(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記判定部は、前記検出対象期間よりも前に前記吸込圧力取得部によって取得された前記吸込圧力データの変動係数、又は当該変動係数に所定の演算を行って得られる係数を、前記基準変動係数として用いる、請求項1から請求項4の何れか一項に記載の検知装置。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して本発明の一実施形態による検知装置、検知方法、及び検知プログラムについて詳細に説明する。尚、以下の実施形態は、本発明を限定するものではない。また、以下の実施形態で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0020】
〈検知装置が用いられるプラント〉
図1は、本発明の一実施形態による検知装置が用いられるプラントの一例を示すブロック図である。
図1に示す通り、プラントPLには、液体源11、吸込圧力計12、ポンプ13、機器14、及び制御システム15が設けられている。このようなプラントPLでは、制御システム15によってポンプ13及び機器14が制御され、例えば、液体源11の液体がポンプ13によって機器14等に供給されて処理される。
【0021】
プラントPLは、例えば、化学等の工業プラントの他、ガス田や油田等の井戸元やその周辺を管理制御するプラント、水力・火力・原子力等の発電を管理制御するプラント、太陽光や風力等の環境発電を管理制御するプラント、上下水やダム等を管理制御するプラント等であってよい。尚、プラントPLは、工場施設、機械装置、生産装置、及び発電装置等の少なくとも一部であってよい。また、プラントPLは、液体源11、吸込圧力計12、ポンプ13、機器14、及び制御システム15の少なくとも一部を複数備えてもよい。
【0022】
液体源11は、機器14に供給される液体を貯蔵又は供給する。液体源11は、液体を保存、貯蔵、及び圧力維持するタンク等でよい。また、液体源11は、地下水及び油田といった資源が蓄積又は埋蔵された地域に設けられた井戸又は油井等でよい。また、液体源11は、河川、池、湖、及びダム等であってもよい。また、液体源11は、他のポンプによって供給される液体が貯蔵されたタンクであってもよい。また、液体源11は、タンク等に接続された配管であってもよい。
【0023】
吸込圧力計12は、液体源11及びポンプ13の間に設けられ、ポンプ13の吸込圧力を測定する。吸込圧力計12は、例えばポンプ13の設置時に設けられる既存の設備である。吸込圧力計12は、例えば、差圧式流量計又は圧力伝送器等である。吸込圧力計12は、ポンプ13の動作を検出するセンサとして機能してよい。吸込圧力計12は、ポンプ13毎に設けられてよい。
図1では、液体源11、吸込圧力計12、及びポンプ13が、1つずつプラントPLに設けられた例を図示している。尚、吸込圧力計12は、プラントPLの制御に用いられてもよい。
【0024】
ポンプ13は、液体源11の液体を機器14に供給する。ポンプ13は、液体源11及び機器14の間に、バルブ及び配管等を用いて接続されている。尚、
図1では、配管内部の液体の移動方向の例を、液体源11から機器14への矢印で示している。ポンプ13は、羽根形状の回転子(インペラ)等を有する渦巻ポンプでよい。また、ポンプ13は、ディフューザポンプ、カスケードポンプ、軸流ポンプ、斜流ポンプ、及びクロスフローポンプ等でもよい。ポンプ13は、プラントPLにおいて複数配置されてよい。
【0025】
機器14は、プラントPLにおける制御対象である。機器14は、プラントPLの現場に設置されるフィールド機器であってよい。機器14は、工場設備、機械装置、生産装置、発電装置、及び貯蔵装置等の少なくとも一部でよい。機器14は、水、オイル、燃料、冷媒、又は薬品等の液体の供給を受けて、その液体を用いた処理動作を行う装置を備えてよい。機器14は、複数の装置を備えてよい。
【0026】
制御システム15は、プラントPL内に設けられたセンサ等の測定器の測定結果に基づき、ポンプ13及び機器14等の一部又は全部を制御する。また、制御システム15は、プラント内に設けられた配管等に設けられたバルブを制御してもよい。例えば、制御システム15は、機器14の動作を測定した測定データ、並びに、プラントPL内で取り扱う液体等の流体の圧力、温度、流量、及び貯蔵量等の測定データに基づき、ポンプ13、機器14、及びバルブ等の動作を制御する。
