特許第6946952号(P6946952)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ニプロ株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6946952
(24)【登録日】2021年9月21日
(45)【発行日】2021年10月13日
(54)【発明の名称】血液ろ過用補充液
(51)【国際特許分類】
   A61M 1/16 20060101AFI20210930BHJP
   A61P 7/08 20060101ALI20210930BHJP
   A61K 31/7008 20060101ALI20210930BHJP
   A61K 33/06 20060101ALI20210930BHJP
   A61K 33/10 20060101ALI20210930BHJP
   A61K 33/14 20060101ALI20210930BHJP
   A61K 33/42 20060101ALI20210930BHJP
【FI】
   A61M1/16 160
   A61M1/16 175
   A61P7/08
   A61K31/7008
   A61K33/06
   A61K33/10
   A61K33/14
   A61K33/42
【請求項の数】8
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2017-216721(P2017-216721)
(22)【出願日】2017年11月9日
(65)【公開番号】特開2018-79320(P2018-79320A)
(43)【公開日】2018年5月24日
【審査請求日】2020年10月8日
(31)【優先権主張番号】特願2016-219212(P2016-219212)
(32)【優先日】2016年11月9日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000135036
【氏名又は名称】ニプロ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】特許業務法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福島 浩
(72)【発明者】
【氏名】菊地 武夫
(72)【発明者】
【氏名】城内 豊
(72)【発明者】
【氏名】井上 裕之
【審査官】 胡谷 佳津志
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−224327(JP,A)
【文献】 特開平06−105905(JP,A)
【文献】 特開2004−154558(JP,A)
【文献】 特開2005−028108(JP,A)
【文献】 特開2008−264508(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2008/0085325(US,A1)
【文献】 特開2006−000482(JP,A)
【文献】 特定非営利活動法人 日本集中治療教育研究会(JSEPTIC) CE(臨床工学技士)部会,腎機能代替療法 Renal Replacement Therapy (RRT) (前編) 総論・準備・プライミングまで,JSEPTIC CE教材シリーズ,日本,特定非営利活動法人 日本集中治療教育研究会(JSEPTIC),2016年08月27日
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 1/16
A61P 7/08
A61K 31/7008
A61K 33/06
A61K 33/10
A61K 33/14
A61K 33/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化ナトリウム、塩化カリウムおよび炭酸水素ナトリウムを含むA液、ならびに塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウムおよびブドウ糖を含むB液からなる用時混合型血液ろ過用補充液であり、A液またはB液の少なくとも一方にリン酸イオンを含有しかつ酢酸イオンをいずれにも含有せず、A液およびB液が同容量である血液ろ過用補充液であって、
