(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記掬上経路の内壁面のうちの該掬上経路の曲率中心から遠い側に位置する外周側部分の断面形状の曲率半径、および、前記円弧経路の内壁面のうちの該円弧経路の曲率中心から遠い側に位置する外周側部分の断面形状の曲率半径は、いずれも前記ボールの直径の2分の1よりも大きい、請求項1に記載のボールねじ装置。
前記負荷路の中心線と前記掬上経路の中心線との接続点において、前記負荷路の中心線に対する接線と、前記掬上経路の中心線に対する接線とが、軸方向から見て互いに一致している、請求項1または2に記載のボールねじ装置。
前記掬上経路の中心線と前記直線経路の中心線との接続点における、前記掬上経路の中心線に対する接線は、前記基準仮想平面上に配置されている、請求項1〜3のうちのいずれか1項に記載のボールねじ装置。
前記掬上経路の中心線は、前記基準仮想平面に直交する方向から見て、前記軸側ボールねじ溝のリード角に相当する角度だけ傾斜している、請求項1〜4のうちのいずれか1項に記載のボールねじ装置。
【背景技術】
【0002】
ボールねじ装置は、ねじ軸とナットとの間でボールを転がり運動させるため、ねじ軸とナットとを直接接触させるすべりねじ装置に比べて、高い効率が得られる。このため、ボールねじ装置は、電動モータなどの駆動源の回転運動を直線運動に変換するために、自動車の電動ブレーキ装置やオートマチックマニュアルトランスミッション(AMT)、工作機械の位置決め装置などの各種機械装置に組み込まれている。
【0003】
ボールねじ装置は、外周面に螺旋状の軸側ボールねじ溝を有するねじ軸と、内周面に螺旋状のナット側ボールねじ溝を有するナットと、軸側ボールねじ溝とナット側ボールねじ溝とからなる負荷路(負荷ボール転走路)を転動する複数のボールと、負荷路の終点から始点へとボールを戻す循環部品とを備える。循環部品は、内部に負荷路の始点と終点とをつなぐ循環路(無負荷ボール転走路)を有している。
【0004】
ボールねじ装置は、ボールの循環方式の相違により、リターンチューブ(パイプ)式、デフレクタ式、エンドキャップ式、こま式などに分類されるが、いずれの循環方式を採用した場合にも、ボールを循環させるための循環路は、ボールの円滑な循環など、ボールねじ装置の各種性能に大きな影響を与える。このため、循環路の経路を工夫することが、従来から行われている。
【0005】
たとえば、国際公開第2010/013706号には、負荷路の巻き数を整数に近づけるとともに、ボールの円滑な循環を実現するために、循環路の経路を工夫した発明が開示されている。
図16〜
図20は、国際公開第2010/013706号に記載された、従来構造のボールねじ装置100を示している。
【0006】
ボールねじ装置100は、ねじ軸101と、ナット102と、複数のボール103と、循環部品104とを備える。なお、本明細書において、軸方向、径方向、および円周方向とは、特に断らない限り、ねじ軸に関する軸方向、径方向、および円周方向をいう。また、軸方向に関して、ナットの中央側のことを軸方向内側といい、ナットの両側のことを軸方向外側という。
【0007】
ねじ軸101は、外周面に螺旋状の軸側ボールねじ溝105を有している。ナット102は、内周面に螺旋状のナット側ボールねじ溝106を有している。ねじ軸101は、ナット102の内側に挿通され、ナット102と同軸上に配置されている。軸側ボールねじ溝105とナット側ボールねじ溝106とは、径方向に互いに対向するように配置され、螺旋状の負荷路107を構成している。
【0008】
循環部品104は、ナット102の外周面に取り付けられている。負荷路107の始点P1と終点P2とは、循環部品104の内部に備えられた循環路108によりつながっている。
図18は、負荷路107および循環路108のそれぞれの中心線(ボール103の中心軌跡)を示している。負荷路107の終点P2に達したボール103は、循環路108を通じて、負荷路107の始点P1に戻される。なお、負荷路107の始点と終点とは、ねじ軸101とナット102との軸方向に関する相対変位の方向(相対回転方向)に応じて入れ替わる。すなわち、ナット102が、ねじ軸101に対し
