(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。
【0011】
(システム全体の構成)
図1は、本発明の一実施形態に係る自動運転車両の制御システム(以下「車両制御システム」という)Sの全体的な構成を概略的に示している。
【0012】
車両制御システムSは、車両の駆動源である内燃エンジン(以下、単に「エンジン」という)Eと、運転支援システムコントローラ(ADAS/CU)1と、エンジンコントローラ(ECU)2と、を備える。
【0013】
エンジンコントローラ2は、エンジンEの動作を制御するものであり、エンジンEに対する吸入空気量および燃料供給量等を調整することにより、エンジンEの出力を制御する。エンジンコントローラ2は、運転支援システムコントローラ1に対して相互通信可能に接続されるとともに、エンジン制御に関する情報として、運転者によるアクセルペダルの操作量を検出するアクセルセンサ21からの信号、エンジンEの回転速度を検出する回転速度センサ22からの信号、エンジンEの冷却水温度を検出する水温センサ23からの信号等を入力する。車両の駆動源は、エンジンEに限らず、電動モータであってもよいし、エンジンEと電動モータとの組み合わせであってもよい。駆動源の種類に応じ、エンジンコントローラ2に代わる適宜のコントローラが設けられることは、勿論である。
【0014】
運転支援システムコントローラ1は、車両の自動運転に関する各種制御パラメータを設定し、自動運転に関わる各種装置(例えば、エンジンEおよび図示しない自動変速機)に対し、制御パラメータに応じた指令信号を出力する。本実施形態において、「自動運転」とは、運転者による監視のもと、運転者自身の選択によりいつでも運転者による手動運転に復帰することが可能な状態で、加速、制動および操舵の全ての操作を制御システム側で負担する運転状態をいう。ただし、本実施形態が適用可能な自動化の分類ないし自動運転のレベルは、これに限定されるものではない。本実施形態では、自動運転により、基本的には、車速を、運転者の設定によるかまたは法令等の定めによる目標車速に近付けるように制御するとともに、道路に表示された区画線を認識し、区画線を基準として、走行中の車線における自車両の位置を制御する。車速を制御する際に設定される車両の加速度または減速度と、自車両の位置を制御する際に設定される転舵量とは、いずれも自動運転に関する制御パラメータに該当する。
【0015】
車両制御システムSは、車両の自動運転に関わる装置として、エンジンEのほか、自動ステアリング装置11、自動ホイールブレーキ装置12および自動パーキングブレーキ装置13を備える。自動ステアリング装置11、自動ホイールブレーキ装置12および自動パーキングブレーキ装置13は、いずれも運転支援システムコントローラ1からの指令信号に応じて動作可能である。自動ステアリング装置11は、自動運転時に車両の進行方向および後退方向を変化させるための装置であり、自動ホイールブレーキ装置12は、運転者によるブレーキペダルの操作によらず、車両に制動力を生じさせるための装置であり、自動パーキングブレーキ装置13は、車両のシステム起動スイッチがオフ状態であるときに、パーキングブレーキを自動的に作動させるための装置である。
【0016】
さらに、車両制御システムSは、自動運転と手動運転とを運転者自身の選択により切り換えるとともに、自動運転時の走行条件を設定するためのスイッチ装置14と、自動運転の作動状態および車両の走行状態を運転者に認識させるための表示装置15と、を備える。本実施形態において、スイッチ装置14は、ステアリングホイールの把持部に隣接して設けられた集約スイッチ(以下「ハンドルスイッチ」という)として構成され、自動運転のオンおよびオフの切換えのほか、設定車速および設定車間距離の切換えのための操作部を備える。表示装置(以下「メータディスプレイ」という)15は、運転席のダッシュボードに設置され、自動運転のオンまたはオフ状態の視覚的な認識を可能とする構成であるとともに(例えば、自動運転のオン状態とオフ状態とで、表示色を異ならせることによる)、設定車速および設定車間距離を表示する表示部を備える。表示装置15は、ヘッドアップディスプレイとして具現することも可能である。
