特許第6947109号(P6947109)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6947109
(24)【登録日】2021年9月21日
(45)【発行日】2021年10月13日
(54)【発明の名称】センサ、及び構造体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 9/00 20060101AFI20210930BHJP
   C09D 183/04 20060101ALI20210930BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20210930BHJP
   G01N 37/00 20060101ALI20210930BHJP
【FI】
   B32B9/00 Z
   C09D183/04
   B32B27/00 101
   G01N37/00 102
【請求項の数】6
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2018-71510(P2018-71510)
(22)【出願日】2018年4月3日
(65)【公開番号】特開2019-181714(P2019-181714A)
(43)【公開日】2019年10月24日
【審査請求日】2020年1月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】早川 渓
(72)【発明者】
【氏名】眞貝 孟
(72)【発明者】
【氏名】糠塚 明
(72)【発明者】
【氏名】久野 斉
【審査官】 吉川 潤
(56)【参考文献】
【文献】 特表2005−528583(JP,A)
【文献】 特表2007−536527(JP,A)
【文献】 特開2014−236750(JP,A)
【文献】 特開平08−009995(JP,A)
【文献】 特開2015−200570(JP,A)
【文献】 特開2006−255811(JP,A)
【文献】 特開平06−079167(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 9/00
C09D 183/04
B32B 27/00
G01N 37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造体(1、101)を備えるセンサ(201)であって、
前記構造体は、
基材(3)と、
p-アミノフェニルトリメトキシシランを用いて前記基材の表面に形成されたシロキサン系分子膜(5)と、
前記シロキサン系分子膜と結合した機能性分子(7、7A、7B、7C、7D)と、
を備え、
前記シロキサン系分子膜と結合している前記機能性分子は、前記シロキサン系分子膜における領域(9、11、13、15)ごとに異なるセンサ
【請求項2】
請求項1記載のセンサであって、
前記機能性分子は、p-アミノフェニルトリメトキシシランが備えるアミノ基と直接的に又は間接的に結合しているセンサ。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のセンサであって、
前記機能性分子は、特定の分子(17A、17B、17C、17D)と化学的に又は物理的に結合する機能を有するセンサ。
【請求項4】
請求項1〜のいずれか1項に記載のセンサであって、
前記機能性分子は、低分子、錯体、DNA、ペプチド、抗体、及び糖鎖から成る群から選択される1以上であるセンサ。
【請求項5】
基材(3)と、前記基材の表面に形成されたシロキサン系分子膜(5)とを備える構造体(1、101)の製造方法であって、
前記基材の表面を親水化し、
p-アミノフェニルトリメトキシシランを前記基材の表面に接触させ、
50℃以下の温度の下で、p-アミノフェニルトリメトキシシランの加水分解反応及び脱水縮合反応を生じさせ、前記基材の表面にシロキサン系分子膜を形成する構造体の製造方法。
【請求項6】
請求項に記載の構造体の製造方法であって、