図17の右側に変位する場合、P1が始点となり、P2が終点となる。一方、ナット102が、ねじ軸101に対し
図17の左側に変位する場合、P2が始点となり、P1が終点となる。なお、循環部品104の数は、1個以上の任意の数であり、図示の例では2個である。
【0009】
循環路108は、その役割ごとに複数の経路(区間)に分けられる。従来構造のボールねじ装置100では、循環路108は、戻し経路109と、掬上経路110と、繋ぎ経路111とに分けることができる。
【0010】
戻し経路109は、軸方向に関して、負荷路107の終点側から始点側へとボール103を戻す役割を有する。戻し経路109は、負荷路107の径方向外側に配置されており、ねじ軸101の中心軸O
101と平行な中心線を有している。
【0011】
掬上経路110は、負荷路107からボール103を掬い上げる役割を有する。掬上経路110の中心線は、
図19に示すように、軸方向から見て、円弧状に湾曲しており、負荷路107の中心線から、ねじ軸101の中心軸O
101と戻し経路109の中心線とを含む基準仮想平面αまで延びている。従来構造のボールねじ装置100では、掬上経路110は、径方向内側部に配置された内径側掬上経路110aと、径方向外側部に配置された外径側掬上経路110bとから構成されている。
【0012】
内径側掬上経路110aの中心線は、
図20に示すように、基準仮想平面αに直交する方向(ナット102の側方)から見ると、ねじ軸101の中心軸O
101に直交する直交仮想平面と平行に配置されている。
【0013】
これに対し、外径側掬上経路110bの中心線は、軸方向から見て、円弧状に湾曲しているだけでなく、基準仮想平面αに直交する方向から見ても、円弧状に湾曲している。すなわち、外径側掬上経路110bの中心線は、円周方向に関して基準仮想平面αに近づくほど、径方向外側に向かう方向に湾曲しながら、軸方向内側に向かう方向にも湾曲している。
【0014】
繋ぎ経路111は、掬上経路110(外径側掬上経路110b)と戻し経路109とをつなぎ、ボール103の移動方向を方向転換する役割を有する。繋ぎ経路111の中心線は、基準仮想平面α上に配置されており、径方向外側に向かうほど軸方向内側に向かう(戻し経路109に近づく)方向に湾曲している。したがって、繋ぎ経路111についても、外径側掬上経路110bと同様に、基準仮想平面αに直交する方向から見て、円弧状に湾曲している。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【
図1】
図1は、本発明の実施の形態の1例のボールねじ装置の斜視図である。
【
図2】
図2は、前記ボールねじ装置の平面図である。
【
図6】
図6は、前記ボールねじ装置についての、循環部品を省略して示す平面図である。
【
図8】
図8は、前記ボールねじ装置を構成する循環部品の径方向内側から見た底面図である。
【
図9】
図9は、前記ボールねじ装置における、循環路の中心線の一部を軸方向から見た模式図である。
【
図10】
図10は、前記ボールねじ装置における、循環路の中心線の一部をナットの側方から見た模式図である。
【
図11】
図11(A)は、前記ボールねじ装置における、掬上経路および繋ぎ経路を、軸方向から見た断面模式図であり、
図11(B)は、
図11(A)のIV−IV線断面模式図である。
【
図12】
図12(A)は、前記ボールねじ装置における、繋ぎ経路および戻し経路を、ナットの側方から見た断面模式図であり、
図12(B)は、
図12(A)のV−V線断面模式図である。
【
図13】
図13は、前記ボールねじ装置について、ナットおよび循環部品を省略してねじ軸およびボールのみを示す平面図である。
【
図14】
図14は、前記ボールねじ装置について、ナットおよび循環部品を省略してねじ軸およびボールのみを示す側面図である。
