特許第6947310号(P6947310)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6947310電子写真感光体、その製造方法および電子写真装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6947310
(24)【登録日】2021年9月21日
(45)【発行日】2021年10月13日
(54)【発明の名称】電子写真感光体、その製造方法および電子写真装置
(51)【国際特許分類】
   G03G 5/05 20060101AFI20210930BHJP
   G03G 5/06 20060101ALI20210930BHJP
【FI】
   G03G5/05 101
   G03G5/06 312
   G03G5/06 313
   G03G5/06 372
【請求項の数】8
【全頁数】27
(21)【出願番号】特願2020-541464(P2020-541464)
(86)(22)【出願日】2019年1月25日
(86)【国際出願番号】JP2019002462
(87)【国際公開番号】WO2020152846
(87)【国際公開日】20200730
【審査請求日】2020年7月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096714
【弁理士】
【氏名又は名称】本多 一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100124121
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 由美子
(74)【代理人】
【識別番号】100176566
【弁理士】
【氏名又は名称】渡耒 巧
(74)【代理人】
【識別番号】100180253
【弁理士】
【氏名又は名称】大田黒 隆
(72)【発明者】
【氏名】竹内 勝
(72)【発明者】
【氏名】小林 広高
(72)【発明者】
【氏名】朱 豊強
【審査官】 福田 由紀
(56)【参考文献】
【文献】 特開平04−179961(JP,A)
【文献】 特開2017−067825(JP,A)
【文献】 特開2017−062400(JP,A)
【文献】 国際公開第2017/138566(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 5/05−5/06
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性基体と、
前記導電性基体上に順次設けられた電荷発生層および電荷輸送層と、
を含む電子写真感光体であって、
前記電荷輸送層が、バインダー樹脂としての下記一般式(1)、
(式(1)中、R〜Rは、同一または異なって、水素原子、炭素原子数1〜10のアルキル基または炭素原子数1〜10のフルオロアルキル基を示し、m,nは0.4≦n/(m+n)≦0.6を満足する数であり、連鎖末端基は、1価の芳香族基である)で表される構造を有する共重合ポリカーボネート樹脂を含有するとともに、正孔輸送物質としての下記一般式(2)、
(式(2)中、R〜R20は、同一または異なって、水素原子、炭素原子数1〜6のアルキル基、炭素原子数1〜6のアルコキシ基、アリール基またはアリール基置換アルケニル基を表し、aは0〜2の整数を示す)で表される構造を有する化合物を含有する電子写真感光体。
【請求項2】
前記電荷輸送層中の前記バインダー樹脂の質量(B)と前記正孔輸送物質の質量(H)との和に占める前記正孔輸送物質の質量(H)の比率を示す質量比H/(B+H)が、下記式(3)、
20質量%≦H/(B+H)≦50質量% (3)
を満足する請求項1記載の電子写真感光体。
【請求項3】
前記電荷輸送層の膜厚が、25μm以下である請求項1記載の電子写真感光体。
【請求項4】
前記電荷発生層が、電荷発生材料としてのY型チタニルフタロシアニンを含む請求項1記載の電子写真感光体。
【請求項5】
感光体用の電気特性試験装置を用いて、初期帯電位−1000V、露光から電位測定プローブまでの移動時間0.03s、露光光波長650nm、露光量1.0μJ/cmの条件にて測定した初期感度V(−V)の絶対値が、80以下である請求項1記載の電子写真感光体。
【請求項6】
液体現像用現像剤に含まれる炭化水素系溶剤に、室温において100時間の条件で前記電子写真感光体を浸漬した際の、前記電荷輸送層からの前記正孔輸送物質の溶出量が5×10−8g/cm以下である請求項1記載の電子写真感光体。
【請求項7】
請求項1記載の電子写真感光体を製造するにあたり、
浸漬塗工法を用いて前記電荷発生層および前記電荷輸送層を形成する工程を含む電子写真感光体の製造方法。
【請求項8】
