現象の発生を抑制することができる。
【0032】
本実施例の半導体装置10はさらに、IGBT領域12Yにおいて、IGBTとして機能することができる。図4に示すように、ゲート電極66に所定のゲート電圧Vgが印加され、IGBTがターンオンされると、下面電極16から上面電極14に向けて電流Icが流れ得る。半導体基板12内では、エミッタ領域54からドリフト領域26に電子が注入され、コレクタ領域56からドリフト領域26へ正孔が注入され、ドリフト領域26の伝導度変調が生じる。このとき、キャリア密度の比較的に高いn型の第3バリア層28cが、ドリフト領域26に近接していることから、ドリフト領域26に多くの正孔が蓄積されやすい。従って、ドリフト領域26の伝導度変調が促進され、IGBTのオン抵抗が低減される。このように、バリア領域28の第3バリア層28cは、ダイオードにおけるリカバリ特性の改善だけでなく、IGBTにおけるオン抵抗の改善にも寄与することができる。
【0033】
(実施例2)図5を参照して、実施例2の半導体装置110について説明する。本実施例の半導体装置110は、実施例1の半導体装置10と比較して、バリア領域28の構成が変更されている。その他の構成については、実施例1、2の間で共通していることから、共通の符号を付すことによって、ここでは重複する説明を省略することがある。
【0034】
図5に示すように、本実施例におけるバリア領域28は、第1バリア層28a、第2バリア層28b及び第3バリア層28cに加えて、第4バリア層28dをさらに備える。第4バリア層28dは、p型の半導体領域であり、第3バリア層28cとドリフト領域26との間に位置している。第4バリア層28dのキャリア密度は、コレクタ領域56のキャリア密度よりも低く、ボディ領域52のキャリア密度と同程度又はそれ以下であってよい。第4バリア層28dのキャリア密度は、第2バリア層28bのキャリア密度と同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0035】
バリア領域28が第4バリア層28dを有していると、ゲート電極66がゲート絶縁膜64を介してドリフト領域26に対向する面積Sを、小さくすることができる。これにより、ゲート電極66と下面電極16との間の寄生容量が減少することから、IGBTのターンオフ(即ち、ゲート電極66からの放電)を短時間で行うことができる。
【0036】
(実施例3)図6を参照して、実施例3の半導体装置210について説明する。本実施例の半導体装置210は、IGBTの構造を有しておらず、ダイオードの構造のみを有する。バリア領域28の構成が変更されている。なお、本実施例の半導体装置210の構成のうち、実施例1、2の半導体装置10、110と共通するものについては、共通の符号が付されており、重複する説明については省略されることがある。
【0037】
半導体装置210は、半導体基板12と、半導体基板12の上面12aに設けられた上面電極14と、半導体基板12の下面12bに設けられた下面電極16とを備える。半導体基板12は、上面電極14に接触しているp型のアノード領域22と、下面電極16に接触しているn型のカソード領域24とを備える。アノード領域22の上面電極14に接触する部分22aは、他の部分よりもキャリア密度が高くなっており、上面電極14にオーミック接触している。カソード領域24のキャリア密度は十分に高く、カソード領域24は下面電極16にオーミック接触している。
【0038】
半導体基板12はさらに、アノード領域22とカソード領域24との間に介在するとともに、カソード領域24よりもキャリア密度が低いn型のドリフト領域26と、アノード領域22とドリフト領域26との間に介在するバリア領域28と、バリア領域28と上面電極14との間を延びるとともに、上面電極14にショットキー接触しているn型のピラー領域30とを備える。
【0039】
バリア領域28は、n型の第1バリア層28aと、p型の第2バリア層28bと、n型の第3バリア層28cとを含み、第1バリア層28aと第3バリア層28cとの間に第2バリア層28bが介在する多層構造を有する。第1バリア層28a及び第3バリア層28cにおける各キャリア密度は、ドリフト領域26におけるキャリア密度よりも高い。第1バリア層28aは、アノード領域22に接しているとともに、ピラー領域30を介して上面電極14に接続されている。
【0040】
本実施例の半導体装置210は、実施例1の半導体装置10のダイオード領域12Xと類似する構成を有しており、当該ダイオード領域12Xと同様に機能することができる。なお、本実施例の半導体装置210は、トレンチ32、トレンチ絶縁膜34、ダミー電極36及び層間絶縁膜38を有しておらず、この点において実施例1におけるダイオード領域12Xと相違する。しかしながら、本実施例の半導体装置210においても、多層構造を有するバリア領域28によって、リカバリ電流が低減されるとともに、スナップバック現象の発生が抑制される。
【0041】
以上、本技術の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。本明細書又は図面に記載された技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時の請求項に記載された組合せに限定されるものではない。また、本明細書又は図面に例示された技術は複数の目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0042】
10、110、210:半導体装置
12:半導体基板
12X:ダイオード領域
12Y:IGBT領域
12a:半導体基板の上面
12b:半導体基板の下面
14:上面電極
16:下面電極
22、22a:アノード領域
24:カソード領域
26:ドリフト領域
28:バリア領域
28a:第1バリア層
28b:第2バリア層
28c:第3バリア層
28d:第4バリア層
30:ピラー領域
32、62:トレンチ
34:トレンチ絶縁膜
36:ダミー電極
52、52a:ボディ領域
54:エミッタ領域
56:コレクタ領域
64:ゲート絶縁膜
66:ゲート電極
図1
図2
図3
図4
図5
図6