【0027】
制御システム15は、機器14等と有線又は無線の通信機器を介して接続され、機器14等から離間された位置に配置されてよい。制御システム15は、分散制御システム(DCS:Distributed Control System)、及びSCADA(Supervisory Control And Data Acquisition)システムといった、自動操業システムや保守システムとして構築されてよい。この場合、制御システム15は、数Hzから数kHz程度の周波数で、各部と制御データ及び測定データをやり取りしてよい。
【0028】
以上のプラントPLでは、ポンプ13を含めて、機器14の制御、保守、及び管理等を実行可能であることが望ましい。例えば、ポンプ13は、キャビテーション等が発生することがあり、騒音や振動の発生原因となり、ポンプ13の劣化や破壊に至ることもある。プラントPLでは、ポンプ13の動作を監視して、このような不安定な動作の発生をできる限り抑制すべく、制御、保守、及び管理等を実行できることが望ましい。
【0029】
検知装置1は、このようなプラントPLに設けられ、ポンプ13の吸込圧力を示す吸込圧力データの変動係数に基づき、キャビテーションをリアルタイムで検出する。検知装置1は、既存のプラントPL等に適用可能に構成され、吸込圧力データを取得して変動係数を求めることにより、キャビテーションを検出可能である。尚、検知装置1は、制御システム15に含まれてよい。また、検知装置1は、プラントPL内に設けられたセンサ等の測定器に含まれてもよい。
図1では、検知装置1が制御システム15に設けられている例を示している。
【0030】
〈検知装置の構成〉
図2は、本発明の一実施形態による検知装置の要部構成を示すブロック図である。
図2に示す通り、本実施形態の検知装置1は、吸込圧力取得部21及び検知部22を備える。尚、検知装置1と吸込圧力計12及び制御システム15との接続形態は任意である。例えば、検知装置1は、吸込圧力計12及び制御システム15と、有線で接続されていてもよく、無線で接続されていてもよい。或いは、検知装置1は、ネットワーク等を介して吸込圧力計12及び制御システム15と接続されていてもよい。
【0031】
吸込圧力取得部21は、ポンプ13の吸込圧力を示す吸込圧力データを取得する。吸込圧力取得部21は、吸込圧力計12に接続され、吸込圧力データを吸込圧力計12から受け取ってよい。また、吸込圧力データが不図示のデータベース等に記憶されている場合、吸込圧力取得部21は、そのデータベース等にアクセスして吸込圧力データを取得してよい。また、吸込圧力取得部21は、制御システム15から吸込圧力データを取得してもよい。吸込圧力取得部21は、取得した吸込圧力データを検知部22に供給する。
【0032】
検知部22は、検出対象期間中の吸込圧力データの変動係数に基づいて、ポンプ13のキャビテーションの発生を検知する。具体的に、検知部22は、吸込圧力取得部21から供給される吸込圧力データのうち、検出対象期間中の吸込圧力データを用いて変動係数を算出する。検知部22は、算出した変動係数と予め規定された閾値(基準変動係数)とを比較し、変動係数が基準変動係数を超えているか否かに応じて、ポンプ13にキャビテーションが発生しているか否かを検知する。検知部22は、記憶部22a、変動係数算出部22b、及び判定部22cを備える。
【0033】
記憶部22aは、吸込圧力取得部21から供給される吸込圧力データを記憶する。記憶部22aは、検知装置1が処理するデータを記憶可能でよい。例えば、記憶部22aは、検知装置1が検知結果を生成する過程で算出する(又は利用する)中間データ、算出結果、及びパラメータ等をそれぞれ記憶してもよい。また、記憶部22aは、検知装置1内の各部の要求に応じて、記憶したデータを要求元に供給してよい。記憶部22aは、一例として、変動係数算出部22bの要求に応じて、記憶した吸込圧力データを変動係数算出部22bに供給する。
【0034】