請求項1記載の電子写真感光体と、前記電子写真感光体を帯電させる帯電装置と、帯電された前記電子写真感光体を露光して表面に静電潜像を形成する露光装置と、前記電子写真感光体の表面に形成された静電潜像を、炭化水素系溶剤にトナーを分散させた液体現像剤を用いて現像してトナー像を形成する現像装置と、前記電子写真感光体の表面に形成されたトナー像を記録媒体に転写する転写装置と、を備える電子写真装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真方式の複写機やプリンター等に用いられる電子写真感光体(以下、単に「感光体」とも称する)、その製造方法および電子写真装置に関し、詳しくは、電荷輸送層に特定のバインダー樹脂および正孔輸送物質を含有させたことにより、耐溶剤性に優れ、かつ、電気特性の良好な液体現像用負帯電積層型電子写真感光体、その製造方法および液体現像方式の電子写真装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子写真プロセスにおいて、感光体上の静電潜像を可視化する現像方式には、大きく分けて、粉体のトナーを用いる乾式現像方式と、絶縁性の液体中にトナーを分散させてなる液体現像剤を用いる液体現像方式とが存在する。一般のオフィスユースには主に乾式現像方式の装置が用いられる。他方、液体現像方式では粉体トナー(粒径:5〜8μm)よりも小粒径のトナー(粒径:0.1〜2μm)を使用でき、乾式現像方式よりも高解像度化が可能なので、液体現像方式の装置は、オフセット印刷に近い高画質が得られ、さらには高速化にも対応可能であるという利点を備え、オンデマンド印刷などの新しい商業印刷システム向けに、オフセット印刷に代わって使用されるようになってきている。
【0003】
一方、電子写真プロセスの中核となる感光体については、従来、セレンやセレン合金、酸化亜鉛、硫化カドミウムなどの無機系の光導電性材料を使用した無機感光体が主流であったが、最近では無公害性、成膜性および軽量性などの利点を活かして、有機系の光導電性材料を利用した有機感光体の開発が盛んに進められている。中でも、機能分離した電荷発生層および電荷輸送層を積層した感光層を備える、いわゆる機能分離積層型有機感光体は、各層をそれぞれの機能に適した材料で形成することにより、特性をコントロールし易いなど利点が多く、有機感光体の主流となっている。電荷発生層は主に光受容時に電荷を発生する層として機能し、電荷輸送層は主に暗所において帯電位を保持し、かつ光受容時に電荷を輸送する層として機能する。
【0004】
このような有機感光体を液体現像方式で使用する場合、液体現像剤に含まれる有機溶剤に対する感光層の耐溶剤性が重要となる。液体現像剤の溶剤には、高い絶縁性が求められることから、イソパラフィンなどの炭化水素系溶剤が多用されている。このような炭化水素系溶剤と感光体とが長時間にわたって接触すると、電荷輸送層に含まれる電荷輸送物質が液体現像剤中に溶出し、種々の問題が発生することがある。すなわち、電荷輸送物質の溶出が、電荷輸送能力の低下および感度低下を生じさせたり、内部応力やバインダー樹脂の炭化水素系溶剤による膨潤が、ひび割れ(クラック)等を発生させ耐久性を低下させることがある。
【0005】
このような課題を解決するために、例えば、特許文献1では、感光体の表面に熱硬化性樹脂からなる表面保護層を形成することにより、液体現像剤への電荷輸送剤の溶出を防止する提案がなされている。しかし、このような感光体においては、表面保護層を新たに設けることにより感度が低下するといった副作用や、製造コストが高くなるといった新たな問題が生ずる。
【0006】
また、特許文献2では、特定のポリアリレート樹脂を感光層に用いることにより、液体現像系において耐クラック性を向上させる提案がなされているが、若干の改善は認められるものの耐クラック性の面では十分でなく、電気特性面でも劣るため、十分な実用性能を有するものではなかった。
【0007】
さらに、特許文献3では、電荷輸送層のバインダー樹脂を無機性値/有機性値(I/O値)が0.37以上、特には0.37〜0.45の範囲内のポリカーボネート樹脂とし、かつ、正孔輸送剤の分子量を900以上、特には900〜1547.1の範囲内とすることにより、耐クラック性等を向上させる提案がなされている。しかし、このような感光体でも、液体現像剤への電荷輸送剤の溶出防止効果は十分ではなく、耐クラック性が十分とは言い難かった。
【0008】
さらにまた、特許文献4には、所定のトリフェニルアミン誘導体、それを用いた電荷輸送材料及び電子写真感光体が開示されており、特許文献5には、電荷輸送層に特定のバインダー樹脂、正孔輸送物質、電子輸送物質および酸化防止剤を用いるとともに、電荷輸送層中の正孔輸送物質の質量比率を特定した電子写真感光体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平10−221875号公報
【特許文献2】特開2010−96811号公報
【特許文献3】特開2006−208880号公報
【特許文献4】国際公開第2017/138566号
【特許文献5】国際公開第2018/150693号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、以上述べた点に鑑みてなされたものであり、液体現像方式の装置に搭載可能であって、炭化水素系溶剤に対し十分な耐溶剤性および耐クラック性を有するとともに、電気特性にも優れる電子写真感光体、その製造方法および電子写真装置を安価に提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、電子写真感光体において、電荷輸送層中に特定のバインダー樹脂および正孔輸送物質を含有させることにより、優れた感度特性を維持しつつ、耐溶剤性および耐クラック性を向上させることができることを見出して、本発明を完成させるに至った。