【
図15】
図15は、前記ボールねじ装置についての、全体が一体的に構成された循環部品を使用した変形例を示す、
図1に相当する図である。
【
図16】
図16は、従来構造のボールねじ装置を示す斜視図である。
【
図17】
図17は、従来構造のボールねじ装置を示す、透視斜視図である。
【
図18】
図18は、従来構造のボールねじ装置における、負荷路および循環路の中心線を示す、模式図である。
【
図19】
図19は、従来構造のボールねじ装置における、循環路の中心線の一部を軸方向から見た模式図である。
【
図20】
図20は、従来構造のボールねじ装置における、循環路の中心線の一部をナットの側方から見た模式図である。
【
図21】
図21は、従来構造の問題点を説明するために示す、ボールねじ装置の部分断面図である。
【0038】
本発明の実施の形態の1例について、
図1〜
図15を用いて説明する。
【0039】
〔ボールねじ装置の全体構成〕
本例のボールねじ装置1は、自動車用途に適用可能である。たとえば、ボールねじ装置1は、これに限定されることはないが、電動ブレーキブースター装置に組み込まれ、駆動源である電動モータの回転運動を直線運動に変換し、油圧シリンダのピストンを動作させるために使用される。
【0040】
本例のボールねじ装置1は、構成部品として、ねじ軸2と、ナット3と、複数のボール4とを備える。さらに、本例のボールねじ装置1は、循環部品5を備える。
【0041】
ねじ軸2は、ナット3の内側に挿通され、ナット3と同軸上に配置されている。ねじ軸2の外周面とナット3の内周面との間には、本例のボールねじ装置1を構成する螺旋状の負荷路8が備えられている。ナット3の外周面と循環部品5との間には、本例のボールねじ装置1を構成する循環路9が備えられている。循環路9は、負荷路8の始点と終点とにそれぞれ接続される。負荷路8および循環路9には、複数のボール4が転動可能に配置されている。ねじ軸2とナット3とを相対回転させると、負荷路8の終点に達したボール4は、循環路9を通じて、負荷路8の始点へと戻される。ボールねじ装置1は、直線運動を回転運動に、または、回転運動を直線運動に変換することが可能であり、具体的には、たとえば、ナット3をねじ軸2に対して相対回転させることで、ねじ軸2をナット3に対して直線運動させる態様で使用される。以下、ボールねじ装置1の構成部品および構成要素の構造を説明した後、循環路9の経路について詳しく説明する。
【0042】
〈ねじ軸〉
ねじ軸2は、金属製で、外周面に一定のリードLを持った螺旋状の軸側ボールねじ溝6を有している。軸側ボールねじ溝6は、ねじ軸2の外周面に、研削加工、切削加工、あるいは転造加工を施すことにより形成される。軸側ボールねじ溝6の条数は、1条である。軸側ボールねじ溝6の断面の溝形状(溝底形状)は、ゴシックアーチ溝またはサーキュラアーク溝である。
【0043】
〈ナット〉
ナット3は、金属製で、全体が略円筒状に構成されている。ナット3は、内周面に螺旋状のナット側ボールねじ溝7を有している。ナット側ボールねじ溝7は、ナット3の内周面に、研削加工、切削加工、あるいは転造加工を施すことにより、または、転造タップあるいは切削タップを使用した加工を施すことにより形成される。ナット側ボールねじ溝7は、軸側ボールねじ溝6と同じリードLを有する。ナット側ボールねじ溝7の条数は、軸側ボールねじ溝6と同様に、1条である。ナット側ボールねじ溝7の断面の溝形状も、軸側ボールねじ溝6と同様に、ゴシックアーチ溝またはサーキュラアーク溝である。
【0044】
ねじ軸2をナット3の内側に挿通配置した状態では、軸側ボールねじ溝6とナット側ボールねじ溝7とは、径方向に対向するように配置され、螺旋状の負荷路8を構成する。
【0045】
ナット3は、外周面の円周方向一箇所に、平坦面状の座面部10を有する。座面部10には、ナット側凹溝11と、ナット側凹溝11の軸方向両側にそれぞれ配置された貫通孔12とが備えられている。座面部10には、循環部品5が取り付けられる。
