【実施例1】
【0011】
まず、背景技術における脈波算出処理について、
図1及び
図2を用いて説明する。上で述べたように、光電脈波センサを用いて得られた信号や、被験者を撮影した画像の信号成分を用いて、被験者の脈波を算出する技術が知られている。
図1は、背景技術における光電脈波センサから脈波を算出する処理の一例を示す図である。
図1に示すように、光電脈波センサ111は、例えば被験者の指112などに装着され、末梢血管に照射した赤外線などの反射光の変動に基づいて脈波を算出する。
【0012】
しかし、光電脈波センサ111により検出される信号には、光電脈波センサ111と指112との接触度合などに応じてノイズが生じやすい。例えば、
図1のグラフD1は、光電脈波センサ111により得られた脈波波形をフィルタリング処理した波形を示す。グラフD1において、横軸は時間の経過(秒)を示し、縦軸は測定された信号の値(a.u.)を示す。なお、以下に説明するその他の各グラフにおいても、別途説明のない場合、横軸は時間の経過を示し、縦軸は測定された信号の値を示すものとする。
【0013】
例えばP1乃至P6の各時点において、光電脈波センサ111と指112との接触不良が生じた場合、グラフD1に示すように測定された信号にノイズが混入する。また、例えばR1乃至R5の各時点において、指112の光電脈波センサ111に対する押し付け圧力が変化した場合も、同様にグラフD1に示すように測定された信号にノイズが混入する。
【0014】
図1のグラフD2は、このようなノイズが混入した波形を2階微分したグラフの一例を示す。グラフD2において、縦軸はD1に示す脈波信号を2階微分した値を示す。グラフD1及びD2においては、脈波らしいと考えられる区間を判別することは難しい。
【0015】
次に、画像から脈波を算出する処理について、
図2を用いて説明する。
図2は、背景技術における画像から脈波を算出する処理の一例を示す図である。
図2に示すように、カメラ121などの撮影装置は、例えば被験者の顔を撮影し、撮影した画像F1に含まれる領域F2における輝度信号(例えば緑成分)の変動に基づいて脈波を算出する。
【0016】
しかし、画像F1を用いて検出される輝度信号は微弱であり、例えば外光の変化や、被験者の生体とカメラとの位置関係などに応じてノイズが生じやすい。例えば、顔画像の撮影中に被験者が体を動かすなどにより、画像F1が画像F1’に示すように変化する場合がある。この場合において、
図2に示すように、画像F1における領域F2に含まれる被験者の顔の部位と、画像F1’における領域F2’に含まれる被験者の顔の部位とは一致しない。これにより、画像F1を用いて検出された輝度信号と、画像F1’を用いて検出された輝度信号との連続性が損なわれることがある。
【0017】
図2のグラフD3は、画像F1が画像F1’に示すように変化した場合において検出された輝度信号の波形を示す。グラフD3において、縦軸は測定された輝度信号の値を示す。また、
図2のグラフD4は、D3に示した波形を2階微分したグラフの一例を示す。グラフD4において、縦軸はD3に示す輝度信号を2階微分した値を示す。グラフD3及びD4においては、輝度信号のピーク位置などの基点を特定することが難しいので、脈波を精度よく算出することが困難である。
【0018】
一方、本実施例における、以下に説明する算出装置10は、光電脈波や顔画像等から脈拍に対応する区間波形を選択し、後に説明するウインドケッセルモデルなどの心室容積のモデルに基づいて時間幅が規格化された区間波形を統計処理して脈波を算出する。これにより、算出装置10は、波形のばらつきを抑制し、精度よく脈波を取得できる。
【0019】
なお、算出装置10が区間波形の時間幅を規格化する際に用いるモデルは、例えば凸で単調増加の関数で表現される、ウインドケッセルモデルのような、脈波を再現したモデルである。
【0020】
[機能ブロック]
次に、本実施例における算出装置の一例について、
図3を用いて説明する。
図3は、実施例1における算出装置の一例を示す図である。