【0012】
すなわち、本発明の第一の態様は、導電性基体と、前記導電性基体上に順次設けられた電荷発生層および電荷輸送層と、を含む電子写真感光体であって、
前記電荷輸送層が、バインダー樹脂としての下記一般式(1)、
(式(1)中、R〜Rは、同一または異なって、水素原子、炭素原子数1〜10のアルキル基または炭素原子数1〜10のフルオロアルキル基を示し、m,nは0.4≦n/(m+n)≦0.6を満足する数であり、連鎖末端基は、1価の芳香族基である)で表される構造を有する共重合ポリカーボネート樹脂を含有するとともに、正孔輸送物質としての下記一般式(2)、
(式(2)中、R〜R20は、同一または異なって、水素原子、炭素原子数1〜6のアルキル基、炭素原子数1〜6のアルコキシ基、アリール基またはアリール基置換アルケニル基を表し、aは0〜2の整数を示す)で表される構造を有する化合物を含有するものである。
【0013】
ここで、前記電荷輸送層中の前記バインダー樹脂の質量(B)と前記正孔輸送物質の質量(H)との和に占める前記正孔輸送物質の質量(H)の比率を示す質量比H/(B+H)は、下記式(3)、
20質量%≦H/(B+H)≦50質量% (3)
を満足することが好ましい。
【0014】
また、前記電荷輸送層の膜厚は、好適には25μm以下である。さらに、前記電荷発生層は、電荷発生材料としてのY型チタニルフタロシアニンを含むことが好ましい。
【0015】
さらにまた、上記感光体は、感光体用の電気特性試験装置を用いて、初期帯電位−1000V、露光から電位測定プローブまでの移動時間0.03s、露光光波長650nm、露光量1.0μJ/cmの条件にて測定した初期感度V(−V)の絶対値が、80以下であることが好ましい。さらにまた、上記感光体は、液体現像用現像剤に含まれる炭化水素系溶剤に、室温において100時間の条件で前記電子写真感光体を浸漬した際の、前記電荷輸送層からの前記正孔輸送物質の溶出量が5×10−8g/cm以下であることが好ましい。
【0016】
また、本発明の第二の態様は、上記電子写真感光体を製造するにあたり、
浸漬塗工法を用いて前記電荷発生層および前記電荷輸送層を形成する工程を含む電子写真感光体の製造方法である。
【0017】
さらに、本発明の第三の態様は、上記電子写真感光体と、前記電子写真感光体を帯電させる帯電装置と、帯電された前記電子写真感光体を露光して表面に静電潜像を形成する露光装置と、前記電子写真感光体の表面に形成された静電潜像を、炭化水素系溶剤にトナーを分散させた液体現像剤を用いて現像してトナー像を形成する現像装置と、前記電子写真感光体の表面に形成されたトナー像を記録媒体に転写する転写装置と、を備える電子写真装置である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、上記構成としたことにより、感度特性に優れるとともに、液体現像用の現像剤として使用される炭化水素系溶剤に接触した場合においても正孔輸送物質の溶出量が少なく、耐溶剤性および耐クラック性に優れた電子写真感光体、その製造方法および電子写真装置を提供することができた。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の電子写真感光体の一例を示す模式的断面図である。
図2】本発明の電子写真装置の一例を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の電子写真感光体の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0021】
図1は、本発明の電子写真感光体の一例を示す模式的断面図である。図示する感光体は、導電性基体1と、この導電性基体1上に順次設けられた電荷発生層3および電荷輸送層4と、を含む電子写真感光体である。電子写真感光体において、電荷発生層3および電荷輸送層4は、中間層2を介して導電性基体1上に設けられてよい。なお、中間層は必要に応じて設けられるものであり、導電性基体1上に直接、電荷発生層3および電荷輸送層4を設けてもよい。電子写真感光体は、負帯電プロセスに適用される負帯電積層型の感光体であってよい。
【0022】
(導電性基体)
導電性基体1は、感光体の電極としての役目と同時に他の各層の支持体ともなっており、円筒状、板状、フィルム状のいずれでもよいが、一般に円筒状とされる。導電性基体1は、材質的には、JIS3003系、JIS5000系、JIS6000系などの公知のアルミニウム合金やステンレス鋼、ニッケルなどの金属、あるいはガラスや樹脂などの上に導電処理を施したものが用いられる。
【0023】
導電性基体1は、アルミニウム合金からなる場合には押し出し加工や引き抜き加工により、また、樹脂材料からなる場合には射出成形により、所定の寸法精度の基体に仕上げることができる。また、この基体の表面は、必要に応じて、ダイヤモンドバイトを用いた切削加工などにより、適切な表面粗さに加工することができる。その後、基体の表面を弱アルカリ性洗剤などの水系洗剤を用いて脱脂、洗浄することにより、清浄化することができる。