【0017】
本実施形態において、運転支援システムコントローラ1およびエンジンコントローラ2は、中央演算装置(CPU)、ROMおよびRAM等の各種記憶装置、入出力インターフェース等からなるマイクロコンピュータを備えた電子制御ユニットとして構成される。
【0018】
運転支援システムコントローラ1は、自動運転に関する情報として、ハンドルスイッチ14からの信号を入力するほか、走行環境認識装置16からの信号および先行車両監視装置17からの信号を入力する。
【0019】
走行環境認識装置16は、自車両が置かれている環境ないし周囲の状況を認識するためのものであり、例えば、光学カメラセンサにより具現することが可能である。走行環境認識装置16は、検知可能距離または視野角が異なる複数の光学カメラセンサからなるものであってもよい。
【0020】
先行車両監視装置17は、自車両前方の所定距離以内の範囲にある先行車両を監視するためのものであり、光学カメラセンサによるほか、レーダセンサ、例えば、ミリ波レーダセンサにより具現することが可能である。先行車両監視装置17は、先行車両がある場合に、自車両と先行車両との車間距離に応じた信号を出力する。先行車両監視装置17からの信号をもとに、具体的には、車間距離の単位時間当たりの変化量から、自車両に対する先行車両の相対速度を検出することができる。
【0021】
走行環境認識装置16と先行車両監視装置17とは、別個のセンサによるばかりでなく、1つのセンサユニットとして構成することも可能であり、光学カメラセンサまたはレーザレーダセンサ(LiDAR)等により、両者を兼ねる構成とすることが可能である。
【0022】
運転支援システムコントローラ1は、自動運転に関する情報として、さらに、道路交通情報受信装置18および車両位置検出装置19からの信号を入力する。
【0023】
道路交通情報受信装置18は、VICS(登録商標)(Vehicle Information and Communication System)情報等の道路交通情報を車外の基地局から受信するものであり、例えば、道路地図情報が格納されたカーナビゲーションシステムにより具現することが可能である。
【0024】
車両位置検出装置19は、自車両の位置(具体的には、道路地図上の位置)を検出するものであり、例えば、全地球測位システム(GPS)の測位データ受信機(以下「GPS受信機」という)により具現することができる。ジャイロセンサおよび車速センサ等を用いた慣性航法ユニットによりGPS測位データを補正し、位置検出の精度向上を図ることが可能である。
【0025】
以上に加え、運転支援システムコントローラ1は、車速VSPを検出する車速センサ24からの信号を入力する。車速VSPを示す信号は、エンジンコントローラ2を介して入力することも可能である。
【0026】
(制御システムの動作)
車両制御システムSは、ハンドルスイッチ14の操作により自動運転が選択されると、自車両の走行状態、自車両以外の他車両(例えば、先行車両)の走行状態および周囲の交通状況等をもとに、自車両に求められる要求加速度および要求減速度を設定する。運転支援システムコントローラ1は、要求加速度を達成するのに必要な車両の要求駆動力を設定し、エンジンコントローラ2に対し、要求駆動力に応じた出力トルクを、駆動源であるエンジンEにより生じさせるための指令信号を出力する。運転支援システムコントローラ1は、さらに、要求減速度を達成するのに必要な車両の要求制動力を設定し、要求制動力に応じた指令信号を自動ホイールブレーキ装置12に出力する。
【0027】
本実施形態において、運転支援システムコントローラ1は、道路標識により指定されるかまたは法令等により定められた最高速度を制限車速として、運転者により設定された車速(以下「設定車速」という場合がある)と制限車速とのうち低い方の車速を選択し、これを目標車速に設定する。そして、車速を自車両の現在の車速に応じた要求加速度で目標車速に近付けるように、要求駆動力を設定するとともに、エンジンコントローラ2に対する指令信号を出力する。これにより、車両は、自動運転時において、基本的には、目標車速での定速走行を行う。