図3に示すように、本実施例における算出装置10は、センサ11と、記憶部20と、制御部30とを有する。なお、算出装置10は、脈波算出装置の一例である。
【0021】
センサ11は、脈波を算出するために用いられる信号等を検出する。センサ11は、例えば
図1に示す光電脈波センサ111のように、被験者に赤外線等を照射して反射光を検出する、被験者に装着される接触型のセンサである。
【0022】
記憶部20は、例えば制御部30が実行するプログラムなどの各種データなどを記憶する記憶装置の一例であり、例えばメモリやプロセッサなどである。記憶部20は、脈波モデル21及び信号記憶部22を有する。
【0023】
脈波モデル21は、ウインドケッセルモデル(心室容積のモデル)のような、脈波を再現したモデルである。
図4は、実施例1における脈波モデルの一例を示す図である。
図4に示すように、脈波モデル21は、時間の経過を示す「脈波間隔」と、各時点における心室の容積に対応する「振幅」とを対応付けたテーブルを記憶する。「脈波間隔」は、例えばミリ秒(ms)である。
図4に示すように、脈波モデル21は、上に凸で単調増加の関数で表現される。
【0024】
脈波モデル21には、例えば以下の式(1)に基づいて予め算出されるテーブルが入力される。式(1)において、「Amp」は信号振幅を示し、「RRI」は脈拍間隔を示す。係数「a」は、信号振幅の変化度合いを示し、例えばa=2である。また、係数「b」は、心臓の収縮の開始から終了までの時間、すなわち心室容積が最大から最小に至るまでの時間(ミリ秒)を示し、例えばb=250である。
【0025】
【数1】
【0026】
式(1)は、例えば
図5に示すような心室容積の変動に基づいて算出される。
図5は、脈波モデルの一例を示す図である。
図5に示すように、心室容積は時点t1において最大となり、その後心臓の収縮に伴い、時間bが経過した時点t2において最小となる。また、時点t2において心臓の拡張が始まった直後、時点t3までの間は、血圧差が大きいため、心室容積は急激に増加する、すなわち血液が心室に急激に流入する。そして、時点t3以降は血圧差が小さくなるために血液流入は減少し、心室容積は時点t4に至るまで緩やかに増加する。そして、時点t4以降は再び心臓の収縮が開始し、心室容積が減少する。
【0027】
図5に示すような心室容積の変動に基づいて算出されるモデルの一例を、
図6に示す。
図6は、脈波間隔と振幅との関係の一例を示す図である。
図6に示す心室容積のモデルは、時点t1から時点t2までの心臓が収縮する期間を捨象することにより、時点t2から時点t4までの上に凸で単調増加のモデルとなっている。
【0028】
図3に戻って、信号記憶部22は、センサ11から取得された信号に関する情報を記憶する。
図7は、信号記憶部の一例を示す図である。
図7に示すように、信号記憶部22は、「時刻」と「信号振幅」とを対応付けて記憶する。なお、信号記憶部22に記憶される情報は、例えば後に説明する取得部31により入力される。
【0029】
図3に戻って、制御部30は、算出装置10全体を司る処理部であり、例えばプロセッサなどである。制御部30は、取得部31、区間選択部35、規格化部36及び出力部37を有する。なお、取得部31、区間選択部35、規格化部36及び出力部37は、プロセッサが有する電子回路の一例やプロセッサが実行するプロセスの一例である。
【0030】
取得部31は、脈波に関する信号を取得する。取得部31は、センサ11が検出した信号を取得し、信号記憶部22に記憶する。
【0031】
区間選択部35は、取得された信号から抽出される波形の中から、区間波形を選択する。区間選択部35は、区間波形を選択するに際し、例えば、信号記憶部22に記憶された信号振幅から脈波波形を生成し、生成した脈波波形に対して、脈波の周波数に応じたフィルタ処理を行ってもよい。なお、区間選択部35は、選択部の一例であり、信号振幅から生成される脈波波形は、第1の脈波波形の一例である。
【0032】