【0046】
ナット側凹溝11は、軸方向に直線状に延びており、ねじ軸2の中心軸O
2と平行に配置されている。ナット側凹溝11の断面の溝形状は、ボール4の直径Dの2分の1よりも大きな直径を有する円弧状である。座面部10からのナット側凹溝11の深さ寸法は、軸方向中間部においては、軸方向にわたり変化しないが、軸方向両側の端部においては、貫通孔12に近づくほど曲線的に大きくなる。
【0047】
それぞれの貫通孔12は、ナット3を径方向に貫通するように形成されており、座面部10およびナット3の内周面にそれぞれ開口している。具体的には、貫通孔12は、ナット3の内周面のうち、ナット側ボールねじ溝7に開口している。また、貫通孔12は、ナット側ボールねじ溝7に沿って伸長した長孔(矩形孔)である。それぞれの貫通孔12には、循環部品5の長さ方向両側の端部(後述する脚部14)が、がたつきなく挿入される。これにより、ナット3に対する循環部品5の位置決めが図られる。
【0048】
〈ボール〉
ボール4は、所定の直径Dを有する鋼球であり、負荷路8および循環路9に転動可能に配置されている。負荷路8に配置されたボール4は、圧縮荷重を受けながら転動するのに対し、循環路9に配置されたボール4は、圧縮荷重を受けることなく、後続のボール4に押されて転動する。本例のボールねじ装置1は、自動車用途に適用されるため、小さな駆動トルクで大きな発生推力を得ることができるように、ボール4の直径Dに対する、軸側ボールねじ溝6およびナット側ボールねじ溝7のリードLの比(D/L)を、0.6以上としている(D/L≧0.6)。
【0049】
〈循環部品〉
循環部品5は、合成樹脂または金属粉末の射出成形品からなり、本体部13と、本体部13の長さ方向両側の端部にそれぞれ備えられた脚部14とを備える。循環部品5は、長さ方向の中央部を中心とした、回転対称の形状を有する。循環部品5は、ナット3の座面部10に対して、抑え部材15を利用して脱落不能に固定されている。本例のボールねじ装置1は、いわゆるリターンチューブ式(外部循環式)の循環方式を採用している。なお、図示の例では、抑え部材15として、ピン状の部材が使用されている。ただし、抑え部材15として、プレート状の部材も使用することもできる。
【0050】
本体部13は、長尺な板状(略半筒状)に構成されており、座面部10に備えられたナット側凹溝11を径方向外側から覆うように配置される。本体部13の径方向内側面のうち、ナット側凹溝11と対向する幅方向中間部には、軸方向に直線状に延びた、本体側凹溝16が備えられている。本体側凹溝16の断面の溝形状は、ボール4の直径Dの2分の1よりも大きな曲率半径を有する円弧状である。本体部13の径方向内側面からの本体側凹溝16の深さ寸法は、軸方向中間部においては、軸方向にわたり変化しないが、軸方向両側の端部においては、軸方向外側に向かうほど曲線的に小さくなる。
【0051】
本体部13の径方向内側面のうち、本体側凹溝16から外れた幅方向両側部は、座面部10に対して着座する。本体部13の径方向外側面は、ナット3の外周面から径方向外側に張り出さないように、ナット3の外周面の曲率半径とほぼ同じ曲率半径を有する、部分円筒面状に構成されている。なお、本発明を実施する場合には、図示は省略するが、本体部の径方向外側面を、幅方向中央部に座面部10と平行な平坦面部を有し、該平坦面部の幅方向両側に、座面部10に対して傾斜した1対のテーパ面部を備えた構成とすることもできる。
【0052】
それぞれの脚部14は、略半筒状に構成されており、本体部13の長さ方向両側の端部から径方向内側に向けて伸長している。脚部14は、ナット3に形成された貫通孔12の内側に、径方向外側からがたつきなく挿入される。脚部14の先端部(径方向内側の端部)には、負荷路8を転動するボール4を掬い上げ、循環路9へと導くための、舌片状の掬い上げ部17を有する。掬い上げ部17は、軸側ボールねじ溝6の内側に配置される。脚部14には、本体部13に備えられた本体側凹溝16の軸方向端部に滑らかにつながった、脚部側凹溝18が備えられている。脚部側凹溝18は、貫通孔12の内周面のうちで、軸方向外側を向いた部分に対して開口している。
