(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記モータ制御用スイッチング素子は、高電位側に配置された上段スイッチング素子と低電位側に配置された下段スイッチング素子とから成る素子対が前記電力線に対応して設けられ、
前記処理部は、各電力線の前記モータ駆動回路の出力電圧が全て異常値を示した場合には、前記下段スイッチング素子と、前記下段スイッチング素子と同相の前記遮断用スイッチング素子とが同時に短絡故障を発生し、前記閉ループ回路を形成する2次故障が発生したと判断する、
請求項1に記載されたモータ制御装置。
前記処理部は、各電力線の前記モータ駆動回路の出力電圧である複数の出力電圧に、正常値と異常値の双方が含まれる場合には、前記下段スイッチング素子の短絡故障である1次故障が発生したと判断する、
請求項2に記載されたモータ制御装置。
前記処理部は、前記複数系統の少なくとも一つの系統が正常であり、異常である系統に前記1次故障のみを検出した場合には、前記正常である系統のみで操舵補助トルクのアシスト制御を行う、
請求項4又は8に記載されたモータ制御装置。
前記処理部は、前記複数系統の少なくとも一つに前記2次故障を検出した場合、又は前記複数系統の全てに前記1次故障を検出した場合には、操舵補助トルクのアシスト制御を全て停止する制御を行う、
請求項4又は8に記載されたモータ制御装置。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の実施形態について、図面を用いて説明する。
【0019】
(第1の実施形態)
図1は第1の実施形態の電動パワーステアリング装置の回路構成図であり、1つのモータに対して2系統のモータ駆動回路を備えた構成とされている。モータは第1系統及び第2系統の各々に対して3相のモータ巻線を有している。この実施形態では、2系統のモータ駆動系回路を例として説明するが、3系統以上のモータ駆動回路を備えた構成であっても、同様な処理が可能である。また、この実施形態ではモータとして3相モータM(ブラシレスモータ)を例示しているが、3相以上の多相モータ巻線を有する多相モータ、或いはブラシ付きモータであっても同様な処理が可能である。また、一つのモータに複数系統のモータ巻線を有する構造ではなく、複数系統各々に対応する複数のブラシレスモータ或いは複数のブラシ付きモータを配置して構成することもできる。電動パワーステアリング装置は、モータ制御装置の一例である。
【0020】
電動パワーステアリング装置は、図示しないギアを介してステアリングシャフトに機械的に接続されており、このステアリングシャフトに、ステアリングホイールの操舵方向及び操舵トルクに応じた操舵補助トルクを伝達している。ステアリングシャフト以降に接続されているステアリングシステムの構成は、特許文献1に開示されている従来技術と同様であるため、説明を省略する。
【0021】
3相モータMは2系統の駆動回路系で駆動制御される。これらの第1系統及び第2系統は、ブリッジ構成をしたスイッチング素子であるFET1a〜FET9a、FET1b〜FET9b等が、上下対称に図示されており、同一の機器構成をしている。
【0022】
第1系統の3相構成のモータ駆動回路10a及び第2系統の3相構成のモータ駆動回路10bが、3相の電力線PAa及びPAb、PBa及びPBb、PCa及びPCbを介して、3相モータMに各々接続されている。
【0023】
第1系統のモータ駆動回路10a及び第2系統のモータ駆動回路10bの高電位側には、各々第1系統の電源遮断回路11a及び第2系統の電源遮断回路11bを介して両系統で共通に使われるバッテリ12と、各々プリチャージ回路13a及びプリチャージ回路13bとが並列に接続されている。更に、バッテリ12からプリチャージ回路13a及びプリチャージ回路13bに対して、電力を繰り返しチャージできるように構成されている。それにより、各プリチャージ回路は、所定の電圧を出力することができる。当該所定の電圧は、バッテリ電圧とほぼ等しい電圧であってもよく、バッテリ電圧よりも低い電圧であってもよい。
【0024】
モータ駆動回路10a及びモータ駆動回路10bは、各々3相インバータであり、3相モータMへの通電状態を切換えるために6つのスイッチング素子で構成されている。モータ制御用スイッチング素子として前述のMOSFETを用いている。
【0025】
モータ駆動回路10aの上段FET1a〜3a及びモータ駆動回路10bの上段FET1b〜3bは、各々のドレインが高電位側に接続されており、各々のソースはモータ駆動回路10aの下段FET4a〜6a及びモータ駆動回路10bの下段FET4b〜6bのドレインに接続されている。
【0026】
これらの下段FET4a〜6a及び下段FET4b〜6bのソースは、各々シャント抵抗R1a〜R3a及びシャント抵抗R1b〜R3bを介して、接地側に接続されている。つまり、モータ駆動回路10a及びモータ駆動回路10bの低電位側はアースされていることになる。シャント抵抗R1a〜R3a及びシャント抵抗R1b〜R3bの各々の両端に発生する電位差は、各々に対応した電流検出回路を介して演算処理部15へ入力される(図示せず)。演算処理部15は各シャント抵抗の電位差から各相の電流を演算する。
【0027】