区間選択部35は、例えば40乃至240bpmなど、脈波が取りうる周波数の範囲でバンドパスフィルタリング処理を行う。また、区間選択部35は、例えばフィルタリングされた抽出波形の振幅の中央値がゼロになるように、振幅を補正する。なお、抽出波形は、第2の波形の一例である。
【0033】
区間選択部35によるフィルタリング処理について、
図8を用いて説明する。
図8は、実施例1における基準点特定処理結果の一例を示す図である。
図8のグラフG1は、信号記憶部22に記憶された信号振幅に基づいて生成された脈波波形を示す。グラフG1において、縦軸は信号振幅を示す。区間選択部35は、例えば、グラフG1に対してバンドパスフィルタリング処理を行うことにより、
図8のグラフG2に示すように、ノイズを除去した波形を抽出する。グラフG2において、縦軸はノイズが除去された信号振幅を示す。なお、以下に説明するグラフG3乃至G7においても同様である。
【0034】
また、区間選択部35は、区間波形を選択するに際し、例えば、抽出波形の基準点を特定してもよい。区間選択部35は、例えば抽出波形の信号振幅がゼロとなるゼロクロス点を特定する。区間選択部35は、例えばゼロクロス点の時刻を、抽出波形の区間を設定するための基準点として特定する。
【0035】
図8に示すように、区間選択部35は、抽出波形を示したグラフG2から、グラフG3に示すように、振幅が負から正に転換するゼロクロス点Z1、及び振幅が正から負に転換するゼロクロス点Z2を特定する。
【0036】
また、区間選択部35は、区間波形を選択するに際し、例えば、基準点間の各区間波形について自己相関係数を算出してもよい。区間選択部35は、例えば基準となる区間波形と、その他の区間波形とを重ね合わせた際の波形の一致度を、重ね合わせた2つの波形の誤差の最小二乗法により自己相関係数を算出する。区間選択部35は、1つの区間波形についての自己相関係数を算出するが、これに限られず、複数の区間波形について自己相関係数を算出してもよい。区間選択部35は、例えば全ての基準点に対して、基準点間の各区間波形について自己相関係数を算出する処理を繰り返す。
【0037】
自己相関係数の算出処理について、
図9及び
図10を用いて説明する。
図9は、脈波波形の自己相関係数の算出処理の一例を示す図である。例えば、区間選択部35は、4つの区間波形を含む窓幅Uの範囲S1を、ずらし幅τ分だけ動かして、異なる範囲S2と重ね合わせ、グラフの一致度を算出する。
【0038】
図10は、自己相関係数の算出結果の一例を示す図である。
図10に示すグラフG4において、数値C1は、基準となる区間波形との自己相関係数を示す。
図10に示すように、自己相関係数が1に近い区間波形は相互に類似し、自己相関係数が0に近くなるほど、基準となる区間波形との相違が大きくなる。
【0039】
さらに、区間選択部35は、算出された自己相関係数に基づいて、出力の対象とする区間波形を選択する。区間選択部35は、例えば自己相関係数が所定の閾値α以上である区間を選択する。区間選択部35は、例えば
図11に示すような自己相関係数の算出結果において、自己相関係数が「0.5」以上である区間波形を、出力の対象とする区間波形として選択する。区間選択部35は、例えば複数の区間波形が選択されるように、閾値αを設定してもよい。
【0040】
規格化部36は、選択された複数の区間波形を、モデルに基づいて規格化する。
図11は、実施例1における規格化処理及び統計処理の一例を示す図である。なお、規格化部36は、規格化処理部の一例である。
【0041】
まず、規格化部36は、
図11のグラフG5に示すように、選択された複数の区間波形を重ね合わせる。次に、規格化部36は、例えば重ね合わせた区間波形の時間幅を、脈波モデル21に基づいて規格化する。規格化部36は、時間幅として、例えば過去10秒間のゼロクロス点から求めた平均脈波時間間隔等を使用してもよい。そして、規格化部36は、
図11のグラフG6に示すような規格化した複数の区間波形を、出力部37に出力する。
【0042】