【0028】
他方で、運転支援システムコントローラ1は、光学カメラセンサ16により自車両前方の路面に表示された区画線を認識し、区画線を基準として、走行中の車線における自車両の位置を制御する。運転支援システムコントローラ1は、自車両の左右両側で区画線を認識可能な場合に、両側認識制御を実行して、左右両側の区画線に基づき自車両の位置を制御し、自車両の左右いずれか一側のみで区画線を認識可能な場合に、片側認識制御を実行して、当該一側の区画線に基づき自車両の位置を制御する。本実施形態では、両側認識制御による場合に、走行中の車線の中央を維持するように自車両の位置を制御し、片側認識制御による場合に、認識している区画線からの距離を一定に維持するように自車両の位置を制御する。ここで、「区画線」とは、車線を画定する標示全般をいい、車道外側線、車線境界線および車道中央線のほか、交差点における歩行者横断指導線、路上障害物の接近を示す区画線、導流帯を画定する区画線、車道の幅員または車線数の変更を示す区画線を含むものである。
【0029】
自動運転は、運転者によりハンドルスイッチ14が操作されるかまたは車両の挙動に関わる何らかの操作(例えば、運転者によるステアリングホイールまたはブレーキペダルの操作)が行われることにより、解除される。
【0030】
以下の説明では、直線状に続く道路を、自車両Vが先行車両に追従せず、自動運転により単独で直進する場合を想定する。
【0031】
図4は、本実施形態に係る車線認識制御を実施した場合の自車両Vの挙動を示している。
【0032】
位置P0にある自車両Vの前方で車線数が増加し、これに伴って道路の幅員Wが拡大している。区画線L2により、幅員Wの拡大が表示されている。自車両Vは、現時点で拡幅前の位置P0にあり、現在走行中の車線は、自車両Vの左側に表示された区画線(車道外側線)L1のみにより画定される。拡幅後では、左側車線が区画線L1、L3(車道外側線L1、車線境界線L3)により、右側車線が区画線L2、L3(車道外側線L2、車線境界線L3)により、夫々画定される。拡幅後の左側車線は、自車両Vが現在走行している車線の延長上にある。
【0033】
本実施形態では、このような状況において、両側認識制御と片側認識制御とで制御を切り換えながら自動運転を実行する。
【0034】
道路が拡幅を開始する位置P2よりも手前の位置P1までは、自車両Vに対して左側の区画線L1のみを基準とする片側認識制御により自動運転が実行され、自車両Vは、区画線L1から所定距離Dの位置に制御される。位置P1以降は、制御が切り換えられ、左右両側の区画線を基準とする両側認識制御により自動運転が実行される。制御の切換後、道路が拡幅を開始すると(位置P2)、右側の区画線L2が左側の区画線L1から離れる方向に延伸するのに伴って自車両Vの位置が右側に変更される。そして、運転支援システムコントローラ1により自車両V前方の区画線L3が認識されると、基準とする右側の区画線が区画線L2から区画線L3に切り換えられ、自車両Vの位置が区画線L1、L3をもとに改めて設定される。これにより、自車両Vの進行方向が左側に切り返され(位置P3)、自車両Vが、拡幅後の左側車線の中央に寄せられていくこととなる(位置P5)。
【0035】
ここで、位置P0にある自車両Vの搭乗者(運転者および他の同乗者)は、道路の拡幅後も自車両Vが進行方向を維持し、延長上の車線に進入することを期待するのが通常であるから、道路の拡幅に伴う位置の変更は、搭乗者にとって得てして突発的なものとなる。そして、位置の変更による自車両Vの振れが大きい場合は、単に乗り心地を悪化させるばかりでなく、運転者による反射的な操舵の切り返しを誘発させる原因ともなり得る。
【0036】