また、上段FET1a〜3a及び上段FET1b〜3bと、下段FET4a〜6a及び下段FET4b〜6bの各々を接続する接続線から、3相モータMのA相(U相)の電力線PAa及び電力線PAb、3相モータMのB相(W相)の電力線PBa及び電力線PBb、3相モータMのC相(V相)の電力線PCa及び電力線PCbが引き出されている。
【0028】
そして、電力線PAa及び電力線PAb、電力線PBa及び電力線PBb、電力線PCa及び電力線PCbには、各々モータの電力供給を遮断するモータ遮断用スイッチング素子として、モータ遮断FET7a及びモータ遮断FET7b、モータ遮断FET8a及びモータ遮断FET8b、モータ遮断FET9a及びモータ遮断FET9bが設けられている。
【0029】
更に、モータ駆動回路10a及びモータ駆動回路10bには、FET駆動回路14a及びFET駆動回路14bが接続されており、CPUである演算処理部15からの制御指令により、モータ駆動回路10aの上段FET1a〜3a及び下段FET4a〜6a、モータ駆動回路10bの上段FET1b〜3b及び下段FET4b〜6bのスイッチング制御を行っている。
【0030】
一方、第1系統のモータ遮断FET7a〜9a及び第2系統のモータ遮断FET7b〜9bには、それぞれモータ遮断回路16a及びモータ遮断回路16bが接続されており、各モータ遮断回路は、演算処理部15からの制御指令により、各モータ遮断FETのスイッチング制御を行う。
【0031】
また、モータ駆動回路10a及びモータ駆動回路10bと並列に、2個の抵抗が直列接続された回路が3個並列接続されて構成される分圧回路17a及び分圧回路17bが設けられている。分圧回路17a及び分圧回路17bにおける各直列抵抗の中点部分は、各々電力線PAa〜PCa及び電力線PAb〜PCbに接続され、診断時に、これらの電力線に所定の電圧が印加されるようになっている。ここにおいて、分圧抵抗を構成する各抵抗の抵抗値は、シャント抵抗やモータの巻線抵抗よりも高い。
【0032】
全体の動作を制御する演算処理部15には、第1系統の電源遮断回路11a、プリチャージ回路13a、FET駆動回路14a及びモータ遮断回路16aと、第2系統の電源遮断回路11b、プリチャージ回路13b、FET駆動回路14b及びモータ遮断回路16bが接続されており、先端を矢印で示す制御指令に基づいて、各回路の動作を制御している。
【0033】
また、駆動電圧VRa及び駆動電圧VRb、各相電圧VAa、VBa、VCa及び各相電圧VAb、VBb、VCbも、図示する先端が矢印で示すように演算処理部15に入力されることにより、演算処理部15において各電圧の測定及びモニタリング(監視)ができるようになっている。
【0034】
また、演算処理部15は、後述するように、短絡故障や、閉ループ回路を形成する2次故障の有無を診断する。また、演算処理部15は、後述するように、操舵補助トルクのアシスト制御の実施や停止を行う。また、演算処理部15は、後述するフローチャート図の各ステップの動作主体となり得る。演算処理部15は、処理部の一例である。
【0035】
図2は上述のように構成された電動パワーステアリング装置に対して、電源が投入された(電源スイッチがオンされた)直後に行われる車両の走行前の短絡故障を診断するフローチャート図である。この電源スイッチは、例えば、電動パワーステアリング装置が搭載された車両のエンジンを作動するためのスイッチ(イグニッションスイッチ)でよい。
【0036】
先ず、開始後のステップS11では、
図1における下側の回路構成である第1系統のモータ駆動回路10aの上段FET1a〜3a及び下段FET4a〜6aの短絡故障のみの1次故障、及びFET1a〜6aの短絡故障とモータ遮断FET7a〜9aの短絡故障とが同時に発生し、閉ループ回路を形成する2次故障が発生しているか否かの診断を行う。
【0037】
電源装置であるプリチャージ回路13aと3相モータMとの間に配置したスイッチング素子のFET1a〜9aの短絡故障に基づいて、この閉ループ回路を形成する2次故障については、更に2つの故障モードA、Bに分けることができ、各々を
図3及び
図4の回路構成図に示す。
【0038】
図3及び
図4は、
図1に示した電動パワーステアリング装置の回路構成から、3相モータMを含む第1系統の回路構成を部分的に抜粋した回路構成図である。なお、後述するステップS12の第2系統の短絡故障の診断時についても同様の回路構成となる。
図1では、第1系統を示すために小文字のaを用い、第2系統を示すために小文字のbを用いているが、1系統を抽出した回路を示す
図3及び
図4では、小文字のa及びbを省略して図示している。
【0039】
図3に示す2次故障である故障モードAは、下段FET4a〜6aの何れか1個が短絡故障し、更に短絡故障した下段FETと同相のモータ遮断FETが短絡故障した場合の閉ループ回路を形成した状態である。
図3では下段FET4aと、下段FET4aと同相のモータ遮断FET7aが短絡故障した例を示している。
【0040】
このときに、
図3中に矢印で示すようにほぼ無抵抗の閉ループ回路が形成されることとなり、この状態で走行を開始すると、前述のようにモータによる制動力が発生し、安全な操舵を阻害することになる。
【0041】
図4に示す2次故障である故障モードBは、上段FET1a〜3aの何れか1個が短絡故障し、更に短絡故障した上段FET1a〜3aと別相のモータ遮断FET7a〜9aが短絡故障した場合の閉ループ回路を形成した状態である。