【0053】
本例では、循環部品5をナット3に対して取り付けた状態で、循環部品5とナット3との間部分に、循環路9が形成される。つまり、循環路9を、循環部品5のみで構成するのではなく、循環部品5とナット3とにより構成している。このため、循環路9の内壁面は、循環部品5だけではなく、ナット3にも備えられている。本例では、本体側凹溝16とナット側凹溝11との間に形成された断面略円形状の空間、および、脚部側凹溝18と貫通孔12の内周面との間に形成された断面略円形状の空間により、循環路9が構成されている。循環路9は、負荷路8の始点と終点とにそれぞれ接続される。負荷路8の始点および終点とは、別な言い方をすれば、負荷路8と循環路9との接続点(境界)であり、掬い上げ部17による掬い点である。なお、負荷路8の始点と終点とは、ねじ軸2とナット3との軸方向に関する相対変位の方向(相対回転方向)が変わり、ボール4の移動方向が変化することに伴って、入れ替わる。
【0054】
本例では、循環部品5は、2個のピース部材19a、19bを軸方向に連結することにより構成されている。ピース部材19a、19bのそれぞれは、本体部13の半部と、1つの脚部14とを備える。ただし、循環部品として、
図15に示した変形例のように、全体が一体的に構成された部材を使用することも可能である。あるいは、循環部品を、3個以上のピース部材を連結して構成することも可能である。
【0055】
循環部品5として、たとえば、金属粉末を原料とした射出成形品を用いる場合には、循環部品5を、金属粉末射出成形法(MIM)によって製造することができる。この場合には、循環部品5を構成する金属粉末(MIM用合金)として、たとえば、Fe−Ni−C(1〜8%Ni、〜0.8%C)、Fe−Cr−C(0.5〜2%Cr、0.4〜0.8%C)、SCM415、SUS630などを使用することができる。
【0056】
〈循環路の経路説明〉
循環路9は、負荷路8との干渉を避けられる経路を有しており、戻し経路20と、戻し経路20の長さ方向両側にそれぞれ配置された掬上経路21と、戻し経路20の長さ方向両側にそれぞれ配置され、戻し経路20と掬上経路21とをつなぐ繋ぎ経路22とを備える。以下、本例の循環路9の経路について、
図9〜
図12を参照して説明する。なお、
図9には、軸方向から見た、循環路9の中心線(ボール4の中心軌跡)の一部を示しており、
図10には、ナット3の側方(後述する基準仮想平面αに直交する方向)から見た、循環路9の中心線の一部(半部)を示している。
【0057】
循環路9において、負荷路8の終点から始点までの間に、掬上経路21、繋ぎ経路22、戻し経路20、繋ぎ経路22、掬上経路21の順に配置されている。掬上経路21の長さ方向両側は、負荷路8および繋ぎ経路22に接続されている。繋ぎ経路22の長さ方向両側は、掬上経路21および戻し経路20に接続されている。戻し経路20の長さ方向両側は、それぞれ繋ぎ経路22に接続されている。
【0058】
《戻し経路》
戻し経路20は、軸方向に関して、負荷路8の終点側から始点側へとボール4を戻す役割を有する。戻し経路20は、本体側凹溝16の軸方向中間部とナット側凹溝11の軸方向中間部とにより構成されており、負荷路8の径方向外側に配置されている。戻し経路20は、軸方向に直線状に延びる、ねじ軸2の中心軸O
2と平行な中心線を有している。このため、本例では、負荷路8の始点と終点との位相を近づけ、負荷路8の巻き数を整数に近づけることが可能となっている。
【0059】
以下の説明において、ねじ軸2の中心軸O
2と戻し経路20の中心線とを含む仮想平面のことを、基準仮想平面αと呼ぶ。ねじ軸2の中心軸O
2に直交する仮想平面のことを、直交仮想平面βと呼ぶ。また、ねじ軸2の中心軸O
2および戻し経路20の中心線にそれぞれ直交する方向のことを、X方向と呼ぶ。また、掬上経路21および繋ぎ経路22は、戻し経路の長さ方向両側にそれぞれ配置されるが、長さ方向の中央部を中心とした回転対称に配置されることを除き、それぞれの形状は両側で互いに同じである。