A液およびB液を混合した混合液において、ナトリウムイオン濃度が138〜142mEq/L、カリウムイオン濃度が3.5〜4.0mEq/L、カルシウムイオン濃度が2.5〜3.0mEq/L、マグネシウムイオン濃度が1.0〜1.1mEq/L、無機リン濃度が2.2〜4.1mg/dL、炭酸水素イオン濃度が26〜30mEq/L、ブドウ糖濃度が110〜180mg/dLである血液ろ過用補充液。
【請求項2】
塩化ナトリウム、塩化カリウムおよび炭酸水素ナトリウムを含むA液、ならびに塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウムおよびブドウ糖を含むB液からなる用時混合型血液ろ過用補充液であり、A液またはB液の少なくとも一方にリン酸イオンを含有しかつ酢酸イオンをいずれにも含有せず、A液およびB液が同容量である血液ろ過用補充液であって、
A液およびB液を混合した混合液において、ナトリウムイオン濃度が140mEq/L、カリウムイオン濃度が3.7mEq/L、カルシウムイオン濃度が2.6mEq/L、マグネシウムイオン濃度が1.1mEq/L、無機リン濃度が3.7mg/dL、炭酸水素イオン濃度が30mEq/L、ブドウ糖濃度が110〜180mg/dLである請求項1記載の血液ろ過用補充液。
【請求項3】
A液が、塩化ナトリウム5.09g/L、塩化カリウム275.8mg/L、炭酸水素ナトリウム5.04g/Lおよび、無水リン酸二水素ナトリウム286.7mg/Lを含有する水溶液であり、
B液が、塩化ナトリウム7.63g/L、塩化カリウム275.8mg/L、塩化カルシウム二水和物382.2mg/L、塩化マグネシウム六水和物223.6mg/Lおよびブドウ糖2.20〜3.60g/Lを含有する水溶液である
請求項1または2記載の血液ろ過用補充液。
【請求項4】
A液およびB液の容量がいずれも1000mLである請求項1〜3のいずれか1項に記載の血液ろ過用補充液。
【請求項5】
連通可能な隔離手段で区画された少なくとも2室を有する複室容器製剤であって、請求項1〜4のいずれか1項に記載の血液ろ過用補充液のA液およびB液をそれぞれ第1室および第2室に収容してなる複室容器製剤。
【請求項6】
複室容器がプラスチック製ダブルバッグである請求項5記載の複室容器製剤。
【請求項7】
複室容器を脱酸素剤と共にガスバリア性フィルムによりさらに包装した請求項5または6記載の複室容器製剤。
【請求項8】
さらに複室容器外側かつガスバリア性フィルム内側に酸素検知剤を含む請求項7記載の複室容器製剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液ろ過用補充液、とりわけ持続的腎代替療法(CRRT)において使用するための長期安定性に優れた補充液または透析液に関する。
【背景技術】
【0002】
持続的腎代替療法とは、腎補助を目的とした血液浄化法であり、血液中の過剰な水分の除去(除水)および不要な代謝産物(老廃物)の除去を持続的に行うことを開始時に設定したものをいう。具体的には、急性腎障害、重症急性膵炎、劇症肝炎、術後肝不全、その他重症な急性肝炎などにより、血液生化学異常、電解質・酸塩基平衡異常、体液バランス異常などが生じ体液の恒常性が著しく損なわれた場合に、緊急に血液・体液を浄化して生体の恒常性を保ち、病態を改善することが求められるため、CRRTが実施されている。
【0003】
持続的腎代替療法は、主に集中治療部や救急部で重症患者、救急患者の治療として実施されている。その実施形式には、持続的血液濾過(CHF)、持続的血液透析(CHD)および持続的血液濾過透析(CHDF)などがあり、臨床上最も多く施行されているのは、CHDFである。短時間で除去効率を向上させるため高流量持続的血液透析濾過(HFVCHDF)、高流量持続的血液濾過(HVCHF)も施行されている。これらのCRRTには、その実施形式により、補充液または透析液が必要となるが、現在のところ、CRRT専用の補充液や透析液は市販されておらず、従来の血液ろ過用補充液で代用している。
【0004】
しかしながら、従来の血液ろ過用補充液は、慢性腎不全患者を対象とした間歇的、短時間の治療を目的に処方設計されている。このため、CRRTに使用する場合、(1)カリウム濃度が生理的濃度に対して低く、血清K+濃度が低下する、(2)リンを含まないため、血清リン濃度が低下する、(3)カルシウム濃度、重炭酸濃度は生理的濃度に対して高いため、投与量の調節が必要になる、(4)対象が重症患者であり、緩徐に長時間、持続的治療を実施するため、老廃物、過剰産生物質、水分の除去、濃度の是正を行うには、既存の補充液では十分な投与量が確保できない、といった問題がある。