図4では上段FET3aと、この上段FET3aと別相であるモータ遮断FET7aが短絡故障した例を示している。
【0042】
このときも、
図4中に矢印で示すようにほぼ無抵抗の閉ループ回路が形成されることとなり、この状態で走行を開始すると前述のようにモータによる制動力が発生し、安全な操舵を阻害することになる。後述する1次故障、2次故障の検出方法によって、診断した第1系統の診断結果は図示しないメモリに記憶しておく。
【0043】
図3及び
図4は、3相ブラシレスモータの駆動回路についての説明図であるが、ブラシモータとその駆動回路(Hブリッジ回路)に2次故障が発生した場合にも、閉ループ回路が生成される。そして、同様な検出方法によって2次故障が検出できる。
【0044】
図2に戻って、ステップS12では、
図1における上側の回路構成である第2系統のモータ駆動回路10bの上段FET1b〜3b及び下段FET4b〜6bの短絡故障のみの1次故障、及びFET1b〜6bの短絡故障とモータ遮断FET7b〜9bの短絡故障とが同時に発生し、閉ループ回路を形成する2次故障の診断を行う。
【0045】
ステップS12における診断の対象となる第2系統の2つの故障モードA、Bは、第1系統の場合と全く同一であり、対象となるFETが異なるのみであるため、ここでは説明を省略する。第2系統の診断結果も、同様に図示しないメモリに記憶しておく。
【0046】
ステップS13では、記憶した第1、第2系統の診断結果に基づいて、第1系統及び第2系統に1次故障、又は2次故障が検出されたか否かを判断する。第1系統及び第2系統の回路の何れにも1次故障、又は2次故障が検出されていなかった場合には正常と判断し、ステップS14に進んで通常の第1系統及び第2系統による操舵補助トルクのアシスト制御を開始し、初期診断を完了する。
【0047】
ステップS13において、第1系統及び第2系統において、少なくとも何れか一方で1次故障、又は2次故障が検出された場合には、ステップS15に移行する。
【0048】
ステップS15では、1次故障、又は2次故障による異常が検出されたのが、第1系統のみであるか否かを判断する。第1系統で異常を検出し、第2系統は異常を検出できず正常と判定した場合は、ステップS16に移行する。そして、ステップS16において、第1系統の異常が閉ループ回路を形成する2次故障であるか否かを判定する。
【0049】
ステップS16において、第1系統の異常が2次故障でなければ、1次故障による異常であると判断し、ステップS17に進んで正常な状態である第2系統のみで操舵補助トルクのアシスト制御を開始する。同時に、第1系統が1次故障による異常である旨の警告表示を行い、初期診断を完了する。
【0050】
一方、ステップS16において第1系統の故障が2次故障である場合は、ステップS18に移行して、直ちに第1系統及び第2系統による操舵補助トルクのアシスト制御を全て停止し、第1系統が2次故障である旨の警告表示を行い、初期診断を完了する。
【0051】
ステップS15において、第1系統のみの異常以外の場合には、ステップS19に移行し、第1系統は異常を検出できず正常であって、かつ第2系統で異常を検出したか否かを判断する。そして、第2系統のみが異常の場合には、ステップS20に移行する。
【0052】
ステップS20において、第2系統の故障が2次故障である場合は、ステップS18に移行して、直ちに第1系統及び第2系統による操舵補助トルクのアシスト制御を全て停止し、第2系統が2次故障である旨の警告表示を行い、初期診断を完了する。
【0053】
また、ステップS20において、第2系統の異常が2次故障でなければ、1次故障による異常であると判断し、ステップS21に進んで正常な状態である第1系統のみで操舵補助トルクのアシスト制御を開始する。同時に、第2系統が1次故障による異常である旨の警告表示を行い、初期診断を完了する。
【0054】
一方、ステップS19において、第2系統のみでなく第1系統にも異常が検出されていれば、ステップS18に移行して、直ちに第1系統及び第2系統による操舵補助トルクのアシスト制御を全て停止し、第1系統及び第2系統が共に故障である旨の警告表示を行い、初期診断を完了する。
【0055】
以上に説明したように、電動パワーステアリング装置の電源投入時に、第1、第2の駆動回路系における各FETの短絡故障状態の初期診断を行うことによって、第1、第2系統の何れか一方の系統のみに1次故障を検出した場合には、正常である他方の系統のみで操舵補助トルクのアシスト制御を行う。
【0056】
第1、第2系統の何れかに2次故障を検出した場合に、又は第1系統及び第2系統の両方に1次故障又は2次故障を検出した場合には、操舵補助トルクのアシスト制御を停止する制御を行うことで、危険な状態で走行を開始することを防止することができる。なお、複数系統の系統数は3つ以上であってもよい。
【0057】
3系統の駆動回路の場合には、第1系統、第2系統、第3系統のうち少なくとも一つに2次故障を検出した場合、アシスト制御を停止する。また、第1系統、第2系統、第3系統のうち少なくとも一つが正常であり、異常となった系統全てが1次故障のみを検出していた場合は、正常な系統でアシスト制御を継続する。すべての系統が一次故障を検出していた場合は、アシスト制御を停止する。
【0058】