本実施形態では、両側認識制御と片側認識制御との制御の切り換えにより、一方向への転舵およびその後の戻し方向への転舵が発生した場合に、現在走行中の領域を転舵発生領域として記憶する学習制御(以下「領域学習」という)を実行する。そして、転舵発生領域を次回以降に走行する際に、転舵発生領域前の制御による自動運転を、転舵発生領域を走行している間も継続する。つまり、転舵発生領域前の制御が両側認識制御である場合は、両側認識制御による自動運転を継続して転舵発生領域を走行し、転舵発生領域前の制御が片側認識制御である場合は、片側認識制御による自動運転を継続して転舵発生領域を走行するのである。本実施形態において、転舵発生領域として学習する道路上の領域は、制御の切換後、一方向への転舵が発生した位置P2の地点Aから、戻し方向への転舵が発生し、自車両Vの進行方向が安定する位置P5の地点Bまでの範囲RGNlである。以下の説明では、制御の切り換えを契機とする一方向および戻し方向への転舵を含む一連の転舵を「転舵の繰り返し」という場合がある。「戻し方向」とは、「一方向」に対する逆方向をいい、例えば、「一方向」が右方向である場合の左方向が該当する。
【0037】
(フローチャートによる説明)
図2は、本実施形態に係る自動運転に関して運転支援システムコントローラ1が行う制御(車線認識制御)の基本的な流れを、フローチャートにより示している。
図3は、車線認識制御で実行される領域学習処理の内容を、フローチャートにより示している。運転支援システムコントローラ1は、車線認識制御を所定時間毎に実行するようにプログラムされており、領域学習処理を車線認識制御のサブルーチン(
図2のS108)として実行する。
【0038】
図3に示すフローチャートにおいて、S101では、自動運転中であるか否かを判定する。自動運転中であるか否かは、ハンドルスイッチ14からの信号をもとに判定することが可能である。自動運転中である場合は、S102へ進み、自動運転中でない場合は、S109へ進む。本実施形態では、自車両Vに対して少なくとも左右いずれか一側の区画線が認識可能な状態にあることを、車線認識制御による自動運転の前提とする。
【0039】
S102では、転舵発生領域RGNlを走行中であるか否かを判定する。転舵発生領域RGNlを走行中であるか否かは、カーナビゲーションシステム18に格納されている道路地図情報と、GPS受信機19により取得される自車両Vの位置と、の照合により判定することが可能である。転舵発生領域RGNlを走行中である場合は、S103へ進み、それ以外の場合は、S104へ進む。
【0040】
S103では、両側認識制御と片側認識制御とのうち、車線認識制御の前回実行時における制御を維持する。つまり、前回実行時の制御が両側認識制御である場合は、前回から引き続き両側認識制御を行い、前回実行時の制御が片側認識制御である場合は、前回から引き続き片側認識制御を行うのである。これにより、領域学習による転舵発生領域RGNlの記憶後、転舵発生領域RGNlを走行する際に、自車両Vが転舵発生領域RGNlにある間は、転舵発生領域RGNl前の制御による自動運転が継続されることになる。
【0041】
S104〜106では、両側認識制御と片側認識制御とで制御を切り換える。具体的には、S104における判定の結果、自車両Vに対して左右両側の区画線を認識可能である場合は、S105へ進んで両側認識制御を選択し、それ以外の場合、具体的には、左右いずれか一側の区画線のみを認識可能である場合は、S106へ進んで片側認識制御を選択する。
【0042】
S107では、両側認識制御と片側認識制御とで制御が切り換えられたか否かを判定する。両側認識制御による場合(S105)と片側認識制御による場合(S106)とで異なる値をとり得る判定フラグを設定し、判定フラグの値が切り換わったか否かにより、制御の切り換えがあったか否かを判定することが可能である。制御の切り換えがあった場合にのみ、S108へ進み、それ以外の場合は、S108を介さずに今回の制御を終了する。
【0043】
S108では、
図3に示すフローチャートに従って領域学習を実行する。
【0044】
S109では、運転者の手動操作による運転を実行し、ステアリングホイールの動きに連動させて自車両Vの進行方向を制御する。
【0045】
図3のフローチャートに移り、S201では、タイマTIMをリセットする。タイマTIMは、両側認識制御と片側認識制御とで制御が切り換えられた後の経過時間を測定するものである。
【0046】