p-アミノフェニルトリメトキシシランの飽和溶液を前記基材の表面に接触させる構造体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は構造体、センサ、及び構造体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、シリコンやガラスから成る基板の表面に、シロキサン系分子膜を形成する技術が知られている。シロキサン系分子膜は、有機シラン分子を、シランカップリング反応を用いて基板の表面上に化学吸着させる方法で形成できる。有機シラン分子は、シロキサンネットワークによって基板に固定化される。シロキサン系分子膜は特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−356651号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
有機シラン分子として、3-アミノプロピルトリエトキシシラン(以下ではAPTESとする)が知られている。APTESは、それが備えるアミノ基によって生体分子と結合することができる。そのため、APTESを用いて形成されたシロキサン系分子膜を、マルチアレイバイオチップに利用することが考えられる。
【0005】
APTESを用いてシロキサン系分子膜を形成すると、凝集が生じ易い。シロキサン系分子膜に凝集が生じると、マルチアレイバイオチップにおいて、単位面積当たりのAPTESの量、及び単位面積当たりのアミノ基の量が、場所ごとに異なってしまう。その結果、マルチアレイバイオチップの検出精度が低下してしまう。
【0006】
本開示は、シロキサン系分子膜に凝集が生じ難い構造体、センサ、及び構造体の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一局面は、基材(3)と、以下の式(1)又は式(2)で表される有機化合物を用いて前記基板の表面に形成されたシロキサン系分子膜(5)と、を備える構造体(1、101)である。
【0008】
【化1】
前記式(1)及び前記式(2)において、R1〜R5のうち、いずれか1つはアミノ基である。R1〜R5のうち、アミノ基でないものは、それぞれ独立に、水素又はアルキル基である。R7〜R9は、それぞれ独立に、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アルキル基、及びフェニル基のうちのいずれかである。ただし、R7〜R9のうち、1以上は、ヒドロキシ基又はアルコキシ基である。前記式(1)において、R6はアルキル基である。
【0009】
本開示の一局面である構造体は、シロキサン系分子膜に凝集が生じ難い。
本開示の別の局面は、基材(3)と、前記基材の表面に形成されたシロキサン系分子膜(5)とを備える構造体(1、101)の製造方法であって、前記基材の表面を親水化し、以下の式(1)又は式(2)で表される有機化合物を前記基材の表面に接触させ、50℃以下の温度の下で、前記有機化合物の加水分解反応及び脱水縮合反応を生じさせ、前記基材の表面にシロキサン系分子膜を形成する構造体の製造方法である。
【0010】
【化1】
前記式(1)及び前記式(2)において、R1〜R5のうち、いずれか1つはアミノ基である。R1〜R5のうち、アミノ基でないものは、それぞれ独立に、水素又はアルキル基である。R7〜R9は、それぞれ独立に、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アルキル基、及びフェニル基のうちのいずれかである。ただし、R7〜R9のうち、1以上は、ヒドロキシ基又はアルコキシ基である。前記式(1)において、R6はアルキル基である。
【0011】
本開示の別の局面である構造体の製造方法によれば、シロキサン系分子膜に凝集が生じ難い。
なお、この欄及び特許請求の範囲に記載した括弧内の符号は、一つの態様として後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものであって、本開示の技術的範囲を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】構造体の構成を表す説明図である。
図2】機能性分子をさらに備える構造体の構成を表す説明図である。
図3】センサ201の構成を表す説明図である。
図4】実施例の構造体におけるSEM観察像である。
図5】比較例の構造体におけるSEM観察像である。
図6】実施例の構造体のXPSスペクトルのうち、Cのピーク付近を表す説明図である。
図7】比較例の構造体のXPSスペクトルのうち、Cのピーク付近を表す説明図である。