【0024】
このようにして清浄化した導電性基体1の表面には、必要に応じて中間層2を設けることができる。
【0025】
(中間層)
中間層2は、樹脂を主成分とする層やアルマイト等の酸化皮膜などからなり、導電性基体1から電荷発生層3への不要な電荷の注入防止や、基体表面の欠陥被覆、電荷発生層の接着性向上等の目的で、必要に応じて設けられる。
【0026】
中間層2を形成する樹脂材料としては、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、塩化ビニル樹脂、酢酸ビニル樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、シリコン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリスルホン樹脂、メタクリル酸エステルの重合体およびこれらの共重合体などを、1種または2種以上で適宜組み合わせて使用することが可能である。また、分子量の異なる同種の樹脂を混合して用いてもよい。
【0027】
上記樹脂材料中には、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化カルシウム、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム等の金属酸化物の微粒子、硫酸バリウム、硫酸カルシウム等の金属硫酸塩の微粒子、窒化ケイ素、窒化アルミニウム等の金属窒化物の微粒子、有機金属化合物、シランカップリング剤、有機金属化合物とシランカップリング剤とから形成されたもの等を含有させてもよい。これらの含有量は、層を形成できる範囲で任意に設定することができる。
【0028】
樹脂を主成分とする中間層2の場合、電荷輸送性の付与や電荷トラップの低減等を目的として、正孔輸送物質や電子輸送物質を含有させることができる。このような正孔輸送物質および電子輸送物質としては、後述する電荷輸送層4について使用できるものと同様のものを用いることができる。このような正孔輸送物質および電子輸送物質の含有量は、中間層2の固形分に対して0.1〜60質量%が好ましく、より好ましくは5〜40質量%である。また、中間層2には、必要に応じて、電子写真特性を著しく損なわない範囲で、その他公知の添加剤を含有させることもできる。
【0029】
中間層2は、1層でも用いられるが、異なる種類の層を2層以上積層させて用いてもよい。なお、中間層2の膜厚は、中間層2の配合組成にも依存するが、繰り返し連続使用したとき残留電位が増大するなどの悪影響が出ない範囲で任意に設定することができ、好ましくは0.1〜10μmである。
【0030】
(電荷発生層)
上記導電性基体1または中間層2の上には、電荷発生層3が設けられる。電荷発生層3は、電荷発生材料の粒子がバインダー樹脂中に分散された塗布液を塗布するなどの方法により形成され、光を受容して電荷を発生する。電荷発生層3は、電荷発生効率が高く、電荷輸送層4へ電荷を注入し易いことが望ましい。
【0031】
電荷発生材料としては、露光光源の波長に光感度を有する材料であれば特に制限を受けるものではなく、例えば、フタロシアニン顔料、アゾ顔料、キナクリドン顔料、インジゴ顔料、ペリレン顔料、多環キノン顔料、アントアントロン顔料、ベンゾイミダゾール顔料などの有機顔料が使用できる。電荷発生層3は、中でも、電荷発生材料としてY型チタニルフタロシアニンを含むことが好ましい。電荷発生層3に、電荷発生材料としてY型チタニルフタロシアニンを使用することにより、正孔輸送物質および電子輸送物質を併用した場合に、感度特性、電気特性および安定性等について、より優れた電子写真感光体を提供することができる。
【0032】
電荷発生層3は、上記電荷発生材料を、例えば、ポリエステル樹脂、ポリビニルアセテート樹脂、ポリメタクリル酸エステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ボリビニルブチラール樹脂、フェノキシ樹脂などのバインダー樹脂に、分散あるいは溶解して調製した塗布液を、上記導電性基体1または中間層2の上に塗布することにより、形成することができる。
【0033】
電荷発生層3における電荷発生材料の含有量は、電荷発生層3中の固形分に対して、好適には20〜80質量%、より好適には30〜70質量%である。また、電荷発生層3におけるバインダー樹脂の含有量は、電荷発生層3中の固形分に対して、好適には20〜80質量%、より好適には30〜70質量%である。なお、電荷発生層3の膜厚は、通常、0.1μm〜0.6μmとすることができる。
【0034】
上記電荷発生層3の上に電荷輸送層4を設けることにより、感光体を得ることができる。
【0035】
(電荷輸送層)