S202では、自動運転による一方向への転舵を検知したか否かを判定する。本実施形態では、制御の切換後、左方向か右方向かへの所定量Athに達する転舵を検知したか否かを判定する。判定は、操舵輪(一般的には、駆動輪)の基準位置(例えば、車両が直進する中立位置)からの角変化の大きさに関して行ってもよいし、角変化の単位時間当たりの変化量に関して行ってもよい。そのような転舵を検知した場合は、S203へ進み、検知していない場合は、S205へ進む。
【0047】
S203では、運転者によるステアリングホイールの手動操作を検知したか否かを判定する。例えば、一方向への転舵後、運転者の手動操作による進行方向の切り返しが発生したか否かを判定する。ステアリングホイールの手動操作を検知した場合は、S206へ進み、検知していない場合は、S204へ進む。ステアリングホイールが手動により操作された場合は、自動運転が解除される。
【0048】
S204では、自動運転による戻し方向への転舵を検知したか否かを判定する。本実施形態では、上記一方向への転舵後、所定量Athに達する戻し方向への転舵を検知したか否かを判定し、そのような転舵を検知した場合は、S206へ進み、検知していない場合は、S205へ進む。戻し方向転舵の判定に係る所定量Athは、先に述べた一方向転舵の判定に係る所定量(S202)と同一の値であってもよいし、異なる値であってもよい。さらに、前述同様に、角変化相当量によるばかりでなく、その単位時間当たりの変化量によっても判定を行うことが可能である。
【0049】
S205では、タイマTIMが所定値TIM1に達したか否かを判定する。所定値TIM1に達した場合は、今回の制御を終了し、達していない場合は、S202へ戻り、S202〜204の処理を繰り返し実行する。ここで、所定値TIM1が示す時間は、所定量Athとの関係のもとで、転舵の繰り返しに対する搭乗者の感覚を基準に設定することが可能であり、例えば、5秒である。
【0050】
S206では、現在走行中の領域RGNlを、カーナビゲーションシステム18に格納されている道路地図情報と関連付けて記憶する。先に述べたように、戻し方向への転舵後、自車両Vの進行方向が安定する位置P5を特定し、一方向への転舵が発生した位置P2の地点Aから、自車両Vの進行方向が安定する位置P5の地点Bまでの範囲RGNlを、転舵発生領域として記憶する。
【0051】
本実施形態では、光学カメラセンサ16により「交通条件取得部」が、運転支援システムコントローラ1および自動ステアリング装置11により「走行制御部」が、夫々構成される。
【0052】
(作用効果の説明)
本実施形態に係る自動運転車両の制御装置(車両制御システムS)は、以上のように構成され、本実施形態により得られる効果について、
図4を適宜に参照しながら以下に纏める。
【0053】
第1に、自動運転による走行中に、左右両側の区画線を基準とする両側認識制御と、左右いずれか一側の区画線を基準とする片側認識制御と、の制御の切り換えにより転舵の繰り返しが発生した場合に(位置P2、P3)、現在走行中の領域RGNlを転舵発生領域として記憶する。そして、転舵発生領域RGNlを次回以降に走行する際は、転舵発生領域RGNl前の制御による自動運転(例えば、転舵発生領域RGNl前の制御が片側認識制御である場合に、片側認識制御による自動運転)を維持することとした。これにより、制御の切り換え(位置P1)を契機とする一方向への突発的な転舵(位置P2)を回避することが可能となり、転舵発生領域RGNlへ進入する前の進行方向を進入後も維持して、左右への自車両Vの振れによる乗り心地等の悪化を抑制することが可能となる。本実施形態に係る車線認識制御による場合に自車両Vlrnが走行する経路を、これによらない場合の経路R(自車両V)と対比して、
図4に二点鎖線Rlrnにより示す。
【0054】
第2に、制御の切り換え(位置P1)から所定時間TIM1(例えば、5秒)のうちに転舵の繰り返しが発生した場合に、現在走行中の領域RGNlを記憶することとした。これにより、回避すべき転舵の適切な選別を可能として、領域の不要な学習による車線認識制御自体への弊害を回避することができる。
【0055】