図8】シリコンウエハのXPSスペクトルのうち、Cのピーク付近を表す説明図である。
図9】実施例の構造体のXPSスペクトルのうち、Nのピーク付近を表す説明図である。
図10】比較例の構造体のXPSスペクトルのうち、Nのピーク付近を表す説明図である。
図11】シリコンウエハのXPSスペクトルのうち、Nのピーク付近を表す説明図である。
図12】DBCO基導入構造体と、Cyanine3導入構造体との蛍光イメージを表す画像である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本開示の例示的な実施形態を、図面を参照しながら説明する。
1.構造体
本開示の構造体は、基材と、シロキサン系分子膜とを備える。基材の材質は特に限定されない。基材として、例えば、シリコンウエハ等が挙げられる。シロキサン系分子膜を形成し易くするために、基材の表面にOH基が存在することが好ましい。基材は、例えばSiN膜を表面に備える。SiN膜の表面にはOH基が存在する。SiN膜は、例えば、低圧化気相成長(LPCVD)の方法により形成できる。基材の形態は、基板であってもよいし、それ以外の形態であってもよい。
【0014】
シロキサン系分子膜は、以下の式(1)又は式(2)で表される有機化合物を用いて基材の表面に形成された膜である。
【0015】
【化1】
前記式(1)及び前記式(2)において、R1〜R5のうち、いずれか1つはアミノ基である。R1〜R5のうち、アミノ基でないものは、それぞれ独立に、水素又はアルキル基である。R7〜R9は、それぞれ独立に、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アルキル基、及びフェニル基のうちのいずれかである。ただし、R7〜R9のうち、1以上は、ヒドロキシ基又はアルコキシ基である。前記式(1)において、R6はアルキル基である。
【0016】
【化1】
R1〜R5のうちのいずれかがアルキル基である場合、そのアルキル基の炭素数は、1〜2の範囲が好ましい。R6の炭素数は、1〜2の範囲が好ましい。
【0017】
有機化合物は、例えば、有機シラン分子である。有機化合物として、例えば、式(3)で表されるp-アミノフェニルトリメトキシシラン(以下ではAPTMSとする)、式(4)で表されるp-アミノフェニルシラントリオール、式(5)で表されるp-アミノフェニルトリエトキシシラン、式(6)で表されるp-アミノフェニルトリプロポキシシラン、式(7)で表されるm-アミノフェニルトリメトキシシラン、式(8)で表されるo-アミノフェニルトリメトキシシラン、式(9)で表される4-[2-(トリエトキシシリル)エチル]-ベンゼンアミン、式(10)で表される4-[(トリエトキシシリル)メチル]-ベンゼンアミン、式(11)で表される4-[ジメチル[2-(トリメトキシシリル)エチル]シリル]-ベンゼンアミン、式(12)で表されるbis(p-アミノフェニル)-シランジオール、式(13)で表されるbis(p-アミノフェニル)-ジエトキシシラン、式(14)で表される4-(ジメトキシシリル)-ベンゼンアミン、式(15)で表される4-(ジメトキシメチルシリル)-ベンゼンアミン、式(16)で表される4-(ジエトキシメチルシリル)-ベンゼンアミン、式(17)で表される4-[(ジメトキシシリル)メチル]-ベンゼンアミン、式(18)で表される1-(p-アミノフェニル)-1,1-ジメチル-シラノール、式(19)で表される4-(メトキシシリル)-ベンゼンアミン、式(20)で表される4-(メトキシジメチルシリル)-ベンゼンアミン、式(21)で表される4-(エトキシジメチルシリル)-ベンゼンアミン、式(22)で表されるp-(ジメチルプロポキシシリル)-ベンゼンアミン、式(23)で表される4-[(2-プロポキシ)シリル]-ベンゼンアミン、及び式(24)で表される4-(メトキシメチルフェニルシリル)-ベンゼンアミンから成る群から選択される1以上が挙げられる。
【0018】
【化2】
【0019】
【化3】
【0020】
【化4】
【0021】
【化5】
【0022】
【化6】
【0023】
【化7】
【0024】
【化8】
【0025】
【化9】
【0026】
【化10】