出力部37は、規格化された区間波形に対する統計処理を行うとともに、処理結果を出力する。出力部37は、例えば
図11のグラフG6に示すような規格化された複数の区間波形の平均値を算出する。なお、出力部37は、規格化された複数の区間波形の中央値を算出してもよい。そして、出力部は、
図11のグラフG7に示すような統計処理された波形を、処理結果として出力する。
【0043】
[処理の流れ]
次に、本実施例における処理について、
図12乃至
図18を用いて説明する。
図12は、実施例1における脈波算出処理の一例を示すフローチャートである。
図12に示すように、算出装置10の取得部31は、例えば操作部(不図示)を通じて脈波算出処理の開始指示を受け付けるまで待機する(S10:No)。取得部31は、開始指示を受け付けたと判定した場合(S10:Yes)、脈波取得処理を実行する(S11)。
【0044】
図13は、実施例1における脈波取得処理の一例を示すフローチャートである。
図13に示すように、取得部31は、光電脈波センサなどのセンサ11を起動し(S110)、センサ信号を取得する(S111)。取得部31は、センサ11から次のデータを受信する限り、処理を繰り返す(S112:Yes)。取得部31は、センサ11から信号データを取得しなかった場合(S112:No)、センサ11を停止し(S114)、
図12の処理に戻る。
【0045】
次に、区間選択部35は、
図8のグラフG1に示すような波形からノイズをフィルタリングして、
図8のグラフG2に示すような抽出波形を生成する(S12)。そして、区間選択部35は、基準点特定処理を実行する(S13)。
【0046】
図14は、実施例1における基準点特定処理の一例を示すフローチャートである。
図14に示すように、区間選択部35は、
図8のグラフG2に示すような抽出波形から、グラフG3に示すようなゼロクロス点を特定する(S130)。そして、区間選択部35は、特定したゼロクロス点を出力し(S131)、
図12の処理に戻る。
【0047】
次に、区間選択部35は、相関算出処理を実行する(S14)。
図15は、実施例1における相関算出処理の一例を示すフローチャートである。
図15に示すように、区間選択部35は、自己相関係数の算出対象とする区間である抽出データ範囲を特定する(S140)。次に、区間選択部35は、当該抽出データ範囲と他のデータ範囲との自己相関係数を算出する(S141)。次に、区間選択部35は、当該抽出データ範囲と他のデータ範囲との自己相関係数のうち、最大相関値を特定し(S142)、最大相関値に対応するデータ範囲までのずらし幅τを算出する(S143)。
【0048】
そして、区間選択部35は、処理していない次の基準点があるか否かを判定する(S144)。区間選択部35は、次の基準点があると判定した場合(S144:Yes)、S140に戻って処理を繰り返す。一方、区間選択部35は、全ての基準点について相関係算出処理を完了したと判定した場合(S144:No)、
図12の処理に戻る。
【0049】
次に、区間選択部35は、区間選択処理を実行する(S15)。
図16は、実施例1における区間選択処理の一例を示すフローチャートである。
図16に示すように、区間選択部35は、対象とする区間を特定する(S150)。次に、区間選択部35は、当該区間の相関値が、閾値α以上であるか否かを判定する(S151)。
【0050】
区間選択部35は、当該区間の相関値が閾値α以上であると判定した場合(S151:Yes)、当該区間を、規格化の対象とする区間として選択し(S152)、S153に移行する。一方、区間選択部35は、当該区間の相関値が閾値α未満であると判定した場合(S151:No)、区間を選択せずにS153に移行する。
【0051】
そして、区間選択部35は、処理していない区間があるか否かを判定する(S153)。区間選択部35は、処理していない区間があると判定した場合(S153:Yes)、S150に戻って処理を繰り返す。一方、区間選択部35は、全ての区間について処理が完了したと判定した場合(S153:No)、選択した区間を規格化部36に出力し(S154)、