変動係数算出部22bは、検出対象期間中の吸込圧力データの変動係数を算出する。変動係数算出部22bは、検出対象期間中の吸込圧力データの平均値と標準偏差とに基づいて変動係数を算出する。具体的に、変動係数算出部22bは、検出対象期間中の吸込圧力データの平均値と標準偏差とを求め、標準偏差を平均値で除して得られる値を変動係数として算出する。
【0035】
変動係数算出部22bは、吸込圧力データの移動平均値を上記の平均値として求め、吸込圧力データの移動標準偏差を上記の標準偏差として求めてもよい。このようにすることで、検出対象期間をずらしながら吸込圧力データの変動係数を順次求めることができるため、ポンプ13のキャビテーションの発生を早期に検知することができる。変動係数算出部22bは、算出した変動係数を判定部22cに供給する。
【0036】
ここで、検出対象期間中の吸込圧力データの平均値をP
advとし、検出対象期間中の吸込圧力データの標準偏差をS
pとする。変動係数算出部22bは、例えば、以下の(1)式を用いて、検出対象期間中の吸込圧力データの変動係数C
vを算出する。
【数1】
【0037】
尚、検出対象期間中の吸込圧力データのデータ数をnとし、ポンプ13の吸込口の静圧(吸込圧力データ)をP
iとすると、検出対象期間中の吸込圧力データの標準偏差S
pは、以下の(2)式を用いて算出することができる。
【数2】
【0038】
判定部22cは、変動係数算出部22bから変動係数を取得する。判定部22cは、取得した変動係数が、予め規定された基準変動係数を超えた場合に、ポンプ13でキャビテーションが発生したと判定する。ここで、判定部22cは、上述した検出対象期間よりも前に吸込圧力取得部21によって取得された吸込圧力データの変動係数、又はこの変動係数に所定の演算(例えば、所定の定数の乗算)を行って得られる係数を、上記の基準変動係数として用いることができる。
【0039】
例えば、判定部22cは、新規なポンプ13の動作が開始されてから一定時間(例えば、数十秒〜数分程度)が経過し、動作が安定している状態で得られる吸込圧力データの変動係数に一定数を乗じて得られる係数を、上記の基準変動係数として用いることができる。上記の「動作が安定している状態」とは、例えばポンプ13の吸込圧力データの変動が一定の値以内に収まっている状態である。
【0040】
判定部22cは、キャビテーションを検知したことを、制御システム15に通知してよい。また、判定部22cは、キャビテーションを検知していないことも、制御システム15に通知してよい。尚、上述した基準変動係数の設定は、例えばポンプ13又は機器14の稼働状態に応じた制御システム15からの通知に即した所定のタイミングで行ってもよい。
【0041】
〈検知装置の動作〉
次に、本発明の一実施形態による検知装置1の動作について説明する。検知装置1の動作は、基準変動係数を設定する際の動作(以下、「初期設定動作」という)と、キャビテーションの発生を検知する動作(以下、「検知動作」という)とに大別される。以下では、これら初期設定動作及び検知動作について順に説明する。
【0042】
《初期設定動作》
図3は、本発明の一実施形態による検知装置の初期設定動作の一例を示すフローチャートである。尚、
図3に示すフローチャートの処理は、例えば、プラントPLに新規に設置されたポンプ13の動作開始ボタンが押下されることによって開始される。ポンプ13の動作が開始されると、ポンプ13の吸込口の圧力が急激に変化するため、検知装置1は、吸込圧力データの急激な変化からポンプ13の動作開始を知ることができる。尚、制御システム15の制御によってポンプ13の動作が開始される場合には、制御システム15が、検知装置1に対してポンプ13の動作開始を通知するようにしてもよい。
【0043】
処理が開始されると、まず、ポンプ13の稼働開始から一定時間が経過したか否かが検知部22で判断される(ステップS11)。例えば、ポンプ13の動作が開始されてから、例えば数十秒〜数分程度が経過したか否かが判断される。ポンプ13の動作開始直後はキャビテーションが発生しやすい不安定な状態であるが、ポンプ13の動作が開始されてからある程度の時間が経過すると、キャビテーションが発生しない安定した状態になる。ステップS11の処理は、このような安定した状態になったか否かを判断するために行われる。
【0044】