(第2の実施形態)
第1の実施形態の電動パワーステアリング装置は、2系統にしたモータ駆動回路10a、10bを備え、1次故障、2次故障の診断処理を行う電動パワーステアリング装置であるが、第2の実施形態の電動パワーステアリング装置は、少なくとも1系統のモータ駆動回路10を備える電動パワーステアリング装置であればよく、前述の故障モードAに基づく2次故障を迅速に検出することが可能である。
【0059】
なお、故障モードAに基づく2次故障の検出処理に伴い、モータ駆動回路10の下段FET4〜6の短絡故障である1次故障も併せて検出することが可能である。
【0060】
図5は、1系統のモータ駆動回路10を3相モータMに接続した電動パワーステアリング装置の回路構成図であり、構成機器を一部省略しているが、
図1に示す回路構成図の1系統のみを抽出した回路構成図と同じとなる。
図1では、第1系統を示すために符号にaを付けて用い、第2系統を示すために符号にbを付けて用いているが、1系統の回路のみを示す
図5では、a及びbを付けないで説明する。
【0061】
なお、簡略化のため分圧回路17の図示は省略しているが、この分圧回路17はモータ駆動回路10と並列に、2個の抵抗が直列接続された回路が3個並列接続されて構成されている。分圧回路17における各直列抵抗の中点部分は、各々電力線PA〜PCに接続されており、各相電圧VA〜VCを演算処理部15において測定及びモニタリング(監視)ができるようになっている。
【0062】
従って、3相のモータ駆動回路10は、上段FET1〜3のソースが下段FET4〜6のドレインに接続されており、上段FET1〜3と下段FET4〜6の結線部分から、各相に3本の電力線PA、PB、PCが引き出されて3相モータMに各々接続されている。
【0063】
そして、電力線PA、PB、PCには、各々モータ遮断FET7〜9が設けられると共に、各相電圧VA、VB、VCが、図示を省略した演算処理部15によって測定・モニタリングされるよう構成されている。
【0064】
図6は第2の実施形態の走行前の故障モードAの短絡故障を診断するフローチャート図であり、第1の実施形態の診断処理と同様に、電源が投入された直後に診断処理が行われることになる。
【0065】
先ず、開始後のステップS101では、モータ駆動回路10の上段FET1〜3及び下段FET4〜6、そしてモータ遮断FET7〜9を全てオフの状態にする。これは、演算処理部15からモータ駆動回路10及びモータ遮断回路16に対して、全FETをオフとするスイッチング制御の指令に基づいて行われる。また、図示しない電源遮断回路11をオフ、プリチャージ回路13をオンの状態とする。
【0066】
続いて、ステップS102では、モニタリングしている各相電圧VA、VB、VCの測定値が正常値である所定電圧の範囲内であるか否かを判断する。全てのFETがオフ状態となっているため、正常であればプリチャージ回路の電圧を分圧回路17により分圧した電圧が測定されることになり、全相が所定電圧の範囲内であれば、ステップS103に進み、電動パワーステアリング装置は正常であると判断する。
【0067】
ステップS102において、各相電圧VA、VB、VCの測定値の少なくとも1相が、正常値である所定電圧の範囲外である異常値を示した場合には、ステップS104に移行する。
【0068】
ステップS104では、各相電圧VA、VB、VCの測定値の異常値が3相全てに検出したか否かを判断する。各相電圧VA、VB、VCの測定値の何れか1相のみ又は2相が、ほぼGNDと同電位となるような異常値を示した場合には、ステップS105に移行する。つまり、各相電圧VA、VB、VCの測定値に正常値と異常値の双方が含まれる場合に、ステップS105に移行する。
【0069】
この各相電圧VA、VB、VCの測定値の何れか1相のみが異常値を示す状態は、モータ駆動回路10の下段FET4〜6の1次故障が発生した状態を表している。例えば、
図7の回路構成図に示すように下段FET4のみが短絡故障した場合には、太線に示すように電流が発生し、A相電圧VAの測定値のみがGNDと同電位となる。
【0070】
また、各相電圧VA、VB、VCの測定値の2相が異常値を示した場合には、異常値に対応する下段FET4〜6の2つが同時に短絡故障をしたことを示しており、1次故障である旨の警告表示を行い、診断処理を完了する。
【0071】
ステップS104において、各相電圧VA、VB、VCの測定値の3相の全てが、ほぼGNDと同電位となるような異常値を示した場合には、ステップS106に移行する。
【0072】
この各相電圧VA、VB、VCの測定値の3相全てに異常値を示す状態は、モータ駆動回路10の下段FET4〜6と、この下段FET4〜6と同相のモータ遮断FET7〜9とが同時に短絡故障を発生し、閉ループ回路を形成する2次故障が発生した状態を表しており、例えば、
図8の回路構成図に示すように下段FET4と、同相のモータ遮断FET7が短絡故障した場合には、太線に示すように電流が発生し、各相電圧VA、VB、VCの測定値は、シャント抵抗とモータの巻線抵抗が極めて小さいため、ほぼGNDと同電位となる。
【0073】
下段FET5と同相のモータ遮断FET8、下段FET6と同相のモータ遮断FET9が短絡故障している場合でも、同様の各相電圧VA、VB、VCの測定値の異常が得られる。ステップS106において、2次故障である旨の警告表示を行い、診断処理を完了する。