電荷輸送層4は、少なくとも、バインダー樹脂としての上記一般式(1)で表される構造を有する共重合ポリカーボネート樹脂と、正孔輸送物質としての上記一般式(2)で表される構造を有する化合物と、を含有する。上記一般式(1)で表される構造を有する共重合ポリカーボネート樹脂は靭性が高いため、これをバインダー樹脂として用いることで、電荷輸送層4に内部応力が生じてもクラックを生じにくいとの効果が得られる。また、上記一般式(2)で表される構造を有する化合物は、炭化水素系溶剤に長時間浸漬しても溶出しにくいという特徴を有する。よって、電荷輸送層4に用いるバインダー樹脂および正孔輸送物質として、上記特定の組合せを用いることで、液体現像用の現像剤として使用される炭化水素系溶剤に電荷輸送層4が長時間接触した場合においても、電荷輸送層4から溶剤への正孔輸送物質の溶出が抑えられる。このような電荷輸送層の組成により、優れた耐溶剤性および耐クラック性が得られ、かつ、感度特性にも優れた電子写真感光体を安価に実現することが可能となった。また、電荷輸送層と溶剤との接触を避けるために表面保護層を設ける必要もなくなった。
【0036】
電荷輸送層4を構成するバインダー樹脂としての、上記一般式(1)で表される構造を有する共重合ポリカーボネート樹脂の具体例としては、次のようなものが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0037】
【0038】
なお、m,nの比率は、0.4≦n/(m+n)≦0.6を満足することが好ましく、連鎖末端基は、1価の芳香族基であることが好ましい。
【0039】
電荷輸送層4のバインダー樹脂としては、上記一般式(1)で表される共重合ポリカーボネート樹脂を用いることが必要であるが、さらに、必要に応じて、本発明の効果を著しく損なわない範囲で、その他公知の樹脂を併用することもできる。
【0040】
電荷輸送層4のバインダー樹脂として用いることができるその他の樹脂としては、例えば、上記一般式(1)で表される共重合ポリカーボネート樹脂以外のポリカーボネート樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、塩化ビニル樹脂、酢酸ビニル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリル樹脂、ポリアミド樹脂、ケトン樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリスルホン樹脂、メタクリル酸エステルの重合体などの熱可塑性樹脂や、アルキド樹脂、エポキシ樹脂、シリコン樹脂、尿素樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、メラミン樹脂などの熱硬化性樹脂、および、これらの共重合体等を1種または2種以上で適宜組み合わせて使用することが可能である。なお、電荷輸送層4のバインダー樹脂において、有機性値に対する無機性値の比(I/O値)は0.37未満であってよい。
【0041】
電荷輸送層4を構成する正孔輸送物質としての、上記一般式(2)で表される構造を有する化合物の具体例としては、次のようなものが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0042】
【0043】
【0044】
【0045】
【0046】
【0047】
【0048】
なお、上記一般式(2)で表される構造を有する化合物は、例えば、国際公開第2017/138566号に記載の方法で製造することができる。
【0049】
電荷輸送層4においては、さらに、必要に応じて、本発明の効果を著しく損なわない範囲で、その他公知の正孔輸送物質を併用することもできる。
その他公知の正孔輸送物質としては、例えば、ヒドラゾン化合物、ピラゾリン化合物、ピラゾロン化合物、オキサジアゾール化合物、オキサゾール化合物、アリールアミン化合物、ベンジジン化合物、スチルベン化合物、スチリル化合物、エナミン化合物、ブタジエン化合物、ポリビニルカルバゾール、ポリシラン等を挙げることができ、これらのうちの1種または2種以上を適宜組み合わせて使用することが可能である。
【0050】
ここで、電荷輸送層4においては、上記バインダー樹脂の質量(B)と上記正孔輸送物質の質量(H)との和に占める正孔輸送物質の質量(H)の比率を示す質量比H/(B+H)が、下記式(3)、
20質量%≦H/(B+H)≦50質量% (3)
を満足することが好ましい。これにより、適切な感度特性を維持しつつ、高い耐溶剤性を実現できる。これは、上記一般式(2)で表される正孔輸送物質の電荷移動度が大きいために、上記式(3)を満足するような比較的少量の正孔輸送物質を用いた場合でも、優れた感度特性が得られることによる。また、正孔輸送物質の量を少なくすることができることで、液体現像剤として使用される炭化水素系溶剤への正孔輸送物質の溶出量を抑制することができるので、結果的に、耐溶剤性および耐クラック性に優れた電子写真感光体を提供することができる。
【0051】
さらに、電荷輸送層4中に蓄積した電子を効率よく輸送することにより、残留電位を低下させて感度特性を向上させる目的で、電荷輸送層4中には、本発明の効果を著しく損なわない範囲で、電子輸送物質を含有させることもできる。
【0052】
電荷輸送層4に用いることができる電子輸送物質の具体例としては、例えば、下記式(E−1)〜(E−6)で表される構造を有する化合物が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0053】