ポンプ13の稼働開始から一定時間が経過していないと判断された場合(ステップS11の判断結果が「NO」の場合)には、ステップS11の処理が繰り返される。これに対し、ポンプ13の稼働開始から一定時間が経過したと判断された場合(ステップS11の判断結果が「YES」の場合)には、吸込圧力データを取得する処理が吸込圧力取得部21で行われる(ステップS12)。吸込圧力取得部21で取得された吸込圧力データは、例えば検知部22の記憶部22aに記憶される。尚、吸込圧力取得部21は、吸込圧力計12が圧力データをサンプリングする毎に吸込圧力データを取得してよい。或いは、吸込圧力取得部21は、予め定められたサンプリング数毎にまとめて吸込圧力データを取得してもよい。
【0045】
次に、ステップS12で取得された吸込圧力データを用いて、変動係数を算出する処理が、変動係数算出部22bで行われる(ステップS13)。
図4は、変動係数の具体的な算出処理を示すフローチャートである。処理が開始されると、まず、吸込圧力データの平均値P
advを算出する処理が変動係数算出部22bで行われる(ステップS21)。例えば、検出対象期間におけるn個の吸込圧力データの値を加算し、加算して得られた値をnで除算して、平均値P
advを求める処理が行われる。
【0046】
検出対象期間としては、例えば現在時刻をt
0とすると、時刻(t
0−T)から現在時刻(t
0)までの期間を設定することができる。尚、検出対象期間の長さTは、任意に設定可能である。検出対象期間の長さTは、例えば、液体源11から供給される液体の性質、キャビテーションの検出精度等を考慮して設定される。一例として、検出対象期間の長さTは、数秒程度に設定される。
【0047】
次いで、吸込圧力データの標準偏差を算出する処理が変動係数算出部22bで行われる(ステップS22)。例えば、ステップS21で算出した平均値P
advと、吸込圧力データP
iとを、前述した(2)式に代入して標準偏差S
pを求める処理が行われる。続いて、平均値及び標準偏差を用いて変動係数を算出する処理が変動係数算出部22bで行われる(ステップS23)。具体的には、ステップS21で算出した平均値P
adv及びステップS22で算出した標準偏差S
pを、前述した(1)式に代入して変動係数C
vを求める処理が行われる。
【0048】
以上の処理が終了すると、基準変動係数を設定する処理が判定部22cで行われる(ステップS14)。具体的には、ステップS13(ステップS23)で求められた変動係数C
vに一定数を乗じて得られた係数が、変動係数算出部22bから判定部22cに供給される。そして、供給された係数が、判定部22cにおいて基準変動係数として設定される。
【0049】
尚、ここでは、変動係数算出部22bで求められた係数(変動係数C
vに一定数を乗じて得られた係数)を判定部22cに供給して、基準変動係数として設定する例について説明している。しかしながら、変動係数算出部22bで求められた係数を記憶部22aに記憶させ、判定部22cが記憶部22aに記憶された係数を読み出して、基準変動係数として設定してもよい。基準変動係数の設定が完了すると、初期設定動作が終了する。
【0050】
《検知動作》
図5は、本発明の一実施形態による検知装置の検知動作の一例を示すフローチャートである。尚、
図5に示すフローチャートの処理は、例えば、上述した初期設定動作が完了した後(基準変動係数の設定処理が完了した後)に、ユーザが検知装置1に対して検知動作の開始指示を行うことによって開始される。
【0051】
処理が開始されると、まず、吸込圧力データを取得する処理が吸込圧力取得部21で行われる(ステップS31:吸込圧力取得ステップ)。吸込圧力取得部21で取得された吸込圧力データは、例えば検知部22の記憶部22aに記憶される。尚、前述した初期設定動作と同様に、吸込圧力取得部21は、吸込圧力計12が圧力データをサンプリングする毎に吸込圧力データを取得してよい。或いは、吸込圧力取得部21は、予め定められたサンプリング数毎にまとめて吸込圧力データを取得してもよい。
【0052】
次に、ステップS31で取得した吸込圧力データを用いて、変動係数を算出する処理が、変動係数算出部22bで行われる(ステップS32)。具体的には、