【0074】
なお、下段FET4〜6の全てが同時に短絡故障する場合も、3相全ての測定値が異常値を示すことになるが、3つ同時に短絡故障する可能性は極めて低く、このような状態は診断対象から外している。また、2次故障においては下段FET4〜6のうちで短絡故障は1個、モータ遮断FET7〜9のうちで短絡故障は1個ずつ発生したことを前提としている。
【0075】
以上に説明したように、各相電圧VA、VB、VCを1回モニタリングするのみで、正常、モータ駆動回路の短絡故障である1次故障、モータ駆動回路の短絡故障とモータ遮断FETの短絡故障とが同時に発生し、閉ループ回路を形成する2次故障の何れかに該当するかを迅速に切り分けることができる。
【0076】
2次故障が発生している場合には、直ちにモータ駆動回路による操舵補助トルクのアシストを停止し、危険な状態で走行を開始することを防止することができる。
【0077】
また、電動パワーステアリング装置は、1系統のモータ駆動回路10を備える電動パワーステアリング装置として説明したが、2系統以上のモータ駆動回路10を備える電動パワーステアリング装置であってもよい。
【0078】
このような場合には、第1、第2系統のいずれか一方の系統のみに
図7に示す1次故障を検出した場合には、正常である他方の系統のみで操舵補助トルクのアシスト制御を行い、第1、第2系統のいずれかに
図8に示す2次故障を検出した場合、又は第1系統及び第2系統の両方に1次故障を検出した場合には、操舵補助トルクのアシスト制御を停止することで、危険な状態で走行を開始することを防止することができる。
【0079】
(第3の実施形態)
第3の実施形態の電動パワーステアリング装置は、第2の実施形態の電動パワーステアリング装置同様に、少なくとも1系統のモータ駆動回路10を備える電動パワーステアリング装置であればよく、前述の故障モードBに基づく2次故障を迅速に検出することが可能である。なお、故障モードBに基づく2次故障の検出処理に伴い、モータ駆動回路10の上段FET1〜3の短絡故障である1次故障も併せて検出することが可能である。
【0080】
第3の実施形態の電動パワーステアリング装置の回路構成図は、
図5と同様になり、構成機器の一部の図示を省略しているが、
図1に示す回路構成図の1系統のみを抽出した回路構成図と同じである。
【0081】
図9〜11は、第3の実施形態の走行前の故障モードBの短絡故障を診断するフローチャート図であり、第1の実施形態の診断処理と同様に、電源が投入された直後に診断処理が行われることになる。
【0082】
先ず、ステップS201では、モータ駆動回路10の上段FET1〜3及び下段FET4〜6、そしてモータ遮断FET7〜9に対して、演算処理部15からスイッチング制御の指令に基づき全てオフの状態にし、プリチャージ回路13により所定電圧値になるまで駆動電圧VRを昇圧させる。なお、後述する下段FET4〜6のオン/オフ制御も、演算処理部15からのスイッチング制御の指令に基づいて行われることになる。
【0083】
このプリチャージ回路13の所定電圧値は、後述するアーム短絡の発生によるFETの短絡故障を検出する処理を行うため、アーム短絡によるFETの破損を考慮して、バッテリ12の電圧値に比べて低値になるものを使用することが好ましい。例えば、プリチャージ回路13の電圧値として、診断が誤検知とならず、駆動回路にダメージを与えない電圧の値が想定される。この電圧値は、例えば4(V)程度でもよいし、4(V)から数ボルトの範囲で上記の想定を満たす電圧値でもよいし、他の電圧値でもよい。
【0084】
続いて、ステップS202では、第1の下段スイッチング素子の一例である下段FET4をオンにし、ステップS203で駆動電圧VRの測定値が、正常である所定範囲内に保たれるかどうかを判断する。駆動電圧VRの測定値が正常である場合は、ステップS204に進んで下段FET4をオフにする。
【0085】
次に、ステップS205では、第2の下段スイッチング素子の一例である下段FET5をオンにし、ステップS206で駆動電圧VRの測定値が、正常である所定範囲内に保たれるかどうかを判断する。駆動電圧VRの測定値が正常である場合は、ステップS207に進んで下段FET5をオフにする。
【0086】
続いて、ステップS208では、下段FET6をオンにし、ステップS209で駆動電圧VRの測定値が、正常である所定範囲内に保たれるかどうかを判断する。駆動電圧VRの測定値が正常である場合はステップS210に進んで、モータ駆動回路10とモータ遮断回路は共に正常であると判定し、下段FET6をオフにして、診断処理を完了する。なお、下段FET4〜6の順でオン/オフ制御を行っているが、任意の下段FETから順次オン/オフ制御を開始しても支障はない。
【0087】
一方、ステップS203において、駆動電圧VRが異常と判断した場合には、
図10のステップS221に移行して下段FET4をオフにする。ステップS203において駆動電圧VRが異常となる場合は、以下の3つの短絡故障の状態が考えられる。
【0088】
第1の短絡故障の状態は、
図12の回路構成図に示すオンにした下段FETと同相の上段FETのみが短絡故障する1次故障が発生した状態である。第2の短絡故障の状態は、オンにした下段FET4と同相の上段FET1の短絡故障及びオンにした下段FET4と別相のモータ遮断FETの短絡故障が同時に発生し、閉ループ回路を形成する2次故障が発生した状態である。第3の短絡故障の状態は、