図12の処理に戻る。
【0052】
次に、規格化部36は、波形規格化処理を実行する(S16)。
図17は、実施例1における波形規格化処理の一例を示すフローチャートである。まず、規格化部36は、選択された区間の時間幅及び振幅を取得する(S160)。次に、規格化部36は、例えば脈波モデル21などの波形モデルを参照する(S161)。次に、規格化部36は、波形モデルを用いて、時間幅又は振幅を規格化する(S162)。
【0053】
そして、規格化部36は、処理していない区間があるか否かを判定する(S163)。規格化部36は、処理していない区間があると判定した場合(S163:Yes)、S162に戻って処理を繰り返す。一方、規格化部36は、全ての区間について処理が完了したと判定した場合(S163:No)、規格化した区間波形を出力部37に出力し、
図12の処理に戻る。
【0054】
そして、出力部37は、出力処理を実行する(S17)。
図18は、実施例1における出力処理の一例を示すフローチャートである。まず、出力部37は、規格化された区間波形を取得し(S170)、平均化処理や中央値算出などの統計処理を実行する(S171)。そして、出力部37は、表示部(不図示)等を通じて処理結果を出力し(S172)、
図12の処理に戻って、処理を終了する。
【0055】
[効果]
以上説明したように、本実施例における算出装置10は、被験者の第1の脈波波形を取得し、第1の脈波波形又は第1の脈波波形から抽出された第2の波形から、1つ以上の区間波形を選択する。算出装置は、区間波形の時間幅及び振幅のうち少なくともいずれかを、モデルに基づいて規格化する。なお、算出装置10は、例えばモデルとして、上に凸で単調増加の関数で表現される、脈波を再現したウインドケッセルモデル(心室容積のモデル)を用いる。これにより、算出装置10は、脈波波形を精度よく取得できる。なお、算出装置10は、例えば被験者から光電脈波センサにより取得された信号を、第1の脈波波形として取得する。
【0056】
また、算出装置10は、規格化された複数の区間波形の平均値又は中央値を算出して出力してもよい。これにより、区間波形ごとのバラつきを抑制して、脈波を精度よく検出できる。
【0057】
さらに、算出装置10は、第1の脈波波形からノイズをフィルタリングして、第2の波形を抽出し、波形の基準点を特定し、基準点間における区間波形の自己相関係数を算出してもよい。また、算出装置10は、第1の脈波波形又は第2の波形から基準点により特定される複数の区間波形のうち、自己相関係数の最大値が所定の閾値以上であるいずれか1つ以上の区間波形を選択してもよい。これにより、ノイズの影響の少ない複数の区間波形を選択することができる。
【0058】
なお、算出装置10は、第1の脈波波形を、脈波が取りうる周波数の範囲でバンドパスフィルタリングすることにより、第2の波形を抽出してもよい。これにより、脈波波形からノイズを除去するので、脈波を精度よく検出できる。
【0059】
また、算出装置10は、第2の波形の振幅値がゼロ値を交差する点を基準点として特定してもよい。これにより、心電センサより取得したR波などを用いることなく、脈波の基点を容易に決定することができる。
【0060】
さらに、算出装置10は、自己相関係数の最大値と、当該区間波形の基準点から当該最大値に該当する区間波形の基準点までの時間のずらし幅とを算出してもよい。これにより、自己相関係数の高い複数の区間波形を重ね合わせ、区間波形ごとのバラつきを抑制することができる。
【実施例2】
【0061】
実施例1においては、算出装置10が、光電脈波センサから取得された信号を用いる構成について説明したが、実施の形態はこれに限られない。例えば、算出装置が、カメラ等で撮影された画像から輝度信号を抽出して脈波信号を算出するような構成であってもよい。
【0062】
[機能ブロック]
本実施例における算出装置の一例について、
図19を用いて説明する。