図4に示す処理と同様の処理が行われる。つまり、検出対象期間における吸込圧力データの平均値を算出する処理(ステップS21)、検出対象期間にける吸込圧力データの標準偏差を算出する処理(ステップS22)、並びに平均値及び標準偏差を用いて変動係数を算出する処理(ステップS23)が変動係数算出部22bで行われる。
【0053】
尚、検出対象期間としては、例えば現在時刻をt
1とすると、時刻(t
1−T)から現在時刻(t
1)までの期間を設定することができる。検出対象期間の長さTは、前述した初期設定動作と同様に、任意に設定可能である。また、上記のステップS21の処理で移動平均値を算出し、上記のステップS22の処理で移動標準偏差を算出するようにしてもよい。
【0054】
以上の処理が終了すると、ステップS32で算出された変動係数が基準変動係数よりも大であるか否かを判定する処理が判定部22cで行われる(ステップS33:検知ステップ)。ステップS32で算出された変動係数が基準変動係数以下であると判定された場合(ステップS33の判定結果が「NO」の場合)には、ステップS31〜S33の処理が繰り返される。つまり、ポンプ13にキャビテーションは発生していないと判定し、検出対象期間を変更しつつ(新たな検出対象期間を設定しつつ)、変動係数を算出する処理が行われる。
【0055】
例えば、ステップS31〜S33の処理が1回繰り返されたときの時刻がt
2であるとすると、検出対象期間は、例えば時刻(t
2−T)から時刻t
2の期間に設定することができる。ステップS31〜S33の処理がもう1回繰り返されたときの時刻がt
3であるとすると、検出対象期間は、例えば時刻(t
3−T)から時刻t
3の期間に設定することができる。つまり、ステップS31〜S33の処理が繰り返される度に、現在時刻がt
m(mは、2以上の整数)になるとすると、検出対象期間は、例えば、ステップS31〜S33の処理が繰り返される度に、時刻(t
m−T)から現在時刻(t
m)までの期間に設定することができる。尚、この検出設定期間の設定はあくまでも一例であり、検出設定期間は任意に設定することができる。
【0056】
これに対し、ステップS32で算出された変動係数が基準変動係数よりも大であると判定された場合(ステップS33の判定結果が「YES」の場合)には、判定部22cにおいて、ポンプ13にキャビテーションが発生したと判定される(ステップS34:検知ステップ)。尚、ポンプ13にキャビテーションが発生したと判定された場合には、例えばその旨が判定部22cから制御システム15に通知される。以上の処理が行われると、
図5に示すフローチャートの一連の処理が終了する。
【0057】
〈測定結果〉
図6は、本発明の一実施形態において、算出された変動係数とポンプで観測された泡との関係を示す図である。尚、
図6の上側に示すグラフは、横軸に時間をとり、縦軸に変動係数をとっている。
図6の下側に示すグラフは、横軸に時間をとり、縦軸に観測された泡(泡レベル)をとっている。尚、両グラフの横軸は、略同一の時間スケールである。尚、変動係数は、検知部22(変動係数算出部22b)で算出されたものであり、泡レベルは、目視によって観測されたものである。
【0058】
図6を参照すると、期間T1,T5では、目視による泡は観測されておらず、変動係数も値が小さい(おおよそ、0.005よりも小)であることが分かる。これに対し、期間T2〜T4では、目視による泡が観測されており(キャビテーションが発生しており)、そのレベル(泡の量や泡の大きさ)は、期間T3、期間T2、期間T4の順で大きくなっているのが分かる。また、変動係数は、期間T3、期間T2、期間T4の順で順に大きくなっているのが分かる。つまり、
図6から、目視により観測された泡と変動係数との間に相関があることが分かる。
図6の結果から、変動係数に基づいて、キャビテーションの発生を検知することが可能であり、加えて、キャビテーションの程度を判定することも可能であることが分かる。
【0059】
図7は、本発明の一実施形態において、吸込圧力データの変動係数及び吐出圧力データの変動係数の一例を示す図である。尚、吸込圧力データは、ポンプ13の吸込圧力を示すデータであり、吐出圧力データは、ポンプ13の吐出圧力を示すデータである。吐出圧力データは、ポンプ13及び機器14の間に設けられ、ポンプ13の吐出圧力を測定する吐出圧力計(図示省略)によって測定されるデータである。