【0060】
《掬上経路》
掬上経路21は、負荷路8の終点においてボール4を掬い上げるとともに、負荷路8の始点にボール4を供給する役割を有する。掬上経路21は、脚部側凹溝18と貫通孔12の内周面とにより構成されている。
図9に示すように、掬上経路21の中心線は、軸方向から見て、円弧状に湾曲しており、負荷路8の中心線から基準仮想平面αまで延びている。具体的には、掬上経路21の中心線は、曲率半径R1の円弧からなり、円周方向に関して基準仮想平面αに近づくほど、径方向外側に向かう方向に湾曲している。
【0061】
特に本例では、負荷路8から掬上経路21へとボール4が円滑に移動できるように、負荷路8の中心線と掬上経路21の中心線との接続点C1において、負荷路8の中心線に対する接線T1と、掬上経路21の中心線に対する接線T2とを、軸方向から見て互いに一致させている。また、負荷路8から掬上経路21への、より円滑なボール4の移動を可能にするために、
図10に示すように、掬上経路21の中心線を、基準仮想平面αに直交する方向(ナット3の側方)から見て、直交仮想平面βに対し、軸側ボールねじ溝6のリード角に相当する角度だけ傾斜させている。ただし、本発明を実施する場合に、掬上経路の中心線を、直交仮想平面βと平行に配置することも可能である。
【0062】
さらに、掬上経路21と繋ぎ経路22との間でボール4が円滑に移動できるように、掬上経路21の中心線と繋ぎ経路22(後述する直線経路22a)の中心線との接続点C2における、掬上経路21の中心線に対する接線を、基準仮想平面α上に配置している。
【0063】
また、掬上経路21の内側をボール4が円滑に移動できるように、
図11に示すように、掬上経路21の内壁面のうち、掬上経路21の曲率中心A
1から遠い側に位置する外周側部分を構成する、脚部側凹溝18の断面形状の曲率半径R
18を、ボール4の直径Dの2分の1よりも大きくしている(R
18>D/2)。これにより、掬上経路21の内壁面のうちで、遠心力によりボール4が強く押し付けられる部分に対して、ボール4を1点のみで接触させるようにしている。
【0064】
また、負荷路8に収容可能なボール4の数を増やし、ボールねじ装置1の負荷容量を増大させるために、掬い上げ部17(掬上経路21)によるボール4の掬い上げ角度θを、大きく設定している。具体的には、掬い上げ角度θは、ボール4の直径が2.381mmの場合には、45°〜79°の範囲に設定することができ、ボール4の直径が2mmの場合には、45°〜80°の範囲に設定することができる。なお、掬い上げ角度θとは、基準仮想平面αおよびねじ軸2の中心軸O
2に対し直交する基準線Zから接続点C1までの角度である。
【0065】
ボール4は、掬上経路21の内側を、円周方向に関して基準仮想平面αに近づきながら径方向外側へと円弧状にカーブして移動する。ボール4は、掬上経路21を移動する間に、R1cоs(90°−θ)(=R1sinθ)分だけX方向(放射方向)に移動することになる。本例のボールねじ装置1では、国際公開第2010/013706号に記載された従来構造(
図19および
図20の符号110bを参照)とは異なり、ボール4は、掬上経路21を移動する間に、軸方向内側に向けて移動しない。
【0066】
《繋ぎ経路》
繋ぎ経路22は、掬上経路21と戻し経路20とをつなぐ役割を有する。繋ぎ経路22は、脚部側凹溝18と貫通孔12の内周面、および、本体側凹溝16の軸方向端部とナット側凹溝11の軸方向端部とにより構成されている。繋ぎ経路22は、径方向内側部に配置された直線経路22aと、径方向外側部に配置された円弧経路22bとからなる。
【0067】
≪直線経路≫
直線経路22aは、脚部側凹溝18と貫通孔12の内周面とにより構成されている。直線経路22aは、基準仮想平面α上に配置され、かつ、ねじ軸2の中心軸O