【0005】
つまり、現状は上記問題を解決するために、使用の際に濃度補正のための混合操作や追加成分の添加のための補給が行われているが、この混合操作や補給操作は、医療安全性(汚染、異物混入、誤操作、針刺し事故)や混合後の薬液安定性に問題がある。
【0006】
一方、特許文献1は、このような問題を解決するため、従来の補充液のカリウムイオン濃度を高め、リン酸イオンを配合した急性血液浄化療法に使用するための透析液・補充液の開発に当たり、単なる成分濃度の調整により解決できるものではなく、カルシウムイオンやマグネシウムイオンと反応してリン酸塩の不溶性沈殿が形成されることによるリン酸イオンの追加の困難性、炭酸水素イオンとカルシウムイオンやマグネシウムイオンとを長時間共存させた場合の安定性や、炭酸カルシウムや炭酸マグネシウムなどの不溶微粒子や沈殿の発生という問題等、具体的な処方開発の難しさを示したうえで、特定の処方を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2009/044919号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1には、上述の困難性を指摘しつつも、その具体的な製剤例は二種類しか示されていない。また、CRRTは、緊急時の処置であるため、一施設において頻繁に行われない可能性もあり、保管形態での長期間の安定性が望まれるが、製剤の長期安定性については触れられておらず、検討の余地がある。
【0009】
そこで、本発明は、CRRTにおける補充液、透析液への使用に適した良好な長期安定性を有するさらなる血液ろ過用補充液を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、A液およびB液に各成分を振り分け、特定の処方の用時混合型製剤とすることにより、CRRTにおける補充液、透析液への使用に適した良好な長期安定性を有する血液ろ過用補充液が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0011】
すなわち、本発明は、
[1]塩化ナトリウム、塩化カリウムおよび炭酸水素ナトリウムを含むA液、ならびに塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウムおよびブドウ糖を含むB液からなる用時混合型血液ろ過用補充液であり、A液またはB液の少なくとも一方にリン酸イオンを含有しかつ酢酸イオンをいずれにも含有せず、A液およびB液が同容量である血液ろ過用補充液であって、
A液およびB液を混合した混合液において、ナトリウムイオン濃度が135〜145mEq/L、好ましくは138〜142mEq/L、より好ましくは140mEq/L、カリウムイオン濃度が3.0〜5.0mEq/L、好ましくは3.5〜4.0mEq/L、より好ましくは3.7mEq/L、カルシウムイオン濃度が2.0〜3.0mEq/L、好ましくは2.5〜3.0mEq/L、より好ましくは2.6mEq/L、マグネシウムイオン濃度が1.0〜1.1mEq/L、好ましくは1.1mEq/L、無機リン濃度が2.2〜4.1mg/dL、好ましくは3.7mg/dL、炭酸水素イオン濃度が26〜30mEq/L、好ましくは30mEq/L、ブドウ糖濃度が110〜180mg/dL、好ましくは150mg/dLである血液ろ過用補充液、
[2]塩化ナトリウム、塩化カリウムおよび炭酸水素ナトリウムを含むA液、ならびに塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウムおよびブドウ糖を含むB液からなる用時混合型血液ろ過用補充液であり、A液またはB液の少なくとも一方にリン酸イオンを含有しかつ酢酸イオンをいずれにも含有せず、A液およびB液が同容量である血液ろ過用補充液であって、
A液およびB液を混合した混合液において、ナトリウムイオン濃度が140mEq/L、カリウムイオン濃度が3.7mEq/L、カルシウムイオン濃度が2.6mEq/L、マグネシウムイオン濃度が1.1mEq/L、無機リン濃度が3.7mg/dL、炭酸水素イオン濃度が30mEq/L、ブドウ糖濃度が110〜180mg/dL、好ましくは150mg/dLである上記[1]記載の血液ろ過用補充液、
