(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6947309
(24)【登録日】2021年9月21日
(45)【発行日】2021年10月13日
(54)【発明の名称】くさび形つかみ具
(51)【国際特許分類】
G01N 3/04 20060101AFI20210930BHJP
【FI】
G01N3/04 A
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2020-540110(P2020-540110)
(86)(22)【出願日】2019年7月1日
(86)【国際出願番号】JP2019026037
(87)【国際公開番号】WO2020044772
(87)【国際公開日】20200305
【審査請求日】2020年12月7日
(31)【優先権主張番号】特願2018-160086(P2018-160086)
(32)【優先日】2018年8月29日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】特許業務法人京都国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三島 卓
(72)【発明者】
【氏名】布施 寿則
【審査官】
森口 正治
(56)【参考文献】
【文献】
特公昭40−011878(JP,B2)
【文献】
実開昭62−047952(JP,U)
【文献】
特開平09−264826(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 3/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内側に互いに対向する斜面からなるくさび面が形成されたチャックフレームと前記くさび面にそれぞれ摺接する斜面が形成された一対のつかみ歯とを相対的に移動させることにより、前記一対のつかみ歯を開閉させるくさび形つかみ具において、
試験機に接続される継手に対して回動自在に接続され、前記チャックフレームと螺合するねじ部が形成されたねじシャフトと、
前記継手に対して固定されるとともに前記ねじシャフトの内側を貫通して配設され、先端に前記一対のつかみ歯を接続するための内部シャフトと、
前記内部シャフトに接続された背面ガイド板と、
前記チャックフレームに固定され、前記背面ガイド板を前記チャックフレームに対してスライド可能に保持するガイド板押さえ部材と、
を備え、
前記ガイド板押さえ部材は、前記背面ガイド板を前記一対のつかみ歯側に押す方向に付勢するボールプランジャを有するくさび形つかみ具。
【請求項2】
請求項1に記載のくさび形つかみ具において、
前記ねじシャフトを回転させるときに作業者が操作するハンドルを備えるくさび形つかみ具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、材料試験を行うときに、くさびの自己締まり作用により試験片を把持するくさび形つかみ具に関する。
【背景技術】
【0002】
材料試験機により試験を実行するときには、試験片の両端をつかみ具により把持させた状態で、試験空間に試験片を配置する。このようなつかみ具として、くさび形つかみ具が知られている。くさび形つかみ具は、一対のつかみ歯をチャックフレームに形成されたくさび面に摺接させ、チャックフレームを移動させることによって、くさび効果を利用してつかみ歯を開閉する構成を有する(特許文献1参照)。くさび形つかみ具のつかみ歯は、縦方向に移動することはなく、試験片の初期締め付け時には避けたい縦方向の試験力の発生が問題とならない。そして、くさび形つかみ具は、引張試験力が加われば、くさびの自己締まり作用により試験片を強く把持するため、高試験力の引張試験に採用できる。
【0003】
図4は、従来のくさび形つかみ具の背面図である。
【0004】
従来のつかみ具は、材料試験機に対して端末継手1を介して装着され、端末継手1には、ハンドルHを備えたねじシャフト2が回動自在に支持されており、ねじシャフト2のねじ部にチャックフレーム3がねじ込まれている。チャックフレーム3内には、一対のつかみ歯4a、4bが配設される。作業者は、ハンドルHを回してねじシャフト2を回動させることによりチャックフレーム3を上下動させ、そのチャックフレーム3の上下動により、チャックフレーム3に形成されたくさび面に摺接する一対のつかみ歯4a、4bを、互いに接近/離隔する向きに移動させる。
【0005】