2に直交する方向(X方向)に延びた、直線状の中心線を有している。このため、直線経路22aを移動するボール4は、軸方向に移動することなく、X方向にのみ移動する。本例では、直線経路22aの全長(径方向寸法)をSとしているため、ボール4は、直線経路23を移動する間に、S分だけX方向に移動することになる。
【0068】
≪円弧経路≫
円弧経路22bは、本体側凹溝16の軸方向端部とナット側凹溝11の軸方向端部とにより構成されている。円弧経路22bの中心線は、基準仮想平面αに直交する方向(ナット3の側方)から見て、円弧状に湾曲している。具体的には、円弧経路22bの中心線は、曲率半径R2の円弧からなり、基準仮想平面α上に配置され、径方向外側に向かうほど軸方向内側に向かう(戻し経路20に近づく)方向に湾曲している。
【0069】
本例では、直線経路22aと円弧経路22bとの間でボール4が円滑に移動できるように、直線経路22aの中心線と円弧経路22bの中心線との接続点C3における、円弧経路22bの中心線に対する接線を、直線経路22aの中心線と一致させている。
【0070】
また、円弧経路22bと戻し経路20との間でボール4が円滑に移動できるように、円弧経路22bの中心線と戻し経路20の中心線との接続点C4における、円弧経路22bの中心線に対する接線を、戻し経路20の中心線と一致させている。
【0071】
また、円弧経路22bの内側をボール4が円滑に移動できるように、
図12に示すように、円弧経路22bの内壁面のうち、円弧経路22bの曲率中心A
2から遠い側に位置する外周側部分を構成する、本体側凹溝16の軸方向端部の断面形状の曲率半径R
16を、ボール4の直径Dの2分の1よりも大きくしている(R
16>D/2)。これにより、円弧経路22bの内壁面のうちで、遠心力によりボール4が強く押し付けられる部分に対して、ボール4を1点のみで接触させるようにしている。
【0072】
負荷路8から掬い上げられたボール4は、循環路9の内側を、掬上経路21、繋ぎ経路22の直線経路22aおよび円弧経路22b、戻し経路20、繋ぎ経路22の円弧経路22bおよび直線経路22a、掬上経路21の順に移動し、再び負荷路8へと戻る。このような本例の循環路9においては、基準仮想平面αに直交する方向から見て、円弧経路22bのみが、負荷路8に近づくように軸方向内側へと湾曲している。このため、円弧経路22bのみが、負荷路8と干渉する可能性がある。
【0073】
本例では、円弧経路22bが負荷路8に干渉することを防止するために、円弧経路22bの設置高さ(接続点C1からの高さ、径方向位置)を規制している。具体的には、円弧経路22bの設置高さに相当する、掬上経路21のX方向寸法と直線経路22aのX方向寸法との和である、R1cоs(90°−θ)+Sの値を、ボール4の直径Dよりも大きく設定している(R1cоs(90°−θ)+S>D)。また、掬上経路21のX方向寸法は、曲率半径R1に近似できるため、掬上経路21の曲率半径R1と直線経路22aのX方向寸法との和である、R1+Sの値を、ボール4の直径Dよりも大きく設定することもできる(R1+S>D)。
【0074】
以上のような本例のボールねじ装置1では、自動車用途に好適な循環路9の経路を有することができる。
【0075】
本例では、ボールねじ装置1を自動車用途に適用するため、軸側ボールねじ溝6およびナット側ボールねじ溝7の条数を1条とし、かつ、ボール4の直径Dに対する軸側ボールねじ溝6およびナット側ボールねじ溝7のリードLの比(D/L)を、0.6以上としているため、ナット側ボールねじ溝7のピッチ(溝間隔)が小さくなる。このため、円弧経路22bを、掬い点からの高さ(C1からのX方向高さ)が十分でない位置に配置してしまうと、前述した従来構造の場合と同様に、円弧経路22bが負荷路8と干渉しやすくなる。
【0076】