[3]A液が、塩化ナトリウム5.09g/L、塩化カリウム275.8mg/L、炭酸水素ナトリウム5.04g/Lおよび無水リン酸二水素ナトリウム286.7mg/Lを含有する水溶液であり、
B液が、塩化ナトリウム7.63g/L、塩化カリウム275.8mg/L、塩化カルシウム二水和物382.2mg/L、塩化マグネシウム六水和物223.6mg/Lおよびブドウ糖2.20〜3.60g/L、好ましくは3.00g/Lを含有する水溶液である
上記[1]または[2]記載の血液ろ過用補充液、
[4]A液およびB液の容量がいずれも1000mLである上記[1]〜[3]のいずれかに記載の血液ろ過用補充液、
[5]連通可能な隔離手段で区画された少なくとも2室を有する複室容器製剤であって、上記[1]〜[4]のいずれかに記載の血液ろ過用補充液のA液およびB液をそれぞれ第1室および第2室に収容してなる複室容器製剤、
[6]複室容器がプラスチック製ダブルバッグである上記[5]記載の複室容器製剤、
[7]複室容器を脱酸素剤と共にガスバリア性フィルムによりさらに包装した上記[5]または[6]記載の複室容器製剤、ならびに
[8]さらに複室容器外側かつガスバリア性フィルム内側に酸素検知剤を含む上記[7]記載の複室容器製剤
に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、A液およびB液に各成分を振り分け、特定の処方の用時混合型製剤とすることにより、CRRTの補充液および透析液に適した良好な長期安定性を有する血液ろ過用補充液を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の血液ろ過用補充液は、従来の血液ろ過用補充液よりも、(1)カリウム濃度が高く、(2)リンを含有し、(3)カルシウム濃度および重炭酸濃度が低く、そして(4)重症患者に合わせた濃度範囲にブドウ糖を設定した、よりCRRTにおける使用に適した血液ろ過用補充液であることを特徴とする。これにより、CRRTに用いる際に低カリウム血症、低リン血症への特別な補正を必要とせず、高カルシウム血症やアルカローシスの危険のない補充液または透析液を提供することができる。また、酢酸イオンを含有しないことから、酢酸不耐症においても使用することができる。
【0014】
本明細書において、「血液ろ過用補充液」は、補充液として使用することも透析液として使用することもできる薬液を意味する。したがって、本発明の血液ろ過用補充液は、例えば、持続的血液濾過(CHF)の補充液、持続的血液透析(CHD)の透析液、および持続的血液濾過透析(CHDF)の補充液および透析液などに使用することができる。
【0015】
本発明の血液ろ過用補充液は、塩化ナトリウム、塩化カリウムおよび炭酸水素ナトリウムを含むA液と、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウムおよびブドウ糖を含むB液とからなる用時混合型血液ろ過用補充液である。このA液またはB液の少なくとも一方にはリン酸イオンを含有させるものであり、酢酸イオンはいずれにも含有させない。
【0016】
本発明の血液ろ過用補充液の製造においては、塩化ナトリウム、塩化カリウム、炭酸水素ナトリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウムなどの成分について、無水物のみならず、水和物の形態のものを用いることもできる。また、リン酸イオンを含有させる際には、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸二水素カリウムなどを用いることができ、またそれぞれ、無水物のみならず、各種水和物、例えばリン酸水素二ナトリウム十二水和物、リン酸二水素ナトリウム二水和物などを用いることもできる。
【0017】