チャックフレーム3の背面側には、作業者がハンドルHを回したときのチャックフレーム3の上下動をガイドする背面ガイド板80が設けられている。チャックフレーム3には、この背面ガイド板80を、若干の隙間をもって摺動自在に押さえる一対の押さえ板131a、131bがボルト34により固定されている。背面ガイド板80には、ばね取り付け棒9a、9bが固着されており、チャックフレーム3には、ばね取り付け棒9c、9dが固着されている。このうち、ばね取り付け棒9a、9cは、鉛直線上に位置し、引張コイルばね10aの両端部が取り付けられる。そして、ばね取り付け棒9b、9dは、鉛直線上に位置し、引張コイルばね10bの両端部が取り付けられる。作業者がつかみ歯4a、4bの開閉操作のためにハンドルHを回すと、チャックフレーム3が上下動する。このとき、一対のつかみ歯4a、4bは図示を省略した歯保持部の作用により上下動が阻止された状態にあり、チャックフレーム3の上下動により互いに水平方向に移動する。チャックフレーム3は、2本の引張コイルばね10a、10bによって、自重に抗して上方に向けて付勢されることから、その分、重量が軽くなる。このため、ねじシャフト2のねじ部とチャックフレーム3の間に作用する摩擦力が低減され、作業者がハンドルHを回す力が少なくて済み、つかみ歯4a、4bの開閉操作を容易に行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−340759号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
図5は、
図4におけるA−A矢視断面図である。
【0008】
従来のくさび形つかみ具では、作業者がハンドルHを回したときの回転方向の負荷を、背面ガイド板80と一対の押さえ板131a、131bによって押さえることにより、チャックフレーム3の回転を阻止していた。しかしながら、
図5に示すように、背面ガイド板80と押さえ板131a、131bとの間に隙間が存在するため、この隙間の分だけ回転方向のずれが生じる。
【0009】
チャックフレーム3が回転すると、チャックフレーム3内のくさび面に摺接する一対のつかみ歯4a、4bが回転し、把持している試験片をねじる原因となる。試験片を把持するつかみ歯4a、4bが回転すると、引張軸心がずれることもあり、試験片にねじれ負荷を与える可能性もある。そうすると、正確な引張試験が実施できない。
【0010】
この発明は上記課題を解決するためになされたものであり、つかみ歯により試験片を締め付ける際のつかみ具の傾きを抑えたくさび形つかみ具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1に記載の発明は、内側に互いに対向する斜面からなるくさび面が形成されたチャックフレームと前記くさび面にそれぞれ摺接する斜面が形成された一対のつかみ歯とを相対的に移動させることにより、前記一対のつかみ歯を開閉させるくさび形つかみ具において、試験機に接続される継手に対して回動自在に接続され、前記チャックフレームと螺合するねじ部が形成されたねじシャフトと、前記継手に対して固定されるとともに前記ねじシャフトの内側を貫通して配設され、先端に前記一対のつかみ歯を接続するための内部シャフトと、前記内部シャフトに接続された背面ガイド板と、前記チャックフレームに固定され、前記背面ガイド板を前記チャックフレームに対してスライド可能に保持するガイド板押さえ部材と、を備え、前記ガイド板押さえ部材は、前記背面ガイド板を前記一対のつかみ歯側に押す方向に付勢するボールプランジャを有する。
【0012】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のくさび形つかみ具において、前記ねじシャフトを回転させるときに作業者が操作するハンドルを備える。
【発明の効果】
【0013】
請求項1および請求項2に記載の発明によれば、チャックフレームの背面に配設する背面ガイド板をチャックフレームに対してスライド可能に保持するガイド板押さえ部材が、背面ガイド板を一対のつかみ歯側に押す方向に付勢するボールプランジャを有することから、試験片を把持させるためにねじシャフトを回転させ、つかみ歯により試験片を締め付ける際のつかみ具の傾きを抑えることができる。したがって、試験片に意図しないねじれ負荷などを与えることなく、所望の試験力を付与することができる。
【0014】
請求項2に記載の発明によれば、ハンドルを備えたことにより、作業者はねじシャフトを容易に回転させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】この発明に係るくさび形つかみ具の正面概要図である。
【
図2】この発明に係るくさび形つかみ具の背面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、この発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、この発明に係るくさび形つかみ具の正面概要図である。
図2は、その背面図である。
図3は、
図2におけるA−A矢視断面図である。なお、
図1の正面図においては、チャックフレーム3の上側を一部破断して示している。
【0017】
くさび形つかみ具は、くさびの自己締まり作用により試験片を把持するものであり、内側に互いに対向する斜面からなるくさび面33a、33bが形成されたチャックフレーム3と、くさび面33a、33bにそれぞれ摺接する斜面Sが形成された一対のつかみ歯4a、4bとを備える。チャックフレーム3と一対のつかみ歯4a、4bを相対的に移動させることにより、一対のつかみ歯4a、4bを開閉させる。
【0018】