そこで、本例では、円弧経路22bの径方向内側に、ボール4を軸方向内側に移動させることなく、X方向(径方向、放射方向)にのみ移動させる、直線経路22aを設けるとともに、掬上経路21のX方向寸法と直線経路22aのX方向寸法との和である、R1cоs(90°−θ)+Sの値を、ボール4の直径Dよりも大きく設定している。このため、円弧経路22bの設置高さを十分に確保することができ、円弧経路22bが負荷路8に干渉することを有効に防止できる。具体的には、円弧経路22bを構成するナット側凹溝11の軸方向端部が、ナット側ボールねじ溝7のうちで、軸方向外側から2列目の溝部(
図4中の符号G1部)を横切ることを防止できる。また、ナット側凹溝11の軸方向端部と、ナット側ボールねじ溝7の該溝部との間部分の肉厚を十分に確保することができる。このため、ナット3の剛性が低下することで、負荷容量が低下することを防止できる。
【0077】
負荷路8の中心線と掬上経路21の中心線との接続点C1において、負荷路8の中心線に対する接線T1と、掬上経路21の中心線に対する接線T2とを、軸方向から見て互いに一致させている。このため、負荷路8から掬上経路21へとボール4を円滑に移動させることができる。さらに、掬上経路21の中心線を、基準仮想平面αに直交する方向から見て、直交仮想平面βに対し、軸側ボールねじ溝6のリード角に相当する角度だけ傾斜させているため、この面からも、ボール4を負荷路8から掬上経路21へと円滑に移動させることができる。
【0078】
掬上経路21の中心線と直線経路22aの中心線との接続点C2における、掬上経路21の中心線に対する接線を、基準仮想平面α上に配置しているため、掬上経路21から直線経路22aへとボール4を円滑に移動させることができる。
【0079】
直線経路22aの中心線と円弧経路22bの中心線との接続点C3における、円弧経路22bの中心線に対する接線を、直線経路22aの中心線と一致させているため、直線経路22aと円弧経路22bとの間でボール4を円滑に移動させることができる。
【0080】
円弧経路22bの中心線と戻し経路20の中心線との接続点C4における、円弧経路22bの中心線に対する接線を、戻し経路20の中心線と一致させているため、円弧経路22bと戻し経路20との間でボール4を円滑に移動させることができる。
【0081】
さらに、掬上経路21の内壁面のうち、掬上経路21の曲率中心A
1から遠い側に位置する外周側部分を構成する、脚部側凹溝18の断面形状の曲率半径R
18を、ボール4の直径Dの2分の1よりも大きくしている(R
18>D/2)。また、円弧経路22bの内壁面のうち、円弧経路22bの曲率中心A
2から遠い側に位置する外周側部分を構成する、本体側凹溝16の軸方向端部の断面形状の曲率半径R
16を、ボール4の直径Dの2分の1よりも大きくしている(R
16>D/2)。このため、ボール4と掬上経路21および円弧経路22bの内壁面とを接線当たりさせることができるため、ボール4を円滑に移動させることができる。
【0082】
本発明を実施する場合に、ボールねじ装置を構成する循環路は、代替的に、循環部品のみで構成することもできる。また、循環部品を省略し、あるいは、循環部品とナットを一体に形成して、循環路を該ナットの内部に形成することも想定される。循環路を、循環部品とナットとにより構成する場合であっても、循環路を構成するそれぞれの凹溝(内壁面)の形状は、上述した形状に限定されることはない。また、循環部品の各部の形状および固定方法についても、従来から知られた各種の形状および方法を採用することが可能である。
負荷路(8)の終点から始点へとボール(4)を戻す循環路(9)は、戻し経路(20)と、掬上経路(21)と、繋ぎ経路(22)とを備える。掬上経路(21)は、円周方向に関して、ねじ軸(2)の中心軸(O2)と戻し経路(20)の中心線とを含む基準仮想平面αに近づくほど、径方向外側に向かう方向に湾曲した、円弧状の中心線を有する。繋ぎ経路(22)は、基準仮想平面α上に配置され、かつ、ねじ軸(2)の中心軸(O2)に直交する方向に延びた、直線状の中心線を有する直線経路(22a)を備える。掬上経路(21)の中心線の曲率半径をR1、掬い上げ角度をθ、直線経路(22a)の全長をSとした場合に、R1cоs(90°-θ)+Sを、ボール4の直径Dよりも大きくする。