【0054】
また、従来公知の電子輸送物質を併用することもできる。このような電子輸送物質(アクセプター性化合物)としては、例えば、無水琥珀酸、無水マレイン酸、ジブロム無水琥珀酸、無水フタル酸、3−ニトロ無水フタル酸、4−ニトロ無水フタル酸、無水ピロメリット酸、ピロメリット酸、トリメリット酸、無水トリメリット酸、フタルイミド、4−ニトロフタルイミド、テトラシアノエチレン、テトラシアノキノジメタン、クロラニル、ブロマニル、o−ニトロ安息香酸、マロノニトリル、トリニトロフルオレノン、トリニトロチオキサントン、ジニトロベンゼン、ジニトロアントラセン、ジニトロアクリジン、ニトロアントラキノン、ジニトロアントラキノン、チオピラン系化合物、キノン系化合物、ベンゾキノン系化合物、ジフェノキノン系化合物、ナフトキノン系化合物、アゾキノン系化合物、アントラキノン系化合物、ジイミノキノン系化合物、スチルベンキノン系化合物等を挙げることができ、これらを1種または2種以上で適宜組み合わせて使用することができる。
【0055】
電荷輸送層4中には、さらに、耐候性や有害な光に対する安定性を向上させる目的で、本発明の効果を著しく損なわない範囲で、従来公知の酸化防止剤、ラジカル捕捉剤、一重項クエンチャー、紫外線吸収剤等の劣化防止剤を含有させることもできる。
【0056】
このような化合物としては、例えば、トコフェロールなどのクロマノール誘導体およびエステル化化合物、ポリアリールアルカン化合物、ハイドロキノン誘導体、エーテル化化合物、ジエーテル化化合物、ベンゾフェノン誘導体、ベンゾトリアゾール誘導体、チオエーテル化合物、フェニレンジアミン誘導体、ホスホン酸エステル、亜リン酸エステル、フェノール化合物、ヒンダードフェノール化合物、直鎖アミン化合物、環状アミン化合物、ヒンダードアミン化合物、ビフェニル誘導体等が挙げられる。
【0057】
さらに、電荷輸送層4中には、形成した膜のレベリング性の向上や潤滑性の付与を目的として、シリコーンオイルやフッ素系オイル等のレベリング剤を含有させることもできる。
【0058】
さらにまた、電荷輸送層4中には、摩擦係数の低減や潤滑性の付与等を目的として、酸化ケイ素(シリカ)、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化カルシウム、酸化アルミニウム(アルミナ)、酸化ジルコニウム等の金属酸化物、硫酸バリウム、硫酸カルシウム等の金属硫酸塩、窒化ケイ素、窒化アルミニウム等の金属窒化物の微粒子、または、4フッ化エチレン樹脂等のフッ素系樹脂粒子、フッ素系クシ型グラフト重合樹脂等を含有させてもよい。
【0059】
電荷輸送層4におけるバインダー樹脂の含有量としては、電荷輸送層4の固形分に対して、好適には20〜90質量%、より好適には30〜80質量%である。電荷輸送層4における正孔輸送物質および任意に含有する電子輸送物質の総量の含有量としては、電荷輸送層4の固形分に対して、好適には10〜80質量%、より好適には20〜70質量%である。
【0060】
また、電荷輸送層4の膜厚は、25μm以下であることが好ましく、5〜25μmであることがより好ましく、10〜25μmであることがさらに好ましい。このような膜厚の電荷輸送層4は、実用的に有効な表面電位を維持しつつ、良好な塗布性や膜厚の均一性、高解像度を実現できる。
【0061】
また、本発明の実施形態の感光体は、上記一般式(2)で表される正孔輸送物質が、上記一般式(1)で表されるバインダー樹脂との相溶性に優れるとともに、電荷移動度が大きく、電荷発生材料からの注入効率が高いので、電荷輸送層4が薄膜であっても耐久性や感度特性に優れる。電荷輸送層4を含む電子写真感光体は、感光体用の電気特性試験装置を用いて、初期帯電位−1000V、露光から電位測定プローブまでの移動時間0.03s、露光光波長650nm、露光量1.0μJ/cmの条件にて測定した初期感度V(−V)の絶対値が、80以下であるような、高感度な感光体である。上記初期感度Vの絶対値は、好適には70以下、さらに好適には60以下である。
【0062】
さらに、本発明の実施形態の感光体によれば、液体現像用現像剤に含まれる炭化水素系溶剤に、室温において100時間の条件で感光体を浸漬した際の、電荷輸送層からの正孔輸送物質の溶出量を5×10−8g/cm以下とすることができる。所定条件下における正孔輸送物質の溶出量を制限することにより、比較的短時間(100時間)で、耐溶剤性を精度良く判定することができる。ここで、液体現像用現像剤に含まれる炭化水素系溶剤としては、例えば、イソパラフィン系炭化水素であるアイソパーL(エクソンモービル社製)等を挙げることができる。上記正孔輸送物質の溶出量は、好適には4×10−8g/cm以下である。
【0063】
本発明の実施形態の感光体は、液体現像用の電子写真装置に用いた際における耐溶剤性および耐クラック性に優れるとともに、感度特性にも優れる効果を奏することから、液体現像用電子写真感光体として有用であり、特に、液体現像用負帯電積層型電子写真感光体として好適である。
【0064】
[電子写真感光体の製造方法]