第3に、一方向および戻し方向への転舵の大きさ(例えば、転舵量Astr1、Astr2)が所定値Athに達する場合に、転舵の繰り返しが発生したとして、現在走行中の領域RGNlを記憶することとした。これにより、転舵発生領域RGNlを走行する際に、乗り心地等に与える影響を抑制することのできる範囲で、切換後の制御により自動運転を実行することが可能となる。
【0056】
第4に、制御の切り換えによる一方向への転舵後(位置P2)、運転者の手動操作により戻し方向への転舵が発生した場合に、自動運転による戻し方向転舵の有無に拘らず、現在走行中の領域RGNlを記憶することとした(
図3のS203)。これにより、一方向への転舵(位置P2)に対して運転者が受ける印象を領域の学習に直接的に反映させ、乗り心地等の悪化をより的確に抑制することが可能となる。この意味で、転舵の繰り返しは、制御の切り換えを契機とするものであればよく、戻し方向への転舵は、自動運転ないし制御の再度の切り換えによるものであるか(位置P3、S204)、運転者の手動操作によるものであるか(S203)を問わない。他方で、一方向への転舵は、制御の切り換えに付随するものである。
【0057】
ここで、本実施形態により得られる効果を、
図2に示すのとは異なる場面についてさらに説明する。
【0058】
図5は、本実施形態に係る車線認識制御を実施した場合の自車両Vの挙動を、区画線一部消失時について示している。
【0059】
自車両Vに対して左右両側にあるべき区画線L1、L2のうち、右側の区画線L2(例えば、車道外側線)が部分的に消失している(
図5は、区画線L2が消失した部分L21、L23を点線により示す)。よって、自車両Vが走行している道路ないし車線は、本来左右両側の区画線L1、L2により画定されるべきものであるが、区画線L2の部分的な消失により、区画線L2が残存する部分L22では、左右両側の区画線L1、L2(L22)により画定され、それ以外の区画線L2が消失した部分L21、L23では、左側の区画線L1のみにより画定されるものとする。
【0060】
このような状況において、残存する区画線L22よりも手前(位置P2よりも手前)の位置P1までは、自車両Vに対して左側の区画線L1のみを基準とする片側認識制御により自動運転が実行され、自車両Vは、区画線L1から所定距離Dの位置に制御される。左側の区画線L1に加えて右側の区画線L2(L22)をも認識すると、制御が切り換えられ、左右両側の区画線L1、L22を基準とする両側認識制御により自動運転が実行される。制御の切り換えにより、自車両Vの位置が車線の中央に変更されるのに伴い(位置P1)、自車両Vが右側に寄せられている。その後、残存する区画線L22が途切れる位置か、その手前の位置P4か、で制御が再度片側認識制御に切り換えられると、自車両Vは、左側の区画線L1を基準とした位置に制御されることになる(位置P5)。
【0061】
このように、認識可能な区画線が左右両側にある状態と左右いずれか一側のみにある状態とが交互に出現する場合に、単に両側認識制御と片側認識制御とで制御を切り換えるだけとするならば、制御の切り換えが繰り返されることで(位置P1、P4)、制御の設定や道路の幅員W等によっては自車両Vに左右への振れが発生する。自車両Vの搭乗者は、走行中の道路が一車線であることから、自車両Vが直進する想定でいるところ、制御の切り換えに伴う位置の変更は、搭乗者にとって得てして突発的なものとなり、乗り心地に影響を及ぼしかねない。そればかりでなく、先の例(
図4)と同様に運転者による反射的な操舵の切り返しを誘発させる原因ともなり得る。
【0062】
これに対し、本実施形態では、両側認識制御と片側認識制御とで制御の切り換えが発生した場合に、領域学習を実行し、一方向および戻し方向への転舵、つまり、転舵の繰り返しが発生した領域RGNlを転舵発生領域として記憶する。そして、転舵発生領域RGNlを次回以降に走行する際に、転舵発生領域RGNl前の制御による自動運転を、転舵発生領域RGNlを走行している間も継続する。具体的には、残存する区画線L22の認識により一方向への転舵が発生した位置P1の地点Aから、基準とする区画線の変更により戻し方向への転舵が発生し(位置P4)、自車両Vの進行方向が安定する位置P5の地点Bまでの領域RGNlを転舵発生領域として記憶し、次回以降の走行に際し、転舵発生領域RGNl前から引き続き片側認識制御を実行するのである。