図13の回路構成図に示すオンにした下段FETと別相の上段FETの短絡故障及びオンにした下段FETと同相のモータ遮断FETの短絡故障が同時に発生し、閉ループ回路を形成する2次故障が発生した状態である。尚、閉ループを形成しない上段FET及び同相のモータ遮断FETの同時短絡故障は、オンにした下段FETと同相の上段FETのみが短絡故障する1次故障が発生した状態と同様に1次故障として取り扱っている。
【0089】
図12は故障モードBの診断時に1次故障が発生した状態を説明する回路構成図であり、例えば上段FET1に短絡故障が発生している場合を示している。この短絡故障の状態で、ステップS202で下段FET4をオンにすると、プリチャージ回路13からGNDへのアーム短絡が発生するため、駆動電圧VRはGNDと同電位となるような異常値を示すことになる。
【0090】
図13は故障モードBの診断時に2次故障が発生した状態を説明する回路構成図であり、例えば上段FET3と、この上段FET3と別相のモータ遮断FET7の短絡故障が同時に発生している場合を示している。これらの短絡故障の状態で、ステップS202で下段FET4をオンにすると、太線に示すように電流が発生し、駆動電圧VRはGNDと同電位となるような異常値を示すことになる。
【0091】
図10に示すステップS221〜S230の各ステップは、前述の第1〜第3の短絡故障の状態を判別する処理である。第1の短絡故障の状態として、オンにした下段FET4と同相の上段FET1のみが短絡する1次故障が発生した状態の1パターンが存在する。
【0092】
第2の短絡故障の状態として、オンにした下段FET4と同相の上段FET1の短絡故障及びオンにした下段FET4と別相のモータ遮断FET8又は9の短絡故障が同時に発生し、閉ループ回路を形成する2次故障が発生した状態の2パターンが存在する。
【0093】
第3の短絡故障の状態として、オンにした下段FET4と別相の上段FET2又は3の短絡故障及びオンにした下段FET4と同相のモータ遮断FET7の短絡故障が同時に発生し、閉ループ回路を形成する2次故障が発生した状態の2パターンが存在する。以上から、合計5パターンの短絡故障状態が対象となる。
【0094】
続いて、ステップS222では再度プリチャージ回路13にて所定電圧値になるまで駆動電圧VRを昇圧させる。ステップS223に進み、下段FET5をオンにして、次のステップS224では駆動電圧VRが正常のまま保たれるかどうかを判断する。駆動電圧VRが正常のまま保たれている場合は、ステップS225に進んで下段FET5をオフにする。
【0095】
次のステップS226では下段FET6をオンにして、ステップS227に進み、駆動電圧VRが正常のまま保たれるかどうかを判断する。駆動電圧VRが正常の場合は、次のステップS228に進んで上段FET1のみの短絡故障、即ちモータ駆動回路10の1次故障であると判定して、下段FET6をオフにして完了する。
【0096】
また、ステップS224で駆動電圧VRが異常と判断した場合には、ステップS229に移行して、モータ駆動回路10とモータ遮断回路の2次故障と判定し、下段FET5をオフにして完了する。
【0097】
ステップS229で駆動電圧VRが異常となる2次故障は、上段FET1の短絡故障及びモータ遮断FET8の短絡故障が同時に発生して、閉ループ回路を形成するパターンと、上段FET2の短絡故障及びモータ遮断FET7の短絡故障が同時に発生して、閉ループ回路を形成するパターンの何れかである。
【0098】
また、ステップS227で駆動電圧VRが異常と判断した場合には、ステップS230に移行して、モータ駆動回路10とモータ遮断回路の2次故障と判定し、下段FET6をオフにして完了する。
【0099】
ステップS230で駆動電圧VRが異常となる2次故障は、上段FET1の短絡故障及びモータ遮断FET9の短絡故障が同時に発生して、閉ループ回路を形成するパターンと、上段FET3の短絡故障及びモータ遮断FET7の短絡故障が同時に発生して、閉ループ回路を形成するパターンの何れかである。
【0100】
一方、
図9におけるステップS206において、駆動電圧VRが異常と判断した場合には、
図11のステップS241に移行して下段FET5をオフにする。
【0101】
図11に示すステップS241〜S246の各ステップは、オンにした下段FET5に対して、前述の第1〜第3の短絡故障の状態を判別する処理である。第1の短絡故障の状態として、オンにした下段FET5と同相の上段FET2のみが短絡する1次故障が発生した状態の1パターンが存在する。
【0102】
第2の短絡故障の状態として、オンにした下段FET5と同相の上段FET2の短絡故障及びオンにした下段FET5と別相のモータ遮断FET9の短絡故障が同時に発生し、閉ループ回路を形成する2次故障が発生した状態の1パターンが存在する。なお、上段FET2の短絡故障及びモータ遮断FET7の同時故障については、ステップS229で検出されるので、ステップS241〜S246の処理で検出されることはない。
【0103】