本発明の実施形態の製造方法は、上記感光体を製造するにあたり、浸漬塗工法を用いて、上記電荷発生層および電荷輸送層を形成する工程を含む。浸漬塗工法を用いることで、外観品質が良好で電気特性の安定した感光体を、低コストかつ高生産性を確保しつつ製造することができる。感光体を製造するに際して、浸漬塗工法を用いる以外の点については、特に制限はなく、常法に従い行うことができる。製造方法は、導電性基体を準備する工程をさらに含み、導電性基体上に電荷発生層および電荷輸送層を順に浸漬塗工する工程を含んでよい。
【0065】
具体的には、まず、任意の電荷発生材料を、任意のバインダー樹脂等とともに溶媒中に溶解、分散させて電荷発生層を形成するための塗布液を調製し、この電荷発生層用の塗布液を、導電性基体の外周に、所望に応じ中間層を介して塗工、乾燥させることにより、電荷発生層を形成する。次に、上記所定のバインダー樹脂および正孔輸送物質と、任意の電子輸送物質および添加剤等とを溶媒に溶解させて電荷輸送層を形成するための塗布液を調製し、この電荷輸送層用の塗布液を、上記電荷発生層上に塗工、乾燥させることにより電荷発生層を形成して、感光体を製造することができる。ここで、塗布液の調製に用いる溶媒の種類や、塗工条件、乾燥条件等については、常法に従い適宜選択することができ、特に制限されるものではない。
【0066】
[電子写真装置]
本発明の実施形態の電子写真装置は、上記感光体と、上記感光体を帯電させる帯電装置と、帯電された感光体を露光して表面に静電潜像を形成する露光装置と、感光体の表面に形成された静電潜像を、炭化水素系溶剤にトナーを分散させた液体現像剤を用いて現像してトナー像を形成する現像装置と、感光体の表面に形成されたトナー像を記録媒体に転写する転写装置と、を備えるものである。液体現像剤として使用される炭化水素系溶剤に長時間浸漬した場合においても、正孔輸送物質の溶出量が少なく、耐溶剤性および耐クラック性に優れ、かつ、感度特性に優れた電子写真感光体を備えるものとしたことで、優れた耐久性を有する液体現像用電子写真装置を提供することができる。電子写真装置は、さらに、記録媒体に転写されたトナー像を定着させる定着装置を備えてもよい。
【0067】
図2は、本発明の電子写真装置の一例を示す概略構成図である。図示する電子写真装置は、電子写真感光体11の外周縁部に配置された、帯電装置としての帯電ローラ12と、露光装置としての露光光源13と、現像装置としての、現像ローラ14aおよび液体現像剤14bを備える液体現像器14と、転写装置としての転写器15と、定着装置としての定着ローラ17と、を備えており、カラープリンタとすることもできる。図中、転写材16は例えば紙などの記録媒体であってよい。また、図中の符号18はクリーニングブレードを示し、19は除電用光源を示す。
【実施例】
【0068】
以下に、本発明を、実施例に基づいて詳細に説明する。本発明はその要旨を逸脱しない限り、これらの実施例の記載に限定されない。
【0069】
[負帯電積層型電子写真感光体の作製]
〔実施例1〕
P−ビニルフェノール樹脂(商品名マルカリンカーMH−2:丸善石油化学(株)製)15質量部と、N−ブチル化メラミン樹脂(商品名ユーバン2021:三井化学(株)製)10質量部と、アミノシラン処理を施した酸化チタン微粒子75質量部とを、それぞれメタノール/ブタノールの750質量部/150質量部の混合溶剤に溶解または分散させて、中間層を形成するための塗布液を調製した。得られた中間層用の塗布液に、外径30mm、長さ255mmのアルミニウム合金製の導電性基体を浸漬し、その後引き上げて、その外周に塗膜を形成した。この基体を温度140℃で30分間乾燥して、膜厚3μmの中間層を形成した。
【0070】
次に、電荷発生材料としての特開昭64−17066号公報に記載のY型チタニルフタロシアニン15質量部、および、バインダー樹脂としてのポリビニルブチラール(商品名エスレックB BX−1,積水化学工業(株)製)15質量部を、ジクロロメタン600質量部にサンドミル分散機にて1時間分散させて、電荷発生層を形成するための塗布液を調製した。この電荷発生層用の塗布液を、上記中間層上に浸漬塗工して、温度80℃で30分間乾燥し、膜厚0.3μmの電荷発生層を形成した。
【0071】
次に、バインダー樹脂としての、前記構造式(B−3)で示され、n/(m+n)=0.4であって、連鎖末端基が下記構造式(4)、
で示される構造を有する粘度平均分子量54,500の共重合ポリカーボネート樹脂130質量部、正孔輸送物質としての前記構造式(H−5)で示される化合物70質量部、および、電子輸送物質としての前記構造式(E−5)で示される化合物1質量部を、テトラヒドロフラン900質量部に溶解した後、シリコーンオイル(商品名KP‐340,信越ポリマー(株)製)を3質量部加えて、電荷輸送層を形成するための塗布液を調製した。この電荷輸送層用の塗布液を、上記電荷発生層上に浸漬塗工して、温度130℃で60分間乾燥し、膜厚20μmの電荷輸送層を形成した。このような方法により負帯電積層型電子写真感光体を作製した。
なお、電荷輸送層において、バインダー樹脂の質量(B)と正孔輸送物質の質量(H)との和に占める正孔輸送物質の質量(H)の比率を示す質量比H/(B+H)は、35質量%であった。