【0063】
これにより、制御の切り換えを契機とする一方向への突発的な転舵(位置P1)を回避することが可能となり、
図5に二点鎖線Rlrnにより示すように、転舵発生領域RGNlへ進入する前の進行方向を進入後も維持して、左右への自車両Vの振れによる乗り心地等の悪化を抑制することができる。
【0064】
(他の実施形態の説明)
図6は、本発明の他の実施形態に係る車線認識制御の基本的な流れを示すフローチャートである。
【0065】
先の実施形態では、領域学習後に転舵発生領域RGNlを走行する際に、転舵発生領域RGNlでの制御の切り換えを保留しまたは実質的に禁止し、転舵発生領域RGNlを通過した後、区画線の認識状況に応じて改めて判断し、実行することとした。これに対し、本実施形態では、転舵発生領域RGNlでの制御の切り換え自体を許容するものの、転舵発生領域RGNl前の進行方向を転舵発生領域RGNlへの進入後も維持することで、自車両Vに突発的な振れが発生するのを回避する。
【0066】
図4を適宜に参照しつつ、先の実施形態に係る制御(
図2)との違いを中心に説明すると、自動運転による走行中(S301)、両側認識制御と片側認識制御とで制御を切り換える一方(S302〜304)、自車両Vが転舵発生領域RGNlにあるか否かを判定する(S305)。転舵発生領域RGNlにある場合は、切換後の制御がいずれであるかに拘らず、前回実行時の進行方向を維持し(S306)、制御の切り換えによる転舵を禁止する。他方で、転舵発生領域RGNlにない場合は、制御の切り換えに対し(S307)、それに伴う転舵を許容するとともに、領域学習を実行する(S308)。
【0067】
以上の説明では、片側認識制御から両側認識制御へ制御が切り換えられる場合を例に説明したが、これに限定されるものではなく、転舵(具体的には、一方向への転舵)の契機となる制御の切り換えは、両側認識制御から片側認識制御へのものであってもよい。
【0068】
さらに、転舵発生領域RGNlへの進入前後で自車両Vの進行方向に変化がない場合を例に説明したが(例えば、
図4)、転舵発生領域RGNlにおける制御は、転舵発生領域RGNlへの進入後、進行方向に多少の変化を伴いながらも転舵発生領域RGNl前の車線を維持するかまたは転舵発生領域RGNl前の車線の延長上にある車線への進入を促す方向に制御するものであってもよい。
【0069】
さらに、転舵発生領域RGNlの記憶に際して制御の切換後の経過時間TIMを測定し、制御の切り換えから所定時間TIM1のうちに転舵の繰り返しが発生した場合に、現在走行中の領域を記憶する場合を例に説明したが、測定する時間は、一方向への転舵が発生した後の経過時間であってもよく、一方向への転舵が発生してから所定時間(例えば、5秒)のうちに戻し方向への転舵が発生した場合に、現在走行中の領域を記憶することとしてもよい。これにより、回避すべき転舵の適切な選別を可能として、領域の不要な学習による車線認識制御自体への弊害を回避することができる。
【0070】
転舵発生領域として記憶する領域RGNlは、一方向への転舵が発生した地点Aから、戻し方向への転舵後に進行方向が安定する地点Bまでの領域に対し、その前後の両方または一方に、区画線の認識精度等に係る余裕を付加したものであってもよい。つまり、転舵発生領域RGNlは、制御の切り換えを契機として切り返しを含む一連の転舵が発生した領域として、適宜に設定することが可能である。
【0071】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は、本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を、上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。上記実施形態に対し、請求の範囲に記載した事項の範囲内で様々な変更および修正が可能である。