第3の短絡故障の状態として、オンにした下段FET5と別相の上段FET3の短絡故障及びオンにした下段FET5と同相のモータ遮断FET8の短絡故障が同時に発生し、閉ループ回路を形成する2次故障が発生した状態の1パターンが存在する。なお、上段FET1の短絡故障及びモータ遮断FET8の同時故障については、ステップS229で検出されるので、ステップS241〜S246の処理で検出されることはない。以上から、合計3パターンの短絡故障状態が対象となる。
【0104】
続いて、ステップS242では、再度プリチャージ回路13にて所定電圧値になるまで駆動電圧VRを昇圧させる。ステップS243に進み下段FET6をオンにして、次のステップS244では駆動電圧VRが正常のまま保たれるかどうかを判断する。駆動電圧VRが正常のまま保たれている場合は、ステップS245に進んで上段FET2のみの短絡故障、即ちモータ駆動回路10の1次故障であると判定して、下段FET6をオフにして完了する。
【0105】
また、ステップS244で駆動電圧VRが異常と判断した場合には、ステップS246に移行して、モータ駆動回路10とモータ遮断回路の2次故障と判定し、下段FET6をオフにして完了する。
【0106】
ステップS246で駆動電圧VRが異常となる2次故障は、上段FET2の短絡故障及びモータ遮断FET9の短絡故障が同時に発生して、閉ループ回路を形成するパターンと、上段FET3の短絡故障及びモータ遮断FET8の短絡故障が同時に発生して、閉ループ回路を形成するパターンの何れかである。
【0107】
一方、
図9におけるステップS209において、駆動電圧VRが異常と判断した場合には、ステップS211に進んで上段FET3のみの短絡故障、即ちモータ駆動回路10の1次故障であると判定して、下段FET6をオフにして完了する。なお、オンにした下段FET6に対応する上段FET3に対して、前述の第2〜第3の短絡故障の2次故障については、ステップS229、ステップS230、ステップS246の何れかで検出されるので、ステップ209の駆動電圧VRの異常は、上段FET3のみの短絡故障だけとなる。
【0108】
上述の故障モードBの検出方法では、下段FET4〜6を1個ずつ順次オン/オフとするスイッチング制御を繰り返しているが、下段FET4をオンにした時に駆動電圧VRがGND電位となる異常が発生した場合には、残りの2相の下段FET5、6を同時にオンにして、効率的に1次故障、2次故障を検出する方法もある。
【0109】
図14は故障モードBの短絡故障を効率的に診断するフローチャート図の一部であり、
図10のフローを効率的に処理するフローチャート図である。ステップS203において、駆動電圧VRが異常と判断した場合には、
図14のステップS301に移行して下段FET4をオフにする。
【0110】
続くステップS302で再度プリチャージ回路13にて所定電圧値になるまで駆動電圧VRを昇圧させる。ステップS303に進み下段FET5及び6を同時にオンにして、次のステップS304では駆動電圧VRが正常のまま保たれるかどうかを判断する。
【0111】
この時、上段FET1の短絡故障のみであれば、駆動電圧VRは正常のまま保持されるので、ステップS305に進んで、上段FET1のみの短絡故障、即ちモータ駆動回路10の1次故障であると判定して、下段FET5及び6をオフにして完了する。
【0112】
また、ステップS304で駆動電圧VRが異常となった場合には、ステップS306に移行して、モータ駆動回路10とモータ遮断回路の短絡故障が同時に発生し、閉ループ回路を形成する2次故障と判定し、下段FET5及び6をオフにして完了する。この際には、短絡故障した上段FETと、モータ遮断FETとの部位までは特定できないものの、迅速に2次故障を検出できる。
【0113】
このように、
図14に示した検出方法は、下段FET4〜6のオン/オフ回数を低減させることで、モータ駆動回路の上段FETのみの短絡故障による1次故障と、モータ駆動回路10の短絡故障及びモータ遮断回路の短絡故障が同時に発生し、閉ループ回路を形成する2次故障とを、効率的に切り分けることができる。
【0114】
なお、上述の実施形態ではプリチャージ回路13を使用しているが、必ずしもプリチャージ回路は必要ではない。プリチャージ回路は、駆動電圧VRからGNDに向かってモータ駆動回路を通じて貫通電流が流れることによってモータ駆動回路10が破壊されるのを防止するためのものであり、他にモータ駆動回路を保護できる手段があれば不要である。
【0115】
また、故障モードAの短絡故障を診断するに際して、モータ駆動回路の各相出力に所定電圧を印加するために分圧回路17を用いたが、分圧回路17に限らず、診断の際にモータ駆動回路の各相出力に所定電圧を印加することができ、シャント抵抗やモータの巻線抵抗よりも高い出力インピーダンスを有する他の診断用電圧印加回路を用いてもよい。
【0116】
また、上述の故障モードBの短絡故障を診断するフローチャートでは、最初に全てのFETをオフの状態とするスイッチング制御を行い、プリチャージ回路13により所定電圧値になるまで駆動電圧VRを昇圧させた後に、下段FET4〜6のオン/オフ制御により異常検出を行っているが、下段FET4〜6の何れかのみをオンとするスイッチング制御を行い、プリチャージ回路13によりプリチャージを実施し、所定の期間を経過しても、駆動電圧VRまで昇圧しない場合に異常と判断するようにしてもよい。
【0117】