本開示の構造体は、シロキサン系分子膜に凝集が生じ難い。本開示の構造体は、例えば、シロキサン系分子膜と結合した機能性分子をさらに備えていてもよい。機能性分子は、例えば、有機化合物が備えるアミノ基と直接的に又は間接的に結合している。機能性分子は、例えば、特定の分子と化学的に又は物理的に結合する機能、撥水性を発現する機能、触媒の機能等を有する。機能性分子は、例えば、低分子、錯体、DNA、ペプチド、抗体、及び糖鎖から成る群から選択される1以上である。
【0027】
本開示の構造体は、例えば、図1に示す形態を有する。構造体1は、基材3と、シロキサン系分子膜5とを備える。シロキサン系分子膜5は基材3の表面に形成されている。
本開示の構造体は、例えば、図2に示す形態を有する。構造体101は、基材3と、シロキサン系分子膜5と、機能性分子7と、を備える。シロキサン系分子膜5は基材3の表面に形成されている。機能性分子7はシロキサン系分子膜5と結合している。
【0028】
機能性分子として、例えば、低分子、錯体、DNA、ペプチド、抗体、及び糖鎖から成る群から選択される1以上が挙げられる。機能性分子として、例えば、式(25)に示すDBCO−NHS、式(26)に示すCyanine3アジド等が挙げられる。
【0029】
【化11】
【0030】
【化12】
シロキサン系分子膜は、凝集が生じ難い。そのため、単位面積当たりの機能性分子の量が場所ごとにばらついてしまうことを抑制できる。
2.センサ
本開示のセンサは、構造体を備える。本開示のセンサは、構造体に加えて他の構成を備えていてもよいし、備えていなくてもよい。センサが備える構造体は、前記「1.構造体」の項で述べた構造体のうち、機能性分子をさらに備えるものである。機能性分子は、例えば、特定の分子と化学的に又は物理的に結合する機能を有する分子である。本開示のセンサは、例えば、機能性分子に特定の分子を結合させることにより、特定の分子を検出したり、特定の分子を定量したりすることができる。
【0031】
本開示のセンサにおいて、例えば、シロキサン系分子膜と結合している機能性分子は、シロキサン系分子膜における領域ごとに異なる。この場合、例えば、機能性分子を、シロキサン系分子膜における領域ごとに異なる分子と結合させることができる。そのため、本開示のセンサは複数の種類の分子を検出したり、定量したりすることができる。
【0032】
本開示のセンサは、シロキサン系分子膜に凝集が生じ難い。そのため、本開示のセンサは、検出精度が高い。本開示のセンサは、例えば、図3に示す構成を有する。センサ201はマルチアレイ型センサデバイスである。センサ201は基材3を備える。基材3の表面は、4つの領域9、11、13、15に分割される。各領域には、シロキサン系分子膜5が形成されている。各領域において、シロキサン系分子膜5は、複数存在する。
【0033】
領域9において、シロキサン系分子膜5に、機能性分子7Aが結合している。機能性分子7Aは、特定の分子17Aと化学的に又は物理的に結合する機能を有する。領域11において、シロキサン系分子膜5に、機能性分子7Bが結合している。機能性分子7Bは、特定の分子17Bと化学的に又は物理的に結合する機能を有する。領域13において、シロキサン系分子膜5に、機能性分子7Cが結合している。機能性分子7Cは、特定の分子17Cと化学的に又は物理的に結合する機能を有する。領域15において、シロキサン系分子膜5に、機能性分子7Dが結合している。機能性分子7Dは、特定の分子17Dと化学的に又は物理的に結合する機能を有する。
【0034】
センサ201は、特定の分子17A、17B、17C、17Dを検出することができる。また、センサ201は、例えば、特定の分子17A、17B、17C、17Dを定量することができる。
【0035】
シロキサン系分子膜5は、凝集が生じ難い。そのため、単位面積当たりの機能性分子7A、7B、7C、7Dの量が場所ごとにばらついてしまうことを抑制できる。その結果、センサ201の検出精度が高い。
3.構造体の製造方法
本開示の構造体の製造方法は、基材と、その基材の表面に形成されたシロキサン系分子膜とを備える構造体の製造方法である。
【0036】
本開示の構造体の製造方法は、基材の表面を親水化する工程を有する。親水化処理の後における基材の表面の状態は、ヒドロキシ基が導入されている状態であることが好ましい。親水化する方法として、例えば、アルカリ処理、UV処理等が挙げられる。
【0037】