【0072】
〔実施例2〜4,6,7,比較例1〜4〕
実施例1において、電荷輸送層のバインダー樹脂および正孔輸送物質の種類および配合量を、下記の表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様の方法で負帯電積層型電子写真感光体の作製を行った。
【0073】
使用した材料を以下に示す。
【0074】
【0075】
〔実施例5〕
実施例1において、電荷輸送層のバインダー樹脂を、前記構造式(B−1)で示され、n/(m+n)=0.6であって、連鎖末端基が下記構造式(4)、
で表される構造を有する粘度平均分子量49,500の共重合ポリカーボネート樹脂に変更した以外は、実施例1と同様の方法で負帯電積層型電子写真感光体の作製を行った。
【0076】
【表1】
【0077】
実施例1〜7および比較例1〜4において作製した感光体を用いて、以下に示す評価方法にて、それぞれ感度特性および耐溶剤性(正孔輸送物質の溶出量、クラックの有無)を評価した。
【0078】
[感度特性評価]
得られた感光体について、電気特性試験機(CYNTHIA、GENTEC社製)を用いて、温度23℃、相対湿度50%の環境下で、以下の条件にて感度特性を評価した。
【0079】
まず、露光から電位測定プローブまでの移動時間が0.03sになるように角度と感光体の回転速度を設定し、暗所にて、コロナ帯電により感光体表面を初期帯電位−1000Vに帯電させた後、ハロゲンランプを光源とし、バンドパスフィルターを用いて分光した波長650nmの単色光を、感光体表面に対し露光量1.0μJ/cmにて照射した際の表面電位を計測し、初期感度V(−V)とした。
【0080】
初期感度の測定後、この感光体を、液体現像用の現像液に用いられる炭化水素系溶剤(アイソパーL、エクソンモービル社製)に、室温環境(25℃)において100時間浸漬し、取り出した後に感光体表面に付着したアイソパーLを除去し、同様にして感度を測定した。そして、初期感度とアイソパー浸漬後の感度との感度変化量ΔV(V)を算出した。
【0081】
[正孔輸送物質の溶出量評価]
得られた感光体を、下端部から10cmが浸るように、炭化水素系溶剤(アイソパーL、エクソンモービル社製)250mlに、室温環境(25℃)において100時間浸漬させた。次に、感光体を浸漬させた炭化水素系溶剤について、紫外可視近赤外分光光度計(UV−3100、島津製作所社製)を用いて、紫外領域から可視領域における吸光度を測定した。
【0082】
炭化水素系溶剤中に正孔輸送物質を溶解させた、正孔輸送物質の濃度が異なる複数の溶液について、同様に紫外領域から可視領域の吸収ピーク波長の吸光度を測定し、作製した溶液の正孔輸送物質の濃度と吸光度との関係から検量線をあらかじめ作成した。この検量線を用い、感光体を浸漬させた炭化水素系溶剤中の正孔輸送物質の溶出量を算出した。
【0083】
[クラック評価]
正孔輸送物質の溶出量評価後の感光体の外観を目視にて観察し、下記の基準に準じて、クラック発生の有無を評価した。
○:クラック未発生。
△:部分的に小さなクラックが発生。
×:広範囲でクラックが発生。
【0084】
得られた結果を、下記の表2に示す。
【0085】
【表2】
【0086】
上記の結果から、特定のバインダー樹脂および正孔輸送物質を組み合わせて用いた各実施例の感光体は、所定の条件で測定した感度特性に優れており、さらに、液体現像用の現像剤に用いられる炭化水素系溶剤に対する耐溶剤性および耐クラック性にも優れていることが確かめられた。
【0087】
これに対し、上記一般式(1)で表されるバインダー樹脂以外のバインダー樹脂BD1,BD2を使用した比較例1,2、および、上記一般式(2)で表される正孔輸送物質以外の正孔輸送物質HT1,HT2を使用した比較例3,4では、液体現像用の現像剤に使用される炭化水素系溶剤に浸漬したときの正孔輸送物質の溶出量が多い。加えて、比較例1〜4では、初期感度と炭化水素系溶剤への浸漬後の感度との変化量が大きいばかりでなく、炭化水素系溶剤への浸漬後の感光体表面にクラックの発生が見られ、炭化水素系溶剤に対する耐溶剤性が不十分であることがわかる。溶剤浸漬による感度の増加やクラックの発生は、正孔輸送物質の溶出に起因するものと思われる。
【0088】
また、バインダー樹脂と正孔輸送物質との質量比H/(B+H)が20質量%を下回る実施例6では、溶出量が少なく、炭化水素系溶剤に対する耐溶剤性は十分であるものの、感度特性の悪化が若干見られた。感度の悪化は、電荷輸送層の不十分な輸送能力を示している。さらに、バインダー樹脂と正孔輸送物質との質量比H/(B+H)が50質量%を超える実施例7では、感度特性は優れているが、炭化水素系溶剤への正孔輸送物質の溶出量がわずかに多くなり、感光体の外観に部分的に微小なクラックが発生し、耐溶剤性の悪化が若干見られた。
【符号の説明】
【0089】
1 導電性基体
2 中間層
3 電荷発生層
4 電荷輸送層
11 電子写真感光体
12 帯電ローラ
13 露光光源
14 液体現像器
14a 現像ローラ
14b 液体現像剤
15 転写器
16 転写材
17 定着ローラ
18 クリーニングブレード
19 除電用光源
図1
図2