本発明の血液ろ過用補充液は、A液およびB液を混合した混合液において、ナトリウムイオン濃度が135〜145mEq/L、好ましくは138〜142mEq/L、より好ましくは140mEq/L、カリウムイオン濃度が3.0〜5.0mEq/L、好ましくは3.5〜4.0mEq/L、より好ましくは3.7mEq/L、カルシウムイオン濃度が2.0〜3.0mEq/L、好ましくは2.5〜3.0mEq/L、より好ましくは2.6mEq/L、マグネシウムイオン濃度が1.0〜1.1mEq/L、好ましくは1.1mEq/L、無機リン濃度が2.2〜4.1mg/dL、好ましくは3.7mg/dL、炭酸水素イオン濃度が26〜30mEq/L、好ましくは30mEq/L、ブドウ糖濃度が110〜180mg/dLである。ブドウ糖濃度は、150mg/dLがより好ましい。ナトリウムイオン濃度は、pH調整剤として水酸化ナトリウムなどを使用する場合などには、最終的な混合後の血液ろ過用補充液において、上述の好ましい濃度となるように適宜調整される。また、A液およびB液を混合した混合液においては、塩素イオン濃度はpHの調整や他のイオンとのバランスにより決まることとなるが、120mEq/L以下が好ましい。
【0018】
一実施形態において、本発明の血液ろ過用補充液は、A液が、塩化ナトリウム5.09g/L、塩化カリウム275.8mg/L、炭酸水素ナトリウム5.04g/Lおよび無水リン酸二水素ナトリウム286.7mg/Lを含有する水溶液であり、B液が、塩化ナトリウム7.63g/L、塩化カリウム275.8mg/L、塩化カルシウム二水和物382.2mg/L、塩化マグネシウム六水和物223.6mg/Lおよびブドウ糖2.20〜3.60g/Lを含有する水溶液である。ブドウ糖は、3.00g/L含有することがより好ましい。具体的には、A液は、注射用水に各成分、塩化ナトリウム5.09g、塩化カリウム275.8mg、炭酸水素ナトリウム5.04gおよび無水リン酸二水素ナトリウム286.7mgを加え、混合溶解し、全量が1000mLとなるまで注射用水を加えて混合することにより得ることができる。同様にB液は、注射用水に各成分、塩化ナトリウム7.63g、塩化カリウム275.8mg、塩化カルシウム二水和物382.2mg、塩化マグネシウム六水和物223.6mgおよびブドウ糖2.20〜3.60gを加え、混合溶解し、全量が1000mLとなるまで注射用水を加えて混合することにより得ることができる。
【0019】
本実施形態においては、A液のpHは、調整時、6.7〜8.5が好ましく、6.9〜7.5がより好ましい。例えば、A液を包装し、酸素検知剤が変色した後の最終pHとしては、7.5〜8.5が好ましく、7.6〜7.9がより好ましい。B液のpHは、2.0〜4.0が好ましく、2.7〜3.0がより好ましい。また、さらなるブドウ糖の安定性や設備への影響を考慮すれば3.4〜4.0としてもよい。それぞれ処方成分を混合した際にpHが上記所望の範囲内にない場合には、塩酸または水酸化ナトリウムなどのpH調整剤により、あるいは炭酸ガスのバブリングにより調整することができる。
【0020】
本発明に係る血液ろ過用補充液において、A液およびB液の容量は同容量であり、特に限定されるものではないが、A液とB液との混合容易性の点からそれぞれ1000mLが好ましい。
【0021】
A液とB液の混合液において、pHは、7.2〜7.4が好ましい。
【0022】
上述したように、本発明の血液ろ過用補充液は、A液とB液との二液からなる用時混合型であり、例えば本発明の一実施態様として、連通可能な隔離手段で区画された少なくとも2室を有する複室容器に、A液およびB液をそれぞれ第1室および第2室に収容してなる複室容器製剤とすることが好ましい。このような複室容器としては、例えばポリプロピレン製などのプラスチック製のダブルバッグ型容器が好ましく、従来の血液ろ過用補充液に使用されているものなどを使用することができ、充填方法、使用方法などについても同様に適用することができる。
【0023】
例えば、本発明の複室容器製剤は、複室容器にA液およびB液を充填したのち、それぞれ注入口を密封する。その後、日本薬局方の最終滅菌法の指標に準じ、常法に従って、高圧蒸気滅菌処理を行うことにより最終製品とすることができる。
【0024】
滅菌後、複室容器は、薬液安定化のため、ガスバリア性の包装材を用いて外装することが好ましい。外装は、ガスバリア性の包装材からなる包装容器に密封収納してもよく、また包装材がフィルムの場合には、密封包装してもよい。ガスバリア性の包装材としては、例えば、エチレンビニルアルコール共重合体(EVOH)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)、ナイロンなどから構成された包装材、そしてこれらの素材にシリカやアルミナなどのガスバリア性物質の蒸着処理を行った包装材、また、これらの素材を組み合わせた多層フィルムから作製された包装材などが用いられる。