本開示の構造体の製造方法は、基材の表面を親水化した後に、以下の式(1)又は式(2)で表される有機化合物を基材の表面に接触させ、50℃以下の温度の下で、有機化合物の加水分解反応及び脱水縮合反応を生じさせ、基材の表面にシロキサン系分子膜を形成する。
【0038】
【化1】
前記式(1)及び前記式(2)において、R1〜R5のうち、いずれか1つはアミノ基である。R1〜R5のうち、アミノ基でないものは、それぞれ独立に、水素又はアルキル基である。R7〜R9は、それぞれ独立に、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アルキル基、及びフェニル基のうちのいずれかである。ただし、R7〜R9のうち、1以上は、ヒドロキシ基又はアルコキシ基である。前記式(1)において、R6はアルキル基である。
【0039】
R1〜R5のうちのいずれかがアルキル基である場合、そのアルキル基の炭素数は、1〜2の範囲が好ましい。R6の炭素数は、1〜2の範囲が好ましい。
本開示の構造体の製造方法によれば、シロキサン系分子膜に凝集が生じ難い。有機化合物は、例えば、有機シラン分子である。有機化合物として、例えば、式(3)〜式(24)のうちのいずれかで表される有機化合物が挙げられる。
【0040】
有機化合物の加水分解反応及び脱水縮合反応を生じさせるときの温度は、40℃以下が好ましく、30℃以下がさらに好ましい。有機化合物の加水分解反応及び脱水縮合反応を生じさせるときの温度が40℃である場合、シロキサン系分子膜に凝集が一層生じ難い。
【0041】
有機化合物を基材の表面に接触させる方法として、例えば、有機化合物の飽和溶液を基材の表面に接触させる方法が挙げられる。飽和溶液の温度は、50℃以下である。飽和溶液の温度は、40℃以下であることが好ましく、30℃以下であることがさらに好ましい。飽和溶液の温度が40℃以下である場合、シロキサン系分子膜に凝集が一層生じ難い。
4.実施例
(4−1)実施例の構造体の製造
(i)基材の親水化
シリコンウエハを用意した。このシリコンウエハは基材に対応する。シリコンウエハの表面には、低圧化気相成長の方法により、SiN膜が形成されている。SiN膜はOH基を備える。
【0042】
シリコンウエハに対し、アルカリ処理を行った。アルカリ処理は親水化に対応する。処理液の組成は、濃度が0.1MであるNaOH水溶液である。処理液の温度は20〜60℃である。アルカリ処理の時間は1時間である。
【0043】
(ii)有機シラン分子溶液の調製
APTMS10mgを、THF2mlに溶解して有機シラン分子溶液を調製した。この有機シラン分子溶液は飽和溶液である。
【0044】
(iii)シロキサン系分子膜の形成
前記(i)で親水化したシリコンウエハと、前記(ii)で調製した有機シラン分子溶液とを、密閉可能なスクリュー瓶に入れた。スクリュー瓶の中で、シリコンウエハは有機シラン分子溶液に浸漬された。スクリュー瓶を密閉し、室温で1時間静置した。スクリュー瓶を密閉することで、溶媒の蒸発を抑制できる。このとき、APTMSの加水分解反応及び脱水縮合反応が生じ、シリコンウエハの表面にシロキサン系分子膜が形成された。
【0045】
(iv)洗浄
シリコンウエハを有機シラン分子溶液から取り出し、THFを用いて洗浄した。この洗浄により、シリコンウエハの表面に結合しなかったAPTMSが除去された。
【0046】
次に、シリコンウエハを脱イオン水で洗浄し、THFを除去した。次に、窒素ブローにより脱イオン水を除去し、シリコンウエハを乾燥させた。以上の工程により、構造体(以下では実施例の構造体とする)が完成した。実施例の構造体は、シリコンウエハと、そのシリコンウエハの表面に形成されたシロキサン系分子膜とを備える。シロキサン系分子膜は、APTMSを用いて形成された膜である。
【0047】
(4−2)比較例の構造体の製造
基本的には実施例の構造体と同様にして、比較例の構造体を製造した。ただし、シロキサン系分子膜の形成に用いる有機シラン分子として、APTMSの代わりに、APTESを用いた。
【0048】
(4−3)構造体の評価
実施例の構造体、及び比較例の構造体のそれぞれについて、SEMを用いてシロキサン系分子膜を観察した。実施例の構造体におけるSEM観察像を図4に示す。比較例の構造体におけるSEM観察像を図5に示す。
【0049】