【0060】
図7(a)に示すグラフは、吸込圧力データの変動係数の移動平均を示すグラフである。これに対し、
図7(b)に示すグラフは、吐出圧力データの変動係数の移動平均を示すグラフである。
図7(a),(b)に示すグラフは、横軸に時間をとり、縦軸に変動係数(移動平均)をとっている。尚、
図7(a),(b)に示すグラフの横軸は、略同一の時間スケールである。
【0061】
図7(a),(b)に示すグラフにおいて、液体源11からポンプ13に供給される液体の流量が時刻t
10において急激に変化している。
図7(a)を参照すると、液体の流量が急激に変化する時刻t
10の前後において、吸込圧力データの変動係数の移動平均に大きな変化はなく、ほぼ一定であることが分かる。これに対し、
図7(b)を参照すると、液体の流量が急激に変化した時刻t
10以降は、時刻t
10以前に比べて、吐出圧力データの変動係数の移動平均が増加していることが分かる。
【0062】
つまり、吸込圧力データの変動係数は、液体源11からポンプ13に供給される液体の流量に拘わらずほぼ一定であるが、吐出圧力データの変動係数は、液体源11からポンプ13に供給される液体の流量に応じて変動する。このため、吐出圧力データの変動係数を用いた場合には、液体源11からポンプ13に供給される液体の流量に応じて、基準変動係数(閾値)を変える必要がある。これに対し、吸込圧力データの変動係数を用いた場合には、液体源11からポンプ13に供給される液体の流量に拘わらず、基準変動係数(閾値)を変える必要はない。このため、吸込圧力データの変動係数を用いることで、高精度且つ簡便にキャビテーションの発生を検知することができる。
【0063】
以上の通り、本実施形態では、検知装置1に設けられた吸込圧力取得部21が、既存の設備である吸込圧力計12からポンプ13の吸込圧力を示す吸込圧力データを取得し、検知装置1に設けられた検知部22が、検出対象期間中の吸込圧力データの変動係数に基づいて、ポンプ13のキャビテーションの発生を検知するようにしている。このため、既存の設備を変更することなく、高精度且つ簡便にキャビテーションの発生を検知することができる。
【0064】
尚、吸込圧力データの標準偏差を用いても、キャビテーションの発生を検知することは可能である。しかしながら、吸込圧力データの標準偏差は、液体源11からポンプ13に供給される液体の流量によって変動することから、
図7(b)を用いて説明した場合と同様に、液体源11からポンプ13に供給される液体の流量に応じて、基準変動係数(閾値)を変える必要がある。本実施形態のように、吸込圧力データの変動係数(吸込圧力データの標準偏差を吸込圧力データの平均値で除して得られる係数)を用いることで、液体源11からポンプ13に供給される液体の流量に拘わらず、基準変動係数(閾値)を変える必要はない。このため、高精度且つ簡便にキャビテーションの発生を検知することができる。
【0065】
〈変形例〉
図8は、本発明の一実施形態による検知装置の変形例を示すブロック図である。尚、
図8においては、
図2に示した構成と同様の構成については同一の符号を付してある。
図8に示す通り、本変形例に係る検知装置1は、
図2に示す検知部22に、予報部22d、累積部22e、及び保守管理部22fを追加した構成である。
【0066】
予報部22dは、吸込圧力データの値が予め規定された閾値以下になった場合に、ポンプ13のキャビテーション発生を予報する。例えば、予報部22dは、吸込圧力データの値が、大気圧に対応する圧力データ値(閾値)よりも小さくなった場合に、キャビテーションの発生を予報する。つまり、予報部22dは、吸込圧力データの値が、正圧を示す値から負圧を示す値に変化した場合に、キャビテーションの発生を予報する。予報部22dで予報されたキャビテーションの発生は、例えば、制御システム15に通知される。
【0067】
図9は、本発明の一実施形態による検知装置で取得される吸込圧力データの一例を示す図である。
図9に示すグラフは、横軸に時間をとり、縦軸に吸込圧力をとってある。尚、
図9に示すグラフは、吸込圧力計12の測定結果の一例である。
図9に示す通り、吸込圧力データの値は、ポンプ13の動作に伴い、大気圧よりも低い圧力(負圧)になる場合がある。