図19は、実施例2における算出装置の一例を示す図である。なお、以下の実施例において、先に説明した図面に示す部位と同一の部位には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0063】
図19に示すように、本実施例における算出装置50は、カメラ12と、記憶部20と、制御部60とを有する。カメラ12は、例えば
図2に示すカメラ121のような非接触型のセンサであり、被験者を撮影した画像を取得する。
【0064】
制御部60は、算出装置50全体を司る処理部であり、例えばプロセッサなどである。制御部60は、取得部61、波形抽出部62、基準点特定部63、相関算出部64、区間選択部65、規格化部36及び出力部37を有する。なお、取得部61、波形抽出部62、基準点特定部63、相関算出部64及び区間選択部65も、プロセッサが有する電子回路の一例やプロセッサが実行するプロセスの一例である。
【0065】
取得部61は、カメラ12が撮影した画像から、輝度信号を取得し、信号記憶部22に記憶する。
【0066】
波形抽出部62は、取得された輝度信号からノイズをフィルタリングした波形を抽出する。波形抽出部62は、例えば、信号記憶部22に記憶された、被験者を撮影した画像の各画素値に対して、波長成分別に統計処理することにより、波形を抽出する。なお、波形抽出部62は、抽出部の一例である。
【0067】
例えば、波形抽出部62は、画素値の緑成分を用いて波形を抽出してもよい。また、波形抽出部62は、画素値の赤成分と緑成分とから算出される領域をノイズ領域として、脈波波形をフィルタリングしてもよい。
【0068】
基準点特定部63は、例えば実施例1における区間選択部35が実行する処理のうち、
図12のS13に示すような基準点特定処理を実行する。基準点特定部63は、特定した基準点を、相関算出部64に出力する。
【0069】
相関算出部64は、例えば実施例1における区間選択部35が実行する処理のうち、
図12のS14に示すような相関算出処理を実行する。相関算出部64は、算出した自己相関係数を、区間選択部65に出力する。
【0070】
区間選択部65は、例えば実施例1における区間選択部35が実行する処理のうち、
図12のS15に示すような区間選択処理を実行する。
【0071】
[処理の流れ]
次に、本実施例における処理について、
図20乃至
図22を用いて説明する。
図20は、実施例2における脈波算出処理の一例を示すフローチャートである。なお、以下の説明において、
図12乃至
図18に示すステップと同じ符号については同様のステップであるため、詳細な説明を省略する。
【0072】
まず、取得部61は、開始指示を受け付けたと判定した場合(S10:Yes)、輝度波形取得処理を実行する(S21)。
図21は、実施例2における輝度波形取得処理の一例を示すフローチャートである。
【0073】
図21に示すように、取得部61は、カメラ12を起動し(S210)、撮影された画像から顔を検出する(S211)。次に、取得部61は、検出された領域を平均化し(S212)、輝度信号を抽出する(S213)。
【0074】
そして、取得部61は、カメラ12から次のデータを受信する限り、処理を繰り返す(S214:Yes)。取得部61は、カメラ12からデータを取得しなかった場合(S214:No)、カメラ12を停止し(S215)、
図20の処理に戻る。
【0075】
次に、波形抽出部62は、波形フィルタリング処理を実行する(S22)。
図22は、実施例2における波形フィルタリング処理の一例を示すフローチャートである。
【0076】
図22に示すように、波形抽出部62は、信号記憶部22から輝度波形を取得する(S220)。次に、波形抽出部62は、輝度波形からノイズ領域を抽出する(S221)。そして、波形抽出部62は、ノイズ波形を除外した輝度波形から、脈波領域を抽出する(S222)。その後、波形抽出部62は、抽出波形を算出し(S223)、
図20の処理に戻る。
【0077】
[効果]