実施例の構造体では、シロキサン系分子膜に島状の部分は見られなかった。それに対し、比較例の構造体では、シロキサン系分子膜に島状の部分が多数見られた。島状の部分は、シロキサン系分子膜の凝集部である。
【0050】
実施例の構造体、及び比較例の構造体のそれぞれについて、シロキサン系分子膜のXPSスペクトルを取得した。また、シリコンウエハのXPSスペクトルも取得した。XPSスペクトルは、X線の入射角が15°、30°、45°、60°、75°、90°の場合にそれぞれ取得した。
【0051】
実施例の構造体、比較例の構造体、及びシリコンウエハのそれぞれについて、X線の入射角が90°の場合のXPSスペクトルにおけるCのピーク高さを測定した。Cのピーク高さが大きいほど、シリコンウエハに結合している有機シラン分子の量が多い。
【0052】
実施例の構造体のXPSスペクトルのうち、Cのピーク付近を図6に示す。実施例の構造体におけるCのピーク高さは2741であった。比較例の構造体のXPSスペクトルのうち、Cのピーク付近を図7に示す。比較例の構造体におけるCのピーク高さは6323であった。シリコンウエハのXPSスペクトルのうち、Cのピーク付近を図8に示す。シリコンウエハにおけるCのピーク高さは475であった。
【0053】
実施例の構造体及び比較例の構造体におけるCのピーク高さは、シリコンウエハにおけるCのピーク高さより大きかった。このことから、実施例の構造体及び比較例の構造体では、シロキサン系分子膜が形成されていることが確認できた。
【0054】
実施例の構造体におけるCのピーク高さは、比較例の構造体におけるCのピーク高さより小さかった。このことから、実施例の構造体では、比較例の構造体に比べて、シロキサン系分子膜の凝集が少ないことが確認できた。
【0055】
また、実施例の構造体、比較例の構造体、及びシリコンウエハのそれぞれについて、NH/SiN比を測定した。NH/SiN比とは、SiN由来のNのピーク高さに対する、NH由来のNのピーク高さの比である。NH/SiN比が大きいほど、シリコンウエハに結合している有機シラン分子の量が多い。NH/SiN比は、X線の入射角が15°の場合と、90°の場合とでそれぞれ測定した。
【0056】
実施例の構造体のXPSスペクトルのうち、Nのピーク付近を図9に示す。実施例の構造体において、X線の入射角が90°の場合のNH/SiN比は0.118であり、X線の入射角が15°の場合のNH/SiN比は0.778であった。
【0057】
比較例の構造体のXPSスペクトルのうち、Nのピーク付近を図10に示す。比較例の構造体において、X線の入射角が90°の場合のNH/SiN比は1.43であり、X線の入射角が15°の場合のNH/SiN比は4.83であった。
【0058】
シリコンウエハのXPSスペクトルのうち、Nのピーク付近を図11に示す。シリコンウエハにおいて、X線の入射角が90°の場合のNH/SiN比は0であり、X線の入射角が15°の場合のNH/SiN比も0であった。
【0059】
実施例の構造体におけるNH/SiN比は、比較例の構造体におけるNH/SiN比より小さかった。このことから、実施例の構造体では、比較例の構造体に比べて、シロキサン系分子膜の凝集が少ないことが確認できた。
【0060】
(4−4)DBCO基導入構造体の製造
濃度が10mMであるDBCO−NHS溶液5μlと、濃度が0.1MであるNaHCO水溶液495μlとを混合し、濃度が100μMであるDBCO−NHS溶液(以下では、100μMDBCO−NHS溶液とする)を作成した。濃度が10mMであるDBCO−NHS溶液は、以下の市販品である。
【0061】
販売元:Sigma-Aldrich
Product Code:761524
CAS No.:1353016-71-3
次に、実施例の構造体と、上記のように作成した100μMDBCO−NHS溶液とを、密閉可能なスクリュー瓶に入れた。スクリュー瓶の中で、実施例の構造体は100μMDBCO−NHS溶液に浸漬された。スクリュー瓶を密閉し、室温で1時間静置した。スクリュー瓶を密閉することで、溶媒の蒸発を抑制できる。このとき、APTMSのNH基とDBCO−NHSのNHS基とが反応し、DBCO−NHSはシロキサン系分子膜と結合した。DBCO基は、APTMSを介してシリコンウエハの表面に導入された。DBCO−NHSがシロキサン系分子膜と結合した実施例の構造体を、以下では、DBCO基導入構造体とする。DBCO基導入構造体は、機能性分子を備える構造体に対応する。