このくさび形つかみ具は、端末継手1を介して試験機に接続されるものであり、端末継手1に対して回動自在に接続されるねじシャフト2を備える。ねじシャフト2には、チャックフレーム3と螺合するねじ部21が形成されており、このねじ部21にチャックフレーム3がねじ込まれている。ねじシャフト2はハンドルHを備え、ハンドルHを回すことによってねじ部21は回転する。このくさび形つかみ具は、定位置くさび形つかみ具と呼称され、ねじ部21を回転させてねじ部21にねじ込まれているチャックフレーム3を上下動させることによって、一対のつかみ歯4a、4bを開閉させる。
【0019】
ねじシャフト2は中空状となっており、その内側を内部シャフト5が貫通している。内部シャフト5は、スプリングピン6により端末継手1に固定され端末継手1に対して回動ができないようになっている。そして、内部シャフト5の先端には、つかみ歯4a、4bを接続するための歯保持部7がせん断ねじ71によって取り付けられている。
【0020】
つかみ歯4a、4bの各々は、試験片を把持するための歯面tを備えるとともに、その反対側の辺がチャックフレーム3のくさび面33a、33bにそれぞれ摺接する斜面Sとなっている。つかみ歯4a、4bの各々に形成されている凹部41a、41bを歯保持部7にはめ込むことにより、つかみ歯4a、4bは、歯面t同士が対面した状態で、チャックフレーム3内に配置される。なお、歯保持部7は、つかみ歯4a、4bの上下方向の移動を阻止する部材としての役割を担っている。
【0021】
チャックフレーム3の背面側には、内部シャフト5に対してボルト51を介して間接的に固定された背面ガイド板8が設けられている。また、チャックフレーム3の背面側には、背面ガイド板8をスライド可能に保持するガイド板押さえ部材である押さえ板31a、31bがボルト34により固定されている。背面ガイド板8の左右両端は、一対の押さえ板31a、31bにより、つかみ歯4a、4bから離隔する方向への移動を規制される。一対の押さえ板31a、31bの各々には、ボールプランジャ32が配設され、ボールプランジャ32のボールが背面ガイド板8の表面に当接することで、背面ガイド板8を一対のつかみ歯4a、4b側に押す方向に付勢する。
【0022】
背面ガイド板8には、ばね取り付け棒9a、9bが固着されており、チャックフレーム3には、ばね取り付け棒9c、9dが固着されている。このうち、ばね取り付け棒9a、9cは、鉛直線上に位置し、引張コイルばね10aの両端部が取り付けられる。そして、ばね取り付け棒9b、9dは、鉛直線上に位置し、引張コイルばね10bの両端部が取り付けられる。
【0023】
作業者がつかみ歯4a、4bの開閉操作のためにハンドルHを回すと、チャックフレーム3が上下動する。このとき、一対のつかみ歯4a、4bは歯保持部7の作用により上下動が阻止された状態にあり、チャックフレーム3の上下動によりくさび面33a、33bに対する斜面Sの位置が変更されることで互いに水平方向に移動する。チャックフレーム3は、2本の引張コイルばね10a、10bによって、自重に抗して上方に向けて付勢されることから、その分、重量が軽くなる。このため、ねじシャフト2のねじ部21とチャックフレーム3の間に作用する摩擦力が低減され、作業者がハンドルHを回す力が少なくて済み、つかみ歯4a、4bの開閉操作を容易に行うことができる。
【0024】
作業者によるつかみ歯4a、4bの開閉操作によって、背面ガイド板8とチャックフレーム3との相対的な位置が変更されるときには、チャックフレーム3が押さえ板31a、31b介して背面ガイド板8にガイドされつつ上下動する。このとき、背面ガイド板8に当接するボールプランジャ32のボールが回転し、背面ガイド板8との間の摩擦力が低減される。作業者がハンドルHを回して試験片をつかみ歯4a、4bで締め付けるときには、押さえ板31a、31bがチャックフレーム3とともに動いても、ボールプランジャ32のばねによる一定の押圧力が背面ガイド板8に働くことから、背面ガイド板8と押さえ板31a、31bとの間に回転方向のずれが生じるのを抑えることができる。したがって、チャックフレーム3および一対のつかみ歯4a、4bが傾くのを抑えることができ、試験片にねじれ負荷などの変形を与えることなく、試験力を付与することが可能となる。
【0025】
なお、上述した実施形態では、つかみ歯4a、4bの開閉に際し、作業者がハンドルHを回すことによりねじシャフト2を回転させて、チャックフレーム3を上下動させる手動式のくさび形つかみ具について説明したが、ねじシャフト2を回転させる動力は、空圧や油圧であってもよい。また、上述した実施形態では、上つかみ具を例に説明したが、下つかみ具にも同様に適用することができる。
【符号の説明】
【0026】
1 端末継手
2 ねじシャフト
3 チャックフレーム
4a、4b つかみ歯
5 内部シャフト
6 スプリングピン
7 歯保持部
8 背面ガイド板
9a、9b、9c、9d ばね取り付け棒
10a、10b 引張コイルばね
21 ねじ部
31a、31b 押さえ板
32 ボールプランジャ
33a、33b くさび面
34 ボルト
41a、41b 凹部
51 ボルト
71 せん断ねじ
H ハンドル
S 斜面
t 歯面