以上説明したように、本実施例における算出装置50は、被験者を撮影した画像から抽出される輝度信号を、第1の脈波波形として取得してもよい。これにより、例えばスマートフォンなどの一般的なユーザ端末を用いて、精度よく脈波を算出できる。
【0078】
なお、算出装置50は、被験者を撮影した画像の各画素値に対して、波長成分別に統計処理することにより、第2の波形を抽出してもよい。これにより、より精度よく脈波領域を抽出できる。
【実施例3】
【0079】
さて、これまで本発明の実施例について説明したが、本発明は上述した実施例以外にも、種々の異なる形態にて実施されてよいものである。例えば、算出装置10は、センサと一体型の機器であるが、これに限られず、算出装置10本体はセンサを有さず、インタフェースを通じて外部の光電脈波センサ等から信号を取得するような構成であってもよい。同様に、算出装置50本体がカメラ12を有さず、インタフェースを通じて外部のカメラ等から輝度信号を取得するような構成であってもよい。
【0080】
また、実施例1においては、基準点として、抽出波形の振幅値がゼロ値を交差するゼロクロス点を特定する構成について説明したが、実施の形態はこれに限られない。例えば、算出装置10は、基準点として、ゼロクロス点の近傍における極大点及び極小点のうち少なくともいずれかを基準点として特定してもよい。
【0081】
図23は、実施例3における基準点特定処理の一例を示す図である。
図23に示すように、算出装置10の区間選択部35は、ゼロクロス点Z3の近傍にある極大点Smax、及びゼロクロス点Z3の近傍にある極小点Sminを、基準点として特定してもよい。
【0082】
以上説明したように、本実施例において、算出装置10は、第2の波形の振幅値がゼロ値を交差する点の近傍における極大点及び極小点のうち少なくともいずれかを基準点として特定してもよい。これにより、ゼロクロス点のバラつきが大きい場合においても、脈波の基点を容易に決定することができる。
【0083】
なお、算出装置10は、ノイズがフィルタリングされた抽出波形の代わりに、光電脈波センサにより取得された信号及び画像から抽出される輝度信号のうち少なくともいずれかの中から、区間波形を選択してもよい。これにより、外乱要因等によるノイズの影響が小さい場合に、脈波算出のための処理負荷を軽減させることができる。
【0084】
また、規格化部36は、選択波形を規格化する際に、時間幅の代わりに振幅を規格化してもよく、また時間幅及び振幅の両方を規格化してもよい。
【0085】
また、被験者の年齢や性別等に応じて、複数の脈波モデルを使い分けるような構成であってもよい。
【0086】
なお、算出装置10が、各実施例において算出された脈波波形を用いて、被験者のストレス指標や血管年齢、血圧等をさらに推定するような構成であってもよい。
【0087】
また、算出装置10は、取得した信号振幅に対して、線形補完を実行してもよい。これにより、サンプリングされた信号振幅の数が少ない場合であっても、精度よく脈波波形を算出できる。
【0088】
[システム]
また、各実施例において説明した各処理のうち、自動的に行なわれるものとして説明した処理の一部を手動的に行うこともできる。あるいは、手動的に行なわれるものとして説明した処理の全部または一部を公知の方法で自動的に行うこともできる。この他、上記文書中や図面中で示した処理手順、制御手順、具体的名称、各種のデータやパラメータを含む情報については、特記する場合を除いて任意に変更することができる。
【0089】
また、図示した各装置の各構成要素は機能概念的なものであり、必ずしも物理的に図示の如く構成されていることを要しない。すなわち、各装置の分散や統合の具体的形態は図示のものに限られない。つまり、その全部または一部を、各種の負荷や使用状況などに応じて、任意の単位で機能的または物理的に分散・統合して構成することができる。例えば、
図19に示す相関算出部64と区間選択部65とを統合してもよい。また、