図9に示す例では、吸込圧力データの値は、時刻t
20以降に、大気圧よりも低い圧力に漸減している。
【0068】
このように、吸込圧力が大気圧よりも低くなると、ポンプ13から機器14に供給される液体の圧力が飽和蒸気圧以下になる。すると、ポンプ13から機器14に供給される液体が気化することによってキャビテーションが発生することがある。従って、予報部22dは、吸込圧力データの値が負圧へ変化したか否かに応じて、将来のキャビテーション発生を予報することができる。
【0069】
予報部22dの予報が制御システム15に通知されることで、制御システム15は、キャビテーションの発生を防止する制御、及び、キャビテーションに対する制御の準備等を、キャビテーションの発生前に予め実行することができる。このような制御等を行うことで、キャビテーションの発生を低減させることができ、また、キャビテーションが発生しても、速やかに対応することができる。
【0070】
尚、予報部22dが用いる閾値は、大気圧に対応する圧力データ値(正圧から負圧への変化を検知する値)に限定されることはない。吸込圧力データが、キャビテーションが発生する傾向にあるか否かは、ポンプ13の種類、特性、個体差、及び制御システム15の設計等に応じて異なる。このため、予報部22dが用いる閾値は、ポンプ13の種類、特性等に応じて定めてもよい。
【0071】
累積部22eは、キャビテーションの発生が検知された時間を累積した累積値を算出する。具体的に、累積部22eは、判定部22cの判定結果に基づいて、上記の累積値を算出する。尚、累積部22eは、キャビテーションの発生が検知された時間に代えて、キャビテーションの発生が検知された回数を累積した累積値を算出してもよい。累積部22eは、算出した累積値を、記憶部22aに記憶してもよい。
【0072】
保守管理部22fは、累積部22eで算出された累積値に基づいて、ポンプ13の保守時期及び交換時期の少なくとも一方を判断する。ポンプ13で発生するキャビテーションは、ポンプ13にダメージを与えるので、ポンプ13の寿命に影響を及ぼすことが考えられる。累積部22eで算出された累積値は、キャビテーションの発生が検知された時間(回数)を累積した値であるため、ポンプ13が受けたダメージの指標として利用することができる。従って、キャビテーションの発生が検知された時間(回数)を累積した累積値を求めることにより、ポンプ13の点検タイミング及び交換タイミングを判断することができる。
【0073】
保守管理部22fは、例えば、累積部22eで算出された累積値と予め規定された閾値等とを比較することにより、ポンプ13の点検タイミング及び交換タイミングを判断する。保守管理部22fは、例えば、累積値が閾値以上になった場合に、制御システム15に、点検タイミング及び交換タイミングの少なくとも一方を通知してよい。尚、点検タイミングを判断する閾値と交換タイミングを判断する閾値とを分けて保守管理部22fに設定してもよい。保守管理部22fに設定する閾値は、実際に発生したポンプ13の故障、及び寿命等のデータに基づいて定めてもよい。
【0074】
以上の通り、本変形例に係る検知装置1は、キャビテーションの検知に加えて、キャビテーションの予報、及びポンプ13の保守及び管理を実現することができる。尚、検知装置1は、キャビテーションの予報のみを行うものであってもよく、ポンプ13の保守及び管理のみを行うものであってもよい。
【0075】
〈実装例〉
図10は、本発明の一実施形態による検知装置の実装例を示すブロック図である。
図10に示す通り、検知装置1は、操作部31、表示部32、入出力部33、格納部34、処理部35、通信装置36、及びドライブ装置37を備える。このような検知装置1は、例えばデスクトップ型、ノート型、又はタブレット型のコンピュータ等で実現される。尚、詳細は後述するが、検知装置1の機能(ポンプ13のキャビテーションを検知する機能等)は、記録媒体Mに記録されたプログラムを読み出してインストールすることによりソフトウェア的に実現される。或いは、不図示のネットワークを介してダウンロードしたプログラムをインストールすることによりソフトウェア的に実現される。
【0076】