【0062】
DBCO基導入構造体を100μMDBCO−NHS溶液から取り出し、濃度が0.1MであるNaHCO水溶液により溶解洗浄した。この溶解洗浄により、APTMSのNH基と結合せずに残っていたDBCO−NHSが除去された。
【0063】
次に、DBCO基導入構造体を脱イオン水で洗浄し、NaHCOを除去した。次に、窒素ブローにより脱イオン水を除去し、DBCO基導入構造体を乾燥させた。
(4−5)Cyanine3導入構造体の製造
濃度が100μMであるCyanine3アジド溶液4μlと、PBS396μlとを混合し、濃度が1μMであるCyanine3アジド溶液(以下では、1μMCyanine3アジド溶液とする)を作成した。PBSは、137mMのNaClと、2.7mMのKClと、10mMのリン酸とを含む緩衝液である。PBSのpHは7.4である。濃度が100μMであるCyanine3アジド溶液は、以下の市販品である。
【0064】
販売元:Lumiprobe
Product Code:B1030
CAS No.:なし
次に、DBCO基導入構造体と、上記のように作成した1μMCyanine3アジド溶液とを、密閉可能なスクリュー瓶に入れた。スクリュー瓶の中で、DBCO基導入構造体は1μMCyanine3アジド溶液に浸漬された。スクリュー瓶を密閉し、室温で1時間静置した。スクリュー瓶を密閉することで、溶媒の蒸発を抑制できる。このとき、DBCO基とアジド基とが反応し、Cyanine3アジドは、DBCO−NHSと結合した。Cyanine3は、APTMS及びDBCO−NHSを介してシリコンウエハの表面に導入された。Cyanine3が導入された構造体を、以下では、Cyanine3導入構造体とする。Cyanine3導入構造体は、機能性分子を備える構造体に対応する。
【0065】
Cyanine3導入構造体を1μMCyanine3アジド溶液から取り出し、メタノール及びアセトンにより洗浄した。この洗浄により、DBCO基と結合せずに残っていたCyanine3アジドが除去された。
【0066】
次に、Cyanine3導入構造体を脱イオン水で洗浄し、メタノール及びアセトンを除去した。次に、窒素ブローにより脱イオン水を除去し、Cyanine3導入構造体を乾燥させた。
(4−6)機能性分子を備える構造体の評価
DBCO基導入構造体と、Cyanine3導入構造体との蛍光イメージを図12に示す。図12において「APTMS>DBCO−NHS」はDBCO基導入構造体を示す。図12において「APTMS>DBCO−NHS>Cy3−N3」はCyanine3導入構造体を示す。
【0067】
DBCO基導入構造体の表面では蛍光が生じなかった。Cyanine3導入構造体の表面ではCyanine3に特有の蛍光が生じた。このことから、Cyanine3導入構造体にCyanine3が導入されたことが確認できた。
【0068】
5.他の実施形態
以上、本開示の実施形態について説明したが、本開示は上述の実施形態に限定されることなく、種々変形して実施することができる。
【0069】
(1)上記実施形態における1つの構成要素が有する複数の機能を、複数の構成要素によって実現したり、1つの構成要素が有する1つの機能を、複数の構成要素によって実現したりしてもよい。また、複数の構成要素が有する複数の機能を、1つの構成要素によって実現したり、複数の構成要素によって実現される1つの機能を、1つの構成要素によって実現したりしてもよい。また、上記実施形態の構成の一部を省略してもよい。また、上記実施形態の構成の少なくとも一部を、他の上記実施形態の構成に対して付加又は置換してもよい。なお、特許請求の範囲に記載した文言から特定される技術思想に含まれるあらゆる態様が本開示の実施形態である。
【0070】
(2)上述した構造体の他、当該構造体を構成要素とする製品、シロキサン系分子膜の形成方法、構造体を備えたセンサを用いた分析方法等、種々の形態で本開示を実現することもできる。
【符号の説明】
【0071】
1、101…構造体、3…基材、5…シロキサン系分子膜、7、7A、7B、7C、7D…機能性分子、9、11、13、15…領域、17A、17B、17C、17D…特定の分子、201…センサ
図1
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図12