図3に示す区間選択部35を、波形抽出部32、基準点特定部33、相関算出部34及び区間選択部65に分散してもよい。さらに、各装置にて行なわれる各処理機能は、その全部または任意の一部が、プロセッサおよび当該プロセッサにて解析実行されるプログラムにて実現され、あるいは、ワイヤードロジックによるハードウェアとして実現され得る。
【0090】
上記の実施例で説明した各種の処理は、予め用意されたプログラムをコンピュータで実行することで実現できる。そこで、以下では、上記の実施例と同様の機能を有するプログラムを実行するコンピュータの一例を説明する。
図24は、脈波算出プログラムを実行するコンピュータの一例を示す図である。なお、以下においては、算出装置10を例として説明するが、実施例2乃至3における対応する各装置についても同様である。
【0091】
コンピュータ100は、操作部110aと、センサ110bと、ディスプレイ120と、通信部130とを有する。さらに、このコンピュータ100は、プロセッサ150と、ROM(Read Only Memory)160と、外部記憶装置170と、RAM(Random Access Memory)180とを有する。これら110〜180の各部はバス140を介して接続される。
【0092】
RAM180の一例としては、SDRAM(Synchronous Dynamic Random Access Memory)、フラッシュメモリ等のメモリが挙げられる。プロセッサ150の一例としては、CPU(Central Processing Unit)、DSP(Digital Signal Processor)、FPGA(Field Programmable Gate Array)、PLD(Programmable Logic Device)等が挙げられる。
【0093】
外部記憶装置170には、
図24に示すように、上記の実施例1乃至3で示した各機能部と同様の機能を発揮する脈波算出プログラム170aが予め記憶される。この脈波算出プログラム170aについては、
図3又は
図19に示した各々の構成要素と同様、適宜統合又は分離しても良い。すなわち、外部記憶装置170に格納される各データは、常に全てのデータが外部記憶装置170に格納される必要はなく、処理に必要なデータのみが外部記憶装置170に格納されれば良い。
【0094】
そして、プロセッサ150が、脈波算出プログラム170aを外部記憶装置170から読み出してRAM180に展開する。これによって、
図24に示すように、脈波算出プログラム170aは、脈波算出プロセス180aとして機能する。この脈波算出プロセス180aは、外部記憶装置170から読み出した各種データを適宜RAM180上の自身に割り当てられた領域に展開し、この展開した各種データに基づいて各種処理を実行する。なお、脈波算出プロセス180aは、
図3又は
図19に示した各機能部にて実行される処理、例えば
図12乃至
図18及び
図20乃至
図22に示す処理を含む。また、プロセッサ150上で仮想的に実現される各処理部は、常に全ての処理部がプロセッサ150上で動作する必要はなく、処理に必要な処理部のみが仮想的に実現されれば良い。
【0095】
なお、上記の脈波算出プログラム170aについては、必ずしも最初から外部記憶装置170やROM160に記憶させておく必要はない。例えば、コンピュータ100に挿入される「可搬用の物理媒体」に各プログラムを記憶させる。可搬用の物理媒体は、フレキシブルディスク、いわゆるFD、CD−ROM(Compact Disc Read Only Memory)、DVD(Digital Versatile Disc)、光磁気ディスク、IC(Integrated Circuit)カードなどの任意の媒体を採用できる。そして、コンピュータ100がこれらの可搬用の物理媒体から各プログラムを取得して実行するようにしてもよい。また、公衆回線、インターネット、LAN、WANなどを介してコンピュータ100に接続される他のコンピュータまたはサーバ装置などに各プログラムを記憶させておき、コンピュータ100がこれらから各プログラムを取得して実行するようにしてもよい。