操作部31は、例えばキーボードやポインティングデバイス等の入力装置を備えており、検知装置1を使用するユーザの操作に応じた指示(検知装置1に対する指示)を処理部35に出力する。表示部32は、例えば液晶表示装置等の表示装置を備えており、処理部35から出力される各種情報を表示する。尚、操作部31及び表示部32は、物理的に分離されたものであっても良く、表示機能と操作機能とを兼ね備えるタッチパネル式の液晶表示装置のように物理的に一体化されたものであってもよい。
【0077】
入出力部33は、処理部35の制御の下で、各種情報の入出力を行う。例えば、入出力部33は、外部の機器(例えば、
図1に示す吸込圧力計12)との間で通信を行って各種情報を入出力するものであっても良く、着脱可能な記録媒体(例えば、不揮発性メモリ)に対する各種情報の読み出し又は書き込みを行って各種情報を入出力するものであってもよい。尚、外部の機器との間で行われる通信は、有線通信及び無線通信の何れであってもよい。
【0078】
格納部34は、例えばHDD(ハードディスクドライブ)やSSD(ソリッドステートドライブ)等の補助記憶装置を備えており、各種情報を格納する。例えば、格納部34は、吸込圧力計12から取得した吸込圧力データを格納してもよい。つまり、
図2,
図8に示す記憶部22aの機能が、格納部34で実現されていてもよい。また、格納部34は、例えば検知装置1で実行される各種プログラムを格納してもよい。
【0079】
処理部35は、操作部31からの指示に基づいて各種処理を行う。処理部35は、各種処理の結果を、表示部32、入出力部33、若しくは通信装置36に出力し、又は格納部34に格納させる。この処理部35には、検知装置1の主要な構成である吸込圧力取得部21及び検知部22の機能が設けられる。処理部35に設けられる機能は、その機能を実現するためのプログラムがCPU(中央処理装置)等のハードウェアによって実行されることによって実現される。つまり、吸込圧力取得部21及び検知部22の機能は、ソフトウェアとハードウェア資源とが協働することによって実現される。
【0080】
通信装置36は、処理部35の制御の下で、例えば不図示のネットワークを介した通信を行う。尚、通信装置36は、有線通信を行うものであっても、無線通信を行うものであってもよい。ドライブ装置37は、例えばCD−ROM又はDVD(登録商標)−ROM等のコンピュータ読み取り可能な記録媒体Mに記録されているデータの読み出しを行う。この記録媒体Mは、検知装置1の各ブロックの機能(吸込圧力取得部21及び検知部22の機能等)を実現するプログラムを格納している。
【0081】
尚、
図10に示す実装例は、あくまでも一例であり、検知装置1の実装が
図10に示すものに制限される訳ではない点に注意されたい。また、検知装置1の各ブロックの機能(吸込圧力取得部21及び検知部22の機能等)を実現するプログラムは、必ずしも記録媒体Mに格納された状態で頒布される必要はない。このプログラムは、例えばインターネット等のネットワークを介して頒布されてもよい。
【0082】
以上、本発明の一実施形態による検知装置、検知方法、及び検知プログラムについて説明したが、本発明は上記実施形態に制限される訳ではなく、本発明の範囲内で自由に変更が可能である。例えば、上記実施形態では、検知装置1が、吸込圧力計12から吸込圧力データを取得する例を説明した。しかしながら、検知装置1は、吸込圧力データに加えて、吸込圧力計12から障害情報等を取得してもよい。
【0083】
吸込圧力計12に故障等が発生している場合には、キャビテーションの発生を正確に検知することは困難である。このため、検知装置1は、吸込圧力計12の障害情報等を取得した場合には、キャビテーションの検知を実行しないようにしてもよい。また、検知装置1は、キャビテーションの検知結果に吸込圧力計12から取得した障害情報等を加えて制御システム15に通知するようにしてもよい。
【0084】
また、上記実施形態では、検知装置1が、プラントPLに設けられる例について説明した。尚、プラントPLは、液体を移送させるポンプ13を利用したシステムの一例であり、検知装置1が設けられるシステムはプラントPLに限定されることはない。液体を移送するポンプ13であれば、キャビテーションが発生し得るため、ポンプ13を用いるシステム、装置、機器、及び使用現場等において、検知装置1を設けてキャビテーションを検知するようにしてもよい。