また、故障モードBの短絡故障の検出を駆動電圧VRに基づいて行っているが、駆動電圧VRと相関のある相電圧VA,VB,VCに基づいて検出するようにしてもよい。
【0118】
また、上述したように短絡故障を駆動電圧VRに基づく電圧値の検出により行っているが、下段FETをオンにした時に流れる相電流値が所定値を上回るか否かで短絡故障の検出を行うようにしてもよい。このように相電流値に基づく故障モードBの短絡故障を診断するフローチャート図を
図15〜
図17に示す。
【0119】
図15〜
図17におけるステップS203では、下段FET4をオンした時に流れる相電流であるA相の電流値が所定値を上回るか否かを判断している。電流値が所定値を上回る場合、この電流値は異常であり、電流値が所定値を下回る場合、この電流値は正常であることを示す。電流値が正常であることは、駆動電圧VRが正常であることに対応し、電流値が異常であることは、駆動電圧VRが異常であることに対応する。
【0120】
同様に、ステップS206、S224では、下段FET5をオンした時に流れる相電流であるB相の電流値が所定値を上回るか否かを判断し、ステップS209、S227、S244では、下段FET6をオンした時に流れる相電流であるC相の電流値が所定値を上回るか否かを判断している。
図15〜
図17におけるその他の処理に関しては、
図9〜
図11の各処理と同様であるので、説明を省略する。
【0121】
また、モータ駆動回路は2系統に限らず、1系統又は3系統以上の複数系統であってもよく、上段FET、下段FET、モータ遮断FETが各々3つ以上存在する多相の構成でもよい。
【0122】
また、電源投入後の初期診断において、短絡故障や2次故障の診断を行うことを例示したが、例えば各FETを操作可能であり、モータ端子電圧を検出可能であり、且つ駆動電圧(又は相電流)を検出可能であれば、他のタイミングにおいて、短絡故障や2次故障の診断を行ってもよい。例えば、走行中であっても、操舵トルク、操舵角及び電流指令値(又は電流検出値)の少なくとも一つを用いて、それらが零を含む小さい範囲に所定時間維持されていることを判定した場合に、
図2、
図6、
図9、
図10及び
図11のフローチャートと同様に短絡故障や2次故障の診断を行ってもよい。前述の条件は、運転者が操舵をしていない直進走行状態を判定している。また、停車中であれば、操舵トルク及び電流指令値(又は電流検出値)の少なくとも一つを用いて、それらが零を含む小さい範囲に所定時間維持されていることを判定の条件としてもよい。
【0123】
また、上述の実施形態では、演算処理部15が、電圧検出を基に短絡故障や二次故障の診断を行うことを例示したが、電流検出を基に短絡故障や二次故障の診断を行ってもよい。これにより、モータ端子電圧をモニタするモニタ回路(分圧回路に相当)が不要となり、電動パワーステアリング装置が要するコストが低減し得る。
【0124】
また、第2の実施形態の故障モードAの検出方法及び第3の実施形態の故障モードBの検出方法を連続して行う故障検出方法を採用することもできる。このようにすることで、故障モードAの検出方法でモータ駆動回路10の下段FET4〜6のみの短絡故障である1次故障の検出、及び下段FET4〜6の何れか1個が短絡故障し、更に短絡故障した下段FETと同相のモータ遮断FETが短絡故障した場合の閉ループ回路を形成した2次故障の検出、故障モードBの検出方法でモータ駆動回路10の上段FET1〜3のみの短絡故障である1次故障の検出、上段FET1〜3の何れか1個が短絡故障し、更に短絡故障した上段FET1〜3と別相のモータ遮断FET7〜9が短絡故障した場合の閉ループ回路を形成した2次故障の検出をすることができる。
【0125】
この連続する順番は、逆であってもよく、連続で診断処理することで、確実に1次故障、2次故障を検出することができる。更には、第1の実施形態の2系統の電動パワーステアリング装置の各系統の1次故障、2次故障を検出処理することに、上述の連続した故障モードA、Bの故障検出方法を採用するようにしてもよい。
【0126】
このように第1の実施形態〜第3の実施形態の電動パワーステアリング装置によれば、電源投入後の初期診断において、モータ駆動回路10内の上段、下段FETの短絡故障とモータ遮断回路16に対応するモータ遮断FETの短絡故障とが同時に発生し、閉ループ回路を形成する2次故障が発生したか否かを容易に検出することができる。
【0127】
また、モータ駆動回路の上段FET1〜3及び下段FET4〜6のみの短絡故障である1次故障、又は閉ループ回路を形成する2次故障に応じて、モータによるアシスト力を付与するか否かを的確に判断し、危険な状態で走行を開始することを防止することができる。
【0128】
以上、図面を参照しながら各種の実施の形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例又は修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。また、発明の趣旨を逸脱しない範囲において、上記実施の形態における各構成要素を任意に組み合わせてもよい。
【0129】
なお、本出願は、2018年3月29日出願の3つの日本特許出願(特願2018−065955、特願2018−065956、及び特願2018−065957)に基づくものであり、その内容は本出願の中に参照として援用される。