【0025】
また、複室容器を外装する際には、外装のピンホールを検出する目的で、脱酸素剤を併せて収納したり、窒素ガスや炭酸ガスなどで置換して、外装内を無酸素状態として、酸素検知剤などを併せて収納することができる。脱酸素剤や酸素検知剤としては、一般に市販されているものを用いることができる。
【0026】
本発明の血液ろ過用補充液は、主に集中治療室(ICU)で、持続的に、例えば24時間持続的に約0.6〜1.5L/hr(成人の標準体重を60kgとして10〜25mL/kg/hr)で使用することができる。連続的な使用期間は特に限定されるものではなく、必要に応じて短縮および延長することができる。特殊な使用としては、短時間で除去効率を向上させるために、持続的に、例えば24時間持続的に約1.5〜1.8L/hr(成人の標準体重を60kgとして25〜30mL/kg/hr)で使用することもできる。
【0027】
本発明の血液ろ過用補充液は、持続的腎代替療法(CRRT)においてAKI(Acute kidney Injury:急性腎障害)の患者に使用することができる。AKIの患者には、心血管系疾患、敗血症、肝疾患、多臓器不全を併発している患者も含む。
【0028】
以下、本発明を実施例にもとづき具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されることを意図するものではない。
【実施例】
【0029】
実施例1
表1の組成にしたがい、A液の成分を注射用水に混合・溶解し、pHを炭酸ガスをバブリングすることにより調整し、注射用水で全量1000mLとした。同様に、表2の組成にしたがい、B液の有効成分を注射用水に溶解したのち、pHを調整し、最終的に注射用水で全量を1000mLとした。
【0030】
得られたA液およびB液をポリプロピレン製ダブルバッグ(ニプロ(株)製)に充填し密封した。その後、ダブルバッグを高圧蒸気滅菌し、脱酸素剤(大江化学工業(株)製)および酸素検知剤(三菱ガス化学(株)製のエージレスアイ)と共にガスバリア性フィルム包装材(凸版印刷(株)製)で包装した。
【0031】
【表1】
【0032】
【表2】
【0033】
本明細書において、日局とは第十七改正日本薬局方を、局外規とは日本薬局方外医薬品規格2002を、薬添規とは医薬品添加物規格2003および同追補を表す。
【0034】
実施例2
B液のpHを2.8に調整した以外は実施例1と同様にして血液ろ過用補充液を調製し、ダブルバッグに充填し、包装した。
【0035】
試験例1:貯蔵安定性試験(加速試験)
実施例1および2で得られたダブルバッグを外装のままさらに二次包装として紙箱に収納し、温度40℃±1℃、湿度75%PH±5%RHで保存した。貯蔵安定性の測定は、保存開始時、保存開始から1、3および6ヵ月で、A液、B液、および混合液(A液およびB液の混合は、期間経過後ダブルバッグをフィルム包装の外袋から取り出し、下室を両手で握るように圧縮し、隔壁を開通し、A液(下室)側およびB液(上室)側を交互に押して良く混合することにより行った。)についてそれぞれ表3に示す評価項目について実施した(n=3)。なお、混合液の試験結果は、実施例2のみ示す。
【0036】
【表3】
【0037】
A液、B液および混合液の結果をそれぞれ表4、5および6に示す。
【0038】
【表4】
【0039】
【表5】
【0040】
【表6】
【0041】
<試験条件>
試験例1において、5−HMFおよび炭酸水素ナトリウムの定量は、つぎの条件で行った。
【0042】
(1)5−HMF
検出器:紫外可視分光光度計((株)島津製作所製のUV−2700、測定波長:284nm)
(2)炭酸水素ナトリウム
検液5mLにつき、下記の条件の高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて分析することにより、重炭酸イオン濃度を測定した。
HPLC装置:(株)島津製作所製「LC20AD」
カラム:Shodex社製「IC SI−90 4E」(粒径9μm、内径4mm、直径250mm、Shodex社製)
移動相:1Lの水溶液中にホウ酸0.37g、D−マンニトール3.28g、およびトリス(ヒドロキシルメチル)アミノメタン0.91gを含有させた溶液を水酸化ナトリウム溶液によりpHを8.3とした。